【カイロ和田浩明】バグダッドの不安定な治安の象徴的存在だったコンクリート製防護壁が、
9月半ばまでに撤去されることになった。治安維持へイラク当局の自信を示す措置だが、市内
では7日も爆弾テロが3件発生し28人が死傷しており、市民からは時期尚早との声も出ている。
撤去は5日、マリキ首相が指示し、40日以内に実施される予定。イラク軍バグダッド作戦司令
センターのカーセム・アタ報道官は毎日新聞に「状況改善を受けた措置だ」と説明し、治安上問題
はないとの認識を示した。
防護壁は03年のイラク戦争後、武装勢力の攻撃や爆弾テロへの防衛策として駐留米軍が設置
を開始。イスラム教シーア派とスンニ派の宗派間紛争が激化し、内戦状態になった06〜07年に
激増した。
米軍によると、壁は高さ3.6メートルで、重さ約6トン。高さ6メートルに及ぶものもある。市内全域
の道路に設置されていて、膨大な数に上ると見られ、期限内に撤去することが物理的に可能かは
不明だ。
小学校教師でスンニ派のオマル・ハーリドさん(27)は、武装勢力の動きが活発になっているため、
「撤去は時期尚早だ。来年1月の総選挙を意識した治安改善のアピールでは」と懸念する。
反対に、シーア派のタクシー運転手、アブ・フセインさん(57)は「移動が楽になり、商売がはかど
りそう」と歓迎。宗派間衝突を予防する狙いもあった壁が消えれば、「住民の一体感が戻るのでは」
と期待する。
イラクの治安情勢は、民間人死者数が月間3000人を超えたころに比べれば改善しているため、
米軍は予定を前倒しして6月末に都市部から戦闘部隊を撤退させた。しかし、現状は7月だけでも、
なお300人以上の民間人が死亡している。
http://mainichi.jp/select/world/news/20090809k0000m030039000c.html