★アニラオ(フィリピン) 「生きている海、実感」
貧困や公害のイメージが強いフィリピン。しかし、都市部を離れれば、今も手付かずの自然が残る。
マニラから南へ約140キロ。ルソン島のアニラオは、豊かなサンゴ群や海洋生物にあふれ、世界から
多くのダイバーが集まってくる。フィリピンを代表する海の自然の「宝庫」だ。
リゾートでダイビングガイドとして働くテオドルフォさん(40)は、かつて地元の漁師だった。しかし
「水中銃を持って海に入れば、1日200キロもの魚が取れた」という豊かな海は、ダイナマイトを
使った「爆破漁」などで破壊され始めた。サンゴは壊れ、魚は減少していった。
しかし、アニラオは次第にダイビングスポットとして注目を集めるようになった。爆破漁や水中銃を
使っての漁は禁止された。草ぶき屋根の素朴なリゾート施設が海岸沿いに建ち並び、欧米人や
豊かなフィリピン人のダイバーが集まってきた。
漁業や、わずかな農地を耕して生計を立てていた地元の人々は海の観光業に暮らしの糧を求めた。
暮らしは少しずつ豊かになっていった。
「今は少し騒がしくなった。静かな昔が懐かしい。けれど道路も電気もなかった昔に比べたら、生活は
格段に良くなった」とテオドルフォさんは故郷の発展を喜ぶ。
アニラオには現在、日本人と韓国人向けのリゾートもできている。観光客の中心は、欧米人から
日本人や韓国人に移っているようだ。
ダイビングの指導者を目指して2年前からアニラオのリゾートで働く大澤義生さん(32)は、アニラオの
良さを「海岸近くの海底にサンゴが広がり、魚影が濃いこと」と言う。大澤さんが働くリゾートのすぐ前の
海中でも枝サンゴが少しずつ成長していくのが手に取るように分かるという。
今年、この豊かなサンゴ礁に、サンゴを食べるオニヒトデが発生した。地元ダイバーらが出て、
オニヒトデの駆除に努め、被害をなんとか食い止めた。
しかし、大澤さんは「サンゴも魚もオニヒトデも自然の営み。ここにいると、海が生きていることを
実感できる」と語る。アニラオの海は、そこに住む人の心を優しく、広くしてくれる力を持っているようだ。
【大澤文護】
●ひとこと
アニラオの象徴は、水深23メートルの海底にある大理石の十字架だ。80年代、サンゴに彩られた
大きな岩の起伏の間に、後に大統領となり、自らダイビングも楽しんだラモス氏が設置した。ダイバーが
長年、餌付けをしてきたため、十字架の近くは魚影が濃く、人の姿を見ると、多種多様な熱帯の魚が
近寄ってくる。
毎日新聞 2007年12月3日 東京夕刊
http://mainichi.jp/enta/travel/mitearuki/news/20071203dde007070058000c.html