6月末にロンドンとグラスゴーで起きたテロ未遂事件は、多くの人にとって驚きだった。驚いた
理由は2つ。容疑者はみんな、無学な浮浪者ではなく、教育をしっかり受けた医療関係者だったことが
ひとつ。にもかかわらず、テロ攻撃が不様なほどの大失敗に終わったことが、もうひとつ。
しっかりした教育を受けた専門家がテロリストになる。そのこと自体はもはや驚くに値しない。
(中略)
「What Makes a Terrorist? (テロリストの作り方)」という新著を発表した米プリンストン大学の
経済学者アラン・クルーガー氏は、様々な証拠をきちんと体系的に検討して、この現象を研究。
そしてたどりついたのは、テロリストや過激主義者の多く、そして「ヘイト・クライム(不寛容な
憎悪が動機の犯罪)」の犯人の多くは、比較的裕福な家庭の出身だというも結論だった。
(中略)
2001年12月にパレスチナのガザ地区とヨルダン川西岸で実施された世論調査によると、無職の
人や労働者よりも、学生や大学教授の方が「テロは正当化できる」と答えた。さらに、テルアビブの
ナイトクラブ爆破は「テロ行為ではない」と主張するのも、学生や大学教授の方が多かった(一方で、
教育を受けて経済的にゆとりのある人の方が、穏健派になりやすいという証拠は、調査結果からは
得られなかった)。
プリンストン大の大学院生で経済学者のクロード・ベレビ氏は、パレスチナの自爆テロリスト40人に
ついて調査。その結果、平均的なパレスチナ人よりも自爆テロ犯の方が、教育レベルは高く、
経済的にも裕福だったと結論した。さらに、戦死したヒズボラ兵129人の記録を調べたところ
(ヒズボラ兵たちは必ずしもテロ攻撃に関わっていたわけではないが)、彼らヒズボラ兵も、
当時の平均的なレバノン青年よりは優れた教育を受けていたし、経済的にもいくらかはましな状態に
あった。
このほか「ヘイト・クライム」の研究からも、傍証的な情報が得られる。テロと「ヘイト・クライム」とは
共通項が多いと言われているが、この点においてもやはりテロリストと同じで、経済的な動機から
ヘイト・クライムに走ったケースというのは、あまりなかった。たとえば、米南部で黒人に対するリンチが
横行したのは、綿花価格が低迷し、経済的な困窮が予想される時期と重なっているというのが、
一昔前までの一般的な解釈だった。
しかし今となっては、黒人リンチと綿花価格の低迷を 関連づける歴史学者はいない。一般的に言うと、
経済の低迷期にヘイト・クライムが増加するというわけではないようだ(その例外として、経済学者
エミリー・ オスター氏は中世の魔女狩りを挙げる。オスター氏の研究によると、凶作になると
魔女狩りが増えるという相関があったそうだ)。
まとめて言うと、クルーガー氏の研究は、もし貧困と経済とテロリズムに何らかの相関関係が
あるのだとしたら、その相関性は一般的に考えられて いるものとは正反対だと示唆している。
なので、テロリストは足し算も出来るし、本も読めるし、薬の処方箋だって書ける。そのことに
驚いてはいけないのだ。
それよりもむしろ、ロンドンとグラスゴーの攻撃があれほどお粗末だったことの方が、驚きだった。
クロード・ベレビ氏とハーバード大の経済学者エフ ライム・ベンメレク氏は、(パレスチナのテロ
組織の人事方針(もっと響きのいい表現がみつからない)を研究した。その結果、より年長で、
より教育レベルの 高いテロリストが、より重要な自爆攻撃に選ばれ、より多くの犠牲者を出していた
ことが分かった。たとえば高校レベル以上の教育を受けている方が、逮捕・拘束を免れる確率も
高いという。
しかしロンドンやグラスゴーのテロ事件の犯人が実際に、容疑者として逮捕されている医師など
専門職の彼らなのだとしたら、高い教育を受けて長年の経験があっても、攻撃に成功するとは
限らないということになる。つまり、罪もない一般市民を爆弾テロで殺害するのは、思ったより
難しいということで、私 たちはこの結論にホッとして感謝するわけだ。
http://news.goo.ne.jp/article/ft/world/ft-20070726-01.html 【イスラム】自爆テロ正当化論が急減 米調査[07/25]
http://news21.2ch.net/test/read.cgi/news5plus/1185331298/ 【コラム】反感から絶滅へ なぜ若者は自爆テロ犯になるのか=英F.T紙 [7/11]
http://news21.2ch.net/test/read.cgi/news5plus/1184126201/