バンコクで年の瀬に起きた連続爆破テロ事件は1日午前0時(日本時間同2時)にも中心部で
2件が続き、計8カ所で3人が死亡、負傷者は外国人9人を含め39人になった。
政権幹部はタクシン前政権関係者の関与を指摘したが、具体的な証拠は示されず、動機も不明だ。
政局混迷は一層深まり、外国投資や観光産業に与える打撃は計り知れない。
昨年9月、タクシン前首相が外遊中にクーデターを決起したソンティ陸軍司令官は年末、
サウジアラビア・メッカに巡礼中だった。
イスラム教徒として初めて陸軍のトップに立った司令官は面目をつぶされた形だ。
急ぎ帰国した司令官は1日、「政治的権力を失った勢力の仕業。再発の恐れもある」と話し、
前政権の幹部4人を召喚することを明らかにした。
地元紙は、チッチャイ前副首相らの名を挙げる。
事件直後、犯人像として三つの可能性が指摘された。
(1)前政権関係者か支持者
(2)イスラム教徒が多数住み、テロが相次ぐ南部の過激派
(3)サダム・フセイン元イラク大統領の処刑などに反発した外国人グループ――。
司令官とスラユット首相はともに南部グループや外国人勢力の関与を否定。これに対し、前首相
は事件とのかかわりを全面否定する書簡を公表。
「南部の犯行とすれば政策の誤りを認めることになるため、責任を転嫁している」と反論した。
スラユット政権は発足後3カ月たつが、これといった成果を上げていない。
南部の治安が政変以前より悪化しているだけでなく、北部では学校放火が相次いでいる。
前政権の汚職追及でも起訴にこぎつけた件はない。
逆に政権の「清廉」イメージは揺らいでいる。首相には、東北部の森林保護区に別荘を不正所有
している疑惑が浮上。司令官については、複数の妻がいると報道されている。
ある外交官は「現政権の不都合を隠し、前首相派を改めて悪者に仕立てるために軍の一部などが
仕掛けたとの説も消えない」と話す。
バンコクは、東南アジアでは比較的安全な首都だった。だが1日の爆発で狙われたのは、
日系百貨店や高級ブランドショップが並ぶ銀座4丁目のような目抜き通り。
新年の催事も軒並み中止になり、人通りも少ない。
8カ所に仕掛けられた時限爆弾の威力はさほど大きくなく、狙われた交番や電話ボックスは
全壊していない。しかし、血を流した外国人が病院に搬送される場面がテレビでも繰り返し流れ、
観光に与える影響は甚大だ。
けが人が出た英国のほか、米国、豪州などは1日、「テロが続く恐れがある」として旅行自粛を
呼びかけた。日本外務省も「多数の人が集まる場所には近づかないで」と注意喚起した。
タイには昨年約1300万人の外国人客が訪れた。観光産業は国内総生産(GDP)の6%を
占める重要な収入源だ。
大手金融機関HSBC(香港)のエコノミスト、フレデリック・ニューマン氏は「外国人が
巻き添えになった初のテロ。津波やクーデターより深刻な影響を及ぼし、経済成長が鈍化
する恐れもある」と指摘する。
海外企業が政府に申請した事業投資金額は昨年、前年同期比(1〜10月)ですでに半減。
世界銀行は11月のリポートで「政治的な不確実性が投資家の信用を失わせている」と分析した。
政府は97年の通貨危機以降、外資規制を緩和し、経済成長を促してきた。
ところが現政権が再び規制強化の方針を打ち出したこともあり、海外企業の間では「何をする
かわからない政権」(大手証券会社)との警戒感も広がっている。
ニュースソース
http://www.asahi.com/international/update/0102/008.html