■ 食材向けに加工された野生生物を押収
今月初め、マレーシア当局が1週間のうちに2度の強制捜査を行い、生きたオオトカゲ7000匹以上、
簡単に調理できるように羽がむしられラップにくるまれたフクロウおよそ900羽、そのほかさまざま
な野生動物を出航間際で差し押さえた。
違法な野生生物取引を調査している専門家は、膨大な数の希少なフクロウが殺されていたことを
今回の押収で知り、大きな驚きを見せた。野生生物の取引をモニタリングするネットワークNGO、
トラフィック(TRAFFIC)の上級プログラム担当官で、マレーシアの首都クアラルンプールに滞在する
クリス・シェパード氏は次のように話す。
「この種のフクロウがこれほど大量に出荷されるのを見たのは初めてのことだ。2つの差し押さえ
現場の大きさを考えると、アジアの野生生物密輸はますます巧妙になっていると考えられる。近年
の違法取引は、少量の動物でひともうけしようとする投機的な個人ではなく、組織的なシンジケート
によって行われているといわれるが、今回の出荷規模でそれがはっきりした」。
マレーシア野生生物国立公園局(DWNP)が主導した2度の強制捜査のうち1つ目は、11月4日にマレ
ーシアの南端にあるムアール市で行われた。当局職員は冷凍機能を備えた倉庫でメンフクロウ796
羽、マレーモリフクロウ95羽、マレーウオミミズク14羽、マレーワシミミズク8羽、オオフクロウ4羽を発
見した。フクロウはすべて冷凍されており、羽がむしりとられていたが頭部と脚は残っていた。つまり、
食料として売却するための処置が施されていたのだ。
アメリカのニューヨークに拠点を置く非営利団体、野生生物保護協会(WCS)でアジア・プログラムの
責任者を務めるコリン・プール氏は、「フクロウを宗教儀式や伝統的な民間医療で使用するという話
は聞いたことがあるが、食べるという話はこれまで聞いたことがなかった。フクロウ市場が存在する
ことは間違いない」と話す。
冷凍されたフクロウのほかにも、生きたオオトカゲや生きたイノシシの子どもが発見された。さらに、
イノシシやマレーヤマアラシ、アミメニシキヘビ、マレーセンザンコウ、オオマメジカ、マレーグマの
体の部位が見つかっている。この時の強制捜査では地元の男性1人が逮捕された。しかしこの男は
“無罪"を主張し、1万9000リンギット(約51万円)の保釈金を支払い3日後に解放された。
ムアールは港町であり、中国に向けて出荷されるものだったと専門家は考えている。中国では猟獣
肉が珍味として重宝されており、野生生物を伝統的医療で用いるため、そういった需要がアジアでの
違法取引を促進しているといわれている。ムアールで押収された動物種は、程度の差はあるが全て
マレーシアの法律で保護対象となっている。特に、マレーグマはワシントン条約(CITES:絶滅のおそれ
のある野生動植物の種の国際取引に関する条約)で国際取引が禁じられており、国際自然保護連合
(IUCN)の絶滅危惧種リストでも「危急(vulnerable)」の種として掲載されている。
ムアールでの強制捜査の3日後、マレーシア当局は捜査中に得た内密情報に基づき、ジョホール州
北部のスガマッ市にある倉庫の強制捜査を行った。そこで生きたヒガシベンガルオオトカゲが7000匹
以上発見された。
国際自然保護団体の世界自然保護基金(WWF)によると、ヒガシベンガルオオトカゲも中国の食卓に
並ぶものであった可能性が高いという。このオオトカゲもワシントン条約により国際取引が禁止され
ている。
2005年、東南アジア諸国は違法な野生生物取引に対処するため、東南アジア諸国連合・野生生物
保護法執行ネットワーク(ASEAN-WEN)を結成した。新しい協力体制の発足を契機として取り締まり
が強化されており、徐々に実を結び始めているように思われる。
例えば今年7月、インドネシア当局は中国向けに出荷予定だったセンザンコウ14トンを差し押さえた。
また、ベトナムでも強制捜査が行われ、インドネシアから出荷されたセンザンコウ24トンが発見されて
いる。しかし、ASEAN-WENは物的・人的資源が足りておらず、まだ十分に機能しているとはいえない。
また各国政府の問題認識も十分なものではない。
トラフィックのシェパード氏は、「密輸者を逮捕しても罰則が非常に弱く、まったく抑止効果を発揮して
いない」と嘆いている。
http://www.nationalgeographic.co.jp/news/news_article.php?file_id=73954677&expand