1 :
名も無き被検体774号+:
中2病全開の文章ワロスwwww
ちなみに途中で終わってる。
そんなに長くはない小説。
2 :
名も無き被検体774号+:2012/09/02(日) 00:47:28.45 ID:AHbovy6e0
読もうじゃないか
3 :
名も無き被検体774号+:2012/09/02(日) 00:48:17.83 ID:EJ7Mm0Yh0
「ホミーン、ただいま!」
サキの声が家響いた。もうサキが学校から帰ってくる時間なのか、うっかり昼寝してしまった。
廊下をドタドタと走る音が聞こえる。リビングに向かってきている。
「ただいま!」
制服姿のサキがドアを勢いよく開けた。ホミンはソファから起き上がった。
「寝てたの?」
「うん…」
まだ眠い。
「ホミン、今日ね、帰りにね、こんなチラシ配ってたよ!」
サキがチラシをポケットから取り出して、ホミンに手渡した。
4 :
名も無き被検体774号+:2012/09/02(日) 00:49:08.42 ID:EJ7Mm0Yh0
〜ロボット精密検査ご案内〜
最近、ロボットの調子がおかしいなど何か異常を感じていませんか?
8月30日(日)にフィラレル市民総合病院にて精密検査を受け付けています。
・・・・
「ちゃんと精密検査してもらえば、きっと記憶を取り戻せるよ!」
「うん…、そうだね」
ホミンには記憶が無かった。
3日前、サキの家の前で倒れているのを保護されたそうである。
名前はサキが勝手につけた名前で、ホミン自身、自分の本当の名前すら覚えていなかった。
5 :
名も無き被検体774号+:2012/09/02(日) 00:50:03.93 ID:EJ7Mm0Yh0
「3日も経ったのに…まだ記憶戻んないんでしょ?」
「うん、全く」
「だったらやっぱり、精密検査しかないよ。これなら絶対記憶を取り戻せるよ」
「うん」
精密検査か…。ホミンはそのチラシをまた眺めた
「さっそくムドさんに言ってみようよ。…あれ、ムドさんは?」
ムドとはサキの保護者である。サキの里親である。
「あ、買い物に行くとか言ってた。もう戻ってくると思うよ」
「そっか。あ〜でも良かった。これでホミンの記憶が戻るね」
サキが小さい体のホミンに抱きついて頭を撫でてきた。
ちょっと汗の匂いがした。
連続投稿したら途中で書き込めなくおそれあり
6 :
名も無き被検体774号+:2012/09/02(日) 00:51:00.26 ID:EJ7Mm0Yh0
「ただいま〜」
ムドが帰ってきた。
「あ、おかえり〜」
サキとホミンが返事をする。
「二人仲良くテレビを見ているのか」
リビングに入ってきたムドは、買い物袋を机に置いた。
ソファーに座ってテレビを見ていたサキは立ち上がって、その買い物袋の中身を見た。
「あ!レモンがないじゃん!」
最近、サキはハチミツレモンを作ることにハマっている。
「買い忘れた、すまん」
「えー!」
サキは再びホミンの隣に座った。ホミンが来てから、ソファーで2人で並んでテレビを見るのが楽しかった。
サキにとって可愛い弟ができた感じだった。
はよ書けks
8 :
名も無き被検体774号+:2012/09/02(日) 00:51:55.42 ID:EJ7Mm0Yh0
「もしかして今日の夕飯ってスパゲッティー?」
サキが台所で夕飯の支度をしているムドに聞く。
「そうだ」
「やっぱり。買い物袋にスパゲッティーの麺が入ってたもん。…あ、そうだ、ムドさん、ホミンのことなんだけど」
「ん?」
「日曜に総合病院でロボットの精密検査を受け付けるらしいよ」
「お、そうか。それはちょうどいい。是非行こう」
この地域にはロボットの検査などを取り扱う専門機関がなかった。
たまに総合病院などで中央から専門医や検査用の機械が来て受診者を募っている。
「そしたらホミンの記憶戻る?」
「戻るさ、きっと」
ムドは微笑んで言った。
9 :
名も無き被検体774号+:2012/09/02(日) 00:52:50.39 ID:EJ7Mm0Yh0
翌朝。ホミンは目覚ましのけたたましい音で目が覚めた。
「サキ姉ちゃん、起きて、また遅刻するよ」
ホミンは隣に寝ているサキを揺すった。ホミンはサキと同じベッドに寝ている。
「起きて〜〜」
もう一度揺すった。サキがう〜んと声をあげた。
ホミンはベッドから降りた。料理の匂いがする。
ムドが既に朝ごはんを用意しているのだろう。
1階に降りてリビングに行くと、案の定ムドが台所で朝ごはんをつくっているのが見えた。
「起きたか」
ムドがホミンに気付く。
「おはようございます」
ホミンはペコリと頭を下げて挨拶した。
「サキは、まだ寝てるかな」
「あ、はい」
仕方ないのう…とムドは呟いた。
10 :
名も無き被検体774号+:2012/09/02(日) 00:53:35.95 ID:EJ7Mm0Yh0
ホミンは席についてテレビをつけた。物騒なニュースをしていた。
ニュースに出ている地名には知っているものと知らないものがあった。
記憶を失くしたとはいえ、こういう部分は覚えているらしい。
知っている地名は、もしかしたら記憶を失くす前の自分と関係があるのかもしれない、とは思ったが、
知っている地名があまりにも多かったので、これをバネに記憶を取り戻すのは不可能に感ぜられた。
でもテレビ番組自体、そんなに見覚えがあるというわけではなかった。
初めて見た気もするし、前から見ていたような気もする。
あれこれ考えていると、目の前に朝食が置かれた。
11 :
名も無き被検体774号+:2012/09/02(日) 00:54:21.74 ID:EJ7Mm0Yh0
「ニュースは、好きかい」
ムドが問いかける。ムドはホミンの向かい側の席に座った。
「え、あ、どうでしょう」
考え事をしていたのを、ニュースに熱中していたものと勘違いされたらしい。
弁明するのも面倒なので、ホミンはその場を濁した。
「君は子供型のロボットだが、知能だけは大人並と見えるね」
「そうでしょうか」
「たぶんそうだろう。サキはもう13歳になるが、まだアニメぐらいしか見ないからのう」
「あははは」
子供型につくられて知能が大人並だったら、子供型につくる意味がないような気がするような。
12 :
名も無き被検体774号+:2012/09/02(日) 00:55:10.50 ID:EJ7Mm0Yh0
「いい加減そろそろサキを起こさにゃいけんな…」
ムドが立ち上がる。
「あ、私が行きます」
―…私?ホミンは自分で言った一人称に対して一瞬戸惑った。
そういえば一人称を使ったのは今日が初めてだった。ホミンの戸惑いにムドはすぐに気付いた。
「もしかして女の子用に作られたのかもしれないね」
ホミンの外見は男女の区別がつかないような、中性的な子供型ロボットだった。
「う〜ん…どうなんでしょう」
「まぁ、明日病院に行けば分かるさ。…じゃ、起こすの頼むよ」
「あ、はい」
ホミンは2階にあがってサキを起こした。
13 :
名も無き被検体774号+:2012/09/02(日) 00:55:50.90 ID:EJ7Mm0Yh0
サキが家を出たのは午前7時32分だった。
サキが家から飛び出た後、ムドがポツリと「アウトだな」と言った。
ムド曰く、この家からどんなに走っても7時30分までには出発しないと学校に間に合わないらしい。
サキが出て行ったら急に静かになった。ムドとホミンは一緒に皿洗いをした。
「今日は街に行ってみるかい」
「え、何か買い物ですか」
「明日の受診の予約をしないとね」
「なるほど」
「じゃ、8時20分には家を出よう」
ムドは時間にシビアだ。
14 :
名も無き被検体774号+:2012/09/02(日) 00:56:36.26 ID:EJ7Mm0Yh0
結局、出発したのは8時13分だった。
ムド曰く、早いことに越したことはないらしい。遅れるのは罪だが、早いのは善だ。早い(速い)のが悪いのは車ぐらいだ、と。
そんな説法じみたことを聞かされながら、ホミンは電車でウトウトと眠りかけていた。
電車は冷房が効いていて快適だ。まだ朝とはいえ、この地域は非常に暑い。
ここフィラレル市の人口は約2万人。人口が少ないうえに山間部に位置しているので、かなりの田舎だ。
市内中心部の街は、そこそこ都会の隣町のおかげでそれなりに都会的な風景が広がっている。
明日、ホミンが受診するフィラレル市民総合病院もその地域にある。
15 :
名も無き被検体774号+:2012/09/02(日) 00:57:45.45 ID:EJ7Mm0Yh0
フィラレル駅を降りて真っ直ぐ15分歩くと、総合病院があった。
院内は近代的な設備を備えていて、非常に清潔感を感じられた。
ロボット専門科がないのは残念だが、近いうちにできるという。
2人は受付に行って、精密検査の件について尋ねると、何か色々な書類を渡された。
「えっとですね、ここに製造年月日と、製造工場、型、所有者氏名住所、そしてここには…」
「え」
ムドとホミンは同時に声をあげた。受付の看護師は目を丸くした。
「あれ…えっと、どうかされました…?」
「いや、その、何もないです」
ムドが返事をした。
「あ、はい…。そしてここにはですね、異常とか症状などをお書き下さい。あとここには、以前の故障などをですね、覚えている限りお書き下さい」
「はい、わかりました」
ムドが書類を受け取り、2人は近くのベンチに座った。
16 :
名も無き被検体774号+:2012/09/02(日) 00:58:38.46 ID:EJ7Mm0Yh0
「症状の欄に、記憶喪失って書けばいいか」
ムドが症状の欄にペンを走らせた。
「しつこいようだが、どこで製造されたとか、何も覚えてないんだね?」
「はい…全く」
ちょっとバツが悪かった。
一通り書き終えて、再びさっきの看護師に書類を提出した。
漏れなく記載されているかを手際良く確認する看護師であったが、
「記憶喪失」の欄を見てパタリと手を止めた。
「あ、すいません、おかげで製造年月日とかもわからないもんで…」
ムドが補足するように言った。
17 :
名も無き被検体774号+:2012/09/02(日) 00:58:44.24 ID:7ofEVYhr0
支援
18 :
名も無き被検体774号+:2012/09/02(日) 00:59:16.02 ID:EJ7Mm0Yh0
「あ〜そうですか…。あの、製造年月日は正確でなくてもいいんで、大体のものでいいんで…」
「え〜っと、それも分かんなくてですね…」
「そ、そうなんですか。AR識別カードとかは今日はお持ちですか?」
「え、いや、ないです」
「そうですか〜…。まぁ、わかりました」
「はい、すいません」
「え〜っと、あと所有者氏名などにもご記入を…」
「すいません、僕はこの子の所有者じゃないんで何とも…」
「は、はい?」
ムドは事情を全て話した。
19 :
名も無き被検体774号+:2012/09/02(日) 01:00:08.64 ID:EJ7Mm0Yh0
「そうですか〜…。ちょっとそれは困りますね〜…。つまり保険証とかもないわけで?」
「はい…」
「そうしますとですね、かなり費用が高くなりますが…」
「どれぐらいでしょうか」
「記憶喪失ということですから、チップから調べることになりますので…そうですね、大体50万ユピかかりますね〜…」
「そ、そうですか、まぁ大丈夫です」
「はい、わかりました。まぁそういうことで受理しておきますね」
看護師は書類にハンコを押した。
「それとこれは当日の診療カードになります。番号が15番ですね。
午前10時半が予約時間ですので、それを過ぎますと一番最後の順番からとなりますのでご注意下さい。
状況によっては予約時間より遅れることもございますし、早くなることもございますのでご了承ください…」
「はい、ありがとうございます」
ムドとホミンは礼を言って病院を後にした。
20 :
名も無き被検体774号+:2012/09/02(日) 01:01:08.70 ID:EJ7Mm0Yh0
外は暑かった。電光掲示板を見ると、10時前にも関わらず、今の気温は32度らしい。
「暑いね」
ムドがハンカチで額を吹く。
ムドの口周りにある白ひげが余計暑さを増長させているように見える。
「ちょっとどこかで紅茶でも飲もうか」
「あ、はい」
2人は駅前の喫茶店に入った。
喫茶店は病院よりも涼しかった。適当な席に座ると、間もなく従業員が来た。
「アイスコーヒを1つ。ホミンは何がいいかね」
「えっと…」
ホミンはあわててメニューを見た。
「カフェオレをお願いします」
「かしこまりました」
そう言って、従業員はメニューの確認をした後、去って行った。
メニューでカフェオレという文字を見たわけではないが、
とりあえず早く何か頼まなければと思って、ついオーダーしてしまった。
なんでカフェオレなんだろう。今改めて見ると、アイスが食べたくなった。
21 :
名も無き被検体774号+:2012/09/02(日) 01:01:54.60 ID:EJ7Mm0Yh0
「メニューにも興味があるのかね」
ムドがホミンに話しかけた。
メニューを見て後悔していたのをそのように勘違いされたらしい。
弁明するのも面倒なので、また適当に濁した。
「文字は読めるんだね」
「あ、そうですね」
気付かなかった。
「そのメニューを見て、どういう飲み物かは分かるのかい」
「ええ、はい、大体は分かります」
「そうか。そういう生活に直結するような記憶はあるんだね」
「はい」
「…記憶が戻ったら、元の家に帰るのかね」
「え、あ、はい、そのつもりです」
元の家、か。そうか、元の家があるのか、と思うと不思議だった。
22 :
名も無き被検体774号+:2012/09/02(日) 01:03:00.89 ID:EJ7Mm0Yh0
「子供型のロボットなら、きっと子供のできなかった夫婦の家か、もしくは一人っ子の家庭だろうね」
「そうですね」
「行方不明なんだから、捜索願が出されていても不思議じゃないんだが、
新聞でもテレビでも全く報道されてないのう。まぁ、行方不明ぐらいなら報道しないかもしれんが」
「うーん」
「元の家に戻るとなると、サキが寂しがるのう」
「え?」
「弟ができたかのように喜んでいたから、きっと悲しむ」
「あぁ…そうですか」
そう言われてみると、何だかこっちも寂しくなってきた。
まだ3日の付き合いなのに。
23 :
名も無き被検体774号+:2012/09/02(日) 01:04:07.02 ID:EJ7Mm0Yh0
「でもまぁ、元の家の人たちは、今必死で君を探しているだろうしな」
さっきの従業員が来て、注文した飲み物を置いた。いい香りだ。
「こんな暑い時にカフェオレだなんて、モノ好きだな」
ムドはアイスコーヒーをかき混ぜながら言った。
「え、あ、はい」
別に好きで頼んだわけでもない。
でもカフェオレを頼んで正解だった。店内の冷房がガンガンきいていて、ちょっと寒かったからちょうど良かった。
「あの…費用は大丈夫ですか」
ホミンはそれとなくさっきのことを尋ねた。
「ん、あぁ、大丈夫だよ。君が心配する必要はない」
「きっと返します」
「いやいや、その必要はないよ」
「いえいえいえ…」
「ちゃんとしてる子だなぁ。外見は小学生ぐらいの子供なのに、口調や性格はわしと同年代だ」
「あははは、ありがとうございます」
2人はこの後30分ほど会話を続けた。
24 :
名も無き被検体774号+:2012/09/02(日) 01:05:10.78 ID:7ofEVYhr0
vip+の連投規制は何レスだっけ?
まあ適当に支援を入れてく
25 :
名も無き被検体774号+:2012/09/02(日) 01:05:43.91 ID:EJ7Mm0Yh0
「ただいま〜」
サキの帰ってくる声がした。
ムドとホミンはテレビを見ていた。
「サキ姉ちゃんお帰り」
サキがリビングに入ってきた。汗びっしょりになっている。
「あ〜〜この部屋涼し〜〜…」
サキが両手で顔を煽ぐ。煽ごうが煽ぎまいが変わらないと思うが。
「そうか、今日は土曜だから早いのか」
ムドは時計を見ながら言った。現在午後1時20分。
「何見てんの?」
サキが近寄ってくる。
今日は汗の匂いではなく、制汗剤の匂いがした。
26 :
名も無き被検体774号+:2012/09/02(日) 01:06:52.73 ID:EJ7Mm0Yh0
>>24 ありがとう。よんでくれてる人おるかなw つまらん文章だけど…。
「ニュースだよ」
「な〜んだ。『ひるにゅー』か〜。ほかの番組ないの?」
「あるけど、つまんないよ」
「サキは少しはホミンを見習ってニュースを見たらどうだい」
「えー、ニュースなんてつまんないよ」
「社会を知ることは大事だ」
「社会を知らないから見たって何もならないじゃん」
「知ろうとせんか」
「はいはーい」
そう言ってサキは2階の自分の部屋に行った。着替えたりするのだろう。
27 :
名も無き被検体774号+:2012/09/02(日) 01:07:47.77 ID:EJ7Mm0Yh0
「全く本当に困ったのう…」
ムドが呟く。
「ムドさん、教育には厳しいですか」
ホミンがにやりとしながら聞く。
「まぁな」
「サキ姉ちゃんが好きなんですね」
「ん」
ムドはそう言って言葉を濁した。
カタブツそうに見えても、かわいいところがあるのだな。
28 :
名も無き被検体774号+:2012/09/02(日) 01:08:53.32 ID:EJ7Mm0Yh0
翌朝、再びけたたましい目覚ましの音で起こされた。
どうせ平日も目覚ましでは起きないのだから、サキにとって日曜に目覚ましをつけていても問題はないのだろう。
ホミンはベッドから降りた。
今日は料理の匂いはしなかった。さすがに日曜はムドも早起きはしないらしい。
ホミンは1階へ静かに降りた。音をたてるとムドを起こしてしまうかもしれない。
しかしその心配は杞憂だった。
既にムドはイスに座ってテレビをつけていた。
「早いね」
リビングのドアを開けるや否や、ムドはこちらを向かずに挨拶した。
「おはようございます」
「今日もサキの目覚ましで起こされたのかい」
「え、あ、まぁ」
お見通しのようだ。
あの目覚ましはここ1階にも聞こえるのだろう。
29 :
名も無き被検体774号+:2012/09/02(日) 01:09:51.52 ID:EJ7Mm0Yh0
「わしもさっき起きたばっかりだ。朝食は今から作るよ」
「あ、いや、別にお気遣いなく」
「いやいや、わしはもう腹が減ってたから」
ムドは立ち上がって台所へ向かった。
「手伝いましょうか」
ホミンも台所に向かった。
「ん、そうだね、卵を割ってもらおうかな。2つ。冷蔵庫にあるから」
「分かりました」
ホミンは冷蔵庫を開けて卵を取り出した。
皿に入れてかき混ぜると、ふとあることを思い出した。
そういえば自分は甘い卵焼きが好きだった。
ホミンは手を止めた。今集中すれば、これに続いて他の記憶も取り戻せそうだった。
しかし無駄だった。
30 :
名も無き被検体774号+:2012/09/02(日) 01:10:38.96 ID:EJ7Mm0Yh0
「どうかしたのかい?」
ムドが心配そうにこっちを見ていた。
「あ、いや、すいません」
「どこか具合が悪いのかい」
「いえ、ちょっとあることを思い出しまして…」
「お、何か思い出したことがあるのか」
「はい、でも大したことじゃないです。確か僕は甘い卵焼きが好きでした」
―…僕?再び自分が使った一人称に疑問を感じた。
ムドもまた感づいたようだ。
「どうも定まらないね。私といったり僕といったり。まぁ、今日の昼には明らかになるだろう」
「はい・・」
「甘い卵焼きか。よし、それをつくろう」
ムドは砂糖を卵の入った皿の中に砂糖をかなり入れた。
「これでも調理師免許を持っているんだよ」
ムドが誇らしげに言った。
31 :
名も無き被検体774号+:2012/09/02(日) 01:11:48.67 ID:EJ7Mm0Yh0
朝食を終えたのは7時20分だった。
ホミンは昨日や一昨日よりもゆっくり食べた。
今日がここで食べる最後の食事だと思うとなんだか切ない。
「ごちそうさまでした」
あぁ、これで終わった…とホミンは思った。
ムドは既に食べ終えて、台所で皿洗いをしている。
ホミンは皿を台所に持って行った。
「8時20分には出発するよ。まだ時間はあるからそう急がなくてもいいけど」
ムドはホミンの皿を受け取って言った。
「しかしサキは起きるのが遅いな。今日が最後だっていうのに」
「昨日は夜遅くまで一緒に遊びましたからね」
昨日はトランプゲームしたり、ゲームをしたりした。
「遊びだけは熱心だからのう…あと寝ることにも」
「あははは。起こしてきますね」
「いや、もう寝ているうちに出発したほうがよかろう。
検査が終わったら、そのまま元の家のところに行くのは良かろう。早く帰って安心させてあげたほうがいい」
「…そうですか」
あと数時間もすれば、自分はこの家に居場所がなくなる…そんな気がした。
同時に、この家より居心地のいい場所があるのかと思うと、なんだか嬉しくもあった。
でもやっぱり寂しさのほうが大きかった。
32 :
名も無き被検体774号+:2012/09/02(日) 01:12:43.89 ID:7ofEVYhr0
支援
33 :
名も無き被検体774号+:2012/09/02(日) 01:12:52.31 ID:EJ7Mm0Yh0
「別れはぐずぐずしてたらいかん。何も考えず、さっと別れるのが一番なんだよ」
ムドの発言は意味深に聞こえたが、
質問するのは何となく憚れた。
ホミンは2階の部屋に行った。
サキはまだ寝ていた。
本当に短い付き合いだったのに、これで別れるんだと思うと悲しかった。
ホミンは必要な服だけを持って、部屋をあとにした。
ホミンの服はムドが買ってきてくれた普通の子供用の服と、倒れていた時に着ていた服だった。
今日はその倒れていた時に身につけていた服を着た。男の子とも女の子ともとれるような服だった。
出発したのは8時7分だった。改めてこの家をホミンは見た。
34 :
名も無き被検体774号+:2012/09/02(日) 01:13:54.40 ID:EJ7Mm0Yh0
既に病院にはロボットとその所有者、所有者家族と見られる人たちが何人かいた。
ムドとホミンは近くの受付近くのベンチに腰かけた。
ホミンの隣には同じ年齢くらいの人間の男の子がいた。
「ねーねー、リヨン治るかなー」
男の子は隣にいる母親らしき女性に話しかけた。
「治るわ。大したことないもの」
女性は男の子の頭を撫でた。
「君もああいう家庭にいたのかもしれんな」
ムドが呟いた。そうかもしれない。
「受付番号7番の方―…。検査が終了致しましたので2番検査室へお願いします…」
看護師の声と共に、その女性と男の子は立ち上がった。
検査終了後は、専門医からきちんとした説明がある。
男の子は今にも泣きそうな顔をして、女性の服を引っ張りながら診療室へ入って行った。
35 :
名も無き被検体774号+:2012/09/02(日) 01:15:13.73 ID:EJ7Mm0Yh0
「受付番号10番の方、検査室3へお願いします」
ホミンは自分の受付番号を確認した。
15番だ。まだ少し時間はありそうだ。
ホミンが呼ばれたのはその40分後の10時20分だった。予定時間より10分早い。
看護師に連れられて、検査室1とかかれた部屋にホミン1人連れてかれた。
検査室には大きな装置1つと、イスが2つ置いてあった。机とパソコンがその隣にあった。1つのイスには既に医者が座っていた。
「どうぞ、腰掛けて」
医者が座るよう促した。
昨日書いた書類に簡単に目を通している。
「う―ん、記憶喪失ねぇ。そりゃぁ大変だったろうに」
他人ごとのように同情を感じさせないような言い方だった。
まぁ実際他人ごとなんだが。
36 :
名も無き被検体774号+:2012/09/02(日) 01:16:10.17 ID:EJ7Mm0Yh0
「本当に何も思い出せないのかい」
医者がこっちを向いて聞いていた。
目だけは生き生きとしていた。
好奇心からくるのか元々なのかは分からない。
ちょっと薄気味悪い医者だなと思った。変な科学者を連想させる。
「はぁ…。何もと言えば、何もですが…」
「ほう。何か思い出せたことがあるのかね」
「大したことじゃないんですけど…」
「まぁいい、言ってごらん」
「はぁ…。確か僕は卵焼きが好きだったんです、甘い卵焼き」
医者が目を丸くさせる。
医者はすぐに視線を書類のほうにうつした。明らかに笑いを隠すためだった。
「ほ、ほう、そうかそうか。うん、何も思い出さんよりはマシだ、うん」
近くにいる看護師も少し笑っていた。
37 :
名も無き被検体774号+:2012/09/02(日) 01:17:17.79 ID:EJ7Mm0Yh0
「じゃぁとりあえず、あっこに横になってもらおうかね。
全身をスキャンして、まずは異常がないかだけをおおまかに見てみよう。なに、すぐ終わる」
看護師に連れられて、MRIのような装置に横になった。
すぐに装置が音をたてて動き出した。医者も不気味だったが、この装置も不気味だった。
スキャンが終わると、医者は机に置いてあるパソコンを見ていた。
パソコンにはホミンのスキャン画像が写し出されていた。
ホミンはさっきのイスに座った。医者は熱心に画面を見ている。
「ありゃ―…」
医者が呟いた。驚きの声だったが、ワクワク感のある声でもあった。
これも医者の患者に対する好奇心からきてるのかもしれない。本当に気味が悪い。
しばらくして、医者はホミンのほうに向きなおした。
「残念だが、うちじゃあ治せんな、君は」
38 :
名も無き被検体774号+:2012/09/02(日) 01:18:29.32 ID:EJ7Mm0Yh0
「え」
「所有者…はいないのか、保護者はいるのかい、病院に」
「あ、はい」
「君、呼んできたまえ」
看護師に指示する。
ムドが検査室に入ってきた。
医者はイスが足りないことに気付き、自分のイスに座るように促した。
ムドはすいませんと言ってそのイスに座った。
医者はパソコンにさっきのスキャン画像を大きく写し出した。
「これがホミンくんのスキャン画像です」
「は、はぁ」
そんなこと言われても、という感じの返事だった。
「私もこういう型を見るのは初めてでしてね…」
だから好奇心にあふれていたのか。
「え、ではここでは治せないってことですか」
ムドが心配そうに尋ねた。
39 :
名も無き被検体774号+:2012/09/02(日) 01:18:49.80 ID:7ofEVYhr0
支援
40 :
名も無き被検体774号+:2012/09/02(日) 01:19:23.34 ID:EJ7Mm0Yh0
「まぁ…そうですな、治せませんな」
「どこなら治せるんでしょう」
「そりゃぁ、ホミンくんの製造された国に行かにゃぁ無理でしょう」
「製造された国?」
ムドとホミンは目を合わせた。
「あの、もしかして外国ですか」
ムドはさらに尋ねた。
「ええ、外国ですよ。トルン帝国で製造されたロボットですから、ここじゃぁ治せませんなぁ」
ホミンはその国の名前にとても聞き覚えがあった。
やはり製造された国のことを一番覚えているのだろうか。
「しかしまぁ、このご時世にトルン産のロボットとなると厄介ですな」
医者がパソコンを見ながらため息を漏らした。
41 :
名も無き被検体774号+:2012/09/02(日) 01:20:17.62 ID:EJ7Mm0Yh0
「どうしたら、いいんでしょう」
「さぁ…。それは私の管轄外ですな。とりあえず、さっさとお国に返したほうがいいでしょう」
「でも半年前からトルンへは飛行機もフェリーも運航していないんでは」
「してないですな。泳いでいくしかありませんな」
冗談を言ったのだろうか。だとしたら場に合わぬ冗談だった。
「とりあえずリヒル市の外交通商局のほうに行けば、送還という形で送ってくれるんじゃないでしょうかね」
「そうですか…」
「間違っても警察関係の部署には、やらんようにしてくださいよ。スパイ容疑かなんかで逮捕されてひどい目に遭いますよ」
「はぁ…。分かりました。ありがとうございます」
ムドが頭を下げたので、ホミンを頭を下げた。
2人は検査室を後にした。
42 :
名も無き被検体774号+:2012/09/02(日) 01:21:22.48 ID:EJ7Mm0Yh0
昨日行った喫茶店に、ムドとホミンは行った。
昨日と同じように、ムドはアイスコーヒー、ホミンはカフェオレを頼んだ。
やはりこの喫茶店は冷房が効き過ぎて寒い。
「まさかトルンで製造されたとはな…」
ムドが呟いた。
「そんなに、大変なことなんでしょうか」
「話したら長くなるが…数年前からトルン帝国とは関係が悪くなってね。
半年前には相互国民の行き来を禁止している。
ユウダに前から住んでるトルン人も、順次、トルンのほうに帰るようになってる」
ユウダという名前にも聞き覚えがあった。この国の名前か。
となると、自分はトルンからわざわざ敵国のユウダに来たわけなのか。
43 :
名も無き被検体774号+:2012/09/02(日) 01:23:17.19 ID:EJ7Mm0Yh0
「強制的に帰されるんですか」
「一応、自由だ。だがそのうちまた戦争も始まるだろうしな」
また、ということは、前も戦争をしていたのだろうか。
「でもまだ、ユウダにはトルン人は住んでいるんですよね」
「まぁ、住んでることには住んでるが、どんどん帰国している。
あの医者が言ったように、近くの外交通商局に行って帰国を希望すれば、本部の外交通商省がトルンへ帰国させてくれる」
「帰国しなかったら、どうなるんです」
「さぁ…。前は収容所にいれられて強制労働させられたり、強制送還させられたりとかだったが」
「そうですか…」
「もういつ戦争が始まってもおかしくないから、早く帰国して、元の家族のところに帰ったほうがいい」
「はい…」
机に飲み物が置かれた。
なんだか大変なことになってしまった。
沈黙が続いた。
44 :
名も無き被検体774号+:2012/09/02(日) 01:24:05.95 ID:EJ7Mm0Yh0
「前の戦争は、確か15年前にあったかのう…」
ムドが思い出すように言った。
「戦争が終わったのはその2年後だった。わしは戦場で働いていたんだよ」
「え、そうなんですか」
「わしは体力がなかったから、軍医だったがな。兵隊の食事とかをつくったりもしてた」
そういえば調理師免許があるとか言ってた。
「復員(戦地から国へ帰ること)してからは、職もないから適当にブラブラして過ごしていた」
「前は何か職業をされてたんですか」
「教師をしていた」
だから教育熱心なのか。
「教師には戻れなかったんですか」
「うむ…」
これも何か訳があるのだろう。
訳を聞くのはやめておいたほうがいいな、と思った。
45 :
名も無き被検体774号+:2012/09/02(日) 01:25:05.31 ID:EJ7Mm0Yh0
「ある冬の日に、家の前で赤ちゃんの泣き声が聞こえたんだ」
話をそらすかのように、ムドは話題を転換させた。
「外に出ると、四角い箱が庭に置いてあってね。箱には毛布にくるまれた赤ちゃんがいたよ。それがサキだ」
「そうなんですか」
「戦争で家や財産を失くしたり、夫を亡くしたりして、経済的にも厳しくなった母親が、どっかに子供を預けることが当時はよくあったよ。
孤児院にやるという方法もあったが、孤児院は環境が悪くてね。食べ物もロクになかった時代だったから、孤児院にいる子供はみんなガリガリだった。
そんなとこに我が子を預けたくなかったんだろう」
ホミンは窓の外を見た。今こそ近代的な風景を見せているが、つい十数年前は廃墟同然だったのだろうか。
「そこへまた、君が家の庭に倒れていたからね。これはきっと、何かの縁だろうね」
46 :
名も無き被検体774号+:2012/09/02(日) 01:25:52.69 ID:EJ7Mm0Yh0
ホミンがトルンで製造されたことを聞いて、サキは驚きを隠せなかった。
「ホミンが、え、嘘!?」
「あまり驚くと、ホミンが傷つく」
「あ、ごめん…」
サキは黙って夕食を食べ始めた。
「近いうちにも、ホミンをトルンに帰国させにゃいかん」
「近いうちって…どれくらい?」
「2日後か…3日後かのう」
「じゃぁ、3日しかホミンと一緒にいれないの?」
「まぁ、そうだな。本当は今日でお別れのはずだったんだが」
「そんな…」
「そんなって、サキは今朝ぐっすり寝ていただろう」
「別に今日別れても、またすぐ会えるって思ったから…」
「トルンとなると、もう会えないだろうな」
一気に空気が重くなった。テレビの音だけが部屋に響いていた。
47 :
名も無き被検体774号+:2012/09/02(日) 01:26:51.10 ID:7ofEVYhr0
支援
48 :
名も無き被検体774号+:2012/09/02(日) 01:27:06.38 ID:EJ7Mm0Yh0
夜。ホミンはサキの寝息を聞きながら目をつぶっていた。寝ようにも寝られなかった。
とりあえず自分の存在が、この国にとっては邪魔であると思うと、何だか切なかった。
敵国のロボットなのに、ムドとサキは変わらず接してくれて良かった。別れるときはちゃんと感謝しないといけない。
外で男が何やら大声を出しているのが聞こえた。ドアを叩く音も聞こえる。
「ここにも反応があるぞ!」
この家のドアをドンドンと叩く音がした。何事だろう。ホミンは起き上がって窓を見た。
ここからは庭の様子が見えるが、暗くてよく分からない。庭には5人の人がいた。道路にも行きかう人の姿も確認できた。
再びドアを叩く音がした。はいはい、開けますよ、という声がした。ムドだ。
ホミンは窓からじっと目を離さずにいた。
5人の男はドタドタと家の中に入り込んだ。ムドが驚いて何事だと叫ぶのが聞こえた。
49 :
名も無き被検体774号+:2012/09/02(日) 01:28:08.65 ID:EJ7Mm0Yh0
階段を上がってくる音が聞こえた。何か機械音のような音もする。
バンッとドアが開いて、部屋に2人の男の人が入ってきた。
「いたぞ!ここだ!」
後ろにいた1人が1階に向かって叫び、他の3人があがってきた。
ムドも階段をあがってきたようだが、阻止されたのか姿は見えず、やめろ!という声だけがした。
サキがこの騒ぎに目を覚まして起き上がった。
部屋の灯りがついた。目がくらむ。
「トルン産のロボット1体確認」
1人の男がトランシーバーのようなものに言った。5人は全員軍服や警官の服装だった。
「強制収容所で連行する」
さっきの男がそう告げて、他の兵隊や警官がホミンを捕まえた。
「え、え、なんですか」
ホミンの抵抗もむなしく、両手に手錠がかけられた。サキの叫ぶ声が聞こえた。
50 :
名も無き被検体774号+:2012/09/02(日) 01:29:06.94 ID:EJ7Mm0Yh0
「さあ来い!」
ホミンは引っ張られてこけそうになった。
ホミンになにするの!というサキの声が聞こえた。
振り返ろうとしたが後ろに兵隊がいたのでサキの姿を見ることはできなかった。
「あ、ムドさん…」
階段を降りようとすると、ムドの姿が見えた。頭から血が出ている。
「れ、連行って…」
「大丈夫、きっと大丈夫だ」
ムドはそう言った。
ホミンはそのまま外に連れ出された。サキの泣き叫ぶ声が聞こえる。
「あ、あの、どこに行くんです、こんな夜中に」
ホミンは右にいる警官を見て尋ねた。
「黙ってついてくればいいんだ、喋るな」
51 :
名も無き被検体774号+:2012/09/02(日) 01:30:28.71 ID:EJ7Mm0Yh0
しばらく歩いていると、ホミンと同じように手錠をかけられた男性が前方に見えた。
どうやら同じ方向に向かって歩いているらしい。
ホミンを呼ぶ声がした。あの声はサキだ。
追いかけてきたのだろうか。振り返ろうとしても、やはり後ろに兵隊がいるので見えない。
近くを歩いていた他の警官が邪魔するなと怒鳴る。サキの泣く声が聞こえる。
次はムドが警官に何かを話しているような声が聞こえた。
ホミンは目をつぶって、歩いて行った。
たどり着いたのは駅だった。駅には軍のトラックがあり、そこには既に数名の人たちが乗せられていた。
ホミンはどうやら最後だったようで、乗せられたと同時に車は出発した。
隣にはさっき前方に見えた男性がいた。20代ぐらいの青年だった。
「お前も、トルン出身か」
青年がホミンに尋ねてきた。
52 :
名も無き被検体774号+:2012/09/02(日) 01:31:58.99 ID:EJ7Mm0Yh0
「あ、はい」
「そうか、こんな子供まで収容所にいれるなんてひどいもんだな…」
ロボットであることに気付いていないらしい。
「兄ちゃんはどこの出身だい」
車内で一番年をとっていそうなおじいさんが青年に尋ねた。
「ルーエンです」
聞き覚えがあった。
「ほー、首都か。わしもだよ。ルーエンのどこだい」
「西区です」
「ほうほう。わしは隣の北ルーエン区だよ。…ボクはどっから来たんだい」
おじいさんがホミンに質問してきた。
「え、あ、えっと…」
「あれ、パパとママはいないのか」
今度は他のおじさんが話しかけてくる。
「この子、ロボットだぁね」
おじさんの妻と思われるおばさんが言った。
「あ、ロボットか。そりゃすまんね」
おじいさんが謝った。
53 :
名も無き被検体774号+:2012/09/02(日) 01:32:47.46 ID:EJ7Mm0Yh0
「しかしまぁ、みなさん、ひどい目に遭いましたなぁ。なに、暗くならず、ひとつ自己紹介でもしますか」
おじいさんが明るい声で言った。
「わしはオード。人間だよ。年齢は…いくつだったかのう。70超えると忘れるんだよ。
前の戦争の時も収容所にいれられたから、これからが不安な人はわしに聞いて構わんよ」
だから明るいのか。
「ほら、次は誰が自己紹介するんだい」
おじいさんが次を促す。
でも今の雰囲気はとても自己紹介できるような雰囲気ではない。
「俺はユトです。年齢は27」
「ユトくんか、若いねぇ、いいねぇ」
結局、おじさんとおばさんは自己紹介はせず、オードもそれを強要はしなかった。
54 :
名も無き被検体774号+:2012/09/02(日) 01:33:17.80 ID:EJ7Mm0Yh0
「しかしまぁ皆さん、なんだって国に帰らなかったんです」
誰も答えなかった。みんな眠いのだ。
「まぁいろいろあるんでしょうなぁ。わしは帰っても家も親類もいなかったから、ここにいるわけだが」
誰もそんなこと聞いてないよ、という空気が漂った。明るくしようとしているのではなく、ボケているのかもしれない。
ホミンも眠くなった。既におじさんおばさんは寝ている。青年ユトもこっくりこっくりとしている。老人のオードだけは生き生きとしている。何となく、あの医者に似ているなと思った。
55 :
名も無き被検体774号+:2012/09/02(日) 01:34:36.55 ID:EJ7Mm0Yh0
ホミンが目を覚ました時は、まだ日が昇っているか昇っていないかの時間帯だった。
今はどこだろうと外を見たが、全く見覚えのない田舎だった。
車内を見渡すと、まだ誰も起きていなかった。オードを除いて。
「起きたかい」
夜通し起きていたのだろうか、この人は。
ホミンはこっくりと頷いた。
「どこへ向かうんでしょう」
ホミンは尋ねてみた。
尋ねたところで、どこだか分かるわけがないのだが。
「まずはリヒル市に行って、その後は大きなトラックに乗せられて、どっか近くの強制収容所だろうな。
リヒル市でどのトラックに乗るかによってどこの収容所に行くかが変わる」
「詳しいんですね、やっぱり」
「まぁな」
56 :
名も無き被検体774号+:2012/09/02(日) 01:35:28.25 ID:EJ7Mm0Yh0
「収容所では、何をするんでしょうか」
「戦争の部品をつくったり色々じゃな。子どもは火薬を爆弾につめたりする」
その部品が戦場で使われるわけか…。
「なに、心配ない。それなりに暮らしやすいとこだ。ユウダ人に逆らわなければ、良くしてくれる」
「そうですか」
「収容所に連れて行かれるということは、戦争がはじまったんじゃろうな…」
「前の戦争は、どっちが勝ったんです」
「トルンだよ。まぁ、本当は講和条約を結んで戦争が終わったんだが、条約の内容はトルンに有利なものだったから、事実上の勝利だな」
「今回は、どっちが勝つんでしょうか」
「さぁな。運によるさな」
57 :
名も無き被検体774号+:2012/09/02(日) 01:36:25.47 ID:EJ7Mm0Yh0
青年のユトが目を覚ました。
「おはよう、青年。いい朝だね。ちょうど朝日が見えるよ」
「全然いい朝じゃないですよ」
「そう暗くなるんじゃない」
「はいはい」
「えーっと、ユトくんじゃったかのう。こっちで何をしてたんだい」
「ちょっとまぁ、色々です」
「なんだい、隠し事かい。まさかスパイじゃなかろうね」
老人が声を小さくした。
運転している兵隊に聞こえないようにしているのだろうか。
58 :
名も無き被検体774号+:2012/09/02(日) 01:37:33.91 ID:7ofEVYhr0
支援
59 :
名も無き被検体774号+:2012/09/02(日) 01:37:36.27 ID:EJ7Mm0Yh0
「まさか、違いますよ。ちょっと人探しをしてるんです」
「え?」
ホミンが呟いた。もしかしたら自分のことかもしれないと思った。
でもそうだとしたら、ユトはすぐホミンに気付くはずなので、その憶測はすぐ崩れた。
「ほう、人探し。いいねぇ、恋人かい」
「ははは、そういうのじゃないですよ」
「うんうんうん、いいねぇ、人探し。どういう人を探してるんだい」
「誰でもいいでしょう」
「なんだい、それも隠すのかい。冷たいねぇ、わしと君の仲じゃないか、言ってごらん」
「僕と同じ年齢の女性です」
「ほう!」
オードは目を輝かせた。
60 :
名も無き被検体774号+:2012/09/02(日) 01:38:16.31 ID:EJ7Mm0Yh0
「いや、恋人じゃないですから」
「そうかいそうかい。で、何か手掛かりはあったのかい」
「いえ…全く。それに生きているのかすら分かりません」
「なんだか重大な感じだね。フィラレル市にその女性がいるのかい」
「さぁ…そういう風なことを風の噂で聞きまして」
「ほーう。その女性はトルン人かえ」
「はい」
「だったらこの車に詰め込まれてるはずだが・・・」
「そうですよね」
ユトがため息をついた。
61 :
名も無き被検体774号+:2012/09/02(日) 01:38:52.25 ID:EJ7Mm0Yh0
「変な質問ですけど、どうやってトルン人を見つけ出してるんでしょう、兵隊や警官たちは」
「戸籍とか、入国履歴を調べれば簡単に分かるんだよ」
ユトがすぐに答えた。
「じゃぁ、ロボットは」
「トルンで製造されたロボットを検知する装置があるから、それで調べるんだよ」
あの時聞こえた機械音は、その装置だったのかもしれない。
62 :
名も無き被検体774号+:2012/09/02(日) 01:40:12.58 ID:EJ7Mm0Yh0
リヒル市まであと20kmという看板が見えた。
オードの言う通り、この車はリヒル市に向かっているようだ。
朝の田舎風景から一転して、だんだん都会的な風景になっている。遠くには高層ビルも見える。
ホミンたちが乗っている車と同じ車が数台か走っていて、同じ方向へと向かっていた。
リヒル市はこの地方で一番大きな都市である。
ホミンのいたフィラレル市の人口が約2万人なのに対して、ここリヒル市は約200万人の人口だという。
車は大きなグラウンドのような場所で止まった。
他の車もたくさんあり、トルン人がたくさんいた。
車から降ろされると、グラウンドの周りにある柵の向こうに、たくさんの野次馬がいることに気付いた。マスコミもたくさんいる。
兵隊にグラウンドの真ん中のほうに連れて行かれると、列に並ばされた。
10列の列があり、ホミンとオード、ユトは同じ列になり、おじさんとおばさんはバラバラになり、彼らは間もなく姿も見えなくなった。
63 :
名も無き被検体774号+:2012/09/02(日) 01:41:39.44 ID:EJ7Mm0Yh0
「静かに!」
お偉いさんのような感じの人がスピーカーで叫んだ。一気に静まり返った。
周りにいる野次馬は相変わらずうるさく、カメラのシャッター音もした。フラッシュがまぶしかった。
「今からバスが来るので、右の列から順番に乗るように」
ホミンの列は一番右の列だった。
バスはすぐに来た。バスといっても、容疑者護送バスのような鉄格子のついたバスだった。
バスに乗る際、手錠を外された。ユトとは隣の席になり、ホミンは窓側の席になった。
鉄格子が窓についているので、景色を見るには少し都合が悪い。
後ろの席にはオードもいた。またオードの長話を聞く羽目になるのかもしれない。
「このバスはイェフト地方に向かうんじゃと」
さっそくオードが身を乗り出してこっちに話しかけてきた。
「そうですか」
ホミンが答えた。イェフトにも何となく聞き覚えがあった。
ユトは目をつぶって下を向いていた。寝た振りをしているのだろうか。
64 :
名も無き被検体774号+:2012/09/02(日) 01:42:59.72 ID:EJ7Mm0Yh0
「夏だから良かったのう。南の地方なんかに飛ばされたら暑くて死ぬとこじゃったわい」
「涼しい地方なんですか」
「ユウダ二番目の最北の地方じゃ」
「へぇ。でも冬は寒いんじゃないですか」
「うむ、極寒で冬が長い」
「そうですか…」
「イェフトってことは途中でバスを降ろされてフェリーで行くことになるのかのう」
「海を渡るんですか」
「イェフトは島だからのう」
「イェフト地方には、行ったことあるんですか」
「あるぞ」
「へぇ」
ここで話を切らそうと思ったが、オードはさらに話を続けた。
65 :
名も無き被検体774号+:2012/09/02(日) 01:44:31.24 ID:EJ7Mm0Yh0
「イェフトの一番西の海岸に行くとな、トルンが見えるんじゃよ」
「トルンに近いんですか」
「うむ。天気が良ければトルン最北の港町のウェント市が見える」
「へぇ」
「だから逃げようと思えば海を渡れば逃げれるぞ」
小声でオードは呟いた。
この人のことだから、しかねない。
66 :
名も無き被検体774号+:2012/09/02(日) 01:46:19.07 ID:EJ7Mm0Yh0
夕日がバスに入り込んできた。
リヒル市を出発してもう4時間は経った。
高速を走っているので、もうだいぶ遠くに来ただろう。景色はすっかりまた田舎になった。
ふとムドとサキを思い出した。どうしているだろう。
いや、どうしているだろうもないか。数日前までは自分はあの家にいなかったのだから、数日前の状態に戻っただけだ。これ以上迷惑掛けなくて済む。
前列から弁当とお茶が配られた。バスの時計を見ると午後7時10分だった。
弁当を食べ始めようとすると、一番前に座っていた兵隊が大きな声で何かしゃべり始めた。
「…昨日午後10時、我がユウダ海軍はトルン帝国海軍と戦闘状態に入り、
トルン帝国政府の宣戦布告を今日午前正式に受諾した。開戦である。敵国国民である諸君らは我が国の法律に則って、収容所へと収容する。
帰国を希望する者もこの中にはいるだろうが、今のところそれは不可能である…」
これを聞いているオードは本当に海を渡るかもしれない。彼は愉快犯である。
彼のほくそ笑む顔が目に浮かんだ。
67 :
名も無き被検体774号+:2012/09/02(日) 01:47:15.35 ID:EJ7Mm0Yh0
「…なお、昨夜の海戦に於いて、我が軍はトルン帝国海軍基地である第二海上基地を占領することに成功した。今のところ、我が軍が優勢である。…」
兵隊はざまあみろと言わんばかりの顔をした。
別に悔しいというわけでもない。
兵隊の話が終わると、各自弁当を食べ始めた。
ユトは終始何もしゃべらず、もくもくと食べ始めた。
外はすっかり暗くなった。田舎なので街の灯りは何も見えない。
午後10時過ぎになると、バスの灯りが消された。
ホミンは長距離の移動で疲れたため、あっという間に寝てしまった。
68 :
名も無き被検体774号+:2012/09/02(日) 01:48:30.40 ID:EJ7Mm0Yh0
起きたのは午前5時だった。昨日の夕食の時に配られたお茶を飲んだ。
外を見ると、昨日の朝と同じように綺麗な朝焼け見えた。
ふと後ろを見ると、やはりオードは起きていた。
「やあ、早いね」
オードが小さい声でいった。ホミンは軽く会釈して、前に向きなおした。
隣のユトはまだぐっすり寝ていた。
そういえばユトは人探しをしていたとか言っていたっけ。探している人は同い年の女性だという。
どういう関係なのだろう。今日聞いてみよう。
日が昇ってあたりが明るくなると、今は住宅街を走っていることが分かった。ちょっとは都会的な風景になった。
遠くには高層ビルが見える。オードの話だと、ユウダの首都圏にもうすぐ入るらしい。
69 :
名も無き被検体774号+:2012/09/02(日) 01:49:16.90 ID:EJ7Mm0Yh0
朝ごはんが配られたのは午前7時だった。
配られてもまだ寝ている人もいた。
昨日と同じように、兵隊が前に出て、昨日の戦果について誇らしげに語った後、各自弁当を食べ始めた。
「あの、探している女の人って、どんな人ですか」
ホミンは単刀直入に聞いてみた。
「どんなって。普通の人だよ」
「ふうん。友達なんですか」
「うん、中学時代のな。たった3年の付き合いだったけど」
「行方不明なんですか」
「うん」
「どうして?」
「色々あってね」
ユトはまた黙りこんだ。
やっぱり深入りできそうにない。
70 :
名も無き被検体774号+:2012/09/02(日) 01:50:39.17 ID:7ofEVYhr0
支援
71 :
名も無き被検体774号+:2012/09/02(日) 01:51:58.59 ID:EJ7Mm0Yh0
その後、ユウダの首都を通り過ぎたあと、さらに北へと進んで、港に着いた。
港では船に乗せられ、船で一夜を明かした。
外はとても涼しく、あの喫茶店を思い出させた。
朝になって船内から窓を見ると、港が見えた。オードの話だと、イェフト地方で最も大きな港らしい。
港からは再びバスに乗せられ、夕方になってようやく収容所に到着した。
収容所近くにはイェフト第三軍需工場があった。どうやらここで働かされるらしい。
収容所には既に200人のトルン人が収容されていた。
収容所は3人部屋だった。男女別に分けられ、ホミンはオードとユトと一緒の部屋になった。
部屋自体は3人部屋にしてはちょっと狭かった。服も作業服に着替えさせられ、着ていた服は押収された。
何でもスパイの可能性があるので服をいったん検査にかけるそうだ。
夕食は各自部屋で食べることになっているが、自分の部屋でなくてもいいらしい。
とはいえ、まだ初対面の人ばかりなので、みんな自分の部屋で食べた。
食事はまずいというわけでもなく、量も適切だった。
部屋には冷房がなかったが、窓を開ければ涼しい空気が入ってくる。
勿論、窓には鉄格子がついていた。
72 :
名も無き被検体774号+:2012/09/02(日) 01:52:49.31 ID:EJ7Mm0Yh0
3人並んで寝ていると、オードがユトの探している人について尋ねた。
「探している人の名前は何かね」
「マホです」
「マホか、ほう。仲が良かったのかい」
「ええ、まぁ」
「どうして探しているんだい」
「色々ありまして」
ユトはまたそう言った。
オードもさすがにこれ以上は聞き出せないと思ったのか、何も言わなかった。
ホミンはこのやり取りを聞いているうちに寝てしまった。
73 :
名も無き被検体774号+:2012/09/02(日) 01:54:05.79 ID:EJ7Mm0Yh0
朝ごはんを済ませたあと、収容されているトルン人は工場へと連れて行かれた。
3人はとりあえず離れずに歩いていたが、ホミンだけは別の仕事をさせられることとなり、別行動を余儀なくされた。
ホミンが連れていかれたのは、オードの言う通り火薬入れ作業だった。
小学生ぐらいの子供もいれば、中学生ぐらいの子供もいた。長い机が作業机らしく、基本的に立って作業するようだ。
ここに連れてこられたいわゆる新人はホミンを含めて3人だった。
見覚えがないところを見ると、違う地方から来た子だろう。
3人には仕事内容を教える中学生ぐらいの人がついた。
13歳の女の子がホミンを担当した。サキと同い年だった。
「お名前、なぁに?」
まるで幼稚園児に話しかけるような喋り方だった。
ロボットだということに気付いていないのだろうか。
「ホミンです」
「ホミンくんか〜。よろしくね。あたし、ヨリよ。よろしくね〜」
「は、はぁ」
ヨリはなんとなくイントネーションがおかしかった。方言だろうか。
74 :
名も無き被検体774号+:2012/09/02(日) 01:55:01.71 ID:EJ7Mm0Yh0
「ホミンくんのお仕事はね、この粉を、この入れ物にいれるだけだよ。でも絶対にこぼしたり、量を間違えたりしちゃダメだよ」
「はい」
「うん、じゃぁやってみて」
言われた通り、何か変な臭いのする粉を小さい四角い入れ物の中に一定の量だけいれた。
「すごいすごい、よくできました〜」
拍手をするヨリ。
「じゃぁお姉ちゃんは隣で自分のお仕事をするから、何か分からないこととか困ったことがあれば言ってね。
またあとでちゃんとお仕事できてるか見るからね」
そう言って、ヨリは自分の作業を始めた。
ヨリの手は油で真っ黒になっていた。
75 :
名も無き被検体774号+:2012/09/02(日) 01:56:26.12 ID:EJ7Mm0Yh0
作業は1時間に1回だけ15分の休みがあり、昼食休憩は40分だった。
作業時間終了は午後5時半だった。ヨリからべた褒めされ続けた一日だった。
ヨリはここイェフト地方に暮らしている在ユウダトルン人だそうだ。
ユウダで生まれ、ユウダで育ったという。方言はイェフト地方の方言だという。
たまに聞きなれない方言を使うので、聞き直したりすることが多かった。
作業場から外に出ると、涼しい風が吹いた。
ヨリの話だと、この地方では9月はもう秋本番近くだという。
あと数週間すれば紅葉が始まり、10月半ばには雪が降り始めるそうだ。冬は4月後半まで続くらしい。
部屋に戻ると既にオードとユトがいた。作業服がだいぶ汚れている。
「いやー、おつかれ」
オードが笑顔で迎えてくれた。
「そっちは何をしたんだ?」
ユトが問いかけてくる。ユトから話しかけられるのは今日が初めて。
「爆弾をつくったり、火薬をいれたり、コードをつなげたりです」
「やっぱりそうか。わしらは戦闘機の整備だったよ。全く訳分からん。失敗すると兵隊から怒鳴られるし、たまったもんじゃあないさね」
「ですよね」
ユトが相槌をうつ。作業環境は子供のほうがずいぶん恵まれているらしい。
76 :
名も無き被検体774号+:2012/09/02(日) 01:57:00.93 ID:EJ7Mm0Yh0
夕食後、風呂に入ることになった。風呂は共同風呂なので、部屋の外にある。
ロボットであるホミンは別に入る必要もないので、オードとユトを送り出した後は、3人分の布団を準備して、ホミンは床に就いた。
「おやおや、この子はもう寝ているね」
風呂から帰ってきたオードが言った。
「疲れたんでしょう。こんな子供なのに、気の毒だ」
ユトはホミンの寝顔を見た。
77 :
名も無き被検体774号+:2012/09/02(日) 01:58:31.57 ID:EJ7Mm0Yh0
戦争は更に激しくなった。
収容所内にもどんどん情報が入っていて、今のところはユウダ軍の優勢だという。
あの兵隊の言っていたことは正しかったようだ。ホミンたちが作っている爆弾も、既にトルンでの空爆に使用されているそうだ。
トルン帝国は共和制であるユウダと違って、国家元首がいる。
現在のトルン帝国国家元首はチヨという女帝だ。有史以来初めての女帝だという。
ユウダとトルンは歴史上何度も戦争を繰り返してきた。
もともと、ユウダはトルン帝国の一部だったが、二百年前にトルンから独立し、ユウダ民族が新たに国を作り上げたという。
しかし、トルンはユウダの独立を認めず、
武力でユウダ制圧を図ったが、なかなか成功しなかった。
今回の戦争もまた、トルンのユウダ武力制圧の一歩でもある。
女帝チヨには夫と一人娘がいた。
夫はずいぶん前に暗殺されたというが、真相は闇の中である。チヨが殺したという噂もある。
一人娘は謀反の罪で処刑されたという。
78 :
名も無き被検体774号+:2012/09/02(日) 01:59:42.51 ID:EJ7Mm0Yh0
戦争が始まって2か月が経った。
形勢は逆転し、今はすっかりトルン軍が優勢である。
ここイェフト地方にも、たまにトルン軍の爆撃機が襲来することもあった。
イェフトはもう真冬同然の寒さとなり、毎日雪が降り続いていた。
作業場は寒く、手の細かい作業を行うので非常にやりにくい。ホミンはいつも手をこすって暖めていた。
ある日の午後だった。空襲警報が鳴り響いた。
作業場監視についている憲兵が、急いで外の防空壕に行くように言った。
防空壕は工場の裏山にあり、いったん外に出ないといけない。
ホミンはヨリと一緒に行った。
「いたっ」
ヨリの声がした。雪で滑ったらしい。
79 :
名も無き被検体774号+:2012/09/02(日) 02:00:56.46 ID:EJ7Mm0Yh0
「そこ!なにしてる!走れ!!」
ホミンがヨリに駆け寄ろうとすると、憲兵が叫んだ。
同時にすさまじい音がした。工場に爆弾が落とされたらしい。
爆風でホミンの体は吹き飛ばされた。地面に雪があったおかげで衝撃は少なかった。
起き上がると、工場が燃えていた。ヨリはどこだろう。辺りを見回したがどこにもいない。
瓦礫があちこちにある。もしかしたら瓦礫の下敷きになってるのかもしれない。
歩きまわってみると、さっき叫んでいた憲兵が頭から血を流して死んでいた。
嫌な予感がした。
ホミンはヨリを呼んでみたが返事がない。
ヨリは死んでいた。瓦礫の下敷きになって死んでいた。
敵国の民族ということで、葬式らしいことは何もされなかった。
ただ、工場近くの空き地に遺体が埋められただけだった。
外出は禁じられていたので、お参りに行くことはできなかった。
作業場に行く時、その空き地を遠くから眺めることしかホミンにはできなかった。
80 :
名も無き被検体774号+:2012/09/02(日) 02:01:22.83 ID:7ofEVYhr0
支援
81 :
名も無き被検体774号+:2012/09/02(日) 02:02:33.65 ID:EJ7Mm0Yh0
年が明けて1月。
ついにイェフト地方にトルン軍が上陸し、あっという間にイェフト地方はトルン軍に占領された。
収容所から解放されたトルン人は帰国が叶うこととなった。
出港する前に、ホミンはヨリの埋葬地を訪れて、花を添えた。
トルン海軍の船に乗せられ、そのまま船は東のトルンへと向かった。
船では大きな部屋にたくさんの人が雑魚寝するかたちだった。
非常に狭い。ホミンの右隣にはユト、左隣にはオードがいた。
「いやー、まさか帰国できるなんてね」
オードが寝ながら言った。
「嬉しいですか」
「嬉しくないさ、悲しいよ。祖国には俺の居場所なんてありゃしない。親類だっていないんだ。これから絶望の日々だよ」
「そうですか…」
「ホミンはどうするんだ。ちゃんと病院に行くのか」
オードとユトには、すでに記憶を失くしていることを言っていた。
82 :
名も無き被検体774号+:2012/09/02(日) 02:03:46.86 ID:EJ7Mm0Yh0
「うーん、お金がないんでどうしようもないです…」
「お、そうだった、お前さんも身寄りがないのか。どうだい、祖国ではわしと一緒に暮らそうじゃないか」
「え?いいんですか」
「全く構わんよ。むしろこっちがお願いしたいぐらいだ、うん」
「ありがとうございます」
「で、ユトはどうするんだい」
オードはユトも一緒に、と誘うつもりだ。
「僕にはちゃんと家族がいるんでご心配なく」
「なんじゃ、そうか。…あれ、でもお前さん、確か家はルーエン市の西区だったかのう」
「そうです」
「わしはルーエン北区出身だから…いつでも会えるのう」
「そうですね」
どうやらトルンに着いても、この3人は縁は切れなさそうだった。
83 :
名も無き被検体774号+:2012/09/02(日) 02:04:51.57 ID:EJ7Mm0Yh0
3日後、ようやくトルンの首都、ルーエン市に着いた。
オードの話によると、人口は1100万人だという。ルーエン市だけでもひとつの国ができそうな人口だ。
港で降ろされて、各自解散ということとなった。
周りには「帰国おめでとう」という横断幕をもった人たちがたくさんいた。
市内は相次ぐ戦勝の報道に湧いていて、あちこちにトルンの国旗『帝国旗』が飾られていた。
ユトとは近くの駅で別れた。これからはオードと行動を共にすることとなる。
「とりあえず、わしの住んでいた家に行ってみるかのう。もしかしたらまだ空き部屋かもしれん」
オードはそう期待していたが、家はすでになくなっていて、大きなマンションが建っていた。
「困ったのう…。これから空き部屋を探すか…」
「そうですね」
「そうじゃ、ユトの住んでいる西区に住もう。それなら便利がいい」
ユトの絶望する顔が目に浮かんだ。
84 :
名も無き被検体774号+:2012/09/02(日) 02:05:40.18 ID:EJ7Mm0Yh0
結局、格安のアパートを西区に借りることができた。
オードは近くの飲食店でアルバイトすることとなり、なんとか収入は稼げそうだった。
アパートはかなり狭くて古かったが文句は言ってられない。
夕食は船でもらった乾パンを食べることにした。
「明日はアルバイトじゃが…お前さんはどうするんだい。何もしないんじゃ暇だろう」
「はい…」
「お前さんに仕事をやろう。ユトの家を探すんじゃ」
「え?」
「なに、そんな難しいことじゃぁない。住所は聞いてあるから、その住所のとこに行ってくればいい」
「行って何するんですか」
「食糧とか何かを貰ってくるだけでいい。頼んだぞ」
ユトには申し訳ないが、そうしないとこっちの生活も危ないから仕方がない。
85 :
名も無き被検体774号+:2012/09/02(日) 02:06:52.56 ID:EJ7Mm0Yh0
ユトの家は住宅街のなかにあった。
呼び鈴を鳴らすとおばさんが出てきた。ユトのお母さんだろうか。
「あら!どなたかしら?」
幼い子供が来たから驚いているようだ。
「えっと、ユトさんはいますか」
「ユトね、はいはい。ユト〜、お客さんよ〜」
おばさんが2階に向かって叫ぶと、すぐにユトが降りてきた。
作業服以外のユトを見たのは久し振りだ。
「わっ。なんだ、ホミンか。どうした」
「えっと…その…」
まさか食料を恵んでくれとは言いにくい。
「まぁまぁ、上がって上がって」
おばさんが家にあがるように促した。ホミンは頭を下げて、家に上がった。
リビングに案内され、席に座るとオレンジジュースを出してくれた。
ジュースなんて何か月ぶりに飲んだのだろう。
86 :
名も無き被検体774号+:2012/09/02(日) 02:07:34.09 ID:EJ7Mm0Yh0
「どうだ、家に住めてるか?」
向かい側の席に座っているユトが聞いてきた。
「あら、家がないの?」
これはチャンス。
「なんとか、安いアパートに…」
「そうか、オードのじいさんも困ってるだろうな」
「はい…。食べ物もないんで困っています」
「あら!そうなの。だったらうちの冷蔵庫から好きなものをとっていきなさいよ」
さすがユトのお母様!
「いいんですか?」
「いいわよいいわよ。せっかく来たんだから、ゆっくりしてらっしゃいな。ユト、部屋で遊んであげなさい。あたしはちょっと買い物行ってくるわ」
「はいよ」
87 :
名も無き被検体774号+:2012/09/02(日) 02:08:57.36 ID:EJ7Mm0Yh0
ホミンはユトに連れられて、2階のユトの部屋に行った。
綺麗に片づけられた部屋で、広かった。
部屋に入ってすぐ近くの棚の上に、写真立てがあった。制服を着た男女が写っている。
中学生か高校生ぐらいだろうか。でもこの男の子に何となく見覚えがある。
「あぁ、それは俺が中3の時の写真だよ」
写真を見ていたホミンにユトが言った。
「へぇ〜。え、じゃぁ、この隣にいる女の子はもしかして」
「ああ、うん。探している人だよ」
「ふうん、そうなんだ」
ユトがホミンの顔を見た。ホミンがびっくりする。
「え、なに、ごめんなさい」
ホミンはあわてて謝罪した。
何か悪いことを言ったのかもしれない。
「いやいや、『ふうん、そうなんだ』って、よくこいつが言ってたからさ。ちょっと懐かしいなって」
「そ、そうなんですか」
長い間ユトと一緒にいたが、そのフレーズは幾度となく使った気がする。
これから自粛しなければいけない。
88 :
名も無き被検体774号+:2012/09/02(日) 02:09:50.63 ID:EJ7Mm0Yh0
「いつから行方不明なんですか?」
「12,3年前だな」
「へ〜。名前は確か、マホさんですよね」
「うん」
「そうですか…」
ホミンは改めて写真を見た。
ユトもマホも幸せそうな笑顔をしている。
ユトはただの友達と言っているが、友達以上に想っている人なのだろう。
「どうして、いなくなったんでしょう」
これは確か前も聞いたが、いろいろあって、と言われてはぐらかされた。今回はどうだろう。
「さあな」
今回もやはりだめだった。
89 :
名も無き被検体774号+:2012/09/02(日) 02:10:50.15 ID:7ofEVYhr0
支援
90 :
名も無き被検体774号+:2012/09/02(日) 02:11:21.98 ID:EJ7Mm0Yh0
結局、昼食もこの家で食べることとなり、たくさんの食糧を分けてくれた。
ホミン一人じゃ持ちきれないので、おばさんが車でアパートまで送ってくれた。
食料の殆どはパンとか缶詰だった。アパートには冷蔵庫がない。
アパートに着くと、ホミンは昼寝をした。
起きたのは夜6時で、既にオードが帰ってきていた。
「お。起きたかい」
オードは夕食の準備をしていた。帰りの途中で紙皿や紙コップ、箸を買っていたので、それで夕食は済ませることができた。
「いやー、いっぱい食料を貰って来たね」
「はい、助かりました」
「うむ、先方にはあとでお礼を言っておかんといけんな」
「そうですね」
「ユトは元気そうだったかい」
「はい。ユトさんの部屋にも行きましたよ」
「ほー」
「ユトさんが探している人の写真も見ました」
「マホちゃんのことか、ふむ、可愛かったかい」
「ええ、はい。笑顔で2人で写っていましたよ」
「へへへへ、やっぱり恋人同士じゃったんじゃろうのう」
「あはははは」
91 :
名も無き被検体774号+:2012/09/02(日) 02:12:19.63 ID:EJ7Mm0Yh0
「どれ、ラジオをつけてみるかの」
オードはラジオも買ってきたようだ。
「安いラジオじゃが、聞けないことはあるまい」
オードはラジオをニュース番組に合わせると、そのままラジオを床に置いた。
そういえば最近、ニュースを見ていないので今がどうなっているのかさっぱり分からなかった。
ニュース番組の殆どは戦争に関するものだった。
≪我が帝国陸海軍は本日未明、ユウダ国の北東列島の北部をほぼ制圧し、ユウダ本土への上陸は時間の問題となっています…≫
そういえば、ムドとサキはどうしているのだろう。
「あの、オードさん、フィラレル市は大丈夫なんでしょうか」
「まぁ、まだ大丈夫だろうな。フィラレルは東にあるから、まだトルンの空爆は行われてはいまい」
「そうですか…」
「やはり、フィラレルのあの家族が心配かい」
「そりゃまぁ、はい」
「戦争が終われば、一緒にフィラレルに行こう」
「はい」
92 :
名も無き被検体774号+:2012/09/02(日) 02:13:28.29 ID:EJ7Mm0Yh0
≪…次のニュースです。畏くもチヨ皇帝陛下におかれましては、本日午後に帝位継承問題について、陛下の甥にあたりますルイ親王を次の皇帝にふさわしいとのお考えをお示しになりました…≫
「ほー、そうなのか」
オードが感嘆する。
「実の娘は謀反を起こすし、皇帝陛下もだれを信じればいいか分からんじゃろうのう」
そういえば、チヨの娘は謀反の罪で処刑されたと聞いている。
「謀反って…どんなことをしたんです」
「さぁ、詳しくはしらん。そういう王族の出来事は詳しく報道されないからのう」
「へぇ〜…。なんだって謀反を起こしたんでしょう」
「さぁ、それも報道されておらんから、わしも分からん」
「そうですか…」
「そんなことより、お前さんの記憶を早く取り戻さにゃいかん」
「あ、そうですね」
オードは優しくて良かった…とホミンは思った。
でも治療費だけでもどれくらいかかるんだろう。想像がつかない。
必ず恩返しをしなければ。
93 :
名も無き被検体774号+:2012/09/02(日) 02:13:46.64 ID:HmZQojTyi
やっと追いついた
C
94 :
名も無き被検体774号+:2012/09/02(日) 02:15:00.16 ID:EJ7Mm0Yh0
次の日、ホミンは図書館に行った。
ロボット専門書か何かを読めば、もしかしたら記憶が取り戻せるかもしれないと思ったからだ。
とはいえ難解な単語の羅列、意味不明なアルファベットの羅列で、
活字アレルギーになりそうだったので、とてもじゃないが分かりそうになかった。
―…そうだ、元の家族が行方不明届けを出しているなら、新聞に載っているかもしれない。
図書館であれば過去の新聞が見られるし、ちょうどいい。
ホミンは早速受付のほうへ行った。
「あの、去年の8月25日以降の新聞ありますか」
「はい、ありますが、どの新聞でしょうか」
「えっと…できれば地元新聞」
新聞の名前など知らない。
「25日からいつまででしょうか」
「30日までお願いします」
「はい、朝刊ですか夕刊ですか」
「どちらともお願いします」
「はい」
95 :
名も無き被検体774号+:2012/09/02(日) 02:15:59.92 ID:EJ7Mm0Yh0
しばらくすると、かなりの厚さの新聞の束を持った受付の人がやってきた。
ちょっと申し訳なかった。
ホミンはそれを受けとって、近くの机に置いた。
行方不明の記事が書いてあるのは大体どこらへんだろうかと調べたら、
朝刊は紙面の13、14ページ、夕刊は9ページのところだった。ここには地域の出来事が記載されている。
結局、見つかることはなかった。
ほかのページも探してみたが、それらしい記事は何一つなかった。
96 :
名も無き被検体774号+:2012/09/02(日) 02:17:30.85 ID:EJ7Mm0Yh0
新聞を返し終えて席につくと、本を探しているユトの姿が見えた。
ホミンは席をたって、ユトのもとへ行った。
「何しているんですか」
「おお、ホミンか。いや、ちょっと本をね」
ここの本棚は王族関係の本や、過去の皇帝に関する本だった。
彼はこんなことに興味があるのだろうか。意外だった。
「へぇ、王族ですか。畏れ多いですね」
「ははは、まぁね」
ユトは王族の家系図が載った本を開いた。
ホミンもそれを横から覗いた。
「あれ?」
ホミンが声を出した。
見覚えのある名前があった。
97 :
名も無き被検体774号+:2012/09/02(日) 02:18:14.24 ID:EJ7Mm0Yh0
「マホ親王…?」
同じ名前なのだろうか。
「俺が探している人だよ」
「え?でも、マホ親王は家系図によるとチヨ皇帝陛下の娘であらせられるから…謀反の罪で処刑されたんじゃないんですか」
「うん…まぁ、話すと長くなるわけだが、生きているかもしれないんだ」
「ええ!?でもなんで、マホ親王をどうして知っているんですか?」
ちょっと声を大きくし過ぎたかもしれない。
ユトが人差し指をたてた。
「ここじゃ話せない。近くの喫茶店に行こう」
98 :
名も無き被検体774号+:2012/09/02(日) 02:19:09.08 ID:HmZQojTyi
これはいい展開
99 :
名も無き被検体774号+:2012/09/02(日) 02:19:21.99 ID:EJ7Mm0Yh0
「俺とマホが初めて会ったのは、中1の吹奏楽コンクールの時だったかな」
ユトがゆっくり話し始めた。
「マホは王族やお金持ちの子供が通うような学校の吹奏楽部員で、俺は地元の公立中学校だった。
舞台裏でマホが楽譜を落として、俺がそれを拾ったんだ。
楽譜を手渡した相手が、まさか畏れ多くも皇帝陛下の娘とか思わなかったし、
顔もあんまり見てなかったから何とも思わなかった。
でもマホは違ったようで、恋をしたらしい」
「…は、はい?」
「自分で言うのもなんか自慢臭くて嫌なんだが、マホを俺に一目惚れをしたんだ」
ホミンはユトの顔を見た。
確かにイケメンだが、あまりよく分からない。
「なんだよ、ジロジロ見るなよ」
「あははは」
100 :
名も無き被検体774号+:2012/09/02(日) 02:21:00.98 ID:EJ7Mm0Yh0
「で、次に会ったのが冬季の定期吹奏楽会だった。
俺はトイレに行こうと廊下を歩いていたら、マホと廊下で会った。
マホが俺に気付いて、この前はどうも、とか言ってくれてさ。この時、可愛い子だなーとは思ったよ。
それからなんか話が結構盛り上がったんだけど、お互い時間があるから、そこで別れた」
ユトは少しうれしそうに話していた。
「そして次に会ったのが吹奏楽コンクール。また廊下で会ったんだよね。
そこでメールアドレスの交換をして、それからは本当に楽しく会話したよ。
でも会うことはなかった。そりゃまぁ王族だから簡単に外には出られないよね」
「ユトさんからは会いたいって言ったことはあったんですか」
「何回か言ったけど、なんだかんだで断られたよ。テレビ電話で精いっぱい」
ユトは苦笑しながら言った。
「あの時は毎日楽しかった…。休日はテレビ電話ばかりして朝を迎えたりしてさ。吹奏楽の大会の時に少しだけど会えて、幸せだった」
「ふうん」
101 :
名も無き被検体774号+:2012/09/02(日) 02:21:41.53 ID:9oG42Z6wO
読むの面倒臭ぇ
今北産業
102 :
名も無き被検体774号+:2012/09/02(日) 02:22:53.15 ID:EJ7Mm0Yh0
「でも中3の秋ごろだったかな、俺との関係がバレたんだ。
テレビとかで報道こそされなかったけど、王族内部は大騒ぎだったらしいよ。
それからは全くマホとは連絡できなかった。それにマホは耐えきれなかったのか知らないけど、無断で外に出たんだ。守衛の監視とかをかいくぐって」
「え」
「そしてマホは逮捕されてね。外に無断で出て、スパイ容疑とか謀反の容疑とかいろいろ疑われて、処刑された。
もともとチヨ皇帝陛下とも仲が悪かったらしいし、この際片づけてしまおうっていうことだ。あくまで俺の推測だけどな」
ユトは涙声になっていた。
「マホに対してもう本当に申し訳ないというか…」
ついに泣き始めた。ホミンは何といえばいいか分からず、対応に窮した。
「え、でも、生きているかもしれないんでしょう?」
ホミンはとりあえずそう言った。
「…そうなんだよ、そういう噂だ。どっか遠いところに逃亡させたっていう説があるし、実際、マホによく似た人を見たという目撃例も多くてね。
いろいろ調べたら、ユウダ国のフィラレル市付近にいるかもしれないということを知って、フィラレル市に引っ越してずっと探し続けてきた」
そういう理由があったのか、とホミンは驚いた。
ユトの涙はまだ止まることはなかった。
103 :
名も無き被検体774号+:2012/09/02(日) 02:24:32.04 ID:EJ7Mm0Yh0
そのことを聞いたオードは珍しくポカーンとしていた。
あの若造のユトが畏れ多くも皇帝陛下の娘と恋仲である(あった)ことに驚いているのだろう。
「ほえ―…そりゃまたすごい…」
「あのユトさんが泣いていましたからね」
「う―む。なんだかわしもユトを助ける気になったのう」
「え?」
「わしも協力してやろう」
なんだか上から目線な言い方だ。
「協力って…どんなことができるんですかね」
「知らん。ただ面白そうだからな」
あまり本心から助けたいとは思っていないようだ。
もしかしたらホミンの記憶を取り戻すことに協力しようというのも、
面白そうだという理由だからかもしれない。
ここで終了してますwww
続きは何を書こうかは覚えてるっちゃ覚えてる。
104 :
名も無き被検体774号+:2012/09/02(日) 02:25:48.48 ID:HmZQojTyi
記憶喪失ろぼ
戦争開始
強制送還
105 :
名も無き被検体774号+:2012/09/02(日) 02:27:13.17 ID:EJ7Mm0Yh0
あ、マホを主人公とした回想シーンを書いたのがあった。
でもちょっと話が飛んでる部分あるから分かりにくいかも。
106 :
名も無き被検体774号+:2012/09/02(日) 02:30:37.96 ID:9oG42Z6wO
面白い?読む価値ある?ジャンルなに?
107 :
名も無き被検体774号+:2012/09/02(日) 02:30:59.91 ID:EJ7Mm0Yh0
===以下。マホを主人公とした回想話===
マホはチヨの部屋に呼ばれた。部屋に入るなりいきなり、
「外部の人間と、しかも民間人と連絡をとっていたとは何事だ!!」
チヨは声を荒げた。
「何が悪いんですか!?」
「お前は自分の立場が分かっているのか!?全く恥さらしな!!」
「私が誰とメールしようと何しようと勝手です!!」
「バカを言うな!二度とその男とは連絡もとらせん!」
「本当にうんざり!」
マホはそう言って部屋を出た。
これで何もかも終わりだ。私の初恋は終わった。自由に恋もできないのか。
部屋に戻ってベッドに潜り込んだ。
普通なら今頃ユトとメールをしている時間だ。私からの返信が来なくなって、驚いていないだろうか。
これから連絡もとれない。吹奏楽の大会で会うことは先月の大会で最後だった。
胸が変に苦しくなって、喉の奥が熱くなった。
涙が止まらない。
108 :
名も無き被検体774号+:2012/09/02(日) 02:32:29.33 ID:B451ugOl0
くそ、くだらない話だと罵倒するはずだったのに
109 :
名も無き被検体774号+:2012/09/02(日) 02:32:36.85 ID:EJ7Mm0Yh0
>>106 全部書いてみないと分からん。
戦争・青春が主なのかなぁ。
次の日からはつまらない毎日が続いた。
ユトと話すことは生活の一部になっていたのに、それが急になくなった。
夜になるたびに涙がとまらなかった。失恋とはこういう感じなのだろうか。
せめて、もう一度ユトに会いたい。
そうだ、ここを抜け出そう。でも、ユトに会えば、ユトにも迷惑を掛けてしまうかもしれない。
どうすれば。そうだ、手紙だ、手紙を書こう。ユトの住所は知っている。外に出て、手紙をポストにいれればいい。
ほんのちょっとの間だけ外に出れば済む話だ。
私はどうして生まれたんだろう。ありきたりな自問自答だけど、答えることができない。
このまま大人になって、好きでもない人と結婚して、今の母のようになるのだろうか。
おぞましい戦争を遂行するような人になるのだろうか。
110 :
名も無き被検体774号+:2012/09/02(日) 02:34:06.36 ID:EJ7Mm0Yh0
私は戦争が嫌いだ。
母はこれまでどれくらいの国民と、ユウダの国民を殺してきたのだろう。
トルン大帝国の復活のためだって?だからなんなのだ。そういう野心でたくさんの人を死に追いやって、
自分はのうのうと国のトップにたって戦争を賛美している。
私は母が嫌いだ。
これまで何度、母とケンカをしただろう。
殆どが戦争のことだ。
私が今すぐにでも今の戦争をやめるように言えば、母は非国民だの王族らしからぬ発言だのと怒った。
戦争に勝ってユウダを統一することが、この国をどれだけ繁栄させるか分からないのか、と。
分かるわけがない。
111 :
名も無き被検体774号+:2012/09/02(日) 02:34:53.76 ID:EJ7Mm0Yh0
母のようにはなりたくない。
私が帝位に就けば、戦争を即刻中止する…という考えは甘かった。
この国全体が戦争を賛美しているのだ。
王族も、政治家も、みんな戦争を支持している。
そして私はたくさんの犠牲を目にしながらも何もすることはできない。
逃げよう。ここから早く逃げよう。
この国を捨てて、ユウダに行って、トルンと戦おう。
それなら私は喜んで犠牲になれる。
どうせなら、ユトへの手紙を投函したあと、そのまま逃亡しよう。
112 :
名も無き被検体774号+:2012/09/02(日) 02:36:24.73 ID:EJ7Mm0Yh0
月が綺麗だった。上手く抜け出した私は空を見上げた。
滅多に外には出ないので、外のこの賑わいは新鮮だった。さすが世界有数の大都市だ。
ポストに手紙を投函し、私は駅へ向かった。
修学旅行で駅を使ったことはあるが、ちょっと戸惑った。
何とか切符を買って、電車に乗った。
遠くへ、遠くへ行こう。
どこかの町で降りて、隠れながら暮らして、
今の戦争が終わるのを待ってユウダへ渡ろう。
電車が動き出した。
ユトのいる街からは、これで離れることになる。
悲しくはあったが、自由になれたという嬉しさのほうが、それより大きかった。
113 :
名も無き被検体774号+:2012/09/02(日) 02:37:30.08 ID:EJ7Mm0Yh0
乗り継ぎを繰り返して、結局最北端の港町であるウェント市に着いた。抜け出してから3日が経っていた。
今までは夜行列車で寝ればよかったが、
これからはどこで寝ようか。
どこかの公園でも適当なところでいい。
私はコンビニに行って、新聞を買った。
きっと今頃、私がいないということで大騒ぎだろう。
人のいない公園を見つけて、新聞を広げた。
新聞の一面は私のことでもちっきりだ。
次のページを広げると、戦争がもうすぐ終わるという記事があった。
講和条約を結ぶようだ。
私がいなくなったことで、混乱が起きたからだろうか。
もしかしたら、私を探すために軍隊を動員するかもしれない。
あの母ならやりかねない。
114 :
名も無き被検体774号+:2012/09/02(日) 02:38:54.65 ID:EJ7Mm0Yh0
ある日、道に群衆ができていた。
「何かあったんですか」
私は近くのおじさんに声をかけた。
「何って、前を見ろよ」
前には汚れた服を着た女の人がいた。
彼女の腕には赤ちゃんがいた。
近くには警官が3名いる。
「あの女、ユウダ人だぜ。強制収容所から逃げ出したらしい」
「いいから来い!」
警官の1人が女性の腕を掴もうとする。女性はそれをつっぱねた。
「この子は栄養失調なんです!せめてこの子に、何か食べ物を!」
「分かった分かった、あとで食いもんぐらいやるから」
「今すぐに必要なんです!!」
赤ちゃんはこの騒動の中、鳴き声のひとつもあげていなかった。
肌は黒ずみ、今にも死にそうなのは誰の目にも明らかだった。
「うるさい女だな。抵抗すると撃つぞ」
警官は銃に手をかけた。
115 :
名も無き被検体774号+:2012/09/02(日) 02:39:41.93 ID:HmZQojTyi
この赤ちゃんは…
116 :
名も無き被検体774号+:2012/09/02(日) 02:40:04.14 ID:EJ7Mm0Yh0
「撃つなら撃てばいい!でも、せめてこの子には食べ…」
女性が倒れた。警官が女性の後頭部を警棒で叩いたからだ。
腕にいた赤ちゃんは地面に叩きつけられた。ゴンッという変な音が響いた。
警官は女性に手錠をかけて、赤ちゃんの様子を見た。
「死んでるな」
そう言って、警官は女性をパトカーに乗せて去って行った。
赤ちゃんは道路に放置されたままだった。
誰も拾おうともしなかった。片付けようともしなかった。
女性が連行されたのを見届けた群衆は、みんなどこかに行ってしまった。
これほど人間は腐るものなのか。
私はたまらずその赤ちゃんを抱えた。
周りの冷たい視線など気にもしなかった。
せめて、お墓だけはつくってあげよう。
117 :
名も無き被検体774号+:2012/09/02(日) 02:41:24.84 ID:EJ7Mm0Yh0
>>115 わかっちゃうかな?w
結局、たどり着いたのは誰もいない山だった。
ここなら海も見えるし、天気のいい日にはユウダ国のイェフト島という島が見える。
―…あれ?
腕に抱いている赤ちゃんが動いたように感じた。
また動いた。
赤ちゃんは生きていた。
私は急いで持っていた水を飲ませた。
水だけじゃだめだ、ミルクのほうがいい。あとでミルクを買ってこよう。
その日は、その山で過ごすことにした。これからずっと、人目のないここで暮らそう。
そして、ユウダに渡る。私は赤ちゃんの顔を見た。今はすっかり寝ている。満腹になったからだろうか。
あの女性は、助かることはないだろう。収容所からの脱走は即死刑だ。
その危険を冒してでも、彼女はこの子を助けたかったのだろう。
今度は、私がこの子を助けてあげないといけない。彼女の思い引き継がなければ。
戦争が、この子の母親の命を奪ったのだ。
戦争が終わったのは次の日だった。ユウダ国は講和条約に署名した。
次の週にはようやく民間の船もユウダを行き来できるようになった。私は早速船の予約をいれた。
118 :
名も無き被検体774号+:2012/09/02(日) 02:42:41.92 ID:EJ7Mm0Yh0
ユウダに降り立った時、私はこれまでの疲れがどっと出た。
トルンにいた間は、逃亡の身なのだから常に神経をとがらせていた。
ユウダにいる今、捕まえられる心配はない。
ユウダ国の東部は、トルン軍の空爆を受けて廃墟同然だった。
ここも相当な爆撃を受けている。これではここで暮らしていくことはできそうにない。
爆撃の少ない西へ、とりあえず行くことにした。
西に行けば行くほど、トルンから離れるということにもなる。
お金もそろそろなくなりつつあった。結局、私はフィラレルという小さな町に身を落ち着けることにした。
ここで終了。
続きがどうなるか希望があれば簡単に言います。
119 :
名も無き被検体774号+:2012/09/02(日) 02:49:31.85 ID:HmZQojTyi
終了…だと…
続きはござらんのか
おもしろいじゃん
121 :
名も無き被検体774号+:2012/09/02(日) 02:51:56.22 ID:B451ugOl0
普通に続けて欲しいんだが
122 :
名も無き被検体774号+:2012/09/02(日) 02:52:04.47 ID:EJ7Mm0Yh0
突然、フィラレルにトルンの警官がやってくるのをマホが見る。
↓
急いで逃げるが、マホの体力は限界。
↓
マホ『このまま2人捕まるより、せめてこの子だけは助けておかないと…」
↓
マホは近くにあった家(ムドの家)の庭に、その赤ちゃん(サキ)を置く。
↓
マホ、潔く自首
↓
トルンへ送還
123 :
名も無き被検体774号+:2012/09/02(日) 02:52:29.58 ID:7ofEVYhr0
勿論いる!
124 :
忍法帖【Lv=3,xxxP】 :2012/09/02(日) 02:53:08.43 ID:HmZQojTyi
おぉふ
ズズバッといったね
125 :
名も無き被検体774号+:2012/09/02(日) 02:53:47.12 ID:EJ7Mm0Yh0
つまらん小説だったが、
支援してくれたり、読んでくれたりしてくれてありがとう。
VIP+って、VIPより優しい奴がいて泣ける
ホミンたんの記憶が気になるな―
127 :
名も無き被検体774号+:2012/09/02(日) 02:58:29.04 ID:EJ7Mm0Yh0
訳分かんなくなった人もいるかもしれないから、一応解説いれとく。
13年前の戦争直後、マホはユウダ人の赤ちゃんとともにユウダへ渡る。
ところが、ユウダにマホを捕まえようとする警察がやってくる。
やむをえず、マホはてきとうな家の庭に赤ちゃんを置いて、追いかけてきたトルンの警察に自首。
13年後…その赤ちゃんは、家の主に育てられて無事に成長。
それがサキとムド。
そしてそこへホミンがやってくる。
と、いうわけです。
ホミンの正体は一応考えてはいたけれど、
ちょっとまだ話を構成中。
128 :
名も無き被検体774号+:2012/09/02(日) 03:00:23.53 ID:HmZQojTyi
構成中って事は続き期待しておk?
129 :
名も無き被検体774号+:2012/09/02(日) 03:03:20.96 ID:EJ7Mm0Yh0
んー、構成だけなら公開できるが、
公開していいんだろうか。
130 :
名も無き被検体774号+:2012/09/02(日) 03:07:37.48 ID:7ofEVYhr0
続きを書け下さい
中3のわりに良くできてるな
131 :
名も無き被検体774号+:2012/09/02(日) 03:08:37.92 ID:HmZQojTyi
あたい待てるよ…
いつまでも続き待てるよッ!
132 :
名も無き被検体774号+:2012/09/02(日) 03:09:26.32 ID:C98SZexN0
133 :
名も無き被検体774号+:2012/09/02(日) 03:10:01.06 ID:EJ7Mm0Yh0
わかったw
でも今週はちょこっとしか続きをかけないかも。
じつはちょっと大事な用事がある。
読んでくれてありがとう。
何か質問等あれば、寝ない限り受け付けます。
134 :
名も無き被検体774号+:2012/09/02(日) 03:11:01.83 ID:EJ7Mm0Yh0
>>132 考えたことはないけど、
何かをつくりたいという創作欲はあった。
自分のつくった世界設定のなかで、
妄想を広げて、しばしばそれにふけっていたこともあったよ。
135 :
名も無き被検体774号+:2012/09/02(日) 03:19:39.56 ID:HmZQojTyi
136 :
名も無き被検体774号+:2012/09/02(日) 03:21:04.41 ID:EJ7Mm0Yh0
137 :
名も無き被検体774号+:2012/09/02(日) 03:32:13.31 ID:HmZQojTyi
まさかの同い年だた\(^o^)/
おれも何か書こうかな…そのうち…
138 :
名も無き被検体774号+:2012/09/02(日) 09:17:53.47 ID:HhhkicuF0
139 :
名も無き被検体774号+:2012/09/02(日) 10:21:31.54 ID:+gbUzGdf0
追いついた
すげー面白い。続き早く!
面白い!
ここびっぷらだから、なかなかスレ落ちないし
ゆっくりで構わないから続き描いてほしいな
141 :
名も無き被検体774号+:2012/09/02(日) 14:19:13.50 ID:EJ7Mm0Yh0
>>103続き
次の日、ホミンは再びユトの家へ訪れた。
あの話を聞いて、自分も協力したいと思ったからだ。
もちろん、オードのように面白いからという理由ではない。
「こんにちは〜」
ホミンは呼び鈴を鳴らした。
間もなくユトが出てきた。
「ホミンか、どうした」
ホミンは協力したいということをを伝えた。
「ホント、ありがとう」
ユトは頭を下げて、ホミンを部屋に連れて行った。
部屋に入ると、見知らぬおじさんがいた。
「あ、この人はな、王族内部に詳しいボナードさんだ。昨日、ネットで知り合ったんだ」
「おやおや、なんだか小さいお客さんだね」
ボナードというおじさんはホミンに会釈した。また小学生扱いだ。
最近、自分が子供扱いされるのが嫌だということに気付いた。
記憶を失くす前もそうだったのかもしれない。
「あ、こんにちは。ホミンです」
ホミンはペコリと頭を下げて、ボナードの隣に座った。
机には書類やらパソコンやら乱雑していた。
142 :
名も無き被検体774号+:2012/09/02(日) 14:21:02.92 ID:EJ7Mm0Yh0
※今まで「マホ親王」と表記していたが、正しくは「マホ内親王」
「私もついさっき来たから、ちょうど良かったね。じゃぁ、ユトくんはいったい何を聞きたいのか詳しく聞こうじゃないか」
「はい…。まず、マホがいた時の王族内部はどんな感じだったんですか」
「うーん、そうだね。まぁ、次の帝位継承者がマホ内親王であることを良く思っていない王族が一人いたよ」
なんだかドロドロした話のようだ。
「誰ですか」
「このお方だよ」
ボナードは机に置いてある王族家系図の一人を指差した。
「チヨ皇帝陛下の甥にあたるダイ親王だよ。マホ内親王の次の帝位継承順位のお方だ」
「ダイ親王は、マホが気に入らなかったんですか」
「そうだよ。マホ内親王がいなくなれば、自分が帝位に就けるわけだからね。
でもマホ内親王自身は、自分は帝位に就きたくないと思し召されていたよ。でもそれはチヨ皇帝陛下の許すところじゃなかった。
やっぱり自分の娘に帝位を継いでもらいたかったんだろうね。ダイ親王は本当にはがゆい気持ちだっただろう」
143 :
名も無き被検体774号+:2012/09/02(日) 14:22:46.79 ID:EJ7Mm0Yh0
ボナードの話によると、こういうことだった。
マホ内親王が次期皇帝であるということに不満を持っていたのが、チヨ皇帝陛下の甥のダイ親王だった。
そんな緊張した関係が続いている中、
マホ内親王に問題が起きた。ユトとの交際発覚だ。
これをダイ親王派はマホ内親王の行為を糾弾。
ところがチヨ皇帝陛下はマホを罪に問うということはせず、
ユトとのかかわりを断つだけとした。
マスコミにもそのことを報道しないように規制をしたので、大きな騒ぎにはなりそうになかった。
ところが問題が起きた。マホ内親王が脱走したのだ。
前代未聞の出来事に、しかも戦時中という時期に、ダイ親王派は「スパイ、売国行為をしている」「次の帝位継承資格者としては考えられぬこと」として糾弾。
マスコミにも報道され、国内世論は一気にダイ親王派を支持した。
しばらくしてマホ内親王がユウダで逮捕されたことをきっかけに、
ダイ親王派は「やはり売国をしていた」と非難。国内世論もマホを非難するようになり、
裁判ではついに極刑判決が出た。
期待wwww
145 :
名も無き被検体774号+:2012/09/02(日) 14:55:17.92 ID:EJ7Mm0Yh0
「…ということだよ、ユトくん」
ボナードはユトを見た。
ユトは唖然としていた。まさか自分のために、こんなことが起きているなんて、という心情なのだろう。顔色が悪かった。
ユトは何も返事せず、黙りこんだ。
沈黙があまりにも気まずいので、ホミンはボナードに質問してみた。
「どうして、ユウダに行ったんでしょう、マホ内親王は」
「さぁ…。裁判では、ユウダ軍にトルン軍の機密情報を流していたとも言っているし、亡命する気だったとも言っている。
結構曖昧な供述が多いんだよ。本当は何をしていたのかは全く闇の中だ」
「でも極刑になったのに、生きているとはどういうことなんでしょう」
ホミンは更に尋ねてみた。
「それは私にも分からんのだよ。マホない親王が処刑されてからしばらく経って、生存説が浮上したけど、本当のことは誰にも分からん」
「そうですか…」
「そもそも、マホ内親王は公開処刑されたんだよ。みんなの目の前で死んだ。だから生きているわけがないという意見が多くて、生存説はすぐに立ち消えしたけどね」
「こ、公開処刑!?」
背筋がゾッとした。
146 :
名も無き被検体774号+:2012/09/02(日) 14:56:15.58 ID:EJ7Mm0Yh0
「うん、知らないのかい。猛毒の液体を飲まされたんだよ。そういえば、ユトくんもそれを見たんだろう?」
ホミンはユトを見た。ユトは目をカッと開いていた。
「はい、見ました」
「それでも、生存説を信じているんだね」
「はい、信じます。それを信じて、今まで生きてきましたから」
「そうか、うん」
ボナードは励ますようにユトを見つめた。
「いやぁ、しかし、マホ内親王の元恋人と会えるなんてね。
あの時は誰と連絡していたのか公開されなかったから、誰だろう誰だろうと気になっていたんだよ。へぇ、君なのか」
「はい…」
「なかなか芯のしっかりした青年だ。実に頼もしいね」
「ありがとうございます」
「さて、次に聞きたいことは何かな」
ボナードはユトの質問を促した。
147 :
名も無き被検体774号+:2012/09/02(日) 14:56:55.93 ID:EJ7Mm0Yh0
「では…。ボナードさんは、生存説をどう思いますか」
「難しい質問だね」
「すみません」
「君としては、私が生存説を支持することを望んでいると思うが…残念だが逆だ」
「そ、そうですか」
ユトは動揺していた。
「君も見ただろう。毒を飲まされる内親王の瞬間を」
ユトは何も言わずこくりと頷いた。
「でも生きているとしたら…やはり君の言うように、ユウダ国にいるだろうね。マホ内親王はきっとこの国には戻ってはきまい」
「そうだとしたら、やっぱりフィラレルでしょうか」
「どうだろうね。そういえばマホ内親王が逮捕されたのはフィラレル市だったね」
「はい」
「逮捕されたところに、わざわざ行くだろうかねぇ」
「それは考えもしましたが…フィラレル市はマホが最後にいたところですから、そこには何か手掛かりがあると思ったんです」
「で、手がかりは何もなかったんだね」
「はい…」
ユトは再び下を向いた。
148 :
名も無き被検体774号+:2012/09/02(日) 14:57:47.57 ID:EJ7Mm0Yh0
「酷なことをいうが、あれだけ長い間探したんだから、もうそろそろ区切りをつけたらどうだい」
ユトは何も答えなかった。
「君の心意気はなるほどすごいことだよ。
でも、君は今何歳だい。いつまでも過去に囚われてちゃいけない。君のためにならない」
ユトはついに泣きだした。
「すまないね…。今日は私は帰るよ。ホミンくん、だったかな。彼をしばらく一人にさせたほうがいいから、一緒に外に出ないか。何か奢ろうか」
「あ、はい」
2人は部屋をあとにした。
149 :
名も無き被検体774号+:2012/09/02(日) 14:58:35.81 ID:EJ7Mm0Yh0
ボナードの車に乗って、2人は近くの喫茶店に入った。
喫茶店の中がムドと行った喫茶店とそっくりだと思ったら、どうやら同じ系列の店らしい。
「何でも好きなのを頼んでいいよ」
「すいません、ありがとうございます」
これで奢られたのは何回目だろう。
「うーん、カフェオレです」
店が寒いというわけではないが、何となく飲んでみたくなった。
ムドと過ごした時を懐かしむ気持ちもあったが、たぶん、昔好きだったのかもしれない。
「カフェオレ?…別に気を遣って安いのを選ばなくても。お子様セットがあるが、どうだい」
「お子様セット?いいです」
また子供扱いだ。
「おやおや、怒らせたかな」
「別にそういうわけじゃないですけど」
「…ありゃ、もしかして君、ロボットかね」
「そうですよ」
やっと気付いてくれたか。
「おやおや、それはすまんね」
そう言ってボナードはウェイターを呼んだ。
「ブラックコーヒーをひとつと、カフェオレとひとつ」
「かしこまりました」
150 :
名も無き被検体774号+:2012/09/02(日) 14:59:40.84 ID:EJ7Mm0Yh0
ウェイターが去った後、ホミンは最初から疑問に思ったことを聞いてみた。
「王族内部のことをあんなにベラベラ喋って…大丈夫なんですか」
「ん〜、大丈夫ではないけど、君たちなら黙ってくれるだろうと信じてるよ」
「あははは、大丈夫ですよ。今も王族にかかわって仕事をしてらっしゃるんですか」
「いや、してないよ。3年前に辞めた」
「あ、そうなんですか」
「君はユトくんと知り合いかい?」
「あ、ええ、まぁ。ユウダの収容所で知り合ったんです」
「ほう。君もユウダにいたのか。何だってユウダにいたんだい」
ホミンは記憶を失くしている云々を全て話した。
ボナードは興味津津に聞いていた。なんとなく、あの時の医者を思い出させるような目つきだった。
「ほ〜、フィラレルに君もいたのか、ほう、なるほど。今はどこに住んでいるんだい」
「収容所で親密になった人と一緒にアパートで暮らしています」
「ほう、どこのかね」
どうしてそこまで聞くんだろう。
「西区です。ここから1kmもないですね」
「そうか。なら私の家とも近いね。私は隣の中央区に住んでいるよ」
「ふうん、そうなんですか」
151 :
名も無き被検体774号+:2012/09/02(日) 15:00:15.68 ID:EJ7Mm0Yh0
店を出た後、ボナードの車でアパートまで送ってもらった。
明日もユトの家に行くかもしれないから、良かったら一緒においで、と言われた。親身な人だな。
オードに今日あったことを話すと、
さらに興味を引かれたようで、酒に酔いながら訳の分からない持論を展開し始めた。
適当に聞き流して、ホミンはそのまま寝てしまった。
152 :
名も無き被検体774号+:2012/09/02(日) 15:01:10.67 ID:EJ7Mm0Yh0
次の日、ユトの家へと歩いていたら、
途中でボナードが車で送ってくれた。
ユトの部屋に入ると、部屋が何となくスッキリしているように感じた。
「あれ、写真がない」
この前、棚の上にあったユトとマホが写った写真がなかった。
「あぁ、片付けたよ」
ユトはそっけなく答えた。どういうことだろう。
「諦めたのかい」
ボナードが尋ねた。
「はい。昨日のボナードさんの言葉で決心しました。過去に囚われていた自分は、もう捨てます」
「そうか、私の意見を受け入れてくれてうれしいよ」
ユトは棚を開けて何かを探し始めて、やがて封筒を持ってきた。
「これが例の手紙かい」
「例の手紙?」
ホミンが質問した。
「マホがくれた手紙だよ。マホが逃亡した日に投函されてる。昨日初めて手紙を見た」
153 :
名も無き被検体774号+:2012/09/02(日) 15:02:12.69 ID:EJ7Mm0Yh0
ユトは手紙をボナードに渡した。
ボナードは確認するように手紙を読み始めた。
「なんて書いてるんですか」
ホミンはユトに尋ねた。
「政治腐敗の状況や、それにかかわった人たちの名前、そしてあとはチヨ皇帝への批判。あとは俺への手紙だ」
「ふうん、そうなんだ」
あ、つい使ってしまった。でもユトは気にしなかった。
「でも何で政治腐敗のことなんか書いたでしょうか」
ホミンは話をそらした。
「さぁ…昨日読んでみて俺もそう思った。
ボナードさんにもメールで手紙の内容を伝えたが、ボナードさんも分からないそうだ。…どうですか、ボナードさん」
「いや、わからないね。…どうやら本物の手紙だね。筆跡もマホ内親王と同じだ」
ドタドタドタと階段をのぼってくる音が聞こえた。
ユトの母親だろうか。それにしてはやけに乱暴な上り方だし、
上って来るのは一人ではなく何人もいるようだ。
強制連行された時と同じ嫌な予感がした。
154 :
名も無き被検体774号+:2012/09/02(日) 15:03:15.51 ID:EJ7Mm0Yh0
ドアをバンッと開ける音がした。
振り返ると、嫌な予感は的中した。警官や軍人がいた。
「2人とも捕えろ」
ユトとホミンは驚いた。
ボナードの口からその発言が飛び出たのだ。
警官や兵隊が2人を取り押さえようとした。
「なんだ!やめろ!」
ユトが激しく抵抗した。ホミンもそれにならう。
バチンッという音がした。
さっきまで暴れていたユトの体がごとりと床に落ちた。
またバチンッという音がした。
目の前が真っ白になった。
しまった、スタンガンか―…。
ホミンの体はユトの上に転がり落ちた。
155 :
名も無き被検体774号+:2012/09/02(日) 15:12:02.83 ID:62PKff1+0
星新一っぽさがある
156 :
名も無き被検体774号+:2012/09/02(日) 15:41:39.14 ID:EJ7Mm0Yh0
今後の予想とかあれば聞いてみたい。
参考にする。
157 :
名も無き被検体774号+:2012/09/02(日) 16:30:36.66 ID:6etJhe9U0
158 :
名も無き被検体774号+:2012/09/02(日) 17:11:04.72 ID:EJ7Mm0Yh0
冷たい。暗い。
ホミンは薄暗い部屋にいることに気付いた。
床は石のように固く、冷たい。起き上がると、自分が閉じ込められていることが分かった。鉄格子がかかっている。
鉄格子の向こうには廊下があった。他にも鉄格子のかかった牢屋があるようだが、誰も入っていないようだった。
ホミンは鉄格子から声を出してみた。声がうまく出ない。
そういえば頭がボーっとする。まだスタンガンの衝撃が残っているのだろうか。
ユトはどこだろう。
もう一度部屋を見回したが、ユトはいなかった。
いったい何が起きたのかさっぱり分からない。
いきなり部屋に警官や軍人が入ってきて、ボナードが2人を捕まえるように指示した。
そしてスタンガンをくらったのだ。
ボナードはいったい何者だったんだろう。
159 :
名も無き被検体774号+:2012/09/02(日) 17:12:05.85 ID:EJ7Mm0Yh0
しばらくすると、刑務官のような人が廊下を歩いてきた。
「起きてるか?」
刑務官は鉄格子からホミンに尋ねた。
「はい」
刑務官はホミンを確認すると、よろしいです、と言って戻っていった。
何がよろしいです、なのだろう。
間もなく、廊下をコツコツと歩く足音が聞こえた。
ホミンは鉄格子の向こうをじっと眺めた。
大きい黒いローブを着た人がホミンのいる牢屋の前で止まった。
じっとホミン見ているようだが、フードをかぶっていて顔が誰なのか分からない。
「誰ですか…」
ホミンはおそるおそる尋ねた。
間もなく、その人はフードを外した。
顔には、なぜか見覚えがあった。
40代の女性のようだ。
女性は何も言わず、じっとホミンを見つめていた。
「私の顔に、見覚えがあるようだね」
ホミンの心の底を見透かしたように言った。
その声にも聞き覚えがあった。
160 :
名も無き被検体774号+:2012/09/02(日) 17:14:10.52 ID:EJ7Mm0Yh0
「いいえ、ありません」
嘘をついてみた。
「まぁいい、直に思い出す」
どういう意味だろう。
「あなたは、誰なんです」
女性は何も答えなかった。
しばらくじっと佇んだ後、何も言わずに足音を立てて去って行った。
何なんだろう。
ホミンは壁にもたれかかった。背中が冷たい。
頭がさっきからガンガンする。割れそうだ。
何時間も経過して、再び刑務官がやって来た。
刑務官は鉄格子についてる南京錠を開けた。
「出て来い」
刑務官に促されて、ホミンは廊下に出た。
同時に手錠と目隠しをさせられた。
そのまま刑務官に連れていかれた。
あちこち何回も曲がったり、エレベータに乗ったりした。
15分は歩いただろうか。
「お連れしました」
刑務官はドアをノックして言った。
どうやらこれから誰かと会うらしい。
目隠しを外されると、目の前にさっきの女性がいた。
「さがれ」
女性は刑務官にそのように命令して、刑務官は部屋から出た。
大きな部屋だった。そして、見覚えがあった。
161 :
名も無き被検体774号+:2012/09/02(日) 17:15:08.64 ID:EJ7Mm0Yh0
「こうやってここで2人で向き合うのも、久し振りだな」
女性はイスに深くもたれかかった。ホミンは立ったままだ。
「ここに来ても、まだ思い出さないのかい」
思い出しそうだった。
さっきの頭痛がいよいよ激しくなった。
「なんだ、立ち話もあれだ。前の席にかけなさい。何か飲み物でも持ってこさせようか」
女性は席に座るように促した。
イスは机をはさんで女性の向かい側にあった。
ホミンは警戒して座ろうとしなかった。でも頭が痛くて仕方がない。
「なにか飲み物でも持ってこさせようか。お前の好きな飲み物は、カフェオレかな」
何故それを―…?
そんなことはどうでもいい。頭が痛い。ホミンはたまらず床に膝をつけた。
「おや、薬がようやく効き始めているようだね」
薬…?気絶している間に飲まされたのだろうか。
「そうやって床に座ると、お前の顔がよく見えないじゃないか」
そんなことを言われても…。
「せっかくの再会じゃないか、ホミン。いや、ホミンじゃないな、お前は―…」
女性の口から、ある名前が告げられた。
まさか、嘘だ。
頭痛が、消えた。
162 :
名も無き被検体774号+:2012/09/02(日) 17:16:30.38 ID:EJ7Mm0Yh0
「だからちげえよ!!」
ユトは声を荒げた。
さっきから同じ質問ばかりされている。
違うと言っているのにも関わらず。
「お前は畏れ多くもマホ内親王殿下と密通して、あの軍事機密を漏洩させていたのだろう?うん?」
「違う!!」
ユトはずっと取り調べを受けていた。
目が覚めていたら、イスに縛り付けられていて、ずっと尋問を受けていた。
「しつこい奴だな」
「お前の方がしつけえよ」
「ははは」
尋問官はどうしうもないという感じで笑った。
「お前が罪を認めないと、他のやつが罪をかぶることになるんだぞ?ん?」
「他の奴って誰だよ」
このやりとりも何回しただろう。
どうせ次の答えは「さあ、誰だか」だ。
「お前が長年愛し続けた人だよ」
「え?」
予想とは反していた。
まさか、そんな。どういうことだ。
163 :
名も無き被検体774号+:2012/09/02(日) 17:17:21.39 ID:EJ7Mm0Yh0
「名前を出すことでさえ畏れ多い。察してくれ」
からかっているのか。俺に自白させるためのワナかもしれない。
「ここに、いるのか」
「ああ、いるよいるよ」
マホも同じように取り調べを受けているのだろうか。
「俺が認めなければ、マホが罰せられるんですか」
「おお、畏れ多いね、しかも呼び捨て」
「どうなんですか」
「ん?そりゃ罰せられるよ」
「僕がやりました」
「お?」
マホだけは、守らなければ。
あの時の裁判では俺のことを何も言わず、命の危険まで冒して俺を守ってくれたマホ。
今度は俺がマホを守る番だ。
「僕が全部やりました。しかし、売国行為については、マホは全く関係ありません。」
「今からお前の自白を録音するから、俺の質問にちゃんと答えるんだぞ」
「はい」
尋問官は録音機のスイッチをいれた。
164 :
名も無き被検体774号+:2012/09/02(日) 17:19:48.23 ID:EJ7Mm0Yh0
165 :
名も無き被検体774号+:2012/09/02(日) 17:21:35.48 ID:EJ7Mm0Yh0
>>118の続き
フィラレルでは喫茶店でアルバイトをした。
店長に許可をもらって、赤ちゃんは店内の個室で寝かせてもらえることになったので、安心してアルバイトができる。
私はカフェオレが好きだった。
カフェオレを頼んだお客様がいれば、隠れて私も飲んだこともあった。
カフェオレを初めて飲んだのは小学校低学年の頃だろうか。
従兄弟のダイお兄さんがつくってくれた。市販のものだったが、とても美味しかった。
アルバイトが終わるのは夜7時だった。帰りは赤ちゃんを抱いてアパートに帰った。
夜泣きの少ない女の子の赤ちゃんだったので、育児にはそんなに苦労はしなかった。
ただ、唯一苦労したころがある。母乳だ。
やはりミルクじゃダメだと泣くときがある。
私は母乳など出ない。
しかし、ある夜、あまりにも泣くので、吸わせるだけでも吸わせてみようと思い、やってみた。
驚いた。出た。
やはりそういう適応機能みたいなものが、
人間には備わっているのだろうか。
赤ちゃんの名前は決めてあった。サキだ。
この子の母親の想いを、私の願いを、世界に咲かせる。そんな人になってほしい。
166 :
名も無き被検体774号+:2012/09/02(日) 17:22:58.05 ID:EJ7Mm0Yh0
サキと過ごした日々はそう長くは続かなかった。
ある日の夜、バイト帰りの途中、黒い服を着た人が見えた。
トルン警察の制服だった。まさか、ここまで追いかけてくるなんて。
私はパニックになった。落ち着け、落ち着け。
とりあえずアパートへ走って帰った。
必要なものをまとめて、急いでここを出て行こうと思ったが、
かえってそれは逃げるときの足手まといになるかもしれないと思い、やめた。お金だけを持ってアパートを出た。
運が悪かった。
アパートから出たと同時に、トルンの警察に見つかった。
ここらの地理に詳しい私は警官をなんとかまくことができたが、
いつまた見つかるか分からない。警官はここらへんを徹底的に探すだろう。
私は公園の隅に隠れた。
夕方は寒かった。今日はこのまま夜を明かすことになるかもしれない。
何かサキに着せるものはないか、と公園を見回してみた。ダンボールがあった。
あまり汚れていないダンボールを組み立てて、その中にサキを入れた。
これならサキに冷たい夜風があたることはない。
しかし、このまま逃げることができるだろうか。
無理かもしれない。明日にはここにたくさんの警官が来るだろう。
私はマホの顔を見た。
この子を、守らないと。
167 :
名も無き被検体774号+:2012/09/02(日) 17:24:53.35 ID:EJ7Mm0Yh0
夜通し考えているうちに、
私は気付いたら、私はダンボールごとサキを抱えて歩いていた。
最近は戦後の混乱で、経済的に苦しくなった母親が赤ちゃんを他人の家に置いていくことが多いそうだ。
赤ちゃんを他人に任せるのだ。
私も、そうしよう。そうしないと、この子を守れるという保障はない。
私はある家の目の前で止まった。白いユリの花が咲いた家だった。
きっと心優しい家の主が住んでいるのだろう。ここに、サキを預けよう。
庭にそっと入って、私はダンボールを置いた。
サキはぐっすり寝ている。私は座ってサキの頭を撫でた。
ほんの少しの間だったけど、我が子のように育てた子。
私は、母親になることはできなかった。
私は地面に指をつけた。この子の名前を、地面に書いておこう。
その周りに石を置いて目立つようにした。これなら、きっと気付いてくれるだろう。
あの母親のこの子への想いに、私のこの子への想いに、報うように、咲かせてほしい。
私は立ち上がって空を見た。うっすら明るくなり始めている。
朝焼けが綺麗だった。
白いユリの花も朝焼けを受けて少し赤くなっていた。
振り返らずに、庭を出た。この子から遠くに離れたところに行こう。そうすればこの子は見つかることはない。朝日が綺麗だった。
168 :
名も無き被検体774号+:2012/09/02(日) 17:54:02.20 ID:56Pse6bt0
やばい、すげーおもしろい
169 :
名も無き被検体774号+:2012/09/02(日) 18:27:39.13 ID:6B9M8Ybr0
昔書いたな、こんなちゃんと構成できてないけど…
おもろかった
正直もっと読みたい
171 :
名も無き被検体774号+:2012/09/02(日) 19:18:44.85 ID:EJ7Mm0Yh0
まだ続きはあるけど、
まだ描いています。
172 :
名も無き被検体774号+:2012/09/02(日) 19:23:27.71 ID:IZYaQ+Oe0
わーい
待つ
173 :
名も無き被検体774号+:2012/09/03(月) 04:22:54.55 ID:aWG71oRb0
ほしゅ
174 :
名も無き被検体774号+:2012/09/03(月) 05:18:59.35 ID:wZYlrqM60
ホミンたんはマホたんだったの??
ほ
し
177 :
名も無き被検体774号+:2012/09/03(月) 07:46:29.33 ID:gVgn7kMR0
の
178 :
名も無き被検体774号+:2012/09/03(月) 09:19:32.28 ID:qw0VNYfKi
お
179 :
名も無き被検体774号+:2012/09/03(月) 09:43:04.21 ID:OBTf8qCY0
う
180 :
名も無き被検体774号+:2012/09/03(月) 12:14:47.26 ID:NMKbU7DmO
じ
181 :
忍法帖【Lv=6,xxxP】 :2012/09/03(月) 12:39:35.28 ID:dcAyCNHX0
さ
182 :
忍法帖【Lv=16,xxxPT】 :2012/09/03(月) 12:41:46.43 ID:GowgRMBo0
ま
183 :
名も無き被検体774号+:2012/09/03(月) 16:33:43.03 ID:gVgn7kMR0
は
お
185 :
名も無き被検体774号+:2012/09/03(月) 18:04:44.06 ID:NMKbU7DmO
さ
186 :
名も無き被検体774号+:2012/09/03(月) 19:02:55.20 ID:hTbFzNS50
な
な
な
189 :
名も無き被検体774号+:2012/09/03(月) 23:28:29.60 ID:3snRrAt60
続きはよ
支援
191 :
名も無き被検体774号+:2012/09/04(火) 12:33:22.47 ID:ylVWvfBlO
支援
192 :
名も無き被検体774号+:2012/09/04(火) 21:42:00.24 ID:V6904+1h0
市街地を歩いているところを、私は捕まった。
すぐに車に乗せられて、船に乗せられた。
一言もしゃべらなかった。これで、終わったのだ。
私は出来る限りのことをした。悔いはない。
牢屋は地価の牢屋にいれられた。
王族の住んでいる建物の地下にある牢屋だ。
しばらく牢屋でじっとしていると、お母様が来た。
「恥さらしめが」
何とでも言えばいい。
「すぐに王族裁判が始まる。極刑は免れぬと思え」
そう言い残して、お母様は去って行った。
裁判は次の日に始まった。
罪状については売国やスパイなどといった覚えのないものもあった。
「いいえ、私は軍事機密など漏らしていません」
「嘘を言うな!どうせと密通していたあの彼と共謀しているのだろう?」
罪状を読み上げたダイお兄さんが声を荒げた。
あんなに怒ったのは初めて見た。
この裁判は全国で生放送されているので、ユトの名前は出さないようにしているのだろう。
「いいえ、していません」
「こうなれば、その彼も捕まえて尋問させるしかないようです、陛下」
私が罪を認めなければ、ユトを捕まえるということなのか。
193 :
名も無き被検体774号+:2012/09/04(火) 21:43:57.35 ID:V6904+1h0
「待ってください。彼は、彼は何も知りません」
サキ以外にも守らないといけない人がいた。ユトだ。
彼は何とかしてでも私が守らないといけない。
「なんだと?」
「彼には何も罪はありません。私が勝手に連絡をとるように言っただけです。売国やスパイなどといった行為には、彼は一切関わりはありません」
「ではひとりでやったのか?」
「はい」
極刑判決が下された。
しかし、サキも守ることができて、ユトも守ることができた。
もう思い残すことなどない。
194 :
名も無き被検体774号+:2012/09/04(火) 21:45:09.68 ID:V6904+1h0
処刑は、公開処刑だった。
大きな広場に台がしかれ、私はその台の上に立たされた。
たくさんの人がいた。台の上から見る限り、ずっと人がいた。
制服を着た偉そうな男の人が私の罪状を台の上で高らかに読み上げたあと、ラッパの音が響いた。処刑の合図らしい。
私は執行官に台の真ん中に連れて行かれた。
後ろ手に手錠をかけられているので、こけそうになった。
台に2人の執行官がのぼってきた。
1人は小さな白い器を持っている。あの中に毒が入っているのだろう。
執行官が私に近付いてきた。
他の執行官が私を動けないように羽交い絞めにする。
器が口の近くにきた。
毒は水みたいに綺麗に澄んでいた。
唇に、器が触れた。
冷たい。
執行官の指が私の口を無理やり開けさせる。
口の中に、液体が入った。舌がピリピリとする。
すべて飲み干したあと、私を羽交い絞めにしていた執行官が私から離れた。
胃が熱くなるのを感じた。頭がガンガンする。目もクラクラする。群衆のどよめく声がするが、だんだん聞こえなくなった。
195 :
名も無き被検体774号+:2012/09/04(火) 21:47:13.05 ID:V6904+1h0
意識が薄くなってきた。
私は立っていることもできず、バランスを崩す。
体がゆっくり斜めになっていく。
このまま台の床に落ちるのだ。
ふと私はユトの姿を捉えた。
口を大きく開けて、何かを叫んでいる。
でも、聞こえない。
ごめんね、ユト。
手紙、読んでくれたかな。
あの手紙は、きっとこの国を洗い流してくれるはず。
私の想いは、あなたに託します。
私の短い人生で、一番愛したのはユトだよ。
さようなら、ユト。
マホの体が、ゴトッと床に落ちた。
群衆からは歓声の声があがった。
ラッパの音が鳴り響いた。
わくわく
197 :
名も無き被検体774号+:2012/09/05(水) 05:59:19.08 ID:WWjDawdp0
気長に待つよん
198 :
名も無き被検体774号+:2012/09/05(水) 20:23:56.65 ID:Lp4bwKm10
支援
199 :
名も無き被検体774号+:2012/09/05(水) 20:36:24.52 ID:OuO9KJ190
紫煙
200 :
名も無き被検体774号+:2012/09/06(木) 07:58:09.92 ID:hVeoJ2jg0
テス
201 :
忍法帖【Lv=5,xxxP】 :2012/09/06(木) 13:39:25.82 ID:DPCIJQUHi
紫炎
202 :
名も無き被検体774号+:2012/09/06(木) 14:37:38.47 ID:L1NPw3MK0
マホとサキのくだりに泣いてしまった
子ども産んでから涙脆くなったなー
続き楽しみにしてます!
支援
204 :
名も無き被検体774号+:2012/09/06(木) 18:50:19.48 ID:D2CmGu1c0
しえん
205 :
名も無き被検体774号+:2012/09/06(木) 18:56:49.27 ID:2fRMfIZH0
支援
206 :
名も無き被検体774号+:2012/09/06(木) 20:51:12.53 ID:xb1QNEaL0
>>202同じくそこで泣いた。
「私は母親になることはできなかった」
で泣いてしまった
続き期待
207 :
名も無き被検体774号+:2012/09/07(金) 00:30:51.46 ID:aehUxcHo0
>>207 ホミンwwwwww
個人的にサキはショートカットなイメージ
チヨで吹いたw
210 :
忍法帖【Lv=40,xxxPT】 :2012/09/08(土) 05:51:26.39 ID:I+z1BUHJ0
支援
211 :
名も無き被検体774号+:2012/09/08(土) 10:13:36.56 ID:PiAq6zxai
もう続きは来ないのだろうか
212 :
名も無き被検体774号+:2012/09/08(土) 11:27:50.77 ID:e1rXSC0b0
追いついた
すごく良く出来てる
Cあげ
213 :
名も無き被検体774号+:2012/09/08(土) 11:27:52.99 ID:g+rbTtdc0
すまん、待ってくれ;;
214 :
忍法帖【Lv=11,xxxPT】 :2012/09/08(土) 12:42:05.05 ID:aNr6Nunx0
215 :
名も無き被検体774号+:2012/09/08(土) 17:59:01.72 ID:zCcBrtEA0
勉強も忙しいでしょ
気長に待ってるから
216 :
名も無き被検体774号+:2012/09/08(土) 23:43:17.86 ID:zCcBrtEA0
支援
217 :
名も無き被検体774号+:2012/09/09(日) 00:14:46.14 ID:Sdo0OhY00
あげ
age
219 :
名も無き被検体774号+:2012/09/09(日) 09:32:34.19 ID:Fm0oTY2c0
体が、冷たい。
…あれ、意識がある。でも真っ暗だ。
そっか、目を閉じてるのか。
ゆっくり、目を開けてみる。
私を覗く顔が何人か見えたが、ぼやけていてよく分からない。
「おお、成功だ」
どよめきが起きた。何が成功したのだろう。
「さっそく皇帝陛下に申し上げるんだ」
「はい」
皇帝陛下?
…そうか、母のことか。
どうして生きているんだろう。
私はあの時、毒を飲まされて、死んだ。
…だめだ、考えれば考えるほど頭が痛くなる。
意識も遠のいていく。
220 :
名も無き被検体774号+:2012/09/09(日) 09:34:43.46 ID:Fm0oTY2c0
次に意識が戻った時は風が吹いていた。
目を開けると、私は外にいるのが分かった。月が見える。
起き上がってみると、
すさまじい眩暈に襲われたので、おさまるのを待った。
ここは、どこだろう。
どこかの公園のようだ。
近くには噴水もあるし、外灯もある。
私はベンチで寝ていたようだ。
どうしてここにいるのだろう。
訳が分からず、私はベンチに座りなおした。
…そうだ、ユトは、どうしているんだろう。
そういえば、私が処刑されるときに、ユトの姿があった。
きっと、悲しんでるだろうな。
いや、どうだろう。
彼は、私をこの国を裏切った女と思っているのかもしれない。
処刑の時に来たのも、そんな女が息絶える姿を嘲笑いに来ただけなのかもしれない。
でも、会いたい。
話せなくてもいいから、せめてユトだけは見たい。
221 :
名も無き被検体774号+:2012/09/09(日) 09:36:40.45 ID:Fm0oTY2c0
私は立ち上がった。ユトに会おう。
再び眩暈に襲われたが、なんとか体勢を立て直し、公園を出た。
そういえば、ユトの家はどこだろう。
以前、西区のヒュリ団地に住んでいるとは聞いたことがある。
住所も教えてもらったが、思い出せない。
ヒュリ団地には、どうすれば行けるだろう。
そもそもここがどこなのかも分からない。
適当に歩き回っていると、ここが首都ルーエンではないことが分かった。
ここは、ウェント市だ。
トルン最北端の港町、私がサキと出会った場所。
そういえばこの通りは見覚えがある。
この先を行くとコンビニがあるはずだ。新聞を買いに行ったことがある。
何となく懐かしくなって、そのコンビニに入った。少し内装が変わったようだ。
新聞の置かれている場所に行って、新聞をちらっと見た。
…あれ?
222 :
名も無き被検体774号+:2012/09/09(日) 09:38:04.41 ID:Fm0oTY2c0
今年は確か帝紀2678年だ。
新聞には帝紀2691年と書かれている。13年もズレている。
ふと、窓に反射した子どもの姿が目に入った。
あれ、いつの間に子どもが。
しかし廻りには子供なんていない。
もう一度窓を見ると、やはり子どもの姿が見える。
…あれ?
私の姿が窓にはない。
窓に映っているのは、子どもだけだ。
窓に映った子どもと目が合った。
窓に向かって手を振ると、その子も手を振った。
嘘だ。
なにが、いったい、どうなっているの。
そういえば、自分の背が低いことに今さらだが気付いた。
店の一番上の棚には手が届きそうもない。
私はコンビニのトイレにかけこんで、鏡を見た。
鏡にはさっき窓で見た子どもが私を覗きこんでいる。
この子どもは私だ。
「嘘…」
つい発した言葉が、自分の声とは全く違うことにも気付いた。
私はたまらずコンビニを出た。訳が分からなかった。
223 :
名も無き被検体774号+:2012/09/09(日) 09:39:15.61 ID:Fm0oTY2c0
気付いたら、サキとちょっとの間暮した山にいた。
今は夜で見えないが、海の向こうにはユウダ国のイェフト島がある。
とりあえず、落ち着こう。
まず私は何故生きているのか。
あの時、目が覚めたら、いろんな人に囲まれていた。
そういえば、「成功だ」と誰かが言っていた。
そして私はまた意識を失って、
気付いたらウェント市の公園にいた。
帝紀は13年も進んでいるし、私の体はマホでなくなっていた。
私が処刑されて、目が覚める間に13年もの月日が流れて、
この姿になったのだろうか。
224 :
名も無き被検体774号+:2012/09/09(日) 09:40:36.38 ID:Fm0oTY2c0
もうどうでもいい。
とりあえず私は自由になった。
こんな体でも、私は私だ。
人生をやり直したと思って、今からやり直そう。
私は木の根の近くで横になった。
サキとはここで一緒に寝ていた。
そういえば、サキはどうしているだろう。
あの時棄ててしまった私が心配する資格なんてないのかもしれない。
ユウダに行こう。
サキに会いたい。
13年も月日がたっていれば、今頃中学1年生ぐらいになっているだろう。
どんな女の子になっているのだろうか。考えるとワクワクしてきた。
そういえば、私の夢は、ユウダでトルンと戦うことだった。
サキの成長を見るためにも、ユウダで暮らそう。
そして、トルンを、私の母を、倒そう。
225 :
名も無き被検体774号+:2012/09/09(日) 09:45:24.30 ID:zzOu2t8A0
待ってた!
おーやっぱりホミンはマホだったのか!
続きが気になる
227 :
名も無き被検体774号−:2012/09/09(日) 10:47:03.56 ID:U0unSxN1i
C
228 :
名も無き被検体774号+:2012/09/09(日) 11:12:05.21 ID:r03XWaRI0
きたきた
229 :
名も無き被検体774号+:2012/09/09(日) 12:32:52.92 ID:zxg0Y2MA0
230 :
名も無き被検体774号+:2012/09/09(日) 15:20:49.59 ID:Fm0oTY2c0
この続きも書いてるんだけど、
その先をどう進めようか悩んでる。
どうやって終わろうかも悩んでる。
231 :
名も無き被検体774号+:2012/09/09(日) 16:54:12.48 ID:zxg0Y2MA0
終わり方考えるのって難しそう…
ま、どんなまとめ方でもとりあえず最後まで読みたいな!
時間かかってもいいので、楽しみにしつつ気長に待ってます!
232 :
名も無き被検体774号+:2012/09/09(日) 23:03:44.23 ID:Fm0oTY2c0
ここに書き込むと、訂正ができないから悩む。
続きを書いていると、「あ、こういうストーリーのほうがいい」と思っても、
以前書いたことと矛盾してしまうことがあるからね。
だからここに書き込むときは、
今後のストーリーを書くときに矛盾が生じないだろうと判断したら書き込んでる。
なんか、こういう話があったらいいな、というのがあれば教えてください。
マホの小さい頃のお話とか、番外編的みたいなものでもいいですw
233 :
名も無き被検体774号+:2012/09/09(日) 23:47:09.41 ID:7AscXsXy0
マホとユトの出逢いから仲良くなるまでのもうちょっと詳しい話(回想?)とか、
ホミンが来るまでのサキとムドの話とか、
サキが両親についてどう思ってるかとか、
気になるというか、読んでみたいところはいろいろありますw
234 :
名も無き被検体774号+:2012/09/09(日) 23:49:23.45 ID:Fm0oTY2c0
>>233 ありがとう!
今のところつまらんストーリーになってるけど、
なんとかいいストーリーを考えてるから、気長く待って下さい(土下座
上から目線みたいですいません。
ちょっとエロチックなシーンもいれようかな、とも考えています。
235 :
名も無き被検体774号+:2012/09/09(日) 23:54:38.96 ID:Rsl5DIF10
ずーっと待ってます!!
なので、頑張って書きあげてください!
236 :
名も無き被検体774号+:2012/09/10(月) 01:02:53.80 ID:2JKPUmhk0
まぁ凝ってるとは思うけど、正直
っまんないね。
てか、感動を狙って
るのがあからさまで気持ち悪い。
がくせいだか何だか知らねぇけど、こ
んな小説晒してんじゃねえよ。
ばかだろうから言ってやる。やめ
れ、小説書くの。下手なんだよ。
>>1は自分でも面白いと思ってんだろうが
大きな間違いだ。くそつまらん。おれは
好かん。むしろ、
>>1の存在自体が大
きらいなんだよ。
237 :
名も無き被検体774号+:2012/09/10(月) 05:54:59.48 ID:crPhaSwn0
嫉妬は最大の賛辞
238 :
名も無き被検体774号+:2012/09/10(月) 07:10:26.19 ID:sU1Wwvyj0
つまんないなら読まなきゃいいのにww
ヒント:縦読み
お疲れ
>>1 流し読みしたけど中3の時書いたっていうのは嘘だな
もしくは中3のころの文章を手直ししたならわかるが
確かに完結させるのって凄く難しい
だからグッジョブ
最後まで頑張れ
とりあえず完結させれば賞にでも送るなり他のサイトに投稿するなりできるし
一書き手として応援してるぞ
ファンタジーだし小説家になろうでも投稿してみれば?
昔の情熱が蘇ったら作家とかも目指せるぞ
241 :
名も無き被検体774号+:2012/09/10(月) 12:07:03.22 ID:6TPyjz5C0
まさか縦読みとは
気づかずイラついちゃった
243 :
名も無き被検体774号+:2012/09/10(月) 15:16:57.34 ID:2JKPUmhk0
縦読み成功して嬉しいわ
読んでてニヤニヤしちまったw
みんなまだまだだな
244 :
名も無き被検体774号+:2012/09/10(月) 18:49:20.00 ID:Z6ulvXaR0
SF小説書いてる高校生です。
やはりすごいですね・・・
245 :
名も無き被検体774号+:2012/09/10(月) 22:37:50.87 ID:jC5j5/Ph0
船はタダで乗せてもらった。
6歳以下はタダらしいが、今の体では8歳か9歳ぐらいが妥当だろうか。
とりあえず6歳と言ってごまかして乗った。
罪悪感はあったが、お金がないのだから仕方がない。
港に着いたら、そこからは歩いてフィラレル市に行くことにした。
山越え谷越えの厳しい道を通り、ようやくフィラレル市に着いたのは2週間後だった。
足は棒のようだった。
何も食べずに生きてこれたのは、自分がロボットであるからということに先週気付いた。
それでも疲労感だけは人間並みに感じる。
頭はフラフラするし、なによりエネルギー不足だ。
どこか故障でも起きているのかもしれない。
246 :
名も無き被検体774号+:2012/09/10(月) 22:38:48.07 ID:jC5j5/Ph0
早く、サキに会いたい。
その気持ちが疲労を抑えて足を前に進めていた。
サキを置いた家は…そうだ、あの家だ。
庭に入ると、足ががくりと崩れた。
疲労が限界なのだ。
地面に倒れると、白いユリの花が見えた。
朝焼けに照らされて、ピンクがかった白いユリ。
あの時と同じだ。
意識が、遠のいていく。
サキ、サキ、サキ。
それから目覚めた時は、
私の記憶はすっかり消え、ホミンとして生きたのだ。
247 :
名も無き被検体774号+:2012/09/10(月) 22:40:23.36 ID:jC5j5/Ph0
「ようやく思い出してくれたか、娘よ」
チヨが少し笑顔になった。
「どうして、どうして私を、生かしたんですか」
マホが問うたが、
チヨは黙ったまま何も答えなかった。
「私、出ていきます」
マホは立ち上がって部屋から出ようとした。
「待て」
マホはチヨの声を無視して、
ドアに向かって歩き続けた。
「待たぬか。ユトがどうなってもいいのか」
マホの足が止まった。
しかし、チヨには背を向けたままだった。
「ユトは、今どこにいるんです」
そういえばあの時、
ユトも一緒に私と捕まったのを思い出した。
「それは言えぬ」
「どこにいるんです」
マホがチヨを向いた。
マホの目が真剣であったことに、チヨは少し驚いた。
248 :
名も無き被検体774号+:2012/09/10(月) 22:41:20.78 ID:jC5j5/Ph0
「そんなに彼を慕っているのか、マホ」
「はい。ですから今、彼の居場所を問うているのです」
「なぜだ。なぜ、彼なのだ」
「それは、わかりません。ただ、私が好きだからです」
「ははは、それはそれは」
チヨは軽く笑った。
顔の皺が目立った。
「彼は今、地下の尋問室にいる」
「どうして。彼は何もしていないわ」
「何かしたから捕えておるのだ」
「お母様が逮捕するよう命令したのですか」
チヨはまた何も答えなかった。
249 :
名も無き被検体774号+:2012/09/10(月) 22:42:28.73 ID:jC5j5/Ph0
マホは再びドアの方へと歩き始めた。
「待てと言っている」
マホは無視してドアノブに手をかけた。
「どこへ行こうとしているのだ。彼を助けようとしているのか」
「はい」
そう言って、マホはドアを開けた。
ドアの向こうには衛兵が3人いた。廊下で待ち伏せしていたようだ。
マホはその衛兵に捕えられ、再び部屋に戻された。
「お前は王族だ。一般人とは自由に接することなどできぬ」
「私が王族?」
「そうだ、娘よ」
何を言う。私はここを捨てたのだ。
「今日からは王族としてここで暮らしてもらう」
「理解できません。私はここを捨てました」
「なら私が拾おう。お前はここの人間だ」
「違います」
「…お前に何を言っても無駄だな。頑固で融通のきかぬところは父に似ているのだね」
チヨは乾いた笑いをした。
「衛兵、この者を部屋へ連れていけ」
チヨは手をパンパンと叩いて、廊下にいる衛兵に命令した。
マホはなす術もなく連れて行かれた。
250 :
忍法帖【Lv=11,xxxPT】 :2012/09/10(月) 22:42:43.04 ID:imbOZ0Nz0
支援
251 :
名も無き被検体774号+:2012/09/10(月) 22:44:16.10 ID:ZSG6OXJN0
ホミンわろうた
252 :
名も無き被検体774号+:2012/09/10(月) 22:44:58.73 ID:jC5j5/Ph0
この部屋は知っている。
私が昔暮らしていた部屋だ。
部屋の内装はあの時と全く変わっていない。
この14年間、ずっとそのままにしていたのだろうか。
窓の近くには勉強机がある。
教科書や問題集もそのままに置いてある。
その近くの壁には制服がかかっている。
窓から見る景色もほぼ同じだった。
でもビルが少し増えたかもしれない。
ベッドに横になってみた。
ユトとメールをするときは、このベッドでいつもメールを打っていた。
返信に気付かず、携帯電話を握りしめたまま寝たことも何度もあった。
そして次の日の朝には、「寝た?」「起きてー」というユトのメールを見ていたものだ。
すべてが懐かしかった。
253 :
名も無き被検体774号+:2012/09/10(月) 22:46:25.24 ID:jC5j5/Ph0
しばらくベッドで横になって天井を見ていると、ドアをノックする音が聞こえた。
マホはベッドから起き上がった。
「どなたですか」
「俺だ」
あの声には聞き覚えがあった。
ダイだ。
「久し振りだな」
ダイはドアを開けて部屋に入ってきた。
あの時に比べて背が大きく、体もがっしりしていた。
「ダイ…お兄さん…」
「へぇ〜、こんな姿になってたのか、マホ」
ダイがマホの頭をがしがしと触ってくる。
「記憶も戻ったそうだな」
「はい」
「そうか、それなら戻れるんだな」
「戻れる?何がですか」
「へ?そりゃ元の体にだよ。なんだ、聞いてないのか」
―…元の体?
「いいえ…聞いてないです」
「そうか、そりゃちょうどいい。ちょっとついてこい」
254 :
名も無き被検体774号+:2012/09/10(月) 22:47:59.28 ID:jC5j5/Ph0
連れてこられたのは地下2階にある倉庫だった。
何が所蔵されているかは知らないが、
主に研究者や科学者、宮内省などが使用する場所だったので、
マホはここに来たことは殆どなかった。
がっちりと重そうなドアを何回もくぐりぬけ、
たどり着いたのは冷凍室だった。
氷点下30℃に保たれているらしい。
事前にコートを渡されたが、やはり寒い。
冷凍室にはたくさんの氷の塊があった。
綺麗に透き通っている。
いったい何に使うのだろう。
「あれを見ろ」
ダイが部屋の奥にある氷を指差した。
ここからだとちょっとよく見えない。
マホは部屋の奥に行った。
255 :
名も無き被検体774号+:2012/09/10(月) 22:50:07.20 ID:jC5j5/Ph0
氷の中には、裸の少女がいた。
安らかに眠った少女がいた。
マホだ。
「ずっとお前の体は保存してたんだよ」
「どうして…」
「お前の極刑が決まった後、チヨ皇帝陛下は悲しんでおられた。
やはり実の娘を生かしたかったんだろうな。だから陛下はこういうことをした。
処刑に使われた毒は一時的に仮死状態にするもので、
お前が仮死状態になったあと、陛下は秘密裏にロボットの作成を科学者に命じた。
そしてお前の『意識』と『記憶』をそのロボットにいれた。そうすれば、姿・形は変わっても娘は生きていることになる」
「…」
マホには信じがたい話だった。
「そんなもんだろうよ、親ってのは」
「・・・・」
「それとロボットに使われている髪の毛とか肌は、マホのDNAを元にしてつくられているからな」
マホは自分の髪の毛を触った。
「そしてお前が戻ってきたわけだ。この体にも戻ってもらう」
「何故です」
「そりゃ俺だってロボットと結婚するのは嫌だよ」
「…はい?」
私の知らないところで、
いろいろと話が進んでいるようだった。
256 :
名も無き被検体774号+:2012/09/10(月) 22:51:21.63 ID:jC5j5/Ph0
夜。
このベッドで寝るのは久々だった。
しかし、マホは寝ようにも寝られなかった。
ユトはどうしているんだろう。
まだ尋問室で尋問を受けているのだろうか。
助けに行きたいが、衛兵があちこち監視しているので到底無理だ。
ダイと結婚―…。
昔、こういう話がなかったこともなかった。
その話を初めて聞かされたのは、まだ小学校低学年だったので、別に気にもしていなかった。
ただ、よく話す年上の異性はダイしかいなかったので、幼いながらも少しは好意を持っていたのかもしれない。
私はこのままダイと結婚させられるのだろうか…。
ダイお兄さんの話だと、お母様もそのことには賛成しているようだ。
257 :
名も無き被検体774号+:2012/09/10(月) 22:52:47.62 ID:jC5j5/Ph0
私はダイが恐い。
14年前、私の極刑に一番賛成していた。
王族裁判の時も、私を最も糾弾していた人だ。
あの時の彼は血気盛んな年頃だったからあんな風に糾弾するのだろうと気にしなかったが、
今となると、最も私を殺そうとしていたのはあいつなのだということに気付いた。
お母様は、そんな私を助けてくれた。
毒は一時的に仮死状態になる毒で、
仮死状態になった私を今のロボットの姿に変えた。
記憶を失くしたのは何故だろう。
ダイお兄さんによると、私をロボットに作り替える時点で、記憶を消すつもりだったらしいが、
少し手違いで失敗して、記憶は残ったらしい。
しかし、私がサキの家の前で倒れたあと、
完全に記憶がなくなったようだ。
記憶を失くさせようとした理由は何だろう。
これはダイお兄さんも分からないとのことだった。
258 :
名も無き被検体774号+:2012/09/10(月) 22:55:09.10 ID:jC5j5/Ph0
話が急展開すぎるし、ちょっと常識外れみたいな感じもあるから、
今日投下した文章は不出来かも。
259 :
名も無き被検体774号+:2012/09/10(月) 23:05:42.97 ID:jC5j5/Ph0
260 :
忍法帖【Lv=14,xxxPT】 :2012/09/11(火) 00:00:36.69 ID:utmTi2So0
続きまってるぜい
261 :
名も無き被検体774号+:2012/09/11(火) 01:33:16.99 ID:8b9t2PIp0
ほす
いやいや面白いよ
支援
待ってた!
ウェント市山側に見えるの、マッターホルン?
ダイ、まさかの許嫁とは。処刑に賛成していたから敵の手先かと思ってた
264 :
名も無き被検体774号+:2012/09/11(火) 21:18:18.96 ID:5BODxRzi0
ダイとマホが結婚!!???
これは期待
265 :
名も無き被検体774号+:2012/09/12(水) 16:32:48.28 ID:0/s5dh7c0
ほす
266 :
名も無き被検体774号+:2012/09/13(木) 20:49:53.37 ID:XljZeol70
土曜日にテストがあるから、
それまで投稿できない…orz
267 :
名も無き被検体774号+:2012/09/13(木) 21:00:46.25 ID:nc08zXA70
ほすってるからおk
気長に待ってるからまずテストがんばって
こっちは自分の納得いくようにやってちょ
きっとそのほうが出来上がり面白いだろうしね
>>266 テスト勉強に集中してな
保守しつつ楽しみに待ってる!
269 :
名も無き被検体774号+:2012/09/14(金) 00:30:04.91 ID:3qPb8JLe0
さっそくほしゅ
270 :
忍法帖【Lv=14,xxxPT】 :2012/09/14(金) 00:31:20.31 ID:irSY/VUF0
ほ
271 :
名も無き被検体774号+:2012/09/14(金) 16:29:20.49 ID:nAc5QvYt0
ほす
272 :
名も無き被検体774号+:2012/09/14(金) 22:27:04.03 ID:vm3V3ElA0
ほすほ
273 :
名も無き被検体774号+:2012/09/15(土) 00:54:49.25 ID:wAFkzlnu0
ほ
274 :
名も無き被検体774号+:2012/09/15(土) 06:58:03.76 ID:5LxkvKwC0
ほみ
ほみほみ
276 :
名も無き被検体774号+:2012/09/15(土) 23:26:18.35 ID:EjOq7gnr0
ほみん〜
277 :
名も無き被検体774号+:2012/09/16(日) 00:01:48.79 ID:D/uptKQv0
明日あたり投下できると思う。
今ガリガイ書いています。
278 :
名も無き被検体774号+:2012/09/16(日) 00:03:10.71 ID:41fXDfql0
楽しみにしてますー
279 :
名も無き被検体774号+:2012/09/16(日) 13:57:49.76 ID:cJqrMwuK0
楽しみにしてるけど
無理せんでな
それとも締切がないと書けないタイプなのかなw
280 :
名も無き被検体774号+:2012/09/16(日) 20:35:11.34 ID:/1igUqFo0
「おはようございます」
ドアの向こうから誰かの声が聞こえて目が覚めた。
もう朝か。
「あ、はい、どうぞ」
ドアが開いた。
王族の世話をしている人だった。
かなり若い女性なので新人だろうか。
「朝食のご用意が整いましたので、こちらの机に置いておきますね」
女性が朝食を机に並べ始めた。
マホはベッドから降りて、席に着いた。
見た感じは20代になったばかりか、
もしかしたらそれより下かもしれない。
よくよく考えてみると、マホより年下なのだ。
マホは今年で28になるはずである。
朝食はパンやサラダといったものだった。
個人の部屋で食べるのが慣習だが、たまにチヨの気まぐれで一緒に大きな部屋で食べることもある。
281 :
名も無き被検体774号+:2012/09/16(日) 20:35:56.78 ID:/1igUqFo0
「食べながらで構いません。今日の予定を申し上げます。…午後1時より手術の準備に入ります」
「え?」
「手術です。どのような手術かは存じませんが、部屋にお医者様などがお迎えにあがりますので、準備をお願い致します」
「は、はい…」
たぶん、元の体に戻される手術だろう。
「そして午後7時より、チヨ皇帝陛下の部屋にて王族の夕食会がございます。
手術後となりますが、問題ないとのことです。そして、本日よりお世話係となりますセリンと申します」
「分かりました」
セリンが去り、朝食を食べ終えた後は再びベッドに横になった。
これから元の体に戻るのか。
マホは昨日見た氷の中に入った自分の体を思い浮かべた。
282 :
名も無き被検体774号+:2012/09/16(日) 20:36:30.75 ID:/1igUqFo0
予告通り、1時前に医者たちが部屋に入ってきた。ダイの姿もあった。
地下の手術室に連れてかれると、
すでにマホの体が手術台にあった。ほぼ解凍済みだそうだ。
マホは頭にいろんな装置をつけられて、
そのまま眠りについた。
次に目を覚ます時は、温かい血の通った肉体に戻れるのだ。
283 :
名も無き被検体774号+:2012/09/16(日) 20:37:32.35 ID:/1igUqFo0
目をゆっくりと開けた。
私を覗く医者の顔が見える。
目を開けたことに気付いた医者は、口ぐちに「良かった」「成功だ」と言った。
そうか、私は元の体に戻れたのか。
温かい血の通った肉体に戻れたはずだったが、ちょっと寒かった。
しばらくして、それは自分が裸だったからだということに気付いた。
手術室から出されて、自分の部屋のベッドへと移された。
部屋には既に医療器具が装備されていた。
時計をチラッと見ると、5時だった。
4時間近くも手術があったのか。結構大きな手術だったのだろう。
医者たちが出ていくと、しばらくしてお母様が入ってきた。
「久し振りだな」
「…はい」
ちょっと声が出しにくかったが、
声は自分の声になっていた。
ホミンの声に聞き慣れていたので、少し違和感があった。
284 :
名も無き被検体774号+:2012/09/16(日) 20:38:26.54 ID:/1igUqFo0
「なに、すぐに体力は回復するそうだ。今日の夕食会には車いすで出席しなさい」
「はい…」
「お前はもう聞いたそうだな」
「何を…ですか…」
「結婚の話だ」
そういえばお母様もその話に賛成していたと言っていた。
「結婚するにも、その顔じゃ世間にバレてしまうから、来週には整形もしてもらうからな。」
「…なんですって」
「なに、そんな大規模に顔を変えるわけじゃない」
「…」
「お前が結婚に反対しようと、もう決まったことなのだ。今日の夕食会で、王族内で正式にそれを発表する」
そう言って、チヨは出て行った。
285 :
名も無き被検体774号+:2012/09/16(日) 20:39:13.00 ID:/1igUqFo0
しばらくして、朝に来たセリンが車いすを持ってきた。
「なんだか…朝のあの可愛いロボットがこのように変わるんですね」
マホを車いすに乗せながら言った。
「体調はどうですか?」
「大丈夫。ありがとう」
声もようやく普通どおりに出せるようになり、だいぶ体も軽くなった。
「セリンさん、でしたっけ」
「あ、はい、セリンです」
「いくつですか」
「今年で20になります」
私の7年後に生まれたのか。
私の処刑の話など、彼女にとっては殆ど記憶にもないだろう。
「じゃぁ、ここの新人さんだね。これからよろしくね」
「え、あ、はい」
セリンはペコリと律儀に頭を下げた。
286 :
名も無き被検体774号+:2012/09/16(日) 20:40:18.59 ID:/1igUqFo0
セリンに車いすを押してもらって、チヨの部屋に着いた。
既に他の王族は席についていた。
マホが一番最後に到着したようだ。
マホは王族の人たちの顔を見渡した。
老けていたり、大人になっていたり、結婚して赤ちゃんがいたり、と時間を感じさせた。
「じゃぁ、はじめようか」
チヨが立ち上がった。
「今日はよく来てくれた。礼を言う。今日は実は大事なことを言わねばならない。
皆も耳にはしているだろうが、我が娘マホと甥のダイの婚約が決まった」
拍手が起きた。周りにいる世話人も拍手をしている。
「今日はそのめでたい報告も兼ねての夕食会だ。では始めよう」
チヨはワインの入ったグラスを手にとって、立ったまま乾杯のポーズをした。
他の王族も倣って、グラスを手の上にあげて乾杯をして、食事を始めた。
287 :
名も無き被検体774号+:2012/09/16(日) 20:40:56.51 ID:/1igUqFo0
マホは食欲が湧かなかった。
まだ体調は完全には回復していない。
近くにあったパンを口に入れようとしたが、
途端に吐き気がしたので、パンを皿に置いた。
「大丈夫ですか?」
傍にいるセリンが話しかけてくる。
「はい、ありがとう」
マホはチラッとダイを見た。
マホの向かい側の席にいる。
妹のリンと楽しく話しながら食事をしていた。
288 :
名も無き被検体774号+:2012/09/16(日) 20:42:07.26 ID:/1igUqFo0
結局、ほとんど何も食べず、夕食会を終えた。
他の王族の人とも会話をすることもなく、マホは部屋を誰よりも早く退出した。
セリンがベッドに寝かせてくれたあと、
しばらくセリンと会話した。
「あなたはどこで生まれたの」
「私はティレル県のウェント市です。田舎ですが、我が国最北端の港町として有名なんですよ」
なんだか私はウェント市に縁があるようだ。
「そうなんだ。ウェント市、私も行ったことあるよ」と言おうと思ったが、やめた。
「どうして、ここで働こうと思ったの」
「う〜ん…そうですね。このようなことを申し上げたら失礼かもしれませんが、私は王族に憧れていたのです」
「憧れていた?」
残念だけど、ここは全く羨望の対象に成りうる場所じゃないよ。
「はい。…失礼でしたね、すいません」
「ううん、そんなことないよ」
「…あの、マホ様」
セリンが身を乗り出して小声で話しかけてきた。
何だろう。
289 :
名も無き被検体774号+:2012/09/16(日) 20:43:03.54 ID:/1igUqFo0
「ダイ親王殿下とのご婚約について、どのようにお考えなのですか?」
こういう王族の恋愛沙汰は、
彼女のような人間にとっては気になって仕方のないものなのだろう。
「どのように…って、何とも思わないわ」
「え!意外です。でもダイ親王殿下、かっこいいですよね〜」
「そう、かな」
私にはあまりわからない。
でも私の死刑をせまるあの時の顔が忘れられない。
「なんだか素気ないですね。嬉しくないのですか?」
これは言いすぎたかもしれない、と思ったのか、
セリンがヤバイという顔をした。
「嬉しくないよ」
マホは気にせず答えた。
「え?」
「私は、彼とは結婚しない。そもそも、ここの人間じゃない」
290 :
名も無き被検体774号+:2012/09/16(日) 20:44:15.66 ID:/1igUqFo0
「そ、そうですか…。では、おやすみなさい」
「おやすみなさい」
セリンは戸惑った顔をしながら部屋を出た。
部屋が真っ暗になった。
目を閉じたときと変わらないくらいの暗さだ。
目を開けていても目を閉じているように感じられる。
オードはどうしているだろう。
いきなり私がいなくなって慌てているだろうな。
私が畏れ多くもチヨ皇帝陛下の娘であることを知ったら、オードは泡を吹いて驚くだろう。
サキとムドはどうしているだろう。
私がいなくなって、もう半年以上が経った。
サキはもう中2になるぐらいだろうか。
サキがムドに大事に育てられていたことを改めて感じ、マホは嬉しかった。
同時に、一時期は我が子のように育てたサキに会いたい、自分の手に戻したいという気持ちも少なからず生じた。
お母様もそういう気持ちがあって、私をここに戻したのかもしれない。
291 :
名も無き被検体774号+:2012/09/16(日) 20:45:58.15 ID:/1igUqFo0
翌朝もセリンの声で目が覚めた。
時計を見ると7時半であった。
「体調は、どうですか」
セリンがマホのベッドに近付いてきた。
「うーん、悪くはないよ。体のだるさもとれたみたい」
マホはベッドから起き上がった。
足を床につける。立ち上がれた。
でも何となく脚が重い気がする。
セリンの助けを借りながら、マホは席についた。
「マホ様、あの、お聞きしたいことがあるのですが…」
食事を始めた直後、セリンが恐縮そうに尋ねてきた。
「え?なんですか」
「あの、どうして、ロボットになっていたのですか?しかも王族から離れて暮らしていたそうですが…」
「え、えっと…」
「あ、でも、どういう経緯でロボットになったのかは、以前に説明があったんです」
「どんな説明でしたか」
「えっと、その…マホ様が謀反の罪で死刑になって…でもロボットにつくりかえられて…」
セリンはもじもじとしながら言った。
「あ、その、これはなんだか絶対機密らしいんです。外部に漏らすなとは言われて…」
なのに私に質問するなんて、よほど気になっていたのだろう。
王族に憧れを持っている彼女にとって、私の行動は理解できないに違いない。
292 :
名も無き被検体774号+:2012/09/16(日) 20:46:54.55 ID:/1igUqFo0
「あ、あの…申し訳ありません」
「ううん、大丈夫だよ。えっと、そうだね、何て言えばいいんだろう」
ユトのことも説明を受けたのだろうか。
そもそもセリンが受けた説明自体間違っているかもしれない。
マホは一から話し始めた。
話し終わると、セリンは目を丸くして黙っていた。
「…だ、だから、ダイ親王殿下とのご婚約を嬉しく思っていなかったのですか?」
「そうよ」
「そ、そうなんですか…。でも、どうしてなんですか。どうして、そこまでしてユトさんを」
「あははは。セリンさん、お母様と同じこと言ってる」
「え、え?」
「どうしてなのかな。それは自分にも分かんない。好きだからとしか、言いようがないの」
「へ、へぇ〜…」
「セリンさんには、好きな人はいないの?」
「わ、私ですか!?…え、えっと、ええ、まぁ、はい」
セリンが顔を赤らめて微笑んだ。
293 :
名も無き被検体774号+:2012/09/16(日) 20:48:11.72 ID:/1igUqFo0
朝食を終えて、マホは部屋でセリンに持ってきてもらった新聞を見ていた。
戦爭のことが書かれてあったのを見て、まだ戦争中であることを思い出した。
ユウダ国はイェフト島のような島だけでなく、本土も占領されており、
首都では大規模な空襲が行われているらしい。
ムドとサキのいるフィラレル市付近も大規模な空襲にあったと書かれていた。
リヒル市が焼け野原という記事もあった。
ふと、ある写真に目がとまった。
占領したある街の写真で、空襲で焼け野原となった写真である。
右端のほうに、おばあさんが泣き崩れているのが写っている。
強く握りしめた拳は、黒く焼けた地面に強くのせられていた。
14年前の感情がふつふつと戻り始めた。
母はこの写真を見ても何も思わないのだろう。
我が軍の戦勝写真だとしか思わないのだろう。
その写真をじっと見つめていると、ドアがノックされた。
294 :
名も無き被検体774号+:2012/09/16(日) 20:48:55.49 ID:/1igUqFo0
「どうぞ」
誰だろう。
「やあ、久し振りだねえ」
白髪の背の低いおじいさんが入ってきた。
服装から見て、恐らく医者か科学者かと思われる。
マホはポカンとそのおじいさんを眺めていた。
誰だろう。久し振りと言われるなんて。
「おやおや、忘れたのかい。薄情だねぇ」
その口調、その好奇心に満ちた目つき。
マホには思い当たりがあった。
「あ。あの時の、お医者さん」
ムドと病院に行ったときに、診療してくれた医者だった。
ホミンがトルン帝国産のロボットであると告げた人だ。
「おお、良かった、覚えていてくれたのかい」
「え、あの、どうしてここに」
「ん?そりゃぁわしはここが家だからだよ。家に居て何が悪いっていうんだい」
なんだか訳の分からない展開になってきた。
待ってたよ!
元の体に戻ったんだねぇ…文明がすごく進んでいてすごい!
296 :
名も無き被検体774号+:2012/09/16(日) 23:08:02.25 ID:cJqrMwuK0
297 :
名も無き被検体774号+:2012/09/17(月) 00:06:02.81 ID:R9INp94r0
すげー面白い
支援
298 :
名も無き被検体774号+:2012/09/17(月) 18:29:46.22 ID:XiTBWmPA0
ほす
299 :
名も無き被検体774号+:2012/09/17(月) 21:02:57.94 ID:R9INp94r0
☆
300 :
名も無き被検体774号+:2012/09/17(月) 22:14:16.97 ID:8JewZaZC0
おじいさんの名前はギツだった。
ギツは元王族で、チヨのおじさんだという。
ところが、マホが赤ちゃんの時に、ある事件をきっかけに王族身分を?脱された。
身分?脱後はもともと好きだった医療・科学・工学を専門にして働き、
国内でも有名な科学者となっていた。
ある日、ユウダにスパイとして派遣されることとなり、
ユウダでロボットの診療などに携わった。
フィラレル市に来たのも、スパイ活動の一貫だったそうだ。
フィラレル市の病院で、診療に来るロボットの症状などを書いた紙を見ていると、
記憶を失くしたロボットというロボットを発見した。
スパイとして送られるとき、
「記憶を失くしたロボットがいれば即報告せよ」と命じられていたので、すぐに報告した。ホミンである。
その話を聞いて、マホは呆然とした。この頃から自分を捕まえるために色々と策が講じられていたのか、と。
301 :
名も無き被検体774号+:2012/09/17(月) 22:15:00.63 ID:8JewZaZC0
「ちなみに、わしがロボットをつくったんだよ」
「え?」
「なんだ、それも知らなかったのかい」
「はい…」
「いやー、しかし、フィラレルでお前さんに会った時はうれしかったねぇ。
自分の作ったロボットが動いて話してるし、ちゃんと記憶がなくなるように設定されているか確認できたし」
「は、はぁ…」
「でもお前さん、ロボットになった最初の何週間かは記憶はあったんだろう」
「え、あ、はい」
そこまで知っているのか。
「んでまぁ、何かの拍子で記憶がなくなったわけだろう?」
「は、はい」
「それはわしが、わざとそうしたんだよ」
「え?」
どういうことだろう。
302 :
名も無き被検体774号+:2012/09/17(月) 22:16:15.00 ID:8JewZaZC0
「お前さんがロボットになったとしても、チヨが必ずお前を取り返しに来るというのは分かっていたからな」
「すみません、どういうことですか」
「…一から話そうかの」
「お願いします」
「お前が“仮”死刑になったあと、わしはチヨの命令でお前さんをロボットとして生き返すように言われたんだよ。
そりゃぁ時間もかかるし、途方もない努力をしたよ。10年ぐらい経って、ロボットの体ができたんだが、
このロボットにどうやってお前さんの意識をいれようか分からなかったが、数年かけてようやく成し遂げた。
…でもね、それを成し遂げたと同時に、わしはもう一つの技術も手に入れたんだよ」
「もう一つの技術、ですか」
「人間をロボットとして生かす方法がまず一つ。そして、ロボットを人間として生かす技術がもう一つの技術だ。
つまり、お前さんがロボットになった時点で、もう一度お前さんを人間として生かすことができるようになったんだよ。
…チヨだってバカじゃぁないから、そのことにすぐに気付いたんだね。恐らく、わしより早くに気付いていただろう。
わしは急いでお前さんの記憶を失くさせるという設定を変えて、しばらくは記憶があるように設定させた」
「どうしてですか」
303 :
名も無き被検体774号+:2012/09/17(月) 22:17:42.47 ID:8JewZaZC0
「これも話すと長くなる。一から説明しよう。
…チヨは、やっぱり自分の子供であるお前さんを愛していたんだろうね。どうしても、お前さんには生きてもらいたかった。
だからロボットにした。でも記憶があるロボットだとチヨにとっても周りにとっても都合が悪い。
だったらいっそ記憶を失くさせて、せめて命だけは、と思ったんだね」
「周りにとって…とは?」
「お前さん、大臣とか官僚とかが不正・賄賂をしていたことを知ってるだろう。王族なら誰でも知っていると思うが」
「あ、はい」
王族と政府の会議の時、賄賂の話などが飛び交っていたのを覚えている。
本当にこの国は腐っていると絶望していた。自分の母でさえも、その恩恵を受けていたのだから。
「記憶を失くさずに、そのままにした状態で外へ送り出すと、お前さんがその不正を明かす可能性があったんだよ。
ただでさえ、お前さんはこの国に逆らっていたわけだし、戦争にも反対していたからね。
だから政府にとっても王族にとっても都合が悪かったんだよ、お前さんの存在は。
だからお前さんが死刑になったのもそのせいなんだよ。
…そういえばお前さん、ダイを覚えているかい」
「はい」
304 :
名も無き被検体774号+:2012/09/17(月) 22:19:02.92 ID:8JewZaZC0
「ダイはどうしても帝位につきたかったから、お前さんの死刑に一番賛成したんだよ。
お前さんがいなくなれば、帝位につけるのはダイだからね。だからダイと癒着している官僚たちもダイを熱烈に支持したもんだよ」
「知っています」
「おや、知っていたのかい」
私はダイだけでなく、
血の繋がっている他の王族にも殺され、政府からも殺されたのか。
「でも、チヨはそれでもお前さんには生きていてほしかった。
お前さんがロボットになって、ロボットから人間に戻れると知ったチヨは、その思いがどんどん強くなった。
だからわしはお前さんの記憶がしばらく残るように設定して、できるだけここから離れたところに行かせようと思った。
ただでさえ、お前さんは逃げ出したことがあるわけだし、記憶を失くした状態じゃ、遠くに行くなんてできないからね。
でも、チヨのほうが一枚上手(うわて)だったね。チヨはお前さんがユウダに行ったという情報を掴んだんだよ。
そこでチヨはわしを含めたスパイを派遣して、記憶を失くしたロボットがいないか探しに行かせたわけだ。
どこかの家に拾われて、受診を受けるだろうからねぇ。全く頭のいい人だよ、お前さんのママは」
305 :
名も無き被検体774号+:2012/09/17(月) 22:19:59.94 ID:8JewZaZC0
「で、でも、私が人間に戻ることに、誰も反対しなかったんですか。不正とかが明るみに出るって」
「そうされないように、きちんとお前さんをここに閉じ込めているんだよ。
なに、万が一ここから抜け出して告発しようものなら殺せばいいからな。
殺したってお前さんはもともと死んでいることになっているんだから。
それにお前さんが生き返っても、帝位後継者はダイに決まっているわけだから、ダイ支持派も反対しなかったよ。
…そういえばお前さん、ダイと結婚するそうだね」
「…はい」
「おやおや、気の乗らない返事だね」
「結婚すれば、私が生き返ったことが世間にバレてしまうのではないでしょうか」
「なに、どっかの一般家庭の娘さんを嫁にしましたとか何とか言えばいいさ。
マスコミには顔を非公開ということにすればいいし、整形すればいいし」
「…」
「まだユトくんが諦めきれないのかい」
「ユトを、知っているんですか」
「あぁ、知ってるよ」
306 :
名も無き被検体774号+:2012/09/17(月) 22:21:35.04 ID:8JewZaZC0
「ユトは、ユトは今どうなっているんですか」
「さぁねぇ。明後日ぐらいにゃ死刑だとか何とかテレビで言ってたねぇ」
「し、死刑?どういうことですか」
「お前さんと同じ罪状だよ。国家機密漏洩だの売国だのスパイだの」
「どうして、無実の罪で」
「そりゃぁ、お前さんがここまでして反抗するのはユトの存在が原因でもあるんだから。
ユトくんさえ処分すればお前さんがおとなしくなると思ったからだろうね。
それにお前さん、ユトくんに手紙を送っただろう。その手紙に、あの癒着・賄賂・不正問題を書いて、
“これを告発してください。きっとこの国を洗い流してくれるはず。私の想いは、あなたに託します。”なんて書いただろう
>>195参照」
「は、はい」
「それをボナードが発見したんだよ」
そういえば、ユトはボナードに手紙の内容を教えたと言っていた。
「ボナードってのは仮名で、本当はソクドって言うんだよ。
まぁ、3年ぐらい前に辞めた人なんだけどね。ボナードは焦ったんだろうねぇ。
自分の不正も手紙にありありと書かれているからさ。
職を辞したとはいえ、バレたら逮捕されるわけだから、急いでそのことを官僚に伝えたんだろうね。
今はユトが火種なんだよ。政府にとっても都合が悪いし、王族にとってもお前さんをコントロールする上で都合が悪い。
だから始末するために、無実の罪をきせられて、死刑なんだろうねぇ」
頭が混乱した。
新しく分かったことが多すぎる。
307 :
名も無き被検体774号+:2012/09/17(月) 22:22:41.89 ID:8JewZaZC0
マホは頭を整理した。
とりあえず、私が死刑になったのも、
王族や政府にとって私の存在が邪魔だったからで、
今はユトの存在が邪魔らしい。
「処刑は、明後日なんですか」
「そうだよ。確か夕方にするとか言ってたのう」
止めなければ。
何としてでも阻止しなければ。
「おやおや、その目は“死刑を阻止してやる”って目だね」
「はい。止めます」
「どうやって止めるんだい」
「それは…」
案がないこともないが、
言ったらバレてしまうのではないか。
「あ、大丈夫だよ、お前さんの言ったことは秘密にしておくから」
「…いえ、言いません」
「なんだい、そんなにわしを疑っているのかい」
「そういうわけではありませんが、誰にも言わないつもりです」
「そうかい。でも1人じゃ何もできないよ。わしが協力しようか」
「え?」
どうもこの人はさっきから私の味方をしてくる。なぜだろう。
「おやおや、やっぱり疑ってるね。まぁいいさ。…お前さんが元気かどうか見に来ただけだから、今日はおいとまするよ。用があったら呼んでくれ。わしは7階の部屋にしばらくいるから」
そういって、ギツは部屋から出て行った。
308 :
名も無き被検体774号+:2012/09/17(月) 22:23:18.82 ID:8JewZaZC0
ユトが危ない。
何としてでも死刑を阻止しないといけない。
どうすればいいのだろう。
地下の尋問室…今は牢屋かもしれない…を強行突破して、
ユトと一緒に逃げるという手しかない。
強行突破…どうやってすればいいのだろう。
衛兵があちこちで監視しているはずだから、とてもじゃないができそうにない。
マホにある考えが浮かんだ。
309 :
名も無き被検体774号+:2012/09/17(月) 22:24:49.01 ID:8JewZaZC0
夜中1時。マホは部屋から抜け出した。
廊下を抜けて、エレベーターに乗って地下へと降りた。
牢屋へと通じる道は衛兵がやはり監視していた。
マホはバッグから手榴弾を取り出した。
昼、衛兵の武器倉庫からギツにとってもらったものである。
その他にも、小さい銃やスタンガンも取ってもらった。
マホは一旦引き返して、階段付近で立ち止まった。
ここで手榴弾を爆破させて、衛兵をここに呼び寄せる。
その間にユトを奪還するのだ。
手榴弾の栓に指をいれる。成功するかは分からない。
捕まったら捕まったでそれでいい。ただ、何もしないよりはマシだ。
栓を抜いた。マホは急いで手榴弾を階段の上へと投げて、全速力で階段から離れた。
間もなく、ものすごい爆音がした。爆風がすぐに追いかけてきた。咄嗟に身をかがめた。
衛兵の走ってくる音が聞こえる。
見つからないように柱の後ろに隠れた。
何人かの衛兵が通ったあと、マホは走って牢屋へと向かった。時間は限られている。
ユトはマホのいた牢屋にいた。
さっきの爆音で目を覚ましたのか、鉄格子から廊下を覗いていた。
すぐにマホと目が合った。
「…ユト、くん」
思わず立ち止まった。ユトも目を見開いてこっちを見ていた。
310 :
名も無き被検体774号+:2012/09/17(月) 22:26:02.67 ID:8JewZaZC0
マホは我に帰って、時間がないのだということを言い聞かせて、とりあえずこの牢屋の鍵をこじ開けることにした。
「お、お前、マホなのか」
ユトが尋ねてくる。
マホはただ頷いて、鍵をもぎとろうとしたがダメだった。
そうだ、銃で鍵を破壊しよう。
マホはバッグから銃を取り出した。
「耳を塞いで。そして離れて!」
そう言い放って、マホは鍵に向かって発砲した。
うまくいった。鍵はことごとく粉砕された。
「早く!時間がないから!逃げるよ!ついてきて!!」
「お、おう」
マホは廊下を左に曲がった。
右に曲がると階段があるので、衛兵に見つかってしまう。
廊下の突き当たりについた。
バッグからもう一つの手榴弾を取り出した。
「逃げて!」
マホは手榴弾を投げた。
ユトは訳も分からずマホの指示に従った。
すさまじい爆音と爆風がきた。
また衛兵がここに来るので、再び柱の影に隠れた。
衛兵が去った後、急いで階段の方へと向かった。
誰もいない。チャンスだ。早く1階に上がって外に出よう。
「マホなのか」
階段を駆け上がりながらユトが聞いた。
マホは横目でユトを見て頷いた。
311 :
名も無き被検体774号+:2012/09/17(月) 22:27:00.58 ID:8JewZaZC0
外に出れた。敷地内から出ても、まだ2人は走っていた。
「ちょ、ちょっと、きつい」
ユトが歩き始めた。マホも同じくきつかった。荒い息遣いがする。
「ほ、本当に、マホなのか…」
「…うん」
2人は見つめ合った。
こうやって見つめ合うのは14年ぶりだろうか。
ユトの顔は大人びていた。
でも顔自体はそんなに変わっていない。立派な青年になっていた。
「どうして…。い、今まで、どこにいたんだ…」
どうやらユトは、ホミンがマホであることをまだ知らないと見える。
「私、ホミンだよ」
「…はぁ?」
「話すと長くなるし、今は暇がないから急ごう」
「急ぐって、どこに行くんだよ」
「夜行バスに乗ろう。とりあえず、遠くに行くの」
「夜行バスって…お金ないぞ」
「大丈夫、あるから」
マホはリュックから封筒を取り出した。中には札束が入っていた。
当分はこれでやっていけるだろう。これもギドからもらったものである。
312 :
名も無き被検体774号+:2012/09/17(月) 22:27:48.06 ID:8JewZaZC0
「夜行バスか…。ここの近くならルーエン駅前に行けばあるだろ。5分ぐらいで着くはずだ」
「じゃぁ、そこに行きましょう」
2人は頷いて再び走り始めた。
バスに乗れた2人は、一番後ろの席に隣同士になって座った。
バスには殆ど人がいない。列車に乗ると、夜でも多くの人に見られる可能性がある。
「このバス、どこまで行くんだ?」
ユトが尋ねた。
「ウェント市みたい。明日の昼頃には着くって書いてた」
「そうか、ウェント市か。寒い場所だ」
マホは目を閉じた。ちょっと眠い。
「…ホミンがマホって、どういうことだ」
ユトがそう尋ねた時には、マホはすっかり眠りに落ちていた。
ユトはそっとしておいた。
313 :
名も無き被検体774号+:2012/09/17(月) 22:28:57.09 ID:8JewZaZC0
やけに寝心地がいいと思ったら、マホはユトにもたれかかっていた。
マホは慌ててユトから離れたが、ユトはぐっすり寝ていた。
そうだ、私もいつの間に寝てしまっていたんだ…。
マホは窓の外を見た。
日の出前なのか、少し薄明るい。少し雪も舞っているようだ。
再びユトにもたれた。温かい。
ユトとこうやって接触するなんて初めてではないだろうか。ユトの寝息が聞こえる。
これからどうしよう。
ウェント市に着いたところで、それ以上は行く場所がない。
ユウダに行くとしても、まだ戦争中なので、船・飛行機はない。
とりあえず、首都ルーエン市からできるだけ遠くに離れたい。
そうなると、ウェント市をさらに北上するか、内陸方面の東に行くしかない。
しかし、内陸に行けばきっと寒いだろう。
北部に位置するウェント市は、まだまだ春は遠い。
となると、北上して、海側に行く方がまだマシかもしれない。
マホはユトの手に触れた。
温かくて、大きな手。
握ろうとしたが、急に恥ずかしくなって手を離した。
314 :
名も無き被検体774号+:2012/09/17(月) 22:29:55.84 ID:8JewZaZC0
ウェント市に着いたのは午前11時半だった。大粒の雪が降りしきっている。
2人は海岸線に沿って、北へと歩いていた。
「そうか…。ホミンがマホだったとは、驚いた」
ユトはバスの中で聞いたことに驚きを隠せていなかった。
「私も驚いたよ」
「ここウェント市で、サキっていう女の子を助けたんだっけ」
「うん、そうだよ」
「そうか。その子に会ってみたいなぁ。もう14歳になるんじゃないのか」
「そうだね。…私と1個違いだ」
「はは、ホントだな。…マホ、15歳の中学生のままだな」
ユトがマホの顔を見つめた。
「え〜!子どもを見るような目で見ないでよ!」
そういえばマホは子ども扱いされるのが嫌いということをユトは思い出した。
マホが“おうち”という単語を使ったのを「子供っぽい」と言った時には、かなり怒っていた。
よくよく考えてみると、ホミンも子供扱いされるのを嫌がっていた。
315 :
名も無き被検体774号+:2012/09/17(月) 22:31:03.46 ID:8JewZaZC0
「すまんすまん。しかし寒いなぁ」
コートも何も着ていないので、この寒さにはこたえた。
「じゃぁ走ろうよ!走れば温かくなるよ。あの岩のあるところまで勝負しよう」
「面白いな。それじゃいくぞ」
「うん!…よーい、ドン!」
2人は一斉に走り始めた。
積もっている雪と砂浜の砂で少し足をとられる。
最初はいい勝負だったが、ユトのほうがやはり早かった。
抜かされたあとは、どんどん距離がついてしまい、結局大差でユトが勝った。
「マホ遅え〜」
息を切らしながらユトが言った。
何か言い返したいマホだったが、息をするだけで精いっぱいだったので、何も言い返せなかった。
「あれ、誰かいる」
ユトが指差した。
灯台の近くに人が座っている。釣りをしているように見えた。
「ちょっと行ってみるか。この先の道のことも聞きたいし」
「そうだね」
「じゃ、またあそこまで勝負するか」
「ええ〜!いいよ」
「行くぞ。よーい、ドン!」
2人は再び走り始めた。
316 :
名も無き被検体774号+:2012/09/17(月) 22:32:06.84 ID:8JewZaZC0
今度もまたユトが勝った。
息を切らしながら見知らぬ人と話すのも失礼なので、
少し手前でユトは止まって、マホのゴールを待った。
「ちょっと息を整えてから聞きに行こう」
ようやくゴールしたマホにそう言った。
マホはまた何も言えず、頷いて返事をした。
息が整ったあと、2人は釣りをしている人のところへ向かった。
「あの、すいません」
ユトが話しかけた。
釣り人はゆっくりと振り向いた。
40代ぐらいのおじさんだった。
「この先ずっとまっすぐ行けば、何という町に着きますかね」
「リノパ町だよ。どうしてだい」
「いえ、ちょっと」
「あんた達、どこから来たんだい」
「え、えっと、サリンク市です」
ユトはトルン南部の都市名を言った。
「ほー…。それはまた遠くからわざわざ。何しに来たんだい。若いというのにこんな田舎の北国まで」
「まぁ、ちょっと」
「なんだか内緒なことが多いね。おふたりさん、恋人とかなんかかい」
「え?あ、まぁ、はい」
「ははは。だったら駆け落ちとかそんなもんかい」
おじさんは大いに笑った。
317 :
名も無き被検体774号+:2012/09/17(月) 22:32:51.54 ID:8JewZaZC0
「いえ、そんなもんじゃないです」
はい、そんなもんです。
「そうか。まぁ事情があるんだろ。リノパ町に行って、何をするんだい」
「それは…」
ユトが答えに窮した。
「ははは。何も考えず来たのか。行き当たりばったりなところが、若くていい。
どうだ、俺の家に来ないか。リノパに住んでるから」
「え?」
「なに、遠慮するな。ちと小さくて汚いが、空き部屋ぐらいはある」
「いいんですか?」
「ああ、いいよ」
「あ、ありがとうございます」
ユトを頭を下げた。マホもそれにならった。
318 :
名も無き被検体774号+:2012/09/17(月) 22:33:50.41 ID:8JewZaZC0
リノパ町は小さな町だった。漁業が主な産業だ。
2人はおじさんと一緒に歩きながら、リノパの町を案内してもらった。
おじさんの名前はヨースという。
ヨースの家は小高い丘の上にあった。
小さくて汚い家と言っていたが、清潔感を感じる綺麗な家だった。
中に入ると、暖炉に薪をくべている少年の姿が見えた。
「おかえり、父さん。…あれ?その人たちは?」
少年が驚く。
「あぁ、ちょっと宿がないということでな。ここに泊めようと思って」
ユトとマホはペコリと頭を下げた。少年も頭を下げた。
「とりあえず、部屋は廊下の突き当たりにあるから、自由に使ってくれ。布団はあとで持っていくから」
ヨースは部屋へと案内してくれた。
部屋は2人入る部屋としては十分な広さだった。
マホは部屋に入ると、すぐにリュックを降ろした。
銃などが入っているので、それなりに重い。
かけっこで負けたのも、きっとこのリュックのせいだと思いたくなるが、
リュックがなくても負けているだろう。
「あんた達、腹減ってないかい。これから昼ごはんを食べるところだが」
「あ、はい、すいません」
2人はまた頭を下げた。
319 :
名も無き被検体774号+:2012/09/17(月) 22:35:04.83 ID:8JewZaZC0
昼食は温かいスープと魚とパンだった。
少しバランスが悪いように感じられたが、文句を言える立場ではない。
「…あれ、あの国旗…」
マホが呟いた。
隣のユトもマホの見ている方向を見た。
「あ、あぁ、すまん、片付けたほうがいいかな」
ヨースが立ち上がって国旗を片付けようとする。
「いいえ、構いません」
マホはユウダ民族の言語で言った。
ヨースと少年がマホを見る。
ユウダ民族の言語は今はユウダではほとんど使われていない。
トルン支配下にあった何百年前に滅びてしまったからだ。
しかし、最近はそれを復活させようとする動きもあり、話者数は非常に限られている。
「お嬢ちゃん、どうしてその言葉を」
「ユウダに暮らしていたことがあるからです。…もっとも、私はトルン人ですけど」
「そ、そうか」
「どうしてユウダの国旗を飾ってあるんですか。もしかして、ユウダ人ですか」
「…あぁ、そうだよ。すまん、君たちを騙すつもりはなかった」
「いえ、いいんです、むしろユウダ人であることを知って嬉しいです」
「…え?」
320 :
名も無き被検体774号+:2012/09/17(月) 22:35:39.79 ID:8JewZaZC0
「私達、ユウダに行きたいんです。戦争が終われば、ユウダに行くんです」
「ほ、ほう」
ヨースは驚いていた。
「そういえば、収容所には連れて行かれなかったんですか」
「ここはユウダ系の人がほとんどでね。
前の戦争が終わった後、ここには大幅な自治が認められているよ。
ここにいる限り、トルンにさえ従えば収容所には連れていかれないよ」
「そうなんですか」
そういえばこの町の雰囲気はユウダに似ている。
「マホちゃん、だったかな。マホちゃんはユウダと何か関係があるのかい」
「関係というか…まぁ、いろいろです」
「そうか。なんだかお二人さん、事情が色々ありそうだね」
「あははは、すいません」
「いいや、構わないよ」
ヨースはユウダ民族の言語で答えた。
321 :
名も無き被検体774号+:2012/09/17(月) 22:36:44.47 ID:8JewZaZC0
昼過ぎはリビングで色々な話をした。
少年の名前はシュン。マホより4歳上だった。
ヨース一家はもともとここに暮らしているユウダ系住民で、
ヨースの妻は前の戦争の時に死んだそうだ。
今は息子のシュンと2人暮らしだという。
マホも自分のことを簡単に話した。
「そうか、皇帝陛下の娘である君がユウダ人の赤ちゃんを助けるなんてな…」
ヨースが呟いた。
トルン人がユウダ人を助けるということが一番印象に残っているのだろう。
いわんや王族たるマホが助けるとは、ヨースには信じられないことだったのだろう。
「その子は、ウェント市で助けたのかい」
「はい」
「…確か、その子の母親がウェント市にいたそうだね」
「はい。なんでも収容所から逃げ出したそうで…。赤ちゃんが栄養不足だったそうです」
ヨースとシュンが目を合わした。どうしたのだろう。
「その子…えっと、サキちゃんだったかな、女の子だよね」
「はい」
再び2人は目を合わした。
322 :
名も無き被検体774号+:2012/09/17(月) 22:37:42.63 ID:8JewZaZC0
「えっと、その子のお母さんの顔とか覚えているかい、なんでもいいから思い出せるだけでも」
「え、え〜っと…」
必死に思い出すマホ。
「金髪で…背はスラリとしていました」
また2人は目を合わした。知っている人なのだろうか。
「前の戦争の時、俺ら一家は強制収容所にいれられたんだ。だが、妻が収容所から脱走して死刑になった」
ヨースが言った。まさか。
「妻は、生後間もない娘を抱いて脱走した。当時は食料が収容所にはろくになくてな。
娘は栄養失調に陥っていた。助けるために、妻は死刑覚悟で脱走したんだ」
ヨースは立ち上がって、棚に置いてある写真立てを持ってきた。
写真には金髪の背のスラリとした妊婦が微笑んでいる姿があった。
この人は、あの時の女性だ。
「見覚え、あるかい」
「はい…。あの時の、女性です」
2人の息を呑む音が聞こえた。
「じゃ、じゃぁ、チホは、生きているのか。シュンの妹は、生きているのか」
どうやらサキがチホという名前だったらしい。
「はい」
「そうか、そうか。君が、助けてくれたのか、そうか、そうか」
ヨースは涙声になりながら、マホの手を握りしめた。
323 :
名も無き被検体774号+:2012/09/17(月) 22:38:32.13 ID:8JewZaZC0
夜、ユトとマホは布団を並べて、隣同士で寝ながら話をしていた。
「ユトくん、私のことずっと探してくれていたんだね」
「ああ。ずっと探していた」
「本当にありがとう。…そういえば、私の処刑の時、見に来てたよね」
「マホ、俺のこと見えた?」
「ううん、毒を飲んだあと、倒れながら一瞬見たのを覚えてる」
「そうか」
「あの時、何て言ってたの?口を開けて何か言っているようだったけど(
>>195参照)」
「あぁ…」
ユトは少し照れくさそうに返事した。
「えー、何て言ったの」
「マホー!って叫んだんだよ」
「あははは。そうなんだ」
マホが寝返りを打って、ユトの顔を見る。
ユトも寝返りを打ってマホのほうを見た。
324 :
名も無き被検体774号+:2012/09/17(月) 22:39:24.60 ID:8JewZaZC0
「ねぇ、ユトくん」
「ん?」
「ルーエン芸術会館で会った時のこと、覚えてる?(
>>99以降参照)」
「あぁ、吹奏楽コンクールの時か。…すまんが、初めて会った時はあまり覚えてないんだ」
「え〜!まぁ、そうだよね」
「でも2回目以降は覚えてるよ。また話しかけてきたな、って」
「あははは。私、しつこかったかな」
「しつこいぐらいが、ちょうどいいよ」
褒め言葉なのかどうかわからない。
「まだトランペットは吹ける?」
ユトはトランペットをしていた。
「吹けるよ。実家にトランペットがある」
「そうなんだ」
「…母さん、どうしてるかなぁ」
そういえばユトの実家には母がいた。
同時に、マホもオードのことが気になった。
325 :
名も無き被検体774号+:2012/09/17(月) 22:40:12.48 ID:8JewZaZC0
「連絡、とってみる?」
「いや、やめておいたほうがいいだろう」
「そうだね…」
「オードのじいさん、元気にしてるかなぁ」
「してたよ。戦争が終わったら、またユウダに行くって言ってた」
「そうか。それなら、またいつか会えそうだな」
「うん…」
マホはあくびをしながら返事をした。
「眠そうだな。そうか、お子様はもう寝る時間だな」
「もう!子どもじゃないよ!」
「はははは」
「ひどい〜!」
マホは布団の中にもぐりこんだ。
どさっと何かがのしかかってくる感じがした。
布団から顔を出すと、ユトの腕だった。
どうやらハグしてきたようだ。
マホもユトのほうに腕をのばした。
ユトが大きいので、抱くには少しつらい。
そのままマホはユトの中で眠りに落ちた。
326 :
名も無き被検体774号+:2012/09/17(月) 22:41:20.41 ID:8JewZaZC0
目が覚めると、いつの間にかユトとは離れ離れになっていた。
時計がないので今が何時かは分からないが、
まだ暗いところを見ると、まだまだ起きるには早い時間だろう。
マホはユトの体の近くに寄った。
ユトは背中を向けているので寝顔は見れなかった。
背中は温かかった。
しばらくそうしていると、何かを割るような音が聞こえた。
薪を割る音だろうか。
マキを起き上がった。一気に冷たい空気が体を包んだ。
部屋を出てリビングに行くと、暖炉には既に火がついていた。スープもつくられている。
薪を割る音のする外に出てみた。
夜に雪が降ったようで、10センチぐらいの積雪していた。
薪の割る音は家の裏からしていた。
ヨースがいた。
「起こしてしまったかな。すまんね」
「いえ、いいんです。…何か、お手伝いできることがあれば」
「いやいや、大丈夫だよ」
ヨースが再び薪を割る。
327 :
名も無き被検体774号+:2012/09/17(月) 22:42:11.26 ID:8JewZaZC0
「今日はどうするかい。買い物とかをしたほうがいいんじゃないか」
「そうですね…。服も少し買いたいです」
「そうか。それなら今日は街に降りよう」
「はい、お願いします。…あ、お金はあるんで大丈夫です」
「ははは、本当にちゃんとしてる子だなぁ」
「いえいえ」
「そういえばシュンは起きていたかい」
「いえ…リビングでは見かけませんでしたが」
「そうか。あいつはいつまでも寝ているから困る」
そういえばサキもお寝坊だった。兄妹だから似ているんだろう。
「サキ…えっと、チホちゃんもお寝坊さんでしたよ」
「そうなのか」
「はい。よく遅刻ギリギリに学校に言っていました」
「ははは。シュンと一緒だな。あぁ、チホに会いたいもんだな」
「私もです」
「…行くかい?」
「え?」
「明日にでも…いや、今日にでも行こうじゃないか、そっちが良ければだが」
「ど、どうやってですか」
「なに、漁船で行くんだよ」
「でも、海軍に見つかりますよ」
「なに、漁をしているフリをしていればいい。見つかったら遭難したとか何とか言えばいい。第一、ここらへんはあまり海軍は来たりしない」
328 :
名も無き被検体774号+:2012/09/17(月) 22:43:07.71 ID:8JewZaZC0
ヨースの漁船は小さいものだったが、4人が乗るには十分な広さだった。
リノパ町から2時間もすれば、ユウダのイェフト島に着くという。
現在もイェフト島はトルン軍の占領下にある。
今日は視界が悪く、イェフト島はあまりよく見えなかった。
普段であれば見えるはずである。
イェフト島か…。マホは少し懐かしかった。
強制収容所があった場所だ。そういえば、ヨリの墓もあそこにある。
イェフト島に着いたら、墓参りをしておこう。
イェフト島が目の前に迫った頃、ヨードは漁船にユウダの国旗を飾って、イェフトの住民であるかのようにした。
今もし海軍に見つかっても、地元住民であると言い張ればすむからである。
イェフト島には難なく上陸できた。
イェフト島からユウダ国本土に向かうには定期船に乗る必要がある。
本土も海側は殆ど占領されているので、定期船がないかもしれないと恐れていたが、
住民の話を聞くと、定期船はきちんと通っているという。
港からバスで本土側の港へ向かった。
ヨリの墓参りは叶いそうになかったので諦めた。
329 :
名も無き被検体774号+:2012/09/17(月) 22:44:09.14 ID:8JewZaZC0
ユウダ本土に着いたのは日没前だった。
ここからはバスでユウダ国首都ロッダム特別市まで行くことになる。
もっとも、現在のロッダムはユウダ国の首都とは機能していない。
何週間か前にトルン軍によって制圧されたからだ。
現在の臨時首都はリヒル市にあるが、激しい空爆を受けている。
占領地域とユウダ国の行き来は民間人に限っては自由だが、非常に危険らしい。
境界付近では激しい戦闘が繰り広げられている。占領地域を超えようものなら、殺されかねない。
ヨースは早くサキに会いたいようだった。
シュンも同じ気持ちらしく、バスに乗っている間中はテンションが少し高かった。
ロッダム特別市は完全に廃墟と化していた。
強制収容所に連れて行かれる時のバスで通った時は近代的な建物の立ち並ぶ大都会だったが、
今は黒くすすけた建物がわずかにあるだけで、一面の焼け野原であった。
ロッダム市からは徒歩しか移動手段がない。
リヒル市に着くには徒歩で3日はかかる。
イェフト島できちんと食糧と水は買っていたので、心配はなかった。
占領地域と非占領地域との境界線付近は確かに銃撃戦が行われていた。
マホ達は比較的戦闘の激しくない山地方面を通った。
330 :
名も無き被検体774号+:2012/09/17(月) 22:45:09.51 ID:8JewZaZC0
山を下って、リヒル市に着いたのは1日かかった。
リヒル市も激しい空爆が行われた形跡があり、ユウダの敗戦色は日に日に濃くなっているように感じられた。
市内のあちこちには「ユウダ民族の独立と誇りを死守せよ」などといったスローガンが国旗と共に掲げられていた。
4人はリヒル市のホテルに泊まり、これまでの疲れを癒すことにした。
ユトとマホは同じ部屋になった。金銭的な関係で、1人1人の部屋をとるのは難しかった。
マホは部屋に入るなり、すぐにシャワーを浴びた。ここ数日、まともに入浴していない。
風呂からあがると、次にユトが入った。
山から降りるとき、ユトは足をとられてかなり汚れていた。
マホはベッドに大の字になった。テレビをつけようと思ったが面倒くさい。今にも寝そうだった。
いやいや、寝てはいけない。
確かこのあと、ヨースたちと一緒に夕食を食べる予定がある。
マホはベッドから起き上がってテレビをつけた。戦争のことしかしておらず、チャンネルも少なかった。
激しい空襲でテレビ局自体が消えたところもあるのだろう。
331 :
名も無き被検体774号+:2012/09/17(月) 22:45:44.96 ID:8JewZaZC0
しばらくしてユトが風呂から出てきた。
上半身裸という格好だったので、あわててマホは目を逸らした。
ユトはそれに気付いたのか、「しまった」と言って服を着た。
「夕食はいつからだっけ?」
ベッドに腰かけたユトが尋ねた。
「6時半から。あとまだ1時間半以上あるね」
「そうか。…あ〜、久々の風呂は良かった」
ユトがベッドで思いっきり体をのばした。
マホは寝てはいけないよ、と言った。
「チホちゃんって、やっぱりシュンに似ているのか?」
「考えてみると、そうかも。目つきとか似ているよ」
「ほー。そうか。ヨースさん達、会えるのを楽しみにしてるよなぁ」
「そりゃ久し振りに家族に会えるんだもの」
家族に会えるから楽しみ…。自分で言ったものの、理解ができなかった。
私は家族にも殺されかけたんだもの。
332 :
名も無き被検体774号+:2012/09/17(月) 22:46:31.07 ID:8JewZaZC0
夕食を終えた後、2人はすぐにベッドについた。
夕食の時にも既に眠くて仕方がなかった。
でもいざベッドにつくと、何となく眠れない。
「なぁ、いつ頃フィラレルに着くかな」
ユトが聞いてきた。
「う〜ん、バスを使えば半日で着くよ。でも爆撃で道がないところもあるみたい」
「そうか。なんだかフィラレルって聞くと、懐かしく感じるや」
「ふうん、そうなんだ」
「俺が使ってた家、まだあるかなぁ」
「さぁ…」
「あそこには十年以上住んでいたから、愛着がある」
「いい家だった?」
「ああ、良かったさ。安く借りれて」
借家に住んでいたらしい。
「そうだ、フィラレルに着いたら、俺の家においでよ」
「え?いいの」
「いいさ。ぜひ来いよ」
「うん!そうするね」
「楽しみにしてるぜ」
333 :
名も無き被検体774号+:2012/09/17(月) 22:47:35.93 ID:8JewZaZC0
「ねぇ、ユトくん…」
「なんだ?」
「そっちのベッドに、行っていい…?」
「ダメ、って言ったらどうする?」
「…別にいいよ」
マホは寝返りを打ってユトに背中を向けた。
「ははは、ふてくされるなよ。いいよ、来いよ」
「いいよー。もう行かない」
そういえばマホはいったんふてくされると頑固だった。
なんだかんだで、やはり15歳の子供なんだな、とユトは思った。
ユトは音をたてないようにして、マホのベッドに入り込んだ。
「きゃぁっ!…驚いた〜・・・」
マホが「きゃぁ」と言ったのは多分初めて聞いたかもしれない。
「そんなにふてくされるなよ」
マホに抱きついた。
ユトに背中を向けているので、マホがユトを抱き返すことができなかったので、
ユトの腕に手をおいた。太くて温かい腕だった。
334 :
名も無き被検体774号+:2012/09/17(月) 22:48:18.48 ID:8JewZaZC0
「ユトくん、温かいね」
「そうか?」
「うん。温かい。抱かれると、ホッとする」
少し恥ずかしそうな声でマホが言った。
「ユトくん、変な質問していいかな」
「ん?なに?」
「…私がいない間、他の人を好きになったりしなかったの?」
「ないよ」
と言った直後、ユトには何人かの女子の名前と顔が浮かんだ。
好きというより、気になったというだけだが。
「本当?」
「本当だよ」
ちょっと狼狽した感じに聞こえたかもしれない。
「良かった」
「ははは、疑われていたのか」
「ううん、そういうわけじゃないよ」
335 :
名も無き被検体774号+:2012/09/17(月) 22:48:59.01 ID:8JewZaZC0
「じゃぁ、マホは俺のこと好きか?」
「それは、当たり前だよ」
マホは殆ど「好きだよ」と言わない。
本人曰く恥ずかしいからだそうで、遠まわしに「好き」と答えるという。
「何が当たり前?」
ユトはなんとかしてマホに「好きだよ」と言わせたかった。
「何がって…もーう、いじわる。本当に何も変わってないね〜」
「ははは」
「…好きだよ」
マホはそう小さく呟いて、ユトの手をギュッと握り締めた。
「俺もだよ」
「俺もって、何が?」
マホが仕返しをしてくる。
ユト自身もあまり「好きだよ」とは言わないほうだった。
「何がって、…何だろうな」
「えー、自分だけ言わないなんて!こうしてやる!」
マホは急に寝返りを打って、ユトの方向を向いてくすぐり始めた。
336 :
名も無き被検体774号+:2012/09/17(月) 22:49:51.10 ID:8JewZaZC0
「あはははは!やめろやめろ」
ユトが抵抗するが、マホはやめなかった。
ユトも負けずにマホにくすぐりをかけた。
マホが抵抗したが、体の大きいユトには何ともなかった。
結局、マホがくすぐりをやめて勝負が終わった。
お互いの荒れた息遣いが聞こえる。
「楽しいね」
マホがユトに抱きつく。ユトも抱き返した。
・・・以下、マホの初体験描写が入るので割愛。
需要あれば書きます。
337 :
名も無き被検体774号+:2012/09/17(月) 23:37:06.20 ID:R9INp94r0
不謹慎だがパンツが溶けました
需要ならここにある
339 :
名も無き被検体774号+:2012/09/18(火) 23:08:30.43 ID:Y92tPju+0
ぽんぽん冷やすから早く!
340 :
名も無き被検体774号+:2012/09/19(水) 21:04:49.76 ID:ZlC4lRyv0
また土曜日に投稿する。
341 :
名も無き被検体774号+:2012/09/20(木) 09:34:06.65 ID:KXlMrDGd0
おう!待ってる
ほす
342 :
名も無き被検体774号+:2012/09/20(木) 21:16:44.41 ID:6432/yd00
まさかのサキの家族登場かよ
343 :
名も無き被検体774号+:2012/09/21(金) 03:10:00.96 ID:LVr6Aj3N0
ほす
344 :
名も無き被検体774号+:2012/09/21(金) 14:38:11.41 ID:i93ltZIp0
ほ
345 :
名も無き被検体774号+:2012/09/21(金) 20:13:28.35 ID:iE0KXj0T0
ほす!
346 :
名も無き被検体774号+:2012/09/22(土) 00:42:17.99 ID:HG+oRgzG0
さぁ土曜日がやってきました
期待の保守
347 :
名も無き被検体774号+:2012/09/22(土) 12:20:29.33 ID:f8aZNNa10
ほっす
348 :
名も無き被検体774号+:2012/09/22(土) 20:11:33.30 ID:i8kd/esf0
マホの初体験描写は、この小説が終わったあとの番外編とかで描こうと思います。
マホは少し違和感を感じて目が覚めた。下着の位置がズレているということにすぐに気付いた。
隣に寝ているユトを見ると、上半身裸のまま寝ている。
昨夜のことを思い出すと急に恥ずかしくなった。
時計を見ると午前5時だった。
まだ少し寝れるなと思って再び目を閉じた。
昨夜はどうしてあんなことをしてしまったのだろう。
しばらく外で寝泊まりしていた緊張から解放されて、
温かいベッドで一緒に横になったからだろうか。
それは考えないことにした。
少しくさい言い方だが、私はユトに一番の愛を捧げているのだ。
むしろ昨夜のことは誇れることなのかもしれないし、ユトに愛を捧げているという証拠でもある。
でも、やはり心が痛んだ。
いや、私は何を考えているのだろう。
結局、膣の中には入れなかったのだから別に何も後ろめたく思うことはない。
ただ少し、官能的な楽しみをユトとしただけではないか。
昨夜はユトが私の中にいれようとしたところで、私が拒否したので、そこで急に冷めてお互い寝てしまった。
冷めたとはいっても「性欲が」である。ユトを愛する気持ちは冷めていない。むしろ、昨夜のことで更に熱くなった。
349 :
名も無き被検体774号+:2012/09/22(土) 20:12:30.22 ID:i8kd/esf0
ユトの方はどうだっただろう。
少し不機嫌な様子ではあったが、寝るときは強く抱きしめてくれた。
でも口調からは少し怒りを感じることができた。
彼を傷つけたのかもしれない。
もちろん、そういうつもりは全くなかった。
ただ、「入れる」ということに対して、何か直感的に体が拒否反応を示した。
理由は何となく分からないでもない気がする。
サキを育てたという経験をしてからは、命についての考え方が少し変わった。
そのせいか、新しい命を作り出す、作り出しかねない行為を、簡単にしていいのだろうか、と昨夜は思った。
それにあの時は、避妊を何もしていなかった。
もし彼が避妊をしてくれていたら、私は恐らくその行為を厭わなかっただろう。
いや、どうだろう。自信がない。
避妊をしていても、断ったかもしれない。
それは性に対する嫌悪からくるものなのかもしれないが、よく分からない。
あれこれと考えるのはやめた。とりあえず、あとでユトには謝っておこう。
マホはユトの大きな手を握った。
350 :
名も無き被検体774号+:2012/09/22(土) 20:13:04.03 ID:i8kd/esf0
あ、ちょっとストップする
電池やばい
351 :
名も無き被検体774号+:2012/09/22(土) 20:35:27.73 ID:HG+oRgzG0
おかえりー!!
なんか重い展開だな
352 :
名も無き被検体774号+:2012/09/22(土) 21:52:26.67 ID:i8kd/esf0
朝食もヨースとシュンと一緒に食べた。
「今日の昼に出発でいいかな」
ヨースが聞いてくる。
口の中に食べ物が入っていたマホとユトは頷いて返事した。
「他人から聞いた話だが・・・一昨日の夕方、フィラレル市もかなり空爆にあったそうだ」
「え!?」
マホがむせた。
「フィラレルの市街地がやられたそうだ。…チホはどこに住んでるんだい」
やはりサキが気にかかるらしい。
「えっと…市街地ではないですね。少し丘を登ったところです」
「そうか…」
353 :
名も無き被検体774号+:2012/09/22(土) 21:53:14.82 ID:i8kd/esf0
正午過ぎにホテルを出発し、フィラレルへとバスで向かった。
最近の空爆の影響もあり、道の使えないところが多いので、
フィラレル市に着くのは次の日の夕方だった。
フィラレル駅前でバスを降りると、あたり一面は焼け野原だった。
4人はサキは大丈夫だろうかという話は一切せず、ただ歩き続けた。
線路が破壊されているので、電車は使えなかった。
ムドとサキの家が近付くにつれ、だんだんと緑が増えた気がした。
ここらへんまでは空襲の被害はそんなに及んでいないらしい。
丘を登ると、あの時と全く変わっていない景色が広がっていた。
「えっと、この先を真っ直ぐ行って、右に曲がると着きます」
マホはヨースに説明した。
ヨースは緊張した面持で頷いた。
354 :
名も無き被検体774号+:2012/09/22(土) 21:54:56.89 ID:i8kd/esf0
家はそのままだった。
短いながらも、ムドとサキと共に暮らした家。
我が子のように育てたことのあるサキが、ここにいると考えると、マホも何だか緊張した。
ヨースであればなおさらであろう。
「ここで、待っていて下さい。いきなり大勢で来ると驚くでしょうから」
マホは3人に家の前で待つように指示した。
庭へと入って、玄関のチャイムを鳴らす。
すぐにドタドタという足音が聞こえた。
ドアが勢いよく開き、女の子の顔が見えた。サキだ。
サキは待ちわびていたような顔をしていたが、
マホの顔を見るなり残念そうな顔をした。
「ど、どなたですか…?」
「え、えっと〜…。どなた、うん。なんて言えばいいんだろう。話すと長くなります」
「ムドさんに何かあったんですか?」
「え?」
「ムドさんは、今どこにいるんですか?」
サキが涙声になって大声で聞いてきた。
どうしたんだろう。
355 :
名も無き被検体774号+:2012/09/22(土) 21:56:09.11 ID:i8kd/esf0
「ちょっと待って。ムドさんがどうしたの」
「ムドさんが、ムドさんが、帰ってこないんです…」
サキが泣き崩れた。
ムドが帰ってこないとはどういうことだろう。
「あの、ムドさんが帰ってこないって、どういうことなの」
尋ねたがサキは嗚咽して答えるどころではなさそうだった。
「いつから帰ってきてないの」
「4日…前…うああああん…」
4日前…。ずいぶんと前から帰ってきていないようだ。
何があったんだろう。
「4日前に、ムドさんは一体どこに行ったの」
「買い物に…」
「どこのお店に」
「分かんない…。でも、駅前のスーパーだと思います…」
駅前?でも駅前はあたり一面焼け野原で、スーパーなどなかったはずだ。
…いや、4日前は空襲前だったのだろう。
マホはヨースが昨日言った言葉を思い出した。
―一…一昨日の夕方、フィラレル市もかなり空爆にあったそうだ。
昨日聞いた言葉だから、空襲は今日の4日前に起きたことになる。
ということは…。
356 :
名も無き被検体774号+:2012/09/22(土) 21:57:29.61 ID:i8kd/esf0
「あの、ムドさんはいつ出かけたの」
「…5時ぐらいです。買い忘れがあったと言って…。すぐ帰ってくるって…言ってたのに…」
「ね、ねえ、その日は、空襲があったんじゃないの」
「ありました…」
ムドは空襲に巻き込まれた可能性が高い。
4日も帰ってこないとなると、考えられることはほぼ1つしかなかった。
サキもそれに気付いているはずだ。
自分の正体はどう明かせばいいのだろう。
バスの移動中、何度かそういう場面を想像したが、
サキがこのように泣いていては、どう説明すればいいのか分からない。
ええい、こうなれば直球で勝負だ。
「あの、サキ姉ちゃ…サキちゃん」
ついホミンの時の癖が出てしまった…ようにした。
もちろん、わざとだ。サキがふと顔をあげる。
サキ姉ちゃんと呼んでいたのはホミンしかいない。
「ホ…ホミン…?」
マホはこっくりと頷いた。
サキはじっとこちらを見ている。少し顔が大人びていた。
「ウ、ウソ…。ホミンなの?」
「信じられないでしょう」
「どうして、そんな姿に…」
「それを話すと長くなるわ」
「ホントに、ホントにホミンなの?」
やはり信じられないだろう。
こういう場面にそなえて、きちんとそれなりに準備はしている。
「いつも寝坊ばかりしていて、去年はハチミツレモンが好きで、ニュースの嫌いなサキ姉ちゃん」
サキの目がカッと開いた。
どうやら信じてくれたらしい。
357 :
名も無き被検体774号+:2012/09/22(土) 21:58:38.71 ID:i8kd/esf0
「ホミンなのね、ホミンなのね…!?」
マホはサキの目を見て頷いた。
途端にサキが笑顔になった。
「良かった!戻ってきてくれたんだ!」
「…実はね、他にあなたに紹介したい人がいるの」
「え?」
「いいかな」
「うん、いいけど」
マホは家の前の道路にいる3人を呼んだ。
ぞろぞろと入ってきた客に、サキは恐縮そうに頭を下げた。
「えっと、この人がヨースさん。そしてシュンくん。この人はユトくん」
マホが代わりに紹介した。
「サキちゃん、この2人に見覚え…あるわけないよね」
マホがそう言った途端、ヨースがサキにもとへと寄った。
サキの目の前で止まったあと、肩に手をあてた。
「チホか…チホだ。そう、チホだ…!やはりお母さんに似ている!」
ヨースは涙声で叫んだ。シュンも涙目になっていた。
サキは目を丸くして驚いている。
「え、えっと…その、何て言えばいいのかな。この人たちは、サキちゃんの、家族なんだよ」
マホが場を取り繕うように言った。
「え?」
「家族なんだよ。血の繋がった、家族」
大切に育てたサキにも、本当の家族がいるんだと思うと、
マホは少し複雑な気持ちになった。
358 :
名も無き被検体774号+:2012/09/22(土) 21:59:44.99 ID:i8kd/esf0
「そうだ、チホ。俺が分かるか?」
ヨースが泣きながら尋ねた。
分かるわけがない。
「え?え?チホ?」
「そうだ、お前はチホだ。俺の娘だ。チホ」
サキは困惑していた。それもそうだろう。
急に初対面の大人の男性が涙ながらに聞いたことのない名前で呼んでくるのだから。
「ヨースさんは、サキちゃんのお父さんだよ」
マホは困っているサキに言った。
「そして、シュン君はサキちゃんのお兄さん。19歳だよ」
シュンはサキに頭を下げた。
サキもペコリと頭を下げる。
「とりあえず、中に入っていいかな」
マホが尋ねた。
「あ、うん。…おかえり、ホミン」
359 :
名も無き被検体774号+:2012/09/22(土) 22:00:52.87 ID:i8kd/esf0
「で…どこから話せばいいんだろう」
これから全てを話すということにマホはためらいを感じた。
当然最初は自分の身分を明かさねばならない。
しかし、自分がトルンの王族であることをサキが知れば、
父親同然だったムドを失ったサキはどう思うのだろう。
しばらく話すのをためらっていると、ヨースが話し始めた。
「チホが生まれたのは、前の戦争が始まったばかりの時だったんだよ」
「ちょ、ちょっと待ってください。チホって、あたしの名前ですか?」
「ああ、そうだ」
「そ、そうなんですか…」
「俺たち一家はずっとトルンに住んでたユウダ系なんだが、開戦と同時に強制収容所にいれられた」
ホミンと同じだ、とサキは思った。
「収容所は食料が少なくてね。お前は栄養失調になって餓死寸前だったんだよ。
そこをお前のお母さんはお前に何か食べさせようと思って、収容所を脱走した。
でも、ダメだった。見つかった。でもな、お前はここのマホちゃんに救われた」
サキがマホを見る。
「俺はお前もお母さんも死刑になったと思っていた。お前が生きていて、本当にうれしいよ」
「う、うん」
サキはまだ状況をうまく飲み込めていないようだった。
ヨースはその先の話はマホに任せるという感じにマホを見た。
360 :
名も無き被検体774号+:2012/09/22(土) 22:01:49.74 ID:i8kd/esf0
「サキちゃんを助けた後ね、しばらくは私が育てたんだよ。ここで。
え〜っと、この丘を降りたところの第3市営アパートだったかな。そこで一緒に暮らしてたの」
「え、ホミンってトルン出身じゃなかったの?」
「えっと…その…。私は、ちょっと色々あってトルンから逃げてたの。
逃げる途中であなたを助けて、ここに隠れて一緒に暮らした。
でもあなたのお母さんのように見つかっちゃった。せめてあなただけは助けようと思って、捕まる前にあなたをこの家の庭に置いたのよ。
その後、私も死刑になったんだけど、ホミンとして生まれ変わってて…ここに来たということ」
「うう…ちょっと難しいかも」
物分かりの悪さは去年と変わらないようだ。
「でも元気そうで良かった。ヨースさんは、あなたの生きていることを知って喜んでいたんだよ」
「ははは。シュンも喜んでるぞ。お前のお兄さんだ」
シュンとサキが見つめ合った。確かに顔が似ている。
「チホを育ててくれた人に、感謝をしないといけんな…でも、4日も帰ってこないのか」
サキが急に落ち込んだ。
「探さんと、いけんな」
361 :
名も無き被検体774号+:2012/09/22(土) 22:02:37.94 ID:i8kd/esf0
そろそろ終わろうと思うけれど、
なかなか終わり方が思いつかない。
362 :
名も無き被検体774号+:2012/09/22(土) 22:06:03.46 ID:HG+oRgzG0
>>361 待つから
>>1の納得出来る終わり方をしてほしいです
プレッシャー掛けそうだけど期待してるぞ
363 :
名も無き被検体774号+:2012/09/22(土) 22:13:41.44 ID:i8kd/esf0
ありがとう。
364 :
名も無き被検体774号+:2012/09/22(土) 23:20:54.32 ID:z6FU5OBb0
365 :
名も無き被検体774号+:2012/09/23(日) 01:32:20.97 ID:HvMuyUIh0
というわけで寝る前に保守
366 :
名も無き被検体774号+:2012/09/23(日) 14:57:13.41 ID:SHos5M5V0
おおおー!出かけてスレ開いたら再会してた!
読みかけの本の続き読んでるみたいで、楽しみでしょうがないわ
本当に面白い。続きも楽しみにしてるよ〜
367 :
名も無き被検体774号+:2012/09/23(日) 23:32:44.94 ID:HvMuyUIh0
ほ
368 :
名も無き被検体774号+:2012/09/24(月) 15:32:45.36 ID:HgaHYSDA0
それなりに文学等を読んで論評してるけど
>>1の文章は非常に稚拙。
短文的で表現に工夫がない。
むしろアニメとか劇の台本みたいな感じ。
アニメ化したら面白そうだけどね。
設定がなかなかいい。
369 :
名も無き被検体774号+:2012/09/24(月) 22:28:01.92 ID:52ptMdPh0
保守です
370 :
名も無き被検体774号+:2012/09/25(火) 06:23:36.86 ID:s+V7iYnI0
ほしゅ
371 :
名も無き被検体774号+:2012/09/25(火) 22:30:41.30 ID:9bpdmjPG0
☆
372 :
名も無き被検体774号+:2012/09/26(水) 18:29:41.20 ID:lYycPzGZ0
ほしゅ!
373 :
名も無き被検体774号+:2012/09/26(水) 21:34:09.66 ID:JQEIILUz0
順調にいけば、そろそろ小説が終わるかもしれない。
今のところ、なんとか終わりにこぎつけそう。
だけど未だに終わり方に迷ってる。
374 :
名も無き被検体774号+:2012/09/26(水) 22:48:29.63 ID:+R0WOeKF0
>>373 マルチエンディングというものがあってだな……
375 :
名も無き被検体774号+:2012/09/28(金) 13:05:54.85 ID:kibLYf140
ほしゅ
376 :
名も無き被検体774号+:2012/09/28(金) 19:39:03.19 ID:yA+zJz9K0
マルチエンディングにして、どのエンディングが好きか1ファンのみんなで投票!
377 :
名も無き被検体774号+:2012/09/29(土) 00:09:07.30 ID:wANDYio00
保守
378 :
忍法帖【Lv=40,xxxPT】(1+0:8) :2012/09/29(土) 08:55:46.07 ID:YQfR6BXE0
保守
379 :
名も無き被検体774号+:2012/09/29(土) 15:26:14.74 ID:IzDW+z2h0
保守
380 :
名も無き被検体774号+:2012/09/29(土) 15:28:06.02 ID:bxPNiqpM0
保守
381 :
名も無き被検体774号+:2012/09/29(土) 18:44:17.86 ID:X11ewYj50
ヨースとマホは駅付近の市街地に来た。
空襲で死んだ人の遺体を収集する死体収容所があるのをマホが覚えていたからである。
収容所には何十もの遺体があった。
空襲から4日も経っていたこともあり、遺族が死体をある程度引き取っていたので、
これでもだいぶ少なくなっているらしい。
2人は遺体をひとつひとつ確認しながら歩いた。
ほぼ炭となって性別すら判別できない死体や、
生きているような遺体もあったが、前者がほとんどであった。
ムドの遺体を見つけるのにはそれほど時間はかからなかった。
いつも持ち歩いている身分証明書が遺体の近くにあったからである。
ムドはすっかり炭となっていた。
職員に連絡して、遺体を引きとることにした。
遺体は後日家まで運んでくれるという。
帰り道、2人が言葉を交わすことはなかった。
382 :
名も無き被検体774号+:2012/09/29(土) 18:45:58.06 ID:X11ewYj50
家に帰ると、ユトとシュンがトランプをして遊んでいた。
「あれ?サキちゃんは?」
「寝てるよ、自分の部屋で。最初は俺らと一緒にトランプしてたけど」
ユトが答えた。
「ふうん、そっか」
「ムドさんは、どうだったの?」
「うん、見つかったよ」
「…そ、そうか」
”見つかった”の意味を察したらしい。
「サキの部屋はどこだい」
ヨースがマホに尋ねた。
「あ、2階にあります。…行きますか?」
「うん。ちょっと話をしようと思ってな」
「そうですか…。じゃ、案内します」
ムドを部屋へ連れて行った後、マホはこれからどうしようかと考えた。
このままずっとサキとここで暮らそうか。
しかし、せっかくサキに家族が見つかったのに、血の繋がっていない赤の他人である私がここにいていいのだろうか。
それに自分の立場を考えると、いつまた母が私を連れ戻しにくるか分からない。
きっと今頃、私を連れ戻そうと血眼になっているだろう。
そうなると、サキ達にも危害が及ぶ可能性もある。
ここに長くは いれない。
383 :
名も無き被検体774号+:2012/09/29(土) 18:47:24.15 ID:X11ewYj50
夜はリビングで寝た。
ヨースはサキの部屋で寝たのか、夕食後は1階に降りてくることはなかった。
サキはずっと部屋で泣いていたそうだ。
マホは目をつぶってこれまでのことを色々と振り返った。
自由になりたくて、ユトを助けたくて、ここまで来てしまった。
自由になり、ユトを助けた以上、私に残された課題はひとつ。
平和のために戦う。なんだかくさいけれど、これが私の一番望みだ。
母はいつからあのように狂ってしまったのだろう。
いつからというわけではないかもしれない。最初からだったかもしれない。
私の小さい頃から、トルン大帝国復活のためとか何とか言って、ユウダの武力制圧を望んでいた。
そして今、母の望みは達成されようとしている。
ユウダの半分以上の領土はトルン支配下となってしまった。
臨時首都であるリヒル市が陥落するのも時間の問題であろう。
そうなれば、ユウダには全面降伏という道しか残らない。
私には何ができるだろう。
ただの一市民として、この戦争に指を咥えて見ているしかないのか。
そもそも、私がこれまでにしてきたことは無意味だったのかもしれない。
私一人では、到底無理だ。
何もしないよりはマシ、と思っていたが、
結果が出ないのであれば何もしないのと一緒。
私一人がどう足掻こうとも、何も変わりはしないのだ。
いやいや、そんなことを考えてはダメだ。
私が何かをするだけでも十分ではないか。
結果が生まれなくとも、正義を貫いた人生に何も悔むことなどない。
384 :
名も無き被検体774号+:2012/09/29(土) 18:49:37.05 ID:X11ewYj50
耳をつんざくけたたましい音がした。
何かの警報だろうか。
「空襲だ!」
窓側に寝ているシュンの叫ぶ声がした。
「みんな起きろ!!空襲だ!!」
ユトとマホが起き上がって窓の外を見た。
どこに爆撃機があるのかは暗くて見えない。
ヨースとサキが降りてきた。
サキが防空壕へと案内してくれるという。
簡単に荷物をまとめて、家の外へ出た時、頭上で笛の鳴るような音がした。
「伏せろ!!」
ヨースの声と同時に、爆発音と爆風が右から襲ってきた。
あまりの衝撃に皆頭を伏せた。
「早く!こっちです!」
サキがすぐに立ち上がって防空壕へと案内した。
しばらく走り、防空壕へと着いた。
既に近所の人たちで防空壕は満員状態だった。
「チホ、近くに他の防空壕はないのか」
ヨースが尋ねた。
サキはしばらく考え込んだあと、
あることにはある、と言った。
「でも、今外に出たら危険よ」
マホが意見した。
「ここにいれば爆撃機に見つかる。ここに爆弾が落ちたら、みんな死んでしまうぞ」
シュンの反論にみんな頷き、再びサキに防空壕へと案内してもらった。
あたりは火の海になりかけていた。
サキの家ももしかしたら火事になっているかもしれない。
385 :
名も無き被検体774号+:2012/09/29(土) 18:50:14.23 ID:X11ewYj50
5分ぐらい走り、ようやく防空壕へと着いた。
血まみれの人や、泣き叫ぶ子どもなど、
人はかなりいたが、ぎゅうぎゅうというほどでもなかった。
防空壕の中は静かだった。
わずかに話し声がするだけで、
あとは爆弾の落ちる音や、火が建物を焼く音ぐらいしかない。
ついにこのフィラレル市も、
この戦火に巻き込まれることになってしまった。
386 :
名も無き被検体774号+:2012/09/29(土) 18:51:59.16 ID:X11ewYj50
昨夜の空襲でフィラレル市全域は灰と化した。
付近の軍需工場なども全て破壊された。
また、フィラレルと同時にリヒル市にも大規模空襲があり、
空襲後、リヒル市はトルン軍に占領され、ついに臨時首都も陥落した。
全く予期せぬ空襲だったので、首都機能移転などする暇もなく、
ユウダ国大統領を含めた多くの重役が空襲の犠牲となり、
ユウダは完全に無政府状態となった。
リヒル市陥落後、トルン軍はフィラレル市方面へと侵攻を開始。
フィラレル市ではユウダ・トルン両軍が衝突し、多くの犠牲者が出た。
マホ達は空襲後、北方の山中へと向かった。
フィラレル市陥落の報が入ったのは、フィラレルを離れて5日後の出来事だった。
「何かがおかしい」
フィラレル陥落の報を聞いた後、ユトが呟いた。
「何がおかしいの」
マホは雪で滑らないように注意して歩きながら聞いた。
「リヒル市からどうしてフィラレル市へとトルン軍は行ったんだ。どうもおかしい。
普通ならフィラレルより軍需工場の多いシュルスタイン市とかピューレン市へと向かうのが当然じゃないのか。
それに向こうは交通の要所だ。フィラレル市を占領したって、何も得はない」
「それも、そうね」
マホはわざと興味のないように言った。
「…マホ、やっぱりお前、気付いているんじゃないのか」
ユトにはバレたようだ。
「そうね。気付いていないといえば嘘になるわ」
「そうか、やっぱりか」
387 :
名も無き被検体774号+:2012/09/29(土) 18:53:08.93 ID:X11ewYj50
トルン軍がフィラレルにわざわざ来る理由。
それはただひとつしかない。
マホがフィラレルにいるということを掴んだからだろう。
きっと今頃、トルン軍がマホを探しているに違いない。
日が暮れて、今日はここらへんでキャンプをしようというヨースの判断で、
近くにあった川付近に寄り、夕食をとった。
「地図によると、この先はだいぶ道が入り組んでいるそうだ。はぐれぬように」
ヨースが地図を広げて、順番にみんなへと渡した。
この先まっすぐ行くと、2つに分かれる道がある。
目的地のフルル市には東に曲がった道へすすむ。
一方、北へとのびた道を行くと、山を越えることになる。
雪の多い地域で、この時期にその山を超えるのは危険である。
夕食を終えた後は、各自テントの中で寝た。
マホはサキと一緒のテントだ。
388 :
名も無き被検体774号+:2012/09/29(土) 18:55:52.09 ID:X11ewYj50
「フルル市まで、あとどのくらいかなぁ」
サキが呟いた。昨日も一昨日も言っていた言葉だ。
「あと2日ね、天気が良ければだけど」
「はぁ…まだ2日もあるんだ…。寒いしきついし、もぉ嫌だぁ」
これもずっと言っている。
「あはは。みんなそうだよ」
「だいたい、どうして逃げるの?トルン軍から。民間人のあたしたちは、トルン軍に殺されないから大丈夫じゃん」
「う〜ん、そうなんだけどね。
私やヨースさん達は、トルンを逃げてきた人だから、もしトルン軍に捕まると、どうなっちゃうか分かんないからね」
ちなみにまだサキには自分の身分は明かしていない。
「あ、そっか…」
「それに占領地のユウダ人は、強制労働に従事させられたり、戦争に協力させられたりするよ」
実際、イェフト島や本土沿岸部の占領地のユウダ人は、
トルン軍の武器補給などの手伝いをさせられていた。
「そぉなんだ〜…」
「そんなこと、嫌でしょう」
「うん、やだ」
サキと再会したいがために、サキをこんな今の状況に道連れにしてしまったことに胸が痛んだ。
ヨースも同じ気持ちだろう。
だが、ヨースの心配はおそらく杞憂に終わる。
トルン軍の本当の狙いは私だ。
私がいる限り、トルン軍から逃げないといけない。
ヨースやサキ、シュンにも大きな迷惑をかけることになる。
もし捕まれば、全員どうなるかは分からない。
サキと再会できた今、これ以上みんなに迷惑をかけることはできない。
私がここを去れば、ヨース達は助かる。
サキを守るためにも、私はここを離れなければならない。
389 :
名も無き被検体774号+:2012/09/29(土) 18:56:30.38 ID:X11ewYj50
「ねーねー」
サキが突然呼びかけてきた。
「あたしが赤ちゃんの時って、どんな感じだったの?」
「う〜ん。夜泣きも少なくて、よく眠る子だったよ」
だから今でもお寝坊さんなのかもしれない。
「夜泣きしなかったの?」
「うん。でも泣くときは絶体絶命のように泣いてたわ。感情の起伏の激しい子だった」
「今と同じじゃん!」
「そうね、今と同じ」
「何か思い出とか、ある?」
「そうね〜…」
マホはあの頃を思い出した。
390 :
名も無き被検体774号+:2012/09/29(土) 18:57:51.64 ID:X11ewYj50
マホがアルバイトしていた喫茶店は市街地から少し外れたところにあった。
住んでいるアパートからはそれほど遠くなく、毎日徒歩で通っていた。
働いている時間はサキの面倒を見ることができない。
アパートにひとりにさせることもできないし、かといって保育所に預けるお金もない。
幸いなことに、店長の計らいでサキを店内の個室に置くことができた。
これなら休憩時間などを利用して、サキの面倒を見ることができる。
私はカフェオレが好きだった。
仕事の合間にはよくカフェオレを飲んでいた。
サキにも飲ませてあげようと思い、カフェオレをよく冷ましてからサキに飲ませていたものだった。
あの輝くような笑顔を見るのが楽しみで仕方がなかった。
金銭的に少し余裕ができると、サキのために服を買いに行ったりもした。
当時は戦後のインフレで目が出るほど価格が高かったが、
寒い時期でもあったので服を着せないと風邪をひいてしまう。
寝る時はいつも同じ布団で寝かせていた。
サキの心臓の鼓動を感じるのが嬉しかった。
たまに夜泣きをして、一晩中私がなだめたこともあったし、
そんな日は目の下にクマをつけてアルバイトに行ったものだった。
そんな顔じゃお客様の前に出られない、と怒られたこともあったっけ。
日に日にサキの体重が重くなることも嬉しかった。
いつかは抱っこできなくなる日が来るのだろうと思うと、少し悲しくもあったが。
とりあえず、サキの成長が嬉しくて嬉しくて仕方なかった。
391 :
名も無き被検体774号+:2012/09/29(土) 18:58:54.39 ID:X11ewYj50
「へ〜!マホちゃんってカフェオレ好きだったんだ」
「うん。温かくて、甘いじゃない」
「だよね、あたしも好きかな」
「きっと好きなはずよ。赤ちゃんの時は幸せそうに飲んでいたんだもの」
「幸せそうにかあ〜…」
「今も幸せ?」
「え、どうだろ。考えたことないや」
「あなたは幸せよ。家族にも再会できて、いろんな人に支えられてきて」
「マホちゃんには、家族いないの?」
「私は…」
答えに窮した。
「私の家族は、いないの」
「へえ、なんでー?」
「いないと私が思うから、いないのよ。家族はいるけれど、私を受け止めてくれる家族はいないから」
「…?」
「あはは。変なこと言っちゃったね」
「よく分かんないや、マホちゃんの話。…あぁ、眠い」
「そうね、長話しすぎちゃった。明日もたくさん歩くから寝ましょう」
「うん…おやすみぃ…」
「おやすみなさい」
392 :
名も無き被検体774号+:2012/09/29(土) 19:02:33.78 ID:X11ewYj50
腕時計を見ると、午前1時半をさしていた。
隣のサキはすやすやと寝息をたてている。
マホは音をできるだけ立てないように寝袋から出た。
寒い。上着を着て、自分のバッグを背負って、サキの寝顔を見つめた。
これがもしかしたら最後の別れになるかもしれない。
もう会うこともないだろう。
私はすることはした。
サキの母親の想いを受け継ぎ、サキを育てて、家族にも再会させた。
私はサキをムドの家に置いた時、サキの母親をやめたのだ。
私にこれ以上することはない。
テントをそろりと出た。痛いほど冷たい空気が頬に突き刺さる。
綺麗な星空だ。月も見える。
月の光が雪に反射して、周りは少し青白い風景になっている。
音をたてないように、ゆっくりとテントから離れた。
もうここらへんまで来れば大丈夫だろう、
と思って普通どおりに歩こうと思った瞬間、
後ろから誰かに呼び止められた。
393 :
名も無き被検体774号+:2012/09/29(土) 19:03:43.07 ID:X11ewYj50
「やっぱりな」
男の声だった。
驚きのあまり叫びそうになった。
「びっくりした…。ユトくん」
「今日あたりにでも抜け出すんじゃないかと思ってたよ」
ユトが林から出てきて、私に近付いてきた。
ずっと林の中で待っていたのだろうか。
「俺も行くよ」
「えっ」
「何が えっ だよ。嫌か?」
そんなことはない。嬉しい。
「別に、そういうわけでは、ないけれど」
「トルン軍はお前だけじゃなく、俺をも狙っている可能性が高いからな。俺も一緒にここを離れた方がいい」
「で、でも、私といると、殺されるかもしれないよ」
「一緒に死ねるなら幸せなもんだ。死んでるのか生きてるのか分からんほど離れ離れになるよりマシだ」
「そ、そう」
「行こうぜ」
「うん」
2人は雪を踏みしめて北へと向かった。
394 :
名も無き被検体774号+:2012/09/29(土) 19:07:32.33 ID:X11ewYj50
http://uploda.cc/img/img5066c856bf087.jpg 「わぁ、見て。星が綺麗」
マホが空を指差した。
「ん、綺麗だな」
「…あまり興味なさそうね」
「まぁね」
「つまんないなぁ〜。…“マホのほうが綺麗だよ”とかも言わないし」
「はははは。マホは綺麗だよ」
「まぁ!ありがとう」
「でもマホは綺麗というより、聡明…かな。上手くいえないけど」
「聡明?」
「うん。何にも汚れていなくて、曲がっていなくて、透き通っていて、芯がしっかりしてる」
「何だかこそばゆい言葉ね」
「ははは。でも俺はそう思ってるよ」
「そう。ありがとう」
「マホは俺のことどう思ってるの?」
「あの星かな」
北東方向を指す。
「あの星って…どの星だ?」
「ほら、チェミバレン座のイミレル星」
「…お、あれか。見える見える」
「私はあれユトくんだと思うよ」
「ん?どういうこと?」
395 :
名も無き被検体774号+:2012/09/29(土) 19:09:07.96 ID:X11ewYj50
「イミレルっていう男の話、知ってる?」
「聞いたことはあるけど、昔話だろ?あまりそのへんの話は知らないや」
「あはは。イミレルにはね、奥さんがいたんだよ。
でもその奥さんがやっかいな人でね。浮気は繰り返すし、お金は使いまくるし、家事はしないし…。
でもイミレルはそんな奥さんをいつも許していたんだけど、ついに奥さんが家出しちゃったの。
なのにイミレルはそんな奥さんをずっと家で待ち続けてね。
結局、心も体もボロボロになった奥さんがイミレルのところに戻ってきて、奥さんは心を入れ替えて一緒に幸せに暮らしたんだってさ」
「忍耐強い人だな」
「あなただってそうでしょう。14年間も私を探し続けてくれた。死んでいるのかもしれないのに」
「ははは。…俺がイミレルなら、マホはその奥さんか」
「私はそんな奥さんにはならないよ!」
2人は声をあげて笑った。山にこだまする。
「ねぇ、手、繋いでいいかな」
マホが手を出してきた。
ユトは何も言わずに優しくマホに手を握った。
2人は北へ、北へと歩き続けた。
396 :
名も無き被検体774号+:2012/09/29(土) 21:54:35.58 ID:wANDYio00
ムドさん……(´;ω;`)
女王の命令で探しにでも来たダイに見つかっちゃったかと思ってどきどきしたわ…
>>394きれいだな
398 :
名も無き被検体774号+:2012/09/30(日) 12:05:53.12 ID:1gKy61NV0
ほしゅ
399 :
名も無き被検体774号+:2012/09/30(日) 18:31:20.65 ID:BpT/K0My0
続きが気になる木
ほみーん
401 :
名も無き被検体774号+:2012/09/30(日) 18:48:17.71 ID:+qpOFUex0
やっとおいついた‥
支援するわ
402 :
名も無き被検体774号+:2012/09/30(日) 20:30:47.37 ID:RK+EeMEG0
403 :
名も無き被検体774号+:2012/10/01(月) 01:56:26.64 ID:bPnOBKc40
すげえ!!
こんなにしっかり作り込んでんのな
改めて尊敬するわ
デビューしたらサインくれ
404 :
名も無き被検体774号+:2012/10/01(月) 19:34:57.39 ID:uRgvq7fM0
ほしゅ!
そろそろ終わらせる予定だったけど、
なんだか色々とストーリーを思いついてしまったので、
まだまだ小説は続きそうです…。
406 :
名も無き被検体774号+:2012/10/03(水) 01:16:31.42 ID:lEIoll6n0
シリーズものかってくらい長くなっても読む
>>1のファンですwww
407 :
名も無き被検体774号+:2012/10/03(水) 21:33:21.12 ID:WovCc7fO0
408 :
名も無き被検体774号+:2012/10/04(木) 23:34:19.01 ID:IvO4bXQ70
409 :
名も無き被検体774号+:2012/10/04(木) 23:50:57.08 ID:YFEuyWy60
410 :
◆OdOcFI2w6U :2012/10/05(金) 20:20:01.20 ID:51thRlMw0
トリってこうするんだろうか、テスト。
>>408 かもしれん(笑
でも個人的にはチヨは少し怖いイメージ。
411 :
名も無き被検体774号+:2012/10/05(金) 21:07:31.55 ID:CcXyRCgx0
そろそろ待望の週末です!
412 :
名も無き被検体774号+:2012/10/05(金) 23:43:56.58 ID:PcThrmQl0
>>410 ちゃんと付けれてるよーありがとう!
アンタ文章も絵も書けてすげえなぁ。感心するよ。
413 :
名も無き被検体774号+:2012/10/06(土) 10:59:53.02 ID:T/Qwt7u90
ほしゅ
414 :
◆OdOcFI2w6U :2012/10/06(土) 16:51:20.79 ID:96IHnNW/0
なんかLv.1になったせいで長文を書き込めなくなった。
「まだ見つけられないとは何事だ!」
チヨの怒号が執務室に轟いた。
軍部大臣や大将、将校がちぢこまる。
「も、申し訳御座いません…。フィラレル市をはじめ、その周辺地域をくまなく探したのでありますが…」
415 :
◆OdOcFI2w6U :2012/10/06(土) 16:57:19.62 ID:96IHnNW/0
「何か手掛かりはあったか」
「はぁ。聞き込みによりますと、なんでもフィラレル市を北上してスプル山脈へと向かっておるようです」
「スプル山脈だと?」
416 :
◆OdOcFI2w6U :2012/10/06(土) 17:00:36.44 ID:96IHnNW/0
「はぁ、そうです。この時期にスプル山脈を越えるのは、さすがに一般人では無理でしょう。
フィラレル市方面の町に引き返すか、もしくは寒さと餓えで死ぬしかありません」
「では山脈付近の町を全て占領するのが得策だな」
「はい、既に山脈付近はほぼ占領しました。既に我が軍は山脈へと進軍しており、着々と占領地域を広げております」
417 :
◆OdOcFI2w6U :2012/10/06(土) 18:01:13.23 ID:96IHnNW/0
昼間なのに気温は相変わらず低く、黒い雲に覆われていた。雪もちらほら舞い始めている。
ユトとマホは膝下ぐらいの積雪の中を急いでいた。
手は握ったまま今も離していない。
昨夜は結局眠らずに歩き続けた。
疲労と寒さがかなり体にきているが、休む暇はなかった。
418 :
◆OdOcFI2w6U :2012/10/06(土) 18:03:15.46 ID:96IHnNW/0
朝方、トルン軍に見つかったのである。
たった1人の若い兵士だったが、2人の姿を見るなり、すぐに引き戻っていった。
軍隊に告げるのであろう。
419 :
◆OdOcFI2w6U :2012/10/06(土) 18:05:48.55 ID:96IHnNW/0
―パーン…パーン…
また銃声の音が聞こえた。
定期的に銃声を鳴らして、威嚇しているつもりらしい。
まだ遠くから聞こえるようだが、さっきより確実に近くなっている。
420 :
◆OdOcFI2w6U :2012/10/06(土) 18:21:24.41 ID:96IHnNW/0
「早く吹雪になってくれるといいんだが」
ユトが呟いた。マホも同じ気持ちだった。
今のまま逃げたって、雪に2人の跡が残ってしまうので、いくら逃げても逃げ切れないのである。
いっそ吹雪になれば、跡が消えるのだが。
421 :
名も無き被検体774号+:2012/10/06(土) 20:50:51.14 ID:96IHnNW/0
422 :
名も無き被検体774号+:2012/10/06(土) 23:17:22.29 ID:jF9ejavw0
ほ
423 :
名も無き被検体774号+:2012/10/07(日) 09:28:47.76 ID:Y/M27lZ70
424 :
名も無き被検体774号+:2012/10/07(日) 20:45:54.35 ID:BwyipyTY0
人の声がした。一人だけではない。何人もいる。足音も聞こえる。
ユトはがばっと起き上がった。
まだ薄暗くて何も見えないが、トルン軍に間違いない。
岩陰にいる自分たちにはまだ気付いていないようだ。
しばらく息を殺した。
トルン軍が去った後、マホを起こした。凍死していないようだった。
「どうしたの…?」
「さっき、トルン軍が近くまで来ていた。もうここは危ない」
「えっ」
「しっ…。急いでここから逃げるぞ」
「わ、わかった」
岩陰から出ると、まだものすごい吹雪だった。目もまともに開けられない。
2人は手を繋いではぐれないように一緒に歩いた。
「止まれ!!」
後方から声がした。ついに見つかったようだ。
2人は振り返ろうとはしなかった。
立ち止まることもせず、歩き続けた。
「聞こえないのか!止まれ!!」
425 :
名も無き被検体774号+:2012/10/07(日) 20:47:02.72 ID:BwyipyTY0
「止まろう」
マホが立ち止まって、後ろを振り向いた。
同時に両手をあげる。
後ろには5、6人ほどの兵隊がいた。
全員、銃口をこちらに向けていた。
「マホ、お前…」
「ユトくん、彼らに従って」
「何言ってるんだ」
「ユトくん。両手をあげて」
ユトはしぶしぶ両手をあげた。
「よ〜し、その場を動くな」
兵隊が近づいてきた。
銃は降ろさない。
「止まってください」
マホが兵隊に向かって言った。
兵隊はなにごとだ、と立ち止まった。
「私がそちらに行きます」
「なんだと?」
軍でも偉い階級らしい人が怪しそうに言った。
426 :
名も無き被検体774号+:2012/10/07(日) 20:48:20.81 ID:BwyipyTY0
「その代わり、彼を逃がしてください」
「マホ!」
「ユトくん、黙ってて」
「ようし、いいだろう。リュックを降ろして、両手をあげてこっちに来るんだ」
「マホ!お前!」
「ユトくん」
マホがユトのほうを振り向いた。
「2人死んだら意味がない」
「マホ、何言ってるんだ」
「生きて」
マホはリュックを降ろして、
両手を上げながらトルン軍のほうへと歩き始めた。
「やめろ、マホ、行くな!」
「近付かないで!」
走り寄ろうとするユトにマホが叫んだ。
マホはすぐにトルン軍に捕縛され、
そのまま吹雪の向こうへと消えていった。
ユトの絶叫が山にこだました。
427 :
名も無き被検体774号+:2012/10/07(日) 20:49:28.44 ID:BwyipyTY0
連れてこられたのは山麓の小さな町だった。
鉄筋の建物の中に入ると、そのまま牢屋へと閉じ込められた。
縄で縛られているので、全く身動きがとれない。
しばらく壁にもたれかかっていると、コツコツと足音が聞こえた。
「よくまぁ逃げ続けたなぁ」
軍服を着ていたので一瞬誰だか分からなかったが、
声ですぐにダイだと分かった。
「なぁに、今から愛する祖国へと帰してやるから安心しろ」
「…」
「なんだ、黙りやがって。無視か?」
「あなたとは、話したくないわ」
「生意気なとこは何も変わってねえんだな、ほんと」
ダイが牢屋のなかに入ってきた。
マホは立とうとしたが、縛られているのでバランスがとれず立てなかった。
「ったく、お前と結婚できると思ったら…逃げやがって。おかげで結婚の話も全部白紙になったじゃねえか」
428 :
名も無き被検体774号+:2012/10/07(日) 21:49:52.04 ID:BwyipyTY0
「でも俺、昔っからお前のこと可愛いと思っててよお」
ダイが顔を近づけてきた。
咄嗟にマホは顔を横にしてよけた。
「んだよお前」
再び顎を掴んで顔を正面にさせた。
ダイの顔が近付いてくる。そのままダイは唇をマホの唇へと運んだ。
ダイの舌が侵入しようとしてきたが、マホは唇を頑なに閉じた。
「そんなに俺が嫌なのかよ」
「分かってるじゃない。私を殺そうとしてた人をどうして…」
マホが言い終わらぬうちに、ダイがマホの頬を思いっきり平手打ちした。
あまりの衝撃にマホが床に倒れた。
起き上がろうとしたが縄が邪魔だった。
429 :
名も無き被検体774号+:2012/10/07(日) 21:51:02.43 ID:BwyipyTY0
「しかしほんっとに可愛いなぁ、お前」
ダイがマホの服の下に手をのばして胸のあたりをまさぐってくる。
「や、やめて!」
必死に抵抗したが無駄だった。
「黙れよ、うるせえなぁ」
「殿下、準備が整いました」
突然、廊下のほうから衛兵の声がした。
ダイは衛兵のほうを向かずに返事をした。
「さ、立て」
ダイが縄を引っ張ってマホを立たせた。
あやうくこけそうになる。
「今から尋問の時間だ。早く終わらせたいから質問にはちゃんと答えろよ」
430 :
名も無き被検体774号+:2012/10/07(日) 21:52:36.87 ID:BwyipyTY0
席に座らせられると、一旦縄をほどいてくれたものの、今度はイスと一緒に縛られた。
私がこれまでに幾度となく脱走しているので、よほど警戒しているのだろう。
それにしても変わったイスだ。
木製のイスではない。ずっしりと重い金属のイスだった。
「そうだな、何から聞こうか」
ダイが向かい側の席に座って腕組みをした。
「ヨースとシュン、チホのことから聞こうか」
「!」
「どうして知ってるのか、って顔だな」
「…」
「それぐらいの情報は知ってる。で、今、どこにいるんだ?」
「知らない」
フルル市に向かったということは知っているが、
教えるわけにはいかない。
431 :
名も無き被検体774号+:2012/10/07(日) 21:54:16.66 ID:BwyipyTY0
「俺だって早く尋問を終わりたいんだ。答えてくれ」
「知らない!」
「そうか」
ダイは机の上にあったスイッチボタンのようなものを操作した。
「きゃぁっ!」
体に衝撃が走った。
「電気椅子だ。答えないなら電気を流す」
「汚い人…」
「何とでも言えばいいさ。質問に答えてくれればいいんだから」
「知らない!」
バツンッ
さっきより衝撃が大きかった。
目が一瞬真っ暗になる。
432 :
名も無き被検体774号+:2012/10/07(日) 21:55:48.99 ID:BwyipyTY0
「俺だってこんなことはしたくないんだ。早く答えてくれ」
「知らないものは…知らない…」
バツンッ!
マホは体をぐったりさせた。
「これ以上電圧を上げると気絶しかねないな」
「気絶したって…構わない…」
「もう一度聞く。奴らはどこにいる」
「ど…どうして、知りたがるの…。知って…どうするつもりなの…」
「そりゃぁ教えられねえなぁ」
「なら…私だって…教えない…」
「そうか。なら無理やりにでも」
「いやぁ!」
マホの体が激しく痙攣し、
そのまま意識を失った。
433 :
名も無き被検体774号+:2012/10/07(日) 21:57:19.21 ID:BwyipyTY0
床の冷たさでマホは意識を取り戻した。
気絶した後、再びこの牢屋に閉じ込められたようだ。
体もがっちりと縛られている。
天井近くにある窓から光が射し込んでいた。月の光だ。
マホは寝返りをうって窓の外を見上げた。
綺麗な星空が広がっていた。
ユトは上手く逃げ切れただろうか。
山を無事下山しているだろうか。
サキは元気にしているだろうか。
今頃弱音をぶつぶつ吐きながら寝ているかもしれない。
私はこれからどうなるのだろう。
いや、疑問に思うまでもない。死刑は確実だ。誰にも知られず、静かに闇に葬られるのだろうか。
何を恐れることがある。
もともと私は、14年前に死んだ身なのだ。
434 :
名も無き被検体774号+:2012/10/07(日) 21:58:58.66 ID:BwyipyTY0
母の野望を、トルンの野望を、打ちくだけなかった事は悔しいが、それを除けば悔いはなかった。
愛する人の命を救うことができたし、
我が子のように育てたサキとも再会できて、
本当の家族に会わせることもできた。
私が死んだら、サキの母親に天国で会えるのだろうか。
もし会えたら、サキは元気にしていましたよ、とサキの母親にたくさん話をしてあげよう。
ムドにも会えるだろうか。
短い間だったのに、見ず知らずの私を一番世話してくれた。
私がフィラレルに来る4日前に戦火に巻き込まれ、命を失ってしまったムド。
そういえば、空襲があったせいで遺体をまだ回収していない。
ムドの遺体はどこにあるのだろう。もう消えているかもしれない。
最後に思い浮かんだのは意外にもヨリだった。
強制収容所で、仕事をイチから教えてくれたヨリ。
イェフト方言で喋るあの独特な喋り方が懐かしい。
次は私が、サキの母親とムド、ヨリのもとへ行く番。
435 :
名も無き被検体774号+:2012/10/07(日) 22:00:03.00 ID:BwyipyTY0
しばらく夜空を眺めていると、
誰かがこちらに近付いてくる音がした。
足音ですぐにダイだと分かった。
「そろそろ目を覚ます頃だとは思ったよ」
ダイが牢屋の中に入ってきた。
マホはまた襲われるかもしれないと思い、寝がえりをうってダイから離れた。
「そう警戒されたら、話もできないな」
「だったら警戒されないようにしたらどうなの」
「ははは」
ダイがマホのすぐ隣に来た。
今さら逃げても無理なのは分かっているので、マホは動かなかった。
「お前は昔から何かと反抗してたよな」
「何がですか」
「何がって。チヨ皇帝陛下に対しても反抗し、王族に対しても反抗し、遂には帝国にさえも反抗した」
「だからなんですか」
「虚しくないのか」
「何故」
「無駄なんだよ。お前が何しようが」
痛いところをつかれた気持ちがした。
「お前じゃ到底俺達に刃向かうことはできない」
マホは何も答えなかった。答えが見つからなかった。
436 :
名も無き被検体774号+:2012/10/07(日) 22:02:15.68 ID:BwyipyTY0
「お前も薄々気付いているんだろ。自分一人じゃ無駄だ、ってこと。無駄なことに命を賭けて、何の意味があるんだ。虚しくないのか」
「虚しくは、ありません」
「そうか。なぜだ?」
「私が何もせずして、ただユウダを武力で制圧して、
たくさんの犠牲の上でのうのうと生きるという人生なんて、恥ずかしくて、悔しくて、仕方ありません。
恥ずかしくないように、悔しくないように、私は命を投げ出してまで反抗しました」
「じゃあ今のお前は、何も悔しくもないんだな」
「ええ、まぁ。でも、あなたたちを倒せなかったことが心残りだけれど」
「ははは」
本気で言ったつもりだったが、
冗談としてあしらわれたようだ。
「命を賭してまで、好きな人を守ったことについても、後悔はないんだな」
「ユト君のことですか。勿論ありません」
「命を賭してまで守るべき人だったのか」
「だから私は自分と引き換えに彼を守ったのです。何ら悔やむことはありません」
437 :
名も無き被検体774号+:2012/10/07(日) 22:04:52.68 ID:BwyipyTY0
「そうか。そんなお前に良いニュースをやろう」
「なんですか」
「ユトは、死んだ」
何を言っているのかしばらく理解できなかず、
答えることができなかった。
「聞こえなかったか?死んだ、ユトは」
「ど、どうして…」
声がかすれていた。
「俺が殺すよう命令した。まぁ、チヨ皇帝陛下の命令を伝えただけだが」
「そんな、約束が違うじゃない」
「約束?お前が捕まる代わりにユトを逃がすという約束か?」
「そうよ。知っているのに、どうして…」
「ユトを逃がした後に追いかけてはいけないという約束はないからな」
「そんな…」
熱い涙が頬をつたった。
じわじわと胸の奥が熱くなった。
ユトが、死んだ。
438 :
名も無き被検体774号+:2012/10/07(日) 22:05:56.11 ID:BwyipyTY0
「銃殺した。数人の兵隊もユトが倒れたのを確認したから死んでいるのは間違いないだろう。
仮に死んでいなくても、この寒さじゃ永くは生きてはいれまい」
「どうして彼まで…」
「お前は何も分かっちゃいないな。お前らは罪を、俺達に刃向かったという罪を犯したんだ」
「ユト君は…何もしていない…。ひどい…!」
嗚咽で言葉にならなかった。
「それともう1つ良いニュースを教えてやろう。
明日中にもトルン帝国政府はユウダ共和国を正式に併合することを発表する」
今はとてもそんなことは耳には入らなかった。
「明後日にはチヨ皇帝陛下がじきじきにユウダの地を踏んで、ロッダム特別市で併合宣言を行う」
そして、とダイが付け加えた。
「その日に、お前の処刑が執行される」
439 :
名も無き被検体774号+:2012/10/07(日) 23:08:28.09 ID:k6NyrP+c0
追い付いた!
支援!
440 :
名も無き被検体774号+:2012/10/08(月) 12:45:53.98 ID:Y4gaNGE+0
ほしゅ〜
ユトが…う、嘘だろ…
442 :
名も無き被検体774号+:2012/10/08(月) 18:02:12.31 ID:mSfCdsvr0
いや、多分死んでない
ダイのハッタリ
……だよね??
443 :
名も無き被検体774号+:2012/10/08(月) 23:28:59.96 ID:0ARTGDMK0
ほしゅ
445 :
名も無き被検体774号+:2012/10/09(火) 23:50:37.08 ID:3hvRBxeP0
>>443 ちょwwこれイイなwwww
好きwww
446 :
名も無き被検体774号+:2012/10/10(水) 19:35:37.11 ID:mcpGxKKn0
アニメ化希望
OPはなにがいいだろう
447 :
名も無き被検体774号+:2012/10/10(水) 21:02:53.17 ID:7DT34YiQ0
448 :
名も無き被検体774号+:2012/10/11(木) 04:35:29.14 ID:MybGpNbei
期待ほす
449 :
◆OdOcFI2w6U :2012/10/11(木) 21:27:33.68 ID:qea2eD9t0
450 :
名も無き被検体774号+:2012/10/13(土) 17:21:33.47 ID:XUPKf5cS0
ほしゅ
451 :
名も無き被検体774号+:2012/10/13(土) 17:57:40.19 ID:BJtGa2dz0
452 :
名も無き被検体774号+:2012/10/13(土) 22:10:25.98 ID:BJtGa2dz0
次の日も朝から拷問だった。
気絶するギリギリの電圧で何度も責められたがマホは決して口を割らなかった。
午後にはロッダム特別市へと移送されることとなった。
明日にはチヨがロッダムに来るらしいが、
どうやらチヨのいるところで処刑が執行されるようだ。
マホは一日中落ち込んでいた。
ユトの死はあまりにも衝撃的過ぎた。
私が今までしてきたことは、
いったい何だったのだろう。
453 :
名も無き被検体774号+:2012/10/13(土) 22:11:42.14 ID:BJtGa2dz0
ロッダム市には次の日の朝に着いた。
マホは再び牢屋にいれられた。
牢屋の中の窓を見ると、
この建物は少し丘の上に立っていることが分かった。
ロッダムは見渡す限りの焼け野原だったが、
その焼け野原の中に、やけに人が集まっているところがあった。
その近くには大きなステージのような台があり、
マイクなどの機械類が置いてある。
何か講演でもあるのだろうか。
そうか、確か今日は母がロッダムでユウダ併合宣言を行うんだったっけ。
あのステージの上で宣言するのかもしれない。
母はこの焼け野原を見て、何を思うのだろう。
454 :
名も無き被検体774号+:2012/10/13(土) 22:13:11.10 ID:BJtGa2dz0
しばらくしてマホは牢屋から外へ連れ出された。
大勢の兵隊や警官に囲まれながらしばらく歩き、到着したのは処刑場だった。
近くにはさっき見ていた群衆とステージがある。
処刑上は外にあるので、どうやら公開処刑らしい。既に20人ほどの人が十字架にかけられている。
マホは抵抗をせず、静かに十字架にかけられた。
「はじめまして」
マホの右隣で十字架にかけられている若い女性が首をこちらに向けた。
マホは軽く会釈した。
「あなたは、どこの団にいたの?」
「団…?」
「うん。私は第7団の諜報部隊。」
「…?」
「あら。あなたは民間人?」
「え、あ、えっと…はい」
「そっか〜。私はユウダ独立義勇軍にいたよ。…あなたは民間人なのに処刑されるなんて、何かしでかしたの?」
女性は少し笑いながら聞いてきた。
455 :
名も無き被検体774号+:2012/10/13(土) 22:15:16.77 ID:BJtGa2dz0
「ええ、まぁ…いろいろ」
「へぇ。ここに十字架に架けらているのはみんな義勇軍メンバー。民間人が死刑になるなんて、よっぽどなんでしょうね」
女性はクスリと笑った。
「は、はぁ」
「なんだか元気ないわ。死ぬ前ぐらいは明るくいましょうよ」
元気のでるはずがなかった。
死ぬのを恐れているわけではない。
ユトの死がつらいのだ。
「はい」
「あなた、名前はなんていうの?」
「マホです」
「私はユリ。どこから来たの?」
「え、えっと、フィラレルです」
「私はイェフト地方から」
「へぇ〜…そうですか」
456 :
名も無き被検体774号+:2012/10/13(土) 22:16:35.10 ID:tav3Civb0
いきなり俺の好きな人の名前が出てきてビビったぜ!
すまん、続けてくれ
457 :
名も無き被検体774号+:2012/10/13(土) 22:16:52.88 ID:BJtGa2dz0
「…あなた、もしかしてトルン系の人?」
「え、どうしてですか」
「イントネーションで分かるわよ。トルン人の喋り方と一緒」
「あ、そうなんですか」
そういえばサキにも何回か指摘された記憶がある。
「私もトルン系よ。まぁ、ひいばあちゃんがトルン人なんだけどね」
「ふうん、そうなんですか」
ユリはイェフト地方で生まれ、一般のユウダ人と変わらぬ生活を送っていたという。
戦時中はユウダ海軍の諜報員として勤務していた。
故郷イェフト島が占領されたことを機に、
ユウダ独立義勇軍のメンバーとして最前線でトルン軍と戦ったものの、トルン軍により捕縛された。
ユウダ独立義勇軍とは、
トルン軍のユウダ本土上陸に伴ってユウダ政府が緊急に組織した団体である。
あちこちでゲリラ戦を行なっているという。
458 :
名も無き被検体774号+:2012/10/13(土) 22:17:36.04 ID:BJtGa2dz0
「今は何時ぐらいかしら」
「11時前ぐらいです」
マホは外に連れ出される前に、
チラッと時計を見たのを覚えていた。
「そっか〜…。じゃぁ、あと3時間の命だね」
14時処刑開始である。
「せめて家族に会いたかったなぁ〜…」
さっきまで快活に話していたユリであったが、
急に暗い声になった。
「家族、いるんですか」
「いるよ。マホちゃんにはいないの?」
「…いるけれど、いないです」
「なにそれ」
ユリがぶっと笑った。
マホもつられて笑う。
459 :
名も無き被検体774号+:2012/10/13(土) 22:18:27.83 ID:BJtGa2dz0
「私には子どもがいるの。まだ2歳の男の子。夫は戦争で死んじゃったけどね」
「へぇ〜…」
「子どもが今生きているのかどうかも分からないから、心配」
「他に誰か家族はいないんですか」
「私の妹がいるけど、その子も生きているのかどうか分かりゃしない」
「散り散りになった、って感じですか」
「そうね」
「そうですか…。妹さんは何歳なんですか」
「ん〜っと…14歳かな」
サキと同じだ。
「え、あの、出身はイェフトでしたっけ」
「そうよ。どうして?」
「妹さんのお名前、もしかして“ヨリ”さんですか」
「どうして知っているの!?」
まさかとは思ったが、やはりそうだった。
よくよく見れば、ユリの顔はヨリと似ている。
460 :
名も無き被検体774号+:2012/10/13(土) 22:19:38.87 ID:BJtGa2dz0
「強制収容所でお世話になりました」
「ヨリは今、どこにいるのか知ってる?」
「えっと…」
「どこなの?」
「亡くなりました。空襲で…」
「…そ、そんな…」
ユリが目をカッと開いた。
絶望の色が浮かんでいた。
「遺体は、収容所の隣の空き地に埋められました」
「そう…」
「なんか、ごめんなさい…」
「どうして謝るのよ。いいのよ」
「いえ…」
「死んでるんじゃないか、ってことは薄々思っていたのよ。この調子じゃぁ、子どもも死んでるんだろうなぁ」
ユリは空を見ながら力なく微笑んだ。
461 :
名も無き被検体774号+:2012/10/13(土) 22:21:14.52 ID:BJtGa2dz0
正午前。
チヨがステージの上に登ったのが見えた。
周りを取り囲む群衆は朝よりかなり増えている。
チヨはマイクの近くに立ち、今にも話を始めようとしていた。
なんとなく、チヨが処刑上を見たような気がした。
ステージの端には王族らしき人も何人かいる。
ダイもいた。ダイは軍服姿で、服には勲章のバッジがところせましと輝いていた。
ラッパの音が鳴り響いた。
式典が始まる合図らしい。
同時に白い鳩が空へ放たれた。
「トルン・ユウダ両民族の長らくの夢、トルン帝国の統一が、ここに成し遂げられたことを宣言する」
チヨが大きな声で宣言した。
同時に祝砲の花火が3発あがり、再びラッパの音が鳴り響いた。
ラッパはしばらく鳴り続けた。
途中から、なにやら聞いたことのある曲を吹いている。
トルン帝国国歌であることに気付くのに少し時間がかかった。
国歌が流れると同時に、トルンの国旗も掲揚され始めていた。
国歌演奏、国旗掲揚が終わると、再び祝砲の花火があげられた。
万歳、万歳という声が聞こえる。
「あの群衆の人たちは、トルン軍に協力したユウダ人たちよ」
ユリがポツリとつぶやいた。
462 :
名も無き被検体774号+:2012/10/13(土) 22:22:26.17 ID:BJtGa2dz0
「ユウダ人の中にも、トルン軍に協力した人がいるんですか」
「いるわ。ユウダ人の2割ぐらいかしらね」
「そうですか」
「もともとユウダはトルンの一部だったから、
そういう思想の人がいたって不思議ではないんだけどね。
でも、私はユウダを愛しているし、独立を守りたかった…」
「曾祖母がトルン人なのに、ユリさんはどうしてそこまでユウダを守ろうとするんですか」
「ユウダで生まれて、ユウダで育ったんだもの。
トルンの血が流れていようが関係ない。私はユウダを愛するユウダ人にすぎないのよ」
「ふうん、そうですか…」
パーン!と銃声が響いた。
続いて何発も銃声が響いた。
群衆が一気に怯えてあちらこちらに走り始めた。
ステージの上にいた王族たちもすぐに姿を消した。
テロかしら、とユリが呟いた。
群衆の一部がこちらに走ってきた。
よく見ると、銃などの武器を持っている。
「ユリさん!」
マホが叫んだ。
しかし、ユリの顔は微笑んでいた。
他の十字架に架けられている人も笑顔だった。
「マホちゃん、助かったわよ」
「え?」
463 :
名も無き被検体774号+:2012/10/13(土) 22:23:17.53 ID:BJtGa2dz0
群衆は処刑場に着くなり、十字架から人を降ろし始めた。
「ど、どういうことですか」
「ユウダ独立義勇軍よ」
しかしすぐにトルン軍が制圧に来た。
銃撃戦が始まった。
向こうのステージでも激しい銃撃戦が行われているようである。
マホは十字架から降ろされると、
降ろしてくれた男の人から「マホさんですか」と問われた。
マホは頷くと、その男から「ついてきてください」と言われた。
「で、でも」
マホはユリの方を見た。
ユリは今十字架から降ろされている。
「私のことはいいわ。彼について行きなさい。」
ユリは近くの人から銃を貰い、銃撃戦に参加していった。
マホは男の人のあとを追いかけるようにして走った。
いつ撃たれるか分からず、生きた心地がしなかった。
464 :
名も無き被検体774号+:2012/10/13(土) 22:24:29.31 ID:BJtGa2dz0
処刑場からだいぶ離れたところに着き、少しスピードを落とした。
「どこに行くんですか」
「本部だ」
「本部?」
「話すと長くなる。あとで話そう」
男は再びスピードをあげて走り始めた。
しばらく走ると、軍用車が一台止まっているのが見えた。
トルン軍かもしれない、と一瞬驚いたが、男が軍用車に手を振ったので、
ユウダ独立義勇軍であることをすぐに理解できた。
軍用車に乗るように指示され、マホは車に乗った。
「ありがとうございます」
車が出発し、マホは礼を言った。
「いや、べつにかまわないさ」
助手席に乗っている男が答えた。
「私の名前を、どうして知っているんですか」
「あんたを救出せよ、と上から命令があったんでな」
「私を?どうしてですか」
「さぁねぇ…。上のことはよく分からん」
「いったい、あなたたちは何ですか」
「俺達ゃ見ての通りユウダ独立義勇軍さ」
「どこに、行くんです」
「本部さ、義勇軍の」
「そうですか…。でも本当、助けてくれてありがとうございます」
「ははは。礼を言うには及ばないよ」
465 :
名も無き被検体774号+:2012/10/13(土) 22:25:46.22 ID:BJtGa2dz0
着いたのは何もないただの焼け野原だった。
車から降りると、男2人は空襲で焼けて黒くなったビルのほうへと歩き始めた。
マホは黙って彼らについていった。
男たちはビルの中に入ると、壁をノックして何かを言った。
ユウダ民族の言葉らしいが、何を言っているのかは聞き取れなかった。
しばらくすると、壁が扉のように開いた。
中からおじさんが出てきた。
「おお、救出成功したのか」
「ああ。なんとか」
「良かった良かった。さぁ入って入って」
中に入ると下へと続く階段があった。
明かりはなく、おじさんの持っている懐中電灯だけが頼りだった。
マホはこけないように壁を触りながら降りた。
降りると長い廊下が続いていた。
廊下にはきちんと明かりがあったので、廊下がどこまで続いているのか見えるが、かなり続いているようである。
「嬢ちゃんには少し会わせたい人がいるんでね」
おじさんがマホについてくるよう促した。
「じゃ、ここまでだな。元気でな」
男2人がマホに手を振り、再び階段を上り始めた。
マホはお礼を言い、頭を下げた。
466 :
名も無き被検体774号+:2012/10/13(土) 22:26:40.19 ID:BJtGa2dz0
>>456 知っている人の名前が出てくると、
ついその人と比べてしまうから困るよね(笑
467 :
名も無き被検体774号+:2012/10/13(土) 22:35:57.93 ID:tav3Civb0
>>466 そうそう、こういった語り系のスレで、知り合いと同じ名前をみると、
偏った見方になってしまうんだなww
468 :
名も無き被検体774号+:2012/10/14(日) 03:15:04.18 ID:lgEBJsrf0
これはユト君くるか
469 :
名も無き被検体774号+:2012/10/14(日) 21:35:19.29 ID:YynrgzTo0
ほしゅ
470 :
名も無き被検体774号+:2012/10/15(月) 20:12:10.45 ID:JjVS/l6C0
ほっしゅ
期待ほしゅ
472 :
名も無き被検体774号+:2012/10/17(水) 22:22:59.18 ID:JjlA+SNj0
ほしゅ
473 :
名も無き被検体774号+:2012/10/18(木) 20:41:18.75 ID:cPmKVJKv0
ほしゅ
474 :
名も無き被検体774号+:2012/10/19(金) 10:51:30.15 ID:zZfp3olz0
ほしゅ!
475 :
名も無き被検体774号+:2012/10/19(金) 16:26:28.29 ID:wMYKeNpR0
ほしゅ
476 :
名も無き被検体774号+:2012/10/20(土) 17:11:46.46 ID:3/upZmMw0
ほ
477 :
名も無き被検体774号+:2012/10/20(土) 20:24:42.39 ID:Y0b8iEt60
連れてこられたのはだいぶ大きな部屋だった。
大きなイスにいかにも軍人らしい男が座っている。
「閣下、お連れ致しました」
おじさんはその軍人に丁寧に頭を下げて、部屋から出て行った。
マホは部屋に一人残され、少し慌てた。
「そこのイスに座れ」
「は、はい」
マホは小走りでイスに座った。
机をはさんで軍人と向かい合わせの状態である。
「トルン帝国の王族、マホ内親王殿下で間違いないかね」
久し振りに内親王と呼ばれて、
少し懐かしい気がした。
「は、はぁ」
「そうか」
「失礼ですが…あなたは一体誰ですか」
「私か?私はイルフェだ」
478 :
名も無き被検体774号+:2012/10/20(土) 20:25:56.77 ID:Y0b8iEt60
「どうして私のことを知っているんです」
「はっはっは。それなりにこちらにも情報は入ってきているのだよ」
イルフェは大きく笑った。
何がおかしいのかは分からなかったが、マホも笑ってみた。
「…私の顔に、見覚えはあるかね?」
イルフェがマホを見つめた。
少し怖かったので、マホは目をそらした。
「いえ…ありませんが…」
「そうか、まぁそうだろうな」
何なのだろう、この人は。
大体、義勇軍が私を助ける意味からして分からない。
きっとこの人が軍に命令して、私を助けたのだろう。
「そうだ。君に会わせたい人がいるから、ぜひ会ってきたまえ」
イルフェは手をぱんぱんと叩いた。
間もなくして衛兵のような人が部屋に入ってきた。
「この娘を12号の病室へと案内し給え」
「はっ」
479 :
名も無き被検体774号+:2012/10/20(土) 20:26:41.63 ID:Y0b8iEt60
病室はかなり近代的な設備の整った清潔感あふれる場所だった。
ベッドのところまで行くよう言われ、
ベッドのところへ行くと、1人の男性がベッドにいた。
「元気だったか?」
「ユト…くん?」
頭が混乱した。
しかし、目の前にいるのは紛れもなくユトだった。
「ど、どうしたんだ、そんな顔して」
「だって…死んだって…」
「いやいや、生きてるよ、この通り」
「う…うん…」
「おい、泣くなよ」
「だって…死んだって…」
「またそのフレーズか」
ユトが笑った。
笑い事じゃないんだから。
480 :
名も無き被検体774号+:2012/10/20(土) 20:27:59.55 ID:Y0b8iEt60
マホの涙が止まり、気持ちもだいぶ落ち着き、
ユトとマホはこれまでのことを話した。
ユトはマホと別れた後、急いで下山していたが、急に後ろから発砲されたという。
すぐにトルン軍の仕業だろうと気付いたが、背中に銃弾を浴びたユトは雪の中に倒れ、もうダメだと悟った。
しかし、トルン軍はユトを捕まえることなく、去って行った。
ユトはトルン軍がいなくなったのを見計らって、痛みをこらえながら下山を開始するも、途中で力尽きた。
そこを義勇軍に助けられたという。
「どうして、義勇軍は私達のことを知っているんだろう」
マホはずっと疑問に思っていたことをユトに尋ねた。
「分からない。俺も何度か尋ねたが答えは得られなかった」
「イルフェっていう何かお偉いさんの人、知ってる?」
「あぁ、知ってる。会ったよ。マホも会ったのか」
「うん。その人、私と以前会ったことあるらしいわ」
「え?」
481 :
名も無き被検体774号+:2012/10/20(土) 20:28:36.95 ID:Y0b8iEt60
「“私の顔に見覚えはあるかな”って聞いてきた」
「見覚え、ないのか?」
「ないわ」
「そうか…。しかし分からないことばっかりだな。この軍を信じていいのかもわからない」
「そうだね」
「ユウダ独立義勇軍が俺らトルン人を助けるなんて、おかしな話じゃないか」
「あ、でも、義勇軍にはトルン系の人がいるんだよ」
ユリのことを思い出した。
「そうなのか」
「向こうは私達のことを知っているということだし、
私達がトルンにとって都合の悪い存在ということも知っているんでしょう。
私達を捕まえて、何か利用するのかもしれない」
「どう利用するんだろう」
「さぁ…」
482 :
名も無き被検体774号+:2012/10/20(土) 20:29:33.86 ID:Y0b8iEt60
その時、病室のドアが開いた。
2人の男の人が部屋に入ってきた。
「わっ」
ユトとマホは2人の姿を見て同時に声をあげた。
「おやおや、2人してそんなに驚かれるなんてねぇ」
「オードのじいさん」
「久し振りだねぇ、ユトくん。そしてこちらのお嬢ちゃんがホミンかな」
「あ、はい、そうです」
「いやぁ〜見違えるね、こんな可愛い娘さんになるなんて」
「えっと…その隣にいる方は?」
ユトがオードの隣にいる白衣を着た男性に尋ねた。
「ギツさんだよ(
>>300参照、ホミンをつくった元王族の科学者。チヨのおじさんにあたる)」
マホがすぐに答えた。
ギツはユトに軽く会釈した。
「この青年がマホの恋人かい」
「え、あ、はい」
マホが顔を赤らめる。
483 :
名も無き被検体774号+:2012/10/20(土) 20:30:48.97 ID:Y0b8iEt60
「ひやひや、畏れ多いねぇ、ユトは。王族の娘と恋に落ちるなんて、まるでおとぎ話じゃないか」
オードがユトをからかった。
ユトはニヤニヤと笑いながら、相変わらずだな、じいさん、と言った。
「で、でもどうしてここにいるんですか」
「そりゃぁ、この義勇軍に属しているからさ」
「えっ、ギツさんが!?オードさんも属しているんですか」
「うんにゃ、ここに来ればユトとホミンに会えるとギツから唆されて」
「ギツさんが?オードさんに?」
「うん。お前さんがオードと暮らしているということは知っていたからね。教えてあげた」
ギツはいろいろと知っているようだ。
「それにオードは元トルン空軍の優秀なパイロットなんだよ」
「え!」
ユトとマホが同時に声をあげた。
「なんだい、その意外だみたいな顔して」
オードが不満そうに言った。
「いや…じいさんがパイロットだったなんて、知らなかった」
「私も知らなかった」
そういえば、オードの若いころの話は聞かされてなかった。
484 :
名も無き被検体774号+:2012/10/20(土) 20:32:24.47 ID:Y0b8iEt60
「でもすぐにやめたけどね。戦争の愚かさに気付いたのさ」
オードは少し後ろめたそうに言った。
何があったのだろう。
「オードなら義勇軍の役に立つよ」
ギドはオードの肩を叩いた。
「わしはもう年だからなぁ」
「謙虚だね。昨日かなり上手く飛行できていたじゃないか」
「いやぁ、でもしかし、ホミンがこんな娘さんになるなんてねぇ、驚いた」
オードは話題を変えて、しきりに感心した。
「そういえば、私がいなくなってどうしていたんですか」
「どうしていたって、普通に暮らしていたよ。
ホミンのやつめ、遊び廻りやがってぐらいにしか思わなかったよ」
オードならあり得る話かもしれない。
「そこにこのギドっていう男がわしの家に来たんだぁね。ユトとホミンに会えるって」
「そうですか…」
485 :
名も無き被検体774号+:2012/10/20(土) 20:34:42.71 ID:Y0b8iEt60
「ギツからホミンのことは全部聞いたよ。いや全くお前さんの心意気には感心したよ。
わしも心を動かされた。お前さんに協力するよ」
オードが言った。
「ありがとうございます…」
「わしも協力するぞ」
ギツはオードに負けじと言った。
「ありがとうございます…」
「さぁて、みんな久々の再会ということだし、今夜はパーッといこうじゃないか」
オードが乾杯の手振りをした。
「おやおや、いいねぇ。わしも混ぜておくれよ」
「当たり前じゃないか。人が多ければ多いほど楽しいわい」
オードは相変わらずの調子だった。
486 :
名も無き被検体774号+:2012/10/20(土) 20:35:39.11 ID:Y0b8iEt60
夕食はユトの病室で行われた。
折りたたみ式の机に、ピザなどが置かれている。
オードは夕食の前からビールを飲み浴び、既に出来上がっていた。
「再会を祝して〜かんぱああああい!!」
オードが絶叫した。
これで6回目の乾杯である。
「もう、うるさいなぁ〜」
隣にいるマホは耳を塞いだ。
「ひゃひゃひゃ、酔い癖が悪いのう」
ギツがニヤニヤとする。
ユトは不機嫌そうに顔をしかめていたが、内心楽しそうだった。
「おいユト、お前も飲むんじゃ」
オードはユトのグラスにビールを注いだ。
487 :
名も無き被検体774号+:2012/10/20(土) 20:36:12.81 ID:Y0b8iEt60
「いやいや、じいさん、いいよ。俺は今飲むのはやめといたほうがいいらしい」
「何じゃ。わしの酒が飲めんというのか」
「そういうわけじゃないけど、飲むと体にさわるんだよ」
「わしの酒が毒じゃというのかあああ」
「もう!ここは病室なんだから静かにしてください!」
マホが大声で叱った。
「うひゃひゃ、もっとやれもっとやれ」
ギツがパンパンと手を叩く。
彼も少し酔っていた。
「では、再会を祝して、かんぱあああああい!!」
これで7回目。
わーオードのじいさんだ!
489 :
名も無き被検体774号+:2012/10/20(土) 23:05:37.77 ID:Y0b8iEt60
夜。マホはユトの病室で寝ることにした。
オードはすっかり酔い潰れ、ギツが違う部屋で介抱している。
「本当に、ユト君が生きていて良かった」
マホはユトのベッドに腰かけた。
「俺だってそうだよ。もうマホには会えないって思った」
ユトがマホの手を握った。
「ユト君、手がカサカサしてる」
マホはユトの手を両手で撫でた。
ユトの肌は乾燥していた。
「マホの手は柔らかいな」
「あははは。太っているからかな」
「そうかもしれんな」
「え、私、太ってるかな」
「冗談だよ、太ってない。でも柔らかいし、すべすべしてる」
次はユトがマホの手を撫でた。
しばらくして、ユトがマホに顔を近づけてきた。
もう少しでマホの唇へと接触しようとした時、病室のドアががちゃりと開いた。
490 :
名も無き被検体774号+:2012/10/20(土) 23:06:23.70 ID:Y0b8iEt60
「おや、邪魔したかな。ノックぐらいすれば良かったね。すまない」
イルフェだった。
ユトとマホはすぐに離れて、顔を下に向けた。
「はっはっはっは、若くていいね」
マホの顔が真っ赤になる。
「ユト、具合はどうだい」
「あ、おかげさまで、かなり良くなりました」
「うむ。それは良かった」
イルフェを続いてマホを見た。
「マホ、いい男をもったな」
マホの顔はいよいよ赤くなる。
「きっといい夫婦になる。結婚式には是非招待してくれ」
「け、結婚だなんて、え、あははは」
「はっはっはっはっは。この戦いに勝った暁に、俺が2人の結婚式をひらいてやろう。なに、費用は俺が出す」
「え、いや、そんな」
「遠慮はいらんよ。約束しよう。はっはっはっはっは」
「は、はぁ」
491 :
名も無き被検体774号+:2012/10/20(土) 23:08:10.25 ID:Y0b8iEt60
「そこで、君たちに伝えたいことがあるんだがね」
「なんでしょうか」
「君たちは、私たちユウダ独立義勇軍に参加しようと思うかね」
「もちろんです」
マホが言い放った。
「ほう、心意気があっていいね」
「俺も、参加します」
「うむ、実に心強い。…命を投げ出す覚悟もあるのか」
「とうにできています。トルンと、母と戦うことは、私の望みでしたから」
「そうか、知っているよ、マホ。君は実に芯の強い人間だ。そして勇気がある。頼もしいよ」
「ありがとうございます」
492 :
名も無き被検体774号+:2012/10/20(土) 23:19:42.73 ID:Y0b8iEt60
ユウダ併合宣言式典でのユウダ独立軍の蜂起は、トルン政府にとって大きな衝撃だった。
ようやくユウダを潰したと安堵していたところに、
次は一億人以上もの人口を抱えるユウダの民衆と戦わないといけないかもしれないこととなったのだ。
政府が頭を抱えるなか、再び頭を悩ます報が入った。
捕虜収容所と空軍基地が義勇軍や民衆の蜂起によって占領されたというのだ。
その後もユウダ各地で義勇軍を中心とした独立運動が展開され、再び戦争状態となった。
既に前回の戦争で、かなりの資金と物資を消費していたトルンには、
これ以上の戦争は財政の許す範囲ではなくなっていった。
経済は悪化し始め、戦死者も増え、トルン世論の間では不戦論が徐々に広がり始めた。
それでも政府はあくまで戦争継続の姿勢を変えなかった。
ユウダでは独立義勇軍がユウダ共和国臨時政府を創設し、
臨時政府のもとでユウダ人は武器を手に取りトルンと戦い始めた。
トルン占領下であったユウダは、徐々に臨時政府によって解放され、
解放地区は次第に広がり、ついにユウダ本土の全てを取り戻すことに成功した。
しかしまだイェフト島などの本土近くの島々はトルンの占領下にあり、その島々では激しい戦闘が繰り返された。
http://uploda.cc/img/img5082b2da448d7.jpg 赤で示した部分がトルン占領下
493 :
名も無き被検体774号+:2012/10/20(土) 23:21:05.25 ID:Y0b8iEt60
トルンにとって、イェフト島をはじめとする島々をユウダに奪い返されるのはどうしても避けなければならなかった。
イェフト島はトルンのウェント市と地理的にかなり近く、
イェフト島が制圧されれば、次はトルン本土にユウダ軍が来る可能性があったのだ。
イェフト島でのユウダ独立義勇軍の本拠地はユウダ本土側の港近くにあった。
マホは15歳で、しかも女子ということで、この激しい戦闘の参加は周りから反対され、
本拠地で事務や物資の調達などの雑用をしていた。
ユトは義勇軍として、毎日前線で戦い、
明日の命も分からない状態が続いていた。
やっぱ面白いなぁ
つC
495 :
名も無き被検体774号+:2012/10/21(日) 17:45:38.13 ID:w1ZAsVVO0
仕事が一段落したマホは背伸びをして、建物から外へ出た。
北国のイェフト島にも、ようやく春が訪れようとしており、
日光が日に日に温かさを増している。
マホは本拠地の建物の裏にある山へ行き、
誰もいないことを確認して、落葉の中に隠しておいた剣を手に取った。
もしもの時に備えての護身用の剣だった。
しかし、それを持っていても使えなければ意味がない。
マホは暇な時に、こうして山で剣の練習をしていたのだった。
王族として育ったマホだが、剣の扱い方に関してはかなり得意だった。
精神修養という目的で、王族は剣術(セージュ)を習っていたのだ。
しかし、それが得意であっても、いざ戦闘ということになると分からない。
というわけでマホは時々、ユリと剣で戦ったりしていた。
現役の軍人であるユリにもマホは負けることもなく、互角の戦いを見せていた。
496 :
名も無き被検体774号+:2012/10/21(日) 17:47:28.61 ID:w1ZAsVVO0
しばらく剣の素振りをしたあと、マホは剣を隠して下山した。
しかし、下山しても本部の建物へと戻らず、反対の方向へと歩き始めた。
たどり着いたのは、ヨリが埋められている空き地だった。
マホは定期的にこの空き地を訪れて、近況について話していた。
本当はこんな空き地ではなく、立派なお墓を立てて、そこにヨリをうつしたかった。
とりあえずこの戦争が終わるまでは、その願いは叶いそうもなかった。
本部に戻り、今度はマホは夕食の準備に追われた。
毎日毎日が慌ただしく、ユトの安否が気になって仕方無かったが、充実していた。
497 :
名も無き被検体774号+:2012/10/21(日) 17:48:09.55 ID:w1ZAsVVO0
数日後、ユトが本部へと戻ってきた。
ユトは昨日の戦闘で足を負傷し、病室で治療を受けているとのことを聞き、マホは急いで病室へと向かった。
「ユトくん!」
マホは病室のドアを勢いよく開けた。
病室にいる何十人もの負傷兵と看護婦が驚き、マホを見た。
「あ…す、すみません…」
マホは頭を下げて、申し訳なさそうに歩きながらユトを探した。
ユトは左足を負傷していた。
銃弾を受けたらしく、出血がかなりひどかったという。
その場の応急処置で大事には至らなかったが、本部での療養を余儀なくされた。
「これから毎日会えるね」
と、マホは内心嬉しかったが、口に出すことはできなかった。
軍人である彼に、そのような発言は侮辱にあたるからだ。
498 :
名も無き被検体774号+:2012/10/21(日) 17:48:51.12 ID:w1ZAsVVO0
夜中に再びマホは病室を訪れた。
寝ている人を起こさないように、ゆっくりと歩いた。
消灯時間なので電気もついておらず、
ユトはもう寝ているかもしれないとも思ったが、起きていた。
「どうした、こんな遅くに」
ユトが小声で話した。
「ううん、会いたくなって、ちょっと」
「昼も会ったじゃないか」
「いつも会っていたいの」
「ははは、俺もだよ」
ユトはマホの手を握った。
やっぱり肌が乾いている。
「ねぇ、ユトくん」
「ん?」
「いつでもいいからさ、トランペットを吹いてみない?」
499 :
名も無き被検体774号+:2012/10/21(日) 17:49:35.46 ID:w1ZAsVVO0
「トランペットか。懐かしいな。吹きたくなった」
「本当?明日じゃなくていいけれど、一緒にあなたと吹いてみたくって」
「トランペットとクラリネットだろ?
なんだか変わったアンサンブル(音楽用語で2人以上が同時に演奏すること)になりそうだなぁ」
「ふふ、そうね」
「でもトランペットなんて、ここにあるのかい」
「うん、倉庫にあったよ。クラリネットは本土から私が持ってきたのがある」
「準備がいいんだな」
ユトが笑った。
「じゃぁ、約束だよ」
「おう、約束だ」
2人は小指を絡ませて指きりをした。
マホはユトのベッドに腰かけた。窓から月が見える。綺麗な星空だった。
ふとユトと目があった。
そういえばずっとキスをしていない。
2人は自然と顔を近づけた。
500 :
名も無き被検体774号+:2012/10/21(日) 17:50:32.96 ID:w1ZAsVVO0
次の日、ユトは病室のベランダでトランペットの練習をし始めた。
久々にトランペットを吹いたので、かなり腕は落ちていた。
マホも休み時間にクラリネットを持ってきて、ユトと一緒に吹いたりした。
少し腕が落ちたと照れくさそうにマホは言った。
そんな日がしばらく続き、病室では2人の演奏を楽しむ負傷兵が増えていった。
ついに2人は練習した曲を病室で発表した。
曲は簡単なものであったが、ユウダの各地方に伝わる民謡や故郷の曲に涙する人や、明るい陽気な曲で励まされる人もいた。
病室にいる時間の増えたマホは、
病室で負傷兵の世話係を任ぜられ、毎日のように負傷兵との交流を楽しんだ。
501 :
名も無き被検体774号+:2012/10/21(日) 17:51:05.90 ID:w1ZAsVVO0
ユトのケガが完治し、ユトは病室にいなくなった。
とんでもないことだとは思うが、
また負傷して戻ってこないかな、と思う時もあった。
マホのクラリネット演奏は続いていた。
演奏は毎日20時に行われた。
口笛と共に曲を吹く人や、手も叩く人もいた。
502 :
名も無き被検体774号+:2012/10/21(日) 17:51:58.71 ID:w1ZAsVVO0
ある日の夜。
大規模な軍事衝突が発生し、本部にも続々と負傷兵が運ばれていた。
病室だけでは負傷兵が入りきれず、外に負傷兵を寝かせるほどであった。
「姉ちゃん…、ちょ…、ちょっと…」
マホが薬を運んでいると、寝ている負傷兵から話しかけられた。
「はい、なんですか」
マホはその負傷兵のもとに近付いて座った。
ひどい怪我だった。
包帯はすっかり血で濡れていた。
「俺は…もうダメだ…」
「何を言っているんです」
「リヨンに…すまないと…言ってくれ…」
「え?」
「姉ちゃん…ホントに…リヨンに、…似てるなぁ…」
負傷兵がかすかに笑っているように見えた。
それっきり何もしゃべることもなくなり、マホが急いで脈をとった。
死んでいた。
503 :
名も無き被検体774号+:2012/10/21(日) 17:52:58.08 ID:w1ZAsVVO0
「医務長、御臨終です」
マホはすぐ近くにいる医務長に知らせた。
「分かった、忙しいから自分で何とかしてくれ」
「何とかって…」
「身元確認と死亡届けぐらいできるだろ。
遺体は死亡届けと一緒に安置所に置いておけば本土の役人が引き取ってくれるから」
「は、はい」
マホはとりあえず運んでいた薬を頼まれた人に渡して、身元確認の仕事にあたった。
軍服のポケットの中から身分証明書と写真が出てきた。
マホと同じくらいの年だろうか、少女と軍服姿の男性が一緒に写った写真だった。
男性はこの人で、少女はこの男性の娘だろうか。
身分証明書を見ると、男性の名前はヒトロだった。年齢は41歳。
死亡届けを書いたあと、遺体を安置所に運んだ。
とてもマホひとりの力では無理なので、近くを歩いていた看護婦と一緒に運んだ。
安置所に運び終わり、マホは本部の建物へと行った。
血で手が汚れたのだ。この状態で人を治療することはできなかった。
504 :
名も無き被検体774号+:2012/10/21(日) 17:53:39.75 ID:w1ZAsVVO0
トイレに入って手を洗っている最中、誰かの叫び声が聞こえた。
マホは急いでトイレから飛び出した。
途端に、大きな音がした。
次にマホの体が宙に浮き、壁に激突した。
気付いたら建物の下敷きになっていた。
真っ暗で周りがほとんど見えない。
トルン軍が爆撃してきたに違いない―…。マホはすぐに理解できた。
外では激しい銃撃戦が行われているようだ。
空と陸から一気に攻められるとは…。
マホは体を起こそうと思ったが、動けなかった。
外では仲間が敵に襲われているというのに…!
505 :
名も無き被検体774号+:2012/10/21(日) 17:54:23.05 ID:w1ZAsVVO0
「マホはいたか」
ダイは近くにいた兵隊に声をかけた。
「まだ見つかっておりません」
「そうか。必ずここにいる。何としてでも見つけて捕らえろ」
「はっ」
ダイの率いる軍隊はユウダ独立義勇軍の本拠地の奇襲に成功した。
今は激しい戦闘が行われているが、本拠地がダイの軍隊の手に落ちるのも時間の問題であった。
マホは必ずここにいるはずだ、との情報は以前から聞いていたが、本当かどうかは分からなかった。
しかし、ユトが軍隊にいるのを見たダイは、マホもこのイェフトにいるはずだと確信していた。
もしかしたらマホはさっきの爆撃で死んだかもしれない。
そうであれば、自分の手でマホを殺さずにすむから、そのほうが良かった。
戦闘が終結し、本部の人間はすべて捕虜となった。
ダイは捕虜をひとりひとり確認したが、マホはいなかった。
やはり、ここにはいないのか…。
506 :
名も無き被検体774号+:2012/10/21(日) 17:55:39.38 ID:w1ZAsVVO0
ようやく建物から抜け出せた時には、銃撃戦は既に終わり、辺りはしんと静まり返っていた。
みんな捕虜となってしまったのだろうか。
マホは音をたてないように外に出た。
出たのは本部建物の裏だった。
このまま真っすぐ行けば、裏山に行ける。
そこから剣を持ってきて、トルン軍と戦おうかと考えたが、自分一人では到底無理な話だった。
とりあえず裏山に逃げて、このことを他の軍に伝えなければならない。
裏山へ何とか着いたマホは、隠していた剣を取り出した。
何かあれば、これでなんとか抵抗できる。
だが、銃の前では無力に等しいのはマホにも分かっていた。
山から本部の建物を見降ろした。
トルン兵がたくさんいた。
地面に集団で座らせられているのは捕虜となった本部の人たちだろう。
後ろめたさを感じたが、
マホはここから逃げることにした。
507 :
名も無き被検体774号+:2012/10/21(日) 17:56:26.07 ID:w1ZAsVVO0
やはりいた。
さっきの影は間違いなくマホだ。
崩壊した建物の裏から逃げる影を、ダイは見逃しはしなかった。
その場で他の兵隊にマホを追わせても良かったが、
マホが下手に抵抗すれば兵隊に殺されるかもしれなかったし、自分でマホを始末しておきたかった。
ダイは副官に軍の統率を頼み、
急いで本部裏にある山へと向かった。
坂を登る時、マホが崖の上から本部を眺めている姿が見えた。
ダイは見つからないように静かにマホに近付いた。
するとマホはすぐに崖から森の奥深くへと逃げていった。
このまま逃げられてはマズイ、とダイはマホを追いかけた。
508 :
名も無き被検体774号+:2012/10/21(日) 17:57:29.99 ID:w1ZAsVVO0
誰かが追いかけてくる。
マホは後ろから近づいてくる足音と激しい息遣いに怯えていた。
トルン軍に見つかったに違いない。
「止まれ!止まらないと撃つぞ!」
後ろのトルン軍が声を荒げた。
止まってたまるものか、とマホはその声を無視した。
するとすぐに発砲音が聞こえた。
マホは驚き、つい転んでしまった。もうダメだ。
「ははっ…ここまでだな!」
え?
マホは起き上がって後ろを見た。
5mほど向こうにダイの姿があった。月の光に照らされて青白く見える。
「やっぱりここにいたんだな…」
ダイは息遣いを正しながら言った。
「抵抗するな、両手をあげるんだ」
マホは動かなかった。
「聞こえないのか?」
ダイがマホに近付こうとした。
マホは剣を取り出した。
「おおっ、危ないな、お前」
ダイが後ずさりした。
「だが無駄だぜ」
ダイは銃口をマホに向けた。
509 :
名も無き被検体774号+:2012/10/21(日) 17:58:21.53 ID:w1ZAsVVO0
「剣を捨てて、両手をあげてこっちに来な」
マホはしばらく考えたあと、剣を地面に置いた。
両手をあげてダイのもとへとゆっくり近づいた。
「そうだ、そのままこっちへ…」
ダイが言い終わらないうちに、マホが急にダイに飛びかかってきた。
ダイは銃をあわてて何発か打ったが、マホに飛びかかれているので、弾は空へと向かうだけだった。
マホはダイの腕から銃を奪ったが、
ダイの抵抗にあって銃を手から落としてしまった。
ダイがその銃を取ろうとしたが、マホはその手を思いっきり掴んだ。
2人が激しく揉み合ったせいで、銃は崖の下へと落ちてしまった。
マホはダイから離れて、急いで剣を拾い、ダイへと切っ先を向けた。
「剣で勝負、か」
ダイも腰にかけていた剣を抜いた。
月の光でキラリと光った。
510 :
名も無き被検体774号+:2012/10/21(日) 18:00:40.06 ID:w1ZAsVVO0
「こうやって2人でセージュシュラ(剣術を駆使して戦うこと)をするのは、もう十何年ぶりだな」
セージュシュラ(剣術戯遊)といって、王族同士で剣の腕前を競うがあった。
ダイとは何回も戦った。
「セージュジュラの時は話してはいけないのよ」
「いいじゃないか。楽しもうぜ」
「とても楽しめる状況じゃないわ」
「なんだ。緊張しているのか。お前らしくないな」
「恐いだけ」
「おーおー、かわいそうに。早く降参すればいいじゃないか、ん?」
「しない」
「そうか…。そりゃ残念だ。お前を切るなんて、したくはないんだがな」
ダイが急にマホに走りかかり、剣を振りおろしてきた。
マホは剣でそれを受け止めた。
大の男の力にマホが耐えれるわけがなく、つい押されてしまう。
「ははは!力がないぞ!」
ダイが余裕そうに笑った。本気で力は出していないらしい。
マホはダイの剣を振り払い、後ろに下がってダイから離れた。
511 :
名も無き被検体774号+:2012/10/21(日) 18:01:53.75 ID:w1ZAsVVO0
「そんなに恐がるなよ」
ダイが再び走りかかってきた。
マホは剣をダイにむけて振ったが、当然止められた。
ダイはマホの剣を振り払い、すぐにマホにまた剣をふりかざした。
マホはよけようと思って、その場から逃げようとしたが、足をすべらせ転んでしまった。
すぐに起き上がったが、
ダイがマホに突撃してきたために、再び地面にひっくりかえった。
ダイは仰向けになっているマホの太ももの上に乗り、
切っ先をマホの喉の近くに向けた。
「こんな可愛い女を切るなんてなぁ」
ダイがマホの顔を撫で回してきた。
しかしもう片方の手にある剣の切っ先はマホの喉に向けられていた。
マホは動くこともできなかった。
「顔は切らないでおくぜ。女の顔を切るのはかわいそうだ」
ダイの手はマホの胸にうつった。
「や、やめてっ…」
マホが少し動いて抵抗しようとした途端、
ダイの剣がすぐ喉元にきた。
「暴れんなよ」
512 :
名も無き被検体774号+:2012/10/21(日) 18:02:59.23 ID:w1ZAsVVO0
ダイはマホの手から剣を奪い取り、
遠くのほうへ剣を投げたあと、マホの上着を脱がせ始めた。
「やっ…やだっ…!!」
マホが体を激しく動かした。
「暴れたって無駄だぜ。お前にはもう武器はない」
マホの胸が露になった。夜のひんやりした空気が肌にあたる。
ダイはマホの胸に顔をうずめた。
「なにするの…!や、やめてよ…!」
マホは思いっきり暴れた。
ふと、地面におかれたダイの剣が目に入った。
今はダイは剣を持っていない。チャンスかもしれない、とマホは思った。
ダイの手はそのままマホの陰部へと向かった。
服の中にダイの手が侵入してくる。
剣は相変わらず地面に置いたままである。
「なんだ?急に静かになったな。気持ちいいのか?」
ダイがニヤニヤし始める。
「やめてよ…!」
マホは少しだけ体を動かして抵抗しているようにみせた。
激しく抵抗すれば、ダイが再び剣を持つかもしれない。
「力が弱くなってるぞ?あ?」
「違う…!もうやめ…ぁっ!」
快感が体を襲った。顔が真っ赤になるのが分かった。
513 :
名も無き被検体774号+:2012/10/21(日) 18:04:03.07 ID:w1ZAsVVO0
「やっぱりな」
ダイが激しく手を動かし始めた。
声がつい漏れてしまう。
今だ、とマホは思い、体を思いっきり動かして、ダイをその場から突き飛ばした。
マホは急いでダイの剣を取って、
地面に尻をつけているダイの顔へと切っ先を向けた。数センチしか離れていない。
「俺を、殺すのか」
ダイは立ち上がらずに、静止したまま言った。
「それはあなた次第ね。本部の捕虜を全員解放して、
ユウダから手を引くと約束するのであれば、あなたを逃がしてあげるわ」
「無理な話だな」
「ならここで死んでもらうだけよ」
マホはダイの喉元に切っ先を向けた。
「お前に俺が殺せるのか?」
「弱く見えるわ、そんなこと言うなんて」
「偉そうにするなよ」
ダイが急に動き始めた。
マホはダイを刺そうとしたが、ダイが剣を素手で持ったため、刺すことはできなかった。
ダイの手から血が出始めた。
514 :
名も無き被検体774号+:2012/10/21(日) 18:05:12.40 ID:w1ZAsVVO0
間もなくして、2人は再び揉み合いになった。
ダイはマホの手から剣を奪おうとするが、マホはなかなか手を離さなかった。
手を切ったダイは、なかなか力を出すことができなかったのだ。
マホは腕を思いっきり振った。
ダイは咄嗟にマホから離れた。
チャンスとばかりにマホは剣をダイに向け、ダイのほうへと走った。
――…このまま刺す!
ダイの姿が急に見えなくなった。
違う、ダイは崖に落ちたのだ。
マホはすぐに崖の下を覗いた。
ダイは崖に生えている太い木の枝につかまっていた。
手を伸ばせばダイを助けられる距離だった。
マホはダイのほうへ手を伸ばした。
「…その手に掴まれ、とでも言うのか」
ダイは木の枝に捕まったまま宙ぶらりんの状態で言った。マホは頷いて返事をした。
「どうして、俺を助けるんだ?」
「どうしてって…」
「敵だぜ。敵が命の危険にあるのに、それをわざわざ助けようとするなんて、馬鹿なこった」
「そんなこと言う暇があるなら、早く掴まったらどうなの」
ダイはマホの手に掴まろうとはしなかった。
木の枝がギシギシと鳴り始めた。
515 :
名も無き被検体774号+:2012/10/21(日) 18:05:50.14 ID:w1ZAsVVO0
「なんだか似たようなことが昔にもあったな」
ダイがマホの目を見つめながら言った。
「2人で庭園にある木に登ったのを覚えてるか?」
「かすかに、覚えているけれど」
「俺が調子に乗って高いところに登って、足を滑らせてさ。お前が俺の腕を握って、なんとか助かったっけな」
「そういえば、そんなことあったわね」
ダイとは小さい頃よく遊んでいた。
私がカフェオレが好きになったのも、ダイがつくってくれたカフェオレが始まりだった。
「大きくなったな、マホ」
ダイが懐かしそうに言った。
その間にも木の枝は今にも折れそうだった。
「早く、私の手につかまって…」
マホが必死に腕を伸ばした。
516 :
名も無き被検体774号+:2012/10/21(日) 18:06:23.74 ID:w1ZAsVVO0
「いざ死を目の前にしても、全く怖くねえや、俺」
「何言っているの、掴まって」
「なぁ、マホ」
「なんですか」
「あの頃は楽しかったよなぁ…。あの頃に、戻りてえや…」
「…早く、掴まって」
「俺ら、どうしてこうやって戦ってるんだろうな。あの頃は仲良く遊んでたのにな…」
「早く…!折れるわ…!」
「なぁ…、マホ…」
「掴まって!」
「ユトと、仲良くな」
「早く…!」
「そして、マホ…」
ダイが言い終わらないうちに、枝がバキッと音をたてた。
ダイの体が小さくなっていった。
517 :
名も無き被検体774号+:2012/10/21(日) 18:07:37.98 ID:w1ZAsVVO0
マホは急いで山を降りて、ダイの落ちたところへと向かった。
草がぼうぼうと生えている中に、ダイの体があった。
ここは、ヨリが埋められている空き地だった。
急いでマホは脈をとり、死んでいるのを確認した。
脈をとらなくても、すでに体が冷たくなっていることで、死んでいるのは分かっていた。
マホはダイの遺体の近くに尻もちをついた。
自然と涙が出た。
なぜだろう。敵なのに。
あんなに恐れていた相手なのに。
涙が頬をつたりはじめた。
しゃっくりが出始める。
激しい嗚咽で息遣いも荒くなった。
518 :
名も無き被検体774号+:2012/10/21(日) 18:08:29.69 ID:w1ZAsVVO0
私が小さい頃、ダイは私を妹のように可愛がってくれた。
いつも一緒に遊んでいた。
悪さもしたりして、世話係のおじさんから一緒に叱られたこともあった。
ケンカをして一緒に泣いたこともあった。
おもちゃをとりあったこともあった。
似顔絵を描きあったこともあった。
水遊びをしたこともあった。
いろんなことが、頭の中に浮かんだ。
その思い出を共有している人は、もういなくなった。
マホはダイの手を握った。
あの時、木から落ちたダイの手を掴んだ時の手より、大きくなった手。
その手はすっかり冷たくなっていた。
ダイ死んだの。昨日から読み始めましたが、面白い。
520 :
名も無き被検体774号+:2012/10/22(月) 00:32:17.63 ID:nfzZVOG+0
マホが赤ちゃんだったサキをムドの家に置いていく場面も泣けるけど、
ダイが死ぬ場面も泣けた。
521 :
名も無き被検体774号+:2012/10/22(月) 23:29:04.17 ID:CW5r5cX70
保守
522 :
名も無き被検体774号+:2012/10/23(火) 00:06:01.54 ID:2Wk4IBBt0
523 :
名も無き被検体774号+:2012/10/23(火) 23:44:28.65 ID:ZXXfZmUW0
ほしゅ
524 :
名も無き被検体774号+:2012/10/25(木) 06:47:26.86 ID:Mhpk59Fg0
ほ し ゅ
525 :
名も無き被検体774号+:2012/10/25(木) 21:00:33.03 ID:Tc0rttk80
「ギツ」さんが「ギド」さんになっている部分がありますが、無視してください。
すいません。
526 :
名も無き被検体774号+:2012/10/27(土) 08:10:49.75 ID:WD+eCrSe0
期待ほしゅ
電車男が流行ってた頃の話しだが、
小説ヲタなのかプロ目指してる底辺なのか分からんが、奴等って読解力が低いんじゃね?
ちょっと書き方がオカシイと意味が分からないとか支離滅裂だとかヌカす。
主人公が語る短編小説を書いてたが批判ばっかりするから止めたな。
下記は、とあるプロの本文をオレらしさで再表現したもの。
聞き慣れた目覚ましベルが鳴り続く中で、俺は駄々っ子のように聞き取れない言葉で愚痴りながら目を醒そうと努力した。
鉄がへばり付いてるみたいに糞重い両目蓋を開けば、突き刺す眩しい光がマドから入り、更に俺の目蓋に鉄を上乗せした感じで重くさせた。
春から夏へと移り変わる浮かれた気配もちょっと感じつつ、どうにもこうにも布団から出たくないという意思に駆られてしまう。
でも時間と共に青カビ臭いカーテンの隙間から漏れ出る眩しさに、容赦無く寝ぼけた意識が覚醒されていった。
「あぁ……鬱だあ」
もう、何度このセリフを吐いたのか、記憶にもないわ……
528 :
名も無き被検体774号+:2012/10/27(土) 10:27:53.00 ID:k64vrE0g0
変にたくさんの修飾、比喩表現を使ったりするより、
ただ短文で書く方がいいと思う。
聞き慣れた目覚ましベルが鳴り響く。
俺は駄々っ子のように、聞き取れない言葉で愚痴りながら目を醒そうと努力した。
両目蓋は鉄がへばり付いてるみたいに重い。いざ開くと、突き刺すような眩しい光が入り、更に鉄を上乗せしたように感じられた。
春から夏へと移り変わる浮かれた気配も少し感じつつ、どうにもこうにも布団から出たくないという意思に駆られてしまう。
しかし時間と共に、青カビ臭いカーテンの隙間から漏れ出る眩しさに、容赦無く寝ぼけた意識が覚醒されていった。
「あぁ……鬱だあ」
もう、何度このセリフを吐いたのか、記憶にもないわ……
529 :
名も無き被検体774号+:2012/10/27(土) 13:06:06.28 ID:aXrM5b7x0
修飾、比喩って付けない方が流行なん?俺のつけ方が下手なんだろうが。
小説ほとんど読まないから事情がわからんな。個人的に付けたくなる質なんだよなぁ
当時はよく、「一人称でその描写はしない」って言われたわ。
何が悪かったのか今でも理解してねーわ。
>俺は外で買って来たジュースをコップに注いだ。
これだとつまらないから、、
>>如何わしルックスと、脂ギッシュな顔して外から戻った俺は、
買って来た生温くなってしまったジュースにも気にせず喉の渇きを抑えたいが為にコップに注いだ。
531 :
名も無き被検体774号+:2012/10/27(土) 14:45:06.81 ID:k64vrE0g0
流行というわけではないけれど、
状況描写として、簡潔に分かりやすくするためにいい。
読書というのは読者のイメージを広げさせるためにも、簡潔に状況をイメージしてもらう必要がある。
もし修飾とか比喩とかをたくさんつけたら、
イメージするにも限られてしまうからね。
どちらがいいかは個人の自由だけれど、個人的には「イメージ広がる読書」が好き。
ちなみに明治文学は、そういうたくさんの比喩・修飾をつけることで、
自分の表現力の高さを競っていたはず。
森鴎外とかがそうじゃなかったかな。舞姫とかで。
532 :
名も無き被検体774号+:2012/10/27(土) 17:19:57.79 ID:VmqY4o8L0
眩しい光(プラスイメージ)が青カビ臭いカーテン(マイナスイメージ)から出るっていうのは小説表現としておかしいと思う
533 :
名も無き被検体774号+:2012/10/27(土) 20:09:12.59 ID:k64vrE0g0
>>532 青カビ臭いカーテン(マイナスイメージ)は主人公の空間だから、
その主人公の空間もマイナスイメージっていうことだろう。
そのマイナスの空間に眩しい光(プラスイメージ)が入り込むと考えれば、
別に構わないかもしれない。
534 :
名も無き被検体774号+:2012/10/28(日) 00:13:15.14 ID:4UOdt4zB0
>>522 イルフェさんカッコよすぎワロタ
ダイ兄さん死んじゃったね……この人結構本気でマホのこと好きだったんじゃないかな
535 :
名も無き被検体774号+:2012/10/28(日) 00:18:48.84 ID:jFSCJxtj0
>>534 どうだろうね。自由に御想像ください。
「おい、起きるんだ。何だってこんなとこで寝てるんだい。さあ起きるんだよ」
体を揺らされて、マホは目が覚めた。
「ぁ…オードさん…」
オードの後ろにはギツもいた。
「ユトに愛想を尽かして、浮気相手と駆け落ちかい」
オードが冗談を飛ばした。
笑えなかった。
「しかしこりゃ驚いたな、こいつと寝るなんて」
「おや、ギツ、この男を知っておるのか」
「知るも知らないもないさ。親戚だもの」
「やや、驚いたな」
536 :
名も無き被検体774号+:2012/10/28(日) 00:19:41.37 ID:jFSCJxtj0
「驚くのはまだ早いよ。こいつはダイだよ」
「ダイ?ダイってあのダイ様かい」
「そうさ、あのダイ様だよ」
「ひやひや畏れ多いねぇ、そんな人と駆け落ちだなんて。王族同士惹かれあったのかい」
「お前さんも口が悪いな。…こいつ死んでおるようだが」
「なんじゃと」
オードがダイの頬に触れた。
「ひや〜冷たい冷たい、こりゃ大変だ」
オードがその場を少し離れた。
オードにしては珍しく本当に驚いたようだ。
「お前さんが、やったのかい」
ギツがマホに問うた。
「いいえ…違います。でも、私がやったのも同じです」
マホは昨夜のことを話した。
537 :
名も無き被検体774号+:2012/10/28(日) 00:20:51.16 ID:jFSCJxtj0
「そうかい。この崖からねぇ…」
ギツが上を見上げた。
つられてオードとマホも見上げた。朝日が眩しい。
「ダイが死んだとなると、トルン軍もトルン政府も黙ってないだろうね」
「…そうですよね」
「とりあえず今はこの死体を隠したほうがいい。しばらく行方不明にしておくんだ」
「隠すって、どこにですか」
「あの建物の中なんていいね」
ギツは向こうにある古びた建物を指差した。ヨリと一緒に働いていた工場だ。
今はすっかり使用されずに残っている。
ダイの遺体は建物の一番奥の部屋へ置いた。
腐乱臭で居場所がバレるかもしれないからだ。
「さ、早く建物から出よう」
ダイの遺体のそばから離れようとしないマホにギツが呼びかけた。
マホは後ろ髪を引っ張られる思いに駆られながらも、ダイから離れた。
「よくまぁ、あんな暗い部屋で死人と対峙できるもんだねぇ。不吉だからわしには無理だ」
オードは一番先に部屋から出ていた。
「じゃ、閉めるよ」
ギツが扉を閉めようとした。
538 :
名も無き被検体774号+:2012/10/28(日) 00:21:39.55 ID:jFSCJxtj0
「…あ、待って下さい」
マホは再び部屋に入って、
ダイのもとへと歩みよった。
「よほど死体好きだと見えるねぇ…おお恐ろしい」
オードが後ろから嫌味を言った。
しばらくして、マホが戻ってきた。
「何をしていたんだい」
ギツが扉を閉めながら尋ねた。
「地面に直接頭がついていたから、ハンカチをダイお兄様の頭の下に敷きました」
「そうか」
ダイお兄様、か。
ギツは心の中で、その言葉を繰り返した。
539 :
名も無き被検体774号+:2012/10/28(日) 00:22:52.45 ID:jFSCJxtj0
ダイが戻ってこないということで、トルン軍は焦りを感じていた。
戦闘に参加している軍を減らし、
ダイを見つけるための部隊を新たに増やして、
イェフトでは徐々にユウダ軍優勢となり始めた。イェフト島ユウダ軍の本拠地が制圧されたにも関わらず。
イェフト島がユウダの手に落ちてはマズイと感じたトルン政府は、
イェフト島だけは死守せよと軍に命令を出し、他の島々にいる軍隊の多くをイェフト島へと派遣した。
そのため、他の島々は次々にユウダ軍によって解放された。
トルン政府はダイの失踪を隠し続けたが、ついにダイの遺体が見つかった。
ダイの死が公表されると、トルンの世論は沸騰した。
ユウダを徹底して攻撃しろとの過激な意見が噴出したが、
トルンにとってこれ以上の戦争継続は財政破綻を招きかねなかった。
長引く不況と物価高で国民の不満は更に募っていった。
540 :
名も無き被検体774号+:2012/10/28(日) 00:24:10.05 ID:jFSCJxtj0
トルンによる徹底した空襲で国土が焼け野原と化したユウダも、
これ以上の戦争を継続するのは困難だった。
食糧も不足し始め、いち早くイェフト島を制圧して停戦に持ち込もうという考えが臨時政府内にもちあがっていた。
そこでユウダ・トルン両政府は極秘で停戦協定について会談した。
しかし決裂。戦争は続くこととなった。
イルフェ島の戦闘激化に伴い、
島民の女子供などの一般市民はユウダ本土へと避難をさせられた。
義勇軍に所属しているマホも本土へと移されることになり、
ユトと離れ離れになることになった。
マホが配属されたのは、ユウダ臨時政府だったが、
それまでと同じように、雑用に追われる日々だった。
新しい配属地で、マホが驚いたことがひとつあった。
ユウダ独立義勇軍のトップであったイルフェは、臨時政府の首相でもなく、大臣というわけでもなく、ただ普通の指揮官ということだ。
イルフェはつい最近までイェフト島での戦闘に参加していたが、
現在はマホと一緒に臨時政府に配属され、陸軍省で指導にあたっているという。
541 :
名も無き被検体774号+:2012/10/28(日) 00:25:49.90 ID:jFSCJxtj0
ついにイェフト島はユウダによって解放され、ユウダはすべての領土を取り戻した。
それに伴い、ユウダ臨時政府はユウダ共和国の復活を正式に宣言した。
ユウダ政府は、
まだユウダに侵略するつもりであるならば我が軍はトルン本土へと侵攻し、次はチヨ皇帝が死ぬことになる、
との声明を発表し、トルンに圧力をかけた。
これに対しトルン政府は、
トルン大帝国の統一のためにもこの反乱は全力で抑える、
という強硬姿勢をとった。
ユウダ国内では、右派・民族主義者を中心に先制攻撃論を唱え、
トルン本土の攻撃はやむなしと主張し始めた。
しかし、これ以上の戦争に耐えられるだけの国力がユウダにあるとはいえず、
政府も先制攻撃に対して消極的な立場をとった。
ある日、ユウダ・トルンの間にある海峡で両軍の軍事衝突が発生した。
トルン海軍の軍艦が、ユウダ国の領海に侵入したのが原因である。
戦闘状態は3日間続き、ユウダ軍の勝利に終わった。
これにより付近の制海権はユウダに渡り、
トルンの劣勢はいよいよ深刻となり始めた。
トルン国内でも、ユウダの勢いに対して徹底して取り組む必要があるという主張も増え、
景気回復よりもユウダをつぶすことが先だということに世論も支持した。
その後もたびたび軍事衝突が発生し、
ついにユウダ軍はトルンのウェント市に上陸した。
激戦の末、ウェント市をはじめとするトルン北西部の沿岸地域を占領した。
542 :
名も無き被検体774号+:2012/10/28(日) 00:26:37.96 ID:jFSCJxtj0
ウェント市陥落の日の夜、マホはイルフェと共に小さなレストランで夕食をとっていた。
イルフェがこうやってレストランに誘ってくれたことは何度かあった。
「ついに、北西沿岸地域が陥落したそうだな」
「はい、そうらしいですね…」
「なんだか暗いようだが、何かあったのかい」
「言わなくても、わかるでしょう」
「はっはっは、そう言われると痛いな」
マホはトルンへの先制攻撃には反対だった。
イルフェとはこれまで先制攻撃について色々な考えを交わしてきた。
イルフェは自分は賛成か反対かを表明することはなく、
ただマホの意見に受け答えをしているだけで、時にはマホと口論になることもあった。
「君は“これ以上の犠牲は必要ないから、これ以上の戦いはやめるべき”と言っていたね」
「はい」
「それは、本当かい」
「どういうことです」
「いや、前も言ったが―…」
「私が母の心配をしている、そう思っているとでも言いたいのですか」
イルフェが言い終わらないうちに、マホが言った。
543 :
名も無き被検体774号+:2012/10/28(日) 00:27:32.65 ID:jFSCJxtj0
「ああ、そうだよ」
「そういうわけではありません。私が母を心配することなんて、あるわけないでしょう。あなたもよくご存知のはずです」
「はっはっはっは、そうだな」
「私はただ、この無意味な戦いをやめさせたいだけです」
「そうか、わかっているよ」
「…今日は、何だか変ですね。今日は私に何が言いたいんですか」
「いや、特に理由はない」
「そうですか」
話が途切れた。
陥落のニュースで、今日のマホは不機嫌だった。
それに最近はユトからの手紙を減り、さらに機嫌が悪かった。
ユトの所属している部隊も忙しいことはマホも理解していたが、ここ1週間は返事がない。
「今日、仕事を辞めた」
「え?」
イルフェが突然口に出した。
544 :
名も無き被検体774号+:2012/10/28(日) 00:28:25.87 ID:jFSCJxtj0
「辞めたんだ、指揮官の仕事を」
「どうして、いきなり」
「これ以上の戦いに理由がないからな。
俺はユウダ独立のために戦った。トルン侵攻のために戦ってるんじゃない」
「そ、そうですか」
「ずいぶん前から辞めることは考えていたが、どうしようか迷っていた。
だが、君が私と同じように考えているのを思うと、迷いは確固たる考えに変わった」
初めてイルフェがマホの考えにはっきりと同調した。
「それに、もうあの日の義勇軍はどこかに消えた。今の軍は、金と政治家と癒着した別モノだ。
俺のもとに集まった同志は、死んだり、金の力に負けたり…。もう俺の居場所は消えたんだ」
イルフェはグラス一杯のワインを一気に飲み干した。
なんと。
続き気になる!
546 :
名も無き被検体774号+:2012/10/28(日) 01:14:57.95 ID:jFSCJxtj0
今日はちょっと書き溜めが少なかった。
すまない。
そろそろ終わりのほうへとつなごうとしているけど、
なかなかストーリーがうまくすすまない。
547 :
名も無き被検体774号+:
今日も楽しかったよ ありがとう!
頑張れ