【国際】外務省の見送り要請を無視 監視の手段もないまま独断で食糧支援 外交協
社団法人 日本外交協会御中 平成14年12月4日
拝啓 時下益々ご清祥のこととお慶び申し上げます。
さて、早速ですが、貴会は北朝鮮に対し45トンにのぼる食糧援助を先日行ないました。
これに関する国民の受け止め方は、貴会も重々ご承知のことかと存じます。私は貴会の
活動基本方針に対して異議ありません。また、今回の件で、在日朝鮮人の方々が、祖国の
同胞を慮って援助活動をしたという点にも一定の理解を表明します。また、無論、北朝鮮
政府の失政によって苦しんでいる幾多の一般北朝鮮国民の運命を思えば、隣国の国民と
して、とても胸の痛む事態であることは論を待たないといえます。
しかし、そのように貴会の活動方針を理解する一方で、今回の一連の行動には問題がある
ことを指摘したいと思います。また、貴会の12月2日付「北朝鮮向け食糧援助について」と
題された見解を拝見した結果、貴会の実際の運営方針について重大な問題点があるという
結論に到達しました。よって、いち国民として貴会の活動が、基本活動精神に忠実に、
正しく実践されることを願って、ここに厳重に抗議したいと思います。
まず、一点目ですが、貴会は配給監視体制が確保できないにも拘わらず、食糧援助を行い
ました。しかし、これまでにも、援助食糧が正しく配給されないばかりか、北朝鮮高官の
私腹を肥やすための横流しや、北朝鮮当局の外貨獲得目的での売却、軍事兵糧への転用
などが指摘されています。これでは、北朝鮮で苦しんでいる人たちのための効果は全然
期待できないばかりでなく、当局の悪政や軍拡方針に手を貸すばかりで、非常な逆効果です。
また報道では、監視団の監督下、穀類が各一般家庭に配布されたあと、監視団が引き
揚げたあとで北朝鮮当局に回収されていると、言われています。また事実、国連が配布した
食料・医薬品等の救援物資(非売品・救援物資と明記されているそうです)が、平壌の外貨
商店で横流し販売されているという事実が、当の国連職員により確認されているのです。
このような報道は、内外を問わず、繰り返し為されております。つまり、北朝鮮政府は
日本人の想像を絶する巧妙で悪辣な方法で、過去に何度も人道援助を踏みにじっているのです。
まさに地獄の閉鎖帝国なのです。これでは、北朝鮮が、貴会の提供した食料を正しく処理
するかどうか確信がもてないのは、小学生でも理解できる自明な事項ではありませんか。
また、北朝鮮当局は、核問題、拉致事件等を通じて嘘の発表を過去何度も繰り返していた
ことが判明しました。また両国の間には国交がありません。このような状況では、明らかに、
わが国と北朝鮮との間に信頼関係があるとはいえない状態です。この過去の状況に照らして、
「強く要請」(貴会見解より抜粋)するだけで援助が正しく実行されると考えるのは、重大
な問題があることは明らかです。人道援助の前提は、絶対的な威力を有する監視体制です。
そうでなければ、北朝鮮で飢えている民衆にとっても、また日本人にとっても、害悪でしか
ないのです。叢生のいち国民でも理解できることなのですから、いやしくも国際援助活動を
生業とする貴会が、この事実を把握できていないということはありえません。なぜ、この
ような軽率な行為をするのですか? 貴会の猛省を願いたいと思います。
次に、第二点目ですが、貴会は、貴会が実施する食料援助について、人道援助に徹した
行為が外交に「何らかのを及ぼすとは考えられない」(貴会見解より抜粋)と意見表明
(むしろ断定といったほうがよいかと思いますが)しています。しかし、相手国は
わが国との間に国交がないばかりか、わが国に対して大量破壊兵器で脅威を与えたり、
工作船、邦人拉致を通じて重大な国家犯罪をはたらいている北朝鮮という「テロ国家」です。
また北朝鮮はあらゆる物資が不足している一方で、援助物資が軍事転用されていると
報じられているのですから、このような国家に対しては、いかなる物資供与も便宜となり、
すなわち「外交行為」として効力を有するというのは、馬鹿でも理解できる常識です。
国家間の国交交渉という重大で微妙な局面下において、上記の援助行為が重みのある
外交行為となることも認識できないのですか。とても、まともな知能レベルでは
考えられない失態です。しかも、わが国の側の全権代表機関である外務省が食糧援助の
自粛や延期を事前に要請したにも拘わらず、援助を行なった。この独断専行により、
外務省の交渉姿勢に干渉して国益を損ねたのです。重大な問題行為です。しかも、上記
の見解発表に見られたように、これを論理不明の詭弁で「影響を及ぼすとは考えられない」
と断じる不遜で反省の見られない開き直りは、一体、どういう了見なのでしょうか。
また、外務省の要請を独断で無視しておきながら、その結果を「外務省に通報した」と
発表することで、外務省に責任をなすりつけようとする意図がみえみえです。責任を
もって行動できないなら、行動しないで下さい。そうでなければ、卑怯であると思います。
この点にも日本国民として強く抗議し、反省を促したいと思います。
第三点目に、貴会は見解のなかで、戦後の日本に対する食糧援助や、地震後の国際的
な援助をとりあげ、それと本事案が同列であると論じていますが、これは誤りです。
なぜなら、戦後直後の日本は米軍占領下にありましたし、関東・阪神の両大震災後の
援助のときも、有効かつ公正に援助物資を分配する法治権力が存在していました。少な
くとも、それらが、軍事転用されて他国に脅威を与える材料になったり、一部の支配者
の私腹を肥やすというような、言語道断なことはありませんでした。ですから、今回の
北朝鮮援助とは援助の効果、影響がまるで異なります。この点を無視して、見解に示さ
れたような論理を展開するのは、道理が通っていない貴会の今回の北朝鮮援助を、正統
で公正、有効な援助活動と同列に扱い、根本的に性質のことなる両活動をすりあわせよう
という性質のもので、まさに詭弁の類です。このような論理を恥ずかしげもなく広報する
とは、国民を愚弄しているとさえいえます。強く抗議し、このような論理展開をする
貴会の広報姿勢、運営体系につき反省をしてほしいと思います。
第四点目に、貴会の見解では国連機関による北朝鮮への援助要請を、背景としてとり
あげていますが、貴会は国連機関ではなく、日本国の公益法人なのですから、要請は
あくまでも要請であり、なんらの指導的効力も有しないとの中立的で独立的な立場で
判断を行なうべきです。事実、そうみなされます。そして、そのように独立的に
行なった判断の結果責任は、一義的に貴会に帰属するのです。これらの国連の要請は、
日本政府やアメリカ政府等からの援助資金が減少しているという背景を伴っていますが、
これは、当の国連が北朝鮮での十分な監視活動に失敗した結果、アメリカ政府が援助
の有効性について疑念を抱いたのが起因です。日本政府も、援助は適切な流通監視を
前提にしています。国連機関はこの点に十分に応えずに援助の必要性という面だけから
空論を述べており、当の国連が北朝鮮政府に対する介入の限界を認めているというのが
現状です。その結果が各国政府による資金引き揚げです。ですから、アメリカ、日本
両政府の対応は適切です。国連の対応が、おかしいのです。もちろん、一番の妨害要素
であり、もっとも責任を負うべきなのは北朝鮮政府であることは自明ですが。
したがって、むしろ貴会は、極東情勢に通じている (はず) ものとして、極東の
ローカルな視点から意見を述べるべきなのではないですか。それなのに、国連要請の
存在を自分たち行動規範として吟味もせずに無用心に、主体性なく摂取するばかりか、
とうとう深く考えもせずに軽挙妄動した結果、今回の事件を起こしてしまったのです。
軽薄なパラダイム主義、官僚主義に陥った典型ともいうべき愚行です。貴会のような、
国際情勢を理解できない無能な団体は、よく外務省と折衝するなり、助言を尊重する
なりして慎重に行動するべきです。それができないなら何もしないことです。そう
すれば、今回のような失敗は起きないのです。さらに、もう一転腹立たしく思う点が
あります。国連主義という枠組みを絶対の体系のように利用し、貴会の責任の軽減を
図っている点です。とても無責任で腹立たしく、卑怯な見解だといえます。弁明に
国連を利用しないで下さい。厳重に抗議します。
第五点目に、石原知事に関する貴会の "批評" についても一言を付したいと思います。
貴会は、石原知事の発言につき、「ことさら政治問題と人道問題を絡ませた」と批判
しています。しかし、上記に述べたように、監視体制が不十分な状態で援助を行なえば、
それが、貴会の意図とは関係なく、北朝鮮の軍拡、体制維持に利用される可能性が高い
のです。北朝鮮のようなテロ国家に対して、その軍拡、体制維持による人民の抑圧を
補助するということです。このような行動は、もはや人道援助とはいえません。まして
EUと北朝鮮の関係ならともかくとして、わが国は、北朝鮮との間に密接な利害関係
があります。EU諸国とは同列に論じられません。いかなる物資供与であっても、慎重
さと然るべき前提(有効な配給監視体制の配備ほか)がなければ、自動的に便宜供与
すなわち「外交行為」になるのです。北朝鮮は、核兵器開発問題、ミサイル問題、拉致
問題、民間旅客機爆破、韓国政府要人爆殺のほか、公安当局監視案件として、北朝鮮
政府による麻薬密輸、覚醒剤製造販売、偽造紙幣製造行使などの重大な国家犯罪行為が
累々とあるのですから、緊張した利害関係があるのは当然のことです。
分かりましたでしたでしょうか? 要するに、石原知事の発言は「ことさらに政治
問題と人道問題を絡ませた」という性質のものではありません。なぜなら、今回の状況を
勘案すると、貴会の行動が、そもそも人道援助という名目を被った「外交行為」すなわち
政治問題だからです。そのように言われて悔しいならば、"エセ人道援助" の中味が、
きちんと人道援助と呼ぶに足るものになるように、有効な監視体制を敷くべきなのです。
それが、できないなら、できるようになるまで待つか、貴会がその方向で各方面に
働きかけるのがスジです。方向とは、頑迷な北朝鮮政府の妨害を排除し、食料が末端
困窮民の胃袋 [手ではないです] に行き渡るように、強力な監視体制を敷くにはどう
したらよいかという方向です。それが、貴会の手にあまるような運動であれば、外務省
とよく折衝して行動するか、そもそも行動すべきではありませんでした。今回のように、
深慮もせずに独断でうかつな行動に出たのは愚の骨頂です。「政治的関与を排除して
援助をした」と述べておられますが、現実には、上記の理由により外交行為を為した
ものと同然です。それに気づかないばかりか、おかしな論理で、常識的感想をのべた
石原知事を、「ことさらに〜からめた」などと一方的に、かつ悪意の含蓄ある断定を
する態度はいかがなものでしょうか。開き直りであり、石原知事に対する責任転嫁であり、
失礼であると思います。このような一連の貴会の言動により、日朝交渉は不安定な時期
において重大な影響をこうむっているのです。これにより、日本国民の利益という広範
な「公益」が傷つけられています。本当に貴会は「公益法人」なのでしょうか?
私には「公害法人」のように見受けられますが? この点も、厳重に抗議します。
第六点ですが、第五点の考察に鑑み、貴会の行動は、「人道援助のできそこない
である政治外交行為」だったのに、それを隠蔽して開き直った傲慢な態度について指摘
したいと思います。貴会は、国際貢献と人道援助について「改めて真剣に考えてみる
べきなのではないでしょうか」などと、国民を馬鹿にして高説を垂れていらっしゃるが、
上記のできそこないの "エセ人道援助" が、真の人道援助だったかのような態度は、
全くの笑止千万です。人道のなんたるかを真剣に検討すべきなのは、良識ある一般国民
ではなく、論理破綻している頭脳の持ち主である貴会の幹部なのではないですか?
「改めて真剣に考えてみるべきではないでしょうか」という貴会の国民向けの詭弁の
見解を、そっくりそのまま、国民の怒りとともに、貴会に返したいと考えます。
第七点目に、「見解」にちりばめられた、文言からにじみ出てくる不適切な思考背景に
ついても言及します。「日本国民の世論が強硬」とはどういうことなのですか。われわれ
国民の総意は、上記に示したように至って常識的で論理的です。非常識なのは貴会の方です。
これでは、次のようにいうのと同じです。即ち、「強硬な世論」によって、わが協会の
標榜する (エセ)人道主義が圧迫された結果、苦もなく実施できたはずの(軽率なエセ)
人道援助が、「苦渋の」ものになってしまった、と。なんという、あてこすりも甚だしい
暴言でしょうか? 国民を馬鹿にしています。猛省を促したい。
第八点目に、貴会が将来にむけてよりまともな法人に変容できるように、いち提案を
取り上げたいと思います。つまり人道援助の性質をもう一回よく考察してください、
ということです。叢生のサラリーマンが、このようなことを外交援助のプロに対して
提言せざるを得ないほど、日本の NGO の多くがおかしな団体であることは実に悲しむ
べきことではありますが。それは、人道援助というものが、多くの場合に多分に政治的
行為と密接にならざるを得ないという教訓を叩き込んでくださいということでもあります。
今回の事件は典型的な例です。人道問題と政治問題がこのような形、あるいは他の形態で
関係をもつことは、これからも大いにありえるのです。人道援助というのは、単に観念
的な空想、同情心、感情論、あるいは理想主義では安全・有効に実施できないのです。
政治論も不可抗力的につるむゆえ、悲壮なる覚悟と責任を伴うべき局面もあるのです。
それなのに、政治哲学もなく「人道援助」という枠組みだけで、人道援助は、いかなる
障害も排して実施すべきかのような幻想を抱き、猪突猛進的に専行した結果が本事案です。
よく、状況と政治力学を考察した上で行動できるよう、反省して鍛錬すべきです。
貴会の職員は、今回の失敗を肝に銘じ、「人道問題は政治問題とは切り離して処理
することができる」というな嘘の宣伝、空疎な理想論による思考と行動を直ちに停止し、
よく国際政治を勉強してください。国際政治とは、国家と国家のぶつかりあいなんです。
おとぎ話の世界ではありません。貴会職員は、NPO 職員であると同時に、日本国民である
という基本事項に立ち返って下さい。そして純粋観念的な理想論だけでは飢えている民
を救えないこと、人道援助には正義と秩序という正しい権力機構が背景として不可欠
であることを理解してください。失敗の原因は、ずばり、人道主義が個人的人間のみが
関係する事柄と、間違った認識を抱き、さらに国境が存在しないかのような、あたかも、
北朝鮮が日本とが、同じような人権優等国だ、という前提で仕事をしたことにあります。
換言するならば、貴会は、現実を無視して、あたかも国家が存在しないような行動
様式をとるからおかしな結果を招くのです。改善するために、本「見解」のような、
無責任で、世界のどこにも現実化していないような、脱国家的世界観を恥知らずに
宣伝する愚行をやめましょう。そうでないと、人道問題をまた観念のみで判断処理し、
結果、より事態を複雑化させ、このような失敗を繰り返してしまいます。日本国民と
して、しっかりとした国家観を身につけたうえで、人道援助を実施すべきです。
もちろん、人道は、政治と一線を画すべきですが、政治を知らずに素人(もう貴会が
外交援助の素人であることは明らかですから敢えてこういいます)が動いた結果が
今回の結末なのです。良く覚えて置いてください。こんな基本的でアホらしいことを
わざわざ、素人が専門家であるはずの集団に指摘するのも馬鹿馬鹿しいのですが、
今回の「見解」を拝見するにつけ、貴会は「全然、分かっていない」すなわち症状は
重症とお見受けしたので、あえて筆をとった次第です。
猛烈な反省の表明として、当事案に関係した責任者を更迭するなり、減給するなり、
解任するなりして、日本国民に対して誠意を示してください。それによる貴会の改造、
国際舞台への鮮やかな復活を期待します。
敬具
住所氏名(w