5月にも同じような毒ガス被害について判決があった。そこでは兵器を置き去りにした違法性は認
めつつ、「主権の及ばない中国で兵器を回収することは困難」とし、賠償責任までは認めなかった。
確かに、日本政府が直接回収することは無理だった。しかし、中国政府に調査や回収を申し出る
ことはできたはずだ。そうすれば、被害を防げた可能性があった。今回の判決はそういう論理を展
開した。
今回の判決の方が理にかなっている。国は、司法の場でいたずらに争いを続けるのではなく、原
告の切実な訴えを受け止め、今回の判決に沿って解決を図るべきだ。
被害に苦しんでいる人には何の落ち度もない。普通の暮らしを送っていたところ、突然、旧日本軍
の捨てた毒ガスで悲劇にあったのだ。
毒ガスはかつての侵略戦争の「負の遺産」にほかならない。日本人自身が背負い、解消していくし
かないものだ。
現在進めている毒ガス兵器の回収作業を急ぐとともに、治療にかかった費用や健康被害への補
償など、具体的な救済策を練る必要がある。そのための特別立法を考えるのも一つの案だろう。
中国には約2千人とも言われる被害者がおり、救済が急がれている。今こそ、長く続く宿題に決着
をつける時だ。
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