ロシアが米国に対抗して構築を進めてきたロシア版GPS(衛星利用測位システム)
「グロナス」が、来年から世界を網羅する見通しとなった。政権はこれを機に、
米GPSの独壇場となっている国内外の市場に風穴を開ける思惑だ。来年以降、
米GPSの輸入関税引き上げや車両へのグロナス強制装着といった強権措置を発動し、
まずは国内での普及を目指す方針だ。
ロシアは年内にグロナス用の人工衛星6基を新たに打ち上げる計画で、軌道上の
衛星は常時24〜28基となる。これにより、現在は主にロシア・旧ソ連地域に
限られている信号の送受信範囲がほぼ全世界に広がる。
ただ、後発のグロナスは国内でも普及が遅れており、緊急車両などに4万3000台の
受信機が導入されているにすぎない。プーチン首相(前大統領)は最近の政府会合で
「来年以降は(船舶や鉄道を含む)多くの輸送手段に義務として測位システムが
搭載されねばならない」と明言した。
政権は、広大な国土での交通安全などを名目に、公共交通機関や国産新車にグロナス
装備を義務づけることを検討。グロナスと互換性のない米GPS機材には来年以降、
25%程度の輸入関税をかける方向だ。政権は今年と来年で480億ルーブル(約1339億円)
を投じ、受信機材の年産100万台体制を目指す。
人工衛星を利用した測位システムの構築は1980年代から軍用目的で始まったが、
ソ連崩壊後の財政難で計画は停滞。プーチン氏が大統領に就任した2000年以降、
安全保障の観点から国策として優先的に取り組んできた。
プーチン首相はGPSを実用化できているのが米露両国だけだとし、「測位システムの
主権」が重要だと強調。米国の“一極支配”を切り崩すべく国外への売り込みにも
意欲的だ。ロシアは協力合意を結んだ国にはグロナスの利用を自由化するとしており、
これまで近隣諸国のほかインドやキューバと合意を締結した。
国家権力による“グロナス強制”の流れを受け、ロシアでは急成長する携帯電話など
通信業界にも、国が統制を強めるとの懸念が強まっている。英字紙モスクワタイムズは
「将来の(携帯市場で)利益をもたらすのはナビゲーション(測位)など付加サービスだ」
とし、「グロナスの導入はクレムリンが魅力的な通信市場に介入する口実を与える」と
する在外専門家の意見を紹介している。
MSN産経(12日20:25)
http://sankei.jp.msn.com/world/europe/100812/erp1008122028004-n1.htm