日本がG8のサミットを仕切るのは、これが最後になるかもしれません。先進国だけでは担いきれない
課題を抱えた、洞爺湖サミットの開幕です。
世界的なヒットになったドキュメンタリー映画「アース(地球)」には、アフリカゾウの大群が水場を求めて
乾期の砂漠を大移動する場面がありました。太陽が砂漠を焦がし、砂嵐が視界を遮ります。方向を誤れば、
渇きと飢えで群れ全体が朽ち果てるしかありません。集団の長い旅には、ゴールへの明確な道筋と、
率いる指導者のリーダーシップが欠かせません。
■百年に一度の転換期
「世界は百年に一度の転換期にある」と言われています。
地球温暖化は、言うまでもなく危機的な状況です。原油の高騰はとどまるところを知らず、食料危機は
先進国にも襲いかかろうとしています。洞爺湖にかかる霧のような視界不良の真っただ中、重い課題を
背負ったサミットです。
脱温暖化についてサミットはここ数年、重要な役割を果たしてきたといえるでしょう。昨年の独ハイリゲンダム・
サミットでは、メルケル首相が米国との妥協を重ねながらも土俵際で持ちこたえ、温室効果ガスの排出を
「二〇五〇年までに、地球規模で少なくとも半減するよう真剣に検討する」ことで合意しました。
洞爺湖では最低限、この先へ進まなくてはなりません。世界は今、二〇二〇年までにどれだけ削減するかを
決める「中期目標」の設定を求めています。国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は、今後二、
三十年の努力と投資が、温暖化による破滅的な危機回避への分かれ目になると訴え、ただちに行動を
起こすよう政治家に呼びかけました。政治家はそれぞれの国民に、行動を促さなければなりません。
そのための目安になるのが中長期の目標です。
■脱温暖化は脱石油
脱温暖化以外にも、食料危機と原油の高騰が、主要議題になっています。これらは相互に絡み合いながら、
人々の危険と不安を増大させています。
気候変動の要因は、化石燃料への過度な依存と、その野放図な消費です。気候変動がもたらす異常気象が
穀物の生育を妨げ、農地や漁場を荒らします。脱温暖化を名目に、中東への石油依存を減らそうともくろむ
米国の政策が、穀物などから油を搾るバイオエタノールのブームを呼び、食卓と製油所が作物の争奪戦を
始めています。
温暖化対策は、石油依存からの脱却を意味しています。食料の増産や、原油価格の沈静化にもつながります。
穀物市場や石油市場へ流れ込む巨額の投機マネーには、中長期と言わず速やかに、歯止めをかけねばなりません。
アフリカを中心に世界中で十億人が、一日一ドル以下で暮らしています。一握りの投資家にはただの
マネーゲームでも、膨大な貧困層には命にかかわる問題です。
食料、石油、水のような生命の生存基盤は人類共有の財産です。米英を説得し、投機マネーの規制にも
道筋を付けなければなりません。「地球市民」の幸せに結び付かないグローバリズムの台頭や、それぞれの
国が自国の論理に引きこもる「中世回帰」の進行は、食い止めなければなりません。
サミットは一九七五年、第一次石油ショック後の不況対策を話し合うため、パリ郊外のランブイエ城で
始まりました。六カ国でのスタートでした。東西冷戦の終結など、国際情勢の変化に合わせてすそ野を
広げてきましたが、「第三次石油ショック」とも呼ばれる状況下、サミットも潮目を迎えています。
山積する地球規模の難題にG8だけでは対応できず、洞爺湖拡大会合の参加国は、史上最多の
二十二カ国を数えます。中印やブラジルなどを正式メンバーに迎え入れ、G13への拡大構想も
浮かんでいます。食料、資源の消費大国であるインドや中国も、これからは「大国」としての責任を
果たしていかねばなりません。
■アジアで唯一に固執せず
日本は「唯一のアジア代表」の地位に固執せず、サミットの新たな枠組みについても、柔軟に検討を
始めなければなりません。「無事これ成功」と評されたこれまでとはひと味違う、転換点のサミットです。
石油資本と投機マネーを背景にした米国覇権主義への追随は、時代遅れになっています。欧州と米国、
先進国と途上国、調整を託された議長国日本の責任は重大です。
2008年7月6日
http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2008070602000117.html