大阪高検公安部長収賄等事件初公判:三井被告全面否認=大阪地裁[020730]
週間朝日2002.8.16−23
「賄賂」のデート嬢は殺害されていた
大阪地裁2階にある201号法廷。7月30日午後1時半すぎ、看守に囲われるようにして
三井環・前大阪高検公安部長は、紺色のポロシャツにグレーのズボン姿で入ってきた。
4月22日に逮捕されて以来99日に及ぶ長期勾留の影響からか、顔色はよくないが落ち着
いた表情だった。
検察側は捜査を指揮した大阪地検特捜部副部長や公判部副部長ら検事が9人も出席する異例
の布陣で臨んだ。
裁判は弁護側の公訴棄却申し立てで始まった。検察による調査活動費(調活費)の不正支出
の実態や三井前部長がマスコミに実名で告発しようとした経緯から、逮捕に至る経過などを
約45分間にわたって詳述した。検察側は「本件との関連性が不明だ」などと3回ほど異議
を申し立てたが、伝田喜久裁判長は、「お聞きになってみては」と、却下した。
続いて、三井前部長が証言台のいすに腰かけ、事前に準備した公訴棄却の申立書を低い声で
読み始めた。
「私の不徳の致すところで、このような事態を招いていることについては率直に反省したい
と思います。あまりにわきが甘く、厳しく批判されるところがあるでしょう。しかし、私は
犯罪行為などをけっして犯してはおりません」
全面的に無罪を主張し、検察の裏ガネづくりの具体例や実名告発の動機、自らの逮捕の背景
などを語った。
クライマックスは、そのあとだ。申立書を読み終えた三井前部長が、やおらにその場で立ち
上がった。そうして苦々しい表情で聞いていた検察官席に体を向け、検事たちをにらみつけ
ながら、
「どちらが不正義か−」
と糾弾し始めたのだ。それまで黙って聞いていた検察側もたまらず裁判長に注意するよう促
したが、さらに続けてこう言い放った。
「私の事件は風が吹けば飛ぶようなもの。原田(明夫)検事総長ら検察の犯罪は金銭も多額
で重大だ。どうして私が被告席にいるのか。ここにいるべきは原田検事総長ら検察首脳でな
ければならない」
4月まで大阪高検公安部長の要職にあった三井前部長が7人の検察首脳の実名を挙げて、彼
らを犯罪者として”逆告訴”したのだった。
ある検察幹部は苦り切った表情を隠さない。
「自らの犯罪を棚に上げ、ヒーロー気取りだ・・・」
だが検察上層部には不安も見え隠れする。在阪の検察幹部はこう語る。
「調活費について法廷であれだけあからさまに言われ、原田総長以下の実名まで出して犯罪
者呼ばわりするとは。弁護側も相当力が入っているようだし、あの起訴内容だと弱いという
見方もあり、今後の裁判がどうなるのか」
検察側にとって、不安材料のひとつが「渡真利供述」だといわれている。三井前部長が詐欺
や収賄などの容疑で逮捕、再逮捕される際に共犯者として逮捕された暴力団関係者の渡真利
忠光被告(40)の供述のことだ。
三井前公安部長は逮捕直後から検察側の捜査を「暴力団員の供述だけで犯罪事実を構成して
いる」と主張し、収賄罪などで再逮捕された際も「暴力団員の供述をうのみにしてなされた
不当な逮捕」だと徹底的に批判していた。
実は、新聞・テレビはいっさい報じていないが、今回の初公判では、この渡真利供述の信憑
性を疑わせる重大な新事実が指摘されたのだ。
検察側は渡真利被告の供述を根拠に三井前部長が渡真利被告に対してデート嬢の接待を要求
したことを「賄賂」のひとつとみなしている。
ところが、デート嬢の一人が昨年暮れに大阪市内のホテルで殺害されていた、というのだ。
三井前部長が、前出の公訴棄却申し立てのなかで、こう明らかにした。
「(渡真利被告は)虚構のストーリーを供述し、私の悪質さをことさら強調する供述になっ
ています。ホテルにおける接待については、渡真利供述が示唆するデート嬢は、昨年12月
に殺害されているというのです・・・」
これはいったいどういうことか。三井弁護団の関係者がこう話す。
「検察側は三井さんが女性の接待を受けたのは2回だと主張しています。しかし三井さんが
泥酔時に渡真利被告から無理やり女性をあてがわれたという話はあるが、それは1回だけで
2回目は絶対になかったというんです。しかもですよ、検察側は当初、この2回目の接待は
「C」というホテルで行われたと勾留状にも書いていたのに、起訴状では、なぜか「G」と
いうホテルに切り替えてきた。それに肝心のデート嬢のことは何も明らかにしていない。デ
ートクラブの経営者やホテル従業員の供述調書でも女性は特定されていないし、記録もいっ
さい残っていません。しかも、渡真利被告の言うデート嬢とは、昨年12月に中国人元留学
生による殺人として大阪で大々的に報じられた事件の被害者だったんですよ」
確かに、検察側の主張に不審な点が多いのは事実のようだ。たとえば、なぜ接待のホテルが
変わったのか。
検察側冒頭陳述によると、2回目の接待が行われたのは昨年7月18日ごろで、午後1時半
ごろ渡真利被告が大阪高検旧庁舎近くに三井前部長を迎えにいったとされている。このとき
三井部長が、
「勤務中やから、近場(のホテル)にしてくれ」
と言ったと主張している。
ところが、ホテルと高検の位置関係を調べてみると、検察が当初、勾留状に記載していた「C」
ホテルは高検から4キロ以上も離れた天王寺区内にあって、この会話の信憑性が疑われるこ
とになる。
起訴状で出てきた「G」ホテルならば、高検と同じ北区内で、距離も600メートルほどの
至近になるのだ。
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名無しさん@3周年:02/08/06 14:31 ID:8xBQFo6T
女性が殺害された時期も気になる。本誌のこれまでの取材などによると、渡真利被告ら暴力
団関係者が検察側と接触を始めたのは今年1月のこと。これに対して、女性が殺害されたの
は昨年12月26日のことだった。検察が暴力団関係者から”デート嬢接待”の供述を引き
出せたとしても、その裏付けはいったいどうやってとったのだろうか。
三井前部長は法廷で、
「こうした裏付け不可能な死者を持ち出すことは暴力団関係者がいつも使う手です。しかも、
その裏付け証拠は皆無です。これは検察史上例を見ない最大のでっちあげ事件といわねばな
りません」
と断罪した。
今後の裁判でも、渡真利被告らの供述の信憑性が焦点になることは間違いない。