英民放最大手のITVをめぐり衛星放送BスカイBを率いるジェームズ・マードック氏と、
ヴァージン・グループのリチャード・ブランソン氏の間で激しい戦いが演じられている。
ブランソン氏が筆頭株主のCATV最大手、NTLによるITV買収計画に対抗し、BスカイB
がITV株式の約18%を取得する戦略に打って出たからだ。
ブランソン氏はヴァージン・グループの事業を拡大する一方で放送業界への進出をうかがって
いるとされ、今年初め、NTLの株式10・5%を取得して筆頭株主になった。
それを足場に今月9日、ITVに合併を提案、最終的には総額約47億ポンド(約1兆500億円)
の買収額を示した。
ところが、17日になってBスカイBがいきなり9億4000万ポンド(約2100億円)でITV株式の
17・9%を取得したと発表した。
ITVとNTLが合併すればBスカイBにとって強大なライバルとなるため、ITVの最大株主と
なって両者の合併交渉を阻止しようと動いたのだ。
英国では通信法でメディアの集中を避ける目的からBスカイBはITV株式の20%以上を保持
することはできない。
今回の取得はこの上限にかなり接近しているが、さらに限界まで株式の取得に乗り出す
可能性もある。
ITVの買収ではルクセンブルクの欧州民放最大手、RTLも名乗りをあげていたが、今回の
BスカイBとNTLの攻防を横目に関心は薄れつつあるともいう。
ITVとNTLが合併すれば、地上波放送からケーブルテレビ、携帯電話、インターネット、さらに
は番組制作と、幅広い事業を展開できる巨大メディア企業が誕生することになり、ブランソン氏
の野望には格好の展開といえる。
ここまでITVの買収が話題になる背景には、グループの中核であるITV1が他のチャンネルや
インターネットの人気に押され、視聴率低迷と広告収入の減少で企業体質が弱ってきている
ことがある。それでもなお英国では最大の民放でブランド力もかなりのものだ。
膨大な番組のアーカイブを持つほか、昨年は6億ポンド以上もの独自番組を制作してきた。
番組制作は英放送界ではほかには事実上、英国放送協会(BBC)しかなく、ブランソン氏に
とっても大きな魅力と思われる。
だが、BスカイBのマードック氏にはこれほどの脅威はない。
あるBスカイBの幹部は法的な検討を十分に重ねた上でITVの株式取得に乗り出したとし、
「ブランソン式の攻撃を阻止できると確信している」と語り、ブランソン氏への対抗心を露わ
にした。
ITVは21日、NTLの買収提案を「企業価値を過小評価している」として拒否した。
NTLの買収提案は1株当たり1・22ポンドに相当するが、BスカイBは1株1・35ポンドで
株式を取得しており、背後でのBスカイBの攻勢は否めない。
ブランソン氏はBスカイBの株式取得は公正な取引に反する行為だとして英当局に訴えた。
さらにNTLとして欧州の競争法などを盾に法的措置に出るとみられる。
同氏は「マードックのメディア帝国は一国の宰相も決める力がある。
その力を(英国で)さらに伸ばすことはこの国から民主主義を奪うことになる」とも主張し、
ITVをめぐり世論の後ろ盾も期待して徹底抗戦を続ける意向のようだ。
ニュースソース
http://www.business-i.jp/news/world-page/news/200611240009a.nwc