○トルコ:憲法改正の是非問う国民投票へ 揺れる政教分離
トルコで今月12日、軍や司法にかかわる憲法改正の是非を問う国民投票が実施される。
イスラムの伝統重視を掲げる与党・公正発展党(AKP)が主導する。歴史的にイスラム系
政党は、国是である政教分離の守護者を自任する軍や司法と対立しており、憲法改正により、
それらの「政治介入」を排除するのが狙いとされる。国の針路を左右する大幅な改憲だが、
世論調査で国民の賛否は割れている。
トルコは人口の99%がイスラム教徒だが、1923年の近代国家誕生以来、世俗主義を貫いてきた。
軍の役割は大きく、4度のクーデターでイスラム主義を排除し、現憲法は80年のクーデター後に
国民投票で承認された。
これに対し、02年に初のイスラム系単独政権に就いたAKPは、これまでに数度の憲法改正を
通じて政権基盤を固めてきた。07年には一層のイスラム化に向け、大学での女性のスカーフ
着用を容認する憲法修正を実現したが、翌08年、検察に「解党」を訴えられた。憲法裁判所の
判決で辛うじて解党は免れたが、着用容認の修正は違憲と判断された。世俗派との対立は
先鋭化している。
国民投票は、憲法の26項目の改正を一括で多数決にかける。焦点は、軍人を軍事裁判でなく
通常の裁判所で裁くことを可能とする案や、憲法裁の裁判官指名で国会の関与を強める案。
政権党の影響力を強化する狙いが透ける。
子供・女性やプライバシー保護の権利擁護に関する改正項目も含んでおり、エルドアン首相は、
欧州連合(EU)加盟に必要な民主主義体制の強化が目的だと主張する。
だが、最大野党で世俗派の共和人民党(CHP)など反対勢力は、子供の権利にかかわる改正
などは隠れみので、司法改革などを通じて「イスラム化を進める」のが目的だと反発している。
国民投票は、来年7月までに実施される総選挙の前哨戦とみられており、首相は今回の投票を
バネに「総選挙で勝利し、さらに新憲法を制定する」と話している。
トルコは、北大西洋条約機構(NATO)に加盟し、西側諸国の中東での重要な友好国とみられて
きた。だが近年はイスラエルとの関係を悪化させ、戦略としてイランやシリアなど周辺国に接近し、
「外交軸を西から東(イスラム諸国)に移している」と一部で懸念されている。国民投票は、
国際的にはこうした文脈で注目を集めている。
◇トルコの政教分離
近代トルコは、オスマン帝国の崩壊後、欧州諸国の占領からの独立戦争を経て1923年に建国。
「脱イスラム・入欧」を目指した。政教分離は37年、憲法に明文化された。しかし多くの国民の間で
イスラムは生き続け、95年総選挙では、イスラム系・福祉党(98年に非合法化)が初めて第1党に
躍進した。背景には、旧来の世俗派政党の腐敗や経済失政、イスラム政党が貧困層を救済してきた
歴史があるとされる。
□ソース:毎日新聞
http://mainichi.jp/select/world/europe/news/20100906k0000m030039000c.html