みずぽ「私とアメリカ、どっちが大事なの?私は貴方が欲しい」

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381>>1が居ぬ間に箱x妻--1/9--
後悔の念が募っていく。徐々に。でも確実に。
息が詰まりそうなのは、そこが暗く狭いだけではなかった。

「こんなところに閉じ込めて、私をどうするつもりだ?」
「ですから、どうもしませんよ。なにをそんな焦って…。」
「とにかく!仕事があるんだ。早く私を解放したまえ。」
「つれないですね、もうお忘れですか?匿ってほしいと飛び込んできたのは貴方だ。」
押し問答を繰り返しながら、抱きしめる腕にゆっくりと力が篭る。
不愉快だとかそういう感情ではない。
それよりもただ…困惑している?まさか!この私が?いや、この状況は確かに異常だが…
「お前に匿ってもらおうとしたのではないんだ。」

「でも、飛び込んだ先に私がいた。そして貴方は私に潜り込んだ。」
「あれは仕方がなかった。…君も分かっているだろう。」
「はは、エレベータの中は貨物で一杯でしたからね。」
「…くっ…。」
「それはそうですよ。あれは貨物運搬用だった、そして貴方は職員用には乗らなかった。」
そう言って目を細める。
幼い子に言い諭すように、ゆっくりと言葉を選んでいるのが気に触る。
382--2/9--:2010/03/16(火) 23:50:48.25 ID:paT7xi/i0
「職員用には乗れない事情があったのではないですか?だからこんな埃塗れの…。」
「黙れ!」
「怒鳴らないで落ち着いて。私が守っている限り、貴方は汚れずに外へ逃げられるんです。」
「恩を着せるつもりか。」
「そうじゃない。利口な貴方なら分かるでしょう?」
落ち着き払ったその態度が余計に神経を逆撫でする。
言われていることは耳に入る。入った傍から逃げていく。うまく掴めないもどかしさだけがはっきりと感じられる。
「何を望んでいる?事によっては検討の余地もある。だから」

言葉を発しながら後悔が押し寄せるのが分かった。違う、そんなことを言いたかったわけじゃない。
言葉の選び方を完全に誤ったことに気づいたが、今更どう言い直せばいいのかまでは考えが回らない。
「そうじゃない。でもその言い方は貴方らしいですね、ミスター…」
「!!やめろ!」
「ミスター検討中?」

「やめろと…言っている。」
そう応えるのが精々だった。
焦っていると思いたくはないが、体の自由が利かないだけで気持ちの余裕まで奪われている気さえする。

「まあこれが世に知られたらミスターお荷物なんて呼ばれるかもしれませんね。」
「私を馬鹿にしているつもりか?」
「まさか。でもそうだな。貴方がそんな顔するから、少しだけいたずらしたくなったのかもしれない。」
完全に見くびられていることに憤るより先に眩暈に襲われる。
383--3/9--:2010/03/16(火) 23:53:12.23 ID:paT7xi/i0
「おかしなことを言っている間に早く蓋を開けてくれないか。」
「それがものを頼む態度ですか?」
「何を言ってる。人でもない君が…あ、いや、そういうことじゃないんだが。」
こいつは何を言っているんだ。
自分までおかしくなりそうだ。
「落ち着いて。深呼吸して下さい。そうでなくてもあなたは急ぎ過ぎている。」
「ここが息苦しいだけだ。まだ仕事があるので。」
「普段の方が息が詰まっているみたいですがね。今はほら、軽口を叩く余裕すらある。」
何を言っているのか、何を考えているのかは相変わらず分からない。
それでいて、ここまで自分の気持ちを踏みつけられることに、形容し難いむず痒さをも覚える。
違う。こんな奴に甘えたい訳じゃない。
状況が異常すぎて、判断がつかないだけだ。そうとしか考えられない。

「もっと素直になってもいいんですよ。」
「…そんなことは無理だ…立場と言うものがある。」
「でも、貴方はまた私に会いに来てくれた。嬉しいですよ。」
肩を包まれ、そっと髪を撫でられる。
狭い中で、篭った自分の熱気が違う匂いと混じる。なぜか嫌じゃない。
しばらく思い出すこともなかった遠く懐かしい感情を呼び起こされる。
快い圧迫感と言ってもいいかもしれない。でもだめだ。溺れてしまってはいけない。いけないのは承知している。
ただもう少しだけこの温かさに揺られているのも悪くない……。
384--4/9--:2010/03/16(火) 23:55:13.34 ID:paT7xi/i0
「いいんですよ。」
「!!」
甘い葛藤を読まれたような気がして顔を上げる。
髪が当たり、軽い乾いた音がした。
素材のせいか、ぶつかった感触はなく柔らかく押し戻す圧力だけを感じた。
「会見なら事務方に処理させればいい。貴方も、山井さんですら省のことは知らないときている。」
「それは…」
言葉に詰まる。
突然、盟友の名前を出されたことでこの時間を邪魔されたような気がする一方、早く現実に戻らなければいけないという焦りの中に一気に戻されたようでもあった。
「…彼も、頑張っている。これまでの政務官とは比較にならない」
「かなり買ってますね。一生の友、でしたっけ。」
「もしかして、嫉妬しているのか?」

「はい?」
にこやかに聞きかえすその瞳の奥で何かがキラリと光ったような気がした。
せっかく温かく包まれていたというのに、却って弑逆心を煽ってしまったのではないかと背に寒いものを感じる。
「嫉妬…。そう言われると、そうかもしれませんね。」
「いや、私はそういうつもりで言ったのではないし、悪いが君の気持ちには応えられない。」
腕を突っぱね、背中の面を使って蓋を開けようとしたが、軽々と戻される。
「今更何を言っているんですか?」
しっとりと、まとわりつくように四肢を絡め取られる。
385--5/9--:2010/03/16(火) 23:57:27.78 ID:paT7xi/i0
「まだそんな風に逃げられるとお思いでしたか。」
「逃げる、なんて…」
「勤怠ランプは"外出中"でしたよね。」
「なぜそんなことを!」
「まだ戻れる。時間で言えばその通りです。」
「…」
こいつは何を知っているのか。何をしたいのか。
「目的なんか、始めからありませんよ。」
「それならどうして…。」
「言ったでしょう。少しいたずらしたくなっただけです。でも…」
少しだけ、切なそうに眉をよせる仕種をした、ような気がした。

心が揺らぎそうになったのを感じた瞬間、更にきつく抱きしめられていた。
「貴方がいけないんだ!」
呼吸が止まりそうになる。
「あの日、あんなに怯えた瞳で乗り込んできたのは貴方だ。」

「匿わずにいられなかった。本当に困っていたのは見て取れたから、後悔はしていない。でも。」
全身を拘束されて、浅く呼吸するのが精いっぱいだった。
386--6/9--:2010/03/17(水) 00:00:20.13 ID:paT7xi/i0
中でもがいていることに気づかないのか、まるでお構いなしにまくし立てる。
「あれだけで終わりだと思ってた!だから忘れようとしたんです。あれは…一時の気の迷いだと。」
気の迷いも何も、ただ逃げたかっただけだ。
そう言いたいのに声が出せなかった。
「なのに貴方はまた現れた。疲れた、怯えた瞳はそのままで…。」
「…。」
「あんな顔、誰にも見せたくない。できることなら守りたかった。」
やはり理解できない。何を言っているのだ。
言われるまでもなく、市民に弱気な顔なんか向けられる訳がない。政治家なら、まして大臣職なら当然のことだ。
「本当に貴方はご自分のことをお分かりでない。」
「!!」
「分かりますよ。貴方が何を考えているかなんて。」

鼓動が乱れる。絡み付く呼気が自分のものなのかの区別もつかない。
「誰よりもプライドが高く、頭を下げることが苦手な貴方が、前大臣に頭を垂れて教えを乞うた。」
思い出したくもない。でもあの時は仕方がなかった。
「その素直さにほだされたのは確かです。」
だからなんだと言うのか。
「あれは、前大臣だからそうしたのかと思ってた。」
当然じゃないか。引き継ぎをしただけだ。
「なのにあの日、そして今日。独りぼっちで…あんな顔を見せられて…。」
あんな顔ってなんだ。ひとつも心当たりがない。
387--7/9--:2010/03/17(水) 00:02:22.78 ID:paT7xi/i0
「守ってあげたいと思った。」
「ふざけないでくれ!」
黙って聞いていれば、なんのつもりだ。
「いいから放したまえ。今日の会見はやると言ってしまった以上キャンセルできない。」
「できるんですか。その状態で。」
狭い中でもがいていたせいで髪もシャツもすっかり乱れてしまっている。
スーツにも不自然な皺が寄ってしまっているだろう。
「それでもやらなければいけない。」
やらない訳にはいかない。自分には立場というものがある。

「…そうですか。」
きつい感触がゆっくりと緩む。
「振られちゃったのかな。はは、そりゃこんなことしたら嫌われても仕方がないですね。」
やっと解放されて、大きく息を吐く。
「お詫びという訳じゃないですけど、お車なら地下に用意しておきます。」
「!なんでそんなことまで…。」
「今ならまだ会見には間に合う。一度帰って着替えてからでも余裕があります。」
こんな姿にされてしまったことを改めて強調されたようで、またこの後の行動を読み取られているようで、忘れていた屈辱感が甦る。
388--8/9--:2010/03/17(水) 00:04:15.74 ID:NS3ab43a0
「ほらそんな顔しないで。」
「いいから出してもらおうか。」
これまでの遣り取りからしたらあっけないほど素直に蓋が開く。
全体的に湿り気を帯びて柔らかくなっているのが上気した自分の体から発散したもののせいだと無言のまま苛む。
それがどうにも恥ずかしく、早くこの場を離れたい、帰ってシャワーを浴びたい、早く忘れなければと気ばかり焦る。
「今ならまだ電車もあります。でも、風邪をひいてはいけないから車でお帰り下さい。」
「そんなことしようにも、連絡をしたら…」
「大丈夫です。それくらいは手配してあります。」
一介の事務用リサイクル段ボールごときが一体どんな権限で…!
つい口をついて出そうになったが、寸でのところで押し留めた。
扉が開く。
「貴方は心配しなくていいんですよ。お気をつけて。」
その言葉には応えず、嘘を吐くなと軽く憤りながら眼鏡を外し、レンズを拭う。
389--9/9--:2010/03/17(水) 00:06:04.53 ID:NS3ab43a0
果たして、地下出口には黒塗の公用車が待っていた。
「まさか…。」
まだ着いたばかりのようで、こちらに気付いた様子はない。
咄嗟に物陰へ隠れてしまったが、その必要がないことは分かっている。
乗ってしまえば、いくら道路が渋滞しようとも20分とかからず帰れる。
…あんな奴の据膳に食らいつく訳には…。
呼吸を整えるようにゆっくりと携帯電話を取り出す。
つい数日前まで世話になっていたタクシー会社の番号は発信履歴からすぐに見つかった。
いろいろなことが脳裏を過り、親指に力が入らない。
逡巡しながら電話帳情報をランダムに呼び出し、思いを振り切るように発信ボタンを押した。

まだ、19時を少し過ぎたばかりだった。
390>>1が居ぬ間にお邪魔しましました。:2010/03/17(水) 00:14:57.10 ID:NS3ab43a0
勢いで書いてしまったはいいけどどこに上げたらいいか分からなかったのです。
叩かれたら逆切れしそうなくらいドキドキしています。すんません。
箱x妻を考え出したらなんだか止まらなくなりまして。
彼のナルシスっぷりとキョドり具合が段々面白くなってしまった自分の負けです。
所々文章が変なのはどうにもご容赦ください。
3レスくらいでまとめるつもりだったんすけど、長くなっちゃってすみませんでした。
しかし段ボールの性別って一体どっちなんでしょうね〜。

読んでくれた人、ありがとあーした!