ほぼ毎日、娘。のとある奴が俺の家にいる・・・!!!3
【第一部・概要】
人生の方向を見失い、仕事を辞めて大阪の実家に帰ったもーちゃん。
そこに待っていたのは、まるで家族のように平然と過ごす見知らぬ女性。
その馴れ馴れしい態度に戸惑うも、それはすぐに驚きへと変わる。
その女性はモーニング娘。の保田圭だったのだ・・・。
やがて彼女と接するうちに、次第に彼女に惹かれていくもーちゃん。
喧嘩したり、仲直りしたり、秋の京都でデートさせられたり・・・。
そんな順調な生活に、また新たな存在が加わる。それが五期の紺野あさ美。
最初は家族に馴染めずに泣いてばかりの紺野。
しかし、その頑張り屋の性格で徐々に悩みを克服していく。
ただし、その家で悩んでいるのは紺野だけではなかった。
母、姉、彼・・・その三人もそれぞれの悩みを抱えていた。
そしてもちろん、卒業を控えた保田もそうした一人だった。
二月に入り、保田は突然彼を散歩に誘う。
川沿いを歩きながら、彼女はその日が最後だと伝える。
最後のキスを交わし、別れを受け入れる彼・・・。
その直後、彼は決意を固める。人生を再び歩き出すことを。
そして新たに旅立とうとする彼の目の前に現れたのが・・・。
【第二部・概要】
今までの話は全てドラマの中の話だった。
保田圭卒業ドラマ・・・彼はそのドラマに素人ながら参加していたのだ。
彼はドラマの中の役と同様、人生を見失っていた。
そしてそれが偶然ドラマの監督の目に留まり、こうして抜擢されるに至ったのだ。
ドラマの収録が終わり、大きな喪失感を覚える彼。
その理由・・・その一つは彼女の存在だった・・・。
彼はいつしか、ドラマの中の役と同様、彼女に惹かれていたのだ。
そんな彼の部屋に突然やって来たのが・・・中澤姉さんと保田。
そしてそれから、その部屋には続々と見知らぬ女性たちがやって来るようになった。
中澤裕子、市井紗耶香、後藤真希、石黒彩、福田明日香、そして保田圭・・・。
それはモーニング娘。を卒業したメンバー、そして卒業するメンバーだった。
彼女たちがそれぞれ悩みを抱え、そして過去のしがらみにとらわれていることを知った彼は、
彼女たちを受け入れ、そしてその問題の解決を見守ることに決める。
中澤姉さんとキスしてしまうというハプニングなどもあったが、それぞれとの親交を深めていく彼。
途中、紺野が現役ながら特別に部屋へ来ることを許されたり、より広い部屋に引っ越すなど、
その部屋は着々とその準備を整え、そして5月5日、ついに保田卒業の日を迎える・・・。
そして数日後・・・。(以下、本文へ続く)
5月某日
その日はその部屋にとって特別な日だった。
そう、モーニング娘。卒業後、初めて保田が訪れることになっていたのだ。
すでに三日前から福田が泊まりに来ており、昨日は市井も泊まっている。
その理由はもちろん、保田の卒業パーティーを催すためだ!
午前中にはあやっぺが到着。皆それぞれ着々と準備を進める。
福田と市井は二人で何やら部屋の飾りつけをしていた。
折り紙を細長く切り、輪を作って鎖にし、部屋の壁に飾り付ける。
まるで小学校のクラス会みたいだ。
あやっぺは今日の料理当番。そう決めたわけではなかったが、自然とそうなっていた。
今日は保田の好きな焼肉とモツ鍋・・・かなり濃いメニューの予定だが、
それにあやっぺの手料理が加わる。もちろん私も幾つか料理を作る予定だ。
昼前になり、私はバイトへと向かった。
ただし、途中で早退させてもらい、その後はある場所へある物を買いに行く。
部屋に戻るとすでに中澤姉さんと後藤が揃っていた。
中澤姉さんは今日の言い出しっぺだ。
現役は現役ですでに保田の卒業パーティーを開いたらしいが、
姉さん曰く、「こっちは向こうと違って歓迎パーティーや!」とのこと。
姉さんは今日の司会進行役を務めることになっている。
ただ、それまでは暇らしく、皆にちょっかいを出してはうざがられていた。
後藤は大きな花束を持ってきていた。どことなくいつもよりもウキウキしているように見える。
準備も整い、保田が来る予定の七時を迎える。
・・・しかし、彼女はなかなか現れなかった。
少ししてインターホンが鳴る。ついにご登場と思いきや、それは違う人物だった。
一階の玄関のドアを開け、少ししてからその人物が部屋へとやって来る。
その人物は緊張した面持ちでメンバーを見渡す。
中澤と後藤を除けば接点の無い先輩ばかりなので、当たり前と言えば当たり前だろう。
一人だけ場違いな感じだったが、まあ、確かにその通り、完全に場違いなのだ。
この部屋に来ることが許されているのはモーニング娘。を卒業したメンバー。
現役メンバーは来ることを許されていないのだ。・・・ただ、そこには抜け道も用意されている。
中澤が尋ねる。少し冷たい言い方だったが、それは表面上だけのものだ。
と言うのも、その人物を呼ぼうと言い出したのは他ならぬ姉さんだったのだ。
「なあ・・・今日は卒業したメンバーによる歓迎パーティやったよな?なんでその子が来てるん?」
「えっと、自分の個人的な友達で・・・今日会う約束してたのすっかり忘れてました・・・」
「なんや、あんたの友達かいな。なら仕方ないわな。ほんなら、その子うちらに紹介してや!」
何ともわざとらしい会話だ。周りのメンバーもその様子を面白そうに眺めている。
「・・・こちら、紺野あさ美さん・・・せっかくなので参加してもらおうと思うんだけど、いいですよね?」
皆の了承を得て、紺野が笑顔で自己紹介をする。
「もーちゃんさんの友達の紺野あさ美です!今日はお邪魔してすみません!」
こうして紺野も含めて予定通りのメンバーが集まり、保田の到着を待つ。
その間、メンバーはそれぞれ雑談をしたり、つまみ食いをしてあやっぺから怒られたり・・・。
市井と福田の二人はファミコンを取り出してきて何やら遊んでいた。
部屋には色んな会話が乱れ飛んでいた。
「紺野ちゃんは高校生だっけ?いいわねえ、若いって・・・」
「はい、でも学校行く時間ほとんど無いんですよ!ちょっと心配です!」
「明日香下手ねえ。Bダッシュする時はBボタンずっと押してないと!」
「なるほど、Bボタンを押しながら進むと速く走れるわけですね。わかりました、もう大丈夫です!」
「なんやなあ、ケイちゃん卒業となると、うちの仕事取られるんちゃうかってちょっと心配やわ」
「それは無いでしょ。姉さんとはキャラが違うし・・・」
「そうよ、ゆうちゃんはゆうちゃん。ケイちゃんはケイちゃん。ゆうちゃんの仕事が減ってるのは実力のせい!」
「なんや真希!!!うちに喧嘩売ってるんか?」
「あ、そうそう・・・姉さんが出てる教育テレビ、毎週見てますよ!・・・めちゃイケのCMの間だけですけど・・・」
「見るんならちゃんと見んかい!!!」
と、あやっぺが私に話し掛けてくる。
「ねえ、もーちゃん、ちょっとお洒落してみない?」
お洒落・・・ですか?
「ゆうちゃんから聞いたんだけど、もーちゃんスーツ姿が似合うんだってね!」
姉さん・・・何告げ口してるんすか・・・。
でもまあ、似合うって言われると素直に嬉しかったりするけど。
「せっかくだから着てみてよ!GパンとTシャツってのはちょっと・・・」
確かに一人だけこんな――いつも通りの――格好というのはまずいかもしれない。
あやっぺの勧めに従い、スーツに着替える。逆に一人だけ浮いてる感じもするが・・・。
「よく似合うじゃない!」とあやっぺ。「意外ですね・・・」と福田。「ちゃんとすればかっこいいんだ!」と市井。
「男らしいです!」と後藤。「完璧です!」と紺野。「馬子にも衣装やな・・・」と中澤。
なんか姉さんだけむかつきます・・・。
そんなこんなで七時半。姉さんは待ちきれなくなったのか、冷蔵庫からビールを取り出す。
「姉さん駄目ですよ!こういうのは全員揃ってからじゃないと・・・」
「そんなん言うても来えへんもんはしゃーないやろ!」
「でも、先に皆ができあがってたら結構辛いもんですよ・・・私も経験ありますけど・・・」
「・・・まあそうやな・・・しゃーないしゃーない。もう少しだけ待つわ」
と、ようやく今日の主賓が登場・・・。しかし、当の本人は何が起きているのかわからないらしい。
「すごーい!みんないるじゃん!!!なんでなんで?もしかして引越しのパーティーとか???」
引越しのパーティーじゃなくてお前の歓迎パーティーだよ・・・。
中澤が「あんたの歓迎パーティーやで!」と言うと、彼女は「うそー!」と言い、思わず目を潤ませる。
「あさ美までいるし・・・もう、なんで誰も教えてくれなかったのよ!」と彼女。
そして苦笑いを浮かべながら、「もーちゃんなんかスーツ着てるし・・・」と付け加える。
その言葉に皆、してやったりといった満足そうな表情を浮かべる。
それにしても・・・鈍感な奴だ・・・。
彼女が新しい部屋を見て回る暇もなく、早速宴が始まる・・・。
「それでは・・・これより保田圭ちゃん卒業歓迎パーティーを開催します!」と司会進行役の中澤。
こういう場合は関西弁じゃなくて標準語になるらしい。
「ええ・・・その前に一つだけ注意があります!今日は歓迎パーティー、あくまでも歓迎パーティなので、
絶対に泣いたりしないように!特に紺野!あんたすぐ泣くから注意するように!」
コクリと頷く紺野。姉さんが続ける。
「それから・・・あんたもやで!あんた男のくせにすぐ泣くからな!今日は男らしくびしっとするように!」
なんで俺もなんだよ・・・。そりゃたまに泣いたりはするけど、でも、みんなの前では泣いた覚えはないぞ!
もしかしてドラマの中の役と勘違いしてないか?それとも隠しカメラでも仕掛けてるのか?
「とりあえず、みんなお腹が空いてると思うので、挨拶は飛ばして乾杯に行きたいと思います」
すでに目の前にはビールが注がれている。もちろん未成年組はジュースだ。
ただ、今日は特別な日ということで、多少のアルコールは黙認することにしている。
「それでは僭越ながら、一番年上の私、中澤裕子が乾杯の音頭を取らせていただきます!」
「ケイちゃんが無事に卒業し、こうして正式に私たちの仲間になったことを祝いまして・・・」
と、そこまで言ったところで保田が口を挟む。
「あのさ・・・あたし一人のためのパーティーって、ちょっとあれなんだよね・・・なんか恥ずかしいって言うか・・・」
「だからさ、あやっぺとあさ美の誕生日も一緒に祝うってのはどう?」
どうやら二人は誕生日を迎えたばかりだったらしい。
「もう・・・よく覚えてたわねえ・・・」と照れくさそうにあやっぺ。
「えへへ・・・嬉しいです!」と紺野。
「よっしゃ、ほならそれでいくで!ケイちゃんの輝ける未来と、そして彩と紺野の誕生日を・・・」
そう言いかけたところでまたまた横槍が入る。今度は後藤だ。
「ん?真希、まだ何かあるんか?」
「ゆうちゃん来月三十でしょ?だったらゆうちゃんの最後の二十代も祝おうよ!」
後藤を睨みつける中澤・・・。笑いを堪える一同・・・。
それにしても、今日の後藤はやたら中澤をからかっては楽しんでいるように見える。
と、それまで黙っていた福田が口を挟む。
「それは祝うと言うよりも惜しむと言った方が適切ですね」
あいかわらず冷静だな・・・。
「ほならもう何でもありや!とにかく今日はとことん騒ごうってことで・・・乾杯ベイベー!」
「乾杯ベイベー!」
こうして宴が始まった・・・。
「よし、ほならどんどん肉焼いてや!鍋はもうちょっとやな!」
あやっぺが台所から作った料理を運ぶ。
量が多すぎるんじゃないかと心配だったものの、さすがこれだけの人数がいると減りが早い。
一部ではすでに肉の取り合いが始まっていた。誰とは言わないが・・・。
最初の肉が終了すると、すかさず今度はモツ鍋へとなだれ込む。
と、そんなところで中澤が話を切り出す。
「えー、皆様お楽しみのところ申し訳ありませんが、ここで今日の主役、保田圭ちゃんに一言お願いしたいと思います」
彼女は「えー?挨拶するの?あたしが?」と言いながらも、戸惑うことなく話を始める。
「今日はあたしなんかのためにみんな集まってくれて・・・本当にありがとう。とっても嬉しいよ!
無事にモーニング娘。を卒業して、ようやくみんなと一緒の立場になったんだけど・・・。
正直、不安だらけ・・・。だけど・・・みんなに負けないように、これからもどんどん頑張っていきたいと思います!」
泣くかな・・・と思ったのだが、彼女はずっと笑顔だった。
はきはきとした口調で前向きな言葉を話す。しかし・・・順調にいったのは最初だけだった。
「・・・ちょっとそこ!あたしが話してるうちにお肉取らないでよ!明日香まで何やってんのよ!」
「見ての通りです」と福田。
「ケイちゃんの分まで食べちゃおっと!」と後藤。
その言葉に他のメンバーも皆、続々と鍋に箸を伸ばす。
その様子に「みんなの意地悪!」と保田。しかし、彼女も含めて皆楽しそうだ。
彼女の話が終わり、皆、手を休めて拍手をする。照れ笑いを浮かべる保田・・・。
「それでは・・・次にこの部屋の主である、もーさくさんに一言いただきたいと思います!」と姉さん。
って・・・そんな話聞いてないんだが・・・。
しかしまあ、指名されてしまったからには仕方が無いだろう。
と言うことで・・・適当に挨拶をする。
「えー・・・保田さん・・・卒業おめでとうございます!」
しかし・・・「保田さん」って呼ぶの・・・何か照れくさいな・・・。
いつもは「保田」か「お前」だからな・・・。何か変に意識してしまう・・・。
それに対して彼女は「ありがとう!」と笑顔で答える。
「これでようやく正式にこの部屋のメンバーになったということで、
今後は料理を始めとして、炊事、洗濯、掃除・・・と、とにかく色々と活躍してもらいたいと思います!」
「ちょっとそれどういうことよ!もーちゃんひどーい!」と彼女。
その言葉に福田が思わず吹き出す。結構ウケたらしい・・・。
私の話が終わり、再び和気藹々とした時間に戻る。
と、後藤が用意していた花束を持って来て彼女に渡す。
「ケイちゃん、卒業おめでとう!・・・って、これでもう何回目だろうね?」と、そう言って笑う後藤。
彼女も笑顔で答える。「ありがとう!・・・って言うのも何回目だろ」
それに続くかのように各メンバーがそれぞれ用意していたプレゼントを渡す。
思わず涙ぐむ彼女・・・。
しかし・・・どうやら私のプレゼントは気に入らなかったらしい。
「もーちゃん・・・これ・・・・・・何?」
「何って?お前の好きなレバーだよ!」
そう、私が彼女のために用意したのは生のレバー。
「レバ刺し好きだって言うからさ、わざわざ鶴橋の商店街まで行って一番高くて新鮮なの買ってきたんだぞ!」
「もー信じらんない!普通レディーに対してレバーなんかプレゼントしないでしょーが!」
気に入ってもらえると思ったんだけどな・・・。
まあ・・・そうは言いつつも早く食べたいって顔してるのが彼女らしいところなのだが。
「女の子は雰囲気を大切にするのよ!」と笑いながらあやっぺ。
それとは異なり、「ナイスなセレクションです!」と私の耳元で囁いたのは福田だ。
そんなこんなで時間が過ぎていき、酒も入ってかなりの盛り上がりを見せる。
未成年ながら後藤と市井も酎ハイに手を伸ばす。福田と紺野はさすがに酒には手を出さなかったが。
焼肉もすでに肉が無くなって野菜のみ・・・モツ鍋も材料が無くなりつつあった。
あやっぺが慌てて追加の料理を作る。私もそれを手伝い、そして自慢の料理を作る。
と言っても、大根のぶつ切りにキムチの素をかけて炒めるだけのシンプルな料理。
それとじゃがいもを油で揚げるだけのフライドポテト、極めつけはキャベツに塩をかけただけのつまみ。
どれもこれも学生時代に覚えた飲み会用の料理だ。
いつしか部屋の内部は自然と三つに分かれていた。
焼酎を飲みまくる中澤と石黒、保田、それに私の年長組。
酎ハイを片手にテレビの前でゲームをする市井と後藤。
そして三ツ矢サイダーを飲みながら何やら語り合っている福田と紺野。
もちろんそうはっきりと分かれているわけではなく、私と紺野が桃鉄に参加したり、
福田が一人CDを選んでは試し聴きをしていたり、あるいは保田が後藤の酎ハイを勝手に飲んで怒られたりと、
まあそんな感じでそれぞれ様々に絡み合って楽しんでいた。
ちなみに、福田と紺野の会話は聞いていてかなりおもしろかった。
「完璧という概念は人間が作り上げたものに過ぎません」
「それはどういうことですか?」
「つまり、完璧とは人間自身が判断することであって、それは本当の意味での完璧ではないのです」
「・・・?」
「あなたがよく使う『完璧』もその類に漏れません。しかし・・・私は違います!」
「・・・!」
「私は完全なる完璧を目指しています!それはある意味宇宙の真理に近いものと言えるかもしれません」
「難しいんですね・・・完璧って・・・」
深いのか浅いのかよくわからない会話だったが、その会話に保田が乱入する。
「あたしの美貌は完璧よ!誰が何と言おうと完璧なの!そうよ、完璧なのよ!」
保田・・・かなり酔ってるな・・・。
しかし、それを頷きながら聞く福田・・・。やはり何かが違っている。
「ケイの美貌は確かに完璧です。ある意味ケイは宇宙の真理が具現化したものであり、かつ、その造形美は(略)」
全然意味わからねーよ・・・。
そんな会話の横では、酔った中澤があやっぺに絡んでいた。
「あやぁ・・・結婚ってそんなにええもんなんか?そんなに楽しいもんなんか?」
「そうねえ・・・子供がいると色々大変だけど・・・でもそれが幸せなのかもね!」
「そうなんかいな・・・うちは幸せになれるんやろか・・・王子様は今どこにおるんやろか・・・」
王子様って・・・そんなの待ってたのかよ・・・。
と、しばらくして、中澤とあやっぺの二人が部屋を出ていく。
「ちょっと酔い覚ましに風に当たってくるわ!」と姉さん。
「心配だから私もついてくね!」とあやっぺ。
そんな二人に続いて、後藤と市井の二人も部屋を出ようとする。
「ジュース無くなったから買ってくるね!」と市井。
すかさず尋ねる。
「ジュースって・・・まさか酒じゃないだろうな?」
「ん?なんで?」
「いや・・・お前ら未成年だからさ、さすがにそれはまずいだろ。おまけに有名人だし・・・」
「あ、大丈夫大丈夫!本当にジュースだから・・・」
「なら許す!」
リビングに残されたのは保田と紺野、福田、そして私の四人・・・。
と、今度は福田が部屋を出る。
「急に星空が見たくなりました」と福田。
やはりこの子だけは何かが違っている・・・。
結局最後に残ったのはあのドラマで共演した三人・・・。
「三人になっちゃいましたね」と紺野。「ああ・・・」と私。
保田はモツ鍋の底に残った具を必死になってかき集めている。
「ついに卒業・・・しちゃいましたね・・・」と紺野。「ああ・・・」と私。
保田は台所に氷と水を取りに行き、焼酎をグラスに注ぐ。
「淋しくなります・・・」と紺野。「ああ・・・」と私。
保田は焼酎を飲み、そして「プハー」と息を漏らす。
目を潤ませる紺野。それを励ます私。
保田は私の作った塩キャベツを旨そうに口に運んでいる。
「私・・・ずっとそばにいられるんだって・・・保田さんと一緒にいれるんだって思ってたのに・・・」
紺野・・・やはりかなり淋しいらしい。
それもそのはず。あのドラマの撮影で二人は本体とは別行動を取り、そしてずっと一緒に過ごしていたのだ。
「全然先のことだって思ってたのに・・・それなのに・・・気づいたらもう・・・」
と、そこでようやく保田が口を出す。
「もー!何泣いてんのよ!二度と会えないってわけじゃないのよ!これからも一緒に仕事したりするんだから!」
それはその通りだ。その言葉に「はい・・・」と返事する紺野。無理に笑顔を作ろうとしている。
そんな紺野を彼女が優しく抱きしめる。
その様子を見て、なぜか自分まで抱きしめられているような感じを覚える。
それは彼女の優しさが私の心にまで伝わってきたからなのだろうか。
と、突然携帯の音が響き渡る。どうやら紺野の携帯らしい。
紺野は携帯の表示を見て、「ごめんなさい。ちょっと電話してきます」と言い残して部屋を出て行った。
残ったのは・・・私と彼女。
「あのさ・・・」
「何?」
「・・・あ、いや、なんでもない・・・」
「そう・・・」
「ねえ・・・」
「ん?どうした?」
「ううん、別に大したことじゃないの・・・」
二人のぎこちない会話・・・そんな会話の後ろで、福田がかけたショパンが優しい音色を奏でていた。
しばしの沈黙の後、口を開いたのは彼女だった。
「ねえ・・・もーちゃん・・・。あたしのこと・・・どう思ってる?」
「どうって?どういう意味だ?」
「ううん・・・いいの・・・」
彼女はそう言うと淋しそうな表情を浮かべる。それは今日一番淋しそうな表情だった。
もしかして・・・彼女は私に・・・ある言葉を言って欲しかったのだろうか?
私の彼女への想いを・・・聞きたかったのだろうか?
こんなチャンスは滅多に無いかもしれない。
部屋には二人きり。そして今日は彼女の新しい門出を祝う特別な日なのだ。
告白するなら・・・気持ちを伝えるなら・・・今しか無いだろう・・・・。
しかし・・・やはり私にその勇気は無かった・・・。
弱い男だ。好きな人に「好きだ!」の一言も言えないなんて・・・。
再びの沈黙・・・。それを破ったのはまたしても彼女・・・。
「ねえ・・・この曲・・・あたし好きなんだよね・・・」
「ああ・・・俺も好きだ・・・名前はあれだけどな・・・」
それは・・・『別れの曲』・・・。
縁起でもないタイトルだが、その時の二人の心情にはまさにぴったしのメロディだった。
「あのね・・・もーちゃん・・・」と彼女。
「そろそろ・・・お互いに・・・素直になるべきだと思うの・・・」
お互いに・・・素直になる・・・?それは・・・どういうことだ?
「・・・あたし・・・わかってる。もーちゃん・・・自分に自信が持てないんだって・・・」
「でもいいの・・・言葉で言わなくてもいいの・・・あたしわかってるから・・・」
「その代わり・・・一つだけお願いがあるの・・・」
「・・・?」
「プレゼントが欲しいの・・・もーちゃんから・・・」
「プレゼントって・・・さっき渡しただろ・・・」
「そういうのじゃなくて・・・一生残るようなプレゼント・・・」
「一生残るようなって・・・そんなの急に言われても・・・」
「大丈夫だよ・・・絶対一生残るから・・・」
大丈夫って言われても・・・。
「一生残るから・・・あたしの・・・心の中に・・・」
彼女はそう言うと、静かに目を閉じる。
彼女が望んでいたもの・・・それは・・・キス・・・。
私から彼女への・・・キス・・・。
私の頭の中で様々な思い出が蘇る・・・。
あのドラマの中での彼女とのシーン・・・。
彼女の唇に初めて触れた時のこと・・・。
夕陽をバックに撮影した最後のキスシーン・・・。
彼女が初めて私の部屋を訪れた日のこと・・・。
彼女が「間接キッス!」と言って私をからかった時のこと・・・。
彼女と喧嘩したり、手を繋いだりした日のこと・・・。
彼女からのキスの誘いを断った時のこと・・・。
全てが一生忘れられない思い出・・・。
私にとって、何よりも大切な思い出・・・。
そんな思い出を振り返りながら、私は一つのことを悟っていた。
思い出ではない・・・。決して、思い出の中を生きるのではない・・・。
今が思い出なのだ。そう、今この一瞬一瞬が全て思い出なのだ。
思い出は過去ではない・・・。未来でもない・・・。
思い出は、今この瞬間に刻まれていくものなのだ!
そして、そう思った時、私は心を決めていた。
彼女の願いをかなえるために・・・。
そして自分の気持ちを伝えるために・・・。
私は彼女の肩に手をかけ、そして意を決して顔を近づける。
少しずつ迫る彼女の顔。私の胸の鼓動はまさに張り裂けんばかりに高鳴っていた。
そして・・・彼女の唇に・・・私の唇が・・・そっと・・・。
ガチャンドタンバタタタッ・・・!!!
その突然の物音に彼女が慌てて目を開ける。私もその音のした方を振り向く。
それはリビングのドア・・・。そのドアが開き、そこに将棋倒しになっていたのは・・・そう、彼女たちだった・・・。
「なんや・・・誰やドアノブに手ーかけたん!」と怒り気味の姉さん。
「せっかくいいとこだったのにね・・・」と残念そうなあやっぺ。
「邪魔しちゃいましたね・・・」と申し訳無さそうな後藤。
「気にせずに続けてください!」と冷静な福田。
何も言わずにただ苦笑いを浮かべる市井。
「完璧です!」と意味不明な紺野。
そう・・・彼女たちはずっとそこから見ていたのだ。ドアのガラス越しに・・・私たちの様子を・・・!
「もー!みんな何してんのよー!」と保田。ただ、それはどこか安心したような表情だった。
結局、彼女にキスをすることはできなかった。
しかし・・・それでも彼女へのプレゼントは確かに届いたはずだ。
そう・・・この思い出は一生残るだろう・・・。
彼女の心の中に・・・。私の心の中に・・・。そして部屋にいる全員の心の中に・・・。
こうして私と彼女との新しい関係が・・・
そして彼女たちの新しい物語が・・・
今、この瞬間に始まったのだ!!!
『ほぼ毎日、娘。のとある奴が俺の家にいる・・・!!!』
第ニ部 「保田圭と秘密の部屋〜過去との決別〜」 完
ケイちゃん・・・感動を・・・ありがとう! ・・・そして・・・大好きだよ!!!
さて、これで第二部は終了です。長い間応援していただき、本当にありがとうございました。
私と彼女との物語は今始まったばかりですが、これからどうなるかは全くわかりません。
ハッピーエンドか、バッドエンドか、はたまた・・・。
それはまた第三部で明らかになるかと思いますが、それまでに感想等いただければ幸いです。
23 :
私事ですが名無しです:03/05/17 12:50 ID:uvwWQ6jL
お疲れ様ー。
純粋に楽しかった。
。・゚・(ノД`)・゚・。
第一部からずっと読んでるけどオモロイです。
二部終わっちゃったけど三部も始まるようで楽しみです。
更新大変でしょうけど頑張ってください。
>>23 楽しんでいただけて何よりです!
>>24 泣かないでw
>>25 ありがとうございます。大変励みになります!
■削除人さんへ
さて、削除依頼されてるみたいなので弁明しておきますが、
このスレは私の身近で起こった出来事を小説風にまとめたものであり、
決して板の趣旨に無関係なものではありません。
part2を立てる際に別の板に移動しようかと考えたこともありましたが、
様々な板を覗いた結果、やはりこの板が一番最適だと判断した次第です。
どうかスレの趣旨をお汲み取りいただくようお願いいたします。
スレ発見しました。保全します。
28 :
幽霊作家:03/05/19 21:35 ID:???
いま、ようやく読みました w
ハッピーエンド?ハッピーエンド?
第三部は、カレカノの日常なのでしょうか??
楽しみです、こっちにも時々、保田さんが来ると楽しいんですけどね w
29 :
山崎渉:03/05/20 04:18 ID:???
━―━―━―━―━―━―━―━―━[JR山崎駅(^^)]━―━―━―━―━―━―━―━―━―
30 :
山崎渉:03/05/21 22:14 ID:???
━―━―━―━―━―━―━―━―━[JR山崎駅(^^)]━―━―━―━―━―━―━―━―━―
31 :
山崎渉:03/05/21 23:16 ID:???
━―━―━―━―━―━―━―━―━[JR山崎駅(^^)]━―━―━―━―━―━―━―━―━―
保全
>>26 難民でやればどう?
ていうか、娘。板のどれかに書いて娘。ファンに読んでもらえばいいのにと思う
>>27 発見されました!
>>28 カレカノ・・・ですか・・・。
>>29-31 一応保守ですかね・・・。
>>32 保守サンクス!
>>33 移動は考えてないです。
このシリーズはセブンだからこそ発展できたのだと思います。
狩板、飼育板なども考えましたが、セブンが最適かと。
私自身、モーニング娘。のファンじゃないってのもありますが。
それでは第三部を始めたいと思います。
I'll Never Forget You
忘れないわ あなたの事
ずっとそばにいたいけど
ねえ仕方ないのね
ああ 泣き出しそう
出会った日にカンパイだね
あの頃よりも髪がのびた事
あなた知ってた?
出会ったのは偶然なの?
だからサヨナラさえも偶然なの
東京で見る星も
ふるさとでの星も
同じだと教えてくれた
I'll Never Forget You
忘れないわ あなたの事
ずっとそばにいたいけど
ねえ仕方ないのね
You'll Never Forget Me
忘れないで あたしの事
もっとそばにいたいけど
もう旅立つ時間
ああ 泣き出しそう
記憶なんて単純だね
だから悲しみさえも思い出だね
きっとまた逢えるよね
きっと笑い合えるね
今度出会うときは必然 Wow Wow
Na Na Na Na . . .
I'll Never Forget You
忘れないわ あなたの事
ずっとそばにいたいけど
ねえ仕方ないのね
You'll Never Forget Me
忘れないで あたしの事
もっとそばにいたいけど
もう旅立つ時間
ああ 泣き出しそう
----Future Episode - actress1 "Asami Konno"
「あ、はい・・・そうです・・・来週ですか?・・・はい、よろしくお願いします。・・・それでは失礼します」
ふーっ・・・なかなかうまくいかないものだなあ。
一応融資の目処はついたけど・・・やっぱり私には無理なのかな?
と、すかさず携帯の音が鳴る。
今時こんな電子音の着メロなんて使ってるの、私くらいだろうな・・・。
でもこれ私が出した唯一のシングル曲――"Perfect Dream"――だし、自分でも気に入ってるのよね・・・。
それより今度は誰だろう・・・。融資をキャンセルする話じゃなければいいんだけど・・・。
しかし、すぐにその画面の表示を見てほっと胸をなでおろす。そこには見慣れた名前があった。
「はい、紺野です・・・あっ、中澤さんですか?・・・珍しいですね、携帯にかけてくるなんて」
「え?うーん、あまりうまくいってるとは言えない状況ですね。昨日も融資断られましたし・・・」
「・・・まあ、自分でも難しいとは思ってますけど・・・でも小さい頃からの夢だったんですよ・・・」
「・・・」
「そうですよね・・・里沙ちゃん・・・全然連絡取れないんですよ・・・」
「ところで今日は何の話ですか?まさか中澤さんが融資してくれるってことはないですよね?」
「あはは・・・大丈夫ですよ・・・皆さんには迷惑かけませんから・・・ええ・・・」
それにしても、中澤さんはずっと私のこと心配してくれてるんだよね。
年齢差はあるけど、私にとっては大切なお友達。もちろんマコちゃんが一番だけどね。
それからしばらく中澤さんとおしゃべり。
中澤さん忙しいんだろうけど、あの人思い出話になると話が止まらないのよね。
でもなんだかウキウキしちゃうな・・・同窓会って!
みんなは来るのかな?
マコちゃんとは今でもよく会ってるし、先月もマコちゃんのラジオに呼んでもらったけど、
愛ちゃんなんか全然会ってもくれないのよね・・・。やっぱりまだあのこと気にしてるのかな?
それに希美ちゃんや亜依ちゃんにも会いたいなあ。
希美ちゃんとはこの前会ったけど、やっぱり子供連れてきたりするんだろうな。
結婚した時はまさかちゃんと家事をこなすなんて思いも寄らなかったけど、今ではいいママなのよね・・・。
私も早くいい人見つけないと・・・。
でも・・・一番気になるのはやっぱり里沙ちゃん・・・今どうしてるんだろ・・・。
幸せはお金じゃ買えないって言うけど、やっぱり現実的にはお金があるから幸せなんだよね・・・。
・・・っと、いけないいけない。
いつの間にか頭の中がお金のことでいっぱいになってる・・・。
でも私にとって今一番大事なのは如何にして融資を得るかってことなのよね・・・。
出資者が一人も集まらなければすぐに諦めがついたんだけど、
中途半端に集まっちゃったからなあ・・・今さらやめるなんて言えないしね・・・。
と、コンコンと部屋のドアをノックする音。
ドアの隙間から顔を見せたのは私のマネージャーだ。
「おい紺野!保田さん入られたから、ちゃんと挨拶行っとけよ!」
いつも通りの冷たい態度。・・・でも、このマネージャーのおかげでこうして仕事ができるのよね。
業界切っての敏腕マネージャー。なんで私なんかの担当になったんだろう・・・。
「はーい、すぐ行きまーす!」
----Future Episode - actress2 "Yuko Nakazawa"
目の前にいる女性が微笑みながらうちに尋ねる。
「そんなことないで。毎日仕事やけど、これが結構楽しいもんや」
そうや・・・今のうちは仕事だけが生き甲斐・・・。
40過ぎて一人身言うのもあれやけど、結婚生活なんてかったるいだけやったしな。
男はぎょうさん寄ってくるけど、どれもこれも小粒や。前のダンナ以上の男なんておらへんで、ほんま。
そう思うとちょっと離婚したこと間違いやったんかなって思うけど、とにかく今は男よりも仕事や。
バリバリ働いて更に世間を見返してやるねん!
「あやは復帰するつもりは無いんか?よっすぃは復帰したいって料理の本に書いとったで」
「そっか・・・そりゃまあ主婦が楽しいんならそれでええけどな」
「はあ・・・もうそんな年かいな・・・早いもんやな・・・」
「でもまさかあやが訪ねてくるとは思わへんかったで!」
「まあ、何にせよ元気そうで何よりや・・・今日はありがとな・・・なんか元気出たわ」
「ああ・・・同窓会やろ?わかったわかった。うちが初代リーダーやねんからうちが幹事引き受けるで!」
・・・あやと会ったんはニ年ぶりくらいやったかな?
あん時は花束持ってきて「いいともの司会おめでとう!」なんて言うとったけど、
あれ、うちが断った直後やってん・・・。それ言うたら「ゆうちゃんらしい!」なんて笑っとったけど、
あやの笑顔だけはいつになってもほんま変わらへんなあ。
あれ見るとなんや懐かしゅうて涙出てきそうやわ・・・。
それはそうと・・・とりあえずケイちゃんにでも連絡しとこか・・・。
って・・・留守電かよ・・・。さすがに地方ロケ中心やとこっちからは繋がりにくいわな。
もしかするとうちのスケジュールよりもあっちのスケジュール優先させなあかんかもなあ。
まあ、通じへんもんはしゃーないか。次は紺野にしとくか。あの子やったら通じるやろ・・・。
携帯のアドレスから紺野の番号を探す。あったあった・・・ピポポピポポ・・・と。
「お、紺野か?うちや・・・中澤やで。・・・ああ、ちょっと用があってな」
「どや?例の計画はうまくいってるんか?・・・なんや、進展なしかいな・・・」
「・・・うーん、そうかそうか、でもあれやで、夢を叶えるのはええけどお豆の二の舞にだけはならんようにな」
「素人は小豆相場に手を出すなって格言、知らへんかったんやろか。あん子ほんまアホやで」
「結局失敗して破産や。今何してるんやろな。紺野はまだ交流あるんか?」
「そうかいな、そりゃちょっと困ったな。・・・紺野に連絡してもらおう思うとったんやけどな・・・」
「・・・アホ抜かせ、うちは誰にも金は貸さへんって決めとんねん!」
「ふむふむ・・・そりゃええ心掛けやな。まあ紺野やったらうまくいくやろ・・・応援してるで!」
「そうそう、本題入るけどな、今度同窓会することになってん。そや、モーニング娘。の同窓会や・・・」
モーニング娘。か・・・。うちはすぐにやめてしもたけど、そんでもよう一緒に仕事しとった・・・。
でもな・・・ほんまのこと言うと、うち・・・あん子らと一緒に過ごすの嫌やってん・・・。
みんな若さに輝いとった。色んな夢追いかけとった。それが羨ましかってん・・・。
向こうもそんなうちのこと気づいとった。そやからなんやちぐはぐな関係になってしもて・・・。
でもな、中には紺野みたいにうちのこと慕ってくれとる子もおった・・・。
そやから今はそれでよかったんやって思う。・・・今のうちがあるんは・・・あん子らのおかげなんやから・・・。
----Future Episode - actress3 "Aya Ishiguro"
ゆうちゃんと会うの、ちょうど二年ぶりになるかな?
あの頃も凄いなって思ったけど、今はもう完全に別世界の人間って感じ・・・。
こんな広い部屋・・・私が現役だった頃はメンバー全員で使ってたけど、
今のゆうちゃんは一人で使ってる。でも私に接する態度は昔のままでいてくれるのよね・・・。
「そう・・・圭織とね、この前話してたらさ、なんだか盛り上がっちゃって」
「うん、圭織とは昔はそんなに仲良くなかったんだけど、でもほら、二年前から圭織の仕事手伝ってるでしょ?」
「そう、それで仲良くなってね、それで今度同窓会しない?ってことになったの・・・」
「最初にゆうちゃんに伝えようと思って・・・圭織もゆうちゃんに聞いてからにしたいって・・・」
「そっか。よかった!それじゃ知ってるメンバーには私から連絡するけど・・・ゆうちゃんにもお願いしていい?」
「ほら、ゆうちゃん仕事でみんなと会ったりするでしょ?うん。そう・・・ごめんね・・・忙しいのに・・・」
ゆうちゃんは今やテレビには欠かせない存在。
あれだけ芸能界からすぐに消えるって言われ続けてたのに、
気づいた時には、毎日必ずどこかのテレビで顔を見かけるようになってた。
タモリさんが死んでいいともの司会するって話が出た時、
ゆうちゃんは代役はやりたくないって言って、結局今はあの時間、ゆうちゃんの番組やってるんだよね。
ほんと、ゆうちゃんの活躍は凄いな。
離婚したって聞いた時は心配したけど、逆にあれからトントン拍子に仕事増え出したんだよね。
でもゆうちゃん・・・かなり疲れてるみたい。外見は元気に見えるけど、かなり無理してる感じ・・・。
「ゆうちゃん、最近疲れてるんじゃない?」
そうかなあ?なんか無理して頑張ってるみたいに見えるんだけどな。
ゆうちゃんのことだから、昔批判してた奴らを見返してやる!なんて思ってるのかもね。
「へえ、あの子復帰するんだ。・・・でも私はいいよ・・・今の生活に満足してるしね」
「子供の受験とかもあるし・・・」
「うん・・・それに今は仕事もしてるし、それにもう完全におばちゃんだしね・・・」
「そう?ずっと会いたかったんだけど、ゆうちゃん忙しいみたいだったから・・・」
「私も嬉しかったよ。ゆうちゃんに会えて。・・・これでみんなが揃ってくれたらいいんだけど」
「それじゃ帰るね。ゆうちゃん・・・大変だと思うけどよろしくね!」
ゆうちゃんの笑顔に見送られながら部屋を出る。
それにしても、ゆうちゃんはいつまで経ってもゆうちゃんのままだなあと思う。
もう40過ぎてるのに、衰えるどころか逆に会うたびに女の色気が増してる感じ・・・。
それに比べて私はどうなんだろ・・・ずっと主婦やってたからなあ・・・。
でも私は今とっても幸せだから・・・それでいいんだよね?
モーニング娘。やってたのは遠い昔のことだし、今さら芸能界になんて未練は無いよね?
決してゆうちゃんたちが羨ましいなんて思ってないよね?
ね?・・・そうでしょ?
お願い・・・答えてよ・・・私!
----Future Episode - actress4 "Kei Yasuda"
コンコン・・・と部屋のドアをノックする音が響く。
着いたばかりだというのに気が早いなあ・・・。
本当は一々挨拶とかされるの結構迷惑なんだよね・・・。
あたしってば、結構一人でいるの好きだから・・・。
しかし、そんなことは言ってられないわね。この世界は挨拶が基本なんだから・・・。
「はーい、どうぞー」
部屋に入ってきたのは、今日ドラマで共演する演技派の女優さん・・・なんてのは冗談!
あたしのことを娘。の頃からずっと慕ってくれてる紺野あさ美。あたしのよき妹だ。
「あさ美〜!すごいじゃない!一番よ!一番!さっき着いたばかりなのによくわかったわね!」
そう・・・あたしはいつの間にか売れっ子の女優になってた・・・。きっかけはある出来事・・・。
まだそんな年じゃないと思うのに、周りは新しい二時間ドラマの女王だって騒ぎ立ててる。
おかげでなんだか怖い存在だと思われて・・・あたしが現場に来るとすぐに色んな人が挨拶に来るのよね。
そんなに気を使われても困るだけなのに・・・。あたしはいつまでたってもあたしなんだから・・・。
「もう!何堅苦しい挨拶してんのよ!あたしとあさ美の仲でしょ?もっと気楽にしなさいってば!」
それにしても・・・あさ美もすっかりいい女になったわね・・・。
「そうそう・・・今日あさ美と一緒だって言うから、ほら、あさ美の好きな芋羊羹!」
あははは・・・外見と違って内面はいつまで経っても全然かわらないのよね・・・。
娘。が解散した時も、映画で新人賞取った時も、女優しながら大学通ってた時も、そして今も、
あさ美はずっとあさ美のままだった。ちょっとどこかが抜けてるあさ美。食欲が旺盛なあさ美。
そんなあさ美をあたしは大好きだった。あたしにとって二番目の妹・・・。あたしはそう思ってる。
そっか・・・。あさ美とドラマで共演するのは・・・二回目なんだ・・・。
ずっと忘れてた・・・。いや・・・ずっと忘れようとしてた・・・。
あんな男・・・もう、ずっと前に忘れたものと思ってたのに・・・。でも・・・。
「そうね・・・そう言えばそんなこともあったわね・・・すっかり忘れてたわ・・・」
あの男のことを忘れようとして結婚もした。でも長くは続かなかった・・・。
それはやっぱり・・・。
いや、それは違うわ・・・。私はあの人だから結婚したいって思って結婚したの。
決してあの男の代わりとして選んだわけじゃないのよ・・・。そうよ・・・そうなのよ・・。
とってもいい人だった。優しくて・・・思いやりがあって・・・仕事もできて・・・。
でも何かが違ってた・・・。
・・・それはどこが違ってたの?・・・誰と比べてたの?
やっぱりあたしは・・・あの男のことが忘れられないの?
いけない・・・あさ美の前で涙なんか見せたら・・・。
「同窓会かあ、なんか楽しそうだね!」
一生懸命笑顔を作ろうとしてるあたし・・・。
でも・・・あさ美は気づいてるだろうな・・・。昔から勘の鋭い子だったから・・・。
「そうそう、この前高橋に会ったんだよ!」
わざとらしい話題の変え方・・・。それもこんな話題・・・。あたしって・・・本当に卑怯な女だな・・・。
高橋とあさ美の関係を知ってるのに・・・。それなのに・・・どうして・・・。
そんなに自分の心を他人に見せたくないの?
こんなにも慕ってくれてるあさ美にも・・・心を開けないの?
あたしは・・・あたしは・・・誰の前だと素直になれるの?・・・ねえ?
----Future Episode - actress5 "Kaori Iida"
「石黒さん、新しい依頼が来てるんだけど・・・こっち優先してもらえるかな?」
「それと・・・例の件についてだけど・・・後で時間取れる?」
「そう・・・じゃあ、待ってるから・・・」
ここは私の事務所・・・。私が唯一皆から認められる場所・・・。
でも・・・ここは決して落ち着く場所じゃない・・・。
そもそも・・・私には落ち着く場所なんてない・・・そんなの最初から無かった・・・。
自由気ままに過ごしたいって思って、好きなアートコーディネートの仕事を始めた。
仕事も順調にいって今ではこうして独立して事務所を構えるまでになった。
でも・・・私が望んでた通りにはいかなかった・・・。
それはやはり・・・私の性格・・・。
モーニング娘。の時もそうだった。ゆうちゃんの後を継いでリーダーになったけど、
ゆうちゃんみたいにはできなかった。ただ怖い存在だって思われただけだった。
でも・・・それでも私はかなり無理してた・・・。
本当は・・・こんなにも弱い人間なのに・・・それを隠そうとしてた。みんなの前では強がってた。
それがいつの間にか方向が変わってた。・・・気づいたら私は女権論者になってた。
強がってるうちに・・・いつの間にか甘えることもできなくなってた・・・。
この事務所を始めた時、女性による女性のための職場にしようって思ってた。
だから自分も含めて結婚してる人は旧姓で呼ぶことにした。それは女性らしい優しい職場にしたかったから。
でもそれも裏目に出た。みんな私のこと、甘えることの無い冷たい女だって思ってる。
何をやっても私は優しい女にはなれなかった。あの頃から・・・ずっと・・・。
「ねえ、あや。・・・ゆうちゃんどうだって?オッケーって?」
「そう、よかった。・・・ゆうちゃん忙しいから駄目かなって思ってたの・・・」
先週、私はあやと現役時代の話で盛り上がり、そして同窓会をしようってことになった。
表向きは・・・みんなに会いたいから・・・。
私・・・いつからか、みんなとは全然会わなくなってた。
それは私が芸能界から完全に引退したこともあるのかもしれない。
でも・・・それでも会う機会くらいはあったはずだった。
なのに・・・私はやっぱり強がってた。今の生活が順調だからって・・・みんながいなくても平気だって・・・。
私には心を許せる人間が一人もいない・・・。
強がってばかりいたから・・・悩みを相談できる人もいなかった。
だけど・・・そんな人がいるとすれば・・・それは・・・。
ゆうちゃんとケイちゃん・・・。
私が強がってること、本当は弱い人間だってことに気づいてたのはこの二人だけだった。
本当は他にもう一人いるけど、でもあの人とはいつも喧嘩ばっかりだったからね・・・。
それに・・・私の悩みを聞いてもらうとすれば・・・この二人が一番だと思った。
二人はそれを決意した時、どんな気持ちだったか・・・後悔してないか・・・尋ねたかった。
でも・・・自分から会いたいだなんて、悩みを相談したいだなんて、そんなこと言えなかった。
だから・・・同窓会をしようって言い出した。同窓会なら、二人と必然的に会うことができるから・・・。
そう、本当は二人に会って悩みを相談したかっただけ・・・。
それなのに・・・また私は強がってた。
同窓会だなんて・・・そんなのただの言い訳・・・。
本当は二人に尋ねたかっただけなの・・・。
離婚して・・・後悔してないかって・・・。
48 :
私事ですが名無しです:03/05/24 10:35 ID:hJdyRVef
なんか、キモイ・・・・・
>>48 まだまだ序の口です。これからもっと・・・。
----Future Episode - actress6 "Makoto Ogawa"
「3秒前・・・、2・・・、・・・」とスタッフの声。
タイトルコールが流れる。「マコの〜琴美って呼ばないで〜!」
「はーい、みなさんこんばんはー!今日も私、まこっちが一時間、元気モリモリでお送りします!」
「早速今日のゲスト・・・なんと、女優さんです!先週のわけのわからん芸人とは違いますよー!」
「それでは紹介します!先月に引き続き来てもらいました・・・映画等で活躍中の本格派女優、
そして私の古くからの大大大親友でもある、紺野あさ美さんです!」
「はいはい・・・謙遜は後でじっくり聞きますからねー。こんな謙虚な所が人気の秘訣なんでしょうか?」
「あはは・・・はい、あーしゃらしい反応でした。さて、実は前回出演した時に凄い反響があってね・・・そう、映画のことで」
「来月公開予定の映画『タヌキ』について、もっと聞きたいってメールが、もーほら、見て見て!山ほど来てる!」
「これについてはまた後でじっくり聞きたいと思いますが、その前に今日一発目の曲!なんと初登場一位!」
「ドラマ『夜空に染めて』の主題歌だそうですが、あーしゃはこのドラマ、見たことある?」
「そうなんだ。実は残念ながら新潟ではやってなかったりしますが・・・ほらほら、そこ笑わない笑わない!」
「それでは気を取り直しまして、"Life has started"で"blue blue blue"・・・」
マイクのスイッチが入れ替わり、曲が流れ出す。
「ねえねえ、そのドラマって矢口さん出てるんだよね?どう?おもしろいの?」
「へえ・・・私も見たいなあ。・・・矢口さんの昼ドラは毎日見てたんだけどなあ・・・」
「ねえ、私は知らないけどさ、どうだった?リーダーの矢口さんって?」
そう・・・矢口さんがモーニング娘。の三代目のリーダーになった時、私はすでにいなかった。
飯田さんと安倍さんの二人が卒業する一ヶ月前に一人やめたんだ・・・。
あまり思い出したくないけど、あんな事件が起きて・・・それで私は怖くなった。
芸能界にいることが・・・そして女性でいることが・・・。
そして気づいたら婦警さんになってた・・・。
あんな事件があったし、自分の身を自分で守れるようになりたかったんだ。
それに色々と優しくしてくれた婦警さんに憧れたってのもその理由だった。
六年間、県警の交通課・広報課で働いてから結婚退職。今はこうしてローカルだけどラジオに出させてもらってる。
でもね・・・でも・・・。
「ん・・・?いや・・・なんでもないよ。ちょっと考え事してただけ・・・」
もう一度歌いたいって・・・踊りたいって思う時があるの・・・。
決して目立ちたいわけじゃないの・・・。歌って踊ってる時の自分が一番好きだったの・・・。
一番幸せだって思える瞬間だったの・・・。みんなと一緒に・・・歌って踊ってる時間が・・・。
「ねえ、あーしゃ。・・・また昔みたいに歌ってみたいって思ったことない?」
モーニング娘。が解散してから、メンバーの数人は歌手としての道を進んだ。
だけど、誰もヒット曲を出すことはできなかった。そう、私たちの中からは・・・。
「あのね・・・今度同窓会するんでしょ?だったらさ・・・一緒に頼んでみない?」
「もちろん決まってるでしょ!これよこれ!市井さん!」
今流れてる曲・・・これは私たちの先輩にあたる市井さんが作詞と作曲、そしてプロデュースを担当した作品・・・。
市井さんは歌手としてもそこそこの売れっ子だった。そして今はこうしてプロデューサーをやってる。
この"Life has started"は市井さんがオーディションで選んだメンバーで構成されたユニット・・・。
それは私たちが一度通った道・・・だけど・・・そこにいるのは私たちじゃない・・・新しい夢を持った新しい子たち・・・。
----Future Episode - actress7 "Asami Konno"
コンコン・・・と部屋のドアをノックする。中から保田さんの声が聞こえる。
保田さんとは長い付き合いだけど、やっぱりドラマで共演するとなると緊張するなあ。
「あの・・・おはようございます。今日はドラマに呼んでいただいて、ありがとうございました」
そう言うと保田さんは凄い形相で睨む。予想できた反応・・・でも最初の挨拶はきちんとしないとね。
それさえ済めば後はいつも通りの保田さん。そしていつも通りの私。
「はい。もちろんそのつもりです!・・・わ!芋羊羹!・・・食べていいんですか?」
さすがは保田さん。私のためにわざわざ芋羊羹、それも私の好きな芋丁の芋羊羹を用意してくれるなんて!
気が利くというか、面倒見がいいというか、とにかく保田さんは私にとってずっとずっとお姉さんみたいな存在。
「昨日は保田さんと共演できるのが嬉しくって全然眠れませんでした!」
冗談だと思って笑ってる保田さん。でも、それは本当のこと。
私にとって、保田さんとドラマで共演することは特別なこと・・・。
だって・・・あのドラマで保田さんと共演してから、私は女優という仕事に興味を持つようになったんだから。
でも・・・保田さんはそのこと忘れてた。私にとって大切だったそのドラマのこと・・・。
「初めてじゃないです・・・昔、保田さんの卒業ドラマで・・・」
保田さんにとって大切なのは未来・・・それはわかってる。
そんな生き方の保田さんにずっと憧れてた・・・でも・・・それだけは覚えててほしかった。
私や・・・そして、もーちゃんさんのこと・・・。
「私、あのドラマで女優になろうって決めたんですよ!私にとって大切な思い出なんです!」
いけない・・・私ったら、保田さんに向かってこんな言い方するなんて・・・。
でも・・・保田さん・・・一瞬だけど、ちょっと悲しそうな表情を浮かべた。
やっぱり・・・保田さんは・・・いつまでたっても・・・保田さんのままだったんだ・・・。
保田さんがあのドラマのことを忘れるわけがないのに・・・。
保田さんがもーちゃんさんのこと・・・忘れるわけがないのに・・・。
保田さん・・・きっと無理して忘れようとしてたんだ・・・。
あんなことがあったから・・・きっと・・・。
いけない。せっかく保田さんと会えたのに暗くなっちゃうなんて・・・。
そうだ。同窓会の話を伝えないと・・・。
「そうだ。保田さん、今度モーニング娘。の同窓会をやるらしいですよ」
「さっき中澤さんから連絡があって、それで保田さんと今日一緒だって言ったら、伝えといてくれって!」
保田さん・・・とても嬉しそう。でも・・・どこか浮かない顔してる。
それはやっぱり・・・私が思い出させてしまったから?
保田さんに・・・もーちゃんさんのこと・・・。
そんな保田さん。突然話題を変える。愛ちゃんのこと・・・。
でも私にはわかる・・・。保田さん・・・自分の気持ちに素直になれないんだって・・・。
「愛ちゃん・・・元気でしたか?」
「そうですか・・・私・・・愛ちゃんや里沙ちゃんに・・・全然会えなくて・・・会いたいのに・・・会ってくれなくて・・・」
気づいたら私は泣いてた。保田さんの前で・・・。
もうすぐ28歳になるっていうのに・・・。いつまでたっても私は子供・・・。
でも・・・それは保田さんの前だから・・・。保田さんの前だから・・・泣くことができるの・・・。
保田さん・・・やっぱり変わってなかった。全然変わってなかった。
こうして優しく抱きしめて・・・慰めてくれるのは・・・昔のままの・・・保田さん・・・。
----Future Episode - actress8 "Mari Yaguchi"
こうしてゆうちゃんの番組に出るなんて、なんか変な感じ。
色々話したいことはあるけど、今日はドラマの宣伝しないといけないのよね・・・。
難しいとは思うけど、でも少しでも多く宣伝しないとね・・・。
セットの裏に立ち、出番を待つ。CMが開けたらしく、ゆうちゃんの声と客席からの笑い声が聞こえる。
拍手が起こり、いよいよおいらの出番。引き戸をガラガラと開ける。
「お邪魔しまーす!!!」
と、客席から一斉に歓声が巻き起こる。「かわいいー!」「きれー!」
お世辞とわかってても結構嬉しい反応。・・・と、すかさずゆうちゃんの辛口が炸裂。
ははは・・・さすがゆうちゃんだ。
この番組はタモリさんの番組の後に始まったゆうちゃんの番組。
番組名は『裕子のズバッといってまえ!』・・・今ではすっかりお昼の看板番組だ。
そしておいらが今出てるのが、その名物コーナー。
芸能人がお友達を紹介していくってのは前にもあった企画だけど、ゆうちゃんの場合はちょっと違う。
事務所の繋がりやドラマの宣伝目的などの繋がりは一切認めない。しかも事前の連絡も禁止。
本当の友達・・・それも喧嘩するほど仲がいい友達をいきなり紹介しなくちゃいけないんだよね。
正式なタイトルは長いけど、『喧嘩するほど仲がええってほんまかいな?それって仲悪いだけちゃうん!』っていうらしい。
このコーナーは誰といつ、どこで、どれほどの喧嘩をしたかって話を中心に進んでいく。
その合間に自分のドラマの宣伝をしないといけないんだけど・・・さすがにそんな隙は無いなあ・・・。
「あの・・・今ドラマやってるんですけど・・・月9で・・・」
そう言ってみたものの、すぐにゆうちゃんから却下される。
まあどうせおいら端役だからどうでもいいんだけどね・・・。
番組が無事終了して、ゆうちゃんの楽屋を訪ねる。
「ねえ、ゆうちゃん。今日のおいら、どうだった?」
ゆうちゃんはおいらを誉めてくれた。女優にしてはトークがうまいって。
でもおいら・・・今は女優やってるけど、昔はトークが売りだったんだよね・・・。
もちろんゆうちゃんもそれは知ってる。まだボケるような年じゃないしね・・・。
ゆうちゃん・・・番組中は本音トークだって言って辛口のコメントするけど、
一歩裏に回れば普通のゆうちゃん。思い出話に花が咲く。
「同窓会かあ・・・みんなどうしてるのかなあ・・・」
そう、モーニング娘。だったメンバーで今もテレビで見かけるのは半分にも満たない。
後は全然会う機会も無いし、今どうしてるのかもおいらは知らない・・・。
「ねえ、ゆうちゃんは今どれくらい親交ある?みんなと・・・」
そう尋ねたのは、自分一人だけじゃないと思いたかったから。
ゆうちゃんがプライベートでも親交があるのは圭ちゃんと紺ちゃんの二人だって・・・。
おいらも圭ちゃんとは今でもよく会ってるけど、紺ちゃんとはしばらく会ってないなあ。
三人とも女優だけど、圭ちゃんは二時間ドラマの顔だし、紺ちゃんは期待の映画女優・・・みんな種類が違うんだよね。
おいらもそうだけど、みんなそれぞれ、新しい場所で新しい関係を築いてる・・・。
それとゆうちゃんの番組に出てるメンバーもいるんだよね。
今日は出てなかったけど、亜依ぼんと里子ちゃんが毎週レギュラーで出てるんだって。
おいらもこういうバラエティ番組に出てみたいな・・・。また昔みたいに・・・。
おいら、今の仕事には満足してるけど・・・でも何か退屈なんだよね。
もう主役の話も回ってこなくなったのに、事務所はドラマの仕事しかやらせてくれないし・・・。
本当はもっとやりたいことがあるんだよね・・・トークとかコントとか・・・。
昔の仕事はもっともっと楽しかった。毎日が楽しかった。・・・でも今は違う・・・。
今のおいらはただのお人形。・・・ただ作られた言葉を話すだけの・・・退屈なお人形・・・。
----Future Episode - actress9 "Yuko Nakazawa"
オープニングが終わり、CMの間に見慣れたセットが準備される。
畳の和室にちゃぶ台・・・。そのちゃぶ台の右側に座り、ゲストを待つ。
CMが開け、客席をからかいながらゲストを呼ぶ。
「それでは今日のゲスト、昨日の友近さんからの紹介で、殴り合いの喧嘩をしたほどの仲らしいで!」
そう言うと客席から「おお!」というどよめき。そりゃそうやな。
「女優の矢口真里さん。どぞ!」
矢口が入ってくる。同時に「かわいー!」「きれー!」といった歓声が上がる。
「こらこら、これは本音のコーナーなんやから!あんたらも正直に言わんかい!」
客席に駄目だしするも、相変わらずの歓声。
そりゃそうや。うちが見ても矢口は滅茶苦茶かわいいし、滅茶苦茶美人や。
正直な話、うちが30過ぎた頃とは大違いや。ほんま羨ましいで・・・。
「早速やけど、友近と殴り合いの喧嘩したってのはほんまなん?」
そんな感じでトークが進む。さすがに矢口だけあってトークが上手い。
自分のイメージダウンにならへんギリギリのところでおもろいこと言ってくる。
こんなんもあの頃に培ったんやろなあ・・・。
「ところで、うちと矢口が昔モーニング娘。やったって知ってる奴はおるんかいな?」
そう言うと客席から「えー!」という声。多分、うちに対しての反応やろ・・・。
「よっしゃ、ほんなら確認してみよか!二人がモームスやったって知ってる人、スイッチオン!」
「42人って・・・あんたら中途半端やなあ。せめて一桁くらいにせなつまらんで!」
そう言うと客席から一斉に笑いが起こる。
「ほな、うちがその初代リーダーやったって知ってる人、スイッチオン!」
って・・・ほんまに一桁やんけ・・・。なんやねん・・・8人って。
まあ・・・うちが娘。やめたんはもう十数年も前のことやし、圭織や矢口の印象が強いんやろなあ。
そうこうしてトークコーナーが終わり、次々とコーナーをこなす。
番組が終わり、楽屋に矢口が尋ねてくる。・・・ほんまお人形さんみたいや。30過ぎには全然見えへん。
それから同窓会の話で盛り上がる。矢口もかなり乗り気らしい。
「あーそうや・・・去年やったかな、明日香があのコーナー出てな・・・」
「そうや、明日香は普段テレビ出えへんけどな、それでな、明日香、誰紹介したと思う?」
「事務所の社長やで!大喧嘩した言うてな、電話でも凄い喧嘩はじめよって・・・かなり盛り上がったで!」
「ほんで翌日ほんまに社長来はって、その社長がまた奥さん紹介してな、あん時はまいったで!」
明日香は昔からずっと冷静だった。いつも周りを見渡し、そして自分の現状を確認していた。
それは歌手として成功してからも変わらない。そして、それが成功の秘訣・・・。
うちも毎年のように新曲出しとったけど、あかんかった。
結局歌手として成功したんは、明日香と紗耶香。二人とも余計なことせずに曲作りだけに専念しとった。
そやから、うちは負け組やねん・・・。紅白の司会やった時も・・・むなしかったで・・・。
明日香と紗耶香・・・二人とも一生懸命歌っとった。そやのにうちは紹介するだけや。
ほんまむなしくて、悔しくて、歓迎する気持ちなんてこれっぽっちもなかった・・・。
うちは・・・ほんまは歌手になりたかったんやから・・・。
----Future Episode - actress10 "Asami Konno"
隣でマコが笑顔を浮かべてる。
マコはいつでも元気いっぱい。どんな辛いことがあっても決して笑顔を絶やすことが無かった。
ただ一度・・・あの事件の頃を除いて・・・。
でもマコはこうしてまた元気に活動してる。
今は地元のラジオだけだけど、いつかきっと・・・また私たちと同じ場所に帰ってくるよね?
スタッフからサインが出て、マコが話を始める。
そして私を紹介・・・ってマコ!
「ちょっとマコ〜、本格派だなんて困るよ〜・・・。そんなにからかわないでよ〜・・・」
マコ・・・そんな私の反応を面白がってる。と言うか、最初からそういう流れにしようとしてたみたい。
昔のマコはトークが苦手で凄い悩んでたけど、今はこんなに上手になっちゃって・・・。
それから私の映画の話題にちょこっと触れて、それから曲を流す。この曲、矢口さんのドラマの主題歌なんだよね。
マコが矢口さんのこと聞いてくる。そっか・・・マコはその前に辞めちゃったんだった。
マコがモーニング娘。を辞めたのは2003年の12月・・・。その理由・・・。
その年の秋・・・マコに一通の脅迫状が届いた。
そして、それから毎日のように事務所やマコの家、さらには私たちが出演する番組にまで・・・。
ストーカー・・・。それもかなり陰湿なストーカーだった。
マコの電話の通話内容やマコの一日の行動なんかがネットで晒されたり・・・不審な人物に追いかけられたり・・・。
心配した事務所が警察に連絡して警護をつけたりしたけど・・・結局犯人は捕まらなかった。
そして・・・マコはその恐怖に耐え切れずにモーニング娘。から、そして芸能界から引退した・・・。
でも・・・私・・・その時何の力にもなってあげられなかった・・・。友達なのに・・・何も・・・。
私たち四人・・・いつまでも一緒だと思ってた。でもマコが一足早く辞めてしまった。
みんなそれを悲しんだ。でも仕方が無いことだとも思った。
だってマコ・・・あんなに歌うことが好きだったのに・・・。それ以上に・・・怖かったんだなって・・・。
それから残った三人でマコの分まで頑張ろうって誓い合った。
でも・・・解散してからは三人バラバラ・・・。
解散した後、私はある映画に出演した。愛ちゃんも別の映画に出演してた。
二人で「お互いに頑張ろうね!」って約束した。
でも・・・それが最後だった。愛ちゃんはそれから私に会ってくれなくなった。
それは・・・愛ちゃんが貰うはずだった賞を私が横取りしてしまったから・・・。
愛ちゃん・・・それから舞台に転向した。噂で私に会いたくないからって聞いたことがある。
それを聞いた時、私はものすごく悲しかった。信じられなかった。
でもそれは本当だった・・・。そのことを直接聞いたのは矢口さんから・・・。
でも矢口さん、「それがライバルってもんだよ」って言って励ましてくれた。
だから私も愛ちゃんに負けないようにって思ってこうして頑張ってる。
いつかきっと、また昔みたいに会えるんだって・・・そう言い聞かせて・・・。
と、二曲目が終わり、マコが私の映画の話を切り出す。
この映画は住宅街に迷い込んだタヌキと失恋で落ち込んでいた女性との交流を描いた物語・・・。
出演してる本人が言うのも何だけど、これが結構心温まるいいお話なんだよね。
「このタヌキがね、私にそっくりなんですよ!もうすっごいかわいいんです!」
そう言うとマコは嬉しそうに私をからかう。「どっちがどっちかわからなくなるね」だって!
「それとね・・・仙台で撮影してたんだけど、エキストラでね、すっごい懐かしい人が出てるの!」
そう・・・この映画の撮影で、一人の女性が地元のエキストラとして出演してる。
それは私にとってとっても大切なお友達・・・そして、みんなにとっても・・・。
激しく期待
第三部キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━!!!
きもくて、ぜんぶ、読みきらん。第二部まではしっかり読んでたのに・・・。
気分悪くなってきた・・・・・・ゲロゲロ〜〜〜〜〜
キタキタキタキタ━━━(゚∀゚≡(゚∀゚≡゚∀゚)≡゚∀゚)━━━━!!!!!!!!!!
早く続きが読みたくなるこの感じ、待ってましたよ
ゲロゲロ〜〜〜〜〜sage
それからしばらく中澤さんとおしゃべり。
中澤さん忙しいんだろうけど、あの人思い出話になると話が止まらないのよね。
でもなんだかウキウキしちゃうな・・・同窓会って!
みんなは来るのかな?
マコちゃんとは今でもよく会ってるし、先月もマコちゃんのラジオに呼んでもらったけど、
愛ちゃんなんか全然会ってもくれないのよね・・・。やっぱりまだあのこと気にしてるのかな?
それに希美ちゃんや亜依ちゃんにも会いたいなあ。
希美ちゃんとはこの前会ったけど、やっぱり子供連れてきたりするんだろうな。
結婚した時はまさかちゃんと家事をこなすなんて思いも寄らなかったけど、今ではいいママなのよね・・・。
私も早くいい人見つけないと・・・。
でも・・・一番気になるのはやっぱり里沙ちゃん・・・今どうしてるんだろ・・・。
幸せはお金じゃ買えないって言うけど、やっぱり現実的にはお金があるから幸せなんだよね・・・。
・・・っと、いけないいけない。
いつの間にか頭の中がお金のことでいっぱいになってる・・・。
でも私にとって今一番大事なのは如何にして融資を得るかってことなのよね・・・。
出資者が一人も集まらなければすぐに諦めがついたんだけど、
中途半端に集まっちゃったからなあ・・・今さらやめるなんて言えないしね・・・。
と、コンコンと部屋のドアをノックする音。
ドアの隙間から顔を見せたのは私のマネージャーだ。
「おい紺野!保田さん入られたから、ちゃんと挨拶行っとけよ!」
いつも通りの冷たい態度。・・・でも、このマネージャーのおかげでこうして仕事ができるのよね。
業界切っての敏腕マネージャー。なんで私なんかの担当になったんだろう・・・。
「はーい、すぐ行きまーす!」
もうこの辺↑でげろげろ〜〜〜ダタヨ
>>66-67 気に入らんなら読まなきゃいいだろ?
なんで毎日チェックしにきてるんだ?
それから、荒らすな!
69 :
山崎渉:03/05/28 14:05 ID:???
∧_∧
ピュ.ー ( ^^ ) <これからも僕を応援して下さいね(^^)。
=〔~∪ ̄ ̄〕
= ◎――◎ 山崎渉
>>68荒らしてないよ。
前作、前々作読んだから気になるんだよ。
けど、げろげろ〜〜〜なんだよ。
見るなと言われても気になるんだよね。怖いものみたさ。
>>61 ありがとうございます。
>>62 第三部きました。
>>63 少年マンガがいきなり少女マンガに変わるような感じでしょうか。
気分が悪いのならビニール袋を準備することをお薦めします。
>>64 ありがとうございます。励みになります。
>>65 一度聞けばわかります。
>>66-67 特定箇所に批評・感想がある場合はレス番号で指定してください。
それから「げろげろ」なのはわかりますが、一度聞けばわかります。
>>68 数少ない読者同士仲良くいきましょう。
まあ賛否両論は予想済みですので。
>>69 イヤです。
>>70 あなたが気分悪いのは十分に伝わりましたが、
作風を変えるつもりはもちろんありません。
>>71 長文コピペさえしなければ何の問題もありませんので。
軽い忠告かと。
----Future Episode - actress11 "Asuka Fukuda"
「さすがにそれは奇抜すぎではないですか?」
「詞と楽曲を提供することには異存はないですが、私の曲はあの子たちとは合わないと思いますよ」
「むしろ、紗耶香自身が歌うのであれば・・・」
そう言いかけたところで紗耶香が左右の拳をコツンと合わせる。
これは同意したという紗耶香の昔からの癖だ。
「わかりました。それでは最高の楽曲を提供しましょう。その代わり、紗耶香も最高の楽曲を提供してください」
紗耶香と私の音楽の方向性は全く違う・・・。
私が心で感じるような曲作りをモットーとしているのに対し、紗耶香は体で感じるようなリズミカルな曲を作っている。
そんな二人がお互いの曲を交換して歌う。いかにも話題性を追求する紗耶香らしいやり方だ。
「たまにはアップテンポの曲もいいかもしれません。バラードしか歌えないと思われても嫌ですからね」
それは単なる建前ではない・・・。
音楽を追求するということは、自分のスタイルを確立するとともに、新たなスタイルにチャレンジし続けることでもある。
そして、私にとって紗耶香の音楽性はそうしたチャレンジに叶うもの、更に言えば最適なものと言えるのだ。
「ただし、一つだけ言っておきますが・・・売れるための曲だけは作らないでくださいよ!」
そう、それが私が感じていた紗耶香の曲の正直な感想・・・。
紗耶香の曲は確かに耳障りは良い。ついつい口ずさんでしまいたくなるような曲だ。
確かにそれで私の何十倍も稼いでるけど、でも、その実、心に訴えかけてくるものが無いのも事実。
ある意味、私の曲とは正反対・・・。
ただし、だからこそ、お互いを補い合える今回の企画は二人にとって重要な意味を持つものと確信している。
「さて、仕事の話はそれくらいにしましょうか。せっかく紗耶香と二人きりなんですから」
紗耶香と私はともに苦難を味わった仲だ。
紗耶香はモーニング娘。をやめた後、全く曲が売れずにいつも落ち込んでいた。
一方の私は、芸能界から引退したものの学業もうまくいかず、密かに復帰の時期を窺っていた。
そんな二人が再会したのが、大阪のとある部屋・・・。裕子が用意した卒業メンバーが集まる部屋だ。
圭がやめ、麻琴という五期の子がやめ、そして圭織となつみがやめ、その部屋は徐々に人数を増やしていった。
ただ、それでも現役のモーニング娘。と比べると、やはり皆、思うようにはいっていなかった。
特に私と紗耶香の二人は何の後ろ盾もなく、まさにどん底に沈んでいる状態だった。
その部屋に行き始めてちょうど二年が過ぎた2005年4月、モーニング娘。がついに解散を迎える。
つまり、その時からその部屋はモーニング娘。だった23人全員が集まる場所になったことになる。
ほとんど私が知らない子たちだったけど、しかし、私はそれを絶好の機会と見ていた。
全員がモーニング娘。という枠組みを離れ、後は実力でのし上がるしかなくなったのだ。
そして、私は復帰を果たした・・・。
しかし・・・全く売れなかった。一曲目、ニ曲目・・・自慢の曲が全て外れた。
給料制じゃなかったから事務所との契約が切れることはなかったけど、かなり苦しかったのを覚えている。
娘。解散から半年後、突然紗耶香が姿を消し、そしてその部屋も機能を止めた・・・。
私は紗耶香のために曲を作った。これで最後だと決めていた。
最後だから・・・ありのままに自分の気持ちを詞にぶつけてみた。曲名は『また逢える日に伝えたい言葉』・・・。
最初は全く売れなかった。チャートの下の方を行ったり来たりしていた。
でも・・・その曲がチャートから消えることは無かった。
私が知らないうちに口コミでじわじわと人気が出始め、一年後にはトップテンにまで上り詰めていた。
そして、そんな私の元に紗耶香が姿を見せた。
紗耶香は言った。「おめでとう・・・今度は私の番だね!」
こうして私と紗耶香は再び良きライバルとして歩き出した。
私にとって絶対に負けられない存在・・・そしてかけがえの無い存在・・・それが紗耶香・・・。
----Future Episode - actress12 "Sayaka Ichii"
「それでどう?先週話した企画・・・私はおもしろいと思うんだけどなあ・・・」
「そうでしょ?・・・だからそれが狙いなのよ!」
明日香がしぶってるのは、多分私がプロデュースしてる"Life has started"とのギャップなんだろうなあ。
私もそれは覚悟してるけど、でももっともっとチャレンジしてみたいんだよね・・・。新しいことに・・・。
と、明日香が一つのことを提案する。
「じゃあそれでいこうよ!私が明日香の曲を歌う。それで明日香が私の曲を歌う。それならいいでしょ?」
明日香の作った曲・・・実は前々から歌ってみたいと思ってたのよね。
だって私には全然作れそうにない曲なんだもん。
最初はあの子たちに歌わせるつもりだったんだけど・・・ま、これでいいのよね。
「それじゃ私も明日香のために最高の曲作るよ。滅茶苦茶激しいビートの効いた曲にしてあげるね」
それ、ユーモアのつもりだったんだけど、明日香には通じてないんだろうなあ。
それから二人でお酒を飲みながら談笑。
私と明日香は良きライバルであり良き友・・・良くも悪くもお互いを知り合った仲だ。
二人とも売れない苦難の時代を経験し、そして同じ年――今から五年前だっけ――に紅白出場を果たした。
最近ではどちらが早く結婚するかでも争ってる。
私が31歳。明日香が30歳。二人とも三十路に入ってからかなり焦ってる。
だけどなかなか理想の男性とは巡り合えないのよね・・・。あれ以来・・・。
・・・私は以前、ある男性と一緒に暮らしていたことがある・・・。
それはとても充実した時間・・・でも・・・彼はすぐに私の前から姿を消した・・・。
あれはいつだったかな。モーニング娘。が解散して半年くらい経った頃だったと思うけど・・・。
私はある事件を起していた。それは・・・自殺未遂・・・。
今となってはどうしてそんなことをしようと思ったのかわからない。
事務所をクビになったのはそれより一年も前のことだし、特にその時期に悩みがあったわけでもない。
あるとすれば、そんな退屈な毎日に慣れてしまっている自分に気づいたこと・・・。
そして・・・そんな私を救ってくれたのが彼・・・。
彼は私を思い切りぶん殴って、そして大きな声で怒鳴ったっけ。
「馬鹿野郎!死んでどうなるんだよ!そんなに死にたいのなら、俺がお前を殺してやる!!!」
「だけど・・・それまでは俺がお前を守ってやる!だから死のうなんて考えるな!!!」
あの言葉・・・今でも鮮明に覚えてる・・・。あの言葉で私は彼に惹かれてしまったの・・・。
そして・・・しばらくしてから私は彼と一緒に逃げ出し、ある田舎の町で二人暮らしを始めた。
彼には好きな人がいた。それは私じゃない別の人・・・。
でも彼は私にとても優しく接してくれた。そして私を守ってくれた。
だから、私は今でも彼にとても感謝してる・・・。今の私があるのは彼のおかげ・・・。
「ねえ、明日香・・・。私たちがいなくなった時・・・みんなは・・・どう思ってたの?」
「やっぱり・・・悪い女だって思った?」
そう・・・私は悪い女・・・。自分でもそう思う。
調和を奪い、自分勝手に行動し、そしてみんなに迷惑ばかり・・・。
どうしてこんな性格になっちゃったんだろ。小さい頃からそうだった。
仲間に溶け込むことができなかった。自分が全てだった。今でもそう・・・。
明日香は私のこと、友達として接してくれるけど・・・でも、どこかにそれを疑ってる自分がいる。
それは・・・私が他人を信じていないから・・・。そして自分を信じていないから・・・。
----Future Episode - actress13 "Ai Kago"
なんでうちがこんなつまらん芸人に囲まれてなあかんねん・・・。
こいつら芸人なんて名前だけやんけ。うちの方がよっぽど多芸やで・・・ほんま。
うちは今、こうして芸人と一緒にバラエティ番組に出てる。
なんやしらんけど、気づいたらそうなっとった。
うちは女優やで。歌手やで。なのになんで今はこんな扱いやねん!
やっぱあれがいけなかったんやろか・・・。そや、絶対そうに決まってる!
あれが原因でうちは吉本なんかに移籍するはめになってしもたんやから。
それからずっとこうや。何が女優やらせてあげるや。何が歌わせてあげるや。
歌わせてくれたことなんて一度もあらへんやんか!!!
女優だってそうや!なんで芸人と一緒にドラマのおまけで顔出さなあかんねん!!!
おまけに給料は雀の涙や!うちは加護亜依やで!モーニング娘。のあいぼんやで!!!
なんでやねん!!!なんでやねん!!!なんでこんなことになっとんねん!!!
そりゃうちだってトーク番組は好きやで。バラエティも好きや。ものまねだって好きや。
そやけど、それは本業やあらへん。あくまでもおまけや!サービスや!!!
そやのに、なんでそれが本業になっとんねん!!!
なんでうちがそんな扱い受けなあかんねん!!!
絶対に納得いかへんいかへんいかへえーーーーーーーーーーん!!!!!
「なんや、里子!うちがタバコ何本吸おうと勝手やろ!あんたが口出すことやあらへん!!!」
あー!!!なんやイライラする!!!
赤い血がドバッと出るとこ見たい気分やわ!!!
他人の不幸でも見ーひんとやっていけへんで!!!!!
「里子!あんたも覚悟するんやで!芸能界なんて汚い世界や!金と欲と見栄や!それだけや!」
そや。絶対にそうや!そうに決まってる!!!
あのおばはんかてそうや。使ってもろてる身で言うのもなんやけど、あんなん汚いだけや!
毒舌?辛口?本音?・・・それがなんやねん!うちからしたら全然おもろないねん!!!
それにあんなんどこが毒舌やねん!辛口やねん!本音やねん!
きちっと最低のラインは守っとるやんけ!人の心なんてもっともっと汚いもんやろ!!!
倫理?道徳?そんなん捨ててしまえ!それが本音やろ!そうや、それが本当の人の心ってもんやろ!!!
あー!なんやわけわからへん!この世界は汚いんか?綺麗なんか?どっちや?どっちやねん!!!
人の心は綺麗なんか?それとも汚いもんなんか?どっちや?どっちやねん!!!
あかんあかん!!!・・・なにもかもがわからへん!!!
それもこれも・・・なんでうちはこんな扱いやねん!なんで里子と同じ楽屋やねん!
そりゃ里子はいい子やで。ほんまにいい子や。最近では珍しいくらいいい子や。
そやけど、うちは加護亜依やで!天下の加護亜依やで!モーニング娘。のあいぼんやで!!!
なんでこんな狭い楽屋に後輩と一緒に詰め込まれなあかんねん!!!
「もういい・・・もういい!・・・もうたくさんや!こんな世界やめてやる!そや、ここはうちが住む世界やあらへん!!!」
「うるさい!里子!!!うちがやめるんはうちの勝手や!他人がどうこう言うことやあらへん!!!」
と、部屋のドアをノックする音。そして例のおばはんが入ってくる。
「あ、中澤さん、今日はお疲れ様でした。来週も絶対におもろいこと言いますさかい!」
なんでやねん・・・なんでやねん・・・なんでうちはこんなおばはんにペコペコしてんねん。
やめてやるんやなかったんか?なんで、うちはそれでも生き残ろうとしてんのや?
そないにこの世界に未練があるんか?そないにこの世界が魅力的なんか?
わからへんわからへんわからへんわからへーーーーーーーーーーん!!!
----Future Episode - actress14 "Satoko Okajima"
今日も加護さん・・・かなり荒れてる。
私がモーニング娘。に入った頃の加護さんとは大違い。
特に今月はひどい・・・。タバコの本数もかなり増えてるし・・・会うたびに「やめるやめる」って言い続けてる。
中澤さんは付き合ってた男性に振られたからだって、あまり関わらない方がいいって言ってたけど、
でもそれ以上に何か理由があるみたい。私にはよくわからないけど・・・。
「あのお・・・加護さん・・・ちょっとタバコの本数多いんじゃないですか?」
言っても意味ないってわかってるけど・・・やっぱり心配。
だって・・・私、加護さんに憧れてモーニング娘。に入ったんだから・・・。
だから加護さんには、昔みたいに元気で明るい加護さんでいて欲しいの・・・。
と、部屋に中澤さんが入ってくる。
加護さん、急に静かになる。
そうなのよね。加護さん、昔から中澤さんにだけは弱いのよね。
中澤さんから同窓会の話を聞く。もちろんモーニング娘。の同窓会・・・。
私がモーニング娘。に入ったのは2004年の8月・・・。
七期メンバーとして、私とまどかちゃんの二人が石川さんと吉澤さんの代わりに加入したんだよね。
でも・・・それから一年もしないうちにモーニング娘。は解散しちゃった・・・。
とても淋しかったけど、でもそれは仕方が無いことだった。
それから一年くらいは芸能界にいたんだけど、すぐに引退して学業に専念。
一度引退したのは私には何の取り得も無かったから。
まどかちゃんみたいに歌も上手くないし、それに演技もトークも全然駄目だったから。
そんな私だけど・・・一つだけ自慢できるものがあった・・・。
その頃はとても恥ずかしくて毎日悩んでたけど、でもそのおかげで私はこうして復帰できたの。
それは・・・この胸・・・。
モーニング娘。だった頃はそんなに大きくなかったのに、芸能界をやめた途端に大きくなりだしちゃって・・・。
気づいたら加護さんよりも大きくなってた。
それで高校三年生の時に街中でスカウトされて・・・それからグラビアアイドルになったんだけど、
私をスカウトした人・・・今のマネージャーだけど、私がモーニング娘。だったって聞いてびっくりしてたな。
それもそのはずだよね。解散してから四年、引退してから三年も経ってたから・・・。
それから私はグラビアの仕事を始めて、そこそこ人気も出た。
最初は雑誌なんかでも「あのモーニング娘。の・・・」なんて書かれてたけど、
いつの間にかそんな呼び方もされなくなってた。その時初めて認められたって思ったっけ。
でも・・・それから六年・・・。
戦隊物のヒロインで一度だけ脚光を浴びたけど、最近では仕事も無くて結構暇してる・・・。
中澤さんの番組にこうして使ってもらってるけど、レギュラーはこれ一本だけ。
事務所からはそろそろ覚悟を決める時期だって言われてる。
でもね・・・絶対にイヤなの・・・脱ぐのだけは・・・。
だってわかるんだもん。今の私・・・例え脱いでも・・・それは私じゃない!
私が脱いでも・・・そこに書かれる言葉は決まってる・・・。
それは・・・「元モーニング娘。」・・・。
やっぱり私は一人では何もできなかった。モーニング娘。があってこその私だった。
それは最初からわかってた・・・。でも認めたくなかった・・・。
私には何の価値も無いって・・・。そんなこと・・・思いたくなかったから・・・。
----Future Episode - actress15 "Nozomi Tsuji"
「ねえ、あなた・・・今度の日曜日・・・久しぶりにお買い物に連れてって欲しいんだけど・・・」
「日曜日にね、うちのパパとママが来るの・・・。速人(はやと)と記美香(きみか)に会いたいんだって・・・」
「だからね、久しぶりに二人で過ごしたいの・・・ねえ、駄目かな?」
結婚した頃はこうじゃなかった。あなたはいつも私のことかまってくれてた。
色んな場所に連れてってくれた・・・。いっぱい遊んでくれた・・・。とても楽しかった・・・。
でも・・・今のあなたは・・・。
「・・・あなた・・・最近いつもそう・・・。仕事仕事って・・・私よりも仕事ばっかり・・・」
「そんなに得意先とのゴルフが大事なの?私よりも大切なの?」
どうしてこうなってしまったのかな・・・。あなたは変わってしまったわ・・・。
あの頃は・・・あの頃は・・・あんなに私にかまってくれてたのに・・・。
私だけを見ててくれた・・・。私もあなただけを見てた・・・。
どうしてなの?私と結婚したのは・・・単なる気まぐれだったの?
それとも、モーニング娘。の辻希美が好きだったの?ただの辻希美には興味は無いの?
私が主人と知り合ったのは・・・私がまだ現役のモーニング娘。だった頃・・・。
私たち現役メンバーが集まる秘密の部屋の一つ・・・そこのおじさんが・・・今の主人・・・。
私たちはこっそりと付き合ってた。そしてモーニング娘。が解散して三年後、私たちは結婚した。
とても幸せだった。芸能界からは引退しちゃったけど、それでも充実した毎日だった。
この町も気に入った。一緒に雪合戦をして遊んだりもした。とても楽しかった。
だけど・・・最近はずっとすれ違い・・・。ねえ・・・どうしてそうなってしまったの?
「ねえ・・・ねえってば!・・・どうしてなの?・・・私にはもう魅力は感じないの?私のこと好きじゃないの?」
・・・。
・・・ひどい・・・。
・・・そんなの・・・ひどすぎるよ・・・。
なっちと結婚すればよかっただなんて・・・そんなの・・・そんなの・・・ひどすぎるよ・・・。
でも・・・でもね・・・。
ほんとはね・・・知ってたの・・・あなたの気持ち・・・。
あなた・・・ずっとなっちのことが好きだったってこと・・・。
だけど・・・あなた・・・なっちに振られて・・・それで私のことを・・・。
でも・・・でも・・・そんなの昔のことだって思ってた。でも・・・あなたは今もなっちのことを・・・。
私、家を飛び出してた・・・。泣きながら・・・飛び出してた・・・。
そんなのってないよ・・・。私・・・こんなにもあなたが・・・あなたのことが・・・好きなのに・・・。
気づいたら電話してた・・・。懐かしい声が聞きたくて・・・。
「・・・あいぼん?・・・私・・・ののれす・・・」
「ううん、別に用事じゃないの・・・ただ・・・声が聞きたくて・・・うん・・・」
「毎週見てるよ・・・ゆうちゃんの番組・・・うん・・・」
私・・・今やっとわかった気がする・・・。私・・・ずっと・・・あなただけを頼りにしてた・・・。
あなただけが頼りだと思ってた・・・。でも・・・違ってたの。
本当に困った時・・・頼りになるのはあなたじゃない・・・。
私にとって・・・頼れるのは・・・あなたじゃなくて・・・大切な・・・そう、大切な仲間だってこと・・・。
しかし、脳内あぼ〜んだな。
石川とやりてえ
俺も
やっぱり、この板でなく、モー娘。板に貼るべきだと思う。
ニュースでもなんでもないし。ただの日記(本人曰く)だから。
>>83 はい。
>>84 私に言われても困ります。
>>85 同上。
>>86 そういった意見が多いようであれば検討するかもしれませんが、今は考えてません。
ちなみに「ニュース」には「消息」という意味も含まれてますので、
第三部の内容も一応「ニュース」と言えるのではないでしょうか。屁理屈ですがw
----Future Episode - actress16 "Madoka Saeki"
「あの・・・これ・・・本当に・・・本当に・・・私に・・・???」
それは驚きだった。
まさか私のことなんて、全然気にもかけてくれてないって思ってたのに。
「本当に・・・本当に・・・私が歌ってもいいんですか?」
そう尋ねると、目の前の女性が微笑みながらコクリと頷く。
「ありがとうございます!!!・・・市井先輩!」
なぜかは知らないけど、その時の私、市井さんのことを先輩って呼んでた。
今まで一度だってそんな呼び方したことなかったのに。
それに、市井さんに向かって先輩だなんて、ちょっと馴れ馴れしいよね。
でも・・・その時は嬉しさでいっぱいだった。また歌える・・・また歌えるんだって思ったら、
ついつい親近感が沸いてしまって、それで自然と口から出てしまったの。
私が市井さんと初めて出会ったのは、大阪のあの部屋。
モーニング娘。が解散してそのパーティーを開くことになった時だった。
見知らぬ先輩ばかりで緊張したけど、でもみんないい先輩ばかりだった。
私の知ってるメンバーとは全然違ってた。みんな大人だったし、そこには絆があった。
そりゃそうよね。私がモーニング娘。にいたのは一年にも満たないんだから。
でも、その時は市井さんと話した記憶はほとんど残ってない。
私、芸能界から引退したこともあって、その部屋に立ち寄る機会は多くなかった。
たまに里ちゃんやえりちゃんから呼ばれて会いに行ったくらいで・・・。
市井さんにも数回会ってるはずだけど、でも市井さんはいつも一人で物思いに耽っていたと思う。
そう言えば、その部屋のおじさん・・・色々と私のこと気にかけてくれてたんだよね。
私だけが解散と同時に引退しちゃったから、それを心配してくれてたんだと思う。
私がオーディションに応募したのも、そのおじさんの言葉を思い出したから・・・。
「そんなに暗い顔すんなって。引退してても歌うことはできるんだからさ」
「それにまた人前で歌いたいって思うようになったら、その時は一から出直せばいいだけなんだから!」
それから私は学業に専念。両親が元々芸能界入りに反対だったこともある。
それに芸能界にいなくても一人でも歌うことはできたから。あのおじさんが言ってたように。
でも、大学四年生になった時、ふと思うようになったの。また歌を聴いてほしいって、誰かに聴かせたいって。
すでに就職の内定も決まってたけど、でも歌への思いは膨れ上がる一方だった。
そんな時に偶然あのおじさんに出会った。おじさんは私に「やってみれば!」って言ってくれた。
それでもう一度やろうって決めた。
でも駄目だった。一次と二次は通ったけど、最終選考で落とされてしまった。
最終選考で私が挨拶した時、市井さんびっくりしてたっけ。それまで私のこと気づいてなかったみたい。
それもそう・・・。だって私、書類にはモーニング娘。の経歴を一切書かなかったから。
引退してから七年も経ってたから、「佐伯まどか」って言われてもわからなかったんだと思う。
書類と一緒に送った顔写真もあの頃とは変わってたしね。
オーディションに落ちた時はかなり落ち込んだな。歌には自信があったから、だから余計に。
でも・・・あれから二年・・・。市井さんは私のこと、忘れてたわけじゃなかった。
それどころか、私のために曲を作ってくれてた。それも二年もかけて・・・。
市井さん、私に合う曲を作る自信が無かったんだって・・・そう教えてくれた。
それに・・・私に謝ってくれた。待たせたからって。時間がかかったからって。
市井さん、何も悪くなんてないのに・・・。謝ることなんてないのに・・・。
私・・・市井さんについていこうと思う。市井さんの期待に応えようと思う。
だって市井さん、こんなに素敵な曲を私のために作ってくれたんだから!
----Future Episode - actress17 "Kaori Iida"
同窓会の話はあまり進んでない。日程や場所を決める以前に、連絡の取れないメンバーがいるのよね。
一応メンバーからメンバーへと伝わってるけど、それでも不完全。
芸能界にいるメンバーはゆうちゃんが事務所を通じて連絡先を調べてくれてるらしいし、
そこからそれ以外のメンバーにも少しずつ広がってる・・・。
でも・・・やっぱり不完全。
モーニング娘。の絆って・・・もっとあるって思ってたのに・・・。
でも・・・それも当然なのかもしれない。メンバーは入れ違いだし、もう十年以上も前のことだし・・・。
それにそう言う私だって・・・ほとんどみんなとは接点が無い・・・。
私は今、ゆうちゃんのマンションの前にいる・・・。
ゆうちゃん・・・郊外に大きな豪邸を持ってるけど、普段はこの都心のマンションで暮らしてるって彩から聞いたの。
ここにはゆうちゃんの個人事務所が入ってる。それで普段はその隣の部屋で暮らしてるんだって。
ゆうちゃんはモーニング娘。が解散するまでUFAに所属したままだった。
私やケイちゃんはその前に移籍したけど、ゆうちゃんは最後まで面倒を見るって言ってた。
それが初代リーダーの責任だって、義務だって・・・。卒業してすぐ逃げ出した私とは大違い・・・。
それからゆうちゃん、中堅の事務所に移籍したんだけど、五年くらい前に独立。
今では人気も仕事も安定して順調みたい・・・。
そんなゆうちゃんに会いに来たのは、同窓会の話をするため。
言い出しっぺは私なんだし、彩やゆうちゃんにばかり押し付けるわけにはいかないから。
だけど・・・結局インターホンを押しただけ・・・気づいたら逃げ出してた。
別に悩み相談に来たわけじゃないのに・・・。ただ同窓会の話をするだけなのに・・・。
ゆうちゃんの部屋・・・こんなに夜遅いのに明かりがついてた。
窓から楽しそうな声が聞こえてくる。よく聞き取れないけど、でも・・・ゆうちゃんの声だ。
ゆうちゃん・・・酔うと声が大きくなる。昔のまま。
とても楽しそう・・・私とは大違い・・・。だから私、逃げ出してた。また逃げ出してた。
家に帰る。・・・でも、そこには誰もいない。明かりもついてない。
半年前、うちの人は何も言わずに家を出て行った。それからずっと別居が続いてる。
原因は私・・・。慎吾さんは結婚した時から私に家庭に入ってほしかったみたい。
でも私は家庭よりも仕事を優先した・・・私が家庭をかえりみなかったから・・・だから・・・。
真っ暗のリビングに赤いランプが点滅してる。留守番電話・・・。
ボタンを押す。その声にびっくりした・・・。
それはケイちゃん・・・。ケイちゃんの声だった・・・。
何の変哲も無いただの声・・・なのに・・・私は泣いてた・・・。
ずっと・・・ずっと・・・みんなに会いたかったんだ・・・私・・・。
なのに・・・なのに・・・なぜか無理してたの・・・強がってたの・・・。
仕事がうまくいってるからって・・・家庭も順調だからって・・・そんなふうに振舞ってた。
でも・・・でも・・・本当は全然そうじゃなかったの・・・。ずっと苦しんでたの・・・。
だから・・・だから・・・みんなと会えなかった・・・。会おうとしなかったの・・・。
私のこんな姿を・・・見てほしくなかったから・・・見られたくなかったから・・・。
一度強がったら・・・もう後には引けなかった・・・。
ずっと演技してた。ずっと幸せだって振舞ってた・・・。
でも・・・本当は違うの・・・。
強がってたけど・・・でも・・・誰かに気づいてほしかったの・・・。
誰かに止めてほしかったの・・・こんな私を・・・。
でも・・・誰も気づいてくれなかった・・・。
それは・・・私が近寄りがたい女だから・・・冷たい女だから・・・優しくなれない女だから・・・。
私がみんなを避けてたから・・・だから誰も寄って来なかった。
それは・・・当たり前のこと・・・。なのに私は・・・。
----Future Episode - actress18 "Sayaka Ichii"
4月**日(日)午前9時
ゆうちゃんから電話。
同窓会のことで連絡が行き届いていないメンバーが数名いるらしい。
交流のあるメンバーを尋ねられる。私が知っているのは明日香だけ。
友達の少ない私にその質問はナンセンスだろう。
ただ、偶然にも今日、私は仕事の関係である子と会う約束をしている。
そのことを話すと、私から同窓会のことを伝えるようにと頼まれる。
4月**日(日)午前9時過ぎ
ゆうちゃんから再び電話。
どうやら肝心なことを聞き忘れていたらしい。
尋ねられたのはあの人のこと。今どうしているか。どこに住んでいるか。
なぜ今さらそんな質問をするのか疑問が浮かぶが、以前と同様に知らないと答える。
実際、あの人が私の前から姿を消して以来、私はあの人の行方を知らない。
もう一つ尋ねられる。ケイちゃんとは親交があるか。
答えに困る。仕方なく、すでに解決済みの問題と答える。
ケイちゃんはあれ以来、私に会うたびに気を使ってくれている。
私を責めればいいのに全くそんな素振りを見せず、逆に私を心配してくれている。
そんな彼女の態度に私の罪悪感は増える一方・・・。
それにしても、今さらなぜそんなことを訊くのだろうか。
同窓会の話と何か関係があるのだろうか。
4月**日(日)午前11時過ぎ
以前から約束していた通り、あの子が自宅に来る。会うのはオーディション以来、二年半ぶり。
彼女は顔は平凡だが、モーニング娘。の中で唯一歌唱力というものを持った人材だった。
そんな彼女が"Love Telepathy"のオーディションに応募してきた時はさすがに驚いた。
最終選考まで残ったものの落選。ただ、歌唱力の評価は応募者の中で一番だった。
彼女を落としたのは、モーニング娘。を引きずりたくなかったから。
ただでさえつんく♂の真似事と言われ、モームスの二番煎じと囁かれていた私の初プロデュース企画。
私が目指しているのはあくまでもコムロ路線であって、つんく♂などではない。それが一つ目の理由。
もう一つの理由。それは私のイメージする音楽と彼女との相性の問題。
そう言えば聞こえはいいが、本当は私の作曲能力よりも彼女の歌唱力が上回っていたから。
当時の私には彼女に見合う曲を作る自信は無かったし、多分できなかったと思う。・・・でも今は違う。
今はプロデュース業も軌道に乗り、色んな歌手に曲を提供したり、ゲーム音楽を手がけたり・・・。
一つ目のユニットはそれなりだったけど、二つ目は誰もが認めるユニットに仕上がった。
最初は自分のユニットを成功させるだけで精一杯だったけど、今は自信もついて心に余裕もできた。
彼女に二年間温めていた曲を渡す。少し遅れてしまったけど、今度こそ私が彼女の面倒を見るつもりだ。
追記 同窓会の話を伝え、連絡先を聞き出す。なお、現在誰とも交流は無いとのこと。
4月**日(日)午後2時
スタジオに入り、"Life has started"のアルバム収録に立ち会う。
前回のアルバム同様、今回もミリオンを狙うつもりだ。自然と力が入る。
ただ、メンバーに必死さが見られない。発破をかけるために収録を中断させる。
世間からアイドルと言われて持て囃されているからだろう。あくまでアーティストということを肝に銘じさせる。
4月**日(日)深夜
彼から電話。また別れ話。いつものことと思い相手にしない。
----Future Episode - actress19 "Yuko Nakazawa"
「なんや?こんな遅うに・・・また怖くて一人や寝れへんのか?」
紺野はよくうちの部屋へ来る。お互いのマンションがすぐ近くということもある。
先週はオバケが出たとか言うてやって来よった。・・・しかも自分の枕を持って。
ただ、今日は枕は持ってへんみたいや。どうやらうちに話があるらしい。
「紺野!あかんで、それはあかんで!なんで今さらあの男やねん!」
「あの男は紗耶香と一緒にうちら捨てた男やで!なんでうちらの同窓会に呼ばんとあかんのや!」
そうや、あの男はうちらを捨てた男や。ケイちゃんを捨てた男や。そやのに、なんで今さらになって・・・。
ただ・・・紺野の言うこともわからへんこともない。
ケイちゃんはそんな素振りは見せへんけど、今でもどっかであの男のこと引きずっとる。
うちはあの子の留学も結婚も離婚もそれが原因やと思っとる。
そやけど・・・それは個人的な問題や。うちら全体の問題とはちゃう・・・。
「確かにメンバー全員が世話になったんはあの人くらいや。東京のおっさんたちは何度も替わっとるしな・・・」
うちらがモーニング娘。やった頃、東京にはうちらが集まる部屋があった。
つんくのおっさんが仕事でストレスがたまっとったメンバーのために用意した憩いの部屋や。
それとは違って大阪にあったんがモーニング娘。をやめたメンバーのための部屋。
みんな仕事がうまくいってへんかったから、気分転換にと思ってうちが用意したんや。
ちょうどケイちゃんの卒業ドラマで使えそうな男がおって・・・それがあの男・・・。
あの男とケイちゃん・・・お互いに好き合っとった。そやけど、二人ともじれったいほどウブやってん。
「紺野の気持ちもようわかるで。うちかてあん二人にはうまくいってほしかってん。そやけどな・・・」
「あの男はあんたが思ってるような男やあらへん!」
そう・・・あの男はケイちゃんを捨てて紗耶香と逃げ出したんや。それに・・・それにな・・・。
「もう時効やし・・・紺野やから言うけどな・・・うち・・・あん人と関係があってん・・・」
そうや・・・うちは彼と関係があった。最初は酔った勢いやったけどな、それからは惰性や。
二人きりの時にはようそんなことになっとった。そやから、あの男は紺野の思っとるような男やあらへんのや。
「もちろん結婚する前の話やで!そやけど・・・何度かエッチしたんは確かや・・・」
紺野にはそう言うたけど・・・ほんまは結婚した後も何度かあってん。さすがにそれだけは言えへんやろ。
うちが結婚したんは2005年8月。モーニング娘。が解散して四ヵ月後のことや。
それから紗耶香の事件が起きるまでの三ヶ月。最初に求めてきたんは向こうの方やった。
そやけど、次はうちから求めとった。あの男もアホやけど、うちもアホやってんなあ・・・。
紺野・・・そんな話聞いても顔色一つ変えへん。それどころか一歩も引かへん・・・。
昔っから変に勘の鋭い子やったし、それに見かけによらず結構頑固な性格やからなあ。
「わかったわかった。ほならそのおっさん探すわ。紗耶香なら居場所知っとるかもしれへんしな・・・」
ただ・・・それがケイちゃんのためになるんかは正直言ってわからへん。
紗耶香との関係を悪化させるだけかもしれへんし、それに、あれからもう十年以上経っとんねん。
例えケイちゃんが今でも好きやったとしても、向こうはわからへん。まあケジメをつける意味では必要なんかもしれへんけどな。
「まあええわ。とりあえず今日はとことん飲みたい気分や!紺野も付き合ってくれへんか?」
それから二人で酒を飲む。紺野もええ年やのに彼氏おらへんみたいで、最近はこうして二人で飲むことが多い。
しばらくしてインターホンが鳴る。でも一階のモニターには誰も映ってへんかった。
そやからそん時はいたずらやと思ってん。
まさか圭織が悩んどるなんて・・・その時は全く思いもよらへんかってん・・・。
----Future Episode - actress20 "Asami Konno"
「お願いです!私たちの同窓会に、もーちゃんさんを・・・もーちゃんさんを呼んでほしいんです!!!」
私は今、中澤さんのマンションにいる。ここにはよく遊びに来るけど、今日来たのはいつもとは違う理由・・・。
だけど中澤さんは反対だった。それは予想できたこと。でも、それだけは譲れなかった・・・。だって・・・。
「お願いします!私、もーちゃんさんに会いたいんです!・・・それに・・・」
もーちゃんさんに会いたいというのは本当のこと。でも・・・本当の理由は別にある。
それは保田さん・・・。
私、ずっと保田さんの気持ちに気づいてなかった・・・。
もう十年も前のことだし、何より保田さんは未来に向かって生きてる人だから・・・。
だけど違ってた。保田さんはずっともーちゃんさんのこと引きずってた。
それに気づいた時、私はやっと思い出したの。もーちゃんさんと保田さんの関係を・・・。
二人は両想いだった。だけど二人はそれ以上の関係を望んでいなかった。
当時の私はそんな二人の関係がわからなかったけど、やがて理解することができるようになった。
それが二人が選んだ愛の形だってことに・・・。
私、ある時、もーちゃんさんに尋ねたことがある。「恋」と「愛」の違いについて・・・。
好きな人ができて、でもどうしたらいいかわからなくて・・・それでもーちゃんさんに・・・。
もーちゃんさん言ってた。「恋」は自然なものだけど、「愛」は自発的なものだって。
人を好きになる、人に恋することは自然になるものだけど、「愛」は違うって。
「愛」は自分の意志で選ぶものだって。貫くものだって。
それを聞いた時、私は勘違いしてた。
もーちゃんさんと保田さんの間に「愛」は無いんだって。「愛」を選ばなかったんだって。
だけど後になって気づいたの。それが二人が選んだ「愛」の形だってことに。
中澤さんはただ勇気が無いだけやって、子供の恋愛やって嘲笑ってたけど、私は違うと思った。
二人は自分たちの意志でああいう関係を選んだんだってわかったの。
だってあの部屋はみんなのための部屋だから。だから保田さんだけ特別扱いは出来なかったんだと思う。
二人ともそのことを知ってた。だから二人はそういう関係を選んだんだと思う。
それに私、思うの。・・・二人のその愛の形は今もまだ続いてるんだって。
もーちゃんさんは市井さんと逃げちゃったし、保田さんも一度結婚してるけど、
それでもその愛は決して終わったわけじゃないって。二人ともその愛の形を貫いてるんだって。
離れ離れになっても、どれだけ時間が過ぎても、その愛は今も変わってないって・・・。
「お願いです!もーちゃんさんを呼んでください!お願いします!中澤さん!」
私、もーちゃんさんと保田さんの仲が羨ましかった。こんな素敵な恋愛がしたいって思ってた。
だから二人にはハッピーエンドを迎えて欲しいの。じゃないと・・・なんだか淋しすぎて・・・。
中澤さんからもーちゃんさんとのことを聞かされる。でもそれは薄々気づいてたこと。
でもそれはそれでいいと思う。そんな事実があったとしても、それも二人の愛の形には関係ないんだから・・・。
それに・・・今日お願いしたのにはもう一つの理由がある・・・。
モーニング娘。はメンバーが入れ違いで、それぞれのメンバーにそれぞれのモーニング娘。がある。
例えば、私のモーニング娘。と中澤さんのモーニング娘。が全然違うように・・・。
そんな各メンバーを集めて同窓会を開いたとしても、それはちぐはぐなまま・・・。
だけど、そんなモーニング娘。にとって、唯一全員が同じモーニング娘。というまとまりになったことがあった。
それはあの部屋。あのもーちゃんさんの部屋。
あそこではみんなが同じモーニング娘。だった。先輩も後輩も同じモーニング娘。の仲間だった。
だからまたあの時みたいに集まりたいの。モーニング娘。の一人として・・・。
読者がいるのかいないのかわからなくなってきましたが、
気ままに続けたいと思います。
----Future Episode - actress21 "Risa Niigaki"
半年間一度も開いたことのない窓・・・揺れることを忘れたカーテン・・・明かりのついていない部屋・・・。
暗い・・・暗い・・・暗い・・・暗い・・・暗い・・・暗い部屋・・・。
その暗い部屋にカラフルな光が瞬き、揺れ動いては消える・・・。
暗い部屋に一つだけ光をもたらすもの・・・それはテレビ・・・。
音も無く、ただその汚らわしい光だけが部屋の中を照らし出す。そしてまるで生き物のようにうごめいては消える。
テレビの画面には見慣れた顔が映っている。毎日この時間になると決まって映る顔。
いやらしいまでに自信に満ちたその表情・・・。その表情を見るたびに凄まじい嫌悪感を覚える。
どうせこいつも私を嘲笑っているに違いない・・・。
今の落ちぶれた私の姿を見て嘲笑っているに違いない・・・。
絶対にそうとしか思えない。昨日の電話もそう・・・それは私への嫌がらせ・・・。
人生を成功した自分と失敗した私を見比べて悦に浸っているのだろう。
愚か者だ。愚か者だ。愚か者だ。愚か者だ。愚か者だ。
しかし、決してそのテレビの画面を消すことはない。
愚か者の姿を目に焼き付ける・・・それが今の私の唯一の楽しみ・・・。
こいつもいつかは私のように落ちぶれるのだ。
焦ることはない。そして私が直接手を下す必要もない。
この世は盛者必衰。いつか必ずこいつも私と同じ目に会うのだ!
今のうちにはしゃいでおくがいいさ。そして、一つだけ覚えておくがいい。
天狗になれるのも今だけってことを。・・・そう、それは愚か者が私にほざいたセリフ・・・。
テレビの画面から愚か者が消え、こうして私の楽しみは終わる・・・。
そして再び暗闇が支配する空間へと戻る・・・。
どうしてこうなってしまったのか・・・。私は誰もが羨む人生を突き進んでいたはずだ。
コネとはいえ、大人気のアイドルグループだったモーニング娘。に加入し、
やれガキだの、やれブスだの、やれマメだのと散々言われながらも「まゆげビーム」で一世を風靡。
モーニング娘。が解散した直後は多少ふるわなかったものの、
大胆なイメージチェンジ戦略によって人気を獲得し、古参の先輩たちを抑えて活躍。
これまたコネを使ったとはいえ、17歳の時にはベストジーニストにも選ばれ、もはや敵無しの状態だった。
そんな私を妬む連中も多かった。特にあの中澤はかなりしつこかった。
やれ謙虚になれだの、やれ天狗になるなだの、散々先輩面しやがって。
ちょっと自分の人気が上がってきたからって私に向かって説教とはいい度胸だ。
そんな愚か者の忠告を無視して更に活躍し、20歳の誕生日に結婚して惜しまれながら引退。
山口百恵並みの衝撃的な引退劇に日本中が大騒ぎするなど、全ては私の狙い通りに進んでいた。
結婚の相手は私のデビュー当時からのファンで、ある企業の社長の次男坊。俗に言う玉の腰というやつだった。
しかし結婚生活は退屈なものでしかなく、暇つぶしに小さな会社を貰って遊んでいたのが唯一の失敗。
会社の金をつぎ込んで小豆を買い占め、市場の独占を狙うも突然の値崩れ。
それで会社は破産し、責任を取らされて離婚。更には慰謝料がもらえないという不当な判決を受ける始末。
仕方なく芸能界に復帰しようとするも、突然のバッシング報道。
あれだけ私にペコペコしてたくせに、突然手のひらを返したように騒ぎ立てやがって。
どうせあの愚か者にでもそそのかされたのだろう。しょせんはマスゴミ。愚かな奴らだ。
結局私はあまりにも成功しすぎていたのだろう。だから妬まれて失脚したのだ。
そう、私は何も悪くない。悪いのは私を妬んで私を貶めようとした奴らなのだ。
そして、そいつらはまた私を罠にはめようとしている。
モーニング娘。の同窓会・・・。それも私を誘い出すための罠に決まっている。
そう、ただ私を見下し、嘲笑いたいだけなのだ・・・。
----Future Episode - actress22 "Natsumi Abe"
なっちの日記
今日は家族三人で遊園地に行ったよ!
観覧車に乗って、ジェットコースターに乗って、それにお化け屋敷も!
なっちは怖くてずっとみっちゃんにしがみついてたよ!みっちゃん珍しく照れてたよ!
それから戦隊物のショーを見たよ!乱太郎もかなり喜んでたよ!
その後、モノマネショーが始まったよ!色んなモノマネ見たよ!
でもびっくりしたよ!あいぼんが出てたんだよ!みっちゃんも喜んでたよ!
「加護やで!加護やで!加護が出てるで!」って叫んでたよ!
なっちも思わず「あいぼん!あいぼん!あいぼーん!」って叫んでたよ!
あいぼんは気づかなかったみたいだけど、久しぶりに生あいぼん見れて嬉しかったよ!
それから三人でボーリングに行ったよ!
一時間も待たされたけど、今ブームだから仕方ないんだよね!
なっちはあいかわらず下手だったよ!スコア60だって!
でもみっちゃんは凄いよ!ストライクいっぱい出してたよ!
乱太郎も「パパすごい!パパすごい!」って喜んでたよ!
ボーリングの後は食事に行ったよ!
ホテルの最上階にあるレストランだよ!夜景がすごい綺麗だったよ!
乱太郎ははしゃぎ疲れて食べながら寝ちゃってたよ!
それ見てみっちゃんおもしろいこと言ってたよ!
「なんや、まだまだ子供やなあ」だって!
それから家に帰ったよ!テレビつけたらゆうちゃんが出てたよ!
色んな歌手にイチャモンつけてたよ!おもしろかったよ!
今日は生あいぼんも見れたし、テレビでゆうちゃんも見れたよ!
とても懐かしかったよ!みっちゃんもみんなに会いたいって言ってたよ!
また会いたいな!みんなで同窓会とかしたいな!
でもみんな忙しいから無理だよね!
ゆうちゃんやケメちゃんはいっぱい活躍してるよね!
ゆうちゃんの番組はうるさいけどとってもおもしろいよ!
ケメちゃんの『ハリウッド女優の事件簿』シリーズもたまに見てるよ!
それに市井ちゃんや明日香ちゃんのCDも少しだけど持ってるよ!
みんながんばってるよね!でも、なっちもママがんばってるんだよ!
なっちは幸せいっぱいだよ!毎日が幸せだよ!
みっちゃんには愛されてるし、乱太郎はすっごいかわいいんだよ!
少しやんちゃだけど、元気いっぱいの男の子だよ!
この前は算数のテストで100点取ったんだよ!100点だよ、100点!
すっごい頭もいいんだよ!
みっちゃんは将来大物になるって言ってるよ!
なっちもそう思うよ!
それにママのこと「なっち」って呼ぶんだよ!なっちだよ、なっち!
すっごいかわいいんだよ!
でもパパのことは「パパ」って呼ぶんだよ!不思議だよね?
なんで「つんく」って呼ばないのかな?
でもなっちはなっちだからそれで満足だよ!
みんなもなっちみたいに幸せなのかな?
でもなっちが一番幸せだよ!だってなっちが世界で一番幸せなんだもん!
----Future Episode - actress23 "Ai Takahashi"
長い公演がようやく終わった。
今回の舞台は客の入りも上々だったし、評価も上々だった。かなり満足のいく結果と言える。
『東京三浪物語』・・・前半でセーラー服を着るのはちょっと恥ずかしかったけど、
それでも今回は自分でも楽しい舞台だった。客席からの笑い声がこれほど嬉しかったのは初めて。
今回は脚本にも参加したし、何より私向けに少しアレンジしてもらってる。主人公は福井県出身の女の子。
モーニング娘。だった頃は、わざと訛った言葉を言わされるのが嫌だったけど、
久しぶりに話す福井弁は逆に新鮮。お客さんも喜んでくれてた。
特に私が話す福井弁をみんなが辞書を使って標準語に翻訳する予備校のシーンはかなりウケてたみたい。
それと、私にとって嬉しかったのが、初日に保田さんと石川さんが見に来てくれたこと・・・。
保田さんは毎回私の舞台に足を運んでくれてる。私の演技がいい刺激になるんだって。
でもハリウッド女優から誉められるなんて、ちょっと照れくさいんだよね。
ただ・・・それでも何かが足りない気がする・・・。まだ納得がいかない部分が残ってる・・・。
それは何?・・・お客さんにも喜んでもらった。自分でも納得がいく芝居ができた・・・。
だけど・・・何かが足りない。それは・・・何?私はこれ以上、何を望むというの?
でも・・・本当はわかってる・・・。私が望んでるのは・・・あの子に勝つこと・・・あの子から認められること。
お客さんでもない、評論家でもない、先輩たちでもない、ましてや自分でもない・・・それはあの子・・・。
あれは忘れもしない、モーニング娘。が解散した年のこと・・・。
私はある映画に出演した。一流の俳優さんの中に私もいた。
演技には元々自信があったし、それに周りの演技を見ながら徐々に演技を学んでいった。
そして自分でも満足のいく演技ができた。周りの評価も良かった。
若手の俳優を対象にした映画賞にもノミネートされた。
前評判はかなり良かった。私が選ばれるってみんな思ってた。だから私もそう思ってた・・・なのに・・・。
蓋を開けたら違ってた・・・。選ばれたのはあさ美・・・。そう・・・紺野あさ美・・・。
それまであさ美のことなんか、全然相手にしてなかったのに・・・。
あさ美とはいい友達だった。でも・・・どこかで私はあさ美を見下してたんだと思う・・・。
この子には絶対に負けないだろって・・・。だから私は安心してあさ美と付き合ってたのかもしれない。
でも・・・私はそんなあさ美に負けた。悔しかった。許せなかった。自分が・・・あさ美が・・・。
だけど・・・あさ美の映画を見て・・・私はようやく納得することができた。
あさ美・・・全体的に演技が甘くてまだまだ技術的には未熟だった。私の方が断然上だと思った。
でも・・・それでも・・・あさ美の演技は素晴らしかった。
それは形じゃない・・・心の演技・・・。自然と涙が込み上げてた・・・。
初めて認めた敗北だった・・・。私はあさ美に負けた・・・。あさ美なんかに・・・。
それから私はある小さな劇団に入った。わざわざ入団テストも受けた。
そこではモーニング娘。なんて肩書きは全く通用しなかった。
下積みから始めて、少しずつ認められるようになった。
五年後には初めて主演を任されるようになった。
劇団の人からは異例の大抜擢だと言われたけど、なんとか期待に応えることができた。
そして今は、こうして自分でも満足のいく芝居ができるようになった。
今の私はあの頃の私とは違う。そう、ただ台本に忠実なだけだったあの頃の私とは・・・。
そして・・・それを気づかせてくれたのは・・・あさ美・・・。
だけど・・・私はまだ・・・心のどこかであさ美を恨んでる。でも、それでもいいと思う。
だって、私はあさ美を恨むことで、こうして頑張ってきたんだから・・・。
あさ美を恨み続けることで、ここまで来れたんだから・・・。
だから・・・私はこれからも・・・ずっと・・・あさ美のことを・・・。
----Future Episode - actress24 "Hitomi Yoshizawa"
プルプルプルプル・・・と電話の音。受話器を取る。
声の主はすぐにわかった。それはチャーミー。梨華ちゃんだ。
「わお〜、どうしたんだぃ、梨華〜?もしかしてマリッジブルーってやつかい?」
「あははは・・・冗談冗談。ちょっと言ってみただけだぜぃ・・・」
梨華はもうすぐ結婚する。相手は吉本の芸人・・・と思いきや普通のサラリーマン。
どこでどう知り合ったのかは知らないけど、真面目で誠実・・・ある意味平凡な人らしい。
「ベイベ〜、今日はいったいどうしたんだぃ?」
「なんだ料理の本のことか〜!・・・尋ねられても答えられねーんだけどな〜」
結婚した女性タレントが料理の本を出すのはよくあるパターンだけど、
私もその類に漏れず、今まで三冊の本を出している。
ダーリンが出版社に勤めてるから、その関係で出すことになったんだけど、
実際は料理研究家のレシピを載せてるだけで、私はほとんど関与してなかったりする。
芸能界もそうだったけど、出版業界も一歩裏に回ればそんな世界。
「それにしても梨華が料理とはねえ〜。やっぱ花嫁修行ってやつか〜?」
梨華は男の人を好きになるととことん尽くすタイプ。
気に入らない男には愛想笑いすらしないのに、一旦好きになると別人に変わる。
そんな梨華をブリッコだなんて言う奴もいるけど、それが乙女心ってやつなんだなあ。
とりあえず私がアドバイスできるのはレシピ通りに作るってこと。私もそうしてるし。
それを聞いて梨華笑ってた。そんなの当たり前のことだし、何のアドバイスにもなってないからね。
その後、梨華からある話を聞く。それは同窓会。モーニング娘。の同窓会の話だった。
翌朝。いつも通り翔太を幼稚園に送りに行く。
門を入るとかわいいエプロン姿の先生が笑顔で出迎えてくれる。
「こらこら〜、翔太〜!先生に会ったらちゃんと挨拶しないと駄目だぜぃ〜!」
「ったく誰に似たのかやんちゃなガキに育っちまって・・・」
「ってことで、えり先生、今日も一日翔太のことよろすぃく〜!」
幼稚園の先生というのは大変な仕事だと思う。
一人の子供を育てるのでさえ大変なのに、それがこんなに集まるとなれば・・・。
子供が好きじゃなきゃやってられない仕事。
私なら絶対に選ばないけど・・・でもえり先生はそれを選んだんだよな〜。
と、後ろからそのえり先生の声がする。どうやら私に話があるらしい。
「ワォ!えり先生からそう呼ばれるの久しぶりだぜぃ!」
「おいおい、よしてくれよ〜!ここではえり先生は先生なんだからさ〜」
「しょうがね〜な〜、ベイベ〜。もしかして同窓会の話かい?」
そう、えり先生は実は私の後輩。モーニング娘。の後輩だったりする。
芸能界にいた頃と変わらず、今も笑顔は昔のまま。そしてその人気ぶりも。
うちの翔太も家に帰るといつもえり先生の話ばかり。どうやらえり先生のことが好きらしいんだな。
その素直な性格に素直な笑顔。そりゃ子供たちにも人気が出て当然。
モームスの救世主と言われ、さらに解散後も一番人気として頑張ってたんだから。
そう考えると引退したことがもったいないような気もするけど、でもそれでよかったのかもしれない。
翔太にとってえり先生はとっても大切な、無くてはならない存在なんだから・・・。
----Future Episode - actress25 "Eri Kamei"
「あの・・・吉澤先輩・・・」
そう言いかけたところで先輩が苦笑いを浮かべる。
それもそう。だっていつもと違う呼び方だったから・・・。
「あ、ごめんなさい・・・。でも今日はその・・・先輩に話があって・・・」
「モーニング娘。として・・・だから『吉澤先輩』でいいですよね?」
「そうです、同窓会の件で・・・。昨日聞いたんですけど・・・」
「ええ、昨日保田先輩とさゆみちゃんと里子ちゃんから電話があって・・・」
そう、昨日立て続けに私の元に電話があった。
まだ仕事に出かける前の早朝にかけてきたのは保田先輩。
保田先輩とは入れ違いだったけど、色々と相談に乗ってくれてた大切な先輩。
私が幼稚園の先生になりたいって言った時、応援してくれたのも保田先輩だけだった。
自分で言うのも何だけど、あの時の私は人気もあったし、仕事も順調だったから、みんなも不思議だったんだと思う。
あれはのの先輩の結婚式の日。保田さんはアメリカから帰国したばかりだった。
その時の保田先輩は時の人で、連日マスコミで取り上げられてたけど、
でも保田先輩は全然変わってなかった。自分よりも他人を気にかける優しい人・・・。
私が悩んでいることに気づいてすぐ話し掛けてくれて・・・。
それで私は決意を固めた。徐々に仕事を減らしてもらってその分勉強に励んだ。
翌年、短大の初等教育科に合格し、それで私は芸能界から引退した。
それからも保田先輩はよく私のこと気にかけてくれてる。
だから私は先輩のこと、まるでお母さんみたいだって思ってる。
保田先輩から電話があった後、昼に幼稚園に電話がかかってきた。
それは里子ちゃんから。保田先輩と同じ同窓会の話だった。
里子ちゃんはあまり自分から話したりしない大人しい子だけど、私の前だけはいつも元気いっぱいだった。
私がここの先生になったばかりで悩んでいた頃、励ましに来てくれたのも里子ちゃんだった。
その頃戦隊物のヒロインをしていて、それで幼稚園にヒーローを連れて来てくれだんだよね。
それで子供たちはみんな大喜び。だけど一番はしゃいでたのは私だったのかもしれない。
そんな里子ちゃんのおかげで私も元気を取り戻してた。
子供たちの笑顔が見たくて幼稚園の先生になったのに、あまりの忙しさにそれを忘れてたんだよね。
でも里子ちゃん、最近仕事がうまくいってないみたいで、よく相談の電話がかかってくる。
だけど私、芸能界から引退したこともあって、どんなアドバイスをすればいいのか・・・。
先輩として、友達として私を頼ってくれるのはとても嬉しいんだけど、でも私がそれに追いついていない感じ。
こんな時、先輩たちだったらどんなアドバイスをするんだろう。
やっぱり私なんてまだまだ未熟者なんだなって思ってしまう。
最後の電話はさゆみちゃんから。これは家の留守番電話に入ってた。
さゆみちゃんの声を聞くのは久しぶりだったけど、でも元気そうだった。
・・・れいなちゃんも福岡で元気にやってるんだって。
モーニング娘。だった頃、さゆみちゃんとれいなちゃんと私の三人はロッキモニ。として活動してた。
解散後も一緒に仕事をすることが多かったけど、でもいつしか私だけ別行動になってた。
自分が売れたのは嬉しかったけど、でも一人の仕事はなんだか淋しいものだった。
二人との距離が離れていくのを感じるたび、なんだか後ろめたい気持ちになってしまって・・・。
二人が地元に帰った時も、私は仕事が忙しくて見送りに行くことができなかった。
それでれいなちゃんとは少し気まずくなっちゃって。最後に会ったのは8年前。
二人が出演してた九州のローカル番組にゲストとして呼ばれた時だった。
だけどその時もスケジュールがいっぱいで、二人とはゆっくり話せないままだった。
だから同窓会はチャンスだと思うの。二人とちゃんと話す・・・最後のチャンス・・・。
さっさと更新しちゃいます。
----Future Episode - actress26 "Rika Ishikawa"
「も〜しも〜し。ラブリ〜ですか〜?わたしチャ〜ミ〜で〜す!」
まず最初に電話したのはラブリ〜こと高橋愛ちゃん。
ケイちゃんから同窓会の話を知ってるメンバーに伝えるようにって言われたんだけど、
ラブリ〜はケイちゃんからすでに聞いたって。ちょっとしたすれ違い。
「なんだ〜もう聞いてたんだ〜。せっかく電話したのに〜〜〜残念残念!」
でもなんだかラブリ〜あんまり嬉しくないみたい。
昔からプライベートではみんなと遊んだりしないタイプだったけど、もうちょっと喜んでもいいと思うんだけどな。
話を聞いたのが二人目っていうのもあるのかもしれないけど・・・でもちょっと、ね・・・。
くじけずに次の電話。何事もポジティブ!ポジティブ!
「も〜しも〜し。よっすぃですか〜?わたしチャ〜ミ〜で〜す!」
次に電話したのは親友のよっすぃ。ちょうど聞きたいこともあったし。
ラブリ〜と違ってよっすぃは元気いっぱいの声だった。
やっぱり結婚して幸せだと声も違うんだよね。
「ねえねえ、あのね、よっすぃの料理の本なんだけど・・・」
わたしが聞きたかったのは料理のこと。
よっすぃの本の通りに作ってるのにうまくいかないのよね。
でもよっすぃは料理の先生の言う通りに作っただけで全然わからないんだって。
う〜ん、そう言われれば昔からよっすぃは作る係より食べる係だったっけ。
普段の料理も旦那さんが作ってるんだって。それ聞いてなんだか笑っちゃった。
だってよっすぃ、料理の本出してるんだよ?なのに自分では作らないんだって。
よっすぃ、昔から何事も他人まかせだったけど、そこまでくるとギャグよね?
それから同窓会の話を伝える。よっすぃは初めて聞いたって。
これでなんとか責任を果たしたって感じかな?
それからよっすぃとメンバーの話で盛り上がる。
だけどよっすぃ、すっかりテレビを見る側になってた。
ゆうちゃんにシワが増えたとか、ケイちゃんの顔が岩石みたいだとか、
ヤグちゃんの昼ドラが予定より早く打ち切られちゃったこととか。
よっすぃ、引退してからもう何年だっけ?すっかり主婦に染まっちゃって・・・。
そう言えば、あの頃は結婚引退ラッシュだったっけ。
希美ちゃんがあのおじさんと結婚して、里沙ちゃんが結婚して、それによっすぃも。
あれから少し乗り遅れたけど、私もようやく結婚するんだよね。
本当は二十代のうちに結婚したかったんだけど、
でも運命の人とやっと廻り会えたんだから、それでいいのよね?
「ねえ、よっすぃ・・・わたしね、今とっても幸せだよ!」
今の私、モーニング娘。だった頃には全く考えられなかった。
それにあの頃に今の私を見たら、多分ものすごく嫌な顔をしたと思う。
芸人石川梨華・・・今はその肩書きを誇りに思ってるけど、メンバーの中ではちょっとした変り種だよね。
誰も知らないうちにハリウッドで女優デビューしてたケイちゃんも変わってるけど、
でもケイちゃんは昔から女優になるって言ってたからね。
まさか私がこんな舞台に立つようになるなんて、誰も予想できなかったと思う。
だけどモーニング娘。を卒業した後、私は新しい居場所を求めてた。
そんな時にあのおじさんの影響を受けて・・・それでこの新喜劇の舞台に興味を・・・。
あのおじさん・・・今どうしてるんだろ。私の舞台・・・見てくれてるのかな?
----Future Episode - actress27 "Aya Ishiguro"
久しぶりに訪れるゆうちゃんの事務所、オフィスゆうこ。ここに来るのは何年ぶりかな?
ゆうちゃんが独立して事務所を開設した当時、私はゆうちゃんに頼まれてここのお手伝いをしていた。
最初はゆうちゃん一人だったけど、今は中澤組と呼ばれるタレントが十人ほど所属している。
ほとんどが他の事務所から戦力外通告を受けた落ちぶれたタレントだけど、
ゆうちゃんはそういうタレントを拾い上げては自分の番組に使ったりしてる。
そんなゆうちゃんをリサイクル工場だなんて悪く言う人たちもいるけど、
ゆうちゃんはチャンスさえあれば何とかなるっていつも言ってたっけ。
今日は一応、事前に来ることを伝えていたんだけど、ゆうちゃんはすっかり忘れてたみたい。
「いつになってもゆうちゃんはゆうちゃんのままねえ・・・」
そう言って微笑むとゆうちゃんも微笑み返す。
モーニング娘。だった頃、私とゆうちゃんの二人は年齢的に他のメンバーから浮いた存在だった。
だけどその二人もあまり仲が良いとは言えず、いつも睨み合ってばかりだった。
引退したメンバーが集まる部屋でも、よく二人で言い争いをしてたっけ。
まるで天敵みたいだったけど、でも私のことを誰よりもわかっていたのはゆうちゃんだった。
いつしか私はゆうちゃんを信頼するようになってた。ゆうちゃんも私を信頼してくれるようになった。
そんな二人・・・仲が良いのか悪いのかわからないけど、そこに絆があるのは確か・・・。
事務所の隣のゆうちゃんの部屋に移り、同窓会の話を進める。
今日来たのは連絡の取れたメンバーの確認のため。
と、そんな部屋に一人の女性がやって来た。久しぶりに会うその女性はあさ美ちゃん。
すっかり綺麗になってるけど、どこか子供っぽい表情は昔のまま。
「あさ美ちゃん、こんばんは!もちろん私のこと覚えてるよね?」
そう言ってからかうと、あさ美ちゃんは笑顔で答える。
「一応私の方から連絡したメンバーがこれなんだけど・・・」
そう言って一枚の用紙を差し出す。そこには連絡先と簡単な近況が書いてある。
その用紙にゆうちゃんから連絡が取れたメンバーを加えて確認する。
「なっちには圭織から連絡したいって言ってるんだけど、あの人どうする?」
あの人とは私たちモーニング娘。のプロデュ−サーをしていたつんくさんのこと。
同窓会となるとやはりつんくさんも呼ばないといけないんだろうけど、
でもね、つんくさんのことをよく思っていないメンバーも多いのよね。私もその一人だけど・・・。
「じゃあ、つんくさんは呼ばないってことでいいのね?」
「わかった。じゃあ圭織からなっちにそう伝えてもらうようにするね。もちろんつんくさんには内緒で」
圭織となっちは昔はそりゃもう本当に仲が悪かった。だけど今はそれが信じられないくらい仲良しみたい。
ただ、問題はそれよりも連絡の取れないメンバー。
「この新垣って子は?」
「ふーん、そうなんだ・・・。色々あったから仕方が無いのかもね・・・」
「じゃあ、残りはこの二人?」
そう言って名簿を指差す。
「問題はこの子よね・・・どうするの?」
その子はちょっと事情がある子。ある事件があって以来、テレビの世界には顔を見せていない。
もう十分反省する時間があったわけだけど、他のメンバーの意見も聞いた方がいいよね?
「あさ美ちゃんはどう思う?呼んでもいいと思う?・・・その子・・・」
----Future Episode - actress28 "Asami Konno"
いつも通り中澤さんの部屋に行く。そこには久しぶりに会う先輩の姿があった。
石黒彩先輩・・・あやっぺ先輩だ。
「もちろん覚えてますよ!久しぶりに会えてとっても嬉しいです!」
どうやら二人で同窓会の打ち合わせをするみたい。
邪魔にならないように横でその話を聞く。
だけどなんだか私たち五期はバラバラ・・・。
里沙ちゃんとは連絡が取れないみたいだし、愛ちゃんは不参加だって。
まだ日程も決まってないのに不参加だなんて、やっぱり私が原因よね?
愛ちゃん・・・いつになったら私を許してくれるんだろ。
モーニング娘。になったばかりの頃はあんなに仲がよかったのに。
だけど愛ちゃん、昔からそうだったのかもしれない。
メンバーと一緒にいても愛ちゃんは一人でいることが多かった。
私たちがはしゃいでる時も、愛ちゃんは一人で本を読んだりしてた。
何か私たちに壁を作ってたんだと思う。それがなぜかはわからないけど。
だけど、決して仲が悪いってことではなかったと思う。私はそう信じてる。
愛ちゃんには同窓会に来てほしいけど、私が何を言っても聞いてくれないし、
それに絶対に会ってくれないから・・・だから私じゃ何の力にもなれない。
でも、私の力でも里沙ちゃんなら何とかできるかもしれない。
愛ちゃんは無理だとしても、里沙ちゃんなら私の話を聞いてくれると思う。
里沙ちゃんが来てくれたら、愛ちゃんも来てくれるかもしれない。
だけど・・・そんなの甘い希望だった。それに気づかされるのはその二日後のこと・・・。
同窓会の話も終わり、その後は三人で雑談。
あやっぺ先輩は以前中澤さんの事務所で働いてたんだって。
だからこの部屋にもよく来てたみたい。それは全然知らなかった。
私がこの近くに引越ししてきたのは一年前。それからはよく立ち寄るようになったけど、
それまではここに来たことは無かった。中澤さんの豪邸にはよく遊びに行ってたんだけどね。
そんな中澤さんに相談。それは私の計画のこと。
私は今、ほとんど映画専門の女優として活動してる。もちろんテレビやラジオにも出るし、CMの仕事もあるけど、
でも映画は年に一本か二本。その撮影の間は寝る暇も無いくらい忙しいけど、
でも撮影が終わると後はずっと暇な時間が続く。今がちょうどその時期。
だから私、そんな空いた時間にあることをしようって決めたの。
それは小さい頃からの夢だった、お芋屋さん。
昔から思ってたんだけど、焼き芋屋さんってたまにしか来ないのよね。
食べたい時にすぐ食べられる、そんな焼き芋屋さんがあればいいなってずっと思ってたの。
だから私が始めることにしたの。宅配ピザみたいな焼き芋のお店。
企画に賛同してくれる人たちは集まったし、資金も何とかなりそうだけど、問題はその経営。
私一応大学では経営学を学んだけど、でも自分が実際に経営するとなると全然自信が無いのよね。
だから中澤さんに相談しようと思った。中澤さん、ああ見えてもオフィスゆうこの社長さんだから。
中澤さんの事務所、最初は個人事務所だったけど、今は少しずつ人数も増えて大きくなってる。
その中には私が共演したことのある人もいる。一時期癒し系アイドルとして活躍してた井川遥さんとか。
中澤さんと遥さんはあのドラマの頃は仲が悪かったんだけどね。今は中澤組の一員みたい。
中澤さんからアドバイスを貰う。経営は知識は無くても信頼できる人間が一人いれば十分だって。
それは多分、あやっぺ先輩のことだと思う。でも・・・私にそんな人がいるのかな?
私が信頼していて、そして全てをまかさられる人・・・そんな人がいるとすれば・・・それは・・・。
----Future Episode - actress29 "Yuko Nakazawa"
今日はうちの部屋に彩と紺野の二人が来てる。珍しい取り合わせや。
「ちょい待ってや。なんでケイちゃんが歌手になっとんねん?これ間違ってへんか?」
彩から貰った名簿には、メンバーの連絡先と簡単な近況が書いてある。
明日香や紗耶香が歌手なのはわかるけど、そやけどケイちゃんは誰が見ても女優やんか。
彩が答える。ケイちゃんには紺野から同窓会の話伝えてもろたし、
その後うちも私用でケイちゃんに電話したりもしたけど、どうやら彩からもケイちゃんに電話したらしい。
その時ケイちゃんは自分は歌手やって言い張ったんやて。
そりゃ帰国した後は何曲か歌っとったし、話題性でそれなりに売れたんも確かやで。
そやけどケイちゃんが歌手やってのは納得いかへんで。
「なんや。ケイちゃんが歌手やったらうちも歌手にするで!そこ書き換えといてや!」
その言葉に紺野も負けじと歌手を主張する。
おいおい、紺野・・・あんたはソロ曲一曲しか出してへんやんか。
うちは一応毎年一曲ずつ出してるんで。あんまり売れてへんけどな。
しかしまあ、それもありかもしれへん。紺野の歌はある意味ロックやから。別の意味で歴史に残るかもしれへんしな。
「そうそう、この新垣やけどな、一応実家に電話したんやけど・・・」
そう、新垣は離婚してから何してるんか全くわからへん。
どこにいるのかもわからず、とりあえず実家に連絡したんやけど、
家族も何や歯切れの悪い言葉を返すばかりでどこにいるかも教えてくれへんかった。
一応同窓会があるってことだけは伝えてもらうように頼んだんやけど、それも伝わったかどうか。
「まあ、そのうち懐かしなって出てくるやろ。あん子外面は強がってるけど淋しがり屋やからな」
「それから高橋やけど、どうも参加したくないみたいやで。・・・紺野、まだ冷戦続けとんのかいな?」
そう言うと紺野が下を向く。あかんあかん、紺野にこのことは禁句やったな。
「まるで昔のなっちと圭織みたいやな。あん時はケイちゃんのおかげで何とかなったけど・・・」
「ほなケイちゃんに間に立ってもらったらどうや?ケイちゃんは高橋とも仲良かったはずやで」
しかしどうやらすでにケイちゃんが何度か仲裁に入っていたらしい。
それでも駄目だとすると、これは結構深い溝みたいやな。
「まああれや、そのうちなんとかなるやろ・・・」
そう軽い感じで言うも、紺野にとってはやはりかなり重いことらしい。
まあ、うちは何もできへんから、これはさっさと次の話題に行く方がええやろ。
「次は真希やな。真希は誰とも連絡取ってへんみたいやけど、ほんまに誰とも交流ないんか?」
真希はみんなから可愛がられていた。最初はうちもわざと冷たく接してたけど、
そやけどあの子はなんや不思議なオーラがあんねん。周りの人を幸せにするようなそんな感じやった。
そやから、あの子が誰とも交流が無いってのは信じられへんねん。
「一応真希の実家には連絡したんやけどな、なんや外国飛び回ってるらしいで」
そう、真希はNGOだかNPOだか知らへんけど、なんかの団体に協力してて、
それでボランティア活動みたいなことを世界でやっとるらしい。
年に数回日本に帰ってくるらしいけど、時期も特定できへんし、メンバーとの交流も皆無。
こらちょっと同窓会は無理かもしれへんなあ。
「そやけど・・・一番の問題はこれや・・・」
名簿に最後に残った名前・・・それは・・・藤本美貴・・・。
----Future Episode - actress30 "Miki Fujimoto"
ススキノのとあるバー。私は毎晩この店に来る。
と言っても別に働いてるわけじゃない。
私が座ってると男性客が増えるからって、知り合いのマスターから特別に頼まれてるだけ。
もちろんホステスみたいな下賎なことをするつもりはない。私はただ座ってるだけ。
それだけで飲み食いはタダだし、私にプレゼントをくれる人なんかもいる。
中にはどこで聞きつけたのか、私の昔のファンがやって来ることもある。
だけど、そういう奴らはプレゼントだけ貰って門前払い。色々うざいからね。
私は昔、モーニング娘。の第四期オーディションに応募した。それが始まりだった。
結果は落選だったものの、ソロとしてデビューにこぎつけることができた。
それなりにアイドルとして人気も出たし、紅白にも出場したことがある。
しかし、事務所はそんな私を見限った。
人気が伸びないと見るや一転、不良債権の溜まり場、モーニング娘。本体に合流させられ、
それから私はメンバーと戦いながらも最後までそれをやり通した。
本体が解散後、ようやく自由を獲得し、私は再びスポットライトに当たるはずだった。
しかし・・・。
事務所は私にまともな仕事を与えてくれず、他のメンバーを優先してばかりいた。
何の取柄も無い亀井やただのガキの新垣がテレビで持てはやされていた。
それに比べて私に来る仕事はテレフォンショッピングと地元のローカル番組だけ。
ドラマや歌の仕事はほとんど来なかったし、他の事務所からの誘いも無かった。
まあ、UFAに残ったメンバーでも私よりも待遇の悪い奴らはいたけどね。
だけどそんな暗闇からようやく抜け出そうとした時、私の芸能生活は終わりを迎えた。
久しぶりに私に歌の仕事が回ってきたのに、私がその歌を歌うことはなかった。
2008年、芸能界を震撼させる二つの事件が起こった。
一つはJ事務所に所属するタレントの悪質な連続強姦事件。
その事件に関連してJ事務所に所属する多くのタレントが事情聴取を受けた。
それまでタブーとして扱わなかったマスコミもこれは扱わざるを得なかった。
J事務所は権威を失い、そして全ての所属タレントが謹慎という事態にまで発展した。
しかし、その事件はそれだけでは終わらず、次の事件へと発展することになる。
その事情聴取を受けたメンバーの一人が、覚醒剤を常用していたことを自白。
そして、それから連鎖的に覚醒剤の使用が発覚し、逮捕されるタレントが相次いだ。
その中に当時の私のカレシもいた。
カレシは捕まり、そして私も警察の事情聴取を受けた。
私はそのことを知らなかったし、私はクスリなんかやってなかった。
しかし、検査で私は陽性と判断された。
カレシが合法だと言って一緒にキメてたドラッグ・・・それが覚醒剤だった。
その結果、私もその多くのタレントと同様、警察に逮捕された。
総勢30人近くの芸能人が逮捕され、その事件は芸能パニックと呼ばれた。
しかし、その中で私が注目されることはなかった。
マスコミが騒いだのはJ事務所のタレントや浜崎あゆみなどの大物タレント。
その中に私は入ってなかった。
カレシに騙されていたことよりも、警察に逮捕されたことよりも、
そのことが私にとって一番腹立たしいことだった。これだけ頑張ってきたのに、話題にもならなかったことが。
執行猶予の期間が過ぎても芸能界には復帰できず、私は台湾でタレント活動を始めた。
しかしそこでも人気はいまいちだった。二年もしないうちに日本に帰国。
それからはこうして毎晩飲み歩く毎日。今の私には何の夢も希望も無い。
やりたいこともないし、やりたいことを見つけようとも思わない。
だけど、一つだけ未練があるとすれば・・・それはあの歌・・・。
どしどし更新!!!
----Future Episode - actress31 "Sayumi Michishige"
「へえ、同窓会かあ・・・ぶち楽しそうっちゃない?」
「うん、もちろん!・・・平日は難しいっちゃけど、休暇あまっとぉけん大丈夫!」
久しぶりに聞くれいなちゃんの声。昔と変わらず元気そう。
今は私、こうして普通に働いてるけど、でもれいなちゃんの番組は毎晩見てるんだよ!
だって、私とれいなちゃんはいつまでたっても『さゆみ&れいな』なんだもん。
モーニング娘。が解散した後も、私とれいなちゃんはいつも一緒だった。
テレビもラジオも、いつも必ず一緒だった。名前もいつの間にか二人一組になってた。
それはピンじゃ無理だってことなんだろうけど、でも私はそれでよかった。
解散して一年が過ぎた頃、東京での仕事が無くなって二人とも地元に帰った。
私は地元の高校に転入したけど、れいなちゃんは高校やめちゃったんだよね。
それで私は普通の女の子に戻るはずだった。でも・・・そうはならなかった。
土曜日にやってた九州ローカルの夕方の情報番組・・・。
本当はれいなちゃんが一人で出る予定だったんだけど、れいなちゃんがお願いしてくれたんだ。
『さゆみ&れいな』で出たいって。二人で一人だからって。
それで週に一日だけだったけど、また二人で仕事をするようになった。
仕事と言ってもモーニング娘。だった頃とは全然違っておまけみたいなものだったけど、
でも二人でテレビに出れることが嬉しかった。
最初は二人で美味しいお菓子屋さんを紹介したり、街中でインタビューをしたり・・・。
そのうち自分たちで好きな企画を立てれるようになって、二人で色んなことをした。
私は一年でやめてしまったけど、でもその経験が今の私に繋がってるんだと思う。
「そうっちゃ。同窓会に機材持ち込んで取材ってことにすれば休暇の必要ないんよね」
私は今、地元山口のケーブルテレビ局に勤務している。
高校を卒業した当初は福岡の番組制作会社で働いてた。
モーニング娘。の頃から裏方の仕事に興味があったんだけど、
あの番組で色んな企画を考えるようになったのが一番の理由。
そこでの仕事は思っていたのとは違って単なる雑用だったけど、それも今ではいい経験だったと思う。
今の会社に移ってからは念願の番組制作に携わってるし、それにレポーターみたいなこともしてる。
だからモーニング娘。の同窓会なんて、格好の材料なのよね。
「ねえねえ、れいちゃんは中澤さんの連絡先知っちょるんよね?」
今日こうして私が同窓会のことを知ったのは、中澤さんかられいなちゃんに連絡があったから。
あの中澤さんと知り合いだなんて、今となっては凄いことよね・・・。
でも私だって当時はモーニング娘。のメンバーだったんだし、これって自慢できることよね?
しばらくして、れいなちゃんから聞いた中澤さんの個人事務所に電話をかける。
だけど夜遅いこともあって留守番電話になってた。仕方なくメッセージを残す。
「・・・道重さゆみと言いますが・・・同窓会のことで話があるので、また明日電話させていただきます・・・」
その後久しぶりにえりちゃんに電話をかける。
えりちゃんは仕事が忙しいみたいであまり会う機会は無いけど、年に数回電話で話したりしてる。
だけどえりちゃんも留守番電話になってた。こんな時間まで仕事してるってことはないと思うけど・・・。
仕方なく留守電に伝言を残して受話器を置く。
モーニング娘。のメンバーって、芸能界にいるメンバーも、いないメンバーも、
それぞれ忙しく仕事をしてる。結婚して子育てをしてる人たちもいる。
普段はなかなか会えないメンバーだけど、だけど同窓会ならきっとみんな会えるはず。
だって私、こんなに楽しみなことって久しぶりだから。だからみんなもきっと・・・。
----Future Episode - actress32 "Maki Goto"
「釣れますか?」
そう尋ねると、その男性は振り返らずに答える。
「ええ、昨日帰ってきました。・・・東南アジアから・・・」
私は二ヶ月ほど東南アジアを巡ってた。色々とやることがあって・・・。
でも日本でゆっくりしてるわけにはいかないのよね・・・。
「来週には南米に行く予定です。何か動きがあったみたいですから・・・」
「大丈夫ですよ!それで死ぬことはありませんから・・・」
「・・・ですね。・・・でも、大丈夫ですよ。あそこも戦争が終わってからは治安も回復したみたいですし」
彼は私のこと凄く心配してくれてる。でも私にとっては彼のほうが心配。
「たまには部屋に戻ってくださいよ。こんなとこで暮らしてたらほんと死んじゃいますよ!」
「貯金だってあるんですから。何もこんなテント暮らししなくても・・・」
だけど彼はこんな生活を気に入ってるみたい。ある意味私に似てるのかもしれない・・・。
「髪の毛だって伸ばしっぱなしじゃないですか。昔みたいに短い方がかっこいいですよ!」
「・・・私がですか?・・・どうなってもしりませんよ!」
そう言って笑う私・・・。ゆっくりと流れる時間・・・。
「久しぶりにのんびり温泉にでも行こうと思うんだけど、一緒にどうですか?・・・もうさくさんも!」
今私の目の前にいる男性・・・それはもうさくさん。
初めて会ったのはいつだったかな?・・・もうかなり長い付き合い。
彼の部屋にモーニング娘。をやめたメンバーがよく集まってたんだよね。
だけど、もうさくさんは市井ちゃんと一緒に姿を消してしまい、そしてその部屋も自然消滅・・・。
みんな心配してた。市井ちゃんを批難する人もいた・・・。
でも・・・数年後、私が芸能界をやめて今の活動を始めた後、彼はなぜか私にだけ連絡をくれた。
それは彼が私の秘密を知ってるから。だから彼は私を頼ってくれたんだと思う。
その頃彼はフリーのライターをやってて紀行文なんかを書いてた。一応今もそうだと思うけど・・・。
でも彼はこの生活が気に入ってるみたい。私にそれを止めることはできそうにないな。
「部屋に戻ってテレビとか見たらどうです?」
そう言うと彼はテントから出ている一本の太いコードを指差す。
「また自動販売機の後ろから勝手に電気引いてるんですか?いつか捕まりますよ!」
彼は釣りを諦め、テントの中に戻る。私もそのテントに入る。
テントの中は以前と変わらない。部屋の中から持ち出した必要最小限のものが揃ってる。
旧型のテレビもあり、旧型のCDデッキもある。今時TDが使えないCDだけど、彼にはそれで十分みたい。
そのCDでジャニス・ジョプリンを流しながら、彼はテントの外で火を起こす。
カセットコンロがあるのに、わざわざ薪に火をつけてお湯を沸かす。
こっちの方がお茶が旨くなるんだって、いつも言ってる。
「私も今日はこっちに泊まろうかな!ねえ、いいでしょ?」
もうさくさんと一緒にいるとなぜか落ち着くの・・・。それは彼が私が男であることを知ってるから。
そして・・・彼は知ってるから・・・私のもう一つの正体を・・・。
----Future Episode - actress33 "Reina Tanaka"
本番一時間半前。外での撮影を終えていつも通りスタジオに入る。
馴染みの出演者たちと雑談を交わしてると、事務所から携帯に電話。
どうやら事務所にとんでもない大物から電話がかかってきよったらしい。
その大物とは・・・アタシのアイドル時代の先輩に当たる人物・・・中澤裕子。
すぐに連絡先を教えてもらい、こちらから掛けなおす。
バリ面倒っちゃけど、さすがに中澤裕子ともなるとそんなことは言いきれんっちゃね。
なんせいつも強気な事務所の人ですらバリ動揺してるくらいっちゃから。
もしかしてアタシへの出演依頼かも・・・と、そんな淡い期待を抱く。
アタシは今、こうして九州ローカルの情報番組に出演しとる。
月曜日から木曜日まで毎晩、11時から40分間放送しとー人気の生番組。
おかげでアタシの知名度は九州ではかなり高いんばい。
モーニング娘。のメンバーの中でも九州ではアタシがダントツの一番人気。
アタシはすでに九州は制圧したと思っとーし、実際にその通りだと思っとー。
ばってん、その他の地域ではアタシの存在はゼロに近いっちゃね。
モーニング娘。だった頃、アタシが目指しよったもの・・・それはナンバーワン。
そして九州ではその目標はほぼ達成し、残るは全国区でのナンバーワン。
ただ、そのためにはやはり東京進出のきっかけが必要。
そして、そのきっかけになりそうっちゃのが今電話の向こう側にいる・・・中澤裕子。
「あ、おはようございます。先ほどお電話いただいた田中れいなですが、中澤先輩ですか?」
電話の向こうの声はまぎれもない中澤裕子。
これほど強力なコネは多分他にはないっちゃね。最強のコネ。
モーニング娘。のメンバーの中で現在、誰もが認める全国区のナンバーワン。
ばってん、それもいつかアタシが・・・。
「ご無沙汰してます。いつも番組拝見させてもらってます」
丁重に挨拶する。と言うんも、この中澤裕子はやたら挨拶や礼儀に厳しい人間。
モーニング娘。に加入した頃は会う度に色々と説教みたいなこと言い続けよった。
そのせいでこの人のことはあんまり好きっちゃない。どっちかと言うと嫌いな部類。
ばってん・・・東京進出のためにはこれくらいの我慢は・・・。
「ええ、おかげさまで仕事も順調です」
何が『おかげさま』なのかは自分でもわかりよらんっちゃけど、これくらいのヨイショは必要経費。
ばってんアタシの期待はすぐに崩れ去りよった。それは単に同窓会の連絡だったっちゃ。
電話を切り、廊下脇にあるロビーで一服。すぐに頭を切り替える。
出演依頼ではなかったっちゃけど、その同窓会とやらが何かのきっかけになりよるかもしれんしね。
メンバー全員が集まりよるってことは、そこにはあの市井紗耶香なんかも来るわけっちゃから。
歌で全国制覇ってのも悪くはないっちゃね・・・。
早速ある女性に電話をかける。それはさゆみん。私の昔のパートナー。
「あ、さゆみん?アタシれいなっちゃけど・・・同窓会の話聞いとー?」
さゆみは昔から鈍くて無気力で頭の冴えない子だったっちゃ。
そんなさゆみはアタシにとって格好の比較材料。あの子が隣にいるとアタシの切れ味が引き立つっちゃね。
ばってん今はもうそんな引き立て役は必要なかと。
アタシは一人でも十分に活躍しとーし、実際に一人でナンバーワンを獲得したっちゃから。
ただ、そんなさゆみだけど、根は優しくてなかなかいい子。
昔はそのいい子ぶりが気に入らなかったっちゃけど、ばってん今思うと相性はかなり良かったっちゃね。
普通ならアタシ一人で全国制覇ってとこだけど、この子も一緒にってのも悪くはないっちゃね。
『さゆみ&れいな』で全国制覇。これはおもしろくなりそうっちゃ。
----Future Episode - actress34 "Asami Konno"
神奈川県にある里沙ちゃんの実家。私は今その家の前にいる。
中澤さんの話では、里沙ちゃんは今どこにいるのかわからないってことだったけど、
ただ、家族の人の態度がどうもおかしかったって言ってたから・・・。
インターホンを押し、名前を名乗る。
と、予想とは違い、すんなりと家の中に通される。
リビングに入るとソファに里沙ちゃんが座ってた。
ちょっとやつれたような顔をしてるけど、間違いなく里沙ちゃん。やっぱりここにいたんだ!
だけど・・・それ以上に驚いたのがその向かいのソファに座ってた女性。
それは矢口さんだった・・・。
「あ・・・矢口さん・・・どうしてここに?」
と、そう尋ねたのと同時に矢口さんも私に同じ質問を投げかける。
どうやら矢口さんも里沙ちゃんのことを聞いて様子を見に来たみたい。
さすがは私たちのリーダーよね。
里沙ちゃん・・・私の顔を見てちょっと動揺してた。
まさか矢口さんに続いて私が会いに来るなんて、予想もできなかったんだろうね。
もちろん示し合わせたわけじゃないんだけどね。
矢口さん、すでに里沙ちゃんを説得しようとしてたみたいだけど、どうもうまくいかなかったみたい。
里沙ちゃんは何も喋らず、矢口さんが一人で黙々と自分の現状を話してる。
矢口さん、今の仕事に不満があるみたい。・・・まあ少しわかるような気もするけど・・・。
それから一時間ほど話をしたけど、でも里沙ちゃんは暗い表情のままだった。
芸能界に戻りたかったのに戻れなかった・・・それが尾を引いてるんだと思う。
里沙ちゃんは五期メンバーの中で一番の稼ぎ頭だったし、それはアップフロントの中でも同じだった。
マコは例の事件があって引退しちゃったし、愛ちゃんは劇団に入っちゃったから、
アップフロントに残ってる五期メンバーは里沙ちゃんだけだった。
私も映画賞を取った後、映画の仕事に専念するために保田さんの所属していた中堅の事務所に移籍をした。
保田さんはその直後にニューヨークに音楽留学しちゃって、帰国後はすぐに大手の事務所に移籍しちゃったけど、
そこには色んな俳優さんが所属してたし、俳優養成所みたいなこともやってたから淋しくはなかった。
当時は色んなテレビに出てる里沙ちゃんが羨ましかったけど、
だけど私は映画女優になりたいっていう夢があったから。だからいつもそこから里沙ちゃんを眺めてた。
ブラウン管とスクリーンの違いはあるけど、私もいつか里沙ちゃんみたいに輝きたいって思って。
だけど、里沙ちゃんは絶頂から一気に転落してしまって・・・そのショックは大きかったと思う。
里沙ちゃんが結婚したのは七年前。そして離婚したのが三年前。
結婚した時も離婚した時もマスコミは大々的に報道したけど、でもそれは天国と地獄くらいの差があった。
マスコミは連日里沙ちゃんを叩いてばかりいた。それは凄まじいまでのバッシング。
それで里沙ちゃんは復帰できなかった。だけどそれ以上に精神的なダメージが大きかったみたい。
矢口さんの説得にも結局応じなかったし、私もただの足手まといだったみたい。
里沙ちゃんの家を後にし、矢口さんに誘われて近くのカフェに立ち寄る。
矢口さん・・・いつも変わらず元気いっぱいだけど、色々と悩みがあるみたい。
仕事も上手くいってないみたいだし、それに恋愛も・・・。
矢口さんから結婚できない理由を聞く。
矢口さんはそれで真剣に悩んでるみたいだけど、私、思わず笑っちゃった。
だって、その理由がまるでギャグマンガみたいなんだもん。
そんな笑う私を見て本気で怒る矢口さん。それを見て私、さらに笑っちゃった。
だけど矢口さんもそんな私につられて笑っちゃって、気づいたら二人で大笑いしてた。
里沙ちゃんのことで沈んでた気分もいつのまにか楽になってた。
もしかしたら矢口さん、私を元気づけようとしてくれたのかな?
----Future Episode - actor35 "Mousaku"
川に釣り糸を垂れる。
二日前の雨で水量が増えて水が濁っている。あまり期待できそうにないな。
と、後ろから女性の声が聞こえる。
振り返らずともわかる。それは後藤・・・後藤真希・・・。
「全然だな・・・せっかく魚が食えると思ったんだが・・・」
「それより・・・いつ日本に帰ってきたんだ?」
「そっか・・・で、今回はどれくらいいるつもりだ?」
「あんまり無理すんなよ!たまには平和な日本でのんびりしたらどうだ?」
「・・・身体の方は不死身じゃないんだからな。どんな事件に巻き込まれるかわからんぞ」
なんだかんだ言っても彼女は人間。彼女の肉体は人間のものなのだ。
例えそれが単なる器に過ぎないとしても、その器こそが本来の彼女なのだ。
「気が向いたらな・・・当分はこの生活でいいよ。人間いつかは死ぬんだし・・・それまで生きることだけは確かだしな」
「結構いい暮らしだろ?最初はちょっと不便だけど、慣れるとそれなりに楽しいもんだぞ」
あれはいつだったかな・・・。私がまだ忙しく日本全国を廻り歩いていた頃だ。
その生活は比較的充実したものだった。ただ・・・やはり私の心の中にはまだ何かが残っていたのだろう。
あれからもう何年も経っていたのに、私は昔のことが忘れられないでいたのだ。
そして気づいたらこの河川敷を歩いていた。私にとって思い出の場所だった。
もう忘れていたのに、忘れていたはずなのに、体は覚えていたのだ。この場所のことを・・・。
「どうした兄ちゃん?何暗い顔してるんや!なんや悩みでもあるんか?」
そう話し掛けてきたのはこの河川敷で暮らしていたホームレスのおじさん。
みんなはその人を雄一さん――ゆういっちゃん――と呼んでいた。
ただし、それが本当の名前かどうかはわからない。もちろん名字もわからない。
ここの生活にはそうしたものは必要ないのだ。
ゆういっちゃんは元銀行員。例の銀行危機で職を失ったらしいが、ここで仲間と暮らしていた。
最初は少し怖かったものの、いつしか私はその人たちと打ち解けていた。
誘われて一緒にお酒を飲んで歌って・・・そしてこんな生活もいいもんだと思うようになった。
それから私は大阪に戻ってくるたびにそこに立ち寄るようになり、そして今はこうして暮らしている。
先々月、ある事件があって人数は少し減ったものの、それでもまだ数人が残っている。
釣り糸には全く当りが来ない。後藤が隣に座り、私の横顔を眺めている。
「ああ・・・元カリスマ美容師って奴がいたんだが、城公園に移っちゃってな・・・」
「あそこは人数も多くて安全だし、それに炊き出しもあるからな。・・・なんならお前切ってくれるか?」
こうして髪の毛を伸ばしていると、以前の長髪ブームの頃を思い出す。
あの頃はまさか角刈りブームが来るとは思わなかったことだろう。
もっとも、黒髪ブームは薄々予想できたことだが・・・。
「温泉か・・・そうだな、たまには贅沢してみるか・・・」
お湯を沸かして後藤にお茶を出す。使い古しの出がらしだが、ほうじ茶はこの方が旨い。
後藤がテントに上がる。ゆっくりとした時間が流れる。
後藤と一緒にいると落ち着く・・・。なぜかはわからないが、それは昔から、初めて出会った頃からだ。
ただ・・・そういった落ち着きもいいが、やはり、またあの頃のようなドキドキした感情を味わいたいとも思う。
そう・・・彼女に恋していたあの頃の・・・。
後藤との落ちついた時間が良いな。
負けんな作者。ガンガレ。
俺もそうだが、以前の読者もチェックはしてると思うよ
ただ、展開が読めないんでとりあえず静観
1人称じゃないから感情移入がしにくいというのもあるかも
作者は九州人とみた
>>131 ありがとうございます。彼女、何かオーラがあるんですよねえ。
>>132 ありがとうございます。勝てるようにがんがります!(←何に?)
>>133 読者を混乱させるのが目的でしたからね。
今じゃそれ以上に作者が混乱してますけど・・・。
>>134 残念!
----Future Episode - actress36 "Mari Yaguchi"
おいらは今、新垣の家にいる。
きっかけは二日前、ゆうちゃんからの電話だった。
一応おいらも三代目リーダーってことで、同窓会の話を一緒に進めようってことみたい。
それでメンバーの連絡先の書いてある一覧表をファックスで送ってもらったんだよね。
だけどちょっと問題があるメンバーがいるみたいで。
その中でおいらが役に立てそうなのは二人。新垣と高橋。
ゆうちゃんよりも二人の実際のリーダーだったおいらの方が説得しやすいだろうってことで。
それでまずは新垣の実家に来てみた。
ここで新垣の所在を聞くつもりだったんだけど、その必要は無かった。
新垣は離婚してからずっとこの家に引きこもってたみたい。
一時期引きこもりブームってのがあったけど、最近はあんまり聞かないんだけどなあ。
リビングに通され、そこで新垣に会う。
最初はちょっと目を疑った。髪型もいまいちだし、何より輝きが全く無くなってた。
あの全盛期の頃のシンデレラみたいな新垣とはまるで別人。
どちらかと言うとイメチェンして人気が出る前の新垣に再会したような感じかな?
だけど新垣はずっと下を向いたまま。おいらの話も聞いてるのかどうか。
やっぱりマスコミや芸能界に対する不信感みたいなのがあるんだろうなあ。
同窓会の話は伝えたけど、だけど「私は行きません」の一点張り。
しばらくしてインターホンの音が鳴り、そして部屋に入ってきたのが・・・。
「紺ちゃん!・・・どうしてここに?」
私がそう言うのと同時に紺ちゃんも同じ質問をする。
どうやら紺ちゃんも新垣のことが心配になって会いに来たみたい。
結局おいらも紺ちゃんも新垣を説得することはできなかった。
その後、紺ちゃんを近くにあったカフェに誘う。
紺ちゃんとおいらは現役の頃は仕事以外ではあまり接点は無かったんだけど、
紺ちゃんはケイちゃんと仲が良かったから、それで一緒に遊ぶことも多かった。
特にモーニング娘。解散後は、大阪の部屋でケイちゃんを中心に、
おいらに梨華ちゃん、それに紺ちゃんに明日香ちゃんを加えて保田組なんてのを結成したりした。
まあだから何だってことになるし、あの部屋も長くは続かなかったしね。
だけど紺ちゃん、今日はずっと冴えない顔してる。やっぱり新垣のことで悩んでるのかなあ。
でも、おいらの悩みに比べたらそんなの屁みたいなもんだけどね。
「ねえ紺ちゃん、紺ちゃんは結婚しようとか考えたこと無い?」
結婚・・・それがおいらの今一番の問題。おいらももう32歳。ゆうちゃんが結婚したのも32歳だった。
最近は仕事もうまくいってないし、そろそろ結婚しないと本当にヤバイのよね。
「おいら男運が無いんだよねえ・・・ほんっと・・・」
「五年くらい前にさ。プロポーズされたことがあるんだけどね・・・」
「その人の名字が小田だったから断っちゃった。結婚したら『おだまり』になっちゃうからね」
紺ちゃん、その話聞いて笑ってる。そりゃそうだよ。まるでマンガみたいだもん。
「それでその次に結婚したいって思った人が水田さん。今度は『みずたまり』だよ?」
「それでさ、今度こそ普通の名字の人と付き合おうと思ってたんだけど・・・」
「今付き合ってるカレシの名前・・・かなり珍しいんだよね・・・それも今まで以上の名前になっちゃうし」
「その人・・・伊木戸さんって言うんだよね。・・・ほんっと男運無いんだよなあ・・・おいらって・・・」
----Future Episode - actress37 "Natsumi Abe"
なっちの日記
今日は久しぶりにいい天気だったよ!
だから乱太郎が学校に行った後、布団干したよ!
みっちゃんは今日は珍しく仕事があるんだって!
それでお昼前に出かけちゃったよ!
なっちはそれから部屋の掃除をしたよ!
なっちは家事もちゃんとこなせるんだよ!
それからお昼御飯を食べて、それから昼ドラを見たよ!
今話題の琥珀夫人だよ!琥珀夫人!
すごーいいやらしいシーンがあったよ!なっちちょっと興奮しちゃったよ!
それからワイドショーを見て、それからお買い物に行ったよ!
いつものスーパーでお買い物をして、それから隣町のスーパーにも行ったよ!
そこでは玉子がワンパック96円だったよ!
すごいよね!なっちはお買い物上手だと思うよ!
それから家に帰ったら干してた布団がポッカポカになってたよ!
これで今夜はいい夢が見れそうだよ!
それから乱太郎が帰ってきたよ!
でもすぐに遊びに出かけちゃったよ!友達の家でゲームをするんだって!
とりあえずお泊りは駄目よって言っといたよ!
乱太郎はまだ子供だけど、モテるから心配なんだよね!
それから晩御飯の準備をしたよ!
今日の晩御飯はハンバーグにグラタンだよ!
ハンバーグはとっても美味しいんだよ!
冷凍だけどとっても美味しいんだよ!
それにグラタンもとっても美味しいんだよ!
冷凍だけどとっても美味しいんだよ!
そしたら電話がかかってきたよ!
びっくりしたよ!誰だったと思う?
かおりんだよ、かおりん!
久しぶりだったよ!かおりんと話すの!
今度同窓会をするんだって!それでなっちに電話してきたんだよ!
なっちはモーニング娘。のエースだから当然なんだよね!
だけどみっちゃんには内緒にしてって言われたよ!
不思議だよね?なんでみっちゃんには内緒なのかな?
せっかくだからみっちゃんも誘えばいいのにね?
でもなっちは約束は守るから大丈夫だよ!
またみんなで会えるんだよ!同窓会だよ!
なっちは嬉しいよ!だってまたみんなに会えるんだから!
みんなも嬉しいよね?だってまたなっちに会えるんだから!
楽しみだよね!同窓会!
どんな格好で行けばいいのかな?
やっぱりみんなオシャレしてくるのかな?
でもなっちが一番オシャレなんだよ!
だってなっちが一番オシャレなんだもん!
----Future Episode - actress38 "Kaori Iida"
仕事中に私用の話というのはあれだけど、今週は比較的暇だからいいのよね?
別室で彩と二人で同窓会の確認作業を進める。
「じゃあ、私たちの分と向こうの分とで大体のメンバーは揃ったのね?」
そう言いながら手元にある一枚の用紙を見つめる。
そこにはメンバーの連絡先と近況が書いてある。
私たちが連絡したメンバーと、そしてゆうちゃんたちが連絡したメンバーを加えたものだけど・・・。
「高橋・・・新垣・・・藤本・・・この辺は私からじゃ連絡できないわね・・・」
「後は・・・後藤?・・・って、真希には誰からも連絡してないの?」
それはちょっと意外だった。
真希はみんなから好かれてたし、面倒見のいいケイちゃんとも仲が良かったはずだけど・・・。
ゆうちゃんが一応実家には連絡したみたいだけど、どうやら来れそうにないみたい。
真希とはあまり仲がいいってこともなかったけど、来ないとなるとなんだか淋しいわね・・・。
「そっか・・・でも海外に行ってるのなら仕方ないのかもね・・・」
これで大体のメンバーには連絡が取れたし、連絡の取れないメンバーもはっきりした。
後は私がなっちに連絡するのと、それとゆうちゃんたちと日程と場所を決めるだけね。
と、彩がちょっと意外な言葉を口にする。
「もちろん覚えてるわよ。あのおじさんでしょ?」
彩が口にした言葉・・・それは人の名前だった。
それも私といつも言い争ってばかりいた人。
その人の名前は・・・もーちゃん・・・。
その人の存在を知ったのはまだ私が現役のモーニング娘。だった頃。
メンバーの間であることが大きな話題になってた。それはケイちゃんがドラマの中でキスしたってこと。
それはもうメンバーは大騒ぎで、毎日みんなでケイちゃんをからかってたっけ。
結局そのドラマが放送されることはなかったけど・・・そのキスの相手の人が、もーちゃんだった。
そのもーちゃんの部屋を初めて訪れたのは私がモーニング娘。を卒業した直後。
教えられた通りになっちと行ったんだけど、そこには卒業メンバー全員が揃ってた。
噂には聞いてたんだけどね。でも実際に彩や明日香までいたから、ちょっとした驚きだった。
そこで私たちの歓迎パーティーを開いてくれて、それから暇な時に立ち寄るようになった。
だけど・・・もーちゃんと私は相性がかなり悪かった。
その後ろ向きの性格を見てるだけでなんだかイライラしちゃって。
それで些細なことでいつも喧嘩してた。周りはその様子を面白そうに眺めてたけどね。
でももーちゃんがいなくなった時、とっても空虚な気分になった。
それで気づいたの。私、もーちゃんと喧嘩することでストレス発散してたんだなって。
もーちゃんも多分、そんな私に気づいてわざと喧嘩に乗ってくれてたんだと思う。
「私はいいと思うよ。同窓会に呼んでも!」
もーちゃんを同窓会に呼ぶ。いつの間にかそういう話が持ち上がってたみたい。
彩の話だと紺野がケイちゃんのことを思って提案したらしいんだけど、
まさか今の今までずっと引きずってたなんて・・・ちょっと信じられないわね。
ケイちゃんは自分の悩みを絶対に他人に見せない人・・・その点はちょっと私に似てるのかもしれない。
でも、私はただ強がってるだけだけど、ケイちゃんは違う。
ケイちゃんは他人に心配をかけさせることが嫌いなだけ・・・。
そう思うとやっぱり私は身勝手だなって思う。
「またあの頃みたいに喧嘩・・・してくれるかな?」
なんでだろう。私、あの人との喧嘩がなんだか楽しみになってた・・・。
----Future Episode - actress39 "Nozomi Tsuji"
久しぶりの東京。そこは昔と全然変わってなかった。
ううん、私の知ってる東京とは少し違ってるけど、でもその雰囲気は昔とおんなじ。
人がいっぱいいて、お店がいっぱいあって、それで車もいっぱい。
そんな東京が私は大好き。仙台の町も好きだけど、やっぱり東京が一番好き。
先週、私は主人と喧嘩をした。結婚して七年、今までで一番の喧嘩だった。
あの人にも色々事情があるのはわかってる。仕事が忙しいことも。
だけど、許せないことが一つだけあった。
言ってほしくないことが・・・。聞きたくなかったことが・・・。
だから私、逃げ出したの。仙台の町から・・・。
日曜日にうちのパパとママが来ることになってたけど、逆に私が会いに行くことにした。
ちょうどゴールデンウィークだし、子供たちも喜ぶと思って・・・。
それでこうして東京に帰ってきた。もちろんずっといるわけじゃないけど、
でも正直な気持ち・・・ずっとここで暮らしたいって、そう思うの・・・。
今日は久しぶりにあいぼんと会う約束をしてる。
あいぼんが速人と記美香に会いたいんだって。
速人には確か会ったことがあるんだよね。でも記美香に会うのは初めてになるのかな?
お昼になり、実家のテレビで中澤さんの番組を見る。
中澤さんはあいかわらず綺麗だった。やっぱり仕事してると輝きが違うみたい。
なんだか羨ましくなっちゃった。今は子供たちを育てるので精一杯だけど・・・でも・・・。
いつかまた、私もそこに立ちたいなって・・・。
そう思うようになったのは、この前あさ美ちゃんの映画に出た時から。
エキストラの募集をしてたから、思い切って応募してみたんだよね。
それであさ美ちゃんに電話してみたら、上の人たちと交渉してくれて・・・。
出演者として名前は載らないけど、でも少しだけどセリフももらえた。
出番は少しだけだったけど、でも久しぶりにあさ美ちゃんと一緒に仕事したから、
なんだか昔のことが懐かしくなってしまって・・・。
またみんなと一緒に仕事したいなって・・・そう思うように・・・。
昼の番組には中澤さんの他にあいぼんと里子ちゃんも出てた。
こうしてメンバー同士が一緒に出る番組って、今はこれくらいしかないけど、
でもやっぱり羨ましいなって・・・。私も出てみたいなって思う・・・。
夕方になって、あいぼんが家に訪ねてくる。
だけどあいぼんだけじゃなかった。里子ちゃんも一緒に遊びに来てくれた。
久しぶりに会うあいぼんと里子ちゃん。なんだかとても懐かしい気分。
だけど・・・あいぼんはちょっと変わってた。
部屋に着くとすぐにタバコを吸おうとして・・・それで私は注意したの。
子供がいるから駄目だって。それに健康にも悪いよって。
あいぼんすぐ謝ったけど、いつのまにかタバコを吸う習慣ができてたみたい。
やっぱり仕事が大変なのかな?
私がもう一度テレビに出たいって・・・それは甘い夢なのかな?
そしたら里子ちゃんがそっと教えてくれた。
あいぼんが最近ずっと機嫌が悪いってこと。どうやらストレスがたまってるみたい。
そう言えば、私もずっと子育てでストレスがたまってるのかもしれない。
昔はみんなで騒いだりしてストレス発散してたけど、今はそうもいかないし・・・。
それで思ったの・・・。あの部屋みたいな場所があればいいなって・・・。
----Future Episode - actress40 "Ai Kago"
番組が始まり、いつも通り里子と二人でスタジオの脇で出番を待つ。
いつもはやる気の無いうちやけど、今日はちょっとばかし頑張るつもりやねん。
だって今日はののと会えるねんから。そやから自然に元気が沸いてくんねん。
そんなうちを見て、おばはんも里子ちゃんも、ほんで他の出演者も不思議そうな顔しとるっちゅうわけや。
そりゃそうや。うちが自分から積極的に話し出すなんて久しぶりやねんから。
ついでに新ネタのモノマネも披露してやったねん。そやけど全然受けへんかってん。
この前のモノマネショーではぎょうさん受けたねんけどなあ。
でもおばはんがフォローしてくれたんでなんとか滑らずにはすんだんやけどな。
このおばはん・・・うちは最近よう思おてへんかってんけど、
そやけど、こういう時は頼りになんねん。こういうのが経験ってやつなんやろうなあ。
それに比べてうちはいつも勢いだけや。
最初はそれでもよかったねんけど・・・そやけど最近は空回りばかりや。
こんな時、一人やなくて相方がおればなあって思うねんけど、
コンビ解消しようって言い出したんはうちの方やし、向こうももうその気はないやろうしなあ。
うちがこのお笑いの世界に入ったきっかけはある番組やった。
アイドルが色々なことに挑戦する企画番組で、うちらモーニング娘。のメンバーはその常連やった。
ドラマや映画に出たり、歌を歌ったりしてたメンバーはたまにしか出えへんかったけど、
うちら四期メンバーは四人ともその番組のレギュラーやった。
ある時、その番組の企画でうちは梨華ちゃんと二人で漫才するはめになってん。
お笑いの基本を一から勉強させられたり、色んな漫才のビデオを見せられたりしたんやけど、
最初は全くあかんかってん。それもうけへんどころか、うけへんことがうけてしまいよって。
そやけど梨華ちゃんは真剣やった。うちらにしかでけへん漫才をしようって言い出しよって、
ほんで独特のスタイルを考え出しよった。それがツッコミの方が逆にボケる漫才。
最初はそれでもあかんかってんけど、次第に客の笑いのツボがわかるようになってん。
結局ダブルボケみたいなスタイルになってもうたけど、一度コツをつかめば後はちょろいもんやった。
番組でもその企画は大成功やった。そやけど番組がちょっと欲出してもうて・・・。
勝手に応募しよってん・・・2005年のM1グランプリ。
最終予選で落ちてもうたけど、そやけど当日の敗者復活戦で奇跡の復活。
なんやうちらのファンが外の会場に詰め掛けて組織票が集まったんやて。
そやけど本番では他のコンビに負けへんくらいうけとった。
最終決戦には出れへんかったんやけど、十組中五位の成績。あん時はマスコミも騒いだで!
ほんで吉本へ移籍や。うちも梨華ちゃんも仕事くれへんUFAには不満やったから、すぐ乗ったねん。
そやけど女優させてくれるって約束やったから、漫才の舞台には二度と立たへんかった。
すぐにコンビも解消。ほんでうちは一人でバラエティ番組に出るようになったんやけど・・・。
人気があったんは最初の二、三年やった。しまいにはうちの需要はまるっきりになっとった。
得意のモノマネを披露するようになったんはその頃からや。
今思えば勢いだけやってん。勢いだけで続けとってん。
そんなうちと違って梨華ちゃんはコツコツ地道にやっとった。
元々別のことがしたいって言うとったし、吉本に移籍したんもそれが目当てやったんやから。
今じゃ念願叶って新喜劇のヒロインや。新喜劇には欠かせない一人やで。
それに比べてうちは誰からも期待されてへんし必要とされてへん。
うちがいなくてもうちの代わりは山ほどおる。そやけど梨華ちゃんの代わりはおらへんねん。
どこで道を間違えてしもたんやろか。うちはやっぱり一人では無理なんやろか。
もしそうやとしても、うちと組んでくれる人なんて梨華ちゃん以外におるんやろか。
うちと相性が良くてうちと組んでくれそうな人・・・そんな人がおるとすれば・・・。
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げ〜〜〜〜げろ、げろ〜〜〜〜
----Future Episode - actress41 "Sayaka Ichii"
「うん・・・だからね、私も知らないのよ・・・あの人のことは・・・」
ゆうちゃんから大事な話があるって言われて来てみたんだけど、
話っていうのは先週の電話の再確認だった。
そんなことで一々呼ばないでもらいたいな。こっちだって忙しいんだから。
だけど、ゆうちゃんの狙いは別にあった。
それがわかるのはその直後、私が帰ろうとした時のことだった。
「もう帰るよ。色々やらなきゃいけないことがあるし・・・」
そう、私は今かなり忙しい。二つのユニットを専属プロデュースしてるし、
それに事務所は三つ目のユニットを作る計画を立ててる。
他にも明日香のための曲を完成させないといけないし、
まどかのデビュー後のアルバム作成も始めないといけない。
今までは一週間に一曲のペースで作曲してたけど、最近ではそれでも遅いくらい。
せめて三日に一曲は作らないと追いつかないんだけど、時間的にはかなり押されてる。
だけど絶対にパクリやゴーストは使いたくないの。だって自分の力を信じたいから・・・。
ここで逃げ出したらやっぱりつんく♂の二の舞だったって言われるだけだしね。
自分の時間なんて無くてもいいの。それよりも曲が完成した時の喜びが勝ってるから・・・。
それはあの頃からずっと・・・。あの頃は一曲できただけで大喜びしてたっけ。
明日香と二人でどっちがいい曲を作れるかって競って、それであの人に・・・。
そう、あの人に二人の曲をいつも聞いてもらってたんだっけ。
・・・玄関を出ようとすると、ちょうど玄関が開き、一人の女性が入ってきた。
そして、それがゆうちゃんが私を呼んだ理由だった。
それはケイちゃん・・・。
多分その時の私、鳩が豆鉄砲食らったみたいな顔を浮かべてたと思う。
でもケイちゃんは笑顔で私に抱きついてきた。いつものケイちゃん・・・。
ケイちゃんと二人、ソファに座って話をする。
一方のゆうちゃんはテーブルの椅子に座って一人ワインを飲んでる。まだ夕方なのに・・・。
最初はたわいのない雑談。だけどゆうちゃんがしびれを切らしちゃって・・・。
あの人のことについて色々と私たちに突っ込み始めた。
それでわかった。ゆうちゃんが私たちを呼んだ理由。引き合わせた理由が。
それはちゃんと話をさせるためじゃない。ケイちゃんの気持ちを確かめるためだった。
ケイちゃんは今でもあの人のことを引きずってるみたい。それは私も薄々気づいてたけど・・・。
「私ね、ケイちゃんにいつかちゃんと謝らなきゃって思ってた。・・・それにあの人にも・・・」
「だってあの人・・・私と暮らしてた時も、ずっとケイちゃんのことが好きだったから・・・」
本当のことを言うと、あの人と二人で暮らしてた時、私はあの人のことが好きだった。
だけどあの人はずっとケイちゃんだけを想い続けてた。
ただ、それでも私を守ってくれてた。だから私もあの人の気持ちを尊重して・・・。
「変な話になるけど、私ね、一度もあの人と関係持ったことないよ。キスだって一度も・・・」
それは不思議な関係だった。そこには恋愛感情も肉体関係もなかった。
ただ私を守ってくれてた。ただ私を立ち直らせようとしてくれてた。あの人はそういう人・・・。
「ケイちゃんがずっとあの人のこと引きずってるのは知ってたよ・・・」
「だってケイちゃんが日本に帰ってきた時に出した曲・・・あの人が大好きだった曲だから・・・」
そう、だから私はずっと罪悪感に苛まれてた。二人を引き離したことに対して・・・ずっとずっと・・・。
----Future Episode - actress42 "Kei Yasuda"
あたしがアメリカに渡ったのはあの人がいなくなってから三ヵ月後のこと。
だけどそれは前から考えてたこと。だからそのこととは関係のない話なの。
でも・・・今思うと、やっぱりそのことがきっかけだったのかなって思う・・・。
当時のあたしは一応女優として活動してた。
サークルKのCMや京阪電鉄のおけいはんのCMはそこそこ評判だったけど、
でも本業のドラマも舞台もいまいち評判はよくなかった。
だからあたしは女優に見切りをつけた。まだ一つだけ可能性が残ってたから。
それは歌・・・あたしにとって最後の武器は歌だった。
それで事務所にお願いして音楽留学させてもらった。元々ニューヨークで暮らしたいって思ってたしね。
だけどあたしの歌は全く通用しなかった。レッスンも途中で打ち切られてしまって・・・。
そんな時に一人の男性と知り合った。一流の商社に勤めるエリートのビジネスマン。
彼に励まされてるうちにいつの間にか親密になってしまって・・・それで結婚。
だけど結婚生活は長くは続かなかった。それで半年後に離婚。
ニューヨークにもいられなくなって、あたしは何の目的もなくただアメリカ中を渡り歩いてた。
そんな時、ある田舎の町であたしは偶然スカウトされた。その町で行われる地域の映画祭。
そこに出品される映画の東洋人役が一人足りなかったみたいで。
いかにも素人っぽい記録映画だったけど、あたしにとってはちょうどいい気分転換だった。
だけど、あたしの演技がその映画祭を見に来てた老舗の映画会社の関係者の目に留まって・・・。
気づいたらあたし、ハリウッドの映画に出演することになってた。それもいきなりの準主役。
その映画は大ヒットするような作品じゃなかったし、KEMEKOって名前で出てたから最初は気づかれなかった。
だけどある有名な映画賞にノミネートされることになって・・・それで気づかれてしまったみたい。
後はみんなの知ってる通り。日本に帰国した時はものすごい歓迎ぶりだった。
色んな事務所から移籍の誘いは来るし、毎日がインタビューの連続だった。
前の事務所には戻りにくいってのもあって、あたしは大手の事務所に移籍をした。
ただ、移籍には一つだけ条件をつけた。それがあたしの歌手としてのソロデビュー。
それで事務所は色んな作曲家の曲を候補として挙げたんだけど、あたしはその全てを断った。
どうしても歌いたい曲があったから。それは水谷豊の『カリフォルニア・コネクション』のカバー。
それについては紗耶香が指摘した通り。あたしはあの人のことが忘れられなかったの。
あの人にあたしの歌を聞いてほしかったから・・・そして・・・あたしの気持ちを伝えたかったから・・・。
事務所もハリウッド帰りということでその選曲には大賛成だった。そして実際、そこそこのヒットにもなった。
だけどその気持ちがあの人に届いたかどうかはわからないまま・・・。
それからのあたし、色んな仕事が舞い込んできた。映画にドラマにCM・・・数え切れないくらい。
あたし自身を主役にした『ハリウッド女優の事件簿』が一躍人気シリーズになってからは、
あたしは二時間ドラマの女王候補と囁かれるようになって、今はそれを専門にしてる。
だけど、その仕事もあの人の影響なのかもしれない・・・。
あの人・・・ニ時間ドラマが好きだったし、それに地方ロケで全国を回ればいつか会えるような気がして・・・。
そんな気持ち、ずっとごまかしてきたけど、紗耶香やゆうちゃんには気づかれてたみたい。
あたしもそろそろ・・・自分の気持ちに素直にならないといけないのかもしれない・・・。
「そうね・・・そうだよね・・・あたし・・・」
紗耶香と話し、ゆうちゃんに突っ込まれて、あたしは自分の気持ちにやっと正直になれたのかもしれない。
本当のことを言うと、紗耶香のことを恨んでた時期もあった。だけど、紗耶香にも事情があったんだし、
それに何より、その時の紗耶香にはあの人が必要だったんだから・・・。
あの人のおかげで紗耶香は立ち直ったんだし、あの人がいなかったらどうなっていたか・・・。
そんなあの人だからあたしは好きになったの。
あたし・・・今ならはっきりと言える。ずっと心の奥にしまってた気持ち・・・。
今でもあの人が好きだってこと・・・。あの人に会いたいってこと・・・。
----Future Episode - actress43 "Asami Konno"
今日は久しぶりに事務所に立ち寄ってみた。
マネージャーから次の映画の仕事が決まったからって言われて・・・それでスケジュールの確認をしに。
だけどマネージャー、やっぱり私のこと嫌いなのかな?
私についてもう三年目になるけど、あいかわらずのそっけない態度。
最近は私の他にもう一人のマネージメントもしてるけど、なんでわざわざ掛け持ちするんだろ?
私が嫌なら私のマネージャーから外れればいいのに・・・。人手も足りないわけじゃないのに・・・。
それとも私のマネージャーなんて片手間で十分ってことなのかな?
そんなことを考えてたら知らないうちに中澤さんの部屋に行きついてた。
最近は自分の部屋がどっちなのかわからなくなるくらいこの部屋に来てる。
そんな中澤さんの部屋だけど・・・今日はちょっと様子が違ってた。
部屋にいたのは保田さんと市井さん。二人とも神妙な顔で向かい合ってた。
中澤さんはそんな二人を面白そうな表情で眺めてた。しかもワインを飲みながら。
なんだかよくわからなかったけど、私も中澤さんの横でその様子を眺めることにした。
二人が話してたのはもーちゃんさんのことだった。
どうやら中澤さんがわざと二人を引き合わせたみたい。
これっていわゆる修羅場ってやつなんだろうけど、見た感じでは二人とも穏やかだった。
私が二人の話を聞き始めて少ししてから、中澤さんが私を外へ連れ出す。
二人っきりの方が話しやすいってことなんだろうけど、他に私に話があったみたい。
その話は市井さんのことだった。市井さんがもーちゃんさんと失踪した理由・・・。
何かがあったことは知ってたんだけど、それがまさか自殺未遂だったなんて・・・。
でも・・・それでやっとわかった気がする。あの時先輩たちが二人を責めなかった理由。
それはもーちゃんさんに託してたからだと思う。市井さんのことを・・・。
部屋に戻ると保田さんと市井さんは穏やかなままだった。
でもちょっとだけ変わってた。二人とも何かふっきれたような・・・そんな表情だった。
市井さんが帰り、その後は久しぶりにこの三人での雑談。
だけど、そこで保田さんからちょっと驚く話を聞いちゃって・・・。
「え?・・・ええ・・・あまりうまくいってませんけど・・・でも、どうしてですか?」
それは私のマネージャーの話・・・。
私がUFAから今の事務所に移る前、マネージャーは保田さんの専属だったんだって。
だけど驚いたのはその先の話だった。
「マネージャーが・・・私を?」
私が今の事務所に移籍したのは、2006年の1月。映画で賞を取った翌月のことだけど、
でも移籍の話が持ち上がったのはそれよりも少し前だった。
私、その映画の撮影で映画の世界に魅了されちゃって。
それで映画女優になりたいって思うようになった。
だけど、UFAは色んな仕事――タレント活動――をさせたかったみたいで・・・。
そんな時、保田さんから移籍の話を持ちかけられた。
映画をやるんだったらそっちの事務所の方がいいって言われて・・・。
だけど、それは移籍を言い出したのは保田さんじゃなかったんだって。
私、全然知らなかったんだけど、それがあのマネージャーだったんだって・・・。
保田さんとマネージャー・・・。今の私みたいにあまり親しくなかったらしいんだけど、
ある時、仕事の合間に一緒に私の映画を見に行ったんだって。
そこで私の演技を気に入ってくれたらしいんだけど・・・。
だけど・・・マネージャーにそんな悲しい理由があったなんて・・・私・・・。
----Future Episode - actress44 "Yuko Nakazawa"
今日は珍しく部屋に紗耶香が来とる。まあうちが呼んだんやけど、それにはちょいと理由があんねん。
もちろんあのおっさん――言うてもうちより年下やねんけど――のことを確かめるためやけど、それは口実や。
紗耶香には悪いんやけど、ちょいとケイちゃんの気持ちを確認させてもらお思おてな。
紗耶香が帰る言うんを無理に引き止めとったら、ようやくケイちゃんの登場や。
後少し遅かったらうちの計画パーになるとこやったで、ほんま。
それから二人で話をさせ、うちは一人でワインや。一流芸能人やから当然やな。
とは言うても、こん中で一番売れてんのはうちやなくて紗耶香や。
そりゃ確かにメディアに一番露出してんのはうちやけどな。そやけど、ジャンルが違うねん。
バラエティの司会なんかどんだけやっても年収三億が限界や。
そやけど紗耶香クラスになると印税だけでガッポガッポやで。
作曲に作詞にプロデュース。多分うちの十倍は稼いどるんとちゃうやろか。
紺野も事業やるんやったら銀行やなしにこういう成金長者から金借りるべきやで。
そんなこと考えとったら、ほんまに紺野がやって来よった。
なんや二人がおんの見て目ぇ丸くしとったで。一人の男をめぐっての女の確執とでも思おたんやろ。
そやけど二人にそんな確執はあらへん。どうやらうちの思惑通りにいきそうやな。
しばらくして紺野を外へ連れ出す。そろそろこの子にも教えといた方がええやろ思おてな。
「あんな紺野、紗耶香が逃げ出したほんまの理由知らへんやろ・・・」
そや。紗耶香のあの事件を知っとるんは一部だけや。
うちと彩と圭織、それに明日香と矢口と真希・・・ほんでケイちゃん・・・。
そん時は他のメンバー動揺させへんようにってうちらで決めたねんけど・・・もうええやろ。
紗耶香が自殺しようとした理由はうちも知らへん。
そやけど、うちにもその責任があるんやろなあ・・・。
あん時、うちは結婚したばかりやった。そやからあの部屋にはあんま立ち寄ることも無くなってしもて。
ようはうちの監督不行届きやったねん。それまで紗耶香はうちに反発しながらもうちを頼っとった。
そやけど、うちがおれへんようになって、頼る人もおらへんくなったんやろなあ。
うちはほんまアホやで。紗耶香が悩んどる言うのに、たまにあの部屋行ってはエッチなんかしとったんやから。
幸い未遂に終わって命に別状は無かったんやけど、紗耶香も居辛くなったんやろな。
それで失踪や。そやけど今になって思うと、あのおっさん誘ったんは正解やったんかなって思うわ。
部屋に戻ると、すでに二人の話は終わっとった。紗耶香が一人部屋を去る。
ケイちゃんもなんやふっきれたみたいで、これでようやく同窓会にあん人呼ぶ準備ができたっちゅうわけや。
そやけど・・・ちょいとばかし時間がかかりそうやで。
うちも色々あのおっさんの行方探したんやけど、わかったのはただ一つだけ。
「あんな、うち、あん人の実家に連絡したんやけどな・・・」
あん人の実家に連絡したんは二回目やった。一度目はあの部屋を引き払った時。
その時はあん人の荷物を送ったんやけど、どう説明してええんかわからへんで・・・。
一応ドラマで知り合った仲で、荷物を預かってたって説明したんやけど、
あん人、ドラマのことも何も家族には教えてへんかったさかい・・・。
それどころか家族は大阪にいることすら知らへんかってん。家族が嫌いとは言うとったけどな、まさかそこまでとは・・・。
ほんで今回の連絡やけど、意外なことにあん人、一時期実家で暮らしとったんやて。
すぐにまたどっかに消えたらしいんやけどな、そやけど毎年仕送りだけはしとるらしくて。
住所はわからへんみたいやけど、その消印が大阪やってんて。
「そやからまだ大阪におんねん・・・あん人・・・」
あん人、後ろ向きな性格やさかい。そやからなんとなくわかるような気がすんねん。
大阪に住んどるんは、多分過去の思い出が忘れられへんからやろ。
もしかしたら、うちらと過ごしたあの辺りにまだおるんとちゃうやろか・・・。
----Future Episode - actress45 "Makoto Ogawa"
ピンポーン。
ドア越しにインターホンの音が響く。しかし反応なし。
「おかしいなあ・・・夕方に来るって伝えたはずなんだけどなあ・・・」
あーしゃのことだから、またコロッと忘れてるのかな?
カバンの中から携帯を取り出してあーしゃに電話をかける。
「あ、もしもしあーしゃ?もう着いたんだけど・・・今どこにいるの?」
予想通り、あーしゃは忘れてた。頭はいいのに昔からちょっとどこかが抜けてるのよね。
すぐ近くにいるらしいんだけど、どうやら中澤さんの部屋みたい。
私も行ってみたかったんだけど、場所がわからないし、それに荷物も置きたいしね。
しばらく玄関前で待ってると、ようやくあーしゃが登場。
すっかり忘れてたみたいで笑いながら謝るあーしゃ。
「それじゃ、これから三日間お世話になります!」
そう言うとあーしゃも同じように頭を下げる。
今日から三日間、私はあーしゃの部屋に泊まることになってる。
ラジオの仕事は昨日終えたばかりで一週間は無いし、
それにうちの主人は先週から交換研修で県外に行ってるから、家にいても暇なのよね。
ちょうどゴールデンウィークだし、たまには東京を満喫しようと思ってね。
「はいこれ、お土産!近所の店の芋饅頭だけど、結構評判いいんだよ!」
それを聞いた途端、目を輝かせるあーしゃ。ちょっと喜びすぎだと思うんだけど・・・。
二人で芋饅頭を片手にお茶を飲んでたら、突然部屋に二人の女性が入ってきた。
とても陽気な表情の二人・・・それは中澤さんと保田さんだった。
二人とも夕方なのにお酒を飲んでたみたいで、ちょっと顔が赤らんでた。
そう言えばあーしゃもさっきからちょっとおかしいのよね・・・。
保田さんは私がラジオを始めた頃――二年前――にゲストで来てくれたことがあったんだけど、
中澤さんと会うのは本当に久しぶりだった。こっちはテレビで毎日見かけるんだけどね。
三年前の私の結婚式にも、中澤さんは仕事で来られなかったから、
最後に会ったのは、多分メンバーの誰かの結婚式だったと思う。よく思い出せないけど。
そしたら早速二人にからかわれた。新婚生活は楽しいかって。
「もうからかわないでくださいよ〜。新婚って言ってももう三年目ですよ〜!」
そしたら中澤さんが悪魔のような笑顔を浮かべる。
「ちょっとやめてくださいってば。離婚なんてしませんってば!」
中澤さんが離婚したのが三年目だったんだって。だからって私に言われても困るよね。
「ほんっとに仲いいですって!中澤さんとは違いますって!」
中澤さん・・・しつこいくらいにからかってくる。やっぱりお酒が入ってるからかな?
「ねえ、あーしゃ。いつも三人で昼間から飲んでるの?」
そう小声で尋ねるとあーしゃが笑いながら首を振る。今日は特別なんだって。
さっきまで市井さんもいたって言うし、もしかして同窓会の打ち合わせでもしてたのかな?
久しぶりに話をする中澤さんと保田さん・・・ちょっと酔ってるけど、
それもなんだかあの部屋みたいで・・・急に懐かしくなっちゃった。
----Future Episode - actress46 "Kei Yasuda"
紗耶香が帰って、部屋にはゆうちゃんとあさ美の二人が残ってる。
三人で話をする。それはあの人・・・もーちゃんのこと。
「そっか・・・大阪にいるんだ・・・」
ゆうちゃんからもーちゃんの情報を聞く。だけどわかってるのはそれだけだった。
でも・・・それだけでもなんだかあの人に近づいたような気がして・・・会えるような気がして・・・。
「あさ美が提案したんだって?同窓会にもーちゃん呼ぼうって・・・」
コクリと頷くあさ美。勝手に提案して申し訳ないって表情を浮かべてる。
だけど、謝るのはあたしの方なのかもしれない。
ずっと自分の気持ちをごまかしてきて、みんなに心配かけさせてたんだから。
「ごめんね・・・今まで心配かけて・・・」
「それに・・・あさ美!・・・同窓会のこと・・・ありがとう・・・」
あたし、やっと素直になれたみたい。あさ美もゆうちゃんも、そんなあたしを見てほっとしてる。
ゆうちゃんがあたしとあさ美の前にワイングラスを差し出す。
どうやら祝杯をあげるみたい。まだ夕方だけど、今日は美味しいお酒が飲めそうな気がする。
「乾杯ベイベー!」
それから三人であることを話す。それは三人で大阪に行くってこと。
あたしはたまにしか仕事は無いし、あさ美もスケジュールが空いてるみたいだったから。
ゆうちゃんが土日オフだから、今度の土曜日に行こうってことになった。
あの人に会えるかどうかはわからないけど、でも、それがあたしにとっての第一歩だと思う・・・。
「そうそう、あさ美この前のドラマどうだった?映画と違ってドラマもたまにはいいもんでしょ?」
そしたら返事をしたのはあさ美じゃなくてゆうちゃん。またあたしのことを女王だって。
「だからその女王ってのやめてよね。まだまだ若手で通ってるんだからさあ」
そう言われるのは嬉しいんだけど、でも、あたしなんかまだまだ下っ端の女優だからね。
確かに女王と言われてた片平なぎさと萬田久子の二人は一線からは退いたけど、
でもまだまだあたしには女王って言われるほどの経験も実力も貫禄も無いんだし。
それに今二時間ドラマで一番見かけるのは中山忍だし、小京都シリーズを引き継いだ大河内奈々子や、
うっかり家政婦シリーズの小林恵なんかもあたし以上に活躍してる。だからまだまだこれからなのよね。
「そうそう、この前あさ美のマネージャーと会ったけど、どう?うまくいってる?」
「そっか・・・。あの人、タレントとは親しくしない人だからね・・・でもね・・・」
あの人は以前、あたしのマネージャーをしてたことがある。
そのマネージャーのおかげであたしも色んな仕事にありつけてたんだけど、
だけど、そんなマネージャーが一度だけあたしの前で涙を見せたことがあった。
それが仕事の合間に見に行ったあさ美の映画。
あさ美の演技に感動したらしいんだけど、そこには別の理由もあった。
マネージャー・・・その少し前に娘を事故で亡くしてたらしくて・・・。
その娘が女優志望で、あさ美と同じ年くらいだったんだって。
それからマネージャーはあさ美をその事務所に呼ぼうって熱心に働きかけてた。
いつか大物になるからって言ってたけど、やっぱり娘とあさ美を重ね合わせてたんだろうな。
私情を挟むなんてあの人らしくないけど、でも結果的にはそれでよかったんだよね。
この前会った時に言ってた。あさ美を事務所に呼んだのは自分のためだったのかもしれないって。
でも、もう一つ言ってたことがある。・・・紺野あさ美という一人の女優に出会えたことを娘に感謝するって・・・。
----Future Episode - actress47 "Yuko Nakazawa"
紺野の携帯に電話がかかってくる。なんや紺野の部屋に小川が来とるんやと。
すっかり忘れてた言うて慌てて帰って行きよったけど、なんや今日はおもろなりそうやで。
ケイちゃんと二人で紺野の部屋に突撃する。
小川は昔とちっとも変わってへんかった。無邪気というか天真爛漫というか・・・まあ地味やけどな。
なんやからかいたくなるんやなあ。そんな小川見てると・・・。
「ほい、これ土産やで!小川が来とる言うんでさっき二人で買うてきたんや!」
「なんやって見ればわかるやろ?新潟の日本酒と越後製菓の煎餅やで!」
ちょっとしたからかいのつもりやってんけど、どうも逆に喜ばせてしもたみたいや。
それからケイちゃんと二人で今度は新婚生活についてからかってみる。
「うちが離婚したんも結婚三年目やったで!そろそろやばいんとちゃうか?」
そやけど小川は嬉しそうに否定しよった。よっぽど結婚生活がうまくいってんやろなあ。
うちの結婚三年目なんてなんの楽しみもあらへんかったんに・・・えらい違いやわ。
それから同窓会の話題になって、あのおっさんの話になる。
なんや小川がこうしてるとあの部屋みたいやって言うもんやから。
それでうちも考えたねん。せっかく小川が来てるんやから、全員集合させたろて。
「よっしゃ、ほなら暇そうな連中呼んでみよか?加護と里子くらいやったら来るはずやで!」
それから電話をかける。最初は加護や。
「お、加護か?うちや、中澤やけど今暇かいな?・・・なんや、辻もおるんかいな?そりゃ好都合やで!」
なんや冗談のつもりやってんけど、こりゃほんまにメンバー集合しそうやで。
辻と加護と岡嶋の三人が来る言うんで、紺野も小川も嬉しそうや。
うちとケイちゃんよりもそっちの方がええみたいやな。まあ当然やろうけど・・・。
「ほならもう全員呼ぶで!今日はここでプチ同窓会や!」
それからケイちゃんと二人で東京にいて暇そうなメンバーに連絡をする。
突然の召集にも関わらず、最終的に集まったのは九人。
年長組はうちとケイちゃんと彩の三人。後は紺野、小川、辻、加護、亀井、岡嶋の六人や。
うちが久しぶりに会うんは小川の他に、辻と亀井の二人。
三人とも芸能界から引退してるさかい、会う機会が無いんやなあ。
それにしても、辻はしばらく見ーひんうちに綺麗になりよってからに。
女優やってるメンバーよりも全然美人やんけ。そやけどなんや元気無さそうやで。
「どうしたんや、辻?・・・元気ないみたいやけど、旦那と喧嘩でもしたんか?」
そう言うと加護と岡嶋の二人が一瞬戸惑った表情を浮かべる。
なるほどな・・・珍しく東京来てたんはそういうことかいな。
「さっきも小川に言うたんやけどな、離婚するんやったらうちとケイちゃんがやり方教えたるで!」
そう言うたら小川がマジ顔で反論してきよった。軽い冗談のつもりやってんけどなあ。
「まあうちとケイちゃんは子供おれへんかったさかい・・・辻は子供おるし大丈夫やろ・・・」
その言葉でみな一斉に小川を見る。そう言うたら小川はまだ子供おれへんかったんやっけ。
こりゃちょいと悪いこと言うてしもたかもしれへんな。さりげなくフォローしとくか。
「よっしゃ、ほな小川がはよ子供作れるようにうちがフェロモンの出し方教えたるで!」
って、なんやねんその顔は!せっかくうちが秘伝教えたる言うてんのに!
----Future Episode - actress48 "Satoko Okajima"
今日は久しぶりに忙しい一日だった。
昼にテレビに出た後は、加護さんに誘われて一緒に辻さんの家に遊びに行った。
久しぶりに実家に帰ってきたんだって。
辻さん、私より三つ年上なだけだけど、でももう二人も子供がいる。
そう考えるとちょっと不思議な感じ。
だって辻さんはかわいくて人気もあったのに結婚して引退しちゃって、
それに比べて何の取柄もない私なんかが復帰して未だに芸能界にしがみついてるなんて・・・。
辻さんの子供と一緒に遊んでたら、加護さんの携帯に電話がかかってきた。
それは中澤さんだった。今紺野さんの部屋にいるらしいんだけど、小川さんが遊びに来てるんだって。
それで私たちも紺野さんの部屋に遊びに行くことになった。
その部屋はちょっとした同窓会って感じだった。
保田さんもいて、少し後には石黒さんとえりちゃんも駆けつけてきた。
中澤さんは機嫌がいいらしくて、今日はおごりだって言って色々お寿司とかの出前を頼んでた。
だけど私、あまり年上の先輩たちと親しくないから、ちょっと緊張してた。
加護さんと辻さんは紺野さんと小川さんと楽しそうに話してたし、
それにえりちゃんは保田さんと石黒さんと話してたから、私は一人ぼっちだった。
ううん・・・一応私の目の前にも中澤さんがいるんだけど・・・だけどね・・・。
お酒が入ってるせいか、さっきから一人でずっと話しっぱなしなのよね。
それでいつのまにか説教みたいになってしまって、今日の昼の番組の駄目出しをされてた。
中澤さんが出演者に駄目出しするのは機嫌がいい証拠。それは知ってる。
だけど私なんか何を言われたって変わらない。何を言われてもそれを活かすことができないの。
だって、私は私の限界を知ってるから・・・。
「あの・・・中澤さん・・・どうして・・・どうして私なんかを使うんですか?」
それは前々から聞きたかったこと。
昼の番組が始まってから丸二年、私はずっと中澤さんの期待を裏切り続けてきた。
なのに中澤さんは私を使い続けてる。私なんかを・・・。
でも・・・中澤さんは笑いながら教えてくれた。それは私の以前の仕事ぶりが理由だった。
戦隊物のヒロインをしてた時、そしてその後ドラマなんかに出てた時、
私は演技も下手で、セリフもうまく言えなかったけど、それでも仕事を楽しんでた。
そして、それが理由だった。
例え人気や才能が無くても、楽しんで仕事をする。そんなタレントを使いたかったんだって。
決して目立つ存在じゃなくていい・・・ただ視聴者が安心できる存在・・・そんな人を探してたんだって。
でも・・・私はそんな中澤さんの思惑に気づかずにいた。
最初の頃は楽しかったけど、最近は苦痛になってた。何もできない自分が嫌で・・・。
だけど、それを聞いて私やっと自分の間違いに気づいた。
自分の仕事が減ったのは決して才能のせいじゃないって。自分から逃げてたからだって。
中澤さん、約束してくれた。今の事務所をクビになっても、中澤さんの事務所で面倒見てくれるって。
ずっと私を使い続けてくれるって・・・。とっても嬉しくて、私いつのまにか泣いてた。
そんな私にみんなも気づいて、心配して声をかけてくれる。
「ううん・・・違うの・・・ちょっと嬉しくて・・・」
そしたら保田さんが遠い目をして話してくれた。
今は仕事も順調だけど、昔は仕事がうまくいかずにかなり悩んでたって。
だけど、悩んでたってしょうがないから、前向きに生きることにしたって。
それを聞いて私、ある人の言葉を思い出してた。
それはモーニング娘。が解散したばかりの頃、あの部屋で聞いた言葉・・・。
「人生いつ何が起きるかわからないんだからさ・・・」
「だから問題はさ、前向きに生きるか、後ろ向きに逃げるかの違いだけだよ!」
----Future Episode - actress49 "Aya Ishiguro"
携帯に電話がかかってくる。それはゆうちゃんからの電話。
なんでもあさ美ちゃんの部屋に急遽メンバーが集まることになったんだって。
とは言っても若い子たちが中心みたいだけど。
「うん、わかった。圭織にも聞いてみるね。じゃあ仕事が終わったら行くから・・・」
同窓会の話が持ち上がってから、こうしてゆうちゃんと話す機会も多くなった。
ううん、ゆうちゃんだけじゃない。この前はあさ美ちゃんにも会ったし、
それに電話だけならケイちゃんや明日香たちとも話してる。
それまでバラバラだったメンバーだけど、同窓会がきっかけでまた一つになれそうな気がする。
昔はいざこざも絶えなかったけど、今ではいい思い出になってるしね。
「ねえ、圭織。ゆうちゃんやケイちゃんが集まってるらしいんだけど、一緒に行かない?」
だけど圭織は予定があったみたい。
「それじゃ仕方ないよね・・・じゃあ圭織の分も楽しんでくるからね!」
仕事を終えてゆうちゃんの事務所へ。そこで電話を入れて迎えに来てもらう。
あさ美ちゃんの部屋にはたくさんの懐かしい顔が揃ってた。
懐かしいと言っても私が卒業した後に入った子たちばかりなんだけど、
でも彼女たちとも一緒に過ごしたことはあったしね。
「うん、圭織は用事があるんだって。ほら、今日は結婚記念日みたいだから」
圭織が結婚したのはちょうど二年前の今日。
確か相手方の事情もあって、披露宴をせずに入籍だけで済ませたんだっけ・・・。
どうもケイちゃんは圭織のことを心配してるみたい・・・。
それから色んな話をする。
希美ちゃんとは子育ての話をしたし、亜依ちゃんはモノマネを披露してくれた。
麻琴ちゃんは地元でラジオの仕事をしてるらしくて、冗談だろうけど今度私に出演しないかって・・・。
それを聞いてちょっと嬉しくなっちゃって。この前もゆうちゃんに復帰しないかって聞かれたっけ。
その時は三人も子供がいるからって否定したけど、本当は復帰してもいいかな?って思ってたりする。
子育ても一段落ついて、今は仕事する余裕もあるしね・・・。
それに引退した時に事務所からメディアに出ないって約束させられたけど、その期限はもう過ぎてるし。
ただ、十五年も離れてたから、問題は私に何ができるかってことなんだよね。
歌うことくらいしかできないけど、こんなおばちゃんじゃそれも無理だし、
でもラジオくらいだったらこなせるかもしれないって・・・。
「おばちゃん、本気にしちゃうよ?」
そう言うと麻琴ちゃんは笑いながら返事をする。どうもこの子、本気みたい。
しかもそれを横で聞いてたゆうちゃんがよかったら自分の事務所に来ないかって言い出して・・・。
なんだかどんどん私の復帰について具体的な話が膨れ上がってた。
紗耶香の曲は合わないだろうからって、勝手に明日香の曲でデビューなんて話に発展しちゃって、
最終的にはケイちゃんとゆうちゃんと三人で歌おうなんて話まで・・・。
しかも、それを聞いてた麻琴ちゃんも自分も歌いたいって言い出して、
結局その場の全員で歌おうって話で盛り上がってた。
みんなそれぞれの人生を歩んでるけど、やっぱり歌なんだよね。みんなが目指してたのは。
モーニング娘。に入った時期や目的はそれぞれバラバラだけど、歌いたいって気持ちはみんな同じ。
私たちはみんな、ステージで歌うことを目指してた。
そして今もそれは変わらない。例え年の差があっても・・・。
でも・・・いつかそんな夢がかなう日が来るような気がして・・・。
----Future Episode - actress50 "Eri Kamei"
世間はゴールデンウィークなんて騒いでるけど、この仕事にはあまり関係ないみたい。
確かに幼稚園も休みだけど、その代わりお勉強会なんかがあったりして・・・。
それは幼稚園の先生たちが集まって指導の仕方を勉強したりする会合。
さすがに毎日朝から晩までというわけじゃないけど、休日にはよくこんな集まりが組まれてる。
今日は午前中だけだったけど、それでも他の予定に影響するのよね。
午後になって学生時代の友達と会う。
みんな私と同じく幼稚園の先生や保育園の保母さんをしてる。
忙しいのはみんな同じ。それにストレスがたまってるのも同じ。
だからこうしてたまに会ってはみんなでストレス発散をしてる。
今日は四人でカラオケだった。
久しぶりにモーニング娘。の曲や自分のソロ曲を歌わされちゃって。
自分の曲を歌うのってなんだか恥ずかしいのよね。
でも結構ノリノリで歌ってたりして、私もよっぽど歌が好きなんだなって思う・・・。
夕方になって保田先輩から電話がかかってきた。
あさ美ちゃんの部屋に懐かしい顔が集まりそうなんだって。
それで友達と晩御飯を一緒に食べてから、ちょっと遅れたけどあさ美ちゃんの部屋へ。
場所がわからなかったんだけど、保田先輩がタクシー代を払ってくれるって言うから、
久しぶりに贅沢してタクシーなんかに乗っちゃった。
それで目印のバス停に着いたら、保田先輩が迎えに来てくれてた。
なんでも集まったメンバーは私で九人になるんだって。
同窓会があるとは聞いてたけど、今日はその予行演習みたいなものかな?
保田先輩と二人でコンビニでお酒を買い込んで、あさ美ちゃんの部屋へ。
そこには本当に懐かしい顔が勢ぞろいしてた。
もちろん六期メンバーは私だけだったけど、里子ちゃんもいたし、
マコちゃんにあさ美ちゃん、それに辻さんに加護さんもいた。
こうしてみんなで騒ぐのって何年ぶりになるんだろ。
それに、こうしてみんなで飲んで騒ぐのは、もしかすると初めてかもしれない。
私が芸能界から引退した時にはすでに二十歳は過ぎてたけど、
でもその時は受験勉強で忙しかったからね。
その後はみんなと会う機会もあまり無かったし、
一緒にお酒を飲んだことがあるのは里子ちゃんと保田さんくらいかな?
それから石黒先輩のデビューの話になって、それでみんなでデビューしようってことになった。
中澤先輩や保田先輩は本気みたいで、福田先輩に直訴するって電話をかけてた。
福田先輩は今日は予定があったみたいで、幸い電話は通じなかったんだけど、
その後はデビューに向けての練習だって言って、みんなでカラオケ大会。
部屋にあったTDデッキにマイクを差し込んで、それでみんなでモーニング娘。の曲を熱唱しちゃって。
さっき歌ったばかりだったんだけど、やっぱりみんなで歌うのは感じが違うんだよね。
なんだか元気が出てくるっていうか、一人で歌うよりも全然楽しくて・・・。
それから中澤さんが自分のソロ曲を歌うって言いだしたんだけど、
その部屋には中澤さんの曲が無くて・・・それで中澤さん、アカペラで大熱唱。
しかも保田さんも負けてられないって、対抗して自分のソロ曲を熱唱。
結局管理人さんから苦情が来てカラオケ大会は終わったけど、それでも二時間くらい歌ってたかな?
飲んで話して歌って騒いで・・・こんなに楽しかったのは本当に久しぶりだった。
なんだか、本当にまたみんなで歌えたらなって思うようになってしまって・・・。それで思ったの。
モーニング娘。は解散しちゃったけど、でもまだみんなの中には生き続けてるんだって!
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