アイスランドへの融資なぜ? ロシアの皮算用、諸説
主要国内銀行を国有化するなど金融危機が深まるアイスランドに対し、ロシアが約40億ユーロ
(約5600億円)の緊急融資に乗り出す構えだ。アイスランド代表団が14日にモスクワ入りし、
詳細を詰める交渉を始めた。ソ連崩壊後、ロシアが西側の国を直接財政支援するのは初めてとされる。
狙いは何なのか、様々な憶測を呼んでいる。
北極圏に接するアイスランドは欧州連合(EU)には非加盟だが、北大西洋条約機構(NATO)の
一員。英国などと関係が深い。しかし、欧州各国は自国の金融危機対応に追われ、アイスランドに
手を差し伸べる国はなかった。
アイスランドがロシアに支援要請したとのニュースが流れた7日以降、ロシアメディアは取材クルーを
アイスランドに派遣し、現地のクローナ紙幣にプーチン首相の顔をはめ込んだパロディーのお札が
登場した話題を伝えるなど、高い関心を示している。ソ連崩壊後の経済混乱で債務国に陥ったロシアが、
油価高騰とともに経済力を回復した証しでもあり、自尊心をくすぐられる国民も多いようだ。
リスクを伴う融資にロシアはなぜ前向きなのか。諸説がメディアをにぎわせている。
(1)イメージ戦略 財政力を誇示でき、新しい国際金融秩序にロシアの参加が必要だと示せる。
8月のグルジアとの軍事衝突で対立を深めた欧米に、緊密な協力の用意があるとのサインともなる。
(2)自国民救済 高い金利と優遇税制で知られるアイスランドの銀行には、多くのロシア人富裕層が
預金しているため、銀行を破綻(はたん)させられない。他国に融資することで、ロシアの金融危機は
それほどでもないと国民に思わせ、不安を払拭(ふっしょく)もできる。
(3)NATO切り崩し グルジアやウクライナのNATO加盟を阻止したいロシア。49年から
加盟国のアイスランドを味方につければ、NATO拡大への牽制(けんせい)を期待できる。
(4)北極資源 天然資源を狙って北極争奪に乗り出したロシアは、北極大陸棚の境界論争で
アイスランドの支持を得ることが期待できる。
(5)アルミニウム クレムリンにも近い「アルミ王」のロシア富豪が、アルミ生産国でもある
アイスランドに工場進出を計画。欧州にも米国にも運搬に便利なこの計画への側面支援になる――。
融資額の40億ユーロはロシアの外貨準備高の1%程度だが、人口30万人のアイスランドにとっては
国内総生産(GDP)の4分の1に相当する。貸付金利を低くしても、ロシアの費用対効果は大きい。
経済紙・RBCデイリーは「ロシアの軍事基地はなくとも、アイスランドは戦略的な重要地点だ」と
指摘している。
2008年10月15日10時10分
http://www.asahi.com/international/update/1014/TKY200810140277.html