さやかちゃんのソウルジェムを雪平鍋でグツグツ煮込んでダシを取った後、
火傷を癒すように表面をやさしくペロペロペロペロしてあげて、
ぬめぬめになったそれを杏子ちゃんのお尻にぐいっと突っ込んであげたい
2 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/15(日) 18:18:48.39 ID:YvbzUG2p0
さやかちゃんごめん!
さやか「うひゃー、寒いっ!」ブルルッ
2月上旬の、日の暮れかけた夕方。マンションのドアの前で、
愛用のコートを抱きしめてさやかが大きく身震いをした。
さやか「まーったく何が寒波よっ、温暖化ならもうちょっと人に優しい天気にしなさいよね……」ブツブツ
先日見たテレビの天気予報を思い出し、主に気象庁に向けて文句を呟く。
ここ数日は特に冷え込むらしい。『寒くなるぞ、寒くなるぞ』と、脅しをかけるかのような口ぶりだった。
さやか「えっと、鍵はと……」ゴソッ…
鞄を探る。と、
さやか (………)
さやか「あれ? おかしーな……」ゴソゴソ
鍵が見あたらないらしく、独り言を続けながら奥を漁る。
さやか「落としたりは……」クルッ
後ろを振り向いて、歩いてきた廊下を見回す。
さやか「………してない、よねぇ?」キョロキョロ
慎重に目を走らせ、周囲を確かめる。鍵はない。
大通りからも離れたこのマンションは静かなもので、人っ子一人の気配すらも感じない。
さやか (うーん……?)
さやか「……あっ、そっか、ポケットに入れてた」ゴソッ
ようやく思い出したという感じでコートのポケットに手を突っ込み、鍵を取り出す。
ガチャガチャッ… ガリッ…
さやか (んぬー、入りづらい……。管理人さんに言った方がいいのかな……)
カタンッ!
さやか「っと、開いたっ」
キィー… パタン!
寒さから逃れるように、ようやく開いたドアの中に滑り込む。
さやか「ふぅ! ただいまー!」
薄暗い部屋の奥に向けて告げるが、返事はない。
さやか (……ま、誰も居ないか)
さやか「んしょっと……」ゴソ…
狭い玄関に屈んで、履いていたロングブーツを脱ぎ、ブーツハンガーにぶら下げる。
そのために設置されているらしい突っ張り棒には、もう一足分だけ空きのハンガーが下がっている。
さやか「うう、暖房入れようっと……」ペタペタ…
さやか (リモコン、リモコン……) ノソノソ…
エアコンのリモコンを探し、明かりも付けずに部屋を歩く。
特別、汚屋敷という訳ではないが、綺麗に片付いているとも言えない。
服やら講義資料やらが乱雑に積まれている。と、
グニッ
さやか「いでっ!?」ズザッ
不意に服の下、何か硬いモノを踏んづけて後ずさる。
さやか「何よ……」ペラッ
めくってみると、プラグ部分が飛び出したままの、携帯の充電器が顔を出した。
さやか (うわぁ、見ると余計に痛くなってきた……) サスサス
足の裏を慰めながら顔を背ける。
さやか「って、あら?」
ふとよく見れば、奥の部屋にあるこたつの上に目的のリモコンは鎮座していた。
さやか「なんだ。あんな目立つところに……」
6 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/15(日) 18:33:02.18 ID:2raXjepW0
IDがソウルジェム
7 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/15(日) 18:33:09.20 ID:Jef05bBr0
凄まじい生活臭だなww支援
8 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/15(日) 18:34:09.84 ID:Odi8AOC/0
支援
東京の大学に進学し、親元を離れて暮らし始めてからは、身の回りのものはみんな小さくなった。
キッチンは狭い。お風呂も狭い。ベランダも狭い。
テレビも小さいし、電気ポットも小さいし。…良く言えば可愛らしい。
ただそんな中で、こたつだけは平均よりも結構大きめだ。
いわゆる一人暮らしサイズの小さなこたつでは、人が来たときに諍いの種になる。
それはもう、ほむらの家で嫌というほど経験済みであった。
さやか (まぁ、足が触れ合う事自体は、そんなに悪いことでもないんだけど……)
毎度ヒートアップしては足同士の戦争になり、ほむらが所有者としての権限を主張する。
それを繰り返した結果、高校1年の冬にはほむホームにこたつが二つも並ぶ事態になってしまった。
さやか (なっつかしいなぁ……)
そんなことを思い出しながら、部屋に似合わないサイズのこたつに近寄り手を伸ばす。
とその時、
「………」モゾモゾッ ガシッ!
さやか「!?」
突然、こたつの中から生暖かい手が飛び出し、さやかの左足をぐいっとつかんだ。
さやか「ひいぃぃッ!?」ズテンッ!
あまりの事に、びっくりして尻餅をつく。
10 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/15(日) 18:40:28.44 ID:Jef05bBr0
ほむほむなにしてんだwww
が、ただやられっぱなしのさやかちゃんではない。
さやか「何!? 痴漢! 強盗! 空き巣! 間男!」ゲシッ ゲシッ
この状況では多分空き巣ぐらいしか正解になりそうではないが、
座ったまま、ともかくまくしたててこたつの中に蹴りを入れまくる。
さやか「死ね!! 死んで詫びろ!!」ドカッ! バキッ!
足に感じる確かな何者かの存在に、より力を込めて攻撃を続けていると、
「痛っ! ぐっ、おい、さや……ぐふっ、まっ、待って……助けっ!」
さやか「………あれ?」
どうも聞き覚えのある声が聞こえて足を止める。
さやか「まさか……」
「ふはっ、ま、マジで死ぬかと思ったぞ……」モゾモゾ…
そう涙目で訴えながらこたつから出てきたのは、
綺麗な赤い長髪をぼさぼさと振り乱した同居人だった。
さやか「きょ、杏子……! 何してんのよあんた!?」
杏子「うへぇ、口の中切ったっぽい……」サスサス
自分の頬をさする。切ったとはいえ、魔法少女の本気蹴りを食らったわりには軽傷かも知れない。
12 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/15(日) 18:45:24.11 ID:Jef05bBr0
ほむほむの名前でてからほむかと思ったわ
13 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/15(日) 18:46:29.70 ID:/taf35iJ0
あんこちゃん
14 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/15(日) 18:49:55.48 ID:FHO8kbLDi
>>1 まさかこのレスからまともなSSが始まってるとは予想してなかった
さやか「……んで? 弁解は?」
杏子「え?」
お互い疲れた顔で、こたつむりの杏子と向かい合うさやか。
さやか「何してたのって聞いてるの。心臓止まるかと思ったわよ……」
杏子「魔法使えばまた動くだろ?」
さやか「そーいう話じゃなくって!」
噛み合わない。
杏子「分かってるよ。単にちょっと、早く帰れたからビックリさせてみたかっただけだよ」
さやか「……靴は?」
杏子「ベランダにあるぞ。さすがに玄関にあったらバレバレだろ」
さやか「いや、そりゃそうだけど。そこまでやるかい……」
杏子「下らないイタズラも、本気でやるからこそ面白いんだよ」
さやか「あらそーですか。……ったくもー、相変わらず時折子供っぽいよね、あんた……」
杏子「子供の心を忘れないと言って欲しいね」
さやか「……まぁ、教育学部だもんね」
16 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/15(日) 18:50:33.53 ID:ROUNnac70
群馬から都内の大学って通学可能圏内で無いの?関西だと滋賀から大阪の大学通うの普通だが。
17 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/15(日) 18:51:41.88 ID:ePVq/JnX0
ほむらじゃないのか
まぁ
>>1で杏子って言ってるけどさ
杏子「それにしたって、あんなに本気で怯えるとは思わなかったよ、悪い」
さやか「え? いや、うん……」
さやか (………)
先ほどの帰り道、何だか見張られてるような、妙な気配を感じたことを思い出す。
あれ無しにいつものさやかなら、確かにここまで怯えはしなかったろう。
さやか (ま、気のせいだったみたいだけど……)
さやか「………よしっ、この私を怯えさせた杏子にはお仕置きだ!」ガバッ
杏子「うぁっ?」
そう言って、だらしなくこたつから這い出る杏子に上から抱きつく。
杏子「冷たっ……」
さやか (暖かーい……)
外気でよく冷えたさやかと、こたつでよく暖まった杏子の体温が溶け合う。
さやか (ふふ。杏子の匂い……) スン…
こたつで蒸されて汗ばんでいるせいか、慣れ親しんだ匂いが少し強く感じられる。
杏子「重いー……」
さやか「し、失礼な! そんなに体重かけてないわよ……」
ピッ ピピッ!
とりあえず当初の目的であったエアコンの電源を入れ、
二人、対面同士で仲良くこたつに座る。
杏子「ふぁふふ……。眠ぃ……」
さやか「中で寝てたの?」
杏子「いんや? 寝てたら脅かせないじゃん。んっ……」
両腕を広げ、丸まっていた身体を伸す。
さやか「え。それじゃまさか、脅かすためだけにずーっと隠れてたってわけ?」
杏子「違う違う。ほら、これ」ヒョイ
ポケットに手を突っ込み、最近買ってから随分と使い込んでいるスマートフォンを取り出して見せる。
杏子「これでちょっと、レポートの下書きみたいのやってた。
今日やけに寒いからさー、こたつに潜ってて、そのついでだよ。脅かしたのは」
さやか「ああ、成る程……。よくやるわよねー、あたしそのタッチパネルで文字入力するの、
ボタン押した感じが無いから無理だわ……」
杏子「慣れるとけっこう速くて便利なんだけどなぁ。フリック入力」
さやか「いつまでたっても慣れないのよ」
杏子「……ん。もうこんな時間か」
壁かけ時計を見て呟く。
針は5時半を指しており、いい加減に明かりなしでは暗くて仕方がない。
杏子「今日はあたしの当番だったな」
さやか「うん。メニューは?」
杏子「鯖と、茄子と……。まあ、何か適当に」ノソッ
さやか「ふむ、洗濯物は……」
杏子「もう入れてあるぞ?」パチッ
こたつから立ち上がり、部屋の明かりをつける。
さやか「そっか。じゃ、出来たら声をかけておくれい!」
杏子「おう」
さやか「んと……」ゴソゴソ
さやかはこたつに入ったまま、鞄を漁って筆記具やノートを取り出す。
さやか「よしっ」スポッ
そして最後に、愛用のシリコンオーディオから伸びるカナル型イヤホンを耳に入れ、書き物に集中し始めた。
――半時間後――
さやか「んうー……」カツッ カツッ
どうもうまく行かないらしく、苦い顔で額に手を当て、こたつをシャーペンで叩いている。
杏子「……さやかー?」
さやか「むむむ……」
台ふきんを握って、黒いエプロン姿の杏子が声をかけるが、まるで聞こえていない。
杏子「………ったく」ヒタ… ヒタ…
仕方ない、と、何故か足音を忍ばせて背後に忍び寄ると、
杏子「そらっ」ススーッ
冷たい指で、さやかの背中をすーっとなぞった。
さやか「ひぅあっ!?」ビクッ!
大げさに身体をこわばらせて反応する。
さやか「ちょ、何すんのよ! 背中弱いんだからやめてってば!」ズポッ
イヤホンを外し、声を荒げて猛抗議。
杏子「集中しすぎなんだよ。ほらほら、夕飯出来たから片付けろって」
さやか「あー、了解……。くっそー、数学は嫌いだー!」ガサゴソ…
こたつに広げていた文具類を、とりあえず山積みにして部屋の隅っこに押しやる。
杏子「ん? あー、統計学? 前も吠えてたな」
さやか「そーよ、明後日試験。正直自信無いわぁ……」
杏子「試験の終わってない学生は大変だねぇー」ニヤニヤ
さやか「あんたはもう終わったんだっけ?」
杏子「ああ、今日ので終わり。さやかんとこ、随分遅いよな」
さやか「羨ましいやつめ。あーあ、入学したら、数学なんてオサラバできると思ってたのになぁー……」
杏子「まぁ、あらゆる分野で道具として使われるからなあ、数学は……」ゴシゴシ
布巾で丁寧にこたつの天板を磨き上げながら。
杏子「看護学科と言えど、その呪縛からは逃れられなかったわけだ。
実際、疫学的な事やるなら統計なきゃ無理だろうし……」
さやか「とほほ。ナイチンゲールが統計学のプロだったなんて。知ったこっちゃ無いわよ」
杏子「それに、あえて学ぶ内容の多い四年制大学選んだのはさやか自身だろ? 腐るなって」
さやか「そ、それは……。そうだけど………」
さやか (……あんたが四年制に行くからそうした、なーんて言ったら……。怒られるんだろうなぁ………)
23 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/15(日) 19:26:45.89 ID:hX5vmb750
さやさや
た た き わ る
カタン… カタッ…
箸を並べ、皿を並べ、着々と食卓の準備が進んでいく。
杏子「ま、気合いで頑張んなよ。それがさやかの持ち味だろ」
さやか「気合いでどーにかなるならしてるわよ……。苦手なモノは、どう頑張っても苦手なの」
杏子「ははは、そーかもな。……でも、あれ貰って帰ってきたとき、気合いで何でも出来そうなぐらい燃えてたじゃん」
壁の、ハンガーをかけるフックが並んだ一カ所を指す。
そこには真っ白なナースキャップが留められていた。
さやか「あー、戴帽式? そりゃねぇ。今時ナース帽も無いけど、シンボルだし、やっぱ嬉しかったからね。
どこも廃止したり別のイベントにしてる中、うちの大学が未だにやってる気持ちも分かる」
杏子「たしか、不衛生だから、もう使われてない……だったか?」
さやか「うん。それもあるけど、高さがあるから。何かモノにぶつけやすくて危ないらしいよ?」
杏子「ふーん……。残念だよな、さやか良く似合うのに……」
さやか「……そ、そう?」
杏子「白衣の天使とはまさにさやかのために生まれた言葉であったと、その時私はようやく気づいたのである……。
佐倉杏子自伝、第三章 第二十八節より」
さやか「何よ、ちょっと嬉しかったのに……」ハァ…
杏子「いや似合うのはホントだって!」
杏子「よし、それじゃ」カタン
「「いただきまーす!」」
二人のマグカップに緑茶を注ぎ、感謝の挨拶を捧げ、本日の夕飯の時間が始まった。
さやか「んぐっ……」モグモグ
杏子「………あちっ」ズズ…
ご飯に、味噌汁に、大根おろしを添えた鯖フィレ、ほうれん草のおひたし。
あとは作り置きしてあった小芋と人参の煮物に、冷や奴なんかが並んでいる。
さやか「はぁー、美味いわー……。相変わらず、あんたの作る料理はすごい家庭的よね」
杏子「え? そうかな?」モグモグ
さやか「うんうん。昔はジャンクフードばっか食べてたじゃん、それ考えると余計に。
嗚呼、煮物の甘っ辛さも最高……」モグモグ
杏子「教わった相手が知久さんだったからかなぁ。
あの頃のあたしの生活、まどかから聞いてたみたいで、気遣ってくれたのかも……」
人の良い、メガネの奥の笑顔を思い出す。
杏子がまどかと仲良くなってからは、昼間に時間のある者同士、よく話をしていたものだった。
さやか「なるほど。元気してるかねぇ?」
杏子「まだ……そんな、心配するような歳でも無いだろ?」モグモグ
杏子「……ああ、そういえば。『お茶会』って……今週末だっけ?」
記憶を確かめるように尋ねる。
さやか「んー? えっと……そだね、たしか。試験でしばらくなかったから久々だな……」モグモグ
杏子「部屋、ちったぁ片付けないとなぁ……」
さやか「だよねー……。試験期間だからって、ちょっと荒れ過ぎたかも……」
こたつの周りに散らばったあれこれを眺める。
また変な物を踏んで痛い思いをしないためにも、確かにお片付けが必要だ。
杏子「あれ、でも。あいつらも期末試験って、ある……んだよな?」
さやか「あるはずだけど、高校も中学ももちょっと先じゃない? 大丈夫でしょ」
杏子「そっか」ズズッ…
多少は先輩らしく、二人の後輩の心配もしてみせる。
引っ越してくるとき一番問題になったのは、何よりも魔法少女の縄張りだった。
特に、一番近くに住む二人の女の子とは、あらかじめ何らかの話し合いを持つ必要があった。
そこで、『最悪、力でねじ伏せる』という覚悟の元、ほむらとマミも携えて殴り込みをかけたところ、
驚くほどあっさりと打ち解け、今ではたまの週末、『お茶会』に招いて談笑する仲になっている。
曰く、都会は餌になる人間が多すぎ、魔女の方が余る位で、さほど縄張り意識が強くないのだとか…。
それをやむなしと割り切れる程度には、二人ももう大人だった。
さやか (ふむ………)
ふと、箸を持つ手を止め、杏子の方を見つめる。
杏子「ん? どした?」
それに気づいて首をかしげる杏子に、
さやか「はい、あーん♪」ヒョイ
箸でつまんだ人参を差し向ける。
杏子「きゅ、急にどうしたんだ……? はぐっ」モグモグ
不思議に思いながらも、特に躊躇無くそれを食べる杏子。
さやか「どう、美味しい?」ニコッ
満面の笑みでそう尋ねるが、
杏子「そりゃまぁ……。作ったときに味見してるから、不味くはないつもりだけど……」モグモグ
求めた答えとは何だかズレていて、顔色を暗くする。
さやか「そ、そーいうことじゃないんだけど……」
杏子「どーいうことだ?」
さやか「いや、何でもないわ……。うん」ハァ…
29 :
忍法帖【Lv=12,xxxPT】 :2012/04/15(日) 19:52:43.34 ID:ceZjY+OU0
1. 初恋ばれんたいん スペシャル
2. エーベルージュ
3. センチメンタルグラフティ2
4. Canvas 百合奈・瑠璃子先輩のSS
5. ファーランド サーガ1、2
6. MinDeaD BlooD
7. WAR OF GENESIS シヴァンシミター、クリムゾンクルセイド
8. アイドルマスターブレイク高木裕太郎
SS誰か書いてくれたらそれはとってもうれしいなって
30 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/15(日) 19:53:01.02 ID:KynjmUF10
C
そんなじゃれ合いも混じえながら、
さやか「ふぅ、ごちそーさま!」カタン
すぐにぺろりと食べ終えてしまう。
杏子「お粗末様ー」モグモグ
さやか「……最近杏子、食べるの遅くなったよね。何か悩み事?」
杏子「へ? い、いや。そのほうが健康に良いって聞いたからさ。何となく……」
さやか「ふーん? ならいいんだけど……」カチャ… カタ…
食べ終えた食器を自分で流しに運ぶ。
当初は違和感のあったこの動作も、もう身体が習慣として覚えてしまった。
ほむらに言わせれば『実家だろうと食器ぐらい自分で片付けるのが普通』らしいのだが、
美樹家には美樹家の伝統があるので致し方ない。
さやか「お茶、まだ飲むー? お湯入れてこよっか?」
杏子「ああ、頼む」
さやか「了解ー」カタン
トポポポ…
さやか「さて、お風呂入ろっかな。沸かして、先入っちゃうね?」
杏子「了解だ。寒いし熱めで頼むよ」
さやか「合点だ! ……えっと、寒いなら………」
杏子「ん?」
さやか「い、一緒に入って暖め合う……?」
杏子「……へ。な、何言ってんだ……?」
見るからに、『大丈夫かコイツ』という困惑の顔。
さやか「あゴメン何でもない忘れて!」
慌てて無かったことにしようとするが、
杏子「何とか風呂トイレは別だけどってラインで、一人でも狭いってのに。二人は無理だろ……」
さやか「………ああ。……うん。そうですね……」
やっぱり何だかズレていて、ほっとするやら哀しいやら。
さやか (お風呂は一人で入っても暖かいじゃん、とか言われないだけマシかな……)
33 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/15(日) 20:02:39.33 ID:hX5vmb750
さやさや
杏子「そうだなぁ。あたしがちゃんと稼ぎ始めて……。二人でも三人でも入れるような、
そんなデカい風呂のある家を買って、まずはそれからかなぁ………」
ぼんやりと、独り言のように呟く。
さやか (はい!?)
さやか「そ、それって……?」
杏子「ん? ……ああ、そうだったらいいなーって話だよ。
今のご時世、そう簡単に家なんて買えないもんな……」
さやか (え? あれ、そういう話……?)
杏子「……それにまぁ。働き始めて稼げるようになったとしたら、お互い結婚して家庭持ってそうだしな。
さやかもいい人見つけなよ? あんまり出逢いも無いかもしんないけど」
さやか「あ………うん。それは……そうだね。お互いに……」
明らかにトーンが下がる。
杏子「うちの連中でよければ、また合コンでもセッティングするしさ。
そっち学科、ホントに男居ないみたいだし……」
さやか「あー。たしかに女ばっかだけど、しばらく合コンはいいかな……」
杏子「………この前の?」
さやか「うん……。あれは酷かった……」
それは去年の、もう暮れに近い頃。
いつも通り、杏子経由で教育学部の男3人と落ち合う約束。
そのうち1人は以前にも会ったことがある相手で、平和に進むはずだった会が、
ドタキャンの穴埋めに連れてこられた一人の男によって悲惨な物になってしまった。
さやか (まぁ、お酒ぐらいは勝手に飲んでくれりゃ何も言わないけどさー……)
何経由で知り合ったのか、他の男2人ともそこまで面識のないその男に、
さやかは不幸にも気に入られてしまった。
しらふの状態でもやけにしつこくてうんざりだったのが、
さらに酔っぱらってセクハラまがいの行為を始め、手が付けられなくなり……。
最終的に『どうせヤる相手探してるだけなんだろ? いいから来いって!』等と言って手を引っ張り出した相手に対し、
さやかが自前の剣で斬りつけるより速く別の男が殴りつけ、事態は収束した。
さやか (男って……ほんとバカ………)
杏子「改めて悪かったよ、ゴメンな……」
さやか「いや、杏子が悪い訳じゃないから……。大学すら違ったっぽいし」
杏子「……まぁ、また気が向いたら、いつでも言ってくれ」
さやか「………うん……」
――夜も更けて――
さやか「………」カリカリ…
杏子「………」ペラッ…
風呂も上がったラフな恰好で、またこたつに対面する二人。
読書に耽る杏子の向かい、相変わらず数学と格闘するさやかだったが、
さやか「……ふぃ。疲れた」ドテッ
集中力が切れたらしく、そのまま後ろに倒れ込む。
さやか「ん」ガシッ
と、可愛らしいギンガムチェックのポーチが視界に入り、つかみ取る。
いつもお世話になっている、杏子専用のお菓子ポーチだ。
さやか「杏子、お菓子もらっていい?」ノソッ
杏子「いいぞー」ペラッ…
本からは目を離さない。でも、とりあえず許可は貰えたようだ。
勝手に食べると血を見る大喧嘩になりかねないが、ちゃんと頂戴と言えば、
今のところ断られたことは一度もない。
さやか「どれどれ……」ジジ…
37 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/15(日) 20:22:04.04 ID:hX5vmb750
さやさや
ジッパーを開くと、あふれ出しそうなほど大量にお菓子が詰まっている。
さやか (今日は何にしようかなーっと……) ガサガサ…
大学でも『佐倉さん=お菓子』というキャラクターで確立しているらしく、
普段から餌付けされている同回生は多いとか。
それどころか、講義をする教授にも質問ついでに配って仲良くなっているそうで、
みんなを笑顔にするお菓子は実に偉大な存在と言えよう。
さやか (それにしても、いつ見てもこのポーチ、満杯だよなぁ……)
そういえば、お菓子ポーチの中身を補充する姿はほとんど見かけない。
さやか (杏子七不思議の一つだわ……)
さやか (……よし。エンゼルパイにしよう) ゴソッ…
何となく、大振りなそれを取り出して膝に置く。
さやか「杏子も食べる?」
杏子「……あー、うん。何か適当に出して貰える?」
さやか「はいよー」ゴソゴソ…
同じエンゼルパイをもう一つ取り出し、溶けないよう、出来るだけこたつの端の方に置いた。
杏子「お、せんきゅー」
さやか「うん」コトッ…
急須にお茶を入れて戻ると、丁度杏子が本を閉じて床に置いていた。
さやか「何読んでたの?」トポポ…
杏子「ん? リンドグレーンの『ピッピ』」ピリリ…
さやか「………? ポケモン?」
杏子「……はぁ、そう言いそうな気はしたけどな。違うよ、ピッピって名前の女の子のお話だよ」
さやか「ふぅん……。好きだねぇ、児童文学」
杏子「まーな。講座の先生に借りてから、なんか結構ハマったなぁ……」モグモグ
さやか「……どのへんが気に入ってるの?」カサッ…
杏子「うーん……。何だろ、大人向けでは合わないけど、子供向けだとぴったりくる書き方みたいなのが、
意外な感じがあって面白いとか……。伝えたいメッセージのある話だと、それがすげーシンプルで、
分かりやすくまとまってたりだとか……」
さやか「ふむふむ」
杏子「……あとはま、昔、妹に読み聞かせてたりしたのを思い出す、ってのもあるかなぁ……?」ズズッ
さやか「………そっか。なるほどね……」モグモグ
さやか「んふー。んまいよねー、エンゼルパイ。このマシュマロを挟む発想は天才的……」モグモグ
杏子「こういうの、北朝鮮じゃ貨幣代わりになるらしいもんな」モグモグ
さやか「あー、そんな話もあったわね……。あれはたしか、チョコパイが労働者のおやつ、だっけ?」
杏子「そうそう」
さやか「……何でチョコパイなんだろ?」
杏子「さぁ……? 韓国側が配ってるとかじゃなかったっけ。美味いし、チョコレートは栄養価高そうだし……」
さやか「ふぅん……」ゴクッ…
食べ終わり、お茶を口の中に流し込む。
杏子「………そいや、もうちょっとでバレンタインか」
さやか「あぁ、そうだね。もうそんな時期だ」
杏子「今年は何か、希望あるかい?」
さやか「んー……。いつも通り、お任せでいいよ」
杏子「……そっか。ふーん、やっぱ悩むなぁ……。何にしよう」
さやか「そんな気負わなくていいって。杏子の作るの、何でも美味しいから」
杏子「そう言って貰えんのは嬉しいけどな……。ま、考えておこう」
41 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/15(日) 20:42:42.32 ID:vSRXJzDv0
あんあん
さやか「はぁ、杏子ホントなんでも作れるからなぁ……」
杏子「ま、まぁ……マミ直伝だし。それなりに自信はある、かな?」ポリポリ
繰り返される褒め言葉に、ちょっと恥ずかしそうに頬を掻く。
さやか「あれ? お菓子も知久さんじゃなかったっけ?」
杏子「いや、元々は、さやかと会うより前のむかーしむかし、マミに教わってたりしたから。
マミベース、知久カスタム……って感じかな?」
さやか「ああ、そういうことか……」
確かに二人の付き合いは、さやかとのそれより長いのだと聞いた覚えがある。
さやか (そこに嫉妬しても……しょうがないよねぇ………)
さやか「……あたしも高校の頃とかに、本命チョコとやらを作ってれば良かったのかなぁ」
杏子「え、何で?」
さやか「いや、そしたら今頃あたしも、お菓子の作れるパティシエさやか様になってたかもしんないじゃん?」
杏子「それは知らねーけど……。お菓子なら、別に本命チョコじゃなくても作ればいいじゃん」
さやか「だってそういうイベントの時とかじゃないとさー、何か気合い入らないっていうか……」
杏子「そんなもんかなぁ……」
さやか「あんまりいいイメージも無いんだけどね、本命チョコ」
杏子「何でだ?」
さやか「いやほら、噂とかで良く聞かない? 愛が重い故に、変な物を入れて作られるって……」
杏子「変な物……?」
さやか「たとえば、毛とか」
杏子「……け?」
さやか「ほかには、爪とか」
杏子「………爪ぇ!? え、さやか何言ってんだ!?」
さやか「いや、なんか身体の一部を入れて食べて貰うと、恋が実るみたいに思うらしいですよ?」
杏子「嘘だろ!? 人に食べさせる物に何て物混ぜ込んでやがるんだ!」
さやか「……あとは………おしっこボンボンとか」
杏子「………やめろやめろやめろ! マジで気味が悪ぃ、どんだけ頭ブッ壊れたら食いモンでそんなこと出来んだよ」ゾゾッ
さやか「あはは、ごめんごめん。ま、さすがに最後のは都市伝説だろーけどね」
杏子「………じゃあ、毛や爪はマジで?」
さやか「えっと……。ノーコメントで………」
44 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/15(日) 20:55:42.51 ID:dCJrHfKIP BE:3433229677-2BP(0)
あんこおしっこ(^ω^)ペロペロ
さやか「ま、それは冗談にしても……。
どっちにしろ、本命チョコ作ろうにも、相手が居なかったしねー………」
頭を頬杖に預け、暗い窓の外を見ながら遠い目。
脳裏には、今じゃ随分と名も知れてきているらしいバイオリニストの姿が浮かぶ。
さやか (はは。もう6年ぐらい経つって言うのに、何で吹っ切れないかなぁ………)
杏子「………やっぱまだ、忘れらんない?」
さやか「……今んとこね」
杏子「………」
二人で、何度も交わした対話。
杏子がしきりに『男を作れ』と勧めるのも、
理由の多くは多分ここにあるのだろうと、さやかもよく分かっている。
杏子「その……さ」
さやか「………分かってる」
杏子「ああ……。さやかのため、っつーか………」
さやか「……大丈夫、別に辛いわけでもないし、そのうち何とかなるよ」
杏子「……うん………」
46 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/15(日) 21:00:50.18 ID:vSRXJzDv0
あんあん
さやか「さて!」スクッ
この話はここでおしまい、とでも言うように、空元気な声を出して立ち上がる。
さやか「そんじゃあたしはそろそろ寝るよ。杏子は?」
杏子「あーっと……。もう少しで読み終わるから、それから寝る」
さやか「そっか」
杏子「明日は?」
さやか「いつも通り、二限から」
杏子「了解。ならあたしもそんな夜更かしは出来ないな」
さやか「寝坊したらどうしよっかなー、いい加減にもう『起こし方』は一通りやっちゃったしなぁ……」
杏子「………やめてくれ、ちゃんと起きるから」
さやか「ふふ。じゃ……」
立ち止まり、杏子の方に手を振りながら。
さやか「……おやすみ」
杏子「……おやすみなさい」
ちょっと早めの挨拶を交わし、さやかは歯を磨きに洗面所へと消えていった。
48 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/15(日) 21:09:35.13 ID:l1hesHKu0
展開なさすぎ
場面転換入れてもっと動きがほしい
悪くはないけど読むのきついわ
――数日後――
さやか (うあー……) トボトボ
賑わうにはまだ早い午後の繁華街を、重たい足取りでさやかが歩いていく。
さやか (落としたかなぁ……。マズいよなぁ………) トボトボ
本日最後の試験、あまりの手応えの無さに心がズンと重たい。
さやか (今更うじうじしても、どーしよーもないけどさ……)
さやか「……っくし!」ズズッ
相変わらず寒い日々が続いている。今日はこの後、雪が降るとか降らないとか。
さやか (うう……。心も体も凍えまくっちゃってますねぇ、わたし……)
眠たげな眼でぼうっと辺りを見回し、ショーウィンドウにでかでかと貼られたチョコレートのポスターに目を留める。
さやか「……ああ。そーだ、今日はバレンタインデーだった」
さやか (大学にもなると、周りがそんなに騒がないから忘れちゃいそうになるのよね……)
まあ、試験直前で『あたしに話しかけるんじゃなぁい!』というオーラを出していたのも原因だろう。
さやか「………よし。凍り付いたハートを杏子に溶かしてもらいに帰りますか……!」トコトコ
くよくよと悔やんでいても仕方ない。
今日この後の楽しみを一つ見つけ、さやかは先ほどよりも力強い足取りで歩み始めた。
50 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/15(日) 21:18:34.93 ID:hX5vmb750
さやさや
しばらく歩くと繁華街も抜け、本格的に人の姿が見えなくなる。
さやか「ぽつり心ころり恋〜抜け殻〜♪」トコトコ
辺りはしんと静まりかえり、ちょっと音程のずれさやかの歌声だけが響く。
さやか「ぽっかり空いた私のから〜だに〜♪」
一応、誰かが聞いていたら恥ずかしいなと、周囲に気を払っていると…
さやか「冷たい雪が……っと……」トコ…
さやか (………誰か……居る?)
また背後に、嫌な気配を感じて声をひそめる。
ザッ… ザッ…
と、やはり、明らかに見知らぬ人間の足音が確認できた。
さやか (変な人……? いや、普通に歩いてるだけかもしれないけど……) チラッ
不気味に感じながらも、そっと後ろを振り向いて眺めるが…
さやか (………)
誰も居ない。聞こえていた足音も聞こえなくなり、それが余計に恐怖を誘う。
さやか (じょ、冗談じゃないわよっ……!?)
52 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/15(日) 21:24:37.00 ID:hX5vmb750
さやさや
53 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/15(日) 21:24:50.02 ID:pjHxu7fV0
さやさや
トコトコトコ…
さっきよりも速度を上げて家へと向かう。
ザザザッ…
それにぴったりと合わせるように、背後の気配も加速する。
さやか (やだ、マジでこれ狙われてる!?) チラッ
早足で逃げながら後ろを振り向くが、やっぱり姿は無い。
さやか (こ、ここしばらく変な気配感じてたの、やっぱりあたしの気のせいじゃなかったんだ) スタスタ…
ザザッ…
さやか (……とか言ってる場合じゃないっ! どうしよう、全く心当たり無いし……!) スタスタスタ…
相手が魔女や使い魔であれば、よほどのことがない限り、最早熟練のさやかの敵ではない。
だがこのあまりに人間的な悪意は今まで出会ったことが無く、急ぐ足を少し震えさせる。
ザッ…
さやか (……明らかに私を知ってて狙ってるよねこれ? あんまり人間離れした逃げ方もダメか……)
さやか (………よし、こっちだ) スタスタ…
逃げ続けてもらちが明かない。
丁度分かりやすい、物陰の少なそうな狭い路地を見つけると、その中へと歩く向きを変えた。
55 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/15(日) 21:32:37.17 ID:hX5vmb750
べてらんさやさや
さやか「はぁっ………。はぁ………」スタスタ…
特に激しく動いているわけではない。ただ、緊張感から息が荒くなる。
さやか (このまま一足飛びに逃げ去ることもできなくはないけど……)
いざとなれば、ビルからビルへ飛び移るくらい造作もない。だが…
さやか (いい加減、毎日毎日、キモチワルイ思いはしたくないし……)
相手の狙いは分からないが、どうせ後日また後を付けられるに決まっている。
さやか (だ、だったら、今ココで決着をつけるしかないっ……!) グッ
ともかく相手の顔ぐらいは知ろう。あわよくば、対話だって可能かも知れない。目的が知りたい。
そう決意した後ろから、
ザザッ…
気配が同じ路地へと入り込んできたのを感じる。
さやか (よし―――)
それを目で確認するため、振り向こうとしたさやかだが、
ブンッ!
同時に。その後頭部めがけて、重たい鈍器が強く振り下ろされた。
――二人の家で――
杏子「んー……。遅い、な」
キッチンの隅っこ、小さな椅子の上であぐらを掻いて呟く。
テーブルの上には、ハート型の大きなザッハトルテが載っていた。
表面の光沢も美しいが、その上に描かれたデコレーションもまた可愛らしい。
杏子 (まーた随分手間の掛かることやったなぁ、あたしも……) ハァ…
自嘲気味にため息が出る。
午後はほとんど時間が空いていたので、材料を買いに行き、ちょっと気合いを入れて作ってみたが、
気づけばもう日が暮れていた。
なのにさやかはまだ帰ってこない。
杏子 (何か……急用? まぁ、作ってる途中に帰って来られるよりは良いか……) ギッ
杏子 (長く掛かるんだったら、連絡ぐらいくれれば……)
そう思って、ケーキの横に置かれたスマートフォンに目を向けると、
ブブブッ ブブブッ
丁度バイブレータが震え始めた。
杏子「っと……。 メール?」ヒョイ
58 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/15(日) 21:40:57.59 ID:hX5vmb750
さやさや?
59 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/15(日) 21:42:04.03 ID:dCJrHfKIP BE:630593633-2BP(0)
なんだお前らか
60 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/15(日) 21:42:59.79 ID:JowCijTy0
なんか危ない展開だな
『やっほー! ハッピーバレンタイン! パパが作ったからお裾分けだよっ!』
杏子「……何だ、まどかか」
ちょっと拍子抜けしながら、添付された画像を開く。
自室でにっこりと微笑むまどか本人の下に、同じ顔をしたチョコレートが並んでいた。
随分と精巧なそっくり具合だ。
杏子「うわぁ、これチョコペン……? やるな知久さん、今年はこの方向か……」
まどかも高校ぐらいから同じポニーテールにしているせいか、色さえ違えば杏子に見えないこともない。
杏子 (詢子さんも書いたんだろうか……。ちょっと気になる)
杏子「んー。あたしもお裾分けするか」ピッ
画面をタッチし、カメラアプリで自分の作品を撮ろうとしたが…
ブーッ ブーッ ブーッ
杏子「あれ? 今度は電話」
画面には、03から始まる見知らぬ相手の電話番号が表示されている。
杏子 (誰だ……?) ピッ
杏子「はい、もしもし……?」
杏子「………は? 警察!?」
62 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/15(日) 21:51:13.23 ID:hX5vmb750
あんあん?
――警察署前――
ぽつぽつと、雨が降り始めている。
杏子「っはぁ、はぁ……」タッタッタッ…
大通りに面した、かなり年季の入った建物。
蛍光灯が古いせいなのか、窓から見える様子はどこか黄ばんでいるようだ。
杏子「あった、ここだ!」タッタッタッタッタッ…
そんな、普段まず近寄ることのないそこに向け、傘も差さずに全速力で走る杏子。
そしてドアにたどり着くと、
杏子「さやかァァァァッ!!!」バタンッ!
と、大きく吠えながら中に飛び込んだ。
「……ん?」 「何だァ?」
警察官らしい幾人かの鋭い目線を集める中、
さやか「ちょ、人の名前を叫ばないでもらえるかな……///」
ソファに座って、意外と元気そうなさやかが出迎えた。
杏子「さ、さやか! 無事か!!」
さやか「やっほー、杏子。悪いね、こんなトコまで来て貰っちゃって……」
杏子「それは……」
さやかの、ぐるぐると包帯を巻かれた左腕を指さす。
さやか「あー、これ? 何かあいつ、バットであたしのこと殴ろうとしてさ。
とっさに頭をかばったら、結構ダメージでかくって……」
杏子「バットで……頭だと……?」ギリッ
歯を強く軋りながら、赤い両眼にかつての獣の色が灯りかける。
杏子「………軽く、ぶっ殺しといた方がいいよな、そいつ」
ぼそりと重たい刑罰を告げるが、
さやか「いやいや、やめたげて、もう相当ボロボロだから」
杏子「……え?」
さやか「そのー、なんというか、手加減を間違えてしまったと言いますか……」
杏子「………まさか」
さやか「うん。夢中で反撃してたら、気づいたときにはもう動いてなかったねー、あれ……」
杏子「うわぁ……」
さやか「おかげで、危うく過剰防衛になって立件されちゃうとこだった……。あはは」
杏子「あははってお前なぁ………」
65 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/15(日) 21:59:26.29 ID:hX5vmb750
さやさや
杏子 (何にせよ、無事でよかったよ……) ハァ…
安堵のため息。
杏子「……それで、ストーカーだったよな」
さやか「うん」
杏子「全く知らない相手か?」
さやか「……ううん。ほら、この前の合コンに来た、キモチワルイ奴」
杏子「……はぁ? え、トラブルの原因になったっつー飛び入りの奴?」
さやか「そう。ボコボコにした後で気づいたんだけどね……」
杏子「でも……。ストーカーになんのはまだ分かるけど、なんで殴る必要があるんだ?」
さやか「うーん、ぎゃーぎゃーわめいてて要領を得なかったけど……。
あの後も、男同士でなんだか揉めてたらしくって、逆恨み? されたらしい」
杏子「逆恨みだぁ? しかもそんな前のこと、まだ根に持ってたってのか……? わけわかんねぇ……」
呆れる、というよりは、さっぱり理解できなくて薄ら寒い。
さやか「それでま……。無理矢理襲って………ね……」
口にする代わりに、そらした目線で語る。
杏子「……腐って、やがんな………」
67 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/15(日) 22:05:45.07 ID:hX5vmb750
さやさや……
さやか「はぁ……。そんじゃ、帰ろっか」
杏子「んと……。もう帰っても良いのか? 迎えに来て下さい、としか言われてないけど……」
さやか「うん。一応、怪我してるから、ってことで呼んで貰っただけだから。
あの男の処理も、もう任せて良いみたいだし……」
杏子「そっか……」
杏子『……腕、魔法で治してあるんだよな? 一応』
こっそりと、テレパシーで確認しておく。
さやか『もちろん。さすがに不気味がられるから、包帯は外せないけどね』
杏子『それは確かに……』
さやか『だからま、ホントはその……。ちょっと、心細くてさ。一緒に居て欲しくて……。ごめんね?』
申し訳ないというよりは、不安げな顔で。
杏子『……はは。そっか、いいよ。一緒に帰ろう』ニッ
それに杏子は、少しむず痒そうな、いい笑みで答えた。
69 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/15(日) 22:12:13.62 ID:VOGj4SOc0
さやかは男運無さそうだしな
さやか「………ねぇ」
杏子「ん?」
さやか「手、繋いでもらっても……いいかな?」サッ
杏子「………もちろんだ」ギュッ
差し出された右手を、強く握り返す。
さやか「……ふふふ。よーし行くぞっ!」グイッ
杏子「あ、おい!」トテテ…
そのまま杏子がエスコートして帰るのかと思えば、さやかに引っ張られてコケそうになる。
さやか「あーあ、今日は試験も酷かったし、変なのには絡まれるし、最悪だ!」トコトコ…
杏子「何だ、落としたのか? 単位」トコトコ…
さやか「うぐ……。ま、まだ分かんないもん! 採点確認でゴネるまでが試験なのさ!」
杏子「ああ、これは落ちたパターン……。まぁいいや、家に帰ったらさ、バレンタインのケーキあるから。
それ食ってもう、今日のことは忘れよーよ。色々と……」
さやか「ああ、そーだそーだ! それを楽しみにしてたのよ、よしもっと急ぐぞっ!」タタタ…
杏子「ちょっ、さやか! 落ち付けってー!!」トタタタ…
こうして騒がしいやりとりをしながら、暖かな家を目指して。みぞれに変わった雨の中、二人は帰り道を駆けていった。
――――――――――
―――――
さやか「―――とまぁ、そんなわけなんですよ」ズズーッ
広々と作られた窓を通し、明るい日差しの注ぐ喫茶店。
ほとんど飲み尽くされた自分のグラスから、溶けた氷で水みたいになったアイスティーを啜る。
ほむら「結構面白いのよ。貴女SFはあまり興味なさそうだけれど、ライトな層にも楽しめてオススメよ」
マミ「へえ、今度行ってみようかしら。駅前のシネプレックスでやってるのよね?」
ほむら「ええ」
さやかの向かい側に並んで座っている二人は、こちらに一瞥もくれずに世間話を続けている。
さやか「うっわぁ、ぜんっぜん聞いてない……」ドテッ
これ見よがしにテーブルへと突っ伏す。
ほむら「……あら? さやか、無駄に長ったらしい惚気話は終わったのかしら?」
さやか「のっ、惚気なんかじゃないやい!」
マミ「え? 無駄に長ったらしい惚気話じゃないなら何なのかしら」
さやか「相談事で御座います……。長かったのは認めますけど……」
72 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/15(日) 22:27:44.91 ID:hX5vmb750
ほむほむ
ほむら「それで? 最近杏子が冷たい、だったかしら?」
さやか「あ、一応ちゃんと聞いててくれたんだ……? 感動で涙が出ちゃいそう……!」
マミ「冷たいって……。どのへんが……?
むしろ、こっちが嫉妬するくらいいに仲良しだって話に聞こえたのだけれど……」
ほむら「そうよね? 新婚でイチャイチャしてるけどこれってイケナイことかしらみたいな感じの……」
さやか「だーかーらー!!」
想定していたとはいえ、二人のいじりの容赦のなさはなかなか辛い物がある。
マミ「でも、仲が悪い訳じゃないんでしょう?」
さやか「ん、それは……。そうなんですけど……」カサ…
うつむき、ストローの空き袋を指で遊ぶ。
さやか「何て言うか、以前に比べて、なんとなーく距離が遠いって言うか……」
ほむら「何cmぐらい?」
さやか「いや、うん、真面目に聞いてくれてると思ってたあたしがバカだったのかな」
マミ「今の話よりも以前は、もっともっと仲が良かったって事よね? い、一体どんな濃密な時間を……」
さやか「マミさんも会う度にノリの良さが増してますけど、そろそろ勘弁して貰えませんかね……」
74 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/15(日) 22:34:11.12 ID:Jef05bBr0
マミほむでてきたか
75 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/15(日) 22:35:55.48 ID:FHO8kbLDi
これは素晴らしいですねぇ…
さやか「例えばさ、ちょっとしたスキンシップをとるとさ。以前はもっとこう、
顔真っ赤にしたりさ、大げさに恥ずかしがったりさ、そういう反応があったんだけど……」
ほむら「それは、貴女が誰にでも見境なくやってるセクハラ行為のことかしら?」
さやか「せ、セクハラ行為じゃないわよ……。その……情愛の表現と言いますか……?」
マミ「情愛ねぇ……。単に、慣れたんじゃない?」
ほむら「そうね……。いつしか私にすらやり始めたものね、貴女。最初はイラッと来たけれど、
そのうちまるで、そこに何もないかのようにスルー出来るようになったわ。それと同じ事でしょう」
さやか「うーん……。そうなのかなぁ……?」
ほむら「第一見境なさ過ぎて、ほとんど悪癖みたいな扱いじゃない……。
『ああ、またさやかが発作起こしてる、でも害は無いからほっとくか』
というような……。情愛の意味なんて、まるで感じられないわよ?」
さやか「うぐぐ……。トゲだらけだけど、正論っぽくて何も言い返せないな……」カラン…
グラスを揺らし、溶けた水すらも無いことを確かめる。
さやか「すいませーん」
「はい?」
さやか「アイスティー貰えますか? レモンで」
ほむら「私も、ホットコーヒーをもう一杯頂けるかしら」
77 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/15(日) 22:39:44.56 ID:JowCijTy0
ほむらちゃんには未だに膨らみがないのかな
78 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/15(日) 22:45:24.44 ID:jPmxDCu30
ふむ
79 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/15(日) 22:45:29.05 ID:hX5vmb750
ほむ
マミ「要するに……倦怠期、ってことでしょう?」コクッ…
あんまり興味も無さそうに紅茶を味わう。
ほむら「もう長いものね、二人とも……。何年になるかしら」
さやか「ホント、そーいうんじゃなくってさ! なんか……ううん。うまいこと表現できないんだけど……」
マミ「新しい刺激に飢えている……」
さやか「違いますっ! そうじゃなくて、何だか違和感があるんですよ。
慣れてるっていうより、こう、わざと避けているっていうか……。はぐらかされてるっていうか……」
マミ「……受け止めて貰えない?」
さやか「あ……そう、まさにそんな感じ! あしらわれるにしても、なーんか変な空振り感があって……」
ほむら「ふぅん……? 構って貰えなくて寂しい、としか聞こえないけれど……」
さやか「それに、慣れたっていうのは、だんだん変化していく物じゃないですか。
でも杏子の態度に違和感を感じ始めたのは、最近になって突然なんですよ……」
マミ「あら、そうなの……? 何か、思い当たるキッカケみたいなのは無いのよね?」
さやか「ずっと考えてはいるんですけど……。特に思いあたらなくって……」
マミ「……確かに難しいわね。喧嘩とかなら分かりやすいけれど、そういうわけでもなさそうだし……」
さやか「そうなんですよねぇ……」ハァ…
んんwww
82 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/15(日) 22:46:50.41 ID:Jef05bBr0
あんさやの関係はわかるけど、ほむまどマミの関係はどうなってるんだろうか
さやか「で、まだそれだけじゃないんです。杏子、どうも物件探してるみたいなんですよ」
マミ「物件って……不動産?」
さやか「そうです。ちらっと、インターネットの賃貸サイトを調べてるのを、
後ろから見ちゃっただけなんですけど……。新しくワンルームを探してるっぽくて……」
ほむら「それってつまり……別居?」
マミ「別居ね……」
さやか「あああ、この流れは分かってたけど! 分かってたけどせめてルームシェア解消と言って!」
力なく頭を抱える。
マミ「ううん……。でも、そうなると本格的に妙な感じよね。本人には聞いてみたの?」
さやか「一応、それとなくは。でもはぐらかされちゃいました……。
後ろから覗き込んだ手前、あんまり問い詰める気にもなれなくって……」
ほむら「人のために探してるって可能性もあるわよね?」
マミ「でも、それならわざわざ隠すことでもないし……?」
ほむら「そうよね……」カタ…
癖でコーヒーを呷ろうとして、さっき注文したことを思い出す。
さやか「仲が悪いわけでもないから、余計にわけわかんないんですよね……。何なんだろ……」
ほむら「……ふーん、そうね。貴女に良い物を貸して上げましょう」ゴソゴソ…
空のカップを戻し、鞄の中に手を入れる。
さやか「……え? ほむえもん様、何か秘策をお持ちで?」
ほむら「はい、これ」ゴトッ
机の上に置かれたそれは、どう見てもほむら愛用のハンドガン。
さやか「っ……て、え!? ちょ、嘘、こんな人目のあるところで何を!?」
ほむら「落ち着きなさい……。これは本物に限りなく近いモデルガン、そう思っておいて」
さやか「あ……。そ、そうですね……?」
実際、女子大生が鞄から取り出したそれを本物だと思う人も居なさそうだ。
ほむら「それに、込めてある弾は空砲だから。ちょっとした威嚇に使う、護身用みたいな感じ」
さやか「はぁ、左様で……。でも、こんなもん何に使うの?」
ほむら「お互いの平和のため、分かりやすい合図をするのに使いましょう」
さやか「合図?」
ほむら「惚気話を始めるときはパンッと一発、終わるときはパパンッと二発鳴らして頂戴。
そしたらこっちも効率的に聞き流せるから……」
さやか「………手間の! かかる! からかい方をするなっ!!」ベシッ!
85 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/15(日) 23:01:51.59 ID:hX5vmb750
ほむほむ
86 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/15(日) 23:02:41.41 ID:dCJrHfKIP BE:1681582346-2BP(0)
絶好調だなホムホム
なんだこのつまらん主は!?(驚愕)
ほむら「っと、まぁそれは冗談にしても……」パシッ
さやかがはじき飛ばした小道具を受け取り、鞄にしまう。
さやか「お願いしますよ、ワリと真剣に悩んでるんです……」
マミ「そうねぇ………あ」
「お待たせしました。アイスレモンティーのお客様は?」
さやか「あ、私です」
「コーヒーのお客様は?」
ほむら「私よ」
カタッ… カチャチャ…
空いた食器が下げられる。
「ごゆっくりどうぞ」
マミ「……で、それなら。いい加減、大事なことをはっきりさせておきたいのだけれど……」
さやか「大事なこと……?」カランッ…
何となく、ストローでレモンのスライスをいじくる。
マミ「美樹さん。あなたは、佐倉さんのことが好きなのかしら? 恋愛対象として」
89 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/15(日) 23:08:29.34 ID:Jef05bBr0
マミさんは相手とかいなさそうだけど相談のれるのか?
さやか「………」ズズッ…
混ぜすぎて、ちょっと酸っぱいレモンティーを飲みながら。
さやか「………分かりません」
何度も考えたことはある問いに対し、正直にそう告げる。
マミ「………」
さやか「何だろ……。一緒にいると、すごい安心感あるし、
できることならずっと離れたくないな、って思いは、確かに……あるんですけど………」
ほむら「………自分の物にしたい、って、そう思う?」
さやか「……う………うん。……ちょっと、だけね………」
何だか声も尻すぼみで歯切れが悪い。
さやか「でも、さ……。これがその、いわゆる恋愛感情ってやつなのか、よくわかんないんだ。
身寄りもなく、たった一人で、奨学金貰いながらまともに大学行くまでになったあいつのことを、尊敬もしてる……」
ほむら「………」
さやか「だけどやっぱり、恭介に対するそれとは……。
何て言うか、憧れみたいな……そういうのとは、違うし……」
マミ「憧れ、ね……」
さやか「……それに、逃げのような気も……するんですよね……」
マミ「……逃げ?」
さやか「はい……。高校の時も、ずっと思ってたんですけど……。
やっぱり、忘れられないというか、吹っ切れないん……ですよ。恭介のこと……」
ほむら「………まあ、無理でしょうね。その身を捧げたような物だから……」
さやか「うん……。もちろん、後悔してるわけじゃないよ。全部聞いた上で、時間かけて出した結論だから。
それでも、終わったことに出来るものじゃないからさ……」
マミ「それはそうよね……」
さやか「そのせいか、何だかどんな男も、変に恭介と比べて見劣りするような気がしちゃって……。
それでもう何年もずっと、彼氏を作る気にもなれなくって………」
ほむら「………」
さやか「杏子に誘われて、何度か合コンなんて参加してみたけど、その気持ちは変わらなかった。
おまけに……。変なストーカーみたいのに襲われたりする始末で……」
マミ「バレンタインデーの話ね……。大事にならなくて良かったわ」
さやか「………おかげでもう正直、男って嫌だなって、ちょっと思ってるんです。想い出の中の恭介だけでいいやって。
でもそうやって男を避けることとか、女であり、魔法少女を理解している杏子に寄りかかろうとすることとか、
それがただ逃げてるだけなんじゃないかって思えて……」
さやか「良く、わかんないんですよね……。自分の気持ちが………」ズズッ…
92 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/15(日) 23:21:32.05 ID:hX5vmb750
さやさや……
マミ「うん……」
ほむら「………」コクッ…
さやか「………」
それぞれ、考え事をするように沈黙を落とすが、
マミ「………ふふっ」
すぐにマミの微笑みが破る。
さやか「……? 何か、可笑しかった……ですかね?」
マミ「いえ、違うわよ。ただ、佐倉さんが羨ましいなぁ、って思っただけ」
さやか「羨ましい……?」
マミ「愛されてるなぁ、ってね……ふふふ」
さやか「あ、愛……って……///」
からかわれているわけでもなく、真面目にそう言われているせいか、余計に気恥ずかしい。
ほむら「妬けるわよね……。甘すぎて胸焼けしそう」
さやか「ほ、ほむらまで……///」
94 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/15(日) 23:30:55.42 ID:FHO8kbLDi
さやかちゃんまじさやかちゃん
マミ「そうね……。何て言うか、愛の形なんて、人それぞれじゃない?
極端に言えば、カラダだけの関係だって。愛が無いとは言い切れないだろうし……」
さやか「ううん……」
マミ「美樹さんは、佐倉さんと離れたくない、ずっといっしょに居たいって思ってるわけでしょう?」
さやか「………はい」
マミ「お互いの良いところだけじゃなくて、悪いところも分かってて、それでも大切に思ってるのよね?」
さやか「……そう………ですね」
マミ「それってやっぱり、立派な愛じゃないのかしら?」
さやか「………」
マミ「本能的に惹かれ合うとか……殺してでも自分の物にしたくて仕方ないとか……。
そういうドラマのような恋愛を否定するつもりはないけれど。
だからといって、逆にそうでないものが恋愛と呼べないわけでは、決してないと思うの」
さやか「それは……確かに……」
マミ「いろんな形があるんだから、美樹さんがずっと恭介さんに感じていたものと違うのも、
むしろ当然とも言えるわ。全く別の人に対する感情だもの。
人と人との関係の数だけ、違った愛があってもいいって……そうは思わない?」
さやか「………」
マミ「だからやっぱり、美樹さんはが佐倉さんに感じている物は、愛と呼んで良いと思う。
愛してるからこそ、最近冷たいなぁとか、居なくなっちゃうんじゃないかなぁ、とか。
ちょっとしたことでも本人に言えず、こうして相談するぐらい悩んでるんじゃないかな……?」
さやか「……そうかも、しれません」
マミ「……ふふふ。それに、『逃げてる』っていうのも、真っ直ぐなあなたらしいけれど、
考えすぎだと思うな」
さやか「です……かね……?」
マミ「私たちは、魔法少女として契約して……。どう考えたって普通じゃない経験をしているから。
それで、何だか気持ちが混乱したようになることはあるかもしれない……」
さやか「はい……」
マミ「でも、真剣に悩んでるじゃない。逃げるって言うのは、自分に嘘をついたり、
考えるのをやめたり、そういうことだと思う」
さやか「………」
マミ「素直に正直に考えて、それで出た結論なら、逃げた訳じゃない、あなたの本当の気持ちのはずだもの。
そんなに自分を疑って掛からなくてもいいんじゃない、かな……」
さやか「………そう、なのかな……」
マミ「……うん。きっとそう」
97 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/15(日) 23:44:01.35 ID:8cItp2XXO
お姉さんなマミさんとちょっと面倒臭いさやさや最高
さやか「ううん……」
マミ「……だから、正直にありのままの気持ちを告げてみなさい。直接、佐倉さんにね」コクッ…
語った喉を潤しながら、わかりきった結論を告げる。
さやか「うぐ……。やっぱり、そうなりますか………」
マミ「結局佐倉さんの変化だって、彼女にしか分からないことだもの。
もう、そうしないと先へ進めない場所に来ちゃってる、っていうのは……自分でも分かっているんでしょう?」
さやか「はい……。そうなんですよねぇ……」ズズッ…
それこそ逃げるように視線をそらす。
ほむら「……怖い?」
さやか「………正直、ね……。やっぱり、言っちゃば……女同士、だもん。変……だよね。
杏子は、普通に男を作れと勧めてくるぐらいには……なんて言うか。ノーマル、だし………」
マミ「………」
さやか「杏子の態度が変なのも、新しい部屋を探そうとしているのも、私が気持ち悪がられてるせいかな、って。
ちょっとだけ、そんなことも考えたりして……」
ほむら「……さすがにそれは無いでしょう。気持ち悪いと思っていたら、
もっと分かりやすく拒絶されると思うわよ」
さやか「そうかな……」
ほむら「仮に、玉砕したとして、それでその後軽蔑されるような……。そんな関係では、既に無いんじゃない?
今こうやって相談相手に選んでる私達よりも、お互いの信頼はありそうだけれど」
さやか「う………うーん……。ほむらのことも、それなりに信頼してるんだけど……。そう、かも………」
ほむら「だから、そんなに怯える必要はないわ。勇気を持ちなさい、美樹さやか。
どういう結果になろうとも。きっと、そこで立ち止まっているより悪い方には転ばないと思うから……」
さやか「あ、う……うん。ありがとう………。……何か妙に、優しいね、ほむら」
少し不思議そうな顔。
ほむら「………そうね、じゃあこうしましょう。これだけ言っても貴女がうじうじしたまんまなら、
私が杏子を呼びつけて、面白おかしく全てを代わりに伝えてあげる。手間が省けて貴女もハッピー。
……それが嫌なら、さっさと行動に出なさい」
さやか「あーごめん、前言撤回する。頼むからそれだけはやめとくれ………」
マミ「ふふふ、スパルタねぇ……」
さやか「マミさんも、何か……変な話聞いて貰ってすみません。ありがとうございます」
マミ「気にしなくて良いわよ。私もそのうち、うんざりするような惚気話を長々と聞いて貰うつもりだから」
さやか「あぁ、はい……。そっちの話ですか………」
ほむら「何十年後の話かしらね……」ボソッ
マミ「殺り合うつもりなら容赦しないわよ?」
100 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/15(日) 23:54:40.56 ID:dCJrHfKIP BE:840791726-2BP(0)
さやか「んんー……。でも」カラン…
少しはスッキリしたものの、まだちょっと眉をひそめたままのさやか。
ほむら「杏子に言っちゃうぞー」
さやか「分かってるって! プレッシャーかけなくていいから! まだあんまり整理ついてないけど、
ちゃんと思ってること言うって覚悟は決まったわよ……」
ほむら「ならいいけれど」
さやか「……でも何か、言うタイミングがつかめないって言うか……」
マミ「そうねぇ。きっかけ?」
さやか「そういうことです……」
ほむら「……それなら、時期的にもう答えは決まってるんじゃない?」
さやか「………やっぱり?」
マミ「あと……一週間弱? ホワイトデーまで」
さやか「ですよねぇ………」
ほむら「寧ろ絶好のタイミングじゃない。何を悩むことがあるというの」
さやか「んー、いや今日は、ホワイトデーに何を返したらいいのかなぁ、ってのも相談の内でして……」
マミ「佐倉さんには、何を貰ったんだったかしら」
さやか「えーと、ハート型のザッハトルテです」
ほむら「手作りなのよね?」
さやか「手作りでした」
マミ「……どう考えても本命よね」
ほむら「……間違いなくね」
さやか「う……。ううん、学校でも、普段からお菓子は配り歩いてるらしいし………」
ほむら「そんなポッキー配って回るのとは次元の違う話じゃない。バレンタインデーに手作りでしょう?
他の人にも手作りを配ってたりするの?」
さやか「毎年何かしら作ってくれるけど……。そうだね、複数作ってたりは……見たこと無いかも………」
ほむら「なら、ねぇ……」
さやか「………」
マミ「いつもは何を返しているの? 去年も貰ってるなら、お返しはしているんでしょう?」
さやか「あ、はい。お店で見繕って……。美味しそうなお菓子を………」
ほむら「……三倍どころか、ありがたみ三分の一返しっぽい感じねー………」
さやか「しっ、仕方ないじゃん! あたしお菓子とか作れないしさー!」
マミ「それならそれで、食べ物じゃなくってもいいのよ? 可愛いアクセサリーあげたっていいのだし……」
さやか「それは分かりますけど、杏子が一番好きなのってお菓子じゃないですか……」
マミ「ああ、成る程……」
さやか「一応、高級品は選んでますし、お菓子を返すのがもう中学の時からずっとだから、
何だか習慣みたいな感じになっちゃってて……」
ほむら「だったら……悩まなくても、今年もそれでいいんじゃない?」
さやか「そうなんだけど……。いつも通りだと、ホントにもう日常の一コマっぽい感じでしか渡せなさそうで……。
少しは何かこう、いつもと違って、気合い入ってる感じが欲しいって言うか……」
マミ「ううん……。作るつもりがあるなら、お菓子作り教えるわよ?」
さやか「それだとマミさんの味になっちゃうじゃないですか……」
ほむら「……本番数日前に未経験で『自分の味』を求めるってのも。なかなか無茶なこと言うわね」
さやか「うう、分かってるんだよう………」
マミ「そっか、それに場所がないわよね。美樹さんの家は佐倉さんがいるし、
かといって私の家は見滝原だし、ちょっと急すぎるわね……」
ほむら「もっと早く行動に出るべきだったかもね……」
さやか「あー、うん……。でもそれは無理なのよ。ついこの前まで、実習行ってたから……」
マミ「実習?」
104 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/16(月) 00:16:04.58 ID:MTHZvsb+0
紫炎
さやか「そう。病院に行って、看護師見習いとして、実際に患者さんとコミュニケーション取りながら色々とやるのです」
マミ「へぇ……。大変そう」
ほむら「さすがに専門性高いだけあって実践的ね……」
さやか「いっそがしいし怒られるしレポート書かなきゃだしで、しんどかったわぁ……」
マミ「ふふ、やりがいあっていいんじゃない? 頑張ってね」
さやか「まぁ、働き始めたらそれが日常ですしね……」
ほむら「……ふぅん。ともかく準備期間はない。でもいつもと変わったお返しをしたい」
さやか「あ、うん」
ほむら「………諦めたら?」
さやか「うぐ………。た、頼みますよぅ……!」
マミ「もう美樹さん自身が贈り物で良いんじゃない。裸にリボン巻いて、『杏子、私を受け取って……///』って」
さやか「あ、駄目だこれ、流れが真面目じゃなくなってきてる……」
マミ「だってねぇ。佐倉さんが喜びそうな物なんて、あなたが一番分かってそうじゃない」
ほむら「私達に役立てそうには無いわよね……」
さやか「うう……。そう言われると………」
マミ「でもまぁ……。言えることとしたら、別に物じゃなくても良いわよね〜ってぐらいかしらね?」
ほむら「そうよね……」
さやか「………へ?」
ぽかんと、意外そうな顔。
ほむら「要するに、デートでも誘ったらどう? って話よ」
さやか「で、でぇとで御座いますか……」
マミ「……あ、でも、普段から二人っきりで遊びに出てるから、特別じゃなさ過ぎるかしら……?」
さやか「いや、うん……? どうだろう………」
ほむら「休日とか、やっぱり二人で出かけてるのよね?」
さやか「そうだねぇ……。二人でよね? えーっと、服を見に行ったり、映画見に行ったり、演奏会聞きに行ったり、
カラオケ行ったり……。この前はスケートしにいったなぁ……」
記憶を辿りながら、指を折り折り数え上げる。
マミ「………」
ほむら「………」
さやか「ん? どしたの二人とも?」
ほむら「……何でもないわ。ちょっと疲れただけよ。ツッコむのも億劫なほどにね」
マミ「ふぅ、そうなると……。ただ誘うだけじゃ駄目ねぇ……。ちょっと特別な感じが無いと」
ほむら「特別……。旅行とか?」
マミ「旅行はさすがに今からじゃ無理じゃないかしら……」
ほむら「確かに……。さやか、予算はどのくらい?」
さやか「え? えっと、短期バイトで結構貯めたから、余裕はあるけど……」
マミ「なら、少しはお金が掛かっても良さそうね……」
ほむら「日帰りの距離で、デートするのに良くって、あまり頻繁には行けないような、素敵な場所……」
マミ「……難しいわね」
テーブルの向こうで、さやか置き去りの議論が続く。
さやか「おーい、何か勝手に話が進んじゃってますが……」
ほむら「……そうね。さやかは、どこかいい行き先の案でもある?」
さやか「あたし? 私は……。杏子と一緒なら、別に何処でも……」
マミ「……そーいう甘いのはとりあえず置いといて。
あなたが行きたい場所じゃなくて、佐倉さんが行きたそうな場所よ」
さやか「あ、それもそっか……」
108 :
忍法帖【Lv=12,xxxPT】 :2012/04/16(月) 00:33:11.65 ID:m2k4o99E0
幾多のキュゥマミSSを見たがいまだにこのネタを使ったキュゥマミSSはない
パターン1
マミ「あなた誰なの?」
QB「確かに “この僕” は、三時間ほど前まで君のそばにいたのとは別の個体だよそちらは暁美ほむらに撃ち殺された」
黒い魔法少女。暁美ほむら。あの女だけは、絶対に許さない。
まどか「わたしの願いでマミさんのそばにいた子を蘇生すれば、ほむらちゃんのこと許してあげられませんか?」
マミ「今日も紅茶が美味しいわ」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1304834183/1 パターン2
QB「うううっ……マミ、どうして、死んじゃったんだよ、マミを蘇らせて欲しい」
まどか「私の願い事はマミさんの蘇生。叶えてよインキュベーター!」
パターン3
マミ「あなた誰なの?」 QB「前の個体は処分した」
QB「『前の僕』、は精神疾患を『患い』かけていたからね。『僕達』にとっては、『煩わしい』存在でもあったしね」
こんな感じの旧QB蘇生キュゥマミ魔法少女全員生存ワルプルギス撃破誰か書いてくれたらそれはとってもうれしいなって
さやか「うーん……。杏子が行きたそうな場所……。
最近よく、『富士山登りたい』とか言ってますけど……」
ほむら「ふ、富士山……? 何でまた……」
さやか「さぁ……? 本か何かの影響じゃないかな? 山頂で黄昏れたい、らしいよ」
マミ「まぁ……。確かにあの子、そういう所あるけれど……。
ホワイトデーからはるか遠い位置にあるわね……」
ほむら「そもそも今は時期じゃないわよ。それはそれで、夏に向けて準備しておくと良いわ」
さやか「だよねぇ。えーと、他にはどうだろ……」
拳を顎に当ててじっくり考える。
さやか (大体いつも、出かけるときは……杏子が自分で行きたいとこ誘ってくれるからなぁ……)
記憶をどんどん昔へさかのぼり、思い浮かべる姿がだんだん小さく、幼くなっていく。
そうして中学生近くまで達すると、杏子の寂しそうな微笑みが思い出された。
さやか「……あー。そういえば、あいつ……ディズニーランド行きたいんじゃないかなぁ………」
ほむら「ああ。そういえばそんなのあったわね」
マミ「ディズニーかぁ……。うん、条件には合ってるし、結構いいんじゃない? 行きたいって言っていたの?」
さやか「たしか……。ずーっと昔なんですけどね……」
110 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/16(月) 00:41:18.34 ID:flJCJDgL0
さやさや
さやか「覚えてますかね? 昔、あたしが家族でディズニーランド遊びに行って、お土産買って帰ったと思うんですけど」
マミ「……ああー、随分昔よね。中学の夏休み……だったかしら? 貰ったお菓子の缶、まだどこかにあったと思う」
ほむら「あれって、中身より缶のほうがメインなとこあるものね……」
さやか「量のワリに高いしね。でまぁ、杏子にも同じくお菓子買って帰って渡したんですけど……。
その時、喜んではくれたものの、すごい寂しそうな顔してた覚えがあるんですよね……」
マミ「寂しそう……?」
さやか「はい……。それで、『行ったこと無んだ? 行ってみたい?』って聞いたら、ぼそーっと小さな声で『……うん』って。
何だかそれで妙な空気になって、その後の会話は途切れた……みたいな感じだったと思います……」
自信なさげに、そらを見つめながら。
ほむら「なるほどね……」
マミ「……私も、気持ちは分かるけれどね。家族と楽しんできた美樹さんが……羨ましかったんでしょう」
さやか「………やっぱり、そういうことですよね」
マミ「あとは、何となく疎外感を感じたとか……。そんなところじゃないかしら」
さやか「今思うと……。考えがなさ過ぎたかなぁ………」
ほむら「大丈夫よ。さやかの無神経さは杏子も良く分かってるでしょう」
さやか「そ、そこは『昔のことだから』とか、他に言葉があるんじゃない……?」
112 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/16(月) 00:51:33.77 ID:flJCJDgL0
頭がティロティロしてきた
ほむら「で、言い方からすると、こっちに来てからも行ってないのよね?」
さやか「うん。そりゃ、私に隠れてコッソリ行った、とかなら知らないけど……まず無いだろうし。
多分、一度も行ったことはないままのはず……」
ほむら「なら丁度いいわね……」
マミ「うん、決まりで良いんじゃない? ディズニーランドに二人で行って、散々楽しんだ上で、最後に……」
さやか「杏子と……ディズニーかぁ……むむ……」
自身もあれ以来行っていない夢の国。二人でお出かけと思うと、若干頬が緩む。
ほむら「……楽しみにするのは良いけれど、大事な目的があることを忘れないようにしなさいよ」
さやか「わ、わかってるって……!」
マミ「あら、良いんじゃない? 佐倉さんを楽しませるのも大事だけれど、
そもそも告白のきっかけが欲しくてイベントを利用するって話なんだから。
自分が暗示に掛かるぐらい楽しむのも大事よ?」
ほむら「それは確かに……」
マミ「だからお互い、いつもと違う時間だって言う認識が持てるように……。
普段以上にベタベタするなりして、特別な一日であることを意識させていくと良いわね」
さやか「ベ、ベタベタって……。まぁでも、非日常な感じを意識させるのは、大事かも知れませんね……。
……うん、何とか、頑張ります……!」
普段のさやかより随分しおらしいが… それでも精一杯、作戦への決意を口にした。
マミ「それじゃ、あとは美樹さん次第ね。いい報告、待ってるわよ?」
さやか「そうあるように祈りたいです……」ズズッ…
マミ「大丈夫よ。あれだけ甘々な関係なら、悪い報告になる様子がさっぱり浮かばないから」
ほむら「甘すぎてコーヒーも砂糖いらずだったわ……」コクッ…
普段からブラックしか飲まないコーヒーを啜る。
さやか「あ、あのねぇ……」
助言なのか、それともからかわれているのか。二人の切り替えに若干ついて行けない。
マミ「でもいいなぁ。実は私も、行ったこと無いのよね、ディズニーランド……。暁美さんはあるの?」
ほむら「あるわよ。実家がこっちだから、小さい頃に何度か連れて行かれたわね……。
行ってみる? 急ぎで帰る用事もないし、帰省の予定を延ばせば……」
マミ「え、本当に!? そうね、美樹さんと佐倉さんの事も心配だし、見守らないといけないし……」チラッ
不穏な話を始めた二人に、
さやか「……万が一見かけたら、二人とも容赦なく斬り捨てますからね?」
いい加減、ドスの利いた声で警告をしておく。
マミ「ふふふ。冗談よ、二人の邪魔をするわけ無いでしょう? 行きたいのは本当だけれど……」
ほむら「まぁ、別の日で調整しましょう……」
115 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/16(月) 01:02:11.86 ID:Mh37l5AOO
支援
さやか「あー、何だかんだ、私の話だけで随分時間使っちゃいましたね……。スミマセン」ゴソ…
カバンから、杏子とおそろいのスマートフォンを取り出して時刻を確認する。
大体…2時間近くは話していたようだ。
ほむら「別にいいわよ。最初からそれが目的だったんだし」
マミ「東京に遊びに来るなら、久々に美樹さんの顔見たかったってのもあるし。構わないわ」
さやか「あれ? でも……ほむらも何か、用事あるって言ってなかったっけ。
もしかして、ほむ印の手作り手榴弾の話かな。まだ残ってるから大丈夫だよ」
ほむら「ああ、そうじゃなくて……。大した事じゃないわよ。それ」
さやかのスマートフォンを指さす。
ほむら「調子はどうかなと思って。困ってない?」
さやか「あー、そゆことか。うん、文字入力がまだ慣れないけど、特に困ってはないよ?
最初は全然使い勝手が違うモンだから、ちょっと混乱したけど……」
マミ「最初はそうよね。私も買ったときは、何だか触るのが怖かったわ……」
ほむら「そう。杏子はどう? 問題無さそう?」
さやか「あいつはむしろバリバリ使ってるよー。こう、指をスリスリ動かして、
まるで喋るみたいな速度で入力するんだよね……。見ていてちょっと不気味」
ほむら「……良かったわ。何だか、ちょっと無理矢理買わせてしまったかな、と思っていたから……」
さやか「あはは。ンなことないって。興味はあったし、いろいろ遊べるから、買って良かったとも思ってるし。
何よりほむらがやりたかったiMagicaも、結構悪くないと思ったしね」
ほむら「ありがとう。そっちのソフトも不具合は無いかしら?」
さやか「大丈夫だよ? ほら……」
と、タッチパネルに触れ、件のiMagicaを起動してみせる。
画面には喫茶店付近の地図が表示され、中央には青色の小さな円が点滅していた。
ほむら「とりあえずは問題無さそうね……」
さやか「しっかしあんたも凄いよね、こんなの自分で作れるなんて……。さすが理系」
魔法少女用の位置情報共有サービス、iMagica。
現在位置の共有と、警報の発信、あとは魔女反応の共有などこまごました機能がついている。
お互い忙しくなってくる関係もあって、こんなものがあったほうが便利ではないかと、ほむらが作って提案してきたものだ。
ほむら「専門ではないけれど、そんなに難しい物でもないわよ? 爆弾作ったりするよりは楽よね、失敗しても死なないし……」
さやか「いや、どっちもさっぱりですから……」
マミ「そして物騒なことを言わないで頂戴……」
118 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/16(月) 01:13:58.26 ID:uQ3Yicj7P BE:5044745489-2BP(0)
ほむほむスゲー
ほむら「あと、早苗さんは何か言っていたかしら?」
お茶会仲間の、後輩の名を告げる。
マミ「あれ? 彼女も使っているの?」
ほむら「ええ。もともとスマートフォンを持っていたみたいだったから、ついでに試して貰おうと思って」
さやか「さなちゃん? どうだろ、何も言ってこないし、特に問題は無いんじゃないかな……」
言いながら、タッチパネルを触り、ユーザの一覧から一人を選ぶ。
すると画面が切り替わり、ここから少し離れた位置に緑色の円が点滅した。
プライバシーの関係もあり、警報を発しない限りは、ぼんやりとした場所しか分からない。
ほむら「大丈夫そうね……」
さやか「しばらく会ってないけど、まあ大丈夫でしょ」
ほむら「お茶会、してないの?」
さやか「んー、それがさ。あたしらが大学の試験の間は会ってなかったし、
じゃあその後でって予定してたんだけど、なんだか都合が悪いみたいで中止になっちゃって……」
マミ「ふぅん……? 何もないと良いのだけれど……。困ってそうなら、ちゃんと相談にのってあげてね?」
さやか「そこはまかせてください。……恋愛と勉強以外だったら、なんとか?」
ほむら「お金の相談でもすればいいのかしら……」
マミ「さてっと、そろそろ行きましょうか」グッ…
カップに残った紅茶を一気に飲み干す。
ほむら「そうね……。さやか、この後は時間あるのかしら?」
さやか「あるよー。どっかで遊んでいく?」
ほむら「それなら……ゲームセンターにでも行かない? 久々に音ゲーやりたい気分……」
さやか「あ、あたしも最近やってないな……。何かタッチパネルのやつ、やってみよっかな?」
ほむら「この辺は杏子の影響よね。まさかあんなにハマるとは思ってなかったわ」
マミ「行くなら、クレーンゲームの充実している所にしてもらえると嬉しいのだけれど……」
ほむら「……またUFOキャッチャー? お財布が寒くなるわよ?」
マミ「いいのよ、そういう背水感がおもしろさなんだから。
それに見滝原だと、あんまりいいプライズが揃ってないのよね……」
ほむら「プライズ欲しいならヤフオクで落とせば安いわよ」
マミ「……そういうことじゃないのよ。そうじゃないけれど、理解しろとも別に言わないわ」
121 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/16(月) 01:27:40.17 ID:uQ3Yicj7P BE:2242109748-2BP(0)
マミさんマゾ疑惑
さやか「あっと、その前にちょっとお手洗い行ってきます」ガタタ…
マミ「あ、いってらっしゃい」
ほむら「ごゆっくりお楽しみ下さい」
さやか「何だよ楽しむって……」タタ…
そそくさと鞄を引っ張り駆けていく。その姿が見えなくなると、
マミ「はぁ……」
ほむら「ふぅ……」
示し合わせたように、息をつく二人。
ほむら「……まったく、ろくに経験無いわりには語るものよね、貴女も……」
マミ「黙りなさい。お互い様じゃない」
ほむら「まあ、そうだけれど……」
マミ「美樹さんも、本気で悩んでたみたいだし。出来ることはしてあげたいでしょう?」
ほむら「そうよね……。あのさやかがあれだけ煮え切らない態度っていうだけで、
完全に本気よね。本人は混乱しているみたいだけれど」
マミ「よねぇ……」
ほむら「……正直、どう思う?」
マミ「え、聞くまでもないでしょう……。誰がどう見ても両思いじゃない……」
ほむら「よね……?」ゴクッ…
もうぬるくなったお冷やで息をつく。
ほむら「杏子もたまにメールすると、さやかの話しかしないし……」
マミ「そもそも、以前佐倉さんにも、美樹さんについて相談されたのよね……」
ほむら「そうなの?」
マミ「うん。大学入って引っ越して、ルームシェアするって話になったときに、
要は『自分は美樹さんと一緒に暮らしても嫌われないか』みたいな話を……」
ほむら「………」
マミ「いつからお互いにそう思っているのかは知らないけれど……。
私は、二人は幸せになれると思う。……そうあってほしい」
ほむら「それは……そうね。二人とも、魔法少女同士でこそわかり合える、みたいな考えの所あるし。
……でも、やっぱり物件を探していたっていうのは気にならない?」
マミ「ううん……。美樹さんがどこまで細かく見ていたのかは分からないけれど、
二人で住む部屋をもっといい場所に出来ないかって考えていたとか?」
ほむら「……なるほど。ルームシェアをするのを決めたの、急だったものね。
無いとは言えないわね……」
マミ「とりあえず、出来ることはしたはず。後はもう、二人次第でしょう……。見守るしかないわ」
ほむら「……それでも、やっぱり不安よね?」
マミ「……正直ね。二人とも、何というか……素直じゃないというか。
一人で思い悩みがちで、思い込みの激しい所があるから、そこが悪く働かないことを祈りたいわね……」
ほむら「まぁ、どういう流れになったとしても、最大限協力して上げましょう……」
マミ「当然じゃない」
そんなふうに反省会をしていると、
さやか「おっまたせー!」トテテ…
丁度さやかがトイレから戻ってきた。
ほむら「おかえり。じゃ、行きましょう」ガタ
マミ「お会計、別で出来るかしらね……」ガタタ…
ほむら「相談料と称してさやかに払わせたら?」
さやか「なっ、ちょっ、聞いてないぞっ!?」
マミ「ふふふ、そんなことするわけないじゃない」
相変わらず弄られる立場は変わらない。
その後も他愛のない話を続けながら、三人は街の喧噪の中へ消えていった。
――同じ頃――
さやかと杏子の暮らす部屋。
締め切られたカーテンのせいで、部屋はどんよりと暗い。
杏子「……っ………あ……」
冷蔵庫が響かせる低音の他、ほとんど聞こえない静かな中で、鼻に掛かった鳴き声だけがよく響く。
杏子「はぁっ……うっ……」
その声の主は、こたつの隣で仰向けになり、下をはだけて自らを慰めていた。
杏子「……ふぁ……あっ……あ……」
忙しい右手とは別に、左手は、自分の物でない洗濯物のシャツを握っている。
杏子「……はぁ……すぅ………」
そのシャツに顔を埋め、深く息を吸い込む。
口元は隠れて見えない。とろんとした目だけが、ぼんやり虚空を見つめている。
杏子「んっ、あっ……あはっ……! さ、さやかぁ……っ」
そして、切なそうに、持ち主の名前を呼びかけながら。
杏子「――――っ!!」ビクッ…
声にならない声で絶頂を極め、小さく身体を痙攣させた。
126 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/16(月) 01:49:55.48 ID:RtNar8U10
いきなりエロくなった
127 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/16(月) 01:51:07.86 ID:uQ3Yicj7P BE:1961846047-2BP(0)
ほほう
128 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/16(月) 01:52:01.25 ID:EYJQPm40O
エロきた!(ガタッ
きた!
130 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/16(月) 01:54:11.15 ID:79RY6bg50
/\___/\ /\___/\ /\___/\
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杏子「………くそっ!」バサッ
しばらくの余韻も冷めた後で、持っていた布を投げ捨てる。
杏子「……くそっ………」
誰に対してでもない。ただただ、自分が嫌になる。
杏子 (はぁ……。なんでこうなっちまったのかなぁ………) ノソッ…
自分のやらかした痕跡を片付けるため、立ち上がる。
まだしばらくは、さやかも帰らないはずだ。
が、うっかり寝てしまいでもしたら、間違いなく全てが終わってしまう。
杏子 (まぁ……。さやかと暮らし始めてからだよな。大学に入ってから……) ポイッ …パタン
キッチンのゴミ箱にティッシュの塊を投げ込み、蓋を閉める。
杏子 (いつもさやかと一緒に居て……。さやかがそこら中に溢れてて……) シャババ…
そのまま流し台の蛇口を捻り、手を洗う。一体何度繰り返したことだろう。
杏子 (………だからどうした?)
杏子 (病気だろ。やめたくてもやめらんねー、我慢したくてもできねーって。
酒に溺れてアル中になったオッサンと何も変わらねぇ……)
杏子 (……いや。他人を汚してるだけ、あたしのが悪いのか………)
杏子「あぁー……」ドサッ…
またこたつに戻り、だるい身体を横たえる。
杏子 (いい加減、限界だよな……)
天井を見ながら、ずっと考えてきた問題をまた考え始める。
杏子 (出来るだけ平静を装ってるものの……。最近のさやか、妙にくっついてきたりするもんな……)
この家で起きた、ここしばらくの雑多な事を思い出す。
その絵の中に映るさやかは、どれもなぜか扇情的に感じられた。
杏子 (抑えが効かない。襲っちまいそうな自分が嫌だ……)
杏子 (さやかに男でも出来れば……。あいつ自身のためにもなるし……。
……あたしも、諦めがつくのかなと思ってたけど、どうも無理そうだし………)
これまでも、そしてこれからもずっとさやかの心を捕らえたままであろう、上條恭介という男の名を思う。
わき上がる感情は、憎しみでもないし、嫉妬でもない。もっと複雑なものだ。
杏子 (……違うな。責任があるのはあたしだ。そうなると……)
名残惜しそうに、暗い部屋の中を目で追いながら。
杏子 (………この部屋、出て行くしかねぇよなぁ……)
>>117 の会話を見るに、全員が同じOSの機種なんだよな。
全員がiphoneなのか全員がandroidなのか分からんけど。
んで、ほむらのiMagicaって、魔法少女以外の人が使うと困るソフトだよな。
限定配布。
としたら、AppleStoreでは無理? できたっけ?
Androidの場合はマーケット以外のインストールもできるけど。
134 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/16(月) 02:03:39.43 ID:RtNar8U10
杏子と恭介になんか因縁があるのか
135 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/16(月) 02:04:09.01 ID:iDDERNtw0
iPhone でも jailbreak すれば何とかなるんだっけ?持って無いから知らんが
杏子 (そもそも、女同士だろ。わけわかんないよ……) ノソ…
瞼を閉じ、腕で両眼を覆う。
杏子 (自分では、そう意識したことも無かったんだけどな……。
言われて、気づかされて、冷静に考えれば……。オカシイよ、あたし……)
泣きたいような気分なのに、涙は出てこない。
杏子 (このままじゃ、きっといつかバレちまう。そんな事になったら………)
歳と共に感情では濁りづらくなったとはいえ…
その場面を想像するだけで、自分が真っ黒になってしまいそうだ。
杏子 (結局、魔法少女には……。魔法少女以外に、本当の仲間なんていない。
せめてあたしは、あいつの友達では居たいから……)
納得できていないのに、納得させようと考えを続ける。
杏子「……でも………」
杏子 (言いづらいな。『お前と一緒に暮らすのは苦痛だ』って言うみたいじゃんか……)
杏子 (………それでも。お互いのため。あたしのため。行動に出ないわけにはいかない)
杏子 (……何か、機会をうかがって……。きっかけがあれば、話そう。
一人で暮らしたいって……。理由は………どう………)
心の中、ひっそりと誓い。そのまま杏子は、逃げるように眠りの中へと落ちていった。
――数日後、朝――
さやか「っと……。こんなもんで、いいかな……?」
自室の姿見の前、くるりと回りながら身なりを確認する。
さやか (だ、大丈夫よね……?) ジッ…
鏡の中の自分を睨む。多分、おかしいところはないはずだ。
珍しく被ってみた帽子も、冬らしくて悪くはない。
さやか (やっぱ緊張するなぁ……。杏子と出かけるぐらい、いつものことなのに……)
さやか「……よしっ!」バタンッ
意を決して居間に戻る。
杏子はまだ出てきていないようだ。
さやか「杏子ー?」
もう一つの部屋に向けて呼びかける。
杏子「あ、悪い、もうちょっと待って……」
さやか「うん。急いでないし、ゆっくりでいいよ」
さやか (……晴れて良かったなぁ。時間を忘れそうな、のどかな日差し………)
空を見上げて考え事をしながら、座って待つこと数分。
杏子「っし、お待たせ」バタン
カバンもぶら下げ、お出かけの準備を整えた杏子が部屋から現れた。
さやか「……お。いいねそれ、この前買った奴だっけ?」
杏子「ああ。変じゃねーかな……?」
ちょっと恥ずかしそうに、改めて自分の恰好に目を走らせる。
黒に茶色と、暗い色が赤い髪に映え、なかなか格好良く見せている。
さやか「うん、よく似合ってるよ。あんた、普段からそのくらい気合い入れればいいのに……」
杏子「べ、べつにいいだろ……。さやかも可愛いな、それ」
さやか「え、そ……そう? ありがと……」
杏子「こんな帽子、持ってたっけ。似合ってるけど……」サワ…
座った頭の上に手をのせ、ふかふかした帽子を撫でる。
さやか「あ、うん……。衝動買いしたんだけど、普段被らないから……何となく、しまいっぱなしだったのよね……。
……どうかな? 悪くないと思ってるんだけど……」
杏子「全然いいじゃん? しまいっぱは勿体ないよ」
>>136 Androidでいう「rootとる」みたいなのが、iphoneでも存在するけど、
androidの場合はroot取らなくても自作アプリ入れることは可能
しかし、AppleStoreとかAndroid Marketとかで、作者ないし管理人の紹介がある人にしか見えない、購入できないアプリという公開方法があるなら、
それが可能な機種でOk、とも思う。
まあ、rootとれば、そんな制限とか無意味なんだけどな。
杏子「それで……。今日は、どこに行くんだ?」
さやか「んと……。ヒミツ」ノソッ
ゆっくりと立ち上がる。
杏子「まだヒミツって……。当日なのにか……?」
怪しむような、疑うような、そんな様子で眉を寄せる。
さやか「うん。いいじゃん、別に悪い所に連れて行きはしないって。奢りだし、安心していいよ?」
杏子「いや、そういう心配はしてねーけど……。何か……変なさやか」
やはり納得は行かず、首をかしげている。
さやか「ふふ。着くまでのお楽しみってだけよ。さ、さ、出発出発!」グイグイ
棒立ちのままの背中を、玄関へと押していく。
杏子「わ、わかったって、押すなって……。歩き?」
さやか「電車。とりあえず、地下鉄で……えーっと。日比谷線に乗り換えて、八丁堀まで行く」
杏子「八丁堀……って、何処だっけ……」
何だかんだで東京は広く、未だに近所の地理しか把握できていない。
さやか「あはは、そこまで遠くないって。目的地まで、1時間もあればつくんじゃないかな」
142 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/16(月) 02:28:43.52 ID:HJ8ri5CRO
ヤれ
ヤるんだあんこちゃん
まどかいねえから改変後かと思ったら単に空気にされてるだけだった
144 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/16(月) 02:29:23.86 ID:EYJQPm40O
寝れないじゃんか!
――東京メトロ 八丁堀駅――
ピロン ピロン… ガコッ
到着した電車の扉が開き、乗客が一気にあふれ出す。
ガヤガヤ… ザワザワ…
さやか「ふー、ついたついた……」
杏子「混んでたなぁ……」
そのせわしない人混みの中、ちょっと通勤時間には浮いた二人組。
さやか「まぁ、平日の朝だからねぇ。皆さんお仕事お疲れ様で御座います……」
杏子「何かズルっこしてるみたいで居心地悪いよな……」
さやか「授業サボってるような背徳感あるよねー」
「扉が閉まります ご注意下さい」
シュシュッ フィーン…
二人を運んできた電車も、せわしなくホームを出発していった。
さやか「さてと、乗り換えだ!」
146 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/16(月) 02:36:25.76 ID:Ued6sDmz0
どこ出発設定なんだろ
147 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/16(月) 02:39:41.53 ID:EYJQPm40O
明日そこそこ早いのに読んでしまう
さやか「んと……こっちだね」テクテク
案内板を確認し、乗り換え方面の改札へと階段を上る。
杏子「ふーん、ここが八丁堀ねぇ。……いや、全然分かんないけどな」トコトコ
外が見えるわけでもない。暗い水の匂いがするほか、何の特徴も感じられない。
さやか「まぁ、地下鉄だからね……。車内でも、風景とか楽しめなくて飽きるよね」
杏子「次も地下鉄?」
さやか「えーと、地下鉄……って言うのかな? たしか途中から地上に出るとか、
そんなんじゃなかったっけ……? JR京葉線だよ」
杏子「京よう線……ってことは、東京から……よう? よう……」
ガシャコン!
並んで自動改札を抜ける。
さやか「千葉だよ千葉。葉っぱの『よう』」
杏子「あぁー、なるほど……! って千葉ぁ? わざわざ行くような場所あったっけ……?」
さやか「千葉県民に失礼だねぇ、君ぃ……。まぁあたしも、あんまり浮かばないけど……」
杏子「落花生ぽりぽり食ってるイメージしか無いぞ……」
狭い地下道は乗り換えの人々で騒がしい。
遅刻でもしそうなのか、必死で駆けていく人も居る。
さやか「……何か今日、妙にマスクしてる人多いなぁ」
杏子「たしかに。……あ、花粉だろ。もう時期じゃないか?」
さやか「あぁー……。そういやそうだったわ。母さん、今年もイライラしてるんだろうな……」
杏子「だな……」
ちらりと、顔面に重装備をしたさやかの母親を思い出す。
薬はあんまり効かない上に、眠気ばかりが強くって耐えられないのだとか。
さやか「毎日ブルーデーかって感じでこっちまでイライラするんだけど、
すっごい可哀想だから何にも言えないんだよね……」
杏子「花粉症だけはかかんなくてよかったって、ホント思うよ……」
さやか「……安心するのは早いかもよ?」
杏子「う……。何だっけ、身体の許容量を超えると、途端に発症するとかだっけ」
さやか「うん、そんなんだった気がする……。予防すべきかなぁ……」
杏子「……最悪、治癒魔法でなんとかしてくれよ」
さやか「いや無理でしょ……。怪我じゃないし……」
150 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/16(月) 02:48:55.19 ID:KlKiolbe0
しえ
ガシャコン!
さやか「えーっと……」
今度はJRの改札を潜り、電光掲示板を見上げて時間を確かめる。
次の蘇我行きまで……約1分。
さやか「……杏子! 走るよっ!」ダッ
杏子「え? ちょ、待てっ!」ダッ
すぐ目の前、階段を一気に駆け下り始める。
さやか「そろそろ電車が来ちゃうんだよ」タタタ…
杏子「そんな急がなくても……。ってか、この階段、すげー長いな……」トタタ…
真っ直ぐ降りていく階段の長さから見るに、さっきの駅の倍以上に地下深くらしい。
足を踏み外したら大けがをしそうだ。
さやか「もう電車が行っちゃったあとならいいんだけどさ。
ホームに降りて、その瞬間に目の前で発車されるとすっごい悔しくない?」
杏子「気持ちは分かるけど、コケんなよ?」
さやか「大丈夫!」
ドダタタタ…
――そして、電車に揺られて数駅――
ガコンガコン… ガコンガコン…
東京へ向かう上りの電車に比べ、下りの京葉線はかなり空いている。
杏子 (平和だなぁ……)
地下を走る区間もとうに終わり、窓には明るい風景が流れている。
工場ばかりで味気ないが、まっ暗で何も見えないよりは余程ましだ。
それをぼーっと眺めていると、
「まもなく 舞浜 舞浜…」
さやか「あ……次だね!」
杏子「次で降りるの?」
さやか「うん。……ふふふ。降りれば、どこに行きたかったのかは分かると思うよ」
杏子「……?」
だが、降りるよりも早く、
「お出口は右側です ディズニーリゾートラインはお乗り換えです…」
杏子 (………え、まさか?)
車内放送の一言。そして、急に楽しげに変わった車窓の風景から、杏子はようやく何処に向かっているかを理解した。
ガタン バタン…
改札を抜けると、もう目の前がディズニー一色だ。
窓が可愛らしい形をしたモノレールが、目の前をゆっくりと通り過ぎていった。
さやか「つーいたー! って……杏子?」
杏子「………」キョロキョロ
先ほどから杏子は、目を見開いて周りを眺めているだけで黙ったままだ。
さやか「杏子ー!」ペシッ
杏子「っ! ……あ、な、何だ……?」
肩を叩かれてようやく反応する。
さやか「もう、どしたのさっきから。電車降りてから、何か変だよ?」
杏子「いやその……。ここはどう見ても、噂に聞く、東京ディズニーリゾート……だよな……」
さやか「うん。今日は二人で、ディズニーランドで遊ぼうと思ってつれて来たのよ。しかもあたしの奢り」
杏子「マジで……?」
さやか「マジです」
さやか「……あれ。もしかして、お気に召さなかった……かな?」
明らかにおかしな様子に、ちょっとだけ不安になるが…
杏子「い、いや、そーじゃねーよ!」クルッ
さやかの方向に向き直り、はっきりと否定する。
杏子「そーじゃなくって……。すっごい嬉しいっていうか、楽しみすぎて落ち着かないって言うか……」ポリポリ
頬をかきながら、目線をそらして。
さやか「……ふふ、そっかそっか。良かった! ……驚いた?」
杏子「そりゃな、現在進行形で驚いてるぞ。普通に買い物でも行くのかと思ってたから……」
さやか「あはは。お出かけしよう、としか言ってないもんねぇ」
杏子「ああ。……でも、本当に、いいのかな……」
さやか「へ? なんでよ?」
杏子「その、なんか……いや。何でもない……」
言いたくないのか、なんだか声も小さく要領を得ない。
さやか「……そう? さ、行くよっ!」グイッ
杏子「わっとと、引っ張るなって!」
155 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/16(月) 03:17:36.02 ID:uQ3Yicj7P BE:2522372966-2BP(0)
エントランスへと続く長い陸橋を歩いていくと、
すぐに大きなディズニーショップが目に入る。
杏子「『ボン・ヴォヤージュ』? もう営業してるんだな」
さやか「ここも、ディズニーグッズのお店だったかな……?
買い物はま、後でいいんじゃないかな。園内でも買えると思うし」
杏子「そうだな」
とりあえず通り過ぎ、大きなアーチを潜ると、今度は前方に巨大な建物が目立つ。
杏子「……何だろ、あれ。随分と豪華な建物だな?」
さやか「ん? あぁ、ディズニーランドホテルじゃない? いっぺん泊まってみたいよねー」
杏子「はぁー、ホテルまであるのか……。すげぇなココ……。
駅からもうずっとディズニー一色だし、何もかもデカくて広いし……。まさにリゾートだ」
さやか「ふふふ。ディズニー市と言われるだけあるよね。
ここ浦安市の税収、ディズニーがあるおかげでものすごい潤ってるって話だし……」
杏子「だっろうなぁ……」
さやか「浦安市の成人式って、ディズニーランドでやるって言うくらいだしね」
杏子「成人式までディズニーかよ……」
さやか「うん、たしか。無料ご招待で一日遊び放題だって。ちょっと羨ましい……」
ガヤガヤ…
広々としたエントランスには、平日のこんな時間だというのに、もう結構人が居る。
杏子「結構居るモンだなぁ……」
同じぐらいの年齢層が多いが、親子連れもちらほらと見える。
さやか「だねぇ。平日なら結構アトラクション乗り放題と思ってたけど、見通しが甘かったか……。
ま、夏休みよりはマシだと思うけど」
杏子「えっと、チケットは……あそこで買うのか」
チケットカウンターを見つけ、足を運ぼうとするが、
さやか「へ? 何言ってんの。ちょい待ちなさい」ガシッ
杏子「え?」
腕を掴まれて立ち止まる。
さやか「んーっと……」ガサゴソ
そのまま自分の鞄を漁ると、
さやか「あったあった、まさか忘れたかと思って焦った……」
折りたたまれたA4の紙を2枚取り出した。
さやか「ほい。パスポート、あんたの分」ヒョイ
158 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/16(月) 03:26:59.03 ID:uQ3Yicj7P BE:420395832-2BP(0)
杏子「え……?」
さやか「今日はあたし持ちって言ったじゃん。忘れたの?」
杏子「いや、そーいやそんなこと言ってたけど……。いいのかよ本当に……」ガサッ…
気後れしながらも、受け取った紙を広げていく。
杏子「あれ、これってパソコンの印刷……だよな?」
さやか「うん。ディズニーeチケットとかいうやつ。ネットで買って、印刷して使えるんだよ」
杏子「へぇー……」
インクジェットの鮮やかな青色で印字された、チケットの情報を読み取る。
1デーパスポート、大人一名様、6,200円也。
杏子「……や、やっぱ悪いって。高いじゃねーか……」
さやか「そりゃ安い物ではないけど……。って、そっか。……ちゃんと言ってなかったか」
杏子「ん……? 何をだ?」
さやか「チケットに限らずね。今日という一日が、私から杏子への贈り物……ってことを、さ」
杏子「………?」
さやさや優しい
161 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/16(月) 03:37:16.81 ID:HJ8ri5CRO
男前さやさや
さやか「多分あんた、今日が何の日かも理解してなかったでしょ?」
杏子「今日……? 今日は……」ゴソッ
ポケットから取り出し、スマートフォンの表示を確認する。
杏子「3月14日……。……? ってああ! ホワイトデー?」
何とか思い出し、大声を上げる。
さやか「正解。ホントに理解してなかったか……」
杏子「え、じゃあもしかしてコレは……」
さやか「そういうこと。今日一日は、バレンタインデーのお返しなのよ」
杏子「な、なるほど……」
ようやく、さやかの妙な態度やら、今日の不思議に対する疑問が氷解するが…
杏子「……いや、それでもやっぱりこれは。してもらい過ぎっつーか………」
なかなか頑固で納得してくれない。
さやか「うーん……。そんなことないんだけどな。これでも足りないくらいだよ?」
杏子「そんなわけないだろ。あたしがあげたの、ケーキだけじゃんか……」
さやか「……それだけじゃないんだよ」
杏子「……?」
目線だけ送り、横顔で続ける。
さやか「これはね。確かに、バレンタインにくれたケーキへのお返しでもあるんだけど……。
それだけじゃない。あの日、杏子が警察署まで迎えに来てくれて、
すっごく嬉しかったことへのお礼でもあるし……」
杏子「あれは……。心配だったから……」
さやか「おいしいご飯を作ってくれたり、私のつまらない悩み事を聞いてくれたり……。
そんな、いろんな毎日への……感謝を込めてのお返しなんだ」
杏子「感謝……」
真っ直ぐに向けられる善意が、なんだかくすぐったい。
さやか「いつもさ。お出かけするときも、杏子に誘って貰うばっかりで、
なんだか私ばかり楽しませて貰ってばっかりだなって、そう思ってね」
杏子「そ、そんなことは……」
杏子 (……あたしの、好きで誘ってるんだし………)
さやか「ね、だからさ……。受け取って貰えないかな?
私は杏子に、心から楽しんで欲しいって、そう思ってるだけなんだ……」
杏子「………」
164 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/16(月) 03:47:01.58 ID:uQ3Yicj7P BE:1961846047-2BP(0)
マミ「……」コソコソ
ほむ「……」コソコソ
165 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/16(月) 03:50:35.91 ID:wZcDvU8Qi
これは支援せざるをえない
主マジでつまらん
杏子「……分かったよ」ハァ…
困ったような笑顔で息をつき、受け入れる。
さやか「ふふ。……ありがとう!」
杏子「いや、お礼を言うのはこっちじゃないか……?
正直、さやかと二人でディズニーランド回れるだけでも嬉しいぐらいだし……」
さやか「ううん、あたしも嬉しいもん。……え、えっと、それじゃ……左手を出して?」
杏子「……? 左手?」ヒョイ
また訳が分からないと思いながら、言われるままに差し出す。
さやか「っと……はい」スッ
差し出された手を取ると、杏子本人の魂が輝く隣。
その薬指に、さやかは自分のソウルジェムをそっと嵌めた。
杏子「は? ………へ?」ジッ
自分の左手とさやかの顔を、交互に見て確認する。
杏子 (これは、さやかのソウルジェム……左手の薬指? え……!?)
さやか「そ、その……。今日は一日、好きにしていいよ……? あたしのソウルジェム」
168 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/16(月) 03:54:30.02 ID:oczm6H880
けつこん!
169 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/16(月) 03:54:31.11 ID:uQ3Yicj7P BE:2101977465-2BP(0)
ここに来てスレタイ回収ktkr
ついにスレタイきたか。
結婚指輪代わりって意味だったんだな?
171 :
忍法帖【Lv=6,xxxP】 :2012/04/16(月) 03:57:36.79 ID:AwmoOYuW0
今日はずっと傍にいますってニュアンスか
杏子「ど、どういう事だよ……!?」
さやかの狙いが分からず、でも狙い通りに深い意味を意識してしまい、目を白黒させる。
さやか (……さ、さすがに攻めすぎたかな………?)
さやかもちょっと顔が赤い。
さやか「んと……そうだね。今日は特別な日だから、いつもと違ったことがしてみたいな、ってのも正直あるけど……」
気恥ずかしそうに微笑みながら。
さやか「今日の主役はさ、杏子だから。
これから一日、杏子の行きたい先ならどこにでも、ずっとそばについて行くから。
杏子が楽しむためなら、私に好きなだけリクエストをくれていい……」
杏子「さやか……」
さやか「えと、ま、そんな意思表示……かな……はは……」
杏子「ほ、本気、なんだよな……?」
さやか「……うん。ダメかな……?」
上目遣いなさやかに返事をする代わりに。
杏子「………」グッ
杏子はずっと睨んでいた左手を、指輪ごと強く握りしめた。
杏子「で、でも……。さすがに、危なくないか?」
さやか「大丈夫だよ。100mって、意外とあるモンだよ」
杏子「けどな……」
何かの拍子に、途中で死体にでもなられたら目も当てられない。
さやか「……心配ならさ、ほら」ヒョイ
今度はさやかが右手を差し出す。
杏子「………」
その分かりやすい意味を誤解することはなく、
ギュッ
と、優しくつなぎ止めた。
さやか「……離さないでね、ずっと」
杏子「あ、当たり前、だろ……!」ドキドキ
夢の国への期待に、さやかの態度に、必要以上に高鳴る心臓。
杏子 (が、頑張れあたしの理性……!)
杏子はそれを左手で押さえつけながら、右手はさやかを引き、ゆっくりとゲートへ向かっていった。
あんあんさやさやかわいい
175 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/16(月) 04:08:21.03 ID:KlKiolbe0
しえ
176 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/16(月) 04:08:25.38 ID:uQ3Yicj7P BE:2452306875-2BP(0)
星のかけらとして回収されるさやかの死体を想像した
杏子「うわー、でかいな……!」
ゲートを潜ってすぐ、お土産屋さんの並んだワールドバザール。
巨大なガラス張りのアーケードを見上げながら歩く。
さやか「一つの街みたいだよね、ここ」
杏子「だな……。ホントに別の国に来たみたいだ……。お土産は大体、ココで揃いそうだな」
さやか「うん。あーでも、結構いろんな場所にショップあるから、途中で覗いていっても面白いんじゃない?
別に買わなきゃいけないわけじゃないんだし……」
杏子「そっか、確かになー」
そのまま真っ直ぐ通り抜けると、開けた視界に大きくそびえるシンデレラ城。
杏子「おお、お城も……。でかい上に随分と綺麗だ……。すごいとしか言えない」
さやか「ふふふ。夜になると、ライトアップでもっと綺麗になるはずだよ」
杏子「いいな、楽しみだ。それにしても……」
足を止め、ゆっくりと周囲の風景を眺める。
さやか「ん?」
杏子「……何つーか、広すぎるな、ここ。一日で全部回るのは無理そうだ」ハァ…
さやか「……それは諦めなさい。あたしも来たとき、一日じゃ半分も回れなかったから」
杏子「うーん、となると……」カササ…
エントランスで貰った、パークのガイドマップを広げる。
杏子「どこから攻めるべきか迷うよな……」
さやか「そうだねぇ……。アトラクションなら、とりあえずファストパスがある奴ぐらいは回ってみたらいい、かな……?」
杏子「ファストパス?」
さやか「特に混む人気アトラクションだと、並んで待つのがだるい人のために、
時間指定の予約チケットみたいの貰えるんだよ。ほら、このマーク」
と、アトラクション一覧に併記された「FP」のマークを指さす。
杏子「へぇ……。そんな便利な物が……」
さやか「もちろん、ファストパスが無いけど面白いのもいっぱいあるし、
一応調べた限りは案内できるけど……」
杏子「……ううん、正直、全部面白そうなんだよな。あたし、遊園地のたぐい自体が初めてだから……」
さやか「あ……そっか……!」
たしかにあの日、そんなことを言っていた気もする。
それ以降にも、遊びに出かけたという話は聞いた覚えがない。
179 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/16(月) 04:21:39.14 ID:uQ3Yicj7P BE:4414152097-2BP(0)
支援
これは寝れない…支援
さやか「ま、それなら、杏子の行きたいように行けばいいよ。
全部回るのは無理でも、時間は十分あるし、気分次第で歩いて回ればいいんじゃない?」
杏子「……へへ、それもそうだな。じゃ、まずはあの城を目指す!」グッ
シンデレラ城を指さし、手を引いて歩き始める。
さやか「っとと。んー、今はたしか、中に入れるんだったかな……」カサッ
片手でガイドを確認する。
杏子「え? 前は入れなかったのか?」
さやか「うん。昔はなんかミステリーツアーって、冒険ストーリーのアトラクションがあったけど、
それが無くなってから改装してたとかで。あたしんとき入れなかったんだよねー」
杏子「へぇー。今は、えっと……『シンデレラのフェアリーテイル・ホール』か」
さやか「映画のシンデレラに合わせた城内を見学できるみたいね。
ふふふ、シンデレラかぁ……。乙女のロマンよねぇ……」
ちょっと遠い目をしてみせる。
杏子「あたしらは魔法かけて貰う側じゃなくて、魔法使う側だけどな。……しかも血を見る系」
さやか「そ、そーいうところで現実に引き戻さないでよね……」
杏子「ははは。悪い悪い」
それから二人は一日中、仲良くディズニーランドの隅々までを歩き回った。
シンデレラ城の中では――
さやか「綺麗……」
杏子「まさに、プリンセスの部屋って感じだよな……」
円形の大広間、高い天井を見上げながら呟く。
豪奢なシャンデリアが眩しい。
さやか「……『カリオストロの城』にさ、こんな部屋出てきたよね」
杏子「あー! あったな。クラリスが閉じ込められてる部屋だ」
玉座の対面には、ガラスの靴と椅子が据えられ、小学生ぐらいの女の子が写真を撮っていた。
さやか「かわいい足してるなぁ、あの子……。あたしも履けないかな、ガラスの靴」
杏子「無理だろ……。あたしもさやかも、結構足でかいじゃん……」
さやか「あはは。ですよねー……」
杏子「………でもまぁ、ガラスの靴なんかなくたって、さやかは……」
さやか「へ?」
杏子「あっ、いや! 何でもない……」
杏子 (あぶなっ、空気に飲まれてバカやらかすところだった……)
183 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/16(月) 04:33:35.48 ID:uQ3Yicj7P BE:3363163586-2BP(0)
しえん
スプラッシュマウンテンに移動して――
杏子「っぷぷ、前に座ってた男、すげー顔してる……」
さやか「っちょ、杏子、居たらどうすんのよ……ぶふふ」
帰路のトンネルの中、落下の瞬間を捕らえた写真を指さして笑う。
さやかも杏子も、落ちているのに随分にこやかに写っている。
杏子「すごい声上げてたもんな……。苦手なら乗らなきゃいいのに」
さやか「いやー、でもまー、声上げる愉しさってあるしさ?」
杏子「確かになぁ。……よし、そんじゃもう一回行こう」グッ
手を引いて、また搭乗口に向けて歩き出す。
さやか「ま、またですかい……! もう三回目だよ……?」
杏子「いいじゃんいいじゃん。何かさー、落ちる瞬間の、あの身体が浮いた感じが快感って言うかさ……」
さやか (初めてでもう、ジェットコースターの落下感にハマってしまわれたか……)
さやか「まぁ、今日はとことん付き合うつもりだからいいけどさ。
あとで、他行っとけばよかったーって。後悔しても知らないよ?」
杏子「うぐっ……。じゃ、じゃあ次が最後ってことで……どうだろうか……?」
さやか「はいはい。次が最後ね、そうなるといいわね」
両片想いのいじらしい様はいいものだ
ホーンテッドマンションにも乗って――
杏子「はぁ……。別に怖くもなかったな……」
さやか「まー、マジで怖いお化け屋敷とかあっても、雰囲気ぶち壊しだろうしね。子供泣いちゃうよ。楽しい系だね、これは」
杏子「確かにそうだな……」
さやか「ふふふ。……ビビり損だったねぇ、杏子ちゃん?」
杏子「ビ、ビビってなんかねぇよ! お化け屋敷ぐらいでこのあたしが……」
さやか「……ふぅん? じゃあまた今度、『戦慄迷宮』とか行ってみる?」
杏子「なんだそれ……?」
さやか「所要時間約一時間という、かなーり長くてかなーり怖いという噂のお化け屋敷」
杏子「い、一時間だと………」
さやか「廃病院がテーマらしくてさ。ほとんど明かりもない中、懐中電灯だけを頼りに、
出口を求めてさまよい歩くんだとか……。いいよね、霊安室とか、手術室とか……」
杏子「………」ゴクリ
い
さやか「……お化け屋敷ぐらいじゃ、全然ビビらないんだよねー?」
杏子「………い、いいよ、分かったよ。行ってやろうじゃねぇか!」
声は力強い。でも、握った手は少し震えていた。
187 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/16(月) 04:44:57.79 ID:uQ3Yicj7P BE:1261186463-2BP(0)
そんなのあるのか
富士急ハイランドにあるやつな
190 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/16(月) 04:50:35.51 ID:uQ3Yicj7P BE:1261186092-2BP(0)
1時間って内容関係なくけっこうキツそうだなwww
ビッグサンダーマウンテンでは――
杏子「んー。ちょっと並ぶなー……」
さやか「さっきまでが空きすぎてたんじゃない? あたしたち結構早くに来たから……」
看板の待ち時間表示は、30分。
さやか「どうする? ファストパス取って後回しにする?」
杏子「……いや、並ぼう。あとから時間通りにここ戻ってこないといけない、って縛られるのも何だ」
さやか「そっか」
入り口を潜り、列の最後尾を目指して歩を進める。
杏子「少しは休憩って感じも入れてかないと、まだまだ先は長いからな」
さやか「それもそうだね。ま、30分なんてマシに見えるしなぁ。
夏休みに来たとき、2時間待ち3時間待ちが普通だったよ……」
杏子「さ、3時間……? ほとんど並んでることしかできねーじゃねぇか……」
さやか「だからほら、この入り口から並ぶスペース、無駄に広いでしょ?
ここが人で埋まるのよ」
杏子「あー、成る程な……。学生の特権かもなぁ、空いてる時に来られるって」
さやか「だねぇ」
ホーンテッドマンションの途中でキスすると別れないジンクスあったよね
「ひやぁぁぁぁ……」
遠くから、甲高い悲鳴が聞こえてくる。
杏子「……叫んでるなー。そんなに激しいのか?」
さやか「いやー、これはそこまで怖くなかったと思うけど……」
杏子「そっか。なら、苦手な奴の罰ゲームとかって事も――」
ブブブッ ブブブッ
杏子「っと。メール?」ゴソッ
短く鳴ったスマートフォンを、ポケットから取り出して確認する。
杏子「んー……。あ、早苗だ」ピッ ピッ
さやか「お! 何だって? 最近連絡無かったから、気になってたんだよね。
今度は向こうが期末試験だし、あんまりちょっかいも出しづらくてさー……」
興味津々で覗き込むさやか。
杏子「『今週末、お茶会しませんか? 今はヒミツですが、素敵なお知らせがあるのです!』……だって」
さやか「……? 素敵なお知らせ? まるで迷惑メールみたいな言い方するわね……」
杏子「確かに……。ま、元気そうだしいいんじゃねーか。了解って返事しとくよ?」
さやか「うん、よろしく!」
トムソーヤ島にも渡り――
ブロロロロロロ…
水音に混じって、低いエンジン音が五月蠅い。
杏子「大丈夫なのかな、このイカダ……」
見た目、木組みに柵を付けた程度の原始的な様子に、不安げな顔。
さやか「さすがに安全対策はしっかりしてると思うよ?」
杏子「だよなぁ……」
さやか「ま、それだけ演出が上手いってことよね。大自然って感じの雰囲気出てるし……」
杏子「確かにな。あんだけ壮麗な城から徒歩数分でコレってのはなかなか。
……あのへんの植物全部、いわゆる造花、だったりはしないよな?」
さやか「いや、どう見てもホンモノでしょ……」
カーン カーン カーン… ブォォォ…
少し離れた位置、マークトウェイン号から、鐘の音と汽笛が響いてきた。
杏子「何だ……?」
さやか「ああ、あっちも出発するみたいだね。たしか、この池を一周するやつだよ」
杏子「へぇー、浮いてるだけかと思ったら、あのデカいのも動くのか。後で見てみようっと」
くすぐり糖尿の人?
ジェム姦期待しとく
お昼になると、クリスタルパレス・レストランへ向かい――
杏子「………」ガツガツ モグモグ…
ガラス張りの天井から日差しがそそぐ、気持ちのいいレストラン。
さやか「………」
だがさやかは、もりもりと喰らいつづける杏子を見て、ちょっと暗い顔。
杏子「ん? どうしたモグさやか、食べないとハムム勿体ないぞ?」
さやか「あんたねぇ……。バイキングだからって、どんだけ食べるつもりよ……」
杏子の目の前、ミッキーマウスを象った取り皿には、山のように料理が積まれている。
洋食が中心で、スパゲティに、赤ワインで煮込んだ牛肉やら、ソーセージやら、海老のフライやら。
サラダもこんもりと積まれて偏食で無いあたりは、まあ健康的なのだろう。
杏子「いや、でもこれホントムグムグ美味いぞ? 食べないのが申し訳ないモグっていうか……」
さやか「美味しいよ、美味しいけどさ……!」モグモグ
さやか (食べっぷりといい幸せそうな顔といい、見てて気持ちいいぐらいな所もあるけど……)
杏子「……っし、次は何取ってこようかな?」ガタッ
いつの間にか山を平らげ、次の獲物を取りに向かう。
さやか (限度ってもんがあるわよねぇ……)
キャッスルカルーセルなんかにも乗ったり――
杏子「結構速いなー」
さやか「あはは」
ズンチャッチャ ズンチャッチャ
夢見心地のメロディーの中、ゆったりと上下する白馬に揺られ、二人並んでぐるぐる回る。
杏子「なー、さやかー!」
さやか「何ー!」
BGMに負けないよう、ちょっと大きめの声で会話する。
杏子「メリーゴーランドってちょっと恥ずかしかったけど、いいな、これ!」
さやか「でしょー!」
杏子「何か癒される感じがある!」
さやか「これはこれで嫌なこと忘れられるよねー!」
杏子「……一人乗りなのが残念、だけどなー」
さやか「え? 何か言ったー?」
杏子「いや! 何でもねーぞー!」
パレードも少し見ながら――
人混みの後ろから、少し背伸びをして覗き込む。
軽快なテンポの曲に合わせて、一糸乱れぬ動きで踊るキャスト達。
杏子「うぉ、やるなぁ……。アトラクションの案内してる人もそうだけど、みんな訓練されてるよなー」
さやか「すごいよね。ミスとかしないんだろうか……」
キメのポーズと共に音楽が一旦止まり、拍手がわき起こる。
さやか「どうする? パレードも面白いけど、人があつまるからそのスキにアトラクション、ってのも有りだよ」パチパチ
杏子「ああ、そうか……。そうだな、ならアトラクション行こう。何処が空いてるんだろ……」パチパチ
さやか「……あ、そうだ。調べられるんだよね、これで」ゴソ
鞄からスマートフォンを取り出し、ブラウザを起動する。
しばらく操作すると、ファンタジーランドのアトラクション一覧が待ち時間と共に表示された。
さやか「ほらほら、公式サイトで見られるんだよ」
杏子「何だ、こんな便利なものあったのか……」
さやか「ごめんごめん、忘れてたよ。えっと……。あ、『プーさんのハニーハント』、意外と空いてる」
杏子「いいね、行こう行こう。ハチミツ食べたい」
さやか「いや、そういうハチミツ食べ放題的なアトラクションじゃないけどね?」
あんあんさやさや
少し早めに、ブルーバイユー・レストランで夕飯を摂り――
楽しげで、明るく賑やかな外とは異なり、薄暗く落ち着いた店内。
さやか「ふお、やっわらかーい……」モグモグ
テーブルの上の頼りないランプのおかげで、なんとか表情が分かる。
杏子「美味いな、このステーキ……」カチャ…モグモグ
さやか「プライオリティ・シーティングで予約できるっていうだけで選んでたりするけど、
良かったね。なんだか静かで雰囲気もいいし、美味しいし……」
杏子「だな。こういうちゃんとしたコース料理みたいの、ちょい構えちまうけど……。
そこまで硬い感じでもないし……」
なんて言いつつ、ちらりと、周りのテーブルを見てみる。
細かい様子までは分からないが、どのテーブルもカップルでの利用が多いようだ。
杏子 (うーん、あ、あたしたちも……そう見えたり……?
だとしたら、あたしはさやかに相応しい恥ずかしくない態度じゃないと……。
いや、落ち着け、意識しすぎだ……)
そんな独り相撲で、勝手に硬くなる杏子。
さやか「お昼に結構食べたけど、思いの外入る物よねー」
杏子「え……? あ、ああ、そーだな。ずっと歩きづめだからなぁ。……まあ、あたしは寝てても入る自信あるけど」
さやか「あんたはね……」
残りの時間、バズ・ライトイヤーのアストロブラスターにも乗って――
ピュイン! ピュイン!
暗い中ゆっくりと動くライドから、標的めがけて光線銃を撃ちまくる。
杏子「っら!」
わりと上手に当てているらしく、スコアは順調に増えているようだ。
さやか「やるわね……。さすがアーケードゲーマー」ピュイン!
杏子「さやかには負けねぇ……!」ピュイン!
さやか「負けるどころか、すでにダブルスコアつけられてるっての……!」
そうして熱中していると、時間が経つのも早く、ゲームも終了。
杏子 レベル5 388,000点
さやか レベル3 94,000点
杏子「あー、くそ、全然ダメだな……。結構当てまくったと思うんだけどなー。ほんとにカンストすんのか……?」
悔しそうに、苦々しげに呟く。
さやか「いや、かなり上手かったと思うよ……? 4倍とかお手上げ過ぎる……」
杏子「へへ、さやかはボコボコにできたからよしとするか……!」
さやか (うーん。超高得点の隠れターゲットがあるらしい、という話はそっと胸にしまっておこう……)
さやっ
そしてお土産も買って――
ガヤガヤ… ザワザワ…
夜のワールドバザールは、「帰るついでにお土産を買おう」と、同じ甘い考えの客でごった返している。
杏子 (うーん……。あたしがミッキーだろうか、さやかがミッキーだろうか。……ミッキーさやか?)
そんな中、丈のある身体を小さくして、じっと棚を見つめて悩む杏子。
さやか「ふぇー、レジ長かったぁ……。あれ杏子、どしたの?」
両手にお菓子だらけの袋を掲げて声をかける。
杏子「ぬぁ! い、いやちょっとな……」
さやか「あ、ストラップか。いいじゃん、お揃いの買おうよ」
杏子「あ、ああ! ……でもなんか、全く同じのよりは、違うキャラのがいいかなって……。
そうすると、どっちがどのキャラか悩むんだよなー……」
さやか「……なら、これいいんじゃん?」
と、手に取ったのはセットのペアストラップ。赤いミニーと、青いミッキーが対になって組み合うようになっている。
さやか「これなら、杏子が青色を持って、あたしが赤色を持てば、お互いの色が持てていいんじゃないかなって……」
杏子「………よし、買ってくる!」ガシッ スタスタスタ…
さやか「あ、ちょっと? そんな急いでもレジ混んでるよー!」
204 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/16(月) 05:44:47.18 ID:O+bz9f8l0
ディズニーランド分かってると楽しいスレだな
しかしもう寝なきゃ……
未経験でも行きたくなってくる
一度ぐらいはやっぱなぁ
――帰路――
杏子「いっやー、楽しかった!」テクテク
さやか「遊びまっくちゃいましたねー!」トコトコ
明るい日差しの中、わくわくと歩いてきたのも今は昔。
もう周囲はすっかりまっ暗で、薄暗い街灯の中、駅への陸橋を歩く。
杏子「結構みんな、閉園間際までいるもんなんだな……」
周囲の他人をちらほら眺める。夜10時近いにしては賑やかだ。
さやか「そりゃー遊べるなら、居られるだけ居たいでしょー。あんたも名残惜しそうにしてたじゃん?」
杏子「う……。ま、まぁな……」
さやか「……ふふ。またいつか、遊びに来よう?」
杏子「そうだな。さすがにそう何度もは来れないし……。またいつか、そのうち」
さやか「あはは……。今日はちょーっと贅沢しすぎたもんねぇ……」
杏子「あたしも結構買ったけど……。さやか、あの大量のお土産どうすんだ?
おかげで宅配便で送るハメになって、まぁ手ぶらで楽ではあるけどさ……」
さやか「え、そりゃー、自分で食べるのもあるけど……。
一応マミさん、まどか、ほむらの三人にも、とかいろいろ考えてたら増えちゃってさ……」
杏子「あぁー、あいつらか。休み明ける前に会っときたいな……」
さやか「………」
杏子「………」
駅が近づくにつれて、なんとなく寂しく、無口になる二人。
さやか (さて、と……)
緊張し、静かに唾液を飲み込む。
まださやかには、一番大事な予定が残っている。
さやか (夕飯時からここまで、いい雰囲気のタイミングは何度もあったのに……)
思い返す。ああ、あのとき言っておけばと、過去の自分が歯痒い。
さやか (ここまできて日和ったら、多分。私の明日は二度と来ない)
きっと今日はもう、最後のチャンスだから…
さやか (な、なるようになれっ……!)
さやか「ねぇ! 杏子!」
杏子「うぁ? ど、どうかしたか?」
さやか「ええっと……。ちょっとさ、歩き疲れたし。そこ下りて、休憩しない……?」
杏子「ああ……なんだ。いいよ、行こうか」
208 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/16(月) 06:00:37.73 ID:KlKiolbe0
切ない
しえん
陸橋から、駅前を一階に下り、タクシーの溜まるロータリーの中央。
人の居ない静かな噴水の前で、ベンチに並んで座る。
さやか「静かだし、何か、綺麗で、いいね……」
杏子「そうだな……」
さやか「………」
さやか (う、うう……)
自分自身が原因だと分かってはいても、なんとなく重たい空気が辛い。
さやか (……大丈夫。今日まで、何度も頭の中で繰り返してきたんだ。
あたしが杏子をどう思っているのか、自分でもまだ曖昧だけど……。
でも、それも含めて、伝えなきゃならないってことは確かなはず……)
さやか (ただ、思っていることを伝えれば良いんだ。
きっと杏子は、ちゃんと真摯に聞いてくれる……)
さやか (よし―――)
決心し、ついに杏子へと声をかけようとしたが、
杏子「なぁ、さやか?」
さやか「っ……え? な、何?」
一瞬早く。先に口を開いたのは、残念ながら杏子の方だった。
ついに動くか!
杏子「えっと……。今日はその、ありがとう、な……」
さやか「……え。うん、こちらこそ……」
落ち着いた声で語り始める。
杏子「何つーのかな……。最高の一日だった。本当に嬉しい贈り物だったよ。
あたしなんかが、こんなに幸せで良いのかな、って思うくらいに……」
さやか「……なに言ってるのよ。あたしも、杏子と一緒で……幸せだったよ?」
杏子「……そっか」
暗い空を仰ぐ。
モノレールが邪魔をしているが、晴れた空に少しは星が見える。
杏子「その……覚えてるか? 昔、中学校の夏休み、さやかが家族と行ったとき。あたしにお土産をくれて……」
さやか「あ、うん……。覚えてる。あたしが、ちょっと無神経にはしゃぎすぎたなって思ってたんだ。……ごめんね」
杏子「ん、いや。それはあたしの事情だから、さやかが気にする事じゃないよ。
あれ以来ずっと、行ってみたいなぁ、って思っては居たけどな……。
でも同時に、あたしは……こういうとこ来ちゃ行けないんじゃないかって、そんな風に感じてたんだ」
さやか「え? どうしてそんな……?」
杏子「………何となく。家族が居て、幸せに暮らしてて、
そういうあたしとは違う世界の住人のための物で、あたしが行くべきじゃない、っつーみたいな……」
さやか「………」
杏子「だから今日は、すげー幸せだった。
さやかが連れてきてくれたおかげで、手に入らないはずの物が手に入ったみたいで……」
自分に呆れるように笑う。
杏子「さやかはさ。今日、あたしへの毎日のお返しとか何とか、言ってたと思うけど……」
さやか「……うん」
杏子「あたしもさ。今日だけじゃない。さやかと二人で暮らしてて、毎日幸せだったよ。
出会ってからずっと、ひとりぼっちのあたしの側に居てくれたのが、さやかで良かったって……心から思う」
さやか「………ふふ。ありがとう」
杏子「変な言い方かもしれないけど……。さやかとずっと、家族ごっこができて。
あたしは、分不相応に幸せだったんだよな、今まで」
隣で見つめる、さやかの顔を見つめ返して。
さやか「ぶ……分不相応って。さっきからそんなことばっかり言ってるけど……。
誰にだって、幸せになる権利はあるんじゃない?」
杏子「………」
さやか「それに、家族ごっことか……言わないでよ。
あたしは杏子を、本当の家族と同じぐらい、大切な存在だって。そう思ってるから……」
杏子「ああ……。やっぱり、優しいよな………」
さやか「………?」
杏子 (そう。こんなにも優しい、二人と居ない友達を……。あたしは汚していた)
杏子「うん……でも、な……」
また空を見上げて。語りがだんだんとゆっくり、重くなっていく。
杏子 (だから、あたしのため、さやかのために。この夢は終わらせなきゃいけない)
杏子「……そんな優しさに甘えるのも。もう……終わりににしなくちゃなって、思ってる」
さやか「………え?」
急に不穏な台詞を言われ。
優しい笑顔のまま、さやかの表情が凍る。
杏子「これ以上……。甘えちゃいけない気がするんだ」
さやか「え……終わり、って、ど……どういう?」
杏子「んと……。あたしは今、さやかに依存しすぎてる気がするんだ。
でも、あたしにも、さやかにも、ホントはそれぞれ別々に、自分の人生があって……。
一人で歩いて行かなきゃならない、そういうもんなんだよな……」
杏子「このままじゃ、自分が、さやかとの生活から戻れなくなりそうで……。
だ、だから。ルームシェアやめて、一人で暮らそうかなって……。思ってる………」
杏子の語尾が震える。
それにさやかは気づくことなく、ただ、意味を理解するので精一杯だった。
215 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/16(月) 06:26:53.97 ID:KlKiolbe0
しえ
さやか「……ど、う……してよ? 何で、杏子、そんな必要……」
杏子「……まぁ、その、悪いとは思ってる。あたしが勝手に依存して、
勝手に今の生活やめたいって、すげーワガママ言ってるからな……」
さやか「そんなこと、あたしだって……杏子が……」
杏子「でもその……正直、もう決めてるんだよな……。
このままじゃいけねーって、それだけは間違いないと思ってるから……」
さやか「う……嘘……! そんな……」
想定していた中でも最悪のパターンに、動揺を隠すことが出来ない。
杏子「あーっと……。誤解しないで欲しいけど、さやかと暮らすのがもう嫌だとか、
そういう事じゃ全然無いんだ。
ただ、あたし自身にけじめ付けないとっていう意味だから……」
さやか「………」
もう杏子の顔を見ているのも辛く、両手に顔を預けて目を背ける。
杏子「最後にさ。こんだけすげー贈り物をして貰って……。
とっておきの想い出が作れて。良かったと思う。だからきっと、この先頑張れるかなって……」
杏子「これからもずっと。さやかは、あたしの最高の友達だから……」
さやか「……! とも、だち………」
杏子「……今まで、ありがとう、さやか」
さや…
そのまま、杏子が口を閉ざして十数秒。
さやか「ごっ……ごめんっ!」ガタッ
杏子「え?」
急に立ち上がり。
さやか「ちょっと、お手洗い行ってくる……!」ダッ
杏子「あっ、おい!」ガタッ
うつむいた顔は隠したまま、さやかは駅の方へ駆けていってしまう。
駆け出した拍子に落ちた、可愛らしい帽子。
杏子「………」
それを拾いながら、ロータリーを走る車の影に消えていく姿を、ぼうっと見つめる。
杏子 (あいつ………。泣いて、なかったか……?)
一瞬見えた、さやかの目元。夜の街灯を反射して、涙がちょっと瞬いたように見えた。
杏子「言い方が、悪かったかな……。……っ」
ふと、視界が歪み、自分の頬を濡らしているものに気づく。
杏子「はは、何だ。泣いてたのは、あたしのほうか……」
219 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/16(月) 06:37:36.32 ID:ZEdTw6MD0
このオリキャラは自分に酔ってるメンヘラなんだな
すれ違いは、イイネ…
ロータリーを越え、駅の物陰まで走って。
さやか「うえっ……ぐっ……」
あふれ出した感情を留めることが出来ず、嗚咽を上げて、その場にかがみ込む。
さやか (やっぱり……。あたし、避けられてたんだ。気持ち悪いって……)
さやか「うああ……。ひくっ……ぐ」
さやか (杏子が冷たかったのも、新しい部屋を探してたのも、
全部……。思った通りじゃん)
さやか (………そうじゃないって、信じたかったのに)
さやか「えう……。嫌……」ズズッ
ぽたりと、目の前の地面が垂れた涙で濡れる。
さやか (……上手くいく、なんて思ってた、あたしがバカだったのかな。
自分の理想ばっかり、信じたい物ばっかり信じて、現実から目をそらして……)
ついさっきまで幸せそうに笑っていた自分が、何だか嫌で嫌でたまらない。
さやか (分かってる……。杏子の気持ちは杏子の気持ちで、あたしの気持ちはあたしの気持ちで、
なるべくしてなった結果で、あたしにはどうしようもなくって……。でも………)
さやか「こんなのって……うぐっ……無いよ……」
222 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/16(月) 06:45:09.66 ID:Q9UBFtZA0
いろんな意味でジェム大丈夫か
そういや100mか…
それからしばらく、ひとしきり泣いた後。
さやか (顔、ぐちゃぐちゃだ……)
手鏡を取りだして、自分の泣き腫らした顔を眺める。
さやか (こんなに泣いたの、いつ以来かな……)
思い出しても、思いっきり泣いたことなんて、最近はほとんど無い。
ちょっと辛いこと、哀しいことがあっても。
いっしょに居てくれた人のおかげで、きっと笑っていられたのだろう。
さやか (みっともないけど……戻らなきゃ……)
杏子にどう思われるのだろうか、もう分からない。
このまま帰ったら……。もっと気持ち悪いって、笑われるのかも知れないとすら思う。
それでも待たせてしまっている以上、酷い顔でも……早く戻らなければ……
そう考え、鏡を仕舞って、ゆっくりと立ち上がる。
と、その時、
「………」ガバッ
さやか「ん……むぅ!? むむー!!」グッ
突然、後ろから。何者かがさやかの口を押さえ、首を腕でがっちりと締め上げた。
さやか (え、な……何よこれ!?)
さやか「むぅー!! んむむ……!」グイッ
両腕に全力を込めて振り払おうとするが、まったく歯が立たない。
さやか (嘘、結構力入れてるのに……?)
さやか「むぐ……ううー!」
声を上げようにも響かず、顔を見ようにも首を回すことすら出来ない。
さやか (どうしてこんな場所で、あたしが襲われる理由が……)
さやか「むう……う………」
だんだんと、脳に行き渡る血流が減り、抵抗する力も弱まってしまう。
さやか (この力、あたしを襲って……まさか、魔法少女!?)
さやか『杏―――』
ようやく事態の深刻さを認識し、テレパシーで助けを呼ぼうとするが、
さやか「………」ガクッ
もう遅く。ぱたりと、さやかの意識は途絶えてしまった。
アプリがジェムに反応するなら…オワタ
杏子「ん?」
ベンチに座ったまま、くるりと、駅の方向を振り向く。
杏子 (あれ? さやかの声がしたような……?)
杏子 (というか遅いな。もう10分ぐらい経ってると思うんだが……。
変……だな……?)
そんなことを考えつつ、両手を組んで顎を預ける。
杏子「…………!?」
そして、その左手薬指の感触に、目に入る澄んだ青色に、自分が握っていた物の重みを思い出す。
途端に嫌な汗が出始め、全身が緊張でぞくりと震えた。
杏子「ソウルジェム……。お、おいまさかこれ!?」ガバッ
立ち上がり、また駅の方を向いて距離を目測する。
100mは……多分、無い。そう思いたい。
杏子「………くそっ!」ダッ
飛び出し、走る車も構わずにロータリーを抜ける。
ビッビーッ!
クラクションで威嚇するタクシーが鬱陶しい。
杏子 (邪魔くせぇ、吹っ飛ばすぞ! あーっと、たしかあっちの方……!)
prrr... prrr...
『留守番電話サービスに接続します』
杏子「ちっ、ダメか……!」タタタ…
走りながらさやかに電話をかけるが、応答はない。
杏子「あった! トイレってここか!?」
そのまま駅のトイレを見つけて駆け込み、
杏子「さやか!?」ザッ
名前を呼ぶ。どの個室も空いていて、誰も居ないようだ。
杏子「くそ……落ち着け………」
杏子 (仮にさやかが、ジェムの範囲外に移動して倒れたんだとしたら……。もっと、大事になってるはずだ。
悲鳴だって聞こえるだろうし、警察や救急車だって呼ばれるだろう)
杏子 (……そもそも、近づけば復活するはずだろ? だったらこれは一体……)
と、そこまで考えたところで、
ブブッ ブブッ ブブッ
杏子「!!」ビクッ
手に握るスマートフォンが、激しく震えた。
229 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/16(月) 07:13:38.17 ID:SVd9zFJ00
>>2 13682
16777215
2151
>>86,184
15342
3989
杏子「この震え方……」
画面を睨み、表示された通知をタップする。
するとiMagicaが起動し、青い小円が画面の中央で点滅し始めた。
杏子「やっぱりそうか……! さやかからの警報!」
何だ、便利な物があったじゃないかと、少し胸をなで下ろす。
杏子 (あれ、でも……。これ、さやかが自分で送ったのか……?)
妙だと思いながらも、とりあえず地図をドラッグし、正確な位置を確認する。
杏子「えっと……あたしが今、ここ……舞浜駅だから……。は……!? 5km……いや、10kmぐらい離れてる……?」
表示を信じるのであれば、さやかはもう、かなり遠くに居るらしい。
杏子 (嘘だろ……。しかもこれ……移動してるじゃねぇか……! 車……?)
青い円は、少しずつ赤い円からの距離を離している。
位置からすると、湾岸線を東に向かって遠ざかっているようだ。
杏子「何だよこれ……。何なんだよこれ……!!」
さっぱりわけがわからない。ただ、さやかが危機に陥っているのは間違いない。
ともかく次の行動を考えなければと焦っていると、
ブブブッ ブブブッ
もう一度、今度は耳慣れたリズムでスマートフォンが震えた。
杏子「……何だ、メールか? 誰だこんな時に……」
開こうとして、差出人の名前に目を見張る。
杏子「『美樹さやか』……!?」
杏子 (どういうことだ……? やっぱりおかしい。ソウルジェムが10kmも離れて無事なはずがない。
ジェムから感じる魔力も……。うん……。間違いなくさやか本人の物だ……)
指輪に手をかざしながら。
杏子 (警報だってメールだって送れるはずがないし、車も持ってるはずがない。
だからこれは、さやかを車に乗せて連れ去った、さやかじゃない誰かが送ったメールだっつーことだよな……)
つまり……誘拐事件と言うことになる。
杏子「じゃあこれは……犯人の要求……?」
ごくりと喉を鳴らす。
杏子 (内容次第では……警察沙汰にしてでも……) ピッ
どんな内容かと怯えながら、画面をタップしてメールを開く。そこには、
「先輩? 暇なら、鬼ごっこしませんか?」
なんて、気楽な文が一行だけ書かれていた。
後は任せた…しえ
杏子「先輩……だと?」
ふざけた言い回しより、まず意外な人物が浮かんだことに狼狽する。
杏子 (……確かに、ある程度は説明がつく。魔法少女の秘密を知っていて、
iMagicaの使い方も分かってる奴なんて他に居ない。でも………)
杏子「こんなふざけた真似、する奴じゃ……」ギリッ
信じたいような、それでも信じられないような気持ちで歯を鳴らす。
杏子「………」ピピッ
アドレス帳を開き、その後輩の一人に電話をかける。
prrr... prrr...
杏子「………出ねぇな」
もう一人もやはり…
prrr... prrr...
杏子「こいつもか………」
杏子「ふざけやがってっ……!」グッ
苛立ちからそれを強く握り、このまま床にたたきつけたい衝動に駆られる。
だが、唯一の道しるべを破壊するわけにもいかず。ギリギリで踏みとどまり、その場に立ち尽くした。
235 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/16(月) 07:32:35.50 ID:v15V7Diw0
早苗ってかずみのキャラ?オリキャラ?
寝静まるにはまだ早い住宅街。
杏子「………っく」ヒュンッ
出来るだけ人目を避けて、屋根の上、電柱の上をムササビのように飛び回る。
全体的に袖も裾も長くなり、大人びた雰囲気になった魔法少女服が風に揺れている。
杏子「はぁ……くそ、速すぎる……」スタッ
画面の地図を睨む。
相手の車は高速をかなり飛ばしているらしく、全力で追いかけながらも少しずつ離されている。
杏子 (電池も節約しねぇとな……) ヒュン…
こまめに切り替え、頼りの綱が死なないように気を遣う。
杏子 (免許があれば……良かったんだが……) スタッ
いくら非常事態とはいえ、自動車窃盗に無免許運転、スピード違反と、いくつも犯罪を重ねる気にはなれなかった。
そもそも運転できるかも怪しい。
杏子 (一体……目的は何なんだ? 『素敵なお知らせ』とか言ってたじゃねぇか。……関係があるのか?
あいつらに一体何のメリットがあるんだ……。わかんねぇ………)
ずっと考えるが、やはり動機に思い当たる所はない。
分かっているのは、今は追いかけなければいけないと言うことだけだ。
杏子 (待ってろ……。絶対に。この身がどうにかなろうと……。
さやか、あんたを取り戻してみせる………!)
――林道――
杏子「はあっ、はあっ……」ザッ… ザッ…
荒い息で、暗い砂利道を歩く。
杏子 (……あと、もうちょいだ……。さやか……)
深夜の冷え込んだ空気に、吐く息が白く染まる。
一体何時間飛び回ったことだろうか。
いつのまにか風景は住宅街から農地となり、もう民家もたまにしか見あたらない。
見かけても、家中まっ暗に静まりかえっている、そんな時間帯。
杏子 (こっち……だな………) ザッ… ザッ…
ほとんど電池も切れかけたスマートフォンで、目的地を確認する。
この道の奥1kmほどの位置にさやかは居るようだ。
しばらく前から、青い円は移動していない。
杏子 (結構しんどかったな……。何が狙いかはわからねぇが、おそらくこの後戦闘になる。
気合い入れていかねぇと……) グッ
険しい目つきで両手を強く握り込み、覚悟を決める。
そのまま先を急ぐと、歩く先の道がだんだんと広くなり、
少し明るい場所に近づいているのが見えてきた。
238 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/16(月) 07:41:47.90 ID:KlKiolbe0
s
杏子「ここか……」ザッ…
急に開け、広々とした場所。
目の前の鉄門越し、巨大な朽ちた建造物が水銀灯に浮かぶ。
杏子 (廃工場……みたいだな?)
もう何年も使われていないのだろう。
コンクリートは崩れ、鉄扉は錆び、割れていないガラスも見あたらない。
GPSの位置を信じるなら、さやかはこの中にいるらしい。
杏子「………行くぞ」ヒョイッ…スタッ
鉄門を易々と飛び越え、敷地内に入る。
杏子 (……静か、だな……?) ザッ… ザッ…
ゆっくりと歩いていく、自分の足音の他は何も聞こえない。
杏子 (相手はあたしの位置情報も見えているはずだし、あたしに向けて場所をわざわざ知らせて来てやがるんだ。
今、ここに来ていることは知っているはず……)
杏子 (……罠? スマートフォンだけここに持ってきて、さやかが居ないという可能性も……)
嫌な未来も浮かんでくるが、それでも、今は他に選択肢がない。
杏子 (………チャンスがあるまでは。相手のペースでも仕方ねぇ)
そう、必死に考えを巡らせながら。建物の正面にある扉の前にたどり着き、ぴたりと足を止めた。
240 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/16(月) 07:51:16.24 ID:Kz+I6NALi
がんばれ
杏子「っらああっ!」ブンッ
ダガンッ! ガララ…
挨拶代わりに重たい槍を叩き付けると、鉄の重厚な扉がひしゃげて吹き飛んだ。
律儀にごめんください等と言うつもりもない。
杏子「………? マジで誰も居ないのか……?」
工場の中も、やっぱり何かが居る様子はない。
舞い上がる埃が、月明かりに揺れるだけ。
杏子 (クソ……。せめてさやかのスマートフォンぐらいは探すか……?)
とその時、
ガララッ…
杏子「! ……何だ!?」
物陰から。木で出来たマネキンのような何かが2体、姿を現した。
カタ… カタタ…
不格好な動きで、一歩一歩、杏子の元へと近づいてくる。
杏子「何なんだこいつら……?」
人形は、初めはゆっくりとした動きだったが、
カタタタタ… ガタッ
急に加速したかと思うと、手に持った鉄パイプを振りかぶって襲いかかる。
杏子「ちっ―――」ブブンッ
ズダンッ… グシャッ…
それに杏子は、それぞれ両手の槍を叩き付けて応戦すると、
どちらの人形も一撃で壁に吹き飛び、粉々に砕け散った。
杏子「雑魚が……」
床に散らばった木の破片を眺める。
杏子 (こいつは……使い魔? いや……。結界の感じも無いし、ソウルジェムの反応も無い。
……魔法少女が関わってるせいか?)
どう考えても、ただのマネキンが動いていたあの様子は、自分の知っている使い魔ではない。
ただ、現状の異常さを含めても、一番近い物が何かと言われれば使い魔だ。
杏子 (………となると。あいつらが、魔法少女の癖に魔女の口づけを受けて狂ってる……。
そういうセンも無いわけじゃなくなってきたか……?)
そうであれば、正気でさやかを誘拐したと考えるよりは気が安らかになる。
杏子 (まぁ……。いいだろう。行けば分かることだ……)
243 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/16(月) 08:03:40.96 ID:KlKiolbe0
しえn
245 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/16(月) 08:05:44.98 ID:sBuZMgAkO
支援
面白いよ
杏子「………」ギッ…
奥へと続く扉を開き、次の部屋に踏み込む。その時、
『……きょ、杏子ぉーっ!!』
聞きたくて仕方の無かった声が、やかましく頭に響く。
杏子『さやか? やっぱりここに居るんだな!?』
さやか『杏子!? よ、良かった……。あたし、どうなってるのか全然分からなくて……』
杏子『無事か!?』
さやか『分かんない……。動けないし、周りも見えなくて……。杏子ぉ………』
テレパシーでも伝わる、泣きそうな声色。
杏子『落ち着け! 落ち着け、今行くから……。必ず助けるから……!』
さやか『……うん。待ってる。お願い、助けて杏子……』
ガタガタ…
と、会話を邪魔するように、今度は5体の人形が部屋の奥から現れる。
杏子「いい加減に……しろっ!!」ヒュバッ
今度は多節棍をしならせ、一撃でそれを薙ぎ払った。
杏子「………」コツ…コツ…
少しずつ増えていく人形を砕きながら、奥へと進むこと数分。
杏子 (出てくるのはあの人形ばっかか……。弱っちいし、何がしたいのかわかんねぇな……)
ただ、わざわざ誘い込むように道筋が作られていた感じではある。
なぜだか進めそうな方向は大体決まっていて、今は二階の最奥近くといったところだろうか。
杏子 (次は、ここだな……) ギギッ…
今までより、大きく重たい扉を慎重に開く。
杏子「あ………」
その扉の奥には、天井も高く、だだっ広い空間が広がっていた。
きっとここが、かつてこの工場で、最も大切な作業場所だったのだろう。
何らかの生産に使う機械と思しきガラクタが、そこらじゅうに転がっている。
その一番奥。一カ所だけライトで照らされた中央に、十字架が据えられていた。
そこで犠牲になっているのは、青い髪の女の子。
目を隠され、口にはギャグボールを噛まされて、
太いチェーンのような物で磔に縛られている様子が痛々しい。
杏子「さ……さやか!!」
さやか「むおお? んむうぅ!」ギシッ…
呼びかけに答えようと、唾液を飛ばし、不自由な全身でもがく。
さやか『杏子!? そこに居るの!?』
杏子「ああ、あたしはここだ!」
さやか『良かった、来てくれたんだ……。うぅ……』
杏子「待ってろ、今そっちに―――」
言いながら、さやかの元へ駆け寄ろうとして、
ヒュヒュヒュッ… ズダダダダダッ
杏子「!?」ズザッ
足下に投げつけられた、無数のサバイバルナイフに行く手を阻まれる。
気づけばさやかのすぐ隣には、今まで出現したのよりも二回りほど大きな、
甲冑の人形が現れてこちらを伺っている。
杏子 (あれが……親玉……? あのくらいなら……) グッ…
すぐにでもスクラップにしてやろうと、槍を握り直していると、
「案外早かったですね、先輩?」
甲冑が喋っているわけではないらしい。どこかのスピーカーから、間の抜けた一言が聞こえてきた。
249 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/16(月) 08:26:25.24 ID:dxUC3vKvP
C
さやか『え……? この声……は……?』
杏子「一体、誰だ、あんた……?」
予想していた声色ではない。そもそも、聞いた覚えのない甘い声。
「ふふ。そんなに怖い顔しないで下さいよ?」
杏子「……うるせぇよ。名前ぐらい名乗ったらどうだ」
苛立ちを隠せず、低い声で威嚇する。
「………ふーん。そんな偉そうな口利いていいんですか?」
チャキッ…
甲冑が、腰元から一振りの刀を取りだして、さやかの首元に当てる。
見たところ柳葉刀。先の方が少し太く、重みのある造りになっている。
「ほら、少し落ち着いてくれないと。この人の首、飛んじゃうかも」
杏子「てめぇ……!」
さやか『えっ……? 嫌、何なのっ……!?』
見えない恐怖に身を震わせる。
杏子「……だったら、何が目的だよ! わざわざあたしをここに誘い出した理由は何なんだ!」
251 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/16(月) 08:33:11.32 ID:b/UhbEA8O
悪ふざけにしては洒落にならんなぁ…
ガチで三行半叩き付けられるくらいの覚悟なのか
252 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/16(月) 08:33:32.81 ID:WEvKa97u0
「……ま、それくらい教えてあげないと、話が進まないですね」ハァ…
マイクに向けてため息をつく。
「要するに、うざいんです。あなたたちの存在が……」
杏子「うざい……? だから、一体誰なのか分からなきゃ……」
「誰って、直接の面識はないですよ。ただ共通してるのは、私も魔法少女だ……ってこと」
杏子「………?」
内容が矛盾しているようで、一瞬混乱するが…
「あとは、一応近所に住んでるのも共通点……ですね。
最近契約したんですよ。私には才能があるって、キュゥべえが言ってくれて……」
杏子「つまり……新入り、か?」
「……そういうことですね」
ようやく、おぼろげながら、事件の概要が見え始める。
杏子「……じゃあ、あの大量の人形は………」
「はい、私の武器です。願いの関係で『人形遣い』が得意になった、ってキュゥべえが言ってました。
あの子達、かわいくなかったですか? 楽しんでもらえました?」
杏子「………」
「先輩たちのことは、そもそも存在を知りもしなかったんですけど……。
一ヶ月くらい前に、あなたの大事な『後輩』さんと偶然知り合って。それで、色々聞いたんですよ」
杏子「……おい、まさか。あいつらにまで手を出してやがるんじゃ……」
電話に出なかったことを思いだし、また嫌な汗が滲む。
「ふふふ、大丈夫ですよ。二人とも、今のところは仲良しさんですから……。
もうちょっとだけ長生きして貰うつもりです」
杏子「………」
「それで、お人好しの二人に、魔法少女の仕組みっていうのを詳しく教えて貰って。
いろいろ考えたんですけど……。結論として、みーんな、邪魔くさいなって……」
杏子「邪魔……?」
「はい。どいつもこいつも、私がグリーフシードを手に入れる邪魔にしかならないなって、そう思ったんです」
相変わらず、狂ったように平坦な口調で。
杏子「……そんなに、グリーフシードが足りないか?」
「……え? 何言ってるんですか? グリーフシードがあればあるだけ、魔法が使える。
それが魔法少女の仕組みじゃないですか。
だったら、あればあるだけ欲しいに決まってますよね……?」
杏子「っ………」
馬鹿にするような物言いに、昔の自分を思い出して胸が痛い。
「そういうわけで、ニコニコしてるだけのあの二人はともかくとして……。
私の幸せのためには、先輩達にどいてもらう必要があるんです」
杏子「……話は、通じない、と?」
「当たり前じゃないですか。そもそも、他人に対して先輩ヅラで偉そうにしてる人って、
ロクな人が居ないんですよ? それはもう、身に染みて分かってますから……」
過去に何かがあったのだろうか。少し声が重い。
「だから、倒さなきゃいけなかったんですけど……。どのくらい強いのか知らないですからね。
こっちは一人ですし、先輩も一人で居るところを確実に狙ってやろうって思って……」
杏子「……わざわざ、こんな遠いところでか」
「そうですね。今日はディズニーランドに出かけるって話を聞いてたので、地元から遠ければ、
私の知らない援軍も現れなくて済むかなって。それでずっと監視してたんです」
杏子 (………? あいつらから聞いたって事か……。さやかが言ったのか……?)
「全く……。一日中、ずーっとくっついてるものだから、チャンスが訪れないかとヒヤヒヤしましたよ。
……もしかして、お二人はそういう関係なんですか?」
杏子「………。違う……」
躊躇いながらも、きっぱりと否定する。
さやか (………)
256 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/16(月) 08:46:28.35 ID:KlKiolbe0
しえん
「……そうですか。ともかく、夜になってようやくチャンスが訪れた……と思ったら、
ソウルジェムを持ってなくって驚きました。あなたが二つとも持ってる……そうですよね?」
杏子「……ああ、そうだよ。それが狙いか?」
そっと、左手を握りこむ。
「はい。私はべつに、好きで人を殺したいとも思いませんし……。
殺したら殺したで、もう片方に警戒されちゃいますし。ソウルジェムだけ奪って無力化したかったんです」
杏子「ソウルジェムで……無力化……?」
杏子 (もしかしてこいつ……。ソウルジェムの意味を知らないのか……?)
それが大切な魂である事は、あの二人に伝えてあるはずだ。
でも確かに、新入りに即、教えるような事とは思えない。
「なのに、せっかく襲ったこっちの人はソウルジェムを持って無くって……。
仕方ないから、急遽、人質になって貰ったんです」
杏子 (とすると……むしろ、あたしがソウルジェムを持っててラッキーだったって事か……?
不幸中の幸いか……)
できるだけ、努めて冷静に考えを進める。
「あとは、あなたの強さを計りたいというのもありましたけど。
やっぱり場数を踏んでるだけありますね。私の人形ぐらいじゃ、なかなか勝てそうにないみたいで。
慎重な手段を取って正解でした」
杏子「そいつは……光栄だね………」
「さあ、これで話は分かってくれましたよね……? 取引をしたいです。
おとなしくソウルジェムを渡して下さい。そしたら、こちらの人は返します」
杏子「………嫌だ、と言ったら?」
「そうですね。そうなれば、首が一つ飛びますし、私と先輩が戦うことになりますね。
それはお互い望まない事ですよね? 命まで取ろうって話じゃないんですから、出来れば応じて欲しい所ですが……」
甲冑が、刃の平らな面をさやかの首筋にぐっと押し当てる。
さやか「むっ……う……」ギシッ
杏子「………ちっ」グッ
どうにもできない両手に力が籠る。
「……別に、二つとも渡せとは言いませんよ。この状況では私が優位ですけど、絶対的優位でもないですし……。
持っている二つのソウルジェムのうち、一つだけ。それとこちらの方の身柄を交換して差し上げます」
杏子「ふぅん。……一つだけ、か」
さやか『きょ、杏子、渡しちゃダメだよ! 私なら、斬られても治せるかも知れないし……』
杏子『……治せないかもしれない。首を切られてみろ、意識もなく即死だぞ。そんなの絶対ダメだ』
さやか『でも……』
杏子『いいから。黙ってろ』
さやか『………』
259 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/16(月) 08:57:47.64 ID:Q9UBFtZA0
しえ
260 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/16(月) 09:00:46.93 ID:b/UhbEA8O
さやかちゃん骨みえたり、片目かけても数秒足らずで治るから分が悪い賭けじゃないが許容できないよね
261 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/16(月) 09:04:27.71 ID:TT51f8Mq0
さやかってボコボコになっても次の場面では治ってるから
ギャグアニメのキャラっぽいな
杏子「さやかかあたしのどちらか、ね……」シュン…
呟きながら、変身を解いて普通の姿に戻る。
「……いい心がけですね。さあ、この手に渡して下さい」
ぎぎっと音を立て、甲冑の左手が杏子の方に向けられた。
杏子「………」
杏子 (現状でソウルジェムの意味を理解させるのは……多分、無理だよな………)
左手に並んだ指輪を眺めて考える。
杏子 (かといって……。さやかを傷つけることは絶対に許されない)
「……どうしたんですか? 私はただ、魔法少女を辞めて下さいって言ってるだけです。そんなに未練がありますか?」
杏子「……はは、未練ね。無いよ、うんざりするほどに。
出来ることなら、今すぐこんなのやめちまいてぇよ」
「だったらどうして……」
杏子「………それが、願いの代償だからだよ。あんたも、何か願い事を叶えて貰って魔法少女になったんだろう?
そんな奇跡、タダで起こして貰えるわけがない。必ず代償が必要だ。
……なぁ、このソウルジェムを砕いたとき……。魔法少女は死ぬって、信じられるか?」
「………? 急にそんな作り話をしないで下さい。騙されると思ったんですか?」
重い一言も、やはりこの相手には通じないらしい。
263 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/16(月) 09:24:04.31 ID:BYGqANI/O
しえん
くっさ
265 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/16(月) 09:39:52.32 ID:NuKsxBid0
>>1からここまでくると誰が予想できたであろうか
支援
266 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/16(月) 09:47:21.08 ID:KlKiolbe0
どうか完結させてくれ
267 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/16(月) 09:47:21.11 ID:WyRW/ZR80
ほむほむ★
268 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/16(月) 09:59:42.46 ID:uQ3Yicj7P BE:1681582346-2BP(0)
ほ
杏子 (……まぁ、そんなもんだよな……。あたしも最初は………)
「そんなに気が短くもないですけど、長くもないんですよ。……どうするつもりですか?」
ぼんやりと考える暇も与えて貰えない。
杏子「……じゃあ、一つだけ聞かせてくれよ。あんた、一体何のために魔法を使うんだ?」
「何のため……? そんなの、自分のために決まってるじゃないですか。
魔法が使えればグリーフシードも集められるし、その力があれば、社会的権力に打ち勝つことだって出来る。
極端な話、罪を犯しても裁かれずに逃げ切れる……」
杏子「………」
「そんな便利な力だからこそ、先輩も未だに魔法少女やってるんでしょう?
それとも、自分のために魔法を使うことが、何か悪いとでも言うつもりですか?」
やや冷静さを欠いた様子で、語気が荒い。
杏子「……いや。悪いとは言わないよ。他人を押しのけてでも、自分のために願いを使い、自分のために魔法を使い。
非の打ち所がない、100点満点の大正解だろうな……」
「だったら……」
杏子「たださ。何となく心配なんだよ」
「はい……?」
杏子「あんた今、ひとりぼっちなんじゃねーかなって……」
「何を言っているのか……分かりませんね」
杏子「信頼できる人間、誰か居ねーのか? 両親とか、友達とか……」
「……他人なんて、信頼できるわけないでしょう?
先輩はそんな歳になって、まだそんなことも分かってなかったんですか?」
杏子「そうだな。……そう思ってたからこそ、あたしだって昔は同じ考えだったよ。
魔法は自分のために使う物で、他の人間なんて信用ならねーし、餌みたいなもんだってな……」
杏子「でも、一人の友達が出来て、あたしは変わっちまった。他人のために願いを使って、
他人のために魔法を使って、それが正しいと決して譲らない……。どうしようもない馬鹿だけど……」
目線を床に落として、独白を続ける。
杏子「人と信頼し合うことが、一人じゃなく二人で、みんなで生きていくことが、
途方もなく愉快で、楽しくって、幸せなことだって。それを教えて貰った……」
さやか (杏子……)
杏子「おかげでいつの間にか、友達以上に大切な存在とすら思うようになった。
そして今では、そういう人間のために力を使うことが、どんだけ幸せかってことに気づいちまった……」
「だから何を―――」
杏子「要するにさ。あんたは、今幸せなのかって。それだけ気になってるんだけど―――」
「言いたいことはそれだけですか? 余計なお世話を焼く暇があったら、早く決断して下さい!」
残念ながら、言葉は届かず。また少しの間、しんとした沈黙が場を支配した。
271 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/16(月) 10:14:38.98 ID:KlKiolbe0
し
杏子 (……はは。やっぱ、説得できるような相手じゃねえか………)
語るのを諦め、すっと、左手の中指から、赤い指輪を選んで外す。
それを相手に見せるように掲げると、右手の中にそっと握り混んだ。
「……ふふふ。やっぱり、そうですか。あなたも自分を犠牲にして、他人を助けちゃう馬鹿な人でしたか」
さやか『えっ……? 杏子?』
杏子「………」コツ…コツ…
ゆっくりと、さやかの居る十字架の元へと近づいていく。
「ふふふふ! それが先輩の幸せですか。笑っちゃいますね……!」
杏子「そうだな。幸せだよ……」コツ…コツ…
さやか『杏子、ダメ、やめて!』
「捕らわれてるだけの、役に立たない他人を助けるために、せっかくの力を捨てる……。それのどこが幸せなんですか?」
杏子「あんたには分かんないかもな。さやかを助けるためだったら、あたしはたとえ死んでも幸せだ」コツ…コツ…
さやか『ふざけないで! あんたが居なくなったら……私はどうすればいいのよ!!』ギッ…
テレパシーで叫びながら、無駄なあがきで鎖を揺らす。
さやか『私にとっても、杏子は……友達以上に大切な存在で……!
大好きなんだから……! 一人にしたら、絶対に許さないんだから……!!』
支援
杏子「………」コツ…
そんな台詞も、聞いているのかいないのか。
ついに手を伸す甲冑の前にたどり着き、足を止める。
「さぁ、どうぞ。ソウルジェムを渡して下さい」
さやか『杏子ぉ……』
杏子「……渡したら、さやかを解放してくれる。そう理解して良いんだな?」
「ええ。それを信用してるから、取引に応じたんですよね?」
杏子「………そうかもな。じゃああと一つだけ……」
丸く握り合わせた両手を、早く渡せと迫る鉄の手のひらにのせながら。
杏子「カメラを仕掛ける位置が、少しだけ悪かったんじゃねーかな?」
言うと同時に、乗せた手のひらを開く。
中に入っていたのは、ソウルジェムでも何でもなく、レバーのある黒い筒だった。
杏子「さやか、ちょっと我慢しろ!」バッ
叫びながら、頭を丸めてその場にうずくまる。
それを言い終わるか終わらないかのうちに、
ギィン―――
と、耳をつんざく爆音を鳴らしながら、ほむらのお手製スタングレネードが辺りを真っ白に染め上げた。
「なっ……!?」
さやか『うああぁぁ!?』
混乱して動きを止める二人を前に、いつのまにか変身し、ゴーグルをかけた杏子が槍を振るう。
すぐに首元の刃を思い切り払い、十字架の根本をへし折ると、
杏子「………っし」ガシッ
磔にされたままのさやかを抱きかかえ、後ろへ飛び退いた。
杏子「ちっと痛いぞ」ブチチッ
まずは顔の戒めを無理矢理引きちぎる。
さやか「あぐっ……痛ぁ………」
まだ混乱したまま、久々に自分の口で会話する。
さやか「使う前に、ちょ、聴覚切り離す指示が欲しかったっす……」
杏子「バカか、バレるだろうが。あとは鎖を……」
と、仕上げに槍で鎖をねじ切ろうとするが…
ガギンッ
鎖に傷はまったく付かず、槍は易々と跳ね返された。
276 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/16(月) 10:31:46.26 ID:mx/GGL7N0
マミさんのソウルジェムに中だししたらどうなるの?っと
さやか「ぐっ……」
杏子「はっ? これまさか……魔法で強化してある……?」
手をかざし、魔力を通すと、ただの鎖ではない強い魔法の存在を感じる。
杏子 (嘘だろオイ……。あたしの槍でも無傷とか……才能あるってのマジっぽいな、これ……)
「やってくれましたね……」
焦る杏子の後ろから、恨み辛みを込めた声が響く。
「許さない。何が信用ですか。人を騙して、何が……。許さない………!」
ガタタ… ガタタタタ…
ついに怒りを剥き出した台詞と共に、広い部屋の四方から、
無数の人形が立ち上がり迫ってきた。
杏子「ふざけんな! 人質を取ってジェムを奪おうとするような奴の言う台詞かよ……!」グッ
さやか「ご、ごめんあたし……」ギチッ…
杏子「いいから!」
杏子 (だがどうする……。さやかを抱えてこのまま逃げるのはさすがに―――」
ヒュバババッ…
考える間も置かせず。人形達が、一斉にナイフを投げつけてきた。
杏子「ちっ―――」カカカカッ カンッ…
さやかをかばいながら、投げつけられたナイフを槍ではじき飛ばす。
杏子 (くそ、これは……長期戦になるほどまずいな………) カカン…
手は止めずに考える。
杏子 (この数も酷いし、本体を叩かなきゃきりがねぇ……)
ザクッ
杏子「っぐ!」
防ぎきれなかったナイフが足に刺さる。
さやか「杏子!?」
杏子「大丈夫だ!」
そうは言いつつも、治療をしている暇すらない。
杏子 (……ソウルジェムの動作範囲は直線距離で100m。つまり、魔法による遠隔操作は100mが限界って事。
これは誰でも変わらない……。だからこの『人形遣い』も、ここから100mの範囲にいるってことだ……)
杏子 (だったらもう容赦はしねぇ……。半径100m、全部吹き飛ばしてやればいい……!)
守備に徹しながら、そこまで考えて。
杏子は、たこ糸で繋いだような、グリーフシードの束を取りだした。
279 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/16(月) 10:44:08.54 ID:/K1+ZfNW0
夜通しやってるのか
どういうことなんだ
杏子「あたしはな! かなり頭に来てんだ……!
死んでも……恨むんじゃねえぞクソヤロウ!!」
ナイフの嵐が一瞬途切れたその時、大声でそう宣言すると、
数珠つなぎのグリーフシードを自分のソウルジェムに擦りつける。
バチチチチチチッ…!
するとその鎖はストロボのように、目のくらむような光で明滅し、
胸の赤いソウルジェムに膨大な魔力を供給する。
杏子「あたしをナメたことを後悔させてやるよ……!!」
それを杏子は、ありったけのまま、自分を中心とした半径100mにぶちまけると…
ズダガガ… ガガンッ…
耳よりは身体に響いてくるような、低い轟音を立てながら。
見渡す限り、ありとあらゆる場所に赤い槍が生え、人形も、工場も、全てを粉々に砕き始めた。
怒りのあまり制御がうまくいっていないのだろうか。
中には槍ではなく、斧のような物、剣のような物、曲がった物など、形の歪んだ物も多い。
ただ、破壊しようとするその意志だけは確かで、コンクリートも、鉄筋も、ガラスも、容赦なく飲み込んでいく。
そして数十秒後、その仕事を終えると…
杏子「………」
さやかと杏子、二人っきりの中心を残して。
辺りは赤い剣山に囲まれ、ひたすら静かながれきの山へと変わってしまった。
281 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/16(月) 10:50:00.68 ID:yROvUGOoO
魔力抜き取ってマミさんの餌にでもするか
さやか「……あっ」ガララッ…
さやかを縛り付けていた鎖が、腐ったかのようにぼろぼろと崩れ落ち、ようやく解放される。
杏子「……死んだ、か………? っつ……」ガクッ
魔力を使いすぎた負担で、変身を解き、その場に崩れる杏子。
さやか「杏子っ……!」ガシッ
それに駆け寄り、しっかりと抱き留める。
さやか「ご、ごめんね杏子……。私のためにこんな……」
杏子「何を言ってんのさ……。あたしがあたしの意志で、あたしの幸せのためにやったことだよ……」
さやか「うう……うううう………」グッ…
そう偉そうに言う胸に、崩れた顔を押し当てると、
杏子「お、おい、さやか……?」
さやか「ばかっ……。杏子のばかっ……。居なくなっちゃうんじゃないかって……。死んじゃうんじゃないかって……」
思ったことを何とか口にしながら、嗚咽を上げて震え始めた。
杏子「さやか……」
そのまましばらく泣き続けて。
さやか「………」
杏子「……落ち着いた、か?」
さやか「うん……」
今日、二回も泣き腫らした顔を上げる。
さやか「……ねぇ、教えて?」
杏子「ん?」
さやか「杏子が、噴水の前で言ったこと。私と距離を置きたいって言った、その意味を。
正直な理由を、知りたいんだ……」
ぐっと、杏子の両眼を見つめながら。
杏子「それ、は………」
ほんのちょっと、ごまかしたいという思いもよぎるが…
杏子「………さやかが……好き、だから………」
涙目でもいつになく真剣な目に対し、うつむきながらも、真剣に思いを告げる。
さやか「………え? どうして、え……?」
杏子「……女同士で、こんなの、迷惑だと思ってさ………。言えなくって………」
284 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/16(月) 11:06:54.44 ID:8CHTriLy0
さやさや!
さやか「ばか……! 私以上の大馬鹿ものじゃない……!」ドンッ
力任せに、借りていた胸を殴る。
杏子「うぐっ……。だ、だってその………」
さやか「だってじゃない! あたしがどれだけ悲しかったと思ってるのよ……!
杏子に嫌われて、避けられたんじゃないかって……。どれだけ………」
杏子「………ごめん」
力なく項垂れる。
さやか「……ううん、いいよ。正直な気持ちを聞けたから。
でも……。もう一回、聞きたいな、杏子……」
ちょっとイタズラっぽく、もう一度台詞を迫る。
杏子「えっと……。その……」
遅れて顔を赤くし、躊躇うが…
さやか「言えない……?」
杏子「う……。……あたし、は………。さやかが、好きだ……。大好きだ!
ずっと一緒に生きていきたい。他の誰にも渡したくない。あたしだけの物にしたい……」
杏子「出来ることなら……。さやかと……本当の家族になりたい……」
さやか「ふふふ。……よく、言えました」
あんあん!
杏子「気持ち悪くて、ごめん………」
暗い顔で目をそらす。
さやか「……何言ってるの? あたしも、杏子のことが大好きだよ?」
杏子「え………?」
さやか「私のほうが、ちょっとワガママかも知れないんだけど……。
正直に言うとね。私はやっぱり恭介が忘れられない。最初で最後の、特別な男の人として……。
この先も、想い出として忘れられないと思うんだ」
杏子「………そっか」
さやか「でも、杏子のことを考えると、一緒にずっと生きていきたいって思うし、離れたくないって思う。
今日、こうして助けてくれて、やっぱり思うんだ。あたしは杏子のことを愛してるって……」
杏子の肩を抱き、ゆっくりと語る。
さやか「家族ごっこなんて嘘だよ。私は杏子を、大切な家族だと思ってたし、これからもそうでありたいと思ってる。
もしそれをまがい物だと感じていたなら、これから本物にしていきたいから……」
ようやく言えた台詞に、微笑みを噛み締めながら。
さやか「だからさ、杏子。私の、最初で最後の、特別な女の人になって欲しいんだ。
ダメ、かな……?」
杏子「さや、か………」
杏子「そうだな………」
思案するように、目線を泳がせて。
杏子「左手、出して貰えるか?」
返事をする代わりに、そうお願いをする。
さやか「え? うん……」
そうして、差し出された左手に、
杏子「これがあたしの返事、ってことで……」
青色ではなく、赤色のソウルジェムを、薬指へとはめ込む。
さやか「杏子……。ありがとう……!」
杏子「さやか……」
喜ばしい返事に、お互い笑顔を浮かべながら。
次の行為を、目線で互いに語り合い、
杏子「ん………」
さやか「む………」
誰も居ない、静かな闇に包まれた廃墟の中で。
二人にとって、最初で、きっと二度と繰り返すことの出来ない、大切な口づけを交わした。
289 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/16(月) 11:27:11.62 ID:/K1+ZfNW0
後輩との絡みも気になるが
それからしばらくして。二人並んで月を見上げている所に、
ガタタ…
がれきが崩れる音が響く。
さやか「え?」
杏子「そこか!」ヒュヒュッ… ズダダダ!
聞こえたと同時、音の方向へ、容赦なく槍をたたき込む。
杏子「生きてやがったか……?」ザッ
まだあの鬱陶しい『人形遣い』は生きていたのかと、戦闘モードで向き直ると、
「わわっ、ちょっ、危なっ!」
「痛たたた……。まさかここまでやるとは思わなかったわね………」
よく知った声で、緊張感のない台詞が聞こえてきた。
杏子「………はぁ?」
さやか「嘘……でしょ………」
ほむら「ちょっと調子に乗りすぎたかも知れないわ……。ぐふ、結構ダメージきつい……」
マミ「ガードはあなたの役目だったはずじゃないの……。うう、足が痛い………」
291 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/16(月) 11:29:34.67 ID:flJCJDgL0
ほむぅ……
杏子「な、なんでマミとほむらが居るんだよ……!?」
ほむら「何でって……。まだ気づいてないの?」
さやか「もしかして、もしかすると………」
ある種最悪の結末に頭を抱える。
マミ「そうよ、素直になれない二人にオススメの、スリリングなドッキリ誘拐というわけ!」
ほむら「『大成功』のプラカードも用意していたのに、杏子がむちゃくちゃに砕いちゃったわね……」
さやか「………」
言い返す気力もない。
杏子「じゃあ、あの『人形遣い』ってまさか……」
マミ「ふふ、私のリボンで裏からこそこそ操ってただけよ。さすがにあの数は、
かなり魔力も神経も使っちゃったわ……。疲れた………」
杏子「声は……」
ほむら「私がボイスチェンジャー担当よ。最近の、けっこう自然な声に変えられるのよね……。
面白いでしょう?」
杏子「………」
ほむら「それにしても、意外と気づかれないものね……。
車運転して、意識のない人間を不審がられずに運べる魔法少女なんて、私くらいなものなのに……」
293 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/16(月) 11:35:31.65 ID:sb1nSpxWO
しえん
マミ「暁美さん、なかなか安全運転でうまいわよね」
杏子「……は? めちゃくちゃ飛ばしてたよな……?」
ほむら「あれは、偽の位置情報を送ってみただけよ。ここまで、随分と遠回りしたのに気づかなかった?
私達はゆるゆると直線距離でやってきたってわけ」
杏子「………」
さやか「……あたしを気絶させたの、何の意味があったんですかね………」
マミ「それは、ねぇ……」
ほむら「あのままほっといたら、ソウルジェムが濁りきっちゃいそうな様子だったから……」
杏子「あ、あいつらは……。全然関係無かったのか………」
マミ「後輩のお二人さん? 電話に出ないように、って伝えてあるだけよ?」
ほむら「あとは、どうせ今日二人がカップルになるから、
お茶会でも開いてお祝いしてあげなさいとも伝えたわね」
杏子「……ああ、あのメールはそういう………」
さやか「………」
次々と明かされる種に、どんどん表情が疲れていく二人。
ほむら「まぁ、いろいろ大変だったと思うけど……」
マミ「二人とも、おめでと〜☆」
パパンッ パン…
陽気な音でクラッカーが紙吹雪を散らす。
杏子「………」
さやか「………」
それを死んだ目で眺めながら、静かに肩を振るわせる二人。
杏子「……よし、さやか」グッ
さやか「……杏子」グッ
そして、口に出さずとも全てを了承し、
お互い、相手の指輪をつけた左手を、ハイタッチをするように強く握り合うと、
さやか「いくよっ!」シュンッ
杏子「いくぞっ!」シュンッ
同時に声を上げ、そのまま瞬時に変身する。
ほむら「……え?」
マミ (あ、いいなあれ、ちょっとやってみたい……)
296 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/16(月) 11:49:12.98 ID:flJCJDgL0
まみまみ
297 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/16(月) 11:50:32.44 ID:Q9UBFtZA0
あんあん!さやさや!
マミちゃんかわいいしえ
平和にボケている二人に向かって、
杏子「さやか。あたしはこっちの黄色いのを仕留める。そっちの黒いのの処理は任せた」カツカツ
さやか「了解」コツコツ
ゆっくりと着実に、殺気を隠そうともせず近寄る二人。
マミ「え……?」
ほむら「はい……?」
杏子「敵は強い。油断はするなよ。最初から全力でかかれ」
さやか「当たり前。骨の欠片も残しちゃやらないわよ……!」
杏子「いい返事だ……!」
倒すべき相手の強さは分かっているが、二人とも、
今はともかくボコボコにしないと気が済まなかった。
さやか「分かってると思うけど。敵は遠距離、あたしたちは近距離。これを利点にして戦うよ」
杏子「当然だ。殺さないように、じっくり苦しませてやるからな」
さやか「分かってる」
300 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/16(月) 11:53:15.20 ID:knhyw6rki
初代プリキュアか
マミ「……へ?」
ほむら「やっばっ――」クルッ
踵を返して逃げようとしたその前に、
ズダダダッ!
ほむら「ひいっ!?」ズザッ
突然無数のサーベルが生え、行く手を遮る。
さやか「逃がさないよー? ほむらちゃーん?」
見開いた目で、口元だけにたにたと笑うさやか。
ほむら「さ、やか……。その……」
マミ「………に、逃げるが勝ちっ――」クルッ
遅れて逃げようとするが、
ガスガスガスッ!
マミ「きゃっ!」ズテッ
スカートを縫い止められ、その場に尻餅をつく。
杏子「逃がすかよ。腹くくれよ」
さやか「約束を破った上に、人を気絶させてへらへら笑ってるような奴―――」
杏子「ふざけた真似をしておいて、悪びれもしねぇような奴―――」
さやか「絶対に!」
杏子「許さない!!」
ほむら「た……」
マミ「助けてぇーーっ!!!」
大声で救いの手を求めるも、ここは誰も居ない山の中。
その日、太陽が顔を出すまで、魔法少女四人の楽しいじゃれ合いは延々と続いたという……。
303 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/16(月) 12:11:42.87 ID:kxJm04TU0
まみまみ
――鹿目家のリビング――
まどか「………」ポチポチ…
ぽかぽかと太陽の注ぐソファに座って、まどかがケータイをいじっている。
しばらく真剣に画面をにらんだ後、
まどか「………! ティヒヒ、やったね!」
と、笑顔で小さくガッツポーズをした。
詢子「……どうした、嬉しそうだな。なんだ、男か?」
後ろから、それを見ていた母親が近づいてくる。
まどか「ち、違うよー。友達だよ。ほら、杏子ちゃん」
詢子「……ああー。あたしから知久を盗ろうとしてた不届き者か」
まどか「あはは、二人とも随分仲良かったもんねぇ……。
でも、どうせ奪い取れはしないって、そう言いたいんでしょ?」
詢子「その通り。で、杏子ちゃんがどうしたんだ?」
まどか「うん。ずーっと、両思いなのに、素直になれない相手が居てね。
その二人がようやく結ばれたって連絡があったから、嬉しくってさ」
詢子「……へぇ。よかったじゃないか。それにしても、嬉しそうにしすぎじゃないか?」
いつにない娘のテンションに怪訝な顔。
まどか「ウェヒヒヒ…。もう本当にずーっと、だったからね。
ちょっとだけ荒療治の意味で、メールを送って揺さぶってたから、それが実ったかなって」
詢子「……そんなことしてたのか。人の世話もいいけどさ、
まどかもいい男捕まえてきたらどうだい?」
まどか「わ、私はいいんだよー! そのうちきっと出会えるもん」
詢子「そう言って行動しなきゃ捕まるもんも捕まらないんだよ……。
まぁ、ろくでもないのを連れてこられても困るけどな。門前払いだ」
まどか「いいもん、ママの居ないときに連れてきちゃうから」
詢子「あ、こいつめ……! アタシの嗅覚をナメてるな……?」
桃色の頭をぐりぐりと撫でる。
まどか「も、もう、やめてよー……!」
306 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/16(月) 12:23:02.57 ID:flJCJDgL0
じゅんじゅん!
まどか「そういえば……」
窓の外を見上げると、雲一つ無い綺麗な青空。
まどか「今日、なんだか暖かいね。ちょっと暑いぐらい……」
詢子「もう春だからなぁ……。これからどんどん暖かくなるよ」
まどか「そっか、春か。……杏子ちゃんたちにも、春が来たんだなぁ………」
しみじみと呟く。
詢子「まどかにも、そのうち来るさ。きっとね」
まどか「うー、私の話はやめてってば……」
詢子「ふふふ……」
まどか (春、かぁ……)
まどか (春が来たら、みんなでお花見に行きたいな。集まるのは大変かも知れないけど……。
休みを使って、みんなで綺麗な桜の下で……)
まどか (杏子ちゃんとさやかちゃんをからかいながら、楽しくお花見……。うん、いいな。
早速、ほむらちゃんとマミさんから誘ってみよう……!)
まだ小さな企みを思いつき、まどかはケータイを手にとって、メールを打ち始める。
きっとこの企みも、五人に幸せを届けることだろう。
〜fin〜
308 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/16(月) 12:29:55.13 ID:KlKiolbe0
超乙
309 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/16(月) 12:30:39.88 ID:flJCJDgL0
乙乙乙
310 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/16(月) 12:33:19.09 ID:g98obdAl0
ほむほむとマミさんへのお仕置きタイムを描写してもよかったのよ
( ゚ω^ )ゝ 乙であります!
311 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/16(月) 12:37:15.74 ID:N/u/cqwS0
乙乙乙☆
312 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:
たいそう乙