【経済】ホンダ好調!の裏話  〜禁じ手の「自社登録」5000台〜

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158変調ホンダ 大量の自社登録
日経産業新聞 2002年9月6日

◆変調ホンダ 劇薬、大量の「自社登録」
8月の実績強引にプラス 販売店は危惧

 ホンダがなりふり構わぬ国内販売テコ入れに乗り出した。
8月は特別販売奨励金(インセンティブ)のほか、系列販売会社に大量の自社登録を依頼、
7月にマイナスになった販売実績を強引にプラスに戻した。自社登録は劇薬。カンフル剤
にもなれば麻薬にもなる。国内新車販売唯一の勝ち組と目されたホンダに転機が訪れた。

 「本当にこんなやり方でいいのか。これではホンダはだめになる」。あるホンダの販売
会社社長は怒りを隠さない。ホンダは8月にミニバンを中心に大規模な自社登録を販売会
社に依頼した。今回の自社登録は全国で5,000台を超える規模になったと見られる。
 自社登録は顧客の注文ではなく、販売店が自ら購入、販売実績を積み上げるやり方。
そのまま販売店が自社で使うケースもあるが、多くの場合、中古車として販売するか、
オークションなどに出品する。目先の数字は作れるが、長い目で見れば需要の先食いに
なりかねない。
 それでも、ホンダは踏み切った。きっかけは8月20日ごろにまとまった販売店の新車
販売見通し。軽自動車を含め、8月は前年同月の実績を約5千台下回る5万台そこそこの
水準しかなかった。ホンダは早急に自社登録推進のための販売支援策を決め、実行に移した。
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◆支援1台20万円
 販売会社に支給した1台当たりの支援額は車種にもよるが、「20万円前後は出た」
(自社登録を実施したホンダ販売店)という。ミニバン在庫を多く抱えていた販社のなか
には、喜んで協力するところもあった。だが、大量の自社登録は中古車相場の下落、ひいて
は新車販売の低迷にもつながる。「場当たり的なことを繰り返せば、いずれ崩壊する」と
危惧する声が力のある販売会社の現場には多い。
 結果としてホンダは、8月の最終営業日である30日に昨年実績を上回ることに成功。
車名別販売ランキングでは、1位のフィットのほか、全月には上位10車から外れていた
ミニバンの「ステップワゴン」と「ストリーム」がそれぞれ7位と10位に返り咲いた。
 ホンダが販売会社に自社登録を求めたのはこれが初めてではない。6月には軽自動車の
「ライフ」などの自社登録を依頼。1台当たり7万円程度のインセンティブを支給し、
大量の自社登録を出した。だが、中古車市場にホンダの軽自動車が数多く流れ、支給額を
上回る損を出す販売会社が続出した。
 今年上半期までは絶好調だったホンダ。それを支えてきた両輪がミニバンと小型車だ。
だがミニバンの売れ行きが急速に衰えた。原因はライバル他社のホンダ対策の本格化だ。
特にトヨタはホンダの主力ミニバンそれぞれにトヨタの2車種をぶつける「挟撃作戦」を
展開した。
 ホンダ「オデッセイ」にはトヨタ「イプサム」と「エスティマ」を対抗させ、ホンダ勢を
打ち落とした。「利益率の高いミニバンで、ホンダの独走を許さない」(トヨタ幹部)。
さらに小型車もフィットが発売1年を過ぎて受注は減少傾向にある。
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◆300店増を計画
 ホンダは販売強化のため、来年末まで販売店を300カ所増やす計画を決めている。だが、
これは「漢方薬」。好立地に多くの販売店を構えるのは簡単でないうえ、営業マンなど人材
育成にも時間がかかり、即効性を求めるのは無理。
 それでも良い商品があれば、販売を伸ばすことができるが「過去の成功体験に縛られ、
新しい魅力のある車を開発できない」(ホンダOB)。特に今年は新車サイクルの「外れ年」
といわれ、量販が期待できる新車を発売する予定はない。
 自社登録はホンダに限ったことではないが「ホンダの水準は異常。それも決算月でない
8月にこれだけ実行するのは珍しい」とライバル会社幹部はいう。販売台数を伸ばすには、
支援金を支給し、自社登録させるしか手がないというのが実情だ。北米販売が好調で懐具合
に余裕があることが、今回のてこ入れ策を可能にしている。
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◆伸びきったゴム
 ホンダは2004年度に国内で百万台販売する計画を持つ。現在の国内百三十万台の生産
体制を維持し、空洞化を避けるためだ。今年の92万台は、百万台に向けた重要なステップ。
それだけに、7月以降、受注が不信であることを認めながらも「92万台の販売計画は変更
するつもりはない」(日本営業本部長の土橋哲常務)と強気の姿勢を崩さない。
 ホンダには苦い経験がある。1995年に当時の川本信彦社長が、年間80万台の販売目
標を掲げた。97年に目標は達成したものの、翌年には市場の縮小を上回る落ち込みで70
万台を割り込んだ。無理な販売を続ければ、来年以降に成長を続けるのは難しい。「ホンダ
は伸びきったゴム。後は縮むだけ」とライバル社幹部は揶揄する。
 今年前半までただ1社国内で高成長を続け、一人勝ちといわれたホンダ。国内で首位トヨ
タを脅かす存在にまで成長した。だが、今は一転して成長維持の苦しみに直面している。
歴史は繰り返すのか。