「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」

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1以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
ここは
都市伝説と契約して他の都市伝説と戦ってみたり
そんな事は気にせず都市伝説とまったりしたりきゃっうふふしたり
まぁそんな感じで色々やってるSSを書いてみたり妄想してみたりアイディア出してみたりするスレです


「まとめwiki」 ttp://www29.atwiki.jp/legends/


まとめ(途中まで) ttp://nanabatu.web.fc2.com/new_genre/urban_folklore_contractor.html


避難所は↓になります。規制中やスレが落ちている間はこちらでくつろいで下さい。
ttp://jbbs.livedoor.jp/otaku/13199/
2小ネタ(代理):2010/01/21(木) 18:05:18.51 ID:0U2NF74r0
(う〜、混んでるなぁ……)

 がたん、がたん、とバスが揺れる
 定員ギリギリどころか、定員オーバーしているんじゃないかという混み具合のバスの中
 彼女は、おしくら饅頭状態で、鞄を抱えていた
 いつもの通学バス
 通学時間はいつも混んでいるから仕方ないのだが…このところ寒いからか、いつもより客が多い
 このところ、ずっとこの状態だ

(やだなぁ、こう言う時って痴漢も出やすいし…)

 やや、憂鬱になる
 痴漢に遭遇しませんように、しませんように
 いつも祈りながら、彼女はバスに乗る


 その祈りは、届かない


「−−−−−−−−−−っ!?」

 何かが、彼女の腰に手を伸ばしてきた
 痴漢だ、と彼女は体を強張らせる
 …大丈夫だ
 どうせ、次のバス停で自分は降りるのだから
 そこまで、我慢すればいい
 彼女は、そう自分に言い聞かせる

 …するり
 スカートの中に、手が伸びてきて…
3小ネタ(代理):2010/01/21(木) 18:08:18.49 ID:0U2NF74r0
 −−−−−−−ぬめり

(………え?)

 手、ではない
 手とは違う、何か…気味の悪い、感触
 ぬめぬめと、それはスカートの中に入り込んでくる

(……な、何……?)

 痴漢じゃ、ない?
 未知の恐怖が、彼女に襲いかかる
 ぬめぬめとした…触手のようなそれは、彼女のスカートの中に、下着の中に、躊躇する事なく入り込んでくる

(−−−嫌………!!)

 悲鳴すら、出す事ができず
 誰にも助けを求められず
 彼女は、ただ、その恐怖に怯え続けていた


 −−−−数日後
 妊娠したかのような様子を見せた後、彼女は失踪した
 全てが終わった後、発見された彼女がどうなっていたのか
 それは、まだ、誰にもわからない




終わる
4はないちもんめ(代理):2010/01/21(木) 18:10:47.95 ID:0U2NF74r0
今日は散散な日だった
学校では新人の教師が気に食わなかったので校長と教頭を使って地方に飛ばし
下級生を苛めていた男子が目に付いたので死なない程度に締め上げ
休職は大嫌いなレーズンパンと来た
干し葡萄とか人間の食べ物じゃないわよ、うん
その上・・・
「厄日かしらね・・・」
都市伝説にまで遭遇するなんてね・・・
5以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/21(木) 18:11:04.07 ID:4Y/uxzkiO
支援
6はないちもんめ(代理):2010/01/21(木) 18:15:07.50 ID:0U2NF74r0
「はじめまして」
目の前に居るのは黒いスーツにサングラスの男
間違いない
「『組織の黒服』・・・」
半歩下がり小銭を握る
能力が不明な上に単独で来てる以上、『はないちもんめ』が効くか判らないけど・・・
「組織が私に何か用?」
「えぇ」
こっちに近づいてくる
「っ!!」
黒服に小銭を投げつけようとして
「お茶しませんか?」
「は?」
お茶に誘われた
7はないちもんめ(代理):2010/01/21(木) 18:18:24.80 ID:0U2NF74r0
某喫茶店にて
私の向いには黒服が座り
私の目の前にはパフェが置いてある・・・何、この状況?
「アイスが溶けてしまいますよ」
「…何を企んでるの?」
『組織』は私に能力を与えておきながら、私が言う事を聞かないと判ると消しにかかって来た連中だ
その組織の一員の黒服が敵である私にパフェを奢ると言う
何の冗談?
「…詫びですよ。あなたを危険な目にあわせた」
詫び・・・ねぇ?
「おじさんの組織がした事でしょ?」
「それは、そうですが」
すっかり困った顔をする黒服・・・
今まで私が見てきた黒服とは何かが違う・・・?
8はないちもんめ(代理):2010/01/21(木) 18:21:39.18 ID:0U2NF74r0
「…こちらで、あなたに能力を与えておきながら。
 こちらであなたを御しきれないとわかれば、消そうとする
 …勝手すぎるでしょう?大人のエゴですよ」
大人のエゴ・・・それは同感だ
大人なんて碌な物じゃない
成る程・・・この黒服は他のに比べれば『良識ある大人』と言う奴らしい
そう感じながら、溶けるともったいないのでアイスに手をつける
「でも、命を狙われたお詫びが、こんなパフェだけじゃ、足りないよ?」
「…お望みでしたら、夢の国にでもご招待しますよ。幸い、入り込むくらいならタダでできますから」
夢の国関係の都市伝説と契約してるのかな?
だと、したら厄介な奴なのかもしれない・・・
「…あぁ。そうだ。夢の国といえば…それに関連した都市伝説で、危険とされている者がいますよ」
「………?」
「その都市伝説は、子供を攫い…都市伝説の一部として、使役できるそうです」
子供を攫い使役するか・・・私と似たような能力なのかはわからないけど、敵にすると厄介ね・・・
「ふ〜ん」
「他人事ではないでしょう。あなたとて、取り込まれかねない対象年齢なのですよ」
「警告のつもり?」
「…一応は?」
お優しい事だ
敵にまで警告とはね・・・
9はないちもんめ(代理):2010/01/21(木) 18:23:51.50 ID:0U2NF74r0
「子供を獲物とする都市伝説は多いのです。お気をつけください」
うん、この口うるささと言うかお節介加減
まるで・・・
「知らない人に付いて行っちゃいけません、って言う先生みたいね」
少し顔をしかめられた
成る程・・・他の黒服に比べると随分感情豊かなんだ
どうりで黒服らしくないと感じたわけね
10はないちもんめ(代理):2010/01/21(木) 18:27:17.68 ID:0U2NF74r0
「…それと。他人からお金を奪い取るくらいなら、私に連絡してください。
 子供一人の生活費くらいなら出せますから」
これが本題?
「その代わりに仕事しろ、って?」
「……子供に、組織の汚い仕事を押し付けるなど…そんな卑怯で卑劣な事、私はやりたくありませんがね」
・・・へぇ?
何か企みでもあるのかと思ったら・・・本物の底抜けのお人好しだったらしい
そんな事を考えながら観察していると黒服が連絡先を書いたメモを渡してくる
・・・罠、かな?
「私には、この紙切れを渡した程度であなたをどうこうできる特殊な力などありませんよ」
「………」
メモを受け取る・・・確かに罠じゃなかったらしい・・・

そうだ

鞄からメモを取り出し連絡先を書いて差し出す
「…はい、私の携帯の番号」
「…見て覚えますので、申し訳ありませんが、その紙は受け取れません」
「………」
っち、読まれてたか・・・
組織の黒服なら強力な契約者の支配権を持ってると思ったんだけどなぁ・・・
11はないちもんめ(代理):2010/01/21(木) 18:30:00.03 ID:0U2NF74r0
「…それでは、私はこれで。子供を狙う都市伝説に、お気をつけください」
「は〜い」
目論みが外れた落胆は余り表に出さずに気の無い返事を返し席を立つ
本当に代金は全て黒服が払ってくれたらしい
「じゃあ」
「はい、気をつけて」
挨拶を交わし、別れると再び家に向う
感知を発動してもあの黒服以外には都市伝説や契約者の気配は無い
どうやら、本当に私に詫びをしたかっただけらしい・・・
「面白い奴」

この頃の私はまだ・・・
あの黒服が私にとって無くてはならない存在になるなんて考えてもいなかったのです・・・

続く
12以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/21(木) 18:35:05.42 ID:0U2NF74r0
762 名前:名も亡き都市伝説契約者[sage] 投稿日:2010/01/19(火) 18:38:08
おちてたまとめ
パス:toshi
ttp://kissho2.xii.jp/20/src/2yoshi10937.zip.html


892まで投下完了
風呂入ってから再開するよ!
13以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/21(木) 18:55:06.06 ID:4Y/uxzkiO
14以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/21(木) 19:19:48.92 ID:4Y/uxzkiO
15モンスの天使契約者と仲介者(代理):2010/01/21(木) 19:53:27.37 ID:0U2NF74r0
 それは、とある昼下りの事

「なぁ」
「うん?」

 職場(「組織」)での愚痴を粗方吐き出し、すっきりしたモンスの天使契約者
 そんな彼に、彼の愚痴をじっと聞いていた仲介者が、ふと、顔をあげて言ってくる

「少々、相談したい事があるのだが。構わないだろうか?」
「相談?」

 あぁ、と頷いてくる仲介者
 構わない、とモンスの天使契約者は答えて見せた
 散々、愚痴を聞いてもらったのだ
 相談くらい、のらなければ

「ありがとう……実を言うと、前々から悩んでいた事なのだがね」

 ぱたん、と
 開いていた本を閉じて
 仲介者は、真剣な表情を見せてきた

「…僕は、そんなに男らしく見えないだろうか?」

 ………
 …………
 ……………

「……は?」
16モンスの天使契約者と仲介者(代理):2010/01/21(木) 19:56:24.89 ID:0U2NF74r0
 と、モンスの天使契約者は、やや間の抜けた声をあげてしまったが
 それは、決して彼の罪ではないだろう

「どうしたんだよ、突然」
「いや、つい最近、同窓会があったのだがな。その席で皆に言われたのだよ。「相変わらず中性的だ」、と」

 淡々と語ってくる仲介者
 表情は、相変わらず感情が薄いが真剣そのものだ

「友人達も、僕を男らしくはない、と言ってきてな……そこまで、男らしくないだろうか?」
「…男らしく、ねぇ」

 しげしげと、モンスの天使契約者は改めて、友人である仲介者を見つめた
 顔立ちも体付きも中性的で、着ている服が男物だから、という理由で、辛うじて男性である事がわかる、と言ういでたちだ
 声も、聞いただけでは男か女かはっきりしない領域
 立ち振る舞いすらも、どこか中性的で
 そして、思い返せば、彼の趣味は読書……は、まだいいとして
 他の趣味がケーキ屋巡りと雑貨屋巡り

 ………
 …………
 ……………

「うん」
「何を納得しているのかね?」
「いや、悪い。正直、そいつらの言い分を俺は否定できない」

 男らしくない
 全くもって、否定できない
17モンスの天使契約者と仲介者(代理):2010/01/21(木) 19:58:42.31 ID:0U2NF74r0
「…それは、僕が女らしい、ということだろうか?」
「いや、そう言う訳でもないが」

 女らしいか?
 そう聞かれれば、NOと答える事が出来る
 だが、同時に、男らしいか、と聞かれてもNOと答える事ができる
 目の前の青年は、どこまでも中性的なのだ

「…僕としては、男らしくあろうとしているつもりなのだがね」

 うまくいかないものだ、と仲介者は小さくため息をついた
 モンスの天使契約者は、友人のそんな様子に苦笑する

「まぁ、男らしい、つっても色々あるしな」
「僕としては、レディに対しては常に男らしくあろうとしているつもりなのだが」
「……努力は認める」

 若干、ズレている部分もあるが
 この男、女性に対する言動など、狙ってやっているのではなく天然だから困る

「ただ、な…男は喫茶店に入って、ケーキセットを頼むまではいいとして、そのケーキに愛らしいクマの形をしたケーキは選ばないと想うぞ」
「む、そうか?甘くて美味だったが」
「いや、美味いまずいの問題じゃなくて、だな」

 仲介者が平らげたケーキは…それはもう、愛らしいクマの形をしたケーキだった
 どちらかと言うと、小さな子供向けや女性向けのケーキだ
 男らしく、という点から見ると、ちょっと違う

「っつか、どうしたんだよ、急に。男らしく、なんて」
「流石に、年齢=彼女いない暦がちょっと寂しくなってきた」
18モンスの天使契約者と仲介者(代理):2010/01/21(木) 20:01:06.29 ID:0U2NF74r0
 すっぱり
 正直に答えられた
 ……あ、気にしてたのか、と少し驚くモンスの天使契約者
 彼女がいない事をからかっても、淡々と返してきていたからてっきり気にしていないかと思っていたが…今度から、その点をからかうのは自重しよう

「まぁ、友人の一人も似たような状況だし、と悠長に構えていたら、その友人はいつの間にやら、男と幼女の両手に花状態。若干悔しかった」
「ちょっと待て。それ、両手に花か?ちょっと違わないか?」

 幼女、は人によっては素敵に花だろうが
 男は待て
 ちょっと待て
 自分以外の仲介者の友人に関して、モンスの天使契約者は仲介者の言葉の中からしか情報を知らないが
 …男を花と認識するのはちょっと待て

「あぁ。彼にとって愛しの大切な相手だからな。花だろう?」
「…………そうか」

 …あぁ、そうか
 こいつの友人、そっち系なのか
 モンスの天使契約者は、そう理解した
 …こいつも中性的だから、狙われていやしないのか
 若干、心配になったのだった


「−−−っくし」
「風邪?移さないでよ?」

 どこか遠くで、くしゃみしていたチャラい格好の青年がいたが、どうでもいいことである

続かない
19一発ネタ〜泥臭さvs磯臭さ(代理):2010/01/21(木) 20:03:39.77 ID:0U2NF74r0
それは暑い夏の夜
ぽつぽつと街灯が並ぶだけの人気の無い道
あちこちに農地が見られる北区の一角で、一人の青年がふと足を止める
それまで聞こえていた虫の声がぴたりと止んでおり、辺りにはただならぬ気配が漂っていた
「またか」
青年はふうと溜息を吐くと、神経を研ぎ澄ませ周囲を警戒する
ずるり、と
泥まみれの何かを引き摺るような音がする
街灯の下を這うそれは、人型をした泥
人間の骨格に泥を盛り付けたような
人間の肉が泥のように腐り落ちたような
そんな中で黄ばみ濁ったとはいえ白に近い色をした目玉と歯だけが浮き上がるようにはっきりと見える
「田をぉぉぉぉぉぉ返せぇぇぇぇぇぇぇぇ」
泥田坊と呼ばれる妖怪が、べちゃりべちゃりと手足を蠢かせにじり寄ってくる
醜怪なその姿に気後れする様子もなく、青年はゆっくりと腕を回し、ぐっと力を込め
「固着!」
叫ぶと同時に青年の膝の辺りから白いものが噴き出すように溢れ出し、あっという間にその全身を覆う
白い装甲となったそれは、石灰質の殻を持つ甲殻類――フジツボ
「こっちから退治をして回るつもりは無いが、害意を持って襲ってくるなら容赦はしない!」
ぐん、と姿勢を低くした体性から勢い良く片足が振り抜かれる
泥田坊との距離はまだ数メートル離れていて、その蹴りは当たるはずも無かったのだが
20一発ネタ〜泥臭さvs磯臭さ(代理):2010/01/21(木) 20:05:58.51 ID:0U2NF74r0
「蔓脚!」
フジツボから伸ばされた触手状のものが絡み合い束ねられ、鞭のように泥田坊の身体を薙ぎ払い真っ二つに切り裂いた
地面にべちゃりと這いつくばる泥田坊に、青年は白い拳を突きつけ
「無柄!」
拳に張り付いたフジツボが弾丸のような勢いで雨霰と発射され、泥田坊はその身体を削り落とされるように小さくなっていく
「だああぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁああぁぁ」
その首がどちゃりと地面に落ち
「をぉぉぉぉぉおおおぉぉおぉお」
ぎょろりとした目玉が青年を見据えた、次の瞬間
「かぁぁぁぁぁええええぇぇぇぇぇぇえぇええぜぇぇぇぇえええぇぇぇえぇぇ!!!!!」
顎を開く力だけで地面を打ち、凄まじい勢いで頭部が青年に向かって飛び掛る
だが青年はそれを見越していたように
「顎脚!」
「ごぁぶっ!」
肘と膝が打ち鳴らされ、牙のように並んだフジツボが泥田坊の頭を食い千切った
どろりと崩れ落ちて、道路の染みとなり消える泥田坊
「悪いな。次に生まれてくる時は、無闇に人を襲うんじゃないぞ」
再び襲ってこないのを確認して、青年は身体を覆うフジツボを払い落とす
それまで装甲のようにがっしりと身体を覆っていたフジツボは、あっさりと身体から剥がれ落ちて地面に転がり、磯くささを残しながらも崩れ落ちていく
残されたのは泥の染みと、石灰をぶちまけたような白い跡
青年が立ち去った後、それらは生温い夜風に吹き散らされて
何事も無かったかのように消え去っていた
21小ネタ(代理):2010/01/21(木) 20:10:50.05 ID:0U2NF74r0
 とにかく、昔から体が弱かった
 幼い頃の記憶は、常に病室だった気がする
 確か、あの頃の担当医師が、20歳まで生きられないかもしれないとか言っていたようないなかったような
 ……まぁ、こうして20歳を超えても生きて居られる訳だが、それは都市伝説と契約したお陰であり、そうでなければ、確かに20歳まで生きられなかったかもしれない
 それほどまでに、体が弱かった
 長い入院生活
 自然と、一人でいる事が多かった
 家族はなるべく傍にいてくれるようにしてくれていたが、それでも限界がある
 寂しいと思ってはいけないと、そう考えていた
 結果として、自分は空想の世界を見つめることにしていた
 本を読み、それらの世界へと空想を広げる
 その流れから魔術的な物に興味を示し、魔術書(グリモワール)などと呼ばれるようなものへと興味をどんどん広げていった
 そんな自分に、両親は魔術書の類も買い与えてくれた
 難しい字が多かったが、それでも読みたくて覚えて読んで行った
 レメトゲンを始めとし、宗教書物の類も、魔術書として見られるようなものにも手を伸ばしてどんどん、どんどん読んでいった

 …そんな自分が、この都市伝説と契約したのは、自然な流れだったのだろうか?



「玄宗君?もう消灯時間ですよ?」
「うん?……あぁ、もうそんな時間だったのか」

 看護婦に声をかけられ、その少年は本から顔をあげた
 ふと、窓の外に視線をやれば、暗い闇の中に星と街の灯りが輝いている
 思わずそれに見とれていたら、看護婦にカーテンを締められてしまった

「明日も検査があるんですから、夜更かしは駄目よ?」
「…心得ている」
22小ネタ(代理):2010/01/21(木) 20:15:25.53 ID:0U2NF74r0
 ぱたん、と本を閉じて、少年はベッドにもぐりこんだ
 看護婦はほっとして…部屋の灯かりを消し、病室から立ち去っていく
 コツ、コツ、コツ…と言う足音が遠ざかっていくのが無性に寂しいのだが、ここで愚図って看護婦を困らせるのも嫌だった
 この病棟の看護婦長は、何かと性格が悪い
 あの新人看護婦が、彼女にいびられるかもしれない原因を作るのは気が引ける
 まったく、あの看護婦長の性格の悪さはどうにかならないものか
 ため息をつきつつ、暗い中では本も読めないし、寝てしまおうと少年は目を閉じた
 先ほどまで読んでいた「光輝の書」を、そっと抱きしめたまま…静かに、眠りに付こうとして

 こつ、こつ、こつ

 聞こえてきた足音
 見回りの看護婦だろう
 そう考え、少年は意識を眠りに落とそうとする

 こつ、こつ、こつ

 足音は、少年の病室に近づいてきて
 こつ、こつ、こつ、こつ…
 ………

「……?」

 …足音が
 少年の病室の前で、止まった
 音を立てないように、扉が開く

 …ちゃんと寝ているかどうか、確認しに来たのか?

 疑問に思い、同時に不気味さすら感じて
23小ネタ(代理):2010/01/21(木) 20:19:00.75 ID:0U2NF74r0
 少年は、目を閉じたまま体を縮みこませた

 …その時


『逃げなさい、少年』


「……っ!?」

 頭の中に、響いた声
 自分は、とうとう幻聴を聞くようになったか?

『逃げて、危ないわ』
『危険な都市伝説が近づいている。少年よ、逃げなさい』

 …都市伝説?
 そう言ったものが存在している事は、知っているが
 ……あぁ、つまり
 今、自分に近づいてきている足音の主は、病院に関係したなんらかの都市伝説か
 しかも、危険な

 少年は、諦めたようにため息をついた
 そして、声に出すのも面倒で…きっと、通じるだろうと勝手に考えて、心の中で返事する

(…危険ならば、逃げたいのだがね。生憎、僕の身体能力では逃げ切れないだろうし、この病室のベッドの位置的に、逃げるのは不可能だろうよ)

 こつ、こつ、こつ
 足音は近づき続けている
24小ネタ(代理):2010/01/21(木) 20:28:17.19 ID:0U2NF74r0
 もう、大分接近されてしまっているのだ
 …逃げるなど、不可能

『でも、このままじゃ殺されちゃうわ』
『死が怖くないのか?少年』
(…怖いさ。だが、人間諦めが肝心だからな)

 どうせ、20歳まで生きられないと言われている
 ちょっと、死ぬのが早くなるだけだ
 そう考えて、少年はさっさと自分の命を諦めていた

 …そんな少年に対して
 語りかけてくる複数の声は、困惑しているようだった

『…困った少年だ』
『でも、ダメよ。見殺しになんてできない』
『少年、生きたいと、思わないのか?』
(どうせ、20歳になる前に死ぬといわれている身でね。生きれるものなら生きたいが、難しいようだから)

 こつ、こつ、こつ、こつ、こつ……

 あと数歩で、足音は少年に到達する
 命が終わるまで、きっとあともう少し


 ……声が
 少年に、語りかけ続ける


『…では、少年。我々と契約しないか?』
25小ネタ(代理):2010/01/21(木) 20:30:37.05 ID:0U2NF74r0
(…契約?)
『そうだ。さすれば、我々は、少年を救うことができる。その寿命、伸ばす事もできようぞ』
『……ただ、少年は本当に体が弱いようだ。我々の力を使役する際、反動もあるかもしれんが…』
『でも!生きられるわ!!』

 ……生きられる?
 死なずにすむのか?
 ふむ、と少年は冷静に考えた
 人間諦めが肝心とは言え、まだ若い身である
 死にたくはない
 生き延びる手段があるのなら、それが悪魔との契約であろうともすがりたい
 それが、少年の本音だった

(……いいだろう。僕が死なずにすむのなら、君達が悪魔だろうとも契約する)
『我々は悪魔にあらず………まぁ、良い………契約は、成立だ』

 瞬間、少年は理解する
 自分が、何と契約したのか
 その力の使い方を、理解した
 腕の中の本を広げ、念じる

「……アフ、ヘマハ、マシト!!」

 叫び、本に記された存在の名前を呼んだ
 少年に近づいていた足音が、びくりと止まって

 その存在と、少年の間に…三人の、黒い翼を生やした男の天使が姿を現した

「焼き払え!」
26小ネタ(代理):2010/01/21(木) 20:32:54.93 ID:0U2NF74r0
 己が呼び出した三人に……破壊の天使達に、指示を出す
 天使達は指示に従い、各々の武器で、少年を害しようとしていた存在に攻撃を開始する!

「…「入院中不審死した患者の体から、内臓が抜き取られている」か」
「我ら、汝を邪悪と認識す!」
「地獄の業火に焼き尽くされよ!!」
「ぎゃ………!?」

 悲鳴すら、あげることを許されず その存在は、焼き尽くされた
 …ほっと、息を吐く少年
 安心した瞬間、ずしり、激しい疲労を覚える

「…大丈夫ですか?我等が主(マスター)」

 そっと、額に冷たい手が当てられた
 見ると、眼鏡をかけた青年の姿をした天使が、心配そうに少年を見つめている

「…ザフキエルか……問題、ないと思う。この疲労が君達を扱う代償か」
「その通りです…強引な契約になってしまった事を、お許しください」
「構わない、僕が死なずにすむのなら」

 ぽふん、と
 少年は、ベッドに倒れこんだ
 …疲労のせいで、眠い

「…すまないが、自己紹介などは、また後日、頼んで良いか?」
「心得ました、我等が主。ごゆっくりお休みください」

 ……っふ、と姿を消す天使たち
27小ネタ(代理):2010/01/21(木) 20:43:47.69 ID:0U2NF74r0
 それらが、自分が持っている本に戻ったのだと、少年は理解する

「……やれやれ」

 契約してしまったか、か
 さて、生き延びる事ができたのはいいが…これから、どうしようか

「…まぁ、いい、か…20歳以上まで、生きられるかもしれないんだし、な」

 諦めていたよりも、長生きできるのなら、考える時間はたっぷりある
 そう考えて…少年は、満足感を伴う疲労を感じながら、目を閉じ、眠りに付いた



 これが、少年にとって長い付き合いとなる都市伝説、「光輝の書」により召還できる天使達との、ファーストコンタクトだったのだった




終わる
28女装少年の人(代理):2010/01/21(木) 21:00:43.11 ID:0U2NF74r0
 Dさんたちが屋上を目指して先に進んでいったあとも、こっちは三階の踊り場にいた。
 情報もなにもないまま突っ込んできたからよくわからないんだけど、周りの人の話を聞いていると、どうやら時間がないらしい。
 なのになんでDさんたちについていっていないのかというと、Hさんに"お姫様"と呼ばれていた女の人のことが気になったからだ。
 《十三階段》の人のところに来たときもひどく息を切らせていたし、たぶん身体が弱いんだと思う。
 マッドガッサーさんたちを説得するときに《十三階段》の人と"お姫様"の人はキーマンになるだろうけど、ただでさえ身体が弱い人を時間がないからといって急がせるのも辛いものがある。
 だから、怪我を治してもらったから余裕があって、ついでに足も速いこっちなら移動を手伝うくらいはできるかなーと考えて、二階の踊り場に残った《十三階段》の人に"お姫様"の人、Hさんの三人を待つことにしたというわけだ。
 もし断られても、大丈夫ならそれはそれでいいし。
 そんなふうに考えを巡らせていると、階段から件の三人が現れた。
 改めて見ると、やっぱり"お姫様"の人は身体が弱いみたいだ。
 《十三階段》の人にくっついて歩いてるし、息も切れてて、なんだか顔色も悪い気がする。
 これはやるしかあるまい、とこっちは三人に近づき、移動の手伝いを申し出た。
 《十三階段》の人は少し迷っていたようだったけれど、こくり、と頷いてくれる。
 そうと決まれば! とこっちは気合いを入れ、頭の中で考えていた移動の方法を実践してみることにした。

「ごめんなさい、ちょっと待っててください」

 《十三階段》の人にお願いし、「思い込んだら」と二回呟いて両手にローラーを出現させる。

「なっ!?」

 突然現れた巨大なローラーに驚いた《十三階段》の人が身構えるのを横目に、こっちは両手に持ったローラーを、思いっきり打ち合わせた。
 「せいっ!」という気合いの声とともに、ゴイン!! という大質量の金属同士がぶつかる音が響き、強く打ち合わされたローラーはボコンと形を変える。
 こっちのいきなりの行動に"お姫様"の人なんかは目を丸くしているけれど、気にせず作業を続行。
 何度も何度もローラー同士をぶつけ、ローラーのくるくる回る部分を変形させていく。
 回りにくいように楕円の形にし、座りやすいようにへこみをつけ、ゴンゴンという音を鳴らし続けて、ローラーが元の形とは似ても似つかなくなったところで作業は終わり。
 時計を持っていないから正確にはわからないけど、たぶん三分もかかってないと思う。
29女装少年の人(代理):2010/01/21(木) 21:03:08.15 ID:0U2NF74r0
「………これ、一体何に使うんだ……?」

 変な形になったローラーを見て、《十三階段》の人が戸惑いの声をあげた。
 それを華麗にスルーして、こっちはHさんに話しかける。
 どうせすぐにわかることだし。

「えと、Hさん、ちょっと協力してもらえませんか?」
「ん? なんだ?」
「Hさん、髪の毛伸びるじゃないですか? それでこのローラーを回らないように固定してもらいたいんですけど……」

 お願いします、と頭を下げると、Hさんはふむと頷いて、

「……なるほどな。やりたいことは何となくわかったが……その前にだ、女装の嬢ちゃん―――」
「? なんですか?」

 ちょこんと首を傾げて、こっちはHさんを見る。
 どうでもいいけど、"女装の嬢ちゃん"はちょっとやめてほしい。
 まるでこっちがいつもかも女装してるみたいだし。

「―――下着は、着けてるのか?」
「…………ふぁい?」

 いきなりなに訊いてくるのこの人!?
 この状況で、下着をつけてるかどうかって、重要なこととは思えないけど……。
 いやでも、Hさんは真剣な顔してるし、もしかしたら大切なことなのかも。
 こっちがそんなふうに少し戸惑っているのが、Hさんにも伝わったようで、

「ああ、別に変な意味じゃない。見てて少し気になっただけだ」

 といってきた。
30女装少年の人(代理):2010/01/21(木) 21:08:20.22 ID:0U2NF74r0
 うーん………まあ別に隠すようなことでもないと思うし、素直に答えることにする。

「えっと……つけてません。さすがに下は穿いてますけど………」
「ほう、何でだ? 見たところ、下着が必要じゃないとは思えないんだが」

 Hさん自身との戦いとラ○ンの拳撃で破れ、所々から肌が覗いているこっちの胸元をじっと見つめながら、Hさんがいう。
 ……そういわれても、これはちょっと、なあ……。

「………一応、同居人に連れられて、買いに行ったは行ったんですけど……」
「けど?」
「……なんというか、探してみてもサイズが合わないみたいで」

 身体自体がちっちゃくて胸だけが大きいと、こういうところでも不便になるらしい。
 ただでさえ揺れるし視界も狭くなるしで、かなり邪魔なのに。
 これで胸さえ小さかったらよかったのにーなんて思って、両腕でぐにっと胸を押さえつけてみたりしながら、《十三階段》の人と"お姫様"の人に話しかける。

「あの、すみません。ちょっとこれに座ってもらえませんか?」

 そういって傍らの変形したローラーを指差すと、

「……これで、何をするつもりなんだ?」

 《十三階段》の人が、なぜだか若干Hさんをにらみながら、そう訊いてきた。
 まあ、訊かれるだろうなあとは思ってた。
 このローラー、一見すると用途不明だし。

「これに乗ってもらえれば、あとはこっちが引っ張っていきます。動かなくていいから、こっちの方が楽だと思うんですけど……」
「いや、楽は楽かもしれねえが、これだと確実に間に合わないだろ……準備が始まるまで、あと10分もないんだぞ?」
「あ、それは大丈夫です。足にはけっこう自信があるんで」
31女装少年の人(代理):2010/01/21(木) 21:10:30.20 ID:0U2NF74r0
 《十三階段》の人の懸念に、グッと親指を立てて答える。
 いつも片手で振り回しているローラー+成人男性二人+女の人一人。
 これくらいの重さなら、余裕でなんとかなる。

「いや、いくら自信があるっつったって………」
「ああ、大丈夫だろ。その嬢ちゃん、見かけによらず馬鹿力だしな」

 さらに反論を重ねようとした《十三階段》の人を、Hさんがいつのまにかしゅるしゅると伸びていた髪の毛で絡み取り、"お姫様"の人共々ローラーに乗せていた。
 凄まじい早さで伸びていく髪が、回転するのを防ぐため、ローラーとその取っ手にも巻き付いていく。
 《十三階段》の人の文句を聞き流しながら、Hさんはこっちを見て、

「女装の嬢ちゃん、準備は完了だ。俺の予想が正しければ、嬢ちゃんのやろうとしてることは相当危険だからな、シートベルト役も兼ねさせてもらう」

 ………あ、そういえば、そっちの問題もあったか……。
 Hさんの言葉を聞いて、少しだけだけど冷や汗が出た。
 確かに急ブレーキをかけたりしたら、乗ってる人はどこかに吹っ飛んでいきかねない。
32女装少年の人(代理):2010/01/21(木) 21:16:39.38 ID:0U2NF74r0
 起こってしまうかもしれなかった事故を未然に防いでくれたHさんにペコリと頭を下げて感謝を伝え、そして。

「……それじゃ、行きます。舌噛まないよう、気を付けてください!」
「ちょ、待て! まだ………ってうおぉっ!?」

 ローラーの取っ手をしっかりと握りしめ、両足に力を込めて走り出すと、それと同時に言葉にされようとしていた《十三階段》の人のこっちへの文句は叫びへと変わった。
 もし先に行ってる人たちにぶつかるといけないし、揺れを弱くすることも考えて速度は少し控えめ。
 それでも廊下に立ち並ぶ教室の扉が次々と視界の後ろに流れていく。

「大丈夫ですかー?」

 さすがに少し心配になって問いかけてみると、

「ああ、ナイスアングル―――もとい、ナイススピードだ」

 という、Hさんの声が聞こえた。
 うん、Hさんもこういってることだし、大丈夫なんだろう。
 そう判断して、こっちは三人が乗ったローラーを引きずりながら、夜の校舎を猛スピードで駆け抜けていった。
33女装少年の人(代理):2010/01/21(木) 21:19:11.79 ID:0U2NF74r0
「あうっ!」

たくさんの人で溢れかえる神社の中で、ゴチン! という音が響く。
 こっちは石畳にくっついたままの顔をあげて、ヒリヒリと痛むおでこをさすった。

「い、いたた……」

こけたせいで少し乱れてしまった、おめでたい感じな紅白な服―――白い小袖に緋袴という、俗に巫女服と呼ばれるもの―――を直しつつ、立ち上がる。
 服についてしまった土を手でパッパと払い、借り物の服についた汚れを落としきったのを確認したあと、こっちは「はあ……」と溜め息をついた。
 プルプルと、生まれたての小鹿のように震える足に気合を入れて、再度歩き出す―――が。
 五歩も進まないうちにまた、べたっ! と音を立ててこけてしまった。

「う、うう………」

巫女服姿で地べたに張り付いているこっちを、道行く人が不思議そうな目で眺めていく。
 うう、恥ずかしいなあ………。

「おい……あの子、今連続でこけてたぞ」
「ああ、ドジっ娘だな……しかも巫女さんだ。いいもん見たな」

…………ホントに、恥ずかしい。
 こっちはドジっ娘なんかじゃないのに―――というか、まず男だから巫女さんになってるのがおかしいのに!
 そう心の中で叫んではみても、それは周りに伝わるはずもなく、なおも向けられる好奇の視線はこっちの精神力を削っていく。

  …………なんで新年早々こんなことになっているのかというと、全ての元凶はじいちゃんだ。
34女装少年の人(代理):2010/01/21(木) 21:30:43.53 ID:0U2NF74r0
 クリスマスに獄門寺君の家に泊めてもらった次の日のこと、さすがに二日もお世話になるのはまずかろうと家に帰ってきたこっちを待っていたのは、
 なぜかきれいに掃除された部屋と妙に殊勝な同居人たち、そしてどこ在住なのかすらわからないじいちゃんだった。
 この、いつも真っ白な長い髭を揺らして笑っているじいちゃんこそが、こっちが獄門寺君の家に泊めてもらった理由の一つでもある。
 ………とはいっても別に嫌いというわけじゃなく、むしろじいちゃんのことは好きで、なのになぜ苦手なのかといわれると、それはじいちゃんお得意の突拍子のない危険行動のせいだ。
 『獅子は子のことを想うからこそ我が子を千尋の谷へと突き落とす』、『男子たるもの、野生を失うべからず』などをモットーとした
 じいちゃん流の"教育"のその実態は、孫をアフリカはサバンナのど真ん中に置き去りにしたり、ジャングルの奥地でサバイバルさせたりという、凄まじく過酷なもの。
 確かにそのおかげで、多少の毒ではびくともしなくなったり(耐性ができる前はひどく苦しんだ)、どこででも暮らしていけるくらいのサバイバル能力を身に付けられたり(というか、
 できないと死ぬ)、襲いかかってきた餓えた野生動物を返り討ちにできるようになったり(当然、できないとおいしく頂かれる)はしたけど……
 …少なくとも、日常生活ではあまり役に立たないだろう。
 第一、"蛇に呑まれかけたときの対処法"なんかを使うような状況を体験させるのはホントに勘弁してほしい。
 「じゃが、鍛えられるじゃろう?」とはじいちゃんの言で、確かにその通りではあるんだけど、もう少し手加減してくれても………と思ってしまうのはダメなんだろうか。
 とまあそんな事情があるから、こんどはどんなことをさせられるんだー、と戦々恐々とするこっちにじいちゃんは「ただ可愛い孫に会いに来ただけじゃよ」と柔らかく微笑んで、
 こっちはその笑顔を信じてしまって………それが間違いだったとわかるのはそれから三日後のこと。

 布団の中で丸まっていたはずなのに身を切るような寒さを感じて目を覚ますと、そこにあったのは見慣れた我が家の天井じゃなくて―――生い茂る森の木々だった。
 着ていたいつものパジャマはいつのまにか中学生のときのジャージに代わっていて、そのポケットの中に入っていたじいちゃんからの手紙曰く、
 『起きたかの、我が孫よ。まずお前の疑問に答えておくと、そこは富士の樹海じゃ。現在《樹海の野犬の群れ》の都市伝説がそこに出現しておるので、退治せい。
 家までは走って帰ってくるんじゃぞ。反論はなしじゃ。―――追記、都市伝説の力は使うてはならんぞ、修行にならんからな。もし使いよったら…
 …まあ、それはその時のお楽しみじゃな。一つ言うなら、敢えて地獄へと飛び込むこともあるまいとだけ言っておこう』。
 ………いくらこっちがじいちゃんの突拍子のない行動には慣れているといっても、さすがにこの超展開には思考が停止した。
 たっぷりと五分くらいは固まって、夢だといいなーといういちるの希望にすがってほっぺをつねってみてもただ痛いだけ。
 肌を刺す寒さ共々、嫌味なくらいにこれが現実だということを思い知らされたこっちは、心の中を諦め一色にしながら、野犬たちの捜索を始めた。
35女装少年の人(代理):2010/01/21(木) 21:41:20.03 ID:0U2NF74r0
 ……………ところで。
 富士山の麓、青木ヶ原樹海には、いろんな噂がある。

―――例えば、"樹海には野生化した犬が野犬となって群れを作っている"という噂。
―――例えば、"樹海にはやってきた自殺志願者の内臓を売り捌くブローカーがいる"という噂。
―――例えば、"樹海では方位磁針が効かない"という噂。

 そんな数ある噂の一つに 、"樹海に入ったが最後、迷ってしまって出てこられない"というものがある。
 また、都市伝説の関係者はなぜか都市伝説みたいなものと出くわしやすい、らしい。
 つまりなにがあったのかというと、こっちは樹海の中でものの見事に迷子になってしまったのだ……それも、三日間も。
 野犬の群れこそ半日くらいで退治できたものの、どれだけ歩いても歩いても樹海から出れなくて、三日三晩ぶっ通しで森の中をさ迷うことになり。
 結局、樹海から出て外の景色を拝めたのはクリスマスから六日後、要するに大晦日の早朝のことだった。
 そのあと、痛む身体にムチを打ち、フルマラソン以上の距離を走破して家に帰ってきてみると、散々文句をぶつけてやろうと思っていたじいちゃんの姿は消えていて、残されていたのは怪我を治すじいちゃん特製の薬だけ。
36女装少年の人(代理):2010/01/21(木) 21:45:07.98 ID:0U2NF74r0
 まあ、薬を置いていってくれただけまだマシだったんだろうなあと思う。
 その薬を飲んで全身を襲う筋肉痛から解放されると、ご飯を食べる時間すら与えられないままなぜか巫女さんのバイトの申し込みに行かされ、それから帰るとこんどは同居人たちを指揮して家中を大掃除。
 掃除がすむと、年越しそばを作ったり食べたりしながら年末の特別番組をみんなで楽しんで、先に寝ちゃった同居人たちを布団に運び、どういうわけか冴えてしまった目をもてあましておせち作りを開始し…………ふと気づくと、夜が明けていた。
 時計を確認すると、もうバイトの時間までもう余裕がない。
 慌てて着替えて、未だ寝ている同居人たちに書き置きを残し、四日間連続徹夜というボロボロな状態で人生初のバイトに出発。
 巫女さんのバイトということで周りは女の人だらけ、その上クラスメイトまでいることに若干焦りつつ、コソコソと隠れながら巫女さんの服に着替え、いざ「バイトがんはるぞー!」と気合いを入れた―――まではよかったんだけど。
 寝不足と疲労と空腹の三重苦でバイト中に身体がふらつきまくって、終いにはいっしょにバイトしていた子から「す、少し休んできたら……?」なんていわれる始末。
 このままいても正直邪魔になるだけなのはわかってたから、ありがたく休ませてもらうことにして、せめて空腹だけでもなんとかしようと出店でなにかを買おうとして―――

「―――で、こうやってこけてる、と」

 ぐっ、と手足に力を込め、立ち上がってまた汚れを払う。
 今こんなことになった経緯をざっと思い出してみて、感想を一言。

「………我ながら、なかなかひどい目に遭ってるなあ……」
37女装少年の人(代理):2010/01/21(木) 21:53:10.16 ID:0U2NF74r0
 じいちゃんに夜寝てる間に樹海に放り込まれる高校一年生とか、全世界探してみてもそうはいないんじゃなかろうか。
 もしかしたら、そんなことをされてるからいつまでたっても背か伸びないのかもしれない………せ、成長が止まってるなんてことはないんだからっ!
 ふらふらとふらついて歩きながらそんなことを考えていると、なんとなくチョコバナナ屋さんが目についた。
 懐から財布を取り出して、とりあえず空腹を解消しようと屋台のおじさんに話しかける。

「すみませーん、チョコバナナ一本くださーい」

 するとなにやら作業をしていたおじさんはこちらに振り返ってきて、まさに"出店のおっちゃん!"といった感じの豪快な笑顔を浮かべた。

「お、いらっしゃい! バイト中の学生さんかい?」
「はい、一応……といっても、いろいろあって疲れてるせいで、戦力外通告されてるんですけどね………あはは」

 苦笑しながらそう言うと、おじさんは大袈裟なくらいに目を見開いて、
38女装少年の人(代理):2010/01/21(木) 21:57:16.18 ID:0U2NF74r0
「そりゃいけねえや! たっぷりサービスしてやるから、元気出してくれよ?」

 なんて言って、トッピングたっぷりのでっかいチョコバナナをぐいっと差し出してきてくれた。
 しかも、チョコはこっちの大好きなホワイトチョコというこれ以上ないくらいのサービスっぷり。

「ほれ、トッピング山盛りのビッグチョコバナナだ! 代金はなしでいいぜ?」
「え、そんな、悪いです……あの、お代くらいは」
「いやいや、いいってことよ! ………いいもんも見せてもらえそうだしな」
「? いいもの……?」
「あ、いや、こっちの話だ。まあともかく、嬢ちゃん可愛いしな、おっちゃんからのお年玉だと思ってもらってけもらってけ!」

 な、なんていい人なんだろう!
 不幸なこともいろいろあるけど、その分いいこともあるもんだなあ……。
 まあ、"可愛い""嬢ちゃん"ってところには、どうしても違和感があるけど。

「あ、ありがとうございます!」
「礼なんていいさ。それより、しっかり味わって食ってくれよ?」

 男前なおじさんの言葉を受けて、こっちはチョコバナナを一口かじる。
 ちょっと大きすぎて口の中がいっぱいいっぱいだけど、トッピングのチョコスプレーとかたっぷりかかった練乳とかが甘くてとてもおいしい。
 もぐむぐもきゅと噛んでごくりと飲み込み、おじさんに向かって感謝の言葉を送る。

「とても甘くっておいしいです! 助かりました、ホントにありがとうございます!」
「お、おお。……それよりなんだ、口の端に練乳ついてるぞ?」
「え、そうですか!?」

 おじさんの指摘に、慌てて舌で口の端をなめる。
 どろっとした感触とともに、濃厚な甘さが口の中に広がった。
39女装少年の人(代理):2010/01/21(木) 22:10:42.47 ID:0U2NF74r0
「ホントに、何度も何度もありがとうございます……って、どうしたんですか?」

 改めてお礼をしようとおじさんの方を向くと、なぜかおじさんはものすごくいい笑顔をしていた。
 ………でも、なんていうかその笑顔は、どことなくねっとりとしているような気がした。

「いやいや、いいもん見せてもらったなあと………あ、いや、なんでもない。と、とにかくバイト頑張れよ!」
「あ、はい。ありがとうございます……?」

 なんとなく挙動不審なところが少し気になったけれど、おじさん自身が「なんでもない」っていってるし、きっとそんなに気にすることでもないんだろう。
 ぺこりと頭を下げておじさんと別れ、チョコバナナをペロペロとなめながら、人混みの中を歩いていく。
 このまま戻っても迷惑なだけだし、もうちょっとだけのんびりさせてもらおう。

―――それにしても。

「なにか、見られてる…………?」

 普通に歩いているだけのはずなのに、なぜか視線を向けられているのを感じる。
 特に変なことをしているのでもないのに、どうしてだろう?
 考えてもよくわからなかったので、とりあえず「巫女さんの格好は目立つんだなあ」ということで納得して向けられる視線を無視しつつ、こっちはおいしいものを探し始めた。
40女装少年の人に土下座な初詣(代理):2010/01/21(木) 22:14:40.98 ID:0U2NF74r0
「……ん?」

 …ふと
 女装少年は視線を感じ、立ち止まった
 はっきりとした視線
 敵意はないが、何だか威圧感に似たものを感じるような…
 視線を彷徨わせれば、視線の主はすぐに見付かった

 それは、女性だった
 白いコートを身に纏った、長い髪の女性
 コートの上からでもはっきりとわかる、ナイスバディの女性である
 そんな女性が、じっと、女装少年を見詰めてきている

 …見覚えのない人だけど、誰だろう?
 女装少年が、不思議に思って首をかしげると

「……………い」

 女性が、何か、呟いたのがわかった
 声が聞こえる距離ではないが…唇の動きで、何となく、わかる

「…かぁいい」

 え?と
 女装少年が、疑問を覚えた、瞬間


 女装少年の体が、宙に浮いた
41女装少年の人に土下座な初詣(代理):2010/01/21(木) 22:21:28.38 ID:0U2NF74r0
「へ?」

 あれ?、と
 己の状況を理解するのが、遅れる

「か、かかかかかかか、かぁいいよぅ、お持ち帰りぃ〜〜〜〜〜〜!!!!!」
「……ふぇ!?」

 ようやく、女装少年のは己の現状を理解する
 すなわち…自分を見つめてきていた女性に持ち上げられて、運ばれている、と

「え、あ、あ、あの!?ち、っちょっと待って………」

 慌てて、女性に声をかける女装少年
 が、なんとも至福な表情になっている女性に、どう考えてもその声は届いておらず
 ど、どうしよう!?
 女装少年が、この見知らぬ女性への対処法を悩みだした、その時

「マステマ、止めてくれ」
「言われなくとも!!」

 聞こえてきた、誰かの声
 直後、っどん!!!と言う衝撃とともに、女装少年の体がぽ〜ん、と宙に放り出される
 どうやら、女性がタックルを受けるか何かして、女装少年の体を離してしまったようで
 ……このままでは、地面に叩きつけられる!?
 咄嗟に、受身をとろうとした、その体は

 ぽふんっ、と誰かに横抱きに抱きとめられた

「…ふぇ?」
42女装少年の人に土下座な初詣(代理):2010/01/21(木) 22:24:37.06 ID:0U2NF74r0
「よくやってくれた、カマエル」

 女装少年の体は、褐色肌で豹柄の衣服を纏った青年に抱きとめられていて
 その豹柄の服の青年のすぐ傍で、眼鏡をかけた中性的な青年が、ほっとしたようにため息をついていた



「…御免っ!!あんまりにもかぁいくって、正気を失ってしまったわ」

 数分後
 女装少年に、女性は謝罪してきていた
 ひとまず、暴走状態からは正気に戻ってくれたようである

「い、いえ、誘拐された訳じゃないですし、いいんですけど…」
「どう見ても誘拐未遂だったがな。姉さん、頼むから自重してくれ」

 謝り倒され、おろおろしている女装少年だったが、眼鏡をかけた青年の方は、女性に苦言を呈していた
 …どうやら、姉弟のようである
 ちなみに、豹柄の服を着た青年は、何時の間にか姿を消していた
 女性の傍には、青紫の髪をした青年が立っていて…どうやら、女性を止めてくれたのは彼らしい

「……それにしても、本当にかぁいいわ……はぁう……巫女さん衣装の女装少年……!」
「微妙に正気に戻ってねぇっ!?落ち着けエリカ、誘拐は色々と不味いっ!!」
「…逃げろ、少年。僕にもマステマにも、姉さんを止めるのは物理的に困難すぎる」

 …微妙に、まだ暴走状態から脱していなかった、らしい
 女性の様子に、マステマと呼ばれた青年は慌てて女性を止めようとしていて
 中性的な外見の青年のほうは、深々と、諦めたようにため息をついていた

「あ、で、でも…」
43女装少年の人に土下座な初詣(代理):2010/01/21(木) 22:27:53.75 ID:0U2NF74r0
「すまない、後で必ず詫びはする…その衣服からするに、巫女のバイト中なのだろう?戻った方がいい。このままでは、再び姉さんにお持ち帰りされるぞ」

 …言われて、女性に視線をやる
 女性は、笑顔だ
 笑顔と言うか、至福というか…女装少年を見つめて、視線を輝かせていて
 うん、何か、色々と危ない
 女装少年は、本能的な何かで、危険を感じ取った

「そ、それじゃあ、失礼させていただきます」
「本当にすまない…これは、僕の携帯の番号だ。後で連絡でもしてくれ」

 その時に、詫びをする
 中性的な青年は、淡々とした口調で…しかし、どこか申し訳無さそうに、そう言ってきて
 女装少年は、青年から携帯の番号が書かれた紙を受け取ると、その場を後にした

「……あぁ、びっくりした……」

 人波に入り込み、ほっと息を吐いて

「………あれ?」

 ふと
 今更ながらに…気づく

 ……あれ
 そう言えば、あの女の人…「女装少年」って言ってきてた…?
 そして、中性的な人も、「少年」って呼んできて…?

 ………つまり
 男なのは完全にバレバレだった、訳で
44女装少年の人に土下座な初詣(代理):2010/01/21(木) 22:31:50.16 ID:0U2NF74r0
 その、衝撃の事実を認識して
 女装少年は、思わずぴしり、固まってしまったのだったc



おわれ
45以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/21(木) 23:05:46.23 ID:mF+JSHgZ0
辺湖市新町には、幾つか学校があります。
今回お話する小学校も新町に位置するのですが、
この日もその小学校では大事件が起こっていたのです――。
「ううん……」
五十嵐先生(26、小学校教諭、独身)は呻き声とともに目を開きました。
どうやら、今の今まで眠っていたようです。
「うんしょ、うんしょ」
「ううん……身体が、重い」
五十嵐先生は、全身のだるさと腹部への重さを感じました。
何だか頭までズキズキと痛みます。
「うんしょ、うんしょ」
「どうして僕は眠ってたりなんか……うわあ!」
身体を起こそうとした五十嵐先生は、ようやく自分のお腹に乗っかっていた
担当クラスの女の子、河東文(かとう・あや、小学校5年生)ちゃんに気付きました。
「か、か、河東さん、何やって、ひぃっ!!」
そこで五十嵐先生は息を飲みました。
何という事でしょう、文ちゃんは服を脱いで先生のお腹に乗っかっていたのです。
おまけに、先生も着ていた筈のスーツが全部脱がされ、
ブリーフ一丁になっているではありませんか。
「かっ、っかかかか、河東さん!これは一体どういう」
「だって、こーちょーせんせーが、『河東クン、五十嵐先生を人肌で温めておきなさい』ってゆーから」
「いやいやいやいやいやいやいやいや」
五十嵐先生は首を横に振りながら河東さんの台詞を全否定します。
先生の脳内はパンク寸前でした。
一体、何がどうなっているというのでしょう。
自分がベッドの上に居る事と室内の様子から、ここが保健室だという事は分かりました。
しかし、何故、何時から、保健室に居るのかが分かりません。
「と、とにかく、服を着なきゃ」
そう言って五十嵐先生は起き上がろうとしたところで――
「あ、あれ?」
ベッドに手足を拘束されている事に気がついたのです。
「な、なんで、手錠なんかで僕の手足が!?」
「こーちょーせんせーがね、『パニックを起こさない様に先生を固定しておきなさい』って言ったの。
 だから、私、こーちょーせんせーから手錠もらって、せんせーのてあしをガッションガッションしたんだよ」
「何ィッ!?」
校長先生が、何故、何のために、ホワイ!?
「はっ、待てよ……」
ここで五十嵐先生は唐突に校長室に呼び出された事を思い出しました。
確か、昼休み中に呼び出しを受けて、校長室に入ってみると誰も居なかった筈です。
「確か、その後、頭に激痛が走って、目の前が暗くなって……」
「せんせー、何ひとりでブツブツ言ってるの?」
文ちゃんの質問を無視し、五十嵐先生は脳内のパニックを整理し始めました。
「えーとつまり、僕は校長室で倒れた、という事か?
 しかし、校長先生が、僕を保健室に拘束する理由が分からない。
 一体何の為に?」

「フゥハハハッハハハッ!! それはな、君が『都市伝説』に取り憑かれているからだ!!」

唐突に保健室のスライドドアが大きな音を立てて開かれました。
上半身裸に、ラバーのホットパンツを履き、何の為にあるのかよく分からないサスペンダーで
バッチリ決めた筋肉質でカイゼル髭なナイスダンディ。
そう、この小学校の校長先生です。
「あー、こーちょーせんせーだー!!」
「いや御苦労だった河東クン。さて、ここから先は我が輩にまかせなさい」
「ちょこ校長誤解しないで下さいこれは僕の意志じゃないんです河東さんが僕を拘束したらしくて
 そうですこれは生徒の悪戯なんですよだから懲戒処分とかそういうのは許して」
「うん? 君は何を言ってるのだね。君を拘束する様に河東クンに頼んだのはこの私だが」
弁明めいた言い訳を早口でまくし立てる五十嵐先生に対して校長先生は髭を撫でながら答えます。
「君は見たところ、『都市伝説』に取り憑かれている様だからね。
 この我が輩が引き剥がしてやろうというわけなのだ」
「こーちょーせんせー、かっこいいー!」
校長先生と勝手にはしゃぐ文ちゃんを見て、五十嵐先生の混乱は、下に凸な二次関数グラフの如く増大していきます。
「え、いや、その、都市伝説?」
「あいや、難しい事は考えなくてよろしい」
そう言って校長先生はツカツカと五十嵐先生に歩み寄ると、ムンズと五十嵐先生のナニを掴みました。
そして強く握りしめます。
「フンッ、ハァアッ!!」
「アッーーーーーーーーーー!!」
校長先生の気合と五十嵐先生の悲鳴、そして
「うわあ、こーちょーせんせー、すごーい!」
河東さんの黄色い声が保健室に響き渡る中、ソレは姿を現しました。
《かじらせてぇぇぇ、貴方の綺麗な耳を甘噛みさせてぇぇぇぇ、
 私と契約してぇぇぇぇ、そして、もっともっと、かじらせてほしいのぉぉぉ》
「出たな、『耳かじり女』!!」
何という事でしょう、五十嵐先生は都市伝説「耳かじり女」に取り憑かれていたのです。
「今の今まで五十嵐先生に取り憑いて、強引に契約を結ぼうとしていたようだが、
 我が輩の目は誤魔化せんぞ!! 覚悟しろ!!」
「アッーーーーーーー!!」
相変わらず悲鳴をあげる五十嵐先生にお構いなく、校長先生は五十嵐先生の世界の窓を開きました。
「五十嵐先生のスー●ー生●ぼりを、我が輩が吸引する事で、貴様は滅破するのだ!!」
誰の為の解説なのかよく分からない台詞を叫びながら、校長先生は五十嵐先生の履いているブリーフの世界の窓に顔を突っ込みました。
「アッーーーーーーーーー! アッアッ! アッーーー! アッーーーーーー!!」
《や、やめっ、ギャァァアアアアアアッッ!!!》
五十嵐先生の甲高い悲鳴とともに、「耳かじり女」の断末魔の叫びが保健室内に木霊し――
突如として、「耳かじり女」の姿はかき消えました。
校長先生は、しばらくの間、密着させた部分から、世にもおぞましい吸引音を立てていましたが、
やがて、おもむろに顔を上げました。
「うむ、これにて一件落着!」
「こーちょーせんせー、かっこいいー!!」
歓声を上げる文ちゃんと、それに対しアルカイックスマイルで応える校長先生。
まさしく、教育とは、こういう事を言うのでしょう。
「よし、そろそろ昼休みも終わる。河東クンは服を着て、早く教室に戻りたまえ」
「はーい!」
「五十嵐先生は――、この様子だと午後の授業は無理そうだ。
 5年3組は自習だな。ふむ、プリントを用意せねば」
校長先生はそんな事を言いながら、脱ぎ散らかしていた服をその場で着始めた文ちゃんを見やりながら、口髭を撫でます。
一方、保健室のベッドの上では、五十嵐先生がブリーフ一丁でガクガク痙攣しています。
「ぼ、僕のはじめてが、校長先生だなんて……」
声にならない声で、そう呻くと、五十嵐先生の意識は再び闇へと沈んで行きました。




その後、気絶した五十嵐先生の姿を見た保健室の先生が悲鳴を上げて気絶し、
駆け付けた教頭先生によって大混乱の事態が引き起こされるのは、どうでもいい話です。

おしまい★
51以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/21(木) 23:21:49.10 ID:jHpnFOmq0
保守的な何か

ある日のとあるマンションの一室
「愛にー、気づいてくだっさっいー♪ 心ー、試されていっまっすー♪ ・・・あれ、トバさん?」
「あ、少年。ちょっとこっちに来て下さい」
「? なに?」
「いいですから、早く!」
「わ、ちょ、待って!?」
ーーー少女(?)達移動中ーーー
「・・・うう、楽しくなってきたところだったのに」
「掃除を楽しいだなんて、それでも花の高校生ですか。それより、これを見て下さいーーークイちゃん!」
「・・・はい」
「えっと・・・これは?」
「見てわからないんデスか? ネコミミとネコしっぽデス」
「いや、それくらいわかるけど・・・」
「ちなみに、南区の雑貨屋で買いました。結構安かったですよ?」
「・・・お値打ちだった」
「それはいいんだけど・・・これ、どうするの?」
「ナギサは何を言ってるんデスか。ネコミミなんて、つける以外に用途がありマスか?」
「・・・念のために聞いてみるけど」
「何ですか?」
「つけるのはともかくとして。ーーー誰がつけるの?」
「ーーー総員、かかりなさい」
「「イエッサー!」」
「やーーーっ!? やっぱりこうなるの!? ちょっと待って、やめ、ひゃああああ!!」
52以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/21(木) 23:33:00.60 ID:W2qXA7540
基地外め
53以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/21(木) 23:35:31.70 ID:jHpnFOmq0
やっぱPSPからだと時間がかかる
とりあえず保守代わりの超超小ネタでした。
書き込みがなかったらまた適当に保守するかー
54以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/22(金) 00:05:03.53 ID:2rqTLhQ10
じょ
55マッドガッサー決戦編 そして屋上へ(代理):2010/01/22(金) 00:28:06.56 ID:HS3Xr9yj0
 一体、何が起こったのか
 一瞬理解が遅れてしまったが

「恵っ!?しっかりしろ、恵!!」
「だ、大丈夫ですか!?し、しっかり!」
「…ま、絶叫マシンレベルのスピードだったしな」

 ぺちぺちぺち
 きゅう、と気絶している「爆発する携帯電話」契約者を、前脚でぺちぺち叩いているジャッカロープや、その体を軽く揺さぶっている「13階段」
 おたおたしている女装少年(少女)と、何だか納得した様子の黒服Hの姿
 ついでに、そこにあったローラーのその様子に
 一行は、何が起こったのか、大体を理解した


○月×日 23:28 一年生教室横 屋上への階段前


「…ん」
「大丈夫か!?」
「……へい、き、だ」

 もぞ、と
 どうやら、意識を取り戻したらしい「爆発する携帯電話」
 少しくらくらしているようだが…大丈夫らしい

「ふむ、あとは屋上で説得だけだな」

 ドクターが、屋上への階段を見あげる
 そこで、嫌なエンドレスを繰り広げていた黒い悪魔は都市伝説能力解除によって増殖を止めており、全てが「13階段」に飲み込まれて消失している
 もはや、屋上へ行く事を拒むものは、存在しない
56マッドガッサー決戦編 そして屋上へ(代理):2010/01/22(金) 00:40:11.31 ID:HS3Xr9yj0
「残りメンバー的に……ま、説得は難しそうだが、頑張ってくれや」

 ぶちぶちと、ローラーに絡まっている髪の毛をナイフを切り落としていきながら、黒服Hが半ば他人事のようにそう言った
 …説得現場に付いていく気が0であるが故の、ついでに言うと、今回の騒動がどう言う結果に終わろうが知ったこっちゃないと、そう言う認識であるが故の他人事
 じろり、「13階段」に睨まれているが、それを気にしている様子もない

「あとの残りはマッドガッサーと、司祭様…マリ・ヴェリテと…」
「スパニッシュフライ契約者と、「頭を強打すると記憶を失う」の契約者、だな」

 人肉料理店契約者の少年(少女)の呟きに、銀髪の青年が補足する
 残り、あと4人
 …ある意味で、戦闘力及び撹乱力の強いメンバーが、屋上に集まってしまっている

「……急ぎましょう、時間が、ありません」

 黒服の男の言葉に頷き、Tさん達が階段を駆け上がっていく
 その様子を見て、「13階段」が蜘蛛契約者の少女に声をかけた

「あぁ、そこの蜘蛛女!」
「誰が蜘蛛女よ?」

 呼び名が不快だったのか、やや機嫌悪そうに、少女は立ち止まって「13階段」を睨んだ
 「爆発する携帯電話」の手を引いて階段を昇りながら、「13階段」は逆に少女を睨み上げる

「蜘蛛は、連れて行くな。一人、蜘蛛恐怖症がいるんでな。説得どころじゃなくなるぜ?」
「………仕方ないわね」

 不満そうだが、説得できなければ意味がない
 連れて来ていた蜘蛛達を階段前で待機させ、彼女は改めて階段を登っていく
 階段を登っていくメンバーを見つめながら……あ、と「爆発する携帯電話」契約者が、呟く
57マッドガッサー決戦編 そして屋上へ(代理):2010/01/22(金) 01:10:31.24 ID:HS3Xr9yj0
「どうした?恵」
「……マッド、が……彼女と契約した事……あいつらに話して、ない…」
「あ」

 …あ
 そう言えば

「…ま、何とかなるだろ」
「………くけっ」

 …まずは、屋上に行くのが先決だ
 二人は、他のメンバーに付いていって、階段を駆け上がった



○月×日 23:29 屋上階段前


「ん?お前さんは行かないのか?」
「どうやら、僕のような研究者タイプは嫌われるようなのでね。ここで待機させてもらうよ」

 階段を上がっていくメンバーを見送るドクター
 バイトちゃんの後ろ姿を見送り…そして、黒服Hに視線をやる

「君も、行かないのかね?」
「二階で言ったとおり、俺が行くとマッドガッサーを刺激しかねないんでね」

 肩をすくめる黒服H
 そんな彼に、静かに視線をやって…ドクターは、さらに尋ねる
58マッドガッサー決戦編 そして屋上へ(代理):2010/01/22(金) 01:53:12.47 ID:HS3Xr9yj0
「それだけかい?」
「…………」

 …それに、黒服Hはすぐには答えず 
 辺りに、視線をやって


 −−−−−ぶちっ


 すぐ傍の壁に生えた耳が……その髪で、一瞬で切りとおされた


「…さぁねぇ?」

 くっくっく、と
 黒服Hは曖昧に笑って、ただ肩をすくめるだけだった



○月×日 23:30 屋上


「…ふぅ」

 …ガスの精製、全て終了
 流石に、ここまで長時間ガスの精製を続けるのは初めてのことで、疲れた
 軽く頭を振って、疲労を振り払う

「マッドはん、大丈夫?」
59マッドガッサー決戦編 そして屋上へ(代理):2010/01/22(金) 03:01:34.76 ID:HS3Xr9yj0
「あぁ、問題ない……あとは、これを……」

 屋上に持ち込んでいた、ノートパソコン
 そこに走るプログラム
 後は、エンターキーを押せばミサイルの発射準備が始まる

 エンターキーに手を伸ばすマッドガッサー


 ……その時
 屋上の扉が…開いた

 マリが、スパニッシュフライ契約者が、似非関西弁の女性が
 一斉に、そちらに視線をやる

「………あぁ、やっと来たか」

 一旦、ノートパソコンから、顔を離して
 マッドガッサーは、自分達を止めに来た者達に、視線を向ける


 ……さぁ、どうする?
 後は、このエンターキーをおせば、発射準備は始まる
 止められるのなら、止めて見せろ



to be … ?
60以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/22(金) 03:45:59.11 ID:Kl1MHuov0
61キスに関する8の小ネタ(代理):2010/01/22(金) 05:05:53.66 ID:HS3Xr9yj0

uf die Hande kust die Achtung, 手なら尊敬。


 落とされたのは、酷く恭しい口付け
 まるで、紳士が淑女にするような、そんな

「……突然、何だよ」
「僕は、君の意思の強さを尊敬する」

 翼の手に口付けてきて
 直希は小さく、そう呟いた

「僕は、君と同じような状況に叩き落とされて、君のように自分を保ち続けられる自信は、ない」

 淡々と語られる、その内容に
 翼は、困惑したような表情を浮かべて、苦笑する

「それは…黒服とか、周りが支えてくれたからで」
「そうだとしても、さ」

 それでも、充分に尊敬に値する、と
 直希は、どこか羨ましそうに、そう告げてきた

「…ところで、直希。それはいいとして、突然俺の手にキスしてきやがったことについてだが」
「ハニエルが、「手への口付けは尊敬の証」と教えてくれてな」
「あの天使っ!?」

 何を教えてんだ!?と突っ込み体制に入った翼の様子に
 直希は不思議そうに、首をかしげたのだった
62以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/22(金) 06:21:18.18 ID:BMh1axiiO
63以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/22(金) 07:02:00.18 ID:HhGEBs7eQ
落ちてなくてよかった
64以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/22(金) 07:59:32.37 ID:HS3Xr9yj0
65以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/22(金) 08:13:03.38 ID:HhGEBs7eQ
昨日の雨+今日の寒波=大渋滞
あらかじめ予測しておいて助かったぜ保守
66以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/22(金) 09:32:02.95 ID:HhGEBs7eQ
ほー
67単発ネタ:2010/01/22(金) 11:20:44.03 ID:BMh1axiiO
突然、兄が私の家に来た。何故か兄は全身に矢が刺さっていて、組織に追われているから匿ってほしいと言った。
兄は昔から優秀で、兄が私を助けてくれる事はあっても、私が兄に何かしてあげる事はほとんど無かった。
だから、何があったのかはわからなかったけど、絶対に兄を守らなければならないと思った。兄に頼られた事が、単純に嬉しかったから。
私が、兄を守らないと。

「すみません。そこの人。」
ある日、男に声をかけられた。私は家に兄を一人にしているので、はやく帰りたかったため、少し不機嫌になりながら声の主を見た。
そいつは黒い服の男だった。もしかして、こいつは……
「もしかして、組織の方ですか?」
「あ、はい。そうです。貴女は契約者の方、ですよね?」
ああ、やっぱり組織だった。何の用か、そんな事は考えなくてもわかる。兄だ。
私が、兄を守らないと。
「貴女はフリーの契約sy「死んで下さい」たら…………へ?」

「っ!……ちょ、ちょ!まっ!話を聞いて!」
ちょこまかと欝陶しいな。まさか私の「スカイフィッシュ」を避け続けるなんて。
「ああもう!『ターボ婆』!!」
68単発ネタ:2010/01/22(金) 11:24:09.29 ID:BMh1axiiO
突然、何処からか現れた婆さんにスカイフィッシュが捕まる。
「さあ、これで話を聞いてk「大丈夫です」……はい?」
「まだ、後14匹いますから。」
「…………………え」
「死んで下さい。」
私が、兄を守らないと。

帰宅するとまず、地下室へ行く、本当は日の当たる所に出してあげたいのだが、今の兄は臭いでばれる可能性がある。
「ただいま、お兄ちゃん。」
挨拶をするが返事はない。きっとまた寝ているのだろう。起こそうと、兄の肩に手をおくと、腕が落ちた。
…………疲れがたまっていたのか、兄は起きなかった。もう少し寝かしておいてあげよう。
それにしても、この部屋は蝿とか蛆とか、虫が多いな。今度、兄が起きたら掃除しないと。

私が、兄を守らないと。


69以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/22(金) 13:02:58.52 ID:HhGEBs7eQ
干し湯
70以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/22(金) 14:29:49.33 ID:BMh1axiiO
星湯
71以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/22(金) 15:44:49.40 ID:BMh1axiiO
72以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/22(金) 16:38:48.65 ID:BMh1axiiO
73以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/22(金) 16:42:49.82 ID:2rqTLhQ10
ほこ
74以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/22(金) 17:15:29.75 ID:BMh1axiiO
75以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/22(金) 17:53:24.64 ID:BMh1axiiO
76以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/22(金) 18:42:51.29 ID:RMjFgsKS0
※癒
77以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/22(金) 19:16:48.77 ID:ycjRco1f0
78以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/22(金) 19:44:54.18 ID:BMh1axiiO
干し
79以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/22(金) 20:24:29.50 ID:2rqTLhQ10
じょ
80避難所雑談スレ>>837への回答(代理):2010/01/22(金) 21:04:34.70 ID:ycjRco1f0
Freundschaft auf die offne Stirn, 額なら友情。


 正直言って、俺もどこか世間一般で言う常識とはどこかズレてしまっている認識はある
 何せ、あぁ言う家の生まれで育ちだから
 ……だが

「どうしたの?」

 目の前で、きょとんとしているこのクラスメイトは
 どうやら、俺以上に常識が危ういらしい
 ……一体、どんな生活を送ってきたのか、いや、そもそも、こいつの両親ってか周囲はどんな連中だ

「…少なくとも、今のような事は他人にやらない方がいいぞ」
「え??」

 不思議そうに、首を傾げられた
 額への口付け
 それは、友情の証だそうだが

「色々と、誤解されるぞ」

 主に、ッアー!?な意味で

「う〜ん……よくわからないけど、わかった。でも、獄門寺君にはいいんだね?」
「ただし、人前以外で。誤解を招くから」

 主に、ッアー!?な意味で
 ……一応は、それなりに気心の知れた友人相手なのだから、これくらいの忠告する気遣いはあってもいいだろう
 そう考えた俺だが、俺の考えがこいつにどれだけ伝わったかは、よくわからないのだった
81恐怖のサンタ 【回想:全ての原因 part.2】(代理):2010/01/22(金) 21:07:16.22 ID:ycjRco1f0
 取引先の女性二人の変死。
 それは会社自体に対しては小さな、しかし社員の一部に対しては大きな波紋を呼んだ。
 といって、別段それは相手の死を悼むものであるとか、その奇妙な同時性に恐れを抱くとかいったようなものではなかった。
 ただのゴシップ的な興味……簡単にいえば、ちょっとした話の種としてそれらは捉えられたのだ。
 しかし、人の噂も75日というか何というか、1週間とたたず、その話題は収束を見せ始めた。
 たまたま死亡した日時が一致したからといって、たまたま同じ会社の、同じ部署の人間だったからといって、所詮は自殺。
 身近な死であることに多少の話題性はあるが、その話題は日本各地で日々起こっている猟奇殺人だとか、強盗だとかのニュースに取って代わられ、すぐに人々の頭から忘れ去られていった。
 かく言う俺もそんな一人で、直接の面識のある人間が死んだとはいえ、結局は他人でしかない。
 さして気にしてもいなかった。

 ――――しかし、それから約一ヶ月後
 事態は、全く別の方向へと展開していた。

********************************************************

 朝。俺はいつものように彼女に起こされ、彼女と共に朝食を取り、彼女に見送られて家を出た。
 空は快晴。ここ数日梅雨のせいで曇りか雨ばかりの天気だったが、今日から数日は晴れると今朝の予報では言っていた。
 ただ、その晴れた空とは対照的に、俺の足取りは非常に重い。
 別に、会社に行くのが嫌になったわけでも、今日が月曜日だからでもない。
 ……いや、それも多少はあるのかもしれないが、少なくとも目下の悩みはそれではなかった。
 
(……昨日もまた一人、死んだな)

 出かけ前に見た朝刊の事を思い出して、小さくため息をつく。
 恐らく、また色々と面倒なことになるのだろう。
 先ほどからちらちらと目の端に動く黒い影――恐らく警察――は、俺を尾行か、はたまた見張っているのか。
 そんな事をしなくとも、俺は逃げも、隠れもしないというのに。
 ……俺は、何もやっていないのだから。
82恐怖のサンタ 【回想:全ての原因 part.2】(代理):2010/01/22(金) 21:09:27.26 ID:ycjRco1f0
 いつものように電車に揺られ、バスに揺られること一時間弱。
 会社に辿り着くまで、その黒い影はずっと俺の後をついてきていた。
 刑事なら、もっと気配を隠すなり何なりできるだろうに、と俺は思う。
 もしかすると、尾行というよりは威嚇が目的なのかもしれない。
 ……まぁ、そのどちらでも構わない。俺には関係のない話だ。

 五階建ての小さな会社のビル。
 一応は本社扱いになっているそれは、薄汚れていてとてもそうは見えなかった。
 まだ尾行を続ける黒い影を無視して、俺は正面の自動扉をくぐる。黒い影は、そこまでは追ってはこない。
 扉をくぐると、目の前に受付が見えた。
 いつも笑顔での接客……それが義務付けられているはずの受付嬢は、俺を見て酷く嫌そうな顔をした。
 そのまま、そっぽを向き、俺と顔を合わせないようにする彼女。
 ……まぁ、無理もない。この一カ月で、彼女の前にいた受付嬢は二人とも、奇怪な死を遂げているのだ。
 最初の頃に受けたショックも、今はほとんど感じなくなっていた。
 彼女を無視し、そのままエレベーターの前へと移動する。
 使い古された旧式のエレベーターは、幸運な事にも一階で止まっていた。
 もしこれが五階にでも止まっていようものなら、最低でも5分はここで待たなければならない。
 その間、あの受付嬢の嫌悪の視線に耐えなくていいのは非常にありがたい。
 他の階へと呼び出されないうちに、とすぐに上階へのボタンを押し、中へと入る。
 エレベーター内で誰かと一緒になるのは、嫌悪の視線に耐えるよりつらい。
 すぐに「閉」のボタンを押そうとして――――

「おー、待った待った! 俺もはいっから!」

 ――――突き出された指は、唐突な声によって停止させられた。
 別段待つ必要もなかった。むしろ、相手を待たせることより、待つことによって被る俺の精神的苦痛の方がはるかに重要だ。
 ……しかし、その声が親しい人物の物であることと、長年何度もそうやって呼びとめられてきた癖が、「開」へと指を向けさせた。
 そのまま押し込むかどうか一瞬迷って、しかしすぐにボタンは沈みこんだ。
83恐怖のサンタ 【回想:全ての原因 part.2】(代理):2010/01/22(金) 21:12:26.52 ID:ycjRco1f0
「……ふぅ、セーフセーフ。このエレベーター待ち時間長ぇんだもんな」

 再び開いたドアから入ってきた男性は、額から浮き出た汗をぬぐいながらぼやいた。
 外でも走ってきたのか、背広の首回りが汗で黒ずんでいる。
 ポケットからハンカチを取り出し、それを額へと当てる男。

「いやー、わりぃなやまっちゃん。おかげで助かったわ」

 その男は俺を見ても一切顔色を変えず、以前と同じように笑顔でそう言った。

「……俺に話しかけていいんすか、先輩」
「んー? なに言っちゃってんの、この子は。部署が違うとはいえ仮にも上司よ、俺。後輩に声をかけるのに理由なんていらないでしょー?」

 ぽんぽん、と俺の肩を叩きながら、男……先輩は、そう陽気に笑った。
 正直、今のおれにはその陽気さが羨ましいくらいだ。

「いや……だから、ほら、俺って疫病神みたいじゃないっすか」
「疫病神、ねぇ……」

 そう言って、じっと俺の方を見つめてくる先輩。
 その目は俺を見ているようで……しかし、その視線は俺より少し上にあった。
 疑問に思って軽く上を見上げてみるが、そこにはただ染みのついた天井が広がっているだけだ。

「そういや、今朝の朝刊にも自殺記事乗ってたけど、あれか。あれもやまっちゃんの関係者?」
「関係者っていうか……」

 天井から目を戻しながら、今朝見た新聞の顔写真を思い描く。
 二十歳前の、少しそばかすの残った幼い顔。
 一応、面識のある顔ではある。
 ただ、一昨日の夜、ぶらりと立ち寄ったコンビニでバイトをしていた女の子……としか、俺は知らないのだ。
84恐怖のサンタ 【回想:全ての原因 part.2】(代理):2010/01/22(金) 21:15:07.30 ID:ycjRco1f0
 それを先輩に伝えると

「コンビニのレジ打ちと話しただけで、相手が自殺した、ね……やまっちゃん、ほんとに疫病神にでも見入られちゃった?」

 そう言って、くすりと笑った。
 薄暗い電灯の中、先輩の顔が奇妙に歪む。
 影のせいか、なぜかチェシャ猫のような印象を、俺はその顔から受け取った。
 ……正直、笑いごとではないのだが。

 ――そう、ここ一ヶ月、俺とちょっと……ほんのちょっと会話をした人が、次々と変死を遂げていた。
 まるで、本当に死神にでも見入られらたかのように。
 最初の取引先の二人に始まり、同僚、受付嬢、さらには先ほど言ったようなコンビニのレジ打ちにすら広がっていく被害。
 警察も最初はただ不審死が続いているだけだと、そんな見方をしていた。
 しかし、その死がある一つの街で起こっている事、そして何よりその数が日に日に増えている事に、彼らも疑問を持ったようだ。
 小規模ながらも、彼らは動きを始め……すぐに、死者の共通項として一人の男が浮上してきた。
 ――――それが、俺だ。
 
 しかし、彼らはそれ以上動けなかった。
 被害者とされる人間の死因は、あくまで心不全や自傷による失血、窒息――つまり、ただの自殺か、病気だ。
 だから、俺の周囲を見張るだけに彼らの動きは留まり……それが、逆によくなかった。
 誰が知ったのか、それとも知ろうとする必要すらなかったのか、いつからか社内に奇妙な噂が流れ始めたのだ。
 やれ営業の○○と話すと死ぬだとか、やれ○○は殺人鬼だとか、そんな勝手な憶測。
 多分、もしそんな噂が出た後に何もなければ、それはただの噂として処理され、風化していったのだろう。
 しかし、周囲の変死は止まることなく続き、それに伴い最初はちょっと面白半分だった同僚の視線も変わり――――

(――――今の状況に至る、と)

 心の中で小さくため息をつき、この状況はあと何日、それとも一体何カ月続くのか、と思う。
85恐怖のサンタ 【回想:全ての原因 part.2】(代理):2010/01/22(金) 21:17:16.95 ID:ycjRco1f0
 俺に無罪を証明する方法はない。というよりも、噂を消す方法がない。
 むしろ、実際に起訴された方が何と楽だったことだろうか。
 人の罪は裁判の審議で明らかになる。しかし、噂の審議はその範疇ではないのだ。
 裁判所がどんな判決を下そうと――例えそれが無罪判決であろうと――多分俺が逮捕された時点で噂は「有罪」の判決を下すのだろう。
 そしてそれは、一生消えることはない。
 ……なんとやるせないことだろう。

「――――おーい、やまっちゃん。何一人の世界に入っちゃってんの」

 ……そんな風に一人思考していると、唐突に先輩から声をかけられた。
 エレベーターの階数表示を見ると、まだ二階。
 相変わらず異様な遅さだ。

「……いいじゃないすか、別に」
「なーに辛気くせぇ顔してんだか。幸福が逃げちまうぞー?」
「そりゃ、こんな状況じゃ運なんて全部逃げちゃいましたよ、絶対」

 全く暗さというか、何の裏もなさそうな先輩の顔を見て、思わず愚痴がこぼれる。
 それは上司にするような態度ではなかったのだが……久しぶりに彼女以外とまともに話せたことと、先輩の人柄の良さが、俺の口をつい滑らせた。

「先輩はいいっすよね。最近営業の成績もぐんぐん伸びてるじゃないっすか」
「んー? そりゃ、あれだ。俺は運を大切にしてるからな」
「運を大切に……?」

 意味が分からない。
86恐怖のサンタ 【回想:全ての原因 part.2】(代理):2010/01/22(金) 21:19:46.90 ID:ycjRco1f0
「風水っつーの? そういうのに結構気をつけたりよ。他にも縁起はなんでも担ぐぞ、俺は」
「はぁ…………」
「最近だと…………ほら、これだ」

 そう言って先輩からポケットから取り出したのは、ペンダントのように吊るされた石ころ。
 瑠璃色とでも言うんだろうか。その石は青く、所々に黄色のような線を交えていた。

「これな、ほら、あのパ、パ、パ、パワ……パワ何とかとか言う……」
「パワーストーンですか?」
「それだ!」

 ビシッ、と指で指される。
 ……正直、あまりうれしくはない。

「お前もさ、知ってるだろ? 学校町ってとこ」
「はぁ、一応は」

 学校町。
 確か、ここから二つほど街を挟んだ先にある、自然に囲まれた町だったはずだ。
 以前に、超常現象だとか何だかで特集されているのをテレビで見たことがある。

「その学校町の占い師にもらったんだけどさ、これがまた滅茶苦茶効くんだわ」
「はぁ…………」
「ラピスラズリっつって魔よけと幸運のお守りらしいんだけど、やっぱ本職に貰うと違うねー。運気が全然違うっつーの?」
「……よかったっすね」

 眉つばというか、何というか。
 以前のテレビ番組といい、その町では何かいかがわしい宗教でも流行っているのだろうか。
87恐怖のサンタ 【回想:全ての原因 part.2】(代理):2010/01/22(金) 21:22:35.82 ID:ycjRco1f0
「あー、なにその目は。やまっちゃん信じてないでしょ」
「いや、信じないっていうか……」

 ……あまり、そういった事に興味がないだけだ。
 そんな風に俺が思っていると、何を思ったのか

「よっし、分かった」

 そう言って、先輩が俺に手に何かを握らせてくる。
 手のひらを見ると、そこには先ほどのラピスラズリが握られていた。

「それ、一週間貸してあげるからさ。ちょっと試してみなよ」
「え? いや、困りますよ。こんなの貰っても……」
「あげるんじゃないの。貸すだけなの。いい? 一週間経ったら返してもらうからな」
「いや、でも…………」

 どうしたものか。
 正直、こんな物を貸してもらったところで、大して運が上がるとは思えない。
 むしろ、これが彼女に見つかった時どう対応するかが問題である。
 鈍く光る宝石を手に逡巡していると

 ――――チーンッ

 時代遅れの音と共に、ギシギシと音を立てながら扉が開いた。
 表示されている階層は、五階。
 いつの間にか、目的地に着いていたようだ。
88恐怖のサンタ 【回想:全ての原因 part.2】(代理):2010/01/22(金) 21:28:21.82 ID:ycjRco1f0
「んじゃ、まーそういうことだから。宜しく」
「あっ、ちょっ、先輩、マジで困りますってっ!」

 開いた扉を見て、さっさと出て行ってしまう。
 追ってもよかったのだが、周囲を見渡せばすでに出勤し終えた社員が忙しそうに動いていた。
 ただでさえ部署が違うのだ。そんな中を人目にさらされながら先輩の後を追う勇気は、ない。
 そうこうしているうちに、すぐに先輩は人にまぎれて見えなくなり

「やまっちゃんに憑いてるそれ、俺が何とかしてやっからよー!」

 その中から聞こえた先輩の声は幻聴か、はたまた本当に本人が言っていたのか。

「憑いてるってなんだよ……縁起でもない」

 そのどちらか分からないながらも、俺はそれに小さく返答した。
 手の中では、先輩から貰った……借りたペンダントが、蛍光灯の光に反射して青く輝いていた。

 
 ――――翌日、先輩は死んだ。
 急性の心不全だったという。
 それを受け、また社内には噂が広がっていった。
 着実に、少しずつ、少しずつ広がっていく疑念。
 そんな中、俺は密かにある一つの決心をしていた……。



【続】
89パールの人と五十嵐先生に土下座(代理):2010/01/22(金) 21:32:03.78 ID:ycjRco1f0
 酒には、不思議な力がある
 適度に飲めば薬であり、しかし、度を過ぎれば毒となるそれ
 心を開放的にし、普段口にできぬ悩みすらも、見ず知らずの人間に相談してしまうような事態にすら、物事を進めてしまう

 彼、五十嵐にとって、酒の力に流された事は、不幸でしかなかった
 しかし、少なくともこの日、彼は幸運であったと、そう感じたのだ


「…それはそれは。大変な体験だったようで」
「……はい…まったく…」

 ぐでんぐでんに酔っ払っている五十嵐
 辺湖市新町の隣町である学校町
 そこのとあるバーで、彼は飲んでいた
 そして、見事に出来上がっていた
 もう、飲まなきゃやってられない気分だったのである
 何が悲しくて、初めてがマッスルな校長でなければならないのだ
 いっそ、死にたい

 彼にとって人生の汚点とも言えるそれを、見事に酔ってしまっていた彼は、たまたま隣の席に座った中年男性に、ぼろぼろと話してしまっていた
 恐らく、翌朝覚えていれば、後悔するであろう行為
 しかし、この瞬間、己の中に溜め込むのではなく吐き出す事で、彼の心は多少なりとも、軽くなっていた
 …そして
 そんな、話されてもどう対応したら良いのかわからない、いっそ引くようなその話を
 灰色のコートを着たその中年男性は、静かに聞いていてくれていて
 話し終わった五十嵐を見つめ……問い掛けてくる

「…それで。君は、どうしたんだ?」
「え?」
「そんな、パワーハラスメントを受けたんだ。訴えようとか、そう言う方向に考えは及ばないのか?」
90以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/22(金) 22:05:41.13 ID:RMjFgsKS0
しえしえ
91パールの人と五十嵐先生に土下座(代理):2010/01/22(金) 22:18:59.64 ID:ycjRco1f0
 言われて、五十嵐は視線を沈ませる
 …訴える?
 それこそ、彼にはそんな勇気はなかった
 人生の汚点とも言える、禍々しい行為
 それを、裁判所に訴えるなど、恐ろしくて、恐ろしくて
 とてもじゃないが、できない
 それを、正直に話すと…ふむ、と中年男性は、ゆっくりと続けてくる

「…復讐したいと、そう思わないか?」
「復讐…?」
「君に、そんな行為を行ってきた、その男を。社会的なりなんなり、抹殺したいと……そうは、思わないか?」

 酷く、物騒な事を話される
 それは、と五十嵐は視線を彷徨わせて……悩む
 それが、できるならば……と、一瞬
 ほんの一瞬、考えてしまって


 その瞬間
 ぱりんっ、と
 五十嵐の中で…何か、卵が割れたような
 そんな、錯覚を感じた


『フクシュウシチマエヨォ、ニクインダロォ?』
「−−−−−−−−っ!?」

 己の中に、響いた声を
 五十嵐は、確かに聞いた
92パールの人と五十嵐先生に土下座(代理):2010/01/22(金) 22:21:33.78 ID:ycjRco1f0
「…どうした?」
「い、いえ、何も」

 中年男性に不審がられないよう、慌てて返事をする
 何だ?
 飲みすぎて、幻聴が聞こえるようになったか?

『コロシテェダロォ?テメェヲケガシタソノヤロウ、メッタメタノギッタギタニシテヤリテェダロォ?』

 声が、楽しげに誘惑してくる
 酷く、酷く、誘惑的なその声
 破壊的なことを行えと、それは楽しげに誘ってくる

 何が起きているのか
 酔った思考が、混乱する

 その混乱に、拍車をかけるように…中年男性は、笑って、五十嵐に提案をしてくる

「…都市伝説と、契約して見ないか?」
「都市……伝説……?」

 そう言えば、あのおぞましい行為を行っていたとき
 校長が、そんな単語を発していたような気がした

「そうすれば、君は新たな扉を開く事ができるだろう……君に、おぞましい行為を行ったその人物を。ありとあらゆる意味で抹殺できるだけの力。それが、手に入るかもしれない」
「…力、が」
『ソウダゼェ!!ホラホラホラホラホラホラホラァ!ケイヤクシチマエヨォ!!!』

 中年男性の言葉を後押しするように、内なる声が誘う
 都市伝説と、契約
93パールの人と五十嵐先生に土下座(代理):2010/01/22(金) 22:23:56.28 ID:ycjRco1f0
 そうすれば…力が、手に入る?
 あの校長に……復讐、できる?

 悩む五十嵐の前に…中年男性は、す、と
 一枚の紙を、見せてくる

「それは…」
「都市伝説との、契約書だ。君に相応しい都市伝説の名を、既に記入している……後は、君がサインをすれば。君はこの都市伝説と契約できる」
『ホラホラホラホラァ!!メノマエニチカラガアルゾォ!ウケトッチマエ!!チカラヲテニイレチマエヨォオオオオ!!!!』

 二つの声が誘う
 契約しろ、と誘惑してくる
 あまりにも魅力的な、その誘い

 ……酔って混乱した思考
 いや、この瞬間、もしかしたら、酔いが覚めて、冷静になっていたかも、しれないが


 この夜、彼は悪魔の囁きに乗ってしまった




 ……帰り道
 雪が舞い散る道を、彼は一人、歩いていた
 何だか、気分が随分と軽い
 一体、自分は何故、あんなにも思い悩んでいたのか
 それが、何だか馬鹿らしくなってきた
 一人帰る、彼の前に
94パールの人と五十嵐先生に土下座(代理):2010/01/22(金) 22:26:10.94 ID:ycjRco1f0
「HAHAHAHAHAHAHAHAHA!!!」

 響き渡る、笑い声


 やせいの あにきが てんからまいおりてきた !!!


 全裸のマッスル兄貴が、天から降りてきた 
 それは、某最強マッスル禿から生まれた野生の兄貴
 男を「ッアー!?」の道へと誘う存在

 その、マッスルな姿に
 おぞましい存在を思い出し、五十嵐は眉を顰める

「OK,そこのお兄さん、Meと熱い夜を…………ん?都市伝説の気配…」

 ……あぁ、そうだ
 丁度いい

 五十嵐は、ニタリと笑う
 たっぷりの、たっぷりの邪悪が篭った笑顔

 彼の携帯が、着信を告げる
 五十嵐は、迷う事なく、その電話に出た

『23時15分。私はどこ?くすくすくす』

 向こう側から聞こえて来たのは、愛らしい幼女の声
 その声に、五十嵐は愛情を込めて、答える
95パールの人と五十嵐先生に土下座(代理):2010/01/22(金) 22:28:21.88 ID:ycjRco1f0
「君は、全裸の変態の背後にいるよ」
「む……!?」

 咄嗟に、背後に振り返る兄貴
 ……振り返った体制での、その、背後に
 彼女は、姿を現した


 どすっ、と
 兄貴の体に、ナイフが突き刺さる


「が……っ!?この……−−−−−!?」
『23時16分。私はどこ?くすくすくす』
「その変態の、足元だよ」

 振り返ったとき、それはもう、そこにいない
 代わりに、全裸兄貴の足元に…現れて
 すぱりっ、その足が切り裂かれる

「−−−−−−っ」

 がくり、膝をつく兄貴
 五十嵐は、その姿を……汚い物を見下ろすように、笑った

『23時18分。私はどこ?くすくすくす』
「変態の真上だよ……止めを刺してくれ」
『はぁい。くすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくす………!!』

 響き渡る、幼女の笑い声
96以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/22(金) 22:28:28.21 ID:RMjFgsKS0
む、まさかこっちには二人しか・・・?
支援!
97パールの人と五十嵐先生に土下座(代理):2010/01/22(金) 22:31:48.67 ID:ycjRco1f0
 それを最後に……全裸兄貴の意識は途絶え、その命は学校町から消えた



『えらい?私、えらい??くすくすくす』
「あぁ、偉いよ……質問女」
『褒められた、褒められた!くすくすくすくすくす』

 傍らを歩きながら、しかし携帯電話で話してくるその幼女
 都市伝説 質問女と手を繋ぎ…五十嵐は、至福の表情だった

 あぁ、自分は素晴らしい力を手に入れた
 素晴らしいパートナーを手に入れた
 この力があれば……!

「…あぁ、そうだ……今度、あの人に礼を言わないと……」

 携帯の番号は手に入れている
 後で、礼をしなければ
 この、素晴らしい力を与えてくれた彼に……恩返しをしなければ


 家への帰り道、質問女とて繋いで帰っていきながら
 五十嵐は、悪意を滲ませた笑みを、浮かべ続けていたのだった


to be … ?
98以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/22(金) 22:34:55.08 ID:RMjFgsKS0
なにか面白い支援ができないもんかなあ・・・
99パールの人と五十嵐先生に土下座(代理):2010/01/22(金) 22:37:03.43 ID:ycjRco1f0
uf die Hande kust die Achtung, 手なら尊敬。


 落とされたのは、酷く恭しい口付け
 まるで、紳士が淑女にするような、そんな

「……突然、何だよ」
「僕は、君の意思の強さを尊敬する」

 翼の手に口付けてきて
 直希は小さく、そう呟いた

「僕は、君と同じような状況に叩き落とされて、君のように自分を保ち続けられる自信は、ない」

 淡々と語られる、その内容に
 翼は、困惑したような表情を浮かべて、苦笑する

「それは…黒服とか、周りが支えてくれたからで」
「そうだとしても、さ」

 それでも、充分に尊敬に値する、と
 直希は、どこか羨ましそうに、そう告げてきた

「…ところで、直希。それはいいとして、突然俺の手にキスしてきやがったことについてだが」
「ハニエルが、「手への口付けは尊敬の証」と教えてくれてな」
「あの天使っ!?」

 何を教えてんだ!?と突っ込み体制に入った翼の様子に
 直希は不思議そうに、首をかしげたのだった
100キスに関する8の小ネタ(代理):2010/01/22(金) 22:39:14.39 ID:ycjRco1f0
Freundschaft auf die offne Stirn, 額なら友情。


「けーやくしゃ、しゃがんでくれる?」
「?わかった」

 花子さんに言われて、俺はしゃがんで見せた
 花子さんは、にぱ、と笑ってきて
 その花子さんの顔が、ゆっくりと近づき

 額に、柔らかな感触
 それは、すぐに離れてしまって

「花子さん?」
「えへへ〜」

 にぱぱ、と
 その笑顔は、どこまでも無邪気で
 思わず、頭を撫でたくなる

「えっとね、赤マントがね、額にちゅーするのは友達の印って教えてくれたの」
「そうか」

 どこの習慣だ、どこの
 そう思いながらも、まぁ、悪い気はしないのだった
101キスに関する8の小ネタ(代理):2010/01/22(金) 22:42:31.58 ID:ycjRco1f0
Auf die Wange Wohlgefallen, 頬なら厚意。


「おにいちゃん、おやすみなさい」
「あぁ。おやすみ」

 こちらの頬にキスしてきたあと、満足そうに笑って目を閉じた弟
 …おやすみのキスなんぞ、どこで覚えたのやら
 あぁ、あれか、両親が見ていた外国の映画か何かで、か?

 双子だと言うのに、弟は歳相応に子供っぽく
 それに比べて、自分は何と冷めた事か
 弟の無邪気な行動の意味も、一々探ろうとする

 …まぁ、自分達はこれでいいか、と少年はそう考えた
 弟がいつまでも無邪気でいたならば、自分が護ればいいのだから

 大切な弟、己の半身のような弟を
 自分は、護り続けようと…少年は、誓った


 十数年後、自分達がどんな大人になったのか
 少年たちは、この時予想してすらいなかった
102キスに関する8の小ネタ(代理):2010/01/22(金) 22:44:54.24 ID:ycjRco1f0
Sel'ge Liebe auf den Mund; 唇なら愛情。


 また、この所仕事が忙しかったせいだろうか
 ソファーに座ったまま、黒服がうとうととうたた寝している

「………」

 そんな様子を、望はじっと見詰めていた
 翼は今、風呂
 ……チャンス

 そぉっと
 黒服を起こさないようにして、望は彼に近づいて…


 一瞬
 ほんの、一瞬だけの、触れるだけの口付け


 ぱっ、とすぐに顔を離す
 たったこれだけでも、頬は真っ赤に染まりあがり、体温があがって
 これ以上は何もできずに、望はもじもじと黒服から離れた

 ……ちゅう、と
 その様子を見ていた鼠が、小さく鳴き声をあげたのに、気づく余裕すら、なく
103以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/22(金) 22:52:45.29 ID:RMjFgsKS0
紫煙
104以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/22(金) 22:56:56.71 ID:RMjFgsKS0
何回か書き込んだらさるさんマシになるだろうか
105キスに関する8の小ネタ(代理):2010/01/22(金) 23:02:36.21 ID:ycjRco1f0
Aufs geschlosne Aug' die Sehnsucht, 瞼なら憧れ。


 ゆっくりと、唇が離れていく
 瞼を開き、黒服Hはくっく、と笑った

「どうしたんだ?急に」
「あら、キスをしてはいけません?」
「いいや?」

 悪くないさ、と笑ってくる黒服H
 彼女も、一緒になって笑った

 気づいている癖に
 そう思いながらも、口には出さない
 先程の瞼への口付けの意味を、きっと彼はわかっている
 わかっていて、しかし、わからないふりをしてきて


 …あぁ、でも、私はそんなこの人に惹かれているのだ


 幸せに微笑んで、呪われた歌の契約者は、黒服Hにそっと寄りかかるのだった
106キスに関する8の小ネタ(代理):2010/01/22(金) 23:05:45.48 ID:ycjRco1f0
In die hohle Hand Verlangen, 掌なら懇願。


 できる事ならば、戦わないでほしい
 赤いはんてんとしての力を使わないで欲しい
 だからと言って、青いはんてんの力なら良い、という訳でもないのだが

「やれやれ、相変わらず馬鹿力だな」

 盛大に相手都市伝説を殴り飛ばした青いはんてんに、赤マントは小さく苦笑した
 殴り飛ばされた相手は、全身に青痣を作って気絶している

「誰が馬鹿力よ?」

 不満げな表情を浮かべてきた青いはんてん
 いや、青いはんてんが赤マントより腕力が強い事は、確かな事実であるのだが
 だから、不満を述べられても逆に困る

「いや、君の外見でそのような腕力があるのが、未だに不思議でね」
「私達は都市伝説よ?外見通りの力じゃないことなんてよくある事でしょ?」
「……まぁそうなのだがね」

 苦笑しながら、そっとその手をとって
 その掌に、口付ける

「……できれば、その拳を振るって欲しくないと、私は思うのだよ」

 戦って欲しくない
 それが、私の君への願いなのだから
107キスに関する8の小ネタ(代理):2010/01/22(金) 23:07:58.65 ID:ycjRco1f0
Arm und Nacken die Begierde, 腕と首なら欲望。


 不意に腕をとられ、その腕に口付けられた
 え、と思った時には、捕まって
 首筋に落とされる、口付け
 ピリリ、と走った小さな痛みの後、首筋に赤い華が咲く

「もう、マリ?」

 自分を捕まえてきているのは司祭の姿のマリ
 周囲に、人目がないから良いものを
 参拝客が見ていたら、どうするつもりだったのか

「いけませんか?」
「駄目じゃないけど」

 まだ昼間よ?と苦笑して見せれば
 マリは、にやりと笑ってきて

「…だからこそ、良いと思いませんか?」

 ……あぁ、もう、この欲望の化身は
 そう思いながらも、そんなマリが嫌いではないのが、事実で
 私は、マリの首筋に、口付けを返して答えてやった
108キスに関する8の小ネタ(代理):2010/01/22(金) 23:10:32.63 ID:ycjRco1f0
Ubrall sonst die Raserei. それ以外は、狂気の沙汰。


 つま先に落とされた口付け
 それは、まるで忠誠の証のように

「…この、体」

 ツギハギだらけの体
 もともとのツギハギに加えて、増えてしまった縫い目

「この、命」

 自分のせいで増えた傷、傷の証
 それを、彼は隠そうともせず
 むしろ、誇りであるかのようにしていて

「全て、ヘンリエッタ様に捧げます」

 …頼むから、そんな事を言わないでほしい
 自分には、そんな価値は……ない
 そんな忠誠を向けられる価値など、存在しないと言うのに

「あなた様のためならば、地獄までも、お供いたしましょう」

 強すぎる忠誠
 それは、狂気にも、似て
109以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/22(金) 23:16:40.13 ID:HS3Xr9yj0
あああ、俺が変なとこで寝落ちしてしまったせいで作者さんと代理の方に迷惑をおかけしましたorz
読み専だからたまにはスレの役に立とうとした結果がこれだよ!
110以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/22(金) 23:45:25.60 ID:ycjRco1f0
>>109
なに、俺が本スレを覗いてなかったのが問題だったんだ。代理投下&保守感謝だぜ!
そして保守して寝る
111以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/22(金) 23:59:54.85 ID:HS3Xr9yj0
おれも今日は早く寝よう
112以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/23(土) 00:21:50.43 ID:iP2A9ofq0
113以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/23(土) 00:43:27.47 ID:0HPiSGG20
114以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/23(土) 01:04:43.09 ID:0HPiSGG20
115以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします