ピリリリリリリ
男「(ん、友からか。何の用だろ)」
男「もしもし?」
友「もしもし俺ー 今大丈夫?」
男「うん、どした?」
友「実はさー…実は…」
男「なんだよどうしたんだよw」
友「急かすなって!口に出そうとすると意外と恥ずかしかったんだよw」
男「で?」
友「俺、結婚することになった!」
2 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/14(土) 18:54:03.49 ID:jJKf5yOn0
で?
男「・・・・・」
友「え、何か言ってくれよw」
男「悪い悪いwなんか電波悪かったみたいだwよかったな」
友「うん!ありがと!なんだかんだ言ってお前とは一番付き合いが長くなったし、一番に報告したくてさ…」
男「そっか、ありがとなー」
友「今挨拶から帰ってきたとこw式の日取りもじきに決まるし出てくれよな〜」
男「あぁ……祝儀は期待するなよ?あと二次会の幹事もやらないからな!」
友「先手打たれた!w」
男「でもまぁ今日はお疲れ。疲れただろ?挨拶に行くとか柄じゃねーしw」
友「疲れたけど幸せだからいいんだー へへw」
男「惚気はまた今度呑みに行ったときにでも聞くわ」
友「おうーwそんじゃまたな!休みのとこごめんな!」
男「おうおうよー そんじゃまたなー」
ピッ
男「おめでとう…言ってやれなかったな…ずっと覚悟してたつもりだったのに…」
5 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/14(土) 18:56:31.95 ID:7Ui/QuOY0
俺と友が出会ったのは中学に入学したとき。
二つの小学校の学区が中学では一つになる、そこで出会った。
入学してまもなく、部活の体験入部の期間も残り僅かとなっていた。
俺は運動は苦手だったし、かと言って文化部にも興味をそそるものはなかった。
仕方なく放課後校内をブラブラしていた。
俺が悩んでいるときあいつはもう野球部へ入部を決めていたんだっけ。
6 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/14(土) 18:58:04.26 ID:7Ui/QuOY0
コツン
男「(ボール?)」
友「あ わりー!」
男「あ、おう。(確か同じクラスの…)」
友「サンキュ!男!」
男「(名前覚えててくれたんだな)うん、部活がんばれよー」
友「ありがと!けど一年はまだ球拾いばっかだよwへへw」
男「けど楽しそうでいいなw」
友「好きだからな!」
7 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/14(土) 18:58:46.69 ID:7Ui/QuOY0
男「…そういうものがあって羨ましいな」
友「男はないの?そーゆーの。よかったら野球部どうよ?w」
男「気持ちはうれしいけど俺運動ダメなんだよw見るのは好きだけどw」
友「そっかー残念!いい部活見つかるといいな!」
男「そうだなー」
友「っとあんまりサボってるとどやされるから戻るわ!またなー!」
男「おう、がんばってなー」
ただ白いボールを追いかけ走るあいつから目が離せなかったのを覚えている。
少し会話したことがあるだけのただのクラスメート。
なぜ目が離せないかなんて、そのときの俺にはわからなかった。
俺は結局美術部に入部した。
美術室からならグラウンドが見渡せたから…あいつを追いかけられたから。
9 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/14(土) 19:00:22.61 ID:qc0tg6Ss0
ホモスレ
10 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/14(土) 19:00:27.43 ID:7Ui/QuOY0
監督「次サード!」
サード「ハイ!」
キーン
監督「ピッチャー!ゴロ!」
友「ハイ!」
コン
男「(あいつピッチャーなんだ…)」
ボールを拾ったあの日以来、なぜか友は俺によく話しかけてくれた。
特別取柄もない俺に。
野球部だったから休みはほとんどなかったし、あまり一緒に遊んだりはしなかったけど、
雨の日の室内トレーニングの日は美術室の俺のとこまできてサボったりしてた。
11 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/14(土) 19:00:46.58 ID:LSuKgDgl0
なんだホモスレか
12 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/14(土) 19:01:09.16 ID:7Ui/QuOY0
あいつは白球を追いかけるのに夢中になり、俺はそんな友を追いかけるのに夢中だった。
憧れだと思っていた。
学校ではよく喋りよく笑った。
そんな3年間を過ごし、二人は同じ高校へと進学した。
変わりなく野球部に入る友。
帰宅部になった俺。
接点は薄くなるかと思ったけど、不思議とあいつは俺の側にいてくれた。
友は明るいし運動部だったから男女境なく友達は多かった。
友のお陰で俺は良い人間関係が築けたと感謝している。
13 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/14(土) 19:02:01.26 ID:7Ui/QuOY0
高校2年になろうとしていた春にあいつは試合での登板が決まったみたいだった。
友「男ー!男!聞いてくれよ!俺さー次の試合投げれるんだって!」
男「おー!すげーじゃん!おめでとう!」
友「へへwありがとーwそんでさー…」
男「んー?」
友「せっかくだし、お前試合観に来てくんね?w」
男「なんでだよw甲子園とかだったら行くけどさw」
友「だって不安なんだよ…お前見ててくれたら勝てる気がしてw」
男「はー?マジ意味わかんねwけどまぁ俺に初勝利を捧げたいっていうなら仕方ないなw」
友「バカwお前これ恥ずかしいから誰にも言うなよw」
男「わかったわかったw今度購買でパンでも奢ってくれなw」
友「うぅ…wまぁ仕方ない!」
内心、すげー嬉しかった。練習風景は見ていたけれど、試合を観に行ったことは一度もなかった。
高校に入ってはじめてのあいつの登板を見届けられる。
しかも友が誘ってくれた。こんなに嬉しいことはなかった。
14 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/14(土) 19:03:05.51 ID:7Ui/QuOY0
試合当日。
部活ではいつもまじめな顔をしてたあいつだったけど、いつも以上に引き締まった顔をしてた。
男「(緊張してんなー。あ、気づいた)」
俺を確認するとへらっていつも通り笑ってVサインする友。
男「(無理しちゃってw)」
スタジアムで一番ピッチャーがよく見える場所を探して、俺はそこに座った。
試合は何度か打たれる場面があったものの俺の高校が勝利した。
試合決まるまではガチガチにまじめな顔だったくせに、決まった瞬間にくしゃっと崩れた笑顔が印象的だった。
男「(まぁ勝ったし、俺の役目も終わったかなー)」
そう思ってグラウンドを整備する野球部を少し眺めてからスタジアムを後にした。
15 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/14(土) 19:03:49.18 ID:7Ui/QuOY0
そのまま家に帰るつもりだったんだけど、途中で携帯が鳴ったんだ。
友「男!見てたか!俺勝ったよ!」
男「あぁ、見てたよwおめでとう」
友「ありがとーwでさでさ、このあと時間ある?」
男「家帰ろうと思ってたけどなんで?」
友「ちょっとさ、丘の上公園まで来てくれね?反省会終わって今日もう解散だって言うし」
男「え、まぁいいけど…(どうしたんだろ)」
友「へへwありがと!そんじゃ丘の上公園でな!」
16 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/14(土) 19:04:59.41 ID:7Ui/QuOY0
言われるままに公園に向かった。
先に公園に着いていたのは友のほうだった。
友「おーぅ!男!今日はありがとな!」
男「おめでとうw嬉しそうだなーw」
友「そりゃ嬉しいよ!俺中学のときほとんど試合で投げられなかったし勝ったのはじめてだもん!」
男「(レギュラーになれなくて苦しんでるのは知ってたけどそうだったのか…)」
男「よかったな!がんばったんだなぁ…」
友「うん!それでさ…」
男「うん?」
友「それで…これお前にもらって欲しいんだ」
差し出されたのは汚れた白球。
17 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/14(土) 19:05:56.60 ID:7Ui/QuOY0
男「これは?」
友「俺のウィニングボール。人生はじめてのw」
男「いやいや、そんな大事なもの俺もらえないよ!」
友「いやいやいやいや、今日わざわざ来てくれたし、なんのお礼にもならないけどw」
男「そうだぞ!これとパンはまた別だからな!」
友「っwお前中々するどいなw」
男「友が単純なんだよw」
友「けどまぁほんとに、今日はお前がきてくれたら勝てる気がしてたんだ。」
友「それで勝てたからこの勝利は半分は男のものだと思ってんのw俺はマウンドで勝利を味わったからだからこのボールは男がもらってw」
男「けどこれ大切なものだぞ…俺もらっていいのかな…」
友「俺がもらって欲しいからいいんだ!将来プロになったら高いぜwへへw」
男「バカじゃねーのwまぁ…けどありがと。嬉しいよ」
友「へへw」
男「大切にするな…」
友「おうw」
18 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/14(土) 19:07:33.70 ID:7Ui/QuOY0
男「…」
友「…」
ポツ…
ポツポツ…
男「やべ、夕立!?」
友「走るぞ!」
男「お、おう!」
なんとか雨宿りできる場所を見つけそこに駆け込む二人。
男「けっこー激しいなー」
友「だなー、試合中じゃなくてよかったよw」
男「確かにw」
友「まーじきに晴れるっしょ!」
空を見つめて雨が上がるのを待つ、遠くを見つめる友を見て俺は自分の感情と向き合うことから逃れられなかった。
男「(あぁ…俺、友の事好きなんだなぁ…)」
19 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/14(土) 19:08:19.30 ID:LSuKgDgl0
90年代後半から00年代の長野まゆみぽい
20 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/14(土) 19:10:18.69 ID:7Ui/QuOY0
21 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/14(土) 19:10:50.30 ID:7Ui/QuOY0
もらったウィニングボールを握り締める。
男「俺…」
友「んー?」
男「あ、いや!なんでもない!」
男「(俺は今何を言うつもりだった!?)」
22 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/14(土) 19:11:17.00 ID:7Ui/QuOY0
友は俺のことを好いてくれている。
それはわかっていた。
けど同時にそれがあくまで友情でしかないことも、わかっていた。
だって俺は友をずっと追いかけてきたんだから。
わからないはずがなかった。
自分の気持ちもわかっていた。
どうしようもなく友が好きだ。
けど、それを伝えてどうなる?
俺の気持ちは友を間違いなく悩ませる。
今の関係ではいられなくなる。
俺はもう友を追いかけることも、一緒に笑って話すこともできない。
何より俺の気持ちを伝えることは俺の為でしかない。
そう思った。
23 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/14(土) 19:11:53.30 ID:7Ui/QuOY0
男「(流されなくてよかった…)」
友「お前変だぞーw」
男「ごめんwあ、雨上がりそー」
友「お、ほんとだ」
男「ちょっと濡れちゃったし早く帰るべ」
友「だなー」
それから俺は自分の気持ちは一生胸に秘めておくと誓った。
24 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/14(土) 19:12:38.90 ID:7Ui/QuOY0
俺と友は大学は別々の進路となったがそれでも連絡は途切れなかった。
プロになるなんて吹いていた友だったが、大学を卒業して普通に就職。
俺も無事卒業して就職することができた。
社会人になって3年目、友が会わせたい人がいると言ってきた。
覚悟は…していた。
笑顔がかわいくて明るい小柄な女性だった。
友と二人で笑うととても幸せそうで、似合いのカップルだと思った。
いつも空席だった友の横に彼女が座っていた。
それから2年。
順調に交際を続けた二人。
そして、試合終了を告げる着信。
全部覚悟の上だった。
25 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/14(土) 19:13:33.71 ID:7Ui/QuOY0
これからもあいつとバカな話をして、笑って、酒を呑んで、それでいいと思っていた。
どうしても手に入らないものがあることなんて気づいていた。
それでも、それが現実として目の前に突きつけられると、今まで閉じ込めていた想いが溢れて、弾けて引き千切られそうだった。
苦しくて、だけど吐き出す場所も、ぶつける相手もいなかった。
ベッドに突っ伏して俺は泣いた。
視界の端に白球が映る。
涙で滲んで、何重にも見える白球を手に取る。
男「俺の人生はじめての試合は、負けだったな…」
男「長い試合だったな…」
男「(試合が終わったら、しっかり挨拶してけじめつけないとダメだよな…)」
漠然とそう思った。
26 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/14(土) 19:14:04.19 ID:7Ui/QuOY0
トゥルルルル
友「おーっす」
男「おっす、今平気?」
友「平気だよーwどした?」
男「このあと丘の上公園来れるか?」
友「へ?wまぁいいけどw」
男「疲れてるとこ悪いなーwそんじゃあとで!」
27 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/14(土) 19:14:39.97 ID:7Ui/QuOY0
男「(思い返せばはじめてグラウンドであいつと話したときから、ずっと俺はあいつのことが好きだったんだな…)」
途中スポーツ店に寄って野球ボールを一つ買った。
公園に着くと友はスーツでベンチに座っていた。
男「(着替えるの忘れるくらい気合入れてたんだろうなぁ)」
男「なんかそうしてるとリストラされたリーマンみたいだぞw」
友「なんだと!wお前が来いっていうから来てやったのにw」
男「ほらっ」
俺は友にボールを軽く投げた。
友「おわっ、なんだよいきなりwなつかしいなーw」
友「俺今でも投げられるかなーw」
友は無邪気に笑う。
28 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/14(土) 19:15:11.30 ID:7Ui/QuOY0
男「それ、やるよw婚約祝いw」
友「え?ボール?wありがと!w」
男「おうw」
友「…」
男「…」
男「幸せになれよな」
友「うん!」
俺は守るしか出来ない臆病者かもしれない。
けれど俺が守ったものを大事にしてくれる友がいる。
俺には十分すぎる戦果だった。
これからも一生をかけて俺はこれを守っていこうと思う。
29 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/14(土) 19:15:33.53 ID:7Ui/QuOY0
男「友ー」
友「んー?」
男「呑み行くかー」
友「おー いいよ!お前の奢りなw」
男「友ー」
友「んー?」
あのとき言えなかった言葉は形を変えて。
男「おめでとう」
ゲームセット
ありがとうございました
31 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/14(土) 19:17:21.94 ID:GIaFnN4t0
おちかれ
32 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/14(土) 19:21:59.62 ID:PetqR1YS0
いいね
33 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/14(土) 19:23:17.50 ID:5hBolia00
よかった
34 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:
ありがとうございます
実は長年ROM専で今日がはじめてのスレ立てでした
今まで書き込んだ回数とかたぶん片手で足りる…
投下するにあたって一番大変だったのは忍法帖のレベル上げでしたw
題材というかモチーフというか、松たかこさんの「明日、春が来たら」をイメージして書きました