「特派員すけっち:南アジア版「阪神・巨人戦」見られぬ「非常事態」----パキスタン」
パキスタンのムシャラフ大統領が11月3日に発令した非常事態宣言で、市民が怒り
心頭に発したのは、メディア規制だ。といっても、報道の自由が奪われたからではない。
同8日に開催された永遠のライバル・インドとパキスタンのクリケット戦のテレビ中継が
見られなかったためだ。
パキスタンとインドのクリケット戦は、南アジア版の「阪神・巨人戦」と言えばその
雰囲気を理解してもらえるだろう。テレビ中継が始まれば、両国民は仕事も食事も恋愛も
手がつかなくなる。
9月24日に南アフリカで行われたクリケットのワールドカップ決勝は、その両国による
因縁の対決となった。同日夕、デリー南部の電器店前には黒山の人だかりができ、
「何やってるんだ」「その調子だ」とゲキを飛ばしていた。人垣を潜り抜けると、
店の前に置かれた大型液晶テレビを前に、みな肩に力を入れて凝視している。
同じ時刻のパキスタン・イスラマバード。市中心部のマーケットにある喫茶店では、
男たちがこぶしを握り締めてテレビを見ていた。その中に毎日新聞の助手もいて、
歯を食いしばり、声援を送っていたらしい。
試合は逆転また逆転のシーソーゲームとなり、結局、インドが小差で勝利した。
インドのテレビ視聴率は47%を超えた。街中ではクラッカーが鳴り響き、マーケットの
食料品店のオヤジは、通りがかりの人に飲み物を振る舞った。オレンジ色をした
甘いジュースを受け取った私は翌朝、下痢に見舞われた
そして8日の遺恨試合。今度はパキスタンが雪辱を果たした。テレビ観戦できない国民は
仕方なく短波ラジオにかじりついて狂喜したが、世の中は事実上の戒厳令。
外で大騒ぎするわけにもいかない。家の中で家族や友人と一緒に静かに祝いあったという。
クリケットが大好きなムシャラフ大統領は、陸軍参謀長宅の衛星テレビで密かに観戦していた、
という未確認情報もある。この日だけでも、いや、クリケット戦の中継時間だけでも
政府がテレビ放送を認めていたら、大統領に対する反感も少しは和らいだはずだ、
というのが地元記者の分析だ。
引用元:毎日新聞
http://mainichi.jp/ (2007年11月12日)
http://mainichi.jp/select/world/corres/news/20071112mog00m030033000c.html