夏目漱石「戦闘潮流」

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131以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/05(金) 01:41:44.79 ID:9vg4bUeQ0
支援
132以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/05(金) 01:42:52.31 ID:gqIzaj3YP
すると韋駄天教師が赤石を賭けたおれとお下げ頭の決闘を提案した。
私になんぞあれば赤石は爆破されるけれ、提案を受けておおきなさいや、
と作り事を拵えて頬かむりを誤魔化した。
この女はもしやするとおれよりよっぽど巧妙な弁舌を揮うやつかもしれない。

韋駄天教師を人質に残して、おれが単身赤石を取りに戻った。
どれ赤石ついでに下帯でも持っていってやろうかしらん、と
韋駄天教師の荷物を探っていると、二葉の写真が出てきた。
ひとつはおれの祖母の写真で、もうひとつは若い頃の祖母とじいさんと修行僧がいる。
修行僧は腕に赤ん坊を抱いている。
思えばおれは韋駄天教師の過去を知らぬ。
祖母と繋がりがあるようだし、赤石と一緒に持っていって問い詰めてみよう。
133以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/05(金) 01:46:04.39 ID:nOvOiBbI0
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134以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/05(金) 01:46:17.62 ID:gqIzaj3YP
赤石を渡しがてら写真のことを問うと、
韋駄天教師は写真の赤ん坊は自分であると云った。
五十年前船の事故で両親を亡くし、同様に祖父を亡くした祖母が引き取ったのだという。
おまけに育ての親はあの修行僧らしい。
妙な因縁もあったものだ。
こいつも見かけによらず大分婆さんである。

決闘はお下げ頭の希望で円形闘技場での戦車戦となった。
周回しながら相手が死ぬまでやりあう古臭い決闘だ。
ご丁寧に馬まで用意して御苦労千万なことである。
やっこさん随分張切って正装だか何だか知らぬが
ますます野蛮な服装をしている。
135以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/05(金) 01:49:21.77 ID:nOvOiBbI0
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136以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/05(金) 01:50:58.09 ID:gqIzaj3YP
号令の前にお下げ頭の戦車の車輪の下に瓦礫をばら撒いておいた。
お下げが出遅れている隙に、獲物がかかっている柱から大槌を取る。
これでぶちのめしてくれようとお下げ頭を見遣ると、
やつは柱をねじ切っておれの戦車に叩きつけてきた。
堪らず飛び降りると、お下げはそのまま戦車で轢き倒そうとしてくるので、やつの戦車に飛び乗った。
おれが飛び乗ったのを見て、お下げは馬の体内に隠れて
例の必殺技を出そうと腕を出してきたので、手綱を絡めて波紋を流してやった。
可哀想にやつの腕はずたずたになって茫然自失の体である。いい気味だ。

お下げ頭はぶつぶつ何事か呟いていたかと思うと、
突然己の両の目を潰してしまった。
眼に頼りすぎたからいけない、これからは風を感じてものを見よう、
などと文学士の見たよな事を云っているが、全くの気狂いである。
どう考えてもさっさと倒さなくっちゃあ駄目だ。
そう思って二周目の獲物の鋼鉄球の洋弓銃で狙いを定めようとすると、硬くて引くことが出来ぬ。
137以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/05(金) 01:53:40.55 ID:wY0Drzzz0
「一つ、無敵である」
138以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/05(金) 01:55:45.21 ID:gqIzaj3YP
お下げ頭も何やらもたついているので、
どうかしてその間にこの硬い弓を引かねばならぬと思っていると、
なんと闘技場の外壁に沿って球を撃ち込んできた。
不意を突かれてくらったが、その衝撃でどうやら弓を引くことができたようだ。
折角の機会なのでお下げ頭に感知されて避けられるとつまらぬ。
わざとあらぬ方向に撃ったように誤魔化して、
やつがしたように壁を沿って背後から球をぶち込んでやった。

お下げは腹に風穴が開いている。
これで仕舞だと足に波紋を食らわせて動きを封じたが、
なんと両腕を切り飛ばしておれの首を絞めてくる。大概にしろ。
呼吸が出来ぬので波紋を使えず苦心していると、お下げ頭の体が空気を取り込み始めた。
何でも肺の中で圧縮させて刃の如く噴出させるのだと云う。
おれの顔めがけてその刃で切りつけようとしてくるのでたまらない。
139ぺろぺろ紳士 ◆p51RVEp752 :2013/04/05(金) 01:56:32.48 ID:7NOctUlx0
ジョセフが自身の戦いをこんな風に回想していたら笑えるな。
支援。
140以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/05(金) 01:59:06.34 ID:gqIzaj3YP
油瓶を投げ付けると、思った通りお下げ頭は感知して刃で叩き割った。
空気とともに噴霧状の油をお下げが取り込んだところで、
伊達男の鉢巻に火をつけて投げつける。
お下げは瓶と同様鉢巻を切り刻んだが、油に引火してお下げの体内で爆発した。

ついにお下げ頭は首だけとなり、死を待つばかりであったが、
考えて見れば憎き伊達男の仇だが戦士としてはなかなか見上げたやつである。
おれの血を使って痛みを和らげてやると、
何やら感じ入ったようで、騒ぎ出した吸血鬼を首だけで制してしまった。
死ぬ前に解毒剤を飲んで見せろというので、眼を潰した癖にわかるのかと問うと
なに伝わるさと云った。
云われたとおり飲んでやると、
満足そうに、それじゃあ随分御機嫌よう、と云って塵となり風に吹かれていった。
141以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/05(金) 02:01:25.18 ID:nOvOiBbI0
支援
142以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/05(金) 02:02:32.99 ID:gqIzaj3YP
頬かむりと韋駄天教師の決闘は、場所を変えて神殿遺跡で行うこととなった。
女だてらに波紋教師で、しかも五十年なだけあって落ち着いたものである。
あっさり頬かむり−−頬かむりを取ったが面倒なのでこいつは頬かむりだ−−を
首巻で倒してしまった。
威張っているやつ程存外弱いものだなと思っていると、
韋駄天教師の背後から頬かむりが現れた。
なんとそれまで戦っていたのは影武者で、
本物は隙を付いて韋駄天教師を後ろから刃で刺し倒してしまった。
実に卑怯なやつである。癇癪のままに張り倒してやろうとしたのだが、
雑兵の吸血鬼どもに阻まれて近づけぬ。
おまけに先だってのお下げ頭との決闘の疲労が答えて、
波紋を練るのも一苦労だ。
143以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/05(金) 02:04:15.17 ID:XaYCbGrD0
「此度もやらせて頂いた」
144以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/05(金) 02:04:58.77 ID:u5ljv8+V0
4部ジョセフをヘブンズドアーで捲ればこんな風に書かれているのかも
145以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/05(金) 02:05:50.97 ID:gqIzaj3YP
焦慮いなと思っていると、急に周りの吸血鬼がばたばたと崩れ始めた。
見ると機械軍人が一党を引き連れて吸血鬼に紫外線を一斉照射していた。
なんの因果かじいさんと紐育の悪友も来ている。
雑兵は機械軍人に任せて、おれは一気に頬かむりの所まで駆け上がった。
頬かむりはすました顔で半死半生の韋駄天教師の足に縄を通して
地面へ放り投げたので、慌てて縄の一端を掴むと、
こちらが身動きが取れぬのをいいことに攻撃しようとしてくる。

どこまでも卑怯なやつだ。
こいつはふた言めには、勝てばよかろうだの、頂点は一人だの云って
男らしくない手ばかり取りやがる。
まったく一番へこましてやらなくては気がすまない。
気がすまないが、正直に白状すると、やる気のある割合にもう波紋を練るのも大抵しんどい。
だがおれは謀略を練らせるとこれでなかなか知恵がきく方だ。
146以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/05(金) 02:07:55.98 ID:nOvOiBbI0
支援
147以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/05(金) 02:10:05.92 ID:BXLiD8r90
和風になっとる
148以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/05(金) 02:10:09.98 ID:nOvOiBbI0
支援
149以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/05(金) 02:10:25.15 ID:gqIzaj3YP
首巻に火をつけて注意を逸らせておいて、縄を頬かむりの足に巻きつけた。
今度はやつの身動きが取れなくなる番だ。
力を振り絞って波紋を食らわせて地面に落としてやると、
手廻しよく機械軍人一味が一斉に紫外線を頬かむりに照射する。
いよいよこいつも終いかと思っていると、なんと頬かむりは石仮面を隠し持っていた。
まずいことに赤石が嵌っている。
こいつはいけないと泡を食って機械軍人が照射を止めたが、遅かった。
頬かむりはふらりと立ち上がって、手をリスやら花やらにして戯れたかと思うと、
朝日を全身に浴びてにやにやと笑った。

じいさんと機械軍人は、ああなると駄目だ、もう手が付けられぬと大いに嘆いている。
頬かむりはいよいよ己に怖いものは無いとばかりに大威張りだ。
それでもおれだけは殺さねばけじめがつかぬと追い回す心積もりのようなので、
こちらもやられてなるものかと逃げ回ることにした。
撤退してるうちに何か腹案を考え出さねばなるまい。
ついでに頬かむりが落とした赤石も拾っておいた。何かの役に立つやも知れない。
150以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/05(金) 02:13:27.21 ID:nOvOiBbI0
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151以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/05(金) 02:14:57.98 ID:gqIzaj3YP
頬かむりは鳥に変化して追って来るので、
機械軍人の飛行機を拝借して逃げることにした。
逃げている間も一々攻撃してくるので、一向気が休まらない。
最早波紋も太陽も効かないようなので、ひとつ火山の溶岩に突っ込ませてみることにした。
如何に究極生命体といえども、マグマにはひとたまりもあるまい。
じいさんが無線で何やらぶつぶつ云っているが、おれはこいつを倒すのは今しかないと思っている。
引き込むつもりは全くない。

そうしているうちにも頬かむりは執拗に飛行機を攻撃してくる。
鬱陶しいやつだ。この飛行機も大抵駄目だろう。
頬かむりにぶつけて諸共火山に突っ込む心積もりでいると、
飛行機の浮きに機械軍人が引っ付いていて、突っ込む前に飛び降りろと云ってきた。
半信半疑で飛び降りると、機械軍人が飛び出して空中で受け止めてくれた。
着地の際に機械軍人の足が粉々になってしまったが、
どうやら命拾いしたようである。
152転載禁止:2013/04/05(金) 02:16:38.43 ID:iVsuJ8+N0
アニメの奴ネタバレ注意
153以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/05(金) 02:17:39.95 ID:gqIzaj3YP
はて頬かむりはどうなったろうと火口を覗いてみると、
マグマの中でのつそつしていたが、やがてのまれていった。
やれやれだ、ようやく成敗してやった。
これ以上ここにいると危険なので、早々に避難するのがよかろうと
機械軍人と話していると、おれの左腕が吹き飛んだ。
見ると防御層を全身に纏った頬かむりが地面を割って出てきている。

火山に落ちても無事とは全く嫌になる。
しかもやっこさん、おれの何倍もの威力の波紋を練る事が出来るようだ。
機械軍人は神だの何だの云っている。
おれは、もうこうなったら大抵駄目だろう、ここまでだなと思った。
実際静かな心持ちであった。やれることはやったのだ。
154以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/05(金) 02:20:00.57 ID:gqIzaj3YP
頬かむりは波紋でおれにとどめをさす気構えである。
それを聞いてなんとなしに赤石を差し出してみた。
すると赤石を通した波紋は威力が増幅され、おれの手を突き抜けて火山に直撃した。
たちまち噴火が始まり、おれと頬かむりは岩盤に押し上げられてしまった。
頬かむりはまた鳥に変化して逃れようとしたが、一所に押し上げられたおれの左腕に気を取られ、
一気に大気圏外へ吹き飛ばされていった。
155以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/05(金) 02:20:03.59 ID:nOvOiBbI0
支援
156以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/05(金) 02:22:15.39 ID:nOvOiBbI0
支援
157以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/05(金) 02:22:56.90 ID:gqIzaj3YP
このほか語ることは残り少ない。
吹き飛ばされて海に落ち、漁船に拾われたあと、おきゃん娘に介抱してもらった。
ついでにその後結婚もした。

紐育へ戻ってすぐに、おばあちゃん帰ったよと飛び込んだら、
みんな何やら妙な顔をしている。
そもそもみんな雁首揃えて何をしているのかと思えば、なんとおれの葬式であった。
どうやら火山でそのまま死んだものとされていたらしい。

不審に思い、
「おい、云ったとおりに電報を打っておいたのだろうね」と細君に云うと
しばらく思案したのち、
「失念していましたわ」
とばつが悪そうな顔で答えた。
どうりで話が噛み合わぬわけである。
158以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/05(金) 02:23:41.73 ID:jNQ0ZuQ00
なにこれどういうスレなの
159転載禁止:2013/04/05(金) 02:24:14.01 ID:iVsuJ8+N0
>>158
夏目漱石風でジョジョ二部
160以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/05(金) 02:25:44.01 ID:gqIzaj3YP
その後の事を少し話しておく。
戦いで左腕を無くしたものの、それ以外は極めて丈夫に年をとり、
どうやら一族は代々短命であるというジンクスを打ち破る程には長生きをした。
事業もそこそこに成功を収め、孫の成長も見守ることが出来た。
途中あやまちもあったものの、そのとき出来た息子も結構な男に育っている。
あやまちに関しては先に往生した祖母やじいさん、ついでに伊達男に
大きに説教をくらいそうだが、年をとった今となっては
それすらどこか心待ちにしている次第である。

――戦闘潮流・完――
161以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/05(金) 02:27:17.46 ID:wY0Drzzz0
162以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/05(金) 02:27:25.05 ID:z7r6LcXfO
面白い
163以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/05(金) 02:27:38.63 ID:QPSf6krM0
164以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/05(金) 02:27:50.91 ID:gqIzaj3YP
以上です。
あまり漱石ぽくなくてすまない。

スレ立て代行してくれた人、読んでくれた人、支援してくれた人
ありがとう

3部アニメ化祈願しながら寝ます。
おやすみ。
165以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/05(金) 02:27:59.34 ID:BXLiD8r90
面白かった乙
166ぺろぺろ紳士 ◆p51RVEp752 :2013/04/05(金) 02:28:08.87 ID:7NOctUlx0
乙。
面白かったぜ。
167以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/05(金) 02:29:06.34 ID:Bv64V7nH0
168転載禁止:2013/04/05(金) 02:30:04.21 ID:iVsuJ8+N0
乙!


楽しかったわ
169以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/05(金) 02:36:30.63 ID:EuR9A0J40
楽しかった
170以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/05(金) 02:37:44.61 ID:XoKHFbmb0
面白いというか凄かった
171以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/05(金) 02:45:48.99 ID:d5ZDvRgX0
こんなんVIPにサラッと置いといていいの?
凄いな
172以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/05(金) 02:46:43.97 ID:M74oS6QA0
おつ
すげーな
173以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/05(金) 02:47:54.02 ID:uOrihPiz0
ディモールトベネ
174以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/05(金) 02:49:03.98 ID:t/XI646KO
175以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/05(金) 02:49:26.64 ID:OWx2dEIR0
面白かったわ、素直に凄い
176以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/05(金) 02:52:18.30 ID:dvfxHqOA0
おっつおつ
177以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/05(金) 03:00:09.62 ID:TFk6SdUd0
思いのほか漱石だった
すげえなこれ
178以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/05(金) 03:01:49.62 ID:VURYqskR0
よく考えつくわ
感心したぜ乙
179以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/05(金) 03:16:12.82 ID:EuR9A0J40
今度一部もやってほしいな
180以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
これは凄い
思いの他ジョセフが坊っちゃんだった
乙!