1 :
以下、転載禁止でVIPがお送りします:
俺「なにそれ?」
男「あなたは仕事でよく上司に怒鳴られてますね。
でももし、それはあなたのせいではないとしたらどうですか?」
俺「えっ?」
男はヨレヨレのチェック柄の背広を着て、山高帽をかぶった小柄な男。
年齢はよくわからない感じ。なんだか胡散臭い奴だ。
2 :
以下、転載禁止でVIPがお送りします:2014/04/02(水) 23:16:02.59 ID:KVc0hbcn0
男「よく『頭のネジがゆるんでるのか!』なんて、心ない表現で傷つけられているようですね。
俗に言うパワハラというやつですか」
俺「ええ、まぁ……」
男「しかし悲観することはありません。
ネジがゆるんでいるなら締めればいいだけなのです。
そのために、こういうものがあります」
そう言うと男は、ポケットから色褪せたネジ回しを取り出した。
3 :
以下、転載禁止でVIPがお送りします:2014/04/02(水) 23:18:21.19 ID:KVc0hbcn0
男「ネジがゆるんでいるなら締めればいいのです。そうでしょう?」
俺「えっと…うん、まあそうかな?ん?」
俺は元来頭の回転のいい方ではないのだ。
男「では、ちょっと失礼」
男はそう言うと、俺の頭のあたりでネジを締める動作をした。
するとどうしたことだろう、頭が急にすっきりとして、
この男の言うよくわからない言葉も腑に落ちてきた。
4 :
以下、転載禁止でVIPがお送りします:2014/04/02(水) 23:20:09.26 ID:KVc0hbcn0
俺「あれ?なんだか頭がすっきりした気がします」
男「あなたの頭のネジを締めました。
これであなたは人並み以上の知力を発揮できるようになりますよ。
折角ですからそのドライバーは差し上げます。
しかし注意してください、人は自分で自分のネジを締める事は決して出来ないのです」
俺「ふーん」
男「人の為に、ネジを締めてあげてくださいね」
こうして俺の手には、一本の古びたドライバーが残された。
5 :
以下、転載禁止でVIPがお送りします:2014/04/02(水) 23:22:36.97 ID:KVc0hbcn0
俺はいつものように深夜まで残業をしていた。
しかし、手ごたえが違っていた。
今まではただひたすら、処理した仕事よりも多くの仕事が降ってくる毎日だったが、
机を片付け、資料を整理し、処理用のマクロを組んで走らせているうちに、
毎日俺を抑え込んでいた仕事達は、みるみる片付いて行った。
俺は自分がこれほどに仕事を効率化出来る事に、自分自身で驚いていた。
6 :
以下、転載禁止でVIPがお送りします:2014/04/02(水) 23:24:24.53 ID:KVc0hbcn0
ふと目をやると、1年後輩の社員が自席で硬直していた。
机の上には資料の入ったクリアファイルがうず高く積み上げられ、
随所に埃をかぶっていた。
時刻はまもなく終電。こいつは会社に泊まる気なのだろうか。
俺「おう、まだ終わらないの?」
後輩「あっ、俺さん。課長にこれ明日の朝までって言われてるっす」
俺「明日の朝って……全然手付けられてないじゃん」
後輩「あっはい。自分これやった事ないんで」
俺「それ誰かに聞かないとだめじゃん」
後輩「あっはい。それ自分のせいっすか」
俺「……」
俺は面倒になって、おもむろに後輩の頭をわしづかみにした。
7 :
以下、転載禁止でVIPがお送りします:2014/04/02(水) 23:26:10.16 ID:KVc0hbcn0
後輩「あっ俺さん、何するっすか」
俺「うるさい!その残業が終わるおまじないだよ!!」
俺は後輩の頭に例のドライバーを適当に押しあて、右回りに回してみた。
かちんという手ごたえがあった。
後輩「あっあれ?なんか変な感じ」
俺「じゃあな。お疲れ」
俺は自宅に帰り、食事や入浴など必要最低限の事をして、短い眠りについた。
8 :
以下、転載禁止でVIPがお送りします:2014/04/02(水) 23:28:33.61 ID:KVc0hbcn0
次の日
後輩「俺さん!」
俺「おう、昨日大丈夫だった?」
後輩「はい!あの後サーバの中から普通にマニュアル見つけて普通に1時間で終わったんで、
ラーメン食った後漫喫行って、6時間寝れました」
俺「ふーん。良かったな」
後輩「俺さん、昼飯行きましょうよ」
俺「そうだな」
俺は後輩のしゃべり方がなんだかさわやかになっているのを感じた。
9 :
以下、転載禁止でVIPがお送りします:2014/04/02(水) 23:30:39.11 ID:KVc0hbcn0
俺は気が向いたので、例のドライバーの事を後輩に話してみた。
後輩「へー。じゃあ俺が昨日早く残業終わったのって先輩のお陰なんですね」
俺「感謝しろよ」
後輩「一生付いていきます!」
調子のいい奴だ。
しかしその後、俺と後輩は課内でメキメキと頭角を現し、
若手のツートップと目されるようになった。
俺たちは時々お互いのネジを締め合い、毎日毎日、大量の仕事をこなしていった。
それでも以前のように過酷な早出残業をするようなことはなくなっていった。
10 :
以下、転載禁止でVIPがお送りします:2014/04/02(水) 23:31:56.10 ID:TaAQdQCW0
パイルドライバー
11 :
以下、転載禁止でVIPがお送りします:2014/04/02(水) 23:32:26.88 ID:KVc0hbcn0
係長「俺くん」
俺「はい」
係長に呼ばれた。こいつには部下がおらず、課内では空気的な存在だった。
何の仕事をしているのかすら、同じ部屋にいるのによくわからない。
係長「最近調子のってるんじゃないの?」
俺「は?」
係長「あまり調子に乗らない方がいいよ。俺部長にチクっちゃうよ」
俺「何をですか?俺は責められるような事は何もしていないと思いますが」
係長「和を乱してるんだよ、集団の和を。
自分の仕事終わったら早く帰るとか、僕が新人の頃は考えられなかったよ」
毎朝始業前に爪切りと耳掃除を丁寧に30分やってるお前に言われたくない、
とでもいい返してやろうと思ったが、やめた。
その代わりおれはふと思いついて、係長のこめかみに例のドライバーを押し当て、
左回りに回してみた。
鉄色のネジがころんと、床に落ちた。
12 :
以下、転載禁止でVIPがお送りします:2014/04/02(水) 23:33:24.83 ID:6cMwJ6U60
緩すぎwww
13 :
以下、転載禁止でVIPがお送りします:2014/04/02(水) 23:34:29.75 ID:KVc0hbcn0
係長はその後自席に戻ると、ずっと放心したように一日中パソコンの画面を眺めていた。
特に何かする風ではなく、終業までただ座っていただけだ。
定時になると碌に挨拶もせず、帰宅していった。
後輩「あ、俺さんお疲れ様です」
俺「おう」
後輩「なんか係長、今日変でしたね。頭のネジが外れたみたいっていうか……あっ!」
後輩は俺の背広のポケットにちらりと目をやった。
俺「……緩めることもできるみたいなんだ」
後輩「へー。悪用しちゃダメですよ」
14 :
以下、転載禁止でVIPがお送りします:2014/04/02(水) 23:37:10.45 ID:KVc0hbcn0
後輩の言葉に反して、俺はドライバーの威力を試さずにはいられなくなった。
はじめは好奇心から、同僚の女のネジを少し緩めて、飲みに誘ってみた。
あれよあれよという間に、いとも簡単に関係を持つ所まで至った。
俺は少し後悔して、翌日の朝隣で無防備によだれをたらして眠っている
その女のネジを、中途半端に締め直しておいた。
上司達のネジも少しずつ緩めてみた。
今まで隙なく仕事をこなしていた上司達は、らしくない失敗を重ね、
勝手に降格したり子会社に出向させられたりしていた。
気がつくと俺と後輩は出世コースに乗り、俺は花形部署の部長へと
最年少で出世、後輩も俺の右腕として活躍していた。
15 :
以下、転載禁止でVIPがお送りします:2014/04/02(水) 23:39:18.70 ID:KVc0hbcn0
ある日、俺は些細なことで後輩と喧嘩をした。
後輩は仕事ができる(と言ってもドライバーの力だが)割には幼稚な趣味を持っており、
週末になると色違いの衣装で踊るアイドルグループの追っかけをしていた。
俺から見たらアイドルと言うほどの美人がいない様に感じた。
俺「なんかブスとまでは言わないけど、普通だね。
アイドルって言うよりは文化祭で羽目外している女子高校生みたいだな」
後輩「は? は!?」
俺は軽い感じで笑った。
後輩は小さな尊厳を傷つけられた幼児のように、必死の形相で怒りを顕わにしていた。
俺は何だか興ざめし、後輩との仕事の上でのパートナーシップについても疑問を持ち始めた。
16 :
以下、転載禁止でVIPがお送りします:2014/04/02(水) 23:41:01.00 ID:KVc0hbcn0
ある日、後輩が俺のデスクにやってきた。
後輩「俺さん、ちょっといいですか」
俺「忙しいから手短にな」
後輩が目配せをすると、部署のメンバーが寄ってきて、
ずらっと俺の椅子を取り囲むようにして立った。
何だかやけに距離が近い。
17 :
以下、転載禁止でVIPがお送りします:2014/04/02(水) 23:42:48.37 ID:KVc0hbcn0
後輩「俺さん。俺他人の大切にしているものを踏みにじるような人には
もうついていきたくありません」
俺「何言ってる。忙しいのにそんな事言いに来たのか。
誰のお陰で今の地位まで上がれたと思ってんだ」
後輩「俺さん。自分がいつも正しいと思わないで下さいね」
ふと見渡すと、部署のメンバーは曇った瞳で虚空を見つめている。
少し背筋が寒くなった。
後輩は無表情に俺の言葉を待っていたようだったが、俺は何故だか返す言葉が見つからず、
髪の生え際のあたりを指で掻いていた。
18 :
以下、転載禁止でVIPがお送りします:2014/04/02(水) 23:43:22.24 ID:mfnDMutf0
面白い
19 :
以下、転載禁止でVIPがお送りします:2014/04/02(水) 23:44:30.64 ID:KVc0hbcn0
後輩はため息をついた。見たこともないような悲しい表情だった気がする。
全員に合図すると部署のメンバーは、焦点が合わないままの目で、
一斉にポケットから何かを取り出した。
何だか見覚えのある、少し色褪せた棒状の工具。
その後、金属片が床に散らばるような音をかすかに聞いた気がするが、
気のせいだったかも知れない。
20 :
以下、転載禁止でVIPがお送りします:2014/04/02(水) 23:46:59.73 ID:KVc0hbcn0
俺は結局この会社を定年まで勤め上げた。
どんな仕事をしたかはよく覚えていない。
毎日遅刻することなく会社に行きタイムカードを押し、
定時にはタイムカードを押して帰る。
片道40分電車にゆられ、6帖の自室に帰ると眠くなるまでテレビを眺める。
翌日にはまた電車に乗って、タイムカードを押しに行く……。
ずっとそんな毎日。
俺は特にその事に疑問を持つこともなかった。
もう定年だし、振り返ってみればどうでもいいことのように思えた。
退職のために机を整理していた時、
引き出しの奥から色褪せたドライバーが出てきた。
そこには何本かの鉄色のネジと、メモ書きも入っていた。
俺は無感情に、何気なくメモを開き、そこにある文字を黙読した。
そこには無機質な文字で、こう書いてあった。
「人は自分で自分のネジを締める事は、決して出来ないのです」
21 :
以下、転載禁止でVIPがお送りします:2014/04/02(水) 23:48:39.26 ID:KVc0hbcn0
おわりです
適当に感想など書いてくれるととてもうれしいよ!
>>18 ありがとう!
励みになります
22 :
以下、転載禁止でVIPがお送りします:2014/04/02(水) 23:51:21.28 ID:x0jxjKud0
世にも奇妙な物語っぽくて面白かった
乙
23 :
以下、転載禁止でVIPがお送りします:2014/04/02(水) 23:52:52.35 ID:RAOXpQ2z0
面白いけど、後輩が幼稚すぎ
24 :
以下、転載禁止でVIPがお送りします:2014/04/02(水) 23:54:14.57 ID:U9e9ZgdP0
乙乙
25 :
以下、転載禁止でVIPがお送りします:2014/04/02(水) 23:56:57.57 ID:d62mxz2d0
この手の人知を超えた道具系は必ずバットエンドになるから先読めちゃうのがなぁ
アイデア凄く良かったですよ
26 :
以下、転載禁止でVIPがお送りします:
このレベルのショートショート書籍で出したら毎回買うレベル