福島第一原発では今もなお予断を許さない状況が続いている。今後日本のみならず世界中でがんのリスクが増すと考えられる。
しかし、それ以上に深刻な問題は世代を越えた遺伝的な損傷だという。
マルティン・ヴァルター氏 ( 66歳 ) はソロトゥルン州グレンヒェン ( Grenchen ) の内科開業医だ。
1991年に1カ月間ウクライナの病院で働いた経験も持つ。
また1988年から2年間、核戦争防止国際医師会議スイス支部 ( PSR/IPPNW Schweiz ) の支部長を務め、
「核を使わない電力 ( SoA ) 」運動や原発建設に猶予期間を求める運動などの委員会で中心的な役割を果たした。
この原発建設の猶予期間については、1990年秋の国民投票で認可されている。
swissinfo.ch :
東京電力さらには日本政府の不十分な情報開示に対し批判の声が高まっています。
正確な情報が伝えられないことで日本国民の命が危険にさらされているということはありますか。
ヴァルター :
それはない。急性被曝は免れている。少なくともこれまでのところ ( 17日現在 ) 原子力発電所の敷地外では
放射線量がさほど多くなく、急性被曝には至らない。北半球の住人が急性被曝で死亡することはない。
しかし、原発内で原子炉の冷却作業をしている作業員たちを取り巻く環境は別だ。どうか線量計を装着していてほしい。
ただ、情報伝達が不十分だったり危険を軽視したりすると大きな誤りを犯すことになる。吸収線量と人体への影響は
正比例の関係にあるからだ。つまり、心配のいらない吸収線量というものはない。わずかな摂取でもがんを引き起こし、
乳がんや大腸がんなどから死に至ることもある。
今後日本では確実にがん死亡率が高まるだろう。たとえ完全な炉心溶融に至らなかったとしてもだ。
swissinfo.ch :
専門家によれば3月17日と18日の2日間が原子炉冷却の鍵を握る最後のチャンスとされ、
成功しなければ炉心溶融が決定的になるとのことでした。世界が日本に対して抱く不安は当然のものですか。
ヴァルター :
当然だ。先述したがんの増加を恐れてのことだ。例えば、チェルノブイリでも急性被曝で死亡した人は多くなかったが、
事故後にがんで多くの人たちが亡くなった。
しかし、がんのリスクの増加以上にもっと深刻な問題は遺伝子への影響だ。
それも世代を越えた影響だ。最新の研究では、少量の吸収線量でも継代的な影響がありうることが分かっている。
イギリスにあるセラフィールド ( Sellafield ) の使用済核燃料の再処理工場に勤務する人たちの子どもには白血病のリスクが高い。
これは父親の吸収線量と関係があり、子どもたち自身は放射線にさらされていない。原発事故だけでなくこうした通常の場合でも、
人間ならび動植物の遺伝子に損傷が発生する。こうした事実を知った上で、あえて原子力に頼るかどうかはむしろ倫理的な問題だ。
>>2につづく
swissinfo.ch
http://www.swissinfo.ch/jpn/detail/content.html?cid=29799892 2006年、ウクライナの病気の子どもたち。1986年に起きたチェルノブイリ原発事故は子どもたちに一生影響を及ぼす (Keystone)
http://www.swissinfo.ch/media/cms/images/keystone/2011/03/29311904-29756612.jpg