ロシア:エイズ禍で孤児が急増 感染した母親に捨てられ
エイズウイルス(HIV)の感染者が急増しているロシアで、感染した若い母親に
捨てられる孤児が大きな社会問題になっている。現状を報告する。【モスクワで山科武司】
モスクワ市北部の第7孤児院は、市内に26ある孤児施設の中で唯一、
HIVに感染した乳幼児(生後2カ月〜4歳)を受け入れている。
記者が訪れた時は57人(定員60人)が暮らしていた。うち15人がHIVに感染している。
その1人が1歳3カ月のスタス君。建物2階にあるプレールームで2人の仲間と積み木で遊んでいた。
母親はスタス君を産み落とすと、そのまま行方不明になった。名前は病院の医師らがつけたという。
HIVに感染した子どもは3カ月に1回、病院で健康診断を受ける。それ以外は
他の子どもと同じ扱いだ。「特別なことはしない。普通の生活では感染しないから」と、
ビクトル・ユーハリエビッチ医師。子どもには8〜10歳ごろ感染の事実や
気をつけるべきことを教える。「初めは『血が出るけがはしないで』から教える」という。
モスクワ東部の第2感染症病院はHIV治療の拠点病院だ。40病床の小児病棟が設けられ、
HIV感染女性から生まれた乳児のケアを行う。少なくとも週に3〜5人の乳児が送り込まれる。
子供たちの多くは出生時の体重が1800〜2000グラムの未熟児。
「母親の多くが薬物中毒で、その母親から十分な栄養が得られないためです」と小児科長の
エレーナ・フョードロブナ医師は顔を曇らせた。
小児病棟では94年からこれまで220人の乳児を孤児院に送ったという。
検査入院中のレーナちゃん(5)は、モデルになることが将来の夢。「かっこいい女の子になりたいわ」
と自慢の金髪をなでた。少し離れて本を読んでいたサーシャちゃん(6)は
「将来はお医者さんになりたい」と言うと、恥ずかしげに本で顔を隠した。
親の顔を知らない彼女たちは、自分の病気についてもまだ知らされていない。
◇2割が孤児に
国際人権団体「ヒューマン・ライツ・ウオッチ」は昨年6月、
「ロシアではHIV感染者から生まれた乳児の推定2割が孤児になった」との報告書を公表した。
ロシアのHIV感染者数は国連合同エイズ計画(UNAIDS)の推計で約94万人と、
成人人口の1.1%。このうち15歳以上の女性感染者は約21万人。2年前から30%以上増えた。
こうした感染女性から生まれ、保健所の監督下にある乳児は1万4800人余(今年6月末)とされる。
国際NGO「AIDS基金ボストーク・ザーパド」の世論調査(昨年3月)によると、
「HIV感染者への接し方」では「接触をできるだけ避ける」が48.9%で「普通に接する」
(45.1%)を上回った。「自分の子どもが通う学校や幼稚園に感染児童がいた場合」も
「自分の子どもを別の学校に移す」が47.8%を占めた。
同基金のエカテリーナ・ミリティスカヤ広報担当は
「感染女性が子供を捨てる背景にはこうした社会的偏見がある」と指摘した。
毎日新聞 2006年10月27日 18時05分
http://www.mainichi-msn.co.jp/kokusai/mideast/news/20061028k0000m030019000c.html