メキシコ中央部で15年前に見つかった石の彫像群から、未知の文化の存在が示された。
この文化の人々は周辺にミステリアスなピラミッドを建造していた可能性が高いという。
石像群は、メキシコ・シティーの北東約100キロにあるイダルゴ州トゥランシンゴ市の渓谷
で、15年ほど前に初めて発見された。41体の石像のほとんどが、「渓谷内やメキシコ中央
部の高地で確認されているどの文化のものとも違っていた」と、メキシコ国立人類学歴史
学研究所の考古学者カルロス・エルナンデス氏は語る。
石像の多くはひざに手を置いた座像で、頭飾りや円錐形の帽子を身につけているものも
ある。台座には蛇が描かれており、アステカ神話の風の神であるエヘカトル(ケツァルコア
トル)を表している可能性がある。中には、ジャガーの開いた口から人物が現れる様子を
彫った像もあった。
石像のほか、石灰に水と細かい砂を混ぜてできる化粧しっくいで作られた像も見つかって
いる。化粧しっくいには青や緑の彩色が施され、ヒスイのような外観に仕上げられている。
「いずれも後古典期の紀元600〜900年代のものとみられているが、メキシコや諸外国の
考古学者の中には、古い物ではなく偽物だと指摘する向きもある。だが、トゥランシンゴ市
内での発見場所や年代などの特徴を総合すると、未知の文化のものと考えてよいのでは
ないか」と同氏は考えている。この文化は、メキシコのイダルゴ州にある場所の名前にち
なんで「ウアホムルコ(Huajomulco)」文化と名付けられた。
イダルゴ州のウアパルカルコに遺されている謎のピラミッド付近でも、同じようなタイプの石
像が確認されている。このピラミッドの形状や白と黒で塗られた比較的小型の構造は、同時
期、同エリアに存在したトルテカやテオティワカンの文化的特徴とは異なっており、その文
化的背景については考古学者らの間でいまも議論が交わされている。
ラテン系民族が到達する以前の南北アメリカ大陸では、紀元前400年〜紀元700年代にテ
オティワカンの人々が活躍し、最大級のピラミッドを建造した。その後、紀元900〜1100年
代には南アメリカ大陸の数種族がまとまって同地域にトルテカという帝国を築き、中心都
市となったトゥーラでは美術や建築が栄えたとされている。
ピラミッド付近からの出土品に基づくと、「ウアパルカルコのピラミッドは新たに発見された
文化の人々が造った可能性が高い」と同氏は話している。
イダルゴ州で調査を進めるアイオワ大学の考古学者トーマス・チャールトン氏は、次のよ
うに述べる。「今回調査された石像などから、新たに確認された古代文化とウアパルカルコ
のピラミッドに関連があることは間違いないだろう。トゥランシンゴの渓谷付近の遺跡が、テ
オティワカン時代の終焉からトルテカ帝国時代初期までの間に造られたものだという仮説
は、理にかなっている」。
これには、アリゾナ州立大学の考古学者マイケル・スミス氏も同意する。「後古典期は交
易や都市文化、技術進歩などの点で大きな発展があった時代だと考えられている。いまも
謎の多い時代ではあるが、この時期に独立した文化があったとしても不思議ではない。」
前出のエルナンデス氏は、「今後、ウアパルカルコでの発掘調査が進めば、新たな文化と
のつながりが明らかになって歴史の空白を埋めることができるかもしれない」と述べている。
http://www.nationalgeographic.co.jp/news/news_article.php?file_id=37402216&expand http://www.nationalgeographic.co.jp/news/bigphotos/images/081208-mexico-pyramid_big.jpg