★イラク外務次官との対話
イラクから外務次官とその一行が訪日した。訪日の目的は、いまイラクが結ぼうとしている、
アメリカとの治安協定(防衛協定)の前例国である日本に、日米安保条約の内容と、その功罪を
聞きに来たのだ。
イラクはこれと同じ目的の訪問団を、韓国、トルコ、ドイツにも送る予定になっている。それらの
前例国から、どのような内容の協定を結んでいるのかを細かく聞いて、自分の国が結ぶ協定
内容を、決めるということであろう。日本の場合は、外務省の条約局経験者が、もっぱら日米
安保について、説明を行ったようだ。
この外務次官は、フランス留学の博士課程を終えた法律の専門家で、バグダッド大学の教授や、
外務大臣の法律顧問などを経験し、現在イラクの外務次官に就任している人物だ。
外務省の関係者の話によれば、彼は日本側の説明を細かくメモに取り、必要に応じて質問を
していたようだ。彼と対話していて、とても71歳とは思えない、エネルギッシュな印象を受けた。
彼は現在、イラクに大小340以上の米軍基地があり、これを漸減していきたいと語っていた。
このアメリカとの治安協定については、現在の段階では必要だと語り、その必要な理由は、
イラクは近隣国からの攻撃を、警戒しなければならないからだと語っていた。
イラクはイランとの間で、8年にも及ぶ戦争を経験しており、現在もイラン側のイラクに対する
関与が、非常に懸念されているのであろう。しかし、だからといって、アメリカとの間で、長期の
治安協定を結ぶことは、望んでいない様子だった。
この外務次官は帰国後、イラクの議会に対して、日本の前例を細かく説明し、どのような内容の
協定を結ぶかを、討議するのであろう。もちろん、協定文書の大まかな部分は、既に
出来ているのであろうが、細目については、まだ調整が可能なのであろう。
気になったのは、日本の例が果たして、何処までイラクに当てはまるか、ということだ。日本人は
従順であまり自己主張をしないし、罪を許す傾向が強い。しかし、イラク人は非常に個性が強く、
敵を許す気持ちは薄いのではないか。
なかでも性犯罪に対しては、一族の名誉が傷つけられたと認識する人たちなだけに、中途半端な
形ではすまないだろう。アメリカ軍の兵士が日本国内で行った性犯罪については、軽い処罰で
済んでいるが、イラクでは必ず復讐が行われる、と考えたほうがよかろう。
私は日米安保の功罪について話し、アメリカ人による犯罪については、事前にイラク側に司法の
権利を、留保すべきだろうと語った。そのためには、イラクの司法がアメリカ人の犯罪に対して、
冷静に審理し判決を下す、という保証が必要になろう。
したがって、アメリカがこの治安協定をイラクと結びたいのであれば、来年の1月を期限とせずに、
もう少し時間をかける必要があるのではないか。アメリカが急いでゴリ押ししても、イラク国民と
政府に不満が残るだけであり、逆効果となる懸念が強いからだ。
http://www.tkfd.or.jp/blog/sasaki/2008/06/no_281.html