産経新聞12月20日紙面
■深層・朝銀事件−−−北朝鮮の影を追う
在日朝鮮人系金融機関「朝銀東京親用組合」をめぐる資金流用事件は18日、東
京地検が業務上横領の罪で在日日本朝鮮人連合会(朝鮮総連)の元財務局長らを起
訴し、事件解明の舞台は今後の公判に移る。破綻した全国の朝銀に日本政府は6千
億円という巨額の公的資金を投入、その額は最終的に1兆円にのぼると予測されて
いるが、朝銀を破綻させた「ずさん融資」の使途は公判で明らかになるのか。闇に
消えた資金の行方に北朝鮮への「送金疑惑」がささやかれる朝銀事件の「真相」を
追う。
産経新聞12月20日紙面
1.総連との攻防
19日午前8時25分、新潟港に北朝鮮から貨物客船「万景峰92」が入港した。
北朝鮮・朝鮮労働党で総連を担当する「統一戦線部」幹部が乗っているとされる。
総連幹部は数日間の停泊中に朝銀事件の報告のために乗船するのか、本国からの指
示を受けるのか。
朝銀東京事件の捜査が大詰めを迎えた11月下旬にも「万景峰92」が新潟港に
入っている。
このときは実力者、許宗萬第一副議長が乗り込み、何時間たっても船を下りてこ
なかった。「許氏の下船は翌日だった」(公安関係者)
「日本警察当局は『総連からの指示』について捜査を進めるようだ」
10月中旬、この情報を入手した総連の幹部たちは、当局の目を恐れて都内某所
に集まった。
会合では「徐萬述議長や許第一副議長に捜査が及ぶことがあってはならない」こ
とを確認、朝銀事件は「でっちあげ」「不当捜査」「民族差別である」という意思
統一が徹底された。
警視庁捜査二課に総勢百人規模の朝銀東京専従捜査班が正式に編成されたのは1
0月末だ。同課は長銀、日債銀、東京相和銀など金融・経済犯罪捜査のプロ集団だ
が、今回はいつもとは少し違っていた。
「朝銀の背後に総連、その後ろには北朝鮮がある。『不正送金疑惑』を意識しな
いわけにはいかなかった」(警視庁幹部)。捜査当局と朝鮮総連との攻防はすでに
このころから始まっていた。
専従捜査班は朝銀東京幹部が平成10年の東京都の立ち入り検査で資料を隠匿、
総額25億円の融資に関する債務者資料を提出せず、仮名・借名口座を使って不良
債権化させていた事実を把握。11月8日、協同組合金融事業法違反(検査忌避)
容疑で朝銀元理事長の鄭京生容疑者(64)らを逮捕した。10日ほど過ぎると鄭
容疑者がこう供述する。
「康さんから指示を受けて流用した」
「康さん」とは朝鮮総連の中央常任委員会を務める康永官元財務局長。総連の“
金庫番”と呼ばれる人物である。捜査の視界は一気に広がった。
一方、総連は組織防衛を本格化させた。家宅捜索前日の28日、総連下部組織「
在日朝鮮青年同盟」などに大量動員がかかる。同日、康元財務局長を逮捕。朝銀東
京の仮名・借名口座は事実上、康容疑者が管理、カネの大半は朝鮮総連に流れてい
た。
家宅捜索当日。29日午前8時、朝鮮総連中央本部前の捜査員の乗ったワゴン車
が400人余りに取り囲まれた。
「日本の警察は在日朝鮮人に対する差別をやめろっ!」
機動隊200人が出動。「公務執行妨害であなたたちを逮捕せざるを得ない。困
るのはそちらではないか…」
道が開いた。総連に日本の捜査当局が初めて入った瞬間だった。
朝鮮総連は昭和30年、在日朝鮮人の権利擁護団体として設立された任意団体で
ある。
だが、別の顔も持つ。北朝鮮の故金日成主席が対南(韓国)工作担当の統一戦線
部に直結する組織として創設したからだ。日本人拉致疑惑や軍事転用可能物品の不
正輸出など北朝鮮をめぐる犯罪にはこれまで度々、総連やその関係者の姿があった。
580 :
産経新聞連載記事1-3:01/12/21 18:29 ID:uMyIzn9T
「蚊帳の外ですよ。宝の山を前に、指をくわえていた…」
自嘲気味にこう言うのは北の工作活動を捜査してきた警視庁公安部の「北のプロ」
たちだ。彼らは家宅捜索はおろか捜査に加わっていない。
騒乱で2時間遅れた総連の家宅捜索は午後2時過ぎに終わったが、押収資料は段
ボールでたったの2箱だった。捜索は容疑から財政局長室周辺に限られ、1人の捜
査員の後に3人の総連関係者が付き、トイレの中までついてきたという。
警視庁は事件着手の早い段階で捜査は刑事部が行い「刑事事件として粛々と摘発
する」(警視庁幹部)ため、公安部を投入しない方針を立てたとされる。政治的な
要素や思想的背景が絡む公安事件は「政治的な意図が捜査に反映しているとの無用
な反発を招く」(同)との理由からだ。政府は「この問題(朝銀東京事件)と日朝
問題は別」(小泉純一郎首相)、「日本の金融機関の問題」(福田康夫官房長官)
との立場だ。
いま、総連幹部は「説明会」と称して親しい国会議員を集め「段ボール2箱だか
らたいしたことはない」と勝ち誇ったように話しているという。