【外信コラム】イタリア便り 良心に基づく忌避
イタリアの徴兵制度は5年前に中止された。憲法52条に「国民の祖国防衛の
義務と兵役の義務」が定められているため、廃止ではなく中止である。中止
されるまでの30年以上の間、自己の思想的・宗教的信条により兵役を拒否し、
期間がやや長い社会事業などに従事する「良心に基づく忌避」の制度もあった。
最近、産婦人科医の「良心に基づく忌避」が問題になっている。
イタリアでは1978年に成立した法律により、正当な理由があれば妊娠中絶が
認められているのに、自己の信条によって「人工流産手術」を拒否する医師が
急増しているというのである。昔はカトリック教国であっただけに、「受精と
同時に生命が始まる」とするカトリック教会の教えを守る医師が多くても不思議
はない。
だが、最近の保健省の発表によると、避妊薬の爆発的なブームのためか、イタリア
での中絶件数は82年の23万4000件に対し、2007年には12万7000
件とほぼ半減している。しかも中絶総件数のうち、外国人の移民女性が31・6%
を占めているという。万一、彼女たちが分娩(ぶんべん)していたら、急増が問題
になっているイタリア在住の移民の数がさらに多くなっていたことになる。
結局、医師の良心も、イタリア女性の出産率の向上にはなんら役に立っていない
わけだ。(坂本鉄男)
2008.12.7 02:28 産経新聞
http://sankei.jp.msn.com/world/europe/081207/erp0812070229000-n1.htm