バイト中、閉店10分前の事だった。
「まだいいですか…?」と、50代くらいのおじさんと小学生低学年くらいの娘が入ってきた。
私「あ、はい!大丈夫ですよー!」
娘「いいんだって!よかったねパパ!」
どうやらこの二人は親子らしい。
父「えっとじゃあ…絆創膏(ばんそうこう)ありますか…?」
同僚「ご案内します。こちらへどうぞ」
父親と同僚は衛生コーナーへと向かい、私と女の子はレジで待機していた。
娘「ねぇねぇお姉さん。この子どう思う?」
私は「ん?」と、笑顔で女の子の方を向いた。
女の子はフランス人形みたいな…リアルで綺麗で大きめな人形を抱いていた。
私「その子?すごい綺麗じゃね〜!名前とかあるん?」
娘「名前はクレアって言うの!クレア綺麗?」
私「うん!クレアちゃん、あたしなんかより美人で羨ましい(笑)」
娘「ふふふっ(笑)クレア、すごく喜んでるよ!」
女の子はクレアを私にバッと向けた。
『ぅわっ!!』…と言いそうになった私。というのも…クレアの顔中にはベタベタと絆創膏が貼られており、
よく見るとドレスから少し見える手足には、包帯がぐるぐる巻きなのだ。私は瞬時に鳥肌がたった。
が、「ほんまに?喜んでくれてよかったあ〜」と返事した。
娘「クレアがね、お姉さんの事気に入ったって!お姉さん達と遊びたいって!」
私「お姉さん達…?」
娘「うん!もう一人の綺麗なお姉さん。」
同僚のことだ。
娘「クレアが足の怪我治ったら鬼ごっこしようって!」
足の怪我…この時同僚は、右足の親指を手術したばかりで、まだ歩くのも痛がっていた時期だった…
私「えっと…ク…クレアちゃんのね、それ…あの〜、…足の怪我もね、早く治ったらいいよね」
怖すぎてテンパった私はなんとか頑張って喋った。
娘「大丈夫!パパが絆創膏買ってくれるから」
もう絆創膏貼る所ないじゃん!とつっこみたくなるくらい絆創膏がベッタベタ…リアルに怖い…。
絆創膏の隙間から覗く青い目が綺麗で余計怖い。恐怖を感じながらも私は、
なぜ怪我をしたのか興味がわき、「なんでクレアちゃん怪我したん?」と聞いてみた。
娘「おもしろいから」
私「…?」
娘「クレアが怪我して絆創膏とか包帯巻くと、パパもクレアと同じ所を怪我するの!」
娘「おもしろいから私が毎日クレアを叩いて怪我させるの!」
その時、父親と同僚がレジへ戻ってきた。
父親の両手いっぱいに絆創膏…私は急いでレジへ入り商品を数える。
私「1点、2点、3点……こちら、20点でよろしいですか?」
父「はい…」
20箱も絆創膏買って……パパは今夜もクレアと共に怪我をさせられるのかしら…と、
切なくなりながら私は袋詰めをした。クレアちゃんとめちゃくちゃ目が合うんですけど……
娘「ふふふっ…クレアがお姉さんおもしろいねって!」
私「…え?」
女の子はクレアを自分の耳に押し当て、うん…うん…と相づち打ちながら何か話している。
それを見て何言われるのかビビる私。同僚も引いていた。そして、
娘「クレアがね…お姉さんが今付き合ってる男の力が濃くてお姉さんに近づけないって」
娘「お姉さんと遊びたいからその男と別れてって…」
なんで彼氏いる事知って……同僚の怪我も知ってたし……
父「何言ってるんだい…パパだけで我慢しなさい…それでは」
ペコリと頭を下げて親子は店をあとにした。
その後私はなんともありませんが、あの親子…大丈夫ですかね…