ほぼ毎日、娘。のとある奴が俺の家にいる・・・!!!2

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1 ◆5/w6WpxJOw
続きです。

ミラー感謝!

【前スレ】
ほぼ毎日、娘。のとある奴が俺の家にいる・・・!!!
http://news3.2ch.net/test/read.cgi/news7/1040831621/ (html化待ち)
http://2chlog.homeftp.org/20030126/1040831621.html
2 ◆5/w6WpxJOw :03/01/29 18:09 ID:???
【本スレ】
ほぼ毎日、娘。たちが俺の家に来る・・・!!!
http://news3.2ch.net/test/read.cgi/news7/1021266702/ (初代スレ。html化待ち)
http://www.geocities.co.jp/Hollywood-Spotlight/1509/1021266702.html
ほぼ毎日、娘。たちが俺の家に来る・・・!!!
http://news3.2ch.net/test/read.cgi/news7/1031724632/ (二代目。html化待ち)
http://www.geocities.co.jp/Hollywood-Spotlight/1509/1031724632.html
娘。たちが俺の家に来る・・・!!! 2度目の復活
http://news3.2ch.net/test/read.cgi/news7/1034997026/ (三代目。html化待ち)
http://www.geocities.co.jp/Hollywood-Spotlight/1509/1034997026.html
ほぼ毎日、娘。たちが俺の家に来る・・・!!!第4期
http://news3.2ch.net/test/read.cgi/news7/1039975245/ (連載中)

【関連スレ】
ほぼ毎日、ロナウドが俺の家に来る・・・!!!
http://news.2ch.net/news7/kako/1021/10212/1021267078.html
ほぼ毎日、関取たちが俺の家に来る・・・!!!
http://news3.2ch.net/test/read.cgi/news7/1041312990/ (連載中)
ほぼ毎日、娘。たちがじょんいるします。
http://news3.2ch.net/test/read.cgi/news7/1043055218/ (html化待ち)
3暁丸:03/01/29 18:09 ID:???
2GET
4148 ◆5/w6WpxJOw :03/01/29 18:11 ID:???
ドアが開き、姉と紺野が入ってきた。
「ここが物置・・・もーちゃんの部屋ね」
「は、はい!・・・」
そう言って紺野は私の部屋を見渡す。

いきなりのことに慌ててノートパソコンを閉じる。・・・保田の画像を見られてしまっただろうか?
一瞬そう思ったものの、どうやら気づかれなかったようだ。
二人は机の上のノートパソコンには気づかず、部屋中を見回していた。

薄暗い照明に照らされる狭い部屋。奥には無造作に積まれたダンボールの山とガラクタが目に付く。
ただし、一応本棚やカラーボックスなどによって機能的に整理してある。結構きれい好きなのだ。

「じゃ、次行こうか!」
姉がそう言うと、その子も「はい!」と返事をして部屋を出て行った。

さすがに紺野にこの壁紙を見られるのはまずい。あらぬ誤解を生んでしまうかもしれないからだ。
まあ、誤解というか、私が保田のことを好きなのは事実だし、それに
その画像を設定したのが保田自身ということを説明すればいいだけのことなのかもしれない。
しかし、なんとなくその画像は見られてはいけないもののように感じてしまう。
それはやはり・・・私が保田のことを本気で好きだからなのだろうか。

しばらくパソコンで時間を潰した後、リビングへ向かう。
ソファには姉と紺野が座って話をしていた。
最初に比べるとかなり落ち着いたような感じだったが、やはりどことなく緊張している様子だった。
やはり保田に帰られて一人残されたのが寂しいのだろう・・・。

俺は二人の話には加わらず、一人テレビを見ていた。
気づくと、すでに紺野の姿は見えず、姉が一人で雑誌を読んでいた。
5149 ◆5/w6WpxJOw :03/01/29 18:11 ID:???
どうやら紺野はお風呂に入っているらしい。
これからこの家で暮らすのだから、それも当然のことなのだが、
ただ、やはり何か違和感を覚えざるを得ない。

しかし、それは私がまだ、紺野のことを家族の一員として受け入れていないことを意味する。
そしてまた、それは私がいつの間にか、保田のことを家族として認識していたことを意味するものでもあった。
紺野のことを一人の家族として認識できる時は訪れるのだろうか・・・。
それとも、私の認識の中で、やはり保田だけが特別な存在なのだろうか・・・。

それにしても、会社を辞めてから、次から次へと不思議なことばかりが起こっている。
自分でも信じられないことばかりだ。もしかしたらこれは夢なのかもしれない。
ついそんなことを思ってしまう。

突然繰り広げられる夢・・・。そしてそれは現実に起こっている夢でもある。
突然訪れた保田との生活・・・。保田とのささいな喧嘩の日々・・・。そして楽しかった保田とのデート・・・。
どれもこれも以前の自分からは想像もできなかったことばかりだ。
まるで、不思議の国に迷い込んでしまったアリスのような、そんな不思議な日々・・・。

しかし・・・しかし、その夢にもいつか終わりが来る。現実という終わりが・・・。
それはすでに、保田のことを好きだと気づき始めた頃から、覚悟していた。
彼女がここに来るのは、そう、彼女がモーニング娘。である間だけなのだ。

芸能情報に疎い私だが、彼女が半年後にモーニング娘。を卒業することは知っている。
そして、その時には、彼女はもうこの家に来ることは無くなる。その権利を失うのだ。
そう、モーニング娘。を卒業することは、この家から巣立つことをも意味している・・・。

夢は必ず終わりを迎える。そしてこの私の見ている夢も例外ではないのだ。
夢は夢・・・。現実は現実・・・。
しかし、夢と現実が一つになったこの夢は、どのような終わりを迎えるのだろうか。
ハッピーエンド?バッドエンド?

それは誰にもわからない・・・。私にも・・・そして彼女にも・・・。
6番組の途中ですが名無しです:03/01/29 18:12 ID:???
復活キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!!!
7 ◆5/w6WpxJOw :03/01/29 18:18 ID:???
復活記念にレスします。
ちょっと不安なので感想とか貰えると嬉しいです。

>>2
邪魔して申し訳ないです。
>>6
ありがとう!
8番組の途中ですが名無しです:03/01/29 18:20 ID:???
帰ってキタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!!!

いや、マジで待ってたよー。
がんがれ!◆5/w6WpxJOw
9 ◆5/w6WpxJOw :03/01/29 18:23 ID:???
いきなり訂正です。
>>4の最後の「俺は」ってところは「私は」の間違いです。

>>8
ありがとうございます!
10番組の途中ですが名無しです:03/01/29 21:04 ID:???
復活おめ
11番組の途中ですが名無しです:03/01/29 21:25 ID:???
待ってました!
ほぼ毎日更新されていただけに、この数日は禁断症状だったよw
12番組の途中ですが名無しです:03/01/29 22:45 ID:???
ここのファンは結構多いと思うぞ。かなりおもろいし。
がんがれ!!
13番組の途中ですが名無しです:03/01/30 00:14 ID:???
祝・復活

この板ってこのスレしか見ないからどのくらいの時間で保全したらいいのかよくわからん。
できるかぎり保全するんで頑張ってくらさい。
14 ◆5/w6WpxJOw :03/01/30 18:20 ID:???
>>10
ありがとうございます。
>>11
そう言ってもらえると嬉しいですね。
>>12
同上です。彼女も喜んでることでしょう。
>>13
ありがとうございます。
保全に関しては、前スレが落ちたのは山崎渉age荒しの余波みたいですので、
age荒しにあって順番が狂った時にしてもらえるとありがたいです。
15150 ◆5/w6WpxJOw :03/01/30 18:22 ID:???
リビングのドアが開く。振り返ると、そこには体にバスタオルを巻いただけの紺野がいた。
突然のことで我が目を疑う・・・。中学生にしては、なんとも色っぽい体型をしている。

いや、目を疑ったのは、その姿を見たからでは無い。

慌てて姉が紺野のところに駆け寄る。そして、そっと抱きしめると、
紺野は「う・・・う・・・」と言ってすすり泣く。

そう、紺野は目を真っ赤にして泣いていたのだ。
多分、それまで、姉や母、そして私がいた時には泣くのを我慢していたのだろう。
それが、お風呂で一人きりになって、それまでためていた涙が一気に溢れ出したのだ。

その泣く姿を見て、頑張り屋さんに頑張らせないようにという保田の忠告を再び思い出す。
無理も無い。初めての家に一人っきりなのだ。東京の部屋のように仲間がいるわけでもない。
いきなり自由に過ごしていいと言われても、それはそれで難しい注文だ。

しばらくして紺野のすすり泣く声は聞こえなくなった。姉の部屋へ移動したのだ。
まあ、優しい姉のことだから、うまく対処してくれるだろう。

ただ、紺野が泣いたこととともに、私の頭の中には、さきほどの紺野の姿が焼きついて離れなかった。
それはもちろん、紺野の色っぽい姿だ。・・・紺野が寂しい気持ちを我慢していたと言うのに、なんて最低なんだ。
自分でもそう思ってしまう。・・・ただ、突然のことで頭の中が混乱しているのも事実なのだ。

これまでも、保田が風呂に入った後、バスタオルをまとっただけの姿で私の前に姿を見せたことは何度かあった。
しかし、それは故意に私を困らせようとしたものであって、今回の場合とは全く事情が違う。
それに、保田の毒々しいオーラとは違い、紺野の場合は清楚なオーラが漂っていた。
まあ、それは紺野が泣いたこととは全く関係のないことであるが・・・。

と、姉の部屋から二人が出てきた。
姉は紺野をソファーに座るように言い、自分は台所で何かしている。
16151 ◆5/w6WpxJOw :03/01/30 18:22 ID:???
黒のジャージ姿の紺野は、すでに泣き終えているものの、目は赤いままだ。
そして小さくうずくまっているように見える。まあ、それは来た時からずっとだが。

と、姉がティーカップを載せたお膳を運んでくる。

紅茶・・・だろうか。
ソファの前のガラステーブルにそれを三つ置く。

「紺ちゃんびっくりしちゃった」
姉は紅茶を置きながら紺野に向かってそう言う。
確かにびっくりしたのは私も同じだが、ただ、それは今の紺野に対しては逆効果じゃないのか?
と言うのも、また頑張り屋さんが頑張ってしまうかもしれないからだ・・・。

そう思ったものの、姉の話の続きに、私はそれ以上にびっくりさせられることになる。

「だってケイちゃんの時と全く同じだったんだもん・・・」

・・・!

保田のときと同じ?・・・それはどういう意味だ?

「ケイちゃんもね、最初の頃はいつも泣いてばかりだったんだよ」

保田が泣いてばかり???
まさか!・・・あのずうずうしい保田が?

しかしその言葉に驚いているのは私だけではなかった。
隣に座っている紺野もその言葉が意外だったらしい。

「嘘だろ?」
思わず聞き返してしまう。
17152 ◆5/w6WpxJOw :03/01/30 18:23 ID:???
「本当よ。ケイちゃんもね、ずっと泣くの我慢してたんだから・・・」

完全に意外だった。
普段の保田からは想像もできないことだ。

「それに紺ちゃんと全く同じでね、初めて来た日に、お風呂から上がって泣いてたの・・・」

保田も紺野と同じように?
信じられん・・・。あの保田が泣く?・・・それもあの顔で?
いや、顔は余分だったかもしれない。

「それでね、ケイちゃん思いっきり声出して泣きじゃくってね、まるで子供みたいだったんだよ・・・」

姉は話を続ける。私と紺野は黙ってその続きを聞く。

「でね、そんなケイちゃんを見たお母さんがね、ケイちゃんにそっとハーブティーを出したの・・・」

そう言って姉はテーブルの上のハーブティーに視線を落とす。

「それで、どうなったんだ?」

いつの間にか、私は驚きよりもその話の続きを聞きたいという思いに駆られていた。
しかし、残念なことに、姉の話はそこで終わりだった。

「うん・・・でも、それだけよ・・・」

それだけ?・・・いくらなんでもそれだけってことは無いだろ?

「いや・・・それでどうなったんだ?」
もう一度同じことを聞く。・・・どうしても聞きたかったのだ、彼女のことを。

そう聞くと、姉は私の顔を見て微笑みを浮かべる。
18153 ◆5/w6WpxJOw :03/01/30 18:23 ID:???
「ふふふ・・・もーちゃん、ケイちゃんのことになると真剣なんだから!」

その微笑みは、私が保田のことを好きなことを知っていて、それをからかっているようだった。
もちろん悪気があるわけではないのだろうが・・・。

「ば、馬鹿!そんなこと言ってないだろ!」

しかし、どうやら自分で気づかないうちに顔が赤く染まっていたらしい。
姉ばかりか紺野までもその私のうろたえに興味を抱き始めたようだった。

「もーちゃん素直じゃないんだから!」
姉はそう言って、紺野に対してウインクした。
ウインクされた紺野はきょとんとしながらも興味深げに私の顔を見てくる。

なんか、かなり恥ずかしい・・・。

姉は話を続ける。
「そうねえ、それでケイちゃんも落ち着いたのかな?・・・それでその時は泣きやんだかな」

「その時は?」
思わず突っ込んでしまう・・・。また姉から真剣とか言われそうだが・・・。
「そうね。それからしばらくは泣いてたかな?でも最初のうちだけよ。最近は大丈夫みたい・・・」

最近は・・・というのは、いつまでのことを指すのだろうか。
私が彼女と出会ったのはつい最近・・・。まさかその直前までってことは無いだろうな・・・。
彼女はそれまで三年間もこの家で過ごしてきたのだ。

それにしても意外な過去だった。あの強気な保田が泣いていたなんて・・・。
しかし、それとともに黙ってハーブティーを出したうちの母もさすがだ。
紺野に対して何もしてやれなかった私とは大違いだ・・・。

こうしてその日は紺野の初めての日であったものの、私の興味は保田の話で一杯だった。
19番組の途中ですが名無しです:03/01/31 17:06 ID:???
復活待ってますた!
ミラーも作っておいた甲斐があるというものです(w
がんがれ作者タソ
20 ◆5/w6WpxJOw :03/01/31 18:12 ID:???
>>19
ミラーは依頼・・・ですかね?
とにかく、ありがとうございました。

期待に添えられるようにがんがります!
21154 ◆5/w6WpxJOw :03/01/31 18:14 ID:???
翌朝、いつも通りの時間に起きて新聞配達をこなす。

すでに12月も第2週に入っている。早朝はかなり寒い。
しかしその代わり、寒さに比例して星空はかなり綺麗だ。
その日は前日に風が強かったこともあり、いつもよりも透き通った星空が見えていた。

新聞配達をして良かったなあと思ったことの一つは、この星空だ。
それまで長い間、星空を眺めるなんてことは一度もしたことがなかった。
ある意味、星空が存在すること自体、忘れていたと言ってもいいのかもしれない。

星空を見ていると、妙に世界が綺麗に見える。
日常の他雑な社会も、こんな綺麗な世界の中にあるのだ。
そして、自分もそんな世界の中で暮らしているのだと、そんなふうに感じてしまう。

もっとも、大自然に魅了されるのは人間にとって普通のことだ。
ただ人間は、それをついつい忘れてしまっている。それだけのことなのかもしれない。

仕事を終え、近くの小さな公園のベンチに座る。
ここは、配達を終えた後に毎日立ち寄る公園である。

ここで私は毎朝、タバコを二本だけ吸う。
なぜかは自分でもわからないが、それがすでに朝の日課になっていた。

ただし、家では普段はタバコは吸わないことにしている。
と言っても、別に隠れてこそこそ吸っているということではない。
姉も母も私がタバコを吸うことは知っている。
しかし、なんとなく姉や母の前で吸うことに抵抗を覚えるのだ。
それに、それは姉や母の前だけではない。人前でタバコを吸うという行為自体が苦手なのだ。

そんなことから、私はこの公園のベンチでだけタバコを吸うことにしていた。
この時間にはもちろん私以外に人影は見えない。
ただし、公園の横の道をジョギングする人や、犬の散歩をする人などはよく見かけるが。
22155 ◆5/w6WpxJOw :03/01/31 18:16 ID:???
そう言えば、タバコをめぐって一度保田と喧嘩したことがあった。
それはまだ実家に帰ってすぐの頃だったと思う。

物置部屋でタバコを吸っていた私を見た彼女は、いきなりそのタバコを掴み取ると、
水の入っていた灰皿に突っ込んだのだ。
その突然の行為に私が激怒したことは言うまでも無い。
それからしばらく大声で怒鳴りあった。何を言ったかまでは忘れたが。

ただ、その時は彼女がタバコを嫌いなのだと思った。
もちろんその後、彼女が普段タバコを吸っているということを知るのだが、
しかし、彼女がうちでタバコを吸っている姿は一度も見たことが無かった。

その理由はよくわからないが、しかし、それは別に遠慮しているということではないらしい。
保田はこの家では自由きままに過ごしているし、それは彼女の酒を飲む姿を見ればわかる。
ただ、そんな中、タバコだけはなぜか吸わない・・・。
もしかすると私のようなポリシーがあるのかもしれない。今はまだわからないが・・・。

そして、その時、彼女が私のタバコを取り上げたのは、私の顔色の悪さを心配してのことだったようだ。
仕事をやめて鬱になっていたその時の私の顔色は、今思うとかなり悪く、それが不健康に映ったのだろう。

まあ、だからと言って、そんな行為が許されるというものでもない。
ただ、今では、そんな強引な方法も彼女の優しさから出た行為だったと笑って済ませることができる。
それが彼女の唯一の優しさを表現する方法なのだから・・・。

もちろん、その時はそんな優しさの押し付けははっきり言って迷惑であったし、
今でもそんなことをされるのは御免なのだが・・・。

そんなことを思い出しながら、二本目のタバコを吸い終わり、ベンチの横にある吸殻入れに捨てる。
早朝の新鮮な空気の中で吸うタバコは、格段に旨かった・・・。
23156 ◆5/w6WpxJOw :03/01/31 18:20 ID:???
家に戻る。リビングには明かりがついていたものの、人影は無かった。

自分の部屋へ入ろうとすると、それと同時に玄関からガチャンという音が聞こえる。

あわてて玄関に出ると、そこにはジャージ姿の紺野が立っていた。
紺野は私の顔を見ると、見つかってしまったといったような困惑した表情を浮かべた。
「あ・・・お、おはようございます・・・」
「ああ・・・おはよう・・・」

挨拶を交わすものの、紺野は下を向いたままだ。
とりあえず「・・・どっか行ってたの?」と尋ねると、
紺野は「・・・は、はい・・・ちょっと走ってました・・・」と小さく答える。

どうやらジョギングをしてたらしい。体力作りのためだろうか。
・・・思わず頑張り屋さんという言葉を思い出す。

紺野はそう言い終えると、靴を脱いで家にあがる。

と、ここでちょっと意外なことを発見する。
いや、発見するというか、それまで勘違いしていただけなのだが。

その発見というのは、紺野の大きさだった。
昨日来た時は小さい子だと思っていたが、思ったよりも小さくなかったのだ。

もちろん私よりも10cmほど背は低いものの、それでも保田と同じくらいはあるだろうか。
昨日は保田の後ろにへばりついていたため、
そして緊張して小さくなっていたため、保田よりも小さく見えたのだろう。

それに・・・多分、一番の原因は、紺野の顔が童顔だからだろう。

顔の印象とは恐ろしいもので、顔だけでその姿までもが変わって見えたりする。
保田の場合も、そのいかつい顔だけを見ると、ついつい大柄な女に見えてしまったりするのだ。
24番組の途中ですが名無しです:03/02/01 08:48 ID:???
abe
25番組の途中ですが名無しです:03/02/02 00:12 ID:???
保全
26 ◆5/w6WpxJOw :03/02/02 06:28 ID:???
>>24
なっち?
>>25
サンクス
27157 ◆5/w6WpxJOw :03/02/02 06:28 ID:???
その日は土曜日ということで、朝のテレビ番組はあまりおもしろくなかった。
しばらくして姉が朝食を作り、紺野を含めた四人で食卓を囲む。

やはり保田の代わりに紺野が座っているのは違和感があるが、
しかしまあ、それも新しい妹ができたような感じがして、悪い気はしない。

と、朝食を食べ終えた私は、ふと一つの疑問を覚えた。
「そう言えば、今日は学校行かなくていいのか?」
もちろん紺野に対しての質問だ。

しかし、どうやら私の思考が古かったらしい。
「あの・・・土曜日は学校休みです・・・」
「あ、そうなんだ・・・」
これが世代ギャップというものなのだろうか・・・。
そう言えば、私が中学・高校の頃も、たまに第二土曜が休みとかそんな制度があったような気もする・・・。
でもまあ、私の中では、土曜日は学校というイメージがすでに固定されていた。

その日は一日仕事が無いらしく、紺野は母と一緒にどこかへ出かけていった。
そして姉の友達が来るということで、私も家を追い出された。

仕方なく街中をブラブラと歩き、図書館で時間をつぶす。

土曜日ということで、図書館にはかなりの人間がいる。
いや、それは土曜日だからということではないのかもしれない。

この家に帰ってきてから、私はよく図書館に行くようになった。
そして驚くのは、平日だというのに、様々な人が出入りしているということだった。
中には、仕事をさぼっているのだろうか、スーツ姿の人もいれば、
仕事をしているはずの中年世代の姿をよく見かけたりする。・・・失業中だろうか。
これも不景気の影響なのかもしれない。・・・まあ、私自身もそんなことを言える立場にはないのだが。
28158 ◆5/w6WpxJOw :03/02/02 06:28 ID:???
夕方になり家に戻る。
玄関には、姉の靴の隣に見慣れない靴が二足並んでいた。
一つはブランドものだろうか、かなり高級そうな靴。
そしてもう一つは、私の靴よりもぼろいくらいの、かなり安物の靴だった。

ただ、その靴の並びを見て一瞬、保田の靴を探している自分に気づく。
保田の靴には特徴がある・・・。彼女の靴のサイズは姉とあまり変わらない。かなり小さい方だ。
しかし、サイズは小さくてもデザインがかなりごついため、二回りほど大きく見える。
それはある意味、彼女の顔のごつさとも共通することかもしれない。

そのため、その時は一目で彼女の靴が無いことに気づき、少し落胆したのだった。
まあ、彼女がしばらく来ないことはわかっていたのだが・・・。

リビングから女性の声が聞こえてくる。多分、まだ姉の友達と盛り上がっているのだろう。
私はリビングには顔を出さず、自分の部屋へと戻った。

しばらくして、玄関から話し声が聞こえる。
どうやら姉の友達が帰るようだ。

私は部屋でクラシックを聞きながら図書館で借りてきた本を読む。
優雅な夕時だ。こんな優雅な時間を過ごしてもいいのだろうか。
ついつい罪悪感まで覚えてしまう・・・。
ただし、その罪悪感は会社を辞めてから毎日のように感じているものなのだが。

しばらくして母と紺野が帰宅。
玄関から「お邪魔しま・・・あ、ただいま・・・」という声が聞こえる。

姉の作った夕食を食べ終え、すぐに自分の部屋へと戻る。
と、部屋をノックする音が聞こえる。すぐにそれが紺野だとわかる。
豪快な保田のノックとは違い、遠慮がちな小さなノックだった。
29159 ◆5/w6WpxJOw :03/02/02 06:29 ID:???
紺野は恐る恐る部屋へ入ると、手に持っていたものを見せる。

「あの・・・ここ、教えてもらえますか?」
そう遠慮がちに尋ねる。どうやら問題集のようだ。

「もしかして・・・学校の勉強?」
「は、はい・・・そうです。教えてもらえますか?」

仕事で忙しくて休日くらいゆっくり過ごしたいだろうに、なんて真面目な子なんだ。
私はすぐに承諾した。・・・しかし、すぐにそれを後悔することになるのだが・・・。

数学の問題だった。・・・はっきり言って全くわからない。

私は文系の人間だ。一応大学は出ているものの、それも地方の三流以下の大学に過ぎない。
とは言っても、数学が苦手というわけではない。
中学の頃は数学はほとんど5と4だったし、高校の頃も数学でクラス一番を取ったこともあった。
しかし、そうは言うものの、すでに高校までに習った知識の大半は忘れ去ってしまっている。
そのため、その問題を見て懐かしさを覚えても、解き方はさっぱりわからなかった。

なんとか思い出そうと一生懸命に考える。
そんな私に対して、隣の紺野が親切に説明してくれる。
情けないことに、教えるはずの私の方が教えられてしまっていた・・・。

結局、私は紺野の役に立てなかったが、
それでも紺野は「もーちゃんさん、ありがとうございました」と言って部屋を出て行った。

明日・・・本屋で参考書でも買っておくか・・・。
30番組の途中ですが名無しです:03/02/03 01:35 ID:???
PO☆
31160 ◆5/w6WpxJOw :03/02/03 07:07 ID:???
翌朝、いつも通りに新聞配達に出かける。
日曜日の朝刊は平日よりも量が多い。とは言っても、それほど違いがあるわけではない。

配達を終え、いつもの公園でタバコを吸う。
その日は曇っていて星空はあまり見えなかったが、
それでも、この早朝の雰囲気というのは、清々しい気持ちにさせられるものだ。

その日もいつも通り、ジョギングする人や犬の散歩をする人たちが公園の横を通り過ぎる。

一本目のタバコを吸い終わる・・・と、突然後ろから声をかけられる。
この声は・・・紺野だ!

「もーちゃんさん・・・何してるんですか?」
紺野はそう言った後、あわてて言葉を付け足す。
「あ、おはようございます・・・」

紺野は昨日と同じ黒いジャージを着ていた。
肩で息をしているところを見ると、それまで走っていたのだろう。

私が「ああ・・・おはよう」と挨拶すると、紺野は再び先ほどの質問をしてきた。
「もーちゃんさん・・・何してるんですか?」

何をしている・・・のだろうか。自分でもよくわからない。
ただ、タバコを吸ってぼーっとしている。それだけだった・・・。

「ああ、ちょっと考え事をね・・・」
紺野は「考え事ですか・・・」と言うと、私の隣に座った。
32161 ◆5/w6WpxJOw :03/02/03 07:07 ID:???
「どんなことを考えてたんですか?」
そう紺野が尋ねる。
まさか保田のこととは言えない。それに、その時は別に保田のことを考えていたわけでもない。
ただ、ぼーっと自分のことを考えていたのだ。いや、それが自分のことなのかもわからない。

「なんだろなあ・・・とにかく色んなことかな?」
そう言って溜め息をつくと、紺野が意外な質問をしてくる。
「悩み事・・・ですか?」

その突然の質問に少し戸惑う。
「まあ、悩み事と言えば、悩み事かなあ・・・」

曖昧な答え方をする。最近は悩み事というか、毎日が不安だらけなのだ。
ただ、それがどのような不安かは自分でもわかっていない。極めて曖昧な不安なのだ。
保田とのこともあるし、それに自分の現状についても・・・。

と、紺野は遠くを見ながらポツリと呟く。
「・・・やっぱり、みんな悩み事があるんですね・・・」

その淋しげな言葉に、私は紺野が何か悩んでいることに気づいた。
と言っても、紺野は多感な年頃だし、それに仕事と学業の両立で不安を覚えないはずがない。
普通の女の子よりも多くの悩みを抱えていることだろう。

「紺野も何か悩み事があるのか?」
そう言った後にしまったと思う。ある意味、悩み事の一つや二つ無い方がおかしい年頃なのだ。

紺野はポツリと呟いた。
「私・・・才能ないんです・・・」

そう言った紺野の声は少し震えていた。
33162 ◆5/w6WpxJOw :03/02/03 07:08 ID:???
紺野が続ける。
「私・・・みんなと違って・・・ダンスも上手くないし、歌は下手だし、演技もできないし・・・」

どうやらかなりコンプレックスを持っているようだ。
そしてまた、モーニング娘。の一員としての自信が持てないでいるらしい。

「そんなことないよ。だってちゃんとオーディションに受かって入ったんだろ?」

そんなことない・・・と言いながらも、私は紺野のダンスも歌も演技も見たことが無い。
ただ、その言葉が紺野にとってはプレッシャーだったようだ。

「私・・・私・・・」
そう言うと、紺野は手で顔を覆ってしまった。泣いているのだ・・・。

どうすればいい?どうすれば・・・?

泣く紺野の隣で、自分のなすべき行動を考える・・・。
しかし・・・適切な対処が思いつかない。

昔の自分なら・・・多分、そっと抱きしめていたかもしれない。
と言うのも、私は女性の涙に弱い。女性の悩む姿や涙を見るとたまらなくなるのだ。
それが哀れみなのか優しさなのか同情なのかはわからないが、
とにかく、そういう女性を見ると、ついつい守ってあげたくなるのだった。

しかし、そんな私の行動も、周りから見れば、心の隙に付け入る最悪な男に映るのかもしれない。
人はそんな私を優しすぎると言った。それはいい意味ではなく、私を批判した言葉だった。

そんなこともあり、私はいつしか優しさという概念を嫌いになった。
優しい男は最低な男。優しさはダミー。そんなポリシーすら芽生えていた。

そして、その時も、私の中では紺野を優しく抱きしめてあげたいという気持ちと、
それを否定する気持ちとが混在していたのだった。
34163 ◆5/w6WpxJOw :03/02/03 07:08 ID:???
もちろん、私は後者を選んだ。そしてただただ黙っていた。
確かに泣いている紺野を見ると、ついつい自分が守ってあげたいという思いに駆られてしまう。
しかし、そこで抱きしめたところで紺野の悩みが解決するわけではない。・・・それは一時しのぎに過ぎないのだ。

私はポケットからタバコとライターを取り出し、二本目のタバコに火をつける。
ふーっっと白い煙を吐き出す。煙は目の前で一瞬、白い筋となってゆらゆらと揺れる。
しかし、すぐに周りの空気に溶け込み、姿を消す・・・。

ある意味、人の悩みもこのタバコの煙と一緒だな・・・。そんなことを思ったりする。
一度心に芽生えた悩みは、どんなことをしても完全に解決することはない。私はそう思う。
しかし、それは悩みが永遠のものということではない。悩みはいつか消滅する。
ただ、その消滅は人が意識するものではない。時とともに薄れていくものなのだ。
悩みなんてものはいつかは忘れるものだ・・・そして最後には悩んでいたこと自体をも・・・。

紺野はまだ手で顔を覆っている。
そんな紺野に対して、私は少しきつい口調で話し掛けた。

「自分を否定してばっかじゃ前に進めない・・・」
「悩みから逃げても何にもならない・・・そこからどうするかが問題なんだから・・・」

なんだか自分でもよくわからない言葉だった。
そして、それはもしかすると、自分自身に問い掛けた言葉だったのかもしれない。

その言葉が効いたのか、あるいはその言葉の意味がわからなかったのか、
紺野は泣きやんで顔を上げる。ただ、目には涙が浮かんでいた・・・。

「私・・・私だけ、みんなと違うんです・・・」
紺野は震える声でそう言う。

「違うって?」
35164 ◆5/w6WpxJOw :03/02/04 06:04 ID:???
紺野は続ける。ただ、目には涙をためたままだ。
「私・・・補欠合格だったんです・・・オーディション・・・」

「・・・補欠合格?」
そう聞き直したものの、すぐにその言葉の意味に気づいて反省する。
紺野が補欠合格なんて話は初耳だった。
もっとも、紺野自体のことを知らなかったのだから当たり前のことなのだが。

泣きそうなのを我慢して紺野が答える。
「・・・そうなんです・・・私、おまけなんです・・・だから、私だけ・・・」

どうやら紺野は自分がおまけで合格したと思い込んでいて、それを苦にしているようだった。

「そっか・・・でもさ、おまけでも一応合格したんだろ?」
そう言うと、紺野は戸惑ったような表情を見せる。

「だったらさ、やっぱりそれは紺野が認められたってことなんだよ」
「才能が無かったら最初から合格なんかさせないよ。紺野が必要だったから・・・」

そこまで言いかけたところで紺野が私に尋ねる。
「・・・本当にそう思いますか?」
「ああ、俺はそう思うな。だから自信持てって!何も無いのに選ばれたりなんかしないって!」

その言葉に紺野は少し安心した様子だった。
とは言っても、やはりまだ落ち込んだままだったが。
36165 ◆5/w6WpxJOw :03/02/04 06:04 ID:???
それからしばらく、二人で話を続けた。
紺野が歌が下手で、かなり悩んでいることや、仕事上の人間関係などなど。
とにかく、紺野は自分に悩んでいた。

そんな紺野にさりげなく質問する。
「紺野はさ、将来何になりたいんだ?」
今の悩みをうだうだ考えるよりも、未来のことを考える方が重要なのだ。
ただ、それは私にも当てはまることなのだが・・・。

今はモーニング娘。でも、それもいつまでも続くものではない。
現に保田はもうすぐ卒業するし、その後どうなるかはわかっていない。
問題は、その後どうするか・・・なのだ。

しばらくして、紺野が小さな声で答える。
「私・・・女優さんに・・・女優さんになりたい・・・って・・・」
それは小さいながらも、力のこもった言葉だった。

私が話をしようとするのを遮るように、紺野が話を続ける。
「私・・・演技してるときだけ輝けるような気がして・・・それに、その時はとっても楽しいんです!」
目にはまださっきの涙が浮かんだままだったが、紺野は笑顔を浮かべていた。

そして、その言葉と笑顔に安心する。
楽しい・・・そう思えるのなら、大丈夫だ!

「その笑顔だよ!それを見たかったんだ!」
そう言うと、紺野は赤くなって下を向く。・・・恥ずかしかったのだろうか。
その紺野の様子を見て、私もその自分の言葉に恥ずかしくなる・・・。
37166 ◆5/w6WpxJOw :03/02/04 06:04 ID:???
しばらくして二人で公園を後にする。
家に帰ると、玄関に姉が飛び出てくる。

「心配してたんだから・・・二人ともどこ行ってたの!」
長いこと話し込んでいたため、すでにいつもの朝食の時間を過ぎていたのだ。

さらに姉は紺野の赤くなった目を見て、私に詰め寄る。
「もーちゃん!また紺ちゃん泣かせて!駄目じゃない!」

まあ・・・ある意味私が泣かせたのかもしれない。それは反省しなければ・・・。

しかし、私の無実を紺野が弁護する。
「違うんです。私が勝手に泣いただけで・・・もーちゃんさんは悪くないです・・・」
なんか前にも聞いたことのあるようなセリフだが・・・まあいいか。

姉はその言葉に納得したようだった。ただ、最後の言葉は余分だろう・・・。
「そう?それならいいんだけど・・・紺ちゃん、本当のこと言っていいのよ!」

その日は昼から仕事ということで、紺野は朝早くに家を出て行った。
大人の保田とは違ってまだ子供ということで、駅には娘。の関係者が出迎えに来るらしい。
いや、それは子供ということではなく、アイドルとしては当たり前のことなのかもしれない。
ただ、人気の無い保田にはその待遇は必要ない・・・ということなのだろうか。

姉が紺野を駅まで送りに行き、こうして紺野とのファーストコンタクトはなんとか無事に終了した。

紺野にとってこの家がどのような意味を持つのか・・・それはまだわからない。
ただ、この家が紺野にとって何らかの意味を持つようになることは間違いないだろう。

そしてまた、紺野の存在は、保田との関係に悩んでいた私にとっても、
また新たな意味を持つものとなるのである・・・。しかし、そのことには私はまだ・・・。
38番組の途中ですが名無しです:03/02/04 19:00 ID:???
朝更新なのね。
保全。
39番組の途中ですが名無しです:03/02/05 06:36 ID:???
保全
40 ◆5/w6WpxJOw :03/02/05 06:58 ID:???
>>38-39
保全ありがとうございます。
41167 ◆5/w6WpxJOw :03/02/05 07:00 ID:???
12月中旬

紺野もようやくこの家に慣れてきたようだった。
と言っても、紺野がこの家で過ごしたのはまだ数回に過ぎない。
保田と違い、紺野の場合は学校がある。そのため、あまりここには来られないのだ。

そして、姉や母に比べるとかなり遅れたものの、私もようやく紺野と打ち解け始めていた。
と言っても、完全に打ち解けたわけではなく、まだ緊張している様子だったが・・・。
ただ、最初よりは気軽に話し掛けてくれる。それが素直に嬉しかった。

私と紺野が話をするのは、いつも決まって早朝のあの公園だった。
そこで色んな話をした。いや、話と言うより、ぼーっと座って紺野の話を聞いているだけなのだが。
ただ、焦らせてはいけない・・・そんな思いから、紺野とはなるべくゆったりと落ち着いて接するようにしていた。

そして、私はなるべく紺野の悩みを聞き出そうとせず、紺野が自分でそれを話すのを待った。
私が聞き手にまわることで、紺野は自分からそれを話す。
そうすることによって、紺野が自分で自分の悩みを認識するようになればと思ったのだ。

悩みへ立ち向かうには、まずその悩みを知ること、そしてそれを自分で認識することが必要なのだ。
それはもちろん、私自身にも当てはまることなのだろうが・・・。

そして、そんな話の中、紺野は興味深い話をしてくれた。

「私、今・・・柔道を習ってるんです」
「柔道?」

童顔の幼い少女と柔道・・・なんともアンバランスな組合せだ。
ただし、紺野はスポーツ万能で、空手の茶帯をも持っているらしい。
見た目とは違い、結構体育会系の女の子なのだ。
42168 ◆5/w6WpxJOw :03/02/05 07:02 ID:???
紺野が柔道を習い始めたのには理由があった。

紺野の話は断片的で、しかもまだ外部に教えてはいけない情報ということで、
あまり詳しくは教えてもらえなかったものの、大体の理由は理解することができた。

極秘の映画デビュー・・・それもいきなりの主演である。

その映画は、柔道少女の成長を描いた物語であるらしい。
具体的な内容は彼女もまだ知らされていないようだったが、
原作がマンガという話だったので、多分『YAWARA!』の実写版なのだろう。

多少心配もあるが、それはまさに原作通りの人選なのかもしれない。

一般に、今日のマスコミは、とあるブサイクな柔道選手をYAWARAちゃんと呼んでいるが、
元々のマンガのファンから言わせれば、それは言語道断の許し難い愚行である。

そして、そんなことを考えると、紺野の抜擢はまさに最適な決断と言える。
紺野のかわいらしい童顔と、その顔に見合わない運動神経・・・。
その組合せは、まさに本当のYAWARAちゃんを再現するに相応しいものである。
もちろん、その運動神経がどこまで通用するかは疑問なのだが。

しかし、紺野が抜擢されたのは、多分、その顔と運動神経だけではないはずだ。
紺野の頑張り屋さんの性格と、その女優になりたいという強い意志・・・。
それが認められたのだろう・・・。ただ、紺野自身はそのことには気づいていないようだったが。

こうして私は、紺野が毎朝走っていることの理由を知ったのである。
柔道のため・・・。映画のため・・・。そして女優になるため・・・。
それがどういう結果になるかはわからない。・・・しかし、紺野は自分の目標に向かって走っていた。

・・・ただし、その映画が『YAWARA!』ではなく、『ビバ!柔道愚連隊』の実写版ということには、
私は最後まで気づかなかったのだが・・・。
43169 ◆5/w6WpxJOw :03/02/05 07:04 ID:???
数日後。

暇つぶしに図書館へ行き、夕方に家に戻る。

玄関には見慣れたごつい靴があった。見た瞬間に誰が来ているかがわかった。
保田だ!・・・久しぶりに会えるということで、自然と笑顔が浮かぶ。

紺野が来るようになってから、彼女は家に来ることがなくなった。
それは自分がいることで紺野に気をつかわせたくないという思いからなのだろうか。
もちろん、仕事で忙しいということも理由なのだろうが・・・。

心臓の鼓動がいつもよりも早く、そして大きく私の全身を伝う。
たまにしか会えないということが、私の彼女への思いを増幅していたのだ。

しかし、それは素直に喜べないものだった。・・・リビングから大きな怒鳴り合う声が聞こえてきたのだ!
その声は保田と・・・そして、驚くことに姉の声だった。

リビングのドアを開ける。それまでドアに遮られていた声が直接耳に届く。
それは普段の姉からは想像もできない声だった。
私の存在に気づいた二人は、気まずそうに黙り込む。

一体何があったんだろうか・・・。

呆然と立ち尽くす私・・・。しばらく沈黙が流れる。
変な緊張感を覚える。早くこの場から立ち去るべきだろうか・・・?

そう思ったものの、私より早く姉が自分の部屋へと戻っていった。
そして、一方の保田もふてくされた顔をして家を出て行く。

なんか凄い光景を見てしまったようだ。・・・慌てて保田の後を追う。
44170 ◆5/w6WpxJOw :03/02/05 07:05 ID:???
家を出て、早足で遠ざかる保田を追いかける。
すぐに追いついたものの、彼女はふてくされた顔のままだ。
ただでさえ変な顔だが、それが更に歪んで物凄い顔になっている。

と言っても、私にとってはそれもある意味かわいく見えてしまうのだが。
それはある意味、恋の病というものなのかもしれない・・・。ただ、その目はとても悲しげだった。

「どうしたんだよ?」
そう尋ねたものの、返事は無い。ただ黙って歩き続ける。

「おい、何があったんだ?」
しかしやはり返事は無い。

なんてこった。久しぶりに会えたというのに・・・。

彼女は目的地も決めぬまま、ただ黙々と歩き続けているようだった。
まるで怒りのやり場を探しているような、そんな感じだ。

しかし、それならそれで、私にその怒りの矛先をぶつければいい。
いや・・・私にそれをぶつけてほしい。私にはそれくらいしかできないのだから・・・。
それとも・・・私では役不足なのだろうか?

なんでもいい・・・とにかく、私に相談してほしかった。

と、いつの間にか、近所の公園に辿りついていた。そう、あの紺野と話をする公園だ。

私はずんずんと歩く彼女の腕をつかんで、公園の敷地内へと連れて行く。
それまで私を無視していた彼女も、私のその勢いに負けたようだ。
嫌々ながらも大人しくそれに従う。

「何があったんだ?・・・俺に話してくれ!」
45番組の途中ですが名無しです:03/02/05 18:00 ID:???
うーむ、気になる
46番組の途中ですが名無しです:03/02/06 08:04 ID:???
PO☆
47番組の途中ですが名無しです:03/02/06 17:38 ID:???
48 ◆5/w6WpxJOw :03/02/06 18:06 ID:???
>>45-47
保守どうもです。
49171 ◆5/w6WpxJOw :03/02/06 18:07 ID:???
その言葉に彼女はようやく重い口を開く。
「断ったんだよ・・・せっかくのチャンスなのに・・・。あたしのせいで・・・あたしのせいで・・・」
断った?チャンス?・・・一体何のことだろうか。
「断ったって、何をだ?」

そう尋ねると同時に、彼女は突然泣き出し、私に抱きついて胸に顔をうずめる。
私はそんな彼女をしっかりと抱きしめる。・・・久しぶりに味わう彼女のぬくもり。
ただ、その時はそんな余裕は無かった。

「うー・・・うー・・・」と動物の雄叫びのような泣き声が轟く。
幸い、公園には誰もいない。周りの道路にも人影は見えなかった。

しばらくして落ち着いたのか、ようやく彼女は泣き止み、私の体から離れた。
それからベンチに座り、彼女の話を聞く。その話は私にとっては初めて聞くことだった。

姉の全国デビュー・・・。

あまりに身近にいたためにすぐには信じられないことだったが、
どうやら、姉の素質を見抜いた東京の事務所から、移籍の話があったらしい。
しかも、その事務所は全力を挙げて姉を売ることを予定しているというのだ。

驚くのはそれだけではない。そうした話はこれまでにも何度かあったらしい。
しかし、それを姉は全て・・・。

そして、保田が泣いているところを見ると、その理由は多分・・・保田の存在なのだろう。

姉は優しい女性だ。多分、私の知っている女性の中で一番優しい人間かもしれない。
そんな姉だから、自分のことよりも保田のことを優先したのだろう。
姉が東京へ行ってしまえば、この家で保田と過ごすことはできなくなる。
そしてそれは、この家での保田の安定した生活を壊してしまうことにもなる。
それに姉のことだから、自分が抜けることで母の負担が増えることを心配したのかもしれない。
50172 ◆5/w6WpxJOw :03/02/06 18:07 ID:???
とにかく、姉は保田のことを考えて、そのスカウトの話を断っていたのだ・・・それまで何度も・・・。
そして保田は、自分が姉を束縛していることを知り、さっきの喧嘩になったのだろう。

保田のことだから、その怒りは自分自身に向いているのかもしれない。
自分が姉の足かせになっていたこと、そしてそれに気づいていなかったことが許せないのだ。

それはどちらの言い分が正しいといった問題ではなかった。
どちらも相手への優しさから出たものなのだ・・・。

しかし、それ以上に驚かされることがあった。

「ほんとはね・・・ほんとは、はるっぺが・・・」

はるっぺと言うのは、うちの姉のことだ。
もちろん姉の方が全然年上だが、彼女は姉をはるっぺと呼んでいた。・・・普段はとても仲がいいのだ。

「・・・はるっぺが・・・モーニング娘。になってたんだよ・・・」

・・・!

・・・姉貴がモーニング娘。に???

それは初耳だった・・・。うちの姉がモーニング娘。になっていたかもしれないなんて・・・。
当たり前だが、そんなことはそれまで一度も考えたことがなかった。

「それは・・・どういう・・・?」

モーニング娘。がオーディション番組がきっかけで結成されたことは私も知っている。
そしてその追加メンバーもオーディションで選ばれているということも知っている。
しかし、姉の場合は少し事情が違うらしい・・・。
51173 ◆5/w6WpxJOw :03/02/06 18:08 ID:???
初期のモーニング娘。は今の子供路線とは違い、年齢層が高かった。
もうすぐ三十路を迎える中澤姉さんがその一番の例だ。

そして、そんなモーニング娘。の最初の追加メンバーとして、
うちの姉が入ることになっていたのだという。当時、姉はすでに二十歳を過ぎていたが、
それもその頃のモーニング娘。であれば別におかしいことではない。

ただ、それはその後のオーディションの体裁とは違ったものだったらしい。
つまり、オーディションとは関係なく、姉の所属するモデル事務所に直接打診があったのだ。

しかし、それを姉は断った。・・・理由は、初期メンバーが正式なオーディションに挑戦し、
そして、その後の彼女たちの努力によって正式デビューにこぎつけたという経緯があったからだ。

つまり、そのメンバーたちと違って何の努力もしていない姉が、
突然その中に加わるということが申し訳なかったのだろう。

いかにも姉らしい反応だ。
普通の女性ならば、そんなおいしい話にはすぐに飛びついただろう。
利用するものは利用する。それが普通の考え方だ。
しかし、姉はそうした欲を持っていない人間なのだ。
ある意味私よりも真面目で、そして自分に厳しい人間なのだ。

そして、その姉の辞退があったことで、その後のモーニング娘。の追加メンバーは、
初期メンバーと同様にオーディションの体裁をとるようになったと知った。
もちろん、それが本当にオーディションで選ばれているのかどうかは定かではないが・・・。
52174 ◆5/w6WpxJOw :03/02/06 18:08 ID:???
もし姉がその時に承諾していれば、今のようなモーニング娘。は無かったことだろう。
そして、追加メンバーとして保田が加わることも無かったのかもしれない。

保田はそれも踏まえた上で、これ以上自分のせいで姉を犠牲にしたくなかったのだろう。

そんな彼女の気持ちを踏まえ、私が姉を説得することを約束する。
自分に厳しいだけじゃなく、時には自分に甘いことも必要なのだ・・・。

公園を後にする。・・・すでに太陽は沈み、空を暗闇が覆っている。

二人で並んで歩くのは久しぶりだった。
ただ、泣いた後のせいか、私が彼女の方を向くと、彼女はすぐに顔を手で隠す。

化粧が落ちた顔は見られたくない・・・そんなことを言っているが、
彼女のすっぴんなんか家では見飽きるほど見ている。
そんなことどうでもいいと思うのだが、女性にとってはそれが重要なことであるらしい。

家に帰り、姉の部屋へ行く。姉は泣いていたのだろうか、珍しく涙目になっていた。
私は彼女の気持ちを伝え、そしてスカウトを承諾するように勧めた。
もちろん私が姉を応援する旨も伝えた。私としても姉にはもっと活躍してほしいのだ。

ただ、姉から帰ってきた言葉は「少し考えさせて・・・」だった。
まあ、無理に急いで勧めることでもないし、とりあえずこれで一安心だろう。

・・・。

それにしても、姉がモーニング娘。に入っていたかもしれないとは、意外な話だった。
ただ、そのことはもう一つの謎を解く鍵になる。そんな気もした。

その謎とは、そう、以前から気になっていた・・・この家が選ばれた理由だった。
53性闘士 ◆jeglAw4g22 :03/02/06 20:36 ID:???
54番組の途中ですが名無しです:03/02/07 00:33 ID:???
ニャー
55 ◆5/w6WpxJOw :03/02/07 07:24 ID:???
>>53-54
保守感謝です!
56175 ◆5/w6WpxJOw :03/02/07 07:26 ID:???
12月下旬

私は東京にいた。
この前まで勤めていた会社の同僚たちから、忘年会に誘われたのだ。
退職してからかなり時間が過ぎたように感じるものの、よく考えればまだ三ヶ月も経っていない。
そのため、向こうの意識の中では、まだ私の存在が消え去っていないのだろう。

一方の私は、新しい生活にもようやく慣れはじめ、そして会社を辞めたときの鬱っぽい状態から回復していた。
すでに以前の仕事のことは完全に忘れていた。そのため、私はその誘いを快く受け入れた。
そして参加を決意したのには、別の意味もあった・・・。
それは、あの頃の自分に比べて今の自分がどれくらい変わっているかを確かめるためだ・・・。

久しぶりに会った仲間たちは皆元気そうだった。
ただ、彼らから言わせると、私の方が断然元気に見えたらしい。
会社に縛られずに自由な生活を送っているせいか、それとも新聞配達で鍛えているせいだろうか。

その夜は居酒屋を二軒廻り、そしてカラオケへとなだれ込んだ。
ただ、しばらく酒を飲んでいなかったこともあって、酔うのはかなり早かった。
もちろん、以前の元親友と飲んだ時みたいに酔い潰れるということはなかったが。

三次会の後、会社で一番仲が良かった友人から家に泊まるように言われたが、私はそれを断った。
どうしても行きたいところがあったのだ・・・。

それは・・・モーニング娘。が立ち寄るという東京のおじさんの部屋・・・。

・・・ではなく、私が住んでいた自分の部屋だった。
一応荷物は全て引き払ったものの、家賃のシステムの関係で今月一杯は私の部屋なのだ。
57176 ◆5/w6WpxJOw :03/02/07 07:27 ID:???
部屋へ入る。ガラクタだらけの物置部屋とは違い、何も無い部屋はやたら広く感じる。
と言っても、備え付けのエアコンや照明、カーテンなどもあるので、
一晩過ごすくらいなら別に不便というほどでもない。
ただ、布団が無いため、ここで寝るというのは少し辛いかもしれない。

しかし、そんな部屋に来たのには理由があった。

それはもう一度自分を見つめ直すためだった・・・。
何も無い空っぽの状態で、自分を見つめ直す・・・そのために。

・・・。

何も無い部屋というのは、それだけで何か寂しいものがある。
それが以前荷物で埋まっていたとなると、その淋しさは増大する。
それは、私がこの部屋の荷物をまとめたときにも経験したことだ。

しかし、今はどうだろうか・・・。
自分はどれくらい変わったのだろうか・・・。
それを知りたかったのだ。

しかし、結局わからなかった・・・。

会社を辞め、今は早朝の新聞配達を頑張っている。それに今は大阪の実家で暮らしている。
それは確かに大きな変化かもしれない。・・・しかし、それは環境が変化したに過ぎない。
肝心な私自身がどのように変わったか・・・それは全くわからなかった。
ある意味、それは当事者からは見えないものなのかもしれない・・・。

結局のところ、環境は変わっても、私自身は何も変わっていないのだ。
唯一変わったことと言えば、私の心の中に保田への感情が芽生えたことくらいだろう。
58177 ◆5/w6WpxJOw :03/02/07 07:27 ID:???
そんなことを考えながら、ぼーっと過ごす。
明日新聞配達を休むことはすでに数日前から伝えてある。
つまり、この瞬間は、全く何にも拘束されていないのだ。

と、ピンポーンという音が聞こえる。

誰だろうか?
この部屋は空家同然、人が訪ねてくるはずがないのに・・・。
隣室の人だろうか・・・。隣室の人はたまにお裾分けなどをしてくれるのだ。
と言っても、いつもなぜかチャンコの材料だったりするのだが。

ドアを開けると、そこには見慣れた姿があった。・・・保田だ!

なぜここに???
この部屋の場所は知らないはずなのに・・・。

彼女は一言、「来ちゃった・・・」と言って、部屋へ入り込む。
まるで私の許可が必要無いと言わんばかりだ。まあ、特にそれを断る理由も無いのだが。

彼女は部屋へ入るなり、「なんにも無いね・・・」と言った。ただ、何か元気が無い声だった。
姉との喧嘩がまだ続いているのだろうか。・・・それとも仕事の悩みだろうか。

壁を背にするように部屋の隅に座り、彼女も私の隣に座る。

「ところで・・・お前なんでここがわかったんだ?」
当然の質問をする。

「あのね、ママに聞いたの。もーちゃんが今日ここに泊まるんじゃないかって・・・」

しかし、母には東京に行くとは言ったものの、ここに泊まるということは一言も話していない。
と言うことは、母の勘ということなのだろうか・・・。
59178 ◆5/w6WpxJOw :03/02/07 07:27 ID:???
それはかなり気になることだったが、そんなことはどうでもいいことなのかもしれない。
ただ、彼女と過ごせるというだけで、私には満足だったのだ。

しかし、そんな気持ちの私とは違い、彼女はとても淋しそうだった。
部屋自体が淋しげということもあるが、とにかく楽しい雰囲気ではなかった。

・・・少し会話をした後、彼女がぽつりと呟く。

「ねえ・・・紅白・・・見てね・・・」

その言葉に、私は彼女が淋しそうな表情をしている理由を悟る。
いや、正確にはその理由の一つと言った方がいいのかもしれないが。
そして、彼女の次の言葉がそれを端的に表わしていた。

「あたし・・・最後だから・・・もう・・・最後だから・・・」

彼女がモーニング娘。として活躍できるのも後半年・・・。それは前からわかっていることである。
ただ、紅白に出るのはこれが最後なのだ。いや、もちろんソロで活躍すれば話は別だが、
ただ、その可能性はほぼゼロに近い。・・・そして彼女もそのことはわかっているのだ。

それまで彼女は、春先に卒業することが決まってはいても、仕事はそれまでとほとんど変わらなかった。
しかし、紅白という舞台で初めて、モーニング娘。としての最後の仕事を迎えるのだった。
多分、そのことを意識したのだろう・・・。

それはそれまで抱いていた幻想が突然現実に変わる・・・そんな感じなのかもしれない。
前からわかっていたこととは言え、やはり実際に直面するというのは、また違った辛さがあるのだ。
60番組の途中ですが名無しです:03/02/07 22:05 ID:???
61番組の途中ですが名無しです:03/02/08 06:38 ID:???
そろそろかな?
保全。
62 ◆5/w6WpxJOw :03/02/08 08:05 ID:???
>>60-61
保守ありがとう。少し遅れてしまいました。
63179 ◆5/w6WpxJOw :03/02/08 08:06 ID:???
私はそんな彼女の気持ちを踏まえ、「ああ・・・絶対見るよ!」と約束する。
彼女はそれを聞いて嬉しそうな表情を浮かべる。
その笑顔は、心の底から自然と浮かび上がったような、透き通るような笑顔だった。

その笑顔を見た瞬間、私は自分の胸がキュンと切なくなるのを感じた。
それはそれまで経験したことが無いほどの不思議な衝撃だった。

その笑顔を一生守ってあげたい・・・。
ずっとそばにいたい・・・。

そんな気持ちでいっぱいになった。
それはとても幸せで、しかしどことなく切ない感情だった。

・・・。

このまま二人でずっといられたら、どれだけ幸せだろう・・・。

そんなことを考える。・・・しかし、それは今は許されない。

彼女はモーニング娘。・・・そして私はそれを迎え入れる側なのだ。
このまま二人でこの部屋で過ごすことはできない。
二人にその意思が無くても、男と女が一つの部屋で夜を過ごすことは、鉄の掟に反するのだ。

「もう帰る時間じゃないのか・・・?」
そう尋ねる。まさかこんな何も無い部屋に泊まっていくことは無いだろう。
そう思ったものの、帰ってきた答えは違っていた。
64180 ◆5/w6WpxJOw :03/02/08 08:06 ID:???
彼女は小さく首を横に振った。
そして、そっと私にもたれかかると、
「もう少し・・・もう少し・・・このままでいさせて・・・」と言って静かに目を閉じた。

そのもたれかかった部分から、彼女のぬくもりが私に伝わる。
そしてまた、私のぬくもりも彼女に・・・。

・・・。

静かだった。

ただただ静かだった。

何があるというわけではない。・・・しかし、私にはその彼女の少しのぬくもりだけで十分だった。

いつしか二人はぬくもりを共有したまま、眠りに落ちていた。

・・・。

翌朝、目を覚ますと、すでに彼女の姿は無かった。
エアコンが切れたせいか、冷気が部屋全体を覆っている。
慌ててエアコンを入れようとするが、考え直す。

もうこの部屋にいる必要は無いのだ・・・。
ここは私の居場所ではない・・・。私には帰る所があるのだ・・・。
そう、この部屋はもう果たすべき役目を終えたのだった。
65181 ◆5/w6WpxJOw :03/02/08 08:07 ID:???
私は静かに部屋を出て、そしてもう二度と開けることのないドアに鍵をかける。

一歩、二歩と部屋から離れる・・・。

隣の部屋からドスン、ドスンという物音が聞こえてくる。
その隣の部屋からは子供がはしゃいでいる声が聞こえてくる。
どこかで聞いたことのあるような声も混じっていたが、私はそれを無視した。
すでに隣人には荷物を運んだ時に挨拶を終えている。昨夜はたまたま戻ってきただけなのだ。

私はそれらの部屋の喧騒とは対照的に、一人静かに廊下を後にした・・・。

大家さんに持っていた部屋の鍵を返しに行き、そして完全にその部屋との関係を断つ・・・。
思えば、私が引越しをした後もその部屋の鍵を持ち続けていたのは、
まだそれまでの生活に未練を持っていたからなのだ。・・・そう、いつでも戻れるようにと。
そしてまた、私はここに戻ってくることを自分に期待していたのかもしれない。

しかし、もうそんな必要は無かった。私には新しい居場所があるのだ。
私はそれをはっきりと自覚し、そして過去の自分との決別を終えた。

・・・。

ふと、遠くの方から女の子の話し声が聞こえてきたうような気がした・・・。

「さっきそこにおおさかのおじしゃんがいたのれす」
「ののはあほやなあ、そんなわけあらへんやろ」

・・・。

まさかな・・・多分、空耳だろう・・・。
66番組の途中ですが名無しです:03/02/08 14:12 ID:???
新人記念揃えage! 
67性闘士 ◆jeglAw4g22 :03/02/08 21:44 ID:???
あの二人と同じアパートかよ
68 ◆5/w6WpxJOw :03/02/09 05:55 ID:???
>>68
三代目さん降臨ですね。私もがんがらないと・・・。
>>69
どうなんでしょうね・・・。
69 ◆5/w6WpxJOw :03/02/09 05:56 ID:???
レス番号間違えた。↑は>>66>>67でした。
70182 ◆5/w6WpxJOw :03/02/09 05:57 ID:???
翌日

中澤姉さんから突然呼び出される・・・。
指定された場所は繁華街の表通りから少し内側に入った所にある喫茶店だった。
ただ、喫茶店と言っても夜はバーとして営業しているらしく、表にある看板には「BAR 魔の巣」とあった。
・・・かなり怪しい感じの名前だ。

店に入る。店内は狭く、そして全体的にほこりをかぶっているような印象を受ける。
昼だというのに薄暗く、オレンジ色の電球があやしくまたたいている。
細長いカウンターの中にマスターとおぼしき人物が立っているが、
ただ、私が入ってきたことなどまるで目に入っていないのか、黙々と白い布巾でカップを拭いている。
その動作はまるでゼンマイ仕掛けの人形のようにゆっくりと、そして同じ動きを繰り返していた。

カウンターの一番奥の椅子に中澤が座っていた。他に客はいなかった。
恐る恐る近づくと、彼女はその隣の椅子の前を指でトントンと弾く。
そこに座れということなのだろう・・・。コートを脱ぎ、その椅子に座る。

「遅れてすいません・・・」

別に時間に遅れたわけではなかったが、なぜだかその言葉が口から出た。
しかし、彼女は何も言わずにただ前を向いてタバコを吸っている。

・・・。

仕方なく黙っていると、ようやく彼女が口を開いた。
手にはタバコの箱を握っていた。

「吸う?」
「あ、はい・・・いただきます・・・」
71183 ◆5/w6WpxJOw :03/02/09 05:57 ID:???
人前では吸わないことにしている私だったが、その時は自然とそう答えていた。
断れない・・・ということではなく、その店の雰囲気がそうさせたのだった。
私にはどこか場違いのような大人の雰囲気・・・。そんな雰囲気が、私にタバコを吸わせたのだ。

差し出されたタバコの箱からタバコを一本摘み取って口にくわえる。
と、彼女がすかさずライターを差し出し、慣れた手つきでそのタバコに火をつける。
いかにも高級そうな銀色のライターがまぶしく輝く・・・。

中澤姉さんに火をつけてもらうとは思ってもいなかったことだった。
ただ、その行為に、今日ここに呼ばれた理由が決して軽いものではないということを感じる。

なにか重要な話があるに違いない・・・。

その話を早く聞きたかったのだが、そんな私の焦りとは違い、彼女はただ黙ってタバコを吸うだけだった。
目の前のカウンターの中では、あいかわらずマスターがキュッキュッとカップを拭き続けている。
顔を覆うような白いヒゲと丸いメガネが、その動作と妙に合っており、どこか憎めない感じを受ける。

中澤姉さんと私の二人が吐いたタバコの煙がまたたくまに周囲に広がり、そして空気に溶けていく。
ぼんやりとした店内の雰囲気が更にぼんやりと煙る。・・・まるで霞の中に迷い込んでしまったようだ。

と、ようやく中澤姉さんが重い口を開く。

「・・・あんた・・・ケイちゃんと一緒に一夜過ごしたやろ・・・」

・・・。

以前の私ならその言葉に驚いていたかもしれない。
しかし、その時は少しもそんなことはなかった。
72184 ◆5/w6WpxJOw :03/02/09 05:58 ID:???
「・・・正直に言いや・・・」

そう言われたものの、私にはそのことを隠そうとするつもりなど全く無かった。
そしてまた、中澤がそのことを知っていることに驚くことも無かった。

「ああ・・・」

特に言い訳はしない。そしてまた、そこで何も起こらなかったことなども言わない。
言う必要は無いと思ったのだ。そしてまた、中澤姉さんならそれをわかってくれていると・・・。

「そう・・・」

中澤はそう呟くと、片手に持っていたタバコを灰皿に置く。
そして目の前の空のカップを指にぶら下げて、カウンターの中のマスターに合図する。

人形のような動作を繰り返していたマスターの動きがようやく止まる。
そして、ゆっくりと移動し、中澤の開いたカップを手に取ってカウンターの中に下げる。

マスターはゆっくりとした動作でコーヒーを注ぎいれ、中澤の前に差し出す。
そしてまた、私の前にもそれと同じカップを差し出す。

素晴らしいほど心地の良いコーヒーの香りが一瞬にして私を魅了する。

そんな私を見て、中澤は「今日はあたしのおごりやから・・・」とポツリと言う。

以前会った時の中澤姉さんや、テレビの中の姿とは違い、どことなく落ち着いた感じを受ける。
いや、落ち着いた感じと言うよりも、完成された大人の雰囲気を醸していると言った方がいいかもしれない。
多分、そのしっとりとした雰囲気が、中澤姉さんの普段の姿なのだろう・・・。

それはうちの姉とはまた違った感じの大人の女性といった趣きがあり、
私はいつしかその大人の雰囲気に魅力されてしまっていた・・・。
73185 ◆5/w6WpxJOw :03/02/09 06:00 ID:???
私はふと、自分がいつの間にか中澤姉さんに見とれていることに気づいた。
と言っても、それはもちろん特別な感情などでは無い。ただ、その大人の空気に飲まれていたのだ。

慌ててズボンのポケットからタバコとライターを取り出して火をつける。
さすがに中澤と私とでは格が違いすぎる・・・。その対比に恥ずかしくなり、それを隠そうとしたのだ。
ただ、その慌てた動作も私のみすぼらしさを助長するものでしかなかった。
そしてまた、中澤のものとは違う安物の100円ライターが現在の自分を如実に表わしていた。

コーヒーの香りの中、タバコの煙が目に染みる・・・。
と、ようやく中澤姉さんが本題を語り出した。

「・・・ええで・・・もうええねん・・・」

・・・何のことだろうか?

私は彼女の言葉の意味を一生懸命に考える。
そして、その次の言葉でようやくその言葉を理解するのだが、
ただ、その言葉がどのような意味を持っているのかまではわからなかった。

「・・・ケイちゃん・・・幸せにしたってな・・・」

幸せにする?・・・俺が保田を?
それは・・・それはどういう意味だ???

「・・・幸せにって・・・それは・・・?」

そう尋ねると、中澤は少しはみかみながら私の方を向く。
どことなく悲しそうな表情が印象的だった。そしてまた、その言葉も・・・。

「・・・あんた、ケイちゃんのこと好きなんやろ?」
74186 ◆5/w6WpxJOw :03/02/09 06:01 ID:???
そう言うと彼女は目の前のカップを手に取り、一口だけコーヒーをすする。
そのゆっくりとした動作が、妙にその店の雰囲気とマッチしていた。

そしてその動作を見た私の口からは、自然と言葉がもれた。

「・・・ああ、好きだよ・・・」

それは自然と出た言葉だった。
別に隠すつもりもないし、それに今日の中澤姉さんになら素直に話したい・・・そんな思いもあった。

「・・・そう・・・」

しかし、彼女から出た言葉はそれだけだった。
それから先の言葉は無い。・・・一体、何が言いたかったのだろうか・・・。

私が保田を幸せにする・・・。その言葉の意味は・・・?
そして突然その言葉を口にした理由は・・・?

何もわからなかった・・・。
ただただ、静かな時間が過ぎていく・・・。

しかし、その静けさが、彼女の言葉の意味を表わしているのかもしれない。
私はそう感じ、そして、その意味を悟った・・・。

彼女を幸せにする・・・。それは、私に対して保田との恋愛を許すということなのだろう。
ただ、その彼女の態度を見ると、それは上から指示された言葉を伝えたのではなく、
それが彼女の独断的な判断であるように思えた・・・。
75187 ◆5/w6WpxJOw :03/02/09 06:01 ID:???
娘。が来る部屋には鉄の掟がある・・・。
それは、決して娘。に手を出してはいけないということだった。
それは以前に中澤姉さんから何度も念を押されたことだった。
そしてまた、以前にその掟を破って何らかの制裁を受けた人物がいたことも・・・。

しかし、今日の彼女の言葉は、完全にそのことに反していた。

そして、しばらくの沈黙の後、私はその意味を知るのである。
中澤が口を開く・・・。

「・・・もうこれ以上・・・あたしのような・・・」

そこまで言うと、中澤はふいに顔をそむけた。・・・そしてそれから次の言葉は無かった。

・・・。

これでわかった・・・。
中澤姉さんがなぜ、突然私に保田との恋愛を許したのか・・・。

それは、彼女自身の経験からだったのだ。
多分、中澤姉さんもメンバーだった頃にそうした経験があったのだろう。
そしてまた、「もうこれ以上」という言葉から、それが彼女だけでなかったことを知った。

・・・。

ようやく落ち着いたのか、再び彼女が口を開く。

「・・・ケイちゃんな・・・もうすぐ卒業やから・・・そやから・・・ええねん・・・」
76188 ◆5/w6WpxJOw :03/02/09 06:02 ID:???
娘。が娘。でありつづける限り、鉄の掟は存在しつづける。
しかし、そこまで娘。たちを縛りつづける必要はあるのだろうか。
そして、娘。を離れることになった娘。にも、その必要はあるのだろうか。

多分、彼女はそう感じていたのだろう・・・。

男と女がお互いに好きになる・・・。それを邪魔する権利は・・・誰にも無いはずだ・・・。

そんなことから、彼女は私を呼び出したのだろう・・・。
もう二度と同じ過ちを繰り返させないために・・・。

そして、それまでモーニング娘。を陰から支えていた保田に対しての感謝の気持ちを込めて・・・。

それは中澤がモーニング娘。としての保田にしてあげられる最後の優しさだったのかもしれない。

・・・。

しばらく話を聞いた後、彼女は先に店を出て行った・・・。

私は一人店に残っていた。・・・ぼんやりと先ほどの彼女の言葉を考える。

幸せにする・・・。その言葉は保田のことが好きな私にとっては喜ぶべきことのはずだった。
しかし・・・しかし、どことなく納得がいかない・・・。

私に・・・私に彼女を幸せにすることができるのだろうか・・・。
そして・・・その幸せを彼女が望んでいるのだろうか・・・。

その中澤の言葉は、私の心の中でまた新たな葛藤を生み出すことになったのである。
77番組の途中ですが名無しです:03/02/09 06:09 ID:???
毎朝の定期更新オツカレです。
78番組の途中ですが名無しです:03/02/09 17:17 ID:???
79番組の途中ですが名無しです:03/02/10 06:29 ID:???
保全
80 ◆5/w6WpxJOw :03/02/10 07:16 ID:???
>>77-79
保守ありがとうございます。
こうして続けられるのも皆様のおかげです。感謝!
81189 ◆5/w6WpxJOw :03/02/10 07:16 ID:???
店を出る。裏通りということでほとんど人通りは無い。
時より見える人の姿もすぐに通りから消え、通りは静かに次の人が来るのを待っているようだった。

私もその通りを離れるべく、駅の方へと向かって歩いていた。
と、後ろの方から女性の叫ぶ声が聞こえる。あの声は・・・中澤姉さんだ!!!

慌てて声のした方へ走る。
数十メートル進んだ先から狭い路地に入った所に、数人の人影が見える。
その中に中澤姉さんの姿があった。

どうやら、三人組の若者に絡まれているようだった。
中澤はさきほどのしっとりとした雰囲気とは違い、いつもの強気な態度で怒鳴っていた。
私ならすぐに怖気づくような声と言葉だったが、その若者たちは平気なようだった。

「なあなあ、一緒にお茶のまへん?」
「それよりホテルの方がええんちゃうん?」
「それ激しく同意!なあ、気持ちええことしよーや!」

三人はそう言うと、ゲラゲラと下品に笑いながら中澤の腕を掴んで連れ出そうとする。
必死で抵抗する中澤。ヤンキーっぽい口調もその若者たちには通用しないようだ。

私は勇気を振り絞り、一歩、二歩と路地に入っていく・・・そして・・・。

「・・・おい!彼女いやがってるだろ!・・・やめろよ!」

言っちまった・・・。その言葉とは裏腹に、私は自分の足が震えているのを感じていた。
82190 ◆5/w6WpxJOw :03/02/10 07:17 ID:???
一斉にこちらを振り向く三人。年齢は二十歳前といったところだろうか。
私の格好とは違い、いかにも遊び慣れてますといった感じのカジュアルな格好をしている。
三人とも私より断然背が高く、一番高い男は180cmを軽く越えている感じだった。
ただ、それが相手を油断させるには絶好の要素であったのだが。

三人は物凄い目つきでこちらに近づいて来る。

「あんだてめぇは!」「文句あんのかぁ!」「すっこんでろ!」などといった罵声を浴びせられる。
ただ、その言葉は私を脅かすためのものではなく、自分たちを奮い立たすためのものなのだろう。
外面で強がっているということは、内面は意外とそうではないということだ。
ただ、そのうちの一番背の高い男は一人黙ってその様子を見ていた。
・・・こいつは侮れないかもしれない。

こういう場合、落ち着いて冷静に状況を分析した方が有利だ。
と言っても、やはり喧嘩慣れしている人間に対し、経験の無い私が不利なのは確かだ。

と、私の目の前まで来た一人が、いきなり私に殴りかかってきた。
それが突然だったこともあり、私はもろにその拳を食らってしまった。

ボコッ・・・。

その瞬間、左頬に痛みを感じる。・・・かなり痛い。
私は少しよろめいて後ろへと下がる。

その様子を見て、その殴りかかってきた奴はニヤッと笑みを浮かべる。
多分、私のことを弱いと思ったのだろう。その横の男もそれを見て笑っている。
しかし・・・その油断が一番の禁物だということには気づいていない。
83191 ◆5/w6WpxJOw :03/02/10 07:18 ID:???
その私を殴った男は、その隣の男に向かって何かを言いかける。
多分、「こいつよえーよ・・・」みたいなことを言いたかったのだろう。
しかし、その言葉を言う前にそいつは後ろにぶっ飛び、
そして路地に出してあった店の看板に激突していた。

看板が倒れ、ガチャンという大きな音が響く・・・。

そう、私の足刀蹴りがそいつの腹部に炸裂したのだった。

私はすぐに自分の右足を確認する。どうやら足はちゃんと動くようだ。
それがわかった途端、ようやく私の足の震えが止まる。

この分ならやれそうだ・・・。

そのふっとんだ男はその場でただ呆然と私を見つめている。
多分、何が起こったのか理解できていないのだろう。

そいつの隣に立っていた男も、同じように呆然としている。
しかし、すぐに私の方へ近づくと、「てめぇ!」と怒鳴り、そして私に掴みかかる。

そいつは素早い動作で私の胸倉を左手で掴み、そして右手を振り上げる。
が、その右手が振り下ろされることは無かった。

そう、私が瞬間的にそいつの左手をキメたのだ。
84192 ◆5/w6WpxJOw :03/02/10 07:21 ID:???
これは・・・何て名前の技だったかな・・・。
いつの間にか私にはそんな余裕すら生まれていた。

その男は私の目の前にかがみこみ、そして「いてぇー」と叫んでいた。
私はそのかがんだ男に対して、すかさずその腹部を蹴り上げる。
さきほどと違い、腹部が低い位置にあるのでその蹴りは強烈だったようだ。
男はその衝撃で呼吸ができないらしい。苦しそうな声を出す。

私は自分の胸の前で両手でしっかりと掴んでいた相手の左手を離すと、
もう一度その男の腹部に蹴りを入れた。
ただし、この蹴りは相手にダメージを与えるためのものではない。
相手を後ろにぶっ飛ばして間合いを確保するための蹴りだ。

それまでは、実戦の経験が無く、実際の喧嘩で通用するかどうかが不安だったのだが、
それもどうやら杞憂だったようだ。・・・そしてまた、しばらくそうした場から遠ざかっていたことも・・・。

そのぶっ飛んだ男は、自分の左手を大事そうに抱えて「いてーいてー」と連呼していた。
そりゃそうだろ・・・慣れてない人間にとってこうした技はかなり痛いはずだ。

さてと・・・残るはあと一人か・・・。

目の前を見る。一番背の高い男がゆっくりとこちらに近づいて来る。
その後ろで中澤が驚いたような表情でこちらを見ている。

たまにはかっこいい姿でも見てもらうか・・・。
いつしかそんなことを考える余裕までできていた。

その男を見上げる。男は何の表情も浮かべずに、ただ冷静に私を分析しているようだった。
その表情に少しの恐怖を感じるが、しかし私はすでに二人を片付けているのだ。・・・臆することは無い!
85番組の途中ですが名無しです:03/02/10 19:38 ID:???
PO☆
86番組の途中ですが名無しです:03/02/11 07:48 ID:???
87 ◆5/w6WpxJOw :03/02/11 08:38 ID:???
>>85-86
毎度ありがとうございます!
88193 ◆5/w6WpxJOw :03/02/11 08:39 ID:???
そう自分に言い聞かせ、先手必勝でその男に蹴りをお見舞いする。
しかし、やはり体格の違いなのか、それとも苦手な左足で蹴ったためか、
さきほどの二人のようにはいかなかった。

その男は蹴りを食らって少しかがんだものの、すぐに体制を立て直し、そして私に殴りかかってきた。

なんとかその攻撃をかわしたものの、すぐに次の拳が私に降りかかってくる。
慌ててその拳をかわすが、男はそれを予期していたのか、
私の顔の横を通り過ぎた腕はその反動で再び私の顔へと戻ってきた。
そして私の顔に直撃する。・・・そう、肘打ちだ!

ガコッ!!!

右顎に痛みを感じ、瞬間的に顔を守る。
と、その瞬間、その男の廻し蹴りが無防備になった私の横腹部に命中した。

ボコッ!!!

思わずかがみこみ、私は地面に膝をついていた。

やられる・・・。

一瞬そう思ったものの、まだまだ勝負を捨てるわけにはいかなかった。
それに、ようやく私の体も温まってきたところなのだ。
その崩れた体勢の中、私は自分の痛みが回復するのを待った。

そして、それが回復する頃には、私は自分の勝利を確信していた・・・。
結局、相手の拳も蹴りもこんな程度・・・。すぐに回復する程度の威力なのだ。
それははっきり言って、それまで経験したことのある突きや蹴りに比べて見劣りするものだった。
89194 ◆5/w6WpxJOw :03/02/11 08:40 ID:???
その男は勝負がついたと思ったのか、それとも起き上がった私の顔面を再び狙うつもりなのか、
それ以上の攻撃をしようとせずに、その場に立ったまま私が起き上がるのを黙って待っていた。
後ろに倒れていた二人もようやく起き上がったようで、その対峙する様子を見守っていた。

私はかがんだ体勢を元に戻そうとして起き上がる。
そして、その瞬間、目の前の男に対して再び蹴りをお見舞いする。
しかし、その蹴りは腹部への蹴りではなく、相手の急所への蹴り上げだった。

蹴りは見事に決まった。
男は低い呻き声を発して、そのまま自分の急所を抑えてうろたえている。
そしてすかさず、その男の顔に得意の二連突きをお見舞いする。
その様子を見て、最初にぶっ飛んだ男が私の横を素通りして走って逃げていった。

そして、もう一人の男は・・・。

・・・!!!

その男は手にナイフを持っていた。・・・刃渡りが10cmくらいあるだろうか。
いかにも不良が持ってますといった感じの折畳式のナイフだ。

そのナイフに少し戸惑う・・・。

確かに凶器を想定した練習は何度かしたことがあったのだが、
それを上手くこなせる自信は全く無かったのだ。もちろん、実際のナイフも初めてだ!
思いつく唯一の対処法は・・・ナイフが来る前に決着をつける・・・それだけしかない。
90195 ◆5/w6WpxJOw :03/02/11 08:40 ID:???
その男はうつろな目をしてナイフを持ったまま私の方へと近づいて来る。
一歩、二歩と進むその男を見て、私は相手との間合いを確かめていた。
少しでも間合いを間違うと、大変なことになってしまうかもしれない。
じわじわと間合いが狭まる。・・・もう少しだ・・・。

更に間合いが狭まる。・・・今だ!
私はとっさに間合いをつめ、そして蹴りを繰り出そうと・・・。

ボコッ・・・。

・・・?

私が蹴りを出すより早く、その男はその場に倒れていた。

・・・!

頭を抱えて倒れている男の後ろに、竹箒を持った中澤の姿があった。
店の前に立てかけてあった竹箒の柄で、その頭を叩いたのだ!
彼女は満足そうな笑みを浮かべる。・・・しかし、そんな余裕は無かった。

その男は頭を抱えて痛がってはいるが、それは致命的なダメージとまでは言えない。
そしてまた、その隣にはさきほど急所を蹴られた男が再び立ち上がろうとしていたのだ。

私はその二人に対して、最後のとどめの蹴りをお見舞いした後、
中澤の腕を掴むと一目散に路地の奥へ向かって走り出した。
91196 ◆5/w6WpxJOw :03/02/11 08:41 ID:???
しばらく幾つかの路地をジグザグに進み、現場からかなり離れた場所まで進む。
そこで彼女が「・・・もう駄目・・・もう走れない・・・」と言って立ち止まる。
もうこの辺でいいだろう・・・。二人とも大きく肩で息をしていた。

「サンキュー、助かったよ・・・」
私がそう言うと、彼女は不思議そうな表情を浮かべて私を見つめる。
それは、その感謝の言葉を言わなくてはならないのが彼女の方だということもある。
しかし、それは決して彼女が私に対して感謝の気持ちを持っていないというわけではない。
そう、彼女の中では、そのこと以上に大きな疑問が浮かんでいたのだ。
そして、彼女は私に対してその疑問を投げかける。

「・・・あんた・・・一体何者?」
そう呟く。・・・しかし、それは当然の疑問なのかもしれない。
それまで弱々しいと思っていたみすぼらしい男が、あれだけのことをやったのだから・・・。
そしてまた、私自身もその自分の行動がうまくいったことに驚いているくらいなのだから・・・。

「・・・ただの普通の男だよ・・・」
私はそう答えた。・・・その答えは別に間違ってはいなかった。
私はどこにでもいる普通の男・・・多少内向的な性格でみすぼらしい格好をしてはいるが、
それでも普通の男であることに変わりはない。

しかし、当たり前だがそんな言葉では納得できないだろう。・・・彼女は再び問い掛ける。
「普通って・・・そんなわけ無いやん・・・あんた・・・何者なん?」

まいったな・・・本当に普通の男なのに。・・・ただし、私はその言葉に一つだけ付け加えておいた。
それは普段、私が自分からは誰にも話さないようにしていたことだった。
自信が無いということもあるのだが、それは自分から話すようなことではない、そう思うのだ。
しかし、実際に目撃してしまった彼女になら話してもいいのかもしれない。
・・・そう、彼女がおごってくれたコーヒーへのお返しの意味も込めて・・・。

「普通の男だよ・・・ちょっと武道かじってただけのね・・・」
92197 ◆5/w6WpxJOw :03/02/11 08:46 ID:???
1月1日

新しい年を迎える。それは普通の人たちにとっては祝うべきことなのだろうが、
ただ、私にはそうした喜びというものはほとんど無かった。

と言っても、それは別に何かに悩んでいるといったことが理由なのではない。
悩みとは関係なく、それは昔から感じていたことなのだ。

正月というのは、確かに新しい年の始まりであり、それは区切りとしては重要なのかもしれない。
しかし私には、それはまた無駄に一年を過ごしてしまったということを思い出させるものでしかない。
そんな後ろ向きな性格の私にとっては、正月とは祝うべき対象ではなかったのだ。
しかし、だからと言ってそれは忌むべき対象でもない。ただ、祝う気持ちになれないのだ。

なんとも曖昧な感じだが、それは室町時代の禅僧、一休宗純の和歌に近い感じかもしれない。

 「正月は 冥土の旅の 一里塚 めでたくもあり めでたくもなし」

正月を迎えるということは死へまた一歩近づくことでもあり、それはめでたくもあるが一方ではめでたくもない。
・・・簡単に言えばそういう意味だろうか。ある意味、冷めているような感じを受ける。
ただし、それは決して間違ったことではない・・・。人間はついつい一方的な見方で物事を捉えてしまいがちだ。
しかし、決してそれが唯一のものではない。見方によっては、それはまた別の意味を持つものなのである。
そんなことから、私は新年を迎えても、それを祝う気持ちも無く、またそれを忌む気持ちも無かった。

ただ、いつも通りに新聞配達をこなす・・・。
正月ということでかなり新聞は分厚く、仕方なく二度にわけて配達する。

ようやくのことで配達を終え、またいつもの公園でタバコを吸う。
ただ、正月が祝うべきものではないと言いながらも、
新年の最初のタバコはやはりいつもとは違った味がするものだった。
93198 ◆5/w6WpxJOw :03/02/11 08:46 ID:???
私はぼんやりと年末にあった出来事を思い出していた。
東京での忘年会・・・。保田と一夜を伴にしたこと・・・。そして中澤からの許し・・・。
しかし、やはり一番心に残っているのは、あの保田の悲しげな表情だった。

年も明け、これから彼女はあの時以上に卒業を意識することになるだろう。
そんな時、私は彼女に何をしてあげられるのだろうか・・・。
中澤から許可を貰ったとはいえ、私に何かできることがあるのだろうか・・・。

そんな不安があった。
そして、その不安はこれからずっと続いていくだろう。彼女が卒業するまで・・・。

・・・タバコを吸い終わり、静かに目を閉じる。
脳裏に昨夜の紅白の場面が浮かぶ。・・・それは、先週彼女と交わした約束だった・・・。

普段、私がモーニング娘。が出ている番組を見ることはほとんど無い。
もちろん、それは私がモーニング娘。自体に興味が無いということであるのだが、
しかし、それとともに保田が遠い存在であることを認識させられるのが嫌だったのだ。

彼女の頑張っている姿を見たい。そうは思う・・・。
しかし、それを見たところで、状況は何も変わらないのだ。
私が好きなのは、モーニング娘。の保田ではなく、いつもの保田の姿なのだから・・・。

そんなことから、私はそれまで、彼女が出ている番組を見ようとして見たことは無かった。
ただし、昨日の紅白に限って言えば、それは彼女との約束を守るためというよりも、
その彼女の悲しげな表情が私にそれを見させたと言えるのかもしれない・・・。
そのテレビに映った彼女の姿は、とても美しく、そして私の心に深く刻み込まれていた。
94199 ◆5/w6WpxJOw :03/02/11 08:47 ID:???
家に戻り、テレビを見ながらぼーっと過ごす。
正月ということでどの局もお笑い番組ばかりを流している。
それはそれでお笑い好きの私にとっては嬉しいことなのだが、ただどこか淋しく感じるものでもあった。

その後、母と姉が作ったおせちを食べる。
正月が苦手と言っても、さすがにこれだけは嫌いにはなれない。
毎年正月に私が帰省していたのも、これが目当てだったりするのだ。

しかし、そんな私とは違い、兄は実家には帰ってこなかった。
そんなに遠いところに住んでいるわけでもなく、すぐそこに住んでいるというのに・・・。

ただ、兄にとってはこの家は居辛いのだろう。それは少しわかるような気がする。
兄は私とは違って、血縁の無い母と姉とは昔から少し距離を取っていたのだ。
幼かった私とは違い、兄はそれを受け入れられなかったのかもしれない。

まあ、そうは言ってもそれもかなり昔の話だ。今もそんなこだわりを持っているとは思えない。
どちらかと言うと普通の家族以上に仲がいい家族なのだから・・・。

そうすると、多分そうしたこととは関係なく、ただこの母の実家に来づらいだけなのだろう。
実家と言っても名前だけで、そこで暮らしたことも過ごしたこともほとんど無いのだから。

そう考えると、逆に私がすんなりとこの家に溶け込んでいることの方が不思議なのかもしれない。

・・・。

もっとも、私以上に不思議な存在がいることも事実なのだが・・・。
95200 ◆5/w6WpxJOw :03/02/11 08:47 ID:???
それからしばらくして親戚のおじさんとおばさんがやって来る。近くにいる母方の親戚だ。

私が正月が苦手な理由・・・それにはこうした親戚付き合いも理由の一つだった。
普通の家族と違い、私の家族には親戚の系統が多い。
そしてまた、それが私の立場からすると嫌なものでもあった。

例えば、母方の親戚の人にとっては、姉と違って私は部外者なのだ。
それは確かにその通りなのだが、しかし、母も姉も私の母と姉に変わりは無い。

私にとっては母と姉は大切な家族であり、そして向こうもそう思ってくれている。
しかし、いざ親戚という集まりになると、私はそこからはみ出されてしまうのだ。
それが意図する意図しないに限らず・・・。

そんなことから、私は親戚付き合いが苦手だったのだ。
もちろん、そうした母方の親戚の中にも私に優しく接してくれるおじさんやおばさんはいるが、
ただ、そうは言っても、やはり何か血縁の無さを意識させられるような感じがしてしまうのだ。

・・・。

一人部屋へ戻る。正月と言ってもいつもと何ら変わらない時間が過ぎる。
一つだけ違うことは、翌日から朝刊がお休みということくらいだろうか。

リビングで盛り上がっている母と姉とは違い、こちらの部屋は静かだった。

と、携帯からピピッピピッという音がなる。
どうやらメールが届いたらしい。

・・・誰だろう・・・見たことの無いアドレスだ。
しかも、そのメールの内容は全くの意味不明だった。
96番組の途中ですが名無しです:03/02/11 18:56 ID:gjDRyTgh
祝200!期待&激励あげ
97番組の途中ですが名無しです:03/02/12 03:48 ID:???
98 ◆5/w6WpxJOw :03/02/12 06:20 ID:???
>>96
ありがとうございます!
>>97
空白保守どうもです!
99201 ◆5/w6WpxJOw :03/02/12 06:20 ID:???
そのメールには、たった一言だけ、「生サップだよ!」と書かれていた。

・・・生サップ?・・・いたずらだろうか?
なんだか気味が悪いメールだ・・・。

そう思ったものの、私はすぐにそのメールの相手と、そしてその意味を知ることになった。

意味のわからないメールに戸惑い、何気なくリビングに向かう。
そしてリビングに入る・・・と、私はそこに映っていたテレビの画面に目を奪われた。
画面の中に大きな巨体が映っていた。そう、今をときめくボブ・サップだ!

・・・サップ?

そしてまた、その同じ画面に見慣れた顔が映っていた。・・・それはそう、保田の顔だった。
正月というのに生番組をこなしているとは、つくづく大変な仕事だ・・・。
しかし、そんなことを思うよりも先に気になったのはさっきのメールだった。

・・・まさかとは思うが、さっきのメールは・・・彼女???

しかし・・・まさか仕事中にそんなメールは送ってこないだろう。

それに・・・それに、彼女が私の携帯にメールを送ったり、
電話をかけてきたことはそれまで一度もなかったのだ。

それなのになぜ突然・・・?

そう疑問に思ったものの、私はすぐにその答えを見つけていた。
それは多分、この前の中澤姉さんの言葉に関係しているのだろう・・・。
100202 ◆5/w6WpxJOw :03/02/12 06:20 ID:???
鉄の掟・・・それは娘。に対しての男女関係を厳しく禁じている。
そしてそれに関連して、娘。との個人的な携帯のやりとりなども禁止されている。

これは娘。と必要以上に親密な関係になることを阻止するとともに、
その個人情報が漏洩するのを阻止する意図も含まれている。

ただし、これについては以前は厳密に守られていたらしいが、最近ではかなりルーズになっているらしい。
そのため、最初に中澤と会った時も、これについては別にとやかくは言われなかったし、
その逆に、連絡用として中澤の携帯の番号を強制的に教えられたりもしたのだ。
もっとも、それは中澤が現役ではなく、元娘。ということもあるのかもしれないが。

しかし、保田はそのルールをずっと遵守していた。それがなぜかはわからない。
ただ、私にはその理由がおぼろげながらわかるような気がした。
それはそう、彼女のモーニング娘。における立場によるのだろう。

彼女はたまに真面目すぎるほど真面目な素振りを見せることがある。
それは特に、モーニング娘。の中における人間関係、上下関係などに顕著に見られる。
ただし、それは単に彼女が上下関係に厳しいということではない。
彼女は自分の先輩としての立場を熟知しており、そして後輩に対しての規範となるべく行動しているのだ。

そして、そんな彼女のことだから、例えすでに有名無実となっているルールであっても、
先輩として、それを破ることができなかったのかもしれない・・・。

しかし、それも昨日までの話に過ぎない。現に私の携帯に彼女からメールが届いたのだ。
それはすなわち、彼女にとって何らかの障壁が排除されたことを意味していた。
そして、その障壁を排除したのは、多分、中澤姉さんなのだろう・・・。
私が中澤から恋愛の許しを貰ったように、彼女も中澤からの許しを貰ったのだ。

ただ、それは嬉しいことではあったが、しかし、どこか拍子抜けするものでもあった。
そしてそれは、次に送られてきたメールで明白となった。
101203 ◆5/w6WpxJOw :03/02/12 06:21 ID:???
テレビがCMに入る・・・と、またすぐにメールが届く。

「サップの中の人も大変だね!」

・・・。

意味がわからない・・・。

サップの中の人?・・・そんな人がいるわけがない・・・。

しかし、その意味不明な言葉よりも、私は彼女自身がわからなくなっていた。
それはそう、あの彼女の悲しげな表情とあまりにギャップがあったからだった。
今朝もあの表情を思い出していたと言うのに・・・それに比べてこのメールは・・・。

私が心配していたのは何だったんだろうか・・・。
そして、彼女は本当に悩んでいたのだろうか・・・。

ただ、それも彼女が悩みからふっきれたということなのかもしれない。
それはそれで複雑なものだったが、それは歓迎すべきことなのだろう。

私はそう思い、彼女に対してメールを返信する。

「中に人などいない!!!」

CMが終わり、画面に数人の出演者が映る。
そのカメラに対して、保田が笑顔で大きく手を振っていた。

それは私のメールへの返事だったのだろうか・・・。
102204 ◆5/w6WpxJOw :03/02/12 06:21 ID:???
正月休みも終わって数日が経ち、また普段通りの生活が始まる。

紺野が来る。・・・そして保田も来る。

二人一緒に来ることは無かったが、それでも二人は仕事の合間にそれぞれこの家に帰ってくるのだ。

紺野と姉と少し遅れての初詣に行く。
それを聞いた保田も同じように初詣に行くことを催促する。
それを断るとふてくされた表情で一人家を出て行く。
仕方なくそれを追いかけて二人で初詣に行く。

・・・そんな感じで時がゆっくりと過ぎていく。

紺野もようやくこの家に慣れてきたようで、今では普通に姉や母と接している。
その中でも紺野は、特に母になついている様子だった。
母もそれが嬉しかったのか、新しい娘ができたように喜んでいた。
もちろん私とも普通に接しており、あの早朝の公園での会話もずっと続いている。

しかし、そうは言っても、一日に一度くらいは涙を浮かべたりするので、まだ完全に慣れたというわけではない。
ただし、紺野は決して声に出して泣くことはなく、必死でそれを我慢しているようだった。
そんな紺野を見て、そのたびに頑張り屋さんということを再認識させられる。

一方の保田も、年末の悲しげな表情とは一転して、元気そうな表情を見せている。
と言っても、どことなく無理に明るく振舞っている感じがしないでもない。

ただ、それも明るく振舞えるだけまだマシなのかもしれない。
それに、私が彼女にしてあげられることは何も・・・何も無いのだ。

私にできること・・・それは彼女の本当の笑顔を待ち続けること・・・ただそれだけなのだ。
103番組の途中ですが名無しです:03/02/12 18:52 ID:???
中の人ワラタ
104番組の途中ですが名無しです:03/02/12 22:59 ID:???
>>103
同じくw
105番組の途中ですが名無しです:03/02/13 06:48 ID:???
保全
106番組の途中ですが名無しです:03/02/13 08:20 ID:???
今日は更新無しか?
107 ◆5/w6WpxJOw :03/02/13 12:16 ID:???
>>103-104
笑っていただきまことにありがとうございます。
>>105
保守ありがとうございます。
>>106
遅くなってすみません。これから今日の分をうpします。
108205 ◆5/w6WpxJOw :03/02/13 12:17 ID:???
翌週

姉の知り合いが集まって新年会を催すということで、仕方なく家を出る。
外はかなり寒かったが、まあ、部屋でじっとしているよりは健康的だ。

特に行くあても無く、仕方なくいつも通り図書館へと向かう。
そこで時間を潰し、夕方になってから家へと戻る。

玄関には幾つもの靴が並んでいた。
上品そうな靴が数足。そしてそれに比べて見劣りする靴が一足。
これは以前見たことのある靴・・・確か、以前姉の友達が来たときに見た靴のはずだ。
そして一番端にある靴は、・・・これは一目でわかった・・・そう、保田の靴だ!

リビングから大騒ぎしている声が聞こえてくる。
昼間だというのに飲みまくっているのだろう。

私はそのまま部屋へと戻ろうとしたが、
保田へただいまの挨拶をしておかないと後で怒られるかもしれないと思い、
リビングのドアを開けて顔を出す。

予想通りそこはかなりの盛り上がりを見せていた。
しかし・・・それ以上に驚いたことがあったのだ。

そう、保田の隣で漫才風の突っ込みをしていた女性・・・。
一瞬、まさかと思ったのだが、よくよく見ると本物だった。

それは・・・藤原紀香だった・・・。
109206 ◆5/w6WpxJOw :03/02/13 12:18 ID:???
それだけではない。
その向かいに座っている女は、以前吉本新喜劇なんかに出てた女だ。
確か名前は・・・そう、島田珠代だ!

その他にも二人ほどいるが、その二人は知らない顔だった。

私が入ってきたことに気づくと、保田が「よー!もーちゃんお帰りー!」と陽気な挨拶をする。
あわてて「あ、ただいま・・・」と言ってすぐにリビングから脱出する。

何か場違いな雰囲気だった・・・。
姉の友達が来ると言っていたが、まさか藤原紀香や島田珠代が来るなんて・・・。
そんな話は一度も聞いたことが無かったが、まあ姉も一応モデルをやっているので、
そうした芸能人の知り合いがいたとしてもおかしくはないのかもしれない。

ただ、その時の私は、保田も芸能人であるということは完全に忘れており、
そしてまた、その藤原紀香や島田珠代が保田と姉の共通の友人であることも知らなかったのだが。

とにかく、私はその状況に驚いていた。

しかし、しばらくして冷静に考えると、それはそんなに驚くことではないのかもしれない。
この家にはモーニング娘。の保田と紺野が毎週のようにやって来ているのだし、
以前はそのメンバーの辻と加護も来たことがあるのだ。
そして姉も、メディアへの露出は無いと言っても、一応モデルなのだ。

そんな中に私がいるということの方が何か間違っているのかもしれない。
ついついそんな懸念を覚えてしまう。

リビングからはいまだ大きな騒ぎ声が聞こえてくる。
その中には姉の声もあった。珍しく酔っているらしい。
まあ、姉も移籍の話で悩んでいるみたいだし、たまにはいいのかもしれない。
落ち着いた雰囲気の姉もいいが、やはり元気な姉の方が嬉しいものだ。
110207 ◆5/w6WpxJOw :03/02/13 12:18 ID:???
しばらくして、部屋をノックする音が聞こえる。
ドアが開くと、そこには保田と島田珠代がいた。
保田が言う。かなり酔っているらしい。
「あのねー、珠ちゃんがー、もーちゃんに挨拶したいんだってえー」

一瞬戸惑ったものの、まあ挨拶くらいならいいか・・・。
「ああ・・・いいけど・・・」
私はそう答え、そして彼女の挨拶を受け入れた・・・。

ただ、その挨拶がどのようなものだったのかはここでは省くことにしたい。
それはあまりにも情けなく、そして馬鹿馬鹿しい挨拶だったのだ・・・。
そう・・・それは新喜劇でお馴染みの挨拶だった。

しかし、それはいくらなんでも素人にする挨拶ではない・・・。なんせ私の股間に・・・。
そうは思ったものの、まあ芸人らしい挨拶として一応納得する。

そして、私はその挨拶へのお返しとして、島田珠代の首根っこを掴むと、
そのままリビングへと連行し、そして助走をつけてリビングの壁に激突させた。

壁に激突した彼女は、床に倒れこみ、そしてゆっくりと立ち上がる。
そして満足そうな笑みを浮かべながら決め台詞を放つ。

「・・・男なんてシャボン玉!」

ズコーッ!

・・・私以外の全員が酔っていたこともあって、みな一斉にずっこける。
そのずっこけている中には姉の姿も・・・そして藤原紀香の姿もあった。

なんなんだろ・・・この人たち・・・。
111208 ◆5/w6WpxJOw :03/02/13 12:18 ID:???
こうして新年会という名目のどんちゃん騒ぎはそのまま夜まで延々と続き、
私もお酌をさせられたり買出しに行かせられたりと、散々こきつかわれたのであった。

・・・。

女性ばかりの新年会ということもあって、時間が経つにつれて話題はエロ話へと移っていく。
それまで女性がそういう話をするなんて思いもよらなかったため、かなりのショックを受ける。
もちろん、それは私一人だけがアルコールが入っていないこともあるのだろう。
しかし、そうは言っても、それはそれまで私が女性に対して抱いていたイメージを
一瞬で崩壊させるくらいの破壊力を持っていた。

できればそんな話は聞きたくなかったのだが、
私がその部屋から出て行こうとすると、すぐに連れ戻し部隊がやってくるのだ。
そこで私は仕方なく、部屋の隅で彼女たちのエロ話を聞かなくてはならなかった。

ただ、そうは言っても、一つだけ安心できることがあった。
それは、うちの姉がその話題にはあまり加わっていなかったことだ。

姉は清楚で清純な女性だ。・・・誰が何と言おうと私はそう信じている。
もし姉がその話題に積極的に参加などしていたものなら、私の姉に対する全ての概念は崩壊していたかもしれない。
しかし、姉は酔っていながらもその話題にはあまり乗り気ではなかった。
もちろんその場に私がいるために自重しているとも考えられるが、
姉はかなり酔っており、すでに私がその部屋にいることすら把握できていないのだ。
つまり、姉は私の思っている通り、エロ話を楽しむような下品な女性ではないということだ。

それに比べて、藤原紀香や保田は下品極まりなかった。
エロ話はこの二人を中心にして進んでいたのだ。

それにしても、女性というのは恐ろしい動物だ・・・。そう感じ、少しの恐怖を覚える。
112209 ◆5/w6WpxJOw :03/02/13 12:18 ID:???
話はいつか保田のことになっていた。しかも、それは保田のキスマークの話だった。

最初は何の話かさっぱりわからなかった・・・。
しかし、その話を聞いているうちにようやく大体の意味を把握する。
どうやら年末の紅白において、保田の胸元にキスマークが映っていたらしい。

それはそれだけならば完全なスキャンダルだろう。
そしてまた、彼女に想いをよせる私にとって最大のショックになったかもしれない。
しかし、彼女たちの話を聞いてそのキスマークの理由を知る。
それは彼女たちが考えた作戦だったのだ・・・。

保田はもうすぐ娘。を卒業する。そして娘。として紅白の舞台に立つのはそれが最後だった。
しかし、人気の無い彼女のことだから、多分誰もそのことに注目することはないだろう。
そのため、彼女たちは保田を注目させるため、そして話題作りのために作戦を立てたのだ。

それがそう、このキスマーク作戦だったのだ!!!

と言っても、それは実際に男がつけたキスマークではない。
そのキスマークをつけた相手は男でも人間でもなく・・・そう、掃除機だったのだ!

この作戦はスポーツ紙の片隅に載るなど、一見成功したかのように見えた。
しかし、そうはうまくいかないのが人生・・・。

結局、この話題はあまり知られることなく消えていき、
そしてスポーツ紙の記事も予想とは違う言葉で締めくくられていた。
そして彼女たちは、その記事を思い出して大爆笑していた・・・。

 「多分、ゲイバーで遊んだ時にでもつけられたのでしょう・・・」

・・・おいおい、それ全然笑えないって。
113番組の途中ですが名無しです:03/02/13 16:53 ID:???
実際の小ネタが散りばめられていて(・∀・)イイ!!
114番組の途中ですが名無しです:03/02/13 18:06 ID:???
がんばってくらさい
いつも楽しく読ましてもらっています。
115番組の途中ですが名無しです:03/02/14 02:01 ID:???
寝る前に保全
116 ◆5/w6WpxJOw :03/02/14 05:58 ID:???
>>113
光栄です。・・・でも全て実話なのです。
>>114
ありがとうございます。
>>115
保全どうもです。
117210 ◆5/w6WpxJOw :03/02/14 05:58 ID:???
その夜・・・。皆が帰った後の家の中は滅茶苦茶だった。
姉も保田も限界まで飲んだらしく、部屋で酔いつぶれている。
多分、最後の頃のエロ話はすでに覚えていないだろう。
・・・いや、もしかすると誰一人覚えていないかもしれない・・・そう、私以外・・・。

私は母と二人で、黙ってその後片付けをする。ただ、それは決して腹立たしいことではなかった。
姉も保田も、普段はまともな生活をしているのだ。たまには羽目を外すことくらい何でもない。
それに姉も移籍の話で悩んでいるし、そして保田も自分の卒業について悩み続けている。

そんなことから、今日の新年会は二人にとってもいい気分転換になったことだろう。

・・・。

翌日、保田は仕事があるということで、二日酔いの頭を抱えながら朝早くに家を出て行った。

・・・。

夜になり、私はテレビを見ていた。ただし、それは決して自発的に見たのではない。
今朝、彼女が去り際に、私に対してある番組を見るように言ったのだ。
それはこの前の紅白と同じような理由なのだろうか。
ただ、その時の彼女の表情は、この前の悲しげな表情とは違い、どことなく嬉しそうだった。

・・・テレビには私のあまり好きではない芸人が出ていた。
その傲慢で人をけなすことしかできない能無しの芸人が「ちがうよっバーカッ!」と連呼している。

その言葉を聞くたびにチャンネルを変えたい衝動に駆られる。
しかし、なんとかその衝動を堪える。と、テレビから「モーニング娘。」という言葉が聞こえてきた。
118211 ◆5/w6WpxJOw :03/02/14 05:58 ID:???
画面にモーニング娘。のメンバーが映っていた。もちろんそこには保田や紺野の顔も見える。
彼女は私に何を見せたいのだろうか・・・。そう思いながらテレビを見続ける。

しばらく会話のやりとりがあった後、
画面に唐突に「抜き打ち!モーニング娘。の持ち物検査!」と書かれたテロップが映る。
そしてスタジオにたくさんのカバンが載ったテーブルが運ばれてくる。

それを見て後ろに座っていたメンバーが一斉に騒ぎ出す。
「ちょっとー、何勝手に持って来てんのよー!」
「やめてよー!さいてー!」
「きいてないってばー!」

しかし、その騒ぎ方はかなりわざとらしく、それがいかにも台本通りの企画ということを表わしていた。

早速その芸人が一番左端のカバンを開ける。
中に入っていた化粧道具を取り出し、「これ貰っていい?」と尋ねる。
するといかにも予定通りといった感じでメンバーの一人が文句を言う。

なんともくだらない企画だ・・・。

それから次々とメンバーのカバンの中身が披露される。しかし、どれも仕込みっぽい感じが全開だった。
特に絵本が入っていることなど通常はありえないだろう。いかにも好感度アップのためと言わんばかりだ。

そんな中、次のカバンに差し掛かる。黒の高級そうなカバンだ。
それを見た瞬間、それが保田のものだということがわかった。一度見たことがあったのだ。

「これだれの?」とその司会の芸人が尋ねる。
すかさず彼女が「はいはい!それあたしの!」と答えると、その瞬間、その男は無言でそのカバンを床に叩き落す。

「ちょっとなにするんですかー!」という彼女の声もむなしく、一斉に笑いが起こる。
119212 ◆5/w6WpxJOw :03/02/14 05:59 ID:???
そして怒った保田の表情がアップで映され、そして子泣き爺のCGがその隣に映る。

なんなんだ、この番組は・・・。どこが歌番組なんだか・・・。

笑いが収まると、保田は「たかさんあたしのもちゃんと検査してくださいよー!」と言う。
それに対してその男は「バーカッ!誰もおんまえの持ち物なんか見たくねーんだよ!」と言い捨てる。
が、隣にいたもう一人の司会の男が「まあまあまあまあ・・・一応見るだけ見ましょうよ・・・」となだめる。
それに対して保田が「一応って何よ!」と口を開くと、再び保田のアップと子泣き爺のCGが映る。

本当になんなんだろ・・・この番組・・・。

その言葉にようやくその芸人が保田のカバンを開く。嫌々そうな顔をしているものの、それも台本通りなのだろう。
カバンから中身を取り出す・・・。その取り出されたものを見て、私は一瞬動きを止めた。

画面にはぬいぐるみが映っていた。それもクマのぬいぐるみだった・・・。

それはそう、元々私が持っていたぬいぐるみ・・・。
去年の12月の初め頃に、彼女が私にねだって勝手に持ち去ったあのぬいぐるみだった。

「なんだよこれー!おんまえー、これ仕込みじゃねーのか?」と芸人。
「違いますよー!いっつも持ち歩いてるんですよー!」と保田。

その言葉に私は驚いていた。あのぬいぐるみをいつも?・・・持ち歩いている?

「どーせ好感度あげようとか思ってんじゃねーの?」ともう一人の司会の男が言う。
「違いますってばー!それ貰ったんですよー!」と保田。
すかさず「パクったの間違いじゃねーのか?」と芸人。

そんなやりとりはある意味保田にとってはおいしいのかもしれない。
保田の表情は生き生きとしていた。
120213 ◆5/w6WpxJOw :03/02/14 06:01 ID:???
保田は反論する。
「大切な人から貰ったんですよー!あたしの宝物です!」と言うと、
「どーせ勝手に持ち出してきたんだろ?」と芸人。

それはある意味正解かもしれない・・・。

しかし、その次の言葉に私はあの時彼女がそのぬいぐるみを持っていった理由を知ったのだ。

「違いますよー!誕生日プレゼントで貰ったんですよー!」

誕生日・・・。その言葉に私は初めて彼女の誕生日がいつだったかを思い出していた。
それはそう・・・確か12月上旬・・・。つまり、彼女がぬいぐるみをねだった頃だ。
その頃はまだ彼女のことをほとんど知らず、その誕生日のことも知らなかったのだが、
その後、彼女の誕生日がその時期だったということを知ったのだった。

しかし、あのぬいぐるみに彼女がそんな意味を込めていたとは、もちろん今日まで知らなかった。
そしてまた、彼女がそのぬいぐるみをいつも持ち歩いているということも・・・。

テレビの中ではあいかわらず司会の二人が保田に突っ込みを入れている。
そしてまた、モーニング娘。のメンバーたちもそれぞれ後ろで騒いでいた。
その中にはもちろん、紺野の姿も、そして辻と加護の二人の姿も見える。
三人はうらやましそうに保田を見つめていた・・・。

しばらくしてモーニング娘。の出番も終わり、画面には次のゲストが映っていた。
私はテレビを消し、そして自分の部屋へと戻る。
・・・いつのまにか自然と笑みがこぼれていた。

それはそう・・・彼女がいつもあのぬいぐるみを持ち歩いてくれていたことと、
そして、彼女が言った「大切な人」という言葉が嬉しかったのだ。
121番組の途中ですが名無しです:03/02/14 17:55 ID:???
イ呆
122番組の途中ですが名無しです:03/02/14 21:13 ID:???
保護しました。
123番組の途中ですが名無しです:03/02/15 06:25 ID:???
hozen
124 ◆5/w6WpxJOw :03/02/15 10:09 ID:???
>>121-123
保守・保護・保全ありがとうございます。
125214 ◆5/w6WpxJOw :03/02/15 10:10 ID:???
1月中旬

ニュースでモーニング娘。の新メンバーが決定したことを知る。
と言っても、モーニング娘。自体に興味が無い私にとってはどうでもいい話に過ぎない。
ただし、その新メンバーが保田と交代で加わるという話には、つい耳を傾けてしまう。

新メンバーはオーディションで選ばれた三人と、
ソロで活躍していたらしい藤本という女の四人らしい。

ただ、この藤本というのは、かなりくせのある女であるらしい。
と言うのも、この前の新年会の時に、酔った保田が珍しく愚痴っているのを聞いたのだ。

その話では、紅白に出演した藤本が、その後ろで踊ったモーニング娘。に対して
何の挨拶もせず、それに怒った娘。たちとかなり険悪な雰囲気になったらしい。
まあ、華やかに見える芸能界も、裏を見ればこんなものなのだろう。

・・・。

数日後、保田と紺野がやって来る。珍しく二人は一緒だった。

新メンバーが決定し、保田はやはり焦っているような感じがした。
ただし、前に比べると少しふっきれたような感じがしないでもない。

そして、そんな保田に対して、逆に焦っているのは紺野の方だった。
紺野は新メンバーと上手くやっていけるかどうか、かなり不安そうだった。
それはまた、新メンバーの加入によって自分の必要性が無くなるといった不安もあったようだ。
126215 ◆5/w6WpxJOw :03/02/15 10:10 ID:???
1月下旬

新メンバー加入の話があったばかりだと言うのに、ニュースでは再びモーニング娘。の話題を扱っていた。
そう、モーニング娘。が「さくら組」と「おとめ組」の二組に分裂するという話である。
と言っても、実はその話はすでに紺野から聞いていたので、別に驚くことでもなかった。
それにもちろん、私自身モーニング娘。に興味が無いということもある。

ただし、それは先週の新メンバー決定とともに、紺野にとっては重要な意味を持つことになるだろう。
そして、これをどう乗り切るかで、今後の紺野の命運が分かれるのだ。

・・・。

しばらくして保田が来る。そしてその翌日、保田と入れ違いに今度は紺野が家に来る。
しかし、紺野はどことなく元気が無い様子だった。
やはり次から次へと起こる事態に戸惑っているのだろう・・・。

その日は家にいるのは私だけだった。
母は最近何かに没頭しており、家にいても部屋で何かの勉強をしている様子だった。
そしてその日もその関係だろうか、一日家を空けるとのことだった。
そして姉も、今日の朝から出かけており、三日間ほど帰ってこないとのことだった。
どうやら事務所の移籍の話に関係しているらしい。ようやく姉も移籍の話を承諾したようだ。

そんな忙しい二人とは違い、私はいつも通り暇な時間を過ごしている。
何か一人だけ人生にさぼっているような感じがして、なぜか罪悪感を覚えてしまう。

二人だけということもあり、夕食は外で食べることにした。
127216 ◆5/w6WpxJOw :03/02/15 10:10 ID:???
徒歩で20分くらいの場所にある寿司屋へ紺野を連れて行く。
その店はテレビでもよく紹介されており、安くて旨い、私のお気に入りの店だった。
と言っても、そんなに来たことはなく、今日で三回目だったのだが。

紺野は寿司が好きらしい。かなり喜んでいた。
まだ早い時間だというのに、店の前にはすでに行列ができていた。
15分ほど並んだ後、店に入り、二人で思いっきり寿司を食べまくる。
しかし、それだけたくさん食べたのに、二人で3000円もしない低価格。
お金に余裕の無い私にとってはかなり嬉しい店だ。

紺野はすっかり満足した様子で、不安そうな表情がいつのまにか笑顔で満ちていた。

やはりこの子は笑顔が一番だな・・・。
そんなことを思いながら、二人で会話をしながらゆっくりと歩いて帰る。

家に戻り、私はリビングでぼんやりとテレビを眺める。
その隣では紺野が問題集とにらめっこしていた。
せっかくのオフの時間くらいゆっくり過ごせばいいと思うのだが、
頑張り屋さんの紺野は休むことを知らないのだ。

ふと、以前保田から言われた「あまり頑張らせないように」という言葉を思い出す。
もしかすると、保田は紺野に心から休める空間を与えるためにこの家に連れてきたのかもしれない。
そう、保田自身がこの家でくつろいでいるように・・・紺野にも息抜きをさせようと・・・。

しかし、実際の紺野は休むどころか毎日が一生懸命だった。
極秘の映画デビューに向けて体力作りを欠かさない。そして勉強もおろそかにしない・・・。

そんな紺野を見ていると、その努力を応援してあげたいと思う気持ちと、
そして、その努力から解放してあげたいと思う気持ちがこみあげてくる。

私が紺野にしてあげるべきなのは・・・どちらなのだろうか?
128217 ◆5/w6WpxJOw :03/02/15 10:11 ID:???
保田から聞いたのだが、紺野は学校の勉強もそれなりにこなしており、
学年でトップを取ったこともあるのだと言う。
ただし、それは才能と言うよりも紺野の努力が実った結果なのだろう。
しかし、そんな紺野の姿を見ていると、ふと一抹の不安を覚えてしまう・・・。
もし・・・もし、その努力が実を結ばなかったら・・・その時紺野は・・・。

・・・。

挫折・・・。

それは人生において誰しもが経験することである。
勉強であるとか、仕事であるとか、そして恋愛であるとか・・・。
そうした挫折を乗り越えて人間は強くなる・・・。一般にはそう言われることが多い。
しかし・・・しかし、もしその挫折が乗り越えることができないくらい大きなものであったら・・・。
その時、人間は・・・。

そう、強くなるどころか、全てが終わる・・・。
その時点で人生が終わってしまうのだ・・・。

そして、その挫折は、その努力に比例して大きくなる・・・。

・・・。

私は紺野に一言つぶやき、そしてその問題集を閉じた。
驚いたような表情をして私を見つめる紺野・・・。

「たまには勉強も仕事も忘れろって!・・・それに、せっかく俺がいるんだし!」

その私の行動は、ある意味保田の一方的な親切心の押し付けに似ていたかもしれない・・・。
129218 ◆5/w6WpxJOw :03/02/15 10:11 ID:???
一瞬、勝手に問題集を閉じたことを怒るんじゃないかと心配したが、
紺野は私の言葉の意味を理解してくれたらしい。笑顔で「はい!」と返事する。

その笑顔を見て、一つの疑念が浮かぶ・・・。
もしかすると、この子も本心では休みたかったのかもしれない。
勉強からも仕事からも逃げ出したいと思っていたのかもしれない。
しかし、それは自分からはできなかったのかもしれない・・・。
そして、誰かから止めてもらうことを願っていたのかもしれない・・・。

それはそう・・・私が昔そうだったように・・・。

私も昔、紺野のようにひたむきにがむしゃらに一生懸命に突き進んでいた時期があった。
私は自分という風船を大きく大きく膨らませようと必死だった。
毎日がくたくたで疲労の連続だったが、私はそれを休もうとはしなかった。
いや、本当は休みたかったのだ。しかし、それを休むことはできなかった。
休むことへの不安もあった・・・。そして休むことへの罪悪感も・・・。

その結果、私が大きく膨らませた風船は、ふとした弾みで一瞬にしてしぼんでしまった。
それは、それまでの過程とは裏腹に、あっけないほどの幕切れだった。
そのあっけなさに私はそれまでの意欲を完全に失ってしまった。
そして、もしかすると今もそのしぼんだ状態のまま・・・なのかもしれない。

紺野には同じ思いをして欲しくない・・・。そう思う。
そしてまた、紺野の場合は私よりも辛い結果になる・・・。そういう不安があった。

紺野の風船はすでにはちきれんばかりに膨らんでいたのだ。

そう・・・それはすでに破裂寸前だった・・・。
そして、紺野自身もそのことに薄々気づいていたのかもしれない・・・。
130219 ◆5/w6WpxJOw :03/02/15 10:11 ID:???
9回裏ツーアウト。

私は一打逆転のチャンスを迎えていた。
スコアは4対3。ランナーは二塁。

しかし、すでに私はツーストライクまで追い込まれていた。
絶体絶命のピンチである。

二人の間に緊張が走る・・・。

紺野がボールを投げる。
打ちたい衝動を抑えて見逃す。
・・・判定はボール。
安堵の溜め息がこぼれる。

これでカウントはツースリー。
つまり、次の一球で勝負が決まることになる。

紺野は一呼吸置いてから意を決して次の球を投げる。

ど真ん中の絶好球!

私は渾身の力を込めてバットを振る。
バットの先端がボールを捉える。
その瞬間、手から汗がにじむ。

しかし、焦りすぎたためか、ボールは三塁線から大きく左に逸れた。

ファール!

あわてて手の汗を拭き、そして再び次の球に対してバットを構える。
131番組の途中ですが名無しです:03/02/15 18:52 ID:???
132番組の途中ですが名無しです:03/02/15 23:57 ID:???
保守
133番組の途中ですが名無しです:03/02/16 02:40 ID:???
揃えage! 
134番組の途中ですが名無しです:03/02/16 08:56 ID:???
念のため保全
135 ◆5/w6WpxJOw :03/02/16 09:43 ID:???
>>131-134
保守ありがとうございます。
136220 ◆5/w6WpxJOw :03/02/16 09:43 ID:???
紺野は私が構えたのを確認してから、素早い動作で次の球を投げる。

スローボールだ!

一瞬、タイミングを狂わされたものの、私にはそんな子供騙しは通用しない!
瞬時にそのタイミングを修正してバットを振る。

しかし、そのバットにボールが当たることは無かった。
バットに当たる寸前にボールが地面の下へと消えたのだ!

消える魔球!

その瞬間、勝敗が決定する・・・。
私の阪神タイガースは紺野のモーニングムスメーズに敗北したのだ・・・。

「勝っちゃいました」と、おどけた口調で紺野。

「あー、負けちまった・・・」と私。

最初から紺野を勝たせようと本気を出していなかったとはいえ、やはり勝負に負けるのは悔しいものだ。
それに、もし私が本気を出していたとしても、最後の球はどっちみち打てなかっただろう。
紺野が消える魔球を投げるタイミングはそれほど絶妙だったのだ。

「もーちゃん監督!敗因はなんですか?」と紺野。

その言葉に少し考えてから答える。

「片岡だな。7回裏の満塁での三振は痛かった・・・」

・・・。
137221 ◆5/w6WpxJOw :03/02/16 09:43 ID:???
目の前にあるエポック社の野球盤を片付ける。
それはそう、以前辻と加護が遊びに来たときに使おうとして結局使わなかったゲームだった。

紺野もかなり楽しんでくれたようで、満面の笑みを浮かべていた。
もちろん勝負に勝ったこともあるのだろうが、とにかくその笑顔が私には嬉しかった。

しばらく二人で話をした後、私が先に風呂に入り、そして次に紺野が入る。

・・・。

部屋に戻り、いつものように布団を敷く。
明日も朝は早い。それに、明日は私が朝御飯を作らなくてはならない。

と、ふとどこからか泣き声が聞こえたような気がした。

・・・いや、それは決して気のせいではなかった。
確かに泣き声が聞こえる・・・それも、紺野の泣き声だ!

あわてて部屋を飛び出す。
泣き声は風呂場から聞こえてきていた。

私は脱衣所のドアの手前から紺野に話し掛ける。
「おい!紺野!・・・どうした?・・・何があったんだ?」

しかし、その声は紺野の泣き声に消され、中には届かなかった。
138 ◆5/w6WpxJOw :03/02/16 09:53 ID:???
またまたシリーズに番外編が増えてました。
これからどう進むのか気になります。。。

たまに、娘。のとある奴が俺の店にくる
http://news3.2ch.net/test/read.cgi/news7/1045057117/
139番組の途中ですが名無しです:03/02/16 20:37 ID:???
140番組の途中ですが名無しです:03/02/17 02:00 ID:???
保護しました。
141 ◆5/w6WpxJOw :03/02/17 07:22 ID:???
>>139-140
ご苦労さまです!
142222 ◆5/w6WpxJOw :03/02/17 07:24 ID:???
私は意を決して、脱衣所のドアを開ける。・・・しかし、そこには紺野の姿は無かった。
つまり・・・紺野が泣いているのは風呂場の中だ。

私は「紺・・・」と言いかけて、あわてて言い直す。「あさ美ちゃん?・・・大丈夫?・・・」
それは、こういう場合は名字で呼ばれるよりも名前で呼ばれる方が安心するだろうと考えたからだ。
しかし一向に彼女が泣き止む気配は無かった。それどころか、むしろその泣き声は次第に大きくなっていた。

なんとかしないと・・・!
私は思い切って「ごめん・・・入るよ・・・」と言って風呂場の戸を開ける。
目の前には、浴槽の外にうずくまって泣いている紺野の姿があった。

もちろん裸だ・・・!!!

ただし、風呂場が煙っていたこともあり、また、紺野がうずくまって泣いていたため、
私の目に映るのはぼんやりとした紺野の輪郭だけで、はっきりと見えるのは頭と背中だけだった。
しかし、そうは言っても目の前には女の子の裸・・・それもモーニング娘。の紺野の裸があるのだ。
これで興奮しないわけがない・・・。それに、うっすらと見える紺野のボディラインは非常に悩ましいものであり、
しかも紺野は服を着ている時もかなり胸が大きく見え、それで私もいつも目のやり場に困ったりしていたのだ。

しかし、その時の私にそんなことを考えている余裕は無かった。
そう、私にとって気になるのは、紺野の裸ではなく、その紺野の涙・・・そして涙の理由なのだ!

私は慌てて目をそらすと、なるべくその姿を見ないようにしながら、そっとその肩にバスタオルをかける。
そしてすぐに風呂場から出て、紺野に背を向けながら声をかける。
「あさ美ちゃん・・・大丈夫だよ!ほら、ここにいるから!ね、もう安心だよ!」
何が大丈夫なのかは自分でもわからないが、とにかく安心させるのが先決だろう。

その言葉で安心したのか、紺野はようやく泣くのを止める。
と言っても、それまで大きな声で泣いていたのが、すすり泣きに変わっただけなのだが・・・。
143223 ◆5/w6WpxJOw :03/02/17 07:25 ID:???
とにかく、私は自分がそばにいるから大丈夫だということを繰り返し話しかける。
そして、「そこで待っているから」と言って脱衣所を出てドアを閉める。

何があったんだ・・・何が・・・?

紺野は以前にも風呂場で泣いたことがあった。・・・それは紺野が初めてこの家にやって来た日・・・。
その時は一人ぼっちになったことの淋しさと、新しい環境への不安から泣いたのだった。
しかし、今日はどうだろうか・・・。そこまで追い詰められているようには見えなかったし、
逆にいつもよりも楽しく過ごしているように見えた。

もしかしてそれは私の思い違いだったのだろうか?
紺野は今も不安ではちきれんばかりに悩んでいたのだろうか?

わからない・・・。

しかし、もしそうだとすると、私は紺野を迎え入れる側としては失格ということになる。
それまでは紺野をかわいい妹のように感じ、そして兄になったつもりで接してきたのだが、
それも自分の一人よがりだったのだろうか・・・。そんな不安をも覚える・・・。

と、ようやく脱衣所のドアが開き、パジャマに着替えた紺野が出てきた。
どうやら私に裸を見られたことは気にしていないらしい・・・。
もっとも、紺野はそれどころでは無いのだろう。・・・ブルブルと小刻みに震えている。
そして、「・・・こわいよー・・・こわいよー・・・」と言って私に抱きつく。

怖い?・・・何が怖いのだろうか?・・・幽霊でも見たのだろうか?

そんなことを考えながらも、私は優しく紺野を抱きとめる。
その紺野のぬくもりに、ふとさっきの紺野の裸が脳裏に浮かぶが、慌ててそれを吹き消す・・・。
そう、私にとって紺野は決してそうした欲望の対象ではないのだ。
そして、私にとって紺野は守るべき存在であり、紺野を守ってあげるのが今の私の役目なのだ!
144224 ◆5/w6WpxJOw :03/02/17 07:25 ID:???
しばらくして紺野も落ち着いたのか、ようやくすすり泣きが小さくなる。
そして私に抱きついたまま、ゆっくりと小さな声で泣いた理由について語りだした。

紺野が泣いた原因・・・それは保田だった。

いや・・・正確には、保田が持ってきたある物だった。
そして、その物のせいで紺野は泣いてしまったのだ。

それは風呂場に置いてあった・・・防水仕様のCDラジカセ・・・。
昨日、番組で貰ったとか言って保田がこの家に持ってきた物だ。

保田は「これで優雅なお風呂タイムが満喫できるわ」なんて言っていたが、
紺野にとっては優雅どころか最悪なお風呂タイムになってしまったというわけだ。

と言っても、もちろんそれはただのCDラジカセであって、それ自体は特に変わったものではない。
しかし、問題はそこに入っていた中身だった・・・。

・・・昨日、保田は早速そのCDラジカセを使うとかで、私の部屋で色々とCDを物色していた。
クラシックや70年代の洋楽、そして10年くらい前の邦楽のCDなんかが中心なのだが、
そんな中、保田が選んだのは意外なものだった。

山崎ハコの『ハコのお箱』・・・。

それは私のお気に入りのアルバムだった。
その暗くて悲壮感が漂う曲調が自分の性格に合っていたのだ。
145225 ◆5/w6WpxJOw :03/02/17 07:25 ID:???
そしてまた、そのアルバムを気に入っていたのは、その中にある曲が入っていたからだった。
ボーナストラックとして収録されていたその曲のタイトルは・・・『呪い』・・・という。

その曲はその暗い歌詞と曲調でそれなりに知られており、
また、以前24時間テレビで『ちびまる子ちゃん』のエンディングとして特別に流れたこともあった。

そして、紺野が泣いたのはこの曲が原因だった・・・。

紺野は風呂場にあったそのCDラジカセに興味を持ち、そして何気なくその再生ボタンを押したのだ。
しかし、ランダム設定になってあったこともあり、そこから最初に流れてきた曲は・・・。

 コンコン・・・コンコン・・・釘を刺す・・・
 藁の人形・・・血を流す・・・畳が下から・・・笑ってる・・・

そう、この・・・『呪い』・・・だったのだ。
そして紺野は怖くなって泣いてしまった・・・無理もない・・・。

そしてまた、紺野の恐怖心を更に煽ったのが、この「コンコン」という歌詞だった。

「コンコン」・・・それはすなわち、紺野のあだ名だ。
そして、その歌詞を聞いた紺野は、その曲が自分のことを歌っていると思ったのかもしれない。
突然流れた暗い曲から自分のあだ名が流れる・・・。それは紺野にとって最大の恐怖だっただろう。

紺野はすすり泣いたままだった。・・・まだ恐怖心が消えていないのだろう。
私は紺野が泣きやむまでずっとずっとその小さな体を抱きしめつづけた。

今日はこの家には私しかいない。そして、私にできることはそれくらいしか無かったのだ・・・。
146226 ◆5/w6WpxJOw :03/02/17 07:27 ID:???
どれくらい時間が経っただろうか・・・。
立ったままの体勢がそろそろ辛くなってきた頃、ようやく紺野のすすり泣きが聞こえなくなった。
そして紺野は弱々しい口調ながら「・・・もう・・・大丈夫です・・・」と言って私から離れる。

なんとか落ち着いたようだ・・・。
その様子にほっと一安心するも、しかし、まだ紺野は顔をこわばらせたままだ。
せっかく今日の紺野は、珍しく笑顔を絶やさなかったというのに・・・。

私は紺野をリビングに連れて行き、そしてテレビをつける。
こういう時はバカバカしい番組でも見るのが一番だろう。
しかし、紺野は泣きやんだものの、まだビクビクと怯えていた。

私は紺野を笑わせようと思い、笑いながら「今度、保田の奴ぶん殴っといてやるからな!」と言う。
しかし、それが本気だと思われたのか、紺野は「・・・保田さんは悪くないです・・・」と小さく呟く。
なんか、余計に沈ませてしまったようだ・・・。

それにしても、こういう場合、私は紺野に対して何をしてあげればいいのだろうか・・・。
そう考えた時、私は一つの作戦を思いついていた。

お菓子だな・・・。

私はそう考え、その作戦を実行しようと自分の部屋へと戻る。
が、その瞬間、紺野が「・・・どこ行くんですか・・・一人にしないでください・・・」と言って私の袖を引っ張る。

まいったな・・・。どうやら一人きりでいるのが怖いらしい・・・。
私は紺野を連れて自分の部屋へと戻る。
147227 ◆5/w6WpxJOw :03/02/17 07:28 ID:???
衣類が入っている収納ケースの下から二つ目を開ける。
そしてその中の一番上にたたんでしまってある服を取り出す。

と、紺野がその中を見て「あっ!」という声を出す。

その取り出した服の下には、たくさんのお酒やお菓子があったのだ。
そう、一番上の服はダミーで、その中身を隠すためのものだったのだ。

紺野は「お菓子がいっぱい・・・」と驚く。
私は「あははは・・・」と笑いながら「ほら、普通に置いとくとあいつに見つかっちゃうから・・・」と説明する。
それを聞いてようやく紺野から笑顔がこぼれる。

やっぱりこの子は笑顔が一番似合うな・・・。
せめてこの家にいるときくらい、私がその笑顔を守ってあげないと・・・。

私はそう思い、「何か食べたいのある?・・・どれでもいいよ!」と尋ねる。
しかし、紺野はうかない顔をして「私・・・お寿司いっぱい食べましたから・・・」と言う。
ただ、それはかなり無理をしているような感じだった。ダイエットでもしてるのだろうか?

私が「もしかしてダイエットとか気にしてる?」と尋ねると、紺野は黙って頷く。やっぱりか・・・。

うーん・・・せっかくの作戦だったんだけどな・・・。
しかし、紺野に笑顔を取り戻すにはこの作戦しか思いつかなかった。

私は「大丈夫大丈夫!少しくらい食べても変わんないって!」と言った後、
女性は少しくらいポッチャリしている方がかわいいという持論を話して紺野を説得する。
148228 ◆5/w6WpxJOw :03/02/17 07:28 ID:???
その話があまりにしつこかったせいか、あるいは私の熱意を受け取ってくれたのか、
はたまたそのお菓子を見ているうちに食べたくなったのか、紺野はようやく頷く。
そして、私が再び「どれでもいいよ!」と言うと、「これとこれ、それとこれとこれも」と言ってお菓子を取り出す。

おいおい・・・そんなに食べるのかよ・・・。
まあ、それで元気になってくれるのなら全然かまわないのだが・・・。

お菓子を山ほど抱えてリビングへ向かう。そして雑談をしながらそのお菓子を食べる。
あれほど泣いていた紺野も、お菓子のおかげでようやく元気を取り戻したようだ。

・・・。

お菓子も食べ終え、そろそろ寝る時間になる。
そして私は自分の部屋へ、そして紺野は姉の部屋へと向かう。
しかし・・・。

私が布団に入って寝ようとすると、ノックの音がして紺野が部屋に入ってきた。
その顔はまた再び泣き顔モードになっていた。

思わず声をかける。「どうした?・・・一人じゃ怖いのか?」
紺野は小さく頷く。そして紺野の次の言葉に私は全身を硬直させることになる。

「・・・一緒に寝てもらっても・・・いいですか?」

一緒に寝る・・・だって???
それは・・・そんなことはできない・・・できるはずがない・・・!!!
そう、鉄の掟云々以前に、それは私にとって絶対に越えてはならない一線なのだ!
149番組の途中ですが名無しです:03/02/17 12:47 ID:???
紺性!
150番組の途中ですが名無しです:03/02/17 17:21 ID:???
山崎ハコワラタ
151番組の途中ですが名無しです:03/02/17 21:42 ID:???
保全
152番組の途中ですが名無しです:03/02/18 04:12 ID:???

(AA略)
153 ◆5/w6WpxJOw :03/02/18 07:46 ID:???
>>149
専門用語?・・・と思ったらその通りでした。
でも私にとって紺野は妹のような存在ですから、ご安心を。
それにしても、各娘。の専門板(2ch外だけど)があるとは知らなかった・・・。

>紺性〔名〕紺野を性の対象として見るな。の略語
>活用語として「紺性派」(紺野を性の対象として見ず、妹のように見る派)がある。
>対義語として「非紺性派」(紺野を性の対象として抜きまくる派)がある。

>>150
光栄です。

>>151-152
保守どうもです。
154229 ◆5/w6WpxJOw :03/02/18 07:47 ID:???
私は紺野を言い聞かせ、一人で寝るように促す。
しかし、紺野はそれを受け入れない。どうしても一人じゃ寝れないと言って聞かないのだ。

まいったな・・・。

しかし、その紺野の目に浮かんだ涙を見て、私はそれを受け入れることに決めた。
この子を守れるのは今日は私しかいないのだ。そう、それは私の義務・・・そう思ったのだ。

姉の部屋から紺野の布団を運ぶ・・・。
しかし、スペースが狭いこともあって、二つの布団を敷くことはできなかった。
なんとか二つ並べようとして焦っている私を見て、紺野が言う。
「・・・一つでいいですよ・・・もーちゃんさんの隣に寝ます・・・」

と言われても、そっちは良くてもこっちは困るんだが・・・。
しかしまあ、どう頑張っても二つ並べるスペースは無いし、それも仕方が無いのかもしれない。
私は仕方なく紺野と一つの布団で寝ることになった・・・。
紺野が怖がっているため、明かりをつけたまま布団に入る。その左隣に紺野が入る。

・・・なんだか変な感じだ。すぐ隣に紺野の顔が見える。
恋人でもない女性・・・しかもまだ幼い少女が同じ布団で寝ているのだ・・・。
もちろん、何があるというわけではない。しかし、その状況に私はかなり緊張していた。

寝付けない・・・。しかし、それは紺野も同じだった。
と言っても、紺野の場合はその状況に緊張しているのではなかった。
ただ、あの風呂場の音楽がまだ頭の中に残っていたのだろう。

そして、紺野は再び泣いてしまった。「こわいよー・・・」と言って布団の中で私の手を握り締める。
それに対し、安心させようと思い私もその手を握り締める。
なんだか不思議な感じだったが、私はいつしか妹と一緒に寝ているような錯覚を覚えていた。
155230 ◆5/w6WpxJOw :03/02/18 07:48 ID:???
二人ともなかなか寝付けず、いつの間にか二人で話をしていた。

私が尋ねる。「そう言えば、この前のペンダント・・・ちゃんと渡せた?」
紺野は小さく頷いたものの、戸惑ったような顔をして「うん・・・でも・・・」と言ったまま黙ってしまった。
・・・どうやら渡したものの、うまくいかなかったようだ。

ペンダント・・・それは今年になって初めて紺野が来た時のことだった。
姉と私と三人で初詣に行った紺野は、その神社の境内の出店に夢中になっていた。
たこ焼きを食べ、ピカチュウのワッフルを食べ・・・と、とにかくはしゃいでいた。
そして、その後、紺野はある一つの店の前で真剣に何かを見ていた。
それはいかにもインチキっぽいアクセサリーの出店・・・たまに道路脇などで見かけるあれである。
なぜ初詣の神社の境内に店を出しているのかはわからないが、まあ、便乗ということなのだろう。

そこには「幸せになれるペンダント」「願いが叶うアクセサリー」などと言った説明がついていたが、
そんなので幸せになれるのならば誰も苦労はしないだろ・・・などとついつい思ってしまう。
それに、それを売っているあんちゃんの顔自体、どう見ても幸せそうには見えないのだ。
しかし、女の子にとってはそういうことも大きな意味を持つらしい。
姉も「あらかわいらしい・・・」と言って、色々とそれらの品々を物色していた。

そのたくさん並べてあるアクセサリーの中で、紺野は一つのペンダントを見つめていた。
それは二つ一組のペアのペンダントで、「好きな人と気持ちが通じ合えるペンダント」と書いてあった。
紺野はそれを気に入ったらしい。その様子を見た姉が紺野にそれを買ってあげると言うと、
紺野はそれを断り、そして自分でそれを買うと言った。そして・・・。

「わたし・・・自分で買いたいんです。・・・そして・・・好きな人に渡したいんです!」

・・・!
156231 ◆5/w6WpxJOw :03/02/18 07:48 ID:???
その「好きな人」というのが誰なのかはわからない・・・。
しかし、その紺野のはっきりした言葉で、紺野がその人のことを本気で好きということがわかった。
それを聞いた姉は微笑みながら紺野をからかい、紺野は頬を赤く染めながら照れていた。

・・・そんな光景を思い出す。あの時の紺野の照れた顔は多分一生忘れないだろう。
それは美しいほど素直に輝いた、恋をしている時の少女の顔だった。

・・・。

しかし、その時の顔とは裏腹に、今の紺野の顔はかなり沈んでいた。
もちろん、さっきの音楽の件にもよるのだろうが、ただ、それだけが理由ではないようだった。
そう、紺野は恋に悩んでいたのだ・・・。

紺野が淋しそうに話す。
「・・・その人、どっか行っちゃったんです・・・何も言わずに・・・いなくなっちゃったんです・・・」

紺野は更に続ける。私はウンウンと頷きながらそれを聞く。
よっぽどその人のことが好きだったらしい。そしてまた、その人がいなくなったことがショックだったらしい。

私は、今日一日紺野が笑顔でいながらも、心の中でそのような辛い思いをしていたことを初めて知った。
そしてそのことに全く気づかなかった自分を恥じた。

私はまだ紺野のことを何一つわかっていなかったようだ・・・。

なんとか紺野を励まそうと思い、あえて明るい口調で話しかける。
「でもさ・・・ペンダント、その人にちゃんと渡したんだろ?」
紺野はコクリと頷く。
「だったらさ・・・紺野の気持ちはちゃんと伝わったと思うよ!」
紺野は再びコクリと頷く。そして私は更に続ける。
「それで十分だよ!こういうのは気持ちを伝えるってことが一番大切なんだから!」

そう・・・それが例え実らない恋だとしても、その気持ちを伝えること、それが一番大切なことなのだ。
157232 ◆5/w6WpxJOw :03/02/18 07:48 ID:???
と、それを聞いた紺野が私に向かって尋ねる。
そして、その言葉に私はすっかり動転してしまったのだった。

「・・・もーちゃんさんも伝えたんですか?・・・保田さんに・・・気持ち・・・」

・・・!

まさか紺野からそう言われるとは・・・思いもよらなかったことだった。

私はしばらく間を置いてから、「ああ・・・気が向いたらな・・・」と言って話をはぐらかす。
しかし紺野は真剣な目をして、「駄目ですよ・・・ちゃんと伝えないと」と言う。
いつのまにか立場が逆転していた。そして話は私と保田のことになっていた。

紺野にとって保田は先輩後輩を越えて、かなり大切な存在らしい・・・。紺野の話によってそれが痛いほどわかった。
そしてまた、私が気持ちを伝えずにいること、そして何かに迷っていることを感じ取っていたようだった。
それが紺野の女の勘なのか、それとも私の行動がわかりやすいだけなのかはわからないが、
とにかく、紺野は私と保田の仲を気にしていた・・・。

しばらくそんな話をしているうちに、いつしか紺野の声が聞こえなくなった。
ふと隣を見ると、紺野はすやすやと寝息を立てていた。その寝顔を見て、私はほっと一安心する。
あれほど泣いていたというのに、その寝顔はまるで天使のようだった・・・。

私はそっと布団から出て、そして明かりを消してリビングへと向かう。
やっぱりどのような事情があるにせよ、紺野と一つの布団で寝ることはできない・・・。
何があるなしに関わらず、それは絶対に許されない行為なのだ。
私にとって紺野は保田と同じく大切な・・・そう、大切な存在なのだから・・・。

そしてリビングのソファで眠りにつこうとした時に、ふと思いつく。
狭い部屋にわざわざ二つの布団を敷かなくても、姉の部屋で私が寝ればよかったのだと・・・。
そう、そこにはベッドもあり、そして下に布団を敷くスペースも十分にあったのだから・・・。
158233 ◆5/w6WpxJOw :03/02/18 07:49 ID:???
翌朝、私はリビングのソファで目を覚ます。
そしてそっと自分の部屋へ戻ると、素早く着替えて仕事へと向かう。

・・・。

仕事を終え、いつもの公園で一服する。
しかし、いつまで経っても紺野はやって来なかった。
もしかすると、目が覚めて私がいないことでまた泣いているのかもしれない。
そう思い、慌てて家へと戻る。

そして玄関を開ける。・・・と、そこには鬼が待っていた。
いや、本当の鬼ではなく、鬼のような形相をした保田だった。

なんでお前がいるんだよ・・・?

そう思ったものの、事態はそれ以上に深刻だった。
彼女は一言、「最低!」と言うと、いきなり私の頬を思いっきり平手打ちした。

パシッ!

なんで・・・?

私は何が起こっているのかさっぱり把握できなかった。
そんな私を見て、彼女は「フン!」と言ってリビングへと消えていった。

しばらくその場に呆然と立ち尽くした後、私はようやく彼女が怒っている理由を理解した。
それはそう・・・完全な誤解だった。
159234 ◆5/w6WpxJOw :03/02/18 07:49 ID:???
リビングに入る。・・・保田は台所で朝御飯を作っていた。
さきほどの鬼のような形相とは違って無表情だったが、それが逆に怖かった。
そして、それとは対照的に、リビングのソファには申し訳無さそうな顔をした紺野がちょこんと座っていた。

私は紺野に近づき、そして小さな声で「・・・保田・・・どうした?」と尋ねる。
しかし、紺野はただ黙って首を横に振るだけだった。
どうやら紺野もかなり搾られた後だったようだ。

私は台所の保田のところへ行き、何度もそれが誤解だということを伝える。
しかし、彼女は黙ったまま私の話を聞こうとしなかった。
その態度に私は段々イライラしてきた。そしてまた、彼女のツンとした表情がそれを加速させた。
私は彼女の腕を掴むと、「ちょっと来て!」と言って無理やり自分の部屋へと連れて行く。

彼女は黙ったままだった。そして軽蔑するような目で私を見てくる。

私は何度もそれが誤解だということを説明した。
紺野が保田の持ってきたCDラジカセのせいで号泣してしまったこと。
そして一人では怖くて寝れないと言って紺野が部屋へ来たこと。
そして最初は一緒に布団に入ったものの、結局リビングのソファで寝たことなど・・・。
ただし、もちろん姉の部屋で寝ればよかったなどということは言わないでおいた。

しかし、何を言っても彼女の表情は変わらなかった。
もしかすると、すでにそのことは紺野からも聞いていたのかもしれない。
そしてまた、何もなかったこともわかっていたに違いない。
しかし、彼女はそれはわかっていても、怒りを抑えることができないようだった。

そんな素直じゃない彼女を見て、私の腹立ちはますます大きくなっていった。
そして、私は怒りながらある言葉を伝えていた。それはある意味、逆切れのような感じだった。
そしてまた、それは怒りながら言う言葉ではなかった。

「俺はお前が好きだ!お前だけが好きだ!だから信じてくれ!」
160235 ◆5/w6WpxJOw :03/02/18 07:49 ID:???
食卓に座って三人で朝御飯を食べる。
本当は私が作るはずだったのだが、母と姉が留守ということで保田が気を利かせてくれたのだ。

そして、それは不思議な食卓だった。
本来、この家にいるはずのない三人が食卓を囲み、朝御飯を食べているのだから・・・。

朝御飯を食べ終え、しばらくしてから保田と紺野は家を出て行った。

それにしても・・・なんとも奇妙な朝だった。
私は彼女から叩かれた頬に手を当て、そして朝あったことを思い浮かべる。
これもいつかは笑い話になるんだろうな・・・そんなことを考える。

・・・。

保田は今朝、本当はこの家に来るつもりは無かったらしい・・・。
昨夜は深夜までこちらで仕事があり、そして用意されていたホテルに泊まっていたのだ。
しかし、母と姉がいないということで、紺野のことが心配になったらしい。
それはまた、紺野が恋に悩んでいることを知っていたからかもしれない。
そして彼女は朝一番にうちへとやって来たのだ。
しかし、そこで見たものは・・・私の部屋で・・・それも私の布団で寝ていた紺野の姿だった。
そこで彼女は思ったのだろう。母と姉がいないのをいいことに私が・・・。

状況証拠は揃っていた。・・・しかし、それはあくまでも状況証拠に過ぎない。
紺野の話を聞き、彼女も何が起こったかは理解していたはずだ。
しかし、そうは言ってもそれはそう簡単に納得できるものではなかったのだ。
だから私を叩いて落ち着こうとしたのだろう。私にとってはいい迷惑なのだが・・・。

しかし、私の最後の言葉で彼女はようやく怒りを解き、
そしてまた、その怒りが嘘だったかのような満足そうな笑みを浮かべたのだった。
161番組の途中ですが名無しです:03/02/18 18:16 ID:???
162番組の途中ですが名無しです:03/02/18 21:15 ID:???
シリーズ揃えage委員会 
163 ◆5/w6WpxJOw :03/02/19 00:23 ID:???
少し早いですが、朝の分をうpします。

>>161
俣・・・どうもです。
>>162
ご苦労さまです。
164236 ◆5/w6WpxJOw :03/02/19 00:23 ID:???
2月初め

姉から東京の事務所に移籍する話を承諾したという話を聞く。
どうやら4月からは東京で暮らすことになるらしい。
それは私にとっては少し淋しいことだったが、姉の幸せのためと思い、それを納得する。
もっとも、姉に移籍を勧めたのは私自身ということもあるのだが・・・。

そんな姉とともに、母も何やら毎日を忙しそうに過ごしていた。
その理由はわからなかったが、何か生き甲斐を見つけたような、そんな感じだった。

そんな二人とは違い、一方の私はと言うと、今までと変わらぬ退屈な毎日を過ごしていた。
もちろん朝の新聞配達はこなしているが、昼はぼーっと過ごすことが多かったのだ。
せめて保田と紺野がいれば別なのだが、二人が来るのは一週間に一度くらいに過ぎない。

そして、そんな退屈な日々を過ごしながらふと考える。
私にとって、その二人はすでに私の生活の一部になっていたのだと・・・。
そう、私はいつのまにか保田と紺野の二人を必要としていたのだ。

そんな退屈な日々を紛らわそうと、最近は苦手な街中へと繰り出すことも多い。
元々私は都会の喧騒や人込みが嫌いだった・・・。それは小さい頃から変わらない。
ベルトコンベアーで運ばれているような人の波・・・アリの巣のような地下街・・・。
そんな光景を見て、いつか自分もそこに組み込まれるのだろうかといった不安があった。
そして、いつしか私もその光景に溶け込んでいた・・・。しかし、結局私はそこから逃げ出してしまった。

この家に帰ってきた時に保田から言われた「負け犬」という言葉が脳裏に響く。
私は所詮、負け犬なのだろうか・・・。そう思うと、なんだか自分が酷く情けないように思え、そして更に自信を失ってしまう。

このままでいいのだろうか・・・。そういう不安があった。そして、そんなことを考えながら、私は街中を歩いていた。
それはもしかすると、私が元の場所に戻りたがっていたからなのかもしれない・・・。
そう、スーツを着込んで颯爽と歩く昔の自分に・・・。
165237 ◆5/w6WpxJOw :03/02/19 00:24 ID:???
その日は街中をぶらぶらと散策し、そして色んなビルに上って、そこから下界を見下ろしていた。
それまで暇な時は、市内の図書館を巡ったり、商店街を巡り歩いたりと、まあ、
自由気ままに市内を散策して楽しんでいたのだが、今回はふと街中を見下ろしてみたいと思ったのだ。
ただし、元々私は高い所が苦手だった。外が見えるエレベーターなどは足が震えたりしたものだ。
しかし、そんな私も、いつしかそのエレベーターから見える景色を楽しめるようになっていた。
それが成長なのか慣れなのかはわからない。・・・ただ、そうやっていつの間にか大人になったのだろうと思う。

その日私が上ったビルは、駅前にある27階建てのビルの最上階だった。
そこから北側を眺める。・・・遠くに小高い山々が見え、その手前に延々と住宅街が広がる。
その前には大きな川が流れており、そしてその手前には貨物列車の操車場が見える。
まあ北側から見える景色はこんなものだろう・・・。

そう思い、今度は南側の展望ラウンジに移動する。
・・・と、そこの光景を見て愕然とする。いや、一種の恐怖を覚えたと言った方がいいのかもしれない。

そこには狭いスペースに軽く百人を超える人間がひしめきあっていたのだ。

なんだ?・・・何があったんだ?

その人たちは不思議な集団だった。私と同じくらいの年齢の人間が多かったが、年齢にはかなりばらつきがあった。
男性が多かったが女性もいる。つまり、年齢も性別もバラバラで統一感が無かったのだ。
そして何より、なぜか手にはよく駄菓子屋で売っているお菓子を握っていた。

この人たちは・・・何者なのだろうか?・・・そして何をしているのだろうか?

誰かに尋ねてみたい気もしたが、それはやめておいた。
皆一様に南側の窓にへばりついて何かを見ている。それは何かを待っているようだった。
それがどういった集団なのかはわからなかったが、私もその一番端から同じように外の景色を眺める。
166238 ◆5/w6WpxJOw :03/02/19 00:24 ID:???
と、一瞬その場が静まり、そして次の瞬間、突然大きな笑いと歓声が上がる。
ある人は「キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━!!!!」と叫び、ある人は拍手をしていた。

あわてて窓の外の景色を探す。・・・何かが起こったはずだ・・・。
私の視線は慌ててそこから見えるビル街やその下に見える道路、そして遠くの景色などを彷徨う。
そして、ようやく彼らが騒いでいる原因を見つけた。

そこからすぐ真正面に見える円筒形でオレンジ色の建物・・・。
一般にマルビルと呼ばれているその建物の最上部にある電光掲示板・・・そこに流れていた文字だった。

 「博之さん1時デス」 「博之さん1時デス」 「博之さん1時デス」

その文字がぐるぐると回り、そのたびになぜかその場が盛り上がる。
・・・博之さん?・・・それは誰のことだろうか?

しばらくすると、その流れていた文字が消え、そして次の新しい文字列が流れる。
その文字列に更なるどよめきが起きる。・・・しかし、それはおかしな日本語だった。

 「只今(゜A゜)ウマーOFF会を開催中でつ。おまいら、うまい棒を持って集合汁。」

なんなんだこれは?
・・・(゜A゜)?・・・ウマー?・・・でつ?・・・おまいら?・・・うまい棒?・・・集合汁?

わけがわからない。しかし、一つだけわかったことは、
その場にいた私を除く全員がそれを待ち望んでいたということだった。

私は意味がわからず、とりあえずその場から立ち去ることにした。
そんな私の後ろで、再びさっきと同じ文字列が流れていた・・・。

 「只今(゜A゜)ウマーOFF会を開催中でつ。おまいら、うまい棒を持って集合汁。」
167239 ◆5/w6WpxJOw :03/02/19 00:24 ID:???
家に戻る。と、玄関に珍しく男物の靴があった。
誰か来客だろうか?

そっとリビングのドアへ近づき、ドアのガラスの部分から中を覗く。
が、見えたのはソファに座っている男性の後姿だけだった。
髪の毛は金色で、うちの家族とは少し不釣合いな感じがする。
ただ、そこからはその男性の顔を見ることまではできなかった。

ドア越しに話し声が聞こえてくる。せめて話くらいなら・・・と、私はドアに耳を近づける。
話しているのは、母とその男性・・・。その男性は大阪弁を話していた。
はっきりとは聞き取れなかったが、その男性は母のことを「先生」と呼んでいるようだった。
と言うことは、母の昔の教え子だろうか・・・。

よくわからなかったが、私はそのまま部屋へと戻る。

その人物がかなりの大人物であること・・・。
そしてその人物と母との関係がこの家の全ての出来事の始まりであったことに気づかないまま・・・。

・・・。

しばらく保田と紺野は来なかったものの、一週間後、ようやく保田が来る。
その姿を見て、私は心の底から喜びが湧き上がるのを感じる。
そして、自分が彼女の存在を本当に必要としていることを改めて知る。

私にとって、彼女はそれほど大きな存在になっていたのだ。
168240 ◆5/w6WpxJOw :03/02/19 00:25 ID:???
そんな中、彼女はとんでもない事を口走る。
「ねえ、この前つんくさん来たでしょ?・・・もーちゃん、ちゃんと挨拶した?」

はあ?・・・つんくがうちに?

そんなわけがな・・・???

ま、まさか・・・!!!

・・・。

その瞬間、私は全てのことを悟った・・・。

先週うちに来た人物・・・あれがつんくだったのだ。
そしてまた、それは全ての謎を解決する鍵でもあった。

この家に保田がやって来るようになった理由・・・この家が選ばれた理由・・・その答えは母にあったのだ!

つんくは母の教え子だった。そして、それがきっかけでこの家に保田が来ることになったのだ。
そしてまた、それには姉の存在も深く関わっていた・・・。

モーニング娘。の最初の追加メンバーとしてうちの姉が候補として挙がった時、
つんくは、その母親が自分が昔お世話になった先生だということを知ったのだ・・・。
結局、姉はモーニング娘。には加入しなかったものの、つんくの頭の中にはそれが残っていたのだろう。

そして、うちの父が死んだことで母が悲嘆に暮れていることを知り、
そして・・・そのために・・・その母の悲しみを紛らわすために・・・保田を来るようにさせたのだろう。
もちろん、保田にも一人になれる環境が必要だったこともあるのだろうが・・・。
169241 ◆5/w6WpxJOw :03/02/19 00:25 ID:???
更に一週間が過ぎ、今度は紺野が来る。
紺野は私にチョコを渡す。そう、少し過ぎてしまったものの、それはバレンタインデーのチョコだった。
そして、それは近くに知り合いのいない私が貰った今年唯一のチョコだった。

本来ならば、気を利かせた姉や母からチョコを貰ったりするのだろうが、
もてない私にとっては、家族から貰うチョコというのは屈辱以外の何物でもない。
そう、家族から貰うチョコは敗者の証に過ぎないのだ。
そして、そのことで昔、母と姉のチョコにイチャモンをつけたことがあった。
まあ、今思えばそれはもてない男のひがみ・・・そして、まだ私が若かったというだけのことなのだが。
それ以来、姉も母もその私の思考を知っているため、その日は私をあえて素通りするのだった。

それにしても、例え義理チョコとは言え、こんなにかわいい子から貰うというのは嬉しいものだ。
私の顔はいつのまにかほころんでいた。・・・しかし、それとともに一つの疑問も浮かぶ。

保田は俺にチョコをくれるのだろうか・・・?

先週彼女が来た時はまだバレンタインデーの前だったこともあって何もなかったが、
次に来る時はどうなんだろうか・・・。期待とともに不安がよぎる・・・。

そんなことを考えていると、紺野が浮かなそうな顔で私に話しかける。
「あのぉ・・・保田さんのことなんですけど・・・」

ん?・・・保田がどうしたのだろうか?

「あいつがどうかした?」と尋ねると、紺野は気まずそうに答える。
「多分・・・もーちゃんさん・・・チョコ貰えないと思いますよ・・・」

・・・???
170242 ◆5/w6WpxJOw :03/02/19 00:25 ID:???
私の中で不安な気持ちが広がる・・・。
それまで私が彼女のことを好きなように、彼女も私のことを好きでいてくれていると思っていた。
そしてその状況に安心していたのだ。・・・しかし、そうではなかったのだろうか?
いや、もしかすると、まだあの紺野との一件を根に持っているのだろうか?

そんな私の心配をよそに、紺野は話を続ける。
「保田さんが言ってたんですけど・・・保田さん・・・バレンタインのチョコは戦略だって言うんです・・・」
「戦略?」
「はい・・・なんかチョコは男をゲットするための戦略だって・・・」
「・・・」
「それで・・・そのぉ・・・すでに手に入りそうな男の人には渡さないとかで・・・」

そう言うと紺野は再び気まずそうな表情を浮かべる。
・・・手に入りそうな男というのは、もちろん私のことだろう。
その言葉は、紺野にとってかなり言いにくい言葉だったようだ。

つまり、保田にとってバレンタインデーのチョコは男をゲットするための餌なのだ。
そしてその餌は、すでに手中にある男、手に入りそうな男には必要無い・・・そういうことなのだろう。
そして、先月末に私が彼女に告げた言葉で、彼女は私にはチョコは必要ないと判断したのかもしれない。

しかし、紺野がそう告げたのは、紺野が私のことを、そして私と保田との仲を気にしてくれているということでもあった。
私が笑いながら「あははは・・・あいつらしいな・・・」と言うと、
紺野は「もーちゃんさん・・・無理してませんか?」と訊いてくる。

紺野・・・鋭いな・・・。
なんか最近、紺野に私の心が読まれているような気がする・・・。

「あはは・・・大丈夫だって!ほら、チョコ貰わないなんて毎年のことだし!」

その言葉に紺野は哀れみの表情を浮かべる。

・・・おいおい、それ冗談のつもりなんだけど・・・。
171番組の途中ですが名無しです:03/02/19 03:57 ID:???
うまい棒禿しくワロタ
172番組の途中ですが名無しです:03/02/19 09:50 ID:???
ハッケソしました!

【関西】大阪マルビルに(゚д゚)ウマーを出すOFF
http://life2.2ch.net/test/read.cgi/offreg/1043075025/-100
173番組の途中ですが名無しです:03/02/20 01:05 ID:???
174番組の途中ですが名無しです:03/02/20 04:31 ID:???
うまい棒(゚д゚)ウマー
175 ◆5/w6WpxJOw :03/02/20 07:33 ID:???
>>171
それはどうもです。
>>172
そんなオフがあったんですね・・・と、とぼけてみたり。
>>173
保守ご苦労様です。
>>174
うまい棒人気だな・・・。
176243 ◆5/w6WpxJOw :03/02/20 07:34 ID:???
翌朝

早朝の新聞配達を終えて、いつもの公園へと向かう。
と、公園には私より早く紺野の姿があった。

一生懸命、鉄棒の前で何かしている。
そして次の瞬間、紺野は足から鉄棒をぐるりとまわって着地する。
紺野は嬉しそうにその場にたたずんでいた。
そして、公園に入ってきた私に気づいて、嬉しそうに手を振る。

「もーちゃんさん!・・・できました!・・・私・・・まわれました!」

そんな嬉しそうな紺野を見て、私もその嬉しさを共感していた。

鉄棒・・・その話は去年に遡る・・・。
それは紺野がまだこの家に馴染めていなかった頃のことだ・・・。

私は紺野と早朝の公園で会い、そこで紺野と話をするようになった。
その話は仕事の悩みだったり、ささいな雑談だったりしたのだが、
そんなことを繰り返すうちに、いつしか私は紺野と打ち解け始めていた。

そして、ある時、私は紺野を待つ間、その公園にある鉄棒で遊んでいた。
鉄棒で遊ぶなんてことは小学生の頃以来だったが、それはかなり懐かしいものだった。
そして、その鉄棒が低く、また、自分の体が大きくなったせいもあり、それは結構難しいものでもあった。
177244 ◆5/w6WpxJOw :03/02/20 07:34 ID:???
その後、少し遅れて紺野が公園に姿を見せた。
紺野は私が鉄棒で遊んでいるのを不思議そうな顔で見ていた。
そんな紺野に対して、私は「紺野もやらないか?」と誘う。
しかし、紺野は「鉄棒・・・苦手なんです・・・」と言って鉄棒に近づこうともしなかった。

その後、ベンチに座って紺野の話を聞く。・・・紺野は歌が苦手で、もう歌いたくないとまで言っていた。
そんな紺野に対して、私は少しきつい口調で言った。
「最初から逃げてたらできるものもできなくなるよ・・・」と。
そしてまた、「どんな結果になろうと、それを克服しようっていう姿勢が大切なんだよ・・・」とも。

紺野はただ黙ってその私の話を聞いていた。
そしてその次に紺野が家に来た時、紺野は早朝の公園で一人鉄棒を練習していた・・・。

そんな姿を見て、私は紺野のことを頑張り屋さんだなあと思い始めたのだ。

そしてまた、そんな紺野の頑張る姿を見て、私の中にはまた新たな焦りが生まれていた。
しかし、その焦りを解決しようと考えるだけ逆に焦りは増していき、私は自分自身を根本から見つめ直そうと決心したのだ。
そう、それが私が年末に昔の自分の部屋へ戻った一番の理由だったのだ。

・・・。

あれから二ヶ月経っているとはいえ、紺野がここで鉄棒を練習する機会はそんなに多くない。
そして、そんな短い期間で苦手な鉄棒を克服した紺野を見て、私はなぜか、
自分一人だけがそこに置いていかれたように感じていた。

そして、その焦りは紺野だけが理由ではなかった。
そう、確かにその家の中で、私一人だけが立ち止まっていたのだ。
178245 ◆5/w6WpxJOw :03/02/20 07:35 ID:???
2月に入ってからの紺野は、新メンバーの加入が決まったことで不安な表情を見せることが多くなっていた。
しかし、紺野はその不安を払拭しようと毎日を一生懸命に過ごしていた。鉄棒がそのいい例かもしれない。

そんな頑張っている紺野の姿を見て、姉が私に話す・・・。
それは保田がこの家に来た頃のことだった。

この家に来た頃の保田は、毎日泣いてばかりだったと言う。それは以前にも聞いたことだった。
今の彼女からは想像もできない姿だが、当時の彼女は今以上に様々なことに悩んでいたのだ。
しかし、彼女は前向きにその悩みと立ち向かい、そしてそれを克服したのだった。
そして、そんな彼女の成長が、今の紺野の姿に重なって見えるのだと姉は言う・・・。

もしかすると、保田は紺野の悩む姿を見て、それに自分を重ね合わせていたのかもしれない。
そして、そのために紺野をこの家に連れて来たのかもしれない・・・。

そんなことを考えながら姉の話を聞く。・・・それは姉が以前、保田から聞いたという話だった。

彼女はモーニング娘。に第二次メンバーとして加入した。
しかし、そこで待っていたのは、当初からいたメンバーとの確執だったと言う。
そのメンバーから見れば、自分たちで勝ち取ったデビューという栄光を、
後からやって来た素性も知らない者たちに掠め取られたといった思いがあったのだろう・・・。

しかし、そんな確執も仕事の忙しさによっていつしか自然に消え去っていった。
モーニング娘。は一躍人気グループとなり、そして次第に結束と信頼、そして友情が芽生えていた。
しかし、そんなメンバーたちとは違い、彼女は自分一人だけが取り残されたように感じていたのだ。

自分は何をしているのだろう・・・。
そして何をしようとしているのだろう・・・。
そして何をするべきなのだろう・・・と。
179246 ◆5/w6WpxJOw :03/02/20 07:35 ID:???
それは漠然とした不安だった。
そしてまた、彼女はグループの中での自分の位置、そして自分の役割が把握できないでいたのだ。

その思いは徐々に増し、そして彼女はメンバーの中にいながらも孤独を感じるようになっていた。
そんな時、その彼女の様子を心配したつんくが、彼女のためだけの家を特別に用意したのだ。
もちろん、東京にも娘。たちが集まる憩いの部屋はあるが、
その時の彼女の状態では、それでは逆効果だと考えたのだろう。

なぜ彼女にだけ特別な扱いをしたのかはわからないが、もしかすると、
彼女の存在が娘。を大きく成長させてくれる・・・そんな期待があったのかもしれない。

・・・彼女はこの家に来るようになり、そして、自分という存在を一人静かに見つめ続けた。
その結果、彼女は自分の役割、そして自分の目標を見つけ、
そして現在のようなモーニング娘。を陰から支える必要不可欠な存在へと成長したのだ。

しかし、彼女がここまで成長したのには理由があった。
それはそう、追加メンバーの存在・・・。

彼女がこの家に来始めたのは、ちょうど第三次メンバーとして後藤真希が娘。に加入した頃だったらしい。
しかし、保田いわく、その後藤という子はかなりの問題児だったらしい・・・。
挨拶もできず、先輩に対しての接し方も尋常ではなく、そして仕事への熱意が全く見られない。
そんな後藤の加入によって、娘。の結束は次第に薄れようとしていた・・・。

保田はそのことでかなり悩んでいたらしい。・・・しかし、彼女はそれを無事に乗り越えた。
そして、それを乗り越えたことによって彼女は一回りも二回りも大きく成長を遂げていた。

そしてまた、それどころか彼女はその娘。崩壊の危機を逆にプラスに好転させ、
娘。自体の結束力をもそれまで以上に強いものへと変えたのだった。

それはそう、つんくが期待していたまさにその通りの結果であった。
180247 ◆5/w6WpxJOw :03/02/20 07:36 ID:???
この保田の努力によって、メンバーの誰もが彼女に信頼を寄せるようになった。
そしてまた、保田もその信頼によって自信を取り戻し、そしてそれが更なる信頼へと結びついていったのだ。
その後、第四次、第五次と追加メンバーが加わるも、
彼女によって深められた結束力は少しも揺らぐことなく、そして更なる発展を遂げたのだ。

しかし・・・そんな保田も春には娘。を卒業してしまう。
彼女も、その自分が抜けた後の娘。がどうなるか、心配だったのだろう。
そのため、彼女は本当は後藤真希と一緒に卒業するはずだったのだが、
その予定を延ばしてもらい、卒業までの間に娘。の結束を更に深めようとしていたのだ。

そしてまた、自分がいなくなった後のためにと、紺野を鍛えようと考えたのかもしれない。
保田と違って紺野はまだ幼く、そしていつも泣いてばかりいて頼りないのだが、
しかし、そんな紺野の中に、何か感じるものがあったのだろう・・・。

それがそう・・・紺野の頑張り屋さんの性格・・・。

彼女は紺野のその底力に気づき、そして自分の後を任せようと考えたのかもしれない。
彼女自身も最初は泣いてばかりいて、そして自分に自信が持てなかったことを思い出し、
・・・そして紺野を自分のように成長させるために・・・そのためにこの家に・・・。
ただ、彼女の中には紺野を鍛えたいという思いとともに、紺野がその頑張りで潰れないようにとの思いもあったのだろう。
そんなことから、彼女は私に何度も紺野を頑張らせないようにと忠告したのかもしれない。

・・・姉の話を聞き、改めて保田のそれまでの姿を思い浮かべる。
そしてまた、それに応えようとする紺野の頑張る姿も・・・。

しかし・・・しかし、それに比べて自分はどうだろうか。
自分は彼女たちに比べ、何の努力もしていないのではないか。
・・・いつしか、そんな不安が私の頭の中でいっぱいになっていた・・・。
181 ◆5/w6WpxJOw :03/02/20 07:44 ID:???
いよいよクライマックス編に突入です。

私の中に芽生えた焦りはいったいどうなるのか・・・。
そして私と保田との仲にはどのような展開が待っているのか・・・。
これは夢か・・・幻か・・・それとも・・・。

明後日いよいよ最終回!
乞うご期待!
182番組の途中ですが名無しです:03/02/20 13:08 ID:???
最終回ですか
楽しみなような寂しいような・・・
更新がんがってくらはい
183番組の途中ですが名無しです:03/02/20 21:13 ID:???
あげ
184番組の途中ですが名無しです:03/02/21 02:02 ID:???
185 ◆5/w6WpxJOw :03/02/21 07:23 ID:???
>>182
楽しんでもらえると嬉しいです。
でも寂しくはさせません・・・その理由は(自主規制
>>183-184
保守ありがとうございます。
186248 ◆5/w6WpxJOw :03/02/21 07:23 ID:???
いつも通りの生活・・・。
しかし、そんな生活も、私には何かいつもとは違うように思えてしまう。

母、姉、保田、紺野・・・それぞれが自分の進む道を見つけ、その道に向かって進んでいたのだ。

母は紺野の世話をするうちに昔の教師生活を思い出したらしい。
どうやら復職を考えて、毎日色々と勉強に励んでいる様子だった。
母ももう年とは言え、まだまだ十分に働ける年齢だ。
それに、その影響によるのだろうか、最近はいつも以上に生き生きとしていた。

姉は東京の事務所からのスカウトを承諾し、そのための打ち合わせで大忙しだ。
気が早いことに、どうやらすでにCM出演なども決まっているらしい。
それはそれで嬉しい反面、姉がどこかへ行ってしまうようで少し寂しい気もする。

紺野は自分のやりたいことを見つけ、その目標に向けて邁進している。
この家に来始めた頃とは違い、顔つきもりりしくなり、なんだか輝いてみえる。
その姿を見て、本当に頑張り屋さんだなあとつくづく感心させられる。
苦手な鉄棒を見事に克服したくらいだ。紺野ならきっとその夢を叶えることができるだろう。

そして保田はモーニング娘。卒業後の自分の方向性を見つけるため、
歌に演技にバラエティにと、試行錯誤を繰り返している。
あれほど悩んでいた淋しそうな表情も、最近ではあまり見かけなくなった。
187249 ◆5/w6WpxJOw :03/02/21 07:24 ID:???
そんな中、私一人だけが立ち止まっていた・・・。
何をすべきなのか・・・。いや、何をしたいのか・・・。
時間だけが無駄に過ぎていき、再び自分の存在意義を考えてしまう。
歯車は・・・私だけが止まったままだ・・・。

新しい世界に向けて家中が動き出したと言うのに、私だけが取り残されている・・・。
思えば仕事をやめてから色々なことがあった。
しかし、結局、今思えばそれは単なる幻だったのかもしれないと思えてくる。

心にぽっかりと開いた穴・・・。

その穴は、家族の中にいても、そして保田と一緒にいても、決して満たされることは無かった。
いや、確かにその穴は満たされたように見えた・・・。しかし、それは一時凌ぎに過ぎなかったのだ。
彼女が私の前からいなくなってしまえば、その穴はまた元通りに戻ってしまう。
そしてまた、その穴は以前よりも深く深く・・・心の奥底まで広がっていく・・・。

結局、保田の存在はその心の穴を埋めるどころか、逆に大きく広げる結果となっていたのだ。
そしてまた、そのこと以上に不安なことがあった。

それはそう・・・彼女が卒業してこの家からいなくなった後のこと・・・。

その時私は・・・私の心の穴は・・・。

・・・。

それがどういう結果になるかはわからない。しかし、その時は必ず訪れるのだ。
私がそれを望んでいなくても・・・そしてまた、彼女がそれを望んでいなくても・・・。
188250 ◆5/w6WpxJOw :03/02/21 07:24 ID:???
数日後・・・

昼過ぎに保田が来る。いつもと同じ明るい笑顔だが、どことなく淋しげにも見える。
何かあったのだろうか・・・。そう心配するものの、彼女にはすでに私の存在は必要ないのかもしれない。

彼女はすでに厳しい現実に直面し、それを乗り越えようとひたすら努力していた。
そこに私の付け入る余地は無い・・・。私の存在など、彼女には必要なかったのかもしれない。

しかし、私の方は彼女の存在を必要としていた。私はすでに彼女なしでは生きていけないのだ。
それくらい、彼女の存在は私の心の中で大きな比重を占めていた・・・。
ただ、それは決して認めてはいけないことだった。
それは・・・それは彼女の歩みにとってマイナスになるのだから・・・。

夕方になり、その日は大人しく過ごしていた保田が、突然私に声をかける。
表情はいつも通りの明るい笑顔だが、その奥には何か淋しい表情が見て取れた。
そして、その淋しそうな表情に、私は言い知れない不安を覚えていた。

「ねえ、一緒に散歩しない?」

別に用があるわけではないので、私は彼女と散歩に出かけることにした。

近所をぶらぶらと歩く・・・しかし、二人の間に会話は無かった。
いや、会話は必要無かった。ただ、並んで歩いているだけで・・・。
189251 ◆5/w6WpxJOw :03/02/21 07:25 ID:???
いつしか二人は、近くの川沿いの土手上を歩いていた。

その日の空はよく澄んでいた。水色の空が大地を覆うように広がり、
その空が地面に近づくにつれて、綺麗なオレンジ色へと変わっていく。
そしてどことなく春の訪れを感じさせるような、温かい日差しが大地を照らしている。
時より冬の名残のような風が吹くも、それも二人の歩みを止めることはなかった。

ゆっくりと歩く二人・・・。ただただ、寄り添うように並んで歩く・・・。

私は彼女のことが好きだ。

そして、彼女も私のことを好きだと思ってくれている。

それだけで幸せだった。二人、ただ並んで歩いているだけで・・・。

それだけで・・・。

そして、二人は決してそれ以上のことを望んでいなかった。
いや、もちろん私の中には、もっと彼女と触れ合いたいと思っている気持ちがあるのは事実だ。
そしてまた、いつかの京都のときのように、彼女と手を繋いで歩きたいとも思う。

しかし、私は手を繋ごうとはしなかった・・・。そして、それは彼女も同じだったのかもしれない。

手を繋ぐということは・・・それはいつか手を離さなくてはならないということでもある。

私には、それが怖かったのだ・・・。
190252 ◆5/w6WpxJOw :03/02/21 07:25 ID:???
始まりがあれば終わりがある・・・。
出会いがあれば別れがある・・・。

当然のことだが、それがその時の私にとって一番怖いことだった。
彼女と離れたくない・・・しかし、いつかは離れなくてはならない。
それは最初からわかっていたことだった。
しかし、わかっていてもどうしようもない気持ちというものもあるのだ。

そしてそんな辛い思いをするのなら、最初から手を繋がないでいればいいのだ。
これは現実逃避なのだろうか・・・。それとも現実を直視した結果なのだろうか。
わからない・・・。

私がそんなことを考えながら歩いていると、
彼女はいつの間にか私より二、三歩前を歩いていた。
そして、立ち止まって私の方を振り返る・・・。

そこには一生懸命、笑顔を作ろうとしている彼女がいた。

その笑顔を見た途端、私はその笑顔が意味するものを悟った。
そして、今日の彼女のどこか淋しげな表情の意味も・・・。
191性闘士 ◆jeglAw4g22 :03/02/21 16:50 ID:???
(´Д⊂グスン
192番組の途中ですが名無しです:03/02/21 17:34 ID:???
。・゚・(ノД`)・゚・。
193番組の途中ですが名無しです:03/02/21 19:09 ID:???
さびしい日
194番組の途中ですが名無しです:03/02/22 02:40 ID:???
もう終わるのか・・・
195番組の途中ですが名無しです:03/02/22 07:57 ID:???
更新待ち
196 ◆5/w6WpxJOw :03/02/22 10:52 ID:???
>>191-193
私も淋しいです。

>>194
終わりがあれば(略

>>195
じらすようで悪いのですが、更新は明日に延期します。
お詫びに今日はこんな画像で我慢してください。

http://lounge.dip.jp/~yoshinoya_off/up/data.cgi/STILL001.jpg

明日、いよいよ最終回???
197 ◆5/w6WpxJOw :03/02/22 10:56 ID:???
リンク先が表示されない場合があるのでこちらに訂正します。
http://members4.tsukaeru.net/gyoku/imgboard/img-box/img20030222035151.jpg
198番組の途中ですが名無しです:03/02/22 17:03 ID:???
>>197
保田・・・至?(w
199番組の途中ですが名無しです:03/02/23 01:44 ID:???
保護しました。
200 ◆5/w6WpxJOw :03/02/23 07:33 ID:???
>>198
一応「保田圭」だと思われ・・・。
それにしても「やすだけい」と言っただけで漢字がわかる店員さんって・・・。

>>199
ご苦労さまです。

さて、いよいよ最終回うpします。
ちょっと長いですが・・・。
201253 ◆5/w6WpxJOw :03/02/23 07:34 ID:???
「あのね・・・あたし・・・今日で最後なの・・・」

彼女は小さな声でそう言った。・・・覚悟はしていたことだ。

しかし、それは私の予想よりもあまりに早すぎる言葉だった・・・。
卒業までまだ時間はあるというのに・・・。

その言葉を否定したい気持ちでいっぱいだったが、
しかし、それを我慢し、私は彼女に向かって小さく頷いた。

涙が溢れそうだった。・・・いや、もしかすると溢れていたかもしれない。

しかし、涙を流すことだけは耐えなくてはならない。
彼女もそれを我慢しているのだ。私だけが泣くわけにはいかない。

彼女が再び口を開く。

「もーちゃん・・・今まで・・・ほんと、ありがとうね・・・」

「すっごく・・・楽しかったよ・・・ほんとに・・・ありがとう・・・」

彼女から「ありがとう」と言われたのは初めてだった。
そして、それがいっそう、彼女との別れを私に意識させるものとなった・・・。

「ああ・・・こっちも楽しかったよ・・・ありがとな・・・」

それ以外の言葉は出てこなかった。言葉が見当たらなかった・・・。
しばらく沈黙が流れた。二人の横を自転車が数台過ぎ去っていく。
202254 ◆5/w6WpxJOw :03/02/23 07:35 ID:???
次に口を開いたのは彼女だった。

「・・・ねえ、約束・・・覚えてる?」

約束・・・。

もちろん覚えている・・・。忘れるはずが無い・・・。

それは・・・そう、いつか彼女からのキスの誘いを断ったときに交わした約束・・・。

 「延期だからね!・・・延期だから・・・中止じゃないからね!」
 「ああ・・・約束するよ・・・」

自分に自信が持てなかったあの時の自分。
そして、彼女への気持ちがはっきりしていなかったあの時の自分。

そんな曖昧な自分が嫌で、彼女とのキスを断ったのだ。
ただ、今の自分も、あの頃とかわらず自分に自信を持てないでいる点は同じだった。

しかし、ただ一つだけわかったことがあった。
それは、恋とか愛とか、そういうことは関係なく、私が彼女のことを好き・・・ということだった。

いや、それは最初からわかっていたことだった・・・。

ただ、私はそれだけでは満足していなかったのだ。
恋とか愛とか、その気持ちをそういった概念に当てはめようとしていたのだ。

しかし、そんなことはどうでもよかったのかもしれない・・・。
203255 ◆5/w6WpxJOw :03/02/23 07:35 ID:???
私は彼女のことが好きだ!

私は保田のことが好きだ!

私は保田圭のことが好きだ!

傲慢で頑固でわがままで図々しいけど、私は保田のことが大好きだ!

そして、それだけで良かったのだ。

それが恋とか愛とか、そんなことはどうでもよかったのだ。

ただ、私が彼女のことを好き・・・それだけでよかったのだ。

悩む必要なんか無かったのだ・・・。
もっと簡単に考えればよかったのだ・・・。

好きという、その気持ちだけで十分だったのだ・・・。

・・・。

私は黙って彼女に近寄ると、彼女を抱きしめ、そしてその唇にそっと自分の唇を重ね合わせた。
それを別れのキスと知りながら・・・。

春の訪れを告げる優しい夕陽が、二人を温かく包み込む。
いつまでも・・・。いつまでも・・・。
204256 ◆5/w6WpxJOw :03/02/23 07:36 ID:???

          女の子ってそんなことあるわ
          友達にちょっと自慢したいし
          うらやましいとか 言わせてみたい!
          そんな彼が欲しいものなの

          それなのに あの人ってどこも
          理想に近くないのよ
          計算チガイ LOVE

          お顔も個性的
          髪型もダサくて
          ブランドも知らない
          自慢出来ないわ

          だけど優しすぎて
          性格だって良くて
          どんどん好きになる
          いい意味でいい意味で
          計算チガイ MY LOVE

          男の子って顔だけじゃないわ
          友達だってわかってくれる
          うらやましいと いつか言わせて
          みるには少しかかりそうね・・・

          もう少し オシャレとかなんとか
          興味など持ってほしい
          計算チガイ LOVE

205257 ◆5/w6WpxJOw :03/02/23 07:36 ID:???

          あなたは個性的
          あなたはあなただもん!
          私はダイスキよ
          そうよダイスキよ

          だけど友達とか
          いる前では少し
          いいところ見せてよ
          だけどやっぱりスキ
          計算チガイ MY LOVE

          お顔も個性的
          髪型もダサくて
          ブランドも知らない
          自慢出来ないわ

          だけど優しすぎて
          性格だって良くて
          どんどん好きになる
          いい意味でいい意味で
          計算チガイ MY LOVE

206258 ◆5/w6WpxJOw :03/02/23 07:37 ID:???

          ■出演


          保田圭


          俺


          姉


          母


          紺野あさ美


          ―
207259 ◆5/w6WpxJOw :03/02/23 07:37 ID:???

          ―


          元親友

          京都の親戚のおばちゃん

          修学旅行の女子高生

          京都のバスの運転手

          喫茶店のマスター

          不良の三人組

          姉の友達

          その他の皆さん


          ―
208260 ◆5/w6WpxJOw :03/02/23 07:47 ID:???

          ―


          辻希美


          加護亜依


          島田珠代(友情出演)


          藤原紀香(友情出演)


          ―


          つんく♂(特別出演)


          中澤裕子

209番組の途中ですが名無しです:03/02/23 07:47 ID:???
終わっ・・・た?
210261 ◆5/w6WpxJOw :03/02/23 07:47 ID:???

          ■エンディング曲


          『LOVE−計算チガイ−』
          作詞:つんく♂
          作曲:つんく♂
          編曲:野村義男
          歌:保田圭


          ■ミラー依頼・提供


          名無しさん

          2ch log depository: unofficial
          (2chのdat落ちログミラーとあとなんかのサイト)


          ■参考


          『ほぼ毎日、娘。たちが俺の家に来る・・・!!!』
          初代作者 ◆u7Eeg2EsiY
          二代目作者 ◇cmv ◆EGMiXVLMQ.
          三代目作者 GSX ◆5/ljsndtAY (ラッパ浣腸 ◆wqVeruyTlo)

          『ほぼ毎日、関取たちが俺の家に来る・・・!!!』
          作者 千代大便 ◆ssQcA6Igac
211262 ◆5/w6WpxJOw :03/02/23 07:47 ID:???

          ■応援・保全協力


          私のニュース速報板(セブン)の皆さん

          他板から来られた皆さん


          ■作者


          俺 ◆5/w6WpxJOw




          この物語は脳内妄想を基にしたノンフィクションであり、
          作品中に登場する人物、団体等は、
          ひょっとすると実在するかもしれません。
          なお、作者は一般人であり、モーヲタではありません。

212263 ◆5/w6WpxJOw :03/02/23 07:48 ID:???
長い・・・長いキス・・・。
二人の周りだけ時間が止まったような・・・そんな永遠に続くようなキス・・・。

どれだけ時間が経っただろうか・・・。
数分・・・いや、数秒だろうか・・・。
私はその感触を永遠に刻み込み、そしてそっと唇を離した・・・。

彼女の涙がキラキラと輝きながら落ちていく・・・。
その輝きはそれまで見たことが無いような美しさだった・・・。
そして、その美しさもまた、私の心の中に静かに刻み込まれていった・・・。

・・・。

二人は再び歩き始める・・・。
その先に別々の道が待っていると知りながら・・・。

夕陽に照らされた二つの影が徐々に離れていく・・・。
そしてやがて、その影は一つだけを残して地面から消えていった・・・。

残った一つの影は、まるでその心の中にある未練を表わすかのように
その地面に残り続け、そして長く長く伸びていった。・・・それは私の影だった・・・。

彼女は今夜、それまで過ごした私の家から去っていく・・・。
そう、新しい世界へ向けて・・・。

そんな彼女の旅立ちを見送ることなどできなかった。
もし私がその場にいたなら、きっと彼女を引きとめようとしていただろう。
だから、私はここで彼女と別れた。・・・それは無言の別れだった・・・。
213264 ◆5/w6WpxJOw :03/02/23 07:48 ID:???
・・・太陽が沈み、自分の影が消える頃まで、私は土手の芝生に座っていた。
ぼんやりと景色を眺める・・・。オレンジ色の空がいつのまにか紺色に染まり、そして空には星が輝いていた。

涙が溢れていた・・・。
この四ヵ月の間に経験したことは、私は一生忘れないだろう・・・。
いや、一生忘れられないだろう。・・・しかし・・・しかし・・・。

しかし、そんな思い出にとらわれていては、彼女に笑われてしまう・・・。
それはもう過ぎてしまったこと、そう、終わったことなのだ・・・。
そして大事なのは、これから新しい人生に向けて進むということなのだ。

しかし、私一人が人生に立ち止まっていた・・・。

・・・もう一度。

・・・そう、もう一度、歩き出そう!

私はそう決心した。未来へ向けて歩き出すことを・・・。

家に帰ると、すでに夕食の時間は終わり、そして私の分だけが食卓に残っていた。
どこか淋しそうな姉と母がいる。・・・しかし彼女はもういない・・・。

彼女にはもう、この家は必要なくなったのだ。
そして、それは彼女にとっては歓迎すべきことなのかもしれない・・・。

しかし・・・。

しかし・・・。

彼女にとってこの家が必要でなくなったとしても、この家にとっては彼女が・・・。
そして私にとっても彼女が・・・。
214265 ◆5/w6WpxJOw :03/02/23 07:48 ID:???
一週間後・・・

数日前、私は新聞配達のバイトをやめることを申し出た。
ちょうど新しいバイトが入って人手が余っていたこともあって、
私の申し出はすぐに受け入れられた。引継ぎもスムーズにいった。
そして・・・最後の配達を終える・・・。

しかし、その後の生活について、私に計画があるわけではなかった。
ただ、そのままの生活を続けることができなかったのだ。
この家にいると彼女を思い出してしまいそうで・・・。

もちろん保田が来なくなったと言っても、紺野は今までと同じようにこの家へやって来る。
この家が必要でなくなった保田とは違い、紺野にはこの家が必要なのだ・・・。

しかし・・・。

紺野は頑張り屋さんなのだ。私がいなくなっても、姉がいなくなっても、母がいなくなっても、
そして例えこの家から誰もいなくなったとしても、それでも彼女は全てを乗り越えることができるだろう。

紺野にとってこの家は、安らぎの場であるとともに、試練の場でもあったのだ。
そして、紺野はその場に甘んじているような女の子ではないのだ。
泣きながらもいつも上を向いている、そして何事にも立ち向かっていける子なのだ。

ある意味、紺野は保田に似ているのかもしれない。
・・・もちろん、その姿も形も、そして性格も、二人に似た部分は一つも無い。
しかし、私も姉と同じように、その二人が似ている・・・そう思えたのだった。
215266 ◆5/w6WpxJOw :03/02/23 07:49 ID:???
夕方になり、私は荷物をまとめ始めた。
と言っても小さなカバンに必要最小限のものを詰め込んだだけだ。

これから何が起こるかはわからない。
しかし、私はその先に進もうと決心したのだ。
それが果たしてどういう結果をもたらすかはわからない。
しかし、じっとしていることはできなかった。

・・・私は自分を探す旅に出ることを決心していた・・・。

一枚の書置きを残し、家を出る。
たった四ヵ月半とはいえ、この家で過ごした生活は充実したものだった。
少し淋しい気もするが、しかし過去にとどまっていてはいけない。

私はその数ヶ月のことを脳裏に焼き付けるように、玄関から家の中を見渡した。

そして、意を決して玄関のドアを開ける。・・・未来に向けて進むために!

そこには透き通るような青い空が広がっていた。
そして、私の旅立ちを祝福するかのような優しい日差しが照りつける。

私は空を見上げていた。この空の下に私の新しい未来が待っているのだ。
そう思い、視線を落とした瞬間、私は自分の目を疑った・・・。
216267 ◆5/w6WpxJOw :03/02/23 07:49 ID:???
そこには、二度と会えないと思っていた彼女の姿があった・・・。
それも、透き通るような純白のウエディングドレスを着た彼女の姿が・・・。

「もーちゃん・・・ただいま!」

その言葉に、私は全てを理解した。
そう、それが私の・・・私の新しい未来なのだ!!!

「・・・おかえり・・・ケイ!!!」


                    『ほぼ毎日、娘。のとある奴が俺の家にいる・・・!!!』

                    第一部 「保田圭物語〜未来への卒業〜」 完
















「はいぃぃぃ、カアァァァァァッッットォォォォォォ!!!」
217 ◆5/w6WpxJOw :03/02/23 08:08 ID:???
長いようで短い時間でしたが、
このような駄作に付き合っていただき、まことにありがとうございました。
無事に第一部を完結できたのも、応援していただいた皆様のおかげです。
改めて御礼申し上げます。本当にありがとうございました。

なお、感想や批判など受け付けますので、レスいただけると幸いです。
それでは皆さん、引き続き第二部をよろしくお願いします!

>>209
連続投稿でひっかかって少しあせってました。
218 ◆5/w6WpxJOw :03/02/23 08:12 ID:???
第一部終了記念にあげてみます。
219美少女戦士 ◆NoNoa.TRIQ :03/02/23 13:15 ID:???
おおおスタッフロール付き。乙彼。第二部期待しちょります
220209:03/02/23 16:41 ID:???
オラうっかり割り込んじまっただ(´・ω・`)作者タソゴメンヨー

ラストいい締め方ですた
続きも期待してますよ
221性闘士 ◆jeglAw4g22 :03/02/23 21:46 ID:???
マンセー
222番組の途中ですが名無しです:03/02/24 00:43 ID:???
このスレ読んで保田圭をちょっと好きになりました‥。
223三村:03/02/24 05:07 ID:???
>>222
ちょっとかよ!
224番組の途中ですが名無しです:03/02/24 10:15 ID:???
>>222
私はかなり保田が好きになりました・・・。
225番組の途中ですが名無しです:03/02/24 18:01 ID:???
揃えます   
226番組の途中ですが名無しです:03/02/25 05:18 ID:???
227 ◆5/w6WpxJOw :03/02/25 05:32 ID:???
>>219
ありがとうございます。第二部も引き続き応援おながいします。
>>220
いえいえ。連続投稿対策してなかった私が悪いのです。
>>221
ダーヤスマンセーですか?
>>222
ありがとうございます。
>>223
ナイスつっこみです。
>>224
彼女も喜んでくれることでしょう。
>>225
どうもです。
>>226
ご苦労さまです。
228268 ◆5/w6WpxJOw :03/02/25 05:33 ID:???
突然、周囲に大きな声が響き渡る。

その声を聞き、一気に緊張が解ける。・・・ちょっと顔が強張っていたかな?
そんなことを思ったりもしたが、まあ大丈夫だろう・・・。

目の前の保田もその声を聞いてそれまでとは一転して全身の力を抜いている。
そして心配そうな面持ちで声のした方を見つめる。私もそちらを振り向く。

家の前の道路の少し離れたところに、十数人の人間がいる。
ビデオカメラを抱えた人や、長い棒の先についたマイクを持っている人、
それにライトを照らしている人、日光を反射させる銀色の板を持っている人、
時計とにらめっこしている人、台本を熱心に確認している人・・・などなど。

そして、その真ん中に、折畳式の椅子に座ったひげずらのおじさんがいる。
その横にはたくさんの機材が置いてあり、その周りに数人の人が集まっていた。
最後のシーンをモニターで確認しているのだ。・・・皆が監督の一言を待つ。

・・・。

「よーし!オッケー!!!」

その声を聞いて、周りから一斉に拍手が巻き起こる。
そして「おつかれさまでしたー!」という声が飛び交う。
それを聞いて、私と彼女の周りに、スタッフが集まってくる。
その中には母と姉の姿もあった。二人は花束を持っていた。

母が彼女に、そして姉が私に、「おつかれさまでした!」と言ってその花束を渡す。
彼女は嬉しかったのだろうか、思わず嬉し泣きをしている。
純白のウエディングドレス姿に、華やかな花束が映える。
可憐な花々に紛れた白いかすみ草が彼女の涙とともにキラキラと輝いていた。
229269 ◆5/w6WpxJOw :03/02/25 05:33 ID:???
「ケイちゃん、おつかれさま!とってもきれいやったよ!」

その声の主は中澤だった。
今日の収録に出番は無いのにも関わらず、駆けつけてくれたのだ。
中澤は保田に花束を渡す。

「ありがとう、ゆうちゃん!」
そう保田が嬉しそうに言うと、中澤ははにかんだような表情をする。

「その花束やけど、それ、辻と加護からのプレゼントやから・・・」
それを聞いて保田は微笑みを浮かべる。
その微笑みは、その二人からの花束が嬉しかったということよりも、
中澤からの花束だと勘違いしていたことに対しての微笑みなのだろう。

と、中澤が思い出したように私に話し掛ける。
「それから、あんたにもあるで。ほらこれ、紺野からやけど」
中澤はそう言って私に小さな花束を渡した。

紺野は二日前の収録が最後で、今日の収録には参加していない。
しかし、予想もしていなかった紺野の花束は正直に嬉しかった。

紺野はドラマの中の役と同様、私を兄のように慕ってくれていたのだ。
そしてまた、私も紺野を妹のようにかわいがっていた。
230270 ◆5/w6WpxJOw :03/02/25 05:33 ID:???
・・・それからしばらくして、スタッフが片付けを始める。
機材がなくなると、そこは一気に普通の道端に戻る。

これでようやく終わったんだな・・・そんな達成感を覚える。
もちろん、スタッフはこれから編集や何やらで忙しいし、
このドラマが放送されるのは保田が実際に卒業する頃のことなので、
まだ完全に終了したわけではなかったのだが・・・。

ただし、私にとってはこれが最後の出番だったのだ。
思えば長いようで短い時間だった。・・・しかし、かなり充実した時間であったことは間違いない。

その後、打ち上げが行われることになり、スタッフも含めて数十名が集まった。
高級な店を期待していたのだが、連れて行かれたのは繁華街のごく普通の居酒屋だった。

保田や中澤はもちろん、姉役の井川遥の姿も見える。
ただ、母役の松坂慶子は最初に顔を見せただけですぐに帰っていった。
さすがに大女優は違うな・・・そう思わされる。

監督が労いと感謝の言葉を述べ、そして乾杯の音頭を取る。
「かんぱーーーーい!」
「かんぱーーーーい!」

正直、初めての撮影ということで、毎日が戸惑いの連続だった。
しかし、親切なスタッフに囲まれて、なんとかやってこれたという感じだ。
監督はととても厳しかったが、ただ、ここまでやれたのはその監督のおかげだろう。
231271 ◆5/w6WpxJOw :03/02/25 05:33 ID:???
その監督はと言うと、スタッフと一緒に姉役の井川遥にべったりとくっついている。
多分、色々と気を使っているのだろう。まあ、それは撮影が始まった頃からなのだが。

その扱いが気に入らないのか、保田は中澤と二人で飲みまくっていた。
保田は人目もはばからずスパスパとタバコを吸いまくっている・・・。

一方の私はと言うと、年の近い下っ端のアシスタントたちと一緒に飲んでいた。
私が素人ということで話し掛けやすいのだろう。もっとも、それは私の方も同じなのだが。
とにかく、みな撮影中に仲良くなった連中ばかりで、その場はかなり盛り上がっていた。

ただ、私だけは少し気になることがあり、盛り上がることができなかった。
その理由・・・それは・・・。

と、店に大きな声が響く。
「保田圭、今から一気しまーーーーす!」

振り向くと、保田がビールジョッキを片手に掲げていた。
そして周りの掛け声とともに、彼女はそのビールを一気に飲み干す。

・・・。

そう・・・その理由は彼女だった。

保田圭・・・言わずとしれたモーニング娘。のメンバー。
そして、このドラマの主人公でもある。

なぜそうなってしまったかはわからない・・・。
しかし、私はいつしか、彼女のことが気になっていたのだ・・・。
232 ◆5/w6WpxJOw :03/02/25 05:52 ID:???
ということで、第二部が始まりましたが・・・。
そうなんです。今までの話は全てドラマの中の話だったんですね。
なんか夢オチみたいな感じで申し訳ないのですが・・・。

そして、これから現実世界での私と保田との物語が始まります。
ドラマの中とは違い、現実として彼女を意識する私の葛藤・・・。
そして様々な問題に直面している現実の彼女の苦悩・・・。
これから二人がどうなっていくのか・・・乞うご期待!

それはさておき・・・。
「おいおい、それなら東京のおじさんの部屋やお好み焼き屋の話もドラマかよ!」
と思われるかもしれませんが、それについては後々わかるかと思います。

そしてまた、本スレなどで保田と紺野が別行動を取っていたりするのは、
大阪の別荘に行ってるのではなく、実はドラマの収録だったんですね。

と言うことで、第二部もよろしくおながいします。
233番組の途中ですが名無しです:03/02/25 10:27 ID:???
なるほどこういう設定だったんですね
でも保田さんは現実でもやっぱり豪快キャラなのね(w
234 ◆5/w6WpxJOw :03/02/25 21:39 ID:???
>>233
豪快な部分が目立ちますが(わざと強調してます)、普段は物静かな優しい人です。

てか、>>232の説明は余分でしたね・・・ちょいと反省します(鬱
さて、明朝の分ですが、めんどうなので今からうpします。
235272 ◆5/w6WpxJOw :03/02/25 21:39 ID:???
周りと話をしながらも、彼女のことが気になってそちらをチラチラと窺う。
しかし、彼女は酒と周りとの話に夢中のようだった。
ただ、一瞬、目が合ったように感じたが、それもほんの一瞬だった。
もしかすると私の勘違いだったのかもしれない。それくらい彼女のことが気になっていたのだ。

そんな私の気持ちとは裏腹に、保田の周辺はかなり盛り上がっていた。
どうやらこの後ゲイバーに繰り出すらしい。・・・そんな話が聞こえてくる。

しばらくして、姉役の井川遥が先に店を後にした。
店の外まで監督たちが送りに出る。スタッフも大変だな・・・そう思う。

そんな様子を見て、保田と中澤のいる方から、
「ぶりっこ!」「かまととぶって!」「何様のつもり?」などといった悪口が聞こえてくる。
ドラマの中では仲が良かったのに、現実はこんなものだ・・・。

それからは延々とその二人の愚痴が聞こえてくる。
「大根にも程があるわよ!」
「ったく、学芸会やないんやから!」
「年ごまかしてるんでしょ?」
「もう人気も無いんやし、早く脱げばええんや!」
「誰も見たくないでしょ。あんなに太ってんだから!」
「それもそうやねって、あんたも言える立場やないやろ!」
「あははは・・・」

・・・滅茶苦茶嫌われてるな・・・なんか姉が・・・いや、遥さんが可哀想になってきた・・・。
236273 ◆5/w6WpxJOw :03/02/25 21:40 ID:???
見送りを終えた監督が戻ってきて、私の隣に座る。
「いやあ・・・お疲れさん!ほんと、君を選んで良かったよ!」
監督からお褒めの言葉をもらう。
その言葉を聞いて、監督と初めて会った時のことを思い出す・・・。

・・・。

それは半年ほど前のことだった・・・。
私は会社の上司と馬が合わず、また、仕事にやりがいを見出せずにいた。
そして会社を辞め、気ままなバイト生活をしていた。
そう言えば聞こえはいいが、結局は社会生活に臆し、そこから逃げ出したことに他ならない。

そんな時、突然私の部屋にひげづらのおじさん・・・そう、このドラマの監督がやって来たのだ。
監督は、私にあるドラマに出演するようにと言ってきた。しかもそれはほぼ主演だった。

その突然の言葉に私は驚き、そしてまた、新手のインチキ商法かと疑ったりもした。
しかし監督は熱心にそのドラマについて語りだし、その言葉はしばらく止まらなかった。

最初は何のことだか理解できなかった。
何と言っても私はただの一般人であり、演技などしたことがなかったからだ。
芸能界にも全く興味はないし、それにドラマのメインであるモーニング娘。についても何の知識も持っていなかった。
それは物語の中の私と全く同じ(ただし、私のキャラに合わせて台本や設定が多少変更されているが)だった。

いや、それどころか、私は自分自身を普通の一般人よりも劣っている・・・そう捉えていたのだ。
かなり内向的な性格で人付き合いもうまくなく、外見もかなりみすぼらしい・・・。
そんな普通の一般人以下の私に、そんな大役が務まるわけがない・・・それが素直な感想だった。

しかし、それこそが監督が私に目をつけた理由だったらしい。
237274 ◆5/w6WpxJOw :03/02/25 21:40 ID:???
監督の話では、何度も主役のオーディションをしたらしい。
しかし、どれもかっこよすぎたり、演技がうますぎたり、あるいはモーヲタだったりと、
頭に描いていた主役とは食い違っていたらしい。
監督が望んでいたのは、あくまでもドラマの中の役と同様、普通の素人だったのだ・・・。

そんな時、町中を歩く私の淋しげな後姿を見て、これだ!と閃いたのだという。
そして迷惑なことにそれから私のことについて色々と調べ、
そして後日、改めて私の部屋へとやって来たのだった。

それはそれで素直に喜んでいいことなのだろうか・・・。
しかし、とにかく、そのおかげで私は充実した日々を過ごせたことだけは確かだ。
その点では私を選んでくれたことに感謝しなくてはいけないだろう・・・。

そんなわけで、私は素人ながらこのドラマに参加することになったのだ。
もっとも、参加を決心したのは、姉役の井川遥に興味があったからなのだが・・・。

撮影が始まった最初の頃は、私は保田には全く興味を持っていなかった。
そのブサイクな顔、そしてその性格、どれを取っても私の理想には程遠かった・・・。
しかし・・・撮影を続けるうちに、私は次第に彼女に惹かれはじめていた。

それは彼女のいつも前向きで真面目で熱心な態度を見ているうちに自然と芽生えた感情だった。
そしてまた、いつも笑顔で悩みなど無いような彼女が時より見せる淋しそうな表情・・・。
今思うと、それが私が彼女に惹かれはじめた一番の原因だったのかもしれない。

しかし、私はドラマの中での自分と同様、人見知りする性格で、最初の頃はほとんど話すことができなかった。
もっとも、それは彼女だけではなく、他の共演者たちも同じだったのだが。
238275 ◆5/w6WpxJOw :03/02/25 21:40 ID:???
しかし、途中からはスタッフも含めてかなり親しく接することができるようになり、
そして、いつしか彼女とも普通に話せるようになっていた。

しかし、物語の中で私と彼女とのロマンスが進んで気まずくなったせいか、
あるいは、私の気持ちに彼女が気づいてしまったせいなのだろうか、
最後の方はどちらからと言うわけでもなく、お互いにあまり会話をしなくなっていた・・・。

そして、この日の打ち上げも、結局彼女とは話せずに終わった。
本当はもっともっと彼女と話をしたい。そして彼女と親しくなりたい。そう思うのに・・・。
その思いばかりが空回りし、結局自分の気持ちを伝えることもなく、
彼女とはそのままの関係で終わりを迎えてしまった・・・そして、もう会うことも無いだろう。

もしかしたら彼女に嫌われているのかもしれない・・・ついついそんなことまで考えてしまう。
それほどまでに私は彼女のことが気になっていたのだ・・・。

・・・。

打ち上げが終わり、一人家に戻る。もちろんドラマとは違い、正真正銘の自分の部屋だ。
撮影で使った物置部屋とは違い、明るい照明が部屋を照らす。

テレビをつけ、一人缶ビールを飲む。
ようやく撮影が終わった・・・。そして、何かをやり遂げたという達成感がある。
しかし、明日からの生活を考えると、やはり不安を覚えてしまう・・・。
明日からも今日までの充実感を持続させることができるのだろうか・・・。

いや、それは無理だろう・・・。撮影のためにバイトも辞め、そして撮影に専念してきたのだ。
これから再びバイトを始めたとしても、それは撮影の時ほどの充実感には及ばないだろう。

そしてまた、私はその及ばない理由の一つに気づいていた。
それはそう・・・もちろん保田の存在・・・。
239276 ◆5/w6WpxJOw :03/02/25 21:41 ID:???
私はドラマの中の私と全く同じ状態・・・心の中にぽっかりと穴が開いてしまったような、そんな感じだった。
そしてまた、保田への感情もドラマの中の私とほとんど同じだった・・・。
ただ・・・ただ一つだけ違うことは、現実の私は彼女に自分の気持ちを伝えていないということ・・・。

それからしばらくは、そんな脱力感を覚えながらの毎日だった。

・・・。

数日後、真夜中だと言うのに、突然部屋のインターホンが鳴る。
「こんな時間に誰だろうか・・・」
そう思いながらも玄関へ行き、ドアを開ける・・・と!

その光景を見て、私は自分の心臓がドクンドクンと大きく波打つのを感じた。
それは驚きとともに、そう、もう一つの感情によるものだった。

そこにいたのは・・・中澤姉さん・・・そして保田だった。

・・・なぜ・・・ここに???

中澤は「よお!元気してた?」と言うと、そのまま靴を脱いで部屋に上がる。
それに続いて保田も「お邪魔しまーす!」と言って部屋に上がる。

「うわー、なんやなんも無い部屋やな・・・ちょい淋しいで!」と中澤。
「へえ・・・もーちゃんって結構きれい好きなんだあ・・・」と保田。

そんなことより・・・どうしてこの部屋がわかったんだ?
いや・・・どうしてこの部屋に・・・???

そう思ったものの、私は慌てて二人を追いかけ、そして棚に飾ってあった写真立てを倒す。
そう、そこには絶対に見られてはいけない写真が飾ってあったのだ。
240番組の途中ですが名無しです:03/02/26 02:08 ID:???
井川遥の悪口ワラタ
241番組の途中ですが名無しです:03/02/26 12:22 ID:???
242性闘士 ◆jeglAw4g22 :03/02/26 18:18 ID:???
243 ◆5/w6WpxJOw :03/02/27 00:45 ID:???
>>240
遥さん本当にいい人なんですけどね。
大人しくて自己主張しないので嫌われるのでしょうか。

>>241-242
保守どうもです。
244277 ◆5/w6WpxJOw :03/02/27 00:45 ID:???
二人は手にスーパーの袋を持っていた。
と言っても、こんな遅くまでやってるスーパーなんかは無いはずなんだが・・・。

その袋の中身は高級牛肉だった。
「そうそう・・・あんた、貧乏そうやったから、ほら、肉買うてきてあげたで!」と中澤。
その隣では保田が「や〜きにっく〜た〜べほ〜お〜だい〜♪」と歌っている。

あのぉ・・・すでに晩御飯は済んでるんですけど・・・。
それに貧乏そうって言われても・・・まあ、確かに貧乏には違いないんだが・・・。

そう言いたかったものの、二人を目の前にしてそれは言えなかった。
それはドラマの中の私とは違い、現実の私にとって、二人は別世界の人間だったからだ。
人気が落ちてきているとは言え、二人は一応芸能人・・・それに比べて、私はただの一般人に過ぎない。
そう、たまたまドラマに出演することになっただけの普通の一般人なのだ。

そんな二人が、突然私の部屋にやって来たのだ。追い返すことなどできるはずがない。

そんな私の思惑とは違って、二人は気ままに焼肉の準備をしていた。
仕方なく私も準備に加わる。・・・色々と部屋を漁られるのが嫌だったのだ。

「ホットプレート無いん?」と中澤。
私は「えーと、これでいいですか?」と言い、カセットコンロとフライパンを運ぶ。
「まあこれでええか」と中澤。

はあ・・・勝手に押しかけといてその態度・・・なんか間違ってないか?

準備が終わり、保田がコンロに火をつけ、そしてフライパンを温める。
温まったところで肉を焼き、そして焼きあがるまでにグラスにビールを注ぐ。
もちろん、彼女たちが買ってきたビールだ。
245278 ◆5/w6WpxJOw :03/02/27 00:46 ID:???
中澤が「三人の未来に!」と言い、続けて「乾杯ベイベー!」と叫ぶ。
それに合わせて保田も「乾杯ベイベー!」と続く。
私も仕方なく小さな声で「乾杯・・・」と言う。

しかし、すぐに中澤姉さんから駄目だしされる。
「ちょっとあんた!声がちーさいでー!もう一度、ほい、乾杯ベイベー!」
「はあ・・・乾杯ベイベー・・・」

・・・。

なんなんだろ・・・本当に・・・。

肉が焼け始め、二人は壮絶な肉の取り合いをする。
「ちょっとー!それあたしの肉でしょー!返してよー!」
「何言うてんのや!うちの前にあるんはうちの肉やで!」

両者ともに譲らない・・・。
しまいにはまだ焼けていない赤い肉まで取り合いを始める・・・。

何もそこまでやらなくても・・・。

その様子に、私は「あのお・・・これ良かったらどうぞ・・・」と言って自分の肉を譲る。
と、中澤が「あんた・・・うちらが買うてきた肉・・・いらへんって言うんか?」と言って怖い目で睨む。

うう・・・こ、こわい・・・。

私はその迫力に怯えながら「い、いえ・・・そういうわけじゃないんですけど・・・その・・・」とシドロモドロに答える。

すでに晩御飯を済ませてるんだが、結局そのことは話せなかった。そして、仕方なくその肉に手をつける。
246279 ◆5/w6WpxJOw :03/02/27 00:46 ID:???
さすがに高級牛肉ということだけあって、その肉は格別の旨さだった。
・・・しかし、すでに晩御飯を済ませている私にとっては、その旨さもあまり喜べるものではなかった。

それなのに中澤姉さんは気を利かせたつもりなのだろうか、
「せっかくなんやからいっぱい食べてええんやで!」と言い、焼けた肉を私の方へよせる。
それを保田が羨ましそうな目で見つめる・・・。

お腹一杯なんだけどなあ・・・しかし断ると怖いし・・・。

私はその肉を自分の取り皿に取ると、中澤が横を向いている隙にそっと保田の皿へと移した。
彼女は一瞬喜んだ表情を浮かべたものの、中澤に気づかれないようにと、すぐに元通りの表情に戻る。
そして、感謝のつもりなのだろうか、私に向かってウインクする・・・。

正直、彼女のウインクはかわいくない・・・それどころかどこか気持ち悪いものでもある。
ただ・・・それでも私にとってそのウインクはとても嬉しいものだった。
なんと言っても、私は彼女のことが好きなのだから・・・。

しかし、こうやって中澤に見つからないように私から彼女へと肉を横流ししていると、
なんだか二人だけの秘密という感じがして、不思議な気分になる。
もっとも、彼女は単に肉をたくさん食べたいだけなのかもしれないが・・・。

しばらくして、最初に焼いた肉が全て無くなり、新しい肉を焼き始める。
そして、それまで黙々と肉を食べ続けていた二人がようやく話を始める。

そんな二人の話をぼんやりと聞きながら、私はふと一つのことを考えていた。

・・・まるで、あのドラマみたいだな・・・。
247番組の途中ですが名無しです:03/02/27 11:20 ID:???
保守age!
248番組の途中ですが名無しです:03/02/27 17:26 ID:???
249Hug ◆GS0LunNYeo :03/02/27 17:57 ID:???
250 ◆5/w6WpxJOw :03/02/27 21:15 ID:???
>>247-249
保守ありがとうございます。
251280 ◆5/w6WpxJOw :03/02/27 21:15 ID:???
しばらくして二人が用意してきたビールが切れる。
中澤は私に酒が無いかどうか尋ねたが、あいにくと昨日一人で焼酎を空けたばかりだった。

仕方なく「自分が買ってきましょうか?」と尋ねると、
「ええってええって、今日はうちらが押しかけたんやから、うちが行くわ!」と中澤。
ただ、そう言いながらも、誰か変わりに行ってくれと言わんばかりの表情を浮かべている。
もちろん、立ち上がろうとする気配すら無い・・・。

すると、それを察したのか保田が「じゃああたしが買いに行くよ!」と言って立ち上がる。
それを聞いた中澤は、「ああそう?じゃあ頼んだでー!」と言い、タバコに火をつける。

はあ・・・結局自分は行きたくないんだな・・・。
そう思ったものの、私は中澤に別の思惑があったことには全く気づいていなかった。

保田が玄関を出た直後、中澤が私に向かって話しかける。・・・それは突然のことだった。

「あんた・・・ケイちゃんのこと、好きやろ?」

・・・!

私は何も言えず、ただただ呆然とするだけだった。
そしてまた、私の脳裏に、あのドラマの喫茶店のシーンが蘇る・・・。
そんな私を見て、中澤は案の定といった表情を浮かべて話を続ける。

「やっぱそうかいな・・・。そうやろなーて思てたんや・・・」

そう、中澤が保田に買出しに行かせた理由・・・それはそのことを確認するためだったのだ!
252281 ◆5/w6WpxJOw :03/02/27 21:16 ID:???
私は部屋を出て、走って保田の後を追っていた。
それは・・・そう、中澤が私にそうするようにと勧めたのだった。

「女の子一人じゃ心配やから・・・あんたついてったってや!」

最初に彼女を一人で行かせたのは中澤なのだが、彼女はそんなこと気にしないらしい・・・。
そしてまた、それは私に気を利かせたつもりのようだった。
そう、私に彼女と二人になれる時間を作ってくれたつもりなのだろう。

何か矛盾してるような気もするが、まあそれが中澤姉さんらしいところなのかもしれない。

・・・。

部屋を出て、少し進んだ先に保田を見つける。彼女は私の姿を見て驚いていた。
私が「一人じゃ心配だったから・・・」と言うと、不機嫌そうな顔を浮かべる。
そして「あたしだって一人で買い物くらいできるわよ!」と怒る。

そりゃそうだけど・・・。

ただ、よくよく見ると、その怒った顔もどこか喜んでいるようにも見える。
いや、もしかするとその怒ったように見えた顔は、元々彼女の顔の仕様なのかもしれない。

そう言えば撮影のときも彼女の笑顔は怒ったように見えていたっけ・・・。

私はそんなことを思い出しながら、彼女と並んで歩いていた。
それはまるで、あのドラマの中での私と彼女のような感じだった・・・。

ただし、ドラマとは違い、もちろんそこには何の台本も台詞も用意されていない。
そう、その先の展開は、自分自身で切り開かなければならないのだ!
253282 ◆5/w6WpxJOw :03/02/27 21:16 ID:???
コンビニで大量の酒と少量のスナック菓子を買い込む。
酒は焼酎と日本酒の五合瓶と保田が選んだ赤ワイン、それに缶酎ハイが数本だった。

代金は私が払った・・・。と言うのも、さきほど中澤から酒代として一万円を貰っていたのだ。
私は肉を持ってきて貰ったのだからと言ってそれを断ったのだが、
中澤がどうしてもと言い、無理やり私のポケットにそのお金をねじ込んだのだった。

手に袋をぶらさげて再び部屋へと戻る。

保田は歩きながらすでに缶酎ハイを開けていた。・・・そして私にもそれを勧める。
それを断ると、彼女は再び怒ったような表情を浮かべる。
ただ、それはさきほどの表情とは違い、正真正銘の怒った顔なのだろう・・・。

仕方なく彼女の申し出を受け入れ、彼女の飲みかけの缶酎ハイを譲り受ける。

ただ、私がその最初の申し出を断ったのには理由があった・・・。
それは決して、飲みたくないからではなかった・・・。

・・・間接キッス。

彼女の飲みかけの缶に口をつけるということは、間接キッスということになる。
私はそのことに抵抗を感じていたのだ。いや、抵抗と言うほどのものでもないが、ただ恥ずかしかったのだ。

そんなウブな私とは違い、彼女はそんなこと気にしないらしい。
もっとも、そんなことで一々反応している私の方が異常なのかもしれないが・・・。

私は彼女から譲り受けた缶酎ハイを飲む。と、その瞬間、彼女が大きな声で叫ぶ!

「もーちゃん、かんせつキィーーーーッス!!!」

おいおい・・・最初からそれ狙ってたのかよ・・・。
254番組の途中ですが名無しです:03/02/28 01:59 ID:???
初めて読まさしてもらったけど(・∀・)イイ!!
◆5/w6WpxJOwさんがんがれ!
255番組の途中ですが名無しです:03/02/28 19:16 ID:???
256性闘士 ◆jeglAw4g22 :03/02/28 20:33 ID:???
257 ◆5/w6WpxJOw :03/02/28 21:28 ID:???
>>254
ありがとうございます。励みになります。

>>255-256
保守ありがとうござます。
258283 ◆5/w6WpxJOw :03/02/28 21:29 ID:???
彼女は私の困ったような表情を見て、狙い通りといった感じでゲラゲラと笑っていた。
そう、彼女は最初からウブな私をからかおうとしていたのだ。そして私はそれにまんまとはまったことになる。
もっとも、夜ということもあって、私の顔が真っ赤になっていたことだけは気づかれずに済んだようだった。

それにしても彼女は陽気だった。もちろん酒が入っていることもある。
ただ、それでもこんなに陽気な彼女を見るのは初めてだった。
彼女は撮影中もいつも元気だったが、ただやはり仕事場では真剣な表情をしており、
こんなにはしゃいでる彼女を見たことは無かったのだ。

そんな彼女の陽気な姿を見て、なぜか自分までもが嬉しくなってくる。
それはもちろん、私が彼女のことを好きだからなのだろう・・・。

そして、ふとつまらない想像をしてしまう・・・。
もしかすると、彼女も私のことが好きなのかもしれない・・・と。

・・・そんなことを考えて、すぐに頭の中をリセットする。
いかんいかん・・・あれはあくまでもドラマの設定上の話だ。
現実の彼女が私のことを好きなはずがない・・・そんなことはありえない・・・。

そんな私を見て、彼女が話し掛けてくる。
「ねえもーちゃん、何か顔がにやけてるよ?もしかしてHなことでも考えてた?」

私はすぐに「ば、バカ!そんなこと考えるわけねーだろ!」と否定する。
と、それを聞いて彼女が今日一番の笑顔を見せる・・・そして。

「もーちゃん、やっと普通の言葉になったね!」

・・・???
259284 ◆5/w6WpxJOw :03/02/28 21:30 ID:???
「もーちゃんさ、今日ずっとよそよそしかったんだもん、敬語なんか使っちゃってさ!」

それを聞いてようやく私は彼女が言っている意味を理解した。

そう、ドラマの中の私は彼女に対して普通に接していた・・・。
しかし、それはあくまでもドラマの中の私であって、実際の私は彼女に対して改まった口調で話していた。
それはもちろん彼女たちは芸能人であり、そしてドラマの撮影における先輩だったからだ。
一方の私はただの一般の素人であり、ドラマの撮影も初めての新米だった。

そして、今日も私は二人に対してやや距離を取った感じの言葉で話していたのだ。
それが彼女にとっては退屈なことだったらしい。

私は「あははは・・・そうだっけ?」と言うと、彼女は頬を膨らませながら「そうだよ!」と答える。
そして、「今日からは敬語禁止だからね!」と付け加える。

その言葉に私は照れながら「ああ!」と答える。
そして、そう答えた後に、私は一つのことに気づいていた。

・・・今日からは???
ってことは・・・今日だけじゃないってことか?

それがどういう意味なのかはわからなかったが、私はその彼女の言葉に期待と不安を膨らませていた。

しばらくそうやって話をしながら歩く・・・と、彼女が私の持っていた缶酎ハイを奪い取り、
「飲まないんだったらあたしが飲むよ!」と言って、その缶に口をつける。

そして、嬉しそうに笑顔を浮かべながら・・・。

「これでおあいこだね・・・間接キッス!」
260番組の途中ですが名無しです:03/03/01 14:38 ID:???
261番組の途中ですが名無しです:03/03/01 21:15 ID:???
262 ◆5/w6WpxJOw :03/03/02 00:07 ID:???
>>260-261
毎度ご苦労さまです。
263285 ◆5/w6WpxJOw :03/03/02 00:07 ID:???
部屋に戻る。・・・と、待ちくたびれたのだろうか、中澤は勝手に私のビデオを見ていた。
そして、ごく普通に「何かおもろいビデオないん?」と尋ねる。

この人は勝手に人の部屋で何やってるんだか・・・。

私が「はあ・・・そこにあるだけです・・・」と言うと、
彼女は「そっか・・・どこにもHなビデオ見当たらんかったしなあ・・・」と言う。

おいおい・・・もしかして部屋中探したのかよ・・・。
まあ、持ってないから探しても無駄なんだけどな・・・。

と、私の隣にいた保田が「えー?Hなビデオー?あたしも見たーい!」と言い出す。

おいおい・・・ちょっと待てって・・・お前ら何かおかしくないか?

しかし、二人はおかまいなしだった。
中澤姉さんは私に今すぐビデオ屋に行ってエロビデオを借りてくるように言う。
さすがにそれだけは勘弁してくださいとお願いすると、
なぜか、その代わりとして焼酎の一気をさせられる・・・。

まあ、それくらいで許してもらえたのは幸いなのだろうか・・・。
ただ、やはりどう考えても何か間違っているような気がするのだが・・・。

そんなこんなで、その夜は肉を焼いて酒を飲んで話をしているうちに時間が過ぎていった。
そして二人は空が明け始めたころになってようやく部屋を出て行った。

保田が「それじゃまたね・・・ゲフッ」とゲップをしながら出て行く。その後に中澤が続く。
と、中澤はそっと後ろを振り返り、そして私に向かって一言だけ小さく囁いてから去っていった。

「写真見たで!」
264286 ◆5/w6WpxJOw :03/03/02 00:09 ID:???
写真・・・それはまだドラマの収録が始まったばかりの頃に撮ったものだった。
スタッフの一人が各出演者を収録の合間に撮影したもので、
その写真には私と保田の二人が写っていた。

その頃はまだ彼女のことが気になっていなかったこともあって、
私の表情はあまり乗り気ではない感じだが、
隣に写っている彼女はノリノリでVサインをしている。

しかし、それもその頃の話で、今となってはそれは私の大切な写真になっていた。
そう、それが彼女と二人きりで写っている唯一の写真だったのだ。

そして私はその写真を大切に飾っていた・・・。
ただ、私がそれを飾っていたのは、それを思い出として残そうとしていたからだった。

彼女への想い・・・それは決して叶わぬ恋・・・現実ではない夢・・・。
そうわかっていた。だからこそ、私はその気持ちを心の奥底に仕舞いこみ、
そして、その写真を遠い思い出として飾っていたのだ。

それはそう・・・ドラマの中の私が、彼女から貰ったストラップを
使わずに大切にしまっておいたような感じなのかもしれない。

しかし・・・しかし・・・。

今日彼女と会って私の気持ちは更に高まる一方だった。
そして、いつしかその気持ちは心の奥底から溢れ出していた。
そう、思い出にするつもりだった気持ちが、一気に現実へと引き戻されてしまっていたのだ。

こうして私は、それからその思い出と現実の狭間で葛藤することになったのである・・・。
265番組の途中ですが名無しです:03/03/02 10:21 ID:???
いい雰囲気ですな
266番組の途中ですが名無しです:03/03/02 18:07 ID:???
新作記念揃えage !

ほぼ毎日、娘。たちがナウルに来る・・・!!!
http://news3.2ch.net/test/read.cgi/news7/1046593683/     
267 ◆5/w6WpxJOw :03/03/02 21:02 ID:???
>>265
ありがとうございます。
>>266
新作ですか。ナウルってのが時事的でいいですね。
268287 ◆5/w6WpxJOw :03/03/02 21:02 ID:???
一週間後・・・再び真夜中にインターホンが鳴る。

誰だろ・・・こんな時間に・・・。
そう思ったものの、その音に私は期待を膨らませていた。
そう・・・先週、彼女が帰り際に言った「またね!」という言葉が脳裏に色濃く残っていたのだ。

ドアを開ける・・・。
と、そこには中澤姉さんが立っていた。手にはまたもやスーパーの袋をぶらさげていた。

私の予想は当たっていた。・・・そして、私は自分の鼓動が早く波打つのを感じていた。
その理由はもちろん言うまでも無い・・・。

中澤は「よー!元気してた?」と先週と全く同じ台詞を言うと早速部屋へと上がりこむ。
ただし、私は中澤にはほとんど興味が無かった。
そう・・・私にとって気になるのは、その中澤の後ろに立っている人影なのだ!

彼女が再び来てくれた・・・そう思い、私は嬉しさでいっぱいになっていた。

しかし・・・その嬉しさもすぐにどこかへと消え去ってしまっていた・・・。
その女性は「お邪魔するよー!」と言って中澤に続く・・・。
・・・それは保田ではなかった・・・・。

これは・・・誰だったっけ・・・。見たことはあるのだが名前が思い出せない。
確か、モーニング娘。の最初のメンバーだっただろうか・・・。
いや、追加メンバーの一人だったような気もする・・・。

ただ一つだけわかることは、その女性がモーニング娘。を引退したメンバーの一人だということだった。
269288 ◆5/w6WpxJOw :03/03/02 21:03 ID:???
私が残念そうな顔をしていたからだろうか。中澤がそっと私に耳打ちする。
ニヤリとした目で「残念やけど、今日はケイちゃんおらんで・・・」と中澤。
そう、彼女は私が保田のことを好きということを知っているのだ。

「ああ・・・そうなんですか・・・」と私が答えると、すかさず「・・・うちらじゃ不満かしら」とカウンター。
その言葉に慌ててそれを否定すると、中澤は「冗談よ!」と言って笑顔を見せる。

ただ、冗談と言いながらも、その目は何か本気っぽい感じがしないでもなかった。

・・・。

それにしても・・・保田と中澤はドラマで共演したということもあって、
その二人が先週私の部屋へ遊びに来たのはまだ理解できるのだが、
しかし、今日中澤が連れて来た人物は私とは何の接点も無い人物だ。
そんな見ず知らずの人物を・・・しかもこんな真夜中に連れて来るなんて・・・。

私の中には怒りにも似た感情が湧きあがっていた。
しかし、それは保田がいないことに対する腹立ちなのだろう・・・自分でもそれはわかっていた。
そう、先週突然二人がやって来たのを許せたのも、それは保田がそこにいたからなのだ。

そんな気持ちを抑えながら二人と接する。
中澤はすでに自分の部屋のように自由に部屋を漁っていた。
またHなビデオでも探しているのだろうか・・・あいかわらず懲りない人だ・・・。

一方の女性は、初めて来る部屋ということもあるのだろうか、中澤よりは謙虚に座っていた。
その謙虚な姿勢を見て、ようやく私は自分の腹立ちを抑えることができた。
そして、その女性の名前を必死になって思い出そうとする・・・。
270番組の途中ですが名無しです:03/03/02 22:28 ID:???
市井?後藤?
271番組の途中ですが名無しです:03/03/03 01:28 ID:???
保護しました。
272番組の途中ですが名無しです:03/03/03 18:54 ID:???
山田夫人か?
273番組の途中ですが名無しです:03/03/03 19:50 ID:???
保護しました。
274 ◆5/w6WpxJOw :03/03/03 21:37 ID:???
>>270
どちらでしょうか?
>>271 >>273
毎度ご苦労様です!
>>272
それは誰ですか?結婚した人?
275289 ◆5/w6WpxJOw :03/03/03 21:38 ID:???
その女性の名前は市井紗耶香・・・。
中澤が彼女のことを「さやか」と呼んでいるのを聞いて思い出したのだ。

彼女が娘。の中でどのような位置におり、そしていつ辞めたかについては私は何も知らない。
ただ、私は初期のモーニング娘。において、ただ一人彼女だけは気になっていた。
と言っても、特にファンというわけでもなく、また彼女のことを詳しく知っているわけでもない。
しかし、彼女だけが何か普通の女の子といった感じがして、唯一好感が持てたのだ。
まあ、裏を返せば、保田も含めて他のメンバーには全く好感が持てなかったということなのだが・・・。

ふとそんなことを思い出していると、中澤が早速袋から材料を取り出していた。
そして私に向かって「今日は鳥団子鍋やで!」と自慢気に言う。

またかよ・・・もうお腹一杯なんですけど・・・。

しかし、そんなことが言えるはずもなく、私は仕方なく鍋の用意をせざるを得なかった。
台所の棚から安物の土鍋とカセットコンロを取り出す・・・と、
私の横で市井がまな板と包丁を取り出し、そして材料の下準備をしていた。

私が「ああ・・・自分がやるから・・・座ってて・・・」と言うと、
彼女は「いいっていいって・・・早く慣れたいしね・・・」と答える。

慣れるって・・・それはどういう意味だ・・・???

そんな疑問を思っているうちに準備が整い、中澤が鍋に材料を入れて火をつける。
そしてグラスを用意し、その中にビールを注ぐ・・・。
しかし、中澤は市井の前に置かれたグラスにだけはそれを注がなかった。
そして、その理由について私は驚かざるを得なかった。

「さやかは駄目やで・・・まだ未成年なんやから・・・」
276290 ◆5/w6WpxJOw :03/03/03 21:38 ID:???
市井は未成年だった・・・。これには私もおったまげた。
それまで、彼女のことをもっと大人だと思っていたのだ。

引退してからかなりの時間が過ぎているし、てっきり二十歳を軽く超えていると思っていたのだが・・・。
それに、私は彼女が現役の娘。であった時から、もっと年がいってると思っていた。
ただ、それは彼女のおばちゃん然とした態度によってそう勘違いさせられていたのだろう。

しかし、そんな驚きもほんの些細なものに過ぎなかった。
そう・・・それよりもっと凄い驚きが・・・この後の私を待ち受けていたのだ。

市井が部屋を見渡し、ふと口を開く。
「へー、結構綺麗な部屋だよね・・・。なーんかあの頃のこと思い出すなー・・・」

あの頃というのは、現役時代のことだろうか・・・。私は普通にそう捉えていた。
しかし、この部屋を見てなぜその頃のことを思い出すのか・・・そこまでは考えが及ばなかった。

市井が続ける。
「あっちの部屋は今どうなってんの?・・・ゆうちゃん知ってるんでしょ?」

あっちの部屋・・・?
それは一体何のことだろうか・・・?

尋ねられた中澤がグラスのビールを飲みながらそれに答える。
「そやなー、さやかいなくなってから何回か変わってるからなあ・・・」

・・・?

それに対して市井は遠い目をしながら少し淋しそうに話す。
「そっかー。まあ私がいた時も二回変わったしね・・・。でもあの部屋・・・ほっんと楽しかったなー・・・」

だからその部屋ってのは何なんだよ・・・。
277291 ◆5/w6WpxJOw :03/03/03 21:39 ID:???
「まー、でも今はあんなに人数おるしなー。あん頃の部屋とはちょい雰囲気違うかもな」と中澤。
それを聞いた市井は「そうなんだー・・・。そう言えば今何人いるんだっけー?」と言う。

と、ここでたまりかねた私が中澤に質問する。
しかし、「あの・・・その部屋・・・」と言いかけたところで中澤に睨まれる。
何かお前は話に入ってくるなと言わんばかりの態度だ。あるいはさっさと話せと言っているようにも見える。
慌てて「その部屋って何のことですか?」と話を繋げる。

それを聞いた中澤は唖然とした表情を浮かべていた。
そして、まるで物分りの悪い人間を見るような目で私を見下ろす。
「何言うてんのや・・・あんたドラマのこともう忘れたんかいな・・・」

ドラマ・・・。

その言葉で私はようやくその部屋について思い当たっていた。
しかし、それはあくまでもドラマの中だけの話・・・そう思っていた。

そう・・・まさか、娘。たちが集まる部屋が本当に実在するとは、全く思いもよらなかったのだ!!!

私がそのことを知ってただ呆然としていると、二人は私にかまわずそのドラマの話を始める。
「そう言えばゆうちゃんも出演したんでしょー?」と市井。
それに対して中澤は歯がゆいような表情で「そやけど、でも全然端役やで」と答える。
まあ確かに中澤の出番は少なかったが、それでも結構おいしい役だと思うんだが・・・。

しかし、その次の言葉に私は底知れぬ恐怖と不安を覚えることになった。

「ずるいよね・・・ケイちゃんだけ・・・」

・・・!
278番組の途中ですが名無しです:03/03/04 00:39 ID:???
市井が登場とは
279番組の途中ですが名無しです:03/03/04 17:43 ID:???
保護いたします。
280 ◆5/w6WpxJOw :03/03/04 21:00 ID:???
>>278
私も驚きました。
>>279
ご苦労さまです。
281292 ◆5/w6WpxJOw :03/03/04 21:01 ID:???
市井はそう呟いた・・・。それは意識せずに何気なく出た言葉のようだった。
そして、そう言った彼女の目には、明らかな嫉妬の色が浮かんでいた。
いや、それどころか妬みを越えて憎しみにも似た何かを含んでいるようにも見えた・・・。

これは・・・嫉妬?!
しかも、それは単にドラマに対する妬みだけのことではないように思えた。
そう、その何気ない彼女の態度が、その問題が彼女にとって日常的なものであることを表していたのだ。

そして、それを察したのか中澤が市井をなだめる。
「まあそやけど・・・でもあん子が娘。を支えてたんやから仕方ないんやろな・・・」

その中澤の口から出た「仕方ない」という言葉にも私は戸惑わざるを得なかった。
そう言う中澤の表情にも、何か複雑な感情が見え隠れしているような気がしたのだ。

これは・・・どういうことだろうか・・・?

それまで私は、中澤と保田はかなり仲がいいものとばかり思っていた。
撮影中も非常に仲が良かったし、それにもちろん先週この部屋へ来た時もそうだった。
二人はいつも仲良く接し、そしてたまに喧嘩したりするものの、
それでも二人はお互いに協力し合っているように見えていた。

しかし・・・それも保田が目の前にいる時だけの仮の姿なのだろうか・・・?
そして・・・普段仲がいいように見える娘。たちにも、そうした亀裂があるのだろうか・・・?

わからない・・・。

ただ一つわかることは、二人が保田に対して何らかの良くない感情を持っているということだけだった。
そして、その感情は決してあのドラマだけが原因ではなく、もっともっと深い部分に根ざしている・・・そんな気がしていた。
282293 ◆5/w6WpxJOw :03/03/04 21:01 ID:???
結局その日も先週と同様、二人は朝までこの部屋で過ごし、そして帰っていった。
ただ、私は途中で寝てしまったために、それから二人が何を話していたかまではわからない。
それが保田のことなのか、それとも他のことなのか・・・。

・・・。

翌日、私は別にやることもなく、ふらふらと近所の公園へ行き、そこで一人たたずんでいた。
そしてゆるやかな太陽の日差しを浴びながら、ぼんやりと色々なことを考える。
あのドラマのこと・・・自分の今後のこと・・・保田のこと・・・。
そして、中澤と市井の保田に対する何らかの嫉妬の心・・・。

ただ、それは私が考えて解決するようなものではなかった・・・。
そう、私が何をしようと、それらは私一人では解決することのできない問題なのだ・・・。

近所の牛丼屋で昼飯を済ませ、そして部屋へと戻る。

ドアを開ける・・・。もちろん誰もいない。
それは当たり前のことではあるが、しかし何か淋しいものでもある。
まあ、その分、一人暮らしというのは気ままに過ごせるという利点もあるのだが。

しかし、その淋しさは瞬時に打ち消されていた。そして全身に緊張が走る・・・。
・・・誰かがこの部屋に来た形跡があったのだ!

家を出た時と違い、微妙に部屋の様子が変わっていた。泥棒だろうか・・・?
私はそう思い、あわてて部屋中を調べる。・・・特に無くなっているものは無いようだ。

・・・と、私はふと机の上に一枚のメモが置かれているのに気づいた。
そして、そのメモを見てそっと胸をなでおろす。
ただし、そこには少し残念な気持ちも混じっていた・・・。
283294 ◆5/w6WpxJOw :03/03/04 21:02 ID:???
そのメモを書いたのは・・・そう、保田だった。
彼女は私の留守中にこの部屋に来て、そしてメモを残して帰っていったのだ。

しかし・・・なぜこの部屋に上がれたんだ?
ちゃんと鍵はかけたし、それにここの大家さんは近くには住んでいない・・・。
まさか・・・私の知らないうちに合鍵を・・・???

そんな疑問を抱きながらメモを読む。
メモの書き出しは「親愛なるもーちゃんへ」という言葉で始まっていた。
まあ、それは形式なのだろうが、そうとは言え「親愛なる」なんて書かれると素直に嬉しかったりする。

それから、部屋に来たけど誰もいなかったので掃除をして帰ったことが書いてあった。
ただ、それはありがたいのだが、どっちかと言うと前の方が片付いていたような・・・。
まあ、せっかく彼女が掃除してくれたのだから、素直に感謝するべきなのだろうが。

その後、メモには昨夜来れなかったことを残念がる彼女の気持ちが綴られていた。
ただ、そこに書いてあった「さやかに会いたかったな〜」という言葉に、複雑な気持ちが広がる。

彼女は市井たちの何らかの嫉妬に気づいていないのだろうか・・・。
それとも気づいていて知らないふりをしているのだろうか・・・。

まあ・・・それは私が首を突っ込むようなことではないのかもしれない。
それはそう、彼女たちの問題なのだ。私が関与すべきことではない。

しかし、そうは言っても、私にとって今一番気になるのはそのことだった。
彼女は嫌われているのだろうか・・・憎まれているのだろうか・・・。
そう思うだけで、私はまるで自分のことのように胸が痛むのを感じていた。
284番組の途中ですが名無しです:03/03/04 23:06 ID:???
YBB解禁記念保sy
285番組の途中ですが名無しです:03/03/05 11:25 ID:???
PO☆
286 ◆5/w6WpxJOw :03/03/05 21:59 ID:???
>>284
解禁おめでとうございます!
>>285
ご苦労さまです!
287295 ◆5/w6WpxJOw :03/03/05 22:00 ID:???
翌日・・・この日も一日をぼーっと過ごすのだろうかと思っていた矢先、突然一本の電話がかかってくる。
それは以前働いていたバイト先で一緒だった友人からの電話だった。

そいつはいかにも最近の若者といった感じの奴で、茶髪で流行に敏感・・・。
いつもおしゃれな格好をしていて、まあ、ある意味私とは正反対の人間なのかもしれないが、
ただ、気さくな性格をしており、そしてまた、私と年齢が同じということで、結構仲が良かったのだ。
そのため、彼とは私がドラマに出演するためにそのバイトを辞めた後も何度か遊びに誘われたりもしていた。
もちろん、私がドラマに出演するということは極秘のため、彼は知らないのだが。

その日の電話もそうした誘いの電話だった。
どうやらバイトが休みらしく、もう一人のバイトの仲間と一緒にカラオケでも行こうということだった。
市井と中澤のことで落ち込んでいたこともあって、私は気分転換としてその誘いに乗ることにした。

待ち合わせ場所に行くと、電話をかけてきた彼と、そしてもう一人のバイト仲間がすでに待っていた。
私はいつも通りみすぼらしい格好をしているが、二人はさすがに今時のかっこいい格好をしていた。
三人でスリランカ人がやっているというカレー屋で昼飯を食べ、そしてカラオケへと向かう。

個人的にカラオケは好きなのだが、歌が下手で、更に選曲センスが古いということもあって、
あまりカラオケに行く機会は多くない。そして、その日も数ヶ月ぶりのカラオケだった。

二人は最近の流行の歌を歌い、一方の私は昔の曲や演歌などを中心に歌う。
まあ、普通ならそれは一人だけ場違いという感じなのかもしれないが、
その二人も結構昔の曲なんかが好きな方なので、盛り下がることもなく、
逆に私がその場を盛り上げているような感じだった。

と、私がT-BOLANを歌い終わった後、どこかで聞いたことのある前奏が流れ出した。
そしてマイクを握った一人がノリノリで歌いだす。

「ほんのちょこおっと、なんだけど〜、髪型を変えてみた〜♪」

これは・・・確か・・・モーニング娘。?
288296 ◆5/w6WpxJOw :03/03/05 22:00 ID:???
そっと隣に座る一人に尋ねる。「これってモーニング娘。だよね?」
と、すぐに「ああ、プッチモニな!」という答えが返ってくる。

プッチモニと言えば・・・確か保田が入ってたユニットのはずだ。

「プッチモニって保田がいたユニットだっけ?」
「そう、保田とゴマキと市井の三人・・・今は知らんけど・・・」

それを聞いて私の中に再び複雑な感情が広がっていく。
市井は保田と同じユニットに属していた・・・。
それなのに・・・あの市井の保田への感情は・・・。

どういうことなのだろうか・・・。
同じユニットとして頑張った仲のはずなのに・・・あの二人には深い溝が・・・。

と、そんなことを考えていると、そいつが不思議そうな顔をして話し掛けてくる。
「ん?もう○○、もしかして保田のファンなのか?」
「いや、そうじゃないけど・・・ただ、最近気になってるっていうか・・・」

まあ、気になってると言うか・・・ただ、実際に好きだとはさすがに言えないわな。

「そっか。・・・そう言えばもうじき卒業だよな。でもまあそう落ち込むなって!」
どうやら、その私の暗い顔を見て、そいつは私を保田のファンだと思ったらしい。
そして親切なことに励ましてくれたらしい。・・・まああながち間違ってもいないが。

「モームスももう落ち目やからなー。一番ええ時期に辞めたんとちゃうか?」と彼。
更に「市井なんか保田と同期やのに、知名度売る前に辞めたからなあ」と続ける。
そして、その言葉に私は更に戸惑わざるを得なかった。

二人が同期だって???
289297 ◆5/w6WpxJOw :03/03/05 22:01 ID:???
保田と市井は同期・・・そして同じユニットにも属していた。
それは私にとって初めて知る衝撃の事実だった。
しかし、そんなことは大したことではない。

問題は、そんな二人なのにも関わらず、そこに何らかの溝が存在するということだった・・・。
同期で同じユニット・・・それなのに・・・。

しかし、そうだとすると、市井の嫉妬の理由も何かわかるような気がしないでもない。
二人は同期で同じユニットに属していた・・・。
それなのに市井は早くに娘。を脱退し、それからは鳴かず飛ばずの状態・・・。
一方の保田は、当初は人気も知名度も無かったものの、今やモーニング娘。に欠かせない存在・・・。

そんな保田を市井が妬ましく思うのも当然のことなのかもしれない。
もっとも、それは単に私が勝手に思い描いた憶測に過ぎないのだが・・・。

そんなことを考えているうちに曲が終わり、次の曲が流れ出す。
こうして三時間歌いまくった後、三人は店を後にした。

まだ時間もあり、それに久しぶりに会ったということで、その後は私の部屋に行くことになった。
バスに揺られ、それから少し歩く。
今日誘いの電話をかけてきた方は何度か部屋に来たことがあるが、もう一人は初めてだった。

ガチャリ・・・

ドアの鍵穴に鍵を差し込んで回す。
が・・・逆にドアは閉まってしまった。

まいったな・・・。どうやら鍵をかけ忘れたらしい。
そんな私を見て、二人は「おいおい、無用心だな!」と笑う。

今度は逆に鍵を回し、ドアを開ける。
そして中に入り、後ろの二人を部屋に上げようとしたものの・・・。
290298 ◆5/w6WpxJOw :03/03/05 22:01 ID:???
バタン・・・

私は慌てて部屋の外に出てドアを閉めていた。
しかし、自分自身でもその状態について把握できていなかった。
瞬間的に目の錯覚だとも考えた。が・・・しかし、それは確かに存在した。
そんな私の様子を見て、二人は「ん?どうかした?」と尋ねる。

「いや・・・あのさ、俺・・・ちょっと用事あるの思い出した・・・わりぃ!今日は帰ってくれる?」

それを聞いて二人は怪訝な表情を浮かべることもなく、「もしかして彼女か?」と突っ込んでくる。
まあ、その私の態度を見れば、部屋の中に彼女が来ていたと考えるのが妥当なのだろう。

「あ、いや、彼女ってわけじゃないんだが・・・。でもすまん。今日は無しにしてくれ!」

二人は顔を見合し、「まあ、用事ならしゃーないわな!」と言って、それを了承する。
そして「彼女によろしく!」と言って立ち去っていった。

彼女って言われても・・・全然違うのだが・・・。
それに、それは自分の彼女(実際にはいないが)が部屋にいること以上に隠さなくてはならないことだった。

二人を見送った後、再びドアを開け、そして部屋に戻る。

・・・目と目が合う。
しかし、部屋は静かなままだった。

恐る恐る話しかける・・・。「あのお・・・」
と、それに対してすぐに「はい?」という答えが帰ってくる。

目の錯覚ではなかった。・・・確かにそこには一人の女性がいた。

そう、そこにいたのは・・・!
291番組の途中ですが名無しです:03/03/06 03:57 ID:???
誰なんだろう?保全
292番組の途中ですが名無しです:03/03/06 11:18 ID:???
保存しました。
293番組の途中ですが名無しです:03/03/06 21:24 ID:???
マダカナ〜?
294 ◆5/w6WpxJOw :03/03/06 21:43 ID:???
>>291
答えはこの後すぐ!
>>292
保存・・・ですか?
>>293
お待たせしました!
295299 ◆5/w6WpxJOw :03/03/06 21:43 ID:???
しかし次の言葉が出てこない・・・。
どう話しかけるべきか・・・そして何を尋ねるべきか・・・。

私は自分の部屋にいながら、まるで全然見知らぬ部屋を訪れたかのような感じを覚えていた。
それは多分、その女性が何の違和感も無く、そこに当たり前のように溶け込んでいたからなのだろう。

私はゆっくりと、そして思い切って尋ねる。
「もしかして・・・後藤さん・・・ですよね?」

私がそう尋ねると、彼女はその質問が不思議だったのか、にっこりと微笑む。
そしてしばらく考えてから、「もしかしなくても後藤ですよ」と答える。

・・・と言うことは、やっぱり目の前にいるのは・・・正真正銘・・・本物の・・・後藤真希!?
まあ、それは一目見た時からわかっていたのだが、しかし突然のことで納得できないでいたのだ。

と、今度は彼女の方から質問をしてくる。
「もしかして・・・もう○○さん・・・ですか?」

それに対して私も、「もしかしなくても、もう○○です」と答える。
彼女はその答えが面白かったのか、クスンと笑う。

その微笑む表情を見て、私はそれまで抱いていた彼女のイメージが間違っていたことを知った。
私は彼女はもっと冷徹で冷めた感じの女性だと思っていた。
・・・冷たい視線、冷たい笑み、冷たい表情、冷たい言葉、冷たい性格、冷たい感情・・・そして冷たい反応。
しかし、今私の目の前にいる女性は、そんな私のイメージとは全く正反対の女性だった。

外見は今時の若い子ながら、何かそこにいるだけで部屋中が温かくなるような、そんな雰囲気を醸し出している。
そしてまた、不思議と周りの空気が自然と彼女の色に染まっていくような、そんな感じを一瞬にして受ける。
296300 ◆5/w6WpxJOw :03/03/06 21:44 ID:???
そのため、私はまるで彼女がこの部屋にいることがごく自然なことのように、
そしてまた、この部屋が元々彼女の部屋であるかのような、そんな錯覚をも覚えていたのだ。

彼女は「勝手にお邪魔してすみませんでした」と言うと、
更に「なんだかお友達を追い返させてしまったみたいで・・・本当にごめんなさい」と謝る。

その言葉もまた、私が思い描いていた彼女のイメージとは全く異なるものだった。
そして私は、いつの間にかそんな彼女に好感を抱きはじめていた。

私が「ああ・・・いいっていいって。全然大したことないよ!」と言うと、
彼女は「ご迷惑おかけしました」と言い、更に「これつまらないものですけど、良かったらどうぞ」と言って、
持参したであろうクッキーの詰め合わせを私の前に差し出す。

どうやらこの部屋を訪れるお礼として最初から準備していたらしい。

それにしても、なんて素直でいい子なのだろうか・・・。
そう思うと、それまで彼女の顔が整いすぎていてあまり可愛くないと思っていたことなど忘れ、
いつのまにか非常に可愛らしく私の目に映るようになっていた。

よくよく見ればかなりの美人だ。いや、美人という言葉とは違うのかもしれないが、
とにかく私が知っているどの女性よりも美形という言葉が似合う女性だろう。
まあ、少しプチ整形したっぽい顔つきをしていることは否定できないが・・・。

・・・。

それから少し彼女と話をした後、私は彼女から貰ったクッキーを手にとって彼女に尋ねた。
「せっかくだから、一緒に食べる?」
彼女は嬉しそうに笑って、そして「はい、よろこんで!」と答える。

私は熱いお茶を用意して、彼女と二人でそれをいただくことにした。
297301 ◆5/w6WpxJOw :03/03/06 21:44 ID:???
彼女の持ってきたクッキーはその外観からもかなり高級そうだった。
缶ケースのデザインも非常に洗練されており、上品で優雅な印象を受ける。
そしてまた、少しレトロな雰囲気も漂っており、かなり表現が古いものの、
ハイカラと言うか、モダンと言うか、西洋風と言うか、とにかくそんな言葉が似合いそうだった。

そんなケースから中のクッキーを一つ取り出し、口に入れる。
その味は、なぜだか懐かしい甘さに溢れていた・・・。

そんな恍惚の表情を浮かべる私を見て、彼女は嬉しそうに口を開く。
「よかったあ!お口に合わなかったらどうしようって思ってたの・・・」

その彼女の言葉に私はある種の感動を覚えていた。
「お口に合う」・・・そのような上品な言葉遣いをする女性はてっきり絶滅したものと思っていたのだが・・・。
そしてまた、そんな女性と出会ったのはもちろん彼女が初めてだった。

それから二人でクッキーを食べながら話をする。・・・彼女がこの部屋に来た理由についてだ!

まずは、どうやってこの部屋に入ったかだが、それはほぼ私の予想通りだった。
どうやら中澤姉さんが、いつの間にかこの部屋の合鍵を作っていたらしい。
もちろん、それは私の許可無しに中澤が勝手にやったことだ。ある意味犯罪とも言える。

しかし、中澤はこれまで二度この部屋に来ているが、その間に合鍵を作ることはほぼ不可能に近い。
私が部屋から出たり、一人で寝たり、そして彼女から目を離したことはあったりもしたが、
それでもその隙に合鍵を作りに・・・しかもこんな深夜に合鍵を作ることなどは多分無理だろう。
と言うことは、残った選択肢は、中澤がこの部屋に来る以前から合鍵を持っていた・・・ということになる。

唯一の可能性は、あのドラマの収録のときに、こっそりと私の部屋の鍵を持ち出したという可能性だ。
そして、もしそうだとすると、すでにあのドラマの収録の頃から・・・計画は進行していたことになる。

その計画とは・・・!
298302 ◆5/w6WpxJOw :03/03/06 21:46 ID:???
部屋の外が徐々に薄暗くなる。日没が遅くなったと言っても、まだ6時前だ。
後藤が部屋の時計を見て、「そろそろ帰らないと・・・」と言って私の顔を窺う。
それは多分、私にその了承を得るためなのだろう。見つめられてちょっと照れる。

照れ隠しに「ああ・・・これから東京戻るの?大変だな・・・」と尋ねると、
彼女は「いえ・・・ちょっと近くに寄るところがあるので・・・」と答える。
・・・てっきり東京に戻るのかと思ったのだが、大阪で別に用事でもあるのだろうか。
まあ、それは私には関係ないことなのだろう・・・。

「今日はとっても楽しかったです!」と後藤。
それに対して私も「ああ、俺も楽しかったよ!」と答える。もちろん本心だ。
それを聞いた後藤は嬉しそうな表情を浮かべ、そして・・・。

「ケイちゃんが言ってた通りの人でした!もう○○さん!」

その言葉を聞いて全身に驚きと喜びが走る。ただし、それは後藤の言葉が嬉しかったからではない。
保田が後藤に私のことについて話していたということ、そしてそれがどういう話なのかはわからないものの、
それが決して悪い内容ではないということが、その後藤の言葉と表情から見て取れたからだった。

玄関の外まで彼女を送り、一言声をかける。
「もしよかったら、また来いよ!」
それに対して彼女はにっこりと微笑む。そして・・・。
「はい。もちろんそのつもりです!」

・・・それは私の予想通りの返事だった。
そしてまた、それは彼女たちの計画が事実であることを証明するものでもあった。

「それじゃ・・・お邪魔しましたー!」と言って、手を振りながら去っていく後藤。
彼女がいなくなると、急に部屋の雰囲気が元通りになる。
それはどこにでもある普通の一人暮らしの男性の部屋だった・・・。
299303 ◆5/w6WpxJOw :03/03/06 21:47 ID:???
翌日・・・私はドラマのスタッフに呼び出され、地元大阪のテレビ局へと向かっていた。
どうやら台詞の修正やら吹き替えやらをするらしく、そのことは数日前にすでに連絡を受けていた。
私にとってはすでに終わったものであったはずのドラマが、再び現実のものとなった感じだ。

しかし・・・それは何か複雑なものでもあった。いや、以前の自分ならば、
それは単に普通の作業というだけのことだったかもしれない。しかし、今は違う・・・。

あの頃の自分は現実とは違う、ドラマの中の自分を演じていた・・・。
もちろん、演じていたと言っても、それは演技とは程遠いものであり、
また、監督から何度も「演技をするな!」「普通にしてろ!」と注意されたりもしたのだが。
まあ、それは置いておくとしても、ただ、ドラマの中の自分はあくまでもその役に過ぎず、
それは現実の自分とは全くの別人だったことだけは確かだった。

しかし、今はその時とは違う・・・。
そう、現実世界の私も、まるであのドラマの中の自分のような環境に直面していたのだ。

最初は中澤と保田が私の部屋へやって来た。・・・そう、まるであのドラマのように。
そして次には中澤と市井がやって来て、その翌日には私の留守中に保田が再びやって来た。
そして昨日は後藤が私の部屋へとやって来たのだ。

・・・それは中澤と市井が話していた、あの娘。が集まるという部屋の状況と同じであった。
そう、それまで架空のものだったドラマが、今では私の現実で起こっていたのだ・・・。

ただ一つだけ違うことは、私の部屋の場合は現役の娘。は来ず、
中澤や市井、後藤などの娘。を卒業したメンバーがやって来るということだった。
もちろん、保田はまだ現役なのだが、それも後わずかの話である。

そして、それこそが彼女たちの計画だったのだ!

そんなことを考えながらも無事に台詞の修正を終え、編集機材がひしめく部屋からようやく解放される。
そして部屋を出て廊下を歩いていると・・・突然大きな声で呼び止められる。
300番組の途中ですが名無しです:03/03/07 12:19 ID:???
保護しました。
301番組の途中ですが名無しです:03/03/07 16:26 ID:???
なるほど、そういうことか
ということは・・
302番組の途中ですが名無しです:03/03/08 03:17 ID:???
303番組の途中ですが名無しです:03/03/08 13:01 ID:???
304番組の途中ですが名無しです:03/03/08 15:52 ID:???
保護しました。
305番組の途中ですが名無しです:03/03/08 19:33 ID:???
保護しました!!
306 ◆5/w6WpxJOw :03/03/08 21:08 ID:???
>>300
保護されました。
>>301
どうなんでしょう?
>>302-303
ご苦労さまです。
>>303-304
保護されまくりました。
307304 ◆5/w6WpxJOw :03/03/08 21:08 ID:???
「もーちゃんさん!!!」

この声は・・・!
振り向くと、そこには不思議な衣装に身を包んだ少女が立っていた。・・・そう、紺野だ!
紺野は私に向かって駆け寄ってくる・・・が!

ドテッ・・・
「あいたたた・・・」

衣装が絡まったのだろうか、紺野は廊下でずっこけていた。
この子は運動神経はいいはずなんだが、少しぼーっとしてるところがあったりするのだ。

私が「大丈夫か?」と言って手を差し伸べると、
紺野は「えへへ・・・こけちゃいました・・・」と答える。
ただし、その言葉がバルセロナ五輪男子マラソンでの谷口の名言だということには気づいていないだろう。

紺野は立ち上がってパンパンとお尻を払いながら、私に話しかける。
「もーちゃんさん!ずっと会いたかったんですよー!」

その言葉に思わず「あはは・・・」と照れ笑いを浮かべる。
そう言えば、先日の保田の書置きにも紺野が会いたがってるって書いてあったっけ。
こんなむさくるしい男に会いたいだなんて、なんていい子なんだ・・・。

私にはその紺野の言葉は素直に嬉しかった。そしてまた、その紺野の裏表の無い笑顔も・・・。

「そうそう・・・この前は花束ありがとな!」・・・そう言うと紺野は恥ずかしそうに笑う。
それはドラマの収録が終わった時に紺野が私に送ってくれた花束に対する感謝の言葉だった。
まさか紺野から花束を貰えるとは思ってもいなかったので、それがとても嬉しかったのだ。
そして、紺野と会うのはそのドラマの収録が終わってから初めてのことだった。
308305 ◆5/w6WpxJOw :03/03/08 21:09 ID:???
それからしばらく二人で立ち話をする。
「もーちゃんさん、ひょっこりひょうたん島見てくれましたか?」と紺野。
「あーこの前テレビで見たよ。紺野のダンス結構上手だったぞ!」と私が答えると、
「えへへ、頑張りましたから!完璧です!」と言って私に向かってVサインをする。

うーん・・・完璧ってほどでもないと思うのだが、でもまあ、自分でも満足できる出来だったのだろう。
特にこの子の場合、自分で満足できるまで納得しないというところがあるからな。
ドラマの収録の時も、自分が納得しない部分があると、例え監督がオッケーを出していても、
もう一度やり直させてくださいと自らお願いしていたくらいなのだ。

そんな紺野の頑張りはあのドラマに関わった人間なら誰もが認めることだろう。
監督ですら、その紺野の頑張りを気に入って、紺野の出番を大幅に増やしたくらいなのだから。
もちろん、その分監督は紺野に厳しく当たったが、それも紺野に期待するが故のことなのだ。
そんなことを懐かしく思い出す。と言っても、それはそれほど昔のことでもないのだが・・・。

「おーよく頑張った頑張った!でもあんまり頑張りすぎるなよ!」と一応の忠告をするが、
紺野は「はい!プレッシャーに潰されない程度に頑張ります!」と答えて笑顔を見せる。

ドラマで初めて会った時は私よりも緊張しまくりで潰れそうだった紺野だが、
どうやらドラマの中の自分を演じるうちに、何か得るものがあったのだろう。
その時の紺野の笑顔は仕事を楽しむ余裕ができたことを意味していた。

そんな紺野の笑顔を見ながら、私はふとそれまで抱いていた疑問をぶつけていた。
それはそう、あの市井と中澤の言葉からずっと私の胸にくすぶっていたこと・・・。

「あのさ・・・モーニング娘。って・・・普段は仲悪い・・・とかってこと無いよね?」

その私の言葉に紺野は不思議そうな表情を浮かべるも、すぐに「仲いいですよ!」と答える。
しかし、あれほど人数がいて仲がいいと言うのは常識的にありえないことだろう。
ただでさえ女性というのは、派閥を組んだり相手の悪口を言ったりするのが好きな生き物なのだから。
もっとも、それは私がそう思っているだけのことかもしれないが・・・。
309306 ◆5/w6WpxJOw :03/03/08 21:09 ID:???
そんなことを考えながらもう一度紺野に質問してみる。
「でもあれだけ人数いればやっぱり仲悪いメンバーとかもいるだろ?」
しかし、紺野はその言葉には答えず、黙って下を向いたままだった。
つまり・・・その通り・・・ということなのだろう。

しばらく沈黙が流れる。なんだかまずいことを聞いてしまったようだ・・・。
紺野がここまで黙るということは・・・やはり娘。の仲はそれほど良くないのだろう。

と、突然私の後ろの方から子供がはしゃぐ声が聞こえてきた。
そして、こちらに走り寄ってくる音とともに「こんこん、あーそぼー!」と言う声がすぐ後ろに聞こえる。
振り向くと、そこには辻と加護の二人が立っていた。二人も紺野と同じ不思議な衣装を着ていた。

「わー、ドラマのおじちゃんや!」「おいしゃん、ひさしぶりなのれす!」
二人は私の顔を見て一斉に声を出す。

「おー、久しぶりだな!・・・辻!加護!」・・・そう言うと二人は一気に不機嫌な顔を浮かべる。
「おいしゃん、ののがつじなのれすよ」「まだなまえおぼえてへんのかいな。じしんうしなうでほんま・・・」

しかしそれは予想通りの反応だった。そう、わざと名前を間違えてみたのだ。
「あははは・・・冗談だって!こっちが辻でこっちが加護だろ?・・・それくらいわかるよ!」

そう言うと二人はお互いに見つめ合ってひそひそ話をする。
しかしすぐ近くにいるので何を話しているかは丸聞こえなのだが。
「おいしゃんもひとがわるいれす・・・」
「ほんまや・・・じょうだんにならへんで・・・うちすこしへこんだわ・・・」

まいったな・・・。そう思い、「いやいや・・・悪かったよ。ほら、この通り謝るから・・・」と言って頭を下げると、
二人は勝ち誇ったような表情を浮かべる・・・そして。
「ひっかかったのれす!」
「たんじゅんやなあ。いまのはうちらのえんぎやで!」

どうやら二人の方が私よりも上手だったようだ・・・。
310番組の途中ですが名無しです:03/03/09 09:48 ID:???
311番組の途中ですが名無しです:03/03/09 15:25 ID:???
保全
312 ◆5/w6WpxJOw :03/03/09 19:13 ID:???
>>310-311
ご苦労さまです。
313307 ◆5/w6WpxJOw :03/03/09 19:13 ID:???
辻と加護・・・それに紺野も加えて三人はかなりはしゃいでいた。
辻は私の顔を見て「あいかわらずじみなかおれすね」と言い、
加護は「おじちゃんしそうがでてるで。おはらいでもしてもろたら?」と言い、
紺野はそれを聞いて笑っている。・・・三人は普段も仲がいいのだろう。

と、そんな騒ぎを聞きつけたのか、私の前にまた新たに三人がやって来る。
その三人については私は本当に名前を知らなかった。そしてその顔もあまりかわいいとは思えなかった。
と言うことは、多分五期メンバー・・・つまり、紺野と同期のメンバーだろう。

彼女たちは私に会ったこともないし、それに私のことも知らないので、私を素通りして三人のところへと向かう。
ただ、そこで一つだけ気になることがあった・・・。
辻と加護と三人でいるときに比べ、紺野の表情が少し暗くなったような・・・そんな気がしたのだ。
まあ・・・それはただの気のせいかもしれないが・・・。

それはそうと・・・これだけメンバーが集まっているということは・・・もしや彼女も?

私はついついそんな期待を抱いていた。・・・そしてこっそりと紺野に尋ねる。
「あのさ・・・もしかして保田も来てるの?」
それに対して紺野は小さく頷き、そして「もしかして・・・もーちゃんさん・・・」と言いかけたところで、慌てて話を遮る。
「あーそう、ありがとありがと!」

ふう・・・紺野も薄々気づいているみたいだな・・・。
でもまあ、この子は信頼できるし、別にばれてもかまわないのかもしれないが・・・。

と、突然「おい〜〜〜〜〜っす!」という元気な声が廊下中に響く。
この声は・・・?

振り向くとそこには一人の美少女が立っていた。よっすぃこと吉澤ひとみだ!
一瞬その顔を見つめてしまう。と言うのも、私はモーニング娘。についてはあまり詳しくはないが、
そんな中でも、一番かわいいと思っていたのが吉澤だったのだ。
ただし、それは好きとか嫌いとかいうこととは関係なく、あくまでも外見に関する素直な感想なのだが。
314308 ◆5/w6WpxJOw :03/03/09 19:13 ID:???
実際に見る吉澤は、テレビで見る姿よりも断然かわいかった。
それは紺野のかわいらしさとはまた違い、不思議なかわいさだった。
美少女のオーラというか、とにかく普通の女の子とは別次元の存在のように思えた。
少しほくろが目立つものの、それも彼女にとってのチャームポイントと思えば特に問題はない。
それに少し太ったと言われているものの、そのポッチャリとした体型もまた私にとっては魅力的だった。

彼女は騒いでいた娘。たちを「おいおい、おまいらあんまり廊下でさわぐんじゃね〜ぞ、ベイベ〜!」と叱り、
そして「わかったらさっさと部屋にもどりやがれぃ〜!」と啖呵を切る。

ただ、その言葉には厳しさは全く感じられず、それが彼女の性格をよく表わしているように思えた。
騒いでいた娘。たちもその言葉に「はーい!」と返事をして素直に従う。
まず五期のメンバー三人が立ち去り、そして辻と加護が「おいしゃんバイバイ!」と言って去っていった。

廊下に残ったのは紺野と吉澤の二人・・・。
吉澤はふーっと大きく息を吐いた後、私の方をちらりと窺う。
そして「あれ〜!あれ〜!あれ〜!」と連呼すると、
すぐに「もしかして、もーちゃんって人っすか〜?」とSVC的な文法で尋ねる。

なんで知ってるんだよ・・・。まあ、別にいいんだけど・・・。

「そうだけど・・・」と答えると、
「うわお〜!全然かっけ〜じゃん!俺よっすぃ〜!よろしく〜!」と吉澤。
そして彼女は私に向かって手を差し出す。

なんだか不思議な子だな・・・。そう思いつつも、私はその差し出された手に慌てふためいていた。

一素人なのにこんなかわいい子から握手を求められるとは・・・なんだか照れくさいな。
いつのまにか私はただのミーハーなファンに成り下がっていた。
そしてズボンで念入りに手を拭いてから握手を交わす。

と、そんな私の態度を見て、紺野がすかさず横槍を入れる。
「もーちゃんさん・・・鼻の下のびてますよ・・・」
315番組の途中ですが名無しです:03/03/09 21:17 ID:???
ヤス
316番組の途中ですが名無しです:03/03/10 02:32 ID:???
ゼン
317番組の途中ですが名無しです:03/03/10 08:35 ID:???
揃えage!          
318番組の途中ですが名無しです:03/03/10 19:49 ID:???
319 ◆5/w6WpxJOw :03/03/10 20:06 ID:???
>>315-318
毎日ご苦労さまです!
320309 ◆5/w6WpxJOw :03/03/10 20:06 ID:???
うう・・・この子はなんでいつも鋭いのだろうか・・・。
私はただただ「あははは・・・」と照れ笑いを浮かべるだけだった。

そんな私の中途半端な態度に、紺野がキッパリとした口調で言う。
「後で保田さんに言いつけます!」

おいおい・・・勘弁してくれよ!
ってか、やっぱり紺野は気づいてるんだな・・・。

その言葉に戸惑ったものの、もちろんそれは紺野の冗談なのだろう。
そんなやり取りの後、今度は吉澤が私に対してドラマのことを色々と尋ねる。
そして、次の質問に私はタジタジになっていた。

「やっすぃとキッスしたってマジっすか〜?」 (※やっすぃ=保田のことらしい)

その言葉に思わず咳き込む。この子はいきなりなんて質問をするんだ・・・。

私は何と答えていいかわからず、慌てながら「・・・台本通りなら・・・」と答えていた。
そう、確かに私は、ドラマの中で彼女とのキスシーンを演じていたのだ。

そんな私の混乱ぶりを紺野が面白そうに見ている。
一方の吉澤は「うわお〜!ひゅ〜ひゅ〜だぜぃ、ベイベ〜!」とわけのわからない言葉を叫んでいた。
なんだかなあ・・・。

どうやら、吉澤はドラマの中で保田のキスシーンがあったことに興味があったらしい。
そしてまた、そのキスの相手・・・つまり私にも・・・。
まあ、彼女にとっては誰が生贄に選ばれたのかって感じなのだろうが。

と、後ろから「よっすぃー!なーにしてるのー?」という声が聞こえてきた。
321310 ◆5/w6WpxJOw :03/03/10 20:07 ID:???
そのアニメみたいな声の主は、石川梨華。
テレビで見ると普通なのだが、やはり実際に見るとそれなりにかわいい。
と言っても、やはりそれなりであって、それ以上ではなかった。もちろん私の好みでもない。
ただ、何かわがままぶりっこそうなキャピルルン☆って感じがするのはテレビと同じだった。

その石川の後ろから今度は矢口がやって来る。さすがにミニモニ。(元?)だけあってかなり小さい。
ただし、個人的にぎゃーぎゃーうるさい印象があったのだが、
実際の矢口は何やら一人ブツブツと独り言を呟きながら私たちの横を素通りしていった。

なんかイメージが違うな・・・。もしかして普段は暗いのか・・・?

と、そんなことを考えていると、今度はなっちこと安倍なつみがやって来た。
なっちは石川と吉澤に「何してるんだべさ?」と尋ねる。

おいおい・・・普段は訛ってるのかよ・・・。

その訛りには驚いたものの、さすがになっちはなっちだった。
テレビで見るなっちとほとんど変わらない。なっちは普段もなっちのままなのだろう。
多少性格が悪いという噂も聞くが、私が見る限りではそういう印象は受けなかった。

個人的な感想としては、彼女にしたいとか妹にしたいといった感じではなく、
どちらかと言うと、一家に一匹ペットとして飼いたいというような雰囲気の子だった。
もちろん、そのペットというのはいやらしい意味ではないが・・・。

・・・紺野がなっちと石川に私を紹介する。
それだけならよかったのだが、余計なことに吉澤が「やっすぃとキッスした人っす!」と付け加える。
それを聞いてなっちが思わず吹きだす。・・・何がおかしいんだよ・・・。
一方の石川は哀れみの表情を浮かべる。・・・こいつ見かけどおり腹黒だな・・・。

そんな私たちの横に今度はスラっとした体型の黒い髪の女性がやって来る。
・・・モーニング娘。リーダーの飯田香織だ!
しかし、彼女はこちらを一瞥しただけでそのまま無言で通り過ぎていった。
322番組の途中ですが名無しです:03/03/10 20:32 ID:L1k46JuU
一応、ツッコミを入れさせてもらうと「圭織」ね。
323 ◆5/w6WpxJOw :03/03/10 20:35 ID:???
>>322
ご指摘感謝。ちゃんと単語登録までしてたのに間違えてしまった(鬱
324番組の途中ですが名無しです:03/03/11 09:37 ID:???
325番組の途中ですが名無しです:03/03/11 16:13 ID:???
hogoshimashita
326 ◆5/w6WpxJOw :03/03/11 20:26 ID:???
>>324-325
ご苦労さまです。
327311 ◆5/w6WpxJOw :03/03/11 20:27 ID:???
彼女もまた、テレビの中とほとんど同じような感じで、どちらかと言うと少し怖い印象を受けた。
もっとも、それはリーダーとしての役割によるのだろうが・・・。

その飯田の無言の圧力によるのだろうか、吉澤と石川、そしてなっちが申し合わせたように立ち去る。
結局その場に残ったのは紺野だけだった。

紺野は「皆さん行っちゃいましたね・・・」と呟く。
ただし、その言葉には淋しさはあまり感じられず、どこか安心したような感じだった。

「ああ・・・紺野は行かないでいいのか?」と尋ねると、
紺野は「大丈夫です。まだ時間はありますから!」と答える。

と、後ろから「もーちゃーん!」と言う声が聞こえてきた。
振り返るまでもない・・・この声はもちろん・・・そう、保田だ!!!

しかし、彼女が最初に口にした言葉に、私は少しがっかりしていた。
「ねえねえ、この前鳥団子鍋食べたんだって?」

なんだよ・・・いきなり食べ物の話かよ・・・。
まあ、それが彼女らしいところなのだろうが・・・。
「ああ・・・」と答えると、彼女は「いいなー!あたしも食べたかったなー!」と悔しがる。

なんだか複雑な感じだ・・・。
彼女は私なんかよりも食べ物の方が大事なのだろうか・・・。

いや、そんなことはどうでもいい。問題は彼女のその脳天気ぶりだ!
彼女は市井の嫉妬に気づいていないのだろうか・・・。そしてまた、中澤の何らかの感情にも・・・。

そんなことを考えつつも、私は思い出したように「そうそう、部屋の掃除してくれてありがとな!」と告げる。
その言葉に彼女は嬉しそうな笑みを浮かべる。・・・こういうところは素直なんだよな・・・。
328312 ◆5/w6WpxJOw :03/03/11 20:27 ID:???
と、そんな二人の間に紺野が口を挟む。
「さっきもーちゃんさん、吉澤さんと握手して鼻の下のばしてましたよ!」

・・・おいおいおいおい、それ冗談じゃなかったのかよ!!!
紺野・・・お前ってやつは・・・!!!

その言葉に保田がピクンと反応する。
慌てて言い訳するも、「いやっ・・・ほら、その・・・なんていうか・・・」とまるで言葉にならない。

しかし、後になって冷静に考えると、別に私が言い訳する必要は無かったのだろう・・・。
ドラマの中の役とは違い、実際の私と彼女は別に何でもない関係だし、
それに私が一方的に彼女のことを好きなだけであって、彼女にとっては私が何をしようと関係ないのだ。

そしてまた、そのことを表すかのように、
彼女はただ「ふーん?もーちゃんも結構ミーハーなんだ・・・」と呟いただけだった。

その言葉に少しがっかりするも、それも当然のことなのだろう・・・。
彼女はこのきらびやかな芸能界でもう何年も過ごしているのだ。
そこには私なんかよりも全然かっこよくておしゃれなナイスガイが山ほどいる。
そんな環境にいる彼女にとって、私はただのみすぼらしい一般人にしか映らないのだ。

そしてまた、私が彼女のことを好きになったこと自体がそもそも間違っているのかもしれない。
ついついそんなことまで考えてしまう。私はかなり落ち込んでしまっていた・・・。

そんな私の心境を察したのか、紺野がさりげなく話題を変える。
・・・やはりこの子には全てを見透かされているような気がする・・・。
もっとも、紺野の余分な言葉のせいでこうなってしまったのだが・・・。

ただし、私は気が動転していたこともあって、彼女が紺野の言葉に
少なからず反応したことには全く気づいていなかった。そして、その意味にも・・・。
329番組の途中ですが名無しです:03/03/12 00:31 ID:???
保護しました。
330番組の途中ですが名無しです:03/03/12 07:01 ID:???
保守
331番組の途中ですが名無しです:03/03/12 20:30 ID:???
保守
332 ◆5/w6WpxJOw :03/03/12 21:20 ID:???
>>329-331
保守ありがとうございます。
333313 ◆5/w6WpxJOw :03/03/12 21:20 ID:???
しばらく三人で話をしていると、そこに再び飯田が姿を見せる。
先ほどと同じでやはり不機嫌そうな表情をしている。もっとも、それが彼女の普通の表情なのかもしれない。
「ケイちゃん、ちょっと話があるんだけど、いいかな?」
それに対して保田は「ああ、すぐ行く!」と返事をする。

そして、私の耳元で「明日あやっぺがお邪魔するから!」と囁く。
あわてて「あやっぺ?」と尋ねると、「会えばわかるって!」と彼女。

どうやら明日、また私の部屋に誰かが来るのだろう・・・。
それが誰なのかは名前だけでは思い出せなかったが、とにかく会えばわかることだろう。

彼女はそう告げると、慌てて飯田の後を追いかけていった。
残ったのは再び私と紺野・・・しかし、それも束の間だった。

飯田と保田の姿が消えてすぐ、廊下の奥から紺野を呼ぶ声がしたのだ。
そこにいたのは先ほど見かけた五期メンバーの一人だった。
彼女は「あさ美!何してんの!」ときつい口調で呼びかける。

それに対して紺野は戸惑いながら「は、はい!すぐ行きます!」と答え、
そして「もーちゃんさん、もう行かないと・・・」と言って足早に去っていった。

それにしても・・・同期のメンバーなのになんだか殺伐とした感じがする・・・。
紺野の表情は辻と加護と一緒にいた時とは明らかに違っていた。
と言うことは、あまり考えたくないことだが・・・紺野は同期とうまくいっていないのだろう。

そして・・・紺野がさきほどの質問に黙ってしまった理由・・・それは紺野自身のことだったのかもしれない。
そんな不安を覚える。そう、ドラマの中の私にとって、紺野は妹のような大切な存在だったのだ。
そしてまた、それは現実の私にとっても同じことだった・・・。

私は紺野の後姿を見届けると、その不安を自分の胸にしまいこみ、そしてその廊下を後にした。
334 ◆5/w6WpxJOw :03/03/12 21:22 ID:???
しばらく更新お休みします。
再開までしばらくお待ちください。
335番組の途中ですが名無しです:03/03/12 22:05 ID:???
ニャー
336番組の途中ですが名無しです:03/03/12 23:11 ID:???
保護します。
337番組の途中ですが名無しです:03/03/13 12:41 ID:???
保護します。
338番組の途中ですが名無しです:03/03/13 15:39 ID:???
山崎渉に対する保守
339番組の途中ですが名無しです:03/03/13 22:04 ID:???
保護しました。
340番組の途中ですが名無しです:03/03/14 04:57 ID:???
うんこちんちん
341番組の途中ですが名無しです:03/03/14 06:06 ID:???
保護しました。
342性闘士 ◆jeglAw4g22 :03/03/14 11:15 ID:cVIJI4pP
あげ       
343番組の途中ですが名無しです:03/03/14 14:30 ID:???
保護しました。
344番組の途中ですが名無しです:03/03/14 19:26 ID:???
保護しました。
345番組の途中ですが名無しです:03/03/14 23:31 ID:???
保護しときます。
346番組の途中ですが名無しです:03/03/15 10:50 ID:???
保全してみる
347番組の途中ですが名無しです:03/03/15 14:23 ID:???
保護しました。
348番組の途中ですが名無しです:03/03/15 18:37 ID:???
種も終わったんで保全
349番組の途中ですが名無しです:03/03/15 23:15 ID:???
保護しました。
350番組の途中ですが名無しです:03/03/16 07:59 ID:???
hozen
351番組の途中ですが名無しです:03/03/16 14:34 ID:???
午後の保全
352番組の途中ですが名無しです:03/03/16 18:57 ID:???
夜の
353番組の途中ですが名無しです:03/03/16 22:23 ID:???
保全しとく
354番組の途中ですが名無しです:03/03/17 02:11 ID:???
保護しました。
355番組の途中ですが名無しです:03/03/17 13:52 ID:???
356番組の途中ですが名無しです:03/03/17 18:21 ID:???
保護しました。
357番組の途中ですが名無しです:03/03/17 21:38 ID:???

358番組の途中ですが名無しです:03/03/18 06:27 ID:???
ho
359番組の途中ですが名無しです:03/03/18 15:49 ID:???
保護しました。
360番組の途中ですが名無しです:03/03/18 21:17 ID:???
保全
361番組の途中ですが名無しです:03/03/19 04:31 ID:???
保全は1日1回で十分だと思われ
362番組の途中ですが名無しです:03/03/19 12:16 ID:???
保護しました。
363番組の途中ですが名無しです:03/03/20 20:57 ID:???
保全
364番組の途中ですが名無しです:03/03/21 04:33 ID:???
365番組の途中ですが名無しです:03/03/21 17:45 ID:???
保酒
366 ◆5/w6WpxJOw :03/03/21 22:42 ID:???
>>335-365
保守ありがとうございます。
とても嬉しく励みに思います。

保守についてですが、>>361さんが言っているように、
1日1回で十分だとは思いますが、心配な方はどうぞ。
善意ですので、それは皆さんにおまかせします。

それではお待たせしました。久しぶりに更新します。
367314 ◆5/w6WpxJOw :03/03/21 22:42 ID:???
あれからどれくらいの時間が過ぎただろうか・・・。
私の部屋に監督が初めて訪れた時、その時からこの不思議なドラマは始まった。

私は素人ながらドラマに出演し、そしてそれを無事に成し遂げた。
しかし、そのドラマはそこで終わりではなかった・・・。
そう、現実の私もまた、いつのまにかあるドラマに巻き込まれていたのだ。

そして、今もそのドラマは続いている・・・そう、私の部屋で・・・。

私は目の前に並んだ歯ブラシをぼんやりと眺めていた。
自分のものも含めて7本。そこ――洗面所――には確かに7人分の歯ブラシが揃っていた。
そう、それはこの部屋に来る人数分――ただし、中にはまだ未使用のものもあったが――だった。

とにかく、それは決して虚構のものではなかった。現実に――私の目の前に――存在しているのだ。
横一列にきれいに並んだ色違いの歯ブラシを眺めながら、私はそのことを再認識していた。

この歯ブラシはあやっぺ――元モーニング娘。の石黒彩――が持ってきたものだ。
「これから、ここで寝泊りすることがあるかもしれないからね・・・」という彼女の言葉に
物凄い緊張を覚えたことは鮮烈に記憶に残っている。もちろんそれは保田の存在があってのことだが。

彼女が初めてこの部屋を訪れたのは、テレビ局で保田からその訪問を聞かされた翌日のことだった・・・。
彼女は昼過ぎにこの部屋にやって来た。インターホンの音で慌てて玄関へと向かう。
そしてドアを開けると、そこには彼女――石黒彩が立っていた。

正直、実際に会うまでは彼女の顔が全く思い出せず、
午前中に私の部屋を訪れたある女性を彼女なのだろうかと思ったりもしたのだが、
保田が言っていた通り、一目見てそれが石黒彩だとわかった。

なんだかんだ言ってもやはりモーニング娘・・・。
興味の無かった私の脳裏にも、彼女の姿はちゃんと刻まれていたのだ。
もっとも、現役時代に比べて少し顔つきが穏やかになってはいたが・・・。
368315 ◆5/w6WpxJOw :03/03/21 22:43 ID:???
彼女は大人だった。・・・と言っても、もうすぐ三十路を迎える中澤姉さんの方が年齢は断然上だ。
しかし、まだどこか子供じみた性格をしている中澤姉さんに比べ、彼女は何もかもが大人だった。
少なくとも私にはそう思えた。・・・そして、それもそのはずだった。

彼女はすでに結婚して出産も経験していたのだ。しかし、外見からはそんな様子は微塵も感じられない。
スマートな体型を維持しており、そして母親とは思えないほどの若くてかっこいい格好をしていた。
そして、それは現役時代の彼女の姿とほとんど変わっていなかった。
私の中にある彼女のイメージはかっこいいお姉さん・・・そしてそれは今も変わっていなかった。

「石黒さんって以前、鼻ピアスしてましたよね?」
お茶を出しながら私がそう尋ねると、彼女は懐かしそうな表情を浮かべて笑う。
「あの頃は私も若かったからね・・・」
そう言うものの、彼女は今でも十分に若く見える。しかも、それでいて大人の雰囲気を醸している。
それは私なんかとは全く違う輝かしい世界にいたせいだろうか、とにかく彼女は大人だった。

それからしばらく二人でお菓子――二日前に後藤が持ってきたクッキー――を食べながら話をする。
簡単な自己紹介から始まり、今の生活やら現役時代の話など・・・。
しかし、そこでまた私は驚くことになる。

彼女は私と同い年だった・・・。

それを知って私はただただ自分が恥ずかしくなった。
まだ人生の方向性も定まらず、自分が何をすべきかもわかっていない自分に対して、
彼女はすでにモーニング娘。という一大経験を終え、そして結婚して幸せな家庭を築いていたのだ。
それは消極的で非行動的な私の人生とは全く異なったものだった。

どこをどうすればこのようなかっこいい人生を送れるのだろうか・・・。
そんな疑問を覚えるものの、それは私がまだ大人になりきれていないからなのだろう。

私が彼女と同じ24歳だと告げると、彼女もまた驚いた様子だった。
「そうなんだぁ。態度が落ち着いてるからてっきり私より年上かと・・・」
369316 ◆5/w6WpxJOw :03/03/21 22:43 ID:???
しかし、それは態度が落ち着いていると言うよりも、単にはりきる気力が無いというだけのことだ。
惰性で過ごしていると言うか、何事にもやる気が出せないと言うか、最近は毎日がそんな感じだったのだ。
それはある意味、外から見れば落ち着いているように見えるのだろうが、その実はただ老け込んでいるだけに過ぎない。
そしてまた、彼女はそうした私の老けた雰囲気を見て自分よりも年上だと感じたのだろう。

まあ、それはもちろん悪気があっての言葉ではないし、
それに最近は自分でも自分が老け込んでいるように感じていたので、仕方の無いことなのだろう。

とにかく、彼女は私と同い年だった。
そして、そのせいか、これまで来た中澤たちよりも自然と話は弾んだ。

しばらく同じ年齢――同じ学年という意味だが――の芸能人の話をして盛り上がる。
しかし、タイとの国交を断絶寸前の危機に追い込むほどの影響力を持った浜崎あゆみや
結婚・出産・離婚を全て経験した椎名林檎などが同じ学年と聞くと、
やはり自分一人だけが取り残されているように感じてしまう。
まあ、そういう芸能人と一般人の自分を比較しても意味は無いのだろうが・・・。

そうして打ち解けたせいか、彼女は私のことを「もーちゃん」と呼ぶようになっていた。
私のことを「もーちゃん」と呼ぶのは彼女の他には保田くらいなもんだ。
中澤は「あんた」と呼び、後藤は「もう○○さん」と呼び、紺野は「もーちゃんさん」と呼ぶ。
市井の場合は名前を呼ばずに「ねえ」と誤魔化したような呼びかけだったが、
まあ、どれもそれぞれの年齢層に合った呼び方と言えるのかもしれない。

一方の私は、彼女のことを「あやっぺ」と呼ぶことにした。
最初は「石黒さん」と呼んでいたのだが、彼女の名字がすでに変わっていることと、
同い年なのに仰々しいということで、最終的に「あやっぺ」に落ち着いたのだ。
彼女は呼び捨てでいいよと言っていたのだが、
彼女が人妻ということもあり、呼び捨てだけは遠慮することにした。
370317 ◆5/w6WpxJOw :03/03/21 22:43 ID:???
そんなこんなで順調に話が弾む。・・・もっとも、消極的な性格の私からすると、
積極的な性格の彼女はやはり何か別世界の人間のような気がしてしまう。
そして、そう感じれば感じるほど、話にも隙間が広がっていくように思えてくる。
・・・とは言え、それは彼女に限ったことではなかった。

この部屋に来る元モーニング娘。のメンバーは大体がそういう感じだった。
平凡な生活をしている私と違って、華やかな芸能界を経験しているのでそれも当然と言えば当然かもしれない。
いや、もしかするとそれは芸能界云々に関わらず、一般的な女性の考え方と私のそれとのギャップなのかもしれない。

とにかく、何か私一人だけがずれているように感じてしまう・・・。
ただし、人見知りする私にとってこれほど初対面の人と話が進むのは珍しいことだった。

彼女は夕方までこの部屋でのんびりと過ごし、そして帰っていった。
その帰り際に私に差し出したのがこの――今私の目の前にある――7本の歯ブラシだった。

私の分も含めて7本・・・それはこの部屋に来る人数分だった。

これまでこの部屋に来たのは中澤、保田、市井、後藤、石黒の5人。
ただ、この他にもオリジナルのメンバーで福田明日香という子がいるらしい。
この子は一番最初に娘。を脱退した子であるらしい。
もちろん顔ははっきりとは思い浮かばないものの、一応私もそういう子がいたということだけは覚えていた。

あやっぺの話によると、彼女は娘。を脱退してからほとんどメンバーとは会っていないということだった。
芸能界を完全に引退して学業に専念してるという話だが、高校を中退したという噂もあるあらしい。
とにかく、あやっぺも彼女が今何をしているのかはよく知らないらしい。それにあまり話したくない様子だった。
ただ、それでもこの部屋のことは一応連絡してあるとのことだった。もちろん合鍵も送ってあるらしい。

目の前の歯ブラシを眺めながらその日のことを思い出す・・・。
結局福田という子はまだこの部屋には一度も来ていない。
そしてあやっぺも家庭があるということで、来たのはあの時だけだった。
371318 ◆5/w6WpxJOw :03/03/21 22:44 ID:???
「いつか全員が揃えばいいな・・・そしたら・・・」

それはあやっぺが部屋を出る時につぶやいた言葉だった。
その後にどういった言葉が続くのかは私にはわからないが、
彼女たちにもやはり何らかの過去のしがらみがあるのだろう。

そして、そうしたしがらみがあるからこそ、こうして私の部屋を利用しようとしているのかもしれない。
それが私が見つけた一つの答えだった。

東京に現役の娘。たちが集まる部屋があるということは私も聞いている。
しかし、それは仕事の忙しさを紛らわすための憩いの部屋に過ぎない。
それに比べてこの部屋はどうだろうか。・・・この部屋の存在意義はそれとは違うのではないか。
あやっぺやまだ来ていない福田という子は芸能界からは完全に引退している。
それに中澤や保田はまだまだ仕事で忙しいものの、市井などは仕事も無くて暇らしい。

そんな彼女たちが一つの部屋に集まる理由・・・。
それは決して仕事の忙しさを紛らわすことでは無い。
そしてまた、それは単に同窓会的な集まりを目的としただけのことでも無いだろう。
そこには必ず何らかのちゃんとした理由があるはずなのだ。

そして、それは彼女たちの過去に関係したものなのだろう。
それが何なのかは私にはわからないが、とにかく、彼女たちは今もそれを引きずっているのだろう。
娘。をやめた後も・・・ずっと・・・ずっと・・・。

そんなことを考えながら一日を過ごす。
しかし、そんなことを頭の中で考えたところで私にできることは何も無い。
それに、今はそんなことよりも私の現在のことを考えるべきなのだ。

そう、私はバイトもせずに毎日をぼーっと過ごしていたのだ。
そして、それは私の生活に差し迫った悩みだった。
372性闘士 ◆jeglAw4g22 :03/03/21 22:51 ID:???
キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━!!
373幽霊作家:03/03/21 23:43 ID:???
キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!!!!
374番組の途中ですが名無しです:03/03/21 23:50 ID:???
復活オメ
久々の更新キタ━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!
376番組の途中ですが名無しです:03/03/23 00:03 ID:???
保全
377 ◆5/w6WpxJOw :03/03/23 00:39 ID:???
>>372-375
ありがとうございます!嬉しい反応ですね!
>>376
保全どうもです!
378319 ◆5/w6WpxJOw :03/03/23 00:40 ID:???
「ねえ、この前みっちゃんが部屋に来たでしょ?」
その問いを発したのは保田だった。その隣には紺野がいる。

テレビ局で彼女たちに会ってから一週間後。
私たち三人はきれいな梅の花が咲き誇る大阪城公園にいた。
まだ肌寒い日が続いていたものの、その満開の梅を見にそこそこの人が集まっていた。

「みっちゃんって・・・誰?」
私がそう尋ねると、彼女は困った顔を浮かべる。
どうやら私に説明したところで私が知らない人物に変わりは無いと思ったのだろう。
彼女はその人物について説明するのを諦めて、別の方向から話を切り出す。

「ほら、あやっぺが行くって言ってた日に誰か来なかった?」

ああ・・・あの日か・・・。そう言えば午前中に誰か来たような気がする・・・。
と言うか、あれ・・・もしかして保田の知り合いだったのか?

「ああ、なんか変な女が来たな・・・追っ払ったけど・・・」
そう言うと彼女はやっぱりといった顔を浮かべる。

それはあやっぺ――石黒彩――がうちに来る少し前のことだった。

私はインターホンの音で慌てて玄関へと向かった。
その日はあやっぺが初めてこの部屋を訪れることになっていたのだ。
そして、そのために私は朝から部屋の掃除――元々片付いているのだが――をしたり、色々と準備をしていた。

ドアを開けると、そこには一人の女性が立っていた。
しかし、それはあやっぺでは無かった。
いや、最初はその女性があやっぺかと思ったりもしたが、
私の脳裏にあるかすかな記憶を手繰り寄せ、すぐに全くの別人だと判断したのだった。
379320 ◆5/w6WpxJOw :03/03/23 00:40 ID:???
そんなことから、私はその女性を一喝して追い払った。
いきなり見知らぬ男の部屋に来て「部屋にあげてくれ」と頼むような不審な人物なのだ。
部屋に上げるはずがない。そしてまた、その時の私はそれを新手の宗教の勧誘だと疑っていた。
その女性は自分を歌手だと名乗ったものの、それは初めて聞く名前だった。

「確か、源氏だか平家だかって言ってたけど・・・あれお前の知り合いだったのか?」
そう言うと保田は笑いながら答える。一方の紺野は私たちの話を遠くで聞きながら満開の梅を見ていた。
「源氏じゃなくて平家だよ、平家みちよ。もーちゃん本当に知らないんだね・・・」

半ば諦めたような彼女。もっとも、私がそういう芸能情報に疎いことは彼女も知っている。
「その・・・平家ってのもモーニング娘。だったのか?」

そう尋ねると彼女は哀れみというか、何か不思議そうな表情を浮かべて笑う。
もっともその哀れみは私に向けたものではなく、その平家という女性の知名度の無さに対してのものなのだろう。

それから彼女は私にその女性について説明する。
初期のモーニング娘。がオーディション落選組によって結成されたことは私も知っていたが、
その女性がそのオーディションで勝ち抜いた人物だったらしい。
ある意味、今のモーニング娘。があるのはその女性のおかげなのだろう。

それにしても・・・オーディションに受かったその女性が売れずに落ちぶれ、
オーディションに落選した落ちこぼれが国民的なアイドルグループに成長するとは、皮肉な話だ。

「わりぃわりぃ、てっきり宗教の勧誘か何かだと思ってさ・・・。
お前の知り合いと知ってれば部屋に上げてたんだけどな・・・」

そうは言うものの、例え知っていたとしても部屋に上げていたかどうかはわからない。
私にとって保田の所属するモーニング娘。は特別な存在なのだ。
それは私が彼女のドラマに出演したということもあるし、私が保田のことを好きということもある。
ただ、あの部屋を利用することを黙認――承認ではなくあくまでも黙認――したのは、
彼女たちが抱える何らかの問題に何か役立てればいいと思ったからなのだ。
380321 ◆5/w6WpxJOw :03/03/23 00:41 ID:???
もっとも、その平家という女性がその問題に関係しているとなれば話は別なのだが・・・。

そんな話をしながら満開の梅の合間をゆっくりと歩いて見て廻る。
保田は普段どおりの格好で特に変装しているわけでもなかったが、
紺野は帽子をかぶり、男の子っぽい格好をしていた。
ただ、その格好が逆に紺野のかわいさを引き立てるものとなっていたが・・・。

今日こうして三人で過ごすことになったのは、保田からの突然の電話が原因だった。

「なんか紺野が少し元気が無いみたいだから、もーちゃん、明日ちょっと遊んであげてよ・・・」
彼女は私にそう告げ、私もそれを素直に受け入れた。
仕事もせずに暇ということもある。しかし、それ以上に紺野のことが気がかりだったのだ。
そう、あのテレビ局での紺野の表情、そしてその時に垣間見た人間関係が気になっていたのだ。

実際に会ってみると、紺野は特に落ち込んでいるということもなかった。
私が知っているあのドラマの収録の時の紺野と変わらない。
「もーちゃんさーん!」
そう言いながら手を振って走り寄ってくる紺野の姿は元気そのものだった。
逆にその後ろから慌てて追いかけてくる保田のほうが疲れているように見えた。
まあ、それは年齢的なものかもしれないが・・・。

待ち合わせ場所は大阪城公園。JRの駅から少し離れた場所だ。
時間よりやや早くに二人はやって来た。電話の様子じゃ紺野だけっぽかったのだが、
保田が昨夜大阪でラジオの収録があり、そしてまた、その日もオフだったらしく、
本人曰く「ついでに」やって来たらしい・・・。まあ、その方が私にとっては嬉しいことなのだが・・・。

今日この場所を指定したのは私だ。ちょうどこの公園の梅林が満開ということもあり、
紺野をのんびりさせようと思ってここを選んだのだ。
落ち込んでいる時は都会の雑踏よりも自然に接した方がいい、そう思ったのだが、
こういう場所を選ぶこと自体、後で考えるとやはり私が老け込んだことの証明のようにも思える。
381322 ◆5/w6WpxJOw :03/03/23 00:41 ID:???
待ち合わせ場所からその梅林までゆっくりと話をしながら歩く。
「ほら、あそこ大阪城が見えるぞ」
そう言うと二人は不思議そうに顔を見合わせる。
「わあ、すごーい!」という反応を期待していたのだが、
どうやら二人にとってそれはあまり珍しいものではないらしい。

「あのお、もーちゃんさん・・・何度か見たことあります」と申し訳なさそうに紺野。冷静な口調だ。
そう指摘されて「あーそうなんだ・・・」と言うと、保田が前方を指差す。
そして「何回か来てるからね」と付け加える。
その指の先には大阪城ホールの建物があった。

ああ、なるほどね・・・そういうことか。
そりゃ何度も見てるはずだ・・・。なんたって二人はモーニング娘。だからな・・・。

てっきりここに来るのも初めてだと思っていたのだが、それは私の企画ミスだったらしい。
ただし、満開の梅には二人も満足している様子だった。

一面に咲き誇る満開の梅。それを見てはしゃいでいたのは紺野だった。
「わー、すごい綺麗ですね!」と紺野。
私と保田から離れて一人色とりどりの梅の木々の間へと消えていく。
どうやら私の企画を気に入ってくれたらしい。それを見て少し安心する。

一方の保田もそれなりに梅の花を興味深く眺めている。
ただし、やはり紺野のことが気がかりなのか、それとも自分自身のことで悩みでもあるのか、
例のドラマで京都の紅葉を見た時のように感動を表現することはなかった。

 「もーちゃんもーちゃん!ほら、きれいだよ!あそこあそこ!」

ふとドラマの中での彼女の台詞を思い出す。あの頃は私も無我霧中だった。
わけもわからずドラマの収録をこなし、そして少しずつ彼女に惹かれ始めていた頃だった。

そんな彼女の姿が目に浮かぶ・・・。
382323 ◆5/w6WpxJOw :03/03/23 00:41 ID:???
もっとも、あれは単にドラマの台本に忠実だっただけなのかもしれない。
しかし、あの彼女の台詞が単なる役によるものだったとしても、
実際の彼女もまた、そういう感動を素直に表す女性なのだ。そのことは私もよく知っている。
そして、今日彼女がそうした感動を表さないということは、やはり何か胸につかえているものがあるからなのだろう。
それが紺野のことなのか、それとも彼女自身のことなのかはわからないが・・・。

「ねえ、この前みんなに会ったでしょ、どうだった?」
彼女は梅の花を眺めながらそう尋ねる。
「みんなって現役の連中のことか?」
そう尋ね返すと彼女は梅を見つめたままうんと頷く。

「そうだなあ・・・一瞬だったからなあ・・・でも、なんかみんなそれぞれって感じだったな」
そう言うと彼女は「ふーん」と言ったまま微動だにしない。

何か話が途切れそうな気がして慌てて話を繋げる。
「矢口が暗かったのが意外だったかな?」
そう言うと彼女がようやく話に乗ってくる。
「あははは、もしかして暗いモード入ってた?」
「暗いモード?」
「そう、やぐっぺねえ、いつもは元気なのにたまに暗いモードになんのよ」
なんか凄い性格みたいだな・・・。
私が「はあ・・・」と呟くと、彼女がさらに話を続ける。

「何か見えないものでも見てるような感じでね、独り言呟いてたりとか・・・」
それってなんか精神的な病気なんじゃないのか?
そう思ったもののそれは言わないでおくことにした。

「最初はみんな心配してたんだけどね。・・・変なチョウチョが見えるとか言ってたし」
彼女は笑いながらそう話す。それって笑い事じゃないような気もするんだが・・・。
「でも最近はみんな慣れちゃってね、『あ、また暗いモード入ってるよ!』って思うくらいで・・・」
おいおい、慣れる前に早く病院を紹介してあげろよ・・・。
383324 ◆5/w6WpxJOw :03/03/23 00:42 ID:???
「他のメンバーはどうだった?」と彼女。
それに対して私は一人ずつの印象を話す。

飯田がイメージ通りで怖かったこと・・・。なっちがそのままなっちだったこと・・・。
石川は何かわがままぶりっこそうなイメージのままだったこと・・・。
吉澤はすごい軽やかな性格だったこと・・・。そして矢口が暗かったこと・・・。

彼女はそれを一つ一つ聞きながら笑ったり頷いたり意外な顔をしたりする。
そして一人一人について話し出す。
「カオリはね、仕事場だと自分を抑えてるから・・・少し怖い印象受けるかもね」
なるほど・・・さすがにリーダーだけあって色々と大変なのだろう。
もっとも、テレビを見ている限りでは保田の方が怖がられているように思えるのだが。
「でも普段も無表情だから、初めて会う人は誤解するかもね・・・」と付け加える。
・・・と言われても、あの時の彼女がどちらの姿だったのかはわからない。

そんな疑問を抱きながら次の話を聞く。
「なっちはね、普段もあのままだよ。あの子は飾らない子だから・・・」
そう言う彼女の表情は何かぎこちないように感じる。もしや仲が悪いのだろうか?

「もしかしてなっちとは仲悪いの?」
思い切ってそう尋ねると、彼女は意外にも平然とそれを肯定する。
「良くはないわね・・・」

その言葉に慌ててフォローの言葉を探すも、その必要は無かったのかもしれない。
「でも悪くもないよ。ただ、なっちは必要以上にあたしに近づこうとしないだけだから・・・」

その言葉には悲しみや淋しさ、怒りなどの感情は含まれていなかった。
ただ、ありのままの事実を語っただけなのだろう。そう感じられた。
そして、その言葉から二人の関係がどのようなものかは少しだが想像がついた。
二人は必要以上にお互いに干渉しない・・・つまり、あくまでも仕事上の仲間ということなのだろう。
384325 ◆5/w6WpxJOw :03/03/23 00:42 ID:???
しかしまあ、仲が悪いことも無いということなので、それは安心していいことなのだろう。
そう、モーニング娘。は決して仲のいい友達の寄せ集めグループではないのだから・・・。

それから彼女は吉澤と石川の二人について話す。
吉澤もなっちと同様、必要以上に保田と接することは無いらしい。
ただ、それでも吉澤は何か保田のことに興味を持っているらしい。
それでドラマの中のキスについてしつこく聞いてきたのだろう。

その理由は彼女にもわからないらしいが、何か保田の生き方を理想としているらしい。
もっと別の生き方を見習うべきだとも思うのだが・・・。
まあ、人間は自分に無いものに憧れるという性質があるから、そういうことが理由なのかもしれない。

それから石川の話になる。保田は以前、石川の教育係を務めていたらしい。
それで二人は仲がいいと言うか、それ以来ずっと師弟関係が抜けきれていないらしい。
時に反発されたりもするらしいが、それでもお互いに知った仲ということで、
それなりの関係が続いているとのことだった。ただし、やはりわがままなのは事実らしい。

そこでふと、石川に対して一つの疑問をぶつけてみる。
が、間髪入れずにたった一言「するよ!」と返されてしまう。
まあ、それが当たり前なのだろうが・・・。
それにしても、こんな馬鹿げた質問に戸惑わずに瞬時に答えるということは、
多分その疑問をぶつけられたことがこれまでにも何度かあったのだろう・・・。

そこまで話したところで紺野が戻ってくる。
「もーちゃんさん、凄いですよ。奥までずっと満開です!」と紺野。
さらに「向こうにウグイスの物真似してるおじさんがいました!」と付け加える。
「それは物真似じゃなくて鳴き真似だろ?」と指摘すると、
「そうでした!うっかりでした!」と笑いながら答える。

今日の紺野はとても楽しそうだ。
仕事から解放されてるからだろうか。とにかく元気いっぱいだった。
そして、そんな紺野を見ていて一つの疑問が浮かぶ。
385326 ◆5/w6WpxJOw :03/03/23 00:42 ID:???
そう言えば、この子は保田のことをどう思っているのだろうか。
ドラマの収録でずっと二人の関係を見ていたが、紺野は保田のことを全然怖がっていなかった。
テレビでは他の五期メンバー――顔と名前は知らないが――は保田と距離があるように感じるのだが、
紺野は保田のことをどう感じているのだろうか・・・。

さすがに本人を前にしては聞けないが、それは気になることだった。
と、そんなことを考えていたせいだろうか、紺野がその場から離れようとする。
「また、物真似のおじさんのとこ行ってきてもいいですか?」
どうやら何か感づいたらしい。いや、それとも私と保田を二人にしようと気を回したのだろうか。
紺野は変に鋭いところがあるのだ。少なくとも私に対しては・・・。

「別にいいけど、物真似じゃなくて鳴き真似な!」
私がそう言うと、紺野は「そうでした!また間違えちゃいました!」と言ってテクテクと走っていく。

その後姿を保田と二人で見つめる。
そして、その姿が梅の花に紛れて見えなくなってから彼女に問い掛ける。

「なあ、紺野はお前のことどう思ってるんだ?」
その質問が意外だったのだろうか、彼女は不思議そうな顔を浮かべる。
「そう言うのは本人に聞いてよ、もーちゃん・・・」
それもそうだと納得するものの、彼女は一つだけ答えてくれた。
「そうねえ・・・あたしのこと慕ってくれてるよ。多分誰よりもね・・・」

それを聞いて安心する。と言うのも、それは私が予想していた答えと同じだったからだ。
そしてまた、最後の「誰よりも」という言葉が、二人の信頼関係を如実に表していた。

「そっか。お前はどうなんだ?紺野のこと・・・どう思ってるんだ?」
そう尋ねると、彼女は梅の花を見つめながら逆に私に尋ね返す。
「じゃあ、もーちゃんはあの子のことどう思ってるの?」
そう尋ねられてふと考える・・・。
386327 ◆5/w6WpxJOw :03/03/23 00:43 ID:???
自分は紺野のことをどう思っているのだろうか・・・。
単にドラマの共演者というだけではない。それ以上に何か気になる存在であることは間違いない。
それはドラマの中の役と同様、妹のような存在ということなのだろうか。
とにかく、何か目が離せない、それでいて守ってあげたくなるような存在だった。

そんなことを考えていると、彼女がようやく先ほどの質問に答える。
「多分、もーちゃんと同じだよ。あたしも・・・」

なるほどね。彼女にとっても紺野はそういう存在なのだろう。
ただし――たった一つだが――彼女と私との間には違いがあった。

「あの子ね・・・なんかあたしに似てるなあって思うの・・・」
保田は淋しそうな表情を浮かべながらそう呟く。

紺野と保田が似ている・・・。以前ならその言葉は一笑に付したかもしれない。
しかし、ドラマの収録で二人と接した私にとって、それはなぜか納得のいく説明だった。
もちろん、二人の顔も性格も似ている部分は無い。むしろ全くの正反対と言えるかもしれない。
しかし、何かそこには似ている部分がある・・・そう思えるのだ。

そして、それはあのドラマの中でも語られていたことだった。
あれは確か、姉――演じているのは井川遥――の台詞だっただろうか。
そしてまた、その二人の共通点こそが保田と紺野の二人がメンバーとは別の家に来る理由だった。
もちろん、それはドラマの中の設定に過ぎないのだが・・・。

そんなことを考えながらふと一つの疑問が浮かぶ。
「あのさ・・・お前たちって東京に別荘があるんだよな?」
そう尋ねると彼女は少し戸惑った表情を見せる。
「ああ、それって内緒だったっけ。ほら、中澤と市井からこの前聞いてな・・・」
それを聞いてようやく彼女が話し出す。
「まあ、もーちゃんだから言うけど、確かにあるよ。東京に一箇所、みんなが集まる部屋・・・」
387328 ◆5/w6WpxJOw :03/03/23 00:43 ID:???
そこで私は疑問をぶつける。
「あのさ、ドラマの中だとお前専用の別荘があったじゃん。もしかしてあれって実在する・・・とか?」
そこまで言うと、彼女はなぜか笑いを浮かべる。ただし、そこに答えは無かった。
と言うことは・・・それは本当に実在するのだろう。私はそう確信した。

ただし、そこには一つだけ間違いがあった。
彼女が一言ポツリと呟く。
「昔ね・・・昔・・・。もう昔のことだよ・・・」

それはとても淋しそうな言葉だった。
しかし、そこには懐かしさなどは感じられなかった。
そして更に言葉を続ける。

「もう忘れたわ・・・。あの家のことは・・・」

忘れたってどういうことだ?
何か嫌な思い出でもあったのか?
それとも・・・まさか、その家の男と何かあったのか?
そんな疑問が浮かぶ・・・。

もしこれがあのドラマなら、姉に「もーちゃん、ケイちゃんのことになると必死だよね!」と言われていたかもしれない。
そう、ドラマの中の私と同様、現実の私もまた、彼女のことを想う気持ちは同じだったのだ。

「何か嫌なことでもあったのか?」
そう尋ねる。それを聞いて彼女はくるりと私の方へ向き直り、そして無理に作ったであろう笑顔を浮かべる。
「ううん。楽しかったよ、すごい楽しかった。・・・でもね、でも・・・それじゃみんなに申し訳ないから・・・だから忘れたの!」

その言葉で何となくわかったような気がした。
そう、それが市井や中澤たちとの溝の原因かもしれないと・・・。
388番組の途中ですが名無しです:03/03/23 19:14 ID:???
保全しました。
お約束で
   しないよ。
389 ◆5/w6WpxJOw :03/03/24 00:36 ID:???
>>388
お約束どうもですw
390329 ◆5/w6WpxJOw :03/03/24 00:37 ID:???

「もーちゃんさん、手つなぎましょう!」

その紺野の言葉は突然だった。
イチョウ並木――秋になると一面が黄色く染まる――を歩きながら、紺野がそう提案する。
薄暗い灰色の雲が広がり、冬の名残のような冷たい風が吹いてきたからだろうか。
しかし、私はその紺野の言葉に照れるだけで、その裏にある意図には気づいていなかった。

「いいですよね?はい、手ーかしてください!」
そう言って紺野は否応なしに私の右手を掴み、そして手を繋ぐ。
それにしても、紺野は変なところで行動的だなあ・・・そう思う。

正直、こんなにかわいい子と手を繋ぐことなど、妹のいない私にとっては初めての経験だった。
「しょうがないなあ・・・」と言いながらも、内心は嬉しかったりする。
そんな照れ笑いを浮かべる私の様子を、隣で保田が関心なさそうに見ている。

しかし、すぐにその冷静な保田の顔も――最初から云々は置いといて――崩れ去り、戸惑いの表情だけが残る。
そう、それはまたしても紺野の言葉が原因だった。

「はい!じゃあ次は保田さん!保田さんはもーちゃんさんの左手をつないでください!」

その言葉に彼女は慌てて拒否の反応を見せるも、
結局紺野の勢いに押されて――仕方なくだろうか――私の左手をそっと握り締める。

彼女の温もりが私に伝わる。その温もりは私の胸の鼓動にも直結する。
そしてドキドキという鼓動が体中を伝わる。それは右手と左手から二人にも鼓動が伝わると思えるほどに・・・。

まさか現実の――ドラマではない――世界で彼女と手を繋いで歩くことになるなんて、夢のようだった。
そして、そうした感動とともに、その紺野の策略に改めて感心してしまう。
そう、紺野は私と保田に手を繋がせようとしていたのだ。もちろんそれは私のために・・・。
391330 ◆5/w6WpxJOw :03/03/24 00:37 ID:???
三人でしばらく歩く。右には笑顔の紺野、左には少し戸惑った表情の保田がいる。
それはまさしく両手に花――左の花は多少枯れかかってはいたが――という言葉に当てはまるものだった。
そしてまた、それは私にとってまさに幸せの瞬間だった。
ついつい生きてきて良かったなどと思ってしまう。人間なんて結構単純なものかもしれない・・・。

そしてまた、そんなちっぽけなこと――私にとっては大きなことだったが――で、
私はさきほど保田と喧嘩をしたことなどすっかり忘れてしまっていた。

喧嘩・・・それは少し前の出来事だった。
梅を見ながら二人で話を終え、紺野が戻ってきた時のこと・・・。
彼女は梅を見ながら、「ねえ、これもーちゃんの部屋に飾ろうよ!」と、そう言い出したのだ。
彼女曰く、「もーちゃんの部屋って飾りっ気が無くて淋しいんだもん!」とのことだったが、
もちろんその言葉だけなら喧嘩する必要など無かっただろう。

しかし・・・彼女はそう言うといきなりその梅の枝をポキッと折ってしまったのだ。
その常識の無い行動に私が激怒したことは言うまでも無い。
それから二人で言い争いをする。もちろん正当性は私にある。
しかし彼女も引かない。そしてとうとう、彼女は怒って一人でどっかに行ってしまったのだ。

その場に残された紺野と二人で顔を見合わせる。
「怒っちゃいましたね・・・」と紺野。
しかし、こちらに謝るつもりは毛頭無い。悪いのは向こうだ。
それは紺野も――と言うか、多分誰であっても――わかってくれるだろう。
「俺は謝らないからな、謝る必要も無いし!」
私も気分が高ぶっていたからだろうか、ついついそんな言葉を口走ってしまう。

しかし、紺野だけは冷静だった。
「わかりました。私がなんとかします!」と言って、テクテクと保田の後を追いかける。
392331 ◆5/w6WpxJOw :03/03/24 00:38 ID:???
しばらくその場に一人残されたものの、すぐに二人は戻ってきた。
そして意外なことに彼女はすんなりと私に謝る。
「ごめんなさい」

その言葉に紺野が自信満々の笑顔を浮かべる。
そして一言、「完璧です!」と決め台詞を放つ。

それにしても・・・こんな短い時間でこの保田を説得するとは、紺野って一体・・・?
ついついそんなことを思ってしまう。紺野は私にとって未知数の存在だった。

そんなことがあったことなどすっかり忘れ、三人で手を繋いで歩いていると、
突然ポツポツと小雨が降り始める。

「雨ですね!」と紺野。「ああ」と私。
しかし保田はまださっきのことを気にしてるのか、一人言葉を口にしない。
ただし、彼女の右手が私の左手へと何かを伝えようとしているような感じもしていた。
もっとも、それが何を伝えようとしていたのかはすぐにわかることになるのだが。

「どっか雨宿りでもするか?」と尋ねると、紺野は「そうですね」と答える。
しかし、やはり保田は何も答えない。

と、黙っていた保田がようやく自己主張をする。
と言っても、それは彼女の言葉ではなかった。そう、それは彼女のお腹から聞こえた言葉だった。

グゥー・・・ギュルルルル・・・

その音に私と紺野が顔を見合わせて笑う。
それに対して気まずそうな表情を浮かべる保田。

「保田さん、お腹の虫が鳴いてますね!」と紺野。
それに続いて「やれやれ、食い意地だけは一人前だな!」と言うと、ようやく彼女が口を開く。
「ちょっと、それどういう意味よ!もーちゃん最低!馬鹿!もう知らない!」
393番組の途中ですが名無しです:03/03/24 00:51 ID:???
いい感じ
394番組の途中ですが名無しです:03/03/24 20:42 ID:???
保全
395番組の途中ですが名無しです:03/03/24 22:01 ID:mqlFIhX4
今更ながら、ここの過去ログを読んだんだけど、
1スレの1はもう帰ってこないのか?
めちゃくちゃ惜しいぞ。
396番組の途中ですが名無しです:03/03/25 14:59 ID:???
hozen
397番組の途中ですが名無しです:03/03/26 09:47 ID:???
398 ◆5/w6WpxJOw :03/03/26 20:32 ID:???
>>393
そう言ってもらえると嬉しいです。
>>394
保守どうもです。
>>395
本スレの初代作者さんのことですかね?
彼なら「モュース」スレでサウンドノベル作るとか言ってましたけど。
短いですがフラッシュとサウンドノベルを公開してるかと思われ。
>>396-397
保守どうもです。
399332 ◆5/w6WpxJOw :03/03/26 20:32 ID:???

「大盛りネギダク、ギョク!」

その声で店内は一瞬にして緊張に包まれる。
店員をはじめ、店内にいた客の数人がこちらを睨みつける。
それは何か魔法の言葉でも唱えたような、そんな感じだった。
ちょっとした殺伐・・・そんな雰囲気が店内を漂う。

その言葉を発したのは私の左に座った保田だった。
彼女は平然とそう注文すると、逆にこちらを振り向いた客を睨み返す。
その視線を浴びた客は彼女の睨みに怯えたのだろうか、慌てて目を逸らす。
その様子を見た彼女は表情を変えずに、ただ一言「〜よし!」と呟く。
もっとも、小さな声だったので、その「よし!」の前の言葉は聞き取れなかった。

ここは牛丼の吉野家――飲食店を探しているうちに行き着いた店――だ。
この店のオレンジ色の看板が見えた瞬間、彼女はこの店に入ろうと言い出した。
そして私と紺野の希望も聞かずにそそくさと店に入り、慣れた様子で先ほどの注文を頼んだのだ。
正直、それは初めて聞く注文だった・・・。

それにしても、店に入ってから――正確には看板を見た時からだが――の彼女はまるで人が変わったかのようだった。
目つきが鋭くなり、そして一時も気を緩めない。今もUの字テーブルの向かいの客を睨みつけたままだ。
何か戦場にいるような錯覚をも覚える・・・。ピリリとした空気が痛い。
と言っても、ここはイラクでも北朝鮮でもない。あくまでも普通の牛丼の吉野家だ。

ただ一つだけわかることは、彼女がこの店に何かこだわりがある・・・ということくらいだろう。
その証拠に、店に入る前に私に向かって「素人なら牛鮭定食にしときな!」と吐き捨てている。
それはまだ先ほどのことを根に持っているかのような言葉遣いだった。

吉野家ごときで何玄人ぶってるんだか・・・と思いたくなるが、それはあえて口に出さずにおいた。
それは、今の豹変した彼女にはあまり関わらない方がいいと直感的に悟ったからだった。
400333 ◆5/w6WpxJOw :03/03/26 20:33 ID:???
紺野は普通に「並盛り」を頼み、私は普通に「大盛りつゆだく」を頼む。
すると保田はチッと舌打ちを鳴らし、前の客を睨みつけたまま「素人め!」と呟く。
それは小さな、それでいてドスの効いた声だった。

一体何なんだろうか・・・。そう思ったものの、もちろんそれは口には出さない。
今の彼女は全くの別人なのだ。そう、それはまるで二重人格かと思えるほどに・・・。

彼女は運ばれてきた卵を一心不乱に掻き混ぜていた。
そんな彼女に気づかれないように、そっと右に座っている紺野に話し掛ける。
が、紺野は口に人差し指を当て、「今は話をしない方がいいです」と小さな声で囁く。

どうやら紺野は以前にもこの状況に出くわしたことがあるらしい。
それが何なのかはわからないが、とにかく今は紺野の言う通りにするべきだろう。

三人の前にそれぞれ牛丼が運ばれてくる。
彼女は早速掻き混ぜた卵を牛丼にかけると、物凄い速さでそれを平らげる。
そして私と紺野を残したまま、テーブルに490円を置くと一人颯爽と店を出て行った。

その様子に呆気に取られていると、ようやく紺野が口を開く。
が、それはあまりゆっくりしていられる状況ではなかった。
「早くしないと怒られます・・・」

その言葉に慌てて牛丼を食べ終え、自分の分と紺野の分の代金を払ってから店を出る。
しかし店の前に彼女はおらず、彼女は店から少し離れた場所に立っていた。

なぜ一人で先に店を出たのか、なぜ店の前で待っていないのか、
聞きたいことは山ほどあったが、それは何か聞いてはいけないことのように感じた。

が、当の本人は先ほどまでと打って変わってケロっとしていた。
そして、いつも通りの――怒ったように見える――笑顔を浮かべながら「牛丼おいしかったね!」と囁く。
401334 ◆5/w6WpxJOw :03/03/26 20:33 ID:???
この豹変ぶりは一体???

しかし、その意味を知るのはそれから数時間後のことだった。
紺野に聞いた話では、彼女は吉野家に何かこだわりがあるらしい。
いや、こだわりと言うか、何か彼女なりのルールがあるらしいのだ。

紺野は以前にも他のメンバー数人と吉野家に連れて来られたことがあったらしいが、
その時も「吉野家ってのはもっと殺伐としてるべきなんだよ!」とか、
「馴れ合いは厳禁!」といった注意を受けたらしい。

よくわからないが、とにかく彼女にとって吉野家とはそういう場所――ある意味戦場――なのだろう。

昼食を食べ終えた後、三人でカラオケへと向かう。
本当ならもっと行きたい所――紺野を連れて行きたい所――があったのだが、
あいにくの天気ということと、保田がどうしても行きたいということでカラオケに決まったのだ。
保田曰く、「最近歌ってないから」という理由らしいが、
それは「仕事で」ということではなく、「プライベートで」という意味なのだろう。

正直、プロの歌手である二人とカラオケに行くというのは滅多に無い機会だろう。
それにそれは歌が下手だと悩んでいる紺野の力量を見る絶好のチャンスでもあった。
そう、保田の存在――彼女との喧嘩や彼女の豹変ぶり――によってすっかり忘れてしまっていたが、
今日は落ち込んでいる紺野を励ますためにこうして三人で過ごしているのだ。
そして、カラオケはその目的に一応沿ったものだった。

カラオケ店に入る。
と、いきなり受付の男性――自分と同じ年くらいだろうか――から声をかけられる。
どうやら保田の存在に気づいてしまったらしい。

それもそのはず、今日の彼女は全く変装をせずに普段通りの格好をしていたのだ。
ある意味、これまで誰からも気づかれなかったことの方がおかしかったのかもしれない。
402335 ◆5/w6WpxJOw :03/03/26 20:33 ID:???
「あのお・・・もしかして保田さんですよね?」
その店員の言葉に彼女はとぼけた反応を見せる。
どうやらすでに演技が始まっているらしい。

その彼女の様子に私もフォローとして演技に参戦する。
素人とは言え、一応私もつい先月までドラマの収録に参加していたのだ。

「あはは・・・お前よく間違われるな!よっぽど華が無いんじゃないのか?」
そう言うと、彼女はムスッとした表情を浮かべて反論する。もちろんそれも演技だ。
「何よ!あたしの方が全然かわいいでしょうが!」
なんとも真に迫る演技だ。その言葉に私も続く。
「まあ世の中には色んな好みの人がいるからな・・・」
そう言うと彼女はまるで本当に怒ったかのような表情を見せる。
「何よそれ!あたしの方が100倍かわいいでしょうが!ほくろの位置だってあたしの方が上品でしょ!」
と、そこまでやり合ったところで今度は紺野が演技に加わる。
「あのお・・・私もモーニング娘。の紺野ちゃんに似てるって言われるんですけど、似てませんか?」
その逆方向の質問に今度は店員が戸惑う。

紺野、グッジョブ!!!

どうやら――と言うか予想通りと言うか――店員は紺野のことをよく知らなかったらしい。
「そう言われれば似てるかもしれませんね・・・」と曖昧に答える。

それに対して紺野は「うーん、自分では似てると思うんだけどなあ・・・どうなんだろ」と残念そうな表情を浮かべる。
結局その紺野の機転の利いた演技によってその場はやり過ごすことができた。

案内された部屋に入った途端、紺野がまるで子供のように――と言っても実際子供だが――はしゃぐ。
「もーちゃんさん、見ました?見ました?店員さんすっかり騙されてましたよ!」
そしてもちろん、「完璧です!」と決め台詞を放つことを忘れない。今日二発目だ。
どうやら自分の演技が上手くいったことが嬉しかったのだろう。それは私も同じ気分だった。
しかし、その部屋には一人だけ冴えない顔の人間がいた。それは・・・。
403番組の途中ですが名無しです:03/03/27 00:58 ID:???
グッジョブ!
404番組の途中ですが名無しです:03/03/27 10:38 ID:???
保全しました。
405 ◆5/w6WpxJOw :03/03/28 01:15 ID:???
>>403
サンクス!
>>404
保全感謝!
406336 ◆5/w6WpxJOw :03/03/28 01:19 ID:???
カラオケを終えて近くのゲームセンターで時間を潰す。
なんでも彼女たち二人は夕方にどこか行く所があるらしい。
それがどこなのかはわからなかったが、その話の時に紺野が早口になったことを考えれば、
多分どこかで美味しい御飯でも食べるのだろう。
そう、紺野は食べ物に関係する話になると、途端に早口になるのだ。
ドラマの収録の時も、ロケ弁を食べている時の紺野はまるで別人のようだった。

「もーちゃんさん、ザンギって知ってます?」
そう私に尋ねる紺野。それはドラマの収録の時のことだった。
「なんだそれ?」
そう言うと紺野はやっぱりといった表情を浮かべ、そして早口でまくし立てる。 (※以下、二倍速でお聞きください)

「あのですね、北海道では鶏のからあげのことをザンギって言うんですよ!
私てっきり共通の言葉だと思ってたんですけど、あれって北海道だけだったんですよ!
飯田さんも安倍さんもザンギ知ってるんですけど、他の人は知らないんですよ!
私びっくりしちゃいました。だってずっとザンギだと思ってましたから!
それでですね、私ザンギの語源とか調べてみたんですけど、これが意外なんです!
アイヌ語かと思ってたらどうも中国語らいしんです。色々説はあるんですけど、
炸鶏(ザーチー)や炸子鶏(ザーツゥチー)、あるいは揚鳥(ジャージー)が訛ったっていう説が有力らしいんですよ。
その他にも鶏肉をザンギリにするからザンギになったって説なんかもあるんですけどね。
もーちゃんさんはどれが正解だと思いますか?私はある意味どれも正解じゃないような気がするんですよね。
そうそう、以前インターネットの掲示板で見た説ではですね、からあげは鶏の肉だけど、
ザンギはペンギンの肉で両者は別のものっていう意見があったんですけど、さすがにそれは違いますよねえ!
だっていくら北海道が寒いっていっても、ペンギンは生息してませんからね!」
407337 ◆5/w6WpxJOw :03/03/28 01:19 ID:???
そこまで言うと紺野はようやく言葉を止め、私の言葉を待つ。
「あー、からあげのことザンギって言うのか。・・・そう言えば居酒屋のメニューで見たことあるような気がするな」
そう答えると紺野が再び口を開く。
「そうなんですか。なんか北海道だけじゃなくて本州でもザンギって言う地方はあるらしいんですけどね!」
よくこんな些細なことでここまで真剣になれるもんだ、と感心する。

そんな様子を少し離れた場所から保田が笑いながら見ていたことを覚えている。
彼女の表情からすると、紺野は以前にもザンギについて熱く語ったことがあったのだろう。

そのあまりの紺野の白熱ぶりに、思わずからかいたくなってしまう。
「そう言えば居酒屋のメニューには、ザンギはペンギンの肉って書いてあったぞ!」
そう言うと紺野は目を大きく見開いて驚いたような表情を浮かべる。
「本当ですか?やっぱりペンギンだったんですか?じゃあ私今までペンギン食べてたんですか?」
その真剣な表情に思わず爆笑してしまう。
慌てて「冗談だよ!」と言うと、「もーちゃんさん人が悪いです!一瞬信じてしまったじゃないですか!」と紺野。

そんなやりとりを思い出す。紺野にとって食べ物というのはそれほど大切なものなのだろう。
408338 ◆5/w6WpxJOw :03/03/28 01:20 ID:???
しばらくゲームセンターで三人で遊ぶ。ここは穴場らしく、私たちの他に数人がいるだけだった。
元々ゲームセンターはあまり好きではないのだが、この三人で過ごすとなればそれは別だ。
保田とジョッキーゲームをしたり、三人でレーシングゲームをしたりする。
ジョッキーゲームは私が勝ったものの、レーシングゲームでは唯一免許を持っている私が敗北。
保田から「もーちゃん運転下手すぎ!」と言われてしまったほどだが、
しかし実際に車を運転するとなると、二人は最初にぶつけた時点で即死していると思うのだが・・・。

それから保田はUFOキャッチャーに金をつぎ込み、ようやく一つのぬいぐるみ――ドーモ君人形――をゲットする。
結局その人形は私の部屋に飾られることになるのだが、それはまた後の話・・・。
一方の紺野は「もーちゃんさん、一緒にプリクラとりましょう!」と誘ってくる。
さすがに恥ずかしいのでそれだけは遠慮したものの、しかし紺野は諦めないらしく、
「今度会った時は絶対にとりますからね!約束ですよ!」と強引に約束させられてしまう。

と、そんな紺野に対して忘れないうちに感謝の気持ちを伝える。
それはそう、今日のあの並木道での出来事――手をつないだこと――に対する感謝の言葉だった。
しかし、紺野はキョトンとした表情を浮かべるだけだった。そして・・・。
「あのお・・・あれは別にもーちゃんさんのためじゃなくて・・・」

俺のためじゃないだって???・・・じゃあ、あれは・・・???

そこまで言ったところで紺野が慌てて口をつぐむ。
そう、ドーモ君人形を意気揚揚と掲げた保田がやって来たのだ。
409339 ◆5/w6WpxJOw :03/03/28 01:20 ID:???
「ほらほら!ドーモ君だよー!いいでしょ!もーちゃん欲しい?欲しい?」

そう誇らしげに自慢する彼女。素直と言うか、単純と言うか、こういうところがかわいいんだよなあ・・・。
そう思ったものの、しかしその時の私には、それ以上に紺野の言葉が気になっていた。

まさかとは思うが・・・その言葉の先には・・・もしかして・・・?

しかし、結局その言葉の意味を知ることは無かった。
そして、その日はそのまま終わりを迎え、私は一人で家路へと向かった。

二人はどこかで美味しい御飯でも食べるのだろう。
どうせなら私も一緒に連れて行ってくれてもいいのに・・・とも思うが、
まあ、今日あれだけ一緒に過ごしたのだ。二人だけの時間があっても別にかまわないだろう。

帰る途中、今日あったことを思い出す・・・。
紺野を励ますという目的だったものの、結局自分が楽しんでいたように思える。
まあ、紺野も楽しんでいる様子だったし、いい気分転換になったのかもしれない。
カラオケでも紺野はそれなりに上手――と言ってもプロで通用するかどうかは疑問だが――に歌っていたし、
そう素直に伝えた時の紺野はとても嬉しそうだった。
それに紺野が歌が下手だというのは、踊りながら歌っている時のことだということもわかった。
保田曰く、踊りながら上手に歌うには「度胸と体力、そして骨格」が必要らしい。
まあそれは冗談なのだろうが、確かに保田はその条件を満たしていると言える。

そんなことを思い出しながら部屋へと帰り着く。
鍵を開けて部屋に入る・・・が、部屋には明かりがついていた。そして玄関には女性ものの靴が一足きれいに並んでいた。
と言うことは、誰か――もちろんこの部屋の合鍵を持っている一人だ――がこの部屋に来ているのだろう。
それも玄関に散乱していた私の靴まで揃えてあるところを見ると、それはかなり絞り込めるかもしれない。
そして、その私の予想は当たっていた・・・。しかし・・・しかし・・・。

まさかそこにとんでもない衝撃が待ち受けていようとは・・・その時の私には全く思いもよらなかったのだ・・・。
410幽霊作家:03/03/28 09:40 ID:???
誰だろう(・_・?
411番組の途中ですが名無しです:03/03/28 17:20 ID:???
骨格(w
412 ◆5/w6WpxJOw :03/03/28 19:00 ID:???
>>410
コメントは控えさせて(略
>>411
意外にも大事らしいです。
413340 ◆5/w6WpxJOw :03/03/28 19:00 ID:???
昼に降った小雨も完全に上がり、雲の隙間から星が瞬いている。
空気はひんやりと冷え、どこか新鮮で心地良く感じる。
目の前をタバコの白い煙が広がり、そして空気に溶けていく。

こうして公園のベンチに座ってタバコを吸っていると、なんだかあのドラマのことを思い出す。
あれは早朝の公園だったものの、夜の公園もまた静かで落ち着く場所であるのは同じだった。

しかし、私の頭の中には先ほどの出来事がまだ整理できずにそのままの形で残っていた。
それはどう考えても納得できないことだった。そして、納得したくないことでもあった。

辺りはすっかり暗くなっている。もうこの公園に来てから一時間くらいが過ぎただろうか。
それは頭を冷やすため、落ち着くため・・・と、自分ではそう思ってのことだったが、
結局はあの部屋から・・・あの出来事から逃避したということに他ならない。
そう、私は逃げ出してきたのだ・・・。そして・・・それから先のことは全く考えてもいなかった。

・・・と、ふと後ろに人の気配を感じる。
振り返ると、そこには彼女――そう、後藤真希――の姿があった。
そして、彼女――と言っていいのだろうか――はただ黙ってその場に立っていた。

しばらく沈黙が続く・・・。
しかし、私には何も言う言葉が無かった。そして、それは彼女もまた同じだったのかもしれない。
その状況はかなり辛いものだった。

公園に隣接する遊歩道――この公園は川沿いにある――を数人の人が行き交う。
その行き交う人たちを見ながら、私は意を決して彼女に声をかける。

「立ってるの辛いだろ?・・・座ったらどうだ?」
そう言うと彼女は黙ったままコクリと頷き、そっと私の横に座る。
その彼女の横顔を見つめながら、やはり信じられないという思いだけが膨らんでいく。

そう・・・まさか、こんなにかわいい子が・・・!
414341 ◆5/w6WpxJOw :03/03/28 19:00 ID:???
話は少し遡る・・・。

保田と紺野と三人で過ごした後、私は自分の部屋へと戻った。
玄関には女性ものの靴があり、部屋の明かりがついていたことから、すぐに誰かが来ていることはわかった。
しかし、部屋――ここはワンルームだ――には人の姿は無く、物音のあった洗面所を覗く・・・。
そして、それが全ての出来事の始まりだったのだ!

洗面所のドアを開けると、そこには一人の女性の後姿があった。
サラッと伸びた栗色の長い髪。スレンダーな体型。振り向かないでもわかる。それは後藤だった。

「よ!来てたのか!」・・・そう声をかける。
今日一日楽しかったこともあり、その声はかなり陽気だったと思う。もちろんその時までは・・・だが。
しかし、彼女は一向に私の方を振り返ろうとしなかった。そして、何かを隠すように慌ててゴソゴソと手元を動かす。

その動作を不思議に思い、「ん?どうかしたのか?」と語りかけながら、
彼女の手元を見ようと体を斜めに傾けて、それを覗き込む。
彼女の体によって直接は見えなかったものの、しかし・・・。
鏡に映った彼女のその手元を見て・・・私は一瞬にして凍り付いてしまった。
「おまえ!・・・そ、それって・・・・まさか!」
しかし、彼女は何も答えず、ただただ鏡に映った彼女の表情が青ざめていくのが見えるだけだった。

呆然としながら一人部屋に戻り、それが何なのかを必死になって考える。
・・・しかし、出てくる答えは一つしか無かった。
そして、そうなると全ての物事が一瞬にしてその暗い闇の中へと吸い込まれていく・・・。

私の部屋に彼女たちが来るようになった理由・・・それも、もしかするとそういうことなのだろうか・・・と。
そしてまた、そうだとすると、それは彼女だけではなく他のメンバー――保田も含めて――にも疑いが広がることになる。
私の思考回路頭は次々と悪い方向へと連鎖し、そしてただただ戸惑いと混乱、そして怒りが残るだけだった。

それは決して認めたくないこと・・・そして許せないことだった。
しかし、私は確かに見たのだ。そう・・・彼女の手元にあった注射器を!!!
415番組の途中ですが名無しです:03/03/28 21:32 ID:???
まさか某スレと同じオチじゃないだろうな・・・
416番組の途中ですが名無しです:03/03/28 23:02 ID:???
揃えage! 
417番組の途中ですが名無しです:03/03/29 16:39 ID:???
ニャー
418 ◆5/w6WpxJOw :03/03/29 22:33 ID:???
>>415
同じオチというか・・・事実は一つ・・・なのです。
>>416
久しぶりにご苦労様です!
>>417
ワンワン
419342 ◆5/w6WpxJOw :03/03/29 22:33 ID:???
芸能界・・・そこには様々な誘惑の魔の手が待ち受けている。
クスリ――薬物――の汚染はその典型的な――それでいて最も非道な――例だ。
それは役者・歌手・タレントを問わず、いつ誰の元に訪れるかわからない。
もちろんそれが例えアイドルであろうと、その魔の手は決して遠慮することは無いのだ。

そして・・・彼女もまた、そんな一人なのだろうか・・・と、そんな不安を覚えていた。

しばらくして、青ざめた表情のままの後藤が部屋へ入ってくる。
そして私の前に座ると、小さく、震える声で私に話しかける。
「お願いです・・・見なかったことにしてくれませんか?」

見なかったことと言われても、見てしまったものはどうしようもないことだろう。
それに、例えどんな人間であろうと、私にとってそれ――クスリの使用――は許せないことだった。

「悪いけど・・・それはできない。・・・例えどんな理由があっても・・・クスリだけは駄目だよ・・・」

そう言うと彼女はしばらく考え込む。そして再び口を開いた彼女は別人のようにがむしゃらだった。
「クスリじゃないんです!本当です!本当にクスリじゃないんです!お願いです!信じてください!」

そう言う彼女の様子はまさに必死としか言い様が無かった。
泣くことも忘れて、何度も何度も声が枯れるまでクスリじゃないと言い張り続ける。

もっとも、それも当たり前のことだろう。クスリをやっていることがばれてしまえば、
それは芸能界から追い出されることだけではなく、人間としても終わりを迎えることになるのだ。

しばらくして彼女の言葉が突然止まる。
そして、意を決したのか、私に向かって小さな声で呟く。
しかし、その言葉を私が信じるはずが無かった。
それは絶対にあり得ない――誰が聞いても下手な言い訳と思うだろう――ことだったのだ。

「私・・・本当は・・・男なんです・・・」
420343 ◆5/w6WpxJOw :03/03/29 22:33 ID:???
彼女は確かにそう呟いた・・・。

最初は下手な言い訳だと思った。・・・しかし、その彼女の目は真剣そのものだった。
まっすぐに私を見つめる。それは決して嘘や冗談の類ではなかった・・・。
ただし、ある意味・・・クスリのせい・・・とも思えたが・・・。

まだどこかでそのように疑いながらも、私はその彼女の言葉を慎重に確かめる。
「男って・・・それ・・・どういうことだ???」
そう尋ねると、彼女は覚悟を決めたのか、ゆっくりと一言一言確かめるように語り出す。

性同一性障害・・・。最近一般にも知られるようになった医療用語だ。
簡単に言えば、生まれつき体と心の性別が一致しない症状・・・という感じだろうか。
そして、彼女もそうした悩みを抱える一人だったのだ・・・。

しかし、そうは聞いてもそう簡単に納得することはできない。
彼女の外見はどう見ても女性――それもとびきりかわいい女性――にしか見えないのだ。

そんな私の様子を見て、彼女が小さなポーチからある物を取り出して見せる。
それは先ほど私が目撃した注射器と、そして数種類の薬――これは普通の薬剤に見える――だった。

その注射器を見て再び私の中に先ほどの衝撃と不安が蘇る・・・。
しかし、彼女はその注射器と薬を私の前に差し出す。まるで確かめてくださいと言わんばかりだ。
そう、それがクスリであろうと、別のものであろうと、そこにこそ唯一の真実があるのだ。

そして・・・そこには私が思い描くクスリ――白い粉末状の――は存在していなかった。
カプセルや錠剤、そしてスポイト状の容器に入った液体――これを注射していたのだろう――があるも、
それらは決して怪しいクスリには見えなかった。そしてまた、その薬剤が入っていた白い紙袋には、
普通に病院の名前が記載してあり、薬剤名や処方の注意書きなどが記されていた。
しかし、それで疑惑が全て払拭したとは言い切れない・・・。

そう、それはまた新たな疑惑の始まりに過ぎなかったのだ。
421番組の途中ですが名無しです:03/03/30 03:46 ID:???
保護しました。
422幽霊作家:03/03/30 13:13 ID:???
おっΣ( ̄ロ ̄;)
これはかなりうれしいです!!!
423番組の途中ですが名無しです:03/03/30 22:08 ID:???
                                                        .∀
424 ◆5/w6WpxJOw :03/03/31 06:03 ID:???
>>421
保護されました。
>>422
どうもw
>>423
なんじゃろ?
425344 ◆5/w6WpxJOw :03/03/31 06:04 ID:???
公園のベンチに座り、横にいる彼女を静かに見つめる・・・。
街灯に照らされた彼女の横顔は、世界中のどの女性よりも美しく、そして何より女性らしく見えた・・・。
どう見ても男には見えない。それは彼女になら許してもいい――何をだ!――と思えるほどだった。

しばらくの沈黙の後、先に口を開いたのは彼女だった・・・。
「私・・・小さい頃から、自分が女の子なんだって・・・そう感じてて・・・」
それは淡々とした――それでいてしっかりとした――口調だった。

それから彼女はこれまでの経緯を私に話し出す。
そして、私はその話によって、彼女がこれまでどれほど悩み、そして苦しみ続けていたかを知ったのだった。

それは決して言葉では言い表せないほどの苦悩であったに違いない・・・。
それなのに・・・私は・・・。

私はいつしか自分の行動を恥じていた・・・。
そう、あの部屋から逃げ出したかったのは、私ではなく彼女の方だったのだ。
私にばれてしまったことで、彼女がどれほどの絶望感に包まれたか・・・。
しかし、彼女は逃げ出さなかった。いや、彼女には逃げ出す場所が無かったのだ。

そんなことにも気づかず、私はただ一人あの状況から逃げ出してしまっていた・・・。
彼女の力になってあげようともせず・・・ただ自分だけが逃げ出していたのだ。
そう、本来ならば、あの部屋の主である私こそが、彼女のよき理解者になってあげるべきだったのに・・・。

私はようやく落ち着きを取り戻すことができた。・・・それは彼女が私のことを信頼し、
そして私に全てのことを話してくれたから――それしか方法が無かったのだろうが――だった。

「なんでも相談に乗るよ・・・」
その言葉で安心したのだろうか、彼女はようやく――それまで忘れていたであろう――涙を流す。
「ありがとう・・・もう○○さん・・・」
その涙は公園の街灯に照らされ、この世の物とは思えないほど綺麗に輝いていた。
426345 ◆5/w6WpxJOw :03/03/31 06:04 ID:???
私はしばらくその彼女の涙に見とれていた。
公園には私たちの他に人はおらず、二人の周りは静寂に包まれていた。

しかし、その静寂も長くは続かなかった・・・。
公園の入口に二台の原付バイクが入って来て、そこから若者の騒ぐ声が聞こえてきたのだ。
その様子を遠くから観察する。そこには三人の若者――と言うかガキ――がたむろしていた。
私たちとは対照的に、その三人は自らをアホですと言わんばかりに大きな声で騒いでいた。

本当はもうしばらく、この静かな公園で彼女と話をしようと思っていたのだが、
これでは雰囲気が台無しだろう・・・。

「じゃあ・・・そろそろ帰るか。飯まだ食ってないしな・・・」
そう言うと、彼女は元気よく「はい!」と返事をし、涙をぬぐう。
そして「実は今日、晩御飯作ろうと思って準備して待ってたんですよ!」と話す。

その言葉は私にさきほどまでの出来事を全て忘れさせてくれた。
私のために御飯を作ってくれるなど・・・そんな女性――私は彼女を女性と思うことにした――には、
ここしばらくお目にかかっていなかった――正確に言えば一年近く彼女がいなかった――のだ。
そしてそれは素直に嬉しいものだった。

「あっちゃん直伝のお好み焼きですよ!とっても美味しいんですよ!」と彼女。

そのあっちゃんというのが誰なのかは知らないが、
とにかく彼女の手料理を食べられるということだけで満足だった。
最近は自炊生活もいい加減になり、ほか弁や外食で済ますことが多かったのだ。

ベンチから立ち上がり、そして公園の入口へと向かう。

しかし、その日のハプニングはそれで終わったわけではなかった・・・。
そう、その直後、私はまたしても彼女の意外な一面を目撃することになってしまったのだ。
427346 ◆5/w6WpxJOw :03/03/31 06:04 ID:???
「私、これでも男ですから!」

彼女はそう言った。それはすでに私も知っていることではあったが、今は状況が違っていた。

私たち二人は公園の入口に立っていた。すでに三人の若者はいない。
それもそのはず・・・彼らは逃げ出していたのだ・・・そう、私たちから・・・。

私たちは二人並んで歩いていた。それはつい先ほど、公園から帰ろうとした時のことだ。
辺りは薄暗かったものの、街灯の明かりによって私たちの顔はそれなりに照らされていた。
そして・・・悪いことに・・・私たちは彼らに絡まれてしまっていたのだ。

「おいおい!あれ、もしかしてゴマキちゃうん?」
そう言う声がすぐ前――5mくらい先にいた彼ら――から聞こえてくる。
「うわ!めっちゃ似てるやん!」
その声にこちらは一瞬身構える。彼女も心なしか不安に思ったのだろうか。隠れるように私の腕に寄り添う。
そのまま通り過ぎれば何の問題も無かったのだろうが、案の定、そうはいかなかった。

「兄ちゃん!まぶい彼女つれてるやん」
まぶい・・・なんて言葉はすでに死語だと思うのだが、そんなことは問題ではない。
彼らは彼女の存在に――似ている程度だったが――気づき、そして話し掛けてきたのだ。

私はその言葉を無視し、そして歩調を速めて公園から出ようとする。
しかし、それがいけなかったのだろうか・・・彼らは公園の入口を塞いでそれを遮る。

避けて通ろうとするも、そのたびに彼らもまた移動してそれを――からかうようにして――妨害する。
そのうちの一人は原付にまたがり、そして私たち二人の周りをグルグルと回って煽り始める始末だった。

まさに一触即発といった感じだっただろうか。その状態に私はいつしか怒りを覚えていた。
428347 ◆5/w6WpxJOw :03/03/31 06:05 ID:???
私は我慢できずに身構える。それは実戦の構えだった。
それを見た彼らは「兄ちゃん、やるんかい!」と言いながら、同じように身構える。

私はふーっと溜め息を吐きながら、横にいる彼女に一言声をかける。
すでに心の中では彼らをぶちのめすことを決めていたのだ。
「一発目はわざと殴られるけど・・・いいよな?」

それは正当防衛の権利を獲得するため・・・だった。
弱々しい外見をしているものの、こう見えても私は黒帯保有者――つまり有段者――なのだ。
そして有段者となると、こうした些細な喧嘩と言えども、そこにはそれなりの責任が生じてくるのだ。

彼女は小さく頷いて同意する。ただし、その言葉の意味はわかっていなかったと思うが・・・。

私の構えに挑発されたのか、目の前の一人が何やら叫びながら私の前へ迫ってくる。
そして一発目のパンチを繰り出す。その状況に反射的に蹴りが出そうになるのを堪える。
そのパンチは私の顔をかすっただけだった。しかし、それでも一応口実はできたことになるだろう。

私は意気揚揚と――まるで普段のストレスを発散するかのように――彼らを蹴り散らかす。
しばらく運動していなかったこともあって動作は鈍かったものの、そのへんのガキ相手ならば楽勝だろう。

そう思っていた・・・。しかし・・・それは人間と対峙した時のことだ。
まさか、そんな攻撃の仕方をしてくるとは・・・全く思いも寄らなかったのだ。

ブオーンという轟音とともに、私は自分の足に物凄い衝撃を感じ、そのまま倒れこんでしまっていた。
そう、彼らの一人が原付で私に突っ込んできたのだ。

「もう○○さん!」という声が響き渡る。少し離れた場所で見守っていた彼女が発した言葉だ。

原付の特攻の衝撃はかなりのものだった。
私はしばらく立ち上がることができず、いつしか三人のガキに囲まれてしまっていた。
まさに絶望的な状況だっただろう。しかし・・・その状況を打破したのは・・・。
429番組の途中ですが名無しです:03/04/01 13:22 ID:???
保全しました。
430番組の途中ですが名無しです:03/04/02 03:06 ID:???
深夜の保守
431 ◆5/w6WpxJOw :03/04/02 06:21 ID:???
>>429-430
保守サンクス!
432348 ◆5/w6WpxJOw :03/04/02 06:22 ID:???
脚部への連続ローキックからミドルへの可変蹴り。
すかさず後ろ廻し蹴りに移行し、留めにみぞおちへの一蹴り。
更に原付にまたがる男のアゴにアッパー気味のパンチを食らわせる。

それはあっという間の出来事だった。
見事なまでの流れるような動き・・・しかもどれ一つとして無駄な動きは無い。
彼女は必要最小限の動作によって、あっという間に相手を――しかも完全に――ぶちのめしたのだ。

それはもしかすると私以上かもしれないと思えるほどの強さだった・・・。
いや、認めたくはないが、それは確かに私以上のものだっただろう。
もしこの場に紺野がいたならば、多分その彼女の動作にいつもの台詞を叫んでいたはずだ。
それくらい彼女の動きは・・・そう・・・まさに『完璧』だったのだ。

逃げるように立ち去る三人を見送った後、彼女はすぐさま私の元へとやって来る。
「大丈夫ですか?骨折れてませんか?」
それはその素早い動きで相手を瞬殺した人物と同一人物だとはとても思えないほど優しい声だった。

私は「ああ、大丈夫だよ・・・」と答えるも、まだどこか信じられないといった気持ちでいっぱいだった。
今目の前にいるこの人物が、本当に先ほどまでの彼女――後藤真希――なのか、
いつの間にか入れ替わっていたのではないか・・・と、そんな疑問すら浮かんでくるほどだった。

私はなんとか立ち上がり、そして呆然としながら彼女に問いかける。
「お前・・・後藤だよな・・・???」
それはわかりきった質問だった。・・・しかし、そう尋ねずにはいられなかったのだ。

彼女はその質問に少し照れた表情を浮かべ、そして答える。
・・・それが先ほどの言葉だった。

しかし、どう考えても彼女は普通の男以上――の強さ――だった。
私も同じ男――しかも有段者だ――だし、そして相手の三人もまた同じ男なのだ!
いくら本当は男であると言っても、それはこれほどまでの強さを説明することにはならない。
433349 ◆5/w6WpxJOw :03/04/02 06:22 ID:???
まだ少し足に痛みを覚えるものの、彼女の肩を借りながらなんとか部屋へと帰り着く。
その帰り道に、彼女は私に説明する。
「こういう仕事してると、何が起こるかわかりませんから・・・」

そりゃまあ・・・彼女は確かに人気のアイドル・・・いつどんな事態に巻き込まれるかわからないのは確かだろう。
ただでさえ、女性がストーカーに襲われるといった話題がそこかしこから聞こえてくる時代なのだ。
彼女くらいの人気のアイドルになれば、そうした危険性は一般人の比ではないだろう。

しかし、そうだと言っても、あそこまでの強さは必要ないだろう。
そしてまた、だからと言って、そう簡単にあれほどの強さを身につけることは不可能だ。

「なあ・・・もしかして武道か何かやってた?」
それに対して、彼女は微笑みながら「やってたとすると、ヤンキーくらいですかね?」と答える。

彼女がヤンキー出身ということは初耳――後にそれは冗談だとわかる――だったが、
しかし、彼女の動きは、ちょっとやそっと喧嘩に慣れたくらいのレベルではなかった。

「今までにも絡まれたことあったのか?」
そう尋ねると、彼女は少し考える素振りを見せ、それからその質問に答える。
「熱烈な追っかけはいますけど・・・」

やはりこれほどの人気アイドルになると、ファンの中には変な奴もいるのだろう。
彼女曰く、なっちなどは自分のことを「なっちの戯曲」と名乗る変態ストーカーに悩まされていたらしい。
そして辻や加護もまた、「美少女戦士」というヘンテコな名前の人物に狙われたことがあったとのこと。
しかし、彼女の場合は・・・それらとは少し事情が異なるらしい。

「私の場合・・・ファンというか・・・熱烈なのがメンバーの中にいますから・・・」

メンバーの中に?・・・それは一体???
434350 ◆5/w6WpxJOw :03/04/02 06:23 ID:???
彼女の話によると、彼女はファンよりも、メンバーの中の一人から熱烈に言い寄られているらしい。
もっとも、彼女が男であることに気づいているかどうかはわからないらしいが・・・。

しかし、私が驚いたのはそのことではなかった。
そのメンバーは我流ながらも独自の武術を体得しており、
それは空手経験者の紺野でさえ、速攻で――しかも片手一本で――やっつけられるほどだと言うのだ。
まあ、紺野もそれほど強いというわけではないのだが・・・。

そして、そんなメンバーと一緒に過ごすうちに、彼女はそれに対抗するために自然と強さを身に付けていったらしい。
まあ、確かにそれほど言い寄られているとなると、そうした必要性も生じてくるのかもしれない。

それにしても・・・先週テレビ局であったメンバーの中には、そんな強い奴がいるとは思えなかったのだが・・・。
そう言うと、彼女は笑いながら答える。

「梨華ちゃんは普段ぶりっこだから・・・」

ふーん。なるほどね・・・って!
まさかその強い奴ってのは・・・石川梨華???

それは私が一番予想していなかった人物だった。てっきり飯田あたりだと思っていたのだが・・・。

しかしまあ、人は見かけに寄らないと言うし、私もまた、弱々しい外見ながらも一応黒帯を持っている身だ。
そう思うと、普段の――あまり詳しくは知らないが――あの石川のキャラも、その強さを隠すためのものとも思えてくる。

「石川がねえ・・・」
思わずそう呟くと、彼女が相槌を打つ。
「うん・・・梨華ちゃん見かけと違ってとっても強いから・・・亜依ちゃんでも勝てないくらい・・・」

なるほど・・・亜依ちゃんでも勝てないのか・・・って!
おいおい・・・まさかとは思うが、加護もそんなに強いのかよ???
435351 ◆5/w6WpxJOw :03/04/02 06:24 ID:???
彼女はその日、私の部屋に泊まり、そして朝早くに出ていった。
私の部屋に泊まった――飲み明かしたのではなく、ちゃんと布団で寝た――のは、彼女で二人目だった。
一人目は市井紗耶香。三日前のことだ。

市井は夕方この部屋へとやって来た。前回と違い、彼女は一人だった。
彼女は「お邪魔します」と言って部屋に上がるも、テレビをぼんやりと見るだけで、
私とはほとんど会話をしないままだった。
そう言えば前回来た時も、話をするのはほとんど中澤で、市井はあまり自分から話をしなかったように思う。
そしてその日も、私が会話下手ということもあってか、部屋にはただテレビの音が響くだけだった。

一応色々と話し掛けてみるのだが、会話がすぐに途切れてしまうのだ。
「そう言えば市井ってさ、吉本新喜劇の梶本愛に似てるよね?」
「・・・」
「市井ってさ、今どんな仕事してるの?」
「・・・ラジオとかやってます・・・」
「歌とか歌ったりしないの?」
「・・・たまに歌ってますよ・・・売れてないだけです・・・」

そんな感じで途切れ途切れのキャッチボールを繰り返す。
もっとも、私の投げるボールが彼女のストライクゾーンに入らないというのも原因なのだろうが・・・。

それにしても、その日の二人はかなりぎこちなかった。
まだこの部屋に――そして私に――遠慮しているのだろうか。
もちろん、私も彼女と二人きりになるのが初めてで、どこか萎縮してる感が否めないのだが。
せめて中澤姉さんがいてくれたらと、ついつい思ってしまう。
と言うのも、実はその前日に中澤姉さんが――いつも通り深夜に――やって来ていたのだ。

中澤姉さんは何かイライラしている様子で、お酒を飲んでは愚痴り、飲んでは愚痴りを繰り返していた。
いいとものレギュラーがどうとか、仕事が減らされたとか、まあ、そんなことを愚痴っていただろうか。
もっとも、途中からはお酒に酔ったせいか、なぜか甘えん坊モードになって私を困らせていたのだが。
436352 ◆5/w6WpxJOw :03/04/02 06:24 ID:???
「もう○○〜、なぐさめてよ〜、ねえ〜、ゆうちゃんほんとは辛いんだよ〜」

そう言って甘えてくる中澤姉さんは、ある意味恐怖の存在だった。
私の名前を甘えた声で呼び、そして自分のことをゆうちゃんと呼ぶ。
それは普段の彼女の姿とは全く違っていた。ただ、それが彼女の本当の姿なのかもしれないとも思えた。
そしてそんな甘えた彼女を見て、私は一瞬ではあるが、何かかわいいと思ってしまったりしていた。
もちろん、私も彼女に飲まされて少し酔っていたこともあるのだろう・・・と、慌てて自分を納得させる。

そんな中澤と違い、市井は最初から最後まで大人しいままだった。
私が作った晩御飯を食べる。その日の晩御飯は適当な炒め物と適当な煮物だった。

一応「料理上手なんですね・・・」とか、「今度来た時は私が作りますね・・・」などといった言葉発するものの、
会話はそこから先にはあまり進展せず、ただただ静かな時間だけが過ぎていくだけだった。
彼女が未成年で、お酒が飲めない――飲んだことくらいはあるだろうが――というのも、
あまり会話が弾まない理由の一つなのかもしれない。

まあ、一応後片付けを手伝ってくれたりするので、私のことが苦手とか、そういったことはないのだろう。
もっとも、苦手なら最初からこの部屋に来ることは無いのだろうが・・・。

夜も更け、ぼんやりとテレビを見続けていた彼女に尋ねる。
「なあ・・・今日は帰らないのか?」
それに対して彼女は「うん・・・今日はここに泊まる・・・」と答える。

その答えに戸惑いながらも、しかし、特に拒否する理由も浮かばずに、それを受け入れる。
普段は風呂には入らず、シャワーで済ますことが多いのだが、その日は彼女のためにわざわざ風呂を焚き、
そして彼女のために、押し入れから使っていなかったこたつ布団――それは私が寝るため――を引っ張り出す。

もちろん布団とそのこたつ布団とはかなり間隔を空けて敷く。
それでも何か緊張してしまう。もちろん何を期待しているわけではないし、私にもそのつもりは全く無かったのだが。

そうしてその日、市井は――この部屋へ来るメンバーとして――初めてこの部屋へ泊まったのだった。
ただし、緊張のあまり私がなかなか寝付けなかったことは言うまでもない。
437幽霊作家:03/04/02 20:06 ID:???

ナンカ、ムチャウレシイデスヽ(´ー`)ノ

438番組の途中ですが名無しです:03/04/03 01:41 ID:???
保全しますた。
439 ◆5/w6WpxJOw :03/04/03 06:00 ID:???
>>437
どもです。
>>438
ご苦労さまです。
440353 ◆5/w6WpxJOw :03/04/03 06:00 ID:???
後藤が泊まってから三日後、再び中澤姉さんが――ちょうど一週間ぶりに――やって来る。
と言っても、今度は深夜ではなく、どうやら夕方から来ていたらしい。

私は所用――前日から新たなバイトを始めていた――があって出かけていたのだが、
帰って来ると中澤姉さんが退屈しのぎに部屋を漁っている最中だった。

全くこの人は何をしてるんだか・・・。

いつも通りそう思うも、もちろん文句は言わない。
ただし、それは彼女に噛み付かれるのが嫌だからということではなかった。
なぜかはわからないが、いつしか私の中に彼女に対する信頼感みたいなものが生じていたのだ。

彼女は私が帰ってくるなり、「あんた、あの写真どこやったん?」と尋ねる。
あの写真とは・・・そう、ドラマの収録の時に撮影した私と保田とのツーショット写真のことだ。

初めて彼女たちがこの部屋を訪れた時に中澤姉さんに見つかってしまってから、
私はすぐにその写真をしまっていたのだが、その言葉に仕方なくそれを棚から取り出す。
しかし、彼女はその写真には興味が無かったらしい。必要なのは写真立ての方だった。

彼女はその写真立てに持ってきたであろう写真を一枚入れ、そしてそれを部屋に飾る。
その写真には初期のモーニング娘。の面々が写っていた。皆で楽しそうに鍋を囲んでいる写真だ。

手前の安倍と飯田は今とは別人のように素朴な顔をしており、矢口はかなり幼い。
そして保田は何か若いのか老けてるのかわからないような顔をしている。
昔は保田のことをかなりブスだと感じていたのだが、今その写真を見ても特にそういう印象は受けなかった。
少しエラが張っているように見えるものの、かなりかわいく感じる・・・。
それは私が彼女のことを好きになってしまったからなのだろう。

その保田の奥には、一人の大人しそうな少女が写っていた。
小さく写っていたために一瞬なっちかとも思ってしまったのだが、それが例の福田明日香だった。
441354 ◆5/w6WpxJOw :03/04/03 06:01 ID:???
その福田の表情は、何かかなり無理をして周りに合わせているような、そんな印象を受けた。
それは彼女が真っ先に脱退したことを知っているからなのだろうが、何か一人だけ溶け込めていないように感じる。
もっとも、その彼女の表情は――最年少ながら――その中の誰よりもしっかりとした印象を受けるのも事実だ。

その奥には箸をくわえた中澤姉さんが写っている。今と違ってかなり若いが、普通のお姉さんといった感じだ。
その向かい側にはお人形みたいな髪型をした市井が座っている。
さすがに私が当時唯一気になっていただけあって、それなりにかわいい。
そして昔も今もあまり変わっていないように見えるのが、一番奥に座っているあやっぺ――石黒彩――だった。

その写真を見ながら「みんな若いなあ・・・」と呟くと、中澤が「そやろ、そやろ!」と乗ってくる。
しかし、「中澤姉さん、かなり若いですね・・・」と言うと、案の定「今も若いで!」と姉さん。

それからしばらくその写真の話――昔の思い出話――を聞く。
あの頃はよかったとか、あの頃は誰々が・・・とか、まあ、いつまでも昔が忘れられないらしい。
もっとも、それは私も同じだった。私も最近は、あの頃はよかったなどと思い耽ることが多かったのだ。
それは現状の生活、そして現在の自分に満足していないことの表れなのだろう。

「そう言えば・・・この写真、後藤が写ってませんね」
そう尋ねると、彼女は呆れたような顔を浮かべる。
「そりゃそうやで。これまだ明日香がやめる前やからマキはおらへん」

なるほど・・・後藤が入った時にはすでに福田はいなかったのか。
って・・・もし、この部屋に後藤と福田の二人が来たらどうなるんだろうか。

そう思い、「じゃあ二人は面識無いんですか?」と尋ねる。しかし、そんな心配は無用だったようだ。
「そんなことあらへんで。何度も会ってるはずやで」と中澤。
そして「明日香、マキの卒業パーティーにも来とったし、それにあん二人年近いからなんとかなるやろ」と続ける。

まあ年が近いなら大丈夫かもしれないけど・・・でもそれって、
年がかなり離れてる中澤姉さんはなんともならなかった・・・とも受け取れるよな。
442355 ◆5/w6WpxJOw :03/04/03 06:01 ID:???
「姉さんは彼女とはどうでした?結構年離れてましたよね?」
そう言うと彼女は私をギロッと睨みつける。余計なお世話よ、と言わんばかりだ。
「あ・・・ごめんなさい。でもほら・・・姉さん見た目かなり若いですし・・・」
そう言ってフォローすると、彼女はまんざらでもない様子だった。
「そう?そう?やっぱ私ってばまだイケてる?」

イケてるって・・・その表現は適切では無いと思うのだが・・・。
しかしまあ、私から見れば姉さんはかなり――彼女の言葉を借りれば――「イケてる」方だと思う。

そう思い、「ええ、全然イケてますよ」と答える。
しかし、彼女はその言葉が嬉しいのと同時に、何か不満だったらしい。
そして、それは次の彼女の言葉で明らかになった。
「そやろ、イケてるやろ?・・・なのになんで男はできへんねん・・・」

今年三十路を迎える中澤姉さんにとって、それは切実な問題であったらしい。
その表情がかなり深刻――切羽詰ってる様子が窺える――だったので、慌ててフォローを入れる。
「いや、それは姉さんが魅力的過ぎるからじゃないですか?
私なんかから見たら姉さんはかなり高嶺の花ですよ!」

それはもちろんお世辞なのだが、ただし、後半部分はある意味事実だった。
・・・しかし、どうやらその言葉は彼女を別の方向へと導いてしまったようだった。
彼女は唐突に質問する。その目は本気(マジ)だった。

「あんた・・・もし私が付き合ってって言うたら付き合ってくれるん?」

彼女が私に・・・。そんなことは絶対にあり得ないだろう・・・。
しかし、もしそんな状況になったら私はどうするだろうか・・・。

私には今好きな女性――もちろん保田だ――がいる。
しかし、彼女と付き合うことは多分無理だろう・・・そう諦めているのも事実だ。
そして、そんな状況でもし中澤姉さんから告白されたら・・・私は・・・。
443356 ◆5/w6WpxJOw :03/04/03 06:01 ID:???
「冗談やで、冗談!そんなこと言うわけあらへんやろ」

その言葉でふっと我に返る。目の前には笑いを浮かべた中澤姉さんがいる。
「冗談やのに、あんた真剣に考え込んどったで!もしかして私に気ーあるんちゃうんか?」
彼女はそう言って私をからかう。しかし、からかわれた方の私はとても笑える状態ではなかった。

私は一体何てことを考えていたのだろうか・・・。
それが例え話とわかっているとはいえ、私は・・・私はその言葉に少なからず期待してしまっていたのだ。
そして、私はそんな自分が許せなかった。・・・こんなにも・・・こんなにも好きな人がいるというのに!!!

なんとか平常心を取り戻し、笑いながら答える。
「いやあ・・・姉さんみたいな綺麗な人だったら、全然オッケーかな?なーんて思って・・・」
笑いながら答えたのは、それが本気ではないと思わせるためだった。
例え一瞬であったとしても、実際にそう思ったということを彼女に悟られたくなかったのだ。
しかしまあ、姉さんはそんな私の思惑には気づかず、ただその「綺麗」という言葉に酔いしれていた。

そして妄想を膨らませているのか、目を輝かせて遠くを見つめながら何やらブツブツと独り言を呟く。
それは断片的な言葉だったものの、彼女が何を妄想しているのかはすぐにわかった。
そう、彼女は『綺麗なお姉さんは好きですか?』というCMに出ている自分の姿を思い描いていたのだ。

まあ・・・確かに今出ている中谷美紀――4代目らしい――はちょっと問題だと思うが、
しかし、中澤姉さんの場合はそれ以上にかなり問題だと思うのだが・・・。

「あの・・・中澤姉さん・・・?」
彼女の独り言があまりにも長かったのでそう話し掛けると、彼女ははっとした表情を浮かべて我に返る。
そして恐る恐る私に尋ねる。「・・・もしかして・・・私なんか独り言言うてた?」

それに対して、「ええ・・・何か自分の世界に入ってましたよ」と答えると、
「あじゃぱ〜またかいな・・・。最近コントロールが全然効かへんねん・・・」と姉さん。

どうやらこういった妄想――現実逃避――が癖になってしまっているらしい。
まあ・・・それはいいとしても・・・「あじゃぱ〜」って・・・いつの時代の人間だよ・・・。
444番組の途中ですが名無しです:03/04/04 15:08 ID:???
保護しました。
445 ◆5/w6WpxJOw :03/04/05 08:32 ID:???
>>444
保護感謝!
446357 ◆5/w6WpxJOw :03/04/05 08:39 ID:???
さすがに中澤姉さんだけあって、その日は――市井とは違って――スムーズに会話が弾む。
そのため、私は彼女が保田に対して何らかの感情を抱いているなどといった懸念を完全に忘れ、
そして、それは私の勘違い――保田のことが好きなあまり――だったと思うようになっていた。

そうして時間が過ぎ、姉さんを連れて近所の居酒屋――住宅街の一角にある小さな店だ――へと向かう。
店内はお世辞にも綺麗とは言えないが、何か落ち着く雰囲気が好きで、以前はよく一人で来ていた。

店内には客が三人。カウンターで静かに飲んでいる常連らしきおじさんと、
特製チャーハン――安くて旨くて量が多い――を食べている大学生くらいの若者の二人組がいる。
一番奥――と言っても狭い店だ――の席に座ると、意外にもマスターから声をかけられる。
その「久しぶりやねえ」という言葉は全く予想していなかったものだった。
以前よく来ていたと言っても、常連というほどでも無く、そしてそれも半年以上前のことだったのだ。

「ども・・・ご無沙汰です・・・」と答えると、「そやな・・・ほな久しぶりやから・・・」と言っていきなりのサービス。
それはエビチリ風サラダ・・・とでも言うべきだろうか。もちろんメニューには載っていない。
と言うのも、この店はメニューに載っている料理はほんの一握りに過ぎず、ほとんどが裏メニューなのだ。
しかもマスターが元本職の料理人ということで、色々な創作料理を作っては――勝手に!――出してくれるのだ。

「なんや見た目と違ってええ感じやな」と中澤。
彼女ほどの芸能人――それも女性――になると、こういう大衆的な居酒屋は逆に珍しいのだろう。

まずはビールで乾杯し、じゃんじゃん料理を頼む。
姉さんは機嫌がいいせいか、料理を次々と平らげる。もちろんお酒も忘れない。
と、そんな姉さんに対して、マスターが話し掛ける。
「えらいべっぴんさんやなあ思たら、お嬢ちゃんテレビ出てへんか?」

素性がばれ、戸惑いを隠せない私・・・。しかし、当の本人はその言葉が嬉しかったのだろうか。
颯爽と立ち上がると、満面の笑みを浮かべながら「今をときめく中澤裕子で〜す!」と名乗りを上げる。

姉さん・・・その言葉、ジャロに訴えてもいいですか?
447358 ◆5/w6WpxJOw :03/04/05 08:39 ID:???
店内はかなり盛り上がっていた・・・。
中澤姉さんを中心にして、二人組の若者も交えて色々な会話が乱れ飛んでいる。
どうやって誤魔化そうかと考えていた私と違い、彼女はそんなことにはこだわらないらしい。
自らカミングアウトしただけでなく、気軽に握手やサイン――これは店に飾られることになる――に応じる。

更に調子に乗った中澤姉さんは、リクエストに応じてラブマシーンを歌い出し、
いつの間にか店内にラブマシーンの大合唱――ただし同じ部分だけを何度も繰り返す――が響き渡ることに。
いつもは静かで落ち着く店なのだが、その日だけは特別だった。
ある意味、中澤裕子ワンマンショーとでもいった感じだろうか。

その様子を見ていると、何かちやほやされることに飢えているようにも思える。
もっとも、それが芸能人としての本能なのかもしれないが・・・。

一応私との関係については親戚ということにしておいたのだが、
彼女が「もう○○とは将来を約束した仲」なんて冗談を言うものだから、こっちは戦々恐々。
しかも、そのせいで二人組からはキッスコールが飛び出す始末。
もちろんそれは固辞したものの、結局流れで彼女のほっぺにチューをしてしまうはめに・・・。

しかし、彼女――もちろん私が想いを寄せる保田のことだ――にばれたらどうしようなどと思いながらも、
そこには内心それを楽しんでいる自分がいるのも事実・・・。男なんて所詮はバカな生き物だ・・・。

そうやって楽しい――騒がしいだけだが――時間が過ぎ、部屋に戻った時にはすでに姉さんは酔いつぶれていた。
しかし、ちやほやされて気分が良かったのだろうか、目を閉じながらも彼女はニヤニヤと笑いを浮かべていた。
そして眠りながら何やらブツブツと独り言――男の名前らしきものも――を呟いている。
もっとも、今度の独り言は妄想ではなく酒に酔ったせいなのだが・・・。

ただ、その時に彼女が呟いていた名前・・・それはつい最近どこかで聞いたことがあるような気がした。
それがいつどこで、誰から聞いたのかは思い出せなかったのだが・・・。
448番組の途中ですが名無しです:03/04/05 10:58 ID:tZdUSDwN
保全age
449性闘士 ◆jeglAw4g22 :03/04/05 20:33 ID:???
紺野、保田で1位2位キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━!!
450番組の途中ですが名無しです:03/04/06 13:32 ID:???
モーニング娘。の中で「肩身が狭い」。ワラタ
451性闘士 ◆jeglAw4g22 :03/04/06 16:48 ID:???
情熱的に抱いてほしい
452 ◆5/w6WpxJOw :03/04/07 05:45 ID:???
>>448
保全どうもです。
>>449
紺野はさすがでしたね。完璧とは言えませんが・・・。
>>450
笑って言えるところが彼女らしいですね。
>>451
これまた彼女らしいですね。言われてみたいです・・・。
453359 ◆5/w6WpxJOw :03/04/07 05:45 ID:???
ドラマの収録が終わってから1ヶ月・・・3月も中旬に差し掛かり、少しずつ温かさが増しているのを実感する。
最初はやることもなく、そしてまた、やりたいことも見つからずに、何か空虚な毎日が過ぎるだけだった。
言いようの無い焦りに教われ、そして自分の無力感を痛感する・・・。それは以前の自分と全く同じ状況だった。

人生は一度きり・・・だから何事にも思いっきりチャレンジしたい・・・昔はそう思っていた。
しかし、本来消極的な性格の私にとって、積極的に振舞い続けることにはやはり無理があった。
自然と疲れがたまり、いつしか私の精神的なストレスは限界に達していた・・・。

仕事に疲れ果て、また失恋が重なったこともあって、私はかなり鬱になっていた。
そして私は歩みを止めた・・・。それはたった一瞬、そしてたった一度の出来事だった。
しかし、それは社会という流れの中ではとても大きなことだったのだ。

私は完全に社会から取り残され、そしてむなしさだけが残った・・・。
気力を無くして会社を辞めた私は、それから気ままなバイト生活を始めた。
それは会社勤めをしていた時に比べて、時間的に余裕のある生活だっただろう。
しかし・・・そこに心の余裕は全く無かった。いや・・・元から無かったとも言えるが・・・。
ただ、有り余る時間とは裏腹に、言い様の無い焦りだけが流れていく・・・そんな退屈な毎日だった。

そんな私にある時、ドラマ出演という転機が訪れる・・・。
そしてそのことによって私は再び充実した生活を送れるようになった。
もっとも、それはドラマ出演よりも、保田の存在が私を変えたと言った方がいいかもしれない。

私はドラマの中での一シーン――姉貴と彼女とのシーン――を思い出していた。
いつも他人のことを気にかけ、自分のことを後回しにする優しい姉・・・。
そんな姉が悩み、落ち込んでいた時に彼女が言った言葉・・・。

 「Going my way!」

その言葉は今でも私の胸の中にしっかりと刻み込まれている。
そして・・・私は今、市井の言葉でそれを思い出していた・・・。
454360 ◆5/w6WpxJOw :03/04/07 05:45 ID:???
「人生がもうはじまってる・・・」

市井はそう呟いた・・・。
そして、彼女は淡々とした口調でもう一度その言葉を繰り返す。
それは自分の中で何かを確認しているようでもあった。

「人生がもうはじまってる・・・」

その言葉は私にとっても大きなものだった・・・。
人生の歩みを止めたままの私・・・。思えば、私はあれからずっと人生から逃げ続けていた。
ドラマに出演して再び充実した生活を過ごしたものの、それもその時だけだった。
時間が経てばそのうちやる気が出るだろう・・・時間が経てばどうにかなるだろう・・・そんなことばかり考えていた。
しかし、それは自分の今から・・・そして人生から逃げているだけだったのだ。

人生は止めることはできない・・・それは当たり前のことだ。
しかし、その当たり前のことに私は・・・そして彼女は直面していた・・・。

今日――中澤姉さんが泊まった翌日だ――こうして市井が私に悩みを話してくれたのは、
彼女が私を、そして私の存在を認めてくれたからなのだろう。

夕方にバイトを終えて部屋に戻ると、台所にはエプロン姿の市井が立っていた。
そのエプロンは先週あやっぺが送ってきた荷物の中に入っていた手製のエプロンだ。
あやっぺは装飾が趣味らしく、暇な時はこうした裁縫などで時間を潰しているらしい。

市井は私に気づくと、素っ気無い表情のまま一言「約束だから・・・」と呟く。
その言葉は約束だから仕方なく作っている・・・と受け取れるような言い方だったが、
まあ、それは照れ隠し――もっと言えば、私に勘違いされないため――なのだろう。

彼女が作っていたのはカレーだった。
料理としてはあまりにも単純だが、それは先週私が彼女にカレーが好きだと話したからなのだろう。
私に興味が無い振りをしているものの、やはりそういうところを見ると素直でかわいいなと思う。
それに市井はエプロン姿がかなり似合っていた。そう言えば現役時代も家庭的なイメージだったような気がする。
455361 ◆5/w6WpxJOw :03/04/07 05:46 ID:???
彼女のカレーは・・・まあ、普通のカレーだった。しかし、カレーなんて誰が作ってもそんなものだ。
問題は彼女が私のためにカレーを作ってくれたということだろう。それが私には嬉しいことだった。

しかし・・・やはり彼女と二人きりということで、あまり会話が弾むこともなく、静かな時間が過ぎる。
その後、二人で後片付けをするも、やはりそれは変わらなかった。
片付けを終えると、彼女は一人でテレビを見出す。
何か私の存在が必要ないとでもいうような感じだろうか。私とあまり関わりたくないといった感じかもしれない。

そんな彼女の態度に、自然と疑問が浮かぶ。・・・彼女はなぜこの部屋に来ているのだろうか・・・と。
もちろん彼女たちの目的はあくまでもこの部屋であって、私ではないことはわかっている。
しかし・・・そうだとしても、彼女だけが私とあまり積極的に会話をしないのは異常だろう。

「あのさ・・・ごめんな・・・ほら、俺、口下手だし・・・」
不安に思ってそう話し掛けると、市井はテレビから目を逸らし、ゆっくりと私の方を振り向く。
「せっかく来てるのに何もしてやれないしな・・・」
その言葉に彼女は表情を変えずに答える。それは何か冷めた反応だった。
「いいよ・・・別に・・・。自分が来たいから来てるんだし・・・」

来たいから来てる・・・とてもそうは見えないのだが・・・。

「あ・・・そうなんだ・・・。でもさ・・・ほら・・・もしかして俺は必要ないんじゃないかな・・・なんて・・・」
そうやってとぼけた感じで聞いてみたものの、それはどうしても聞きたいことだった。
部屋の主として、彼女たちに楽しい時間を過ごして欲しい・・・そう思うのは当然のことだろう。
それに対して彼女は淋しそうに「そんなことないよ・・・」と答え、そして・・・。

彼女は一人になりたがっていた・・・。
そして一人きりになるためにこの部屋に来ていた・・・。
それは仕事や人間関係の悩み・・・つまり現実から離れようとしてのことなのだろう。
ただし・・・それならば、それは別にこの部屋でなくてもいいことになる。
そう、自分の部屋で一人になればいいのだ・・・。
456362 ◆5/w6WpxJOw :03/04/07 05:46 ID:???
しかし・・・それは違っていた。一人になりたいと思うことは誰にでもあることだ。
しかし、そんな時は、心のどこかに誰かに会いたいと思う全く逆の気持ちがあるのも事実だ。
結局一人きりになりたいと思うことは、自分の淋しさ、そして落ち込んでいる自分を納得するため、
そして自分を擁護するための本能的な自衛策に過ぎないのかもしれない。
こんなにも淋しい自分がいる・・・そう思うことで現状を納得する。
それは失恋した時に悲しい歌を聞いて涙を流したくなるのに似ているかもしれない。

しかし、人は決してそれを望んでいるわけではないのだ。
淋しい気分に浸りたい・・・とことん落ち込んでみたい・・・そういう思いはごまかしに過ぎない。
それは自分の本当の気持ちを隠しているだけなのだ。

一人きりになりたい・・・でも・・・本当は誰かに会いたい・・・。
それが素直な気持ちなのだろう・・・。

この部屋に来れば、そこには私――あまり役には立たないが――がいる。
そしてまた、そこにはメンバーの誰かがいるかもしれないのだ。
もっとも、それまでこの部屋で彼女たちが鉢合わせたことは、
――最初から一緒に来た場合を除いて――一度も無かったのだが・・・。

彼女はそう私に打ち明けた・・・。
それまで何かに固執して心をかたくなに閉ざしていた市井のその話に、
私はようやく彼女の素直な姿を見た気がしていた。

「よっしゃ!じゃあゲームでもすっか!」
そう言って押し入れからファミコン――機種的にはニューファミコンだが――を取り出す。
それは市井の気持ちを知り、なんとか元気になってほしいと思ったからだった。

それから二人でスーパーマリオやらバルーンファイトやら昔なつかしのゲームを堪能する。
彼女は最初こそあまり乗り気ではなかったものの、最後の方はかなり入れ込んでいた。
ただ、私が見せたなつかしの秘技キンタマリオにはかなり引いていたが・・・。
457番組の途中ですが名無しです:03/04/07 16:48 ID:???
>>秘技キンタマリオって、なぁに?
>>457
マリオの足の間に画面上部のコインが来るようにすることだったような気がする。
間違ってたらスマヌ
459 ◆5/w6WpxJOw :03/04/08 21:08 ID:???
>>457
これが世代の差というやつでしょうか・・・。
>>458
説明サンクス!
460363 ◆5/w6WpxJOw :03/04/08 21:14 ID:???
翌日、市井はその日も仕事が無いらしく、夕方までこの部屋にいるとのことだった。
あれだけ人気があったモーニング娘。ではあるが、脱退すれば末路はこんなものだ。

中澤は娘。の保護者としての立場、そして姐御キャラがあって仕事にありついていたが、
最近ではかなり仕事が減っているらしく、そんな愚痴をこぼすことが多かった。
また、期待された後藤ですら、予想された人気を大幅に下回り、あまり順調とは言えない状態なのだ。
福田に至っては、芸能界から完全に引退し、そして人々の記憶からも消えてしまっている。
ある意味、結婚して幸せな家庭を築いたあやっぺが一番順風満帆と言えるのかもしれない。

そんな彼女たちの現状を見ていると、やはり保田の将来に不安を覚えてしまう。
市井には失礼だが、彼女も市井のようになってしまうのだろうか・・・と、そう思ってしまうのだ。
もっとも、私自身そんなことを心配している状態ではなかった。
そう、私は精神的にも、そして金銭的にも苦境に立たされていたのだ。

そのため、私は三日前からあるバイトを始めていた。
それは毎日退屈な時間を過ごしている自分を変えようと、そう思ってのことだったが、
しかし、一番の理由はやはり金銭的な問題にあった。
そしてまた、そのバイトを始めようと決意したのは、先週の中澤姉さんの言葉が原因だった。

彼女――部屋に来た時はシラフだった――は私に一つの封筒を差し出した。
そこには数万円の現金が入っていた。
「これは・・・?」
「あー、それ、この部屋の使用料や・・・これから迷惑かけるからな。少ないけど取っといて・・・」
そう言って彼女は私にその封筒を手渡す。・・・しかし、私はそれを受け取らなかった。
「いや・・・困ります・・・そんなの受け取れませんって・・・」

私がそれを拒否したのには理由があった・・・。
私がこの部屋を彼女たちに開放したのは、それは自分の意思――自分のためでもある――によるものだ。
それは決してお金のためではない。あくまで私が自主的に彼女たちに協力しているのだ。
しかし、それ――報酬――を受け取ってしまえば、それはある種の契約・義務になってしまう。
それだけは嫌だったのだ。もちろんお金に困っている私にとっては、それは喉から手が出るほど欲しいものだったが。
461364 ◆5/w6WpxJOw :03/04/08 21:15 ID:???
結局姉さんは私の意見を半分聞き入れてくれ、毎月の報酬については白紙ということになった。
ただし、一応彼女たちの分の食費や酒代だけは彼女たちが適宜受け持つことになり、
一昨日の居酒屋も姉さんにおごってもらうことになったのだが・・・。

そうしたこともあって私はバイトを始めることを決意したのだった。
彼女たちに私の金銭的な問題で心配をかけたくないというのがその理由だった。
そう、そのままの生活を続けていれば、いつかその報酬を受け取ってしまうことになりそうな気がして・・・。
さすがに男のプライドとして、それ――ヒモ生活――だけは避けたかったのだ。

昼前になり、私は市井を一人残してバイトへと出かけた。
帰ってきた時にはすでに市井はいない・・・はずだった。
しかし・・・私が部屋へ戻ると・・・。

私はその状況にかなり戸惑っていた。
そして何と声をかけていいかもわからず、結局出てきた言葉は「ただいま」の一言だった。
しかし、その言葉を聞いても市井は表情一つ変えずにただ下を向いているだけだった。

そして・・・その市井の前には一人の女性が座っていた。
彼女は私のその声に「もーちゃん・・・」と呟いた後、少し顔をそむける。
その少し震える声に、彼女のその動作が涙を隠すためのものであることがわかった。

一体何があったのだろうか?
私の留守中に・・・この二人に・・・何が???

・・・と、突然市井が立ち上がり、何も言わずに外へと出て行く。
呆然と立ち尽くす私・・・ただ涙を拭くだけの彼女・・・部屋に微妙な空気が流れる。

二人が何か喧嘩をしていたであろうことは理解できる。
しかし・・・その二人の様子は、何かが違っていた。
泣いているのは市井ではなく・・・それまで私が気丈だと思っていた女性・・・あやっぺだったのだ。
462365 ◆5/w6WpxJOw :03/04/08 21:16 ID:???
「あのさ・・・もしかして・・・喧嘩とか・・・した?」
そう尋ねるものの、それは尋ねなくてもその様子を見ればすぐにわかることだった。
それに対して彼女は「・・・変なとこ見せちゃったね・・・」と言い、淋しそうに微笑む。

「あのさ・・・俺でよかったら・・・話してくれない・・・かな?」
そう言うと彼女は、少し考える素振りを見せる。それは問題がかなり深刻であることを窺わせるものだった。
彼女は「いいけど・・・」と答えるも、小さな声で「でも・・・驚いたりしないでね・・・」と付け加える。

それは私が驚くようなことなのだろうか・・・。
私自身、去年からドラマ出演など、様々な驚くような展開に遭遇してきている。
この部屋に彼女たちがやって来るようになったこともその一つだし、
それに先週の後藤の件は、今でも思い出すたびに驚きを隠すことができない。

そして、そんな驚きがまた一つ、彼女の口から私へと告げられる・・・。
しかし・・・それはそれらの驚きとはまた違った意味の驚きだった。
それは何と表現していいのだろうか。彼女たちが抱えていた闇の部分・・・とでも言うべきだろうか。

一般に女性が三人集まると一人があぶれ、四人集まると対立が生じると言われる。
それでは五人集まるとどうなのか・・・八人集まるとどうなるのか・・・。
それが彼女たちが抱えていた問題だった。

私はそれを聞いても何も答えることができなかった。
モーニング娘。が単なる仲良し集団じゃないことは誰もが――崇拝者を除いて――知っていることだ。
しかし、そうだとしても、当事者からそのことを聞くのはかなり辛いものだった。
それも女性特有の陰湿ないじめとなれば、男の私としてはやはり理解し難いものとなる。

ただし、それはもう終わったことだった・・・。
彼女たちの間に不仲や対立があったとしても、それは過去の一時期のことに過ぎない。
彼女たちはそうしたことを乗り越えて絆を深めてきたのだ。

しかし・・・あやっぺはそのことを一人ずっと悔やんでいた・・・。
そして・・・今日、久しぶりに再開した市井にそのことを・・・。
463366 ◆5/w6WpxJOw :03/04/08 21:16 ID:???
あやっぺがなぜ泣いていたのかはわからない。
そして市井がなぜ何も言わずに出て行ったのかもわからない。
ただ、それが彼女たちの過去のしがらみを解き放つ最初の第一歩であることは間違いないだろう。
事情を完全に把握したわけではないが、私にはそう思えた・・・。

あやっぺは私にその話をすると、再び涙を流す。
ただ、その涙が悲しみによるものではなく、安心したせいなのだということは何となく理解できた。
彼女はそれまでずっとそのことを悔やみつつも、素直に謝ることができずにいたのだ。
いや、ずっと謝ろうと思っていたのだろう。そして、ずっとその機会を窺っていたのだろう。
しかし・・・謝ることで、せっかく良好になっていた関係が壊れてしまうことを恐れていたのだ。

しかし、今日あやっぺは初めてその過去と決別しようと決意したのだ。
彼女は涙を拭きながら、「紗耶香・・・探してくるね・・・」と言って部屋を出て行った。

私は一人部屋に残された。それはとても長い長い時間に感じられた。
彼女たちの間にある様々なしがらみやわだかまりが、私の頭の中を錯綜する。
その中には、中澤や市井が以前見せた保田への何らかの感情も含まれていた。

この部屋は決して彼女たちの憩いの部屋ではない。楽しみの部屋でもない。
この部屋は彼女たちがそうした過去から決別するための部屋なのだ。
少なくとも私はそう感じていた・・・。

しばらくして二人は部屋に戻ってきた。
二人とも表情は暗かったものの、何かふっきれたような印象を受ける。
「心配かけてごめんね・・・」とあやっぺが私に声をかける。
それに続いて「ごめんなさい・・・」と市井が言う。

何かぎこちない感じだったが、それでも二人の間に新しい関係が始まったことは間違いない。
過去との決別とは概してそんなものだ。それは決して生易しいものでもなく、きれい事でもない。

それは外から見れば決して祝福できる状況ではないかもしれない。
しかし・・・私はそんな二人を見て、心から祝福したいという気持ちになっていた・・・。
464 ◆5/w6WpxJOw :03/04/09 21:08 ID:???
更新します。
465367 ◆5/w6WpxJOw :03/04/09 21:08 ID:???
その夜はあやっぺが晩御飯を作り、そして遅くまで二人は話を続ける。
あやっぺは今日と明日この部屋に泊まる予定で来たらしい。
そして市井も本当は帰る予定だったのだが、今日は特別に泊まっていくとのことだった。
まあ、裏を返せば明日も仕事が無い・・・ということなのだろうが。

ただ、彼女たちがこの部屋に泊まる準備はすでに万端だった。
この部屋に来るたびに必要な私物を置いていったり、宅配便で送ってきたりしていたのだ。
そのため、彼女たちの私物を収納する専用の棚を用意したほどだ。

翌朝、一番早く目が覚めたのは私だった。
私の寝ていたこたつ布団の横で、二人が一つの布団で仲良く眠っている。
それはどこか安心したような穏やかな寝顔だった。

その日は、私がバイトに出かけている間に、二人で久しぶりに遊んだらしい。
市井はそのまま自宅へと帰ったらしいが、「とても楽しかったよ」とあやっぺ。
その様子に、この部屋が彼女たちの役に立ったことを改めて実感する。
もちろん私自身は何の役にも立っていないのだが、それでもそれは嬉しいことだった。

その夜は今度は私が晩御飯を作り、それを食べ終えると、部屋にインターホンの音が鳴り響く。
玄関を開けると、そこに立っていたのは彼女・・・そう、保田だった。

この部屋に彼女が来たのは久しぶりだった。
最初に来たのはドラマの収録が終わってわずか一週間後、その時は中澤と二人だった。
そして二度目はその一週間後、その時は残念ながら私の留守中だった。
もっとも、彼女とはつい先週、紺野と三人で会っているのだが、
それでもこの部屋に彼女が来るというのは私にとってとても嬉しいことだった。
毎週きっかりとやって来る中澤や市井と違い、やはり現役――それも卒業間近――は忙しいのだろう。

彼女は部屋の中にいるあやっぺを見て大きな声で叫ぶ。
「あやっぺ〜〜〜!」
そして靴を脱ぎ散らしたまま走り寄ってあやっぺに抱きつく。
「こらこら〜何いきなり甘えてんのよ〜!」
466368 ◆5/w6WpxJOw :03/04/09 21:08 ID:???
俺は無視かよ!・・・とそう思うも、まあそれも仕方が無いことだろう。
二人は久しぶりの対面にかなり喜んでいた。
保田もいつもとは違い、どこか子供のようで甘えているように見える。

少し話をした後、彼女はまだ晩御飯を食べていないらしく、「私何か買ってくるね・・・」と言って出て行こうとする。
と・・・それをあやっぺが引き止める。
「ケイちゃん・・・大事な話があるの・・・」

その声はそれまでの声とは違い、かなり真剣な声だった。
そして、その言葉に私はあやっぺが何を話そうとしているのか検討がついていた。
「えっと・・・俺席外した方がいいかな?」
一応そう言ったものの、返って来たのは「もーちゃんも聞いてて・・・」という言葉だった。

あやっぺは意を決して保田に話し掛ける。
「あのね・・・昨日紗耶香にね・・・」
と、そこまで言った時に保田が口を挟む。
「あー、紗耶香来てたんだー。あたしも会いたかったのにー」
その言葉にあやっぺは少し微笑んでから再び話を進める。
「紗耶香にね・・・私やっと謝れたの・・・ずっと言えなかったんだけど・・・その・・・ごめんねって・・・」
それに対して保田は表情を変えずに尋ねる。
「謝ったって何を?」
それに対してあやっぺは過去の自分の過ち――そしてずっと後悔していたこと――を話す。
それはかなり辛い告白だっただろう。そして・・・。

「それでね・・・今度はケイちゃんに謝りたくて・・・」
その言葉に保田の動きが止まる。
それは必死で忘れようとしていた過去を突然呼び戻されたような・・・そんな感じだったかもしれない。

「ケイちゃん・・・ほんとにごめんね・・・」
そう言ってあやっぺは目を潤ませる。
しかし、当の保田は意外にもあっけらかんとしていた。
467369 ◆5/w6WpxJOw :03/04/09 21:09 ID:???
「なーに言ってんのよ〜!あやっぺらしくないぞ!」と保田。
それはただ黙っているだけだった市井――その瞬間は見ていないが――とは好対照の反応だった。
「もーそれは過ぎたことだよ!未来よ!未来!大事なのはこれからなんだから!」

前向きと言うか何と言うか、彼女は全く気にしていなかったらしい。
いや、気にしていたとしても、彼女にとってそれはすでに過ぎ去ったことなのだ。
過去の思い出に縛られてばかりいる私から見れば、そんな彼女の性格は羨ましいものだった。
もっとも、彼女が本当はどう思っていたのかはすぐにわかることになるのだが・・・。

「ありがとう・・・ケイちゃん・・・」とあやっぺ。
その反応が嬉しかったのだろうか。それとも謝れたことで安心したのだろうか。
あやっぺは嬉しさのあまり涙を流していた。

その二人の様子を見て私が「これで一件落着だな!」と言うと、
それに対して保田が「じゃあ・・・パーッとビールで乾杯でもしよっか!」と言って、
「あたし買ってくるね!・・・どうせ御飯も買って来なくちゃいけないし!」と続ける。

彼女が出て行った後、部屋には私とあやっぺの二人が残った。
「よかったじゃん・・・」と私。それに対してあやっぺは「うん・・・」と頷く。
しかし、あやっぺの次の言葉は、私が全く予想していないものだった。

「でも・・・ケイちゃん・・・かなり無理してたね・・・」

・・・無理してたって???・・・そんなふうには全然見えなかったのだが・・・。
ただ、やはり長い間一緒に過ごした仲間として、あやっぺは彼女の性格を知り尽くしているのだろう。
そして、それはまた、私がまだ彼女のことを何一つ理解していないことを思い知らされるものでもあった。

「ずっと辛い思いしてたんだろうな・・・私のせいで・・・」
そう言うと彼女は淋しそうに微笑む・・・。
そんな彼女の微笑みを見て、私は彼女たちが長い間抱えていた問題の深刻さを改めて知ることになった。
468370 ◆5/w6WpxJOw :03/04/09 21:09 ID:???
そう言えば初めて彼女が来た時も、中澤に言われてこうして彼女の後を追いかけたっけ。
あれからまだ一月も経っていないが、それはかなり懐かしいことのように思えた。

少し進んだところで前を歩く彼女の姿を見つける。
彼女は普段も歩くのが早い方ではないが、その時の彼女の足取りはかなり遅かった。
近くまで進んだところで「おーい!」と声をかける。
その声に彼女はすぐに振り向く・・・が・・・しかし・・・その目には涙が光っていた。

彼女は立ち止まると慌てて涙を拭く。「お前・・・泣いてた・・・のか?」
そう言うと彼女は「えへへ・・・なんか目にゴミが入っちゃって・・・」と答える。
もちろんそれが嘘だということは誰が見てもわかることだった。
彼女は確かに泣いていた。その理由はもちろん・・・。

「もしかして・・・我慢してたのか?」
そう言うと、彼女は笑って頷く。・・・しかし、その笑顔は長くは続かなかった。
泣くのを必死で耐えているらしく、「うぐっうぐっ」という声を漏らす。
そして、それは我慢の限界を超えて外へと一気に噴きだすことになる。

彼女は突然私の胸に抱きつくと、「うーん、うわーん」と思いっきり声を出して泣きだす。
その突然の行為に私は戸惑わざるを得なかったが、しかし、私は反射的に彼女をしっかりと抱きしめていた。

彼女はやはり無理をして明るく振舞っていたのだろう。
そして辛かったのだろう。その過去のしがらみが・・・。
そして嬉しかったのだろう。そのあやっぺの言葉が・・・。

しかし・・・その時の私は、不謹慎にもそんなことよりも自分のことで精一杯だった。
私はその彼女の久しぶりの温もり――ドラマ以来だ――に大きな幸せを感じていたのだ。
好きな女性を抱きしめる喜び・・・これほど単純で大きな幸せは他には無いだろう。

そう、私は彼女のためではなく、ただただ自分のために彼女を抱きしめたのだ。
最低な男だと自分でも思ってしまう。彼女が泣いているというのに、私は・・・私は・・・。
私は彼女を抱きしめながらも、そんな自分が自分でも許せなかったのだ・・・。
469あぼーん:あぼーん
あぼーん
470番組の途中ですが名無しです:03/04/10 18:43 ID:???
保全!
471 ◆5/w6WpxJOw :03/04/11 07:39 ID:???
>>469
あぼーん!
>>470
ご苦労さまです!
472371 ◆5/w6WpxJOw :03/04/11 07:39 ID:???
彼女はしばらく泣き続けた。そして泣き終えると、ようやく私の体から離れる。
「ごめんね・・・もうちゃん・・・ありがとう・・・」

その言葉に私は改めて自分の愚かさを思い知らされていた・・・。
彼女が悩み苦しみ、そして泣いていたのに、私はただ自分の喜びだけを噛みしめていたのだ。
そんな私に彼女から礼を言われる権利はどこにも無いだろう。
そして、そんな私に彼女を好きになる権利も無いのかもしれない・・・と、そうも思えてくる。

彼女は涙を拭くと、「泣いたらお腹減っちゃった!」と言ってあどけなく笑う。
その言葉は前向きと言うか現実的と言うか、とにかく彼女らしい言葉だった。

コンビニでビールとおつまみ、それに彼女の晩御飯を買い、部屋へと戻る。
と、その途中、彼女は「喉かわいちゃった・・・」と言っていきなりビールを開けて飲みはじめる。
その展開は以前にも経験したことだった。そしてそれは再び・・・。

「ねえ、もーちゃんも飲む?」
そう言って彼女は私に缶を渡す・・・が、もちろん私は受け取らない。
「お前また、間接キィッス〜とか言うつもりだろ!」
そう、彼女は以前、そうやって私をからかったことがあったのだ。
そして・・・それは今回も同じだった。
彼女は笑いながら「あれれ・・・ばれちゃってた?」とわざとらしく答える。

強がって「ばーか!お前と間接キッスなんかできるかよ!」と言うも、
私の心臓は100m走を全力で走ったかのようにバクバクと鼓動していた。
それに対して「なによそれー!もーちゃんほんっとさいてーなんだから!」と彼女。
その頬を膨らませてわざとらしく怒る彼女の表情はとても愛らしかった・・・。

と、そんな彼女が急に真顔に戻る。
そして・・・その次の言葉に私は完全に面食らってしまった・・・。
473372 ◆5/w6WpxJOw :03/04/11 07:39 ID:???
「間接キッスが嫌なら・・・じゃあ・・・直接なら・・・・・・いいの?」

彼女は小さくそう言うと、顔を上げて静かに目を閉じる。
それはキスの誘いだった・・・。

しかし、それがあまりの突然のことだったので、私はどうしていいかわからずただ立ちすくんでいた。
彼女は本気なのだろうか・・・。それともやはりこれも冗談なのだろうか・・・。
様々な思いが頭の中を錯綜する。しかし、私が出した結論は・・・。

「ばーか!何やってんだよ!ほら、いくぞ!あやっぺ待ってるんだからさ・・・」

それはごまかしだった・・・。
本当は彼女とキスしたい・・・そういう気持ちでいっぱいなのは確かだ。
そして、これほどのチャンスは滅多に無いだろうということもわかっていた・・・なのに・・。

私はその気持ちをごまかしていた・・・。
それは決して照れ隠しなどでは無い。ただ、私にはその勇気が無かったのだ・・・。
ここでキスをしてしまえば、それは確かに私にとってそれ以上無い幸せと言えるだろう。
しかし・・・そのことで二人のこれまでの関係が崩れてしまうことが怖かったのだ。
そう、私はただただ怖かったのだ・・・次のステップに進むことが・・・。
それはあやっぺが彼女たちにずっと謝れずにいたことと似ているのかもしれない・・・。
情けない男だと自分でも思う・・・しかし、それが自分なのだと、そうも思う・・・。

「ほら!いつまでやってんだよ!もう行くぞ!」
そう言って彼女を置いたまま歩き出す・・・。自分の気持ちに嘘をついたまま・・・。
そんな私に対して彼女は「もーちゃんのばか!!!もう知らない!」と言うと、
逆に私を置いて走りだす・・・。そしてその姿は闇へと消えていった・・・。

もしかすると・・・彼女は本気だったのだろうか・・・。私に期待していたのだろうか・・・。
そんな思いが頭の中をよぎる・・・。
しかし、例え彼女が本気だったとしても、やはり私にそれを受け入れることはできない。
彼女を手に入れるということは・・・いつか彼女を失うということなのだから・・・。
474373 ◆5/w6WpxJOw :03/04/11 07:40 ID:???
と、突然後ろから頭をコツンと小突かれる。
振り返ると、そこにはなぜだかあやっぺが立っていた。

「遅いから心配して様子見に来たんだけど・・・なーんかいい感じだったわね!」とあやっぺ。
どうやら私たちの一部始終を隠れて見ていたらしい・・・。
そして彼女は、その様子を見て私の保田への想いに気づいてしまったらしい。
それは女の勘なのだろうか。それとも私の行動がわかりやすいだけなのだろうか。
ただ、中澤や紺野にも気づかれたことを考えると、それは多分後者なのだろう。

「いや・・・別にその・・・何もないし・・・」とわけのわからない言い訳をする。
そんな私の態度がおもしろかったのか、彼女は笑いながら尋ねる。
「素直になんなよ・・・ケイちゃんのこと好きなんでしょ?」

その言葉に「いや・・・えっと・・・その・・・」と更に慌てふためく私。
そんな私を彼女は「もーちゃん結構ウブなんだあ・・・かーわいい!」とからかう。
人妻からかわいいって言われてもな・・・なんか滅茶苦茶困るぞ・・・。

結局あやっぺにからかわれながら二人で部屋へと戻る。
ただ、そのからかいも私にとっては決して不快なものではなかった。
そう、私はその彼女のからかいに、なぜだか幸せを感じていたのだ。
それは今の自分が人に恋することの喜びを知っているからなのだろうか。
決して彼女と何かあるような関係ではないし、自分の気持ちを伝えたわけでもない。
しかし、私はただただ、自分が今幸せなんだと実感していた・・・。
そう・・・恋とは・・・ただそれだけで幸せなものなのだ。例えそれが実らない恋だとしても・・・。

部屋に戻ると、そこには一人でビールを飲んでいる保田がいた。
「あやっぺ、どこ行ってたのよー!」と保田。
「ごめんごめん・・・あんまり遅いから心配しちゃって・・・」とあやっぺ。

保田は先ほどの号泣もそして私とのことも何も無かったかのように明るく振舞っていた。
もっとも、その表情の裏にどのような思いが隠されているのかは知る由も無いのだが・・・。
475番組の途中ですが名無しです:03/04/11 09:32 ID:???
なんじゃあああああああ!!!!!!このスレはあああああああ!!!!
>>475
良スレ
477番組の途中ですが名無しです:03/04/12 04:20 ID:???
保護しました。
478 ◆5/w6WpxJOw :03/04/12 09:22 ID:???
>>475
アンチですか?ヲタですか?それとも・・・((((;゚Д゚)))ガクガクブルブル
>>476
そう言ってもらえると嬉しいです。
>>477
ご苦労さまです。
479374 ◆5/w6WpxJOw :03/04/12 09:23 ID:???
それから四日間は部屋には誰も来ず、次に来たのは中澤姉さんだった。
姉さんは毎週ほとんど同じ曜日にやって来ていた。
それは仕事が安定しているからなのだろうが、まあ仕事が少ないということもあるのかもしれない。

その日の姉さんはやたらと陽気だった。
珍しく料理を作ると言い出し、閉店間近のスーパーに買い物に行く。
結局姉さんが作ったのは単純な焼きうどんだったのだが、これが意外にも旨かった。
私が「旨いですね・・・」と言うと、「そやろ?そやろ?私の得意料理やから!」と自慢する。

うーん・・・得意料理って普通はもっと手の込んだ料理とか言うべきだと思うのだが・・・。
しかしまあ、確かにこれは得意料理と言うに価するものであるかもしれない・・・。

その後、姉さんはテレビを見ながら出ている芸能人を批評しはじめる。
こいつはつまらんとか、こいつはぶりっこだとか、こいつはすぐに落ちるとか・・・。
まあ姉さんも自分がそうやって色々と批評されていることを知って言っているのだろう。
ある意味かわいそうな反応とも言える・・・。

そんな姉さんに対して「姉さんは女優なんですか?歌手なんですか?」と質問してみる。
正直な話、それまで姉さんがドラマに出ていたりソロで歌を歌っている場面を見たことが無かったのだ。
もっとも、それは私がドラマや歌番組などに全く興味が無いというのもあるが・・・。

しかし、返って来た言葉はどちらでもなかった。
「うーん・・・そうやな、どっちかって言うと東京美人やな・・・」

東京美人って・・・姉さん・・・意味がわかりません・・・。

「姉さん・・・どう見ても関西人じゃないですか!」と言うと、
「まああれや・・・いわゆるマルチタレントってやつちゃうか?」と姉さん。

マルチタレントって・・・姉さん・・・そんなに才能無いじゃないですか・・・。
それにどちらかと言うとマルチ商法の方が似合ってるような・・・。
480375 ◆5/w6WpxJOw :03/04/12 09:23 ID:???
「マルチタレントって・・・ある意味取柄が無いってことですよね・・・」
そう言うと姉さんは私をギロッと睨む。少し失礼な言葉とも思ったが、どうやら図星だったようだ。
が・・・姉さんはその話題から避けるように立ち上がると、窓を開けて外を眺める。
そしてまたもや意味不明の言葉を呟く・・・。

「あー、上海の風が懐かしい・・・」

それにしても・・・今日の姉さんはどこかが違っていた。
やたら陽気だし、自分から料理を作るし、それに意味不明の言葉を連発する・・・。
そして一番不可解なのが、姉さんが今日は酒を飲もうとしないことだった。
何か心境の変化でもあったのだろうか・・・。

少し心配になり、姉さんに酒を勧める。
「姉さん、ビールでも飲みませんか?」
しかし、やはり今日の姉さんは確かにいつもと違っていた。
「いや・・・今日はやめとくわ・・・そんな気分やないし・・・」

と、そう言うと姉さんは突然私にリクエストする。「なあ・・・なんかええCD持ってへん?」
やはり何かが違う・・・。姉さんが酒よりも歌を聴きたがるなんて・・・。

私が戸惑いながら「どんなのがいいですか?」と尋ねると、
姉さんは「そうやな・・・懐かしい曲頼むわ」と答える。
懐かしい曲って・・・姉さん・・・やはり何かあったのですか?

仕方なく適当に懐かしそうなCDを選んで曲を流す・・・。
しかし、その選曲は姉さんの予想を遥かに越えたものだったらしい。
「懐かしいって・・・あんた、いくらなんでもこれは懐かしすぎやろ!」
そしてCDケースを見て更に愕然とした表情を浮かべる。
「GS大全集って・・・あんたほんまに20代か?」

姉さんが懐かしい曲が聞きたいって言ったんですけど・・・。
それに姉さんから20代って聞かれるのもなんだか・・・。
481376 ◆5/w6WpxJOw :03/04/12 09:24 ID:???
「いや・・・懐かしい曲って言われたから・・・姉さんこの世代ですよね?」
そう尋ねると、姉さんは頷きながら答える。
「そそ・・・うちが若い頃はGS全盛期でな、ワイルドワンズとかカーナビーツとかオックスとか流行ってて、
・・・ってアホ!いくらうちでもそこまで年とってへんわ!」

ナイスなノリツッコミ・・・。
テレビでもこれができればもっと仕事増えると思うのだが・・・。
でもまあ、姉さんは自称東京美人なので、そんな芸当を覚える必要は無いのだろうが・・・。
それにしても・・・年とってないと言いながらもよくそこまでグループ名が言えるもんだ・・・。
まあ、そんなCDを持ってる自分も自分だが・・・。

結局CDは姉さんが自分で選んだのだが、私から見ればどっちも似たようなものだった。
懐かしのフォークソングコレクションって・・・姉さん・・・やはり何かあったのですか?

姉さんはぼんやりとその曲を聴いていた。
やはり何かが違う・・・今日の姉さんは明らかに異常だった。
ただ、そうは言っても、悩んでいたり落ち込んでいるようには――私には――見えないし、
無理に陽気にふるまっているようにも――これも私には――見えないのだが・・・。
しかし、何か思考回路が別の次元へ迷い込んでいるのは確かだった。

そして、それを証明するように、姉さんは意味不明の言葉を連発する。
「あー、カラスの女房が二人暮しでお台場でムーンライトセレナーデや・・・」
「純情行進曲で悔し涙ポロリやで・・・ほんま・・・」

意味はわからないものの、それは姉さんの心理状態を表しているのかもしれない。

そんな姉さんに私は再びビールを勧める。
姉さんは最初、「飲みたいんやったらあんた一人で飲んだらええんで」と言ったものの、
結局私が飲み始めると我慢できなかったのか、目の前のビールに手を出す。

これでいつもの姉さんに戻るだろう・・・と思っていた・・・。
しかし・・・しかし・・・その結末は私が全く予期していないものであった・・・。
482番組の途中ですが名無しです:03/04/12 16:52 ID:???
483番組の途中ですが名無しです:03/04/13 01:52 ID:???
484 ◆5/w6WpxJOw :03/04/13 18:27 ID:???
>>482-483
保守ご苦労さまです。

今日の更新は内容が内容だけにsageますw
485377 ◆5/w6WpxJOw :03/04/13 18:27 ID:???
どうしてそうなってしまったのかは自分でもよくわからない・・・。
結局はなりゆきということなのだろうが、しかし、そんな言葉で簡単に片付けられるものではないはずだ。
数日前、勇気が無くて彼女――保田――とのキスを拒否したばかりだというのに・・・。
ただ一つだけ確実に言えることは、私がその夜、一つの過ちを犯してしまったということだった・・・。

酒を飲み出した姉さんはいつもの姉さんに戻っていた。・・・少なくとも私からはそう見えていた。
しかし・・・それは違っていたのだろう。彼女は人生の経験が豊富な大人の女性なのだ。
そんな彼女の心の内をまだまだ子供の私が察することなどできるはずもなく・・・。

姉さんは黙々とビールを飲んでいた。
いつもと違うとしたら、それは姉さんが酒を飲んだにも関わらず愚痴をこぼさなかったことだろう。
そんな姉さんが重い口を開いたのは、ビールの在庫が切れて焼酎の水割りを飲み出した頃だった。

「なあ・・・人生って何なんやろ・・・」と姉さん。
続けて「生きてて何かええことあるんやろか・・・」と呟く。

その言葉に今日の姉さんがいつもと違う理由が薄々ながらわかったような気がした。
それは私が以前いつものように感じていたこと・・・そう、人生への漠然とした不安だった・・・。

自分の現状に納得しているわけではないし、満足しているわけでもない・・・。
しかし決して不満があるわけでもなく、希望が無いわけでもない・・・。
ただ、今のままでいいのだろうかと、ふとそんなことを思ったりする・・・。
今日の姉さんはそんな状態だったのだ。

姉さんは「今の自分がわからへん・・・」と言う。
そしてまた、「何がわからへんのかもわからへん・・・」とも。

人生を忙しなく過ごしてきた人がふと立ち止まって自分を見つめなおそうとした時、
大概にしてそのような状態に陥ることはよくあることかもしれない。
私もそうだったのだが、ただ、私の場合はそれが早い時期なだけマシだったのかもしれない。
と言うのも、その状況から立ち直っていないと言っても、私にはまだまだ時間が残されているのだ・・・。
しかし、それと比べて、姉さんの場合はすでに20代の終わりを迎えようとしていた・・・。
486378 ◆5/w6WpxJOw :03/04/13 18:28 ID:???
さすがに焼酎を飲み始めたせいか、姉さんは酔いも進んで、いつもの状態にかなり近くなっていた。
そしてまた、私も姉さん同様にかなり酔っていた。・・・もっとも、それは言い訳に過ぎないのかもしれないが・・・。

それは突然のことだった。
私はその異変にどう対処していいかわからず、ただフラフラする頭を止めるだけで精一杯だった。
すでにかなりの時間が過ぎ、かなりの量のアルコールを摂取していることもあり、
私にはその姉さんの行動を冷静に考えることができなかった。

姉さんは突然泣き出し、そして私に抱きついてきたのだ。
そして、それだけならば特に問題は無かっただろう。後悔することも無かったはずだ。
しかし・・・そうはならなかった・・・。

「抱きしめて・・・思いっきり・・・」

なぜだかはわからないが姉さんはそう言い、
そしてこれもなぜだかはわからないが、私はその言葉に素直に従っていた。

ぼんやりとする思考のまま、泣き崩れる姉さんを抱きとめる。
ただし、そこには何の感情も無かった・・・。
女性の涙に弱い自分・・・そうした女性に同情して力になってあげたいと思ってしまう自分・・・。
しかし・・・その時の私にはそうした感情は全くの皆無だった。

ただただ、言われるままに姉さんを抱きしめ続ける。
そして・・・それは起きてしまったのだ・・・。

姉さんは突然私の顔を見つめると、その唇を私の唇へと近づけ・・・そして・・・。

その突然の行為に戸惑う私・・・。
しかし、姉さんはその口づけを止めようとしない・・・。執拗に私の唇を求め続ける。
そして・・・その行為に私の中で何かが止まろうとしていた・・・。

それは・・・理性という名のストッパー・・・。
487379 ◆5/w6WpxJOw :03/04/13 18:28 ID:???
それは大人の女性である姉さんのとろけるような口づけが原因だった。
その感触に最初は戸惑い、そしてその感触を感じないように耐えていた私だったが、
しかし、私のその理性は、本能と・・・そして姉さんのその執拗な求めによって完全に消え去ってしまっていた。

私は姉さんの背中に回した両腕に力を入れて、思いっきり姉さんのその体を抱きしめる。
まるで姉さんの温もりを少しも漏らさないようにと・・・それを自分の体へと刻み込む。
そして、姉さんのその唇の感触を存分に味わう・・・。

私自身、女性とキスすることは――ドラマの収録を除いて――ほぼ一年半ぶりだった。
それほど女性から遠ざかっていた私にとって、その姉さんの行為を受け入れたのも当然なのかもしれない。
それはある意味、私が女性に飢えていたからなのかもしれないが、
とにかくその時の私は、ただただ姉さんのその唇の感触を求め続けるだけだった。

と、後ろに流れていた静かな曲が終わり、突然激しい曲が流れ出す。
その曲はまるで二人のその行為を嘲笑うかのように同じフレーズを何度も繰り返す・・・。

 人間なんてララ〜ラ〜ララララ〜ラ〜♪人間なんてララ〜ラ〜ララララ〜ラ〜♪

その曲の始まりとともに私は彼女を抱き倒し、そして彼女の上になって彼女の唇を求める。

 人間なんてララ〜ラ〜ララララ〜ラ〜♪人間なんてララ〜ラ〜ララララ〜ラ〜♪

すると今度は彼女が上になり、私の唇を更に求める。

 人間なんてララ〜ラ〜ララララ〜ラ〜♪人間なんてララ〜ラ〜ララララ〜ラ〜♪

二人は床の上で何度も体を入れ替えながら何度も何度もお互いの唇を求め続ける。

 人間なんてララ〜ラ〜ララララ〜ラ〜♪・・・・・・・・・

気づいた時にはすでにその拓郎の叫びは終わっており、次の優しく淋しい曲が流れていた。
その曲調のあまりの変化に、私は少しながら理性を取り戻そうとしていた・・・。
488380 ◆5/w6WpxJOw :03/04/13 18:28 ID:???
私は自分の欲望の炎をなんとか抑え、その重ねた唇を離して姉さんに話し掛ける。
「姉さん・・・やっぱり駄目だよ・・・」

しかし、姉さんはその言葉を無視して、再びその唇に自分の唇を重ね合わせる。
その感触に私は再び理性を失いそうになるものの、最後の理性を振り絞って再び姉さんに話し掛ける。

「駄目だよ・・・これ以上やったら・・・我慢できなくなる・・・」

しかし、その言葉はある意味嘘だったのかもしれない・・・。
なぜなら、その時の私はすでに欲望を我慢できる状態ではなかったのだ。
姉さんのその唇のとろけるような感触・・・そして姉さんのその豊満な体の温もり・・・。
それはすでに私の肉体を、そして精神をもその気にさせていたのだ・・・。

そして、その理性によると思われた言葉も、本当は私のそうした欲望から出た言葉だったのかもしれない。
そう、私はその行為を終えることではなく、その先に進むことを期待していたのだ。
そして、それはただその確認のための言葉だった・・・。

姉さんは何も答えなかった・・・。
ただ黙って私の目を数秒見つめただけで、すぐにまた唇を重ね合わせる。
そして、それが答えだった・・・。

私は姉さんの背中に回していた左手を戻し、その手を姉さんの胸へと移動させる。
そして姉さんの服の上から、その胸の膨らみを撫でるように這わせる。
その柔らかい感触は私の左手から私の脳へと直接的に伝わり、そこで喜びへと変わる。
その快感に私の興奮は更に加速し、その手は姉さんのブラウスのボタンへと伸びる。

一つ・・・二つとそのボタンを外すと、そのはだけた部分から姉さんのブラジャーが姿を見せる。
しかし、その左手は止まることなくそのブラジャーの上へと移動し、
そしてブラジャーを上にずらそうとした、まさにその時だった・・・。

姉さん!事件です!!!
489381 ◆5/w6WpxJOw :03/04/13 18:29 ID:???
その突然の音に二人の動きが止まる。
が・・・その音は数秒も経たないうちに――まるで部屋の中を確認するかのように――再び鳴り響いた。
それはインターホンの音だった・・・。

その二度目の音でようやく現状を理解した私は、咄嗟に姉さんの体の上から離れる。
一方の姉さんもその音を聞き、ゆっくりと体を起すとそそくさと服装の乱れを直す。

そんな姉さんの仕種を確認するようにゆっくりと立ち上がると、私は玄関へと向かった・・・。
先ほどまでの興奮が余韻として色濃く私の体に――そして心に――響いていたものの、
それ以上に私の中には新たに動揺と緊張とが生じていた。

そう、こんな時間にこの部屋を訪れるということは・・・それは・・・。

そして、その私の予想はそのまま当たっていた・・・。私が鍵を開けるよりも早く、玄関のドアが開く。
それは合鍵を使ったということ・・・つまり、それが彼女たちの誰かだということが確定した瞬間だった。

この時ほど彼女――保田――に会いたくないと思ったことはそれまで一度も無かったことだろう・・・。
あれほど会いたいと思っていたのに・・・、あれほど一緒にいたいと思っていたのに・・・。
そしてそう思った瞬間、私は自分が大きな過ちを犯したことにようやく気づいたのだった。

馬鹿な男だ・・・。大馬鹿者だ・・・。
あんなにも好きで好きでたまらない彼女のキスの誘いをつい数日前に断っておきながら、
恋愛感情の欠如した姉さんのキスを本能的に受け入れ、そして自らもそれを求めてしまったのだ。

そんな後悔の念に苛まれながら、私はその玄関から入ってきた女性を迎え入れる。
それは保田ではなかった・・・。

後藤真希・・・それは彼女が男だと発覚してから初めての、十日ぶりの訪問だった。

後藤は「ごめんなさい・・・もう寝てましたよね、起しちゃいましたか?」と笑顔で尋ねる。
しかし、その笑顔は私に安心感を与えるどころか、逆に私の罪悪感を増幅するだけのものだった。
490382 ◆5/w6WpxJOw :03/04/13 18:29 ID:???
部屋に入った後藤は、中澤の姿を見て喜びの声を上げる。
「ゆうちゃ〜ん、会いたかったよ〜!」

しかし、当の中澤はあまり喜ぶこともなく、その表情はかなりくすぶっていた。
「なんや・・・真希かいな・・・ほんっとタイミング悪い子なんやから・・・」

その言葉に後藤は「ごめんなさい」と言ってペコリと頭を下げる。
もちろんその中澤の言葉――タイミング――の意味には気づいていないのだろうが・・・。

私はその二人の会話をハラハラしながら聞くだけだった。
今にも喉から心臓が飛び出てきそうなほどの緊張・・・そして罪悪感による猛烈な吐き気・・・。
もっとも、その吐き気は酒によるものかもしれなかったが・・・。

「今日ゆうちゃんに会えそうな気がしてたんだ!」と後藤。
しかし、姉さんはかなり酔っていたこともあってか、後藤にはかなり冷たかった。
もっとも、それはせっかくのチャンス――なのだろうか?――を潰されたせいとも考えられるが・・・。

「先週会ったばかりやんか・・・」と姉さん。
それはかなり冷たい口調だったものの、後藤は全然気にしていない様子だった。
いつもの酔った姉さんだと思っているのだろう。あながち間違ってはいないのだが・・・。

姉さんはさすがだった。あの執拗に唇を求めた姿は微塵も感じさせない。それは完全に別人だった。
何事も無かったかのように後藤と会話し、酒を飲み、そして流れていた曲に合わせて口ずさむ。
誰が見ても先ほどまであのような行為をしていたとは思えない。そこにいたのはいつもの酔った姉さんだった。

その姉さんの変わり身の早さは、さすが大人の女性と思わせられるものであったが、
ただ、それがなぜか私には悲しいものに感じられた・・・。

もしかすると姉さんは、いつもそうやって自分の心の内を誰にも知られないように振舞っているのかもしれない。
今日の出来事はさすがに誰にも言えないことだったが、
しかし、それ以外にも、姉さんはいつもそうやって自分の心を隠しているのではないか・・・と、そう感じられたのだ。
491383 ◆5/w6WpxJOw :03/04/13 18:30 ID:???
姉さんはそのまま壁にもたれたまま眠ってしまった。
後藤が押入れから毛布を取り出して姉さんに掛ける。

そして、机の上にあるビールの空き缶と焼酎の瓶を見ながら、「結構飲んだ?」と尋ねる。
その質問に「ああ・・・それなりに飲んだかな・・・」と曖昧に答える。

しかし、嘘を吐くことはあっても嘘を吐き通すことが苦手な私にとっては、
そうした何気ない――全く関係が無い――言葉ですら、かなり辛いものであった。
気づかれないようにと焦るばかりで、逆に不自然な態度に見えていたかもしれない。

後藤は中澤の顔を覗き込んで寝ていることを確認すると、
唐突に私を連れて玄関の方へと向かう。そして・・・。

「もう○○さん、あのことは内緒ですよね?」と彼女。
「ああ・・・誰にも言ってないよ・・・」と私。
あのこととは、もちろん後藤が男であるという事実だ。
彼女はそのことを確認するに私を呼び出したのだろう。
そう思いほっとしたものの・・・それは私の完全な間違いだった。

「じゃあ、私も内緒にしておきますね」と彼女。

その言葉に全身に緊張が走る・・・。
「内緒って・・・何のことだ?」ととぼけるも、その私の声は完全に震えていた。

その言葉に彼女は何も答えず、ただ指先で自分の唇を指す。
それは私と中澤とのキスに彼女が気づいていることを意味していた。
そして、彼女は一言だけ私に囁く。

「唇に・・・口紅がついてますよ・・・」

それは完全なる証拠だった・・・。
そう、私の唇に残っていたのは、決して姉さんのとろけるような唇の感触だけではなかったのだ・・・。
492番組の途中ですが名無しです:03/04/14 01:00 ID:???
保全
493性闘士 ◆jeglAw4g22 :03/04/14 16:49 ID:???
キスキタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━!!
494番組の途中ですが名無しです:03/04/15 05:55 ID:???
保護します。
495 ◆5/w6WpxJOw :03/04/15 09:49 ID:???
>>492
ご苦労さまです。
>>493
内緒ですので・・・。
>>494
ご苦労さまです。
496384 ◆5/w6WpxJOw :03/04/15 09:50 ID:???
それから六日間は部屋には誰も来なかった・・・。
その空白の日々に私はあの出来事が彼女たちにばれてしまい、
彼女たちがこの部屋に来なくなったのかもしれないという不安を抱いていた。
もっとも・・・それは私の懸念に過ぎないのだろうが・・・。

その空白の日々を埋めたのは市井だった。
市井はいつも通りあまり陽気とは言えない感じでやって来て、
簡単な料理を作り、そして先週同様にゲームに没頭する。

市井は普段、暇な時はゲームをして過ごしているらしいが、
こうしたレトロなゲーム――初代ファミコン――が逆に珍しいらしい。

会話もあまりせずにただ黙々とゲームをやり続ける。
私も途中まではキン肉マンマッスルタッグマッチなどで市井と対戦するも、
夜も更けていつしかそのまま眠ってしまっていた。

朝になって目を覚ますと、私の上には毛布が掛けられていた。
それは市井が掛けてくれたのだろう。この部屋に来る彼女たちは皆、
なんだかんだ言ってもそういうところは女性らしい優しさを持っているのだ。
ただ、その市井の様子には私は驚かざるを得なかったのだが・・・。

市井はまだファミコンを続けていたのだ。しかも徹夜でドラクエVを・・・。
勇者の名前はもちろん「さやか」だった。
そして他のパーティーも全てこの部屋に来る彼女たちの名前がついていた。
戦士「ゆうこ」・・・これはまあ、なんとなくわかる気がする・・・。
僧侶「けい」・・・これは・・・絶対に間違っているような気がする・・・。
魔法使い「あや」・・・これは・・・よくわからないが・・・まあ、ありかもしれない・・・。

ただし、これ以外にもルイーダの酒場には数人のメンバーが登録されていた。
その中には私もいた・・・。武道家「もう○○」・・・なかなかかっこいい職業だ。
ただ、市井は私が黒帯を持ってることは知らないはずなんだが・・・。
497385 ◆5/w6WpxJOw :03/04/15 09:50 ID:???
その他に登録されていたのは遊び人「ごとう」と商人「つんく」、それに二人目の僧侶「あすか」だった。
三人ともまあまあわかるような気がする・・・が・・・私はその画面を見て驚きを隠せなかった・・・。

そう・・・なぜか後藤の性別が男になっていたのだ。
と言うことは・・・まさかとは思うが、市井も後藤が男だということを知っているのだろうか。

「あのさ・・・なんで後藤が男になってるの?」
そう尋ねると、市井は「あー、なんか間違えちゃったみたい」とだけ答える。
その態度は嘘を吐いているようには見えなかった。
しかし、だからと言ってそれを鵜呑みにすることもできなかった・・・。

ただし、それは私が詮索するようなことではないのかもしれない。
私は後藤が男であることを知っているものの、ただそれだけのことなのだ。
誰が気づこうが、誰が気づいていようが、それは私には関係ないことなのだ。
なぜなら、私にはただ黙っていることしかできないのだから・・・。

夕方になり、バイトを終えて部屋に戻ると、そこには中澤姉さんと市井の二人がいた。
市井は徹夜でドラクエをしていたせいだろうか、一人布団ですやすやと眠っていた。
そんな市井をよそに、姉さんは音楽を聴きながら雑誌を読んでいた。

あの出来事から一週間・・・私の中にはまだあの出来事が色濃く残っていたものの、
一方の姉さんはすっかり忘れている様子だった。
まあ、女性と縁の少ない私にとっては重大な出来事であったとしても、
姉さんにとってはよくある色恋沙汰の一つに過ぎないのかもしれない・・・。

と、姉さんが雑誌を読んだまま、視線を変えずに私に話し掛ける。
「あんた聞いたか?ドラマのこと・・・」と中澤。
それに対して私は「・・・ああ・・・一応は・・・」と答える。

ドラマのこととは・・・それは二日前に私が知ったことだった。
ただし、私はそれを聞いても特に残念とは思わなかった。
もちろん、卒業後の活動に重要な意味を持っていた保田にとってはそれは一大事なのだが・・・。
498386 ◆5/w6WpxJOw :03/04/15 09:51 ID:???
それは・・・ドラマの放送中止の話だった。
本来ならば保田の卒業と同時にスペシャルドラマとして放送する予定で、
つい先日、その予告編として――私は映っていなかったが――テレビでも少しだけ流れたのだが、
それが急遽取りやめになったのだ。・・・その理由・・・それは。

あのドラマを制作していたのは中堅の番組制作会社だった。
中堅と言っても小さな下請けの会社に過ぎず、名前もあまり知られていない。
ローカルな旅番組などを主に制作しており、今回のドラマはある意味挑戦だった。
しかし、その挑戦は単なる遊び心や未来志向ではない。
不況の煽りで会社の運営がうまくいっておらず、一発逆転を狙ってのものだったのだ。
そして、それは期待通りの出来栄えとして完成していた・・・はずだった・・・。
しかし・・・。

突然のキャンセルの理由・・・その発端は脱税の摘発だった。
会社ぐるみで3年前から脱税をしていたらしく、ついにそれが発覚してしまったのだ。
しかし、それだけならば別にドラマを中止するほどではなかっただろう。

問題はその摘発の際に別の問題が発覚したことだった。それは・・・覚醒剤・・・。
そう、会社内部での覚醒剤の乱用が発覚したのだ。そして社員やスタッフ数名が逮捕された。
その中にはあのドラマのプロデューサー――現場に来たことはなかったが――も含まれていた・・・。

会社側、そしてテレビ局はそれを重大に受け止め、そしてドラマの放送中止を決めたのだった。
ただし、そこにはもう一つ、隠された理由があった・・・。

それは・・・あのドラマ出演者の中に覚醒剤を使用している人物がいる・・・という疑惑の存在だった。
その人物は数年前突然ブレイクしたものの、最近は急激に人気が落ち、かなり悩んでいたらしい。
私もインターネットで激太りや整形疑惑、元々ブスなどといった誹謗中傷を見たことがあるが、
確かにそうした疑惑が浮上するのもわかるような気がする・・・。

もっとも、私は彼女を信じているが・・・。絶対にクスリなどに逃げたりしないと・・・。
例え皆が彼女にそうした疑惑の目を向けたとしても・・・私だけは信じ続けたい・・・姉の無実を・・・。
499番組の途中ですが名無しです:03/04/16 13:30 ID:???
保全
500
501山崎渉:03/04/17 08:33 ID:???
(^^)
502番組の途中ですが名無しです:03/04/17 12:47 ID:???
保全
503番組の途中ですが名無しです:03/04/17 15:34 ID:???
ho age
504 ◆5/w6WpxJOw :03/04/17 20:49 ID:???
>>499 >>502 >>503
保守ありがとうございます。
>>500
おめでとうございます。
>>501
お久しぶりですw
505387 ◆5/w6WpxJOw :03/04/17 20:50 ID:???
パシッ!!!

それは突然の出来事だった・・・。
姉さんは何が起きたのかわからない様子で、ただ呆然としていた。
そしてまた、私自身も自分のその行動に驚いていた。
それは反射的なものだった・・・。

「あの子絶対やってるで・・・はよ捕まればええんや」
その言葉に私は無意識のうちに姉さんを引っ叩いていたのだ。もちろん軽くだが・・・。

姉さんは頬に手を当て、睨むように私を見る。
そんな姉さんに対して私は最初、深い後悔の念を抱いたものの、
しかし・・・姉さんのその言葉は絶対に許せるものでなかったのも事実だ。

「いくら姉さんでも言っていいことと悪いことがあります!」

私がそう言うと、姉さんはしばらく考え込んだ後、
「そうやな・・・そうやそうや・・・うちが悪いんや・・・そうやそうや・・・」と言うと、
そのまま立ち上がってカバンを持って部屋から出て行ってしまった。
残ったのは右手の嫌な感触と、すやすやと眠る市井の寝息だけ・・・。

先週のキスといい、今日の件といい、私と姉さんとの間には溝が生じようとしていた。
そして、そのことを象徴するかのように、姉さんはその夜は部屋には戻って来ず、
その次に来たのはしばらく経ってから・・・それもとある別の理由があってのことだった・・・。

起きて中澤がいないことに気づいた市井が尋ねる。
喧嘩して出て行ったと答えると、「ゆうちゃんらしいや」と一言。あまり気にしていない様子だ。
市井曰く、現役の娘。だった頃も、姉さんはよく誰かと喧嘩してはふてくされて出て行くことがあったらしい。
ただし、それは決して姉さんが強気だからではない。弱いからこそその場から逃げ出すのだと市井は話す。

まあ、それはいいとしても、今日のことは私も大いに反省する必要があるだろう・・・。
自分でもまさか自分が女性を叩くとは・・・全く思ってもいなかったのだから・・・。
506388 ◆5/w6WpxJOw :03/04/17 20:50 ID:???
中澤と市井の次にやって来たのは意外な人物だった。
テレビで連日のように桜の開花の話題が流れる3月第4週・・・。
私がバイトを終えて部屋に戻る途中のこと・・・。

私の部屋は地下鉄の駅から徒歩20分の所にある。
バイト先はその更に先にあり、私はそこを歩いて往復していた。
そして私がその駅のある交差点を通りがかった時のことだ。

地下へと続く階段の前に一人の少女が立っていた。
いや、少女と言うのは間違っているかもしれない。見た目は高校生くらい・・・だろうか。
その少女はその小さな体に不釣合いなほどの旅行用の大きなカバンを背負い、片手には地図を持っていた。
その様子に私は最初、特に気にすることもなかったのだが、
その前を通り過ぎようとした時、その顔にどことなく見覚えがあるような気がしたのだ。
そして歩みを緩めてその顔を確認する・・・。

「あの・・・もしかして・・・福田・・明日香さんですか?」
そう、どこかで見たことがあると思ったのは、私の部屋に飾ってあるあの写真だったのだ・・・。

しかし、その少女は戸惑った表情を浮かべながら、「ち、違います・・・」とそれを否定する。

うーん・・・確かによく見るとあの写真とは少し雰囲気が違うような気もする。
あの写真に写った福田明日香は頬がふっくらとしてまだ幼い少女といった感じだったが、
今目の前にいる少女はそれよりも全体的に大人びた印象を受ける。
ただし、どことなくあどけない表情はあの写真とかなり似ているように思えたのだが・・・。

その少女はジロジロと眺める私を不審に思ったのか、
「あの・・・急いでますので・・・」と言って私とは逆方向へと歩いて行った。

まあ、街中でいきなり見知らぬ、それも怪しい人物に話し掛けられ、
さらに顔をジロジロと見られたら誰でもとっとと逃げ出すだろう・・・。
それも福田明日香という娘。を何年も前に脱退したマイナーな人物と間違えられたとなればなおさらのこと。
危ないモーヲタと思われていなければいいんだが・・・。
507389 ◆5/w6WpxJOw :03/04/17 20:51 ID:???
部屋に戻ると、その日は部屋には誰も来ていなかった。
最近は彼女たちが料理を作ってくれることが多くて結構助かっていたのだが、
今日はどうやら自分で作らないといけないようだ・・・。
まあ、それが普通の――それまで私も続けていた――男の一人暮らしというものなのだが・・・。

とりあえずその日は手を抜いてほか弁で済ますことにした。
しばらくテレビを見て過ごし、夕食時になってほか弁を買いに出る。
そして部屋に戻って再びテレビを見ながら弁当を食べる。

それは彼女たちが来るまで長い間続けていた生活と同じものだったが、
しかし、その時の私にはそれが物凄く淋しいように感じられた。
そう、私はいつの間にか、彼女たちがいる生活を普通だと思うようになっていたのだ。
それがいいことなのか、悪いことなのかは自分ではわからないが・・・。

弁当を食べ終えた後、一人でビールを飲む。
もちろんテレビを見ながらだが、それに更にCDを流す。
テレビの音とCDから流れるクラシックの音とが微妙に交錯する。
ある意味異様かもしれないが、これが私が一人で過ごす時の習慣だった。

耳はテレビの音を中心に聞き取るが、その後ろでかすかに脳にクラシックが響く。
それが結構落ち着く感じがして好きだったのだ。

と、その二つの音に紛れて部屋にインターホンの音が鳴り響いた。
それは多分、彼女たちの訪問を告げる音だろう。

今日は誰だろう・・・そう思って玄関を開けると、そこに立っていたのは・・・。

驚くことに、それは先ほどの少女だった・・・。
ただし、驚いたのは私だけではない・・・その少女も私以上に驚いた表情を浮かべていた。
508390 ◆5/w6WpxJOw :03/04/17 20:51 ID:???
その少女は恐る恐る「あのお・・・もう○○さんですか?」と尋ねる。
それに対して私は「ああ・・・そうだけど・・・やっぱり福田さんだよね?」と尋ね返す。

「あ・・・あの・・・先ほどはすいませんでした・・・」と彼女。
かなり驚いたらしく、なぜか焦って早口になっていた。
まさか駅前で自分の素性に気づいた人物がこの部屋の主とは思わなかったのだろう。

そんな彼女の様子を見てついつい苦笑いを浮かべてしまう。
「ははは・・・いいっていいって・・・それより立ち話もなんだから、上がってよ」
そう言って彼女を部屋に上げる。

彼女は「お邪魔します・・・お世話になります・・・」と言って部屋へと上がりこむと、
それまで背負っていた旅行用の大きなカバンを部屋の隅に置く。

その様子を見て「荷物送ってくれたらよかったのに・・・」と言うと、
彼女は黙ったまま私の方を見つめる。それは何か睨んでいるようにも思えた。

「いや、ほらさ・・・他の奴らは色々と送ってきてるし・・・」と言って彼女たちの荷物の置いてある棚を指差す。
しかし、彼女は怒られていると思ったのか、私から視線を移さずに「駄目ですか?」と答える。
それに対して「いや・・・そういうわけじゃないんだけど・・・」と言うと、「そうですか」と彼女。

なんだかほんわかしたイメージがあったのだが、もしかすると結構きつい性格なのだろうか・・・。

話題を変えようと思い、「えっと・・・飯もう食べたんかな?」と尋ねる。
駅前で会ってからもう二時間も経っているということは、多分どこかで晩飯を済ませてきたのだろう。
・・・と、そう思っていたのだが、しかしそれは違っていたらしい。

彼女は「いえ・・・まだです・・・」と答える。

おいおい・・・ちょっと待てよ!
じゃあ、駅前で会ってから二時間もどこで何やってたんだ?
509391 ◆5/w6WpxJOw :03/04/17 20:53 ID:???
「じゃあ・・・あれから・・・何してたの?」
それに対して彼女はなぜか「それは教えられません」と言うと、そのまま黙り込んでしまう。

教えられないことってどんなことだよ・・・。
と思ったものの、彼女のその口をつぐむ様子からは、絶対に教えないという強い意志が感じられた。

「もしかして・・・道に迷ってたとか?」
笑いながらそう尋ねると、彼女のふっくらとした頬が少しへこんだような気がした。
と言うことは、多分図星なのだろう・・・。

それにしても、あれから二時間もずっと迷ってたのだろうか?
確かに駅で会った時、うちとは逆の方向へと歩いて行ったが・・・もしかしてあのまま進んだのだろうか?

「電話してくれたら迎えに行ったんだけどな・・・」
そう言うも、彼女はその言葉には反応しようとはしなかった。
まだ会ったばかりで私のことを警戒しているのかもしれない・・・。

会話が途切れないようにと、「まあ、この辺ちょっと道がわかりにくいからね・・・」と言うと、
ようやく彼女の口が開く・・・が。

「道に迷ってなんかいません・・・私が道になど迷うはずがありません!」

それは道に迷ったことを頑として認めないといった感じだった・・・。
なんだかよくわからない・・・道に迷うことがそんなに恥ずかしいことなのだろうか?
彼女は更に言葉を続ける。

「例え道に迷ったとしても、それがどうしたと言うんですか!」

それって・・・自分で認めたってことだと思うんだけど・・・。
しかし・・・なんなんだろ・・・たかが道に迷ったくらいでそんなにムキになられても・・・。

とにかく、今は彼女とのコミュニケーションが大切・・・そのためにはこの話題は避けるのが無難だろう。
510392 ◆5/w6WpxJOw :03/04/17 20:54 ID:???
それからお互いに簡単な自己紹介をする。
驚いたことに――と言うか、私が勘違いしていただけなのだが――彼女は後藤よりも年上だった。
市井よりもたった一つだけ年下というだけで、後藤よりは一つ年上・・・それは意外な順列だった。
てっきりもっと幼いと思っていたのだが、それは現役当時の最年少という印象が強く残っていたからなのだろう。
そしてまた、あの写真も彼女が現役の時に撮影したものなのだ。印象が変わっているのも当然なのだろう。

そんな驚きを覚えながら部屋の説明をする。
が、途中まで言ったところで彼女が唐突に話を遮る。
「すでに心得てます!」

なんかよくわからないが、確かに噂通りしっかりした性格のようだ。
もしかすると自称完璧の紺野よりも完璧主義なのかもしれない・・・。

彼女は部屋を一通り確認するように眺め回すと、テレビの上の写真に興味を示す。
そして「これ・・・私が現役の時の写真ですね・・・」と言うと、しばらくその写真を見続ける。

しかし、懐かしい感傷に浸っているのかと思いきや・・・。
彼女は「過去には興味ありません。大切なのは未来です!」と言うと、いきなりその写真を抜き取る。
未来が大切って・・・なんか誰かからも聞いたことがあるような台詞だが、
しかし、せっかく中澤姉さんが飾った写真を抜き取るとは・・・この子はどういう子なのだろうか。

と、そう思ったのも束の間、それは更なる事態を招くことになった。
そう、その写真の下から出てきたのは、私と保田とのツーショット写真だったのだ。

彼女はその写真を見ると、「これ、ツーショット写真ですね・・・」と呟く。
そして、「なるほど、よくわかりました。ケイのことが好きなのですね?」と尋ねる。
いや、尋ねると言うか、すでに彼女の中ではそういう結論が出ているようだった。
それにしても・・・年上に対してケイって・・・普段もそう呼んでるのだろうか?

「いや・・・それドラマのスタッフが撮ったやつで・・・別にそういうわけじゃ・・・」と言うも、
「言い訳をする男は最低です。いさぎよく認めるのが真の漢(おこと)ってもんですよ」と彼女。
511393 ◆5/w6WpxJOw :03/04/17 20:55 ID:???
なんでこんな小娘に説教されなければならないんだろうかと、そう思ったものの、
ところが、そんな彼女が突然豹変する・・・。それは一つの人形が原因だった。

「わ〜、ドーモ君だ!か〜わいい〜!!!」
彼女はそう言うと、そのドーモ君人形を抱きしめて、よしよしと頭をなでる。
そして目を輝かせながら、「これ、どうしたんですか?」と尋ねる。

その様子に戸惑いながらも、「あ・・・保田がゲーセンで手に入れたやつだけど・・・」と言うと、
「さすがケイ、いい趣味してますねえ・・・」と感慨深げに答える。

いい趣味ねえ・・・。まあ私もドーモ君は結構好きな方だが・・・いい趣味ってほどでもないと思うのだが・・・。
しかし・・・人形一つでこうも変わるとは・・・やはりこの子も普通の女の子・・・なのだろうか?

私はそんな彼女と打ち解けるために、思い切って得意の宴会芸を披露することにした。
「じゃあ・・・いっこく堂の物真似・・・」と言ってドーモ君人形を手に持つ。そして・・・。

「あれ?・・・声が・・・そのまま・・・聞こえるよ?」

意外にも彼女は爆笑していた・・・。
元々パクリネタなのだが、まさかそこまでうけるとは・・・。

「笑いのセンスはあるみたいですね・・・気に入りました」と福田。
「他に何かできませんか?」と続ける。

笑いのセンスって・・・そういうレベルのネタじゃないと思うんだが・・・。
しかしまあ、気に入ってくれたみたいなので調子に乗ってリクエストに応える。

再びドーモ君人形を片手に持つ。そして・・・。

「パペットマペット・・・って一体かよ!」
512394 ◆5/w6WpxJOw :03/04/17 20:56 ID:???
・・・。

「精進してください・・・」と彼女。哀れみの目で私を見る・・・。

やはりさま〜ず風のツッコミが駄目だったんだろうか?
・・・って、そういう問題じゃないかもしれないが・・・。

しかしまあ、そんなこんなで何とか彼女と打ち解けることができたようなできないような・・・。

と、突然玄関からガチャガチャという音が聞こえたかと思うと、ドアが開いて一人の女性が入ってきた。
インターホンくらい鳴らせよ・・・と思ったものの、それは保田だった。

彼女は福田の存在に気づくと、「あすか〜〜〜!!!」と叫び、靴を脱ぎ散らかしたまま福田に駆け寄る。
それはこの前のあやっぺの時と全く同じだった。単純というか何というか、とにかくわかりやすい行動だ。
そして「あすか〜〜〜!会いたかったよ〜!」と言って福田に抱きつく。
それに対して福田は抱きつかれたまま「全然かわってませんね・・・ケイは・・・」と冷静に呟く。

これは感動の再会・・・と言うべきなのだろうか・・・。

「もう明日香ったら、そんなに照れちゃって、かわいいんだから〜」と言ってほおずりする保田。

福田のどこが照れてるんだ?どこが?
・・・と思ったものの、どうやらそれは彼女たちにしかわらかないことらしい。

「照れてなどいません!」と福田。更に「私が照れるなど、そんなことは絶対に・・・」と続けるが、
それを遮るように保田。「もう全然かわってないんだから〜、でもそんなところがかわい〜!」
そして福田のふっくらした頬にブチュッとキスをする。

それに対して福田が「いい加減にしないと怒りますよ、ケイ!」と言うも、
全然気にしないらしく、「怒って怒って!久しぶりに明日香に怒られたいよ〜」と保田。

お前ら、一体どういう関係なんだよ・・・どういう・・・。
513395 ◆5/w6WpxJOw :03/04/17 20:57 ID:???
二人は不思議な関係だった。保田の方が遥かに年上なのだが、どう見ても福田の方が上位にいる。
福田が保田のことを「ケイ」と呼び捨てで呼んでいるのはその典型だろう。
ただし、そこに何らかの信頼関係、そして友情があることだけは何となくわかったような気がした。

感動の再会を済ませた後、しばらく二人は話を弾ませる。
その様子を見ていて一つだけ気づいたことがあった。
それは、福田のその冷めたような態度は決して本意ではなく、
自分の心を相手に読まれないようにするためのもの・・・ということだった。
どうやら感情をあらわにすることを好まないらしい。

「明日香、いつ来たの?ずっといるの?」
「さっき来たばかりです。当分いるつもりですが何か問題ですか?」

そんな会話はある意味、仲が悪いように見えてしまうのだが、
しかし、保田もそんな福田の性格を知り尽くしているらしく、全く気にしていない様子だった。
そしてなぜか年上の保田の方が福田に甘える・・・。普通は逆だと思うんだが・・・。

その後、保田もまだ晩御飯を済ませていないということで、弁当を買いに出ることになった。
と言っても三人ではなく、なぜか保田と私の二人だった。

「私は荷物の整理がありますので、もう○○さん代わりにお願いします」と福田。
それはやはり私に気を使ったのだろうか・・・。

部屋を出て弁当屋へと向かう。それは私にとって今日二度目の道程だったが、
しかし、やはり彼女と二人となると、それは全く別のことのように思える。
私の心はウキウキした気分に包まれていた・・・しかし・・・。

そこにはもう一つ・・・それとは逆の、後ろめたい気持ちも存在していた。

その理由・・・それは・・・あの中澤姉さんとのキス・・・。
514番組の途中ですが名無しです:03/04/17 23:00 ID:???
dat落ちにつき新スレ立てました。


ほぼ毎日、娘。たちが俺の家に来る・・・!!!第5期
http://news3.2ch.net/test/read.cgi/news7/1050587830/
515 ◆5/w6WpxJOw :03/04/18 18:00 ID:???
>>514
ご苦労さまです。
516396 ◆5/w6WpxJOw :03/04/18 18:00 ID:???
彼女はまさか私が中澤姉さんとキスしたなどとは思ってもいないことだろう。
もちろん、私が中澤とキスしようが、誰とキスしようが、彼女にとっては関係ないのかもしれないが、
しかし、やはりそれは私にとっては、絶対に知られてはいけない第一種機密情報だった。

そんな私の気持ちを知る由もなく、彼女は明るい笑顔で接してくる。
福田との再会がとても嬉しかったらしく、一人で色々な話をしては一人で盛り上がっている。
そんな彼女の話を聞きながら、私はなるべく過ちを思い出さないように、そして意識しないように・・・。
しかし、それは逆に私の中の罪悪感を増長させるだけだった・・・。

部屋に戻った後も私だけはどこか落ち着かなかった。
そんな私とは違い、一方の二人はワイワイと騒ぎながら弁当を食べる。

「ちょっと明日香、そのからあげちょうだい!」
「駄目です。ケイのカルビくれたらあげてもいいですけど」
「もう明日香ったらケチなんだから!」
「どっちがケチなんですか。基本はギブアンドテイクです。例外は認めません」
「う〜ん、つれないんだから〜」

それにしても、この福田という子はかなり冷静な人間だった。
保田曰く、「ゆうちゃんやあやっぺでも太刀打ちできなかった」というのも頷けるかもしれない。
もっとも、なっちとだけはうまくいっていなかったらしいが・・・。

弁当を食べ終わり、保田が思い出したように私に話し掛ける。
「そうそう、もーちゃん・・・忘れないうちに渡しておくけど・・・これ・・・」
彼女はそう言うと私に一枚のチケットを渡す。
「これは?」

彼女は「コンサートのチケット・・・。4月13日の大阪城ホールだけど・・・」と言うも、
私が言葉を挟む必要は無かった。「でも、もーちゃん・・・来てくれないよね?」

どうやら私の答えを予めわかっていたらしい・・・。
517397 ◆5/w6WpxJOw :03/04/18 18:00 ID:???
私はただ「ああ、全然興味ない・・・」と答える。
しかし、それは本心では無かった。

私がモーニング娘。に全く興味が無いのは事実だが、しかし、一つだけ例外があるのも事実だ。
それはもちろん、保田の存在・・・。

彼女にとっての現役最後のコンサートとなれば、私も多少は心が動く。
しかし・・・それを認めるわけにはいかないのだ。その理由は自分でもよくわからないのだが・・・。

彼女は「やっぱりそう言うと思った!」と言うと、
「でもいいわ・・・それ記念に持っててよ!売ったりしたら駄目だからね!」と続ける。
それに対して「え?売ったら駄目なの?」ととぼけると、
「駄目に決まってるでしょ!!!」と保田。かなり凄い形相だ。
結局、「・・・じゃあ記念に飾っとくか」と言ってそれを受け取る。

そんな様子を福田が冷静に見つめる・・・。何か言いた気な感じだ。

それから春コンの話題になる。今週から始まるらしく、リハーサル等も含めてかなり忙しいらしい。
何と言っても保田にとっては最後のコンサートになるのだ。気合が入らないはずがない。

「どうですか、今の心境は?」と福田。
「うーん、実感ありまくりで逆によくわからない感じかな?」と首を振りながら保田。

「私は泣きませんでしたが、ケイは泣きそうですね」
「何言ってんのよ。明日香ったらギャーギャー泣いてたくせに・・・」
「記憶にありません。ケイの勘違いでしょう」

なんだかなあ・・・。しかし・・・保田が泣きそうってのはわかるような気がする。
例え舞台の上で泣かなくとも、家に帰って一人になったら号泣しそうだ・・・。
少なくとも、私が知ってる保田はそういう奴だ・・・。
518あぼーん:あぼーん
あぼーん
519398 ◆5/w6WpxJOw :03/04/18 18:01 ID:???
「明日香は今何やってんの?」と保田。あれから会話も弾み、すでに日付も変わっていた。

「音楽の勉強してます。作詞とか作曲とか・・・まだまだ素人ですけど」
「へー、明日香もかあ・・・私も本格的に勉強しようかなあ・・・」
「ケイは声質がいいので曲に恵まれれば売れるはずですよ」
「もう・・・おだてても何もあげないわよ!」

それにしても・・・この二人の会話って・・・本当に変だよなあ・・・。
しかしまあ、保田はかなり嬉しそうだし、福田もあれで本当は嬉しいのだろうし・・・。

私はそんな二人をよそに風呂に入る。そして風呂から上がってもまだ二人の会話は続いていた。
どうやら福田がそろそろ復帰を目指しているらしく、その話で盛り上がっていた。

「だったらさ、ちゃんとファンに報告しといた方がいいよ!」
「そうですね。ネットにでも書き込んでみることにします」
「そうそう、私もよく書き込んでるんだよ。掲示板とかね」

掲示板って・・・やっぱりあそこのことなんだろうか。
ドラマ収録の際、彼女は暇があると自分のノートパソコンを取り出しては何やらインターネットに没頭していた。
趣味がインターネットということだけあって、かなり慣れた手つきだったが、
彼女が訪れていたのは、『便所の落書き』あるいは『ひどいインターネット』と称される掲示板だった。

そこで彼女は自分を応援する書き込みを連発していた。そう・・・いわゆる自作自演だ。
しかし、その掲示板では皆そうした保田の行動を熟知しているらしく、
「保田さん、今日も精が出ますね」とか「ダーヤスハケーン!!!」といったレスがついていた。
まあ、まさか本気で本物だとは誰も思っていないのだろうが・・・。

そんなことを思い出していると、「もーちゃん、ちょっとパソコン借りていい?」と保田。
有言実行で早速書き込むつもりらしく、インターネットに接続して福田のファンサイトを探す。

「ほら、明日香!確かここだったよね?明日香がよく書き込んでた掲示板って?」
「さすがケイ、よく覚えてましたね」
520399 ◆5/w6WpxJOw :03/04/18 18:01 ID:???
それから福田は掲示板にメッセージを書き込む・・・が、すぐに保田から駄目だしが入る。

「もう、なんでそう堅苦しい文章書くわけ?その冒頭のわけわかんない挨拶はいらないでしょ!」
「何言ってるんですか。こういうのは挨拶が基本です」
「何よその『一筆申し上げます』ってのは!それに『山野春光に満つ』ってのもわけわかんないでしょ!」
「これは基本書式ですよ。ケイは手紙を書いたことは無いのですか?」
「もうちょっとくだけた感じにしなさいよ!冒頭なんて『みなさん元気ですか?』くらいでいいの!」
「それでは軽い感じになってしまいます。やはりこういうのは形式を重視して(略)・・・」

それにしても・・・福田って変わった子だな・・・。
最初はちょっと戸惑ったけど、でもこうして見ると結構おもしろい子なのかもしれない・・・。
それからしばらくはそうした二人の議論が続く。

「それじゃ明日香、書いたとこまで読んでみてよ」
「わかりました。それでは読みます・・・」

「みなさん元気ですか?私は先日の健康診断でも異常は何一つ発見されず、
医者からは健康体だと言われました。さて、ケイがもうすぐ脱退すると風の噂で聞きました。
ケイはもう22歳。客観的に見ておばさんの範疇に入ります。そう言う私も18歳ということで、
時の流れの無情さに感慨深げな今日この頃です・・・」

「やっぱりなんか変なのよね。文章が回りくどいというか・・・」
「わかりました。もう少しレベルを落としてみます」
「それと『ケイ』ってのと『おばさん』ってのもやめなさい!」

そうして何度も保田のチェックを受けながら、少しずつ文章が形になっていく。

「まず最初ね。『元気ですか?』じゃなくて『元気ですかー?』の方がいいわね」
「まるで猪木みたいですね・・・」
「それからその医者の話はやめて『私は元気です』にしなさい。それと語尾に★。元気っぽく見えるでしょ?」
「なるほど・・・でも、なんかアホっぽいですよ」
521400 ◆5/w6WpxJOw :03/04/18 18:02 ID:???
結局それから延々二人で議論し、最終的に保田のOKが出たのは深夜の三時半。
最初の文章からはかなり変わってしまってはいるが、しかし、
こうして福田明日香はネット上ではあるが、久しぶりにファンの前に姿を見せたのだった。


[999] もうすぐ春ですね♪ 投稿者:福田明日香 投稿日:2003/03/25(Tue) 03:45:15

みなさん元気ですかー?私は元気です★
保田圭ちゃんがもうすぐ脱退なんですね。圭ちゃんも22歳ということで。
私も18歳ということで。本当に時が経つのって早いですねーっ。
私と圭ちゃんは相思相愛でした(笑)と私は勝手に思ってまふ。
とっても素敵な女性なんですよ、カッコ良くてねぇ。歌が上手だし面白いし優しいし、魅力いっぱい。
私が男だったら彼女にしたい。歌以外のお仕事もガンガンやって、これからも圭ちゃんの魅力を出していってほしいです。
私もあと2年で20歳になりますねぇ。もうちょっとで10代を卒業って考えると切ないです。
子供でいられる時期、甘えが許される時期もそろそろ終わるわけです。しみじみ感じております。
もうね、物怖じしないで好きなことを含めいろんなことに挑戦して新しい自分をどんどん作っていきたいと思ってます。
今までの価値観とかに固執しないで、新鮮な気持ちで日々を過ごしたい。
どうせ生まれてきたんだったら、後悔のない人生を送りたい。ていうか、絶対に後悔しない人生にするぞぉ!!
さてさて、音楽のほうですが。昨年半ばから作詞作曲というものを本格的に始めるようになりまして。
作詞作曲は初めてじゃないんですけどね。んー、私が始めて歌を作ったのは小学校6年生だったかな。
題名は「ぞうきんの唄」フォークっぽい名曲でした。次に作ったのはモー娘。を脱退してすぐに、バラードの切ない系を作りました。
これはね、最近そうじしてたら見つけたんですけど、なかなか一丁前なんですよ、ビックリしました。
いつか皆さんにお聞かせできる時が来たら良いなぁ。
522401 ◆5/w6WpxJOw :03/04/18 18:02 ID:???
それから福田は数日間、この部屋で過ごした。
そしてそれを聞きつけたかのように、石黒、市井、後藤が順番に部屋にやって来る。

さすがに石黒や市井は一緒に過ごしただけあって、福田の態度に戸惑うことなく話が弾む。

「明日香も大人っぽくなったわね」とあやっぺ。
「あれからかなり経ちますからね。でも内面はまだまだ未熟です。精進しなければなりません」と福田。

十分内面もしっかりしてると思うのだが・・・。

「明日香には負けないからね!」と市井。
「私も紗耶香には負けませんよ。どっちが先に紅白に出るか勝負です!」と福田。

紅白って・・・二人ともそんなこと考えてたのかよ・・・。

しかし、そんな二人と違って戸惑いまくりだったのが後藤だった。
と言うのも、後藤がモーニング娘。に加入した時にはすでに福田は脱退した後だったのだ。
一応何度か会ったことはあるらしいが・・・。

「あ・・・福田さん・・・お久しぶりです・・・」
「明日香と呼んでください。さもないとあなたのことを後藤さんと呼びますよ?」

いきなりのカウンターパンチに戸惑う後藤・・・。

福田がメンバーのことを呼び捨てで呼んでいるのは決して見下しているからではない。
それは彼女にとって親密な、それでいて対等な関係を構築するためのものなのだ。
もっとも、私のことだけは「もう○○さん」と呼んでいたが、それはあくまで私が望んだからだった。
個人的にあまり女性から名前を呼び捨てにされるのを好まないのだ。
そのため、私も彼女のことを「福田さん」と呼んでいた。これで一応は対等な関係と言えるのかもしれない。

しかし、やはり後藤はそんな彼女とのやりとりに戸惑っていた。
そして、そんな光景は私にとってはある意味おもしろいものだった。
523402 ◆5/w6WpxJOw :03/04/18 18:02 ID:???
「あ・・・ごめんなさい・・・久しぶりですね・・・明日香・・・」と後藤が訂正する。
それに対して福田も「そうですね。真希も元気そうで何よりです」と答える。

「昨日のテレビ、もう○○さんと一緒に拝見しました。なかなか渋い衣装でしたね」と福田。
渋い衣装というのは、あの『噂のSEXY GUY』の羽のついた衣装のことなのだろう。
「えっと・・・渋い・・・のかな?」と戸惑いながら後藤。
「ええ、かなり渋かったですよ。私の中ではかなり評価高いです」と福田。

こうしてちぐはぐな――ある意味おもしろい――会話が続き、その夜は更けていった。
しかし・・・そこで私はある不思議な夢を見た・・・。それはかなり空想的ではあるが、しかし現実的な夢だった。

夜・・・ふと目を覚ますと、ベランダの窓が開いており、外からの風でカーテンがなびいていた。
春になったばかりだと言うのに、季節はずれの雷が鳴り響き、外は雨が降っていた。

窓が開いていることを不思議に思い、体を起す。
すると・・・隣の布団で寝ていたはずの後藤の姿が無かった。
ただ福田だけが一人すやすやと眠っていた。本当なら二人で寝ているはずなのだが・・・。
部屋の明かりはもちろん消えている。しかし、外からの明かりで部屋の中はぼんやりと見えていた。
立ち上がってトイレに行くも、後藤の姿は無かった。しかも玄関には靴が残されていた・・・。

と言うことは、後藤はどこへ行ったのだろうか・・・。
そう思ってベランダへ出る。窓が開いているということは、残された可能性はここだけだ。
しかし、そこにも後藤の姿は無かった。・・・ただ、ベランダには血痕が残されていた。
それも赤色ではなく・・・紫色の血痕・・・。これは何を意味するのだろうか・・・。

そう思ったところで私の意識が薄れ、そして気づいた時にはすでに朝、それも布団の中だった。
結局、私は――当たり前だが――それを夢だと納得したのだが、
しかし、その夢が不思議だったのはそれだけが理由ではなかった。

私が覚えているその部分とは別に、私の脳裏には一つの姿と一つの声が残されていたのだ。
それはカーテンに映った羽の生えた人影と、そして「妖魔か!」という謎の言葉だった。
524403 ◆5/w6WpxJOw :03/04/18 18:02 ID:???
福田は地元でのバイトを休んで来たということもあって、しばらく滞在した後、急ぐように帰って行った。
ただし、その長い滞在によって私も彼女のことを把握することができたようだ。
あの会話にも慣れ、かなり打ち解けたと自分では思っている。
その証拠に、今度来た時は私が大阪を案内することになったほどだ。

それから次にこの部屋に来たのは・・・久しぶりの中澤姉さんだった。
しかし、その前にもう一人、別の人物がこの部屋を訪れている。
それは本来ならばこの部屋に来るはずの無い人物・・・そう、それは現役の娘。だった。

ピンポーンという音がして、玄関へと向かう。
そしてドアを開けると・・・そこに立っていたのは紺野だった。

紺野は私を見て、「どうしたんですか?その格好?」と尋ねる。
それもそのはず、私はその日一日スーツを着ていたのだ。それも部屋の中で。

「いや・・・なんか久しぶりに着たくなってさ・・・今日バイト休みだし・・・」
「結構似合ってますね・・・てっきり部屋を間違えたのかと思いましたよ」
「ははは・・・って、紺野こそどうしたんだ?ここに来るなんて?」

それに対して紺野はうつむき、そして小さな声で答える。
「逃げてきちゃいました・・・」
「逃げてきたって・・・仕事さぼったってことか?」
そう尋ねると紺野はコクリと頷く。

おいおい・・・一体何があったんだ?
保田から紺野が最近元気が無いと聞いてはいたが、
しかし、この前三人で遊んだ時もそんな様子は感じられなかったんだが・・・。

「まあいいか・・・とりあえず上がってよ。さっき掃除したばっかだから・・・」と言って部屋に上げる。
もちろん紺野がこの部屋に来るのは初めてのことだった。
525番組の途中ですが名無しです:03/04/19 02:13 ID:???
保護しました。
526番組の途中ですが名無しです:03/04/19 20:16 ID:mFyBbBSW
527美少女戦士 ◆NoNoa.TRIQ :03/04/19 20:19 ID:???
イ呆
528 ◆5/w6WpxJOw :03/04/19 21:14 ID:???
>>525-527
ご苦労さまです。
529404 ◆5/w6WpxJOw :03/04/19 21:14 ID:???
春のコンサートは仙台から始まり、ちょうど名古屋公演が終わったところらしい。
次は日曜の札幌公演だが、その前にもリハーサルや生番組の出演など、仕事が途切れることは無いらしい。
しかし、そんな忙しい時期にも関わらず、紺野はこの部屋にやって来たのだ。

「ここは保田から聞いたのか?」
「はい・・・保田さんが・・・もーちゃんさんとこなら大丈夫だからって・・・」
「大丈夫って・・・それはあいつからさぼってもいいって言われたってことか?」
「・・・どうせリハーサルだからって・・・一日くらいさぼっても平気だって・・・」
「へえ・・・真面目なあいつにしてはそりゃ大胆だな・・・」

・・・と言うことは、それはよっぽど紺野の精神状態が良くないということなのだろう。

「まあ、今日は誰も来てないし、ゆっくりしていったらいいよ。俺もバイト休みだしね」
「はい・・・ほんとごめんなさい。突然来たりして・・・」
「いいよいいよ・・・あいつらもいつも突然だしな。中には真夜中に来る奴だっているし・・・」
「へえ・・・なんだか楽しそうですね。私も早くこっちの部屋に来たいなあ・・・」
「こらこら・・・紺野はまだまだ現役だろうが!ここは結構悲惨な奴らばっかだぞ!」

そう・・・この部屋に来る元モーニング娘。のメンバーの中には、誰一人として順調な人間はいない。
中澤、後藤、市井、福田、石黒・・・。どれも皆、何らかの悩みを抱え苦しんでいるのだ。
例え表面上は幸せそうに見えたとしても・・・。

と、それからすぐ私の携帯に電話がかかってくる。それは中澤姉さんからだった。
・・・しかし、私がこの前のことを謝ろうとするよりも早く、姉さんはすぐに本題に入る。

「そんなことより、そっちに紺野行ってへんか?」
どうやら紺野を探しているらしい・・・。まあ薄々予想はできたことだが・・・。
「い、いえ・・・来てませんけど・・・何かあったんですか?」
「そっか、そっちにもおらへんか。・・・まあええわ。もし紺野来たらうちに連絡してや!」

姉さんはそう言うとすぐ、私の反応を待たずに電話を切ってしまった。
どうやらかなり焦っているらしい・・・。
530405 ◆5/w6WpxJOw :03/04/19 21:14 ID:???
「やっぱり私のことでしたか?」と紺野。かなり不安げな様子だ。
「ああ、そうだけど、まあ気にすんなって!誰でもそういう時はあるさ!」

そう言うと、紺野は「本当にすいません・・・私・・・自分勝手ですよね・・・」と呟く。
まあ、確かに今日のことは自分勝手な行動だとは思うが・・・しかし、それも事情によるのだろう。

「紺野・・・一体どうしたんだ?喧嘩でもしたのか?それとも自信無くしたのか?」

そう言うも、紺野は「すいません・・・今は何も言えません・・・」とだけ答える。
とにかく、そこに何らかの事情があるのは確かだろう。
あの頑張り屋の紺野が仕事をさぼって逃げ出したくらいなのだから・・・。

そんな紺野に元気を出してもらおうと、台所の棚からお菓子を差し出す。
それはこの部屋に来るメンバーが毎回のように持って来てくれたものだった。

特に後藤と石黒は手土産を欠かしたことが無い。気が利く二人だ。
保田もそれなりに色々と持ってくるが、しかし保田の手土産は何かが違っている。
羊羹や煎餅、それにお惣菜など・・・どことなく庶民じみたものが多いのだ。
まあ、それが一番私にマッチしているとも言えるが・・・。
一方の中澤姉さんはかなりわかりやすい。持ってくるのはいつも決まって酒か肉。
これ以外のものを持ってきたことは一度も無い。
まあ、あの人は私のことを貧乏人だと思っているからな・・・あながち間違ってはいないが・・・。

そんな中からあやっぺが持ってきたクッキーを取り出し、紺野と二人で食べる。
しかし・・・その後の紺野の行動に私は少し驚かざるを得なかった。

「クッキーの美味しい食べ方があるんですよ!」
紺野はそう言うと、棚から少し深みのある小皿を取り出した。
そして・・・それにクッキーを載せると・・・。
531406 ◆5/w6WpxJOw :03/04/19 21:15 ID:???
「どうですか、美味しいですよね?」と紺野。
「ああ・・・旨いけど・・・でもあまり人前ではやらない方がいいと思うぞ・・・」と自分。
その忠告に紺野は不思議そうな顔を浮かべる・・・。

しかし・・・人は見かけによらないとは言うが・・・。
私は目の前の皿の中にあるドロドロのクッキーを見て改めてそれを感じていた。

「変ですかねえ?うちではいつもこうやって食べてますよ?」
「まあ、俺も小さい頃にやったことはあるけどな・・・でも普通はこんな食べ方しないぞ」
「そうなんですか・・・。私、クッキーって牛乳かけてこうして潰してグチャグチャにするものと思ってました」
「・・・文化の違いってやつだな・・・多分・・・」
「文化の違いですか・・・」

それからしばらく話をするも、紺野が何に悩み、そしてなぜ逃げ出したのかはわからないままだった。
気分転換にと思い、紺野を誘って外へ出る。
あいにくその日は薄暗い天気だったものの、薄紅色の桜が見頃を迎えていた。

二人で家を出ると、近所の川沿いの公園へと向かう。先月、後藤と絡まれたあの公園だ。
平日だと言うのにたくさんの人が花見に興じていた。

川沿いの遊歩道に延々と桜並木が続く。かなり綺麗な景色だ。
そしてその公園にもたくさんの桜が綺麗な花を咲かせている。
しかし、そんな華やかな光景とは違い、紺野の表情は暗く沈んでいた・・・。

「なあ・・・もしかして・・・仕事さぼったこと気にしてるのか?」
しかし、紺野は何も答えない。うつむいたままだ。
「・・・でもさ・・・たまにはいいんじゃないの?初めてだろ、さぼったの?」
「はい・・・初めてです・・・」
「そっか・・・だったらさ、せっかくさぼったんだから楽しまないと!」
532407 ◆5/w6WpxJOw :03/04/19 21:15 ID:???
私は桜の木の下を歩きながら、紺野に思い出話を話していた。

「・・・昔さ、高校時代だけど・・・俺、結構暗かったんだよね・・・まあ今でも暗いかもしれないけど・・・」
「・・・そんなことないですよ!・・・収録の時もーちゃんさんといてとっても楽しかったです!」
「そうか?・・・でもさ、俺元々が暗い性格なもんだから、結構疲れるんだよね・・・明るく振舞うのがさ・・・」
「・・・そうなんですか・・・」
「ああ・・・それでさ、高校時代も全然思い出とか無いんだよね・・・友達とか少なかったし・・・」
「・・・」
「まあそれはいいんだけど、唯一楽しかった思い出ってのがさ、授業さぼったことなんだよね・・・」
「さぼったんですか?」
「ああ・・・数人で学校抜け出してさ、門から出ればいいのにわざと塀を登ったりしてね・・・」
「・・・」
「・・・今でもさ、よく思い出すんだ・・・あの頃は楽しかったなって・・・思い出が少ないからかもしれないけど・・・」
「・・・」
「だからさ、今日はさ、パーッとね、楽しくいこうよ!せっかくさぼったんだしね!」
「・・・はい・・・わかりました・・・」
「そそ!結構スリルあって楽しいだろ、さぼるのって?」
「・・・ええ、なんとなくわかってきたような気がします・・・」
「よし、その調子!・・・あ、でもさ・・・後でみんなにはちゃんと謝っとくんだぞ!スタッフとかにも!」
「は、はい・・・」
「そう言えば、俺もあの時先生に反省文書かされたっけ・・・全然反省してなかったけどさ!」

そう言うと紺野はニコッと笑う。
これで元気になってくれればいいのだが・・・。

それから遊歩道沿いを歩く。花見のシーズンだけあって、所々に幾つかの露店が見えていた。

しかし、たこ焼きやフランクフルトなどの店を通り過ぎても、紺野は早口にはならなかった。
普段の紺野ならすぐに興味を示すと思うのだが、やはりそれだけ悩みは深刻なのだろう。

たこ焼きを買ってベンチに座る。そろそろ打ち明けてくれてもいい頃だと思うのだが・・・。
533408 ◆5/w6WpxJOw :03/04/19 21:15 ID:???
「なあ、紺野・・・一体何があったんだ?・・・俺じゃ役に立たないか?」
そう言うと紺野は首を横に振る。そして、ようやくその重い口を開く。
しかし、それは逃げ出してきた直接の原因では無かった。

「でもさ・・・そのプリクラとか彼氏疑惑とかはさ・・・違うんだろ?」
「・・・」
「もっと他にあるんじゃないのか?・・・悩みが・・・」
そう言うと紺野はしばらく考え込んだ後、小さくコクリとうなずく。

「あ・・・ちょっとごめんな・・・タバコ吸ってもいいかな?」
落ち着こうと思い、上着のポケットからタバコを取り出して火をつける・・・。すると・・・。

「もーちゃんさん・・・」と紺野。思いつめたような表情だ。
「いつからタバコ・・・吸ってるんですか?やっぱり若い頃からですか?」と続ける。
今でも十分若いと思っているのだが・・・。ただし、それは結構意外な質問だった。

「そうだなあ・・・俺の場合は二十歳越えてからだったな。普通の奴はその前から吸ってるんだろうけど・・・」
「でも・・・タバコは二十歳からですよね?」
「ああ、そうだけどさ・・・二十歳過ぎた大の大人が吸い始めるなんて情けないよな・・・」
「どうしてですか?」
「だってほら、タバコが健康に悪いって理解できないアホな高校生とかが吸うのはまだわかるじゃん・・・」
「・・・」
「それなのに分別のついた大人になってから吸うなんてさ、情けないよね・・・ほんと・・・」

元々、私はタバコの煙が苦手だった・・・。にも関わらず、タバコを吸うようになったのにはもちろん理由がある。
ただし、それは決してかっこいい理由ではない。ただ女に振られ、自暴自棄になっていただけなのだ。
自分でも情けない理由だと思う・・・。ただし、もちろんそれはその時だけの理由に過ぎない。
今はタバコを吸いたいから吸っている・・・ただそれだけのことなのだ。

それにしても・・・なぜ突然タバコの話を聞いたりしたのだろうか。
もしかして、そこに何らかの答えがあるのだろうか・・・。
534番組の途中ですが名無しです:03/04/20 00:43 ID:???
イ呆
535番組の途中ですが名無しです:03/04/20 01:19 ID:???
536山崎渉:03/04/20 03:15 ID:???
   ∧_∧
  (  ^^ )< ぬるぽ(^^)
537 ◆5/w6WpxJOw :03/04/20 20:13 ID:???
>>534-535
ご苦労さまです。
>>536
(^^)
538409 ◆5/w6WpxJOw :03/04/20 20:14 ID:???
「里沙ちゃんが・・・」
紺野は唐突にそう言うと、そのまま口をつぐんだ。
その様子から察するに、悩みの原因はその「里沙ちゃん」にあるのだろう。

「里沙ちゃんって・・・誰だっけ?」
そう尋ねる。しかし、紺野もそのこと――私が五期メンバーを知らないこと――はすでにわかっていた。

「新垣里沙ちゃん・・・私と同じ五期メンバーなんですけど・・・その・・・里沙ちゃんが・・・」

紺野の話は驚くべき内容だった。
その新垣という奴の顔は思い浮かばなかったものの、まさかそんな奴がメンバーにいるとは・・・!
そしてまた、そんな深刻な問題が・・・そしてそんな卑劣な行為がまかり通っていたとは、
やはり芸能界という世界は普通の世界とは全く違うのだろう・・・と、改めてそう思わされてしまう。

「私・・・里沙ちゃんのこと・・・大切な友達だから・・・だから・・・だから・・・」
そう言って紺野は泣き出してしまった。

しかし、紺野の行動は正しいものだと私は思う。
友達だからこそ、悪いことは悪いと言うべきなのだ。そして、それこそが真の友情というものだろう。
友達だからといってそれを見逃したり、黙っていたりするのは、決して本当の友情ではない。

そしてまた、それは友情云々だけではなく、モーニング娘。の存続が関わる重大な問題なのだ。
それを踏まえると、その紺野の行動は悔やむべきものではなく、むしろ誇るべきものだろう。

私はそう紺野に伝える。しかし、紺野は泣いたままだった。
無理もないのかもしれない。
例えその行動が正しかったとしても・・・もう昔のような関係には戻れないのだから・・・。

しかし・・・もし私が紺野の立場だったとしても、多分同じことをしただろう。
誰だってタバコを吸ってる友達――もちろん未成年だ――がいたら・・・やめるように説得することだろう。
そして、それでも駄目なら・・・誰かに相談するはずだ。例え裏切り者と言われようが・・・。
539410 ◆5/w6WpxJOw :03/04/20 20:14 ID:???
その事件は一ヶ月以上前に遡る・・・。

五期メンバーの小川が、トイレでタバコを吸っている同期の新垣を目撃してしまったのだ。
驚いた小川はその場は何も言わずに立ち去ったものの、それを紺野に打ち明けてしまう・・・。
そして、紺野がタバコをやめるように新垣を説得するも、新垣はそれを聞き入れようとはしなかった。

しかし、事態はそれだけでは済まなかった・・・。
新垣がタバコを吸っていたのは、実は同期の高橋の影響だったのだ。
そして、この二人は身の危険を感じたのか、あるいは告げ口への逆恨みなのか、小川を逆に脅迫する。
二人がかりで小川を押さえ込み、無理やり口にタバコを咥えさせて、その姿を写真に・・・。

それを知った紺野は更に悩むことになる。そこには今度は自分の番かもしれないという不安もあっただろう。
それがちょうど一ヶ月ほど前・・・つまり、保田が紺野が元気が無いと言っていた頃だった。

紺野はしばらくそのことを誰にも話さなかったらしい。いや、話せなかったと言うべきかもしれない。
しかし・・・紺野の様子に異変を感じた保田から問いつめられ、とうとう白状してしまったのだ。
それがつい先日のことだった。

ただし、問題はそれだけで終わりではなかった・・・。
保田に呼び出されて真意を尋ねられた高橋と新垣は謝るどころか、全く逆の手段に出たのだ。
それは自分たちの問題をモーニング娘。全体の問題へとすり替え、発展させるものだった。

もしそのタバコのことで二人に何らかの制裁が加わったならば・・・。
その代償として、自らタバコのことをメディアに暴露し、モーニング娘。を破滅へと追い込む・・・。
もちろん、その際には小川も道連れ・・・ということになる。
これはイメージ戦略が大切なアイドルにとって、最も危険なことだろう。
そしてまた、そこに悪意があるとすれば、事態はそれだけで済むはずがない・・・。

もっとも、その交換条件を出したのはその二人自身ではなく、どうやら新垣のバックからのものであるらしい。
本来ならばすぐにタバコをやめるように説得するべきだと思うのだが、中にはそうではない考え方もあるのだろう。
そういうことを聞くと、新垣にコネ疑惑が浮上するのもさも当然のことのように思える・・・。
540411 ◆5/w6WpxJOw :03/04/20 20:14 ID:???
その後、保田が――あるいは別の人物が――どのようにその問題を解決に持ち込んだかは紺野も知らないらしい。
ただ、今は新垣と高橋の二人に処分が下されることもなく、普通にモーニング娘。として過ごしているらしい。
それはやはり・・・交換条件を呑んだ・・・ということなのだろうか・・・。

ただし、それは決して問題が全て解決したということにはならない。
そう、五期メンバーの仲はすでに壊滅的なダメージを受けていたのだ。
友情・・・信頼関係・・・それらはもう・・・元通りには戻らない・・・。
そして・・・紺野の心の傷も・・・。

しばらくその場で紺野を励ました後、話題を変えてから桜並木を一緒に歩く。
あいにくと途中から小雨が振り出し、せっかくのスーツが濡れてしまった。

「あーあ、せっかくのスーツが台無しだよ・・・」
「・・・」
「まあ・・・雨も滴るいい男ってやつかな?」

そう言うと紺野は久しぶりに笑顔を見せる。
そして私に尋ねる・・・。「もーちゃんさん・・・どうして今日スーツ着てたんですか?」

その答えは自分でもよくわからなかった・・・。
昔の自分が懐かしかったのかもしれない。昔の自分に戻りたかったのかもしれない。
それとも単にたまにはかっこいい格好でもしてみようと思っただけなのかもしれない。
よくわからないが・・・それは私の潜在的な悩みがそうさせたのだろう。

そのことを紺野に話す。もちろん紺野の話に比べたらなんてことない話に過ぎない。
しかし、なぜだかはわからないが、それは紺野にとって何らかの意味を持つものだったらしい。
その話によって、ようやく紺野はいつも通りの笑顔を見せるようになった。
「もーちゃんさん!せっかくさぼったんだから、もっと楽しまないとね!」

そう言って笑う紺野・・・。それはもしかすると、逆に私を励まそうとしてくれていたのかもしれない。
541412 ◆5/w6WpxJOw :03/04/20 20:15 ID:???
部屋に戻るとすでに夕方になっていた。
そして、濡れた髪を乾かしていると、そこに現れたのが中澤姉さんだった。

姉さんは紺野を見つけると、いきなり「紺野ーーーーー!探したんやでー!」と叫ぶ。
それに対して「ご・・・ごめんなさい・・・」と謝る紺野。今にも泣き出しそうだ。

しかし、意外なことに姉さんが紺野を叱ることは無かった。
「まあ、事情が事情やからな・・・紺野、辛かったやろ?」と姉さん。
その優しい口調に紺野の目から涙が流れる・・・そして・・・。
「ほら、お姉さんがだっこしてあげるから、こっち来なさい!」
そう言うと姉さんは紺野を抱きしめる。・・・安心したのか、泣き出す紺野・・・。

中澤は「よしよし」と紺野の頭を撫でながら、「それにしても、やっぱりここやったか・・・」と呟く。
姉さん曰く、私の電話の対応がおかしかったので気になっていたらしい。

「・・・あれや・・・今日うちオフやってんで・・・それなのに呼び出されてん・・・」と姉さん。
私が出したお茶と煎餅をパクつきながら話す。その横に申し訳無さそうに紺野が座っている。

「まあうちはええわ。うちはどうせ今日暇やったねんから。・・・でも結構疲れたで・・・」
「すいませんでした・・・」と紺野。
「最初は東京のおっさんとこや思うたんやけど、あのおっさん頼りにならんさかいな・・・」
「それって例の部屋のことですか?」
「ああ・・・そこの新しいおっさんな、かなり鈍感やねん。誰が喧嘩してようが不仲やろうと全然気づけへん」
「はあ・・・」
「ただでさえ藤本入るっちゅうんで大変な時期やのに、からっきし役に立たへんねん・・・」

藤本って・・・確かソロで活躍してるのに六期メンバーとして加わるという・・・。

「まあ、でもこの部屋来たんは正解やったで。どや?紺野もそう思って来たんやろ?」
それに対して紺野はコクリと頷く。

それはつまり・・・紺野が私のことを頼ってきてくれたということなのだろうか。
542413 ◆5/w6WpxJOw :03/04/20 20:15 ID:???
と、そこまで話した時、姉さんが私の方を振り向く。
その様子に、私は忘れないうちに、そして先に言われないうちに先日のことを謝る。

「あの・・・この前は・・・すいませんでした・・・」と私。
しかし、姉さんはそのことには全然興味は無かったらしい。
「なんや・・・あんた、まだ気にしとったんかいな・・・そんなのもうええねんで・・・」

もういいって・・・ならなんで急にこの部屋に来なくなったんだ?
しかしまあ・・・今は確かにそれどころではないのかもしれないが・・・。

そのやり取りを紺野がキョトンとした目で見つめる。
まさか私が姉さんを引っ叩いたなどとは思ってもいないことだろう。
そしてまた、それ以上に私と姉さんがキスしたなどとは・・・。

「そんなことより・・・あんた、なんでスーツ着とんねん?・・・お洒落のつもりか?」と姉さん。
どうやらずっと私の姿が気になっていたらしい。
「えっと・・・まあ・・・気分転換です・・・」と答えるも、姉さんは「ふーん」と言っただけだった。

そして再び紺野の話題に戻る。
「今日のことはケイちゃんが責任取る言うとるから・・・」と姉さん。
それに対して「そんな・・・悪いのは私なんです・・・保田さんは関係ありません!」と紺野。
「そうは言ってもあれや、あん子がここの場所教えたんやし・・・それにな・・・」
「ケイちゃんが説明不足やったんも原因やからな・・・」
その言葉の意味にわからず戸惑う紺野。
保田の説明不足・・・それは一体???

再び中澤。話題を変える。「後でちゃんと皆に謝るんやで!リハーサルぼろぼろやったらしいで!」
謝る紺野。「すいませんでした・・・」
「ほんまやで。あんただけやのうて五期全員いなくなってしもたんやから!」

その言葉に目を丸くして驚く紺野・・・。五期全員って・・・どういうことだ???
543414 ◆5/w6WpxJOw :03/04/20 20:15 ID:???
姉さんが話す。
「あれや。あんたがおらん言うんで、あん子らな、リハ抜け出して探しまわったらしいで!」
紺野は言葉が見つからない様子だった。
「マコなんか泣きながら探しとったらしいわ。それにな・・・」
と、そこまで言ったところで紺野が慌てた口調で尋ねる。
「愛ちゃんや・・・里沙ちゃんも・・・ですか?」と。

「ああ・・・あん子らもや・・・。そうそう・・・手紙預かってたんや、ファックスで送ってもらったコピーやけど」
そう言うと姉さんは手紙を紺野に渡す。どうやら高橋と新垣の手紙らしい。

その手紙に何が書いてあったかはわからなかったものの、
紺野が嬉し泣きしているところを見ると、それは決して悪い内容ではないのだろう。
もっとも、それが紺野の心の傷をどれだけ埋めるものなのかは本人にしかわからないのだろうが・・・。

「あんた知らへんかったんやろうけど・・・タバコの件はな、すでに決着ついとんねん」と姉さん。
しかし、それは決して交換条件を呑んだということではなかったようだった。

「新垣んとこがちょいとうるさいこと言うてきたらいしけどな、そんなん気にすることあらへん」
更に続ける。
「あん子ら、最初は謝るつもりやってんて。でもな、怖かったんやろ・・・そやから変なことしてしもたんや」
変なことと言うのは、小川の写真のことなのだろう。

そうして姉さんの話を聞くうちに、徐々にその全貌が見えてくる・・・。

高橋と新垣がタバコを吸っていたのは事実らしい。
しかし、それは決して毎日のように常用しているということではなかった。
ただ格好をつけようとして、興味本位でタバコに手を出しただけ――それもまだ吸い始めて数本――だったのだ。
もっとも、それ自体がすでに十分問題ではあるのだが・・・。

そして、それが小川に見つかってしまう。二人はかなり焦ったらしい。当然だろう。
これが先輩や上層部に知れれば、娘。から脱退させられるかもしれないのだ。
544415 ◆5/w6WpxJOw :03/04/20 20:15 ID:???
そして紺野が新垣を説得する・・・。しかし、これが悪循環の始まりだったのだ。
小川が紺野に話したことを知り、二人は次は先輩の耳に伝わるのではないかと、そういう恐怖を感じていたのだ。
そして、親友であるはずの小川を写真に・・・。それは彼女たちにとっても辛いものだったのだろう。
ただ、それで全ては解決するはずだったのだ・・・彼女たちの頭の中では・・・。

しかし・・・紺野、そして五期メンバーの様子がおかしいことに気づいた保田にそのことを知られてしまう。
そして・・・部屋に呼び出される。二人はすでに覚悟を決めていたらしい。

ただし、それは決して全面戦争ということではなかった。・・・そう、それは無条件降伏・・・。
二人は素直にタバコを吸ったことを認め、そして二度と吸わないことを保田に約束したのだ。

この部分が紺野から聞いた話とは少し違っている部分だったが・・・それには理由があった。

本来ならばそれで万事解決するはずだった。そう、その時点では話は保田で止まっていたのだ。
そして、保田のことだから、それを他のメンバーの耳にまで広げることは無かっただろう。しかし・・・。

そこで突然、全くの外部――そう、新垣のバックだ――からクレームが入ったのだ。
新垣本人は反省し、謝罪したにも関わらず、何らかの制裁を恐れた新垣サイドが独断で介入してきたのだという。

しかも、そのクレームの先はリーダーの飯田だった。
と言うのも、どうやら保田ではなく、リーダーの飯田が全ての事情を知っているものと勘違いしたらしい。
これが更なる混乱をもたらす。飯田は保田と矢口に相談し、そしてここでようやく事情を知ることになる。

再び呼び出される高橋と新垣。飯田と矢口に睨まれ、二人はブルブルと震えていたらしいが、
二人が十分反省し、二度とタバコに手を出さないことを確認した三人は、改めて二人を許すことにしたのだ。
ただし、それは決して交換条件を呑んだわけではない。

その直後、三人は自らクレーム元に乗り込み、そしてそのクレームを引っ込めさせたらしい。
それがどのようなやりとりだったのかはわからないが・・・。
545416 ◆5/w6WpxJOw :03/04/20 20:16 ID:???
こうしてタバコ事件は終わりを迎える・・・しかし・・・。
高橋と新垣の二人は、その過ちを忘れることができなかった。
小川への仕打ち・・・そして紺野との関係・・・。
二人はそうした過ちの大きさに、反省しても反省しきれなかったのだろう。
だから気持ちとは裏腹に謝ることができずにいたのだ。本当は謝りたくて仕方が無かったのに・・・。

そんな二人の態度が、紺野に事件がまだ続いているように思わせたのだろう。
そして悩み続けた紺野がついに限界を迎えてしまう・・・。

もっとも、その際に保田が紺野に結末を話せばよかったのだが、
すでに保田の中ではそれ以上その話題に触れることは避けたかったのだろう。
あるいは、例え解決したことを話したとしても、
紺野の精神的な傷を癒すには休養が必要だと判断したのかもしれない。

とにかく、そうやって紺野はこの部屋にやって来たのだ。

話し疲れたのか、無口になる姉さん。手紙を読んで泣いている紺野。
どうしていいかわからずにただ煎餅をかじる私。
タバコを吸いたい気分だったものの、さすがに今はやめておくことにした。

しばらくして、再び姉さんが口を開く。
「しかしなあ・・・紺野もやけど・・・あんたらちょいと真面目すぎるんやで・・・」
どうやらその中には私も含まれているらしい。

「ここだけの話やけどな・・・うちがタバコ覚えたん、中学の頃やってん・・・」

・・・それって・・・さすが姉さんって言うべきなのだろうか・・・。

「まあ、そん時は覚えただけですぐにやめたんやけどな・・・」と再び姉さん。

姉さん・・・それ、自己弁護のつもりですか?
546417 ◆5/w6WpxJOw :03/04/20 20:16 ID:???
とにかく、こうして紺野の脱走事件は幕を閉じた。
話が終わった後、紺野は小川に電話をかけていた。
「心配かけてごめんね・・・」「ううん・・・私は平気・・・」といった言葉が聞こえてくる。
もっとも、高橋と新垣の二人には直接会って話をしたいとのことだった。

これで元通りの仲に戻ってくれればいいのだが・・・。
まあ、時間はかかるかもしれないが、紺野ならうまくやるはずだろう。
なんと言っても・・・紺野は頑張り屋さんなのだから・・・。

電話を終えた紺野に話し掛ける。「なあ、紺野・・・今まで・・・辛かっただろ?」と。
しかし、紺野は首を横に振る。その理由・・・。

「私なんかより・・・マコの方が全然辛かっただろうし・・・それに・・・愛ちゃんや里沙ちゃんだって・・・」
自分の心配よりも他人の心配・・・それも悩みの原因の高橋や新垣のことまで気にかけるとは・・・。
私は改めて紺野の優しさと、そしてその底力を思い知らされていた。

と、そんな紺野が私と、そして中澤姉さんに尋ねる。
「あの・・・私も・・・その・・・また、この部屋に来ても・・・・・・いいですか?」
しかし、すかさず「それはあかんで!あんたは現役やろ!」と姉さんの一声。
さらに「ここはやめた人間とやめる人間が来るところや。あんたには向こうの部屋があるやろ!」ときつい口調。
先ほどまでの対応とは違い、さすがにそこまでは甘えさせないといった感じだ。

「そうですか・・・」と残念そうな表情を浮かべる紺野。
しかし、中澤姉さんの真意はどうやら別にあったようだ。姉さんが私に向かって話し掛ける。

「現役はあかんやろ。・・・でもあんた、あんたの友達が来るんやったら、うちらは何も言わへんで!」
その言葉の意味を理解した私は、すかさず紺野に尋ねる。
「なあ紺野・・・俺たちって・・・友達だよな?」

その言葉に紺野は嬉しそうに微笑み、そして大きな声で返事をした。

「はい!!!」
547番組の途中ですが名無しです:03/04/21 09:26 ID:???
548 ◆5/w6WpxJOw :03/04/21 21:00 ID:???
>>547
ご苦労さまです。

今日は特別編です・・・。
549418 ◆5/w6WpxJOw :03/04/21 21:01 ID:???
----Special Episode - "Lost Memory"

降りしきる雨の音に紛れて、女性の声が聞こえる。

「見てしまいましたね・・・」

部屋に白い光が差し込み、そしてすぐに闇へと戻る。

「ああ・・・なんか見ちまったな・・・」

やや遅れて雷の轟音が部屋に響き渡る。

「どうしますか?・・・生きるか・・・死ぬか・・・どちらを選びますか?」

そう言うと同時に、その女性の手が私の首元へと伸びてくる。
そのまま私の首を絞めるつもりなのだろうか。

「お勧めはどっちだ?・・・って・・・すでに殺すつもりなんだろ?」

不思議なことに、そんな状況であるにも関わらず、私は比較的冷静だった。
まるで遠く離れた場所から自分を見つめているような・・・。

「さあ・・・それはどうでしょう・・・」

そう言いながらもその女性の薄紫色をした手は私へと向かっていた・・・。

私はここで殺されるのだろうか・・・死ぬのだろうか・・・。
そう思ったものの、そこには恐怖や淋しさは全く感じられなかった。
ただ、その時が来たんだなと、そう思っただけだった。・・・それは不思議な感覚だった。

しかし・・・その手は私の首に触れる前にゆっくりと下へと落ちていき、
バタンという音とともに、その女性は床へと倒れこんでいた。
550419 ◆5/w6WpxJOw :03/04/21 21:01 ID:???
ボロボロになった黒い羽・・・体中から流れ出る紫色の血・・・。
それは人間のものではなかった。
しかし・・・それは確かに現実的な存在だった。

私はその倒れた女性を数秒見つめた後、ようやく我に気づく。

「おい・・・しっかりしろ!・・・おい!・・・後藤!!!」

私は床に倒れた後藤――いや、それが後藤かどうかはわからないが――を抱きかかえる。

「・・・クスリ・・・クスリを・・・」と後藤。
今にも死にそうな弱々しい声だ。

あわてて後藤のカバンから例のクスリの入ったポーチを取り出す。

後藤は目が見えていないのか、そのポーチの中を弱々しく手探りで探す。
そして後藤が手に持ったのは・・・クスリではなく、一粒の木の実だった。
なぜクスリに紛れて木の実が入っているのかは不思議だったが、後藤はそれを口へと運ぶ。

それと同時に「ハア・・・ハア・・・」と、後藤の息の乱れが大きくなり、やがて静かになる。

しばらく後藤は私の膝の上で眠っていた。そして目を覚ます・・・。

「・・・?・・・もうさくさん???」と彼女。
「ああ・・・気が付いたか?」

それは先ほどまでの人間――それが人間かどうかはわからないが――とはまるで別人だった。
後藤は自分の体を確認するように眺めまわし、そして背中に生えた羽や、体にこびりついた紫色の血に気づく。
しかし、そこに驚く素振りは無かった・・・。
551420 ◆5/w6WpxJOw :03/04/21 21:02 ID:???
「・・・大丈夫・・・でしたか?」と後藤。

それは私のことなのだろうか?それとも後藤・・・のことなのだろうか?

一応前者だと思い、「ああ・・・」と答える。
それに対して「よかった・・・」と呟く後藤。

今私の目の前にいる人間は・・・確かに後藤だ。それは間違いない。
多少人間離れした姿をしてはいるものの・・・。

「なあ・・・どういうことなんだ?・・・それ・・・?」と後藤の羽を指差す。
「・・・私も・・・よくわからないんです・・・」
「わからないって?」
「ええ・・・小さい頃からずっと夢だと思ってたんです・・・」
「でも・・・最近やっとわかったんです・・・これも現実だって・・・」

そして、後藤はその真相を語った・・・。それもたった一言で・・・。

「私・・・退魔戦士なんです・・・」

退魔戦士???
なんだか急に話が――三流ファンタジー小説みたいに――怪しくなってきたような・・・。
しかし、確かに今の状況を考えると、それを納得するしか他に無さそうだ・・・。

話は少し遡る・・・。

その日、部屋に泊まったのは福田と後藤の二人。
あいにくと布団が二組しかないので、二人は同じ布団で眠っていた・・・はずだった。

しかし・・・寝ている私の瞼に白い閃光が走り、私は目を覚ます。
季節外れの雷・・・。最初はそう思っていた。確かに外は雨が降り、雷が鳴り響いていた。
552421 ◆5/w6WpxJOw :03/04/21 21:02 ID:???
だが、布団から体を起こし、ふと外を見ると、カーテンには不思議な人影が映っていたのだ。
羽の生えた人影・・・それは今目の前にいる後藤だった。
そして、その人影は何やら一言呟いた後、そのカーテンから姿を消す・・・。

私は寝ぼけているのだと思い、そのまま眠ったのだが・・・。
しかし、再び目を覚ましてしまったのだ。そして、それが始まりだった。

部屋を見渡すと、隣で寝ているはずの後藤の姿だけが消え、
一人福田だけがすやすやと寝息を立てていた。
あどけない表情が結構かわいかったのを覚えている。

それからトイレへ行き、再び寝ようと思ったのだが、そこで私は異変に気づいた。
ベランダの窓が開いており、外からの風でカーテンがなびいていたのだ。

そしてベランダへと出る・・・。そこにあったのが紫色の血痕だった。
ただし、その血痕の驚きはすぐに打ち消される。

目の前の少し離れた場所に――しかも空中に!!!――人間が浮かんでいたのだ。
いや、それは人間ではなかった。背中には黒い羽が生えており、全身は黒紫色をしていた。
それを一言で表すならば、「悪魔」という言葉が一番適切かもしれない。

その悪魔は空中を物凄いスピードで行ったり来たりしていた。
そして、それと同時にその場所――空中――に白い閃光が走り、雷のような轟音が響き渡る。
もっとも、天気自体も雨で、雷が鳴っていたので、それだけが目立つことはなかったのだが。

そこで何が起きているのかは最初はよく理解できなかったものの、
それが何らかの戦い――空中戦――であることは、徐々に把握することができた。

もっとも、その悪魔が何と戦っているのかは全くわからなかった。
ただ空中を移動し、そのたびに閃光と轟音が響くだけなのだ。相手の姿は全く見えない。
私はただ呆然とその光景を見ていた。そして、それはすぐに驚きへと変わることになる・・・。
553422 ◆5/w6WpxJOw :03/04/21 21:02 ID:???
遠くで見えにくかったものの、その悪魔のように見えていたのは・・・後藤だったのだ。
羽が生え、上の犬歯がキバのように伸び、目がつり上がって化け物のような形相をしていたものの、
それは確かに後藤だった・・・。

しばらくその見えない空中戦が続いた後、最後の閃光・轟音とともに辺りは異常なほどの静寂に包まれる・・・。
そして戦いが終わって力尽きたのか、その悪魔――後藤――はゆっくりと地上へと落下していく・・・。

辺りには再びポツポツという雨音が聞こえ始め、
遠くの方ではまるで戦いの場が遠ざかったかのように雷が光っていた。

私はそれが夢なのか現実なのかの判断ができずにいた。
ただ、夢にしては妙にリアルだった。風や雨、光などの感覚は、確かにそれが現実であることを示していた。
と言うことは、それは薄暗い天気や雷の轟音で幻覚を見てしまったのだろう・・・と、そう納得する。

しかし・・・それは夢でも幻覚でも無かった。
ゆっくりと空中を落下するその悪魔が振り返り、こちらをギロッと睨んだのだ。
その睨みに、私は全身の毛が逆立つような恐怖を感じていた・・・。
ただし、その恐怖は身の危険を感じたということではなく、これが現実であることを認識したことによるのだろう。
そして、それを現実だと認識したことによって、私はなぜか不思議と落ち着きを取り戻していた。

悪魔はゆっくりと落下しながら、傷ついた羽を弱々しく羽ばたかせてこのベランダへと近づいてくる。
そして私の目の前にその悪魔は現れたのだ。

「見てしまいましたね・・・」

それがつい先ほどのことだった・・・。

部屋の明かりをつけずに後藤――姿は悪魔のままだ――の話を聞く。
どうやらその悪魔の体は明るさが苦手らしく、戦いの時の閃光でもかなりのダメージを受けるらしい。
もっとも、明かりをつけなかったのは、隣で福田が何事も無かったかのように眠っているということもあるが。
554423 ◆5/w6WpxJOw :03/04/21 21:03 ID:???
「私、多分生まれた時から人格が二つあるんです・・・」と後藤。
「人格って?・・・その悪魔のことか?」と尋ねる。

「人格って言うか、多分私の体を借りてるだけなんだと思いますけど・・・」
「それって・・・霊が憑依するようなもんか?」
「まあ、似たようなものだと思います・・・。それで・・・普段は私が寝てる時に・・・」
そう言って後藤は今までに見た様々な夢の話をする。

どの夢でも後藤はその悪魔のような格好をして、妖魔と呼ばれる敵と戦っていたらしい。
ただし、後藤にもその妖魔の姿は見えないらしく、それは先ほどの私と同じだった。

「じゃあさ・・・今はどっちなの?いつもの後藤・・・だよね?」
そう、姿こそ違うものの、今私と会話している人物――人格――は確かに後藤だった。

「たまに・・・この姿のまま・・・意識が戻る時があるんです・・・」と後藤。
どうやら今目の前にいる悪魔の姿をしたままの後藤の人格は特殊な例らしい。

「普段は目を覚ますといつもの姿に戻ってるんですけどね・・・」
「じゃあさ・・・なんで今日はそのまま意識だけ戻ったわけ?」
「・・・多分・・・ダメージを回復してるんだと思います・・・その・・・退魔戦士の私が・・・」

なるほど・・・その間だけ後藤の意識が戻るってわけか・・・。よくわからないが・・・。

「さっき・・・木の実を口にしましたよね・・・あれが多分・・・回復する変わりに・・・」
「後藤の意識に戻すってことか?」
「はい・・・。以前にも同じようなことがありましたから・・・」

「じゃあさ、その木の実ってのは・・・後藤がいつも用意してるのか?」
「いえ・・・これが不思議なんですけど・・・必要な時になると決まって出てくるんです・・・」

なんとも不思議な話だが、今はそれを信じるべきだろう・・・。
555424 ◆5/w6WpxJOw :03/04/21 21:03 ID:???
それから後藤は意外なことを語りだす。それは後藤の性別に関することだった。

「私・・・本当は女として生まれる予定だったんだと思います・・・」
「それは・・・どういうこと?」
「・・・昔・・・お父さんの日記を読んだことがあって・・・そこに書いてあったんです・・・」

後藤の父親は数年前に亡くなったらしいが、どうやらプロの登山家だったらしい。
ただ、その父親が後藤が生まれる十ヶ月ほど前の登山で、不思議な体験をしたのだという。
それは神との出会い・・・。
登山家らしいエピソードと言えるかもしれないが、ただし、それはかなり異常な話だった。

崖から転落した後藤の父親を不思議な存在――これが神なのだろう――が助け、
その代わりとして、生まれてくる娘をその存在が貰い受ける・・・。

そして、それから十ヶ月後に生まれてきたのは女の子ではなく、男の子だった。
ただし、その子は物心がついた時からすでに、自分は本来は女の子だと感じていたらしい。
それが今目の前にいる後藤真希・・・。
彼女がなぜ自分を女性だと感じているのか、その理由はどうやらそこにあるらしい。

「じゃあさ・・・後藤が自分を女だと思っているのは、本当は女として生まれる予定だったから?」
後藤はコクリと頷く。
「それで・・・その退魔戦士ってのが・・・後藤の体に入ったせいで男として生まれたってことか?」
再び頷く後藤。

なるほど・・・と言うことは、後藤の性同一性障害は・・・ある意味正しい反応と言えるのだろう。

「でもさ・・・退魔戦士ってのは・・・なんかチンケなネーミングだよね?」
そう言うと後藤は苦笑いを浮かべる。
「私もそう思います・・・でもそれ以外に言葉が浮かばないんですよね・・・」
「それに・・・お父さんの日記にもそう書いてありましたし・・・」
556425 ◆5/w6WpxJOw :03/04/21 21:03 ID:???
「なあ・・・妖魔ってのは何者なの?悪魔みたいなもんか?」と私。
「私にもよくわかりません・・・」と後藤。そしてさらに続ける。
「実体が無いんですよ・・・私にだって見えないんですから・・・」
「・・・見えない敵・・・かあ・・・」

そう言いつつも、私はそれが敵なのかどうかの判断がつかずにいた。
どちらかと言うと、今目の前にいる後藤の姿――まるで悪魔だ!――の方が敵に見える。
それにさきほど私を殺そうとしたことも、もちろんその理由だった。

後藤の意識が回復してから10分くらいだろうか・・・しばらくはそうした話が続く。

「なあ・・・夜になるといつもそうやって・・・その・・・退魔戦士になるのか?」
「時期にもよりますけど・・・一ヶ月に一度とか、多い時は一週間に一度とか・・・」

それが多いのか少ないのか・・・比較材料が無いので判断はできないだろう・・・。

「・・・その時はさ・・・朝起きたらはっきり覚えてるの?」
「いえ・・・それが普通の夢と変わらないんです。・・・この羽も、この傷も・・・いつの間にか消えてるんです・・・」

まあ・・・その姿のままだったら、さすがに問題だろう。

「だから夢なんだなって思うんですけど・・・でも・・・」
「でも?」
「・・・体は無事なんですけど・・・でも・・・すごい疲労感が残ってるんです・・・」

後藤曰く、その後しばらくはものすごく気だるく、眠く、憂鬱で、そして何事に対しても気力が出なくなるらしい。

この部屋に来た後藤がそのような状態になっていたことは一度も無かったが、
保田や中澤から聞いた話では、後藤は仕事中に突然眠ったり、一日中ぼけーっとしていることがよくあるらしい。
つまり、その原因は・・・そういうことなのだろう・・・。
557426 ◆5/w6WpxJOw :03/04/21 21:04 ID:???
しかし、そうやって後藤と会話できる時間はあまり残されていなかった。
その退魔戦士の方の人格がそろそろ目覚めるらしく、徐々に意識がぼやけてきているらしい。

「もうさくさん・・・その・・・私がいなくなったら・・・『どちらでもない』って答えてください・・・」
「・・・それはさっき・・・その悪魔が聞いてきた質問のことか?」
「はい・・・退魔戦士は・・・その・・・人間を・・・人間として見てないんです・・・」
「・・・?」
「・・・ためらわずに・・・簡単に人を殺すんです・・・人間より・・・進んだ・・・存在ですから・・・」

ってことは・・・やはりさっき私は殺されかけてたってわけか・・・。
それにしても、どう考えてもその退魔戦士って奴の方が悪者って感じがするのだが・・・。
もっとも、それは人間から見た価値観に過ぎないのかもしれないが・・・。

「じゃあさ、そう答えれば助かるのか?」
そう尋ねると、後藤は最後の力を振り絞って答える。

「・・・記憶は・・・無くなりますが・・・」
記憶が無くなるって・・・それは・・・。

「じゃあ・・・俺はこのこと全く覚えてないのか?」
「はい・・・でも・・・それで・・・いいんです・・・それで・・・」

後藤の言葉は徐々に弱々しくなっていった。
そして座っていることもできなくなったのか、私の体へと倒れこむ。
私はそれを受け止め、そして後藤のその顔を膝の上に載せる。

「おい・・・後藤!しっかりしろ・・・!」
558427 ◆5/w6WpxJOw :03/04/21 21:04 ID:???
そう言うも、後藤は目を閉じたまま、ほとんど動かなかった。
ただ、その唇が小さく動き、かすかに私の耳にその声が届くだけだった。

「どう・・・せ・・・おぼ・・・て・・・ない・・・ん・・・で・・・よね・・・」

「もう・・・さ・・・さん・・・・・・す・・・・・・・・・で・・・・・・」

最後に後藤が何を言おうとしていたのか・・・それは私にはわからなかった。

しかし、そんなことを考えている状況ではなかった。そう、後藤の体に変化が表れ始めたのだ。
全身がピクピクと痙攣を始め、「うー・・・」という低い唸り声が響く。

そして・・・!

突然その目がカッと見開く。その表情は先ほどまでの後藤とは全く違っていた。
つまり・・・退魔戦士の方の後藤が意識を回復したのだろう。

後藤はガバッと起き上がると、私の方を睨みつけた。
そして肩で大きく息をしながら、羽の状態を確認するかのようにバサバサと羽ばたかせる。
その羽が隣で寝ていた福田の顔に触れたらしく、福田が「うーん・・・」と言いながら寝返りを打つ。

「・・・遅くなってしまいましたが・・・返事は決まりましたか?」と後藤。
「生きるか・・・死ぬか・・・どちらにしますか?」と先ほどのセリフを繰り返す。

それに対して、私は後藤から教えられた通りに答える。

すると、後藤は「わかりました・・・」と言うと、突然私の首筋に噛み付く。
そのとがったキバが私の皮膚に食い込むも、不思議と痛みは感じなかった。

そして、私は少しずつ意識が遠のいていくのを感じていた・・・。
559428 ◆5/w6WpxJOw :03/04/21 21:04 ID:???
チュンチュン・・・チュンチュン・・・と雀の声が聞こえる。

目を覚ますと、すでに福田は起きており、台所で朝御飯を作っているところだった。
一方の後藤は隣の布団でまだすやすやと寝息を立てていた。
「おはようございます。今日も一日よろしくお願いします」と福田。朝から冷静な挨拶だ。
私は「ああ、おはよう」と答え、起き上がって洗面所へと向かう。それにしても清々しい朝だ。
なんか夜中に雷が鳴っていたようだったが、今は澄み切った水色の空が広がっている。

福田はまだ料理は修行中らしく、かなり苦労している様子だった。
「うーん、やはり塩加減は難しいですね・・・」
それはそうだが・・・ただ・・・味噌汁には塩は入れないでくれ・・・。

御飯の用意が整った頃、ようやく後藤が目を覚ます。
ただ、かなり眠たそうだ。いつもとは違い、「あー・・・おはよー・・・」と棒読みの挨拶をする。
布団をたたんでスペースを空け、壁に立てかけていた四本足のテーブルを置く。
さすがに二人も泊まるとなると、この部屋では狭いのかもしれないと改めて思う。

福田が作ったのは御飯と味噌汁、それにベーコンエッグとトマトまるごと一個・・・。まあこんなもんだろう・・・。
その御飯を食べながら、「そう言えば、不思議な夢を見ました」と福田。
「どんな夢?」
「大きなカラスに叩かれる夢です・・・」
「ははは・・・そりゃまた変な夢だな!」と言うも、なぜだか私も同じような夢を見たような気がしていた。

そんな会話を交わす二人をぼけーっと見ている後藤。箸を持ったまま眠りそうな感じだ。
「私の御飯がお口に合いませんでしたか?」と福田。結構きつい質問かもしれない。
それに対して後藤は「んあー・・・おいしいよー・・・」とだけ答える。

って・・・後藤が食べたの・・・まだトマトだけじゃん・・・。


----Special Episode - "Lost Memory"   - The End -
560補足 ◆5/w6WpxJOw :03/04/21 21:16 ID:???
今日更新した話は、私が>>523で見た夢を元にして勝手に想像を膨らませたものです。
そのため、最後の目が覚めてからの部分以外はフィクションです。御了承ください。
561番組の途中ですが名無しです:03/04/22 21:38 ID:???
保護します
562番組の途中ですが名無しです:03/04/23 15:44 ID:OziBdZ1B
a
563番組の途中ですが名無しです:03/04/23 18:57 ID:???
保全します。
564番組の途中ですが名無しです:03/04/24 09:46 ID:???
イ呆
565番組の途中ですが名無しです:03/04/24 20:58 ID:???
566 ◆5/w6WpxJOw :03/04/24 21:24 ID:???
>>561-565
保守ありがとうございます。
567429 ◆5/w6WpxJOw :03/04/24 21:24 ID:???
紺野の脱走事件も無事に解決し、中澤の計らいによって紺野はこの部屋へ来ることができるようになった。
しかし、紺野はあれから一度もこの部屋には立ち寄っていない・・・。
それもそのはず、通常の番組収録に加えて、春のコンサート、ミュージカルの練習などなど、
紺野には休む時間が全く無かったのだ。もちろん、春から高校生ということもその大きな理由だ。

それに、忙しいのは紺野だけではなかった。
保田もここのところ、モーニング娘。としての最後の活動を着々とこなしていたのだ。
どの番組も保田メイン、保田中心に話が進み、中には保田スペシャルと銘打っているものもある。
例のドラマが放送中止になったのは残念だったが、
しかし彼女は卒業に向けて・・・そして卒業後に向けて確実に歩き始めていた。

3月下旬から4月にかけて、そんな彼女の番組を見ることが多くなった。
もちろん普段の私なら見向きもしなかったのだろうが、この時期だけは特別だった。
黒髪を振り乱しながら一心不乱に踊る保田・・・。卒業について質問されて少し目を潤ませる保田・・・。
そのどれもが私の心の中に刻まれていく・・・。

ただ、そんな番組を見ていて、ドキッとさせられることもあった。
4月上旬に放送された「めちゃイケ」・・・いわゆる岡女スペシャルだ。
モーニング娘。に期末テストを受けさせるという企画で、まあかなりおもしろかったのは確かだ。
しかし、そこで私は戸惑わざるを得ない状況に遭遇していた。

それは英語が得意なはずの保田の英文の訳・・・。

 「情熱的に私を抱いてほしい!」

その答えが本気なのかネタなのか、それとも台本通りなのかはわからないが、
ただ、それはおもしろいという以前に、私の中の過ちを思い出させるものであったのだ。

それはもちろん、あの中澤姉さんとのキス・・・。
568430 ◆5/w6WpxJOw :03/04/24 21:24 ID:???
きつく抱き合いながら何度も何度もお互いの唇を求め合ったあの夜・・・。
良い悪いは別として、まさに「情熱的に抱いた」という言葉にぴったしの行為だっただろう。

もしかすると、そのことを保田が知っているのではないか・・・と、そんな不安を覚えてしまったのだ。
もっとも、収録はその出来事以前だろうと思われるので、私の取り越し苦労に過ぎないのだろうが・・・。

期末テストの結果は、紺野が一位、そして保田が二位だった。
まあ、薄々予想できたことなのだが・・・。
ただ、一位になったにも関わらずあまり嬉しそうではない紺野・・・その理由は私にもよくわかる。
紺野は何事にも完璧を目指す。そして完璧というのは一位ということではない。

あんな低レベルのメンバーの中で一位を取ることなどは紺野にとっては当たり前のことなのだ。
自分にとってどれだけ完璧に近づけるか・・・それが問題なのだ。

そして、それは以前の私と同じだった。
自分の得意教科だけは絶対に満点を取る・・・。それだけが私の全てだった。

日本史のテストを受け終えた後、友達が尋ねる。
「どうだった、出来た?」「あー、全然駄目だ・・・簡単な問題ミスっちまった・・・」

結果は94点。平均点が60点も無かったことを考えればものすごい点数なのかもしれない。
しかし、私はそれでは満足していなかったのだ。イージーミスをすること自体がすでに失敗なのだ。

そんな私と紺野は似ていると思う・・・。
しかも、紺野の成績の傾向は私の学力とほぼ一致していた。
社会が得意で英語が苦手。特に紺野の英語の出来の悪さは私とかなり似ていた。
私も英語が嫌いで、英語だけは全く勉強したことが無かった。
そのせいで英語の成績はいつも決まって5段階評価の「2」・・・。

そして、いくら他の教科が良かったとしても、これでは大学受験はかなり厳しいものとなる。
569431 ◆5/w6WpxJOw :03/04/24 21:25 ID:???
結局私が受かった大学は地方の三流大学だった。
紺野ももし大学受験を目指すのなら、それだけは覚悟しておいた方がいいかもしれない。
もっとも、英語が得意な保田がいるので、まだこれからどう転ぶかはわからないが・・・。

結局、あれから部屋に来たのは市井と中澤の二人だけ・・・。
後藤も仕事が忙しいらしく、福田は地元のバイト、そしてあやっぺは自分の家庭を持っているのだ。
もっとも、市井と中澤の二人も、それなりに色々と忙しいらしいが・・・。

市井は新曲を出すとかで、いつもと違って妙に明るかった。
ただ、それでもやはりどこか暗い表情を浮かべるのはいつもと同じだった。
どうやら新曲が出るのは嬉しいが、その売れ行きは全く期待できない・・・ということらしい。

そんな市井が呟く。「明日の天気は自分次第だよ・・・」と。

それがどういう意味かはわからなかったが、市井の心境を表すものであることは間違いないだろう。

その翌日に中澤姉さんが来る。
姉さんは来るなり、「あんた好きやろ?」と言うと、カバンからある物を取り出す。
「・・・!これ、どうしたんですか?」
「まあ・・・あれや・・・その・・・なんや?・・・うちもちょっと言い過ぎた思ってな・・・」

どうやらこの前の発言を反省していたらしい。その謝罪の品なのだろう。
紺野が来た時はそんな素振り全く見せなかったくせに・・・。
しかしまあ、その照れくさそうな態度が姉さんらしいとも言えるが。

それに対して私も改めてこの前のことを謝る。それもそのはず、元々は私が悪かったのだ・・・。
「本当にすいませんでした・・・」
「ああ、ええんや、ええんや。もう済んだことやしな・・・」

そして私は姉さんからそれを貰い受けた。
570432 ◆5/w6WpxJOw :03/04/24 21:25 ID:???
「これ・・・本当に、本当に貰ってもいいんですか?」

そう確認すると姉さんは不機嫌そうな顔を浮かべる。
どうやら私の喜びようが予想以上だったらしい。

「なんや・・・うちがこの部屋来るんよりも嬉しいんか?」
「いえ・・・そういうわけじゃないんですけど・・・でもどうしてこんなの手に入ったんですか?」
「アホやな・・・うちこう見えても芸能人やで!色んなパイプがあるんや!」

それは私が好きな堀内孝雄と高山巌のサイン色紙だった。

後で聞いたのだが、姉さんは高山巌とデュエットを出したこともあり、
また、堀内孝雄――彼女曰くひげのおっさん――とも面識があるらしい。

「姉さん!一生の宝物にします!」

そう言うと姉さんは苦笑いを浮かべる。
そして「うちのサインもそれに付けたしたろか?」と姉さん。

姉さん・・・それだけは勘弁してください・・・。

「しかしあんた・・・まさかそこまで喜ぶとは思わへんかったわ・・・今度会わせてやろか?」と姉さん。
「ま、まじっすか!」

失笑する姉さん。「なんや・・・本気にしたんかいな。冗談やで冗談!」

姉さん・・・人が悪いです・・・。

しかしまあ、そのサイン色紙は私にとってとても嬉しいものだったのは間違いない。

こうして私は更に姉さんとの絆を深めていった。
もちろんそこに恋愛感情が無いことは言うまでも無いが・・・。
571433 ◆5/w6WpxJOw :03/04/24 21:25 ID:???
4月になってから保田は一度もこの部屋を訪れていなかった。
仕事で忙しいと言うのはわかるが、ただ、せめて大阪公演の時くらいは・・・と思ってしまう。

もっとも、その日は私にとっても大変複雑な一日だった。
以前保田から貰ったコンサートのチケット・・・。

本人には行かないと言ったものの、実はその日、私はバイトを休ませてもらっていた。
そして、そのチケットを眺めながらずっと迷っていたのだ。
行くべきか、行かざるべきか・・・。

結局私は後者を選び、その日一日ずっと部屋の中で過ごした。
チケットはその効力を失い、単なる紙くずへと変わった。
ただ、それは私にとっては大変貴重な紙くずだった。

なぜ行かなかったのかはわからない。その葛藤の理由が自分でもわからないのだ。
モーニング娘。には興味が無いと言いながらも、そこには保田がいる。そして紺野もいる。
更にドラマ――放送中止にはなったが――で共演した辻や加護もいる。
それだけで十分、行く価値はあったはずだった。行く理由もあったはずだった。

しかし、私は結局・・・。

私は彼女のことを一人の女性として好きになった・・・。
しかし、彼女は一人の女性であるとともにモーニング娘。のメンバーでもあった。
そこで葛藤が生まれたのかもしれない・・・。私が好きなのは・・・保田圭という一人の女性・・・。
しかし、私は本当にその保田圭という女性だけを好きなのだろうか・・・と。
モーニング娘。の保田圭・・・その彼女のことは好きではないのだろうか・・・と。

そして、それは例え彼女がモーニング娘。を卒業したとしても消えることはない。
モーニング娘。でなくなるとしても、彼女は保田圭であり、それとともに芸能人なのだ。

そして・・・そんな彼女のことを・・・そう、私は遠い存在に感じていたのだ。
だから、私は、自分が好きなのは保田圭という一人の女性・・・そう思い込もうとしていた。
572434 ◆5/w6WpxJOw :03/04/24 21:26 ID:???
しかし、彼女は彼女なのだ。それを二つに分けることはできない。
自分でもよくわからない。なぜそんなことにこだわるのか。
彼女は彼女。自分は自分。どちらも同じ人間であることに変わりはないのに・・・。
芸能人と一般人・・・そんな隔たりは恋愛には関係ないはずなのに・・・。

そんな私の悩みに気づいたのが・・・中澤姉さんだった。

「なあ、結局コンサ行かへんかったんか?」「・・・ああ・・・」

そう答える私に対して、姉さんは優しい口調で話し掛ける。
「・・・無理することないんやで・・・素直になればええねん・・・」

素直になる・・・。そう、私は素直になれなかっただけだったのだ。
だから変なこだわりを作って自分の気持ちをごまかしていたのだ。

そう、私が好きなのは保田圭という一人の女性・・・そしてモーニング娘。の保田圭なのだ!!!

そう自覚した時、私はようやく素直になれた気がした。
そして4月23日・・・私は最初で最後のモーニング娘。のCDを購入した。
姉さん曰く、「ケイちゃんのソロ入ってるから」というのがその理由だったが、
実はそのことはすでに本人から聞いていたことだった。

それは3月末・・・彼女と福田がこの部屋で会った時のことだ。

 「ケイ、今度"Never forget"歌うらしいですね・・・」
 「そうなのよ!もう収録は済んだんだけどね!やっとソロ歌えたんだよ!」
 「私の曲を汚すような出来じゃなければいいんですけどね・・・」
 「明日香!それ、どういう意味よ!!!」

そんなやりとりを思い出しながら彼女の曲を聴く・・・。

そして・・・その曲を聴きながら・・・私はなぜか・・・一人涙を流していた・・・。
573番組の途中ですが名無しです:03/04/25 19:54 ID:???
574読者:03/04/25 23:27 ID:???
>作者
毎日楽しく読ませてもらっている。 が、
「もっとも、〜だが。」って表現が多いのが気になる。
もっと表現の自由度を!

これからも体に気をつけてガンガレ。応援してる。
575番組の途中ですが名無しです:03/04/26 19:55 ID:???
保全
576番組の途中ですが名無しです:03/04/27 21:11 ID:???
保護しました。
577番組の途中ですが名無しです:03/04/29 00:03 ID:???
保守
全護
578番組の途中ですが名無しです:03/04/29 14:17 ID:???
保護しました。
579 ◆5/w6WpxJOw :03/04/29 21:44 ID:???
>>573 >>575-578
保守ご苦労様です!

>>574
実は自分でもそう思ってました。
もっとも、それが自分らしい表現だとも言えるのだが・・・。
何はともあれ指摘サンクス!

しばらく消化試合が続きます。申し訳ない。
580435 ◆5/w6WpxJOw :03/04/29 21:45 ID:???
数日後、何の前触れも無しに突然保田がやって来た。
彼女曰く、「何か予感がしたから移動の途中に立ち寄ってみた」とのこと。

何の予感なんだよ・・・と思ったものの、それはどうやら当たっていたらしい。

その直後、後藤が来る。後藤も保田と同じく、この部屋に来るのは今月初めてのことだ。
そして、驚くことに・・・更にその直後、もう一人がやって来て部屋にはとある三人が顔を揃えることになった。

それは・・・保田・・・後藤・・・市井・・・の三人。そう、元祖プッチモニのメンバー・・・。
そして、その三人は三人とも、この部屋で会うのは初めてのことだった。

そんな三人の関係を観察する・・・。
保田と後藤の二人は番組等でよく会っているらしいのだが、
ただ、市井は二人と会うこと自体がかなり久しぶりのことだったらしい。

その再会に珍しく笑顔を浮かべる市井。ただ、その笑顔には何か影があるようにも感じられる。
それは・・・以前私が感じていた市井の保田への悪しき感情・・・なのだろうか。

そんなことを知ってか知らずか、保田は市井の存在にはしゃぎ、そして後藤に甘える。
後藤はそれを受け入れ、そして市井に甘える。
そして市井は・・・市井は・・・。

市井は笑顔を浮かべながらも目を潤ませていた。
ただ、それは喜びの涙ではない。悲しみの涙でもない。淋しさの涙でもない。

なぜか私にはわかった。それは悔しさの涙・・・。

芸能界の荒波に揉まれ、底辺を彷徨う市井・・・。
しかし、彼女はモーニング娘。を恨むことも妬むことも、羨ましく思うこともなかった。
そう、ただただ悔しかったのだ・・・。
581436 ◆5/w6WpxJOw :03/04/29 21:45 ID:???
期待ほどではなかったもののソロとして市井よりは活躍し、人気も知名度もある後藤。
ブサイクと言われ続けながらもいつしかモーニング娘。に必要不可欠な存在となった保田。

そんな二人に対して彼女が抱いていた感情・・・それは悔しさだった。
そして、後藤と保田の二人も、そんな市井の感情に気づいていたのだろう。
だから二人は仕事の話や新曲の話などを一切しなかった。ただその再会をのみ喜び合っていた。

しかし・・・そんな三人が揃っている時間はあっという間だった。
保田はすぐに東京に戻らないといけないらしく、一時間もしないうちに慌てて帰っていった。
多分それが現役としては最後の訪問になるのだろう・・・。
玄関の外まで送りに出た私に向かって「今度来る時はみんなと同じだね」と言い残したのだ。

それを聞き、感慨深げな自分・・・。ついにその時が来てしまったのだ・・・。

あのドラマの中で何度となく出てきた卒業の話・・・。
その頃はまだそれは遠い先のことだった。私にとっても・・・彼女にとっても・・・。
この部屋に彼女が初めて来た時も、それは同じだった・・・。

しかし、時間は決して止まることはない。カウントダウンは着々と進んでいたのだ。
そして、それはもう秒読みに入っていた・・・。

私が作ったまずい失敗作の晩御飯を食べた後、後藤が部屋を後にする。
残ったのは市井一人・・・。部屋は一気にいつもの淋しい部屋へと戻る。
市井と私・・・。あまり会話もない。ただただ静かな時間だけが流れる。

市井はぼんやりと音楽を聴いていた。私も同じようにそれを聴く。
私のCDコレクションの中から彼女が適当に選んだのは、ヴァイオリンの鬼神パガニーニ。
その激しいながらも淋しい曲調は、まさにその時の二人の気分を表しているかのようだった。

彼女は翌朝、一人静かに東京へと帰っていった。
そして・・・それが彼女たちがこの部屋に泊まった最後だった・・・。
582番組の途中ですが名無しです:03/04/30 04:48 ID:kuFF6F6o
続きキタ!
保全
583 ◆5/w6WpxJOw :03/04/30 23:21 ID:???
>>582
保全サンクス!

またまた消化試合です。
更新は今回を除いて残り二回を予定しています。
584437 ◆5/w6WpxJOw :03/04/30 23:21 ID:???
市井が帰るのと入れ違いに中澤姉さんがやって来る・・・。

姉さんは静かに部屋を見渡すと、私に話し掛ける。
「なあ・・・この部屋、狭いやろ?」

確かにそれは私も感じていたことだった。
一人暮らしには十分だが、さすがに二人以上が泊まるとかなり窮屈だ。

「ええ部屋見つけたねんけど・・・引越しせえへんか?」

それは突然の提案だった・・・。

この部屋に住み始めたのは二年ほど前のこと。新しい未来に胸を膨らませていた頃だ。
そして、それから私はこの部屋とともに様々な経験を積んだ。
仕事をこなし、会社を辞め、バイトを始め、ドラマに出て、そして彼女たちが来るようになった。

思えばたくさんの出来事があった。思い出の詰まった部屋だ。
しかし・・・その思い出も・・・今の私にとっては憂鬱以上の何物でもなかった。

過去を振り返れば振り返るだけ、今の自分が惨めに感じるのだ。
あの頃はよかったのに・・・と、そう思ってばかりいる自分・・・。
そしてまた、あの頃はよかったのにと、そんなことばかり思っていた後ろ向きの自分をも思い出してしまう。
悪循環・・・良い思い出も悪い思い出も、全ては憂鬱へと変わってしまう。

ただ・・・それでも、この部屋を離れることには抵抗があった。

「いい部屋を見つけたって・・・そんな・・・勝手なことされても・・・」
そう言うも、姉さんは私が思っていた以上にすでに行動を開始していたらしい。

「あんな・・・実はな・・・もう契約してきたねん・・・新しい部屋・・・」
契約って・・・姉さん・・・私に何の相談も無く・・・。
585438 ◆5/w6WpxJOw :03/04/30 23:22 ID:???
「ちょっと待ってくださいよ。ここの家賃とかどうするんですか!一年契約ですよ!一年!」

しかし、すでにそれは決定されていたことだった・・・。

「ああ、お金のことは心配せんでもええねん。あんたは今までと同じ家賃払えばええんや!」
「足りん分はうちが出すさかい。それから・・・ここはうちの知り合いに貸すから全然問題ないで!」

足りない分は出すって・・・そんな・・・以前毎月の手当てを断ったというのに・・・。

しかし・・・私はその話を断れなかった・・・。

そう・・・この部屋は元々は私の部屋だが、もう私一人だけの部屋ではないのだ。
ここは私の部屋であるとともに、彼女たちの部屋でもあるのだ。
そして、そうだとすると、この部屋では狭すぎる・・・それだけは確かだ。

一人が泊まる分には全然問題はないだろう。
しかし、二人が泊まるとなるとやはり苦労する。布団も無く、寝るスペースも無い。
そして――これまで一度も無かったが――三人が泊まるとなると、それはすでに限界を越えたものとなる。

彼女たちが気軽に立ち寄る部屋にするには、やはりそれなりの広さが必要なのだ。

「あんたは何の心配もせんでええから。引越しとか手続きとかはうちが全部引き受けるわ」
「引き受けるって・・・姉さん忙しいじゃないですか!」
「それは大丈夫や。面倒なことはうちの若い衆にまかせるさかい・・・」

若い衆って・・・それはいったい・・・???
586439 ◆5/w6WpxJOw :03/04/30 23:22 ID:???
その後、姉さんに連れられて新しい部屋を見に行く。
驚いたことに、そこは今の部屋から100m程度しか離れていない場所だった。

「さすがに生活圏変わると困るやろ」と姉さん。
どうやらそういうところだけは私のことまで考えてくれているらしい・・・。

いつも目にする10階建てくらいの普通のマンション・・・そこに新しい部屋はあった。
普通と言っても、今の部屋に比べれば全然高級だ。1階の玄関はオートロックになっている。

部屋に入る。真っ直ぐ伸びる廊下に、幾つかの扉がある。
部屋数は二つ・・・それにリビング――今の部屋よりも広いくらいだ――と、更にちゃんとした台所が備わっている。
今の部屋の玄関から部屋までの通路に申し訳程度についている台所とは大違いだ。

更に風呂場や洗面所、トイレも広い・・・。まあ、今の部屋が狭すぎるだけかもしれないが。

これなら普通の一家四人が暮らすのでも十分の広さだろう。
ただ、ここに私一人だけとなるとかなり淋しいものになりそうな気もする・・・。

「どうや?気に入ったか?」と姉さん。
「ええ・・・部屋は気に入りましたが・・・本当に引っ越すんですか?」
「なんなら今日中にでも引越しするか?」
「冗談きついですよ・・・少し考えさせてください・・・」

まあ、考えると言っても、すでに契約が済んでいるということなので、
私にそれを拒否することはできないのだろう・・・。

「あの・・・ここの家賃って・・・どれくらいなんですか?」
そう尋ねる。やはり気になるのは姉さんが負担するという家賃の不足分だ。
しかし――と言うか案の定と言うべきか――姉さんは教えてくれなかった。

「まあ、そんな高いもんでもないで。普通のマンションやしな・・・」
・・・確かにそこまで高くはないだろうが・・・しかし・・・それでも私にとっては・・・。
587440 ◆5/w6WpxJOw :03/04/30 23:23 ID:???
翌朝、早速引越しが始まる。・・・と言っても私がやることはほとんど無かった。
それと言うのも・・・。

ピンポーンという音で玄関を開けると、そこには黒いスーツ姿でグラサンをかけている三人の男が立っていた。
いかにもそっち方面の人たちだ・・・。私はその突然の訪問にかなり怯えていた。
ただ、それがどうやら姉さんの言っていた「若い衆」であるらしい・・・。

「姐さんに頼まれて来ました」と男たち。

その言葉はかなり不思議な響きを持っていた・・・。
私は中澤のことを「姉(ねえ)さん」と呼んでいたが、彼らは「姐(あね)さん」と呼んでいたのだ。
もしかして中澤姉さんって・・・ヤクザか何かの娘とか・・・ってことはないよね・・・?
しかしまあ、それはあまり詮索しない方が身のためかもしれない。

私は「ああ・・・よ、よろしくお願いします」と言って彼らを部屋に上げる。

彼らの行動は迅速だった。昨日の夜、私がすでに準備を始めていたというのもあるが、
それでもそのテキパキとした行動によって、あっという間に部屋はすっからかんになる。
リレー方式で下へと荷物を運び、そして新しい部屋へと運び入れる。

午前中に引越しは全て完了。後は一連の手続きを残すだけだったが、
私は委任状とやらを数枚書いただけで、役所やら各種機関の手続きは全て代行してくれるらしい。

自分の情報を他人に委ねることに多少不安もあったが、「絶対に情報は漏らしません」と彼ら。
さらに「この命にかけて約束します」とまで。

この人たちなら・・・本当に命で償いそうだ・・・。

こうしてその夜から――新しい月を待たずに――私はその部屋で生活を始めることになった。
そこでどんなドラマが待ち受けているのかも知らずに・・・。
588番組の途中ですが名無しです:03/05/01 03:13 ID:???
>>583
お疲れ様です。楽しく読ませて貰ってます。
今日のマシュー最高だったな。ほんと一緒に飲みに行きたい感じだった。
589番組の途中ですが名無しです:03/05/02 02:28 ID:VbGCrnPX
保全
590番組の途中ですが名無しです:03/05/02 05:25 ID:jvVvlHLC
保田
591美少女戦士 ◆NoNoa.TRIQ :03/05/05 14:09 ID:???
いよいよ本日、
お圭さんの卒業式れすね
592番組の途中ですが名無しです:03/05/05 23:47 ID:???
SSAから帰還しますた。





泣いた・・・
593 ◆5/w6WpxJOw :03/05/06 01:46 ID:???
>>588
ありがとうございます。私もマシュー見ました。
実は彼女と飲んだことはあまり無いんですよね。
そもそも部屋に来る回数が少ないので。。。
>>589-590
保守ごくろうさまです。
>>591
ですね・・・。
>>592
おつかれさまでした・・・。
594441 ◆5/w6WpxJOw :03/05/06 01:46 ID:???
翌朝、まだ慣れない部屋で過ごしていると、突然荷物が届く。
ソファーやカーテン、ベッド、さらには布団のセットなど、中澤姉さんが用意したものなのだろう。

とりあえず一番狭くて落ち着きそうな六畳の部屋に私の荷物は運んである。
つまり、そこが私の新しい部屋ということになる。
もう一つの部屋にそのベッドと新品の布団を運ぶ。そこが彼女たちが泊まる部屋になるのだろう。
そしてリビングにソファを設置する。趣味が悪いとしか言い様が無い豹柄のソファーだったが、
これが結構気持ちいいもので、布団よりもここで寝た方が良さそうと思えるほどだった。

そして、一番嬉しかったのが台所だった。以前の狭いスペースとは違い、かなり機能的だ。
これなら料理を作るのも楽しくなりそうだ。

ただ、こんな贅沢な暮らしをしてもいいのだろうかと、ついつい思ってしまう。
どう見てもフリーターの一人暮らしの部屋とは思えない。

しかし、たまにはこうして甘えてみるのもいいのかもしれない。
私の生活の中には、すでに彼女たちの存在がその一部として含まれているのだ。
そして、そうだとすると、前の部屋よりもこの部屋の方が断然適切な場所と言えるのだ。

ただし、それでも一人で過ごす時間はかなり淋しいものだった。
そして私は以前にも増して、彼女たちの訪問が待ち遠しくなっていた・・・。
ただし、それは保田だけではない。私は彼女たち全員を待ち望んでいたのだ。

彼女たちが来るようになった最初の頃は保田だけを期待していた私だったが、今は違う・・・。
中澤、市井、後藤、石黒、福田・・・そして保田・・・そのどれもが私にとって大切な存在になっていたのだ。

頼りがいがあるけど実は弱い中澤姉さん、自分と同じように悩み続ける市井、
色んな謎を持っている後藤、同い年で気兼ねのいらない石黒、冷静だけど何かおもしろい福田、
そして・・・私が大好きな・・・保田・・・。

その誰もが私にとっては大切な存在だった。
そして、そんな全員が集まる日が・・・やがてやってくることになる・・・。
595442 ◆5/w6WpxJOw :03/05/06 01:47 ID:???
新しい部屋に一人、また一人とメンバーが訪れる。
ただ、彼女たちはなぜか決まって、いつも私の部屋か、あるいはリビングにいた。
寝る時だけは自分たちの部屋のベッドへと移動するものの、それまでは私と一緒に過ごす。

最初はその理由がわからなかった。せっかく彼女たち専用の部屋があるというのに・・・。
しかし・・・それは当たり前のことだったのかもしれない。

彼女たちは・・・決して一人になりたくて来ているのではない・・・。
もちろん、それぞれこの部屋に来る目的は違うのだろうが、それでも皆、私の存在を必要としてくれていたのだ。

一緒に酒を飲み、語り、説教し、愚痴をこぼす相手を求めていた中澤。
あまりの悩みに現実から逃避しそうになるも、それを誰かに引き止めて欲しいと思っていた市井。

特にこの二人は私のことを必要としてくれていた。そして、私も二人を必要としていた・・・。

姉さんは私にとって良き姉・・・そして――多少年は離れているが――良き友だった。
姉さんと酒を飲んでいる時は、まるで学生時代に戻ったかのように楽しい時間だった。
一時の過ちはあったものの、それでも姉さんの存在は私を元気付けるものだった。

一方の市井は最初は暗く、大人しく、全く会話もしてくれなかった・・・。
それが自分と似ていて、何かほっとけない感じがしていた。ただ、それは向こうも同じだったのかもしれない。
口数こそ少ないが、彼女と接していて得たものが一つあった。・・・それは・・・未来。
例え現実が辛くても、彼女は未来を夢見ていた。夢だけは決して諦めていなかった。
だから、そんな彼女を励まそうとして、逆に自分が励まされていることに気づいた。
それは保田の未来志向とはまた少し違ったものだったが、私にはこっちの方が合っているような気がした。

この二人の他にも、石黒、後藤、福田・・・その三人も私にとっては大切な存在だった。
596443 ◆5/w6WpxJOw :03/05/06 01:47 ID:???
一見きつそうに見える石黒・・・。しかし本当はものすごい優しさで溢れていた。
まだそこまで打ち解けたわけではないが、同い年ということで彼女の存在は私にとっていい刺激になっていた。

実は男だった後藤・・・。それを知った時はかなりの驚きだった。
しかし、男であるがゆえに女以上に女らしいのだと思えるようになっていた。
気が利いて、それでいて無邪気で、風のように爽やかな後藤。そんな彼女は私にとって一種の清涼剤だった。

そして福田・・・。まだ一度しか来たことは無かったものの、数日間滞在したこともあって、
私と過ごした時間は一番長いのかもしれない。一緒に買い物や散歩にも行った仲だ・・・。
一見冷静な性格だが、その実は普通の女の子。飾ることが苦手なだけの女の子なのだ。
そんな福田は私にとって、紺野とはまた違った意味での妹みたいな存在だった。

そして、忘れてはいけないのが・・・保田。私にとって一番大切な存在だ。
ドラマで共演し、彼女に惹かれ始め、そして全てが始まった。

彼女との出会いが私の人生を・・・私の立ち止まろうとしていた人生を変えたのだ。
まだ未来に向けて前向きに歩き始めたわけではないが、
しかし、それでも彼女がいなければ、私は完全に人生の歩みを止めていたことだろう。

そして・・・そんな彼女に・・・ようやくその日が訪れ・・・彼女はすでに新しい人生を歩み始めていた・・・。

そう・・・5月5日・・・保田圭・・・モーニング娘。・・・卒業・・・。

その日はいつもと全く変わらない一日だった。
誰が訪れるわけでもなく、何が起きるわけでもなく、ただ普通の一日・・・。
私はいつも通りバイトに出かけ、そして帰宅してほか弁を食べて寝る・・・。
ゴールデンウィークも祝日も私には関係なかった。ただそれだけの一日・・・。

その日に何の意味があるのか・・・それは私にはわからない。
わかるとすれば・・・それは本人のみ・・・。

そんな普通の一日が静かに過ぎていった・・・。
597 ◆5/w6WpxJOw :03/05/06 01:49 ID:???
次回、ついに最終回!

お楽しみに!!!
598 ◆5/w6WpxJOw :03/05/06 02:01 ID:???
やすだ(独唱)フラッシュ
http://f6.aaacafe.ne.jp/~ykyossy/yasuda/

泣かないでいるつもりだったんだが・・・。
。・゚・(ノД`)・゚・。
599番組の途中ですが名無しです:03/05/06 07:49 ID:WO1VDLbu
なんかな、テレビに保田でてた。不細工だった。
でも、卒業していく奴を見てたら、無償に「頑張れ」って言いたくなった。

最終回楽しみにしてます。
600番組の途中ですが名無しです:03/05/06 08:12 ID:???
「おばちゃん」って呼ばれていたんだってね。>保田
601番組の途中ですが名無しです:03/05/08 03:30 ID:fg2SWR8G
602幽霊作家:03/05/08 09:31 ID:???
最終回だすか・・・悲しいだすなぁ(;;
603番組の途中ですが名無しです:03/05/09 11:03 ID:???
保全しすぎると容量がやばそうだな。
604読者:03/05/11 07:06 ID:qbuxTFP/
605:03/05/12 13:00 ID:???
606私事ですが名無しです:03/05/13 07:47 ID:Uye0e4wt
ho
607私事ですが名無しです:03/05/13 17:18 ID:4+G3LB2C
DA
608 ◆5/w6WpxJOw :03/05/14 02:51 ID:???
>>599
なんかジーンときました。ありがとう!
>>600
現役のことはよく知らないので何とも・・・。
>>602
終わりがあれば始まりが・・・。
>>603
ですね・・・。
>>601 >>604-607
保守ありがとう!

さて、第二部最終回ですが、容量が完全にオーバーする計算なので、
新しくスレを立てさせてもらいます。いきなり最終回ってのもあれですが・・・。
609私事ですが名無しです:03/05/14 16:39 ID:???
と、いうことは、このスレの保全はしなくて良いということですね。
610私事ですが名無しです:03/05/15 07:50 ID:???
>>608どうせなら、スレッドの頭に「最終回」をいれといてホスイ
611 ◆5/w6WpxJOw
>>609
最近は一週間くらいほっといても大丈夫みたいですので・・・。
>>610
暴露しますが、当初の予定では新スレから第三部を始めようかと・・・。
まあ第二部との繋がりがわかるのでその方がいいのかもしれませんが。

さてさて、ちょいとスレ立て制限に引っ掛かってたりしますが、
それさえ済めばすぐにでも新スレを立てるつもりですので、もうしばらくお待ちください。