セブン住民で小説作りましょうぜ

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1私事ですが名無しです
とりあえずおれが1なのでお題を決めさせていただきます。
今回の題は

「俺がおやじでおやじが俺で」

ドキドキ学園物ラブストーリーでお願いします。

では>>2が2getしたあと、>>3からいよいよスタートです。
果たしてセブン住民の文才が集まったら、どれだけのレベルの小説ができるのか、ドキがムネムネしちゃいます!
2B5 ◆news7IUA.U :04/07/08 23:06 ID:???
2(σ゚д゚)σ ゲッツ
>>3はインポ
3仮面貴族 ◆Ayumi4jZbo :04/07/08 23:09 ID:VruwM51s
俺が大長編小説『セブン血風録』を書くぜ
4マーキー ◆Xhmarquee2 :04/07/08 23:10 ID:???
おやじが出てくると学園物にならないような気がする・・・
5私事ですが名無しです:04/07/08 23:11 ID:34i6ZOsQ
>>4
そこをなんとかしろっていうんですよ。
あなたセブンのコテハン名乗っているなら、そんな事いっちゃダメっ!
そこをなんとかするのがあなたの役目でしょうが?えぇ?

6私事ですが名無しです:04/07/08 23:13 ID:34i6ZOsQ
>>3
あなたの大長編小説『セブン血風録』は「俺がおやじでおやじが俺で」が終わったらでいいです。
今なにをすべきかわかるでしょ?
まず誰かが書き始めなければならない。
誰か、勇気ある人よ、書き始めてください!!!!!!。
7本のナビゲーター ◆UDtSiuSRQo :04/07/08 23:16 ID:34i6ZOsQ
まことに勝手ですが私の事は本のナビゲーターとよんでください。
8仮面貴族 ◆Ayumi4jZbo :04/07/08 23:21 ID:VruwM51s
新撰組局長ここちゅうが副長の亀甲師団長と二人きりで話す時は、
”カメ”と呼んだという。
隊士を斬る、斬らないの相談をする時も、
「カメ、あの野郎どうすべえ?」っと言ったという。
9本のナビゲーター ◆UDtSiuSRQo :04/07/09 20:23 ID:az8yvOHZ
>>8
全然ラブコメじゃないし。
私のこと小馬鹿にしているんですか!!!
10原磯 ◆3UdyK/6rU6 :04/07/09 20:27 ID:???
やっぱり謎めいた美少女が主人公のクラスに転校しないと始まらないですょ
11私事ですが名無しです:04/07/09 21:10 ID:dkbhgr0d
「俺がおやじでおやじが俺で」

(暑いな……) 噴き出る額の汗を拭いながら俺は今朝も通学する。
俺の愛車、「怒涛のオリビア号」はカゴ付き、ギアチェンジ付きだが、坂道を走るのは正直キツイ。
早朝の高速道路を多数の改造車が爆走する中、俺の脇をママチャリどもが追い抜かしていく。
(このままじゃ駄目だ!)と俺は決意した。
こんな姿じゃ、おやじに合わせる顔がない。

思い切ってペダルを踏み込み、音も響けよとばかりに地面を蹴った。
近頃勢力を伸ばしつつあるキックボード野郎を尻目に、時速35kmで俺のオリビア号は疾走する。
(それにしても暑い。暑い暑い。くそぉ、校長にはめられたぜ……)
流れ出る汗が俺の瞼を伝い、眼の中に浸入する。
一瞬、注意がそれた。

「危ない!」
オリビア号の車輪に鈍い衝撃が走ったかと思うと、謎めいた美少女が宙を待っていた。
しまった。やってしまった。関係ないが根津甚八さんには早く立ち直って欲しいですね。
そんな言葉が脳裏を横切り、気づけば少女は俺の胸倉を掴んでいた。
「う、うわー……」
見上げると少女は身長2メートルはあろうかという怪女だった。
すみませんすみません、と俺は涙を流して謝った。が、女は許さなかった。
「全然謝って済む問題じゃないし。私のこと小馬鹿にしているんですか!!!」
やばい。リンチが始まるのか? お、おやじ……
12私事ですが名無しです:04/07/09 21:12 ID:???
どんまい
13私事ですが名無しです:04/07/09 21:16 ID:???
「俺がおやじでおやじが俺で」終了
ご愛読ありがとう御座いました

↓次レスからセブン血風録が始まります
14私事ですが名無しです:04/07/09 23:18 ID:+gWTLBDO
>>11
「てかなんであたしのことわかんないのよ馬鹿」
・・・?
俺にはこのデカイ女の言ってることが理解できずにいた。
頭をかなり強く打ったらしい。まだ額の裏から後頭部にかけてちらちらと光が飛び交っている。
「あたしよあたし」
・・・!
親父だ。おれのおやじがそこにたっていた。
俺が吐き気を催したのは事故のせいなのか親父の異様な姿のせいなのか。
15名無しさん@そうだ選挙に行こう:04/07/11 19:34 ID:IeI8MAkR
薄れている記憶の中でも思い出した。
そういえばおやじの書斎のには何故かいつもセーラー服があったなとかメイド服があったなとか・・・。


そういうことだったのか、おやじぃぃぃ!!!
16私事ですが名無しです:04/07/13 02:23 ID:GxGKDPBp
すべてを了解したあと、俺はおやじの腕を叩きながら「ギブ!!ギブ!!」と叫び続けた。
おやじは、まるでかめはめ波でフライパン山の火事を消して得意がっている亀仙人の目の前で
いきなり自己流かめはめ波を出してしまった悟空を見るような目つきで俺をにらんだ。
「……ふん。今日は許してやるよ。次はないからな。さあ、とっとと行け! 遅刻するぜ」
謎めいた美少女の顔で殺し文句を吐くおやじに背筋が凍るような思いだった。

怒涛のオリビア号に跨りながら、俺はちらちらと背後を確認して出発した。
ミラーに映るおやじの姿がどんどん小さくなっていく。
おやじ……。
思えばおやじは俺が小さかった頃からまったく変わっていなかった。
若い頃は女顔の長身の美少年といわれていたらしいが、今でもその評価に変化はない。
幸い俺はおふくろ似だったから、人並みの容姿で人並みの背で、人並みの趣味の人間に育った。
おやじのコスプレ趣味には困ったものだ、といまさらながら俺は思う。
ペダルを踏む足に力が入らず、ややもするとオリビア号はふらつきだして
俺の憔悴ぶりを如実にあらわしている。

ようやく坂の上の校門が見え出す。ため息をつく。
これから風呂場の鏡で若禿を発見した大学生のような一日が始まるのだと思うと憂鬱になる。
何も起こらなければいいが……と俺は願うような気持ちで門の間に車輪を滑り込ませた。

「おい!」 ――聞き覚えのある怒号と共に、俺の肩をがっしりと掴む手がある。
振りかえってみると、額に青筋を立てた眼鏡の教師が燃える眼で俺を見据えている。
まずい。ケチャップ先生だ。
17私事ですが名無しです:04/07/13 22:34 ID:???
おお、盛り上がってきたネ!
18マーキー ◆Xhmarquee2 :04/07/13 22:42 ID:???
ケチャップ先生
19私事ですが名無しです:04/07/14 03:22 ID:v/k9lc24
反り返った髭をモシャモシャとひねくり回しながら、「喝!」 とケチャップ先生は叫んだ。
潤んだ瞳にズレかけたコンタクトが眩しい。俺は一遍ですくみあがった。
「なぁーにをトロットロ登校しとるんだぁ、貴様ぁ! あん? ブラックリストに載せるぞ?」
ブラックリスト。その単語を聞いた途端に膝がガクガク笑い出す。
ケチャップ先生は【ぶっちゃけ殺すリスト】を携帯しており、そのリストに名を連ねた生徒のうち
生きて下校した者は誰一人いなかった、というもっぱらのウワサだ。

「すいません、教官。許してください。バーバパパが道を塞いでいたのです」
俺はできる限り鼻声で、時折鼻水をすすり上げる演技までしてみせた。
ケチャップ先生に「ケチャップ」だとか「先生」などという親密的な呼び名はしてはいけない。
ケチャップ先生イコール「教官」。これが校内での暗黙の掟だ。
「あぁん? 貴様ぁ、お好み焼きに合うソースといえばなんだ?」
出た。これだ。
ここで返答を間違えてはいけない。この時点での失態は、すなわち、死。
俺はあたかも最後の裁判にかけられているのだ。
本音ではもちろん、「おたふくソース」か「キューピーマヨネーズ」なのだが、
察しのよい人間ならけっしてそうは答えないだろう。なぜなら、相手はケチャップ先生なのだから。

(むろん、お好み焼きといえばトマト・ケチャップです。上方の魂です。)――と、
教官の耳に唇を寄せ、そっと囁く。このときに息を吹きかけるなどという蛮行は許されない。
「ふーむ」 とケチャップ先生はうなった、が、どうやら満足気だ。
「貴様ぁ、なかなか良いセンスをしているのではないかぁ! 校長が呼んでおぉる、急ぎたまえ!」
教官の脇をそそくさと逃げ出し、俺は(奇跡的に)無事に校門を通り抜けた。
奴の姿が見えなくなってから、俺は密かに中指を立て、声には出さず悪態をついた。
うぜぇーっつうの。
20私事ですが名無しです:04/07/14 09:46 ID:c8GNN2rx
しかし、そのときにはまだ、俺は昇降口におたふく・たこやき・ソース先生が不満げにたっていることなど知る由もなかった。
21私事ですが名無しです:04/07/14 09:50 ID:c8GNN2rx
おっと危ない!おたふく=たこやき=ソース先生だった。
師の前でうっかり=を使わず・とか、で区切って師の名前をかこうものなら、みじん切りにされておたふくソースの原料にされてしまうのだ。
まだ若いうちからソースになどなりたくない。
22私事ですが名無しです:04/07/15 05:01 ID:EBdlWqZA
失礼します。……ガチャ。
校長室のドアを開けると、校長とおたふく=たこやき=ソース先生が向かい合わせで座っていた。
「今朝は何のご用でしょうか?」
どうせ大した用事じゃねーだろうな、と思いながらも下手に出る。
だが、意に反して校長は眉間の皺を深くし、小柄な体で精一杯困った事態をあらわしている。
おかしい。いつもと様子が違う。

「おお、来てくれたかね」 と校長は俺の不審そうな視線に気づいて慌てて表情を緩ませた。
だがいまさら騙されはしない。
「実はねぇ、私は今までの本校の運営方針を反省してね」
おいおい、校長、何を言い出すんだ?
「わが校は共学制だったから多少の生徒間の交際などには目をつぶってきた。
しかし、近頃の生徒を見ていると風紀の乱れに目が余る。耐えられなくなった。
そこで本日からクラスを大きく2つに分けることにした。生徒が互いに興味を持ちすぎないようにね」
つまりが徹底的に生徒の交際を取り締まるというわけか。

俺は口を出そうとしたが、校長は「最後まで聞け」 というように掌を出した。
「教頭先生とも話し合った結果だ。そもそも本能的に惹かれ合う若者同士を同じ教室に
押し込めたのが間違いだったのだ。私は思い切って決断した。撲滅とは言わないが、
せめて健全な青少年にあるまじき交際は絶とうと。君に話したかったのはそれだ」
「でもみんなが納得するとはとても思えませんが……」
「いや、その問題はクリアーした。教師の配置を変えたのが良かったと思う」
自慢げに話す校長。
「ただ、残る問題がひとつあってね。人間に「産み分け」ができない以上、クラスに「余り」が出るのは
当然だと思うが、差し当たって、その生徒をもう片方のクラスに編入させるのが最善だと考えた。
察しのいい君ならわかるだろう、その生徒とは他でもない、君のことだ」

え!? 俺が……。
23私事ですが名無しです:04/07/15 05:02 ID:???
俺の動揺を感じたのだろう、校長は顎に手を当て苦笑いを浮かべた。
「勝手な話だが、おたふく=たこやき=ソース先生は君が適任だと言っている。
たしかに君はどちらかというと中性的だし理性もじゅうぶんにある。無茶な真似はせんだろう。
今度のクラスおよそ50名のうちで、君がたった1人の――」

「校長、そんな話は飲めません。いきなりそんな環境じゃ、勉強にも集中できません!」
最初から勉強に集中したことなどないが、俺は必死に青い顔で訴えた。
くそっ、おたふく=たこやき=ソースめ、俺に何のうらみがあるんだ?
しかし俺の懇願もむなしく、校長は首を縦には振ってくれなかった。
「君にはすまないが、もう決まったことだ。さあ、新しい教室に行きなさい」
なすすべもなく、校長たちの前で逡巡したのち俺は一礼して退室した。

49人から一斉に好奇の目が俺に向けられるかもしれない。
想像しただけでものすごく恥ずかしい。
歩き慣れない廊下を通ると、始業ベルがとっくに鳴っているため人影はない。
緊張しながら俺は校長から聞いた新しい教室のプレートを探した。
「ここか……」
ガヤガヤとかしましい教室のドアをガラリと開けると、一瞬場が静まった。
目線を上げると、49人の顔がこちらを向いていた。
S男にS女、さまざまな趣味を持った生徒ばかりで全員サドだ。
「皆さーん」 と担任のM子先生が教壇から呼びかけた。
「紹介しますね。3年S組に編入になった小豆まめ太くんでーす」
24私事ですが名無しです:04/07/15 05:02 ID:???
ちんぽこ合戦ぽこぽこっ!!うんことちんちんおっぱいまんこ!!いっぱいまんこ!!
ちんぽこ合戦ぽこぽこっ!!うんことちんちんおっぱいまんこ!!いっぱいまんこ!!
俺のケツからひり出したウンコを食らい〜〜〜〜〜〜やがれ〜〜〜!!←京
やがれ〜!やがれ〜!やがれ〜!←京

∵←なんか顔みたい!きゃ〜〜〜〜^!!!★←乳首とか隠すやつ!あるある!よくある!
∵∵∵∵∵←なんかいっぱいいる!怖い!(∵)←頭悪そう!!!!!!あああhh

ё←なんか虫に見える!虫に見える・・・。Я←いや、逆だから!!!それ逆だから!!読めないから!
ちゃんと書いてよ!もうホント・・・。

Ψ←なんか邪悪っぽい!火を付けるやつにも見えなくもないよ!!
∵←また出た!!ひっこめよひょうたんが!!!£←なんか朽ち果ててる!!もっと気合入れろよ!!
25私事ですが名無しです:04/07/15 05:03 ID:???
「それでぇ、この不定積分の左辺における変数Xを――え? わからない?
私の教え方が悪い? ごめんなさい……私、教師失格なんだわ!
――え? 私の書いた式が違ってる? ああっ、私って何て卑しい豚なの!?」

運の悪いことに一時限目はM子先生の数学だった。
ただでさえ苦手な数学なのに、こんな授業では理解できるはずがない。
暗にそれを言うと、M子先生はまた自虐的な台詞を延々と話し出した。
(こんなことじゃだめだ。こんなんじゃ、おやじに合わせる顔がない――)
俺はM子の目を盗み、後ろの戸口から教室を出た。
こんな授業はフケて当たり前だ。元の教室に戻ろう。

長い廊下を進むと、「こらッ!」と号が飛んだ。思わず首をすくめる。
声の主は――教頭だった。
「チミ、チミィ、なーにをしチョるのかね? 校長先生がおっチャっただろう
そっちの教室にはジェッタイ行っちゃだめなの!」
「いや、でもM子先生は全然授業をしてくれなくて……」
「言い訳はだめッ! 戻りなチャい!」
くそっ。聞く耳を持たない教頭め。

「仕方無いな……」 カバンから取り出した一尺物差しを握り締める。
「な!? チミィ、……私と闘る気かね?」
眼鏡を中指でチョイと上げる教頭の全身が殺気立つ。
俺は片足を後方にスライドさせ、あの振り子打法の要領で一尺物差しをダイレクトに振った。
スパコーン!!!
出た。会心の一撃が。
26私事ですが名無しです:04/07/15 05:04 ID:???
教頭は恋愛映画のヒロインが外国へ向かう船の上で恋人に振ったハンカチのように
「あっ」と思った瞬間には風に流され、彼方に消えた。
「こんなことのために一族の奥義を使ってしまうなんて……。おやじ、すまねえ……」
頬を涙でぬらしながら俺は廊下を進んでいく。
しばらくすると、懐かしい俺の教室が見えてきた。
たった1日離れていただけなのに、やけに懐かしいぜ、ちくしょう。
そのままドアを開けようとする俺。……だが。

「あぁん? このヤロォ、クロポトキンの森戸事件との関連がわからないだと?
真面目に授業を受けてなかったのか、ヤドカリ野郎が!!」
続いてあからさまな殴打音。この声は……まさかケチャップ先生!?
「俺がここの担任になったからにはなぁ、甘っちょろい授業なんかしねえんだよ!
オラ、立て、こん畜生。何だぁ、貴様は美少女仮面ポワトリンか何かのつもりか!?」
バゴッ、という鈍い音がしたかと思うと、目の前のドアが木っ端微塵になり、
1人の生徒が泣き顔で倒れ伏す。
「ぐふっ……ありがとうございます、教官!」
気絶した生徒は至福の表情だった。ヤバい。このままじゃ俺もヤバい。俺は逃げた。
「んだァ!? 貴様ぁ、ちゅうかないぱねまの読み方がわからないだと!?」
「いえ、あの、んがっ!!」
背後で歓びにまみれた苦痛の声がこだまする。
俺はさっきまでの自分自身を反省し、M子先生のクラスで本当に良かったと痛切に思った。

あばよ、俺の古巣、3年M組……。
27私事ですが名無しです:04/07/16 22:14 ID:hSCK3Hoo
age
28私事ですが名無しです:04/07/18 22:41 ID:McEfse04
age
29私事ですが名無しです:04/07/18 23:21 ID:???
横書きの小説読むのしんどい、縦書きにならないの?
30私事ですが名無しです:04/07/18 23:48 ID:???
数日も経つと俺はS組にもだんだん慣れてきた。
砂漠地帯に生息するカンガルーネズミばりの適応能力のためか、M子の自虐発言も気にならない。
ただ・・・近頃おやじがTVを観ながら不気味に笑っているのが気にかかる・・・。
見ているのは、5人組のアイドルがコントをする、腐女子に人気の番組なのに・・・。
だが、何を考えているのかを面と向かって訊くのには抵抗があった。
そんな度胸はない。ラムちゃんの衣装を着たおやじに向かって・・・そんな度胸は・・・

いつものように俺の「怒涛のオリビア号」は高速道路を爆走する。
ハンドルに付いたベルでゴッドファーザーのテーマを奏でながら悦に入っていると
隣に黒ゴシックのクールなマシン(自転車)が並ぶ。・・・俺に付いて来られる奴がいるとはな。
「おはよう、まめ太クン」
その顔を見て俺はどきっとした。同級生の印陀州文明(いんだす・ふみか)だ。
S組に咲く一輪の黒い薔薇。小沢真珠似の顔立ちにゴスロリ衣装がミスマッチしている。
お、おはよう、・・・と俺は少々どきまぎしながら答える。
俺の動揺ぶりにフミカは小悪魔的な微笑を浮かべて俺の頬に触れた。
「か、片手ハンドルは危険だぜ・・・」
「どう? クラスには慣れたかしら?」 ハスキーな声が朝から強烈だ。
俺はなるべくフミカを見ないようにして「まぁな」と短く言った。
「そう、よかったわ。慣れてきたら、そのうち、ね・・・」
フミカは意味深長な言葉と含み笑いを残し、俺のオリビア号を楽々と追い抜いて行った。

しばらくは上の空でぽかんとしていた、俺。
フミカめ・・・ああやって下僕を増やしているのか・・・俺は、俺は騙されないぞ!!
そう言いながら、頬に残るフミカの涼しい手の感触を忘れることができずにいた。
31私事ですが名無しです:04/07/18 23:50 ID:vW3irdnB
>>29
縦に書くとフォントによって激しくズレるのでお勧めしない
32マーキー ◆Xhmarquee2 :04/07/19 00:29 ID:???
いんだすふみか・・・ネーミングセンス抜群だな
33私事ですが名無しです:04/07/19 03:27 ID:???
おお、正統派というか、直球勝負の娯楽大作っぽいね。
今後の展開にも期待してます。
34私事ですが名無しです:04/07/22 20:22 ID:VaRrSWhe
モクモク。……俺の隣で煙がうごめいている。照りつける太陽、むさくるしい湿り気。
そして俺は囲まれていた。
よぉ、いいマシン乗ってんじゃねーか、――竹内力の高校生版といった男が絡んでくる。
見たところ、こいつがリーダー格らしい。他の有象無象どもは一歩離れてニヤニヤしている。
「ゆずってくれねーか? そうだな、タダで」
調子付いた竹内力が額を俺に押し付けてくる。無言のまま佇んでいる俺。
「シカトかます気か小僧! 昇り龍の岩サンがチャリ寄越せって言ってんだよ!」
取り巻き連中が煽り出す。
蒸し焼きにされそうなアスファルトの上で、俺の逃げ場はどこにもない。
「テメェ、2度言わせるんじゃねーぞ。さっさと降りろ」 昇り龍の岩とやらが激昂する。
「…………だよ」
「あん?」
「ピーキー過ぎてお前にゃ無理だよ」
間髪入れずに掌底を叩きこむ。昇り龍のどてっ腹がへこみ、地面に転がると同時に嘔吐した。
「チィッ!」 我に返った取り巻きどもが束になってかかってきやがる。
奴等の動きを見澄まして水月に肘鉄、半月蹴り、局部撃ちを次々に見舞うと
敵は断末魔の余裕さえ与えられず焼けたアスファルトに沈んだ。

と。ふいに気配を感じて俺は遠い路地の影に目を凝らす。
だが次の瞬間には人影は走り去ってしまい、何者なのかも突き止められなかった。
「まったく、今朝はどうなってんだ……」
倒れ伏した不良たちを尻目に「怒涛のオリビア号」を漕ぎ出す。
ん? 俺の目が何かを捉えた。
さっきの人影が見えた辺りに円筒形に近い物体が落ちている。
これは…………間違いない。奥様に人気の低脂肪マヨネーズだ!
35私事ですが名無しです:04/07/22 22:18 ID:???
更新乙。
なんか安心して読めるよ。
プロっぽいという感じ。
36私事ですが名無しです:04/07/24 23:54 ID:CEOZeGtg
やはり、というべきか俺は遅刻したようだ。
校門の前に立つケチャップ先生の表情が、鬼を通り越して中村獅童みたいになっている。
「外道生徒めェ……貴様はブラックリストに加入決定!」
「待ってください教官!」 俺は慌てて事情を説明した。「私を狙っていたゲイツ似の男がこれを――」
そろそろと取り出した低脂肪マヨネーズを一目見るや否やケチャップの顔がいっぺんに青ざめる。

「こ……これはッ……」
普段の鬼の形相とはまるでかけ離れた不安な顔、そして動揺の色の濃い手つきで
必死になってマヨネーズをいじくりまわしているケチャップ先生。何かあるなと直感した。
「教官、もういいですかね? このまま教室に行っても」
「う、うん? キミ、まだいたのかね。早く校舎に入りたまえ」
すっかり鬼気をそがれたケチャップは臆病なウサギに等しい。
それにしても、何なんだ、あの低脂肪マヨネーズは……。そして俺を襲わせた理由は……。

そんなことを考えているうち、俺の足はいつの間にかS組の前で止まっていた。
ざわ、ざわ。ドアの前に人だかりができている。ざわわ、ざわわ。某歌のようだ。
何があったんだ? と俺は近くの生徒たちに尋ねてみたが、彼らは弱々しく首を横に振るだけ。
「あっ、まめ太クン」 人だかりの中からフミカが生徒たちをかき分けて出てきた。
大変なのよ、とフミカは息が荒い。だが俺には状況がまったくつかめない。
「何だよいったい、どうしたっていうんだ?」
「みんな殺気に気圧されてるのよ。教室の中から物凄い殺気がもれてて、誰一人ドアさえ開けないの」
殺気ぃ? というか、S組は常に殺気立っているんじゃ?
「このままじゃ、埒が明かないわ!」 フミカがギッと教室を睨みつける。「私が先陣を切る!」
37私事ですが名無しです:04/07/24 23:55 ID:???
彼女が一歩を踏み出すと、「印陀州様!」「文明様!」と取り巻き連中が青細い声を上げる。
大丈夫、まかせて、というような視線を彼らに送ると、フミカはドアに手をかけた。
「……待ちな、オレも行くぜ」
と、カッコイイ台詞を吐いたのはもちろん俺、ではなくS組の一匹狼、ゴージャス広田だった。
「広田クン。……いいの?」
「あたりまえよ。俺は、ゴージャスだからな」
そう言ってゴージャス広田は手刀で「心」の字を書いた。俺も黙っていられない。
「2人より3人の方がいいだろう? 行こうぜ」
うなずく代わりにゴージャス広田はデカい口でニカッと笑った。金歯が輝いている。
フミカはというと、真っ赤な唇をニヒルに微笑させて、濃い眉毛をきりりと寄せた。

ドアは重々しく鎮座しており、「この先は多分ラスボスの部屋だからセーブしておこう」と思って
セーブしていたら予想以上に強くて全然勝てず、レベル上げのために戻ろうとしても
『最後の決戦だ。逃げはしない!』と主人公が叫び戻れず、結局ハマってしまった……
そんな真夜中の2時を思わせるドス黒い扉に見えた。
「どーしたのー? みなさーん」 ドアの向こうから声が聞こえる!
「M子先生だ……ヤバいぜ、このままM子が殺られる」
ゴージャス広田の危惧が引きがねとなった。M子を独占したいフミカは迷わずドアを開けた!
おそろしいほどの殺気。先陣を切ったフミカが俺たちを押しとどめる。
「悪霊がいる!ちょっと待って!メヴァクラステ(云々)・・・ふぅ。もう大丈夫、結界をはったから」
土偶を片手にフミカが吐息する。広田は胸をなでおろす。

「あら印陀州さん、そこで何をしてるの?」 M子は何にも気付いていない様子。
「せっかく転校生を紹介しようと思っているのに」
……転校生、だと? 俺たちは視線をM子の横に移していった。「ぐはッ!!」
憂い顔の謎めいた少女(に見える)の顔立ち。2メートルに近い長身。頭にかぶったソンブレロ。
お、おやじ……!? 俺の顔を見ておやじはニタ〜ッと笑った。
38マーキー ◆Xhmarquee2 :04/07/25 00:06 ID:???
ゴージャス広田

最高だな
39私事ですが名無しです:04/07/30 01:12 ID:/1bXmbye
刷り込みというかトラウマというか……俺はかなりフィジカルにビビッていた。
「お、おや――」
おやじ、といいかけてはたと口をつぐむ。
(ここでコイツは俺のおやじと言ってみろ、まともに学校に通えなくなっちまうゥゥ。)
ジョジョっぽく考えてみた。様子を見よう。
アナタ誰なのよ、と強気に構えたのはフミカ。
「教室で転校生を紹介するような、雰囲気じゃないわね。」

2mのおやじはくつくつ笑って、何の事?私はただの転校生ですが?と、そらとぼけた。
「先生、この子に近づいてはだめ!」
フミカの言葉にM子はきょとんとしている。ダメだ――M子は殺気に慣れているのだった。
正確には殺気ではなくサドっ気だが、似ているためかM子先生に動く気配はない。
「印陀州さん、何を言っているのか愚かな私にはわからないわ……」
逃げるどころか勝手にひがんで泣き出す始末。
クッ、おやじめ、担任までリサーチ済みのうえでの乗り込みか。

「嘘だ!そいつは嘘をついている!」
混乱した空気を破ったのは、頼れる男、ゴージャス広田の一声だ。
「プフーッ。危なく騙されるところだったぜ!そいつは転校生じゃない。なぜなら……」
ゴージャス広田は親指で力強く自分を指した。
「このオレにーッ!何の挨拶もナシだからだ―――ァァァァッ!」

ごぶっ、と鈍い感触があって、俺の体は何もない空間に投げ出される。
当身がとれた。床から起き上がるとフミカも俺と同様転がった姿勢から構えに移る。
だが、ゴージャス広田にはそんな気力さえなかった。奴は血まみれでのびていた。
「挨拶代わりだ……受け取っておけ」 おやじの台詞に俺の全身が戦慄する……。
40私事ですが名無しです:04/07/30 03:25 ID:???
テンポがいいね。
ギャグのセンスも好きだ。
41私事ですが名無しです:04/08/01 03:47 ID:P+xxivfe
「こ、このっ!」 ――怖気を奮って俺は拳を突き出した。
そんな俺に冷ややかな視線を返すおやじ……。同情の目だ。
あの日、うぐいすパンの中に本当はうぐいすなんか入っていなかったと知った俺……
生まれて初めて味わった挫折感……天地がひっくりかえるほどの衝撃……
あのとき俺をながめていたおやじも、冷たい目で見ていたっけ。

「ちくしょう!なめるなよ!」
俺は半分泣きながら正拳を繰り出した。
が、そんな覚悟のない拳がおやじに通用するはずがなかった。
難なく一撃を避わしたおやじは俺の後ろ手を取った。勝負はすでに決まっていた。
「ぐっ……」 無力な自分が情けなくなり、歯を噛み締める。だがおやじは――
「私は争いに来たのではない。もっと崇高な使命のために訪れたのだ。」
そして俺の腕を解放すると、こう付け加えた。
「今は、お前の相手をしている場合ではない」

膝をがっくりと折り、俺は教室の床に倒れこんだ。ダメージがあったのではない。
精神的に俺はおやじにのされてしまったのだ。 I am out of ganchu by Oyaji.
「まめ太クン、大丈夫?」
印陀州フミカが鋭いつけ爪で俺の肩を支える。ゴブリンの攻撃ほどの小ダメージ。
「痛いよ、食い込んでるから……」と俺が囁くと、フミカは口の端に薄ら笑いを浮かべる。
(……S組なんて大キライだ。) いじける俺を起きあがらせたのはフミカ、ではなかった。

「ふぃーッ。危なかったぜ!俺じゃなきゃあの攻撃は避けられなかったな!」
意識の戻ったゴージャス広田が、頭から血をダラダラ垂らしながら豪語した。
42私事ですが名無しです:04/08/01 03:47 ID:P+xxivfe
通信講座で会得したブラジリアン柔術で、よみがえったゴージャス広田を再び眠らせると、
おやじは悠々と教室を出て行った。教室の外ではざわめきが悲鳴に代わり、
俺が廊下の様子を見に行ったときには誰もが逃げ出したあとだった。
「M子先生、あの子いったい何なの?」
ゴスロリ衣装の点検を終えたフミカがM子をなじる。
すでに手なづけているためか、彼女の質問に対しM子はスラスラと話した。

あの転校生の名前はキャサリン=ボスコヴィッチ。(もちろん偽名だと俺は知っている。)
校長に直談判してS組に編入された。ステージ3-1の無限1upくらいのインパクトがある。
そんな話だった。
「ちょっとぉ、もっと詳しく知らないのぉ?」
フミカは不満足そうだ。俺はとにかく、あれが俺のおやじだとバレなければいいが、と願った。
「でも、生徒のプライベートなことはやたらとしゃべれないし……うっうっ、うぅぅ……」
しゃくりあげるM子相手にフミカが四苦八苦している一方で教室にはやっと一人だけ生徒が戻った。
「あの……せんせえ、授業はやるんですか?」
風紀委員の小島だ。度の強いめがねをかけた小柄な女子生徒で、あまり目立たない。

「小島ぁ、授業なんて言ってる場合じゃないぜ」
いつの間に起きたのか、貧血気味の広田がヨロヨロと小島に近寄った。
「あっ、広田くん、なんか出てるよ?血じゃない?」
そう言いながら感情が少しもこもっていない。せんせえ、みんなを呼び戻しますか?と小島。
「小島ぁ!」 さすがの広田も怒り心頭だ。「オレはタダの"広田"じゃねえ。"ゴージャス広田"だ!」
だがすでに広田にわざわざ「ゴージャス」を付けて呼ぶ奴などいなかった。しばし沈黙。
「くそぅ、くそぅ、オレは修行に出るぜ!強くなったら戻ってくる。それまで……あばよ」
俺たちの前から去っていく広田。誰にも引きとめられず彼は去った。まるでヤムチャのように――。
(広田……俺は、信じてるぜ!) ハンカチを振る俺の頬を熱い涙がとめどなく伝った。
43かな:04/08/01 03:51 ID:2ksDnsYy
あたしをもてあそんでレイプまがいのことをやったやつです。
みんなで公衆電話から電話してやってください。
08034193619
名前は洋平といいます。JRの三鷹支店の職員です。
悔しいから、復習したいです。
44私事ですが名無しです:04/08/07 19:05 ID:???
「よぉ!まめちゃん、どした?」
バタバタと教室に戻り出す生徒の波から馴染み深い声が聞こえる。
人込みをかき分け出てきたのは角刈り頭に紫のパンティーをかぶった男。
「何かあったのかよ?えらい騒ぎになってるじゃねーか」
俺の無二の親友、ヨシオだった。
ヨシオは旧M組の仲間で、今は新M組にいるはずだったが・・・。
俺がそのことをいうと、ヨシオは照れたように頭をかいて
「だってよ、お前らの教室の方からガヤガヤ聞こえて心配になっちまってさ」
見た目はエキセントリックだが、気のいいやつなのだ。

廊下に出た俺たちは他の生徒から離れ、俺は今朝からの出来事をヨシオに話した。
もちろん、おやじのことはぼかして、だ。
ふうむ、とヨシオは腕組みをしたまましばらく考えていたが、
「どうやらそのマヨネーズが怪しいぜ。結局今朝はM組にケチャップの野郎、来なかったしな」
「とにかく教官に接点があるのは間違い無いな」
だが、マヨネーズはすでにケチャップ先生に渡してしまっている。
何か手がかりがない限り、これ以上真相を究明するのは不可能に思われた。
しかし――
「・・・まめちゃん。俺考えたんだけど、図書室に"卒業アルバム"ってあるよな」
「アルバム?ああ、確か、第1期卒業生から今までのが揃ってるって聞いた気がするが・・・」
「それだよ!」
ヨシオがいきなり鼻息を荒くする。
「ケチャップはあれで任期が長いから、文集か何かに昔の確執が残ってるはずだ」
俺がびっくりした目を向けると、ヨシオは力強くうなずいた。
行こう・・・俺たちの最後の砦、禁断の図書室へ!
45私事ですが名無しです:04/08/07 19:06 ID:???
禁断の図書室・・・数ある部屋の中で唯一ここだけ、生徒は立ち入りを禁じられている。

俺たちが図書室の封印( ビックリマンシール:一本釣り )を解くと、悪寒に襲われた。
ドアの隙間から、真夏だというのに冷気が漂ってくる。
「ヤバいぜ、ヨシオ。何か出るんじゃないか、ここ・・・」
「ふん、幽霊なんてナンセンスだぜ」
明らかに幽霊よりナンセンスな紫パンティーをかぶった男が豪語する。
だあれ?
開かれたドアから細い声が。俺はたちすくんだ。が、ヨシオは平気だった。
「俺だ。ヨシオだよ。ぬっつん、資料を見たいんだけどいいだろ?」
するとドアの陰から長い髪をダラーッと垂らした三十路女が姿を現した。
「あらヨシオちゃん。お友達も一緒なの?あたし司書です、よろしく」
俺はもう限界だと思った。

それから数十分、俺たちは古びた本棚に陳列された卒業アルバムをあさりつづけた。
目当ての物は割とあっけなく見つかった。「第7期卒業生」と書かれた写真がそれだった。
最初に気付いたのはヨシオだ。
「まめ・・・おい、まめちゃん、このケチャップの隣の奴・・・」
卒業生の下に教員が写っているのだが、そこに年代が古いせいか写りの悪いケチャップがいた。
問題はその隣だ。
ケチャップと、おたふく=たこやき=ソースにはさまれて、白髪頭の白衣を着た教員がいる。
写真に付記された説明にはこうあった。
『 マヨヨン ・ マヨネーズ博士 』
これではっきりしたぜ――ヨシオがうなった。
46私事ですが名無しです:04/08/07 19:06 ID:???
「つまりよ、この文集と照らし合わせて考えると、かつてこの学校には
 ケチャップ教官、マヨネーズ博士、おたふく=たこやき=ソース先生の三つ巴の派閥があったんだな。
 だがマヨネーズ博士はケチャップの仕掛けた卑劣な罠によって失脚、職を追われた。・・・」

「卑劣な罠?」 それは何だ、と俺は急き込んで尋ねる。

「カロリーだよ」 ヨシオは憤然と指で写真を叩いてみせた。
「もしくはコレステロールと答えてもいい。ケチャップは密かにPTAに訴えたんだ。
 マヨネーズの弱点、栄養価の高さと引き換えにした高カロリー。
 肥満児の増殖につながることをPTAに密告すれば・・・結果は火を見るより明らかだ」

まったく、こいつの分析能力には頭が下がる。

「PTAの抗議を受けて、マヨネーズ博士は懲戒免職処分となった。まあ当然だろうがね。
 それから月日は流れた。だがマヨネーズ博士はこの恨みを忘れなかった。
 彼はある計画を企てた。この学校とケチャップに復讐するために。
 そしてその復讐計画は完成してしまったんだよ!」
「そうかッ!あの低脂肪マヨネーズ!」
その通り、とヨシオは指を振った。
「まめちゃんを襲わせた理由は不明だが、多分ケチャップの仲間と思ったんじゃないかな?」
「・・・なるほど。そうかもしれないな」

だが俺は気付き始めていた。
博士が俺を襲わせたのはケチャップとは関係ない。これは強い直感だった。
鍵を握っているのは、おそらく俺のおやじなのだ・・・
47マーキー ◆Xhmarquee2 :04/08/08 00:51 ID:???
なんか宗田理って感じだな

宗田理ってのは「ぼくらの七日間戦争」の原作者なんだけどさ
48私事ですが名無しです:04/08/19 05:41 ID:???
卒業アルバムの山を片付け終えると、さっきの幽霊女がのっそりやって来た。
「ヨシオちゃん・・・調べ物は済んだの?」
「一通りはな。ところで、ぬっつん。勤務歴長いんだろ?マヨネーズ博士って聞いたことないか」
ぬっつんは目に見えて青くなった。
青くなっただけじゃない。
全身を小刻みに震わせる様子は、『エイリアン』のホリー・ハンターを思わせる。
だがヨシオは黙って、ぬっつんの気持ちが落ち着くのを待った。
「あのね・・・」 しばらくしてぬっつんが重い口を開いた。
「あたしもよくは知らないんだけど、この学校じゃ【マヨネーズ】って禁句(タブー)なのよ」
タブー?
「そう。教員だけじゃなくて、あたし含めて事務方にも言い聞かされてるの・・・」

「タブーか」 ヨシオの額にシワが寄る。「仕掛け人は校長かもな」
ところが、ぬっつんは意外にも首を左右に振った。
「違うわ。タブーを作ったのは生徒会長のキジフくんよ。ふじき財閥の御曹司」
キジフ!
その名前を聞いた途端、俺の背筋にゾーッと悪寒が走った。
全委員会を統治する最強の組織、生徒会。
その頂点に位置するキジフは連続13期当選の魔物。確か今年で28歳だった。

「ンげッ!さすがの俺もキジフに逆らうのには抵抗があるぜ」 悔しそうなヨシオ。
でもねえ、とぬっつんは声をひそめて、
「キジフくんには生徒会内部にも敵対勢力があるから、彼らに相談してみたら?」
「わかった。だがヨシオにこれ以上頼るわけにもいかない。ここから先は俺だけでいい」
「すまんな・・・」 申し訳なさそうにうなだれるヨシオ。
謝ることなんてねえよ! 俺は力強く言ってヨシオと固い握手をかわした。
49私事ですが名無しです:04/08/19 05:41 ID:???
「おい、そこのオマエ!シャツが2ミリメートルはみ出ているぞ、修正だァ!」
移動時間の中庭では今日も風紀委員が声を張り上げている。
見慣れた光景だが、今の俺にとってみれば複雑な心境だ。
しかし・・・やるしかない。
俺は思い切って、力の限り大声でこう叫んだ。
「プワハアーッ、酒はいいぜェ!飲酒はやめられねェな!アルコールは高校球児のメシアだぜェ」
「ナンだァ!?そこの小僧待ちやがれ!!」
案の定、風紀委員が団体で押し寄せてくる。その数20人余。理想を上回る人数だ。

風紀委員の斥候、空手部の鮫島が俺の襟を掴んで壁に叩きつける。
「オマエかァ!?神聖なる庭内で飲酒を煽動した輩はァ!?」
胸に達筆な草書体で【 模範 】とプリントした学ランの鮫島。
【 模範 】の言葉通り、奴の頭髪はいつだって丸刈りだ。
「何を黙っている?返事をせんかァ!・・・この小僧、なめんじゃねえ!」
空手で鍛え上げた正拳が俺の横っ面をはじいた。背後は壁だ。逃げる隙間もなく口の中を切った。
「おい、鮫島。よさんか・・・相手は素人サンじゃないか」
風紀委員参謀、グラサンの小林が薄ら笑いを浮かべながら鮫島を制す。
頭に血が昇りきった鮫島だったが、小林の一声で、俺をにらみながらも後ろに下がった。
普段は遠目でしか見たことのない小林が間近に迫る。
参謀とはいえ威圧感は鮫島の数倍ある。七三分けのくせに。
小林は愛用らしいクシで髪をなでつけながら、俺に尋問を始めた。
アルコール飲料の所持はしているのか? ただの煽動か? 目的は何か?
俺は一切口を割らなかった。
あきれた様子の小林は 「兄さん、ここを見な」と胸のプリントに親指をトントンと二回当てた。
【 神律 】・・・奴の胸にはそうあった。小林は続ける。
「規律は神に等しき物。神に背く者はすなわち・・・死あるのみだ」
50私事ですが名無しです:04/08/19 05:42 ID:???
計画通り、俺はガラの悪い風紀委員たちによって執行部へと連行された。
風紀委員執行部は生徒会の直轄だ。
つまり奴らはそれと知らずに俺を中核に導いてしまったわけだ。

「委員長、小林です。煽動者を確保しました。扉を開けてください」
3メートル超の鉄製の扉が、きしみながら内側に開く。
薄暗い10メートル四方の部屋に、不気味な影が5つ泳いでいる。
つかつかと部屋に入った小林は鮫島に合図し、鬼の形相の鮫島は俺の手錠を思いきり引っ張った。
思わずつんのめる姿勢で執行部連中の前に引き出された、俺。
目が暗さに慣れると、俺の前に鎮座しているのは委員長のマックだとわかった。
ブロンドのマックは品定めをするように俺の全身を眺め、言った。
「フン・・・なるほど。ただのつまらん生徒の一人にすぎんようだ。ま、一応記録は取っておくがね」
やたら偉そうな奴の態度に俺は歯軋りした。奴にとって俺は罠にかかったネズミも同然なのだろう。
「小島くん、この汚らしい凡生徒をリストに加えてくれたまえ」
「りょうかいしました、委員長」
俺は目を剥いた。この間延びした声には聞き覚えがある。
マックの隣に座っていたのは、同級生の小島だった。

(こいつは・・・どっちだ?ぬっつんの言っていた敵対勢力に属している見込みは――)
その望みはかなり薄かった。よりによって、生徒会長の直属であるマックの側近だとは・・・。
「それが委員長、こいつ口を割らんのです」 苦々しげに鮫島が訴えた。
「どういうことだ?小林、キミの"尋問"にも彼は動じなかったのかね?」
「ハ・・・」 小林は恐縮して頭を軽く下げた。
「それはいかんな。誰か、こいつを知っている者はないのか?・・・小島くん、キミはどうかね」
俺はどきりとして、無駄だとわかってはいたが小島と目を合わせないようにした。
しかし小島が発したのは予想外の答えだった。「いえ、私は知りません」と、はっきり言った。
51マーキー ◆Xhmarquee2 :04/08/20 00:34 ID:???
でも宗田理より面白いよ
できればUPのペースをもうちょっと早くして欲しい
52私事ですが名無しです:04/08/21 19:41 ID:???
マック黒澤は明らかに苛立っていた。
「小林、こんな男一人に手間取っているようでは、
 キミの情報収集能力についての評価も怪しいものだな!」
「何卒、しばらくの御猶予を……。かならず正体を突き止めます」
「だめだ」とマックは言下に斬り捨てた。
「何卒、何卒……」
小林の額に冷汗が浮く。
そのはずだ、マックに否定されることは執行部から外されることを意味する。
散々恐れられてきたグラサンの小林も、執行部という権威がなくなればタダの人。
今までの行いを考えれば、うらみつらみを持った生徒たちによって阿鼻叫喚を味わうこと必至だ。
「鮫島。この名無しの権兵衛の始末、キミに一任する」
「ハッ。どう処分いたしましょうか?」
「何でも良い。好きにしたまえ。生死は問わない」
その言葉に鮫島はニタリと笑い、俺に殺意の視線を強烈に浴びせかけた。
(やばいな。いざとなったら、ここで暴れるしかないか……。)
密かに拳を固めた、その矢先だった。

「悪いけど、その子はこちらにいただくわ」

けだるい朝を思わせるハスキーボイスが響き渡った。
一同がぞっとして扉を凝視すると、そこにいたのは黒ずくめのゴスロリ系だった。
「何だ、印陀州。こいつは貴様の舎弟か」
嘲りを含んだ声のマック。
取り巻きの女子生徒を率いて乗り込んできたのは、印陀州文明と書いてインダス・フミカ。
「そうじゃないわ。その子は私が始末する予定なの」
え? 俺の頭が真っ白になる。……何を言い出すんだ?
53私事ですが名無しです:04/08/21 19:42 ID:???
しかし容易にマックが引き下がるはずもなかった。
「それは後にしてくれないか。今は我々が彼を拘留しているんだ」
「アトもモミジまんじゅうもないのよ。いい?マック黒澤クン」
色白の額に青筋を立てフミカは執行部委員たちに、にじり寄る。
フミカと似た衣装の取り巻き連中がそれに続く。まるで危ない宗教だ。
「あなたにはずいぶん貸しがあるんじゃなかったかしら?それも複数にわたって……」
「オーライ」
負けたよ、というようにマックが左手を振る。
だがこれもポーズにすぎないのだろう。マックは条件を出してきた。
「こいつはキミたちに渡そう。ところでキミはこの男の正体を知っているようだ。
 我々は粛清リスト作成の義務がある。情報をくれないか?」

フミカは仔悪魔の笑みを満面にたたえた。
(ダメだ、フミカ、俺の情報をバラすんじゃない!)
俺は念力を送ってみたが、無駄だった。
ユリ・ゲラーが来日したときも俺はテレビの前でスプーンを握り、念じていた。
だが無情にもスプーンは曲がらなかった。
それと同じことが今また目の前で展開されようとしていた。
いいわ……とフミカは承諾した。
「では小島クン、記録してくれたまえ」 マックの双眼がギラギラと輝く。
小島はフミカに無関心らしく、マックの言いつけに従う。
「さ、印陀州。その男の名前を教えるんだ」
「言ったら、どうなるの?」
マックはここぞとばかりにひきつった笑いをしてみせた。
「そりゃ、もちろんキミ、そっちの用件が済み次第……処刑する」
「結構なことね」 眉を寄せてフミカはゆっくり言った。
「この子は、ゴージャス広田。3年S組の生徒よ」
54私事ですが名無しです:04/08/21 19:42 ID:???
「礼には及ばないわ」
解放されたあとでフミカは俺に言った。
取り巻き連中は本当に俺をボコすのか否か、主の意図を掴みかねている。
「フミカ、そこの連中にあれは芝居だったって言ってくれないか。俺を襲う気だぜ」
「あの男、文明様を呼び捨てに……」
連中の一人が逆上しそうになり、周りの数人が取り押さえた。
「いいのよ。同じクラスなんだから。ねえ、まめ太クン」
それにしては簡単に広田をイケニエにしたな、と思ったが言わないでおいた。
広田は修行でゴージャスになろうがどうなろうが、しばらく帰って来られないだろう。
俺は心の中で合掌した。
「そんなことより、まめ太クン、あんなところで何をしてたの?」
心底心配そうな瞳で俺を覗き込むフミカ。さすがに男の急所を知っている。
「グーゼン通りかかったら、まめ太クンが殴られてるじゃない。びっくりしちゃった」
本当か?
俺の疑心を決定づけるかのごとく取り巻き連中がひそひそ囁き合っている。
フミカには真相を明かさない方が賢明だろう。
「事情は言えないが、とにかく生徒会本部に潜入したいんだよ」
「え?生徒会本部に行ってどうするのよ。死にに行くの?」

…………。言葉につまる。確かに自ら死に赴くようなものだからだ。
「文明様、そろそろ黒ミサのお時間になっております」
女子生徒の一人が鬱々とした表情で進言する。
「あ、もうそんな時間?ゴメンね、まめ太クン。私、行かなきゃ」
さすがに人前では大胆な行動には出ず、
フミカは単純にバイバイ、と軽く手を振って、そのまま取り巻きと共に行ってしまった。
俺は何を期待していたんだろう……・。
55マーキー ◆Xhmarquee2 :04/08/21 20:33 ID:???
要望にこたえてくれてありがとう
いんだすふみか面白いっス
56私事ですが名無しです:04/08/23 20:44 ID:???
移動時間が終わり、執行部室からギラついた風紀委員が次々と出て行く。
奴らに少し遅れて退室した小柄な女は背後の俺に肩をつかまれ、一瞬ぎくりと身を震わせる。
つかまえた女。言うまでもなく、小島だ。
「何のよう?待ちガイルみたいなマネしないでよ」
小島はあからさまに「ハメ技・最低」といった表情をした。
「生徒会本部に行きたいんだ」
「だから?」
眼鏡をずり上げながら俺の手を払う小島に、協力的な態度は見られない。
「さっき、俺のことを黙っていてくれただろ?あんたなら生徒会に通じているし……」
俺の言葉に、小島はきょとんとなり、それからクスクスと苦笑を始めた。
「カンチガイしないで。キミに関わりたくなかっただけなんだから」
苦笑、というより失笑ぎみの小島。
俺は全身が かあっ と熱くなるのを感じていた。
「ね、授業がはじまるよ?小豆さんも教室にかえったら……」
彼女が言い終える前に俺は再び校庭へと出た。

グラウンド周辺には体育の準備をする生徒がたむろしている。
鮫島をはじめとする、2年DV組は教師待ちの様子だ。
俺は近くの茂みに隠れ、鮫島の動きを監視することにした。
(幹部クラスじゃないなら、監視される側には慣れてないはずだ……!)
そう思っていた矢先――背後に気配を感じた。
おそるおそる振り向く。(げェーッ!!)俺は危うく叫ぶところだった。
赤いかぼちゃブルマーをはいた中年男が唇を突き出して笑っているのだ。
しかも頭は不規則に禿げ上がっている。
角野卓造を想起させる、往生際の悪い髪型が俺の記憶をよみがえらせた。
男子クラス体育教師、安藤41デシベル。最悪の相手だ。
57私事ですが名無しです:04/08/23 20:44 ID:???
「デシ先生……!こんなところで何を……」
必死に音を殺して安藤41デシベル先生を問い詰める。
だがデシ先生には俺の隠れていたことも、グラウンドの生徒たちにも興味がないらしい。
プヒッ、プヒッ、と鼻を鳴らしながら角野スタイルの髪を整えようと躍起だ。
やばい。俺やばい。死ぬかも。と咄嗟に思った。
大きな声では言えないが、デシ先生には良くない噂が立っている。
男子生徒に手を出す変態教師らしい。
宇宙と交信できるらしい。
夜になると豹変するらしい。
などなど。いずれも俺にとっては大問題だ。
「う〜ん、キミは3年の生徒デシぃ?まだ体育じゃないデシよ?」
ホモっ気たっぷりの喋り方で俺を凍りつかせるデシ先生。
俺は独自の戦闘コマンドから「にげる」を選択した。
しかし脳裏には「にげられない!!」の文字が躍った。
デシ先生には悪いが、もしもの場合は乱暴な手段に訴えても仕方ないだろう。

「ちょっといいですかデシ先生?」
茂みの中に潜んでいることを忘れるくらい、堂々と俺は人差し指を立てた。
「僕は今、大変重要な任務中なのです。彼らに見つかっては困るのですよ」
「プヒッ」
猫をかぶった芝居も、デシ先生の鋭い眼光の前では無力に等しかった。
「さてはキミは小豆まめ太デシか?ケチャップ先生から聞いているデシ!」
俺は無意識に左足を後ろにずらし、右拳を後方に固める。
「プヒッ。反抗する生徒は許せないデシよ。プヒッ。ゼラチンの中に閉じ込めて――」
妄想を始めるデシ先生に隙ができた。
一瞬のうちに繰り出される、さい銭拾い式ミドルブロー。避けられるはずがなかった。
……が。
58私事ですが名無しです:04/08/24 21:01 ID:???
直撃。確かに直撃した。はずだった。
だが跳ね飛ばされたのは、俺。
受け身を取る余裕もなく背中が地面に叩きつけられる。
どういうことだ?――口からダラダラと血が噴出する。立ちあがる。
もう一度。
踏み込みを鋭く、えぐるように嘴鶴手を突き出す。
鶴を模し、五指をとがったクチバシの形にして、突く。
手数は少なく、俺は確実に急所を狙う。突かれた箇所は後からジワジワ効いてくる。
安藤デシ先生に避けるだけのスピードはなかった。
反撃が襲いかかるまえに俺は飛び退いた。
とはいえ、この技を喰らって動ける奴などいないが。

パヒュッ。
俺の耳を何かがかすめた。拳……じゃない。デシ先生は動いていない。
第2撃は俺の胸に命中した。突き刺さる痛み。針だ。
一瞬のうちに理解した。
デシ先生はすぼめた口から針を飛ばしているのだ。含み針の要領で。
なんという怪物!
「くそっ、凶器なんてアリかよ……!」
憤怒にかられ、飛び出そうとする俺の足が、しかし俺の意思に反して動かない。
プヒッ、プヒッ。不愉快な音がデシ先生の鼻腔からこだまする。
「動こうとしても無理デシよ。その針には麻酔が仕込んであるのデシ」
得意げに笑う安藤41デシベルは、赤いかぼちゃブルマーを引き上げた。
俺の負け、か――。
ぐらあ、と地面が揺れだし、俺の意識はまっ逆さまに――
59私事ですが名無しです:04/08/24 21:02 ID:???
後頭部がずきずきと痛い。目が覚めると視界は不鮮明だった。
俺の前に男が2人立っている。
1人は安藤41デシベル。もう1人は……胸に【 模範 】のプリント。
間違いなく鮫島だった。
「よう、起きたかい、小豆まめ太」
鮫島が横柄な態度で言い、横たわる俺の膝を軽く蹴飛ばす。
「ケチャップ教官によるとオマエは要注意生徒らしいじゃないか」
ケチャップの野郎……。
俺の怒りは、ケチャップを「教官」などと呼んでいた俺自身にも向けられていた。
「挙句の果てに、畏れ多くもデシベル大先生に歯向かうとは!生かしちゃおけねえ!」
激昂した鮫島は容赦なく俺のわき腹に鋭い蹴りを見舞った。
げふッ、……激痛に俺はのたうち回る。
「と、言いたいところなんだがな。委員長はオマエの処刑を禁じた。幸運な奴だ」
「どういうことだ?やるならやれよ、鮫島!」
かすれた声しか出なかった。しかし情けをかけられたくはない。

くぐもった笑いをみせた鮫島が指をパチン、と鳴らすと、
暗い奥から跳び箱台やらマットやらを縫って誰かが現れた。
どうやらここは体育倉庫らしい。
男子生徒の1人は【 正義 】の文字を胸にした清正美(きよし・まさみ)。
風紀委員一の美少年であり寡黙な正美は、憂鬱な表情で誰かの腕をねじり上げている。
「さあ、誰だかわかるか、腰抜け野郎」
鮫島の挑発も耳に入らなかった。それは、顔を無残に青膨れさせたヨシオだった。
「ヨシオ!何でお前が……」
へっへ……ヨシオは痛々しくも低く笑った。
「やっぱ、放っておけなくてよ。でも俺の敵う相手じゃなかったぜ……」
60私事ですが名無しです:04/08/24 21:03 ID:???
体育倉庫は鮫島の下品な嘲笑に満たされた。
「今度はこの下司野郎が執行部に乗り込んできやがってな。俺が一発くれてやったのさ」
顎で正美、と合図する。正美はヨシオの腕をさらにねじ上げ、ヨシオは悲鳴を上げた。
「やめろ!頼むからやめてくれ!」 俺はなりふり構わず懇願した。
「やめろだと?俺に指図するんじゃねえ!」
痛烈な鮫島の蹴りが俺の頬を直撃した。
「これで済むのが幸運だって言ってるんだ。オマエの場合はな。こいつはもっとひどいぜ」

何をする気だ? 悪い予感がした。しかも予感は的中した。
鮫島はいきなりヨシオの頭に手を伸ばし、
紫のパンティーを掴むと、ぐいと引っ張り上げた。
「や、やめろ、俺のパンティーをはなせ!」
ヨシオが泣き顔で頼むのも聞かず、薄ら笑いを浮かべながら鮫島はなおも引っ張った。
ついに紫のパンティーはヨシオの頭部から引き離されてしまった。
ヨシオにとって頭にかぶったパンティーを脱がされることはこれ以上ない屈辱だった。
それも無理矢理にだ。剥ぎ取られたパンティーは鮫島の手によってズタズタに裂かれた。
ヨシオは泣いていた。

すべてが終わると、ヨシオは【 模範 】の言葉通り、丸坊主にされていた。
俺は何もされなかった。鮫島はわざとそうしたのに違いなかった。
角刈りから丸坊主へと変わったヨシオはすでに別人であり、直視はできない。
正美は笑うことも同情することもしないで、鮫島と共にさっさと立ち去った。
体育教師であるはずの安藤41デシベルはニコニコして出て行った。
ここでは教師もグルなのだ。俺は確信した。頼れる味方はどこにもいない。
丸刈りのヨシオは無言のまま、俺を振り返りもせず倉庫を出た。
何もかもがむなしかった。下校のベルが鳴っていた。
61マーキー ◆Xhmarquee2 :04/08/24 23:34 ID:???
角刈りから丸坊主・・・、ワロタ
62私事ですが名無しです:04/08/27 21:03 ID:???
敗北感に満たされたままトボトボと駐輪所に行くと、ポンと肩を叩かれた。
フミカだった。
「どうしたの?元気ないようだけど」
「……取り巻き連中は一緒じゃないのか?」
「登下校は一人にさせて、って言ってあるから」
俺は"怒涛のオリビア号"を、フミカは黒一色のゴシック的な格調高い自転車を引いた。
俺たちはなかなかサドルに乗らず、ただゆっくり引いて帰路に就いた。
普段は爆走バリバリのオリビア号も今日ばかりは萎びて見える。
高速に乗っても、俺たちのどちらもサドルにかけようとはしなかった。
「ねえ、なんか昼間よりもひどくなってない?顔の傷……」
「腫れてきたんだろ。それだけだよ」
サドのくせに。サドのくせに。サドのくせに。
俺の心配をしている振りなんかしやがって。
やり場のない苛立ちが、フミカに向いている。
それが八つ当たりなのはわかってはいた。だがどうしようもなかった。

「まめ太クンって一人で暮らしてるの?」
しばらくしてフミカがこう尋ねた。
「いや。おやじがいる。二人暮しだ」
「いいなぁ」 フミカは夕焼け雲を眺めて微笑んだ。「うらやましいな」
「いらねえよ。あんなクソおやじ」
募った苛立ちを吐き捨てた。
だがその瞬間、フミカはキッと眉をひそめて厳しい口調で
「やめてよ」
と言った。
「私なんてお母様、いつも仕事でいないのよ。全然、会ってもくれないのに……」
63私事ですが名無しです:04/08/27 21:04 ID:???
「ごめんね」 とフミカが謝った。「そんなの、君には関係ないのにね」
謝らなければならないのは俺のほうだ。でも、結局何も言えなかった。
「私って愛されたことないの。お母様は独身主義なのに間違って産んじゃったんだって。
 お父様のことなんて名前しか知らないのよ。でも、いい加減な人だったって言ってたわ」
俺は黙っていた。
「下の名前だけなんだけど、変な名前で、私、思わず笑っちゃったわ」
そう言ってフミカは彼女の父親の名を挙げた。
それは――俺のおやじの名前と同じだった。

フミカは身の上話をしすぎたことを後悔している様子だった。
人に甘えることなく生きてきた彼女なのに、何が彼女を弱々しくさせたのだろう。
しかし人間はみんな弱い部分を持っているのだ。
と、ガダルカナル・タカの本に書いてあった。
俺はフミカと別れ、家路を急いだ。

家の電気は点っていなかった。
俺は内ポケットから鍵を出したが、玄関のドアは開いていた。
(無用心だな。――)
ぼんやり考えながら、靴を脱いで上がる。
「おい、おやじ、ちょっと……」
ドアを開けたが人の気配はなかった。
無人のダイニングルームで時計がカチカチ鳴っている。
食卓の上に、千円札が三枚が置いてあり、飛ばないようにTVのリモコンで押さえてあった。
おやじは家を出て行ったのだ。俺は直感した。
その夜はTVの深夜放送を観て過ごした。
さまぁーずの大竹が、ハチに襲われた話をしていた。
64私事ですが名無しです:04/08/27 21:05 ID:???
寝不足な頭で俺はいつものように登校する。
怒涛のオリビア号はすっかり元の調子を取り戻している。
あれから一週間が経ったが、おやじは戻らなかった。
俺はフミカとも親友のヨシオとも疎遠になり、口数も減っていた。
執行部に完全敗北した俺の闘志は、もはや死にかけだった。

ところが、高速に乗った直後だった。
ぐへぇ、と懐かしい悲鳴が聞こえた。
「てめえら、オレに何の恨みがあるってんだ!」
駆けつけると、そこにいたのは風紀委員の連中と、ゴージャス広田。
「オレを殴ってただで帰ったヤツはいないぜ!!」
金ぴかのゴージャス自転車から颯爽と飛び降りた広田は、
並み居る執行部の下っ端をバッタバッタと殴り倒した。
まあ、実際は2、3人殴り倒しただけだったが。
「広田!」 俺は叫んだ。
「ただの広田じゃねえ!」 広田は振り返りもせず言った。
「オレは、" 帰ってきたゴージャス広田 " だ!」
次の瞬間にはストレートを食らってダウンする帰ってきたゴージャス広田。
「あとは、任せろ……」
俺は路上に寝ている広田に心の中で言っておいて、風紀委員の群れに向かって叫んだ。
「鮫島、出て来い。今度は本気で闘ってやるぜ」
三流の台詞しか出てこなかったが、カッコつけてる場合じゃない。
思った通り、下っ端の指揮をしていたのは鮫島だった。
「威勢だけはいいな、小僧。俺に殴られたのが、そんなに悔しかったか?」
鮫島は乾いた笑いを浮かべ、下っ端を退けて俺の前に現れる。
俺はすばやく「ヤンバルクイナの構え」を取った。
65私事ですが名無しです:04/08/27 21:06 ID:???
「後悔するぜ、鮫島」
鮫島はふふんと鼻で笑って、坊主頭をつるりと撫でた。
ヤツも本気だ。俺の構えを見て本気になったらしい。
先手必勝! 俺は右フックをフェイントにし、しゃがみこんで水面蹴りを見舞う。
だが空手部のホープ鮫島の異名はダテじゃなかった。
鮫島はフェイントを完全に見切り、飛びあがって俺の顔面を蹴り上げた。
のけぞる俺。
「けッ、威勢だけかよ。つまんねェぞ!」
鮫島はここぞとばかりに指を揃えて突き出してきた。
(空手の技じゃねえ!)
だがそんな些細なことはどうでもよかった。ヤツの技は空手以外はてんで話にならない。
難なく回避すると鮫島は意表をつかれたらしく、前につんのめった。
俺は極めて的確にヤツの首筋に虎爪を叩きこむ。
ぐきっと鈍い音がして鮫島は路上に倒れかかった。
そこを見逃さずに、俺は残った左手で手刀を垂直に入れる。
勝負は一瞬で決まった。
首筋をモロにやられた鮫島は、自力で立つことすらできなくなっていた。
「急所は外してやったよ、鮫島。2時間もすれば回復するだろうさ」
下っ端は蜘蛛の子を散らすように逃げていった。
部下に恵まれない鮫島。(せっかくの人材なのに惜しいな・・・・・。)

俺が戦いの後のむなしさに浸っていると、いつの間にか広田が起き出していた。
「よう、オレがテトリスにハマってる間に勝負がついちまったみたいだな!」
いつもの広田だ。しかし広田は照れたように「ありがとうよ」と付け加えた。
「いや、礼は言うな。本当に言うな」
俺は罪悪感を覚えつつ、広田が風紀委員に襲われた理由を明かすのはやめようと思った。
66マーキー ◆Xhmarquee2 :04/08/27 22:52 ID:???
嗚呼・・・いんだすふみか・・・
67私事ですが名無しです:04/08/30 18:35 ID:oaRBOAxV
俺は教室には向かわず、図書室のドアを叩いた。
単位に不安を抱いているようじゃ、生徒会相手に喧嘩なんか売れるものじゃない。
観音開きのドアに貼られた封印は新しくなっていた。
ケンちゃんラーメンのオマケシール(バカ殿様が一輪車に乗っている)だ。
ドアの隙間から、ひょろりと細い腕が伸びて、それを丁寧にはがす。
「なあに?ヨシオちゃん?」
ぬっつんだ。顔をドアから出すと、俺を見て露骨にがっかりした。
「ヨシオちゃんは一緒じゃないの?」
俺は答えずに、風紀委員執行部以外のルートで生徒会に潜入できないかと尋ねた。
ダラーッと垂らした髪を撫で、ぬっつんはしばらく考えこんだ。

図書室の埃臭い感じが鼻につく。蜘蛛の巣の張った椅子で俺は待つしかなかった。
「だいたいね、生徒会に乗りこんで革命を起こした人ってほとんどいないのよね」
ぬっつんの暗い声がさらに沈む。
「かなり前に噂で聞いただけなんだけど、昔ある生徒が革命を達成したっていうのよ」
それだ! 俺はその話に食いついた。
「で、どういう話だったんです?」
「んー……詳しくは知らないけど、その生徒って何か関取みたいな名前で」
「関取、ですか?」
「それもあるし、アクセントを変えると、むしろお経みたいなのよね」
そしてぬっつんはその名前を口にした。
……俺のおやじの名前だった。
「あくまで聞いた話よ?その生徒がね、軽音楽部にある隠し通路を使って――」
「隠し通路!?」
まるでシーフのLv1アビリティじゃないか。
そんな秘密がこの学校にあったとは……。俺はショックを隠しきれなかった。
68私事ですが名無しです:04/08/30 18:35 ID:oaRBOAxV
「重量挙げ部」の横にひっそりとたたずむ、矮小な部室。
それが俺の目的地「軽音楽部」だった。
重量挙げ部は元インターハイ選手であるマック黒澤の兄貴、
ドナルド黒澤によってデカい部室と膨大な部費が与えられている。
こういった強力なOBの恩恵に与る部と比べると、軽音楽部の弱小部の印象は否めない。

軽音楽部の部室の前だというのに、音がまったく響いてこない。
どんよりとした、「デスメタル」から「メタル」だけ取っちゃったみたいな感じだ。
俺はそろそろと部室の戸を開ける。
誰もいない。そう思った矢先、狭い部屋の隅で妙な鳴き声を聞いた。
「……ぴろりろり〜ん、ぴろりろり〜ん……」
ツチノコだ。
不思議生物との名の高い、伝説獣ツチノコが部屋の隅を占拠している。
俺は、あっ、と声を上げかかったが、どうにか押し殺した。

「ウチの部室に何か?」
振りかえると、細い眼鏡をかけた優等生タイプの男が俺を冷たくにらんでいる。
俺が黙っていると、眼鏡は部室に入っていった。
すると眼鏡の後から部員がぞろぞろとやってきた。
ビジュアル系、肥満児、リストカッター、同人女など、個性はいずれもプロ級だ。
しかも彼らは部屋の隅にいるツチノコに視線を合わせもしない。
ツチノコは孤独に「ぴろりろりろり〜ん」と鳴きつづける。
最初に入った細い眼鏡の男が、手にワープロ用紙を持って俺を手招きした。
「新入部員なら、ここの氏名ってところに名前を記入して」
その瞬間、部員全員が俺に視線を集中させた。毒々しい視線だ。
(これも試練なのか?おやじ……。)俺はとうとう用紙に名前を記入してしまった。
69マーキー ◆Xhmarquee2 :04/08/31 18:10 ID:???
ツチノコって文字を見たのは21世紀に入って初めてだ・・・
70私事ですが名無しです:04/08/31 23:52 ID:/NzJvMhU
「おーい、みんな、ミーティング!」
細い眼鏡がパンパンと手を鳴らし、メンバーを集合させる。
このクソ暑いのに、肥満児が俺の隣だ。
「彼が、今度新しく入ったまめ太くんだ。よろしく頼む」
「ふぁーい」 肥満児が二の腕をぷらぷらさせながら手を挙げる。
「メンバーを紹介しよう」
細い眼鏡はどうやらリーダーらしい。
「ボクはヴォーカリストの Tetsu 。ローマ字で Tetsu と呼んでくれ」
ぱちぱちぱち、とサエないメンバーが拍手する。
青白い不健康児、という感じだが、仕切りには慣れているようだ。
「そこの豚野郎――失敬、体格のいい彼がパーカッション担当のチョンチョン」
「よろしくね」 肥満児がゴツい頬で笑いかける。ギョーザの臭いがひどい。
「手前のヒキコモリ――もとい、ダークネスな彼は一年のミッチーだ。おい、ミッチー」
ぬっつんのように髪をダラーッと垂らしたミッチーは、前髪が鼻まであった。
「ミッチー、黙ってないで」 Tetsu がなだめすかす。
「……あ、あ、あの、俺が……ギ、ギターを担当で……ギ、ギター……」
「その奥のが OZIRA ね。カッコイイだろ。キーボード担当だ」
髪を深紅に染めたビジュアル系が、つんくのような眉をクイッとつりあげた。
「ヨロシク。あたしが OZIRA よ。気軽に呼んで頂戴」
OZIRA が俺の手をやんわりと握った。
「でも略して OZIちゃん、なんて言ったらダ・メ・よ?」
俺はこれが全部夢であるように願った。
「最後に、わが軽音楽部のホープ、イラスト担当兼ベーシストを紹介しよう」
Tetsu の指の先を追うと、同人女は部室の壁に半紙を貼っているところだった。
『 めざせ冬コミ スペース確保 』
「須藤さん、紹介の途中なんだから、困るなぁー」 Tetsu は眼鏡をちょいと上げた。
71私事ですが名無しです:04/08/31 23:53 ID:/NzJvMhU
「ん?……なに?」
須藤さんは作業を中断させられたことがよほど不快だったようだ。
生ゴミは水曜日だろが!とゴミ捨て場で息を巻く主婦の表情だった。
ショートヘアで、強すぎない二重、反抗的な瞳、そのすべてが軽音楽部っぽい。
服装は黒い長袖Tシャツにデニムジーンズ。
そしてTシャツの真ん中に堂々と踊る【 お嬢様特急 】の文字。
「ていうか、なんで彼女だけ"須藤さん"?」と俺は Tetsu を振りかえる。
「おいおい、新入早々ジョークかよ!」
そう言って笑い出す Tetsu 。なぜか笑い転げる部員たち。
「出たーっ、出たーっ、Tetsu のアリゾナツッコミ!!」
明らかにカロリー採りすぎのチョンチョンが大爆笑する。
「マジーッ?出た出た、もう出ちゃった? Tetsu 笑わせすぎっ!ぷぷーっ」
オカマの OZIRA が Tetsu の背中をバンバン叩きまくる。えづきそうになる Tetsu 。
「それからさ、隅っこにいるツチノコは、あれ一体なに?」
笑いが止まった。
「ま、紹介はそのくらいにして」 Tetsu の声が怖いくらい平静になる。
「練習始めようか。OZIRA 、音とってE7から。いいね、アレンジ部分はEm7でいこう」
もはや誰の顔にも笑みはない。

ミッチーと須藤さんがコードの調節を始め、OZIRA は Tetsu とぼそぼそ話し出した。
「そうだね。……よっし、まめ太くん」
俺が自分の顔を指さすと、Tetsu はうなずいて、「何を担当する?」
「へっ?」 妙な顔をしたのだろう、Tetsu は拍子抜けした声で「楽器だよ」と言った。
楽器? 俺はピアニカすらできない。ある意味、ふかわ以下だ。
「しょうがないな。じゃ、最初だからフラフープからいこう」
Tetsu はチョンチョンの投げて寄越したピンクのフープを、俺の方へずいっと差し出した。
72せいじ ◆yEMH22TRIo :04/09/02 15:39 ID:???
あまりにもしつこいのでフラフープを、手に取り試してみた
なかなか旨く回せない、何度か練習している内にうまく回せるようになってきた、その時!
フラフープが回る音に反応して大量の虫が集まってきた!
辺り一面真っ暗になり、あっと言う間に皆食われた。
73私事ですが名無しです:04/09/03 05:44 ID:???
俺が呆然としていると、すかさずチョンチョンが腹をたぷんたぷんさせながらこちらへ来る。
どういうことだよ? 俺は拳を固め、ヤツの腹に狙いを定めて訊いた。
「ああ、ゴメンゴメン。間違えた」
とは言いつつ、チョンチョンの表情に反省の色はない。
「それフラフープじゃなくて、おやつの細揚げドーナツだった。ぶひゃひゃ」
俺は反論しようとしたが、チョンチョンはその隙を与えず、俺に輪っかをかぶせた。
またピンクのフープだ。
「おい、またかよ。ふざけ――」
「大丈夫。今度はちゃんとしたフープだから」 にこやかなチョンチョン。
「何やってんだよ!」 Tetsu の怒号が飛ぶ。「一回通してやるぞ、スタンバイ!」
他のメンバーがそれぞれ持ち場に着くなかへ、チョンチョンも急いで入る。
「フープの練習の前に僕らのステージを見ておいてくれ、まめ太くん」
Tetsu はマイクに「テス、テス」と小声で囁いてから、タイトルをコールした。

「Rolling Over DON-GURI !!!」
74私事ですが名無しです:04/09/03 05:46 ID:???

 Rolling Over DON-GURI   作詞/ Tetsu  作曲・編曲/ OZIRA

DON-GURI, Roll, Roll, Rolling DON-GURI.
DON-GURI, Roll, Roll, Rolling Heavy.

速度を増して DON-GURI 夜の High-way 切り裂き駆ける
まるで弾丸の DON-GURI 果ては湖の奥深く 冷たい死に寄り添って

Caution ! Caution ! 逃れられない ( 逃れられない )
Warning ! Warning ! 奈落の底さ ( 奈落の底さ )

凍りつくような Cold Warter 天使よ 俺を救ってくれ
地獄に積もる泥濘から 現れたは救世主なのか

Hello ! Hello ! Mr.DO-JO Hello ! Hello ! Mr.DO-JO
Hello ! Hello ! Mr.DO-JO Hello ! Hello ! Mr.DO-JO

愚かな俺を救い上げてくれ 希望にあふれた白昼の地上へ

Playing together, Boy. Play, Play, Play.....
Praying together, Boy. Pray, Pray, Play.....

Hello ! Hello ! Mr.DO-JO Hello ! Hello ! Mr.DO-JO
Hello ! Hello ! Mr.DO-JO Hello ! Hello ! Mr.DO-JO
Hello ! Hello ! Hello !
75私事ですが名無しです:04/09/03 05:46 ID:???
Tetsu の熱唱が終わる頃には、俺はすっかり彼の世界に惹き込まれ、魅了されていた。
曲の締めには須藤さんが Tetsu にミドルキックをかまし、ミッチーの重低音で終わる。
俺は我知らず、大きな拍手を送っていた。
「ぴろりろり〜ん」 ツチノコも喜んでいる。
床から起きあがった Tetsu は照れた顔をして眼鏡の位置を修正した。
「どうだい、これがウチの Tetsu and Friend のサウンドさ」
「凄いよ、世辞抜きで。ジミ・ヘンドリックスなみのセンスだぜ、アンタ」
俺は知っているアーティストの名前で適当に例えておいた。
「そう言ってもらえると歌い甲斐があるね」 嬉しそうな Tetsu 。
「もうすぐ夏休みライブがある。まめ太くんにはフープで参加してもらいたいんだが……」
Tetsu はいいにくそうに言葉を濁した。
「マメタ、ではちょっとね。名前考えてくれないかな」
「あ、アタシィ、いい名前思いついちゃった!」 OZIRA が横から口を出す。

数分後、俺は新しくバンドのメンバーとして BEEN を名乗ることになった。
「本気でこの名前で行けって思ってるのか?」
「あぁら、カッコイイんじゃない? Mr.ビーンみたいで素敵よ(はぁと」
確信犯の OZIRA を筆頭に、新メンバー歓迎ムードの部員たちだったが、
一人だけこの輪に加わらないメンバーがいた。須藤さんだ。
彼女はベースを質素なケースに戻すと、机に向かって原稿を描きだした。
空気が読めないわけではないらしく、わざと離れて視線を合わせないようにしている。
「すまないね、アトキンソン。じゃなかった BEEN 。許してやってくれ」
Tetsu は心底すまなそうに俺の表情を気にした。
「彼女、根っからの腐女子――もとい同人漫画家でね。
 夏コミのスペースが取れなくて、ちょっとイジケてるんだよ。今はね……」
Tetsu and Friend のメンバーは一様に須藤さんを見やって嘆息した。
76マーキー ◆Xhmarquee2 :04/09/03 17:55 ID:???
どんぐりころころの21世紀的解釈か。良い仕事したぜ
77私事ですが名無しです:04/09/04 20:02 ID:LMHfSLg/
Tetsu は須藤さんの実績や同人漫画家としての半生を語ってくれたが、
俺にはどうでもいい話だった。
冷酷なようだが、隠し通路さえ見つかれば軽音楽部に関わる必要もなくなる。
Tetsu の話し終えるのを待ってから、俺はさりげなく尋ねた。
「なぁリーダー、生徒会に革命を起こした生徒のこと、知らないか?」
「 Tetsu でいい。なに、BEEN はそんな話に興味があるのかい」
単刀直入すぎた。俺は話題を変えることにした。

この BEEN が「豆」という意味ならスペルは BEAN でなければならないが、
Tetsu and Friend もやはり正しくは Friends に違いない。
それをいうと、Tetsu はニヤニヤしだして「そのうちわかるよ」とだけ言った。
「何を怖がっているのか知らないけど、僕はメンバーを売るようなマネはしない。
 正直に言いたまえ。革命結構。反骨精神はロックの根底だからね」
Tetsu の言葉に OZIRA もウンウンとうなずく。ミッチーも控えめにうなずいた。
床にごろんと寝転がっているチョンチョンはヨダレを垂らし、ぷすッと放屁した。
みんなの態度に俺は勇気付けられた。
「実は、聞いたところによると、この部室に隠し通路があるというんだけど」
反応したのはミッチーだった。
「あ、……あのそれ、き、き、聞いたこと……ありますよ。ね、ねぇ、OZIRA さん」
あ、あれのことねと OZIRA は小刻みに何度もうなずいてみせた。
「おちょぼぐち先生が言ってたんだけど――あ、ウチの顧問ね。
 昔、生徒会長にサシで勝って生徒会を乗っ取った生徒がいたの。
それがアタシたちの先輩になるのよ。アハン、軽音楽部の部長だったから」
「その生徒の名前を知ってるか?」
「アーン……確か、アフリカの地名みたいな名前だったわね……」
OZIRA はその名前を口にした。やはり、俺のおやじの名前だった……。
78私事ですが名無しです:04/09/04 20:03 ID:LMHfSLg/
「じゃあ、やっぱり隠し通路の話は本当だったのか!」
俺は立ち上がって壁を調べ始めた。どこかに仕掛けがあるはずだ。
「やめとけよ、BEEN 」 Tetsu がなだめる。
「その話なら僕も知ってる。さんざん調べたけど、見つからなかったんだ」
俺の手が止まる。くそっ、ここまで来てフリダシに戻るのか。
「きっと埋め立てたんだよ。放っておくわけないじゃないか」 冷静な Tetsu 。
脱力した俺は床にへたばった。
そのとき部室のドアがガラリと開かれた。 OZIRA はうんざりしたように、
「これでも防音壁なんだから、騒音の苦情はやめてほしいわね!」
と言おうとしたが、徐々に声は小さくなり、尻切れとんぼになった。

一目で不良生徒とわかる、モヒカン刈りの男が立っていた。
上着の破れた肩には蛇のタトゥー。耳のピアスは両耳合わせて20は下らないだろう。
「……何しに来たんだ、ボリショイ」
やっとのことで Tetsu が一言発した。ヤツに似合わない動揺した声音だ。
ボリショイと呼ばれた男はフーセンガムをふくらませ、
パンパンに膨張したところで口から離し、ねじってプードルを作った。
「やめろ。お前の芸を見たいヤツなんていない」 苦りきった表情で Tetsu は視線をそらす。
「すっかりリーダー気取りだな、テツヤ」
そう言ってボリショイはせせら笑う。
「俺が抜けて、お前も一人前の口が叩けるようになったわけだ」
Tetsu は俺たちに向かって、「相手にするな」という視線を送った。
「ほーぅ、新入部員もいるみたいじゃないか、テツヤ。にぎわってるな」
「用がないなら出ていけ、ボリショイ」 辛辣な口調で Tetsu はボリショイをにらむ。
用ならあるさ、とボリショイは肩をすくめる。「俺の女を迎えに来たんだよ」
メンバーは青ざめ、体を固くした。須藤さんだけが無関係を装っていた。
79私事ですが名無しです:04/09/07 01:52 ID:AMKfoWne
俺は非常にむかむかして、極端に言うとボリショイという男の行状というか、
人となりは勿論わからないんだけども、会ったばかりで話もしていないけれども、
何しろ不良特有の凶暴な部分が前面に押し出されていて、それを見ているとむかむかして、
非常に不快だったし、要するに極端に言うと俺はボリショイが嫌いだと直感した。

帰れよ、という視線を Tetsu は力強くボリショイに突き刺したけれども、
結局のところボリショイという男には脅しだとか警告だとか、
いわゆる良識みたいなものに非常に欠けている部分があって取り合わない。
率直に言ってボリショイの性格というか、人となりについて俺は知らないけれども、
何しろヘアースタイルがいわゆるモヒカンで、
まあそれだけだと説得力に欠けるんじゃないかと俺自身思っていますけれども、
要するに横柄な態度とか、こうギラギラしてる部分なんかには非常にむかついた。

対して Tetsu は非常に優等生というか、それは多分俺の思い込み、
第一印象に左右されているんだろうけど、眼鏡とか、そういったひとつのファクターが
極端な話、ヤツの優等生づらみたいな部分を助長している。
何しろ青白い顔でダーッと歌うから、緊張というか疲労が限界値らしく、
非常にやつれきっていて、眼鏡をかけている部分もあってある種の限界に達している。
そのくせ「このモヒカン野郎!」という感じでボリショイをにらんでいて、
おそらく本当にそうは言わないだろうけど、極端に言って喧嘩を売っている、
というかむしろ喧嘩を買っている男の姿があった。

俺はこの騒動に対してある種、諦観みたいなものを抱いていて
要するに俺は部外者であって関わる必要がないとも思ったが、非常にこう、
道徳というとしらけちゃうかもしれないけれども、力になりたいという部分と、
ひとつの諦観みたいなものが交じっていて、要するにボリショイにはむかついていた。
80私事ですが名無しです:04/09/07 01:53 ID:AMKfoWne
そうしている間にもチョンチョンは寝転がって呑気に放屁を繰り返していて、
ボリショイが須藤さんを見据えて「こっちに来いよ」と低く言ったときも、
相変わらず放屁を、ぷすッとある種の屁をこいていて、チョンチョンが
そうやっている姿を俺は眺めていただけだったけれども、須藤さんはオール無視だった。
Tetsu は率直に言って鼻で笑っているような印象を受けた。
「ボリショイ、もう僕たちにからむのはやめてくれないか」と、Tetsu は非常に冷静に、
きわめて的確に言ったのだけれども、何しろボリショイは非常に横柄な態度で
要するに Tetsu の言葉を聞き流している。中国のことわざでは馬耳東風という。

オカマの OZIRA だけはメンバー全員を非常に心配していて、
まさに面倒見のいい男というか、オカマというか要するにそれが OZIRA の性格で、
対してボリショイは非常に傍若無人という態度で、極端に言って俺はむかむかした。
「喧嘩なら外でしてよ」と OZIRA はボリショイに噛みついたけども、
それは Tetsu にも送っている部分があって、ある種のメッセージだと思った。
そうしている間にもチョンチョンは寝転がって呑気に放屁を繰り返していて、
OZIRA が Tetsu の頭を冷やそうとしている姿を、俺は身一つで眺めている。
要するに Tetsu は冷静を装っているが、その実非常に興奮していて、
OZIRA はそれを率直に見ぬいてある種のメッセージを送ったというわけだ。

そうこうしているうちに須藤さんは諦めたように肩をすくめて、
非常に嫌悪感を含んだ声で「アタシが行けばいいんでしょ」みたいなことを言った。
おそらく収拾がつかないと彼女は判断したんだろうけども、憶測の域を出ないけれども、
何しろボリショイの目当ては須藤さんだけだったようで、極端に言って
俺はボリショイという男の目的というか人となりは勿論何も知らないんだけども、
要するにそういった部分では非常にむかついていた。
まあ、どうでもいいっちゃどうでもいい事態なんでね。しらけちゃったらすみません。
81私事ですが名無しです:04/09/07 02:16 ID:???
俺が宮本浩次ふうに独白しながら呆然としていると、須藤さんはそのまま立ち上がった。
「いいんだ須藤さん、座って」 と熱が入った Tetsu がいさめる。
が、ボリショイはツカツカと部室の中を横切ると須藤さんの肩をつかんだ。
眉をひそめる須藤さん。チョンチョンは放屁していた。

ミッチーはというと、情けなさそうにうなだれて、須藤さんと視線を合わすことすらしない。
OZIRA の脇に隠れて縮こまっている。ドアは開けっぱなし。
女の背中を抱えたボリショイと Tetsu は激しい応酬を始めた。
「恥を知れ、ボリショイ。お前はいつもそうだったな。一年のときから――」
「思い出話でも始める気か? 口だけは達者だなテツヤ」
「ウチのベーシストは置いて行ってもらおう」
「馬鹿か?」 ボリショイは黄色い歯を見せて嘲笑する。
「俺はお前らなんかに用はない。女に用があって来たってことを忘れるな」
「そこから動くなよ」
Tetsu は額に青筋を立てて宣告した。「お前に二度も掻き回されてたまるか」
今度はボリショイがぶち切れる番だった。
「俺に命令してるのか、テツヤ?それとも脅してるつもりか?」

一触即発。怒れるボリショイは Tetsu の胸倉をつかみにかかった、その時だった。
「帰れ!」と小さい声でミッチーが叫んだ。それからすぐに後じさりした。
Tetsu を離し、ボリショイは猛然とミッチーめがけて踊りかかる。
「お前か?お前か?いま帰れっつったのは!!」
壁際に逃げたミッチーは声を振り絞って、そうだ! と答えた。
いきなりボリショイの渾身のパンチが炸裂した。
が、当たったのは壁だった。非常な威力だ。ガラガラと崩れる部室の壁。
そこから現れたのは――真っ暗な通路だった。
82マーキー ◆Xhmarquee2 :04/09/09 22:35 ID:???
つうぱっしるぅ〜ぜ あしぃ〜たもぉ〜 きょおもあぁさあってもお〜@悲しみの果て
83私事ですが名無しです:04/09/14 19:22:58 ID:???
突如、俺の脳裏に2つの考えが迸った。
このまま奴らを見捨てて通路を選ぶか、当初の目的より奴らを助けるのを優先するか。
最年少のミッチーを攻撃され、 Tetsu はとうとうキレたようだ。
ボリショイの肩をつかむと「表へ出ろ」と冷たく言い放った。
須藤さんを抱えたまま、ボリショイはニヤニヤして Tetsu と共に部室を後にした。

「大丈夫?」と OZIRA がミッチーを助け起こす。
ミッチーはうめきながら立ちあがって、ナンとかね‥‥と頭の後ろに手をやる。
あいつ、いったい誰なんだ?――話が見えない俺はミッチーに訊いた。
この騒ぎの中、デブのチョンチョンは相変わらず横たわってイビキをかいていた。
呑気な野郎だ。
「アタシから説明させてもらうわね」
OZIRA がいつになく真面目な表情をしている。
「あの男――ボリショイね、元は軽音楽部のドラマーだったのよ。
 でも学園祭ライブを風紀委員につぶされてから、あんな感じになっちゃって‥‥」
「そ、それよりも」 ミッチーは気がかりらしい視線を壁の穴に向けた。
「あんた、い、い、行った方がいいんじゃないの? そそ、そ、そこの通路の先に」
確かにそうだ。ミッチーは正論を言ってる。
俺はまだこいつらに会ったばかりで、特別に義理もない。
OZIRA もうなずいた。ここは OZIRA たちに任せて、俺は行くべきだということだろう。
壁にぽっかりと開いた穴。真っ暗な通路に俺は足を踏み入れた。

数歩行ったところで、俺は、もう我慢ができなくなった。
おやじは何の為に俺に武芸を教えたのか‥‥‥それを考えるとやりきれなくなった。
急いで戻ると、すでに部室はもぬけのからだった。‥‥グラウンドだ。
84私事ですが名無しです:04/09/14 19:23:49 ID:???
廊下をひた走る俺の耳に、中庭から苦痛にあえぐ Tetsu の声が聞こえた。
茂みを素晴らしい跳躍で飛び越えると、いた。
あの華奢なカラダでボリショイに挑んだのは賞賛に値するが、体格の差は歴然だった。
後ろ手をボリショイに締め上げられ、Tetsu の顔は苦悶によじれている。
だが、それだけならまだマシだった。
助っ人に入ったのだろう OZIRA とミッチーは瞬殺されて、芝生に転がっている。
須藤さんは青ざめた顔で見ているしかないようだった。
(じゃあ、チョンチョンはどこに行ったんだ?)そんな疑問も出た。

「ボリショイ、お前はこんなことをいつまで続けるつもり‥‥ぐぁっ」
Tetsu の説得に応じるどころか、ボリショイは楽しそうに腕を締め上げる。
ヤツが拷問に夢中になっている隙に、俺は嘴鶴手を急角度で仕掛ける。
振り向くボリショイ。だが遅い。五指は正確にわき腹をとらえていた。
筋肉の間、その弱い部分にえぐりこむ嘴鶴手。
「うっ」 苦痛のために呼吸もままならない。
ボリショイは芝生に倒れこむと、激痛にのた打ち回った。
倒れた相手に攻撃するのはフェアじゃないが、こいつの悪行を考えれば仕方ないだろう。
そう思い、俺は倒れたボリショイに近づき、拳を固めた。
しかしその腕をつかんだのは Tetsu だった。

「もういい、やめてくれ。この問題は暴力じゃ解決しない」
優等生らしいことを言いながら、つまづいたふりをして一発蹴りを入れる Tetsu 。
うめくボリショイをよそに、Tetsu は今度は俺の顔を殴った。
「入ってもらったばかりだけど、君は今日で退部だ。早く行きたまえ」
俺は無言でうなずいた。ミッチーは抗議の表情をしたが、Tetsu は認めなかった。
‥‥‥それにしても、チョンチョンはどこに消えたんだ?
85マーキー ◆Xhmarquee2 :04/09/15 18:15:38 ID:???
あぁ、申し訳ない。うろ覚えだったんで・・・
86私事ですが名無しです:04/09/17 20:10:48 ID:???
ごめん、続きは10日くらい待って。
87マーキー ◆Xhmarquee2 :04/09/17 20:26:47 ID:???
>86
OK。あまり気にせず自分のペースでやってください
88私事ですが名無しです:04/09/25 19:41:45 ID:???
自ら保守
89私事ですが名無しです:04/09/26 22:15:36 ID:uFIjQU1+
途中にいるふざけたカオして笑ってる奴ら全員殴って俺は軽音楽部の部室に到着した。
さっきの戦闘で俺はモロにハイになっちゃって、ドアはもちろん蹴破った。
床はチョンチョンの汗でギトギトになってる。
通路はやはりさっきのまま真っ暗に口を呆然と開けてる。不気味な闇黒だ。
善は急げ、とばかりに俺は突入した。早速やっつけちまおうと思っていた。
通路の壁にはごちゃごちゃしたツタやらカビやらが蔓延していて気味が悪い。
しっとりと湿度は高くて、床、むしろ地面にタイルが敷いてあるだけなのだが、
そこも一面やけに濡れててつるつるしている。
しかし暗くてなにも見えない。暗くて、まったく暗幕で、一寸先も見えやしない。

しずくがポタリと首筋に当たり、俺はちょっと飛びあがった。
明かりが欲しい。必要だ。俺は背広の内ポケットから煙草の箱を出す。
こいつじゃない、が、取り出したもんはついでに喫ってもバチ当たりゃしないだろう。
間髪入れずライターを掴んで出す。カチリカチリと火花が散って、火が点る。
辺りがボンヤリ、ぶるぶる震えながら明らかになっていく。
まるで下水道。いや俺は下水道に入ったことはないがね、そんな感じだ。
ついでだからと煙草に火を点ける。ちょいと喫ってみる。ライターの火は消す。
ぷひゅーっと吐き出す煙が通路に充満した。いいね、最高だよ、と俺は独り悦に入る。

通路は案外、どうしようもなく長いというほどでもなかった。
ぱちゃぱちゃ歩いてたら、煙草ふかしてたら、あら着いちゃったのね、
なんだか拍子抜けしたくらいだ。急に両側の壁が開けて、六畳ほどの空間ができている。
そこには妙な黒檀のちっちゃな円卓が置かれ、ろうそくが何本か灯って、
黒ずくめのフードかぶった男女がボヤーッと集まってる。
卓上には古臭い焼けた羊皮紙が広げられ、魔方陣がインクで刻まれてる。
そして奥にある祭壇には手足を縛られたデブ男が供えられてる。ありゃチョンチョンだ。
90私事ですが名無しです:04/09/26 22:16:06 ID:uFIjQU1+
俺に気付いた黒ずくめの奴らが、殺気を醸し出して俺の顔を凝視する。
げえっ、また喧嘩になっちまうのかい? 俺はうんざりしてきた。
だが、奴らは明るみに出た俺の顔を見るなり、「うッ」とうなって後じさりした。
蝋燭の火がゆらゆら俺の姿を出したり消したりしている。奴らもときどき影になる。
祭壇で祈りをあげている女がいる。なぜ女と断定できるかって?
そいつは他の奴らと違ってフードなんかかぶってない。ショートカットだが髪質が女だ。
中世の魔女みたいな格好、といっても俺は魔女なんか見たことないけどね、
そんな感じだ。魔女はこっちを振り向いた。そんでもって狼狽した。

俺も狼狽した。くだけて言やぁ、めちゃくちゃ驚いたね、吃驚だ。
魔女、それは印陀州フミカだったが、彼女やけに重々しい口調で
「……見たの?」
と、そんなふうに訊くんだ。変な感じさ。
俺はこういう場合に誰でも言うように、「見てない」と答えた。実際、見てないしな。
「というか、何を見るんだ? ここで何やってるんだ?」
むしろ、ここをどうして見つけたのかが問題なのだが、俺は尋ねながら気付いたんだ。
簡単なことだ、通路の俺の来た方は軽音楽部の部室、で、あっちは生徒会の本部。
ということはだ、フミカと取り巻き連中は生徒会本部の方から入ったことになる。
なぜってこっちの壁はさっき崩れたばっかりなんだからな。

「お前は生徒会の身内だったわけか、それでチョンチョンをどうする気だ、この女郎」
俺は言ってやったね。木枯らし紋次郎のごとくすまして言ってやった。
本音じゃチョンチョンなんてどうだってよかったんだが、フミカの動揺はすさまじかった。
「あれは、何でも無いの。気にしないで」 細々しい声のフミカ。
気にしない馬鹿がいるかってんだ、と俺はまたしても凄んでみせた。
決心がついたらしい、フミカはようやく開き直ったように答えた。イケニエにするの、と。
91マーキー ◆Xhmarquee2 :04/09/27 04:21:45 ID:???
おぉ・・・やっと続きが・・・
92(゜л゜)フンヌさん ◆0DfKfLdc2I :04/09/29 11:16:00 ID:???
ご愛読ありがとうございました。
私事ですが名無しです先生の次回作にご期待ください!!

といいつつ、ずっと干される。


−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−糸冬−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
93私事ですが名無しです:04/09/29 19:22:35 ID:OhehCh/E
帰れ馬鹿、と取り巻き連中の一人が野次を飛ばす。
どこかボタンをかけ違っちゃったのか、俺は何だか妙にハッピーでくしゃくしゃだ。
「てめえ、スネカジリのクソ小僧、ツラ貸せ」
俺は自分でも気付かないくらいキレてて、そいつの首掴んで頭突きした。
痛ぇ……とうめいて、奴は床に伸びたが俺は構わず顔を蹴り飛ばし、唾を吐いた。
どうしたんだろう、俺の暴力性が変に歪んでる。
自覚はあるが止められない。俺はそいつに蹴りを入れ続けた。
鼻血を流しながら、小僧はしばらくウンウンうなってたが、やがて失神した。

フミカは呆然としちゃって、この俺の変貌ぶりに怯えている。
俺はその辺の祭壇やら何やらを、まるで怒れるキリストのごとく破壊した。
チョンチョンを助けてやろうなんて、いちいち考えもしない。
俺はとにかく全部を破壊しつくしたかった。そういう衝動が俺を支配している。
向こうの通路から背の高いシルエットが近づいてくる。
俺はそれが誰だか、すぐにわかった。風紀委員、グラサンの小林だ。
胸には相変わらず【神律】の文字が誇らしげに刻まれている。
トンカチな野郎だ。あわてて来たのだろうが、飛んで火に入る蛆虫に他ならない。

「貴様、小豆まめ太だな。また問題を――」
やつが言い終えないうちに俺は得意のエモノである三尺物差しをスマートに抜いて、
わが破壊衝動は俺に構える余裕すら与えない、すぐさまやつの脇にぶっ刺した。
さすがグラサンの小林は寸前でかわす、が、暗闇に慣れないためか、浅い手応えはあった。
揺れる蝋燭の火に照らされた俺の鋭く長い物差しには、べっとりと血が付着している。
アハハハハハハハ、と俺は思いっきり哄笑する。小林、馬鹿なやつだ。
いまの俺はお前を殺すつもりでさえあるんだぜ。
小林は青ざめて、揺れる火の内側で自分のわき腹に手をやり、真っ赤に染まった指先を眺める。
94私事ですが名無しです:04/09/29 19:23:00 ID:OhehCh/E
「おい、まだまだ序の序だよ、小林。かかってこいよ。エモノ出せよ、犬っころ」
俺の口調はまるで俺のおやじそっくりだ。
俺は自覚していながら一種の陶酔状態でどうにもならない。どうにもならない。
「小林、小林、てめえの番だよ小林、エモノ出せよ、俺をやっつけてみせろよ」
俺はふらふら歩きながら三尺物差しをぎらりと横にして、やつの首に狙いをつける。
小林の野郎は、何だかケモノのゲロみたいな声で叫んで俺に向かってくる。
右手に握ってる、光ってるのはバタフライナイフだ。やっぱり持ってやがった。
どうせなら改造モデルガンでも携帯しておくんだったな、小林さん。

こんな状況には俺は完全に慣れている。日曜のサザエさんより慣れている。
おやじにみっちり仕込まれたのだ。刃物を持って向かってくる相手への対処法。
やつの腕とナイフが来た。俺は後ろへ飛んで紙一重でかわすとナイフの腕を外へ払った。
ナイフを持ってる手というのは、通常より力が入っているから、
意識はそこへどうしても集中してしまう、つまり左腕はガラ空きで役立たずになっている。
俺はバランスの崩れたやつの左側へ回るとストレートに蹴りをぶちこんだ。
グラサンの飛んだ小林は、そのまま床へ無様に倒れ伏した。

ここで「勝利した」と思い安心するのはただの喧嘩野郎のすることで、
のちの復讐を防ぐためにはイヤというほどやつに力の差を思い知らせねばならない。
俺はやつの負傷したわき腹を軽く蹴って、やつのうめくのを聞いてから、
すばやくナイフを持った手を蹴ってエモノを遠くへ飛ばした。
「小林さん、どうだい、傷は浅いかね。どうだろうね」
小林の腕を掴んで、やつの指をわき腹の傷へと押し付ける。
やつは苦悶して「ぐぁぁぁ」という例のゲロみたいな声を出した。
暗闇には蝋燭の火だけがゆらゆらしていて、物凄く幻想的で、俺は低く笑った。
そうだ、まだフミカがいるな、と俺は思い出して振り向いた。何だか背が高くなっていた。
95マーキー ◆Xhmarquee2 :04/10/01 23:11:59 ID:???
学園コメディから一転してバイオレンシーな感じに・・・
96私事ですが名無しです:04/10/03 01:53:34 ID:???
振り向いた俺の先にフミカが当惑した顔で眉をきゅっと寄せている。
瞬間、俺は我に戻った。全身のアドレナリンがすーっと引いていく。
足下にはグラサンの外れた小林が転がっている。気絶しているのかもしれない。
俺は理解した。こいつらがやっているのは例の「黒ミサ」だ。
チョンチョンをイケニエに何か呑気なイベントをやろうって魂胆だ。
なぜチョンチョンなのかはわからないが、おそらく太っているからだろう。
くそっ、俺はこんなところでぐずぐずしていられないんだ。

俺は通路の反対側へ、つまり生徒会本部へ続いているはずの通路へ走った。
誰も追っては来なかった。待ってろよ、キジフ。この謎をかならず暴いてやる。

俺はふと、妙な感覚に襲われる。何だろうとしばらく考えて、突然わかった。
俺の足だ。俺の足が異常に速くなっている。まるで陸上選手の気分だ。
足場が悪いにもかかわらず、そうだ、濡れて滑りやすくなっているのに、
俺の平衡感覚は尋常じゃない。普段の俺ならすっ転んでいてもおかしくない。
何てこった! 全然息切れがしない。どうなってんだ、ランナー。

俺は時速40メートルで真っ暗な通路を駆け抜け、そのまま壁に激突した。
コンクリート製の壁は木っ端微塵に破砕し、俺はかすり傷ひとつ負っていない。
眩しいライトが当たり、俺は腕をかざして光を防いだ。
光の向こうから声がする。腕をずらして見るとシルエットがぼんやり浮かんでいる。

キジフか?

俺は壁に背中を密着させ、不意打ちに備える。目が慣れたら、行動開始だ。
だがシルエットの人物は俺になど興味がないかのように立ち去ろうとしていた。
97私事ですが名無しです:04/10/03 01:54:15 ID:???
「待ちやがれ!」
俺の叫びが届いたらしい、シルエットの人物は歩き出した足を止めた。
そして振り向く。俺の目はもうだいぶ慣れている。いったい誰だ?
「ああ、小豆さんなの?」
小島だった。風紀委員の、眼鏡の小島だ。どうやら本当に生徒会本部に着いたようだ。
「まるで別人ね。どうしたの、殺気立っちゃって」
「うるさい。今はあんたに構ってる場合じゃないんだ。キジフはどこにいる?」
小島は眼鏡をちょっとずり上げて苦笑した。
「キミ、ひどいタイミングで来たのね。
 小林さんがミサ室で騒ぎがあるって飛び出して行ったまま帰ってこないのって
 やっぱりキミのせいなの?こっちこそ今はキミの相手してるばあいじゃないのよ」

小柄で内気な小島が堂々としゃべっているのを俺は初めて聞いた。
光の正体はサーチライトで、それは何かヒトの形をした物体を照らしている。
その周囲に風紀委員らしい生徒たち、数人の教師、生徒会委員たちが集まっている。
体育館なみのスペースを持った生徒会本部だが、そいつらでほぼ埋まってしまっている。
「見なよ小豆さん。アレ、あそこにあるのって死んでるのよ」
え?――俺は耳を疑った。死んでる?なんだよ、どういうことなんだよ小島……。
「あれ死体なの。みんな驚いてる。まだケイサツにも通報してないの」
「だから誰なんだよ、その死んでるのは!?」
小島は眼鏡をはずすとハンカチで拭き出した。こいつは眼鏡なしだと久保田早紀に似ている。
そんなことはどうでもいい。『異邦人』をZARDがカバーしてることもどうでもいい。
眼鏡をはずした小島が急にまじめな顔つきになって、近づき、俺の耳元でささやいた。
「死んだのは生徒会長。キジフよ。キ・ジ・フ」
最後の「フ」で耳に息を吹きかけやがった。俺は思わずウヒャアと声を上げてしまった。
キジフが死んだ?マヨネーズ博士がやったのか?……事件の謎は深まるばかりだ。
98私事ですが名無しです:04/10/03 01:54:55 ID:???
俺が意気消沈していると、小島は俺の手を引いて、放送室に駆けこんだ。
最初は何のことかわからなかったが、すぐに納得した。
俺はブラックリストに載っているんだった。緊急時とはいえ、やつらに見つかるのはまずい。
「せんせいたちは、この殺人事件をケイサツには黙ってることに決めたみたいなの」
放送室の扉を閉めてから、小島はこそっと打ち明けた。
「何でだよ?」 小島に従い、俺も声をひそめる。「だって殺人なんだろ?」
小島はふふんと鼻で笑った。
「だからよ。学校の評判が落ちるようなことをおおやけにしたくないのよ。
 しかも死んだのがあのキジフでしょ?世間の評価はガタ落ちになるわ」
「じゃあ、どうするんだよ。いずれにしたってそのうちばれるぜ」
「怖い顔ね。……校長が言うには、学内に捜査本部を設置して三日以内に解決するって」
できるわけねえだろ、と俺はあきれて開いた口がふさがらなかった。

「やるの。やるしかないでしょ。わたしはやるわよ。キミも捜査に加わってよ」
やだよ、と俺は言おうとしたが、はたと気付いた。
犯人がマヨネーズ博士なら、キジフのいない今、博士の足取りを掴めるのは捜査委員だけだ。
よしやろう、と俺は答えた、しかし妙な気がした。俺の声のトーンが上がっている気がする。
「小豆さん、ちょっともしかして、キミ、例のウイルスにやられてない?」
俺がぎょっとして小島の顔をにらむと、彼女は怪訝な顔つきでにらみかえした。
「わたしね、化学部の部長やってるの。
 だから言うんだけど、キミ、多分ね、合成ウイルスに感染してるよ」
合成ウイルス?俺はそんなものにかかわった覚えはまるでない。
「じゃあ、鏡を見てごらんなさいよ」 小島は俺を姿見の前に引っ張っていった。
鏡をのぞき見た。俺の顔だ。いや、俺の顔に似ている。……俺の顔じゃない!
「やっぱりね」 あぜんとする俺を横目に見て小島は吐息した。
「完全にやられちゃってるわ、例の……おやじウイルスにね」
99私事ですが名無しです:04/10/03 01:55:26 ID:???
「おやじウイルスだって?」
小島このやろう、ふざけるなよ、と俺は言おうとしたが、鏡の中の俺は確かに
いつもの俺じゃなくって、どこか女顔で背が高くて、性格に歪みが見える。
「お、おれ、おい待てよ、これって俺のおやじに似てるじゃないか」
「そうよ、それがおやじウイルスだもの」
小島は放送室のファイルから『おやじウイルスに関する文献』を取り出した。
ページはすっかり古くなってボロボロだ。それにはこんなふうに書かれていた。

おやじウイルス……本校の生徒、天才児の3人が共同で作り上げた卒業制作である。
化学部、生物学部、軽音楽部、と3つの部の出身であることから
3ガクウイルスとも呼ばれているが山岳部とは何ら関係はない。
通常、ヒトの染色体には遺伝情報がらせん状に絡み合うモデルとなっているが、
このウイルスに感染すると両親と共通する遺伝情報のうち男親、
すなわちおやじの潜在的な遺伝情報のみが強化され、他の形質を凌駕して表面化する。
もともとの形質は徐々に退行し、おやじ遺伝情報がそれに取って代わる。
なお、このウイルスには潜伏期間があり、その間、感染者は一時的な鬱状態になる。

「何だかよくわからないが、やばいウイルスじゃないか。なんで俺が……」
俺は混乱して頭をポカポカ殴ったが、夢であれと願ったが、単に痛いだけだった。
「たぶんだけど、キミのお父さんがウイルスを保有してたんじゃないかな」
小島は少しサドっ気を出して(そういえばS組だったのだ)にやりとした。
「それとも保有じゃなくて、保存してたのかもね、製作者だったりして」
俺は嫌な予感に襲われ、ファイルの末尾を読んだ。その3人の名前が載っていた。
100私事ですが名無しです:04/10/03 02:04:47 ID:vKc/AOA9
まずは赤井ケチャップ。

これはケチャップ先生なのか? しかしケチャップという名前はごくありふれている。
簡単に決め付けるわけにはいかないだろう。ケチャップ先生に化学というのもどうだろう。
何たって、ケチャップは日本史の教師だ。俺は次の人名に目を通した。

加賀美レイコ。

……聞いた覚えがあるような。しかし誰だったか?
下にカッコして(別名:ハラジュクの女王)とあった。見覚えがあるぞ、見覚えが。
だが、あとちょっとのところで思い出せない。くそっ、ノドのあたりがかゆい。

だがそれよりも最後の1人が重要だった。

小豆……苗字だけで俺にはピンと来た。
この飲料水のような名前は間違いなく、おやじだ。
おやじが何かの企みで、俺の寝ているすきにでも、ウイルスを注射したに違いない。
異常な体力、暴力性、長身に女顔、すべておやじに当てはまる。
俺はだんだんとおやじになっていってしまうのだろうか。

「続きがまだあるよ、小豆さん。対になっているむすこウイルスっていうのが」
俺の密かに恐れていたことを小島は言ってしまった。俺はおそるおそるページを繰った。
おやじウイルスに感染した人間から血液を採取し、そのデータからむすこに変わるウイルス。
今、俺にはすべてが明らかだ。おやじは「俺」になりすますため、これを使ったのだ。
俺がおやじで、おやじが俺で……
そう考えた途端、すべてが真っ暗になり、俺は気を失った。
101私事ですが名無しです:04/10/13 18:29:11 ID:0CAwhyUc
目が覚めると俺は保健室のベッドに横たわっていた。
白衣を着たレイコ先生が「また来たの?」と言いたげな眼差しを送る。
ケガにも病気にも無縁の俺だが、気を失いやすいのですっかり常連になっている。
俺は半身を起こしかけたが、後頭部に痛みを感じて、ウウッとうなった。
「大丈夫? ラクダなみのコブができてるから、あまり動かないで」
レイコ先生が心配そうに言う。

30代半ばのレイコ先生は大人の魅力で男子生徒に人気があるが、
実はケチャップ先生と良い仲だとか、隠しているがバツイチだとか、子供もいるとか、
とにかく噂の絶えないナゾの女で、毎朝「ポンキッキ」を録画しているらしい。
「ガチャピンは凄いのよ。でもムックは近頃、口調を変えてしまったわ……」
先生は寂しそうにかすかに笑った。
「小島さんがあなたのこと心配してたわよ。女の子を心配させるのはいけないわね」
「心配……あの小島が? そんなに俺のことを心配するかなぁ」
「結構心配してたみたい。そうね、放送時間ギリギリの「いいとも選手権」で
 終わらないままエンディング流れ出して、ちゃんと全部放送できるの?ってくらいに」
よくわからない例えだったが一応納得してみせる。
先生は窓の外を眺めながら、ラビット関根がどうとかカマヌンチャクがどうとか呟いていた。

気付けばもう正午だ。俺は急激に空腹を感じた。
しかし度重なる戦闘のせいで、俺のカバンも、虎の子の三尺物差しもどこかに行っていた。
「先生、俺ちょっとコンビニで弁当買って来たいんだけど、いいっすか?」
俺は野球部の一年生の口調でレイコ先生に声をかけた。
「え?」とレイコ先生は気をそらされた感じで「あ、それなら私のお弁当分けてあげるわ」
こともなげに言うと、レイコ先生は【草津】と書かれた風呂敷包みを解いて渡してくれた。
シンプルな銀色の弁当箱をぱかっと開けると、
箱いっぱいに透明な寒天が敷き詰められ、その上に梅干しがちょこんと載っていた。
102マーキー ◆Xhmarquee2 :04/10/18 00:52:54 ID:???
寒天・・・か
103私事ですが名無しです:04/10/25 22:17:27 ID:???
104マーキー ◆Xhmarquee2 :04/10/28 23:33:09 ID:???
UPはまだか・・・
105私事ですが名無しです:04/10/30 09:43:44 ID:???
レイコ先生の弁当で体力を回復した俺は、早速キジフの死体現場へと急いだ。
生徒会本部への通路はすべて閉鎖され、生徒たちもすでに教室へ帰っている頃だったが、
俺にはまだ誰も知らない軽音楽部の通路がある。
無人の部室に貼られていたダンボールを剥がし、踏みこもうとすると、
「ぴろりろり〜ん」 と、携帯の着信音のような鳴き声が。
「うっ、うわぁぁぁぁ!!!」
ダンボールの裏側に、でっかいツチノコがべたっと貼りついている。
「ぴ〜ろり〜ろり〜ろ」
ダンボールを離したものの、ツチノコは俺の前に立ちふさがる。
ぐずぐずしていられない。俺は武力で強引に通過しようと試みる。
が……。右手に異常を感じて、顔の前に指を開き、覗きこむ。
ササクレが……俺の人差し指にササクレができていた。
このまま戦うのは危険だと俺は瞬時に察知した。これでは戦闘は無理だ。

そのまま対峙して2時間は経過しただろうか…。ヤツは一歩も譲る気配がない。
鳴き声も「ぴろりろり〜ん」 から 「南無阿弥陀仏……」 へと微妙に変わってきている。
俺は小学生のとき「たけしの挑戦状」に挑んで5時間後に中古屋に持って行ったときの
切ない日を思い出していた……。
(このままじゃ、俺のカラダはおやじウイルスに侵される一方だ…ッ)
俺は決心した。まさかのときのために秘蔵にしていた奥の手。エジプトの神秘を。

その名はマイヤヒー。耳慣れない言葉だが、実体は普通の米酒と変わらない。
米さ 米酒か 飲ま飲ま イェイ !! と歌い出すと相手は必ず一気に飲んでしまう。
泥酔したところを一発かまそうという逆あぶさん的発想だ。
しかし持っているところを発見されると警察に逮捕されるという諸刃の剣。
そう簡単には使えなかったのだが……。
106私事ですが名無しです:04/10/30 09:44:06 ID:???
「待って!」
俺がまさにマイヤヒーを取り出そうとした瞬間、壁の奥から「待った」がかかった。
やばい。マッポだ。とっさに80年代ワードを駆使しながら俺はバックレた。
だが、入り口を黒ずくめの集団が取り囲んでおり、俺は出られない。
はめられたか……覚悟をきめて自首するしかないのか……。
こんなときこそ、おやじウイルスが覚醒して殺意の波動にでも目覚めたらいいのに……。

しかし、振りかえった壁の奥から出てきたのは、あろうことかフミカだった。
儀式用の衣装を着替えたらしく、身軽な「映画版 黒蜥蜴 」スタイルだ。
ダンボールのバリケードをべりべりと剥がすと、ツチノコに突進していった。
「あーよかった。じゅんちゃん、探したのよぉっ!!」
床に泣き崩れてツチノコを抱くフミカ。なんだペットか、と俺はやっと納得した。
大体、野生のツチノコが学校にいるわけがない。大槻教授に笑われるところだった。
俺は米酒、もといマイヤヒーを元通りに仕舞い込むと、通路の先に急ぐことにした。

「あ、待って、まめ太クン」
怪傑ズバットみたいな恰好のフミカが呼びとめる。
「捜査本部へ行くんでしょ? 私も捜査員に志願したの」
そう言って、フミカは校章入りの捜査バッジを開いてみせた。
「何でフミカが……?」
フミカはくすくす笑いながら俺の耳元でそっと呟いた。
「まめ太クンがいるところに私がいたら、いけない?」
俺はまた、どきっとしたが、フミカのおやじの問題もあるので複雑だった。
「しっかし、よくツチノコなんて飼う気になるな」
フミカはまたくすくす笑いながら耳元でそっと呟いた。
「刺身にするとおいしいの……」
……ペットじゃないのかよ。
107マーキー ◆Xhmarquee2 :04/10/31 02:12:20 ID:???
きたー
終盤に向かっている感ありありだが、さらに言えば怪傑ズバットは古すぎてわからないが、
面白い。次がどうなるか予測させないところがいいな
108私事ですが名無しです:04/11/06 06:53:58 ID:???
「会長殺人事件イベント会場」と金字の垂れ幕が仰々しく下がっている。
生徒会が一時的に開設した捜査本部らしい。
旧校舎の理科室を改造しただけあって汚く、不気味な感じだ。
校長の演説が終わったあと、生徒会副会長の朝越が蝶ネクタイをひねりながらマイクを取った。

「あー…諸君。残念ながら殺人現場には指紋ならびに遺留品は一切残っていなかった。
 しかし悲観は御無用! 校内の誰かが犯人だということはわかっている。
 諸君は全力を挙げて犯人逮捕に尽力していただきたい!」

ばらばらと雪崩れ込んできた生徒会員から捜査バッジを受け取ると、
俺たちは追い出されるようにして理科室を後にした。
どうやら遅れてきた生徒や後期志願者が多いらしい。先を越されてはまずい。
(まぁ、俺は犯人の目星は付いているが……問題はマヨネーズがどこにいるか、だ)
後発組が我先にと廊下を駆け急ぐ中、どんと構えて残ったのは俺を含めて数人だけだった。
残った、ということは何か情報をつかんでいるヤツらということなのだが…。
俺はふと背後に気配を感じて振りかえる。
茶髪ロン毛の集団が腕を組んで俺のほうをにらんでいる。
「久し振りだな……まめちゃん」
リーダー格の男が俺の名を呼んだ。ロン毛の男には見覚えが……
「ヨシオ!? ヨシオか!? どうしたんだ、その姿は!!」
ヨシオは、口の前でチッチッと指を振った。
「今の俺はヨシオじゃない。S(スーパー)・R(ロン毛)・ヨシオだ!!」
指をビシッと突きつけて宣言するS・R・ヨシオ。
「ロン毛はRじゃなくてLだろ……」とはちょっと言えない雰囲気だった。
「まめちゃん、悪いがここからはお前ともライバルだぜ。ロン毛になったからにはなぁぁ!」
立ち去るヨシオの後ろ姿を見送りながら俺は思った。ロン毛に夢を見すぎるなよ……と。
109私事ですが名無しです:04/11/06 06:54:20 ID:???
理科室前で待っていたフミカと合流すると、フミカは少し不機嫌だった。
「まめ太クン遅いよ……私たち一番最後になってしまったじゃないの」
ごめんごめんと謝ったが不機嫌は治らない。
以前聞いた噂では、フミカはデートに遅れてきた相手に無理矢理スパンコールを着せ、
「ボクはドジでのろまな亀ですっ!」と連呼させながら駅前を走らせたらしい。
遅れてきた男は泣きじゃくりながら留置場で一夜を明かしたという話だ。
それを思い出すと俺は急に腹が痛くなってきた。

「ふふふ、諸君。残っていたのは賢明な選択だったね!」
理科室のドアをガラッと豪快に開けて出てきたのは副会長の朝越だった。
黒の蝶ネクタイが大正時代を彷彿とさせる。名目上は生徒会のNo.2だ。
「ア、ア、何も言わなくてよろしい」
朝越は七三の髪をクシで梳かしたあと胸ポケットにしまった。
「キミたちはぁー、アッ、急がずに考えたわけだね。この学校内で最も有用な人材は誰か。
 それはモチロン、次期会長候補であるこの私。朝越、朝越トモロヲで大正解。
 この私に?付いてきたい?それでいいのか?・・・いいんです!!」

「あのぉ、私たち急ぎますから……」
フミカが俺の手を取って「行こ、行こ」と小声で訴える。
「ふふふ、遠慮はいらない。私が付いているからにはぁー、アッ、太平楽に構えていたまえ」
ノリノリの朝越だが、ノッているのは本人だけだ。
「思えば長かった……副会長という微妙な肩書き、キジフの独裁体制。
 だが私はここで生まれ変わる。H・E・R・O。HEROとして!!」
「ヘロ、ですか?」
「ヒーローだ。アッアッ! ヒーローになるとき、それは今!!」
ガッツポーズで気合を入れる朝越トモロヲ。こいつに票を入れたヤツって一体……。
110マーキー ◆Xhmarquee2 :04/11/07 15:36:41 ID:???
田口トモロヲ監督の「アイデン&ティティ」は面白い

そんな事を思わず考えてしまうほど必然性の無いネーミングにワロタ
111私事ですが名無しです:04/11/26 15:07:27 ID:VR8jOyyw

      ☆ チン     クタビレタ〜
                        マチクタビレタ〜
       ☆ チン  〃  ∧_∧   / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
        ヽ ___\(\・∀・) < 続きまだ〜?
            \_/⊂ ⊂_ )   \_____________
          / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ /|
       | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄|  ,|
       |  愛媛みかん |/
         ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
112私事ですが名無しです:04/11/26 15:19:48 ID:guX6IZuf
このスレはオモロイ♪ワロタよw
113私事ですが名無しです:04/11/28 18:42:54 ID:???
半ば強制的に付いてきた朝越だったが、副会長の肩書はダテではなく
すでに捜査に奔走する生徒たちの行動を見越していた。
「資料を調べるって? アッアッ、図書室はダメダメ。もういっぱいになってるよーい」
遠慮なくフミカの肩をペシンペシン叩く朝越トモロヲ。
「私はねぇ、アッ、私はねぇ、こんな時間だもの事務室でお茶をいただきたいね!」
「お茶ですって? ふざけないで!」
態度のでかい朝越に怒り心頭のフミカだが、ここは俺が取りなすところだろう。
「いや待て、フミカ。事務室にも運営の資料があるし・・・」
「おお、よく気がついたね、キミぃ!」
華麗にターンして指をつきつける朝越。
「実のところ、それが私の言いたかった事なのだよ。ま、簡単な言葉のマジックね」
俺はもうこんなやつらとは関わりたくねぇ・・・。

トイレ前で俺たちは待機した。朝越が蝶ネクタイを直すといって聞かないからだ。
俺はいろんな先輩たちの理不尽に付き合わされた経験があるが、
「蝶ネクタイ待ち」は初めてだった。フミカはそろそろキレだしている。
5分くらいして出てきた朝越は平然とした顔で
「おお、諸君。まだちょっと、アッアッ、なかなか決まらなくてね」
と言ってまたトイレに戻った。
「まめ太くん、待ってて。あの子ドブに沈めてくるから」
いきりたつフミカをどうにか抑えこみ、20分が経過した。

「ギエーッ!!!」

赤塚不二夫テイストの悲鳴が聞こえた。トイレからだ。
「朝越、死んだのか!」と駆け出す俺。「そう願うわ」とつづくフミカ。
114私事ですが名無しです:04/11/28 18:43:46 ID:???
だが残念なことに朝越は無事だった。
男子トイレに突入すると、ど真ん中で対峙し合う2人の姿があった。
1人は言うまでもなく副会長の朝越トモロヲ。
もう1人は・・・風紀委員執行部長のマック黒澤だ。
「ど、どうした?」 マックに動揺しながらも俺は尋ねる。
しかしマックは俺に心当たりのない表情で、朝越しか眼中にない。
そうか。おやじウイルスのせいで俺の顔はおやじ寄りになり、
ほとんど面識のないマックには俺の顔がわからないらしい。
ケガの功名とはまさにこの事だ、と0.2秒の間にこれだけのことを考えた。

「この男がいきなり大の方から出てきたのだよ」と苦々しげに説明する朝越。
2人が険悪な雰囲気の中、むしろ俺はマックに同情した。
個室から出てくるのを見られたくないマックの目の前で20分も蝶ネクタイを直してる男。
そんな男に「え、お前20分以上もコモってたの?」みたいな悲鳴を出されては
マック黒澤でなくともブチ切れるだろう。
「また貴様か・・・朝越トモロヲ・・・」
何か確執があるらしくマック黒澤の全身から殺気が立ち昇る。
「そこのギャラリーぶっているキミ、目障りだ。消えたまえ」
怒りに頬を震わせて怒鳴るマック。
言葉に甘えて消えようとする俺を朝越が無理矢理引きこんだ。
「アレは私の部下なのだよ、黒澤。アッ、戦ってみるかね、私の部下1号と」
「おい待て、誰が部下――」 あせる俺。
「朝越ェェ・・・そいつ諸共必ず処刑してやる・・・」
「俺は無関係――」
「ホッホ、できるのかな? 黒澤、キミなんぞにできるのかな?」
俺は猛烈に朝越をあwせdrftgyふじこ してやりたくなった。
115私事ですが名無しです:04/11/28 18:44:19 ID:???
狭いトイレの2人から離れながら俺はあまり興味なかったが一応訊いてみる。
「なぁ。あんたら、なんでそんな仲悪いんだ」
すると、よくぞ訊いてくれた!という顔でマックが朝越に指をつきつける。
「この男は・・・俺の中学時代を滅茶苦茶にしてくれたんだッ!」
マック黒澤のつきつけた指は怒りのためにブルブル震えている。
「一体、朝越が何をしたんだ?」
聞いて欲しいようなので尋ねたが、批判されている朝越本人はどこ吹く風といった顔。
一瞬迷ったマックだったが、やがて決心したらしく憎々しげに告白した。

(回想)
徹夜で書いたラブレターをクラスのアイドル西園寺さんの下駄箱に入れるマック(中2)。
余韻をかみしめながら去るマックの後から現れる朝越トモロヲ(中2)。
朝越、こっそりラブレターを盗み出し、ほかの下駄箱に入れて素知らぬ顔で立ち去る。
翌朝マックの前にラブレターを持って抱きついてくる豚骨くさ代(ホンジャマカ石塚似)。
2人に冷ややかな視線を送って通りすぎていく西園寺さん。
泣き崩れるマック、ぜい肉で圧迫してくる石塚――もとい豚骨くさ代。
教室に帰るとなぜかすっかり噂の広まっている2人。
黒板に相合傘を描いている朝越トモロヲ。精神崩壊状態のマック。
こうして彼は卒業までの期間を、豚骨くさ代に告白した勇者として過ごしたのだった。
(回想終わり)

「執行部入りした俺は貴様に復讐する事だけを考えてきた・・・」
そらそうだろう。
「飾りとはいえ副会長の貴様に手は出せなかった・・・が、今は違う。
 俺が犯人を挙げて生徒会長になり、貴様に3650回の土下座をさせてやる・・・!」
「それはどうかな・・・!」 含み笑いをしながら朝越は蝶ネクタイの角度を整えた。
116私事ですが名無しです:04/12/16 03:02:26 ID:???
二人が臨戦態勢に入ると同時に俺は男子トイレを脱出した。
フミカは廊下で待っていた。さすがに男子トイレまでは踏みこめなかったと見える。
「ね、何があったの?」
「なんでもない。おとぎ話さ」
俺はハードボイルド小説から引用したようなキザなセリフを決め、悠々と廊下の角を折れる。
その途端俺は立ち止まり、ちょっと引き気味のフミカが背中にぶつかった。
「どうしたの、まめ太クン」
どうしたもこうしたもない。長テーブルと、その上に山積みにされた同人誌。
軽音楽部にいた須藤さんが購買部の前で即売会を開いていた。
表紙にはロリ顔のメイドがチェーンソーを振り回して笑っている。
どうやら須藤さんは真性だったようだ。俺はそれとなく顔を隠しながら行き過ぎた。
「ね、どうしたのよ、まめ太クン!」
フミカが抗議の声を上げる。「え、まめ太クンって?」須藤さんの声が背後から響く。
俺の足が止まり、ついでに心臓も止まりかける。
真性ヲタはヤバイ。俺は知っている。カラオケでは必ずアニソン。話題もアニメオンリー。
ファミレスか漫画喫茶を根城にして仲間を増殖させるのだ。
だが、須藤さんの口をついて出たのは意外な言葉だった。

「本当にまめ太君? 野外ステージにいたんじゃなかったの?」

え?と俺は振り返る。須藤さんは俺の顔を確認して呆気にとられている。
「俺、野外ステージになんて行ってないよ。須藤さん、どういうことだよ」
須藤さんは何か小声で呟いていた。「え、別にアタシは・・・」
野外ステージ、と考えて俺はようやく気が付いた。学園祭のリハーサルだ。
「須藤さんはベース担当だろ。リハに出ないで即売会ってどういうことだ?」
「何なのよ・・・」須藤さんは不機嫌な顔をした。「新しいベースはアンタでしょ」
117私事ですが名無しです:04/12/16 03:02:53 ID:???
「新しいベース」と指摘された俺だが、もちろんベースを弾けるはずがない。
だいたい俺はフラフープさえ満足にできない男だ。楽器の基礎を知らない。
「さっきのプレイ、アタシより上手いと思うよ。だから即売会やらせて。ほっといて」
頭をがちゃがちゃ掻きながら須藤さんは頽廃的なハスキーボイスで言いきった。
「さっきのプレイって何の話だ?――俺はフラフープしか触ってないぜ!」
須藤さんはうるさそうに手を振る。「早くステージに戻ったら?」
そのとき俺の頭にひとつの解答がひらめいた。

・・・これはもしかして、おやじのことなんじゃないだろうか。

そうだ。おやじは昔、軽音楽部でベーシストだった。
俺の先回りをして軽音楽部に取り入ろうとしているに違いない。
「須藤さん、聞いてくれ!それは俺じゃない。偽者なんだ。俺のおやじなんだ!」
しばらく沈黙があって須藤さんは重々しく口を開いた。
「・・・バカなんじゃないの?」
くそっ、信用されなくても仕方がない。俺はフミカの手を引いて走り出した。
おやじは野外ステージにいる。
そして多分犯人のマヨネーズ博士も大きく関わっているはずだ。
ここから校舎の外に出るには2つのルートがある。
先ほどの事務室側と、この先の校長室側。俺は朝越を敬遠し校長室側を選んだ。
走ること15分。だが、そこに巨大な障壁が待ち構えていることを俺は知らなかった。
118私事ですが名無しです:04/12/16 03:04:12 ID:???
俺たちの前に現れたのは、バーテンダー風のオールバック野郎だった。
「ヨオ、ご両人。残念ながらアンタたちの終着駅はここだ・・・」
オールバック野郎はポケットからシェイカーを取り出すと激しくシェイクし出した。
「オレは流れのバーテンダー、ガッデム村岡。以後、お見知りおきを」
俺たちが立ち尽している、ほんのわずかな間に、
ガッデム村岡はオリジナルカクテルを編み出してカウンターにそっと出した。
「クレイジー・クリムゾン。コレを味わったらサッサと帰るんだな」
「あなた、誰なの? ただの流れのバーテンダーじゃないわね・・・」
フミカが分度器を構える。
含み笑いのガッデム村岡は「ガッデーム!」と叫び肩をすくめる。
「バレちゃしょうがねえ。いかにもオレは流れのバーテンダーじゃない。
 風紀委員四天王が一人、ガッデム村岡とはオレのことさ・・・」
バレたからといってすぐに正体をあらわすのもどうかと思ったが
俺は動向を見守ることにした。ガッデム村岡の武器はどうやらシェイカーらしい。
あれさえ奪えばヤツを完全に無力化できるのだが・・・。

あれから2時間。ガッデム村岡は相変わらずシェイクしている。
もしかしたらヤツのレシピ(ネタ)が切れるのではないか、と期待していたが
その期待はあっさりと裏切られた。ガッデムはプロだ。
すでにオリジナルカクテルは67杯を越えていた。
「何とかならないの?このままじゃ手出しできない!」
くやしそうにフミカが歯軋りする。
そのときだった。俺たちの背後から聞き覚えのあるテナーが聞こえた。
「・・・やっとオレの出番が来たようだな」
ゴージャス広田、いや、帰ってきたゴージャス広田だった。
119私事ですが名無しです:04/12/16 03:05:11 ID:???
「広田クン!帰ってきてたの?」
フミカがほとんど棒読みで広田の手を握る。
「おう、オレが来たからには大船に乗ったつもりでいな!」
広田は自信満々に胸を叩いてみせる。
「誰が来ようと同じだぜ・・・オレのシェイクに敵う男はいない・・・」
新しい客に対してガッデム村岡が不気味に威嚇する。
「ふん、誰に向かって大口叩いてるんだ?オレはなァ・・・」
広田が大きな口をいっぱいに開いた。「ゴォージャァス!広田なんだぜ!」
瞬時に広田はダッシュをかけた。小刻みにジグザグ走りを仕掛けて村岡を撹乱する。
だがガッデム村岡の四天王の異名もダテではなかった。
広田が繰り出す拳のラッシュをすべて軽妙なシェイクでかわしていく。
「だッ!」広田の決め手の水平蹴りが村岡を襲う、だが紙一重で跳躍してかわす。

「だめだ、村岡に通常の攻撃はまったく効き目がない!」
「こっちに気を引かせてみたらどうかしら」フミカが囁く。「おとり作戦よ」
俺はうなずき、精一杯息を吸いこむとあらん限りの力で叫んだ。
「こちらのレディーにとびっきりのマティーニをッ!」
「!」
ガッデム村岡の体勢が崩れた。「今よ、広田クン!」フミカが叫ぶ。
だが、そのときガッデム村岡の足下でゴージャス広田は気絶していた。
一瞬だけ、やられた、という表情だったガッデム村岡が笑い出す。
「く、くくく、残念だったな。この男の体力は限界に来ていたようだ」
120私事ですが名無しです:04/12/16 03:05:36 ID:???
俺はいっぺんに脱力した。「わかった・・・俺たちの負けだ・・・」
ガッデム村岡がにやにやして俺たちに歩み寄ってくる。
「いいセンまで行っていたぜ。ま、オレのカクテルを飲んで元気出すんだな」
「いや、遠慮するよ・・・俺たち、まだ未成年だしな」
くやしそうなフミカを見やってガッデム村岡は得意げにシェイクし始めた。
が、俺たちの脇を突然つむじ風が通りすぎたかと思うと、
誰かがブルース・リーのスタイルで武舞を繰り出していた。須藤さんだ。
ガッデム村岡はシェイクしながら須藤さんに襲いかかる。
「逃げろ須藤さん!ガッデム村岡にかなうわけが・・・」
激しい攻防にはならなかった。勝負は一瞬で決まった。
崩れ落ちる人影。ところがそれはガッデム村岡の方だった。
ヤツはヨロヨロと壁際に倒れこみ、「ガ・・・ガッデム!」と呟いて白目を剥いた。
その背後に立っていたのは須藤さんだった。
「ごめん・・・ちょっと試したつもりだったんだけど」
須藤さんはすまなそうに失神したガッデム村岡に話しかけている。
「す、須藤さん・・・あんた一体、どこでそんな技を・・・」
須藤さんは恥ずかしそうに頭を掻いた。
「昨日ビデオで『死亡遊戯』観て、つい真似したくなっちゃって」

四天王の一人、ガッデム村岡は敗れた。だがまだ3人の強者が残っているはずだ。
俺たちは結局何しに来たかわからない須藤さんと別れ、野外ステージへと向かった。
床に伸びたままのゴージャス広田は風紀委員たちに連行されていった。
121マーキー ◆Xhmarquee2 :04/12/23 23:37:46 ID:???
このスレもついに年を越すことになるのか
2005年に完結するのだろうか!?
122私事ですが名無しです:04/12/25 22:44:00 ID:FneMOWR2
age

123マーキー ◆Xhmarquee2 :05/01/14 17:48:53 ID:???
保守
124私事ですが名無しです:05/01/22 07:19:58 ID:???
がんがれ
125私事ですが名無しです
お、まだ続いてたのか!