中東―危機の震源を読む(75)
震災・原発事故報道のさなか、中東で何が起こっていたか
日本で大地震が発生し、それに伴う津波が間をおかず押し寄せ、そこから引き起こされた原発事故が拡大していく過程で、
年初以来、アラブ世界の政治変動に大部分の時間を割いていたBBC、アル=ジャジーラ、CNNなどの国際ニュース・テレビ局の
関心が、一転して日本に集中した。3月11日から1週間は、ほぼ常に日本の状況がトップニュースだった。
2週間が経過した現在も、日本の状況はトップ3に入り、克明に伝えられている。ほかの2つはリビアとイエメンの情勢であり、
さらに、シリアで勃発した反政府抗議運動や、エジプトの民主化の過程が詳細に報じられている。中東の激動はいよいよ拡散し、
加速している。日本の状況はあたかもそれらリビアやイエメンといった大混乱の危険地帯と同列であるかのように、
国際メディア報道上では取り扱われている。
カイロから(略)
震災報道の陰で事を運ぼうとした各国政権
まずここでは、突如として国際メディア報道の筆頭に「日本という危機」が躍り出たことで、アラブ諸国の政治展開に
どのような影響が及んだか、考察を記しておきたい。「大規模デモ」の圧力を受け続けているアラブ諸国の政権には、
国際メディアの関心が震災と原発事故に向いた隙に、反体制抗議運動を「始末」してしまおうという意思があったと
見られる。各国の反政府抗議運動にとっては最悪の時期に地震が起こった、とも見えた。
3月初めから反転攻勢に出ていたリビアのカダフィ政権は、西部ザーウィヤ、北西部ミスラータへの軍事攻撃を強め、
ビン・ジャワードやラアス・ラーヌーフ、アジュダービヤといった中部から東部にかけての、反政府勢力が掌握していた
都市を攻撃した。3月19日に仏・英・米中心の多国籍軍の攻撃で挫かれるまで、東部の中心都市ベンガジに迫る勢いだった。
イエメンではサーレハ政権の治安部隊はデモに対して神経ガスまで用いた武力弾圧を行なった。
サウジアラビアは3月14日、バーレーンに戦車部隊を送りこんで実質上の支配下に置いた。
バーレーン政府はこれを後ろ盾に、15日から16日にかけてデモ隊に大規模な弾圧を行なって多くの死者を出した。
その後、反政府抗議運動が結集の地点としてきたデモが集まる首都マナーマの真珠広場のモニュメントを、
ブルドーザーで無残に破壊してシンボル性そのものを消滅させた。近代国民国家としての自己否定に近い行為である。
バーレーンとサウジアラビアについていえば、
アラブ世界の大規模デモを後押ししてきたアラビア語国際衛星放送局アル=ジャジーラが、スポンサーのカタール王室と
サウジアラビアとの関係に配慮して、反政府勢力の動きを意図的に報じない傾向が明白である。つまり、たとえ日本で
地震が起こらなかったとしても、アル=ジャジーラや、サウジ資本のアラビア語国際衛星放送局アラビーヤは、
バーレーンの体制動揺や、サウジの介入については極力報じようとしなかっただろう。これらの局にとって、
日本の大地震と事故は、湾岸諸国の反政府運動を報じないための格好の「言い訳」となった。
しかしリビアにせよ、イエメンにせよ、各政権が震災・原発事故報道の陰に事を運ぼうとしたとしても、
その企図が功を奏したとはいえない。むしろ事態の進展を早め、状況を質的に変えて、政権崩壊や混乱への道を足早に
進んだだけともいえる。バーレーンとサウジについても、長期的には報道管制を維持できるものとは考えにくい。
むしろ地震報道を口実に報道を控えたことが視聴者からの批判を招き、対抗するネット上のメディアなどに先を越されかねない。
そうなれば現場の記者の危機意識を招き、やがては湾岸政府に対しても批判的論調が表面化するかもしれない。
現に、バーレーンやサウジ、UAEなどの政権が主張する「外部のシーア派勢力の介入」「イランの介入」がデモの原因である、
と非難する議論を、アル=ジャジーラはそれほど伝えていない。湾岸諸国での反政府抗議運動の報道を抑制するよう圧力を受け、
それについては従いながらも、湾岸諸国の政府のプロパガンダ機関とはならないようにする、中立なメディアとしてのぎりぎりの
ラインをアル=ジャジーラは模索しているようだ。
全文は下記リンクで
http://www.fsight.jp/print/10351 【リビア/コラム】中東―危機の震源を読む(72)…池内恵氏[11/02/25]
http://toki.2ch.net/test/read.cgi/news5plus/1298712327/