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私事ですが名無しです:
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一 「交ぜ書き語」の由来
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「交ぜ書き語」とは
漢字二字以上が連接してできた、普通「熟語」と称される漢語のその一部を、仮名書きにし
たものを、「交ぜ書き語」と称します。元来、「玩具」「処方箋」「虚心坦懐」などと、すべて漢
字で書かれていたものを、「がん具」「処方せん」「虚心たん壊」などと書き改めた表記法です。
近年、しばしば新聞紙上に躍った例を挙げれば、
・銀行の破たん
・ら致事件には、き然たる態度で
・工事の進ちょく状況
といった類です。いうまでもなく、それらは、「破綻」「拉致」「毅然」「進捗」と書かれていた
熟語の一字を、平仮名に書き換えたものです。
しかし、その表気が示す字面の感触は、いかにも異様なグロテスクなものです。多くの現代
の日本人は、その字面において、感覚的にも言い知れぬ違和感や嫌悪感を持たずにはいられな
いのではないでしょうか。
P11-
「交ぜ書き」の生みの親は
この「交ぜ書き」という珍現象を発生せしめた元凶は、昭和二十一年(一九四六)年、敗戦直
後、内閣訓令・告示として公布された「当用漢字表」です。日本語の平易化のためと称し、当
時の内閣が新たに定めた一八五〇字の当用漢字なるもの以外は使用すべきではない、と告示し
たために、日本の教育界・出版界を始め一般の人々まで、これに従わざるを得ませんでした。
例に挙げた「玩」「箋」「坦」「綻」「毅」「捗」などの漢字は、すべて「当用漢字表」に
収められない漢字です。しかも、これらは難しい漢字はやさしい「別のことばにかえる」とい
う文部省の指示に従うことのできない文字として、あえて仮名書きにしてまでも日本人が使用
したい漢語だったと言えましょう。換言すれば「交ぜ書き語」とは、現代の日本人にとって、
どうしても使い続けたい言葉だったということができます。
・けい古不足
・神社に参けいする
・水泳中にでき死する
・めい福を祈る
・途中で落ごした
などといった極めて日常的な用語の一部が、どうして右のように仮名書きされねばならなかっ
たのでしょうか。稽古・参詣・溺死・冥福・落伍などの熟語の中の一字を仮名書きにするだけ
で、どれだけ日本語の表記が平易化されたというのでしょうか。
P12-
言い換えのできない漢語
確かに徒らに難解・煩雑な漢字・漢語の乱用には問題があり、時に一定の規則や自粛が必要
名こともありましょう。しかしこの「当用漢字表」の犯した最大の罪過は、日常一般に使用す
る漢字の字種・字数を、一八五〇字以内に限定したことにあります。以来、「当用漢字表」以
外の漢字は、すべて「表外漢字」「制限漢字」と称せられて、使用禁止となりました。小・
中・高校の諸学校の教科書を始め、官公庁の公文書、民間の新聞・雑誌などの刊行物に至るま
で、その制約に従わざるを得ませんでした。
そのために、本来各人の自由なるべき日本語の表現・表記は、その中枢を担うべき漢字の使
用において、極度に制約を受けることになったのです。確かに「当用漢字表」にない漢字・漢
語については、それと同じか、できるだけ近い意味の語に言い換え・書き換えるよう指示され
てもいます。しかし、古い来歴を持ち、それぞれ独自のニュアンスをたたえる漢語において、
同義・類義の語が容易に見つけ出せるものではありません。
・交渉の秘けつ
・賄ろを贈る
・黙とうを捧げる
などを、仮に「秘訣」を「奥の手」、「賄賂」を「まいない」と言い換えたとしても、果たして
その意味は正確に伝えられるでしょうか。「黙?」に至っては、言い換えるべき適切な言葉は
ついに浮かんではきませんでした。
「交ぜ書き語」は、「当用漢字表」による「書き換え要求」への抵抗の一手段として発生し、
まことにグロテスクな形ながら、漢字・漢語の生命力を保つ役割を担ってきたとも言えるでし
ょう。
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「制限」から「目安」へ
その締め付けが緩められるまでには、実に三十数年の歳月を要しました。「当用漢字表」(一
九四六年)が改訂されて「常用漢字表」として公示されたのは、昭和五十六(一九八一)年の
ことでした。その字数は、一八五〇字から一九四五字というわずか九十五字の追加に過ぎませ
んでしたが、その根本精神が、漢字使用の「制限」から「使用の目安」を示すにとどまるとい
う大転換だったのです。国家が漢字の使用に一定の枠を設けて、それ以外は使用を禁止すると
いうのではなく、漢字の使用枠を例示して、この程度までとし、その目安を示すにとどまると
いうことでした。
それは、まちがいなく国策の大転換でありました。皮肉な言い方をすれば、「交ぜ書き語」
という奇形の語まで生んで、表現の自由の回復を迫った庶民の、輝ける成果だったということ
もできるでしょう。
P14-
自主規制の自縛
このようにして、今から二十数年前に、漢字の使用制限は緩和されて、その使用は格人格機
関の自由裁量に任されたはずでした。ところが、今もなお、新聞や雑誌に、そして官公庁の公
文書などに「がん具」「処方せん」などの「交ぜ書き語」を見るのは、何故なのでしょうか。
折角、「当用」から「常用」へ、「制限」から「目安」への国策の転換があったというのに、表
現の現場では、それへの対応ができずに、「交ぜ書き」の呪縛から、いまだに脱し得ていない
のです。
確かに近年、新聞協会などが中心になって、「常用漢字表」にない漢字でも、必要とするも
のを選定しようとしたり、読み仮名付きでも用いたい熟語を提案しようとしたりする動きがあ
りました。前者の例としては、「牙・玩・瓦・拳・詣・虹・斑・妖」などが挙げられており、
後者としては、「旺盛・迂回・凱旋・葛藤・杞憂・真摯」などが挙がっていると聞きます。い
ずれの漢字・漢語を見ても、こんなものまでが今まで制限され、「交ぜ書き」の憂き目を見て
いたのかとの思いが致します。
この方向に沿って良識ある新聞・雑誌などでは、漢字使用の自由化は近年とみに進んでいる
かに見えます。しかし、現状ではまだまだ自己規制・自縄自縛の意識からは脱し得ていないの
です。
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「交ぜ書き語」以前
「交ぜ書き語」誕生の原因は、「当用漢字表」にありと、すでに突きとめ得たはずですが、そ
のことにのみ、その責めを帰してしまうのは早計に過ぎるでしょう。幕末以後、明治・大正・
昭和の百数十年間は、実に漢字・漢語は受難の歴史を刻んだ時期でした。圧倒的な欧米文化の
流入期に、漢字の煩雑さを標的とした、当時の知識人やいわゆる先覚者と称された人々の漢字
へのバッシングは、ほとんど絶えることなく続けられてきました。
慶応二(一八六六)年、近代郵便事業の創始者前島密は、「漢字御廃止之儀」を徳川十五代
将軍に奉って、西洋文明流入に刺激された漢字全廃・かな表記論を展開しました。また、明治
六(一八七三)年、後に文相をも務めた森有礼は、漢字を全廃するだけではなく、日本の国語
を英後にしてしまえと主張しました。さらに物理学者田中館愛橘の如きは、「ローマ字国字論」
を多年にわたって国会に建議し続けています。
これらの主張は、さすがにそのままには当時の良識とはな得ませんでしたが、その後、福
沢諭吉・森鴎外などが中心になって提唱した「漢字節減論」は、漢字の使用を二千字から三千
字程度にとどむべしという穏健なものでした。戦後の「当用」「常用」の両漢字表は、それら
の議論の延長線上にまとめられたものです。
従って、戦後の六十年間にこの両漢字表が果たした役割については、それなりの評価が与え
られてしかるべきでありましょう。しかし、文明開化期以来、百年以上にわたって議論され醸
成されてきた漢字文化軽視の風潮は、今に引き継がれているということができます。その風潮
の及ぶところ、敗戦直後に誕生し、今でも日本語の表記を呪縛し続けているのが「交ぜ書き
語」という醜怪な表記なのです。その姿を「羽織袴にハイヒール」「チャイナドレスに丁髷」
という異様な風体にたとえたとしたら、言い過ぎになりましょうか。
二 「交ぜ書き」の問題点
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漢字は表意文字である
漢字は、その一字一字が意味を持つ、いわゆる表意文字です。現在、世界で用いられている
多くの言語では、単に音のみを表わす表意文字が用いられているのに対して、際立った特質で
す。
先に挙げた「交ぜ書き語」を例としましょう。
「がん具」の「玩」は、「もてあそぶ」。
「処方せん」の「箋」は、「ふだ」。
「虚心たん懐」の「坦」は、「たいらか」。
「破たん」の「綻」は、「ほころびる」。
「ら致」の「拉」は、「引っぱる」。
「き然」の「毅」は、「強く、たけだけしい」。
「進ちょく」の「捗」は、「はかどる」。
といった意味を表しています。
「交ぜ書き語」は、その漢字の熟語の一部を、音だけを表す仮名に書き換えてしまったので
す。意味が不明瞭になるのは当然です。そういえば、ここで使った「不明瞭」「瞭」もま
た、「りょう」と交ぜ書きせねばならない表外字でした。「瞭」は、漢和辞典によれば、「明」
に似て「あきらか」の意とされています。その字形に「目」を含むところから、視覚に関連す
る文字であることは、すぐわかるでしょう。この「瞭」を、「りょう」と書いたのでは、その
意味はかえってわかりにくいものになってしまいます。
五 後代に伝えたい言葉
P38-
言い換え・書き換えを拒否される言葉
新聞などによく現れるこの種の漢字熟語に、「改竄」「捏造」「晩餐」「容喙」などがありま
す。ゴシックにした漢字は表外漢字ですから、「団らん」と同じく、当然の如く仮名書きされ
ます。「竄」は「隠す」、「捏」は「こねあわせる」、「餐」は「御馳走」、「喙」は「くちばし」
といった意味合いの表意文字です。これらは「欒」と同じく、当世には、これ以外の意味合い
の用法を、他にあまり示さない漢字です。
しかしそれをそのままには、平易な同義後に置き換え・書き換えるすべのない漢語であるこ
とも確かなことです。
ここにはもう一つ、「団欒」と同じく、言い換えることの難しい格調の高い言葉として、「静
謐」という漢語を取り上げてみましょう。「謐」は、「静」とほぼ同義の漢字ですから、二字熟
して「静かで落ちついている」ことを意味しています。それならば、これはそんな難しい文字
を用いずとも、「静寂」「閑静」などの類義の語で、いくらでも代用できるはずです。しかし、
この語を敢えて用いたがるほどの人には、他のどんな言葉にも代えがたい、深い思い入れがあ
って、言い換えを拒否されているのです。
「交ぜ書き」や「言い換え」ではなく、漢字表現の平易化のために、当用漢字公布後には、
「刺戟」を「刺激」、「蒐集」を「収集」、「抛物線」を「放物線」、「下剋上」を「下克上」とす
るような漢字の「書き換え」が行われました。「叡智」も、その時「英知」と「書き換え」ら
れていたはずです。しかし、平成十七年(二〇〇五)年九月現在、名古屋で行われている万国
博覧会のテーマは、「自然の叡智」であって「英知」ではありませんでした。「叡智」は、「英
知」ではいけなかったのです。現代の日本では、「比叡山」の「叡」としかほとんど使われて
いないこの漢字の感触を、万博の当事者たちは、捨てきれなかったのでしょう。
六 「交ぜ書き語」を解消するには
P46-
「読み仮名」の活用
日本人の祖先たちは、外国産の表意文字を輸入して、その使用に熟達しました。その上に、
カタカナ・ひらがなという表音文字を発明して感じと併用し、独自の文章表現を獲得しまし
た。ここに取り上げた「交ぜ書き」という手法は、その利便性の上に咲いた徒花とでも称すべ
きものだったのかもしれません。いずれにしてもその表記の醜怪さ、その意味の不明確さにつ
いては、すでにくり返し述べて参りました。
それならば、そのグロテスクな表記を改めるとして、どんな手立てが講じられるというので
しょうか。その答えは、まことに単純明快です。かつて、明治・大正期の新聞はすべての漢字
に読み仮名をつけていました。少年向きの講談本「立川文庫」という当時のベストセラーも
「総ルビ付き」でした。この知恵を今に借用すれば「交ぜ書き語」は立ちどころに解消いたし
ます。
P47-
漢字・漢語に対する正当な評価・認識を
それがなかなか現実には実行に移されないのは、漢字にルビを付ける煩わしさ、特に印刷上
の制約もあってのことと一応の理解はできます。しかし、そのために不明瞭となる熟語の語意
や、字面の醜さなどを思えば、どうしても克服せねばならない現代人への課題であると考えら
れます。要するにそれは、現代の筆者・表現者の良識、文字言語に対する感性や見識にかかわ
る問題ということになります。自身の表現したいその表現内容は、この一語以外に拠ることは
できないとする不退転の意志が働かない限り、たちまちに妥協されて、表外漢字を含む漢語
は、他の言葉に置き換えられてしまうでしょう。
それを拒否してその語の使用に執着した結果、窮余の一策として誕生せしめられたのが、
「交ぜ書き語」だったとしたら、その語は日本人にとって不可欠の重要な漢語であったという
ことになります。換言すれば「交ぜ書き」という醜状をさらしてでも残さるべき日本語とし
ての漢語ということにもなります。
戦後六十年の間に制定公布された「当用漢字表」「常用漢字表」は、いずれも国語表現とし
ての漢字の使用を、国家の名において規制したものです。そのことの当否はともかく、「交ぜ
書き語」は、その規制をくぐり抜けるために生まれた「落とし子」であり、苦肉の策の所産で
す。それほどまでにして生き残ったこれらの漢語は、実はわれわれ日本人にとって最も必要度
の高い言葉であり、仮名書きされた漢字は、その構成要素だったということになります。
「交ぜ書き語」で仮名書きされたこれらの漢字は、かくして「常用漢字(一九四五字)」に、
「人名用漢字(九八三字)」とともに、是非とも加えるべきものとなったと申せましょう。それ
によって、「交ぜ書き」される漢字も、仮名ばかりで表記される二字熟語も激減することは、
まちがいありません。
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オイラは差別反対さ〜
オイラミ羊国ってんだ
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