1 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:
代理です、作者が来るまでしばらくお待ちください
2 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/18(月) 21:38:57.04 ID:sDagOoSJ0
2ゲット
3 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/18(月) 21:39:14.88 ID:PQIp8fHgO
>>1 ありがとう
短編です
電話なんでのんびり行くわ
4 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/18(月) 21:40:21.21 ID:PQIp8fHgO
キンと乾いた音が響き渡る。
白球は馬鹿みたいに澄んだ青い空に吸い込まれる様に高く上がる。
この2年と半年の間ずっと鍛えて来たはずの身体は、打球を追う事もせず、
ただそれを見続ける事しか出来なかった。
やがて白球はレフトスタンドのフェンスの向こうに落ち、
一塁側のベンチから盛大な喚声と共に全員が飛び出して来るのが気配でわかった。
俺はただそのまま、ずっとレフトスタンドを見続けていた。
何も考えないよう、ずっと。
それでも俺は無意識に理解していた。
全てが終わったのだと。
('A`)終わったようです
5 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/18(月) 21:41:43.83 ID:PQIp8fHgO
(;'A`)「あちい……」
下敷きを団扇代わりにバタバタと扇ぎながら、誰に向けるでもなく俺は呟いた。
クーラーなどという気のきいたものもない貧乏学校だ。
多くの生徒が下敷きを鳴らすを響かせている。
もっとも、黒板に大きく書かれた自習という文字がなければここまで露骨に扇ぐことも出来ないだろうが。
(;'A`)「しかし、ちっとも涼しくならんな」
三階の教室の窓際の一番後ろという恵まれたポジションを獲得してはいるが、
肝心の窓からの風が全く吹かないのではあまり意味がない。
暑さに対する耐性はだいぶ鍛われたはずだったが、グラウンドと教室では体感温度が異なるのかもしれない。
(;'A`)「グラウンドか……」
身体を窓の方に寄せ、グラウンドの方を眺める。
この暑い最中も懸命に走る陸上部員の姿が見えた。
6 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/18(月) 21:42:40.26 ID:NkPvy0M+0
打者なのか、投手なのかそれが問題だ
7 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/18(月) 21:42:55.16 ID:PQIp8fHgO
('A`)「クソ暑いのにご苦労なこって」
ほんの二週間ほど前までは自分もそのご苦労な中の一員だったのだが、
こうしてみると軽く狂気の沙汰だと思ってしまう。
('A`)「あいつらも練習してんのかね」
残念ながら俺が所属していた野球部は、
第二校舎の裏手の方のグラウンドで練習をしているのでここから見る事は出来ない。
しかしながら後輩たちが練習しているのは確実だろう。
('A`)「来年は勝って欲しいもんだ」
夏の高校野球全国大会地区予選準決勝敗退。
それが俺たちの世代の最後にして最大の成果だった。
下馬評では地区予選ベスト16程度の実力とされながらも、ベスト4まで残れた事を考えると、
それなりの結果は残せた。
お世辞にも強豪校とは言えず、俺みたいに高校から野球を始めた人間がレギュラーにいる部にしては健闘した方だろう。
8 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/18(月) 21:44:09.67 ID:PQIp8fHgO
('A`)「けど、負けは負けか……」
どんなに暑い最中走り回ろうが、毎日泥まみれになろうが負けは負けだ。
結果が変わる事はない。
俺の高校野球生活は、二週間前にあっさりと終わってしまったのだ。
('A`)「さてと……」
俺は窓から身を離し、机に向かう。
いつの間にか汗は引いていた。
('A`)「ふむふむ、x = ……」
しばらく数学の教科書とにらめっこをするも、全く内容が頭に入って来ない。
グラウンドから聞こえて来る陸上部の掛け声の方が、鮮明に頭に残る始末だ。
('A`)「正の数aおよびNが与えられたとき、 N=ab という関係を満足する実数bの値を……」
9 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/18(月) 21:45:30.66 ID:PQIp8fHgO
(゚A゚)「って、呪文かよ! 何だこれ!?」
どこの国の言葉で書かれたのか疑わしく感じる数学の教科書を机に叩きつけ、俺は勢いよく立ち上がった。
このような奇行にも誰も反応しない辺りがぼっちの特権と言えよう。
('A`)「いや、ぼっちじゃねーけどな」
そう呟きながら裏手のドアから教室を出る。
持ち前の非社交的な性格に加え、部活ばかりの高校生活を送ってきた俺には、
親しい友達がほぼ野球部にしかいない。
そして今のクラスには野球部の人間がいない。
('A`)「つまり、一時的なぼっちに過ぎないんだ」
誰に対してかわからない弁解を続けながら、俺は廊下の端の方に向かって歩く。
本当は一人同じクラスに野球部の人間がいるのだが、今は学校に来ていない。
不登校とかそういうのではなく、今は夏休み期間だ。
むしろこうやって補習を受けに来ている俺の方が、おかしいと言えばおかしいのである。
10 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/18(月) 21:46:51.03 ID:PQIp8fHgO
('A`)「つっても、進学しないやつの方が稀なんだけどな」
この学校は進学校ではないが、底辺校というわけでもない。
在学する大体の生徒が大学や専門学校に進む。
故に、補習と銘打たれた勉強会にはほぼクラスの全員が強制的に参加させられているようなものなのだ。
('A`)「ほぼ、全員か……」
俺はその全員に入らないやつの顔を思い浮かべながら廊下を右に曲がり、階段を登る。
四階建ての校舎の最上階は、音楽室や美術室などの特殊教室しかない。
とはいえ部活で使用されているので、サボるに適した場所ではない事は理解している。
('A`)「やっぱショックなんだろうな」
今まで深く考えようとしなかった自然に言葉が口を吐いていた。
俺はその言葉をかき消すかのように首を振り、四階を素通りし、屋上に続く階段に向かう。
屋上は生徒の立ち入りは禁止されているが、それは名目上のものだ。
屋上に続く扉の鍵は閉まっているが、その隣の窓が簡単に開く。
11 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/18(月) 21:48:16.89 ID:PQIp8fHgO
その事は多くの生徒の間でごく当たり前の事実として浸透しているし、
先生たちも生徒が馬鹿な事をしでかさない限りその窓を直す気はなさそうだ。
もっとも、生徒たちの間でもそう屋上を頻繁に利用するやつはほとんどいない。
屋上自体がお世辞にも綺麗とはいえないし、教室と同じようにあまり風も吹いて来ない。
特に夏場は一応日陰もあるとはいえ、陽に晒されるだけの快適とはいえない空間だ。
恐らく誰もいないだろう屋上は、今の俺がサボるのに丁度良い場所だ。
('A`)「お?」
階段を登り切り、屋上に続く窓を見ると鍵が開いている。
先客がいるのかもしれないが、鍵の閉め忘れはよくある事だから、誰もいない可能性もある。
俺は、この暑い最中屋上に出る酔狂な人間はいないだろうと判断し、無造作に窓を開けた。
('A`)「今日は意外と風があるな……」
窓から飛び降り、屋上に足を踏み入れた時にまず気付いた事はそれだった。
教室ではほとんど感じられなかった風が、ここでは多少感じられる。
12 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/18(月) 21:48:30.62 ID:cvVLT0WS0
支援
13 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/18(月) 21:49:30.38 ID:PQIp8fHgO
(;'A`)「しかし、やっぱ暑いな」
真夏の太陽は容赦なく照り付け、額に汗を浮かべさせる。
俺はその少し懐かしいような感覚と共に屋上を見回したが、予想通り誰の姿も発見出来なかった。
そのまま前に進み、屋上の端の手すりに両手を置き前向きに寄りかかる。
手すりは少し暑かったが、その内肌の温度で中和されるだろう。
(;'A`)「あ、第二校舎の方に行けばよかったかな」
この第一校舎の屋上からは、正門側にあるグラウンドしか見る事は出来ない。
第二校舎の屋上なら、裏手にあるグラウンドを、そこで練習している後輩の姿を見る事が出来た。
(;'A`)「まあ、いいや」
俺は再び正門側のグラウンドの方に目を落とす。
相変わらず陸上部の部員たちが懸命に走り回っている姿が見える。
確か彼らも全員二年生以下のはずだ。
残念ながら俺らと同じ様に、陸上部の三年たちも全国に行けたやつはいないと聞いていた。
14 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/18(月) 21:49:48.10 ID:NkPvy0M+0
夏いな…支援
15 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/18(月) 21:51:11.67 ID:PQIp8fHgO
('A`)「何だかなぁ……」
ふと気付けば、野球部だ全国だと、既に終わった事を考えている自分に気付く。
わかっていたはずだが、やはりそれなりにショックは受けているのだ。
何だか自分の中の空気が抜けた様な感覚を、この二週間ずっと感じていた。
('A`)「燃え尽き症候群ってやつかね」
俺は他人から覇気のない人間だと思われがちな所がある。
主にその顔が問題らしいのだが、確かにめんどくせえという態度が端々に表れているのは自覚している。
しかしながらそんな俺でも部活、野球には心血を注いでいたと思う。
親しくもない人に誘われ、軽い気持ちで高校から始めた野球だった。
('A`)「まあ、軽い気持ちで高校野球始めるのがおかしいんだがな」
夏の全国高校野球大会。
全ての季節を通したアマチュアスポーツの祭典の中で、この国では最高レベルの知名度を誇るものだろう。
どう考えても、遊び感覚でやるようなスポーツじゃない。
実際、遊び感覚じゃいられないぐらい練習はきつかった。
16 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/18(月) 21:52:29.37 ID:PQIp8fHgO
('A`)「当初は何度も辞めようと思ったっけ」
ごく普通の高校にある、普通よりは活気のない弱小野球部。
それが俺が入部当事に抱いたイメージだった。
実際、イメージ通りの部活だったらしい。
俺たちが入部するまでは。
('A`)「何でだろうな」
別に俺が熱血ぶりを発揮して、野球部を変えていったわけじゃない。
ご覧の通り、俺にはそんなやる気は見られない。
全ては一人の男が変えたのだ。
('A`)「懐かしい話だよな。なあ、ジョルジュ」
身体を反転させ、手すりに背を預けて空を見上げ、ここ最近会っていないクラスメイトの名を呼ぶ。
青い空に浮かぶ真夏の太陽は、相も変らず俺を照らした。
俺を野球部に誘った男、ジョルジュは、小中と一貫して野球を続けて来た。
当然高校でも野球をやるつもりだったのだろうが、
残念ながらあいつは家庭の事情で地元の高校に通うしか選択肢はなかった。
17 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/18(月) 21:53:35.13 ID:PQIp8fHgO
そしてその地元校、つまりはこの高校の事だが、そこには野球部はあるだけマシというレベルの、
下手すれば部員が足りなくなりそうな弱いチームだった。
だからジョルジュは、知り合いの同級生を何人も野球部に誘ったらしい。
しかし、高校野球という言葉の響きだけでハードルを高く感じてしまう人間が大半で、
入部するやつはまずいなかった。
それは俺も感じた事だ。
('A`)「何で俺はオーケーしたのかねぇ……」
ジョルジュとは親しかったわけでもない。
中学が同じだったし、一度は同じクラスになった事もあるから全く知らない人間ではなかったが、
少なくとも、友達と呼べるほどには仲が良かったわけではない。
ジョルジュが俺を誘ったわけはひとまず置いておいて、問題は何故俺がその申し出を承諾したかだ。
とはいえ、これもそう悩む話でもない。
('A`)「ぼっちの悲しい性だな」
俺がジョルジュの申し出を受けたのは、多分それが一番大きな理由だと思う。
野球がやりたかったとか、ジョルジュの人柄に惹かれたとか、そんな理由はこれっぽっちもない。
18 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/18(月) 21:54:48.35 ID:NkPvy0M+0
支援
19 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/18(月) 21:55:06.09 ID:PQIp8fHgO
('A`)「単に舞い上がってただけなんだよな」
ただでさえ非社交的で友達を作るのが苦手な俺だ。
案の定、新しい環境においても誰とも親しく会話する事もない、ぼっち街道一直線を辿ろうとしていた。
そんな時にジョルジュは俺に声を掛けて来た。
_
( ゚∀゚)「一緒に甲子園行かね?」
いかにもスポーツマンらしい、爽やかな笑顔と共にジョルジュは開口一番そんな事を言い放った。
その時の俺はきっと鳩が豆鉄砲を食らったような間抜けな顔をしていたと思う。
何せ甲子園と来た。
勿論、プロ野球観戦に行こうってお誘いじゃない事ぐらい、俺にも理解出来た。
しかし、いきなり甲子園はないだろう。
俺は思わず苦笑いを返そうとしたが、ジョルジュのその目に遮られた。
20 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/18(月) 21:56:14.48 ID:PQIp8fHgO
_
( ゚∀゚)「無理だと思うか? なら俺が必ず甲子園連れてってやるから一緒に野球やろうぜ」
俺はそのまっすぐな目に、いつの間にか首を縦に振っていた。
その後は色々と記憶が定かではない。
ジョルジュの歓喜の雄叫びで耳が痛かったり、その場で思いっきり手を引っ張られて入部届けを書きに行ったりで、
慌しく俺の入部が決まった。
('A`)「今思えば、何とも無茶苦茶な話だったよな」
誘った方も誘われた方も、あまりに適当過ぎたと思う。
甲子園を目指すと言っている男が、俺の様なド素人を誘うのもどうかと思うし、
甲子園を目指すと言ってるハードな野球部に入るド素人の俺も俺だ。
そんな流れで野球部に入った俺だから、入部当初は練習のきつさに辞めようと考えた事は何度となくある。
先に言ったように、どちらかといえば弱い部類に入った野球部は、それほど練習のきつい部活ではなく、
同好会のような和気藹々とした部だったという話であった。
しかし、ジョルジュは甲子園を目指すつもりで野球部に入ったのだ。
そんなのんびりとした部に満足出来るわけがなかった。
21 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/18(月) 21:57:18.96 ID:cvVLT0WS0
支援
22 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/18(月) 21:57:52.34 ID:NkPvy0M+0
応援に行ったことあるけど熱くて死ぬかと思ったな…
23 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/18(月) 21:58:02.82 ID:PQIp8fHgO
入るなりジョルジュは先輩を説得し、部の体制を変えていった。
今までのんびりとやって来た野球部の先輩方が、
ジョルジュの無茶とも不遜とも言える要求をすんなり受け入れたのは俺も驚いた覚えがある。
実際にはすんなりではなかったのかもしれないが、気付けばいつの間にか、
部内の空気はジョルジュが目指す方向で統一されていた。
時間にしたら一週間もなかっただろう。
驚くほどの速さでジョルジュは野球部を変えたのだ。
('A`)「あいつは頭は悪いし、口も上手い方じゃないんだけどな」
あったのは熱意と、根拠のない自信だけだ。
俺が皆を甲子園に連れて行くと、ジョルジュはよくそんな事を言っていた。
実際、ジョルジュ自身は言うだけの実力はあり、それなりに野球の強い、
一角の高校に入っていれば甲子園に行けたかもしれない。
けれど、残念ながら野球は一人では勝てない。
いくらジョルジュが一人で投げ、一人で点を取っても、周りを固める俺らがミスれば勝てる試合も勝てないのだ。
('A`)「だのにあいつは、最後までずっと俺が甲子園に連れて行くって言い続けてたっけ」
その自信がどこから来るのか聞いた事はあるが、
俺が言うのだから間違いないという答えにならない答えしか帰って来なかった。
しかし、俺はその言葉をどこか納得して受け入れていたと思う。
24 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/18(月) 21:58:59.41 ID:tFXq5s0Y0
ドクオ系小説に名前変えろ
最近ブーンが主人公の小説ひとつもないぞ
25 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/18(月) 21:59:54.63 ID:PQIp8fHgO
そんな風に、当初は隙あらば逃げ出したいと考えていた俺も、いつの間にかどっぷり野球にのめり込んでいた。
厳しい練習に耐え抜き、二年の秋にまさかのセカンドのレギュラーを獲得した時には感極まって号泣した。
('A`)「あいつも自分の事の様に喜んでくれたっけな」
当然、レギュラーの座は九つしかないわけで、俺がレギュラーになればその陰で一人、
レギュラーになれない者が出てくるのだ。
しかし、その時はレギュラー確実のジョルジュ以外も皆、俺の事を称えてくれた。
補欠になったやつでさえもだ。
俺たちは苦楽を共にする内に、野球部全体にある種の連帯感が生まれていた。
今では、この学校の中でも特に仲の良い部活だと認知されているぐらいだ。
コミュ障だった俺がいるにも関わらずだ。
(-A-)「そしてその中心には、いつもあいつがいたんだよな」
寄り掛かった手すりにさらに大きく身を預け、目を閉じて顔を空に向ける。
(-A-)「夏は暑い方がいい。その方が夏だって気がしてやる気が出る」
別に夏じゃなくても四六時中やる気に満ちていた男の言葉が不意に口を吐いた。
だからどうしたとしか言い様がない言葉だが、それがジョルジュの口から発せられると不思議な説得力を持った。
26 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/18(月) 22:01:07.28 ID:PQIp8fHgO
('A`)「やっぱ暑い。……夏なんだな」
「そりゃそうだろうね。暑いから夏なんだ」
(;'A`)「!?」
突然聞こえて来た前方からの声に、空へ向けていた顔を勢いよく下ろす。
(´・ω・)[]
そこには、携帯電話を眺めているどこかで見た覚えがある男がいた。
(;'A`)「あ、え、お……」
(´・ω・)[]「小路(しょうじ)」
(;'A`)「え?」
(´・ω・)[]「小路ショボン」
男は携帯電話の画面から目をそらすことなく言う。
それが彼の名前だとようやく気付いた時には、再び彼の口が開かれていた。
27 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/18(月) 22:02:00.47 ID:NkPvy0M+0
お?
28 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/18(月) 22:03:03.89 ID:PQIp8fHgO
(´・ω・)[]「その様子だと僕が誰かわからないみたいだからね、鬱田ドクオ君」
(;'A`)「え? 俺の事を知ってるのか?」
俺もいつの間にか有名になったものだと感慨深く思うよりも早く、小路の口からその理由が告げられる。
曰く、同じクラスだから。
(´・ω・)[]「最低限の礼儀として、同じクラスの人間の名前と顔ぐらいは覚えておくさ」
('A`)「礼儀知らずで悪かったな」
小路の言い分は頷ける話で、それで気分を害したわけでもない。
にもかかわらず無愛想な言い方になるのは、単にコミュ障の俺のなせる業だ。
('A`)「で、何の用だ?」
無愛想な物言いに拍車がかかり、不機嫌に見えるであろう顔で小路に問う。
名前を覚えていないくらい面識のない人間が、俺に用など思い当たる節など皆無だ。
俺は緊張と不安に少しだけ期待の入り混じった気持ちで小路の返事を待った。
(´・ω・)[]「いや、特に用ってほどのものはないけど」
(;'A`)「ないのかよ!?」
29 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/18(月) 22:05:06.85 ID:PQIp8fHgO
盛大に肩透かしを食らった反動で思わず小路につっこむ。
反射的とはいえ、親しくない人間にも臆せずつっこめるとは俺も成長したのかもしれない。
(´・ω・)[]「ないんだけど、これ以上僕がいるのに気付かず独白したら後で気まずいんじゃないかなって思ってね」
('A`)「……聞いてたのかよ」
瞬時に顔が熱を持つのがこの暑さの中でもわかった。
しかし、あまり表情が表に出にくい俺の変化に小路は気付かないでくれるだろう。
どうやら小路がこの場にいるのを見落としていたらしい。
給水塔の影にでもいたのだろうか。
('A`)「悪趣味な野郎だ」
吐き捨てる様に言い、小路に背を向けるが、それが八つ当たりに近い言い掛かりだという事は理解している。
俺が気付かぬようそっと席を外してくれるか、そのまま俺が去るまで隠れていてくれと思うのは、
都合の良すぎる注文だ。
(´・ω・)[]「残念だったね、予選」
('A`)「あ?」
30 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/18(月) 22:07:08.52 ID:PQIp8fHgO
一瞬、小路が何の事を言っているのかわからなかったが、小路が俺の話を聞いていたとなると、
予選というのは野球の地区予選の事だろう。
('A`)「もう、終わった事さ」
強豪高ではなかった俺たちでも、事前の調子やジョルジュの存在が、あわよくば今年は、
と思わせるぐらい学校側に期待させていたらしい。
今の小路の言ったような言葉は散々頂いた。
期待してくれていたのに申し訳ないという気持ちと同時に、
自分たちの実力不足を責められているようでうんざりもしていた。
俺は小路の方を振り向く事もせず、不機嫌そうに言い放った。
(´・ω・)[]「終わった、ね……」
呟くように聞こえた言葉を最後に、小路は黙り込む。
そこで話は終わりだと俺は判断していたが、小路はそのまま去って行く事もせず、その場に立っている様だ。
しばらく校庭を見下ろしていたが、いつまで経っても背後の気配が消えないので、俺は仕方なく振り向いた。
('A`)「まだ何か……って、お前……」
(´・ω・)[]「ん? どうかしたかい?」
31 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/18(月) 22:09:13.91 ID:PQIp8fHgO
俺の背後に立っていた小路は、相変わらず携帯の画面に目を落としたまま答える。
何でわざわざこんな日差しの強い屋上で携帯電話をずっと眺めているのかは知らないが、
俺と話す時も携帯の画面から目を離さないその態度はあまり感じの良い物ではない。
('A`)「何でこんなクソ暑い場所で携帯なんか見てんだ?」
(´・ω・)[]「教室じゃ見れないでしょ?」
('A`)「それ以外にも場所あんだろ。せめて屋内の方が画面も見やすいだろ」
(´・ω・)[]「意外と校内に見れる場所はないよ。日差しに関しては対策はしているし」
そう言われてみれば、確かに学校に携帯の持込こそ許可はされているが授業中は当然見れるものではないし、
廊下や特別教室でも教師に見付かれば注意されるだろう。
見る場所もないのに何で許可されているかはわからないが、こっそり使うことは黙認されているのかもしれない。
(´・ω・)[]「最初から人の来ない場所なら心配はないからね」
('A`)「……悪かったな、邪魔して」
若干皮肉めいた物言いになっている事に気付いてはいるが、それを改める気も起こらない。
それは人付き合いの苦手な俺の問題であると同時に、この目の前の男はどうも気に入らない。
しえ
33 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/18(月) 22:11:09.86 ID:PQIp8fHgO
(´・ω・)[]「別に僕は君がここにいても一向に気にならないから、邪魔ではないよ」
('A`)「へいへい、そうですか」
これ以上付き合うだけ時間の無駄だと判断し、手すりから離れ、屋上の入り口の方に向かう。
しかし、このまま何も言わずに去るのも何だか妙に癪に障るので、途中で足を止め、小路の方へ振り向く。
('A`)「お前、さっきから携帯で何見てんだ?」
(´・ω・)[]「エロサイト」
(;'A`)「マジで!?」
(´・ω・)[]「冗談だからそんなに食い付かないでよ」
(;'A`)「あ、いや……って、ウソかよ」
小路の返事に思わず歩み寄りかけていた足を止め、そっぽを向く。
エロサイトという言葉にに釣られたわけではなく、
そんな物を校内で堂々と見ている小路に驚いただけだと弁明しようかと逡巡していると、
それより先に小路が興味なさげに口を開く。
34 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/18(月) 22:13:03.33 ID:PQIp8fHgO
(´・ω・)[]「小説だよ」
いわゆる携帯小説みたいなもの、と続ける小路に、俺は曖昧に頷いて見せた。
思ったより普通の答えで何だか拍子抜けした気もする。
(´・ω・)[]「エロ小説とでも答えて欲しかった?」
(;'A`)「さっきのはちょっと釣られただけだから! 引っ張んなよ」
あまり弁解になってない弁解をしながら、俺は小路の方に再び歩み寄る。
流れ的に見せてもらえるのかと思ったら、小路は俺が伸ばした手に首を振って答えた。
('A`)「何だよ? ちょっとぐらい見せてくれてもいいだろ?」
(´・ω・)[]「君は小説には興味なさそうな感じだけどね」
それは野球部である俺に対する偏見だと思うが、確かに俺は読書という柄ではない。
中学まではそれなりに読んでいた気もするが、今は完全に体育会系に染まったように思える。
そう体格がいいわけでもないけれど。
('A`)「まあ、無理に見たいわけでもないからいいけどよ」
35 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/18(月) 22:13:04.54 ID:2BSnkuv20
さる除け支援
36 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/18(月) 22:14:02.27 ID:EMbcR+JpO
支援
37 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/18(月) 22:14:10.67 ID:NkPvy0M+0
支援
38 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/18(月) 22:15:19.83 ID:PQIp8fHgO
吐き捨てるように呟き、視線をグラウンドの方へ向ける。
屋上の入り口に近いこの位置からではグラウンドの様子は見えないが、まだ陸上部は練習を続けているのだろう。
この炎天下の最中、ただひたすらに。
ほんの少し前までの俺たちと同じ様に。
(´・ω・)[]「気になるのかい?」
('A`)「あ?」
唐突に投げかけられる言葉。
省略の多いそれの、向けられた対象は当然俺なのだろうが、それが何に対してなのか俺はわからないふりをした。
(´・ω・)[]「陸上部は可愛い子多いからね、君が気になるのも無理はない」
(;'A`)「ちげーよ!」
見透かされたと思ったのは俺の錯覚だったのか、小路は見当外れの方向で納得した様に言葉を補う。
どうもこいつは俺をエロキャラとして定着させたいようだが、本来むっつりである俺はそれをオープンにさせる気はない。
39 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/18(月) 22:17:14.60 ID:PQIp8fHgO
(;'A`)「さっきからお前は俺を何だと思って……」
(´・ω・)[]「君が気になるのは向こうのグラウンドでしょ?」
向こう、と校舎の裏手の方、野球部が練習しているグラウンドがある方を指差す。
(;'A`)「お前……」
(´・ω・)[]「聞いてたからね、君の独白を」
('A`)「……」
見透かされる以前に独り言を聞かれていた事をすっかり失念していた。
それでいて一旦話題をそらし、再び戻した理由は何なのだろうか。
何だか、からかわれている様で気分が悪い。
俺の中でこの気に入らない男が、嫌いな男に昇格しかけていた。
(´・ω・)[]「君はもう、野球はやらないのかい?」
('A`)「は?」
40 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/18(月) 22:19:00.36 ID:a5EykyoG0
久々のブーン系だ
支援金
41 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/18(月) 22:20:20.38 ID:PQIp8fHgO
(´・ω・)[]「さっきの独り言を聞いた限りでは、まだ野球に未練たらたらな気がしたんだけどね」
('A`)「……もう、終わったんだよ」
俺は腹立ちから小路に殴りかかりそうになる自分を抑え、努めて平静な声で答える。
確かに野球に未練はある。
だが、もう俺の高校野球生活は二週間前の敗戦で幕を下ろしたのだ。
俺がやりたくてもやれないのだ。
(´・ω・)[]「それは高校野球の話でしょ?」
('A`)「は?」
(´・ω・)[]「野球は高校でやるだけじゃない。大学に行っても、社会人になっても出来るスポーツだ」
('A`)「……」
(´・ω・)[]「プロになれば野球を仕事にも出来るし、そこまで行かなくとも、近所で草野球なんて簡単に出来る事だよ」
何も答えられない俺に、小路は理路整然と言葉を並び立てる。
最初、小路が何を言っているのかわからなかったが、すぐにこいつが野球自体の話をしている事は理解出来た。
42 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/18(月) 22:21:38.07 ID:APfCRWrl0
あんまおもろくないね
かなり陳腐だ
43 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/18(月) 22:21:50.17 ID:EMbcR+JpO
C
44 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/18(月) 22:23:08.26 ID:PQIp8fHgO
だが、俺が考え込んでいたのはそんな話ではないのだ。
(#'A`)「お前は何が言いたいんだ? そんな事はお前に言われずともわかってるんだよ!」
怒気を抑えられなくなった口調で小路を怒鳴りつける。
同時に、久しぶりに出した大声は存外に心地良かったと場違いな感想も抱いた。
(´・ω・)[]「終わったのは高校野球であって、君の野球人生は終わっていないんだろ?」
(#'A`)「だからなんだ? この先も野球を続けろって? あいつらとバラバラになるこの先に一人でか?」
(´・ω・)[]「……なるほど。君にとって野球は、この学校で、野球部の皆とやる事に意味があったんだね」
(#'A`)「そうだよ! あいつらがいたから、俺は三年間野球を続けて来れたんだ!」
俺は小路のあけすけな言葉に反射的にそう答えていた。
それは紛れもない事実で、だからこそ、それが終わった今、俺はここでどうしていいかわからずにいるのだ。
(´・ω・)[]「それは失礼したね」
(´-ω-)[]「それなら、君の野球は終わったのかもしれないね。ごめん、深く謝罪しよう」
(;'A`)「あ、いや……」
45 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/18(月) 22:23:51.65 ID:2BSnkuv20
そういや高校野球の季節か
46 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/18(月) 22:25:06.19 ID:PQIp8fHgO
深々と目の前で頭を下げた小路に、俺は毒気を抜かれ、間の抜けた声を漏らしていた。
相変わらず携帯は持ったままだったが、長々と頭を下げたその姿からは深い反省の色が見て取れた。
(;'A`)「いや、うん、別に怒ったわけじゃないから気にすんなよ」
明らかに怒っていたのに、何故か俺は取り繕うような弁解の言葉を小路に向ける。
初対面同然の人間に謝られるという未だかつて経験したことのないシチュエーションに、俺は若干混乱していた。
しかし、こいつはよくわからないやつだが、底意地の悪いふざけたやつというわけではなさそうだと感じた。
一旦は嫌いな男に昇格しかけたが、今はただのクラスメイトに落ち着いた。
俺は顔を上げた小路に一言詫びの言葉を述べる。
別に俺が謝る道理もないのだが、ただ質問をしただけの小路にも非はないように思えたから謝っておいた。
案の定、なぜ俺が謝るのかと小路は聞いてきたが、俺が取り乱したからだと短く答えるに留めた。
('A`)「やれやれ……」
小路の側を離れ、再び屋上の端の手すりの方に足を向ける。
グラウンドには黙々と走り続ける陸上部員の姿が見えた。
(´・ω・)[]「それで君は高校野球を終え、新たな何かに向かい始めるのかな?」
('A`)「さてね。普通に考えれば受験じゃねーの?」
47 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/18(月) 22:26:20.46 ID:NkPvy0M+0
こういう超然とした奴は嫌い
48 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/18(月) 22:28:08.67 ID:PQIp8fHgO
全く勉強に集中出来ずに屋上にサボりに来た男の台詞ではないが、今はそれぐらいしか思いつかない。
どう考えてもこの先野球で食べて行ける実力はないし、現実的に考えれば進学しか道はないだろう。
いい加減あやふやにしたままの志望校ぐらいちゃんと決めねばならない頃だ。
('A`)「お前はどうなんだよ?」
また色々と突っ込んだ事を聞かれる前に、今度はこちらから小路に質問をぶつける。
無理にこいつの話に付き合う必要もないのだが、今教室に戻った所でどうせ勉強なんかに身は入らないだろう。
(´・ω・)[]「進路の話なら、推薦で決まると思うよ」
('A`)「はぁ、お前、頭良かったのか」
(´・ω・)[]「指定校推薦だし、高望みをしないのと先生受けが良ければ簡単な話だよ」
事も無げに言う小路に、俺は肩をすくめて答える。
要領のいいやつはどこにでもいるものだ。
俺は少しの羨望が混じった視線を小路に向ける。
相変わらず携帯から目を放さないその姿も、特に気にならなくなっていた。
49 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/18(月) 22:28:51.92 ID:cvVLT0WS0
いるよな指定校推薦でさっさと決めちゃう奴
50 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/18(月) 22:29:34.37 ID:2BSnkuv20
AO入試はアホでもOK入試と言うしな
推薦ならアホでも行ける
51 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/18(月) 22:30:49.66 ID:NkPvy0M+0
支援
52 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/18(月) 22:31:05.80 ID:PQIp8fHgO
('A`)「その小説ってやつ、大事なものなのか?」
(´・ω・)[]「え?」
('A`)「あ、いや、ずっと見てるからさ」
あれだけずっと見ていれば普通は気になるし、何かしら特別な物なのだろうと推測は出来る。
そう思い、小路に尋ねてみたが、小路の返事はこれまで同様素っ気無いものだった。
(´・ω・)[]「いや、別に」
(;'A`)「は?」
(´・ω・)[]「ただの暇つぶしだから」
(;'A`)「暇つぶしかよ!? だったら人と話す時ぐらい見るの止めろよ!」
(´・ω・)[]「君との会話も暇つぶしだから、同じぐらいの扱いだよ」
(;'A`)「お前、最初っからずっと思ってたけど失礼なやつだよな……」
53 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/18(月) 22:34:11.93 ID:PQIp8fHgO
俺は大きく反動をつけ、寄り掛かっていた手すりから離れ、今度こそ屋上を出る事に決めた。
何だかよくわからない時間だった。
わけのわからないやつに独り言を聞かれ、変な質問をされ、怒って呆れてと散々だ。
しかし同時に、ずっと煩悶していた事を口に出した事で幾分すっきりした事も事実だ。
小路のお陰とは言いたくもないが、怪我の功名というような単なる偶発的なものかもしれない。
('A`)「ありがとな、いい暇つぶしになったよ」
屋上出る間際、何となく今の気持ちのままに礼を述べてみた。
当然、なぜ礼を言うのだと聞き返されると思うが、言ってしまったものはしょうがない。
(´・ω・)[]「礼を言われる意味がわからないね。面白い話を聞かせてもらったのはこっちだというのに」
('A`)「面白かったなら幸いだ。まあ、話聞いてもらってありがとうって事で」
案の定、聞き返してくる小路に、それだけ言い残して屋上を出た。
熱気の篭った空気が立ち込める校舎内は快適とは言い難い。
俺は教室に戻る為、少しだけ日の差し込んだ薄暗い階段を降り始めた。
54 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/18(月) 22:34:41.31 ID:U4TqLtiu0
寒い漫才を折々挟まないと話の一つも書けないの?
ラノベ病だね
55 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/18(月) 22:35:42.20 ID:2BSnkuv20
所々に挟む漫才くだりが面白いの
56 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/18(月) 22:36:05.69 ID:PQIp8fHgO
何だかよくわからない時間、小路との会話を先程はそう評したが、後になって考えると、
それなりには俺にとって意味があった気もする。
少なくとも、このどうしようもないくらい勉強に身の入らない原因が何の所為かは理解出来た。
最初っから考えるまでもなくわかっていた話ではあるのかもしれないが、それを自分で認める事の出来たのは大きい。
負けた悔しさがあり、もう皆と野球が出来ない寂しさがある。
俺は自分が考えるよりも遥かに、高校野球に心血を注いでいたのだと理解した。
とはいえ、いい加減気持ちを切り替えねばならぬとは思う。
俺の高校野球、高校生活は終わるが、俺自身はまだ終わるわけではない。
これから先も俺自身の道が続いて行くのだ。
などと若干臭い悟りを開き、心に余裕の出来た俺は一つ気になっていた事を思い出した。
気持ちの整理がつかず、自分の事で手一杯だったとはいえ、
俺の高校生活を大きく変えてくれた恩人とも言える男に対して我ながら随分薄情だったと思う。
家に帰ると俺は久しぶりにバットを持ち出し、庭で素振りをしてみた。
最初の数回のスイングは違和感があったが、振り続けているとそれはすぐに消えた。
気付けば現役時代の日課としていた数をこなすぐらい続けてしまっていた。
久しぶりにかいた野球での汗は、事の他心地の良いものであった。
57 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/18(月) 22:36:47.93 ID:cvVLT0WS0
そもそも漫才あったの?
58 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/18(月) 22:38:03.94 ID:iCo0//vy0
だめだつまらない
夜更かししてまで読むもんじゃないな
59 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/18(月) 22:38:28.95 ID:PQIp8fHgO
.
60 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/18(月) 22:40:02.69 ID:PQIp8fHgO
(´・ω・)[]「それで、今日は何の用だい?」
('A`)「別に用ってわけじゃねーよ。ただのサボりだ、サボり」
翌日、同じ様な時間に屋上に向かうと、果たしてそこにはやはり小路の姿があった。
昨日と若干違うのは、携帯に何かを打ち込んでいる様な仕草をしていたことぐらいだ。
あの変わり者ならこの暑さの中でもいるだろうなと予測はしていたが、実際にいるとなるとやはり変なやつだと思う。
(´・ω・)[]「この暑い中わざわざ屋上にかい?」
('A`)「既に屋上にいるお前が言うなよ。つーかお前も暑いとは思ってたんだな」
夏なんだから暑いのは当たり前だと、相変わらず愛想の欠片も無く言う小路を横目にグラウンド側の手すりに向かう。
今日も陸上部の練習は行われているようだ。
('A`)「昨日の話だけどさ」
(´・ω・)[]「昨日の? 何の話だい?」
とぼけているのか興味がないのか、おそらくは後者と思われる態度で小路は携帯から目を話すことなく応じる。
無視されないだけありがたいと思うべきか、俺はかまわず話を続けた。
支援
62 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/18(月) 22:40:41.16 ID:NkPvy0M+0
支援
63 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/18(月) 22:42:05.11 ID:PQIp8fHgO
('A`)「何で俺にしつこく聞いてきたんだ?」
(´・ω・)[]「しつこく聞いたつもりはないけど、気になったからさ」
('A`)「俺に全く興味なさそうに見えた、というか今もそう見えるんだが、気になったのか?」
(´・ω・)[]「まあね」
(´・ω・)[]「ご察しの通り、君にというよりは君の考え方にだけどね」
('A`)「俺の考え方?」
小路が俺の考え方のどこに興味を持ったのかわからないのでそのまま尋ねてみるが、小路は首を振り、
平坦な調子で答える。
(´・ω・)[]「しかしそれは僕の勘違いだったから、今はもう興味はないよ」
('A`)「勘違い?」
その点についてしつこく尋ねてみるが、小路は答える気はないらしい。
携帯から目を離すことなく、素っ気無い態度で質問を受け流す。
64 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/18(月) 22:45:26.70 ID:PQIp8fHgO
('A`)「まあ、いいや。今日はそんなことを聞きに来たわけじゃないしな」
(´・ω・)[]「ただのサボりじゃなかったのかい?」
('A`)「サボりだよ。サボりのついでの暇つぶしに話をするだけさ」
(´・ω・)[]「暇つぶしね。まあ、いいけど」
昨日と同じくらいの日の高さ、同じくらいの暑さの屋上で、俺は話を始める。
共にこの夏空の下を駆け回った戦友の話を。
('A`)「俺の事を知ってたくらいだから、ジョルジュ……長岡の事は知ってるよな?」
(´・ω・)[]「知ってるよ。彼は有名人だからね」
色んな意味で、と続ける小路に俺は深く頷いてみせる。
俺を野球部に誘い、野球部を大きく変えた行動力の塊のような男、長岡ジョルジュ。
当然、普段の学校生活でもその行動力は遺憾無く発揮され、常にクラスの中心にいた。
勉強に関してはどうしようもない馬鹿だったが、スポーツ万能で人当たりも良く、
愉快で賑やかな性格で男女問わず人気が高かった。
65 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/18(月) 22:45:38.57 ID:aHstIFs90
支援
66 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/18(月) 22:47:21.87 ID:cvVLT0WS0
支援
67 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/18(月) 22:47:52.76 ID:PQIp8fHgO
(´・ω・)[]「その長岡君がどうかしたのかい?」
('A`)「あれからずっと学校に来ていないんだ」
(´・ω・)[]「あれから?」
('A`)「ああ、すまん。……俺たちの最後の試合からずっとさ」
(´・ω・)[]「ああ……」
絞り出す様に放った俺の声に、小路は短く頷いた。
その顔に何も浮かばないことが、俺にとってはむしろありがたかった。
(´・ω・)[]「しかし今は夏休み中だし、来るのが必須ってわけじゃないんじゃない?」
('A`)「まあ、そうなんだけどな」
それはわかっている。
勉強が好きじゃない上に、家庭の事情で進学するかも定かではないジョルジュがこの場にいなくても不思議はないのだ。
けれど俺は、それをどこか不自然に感じてしまっている。
68 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/18(月) 22:48:49.87 ID:NkPvy0M+0
支援
69 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/18(月) 22:49:55.90 ID:PQIp8fHgO
(´・ω・)[]「具体的にはどこが不自然なのかな?」
('A`)「そう聞かれると答えづらいが、強いて言うならジョルジュにしては不自然だということかな」
(´・ω・)[]「何だい、それは?」
わけがわからないといった仕草で聞き返してくる小路だが、俺としてはこれ以外に理由は思い付かない。
考えてみれば俺が知っているジョルジュは、
教室でもグラウンドでもいつも無駄にやる気に満ち溢れる姿を見せてくれていた。
成績はともかく、授業にはちゃんと出ていたし、間違っても学校を休む様な人間じゃなかった。
風邪一つひかないような馬鹿、もとい、健康優良児だったし。
(´・ω・)[]「だから休んでるわけじゃないんでしょ? 来る必要がないんだし」
(;'A`)「そ、そうなんだけど、何て言うのかな、その……」
(´・ω・)[]「……とはいえ、何となくだが君の言いたいことはわかるよ」
そう親しくない自分でさえも、彼が学校を休んでいる姿が想像付かないからと小路は言う。
('A`)「だろ? 何か、こう、いないと不自然というか納まりが悪いんだよな……」
70 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/18(月) 22:51:21.59 ID:PQIp8fHgO
(´・ω・)[]「それで、その彼は何故学校を休んでいるのかな?」
('A`)「……いや、知らない」
(´・ω・)[]「知らない?」
(´・ω・)[]「君と長岡君は仲が良かったと記憶しているけど?」
('A`)「良かったと思う、少なくとも俺はそう思ってた」
(´・ω・)[]「連絡が付かないのかい?」
少し言葉のトーンが落ちる俺に対し、小路は変わらず淡々と聞き返す。
相変わらず携帯に目を向けたままだが、俺の話に興味は向けてくれているようだった。
('A`)「いや……」
('A`)「連絡してない」
(´・ω・)[]「は……? いや、どうして連絡していないんだい? 気になってるんだろ?」
('A`)「うん、気になってる」
71 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/18(月) 22:53:05.84 ID:PQIp8fHgO
(´・ω・)[]「じゃあ、連絡すればいいじゃないか」
それだけのことじゃないかと、小路は言葉を続ける。
珍しく小路の口調が、若干呆れた様に変化した様に聞こえた。
('A`)「いや、まあ、そうなんだが……」
('A`)「何だか連絡しづらくてね」
試合に負けた事なんてこれが初めてじゃない。
俺たちは負ける度に凹み、奮起し、目標に向かってひたすら練習して来た。
('A`)「負けるとあいつが一番凹むんだよ。立ち直るのも一番早いんだが」
(´・ω・)[]「その姿は何となく想像出来るね」
('A`)「けどなあ……」
けれど今回、俺は凹みっぱなしだった。
奮起しようにも次がないのだから。
二週間前、部内での引退の挨拶をした時のあいつにしては妙に大人しい態度に、俺は違和感を覚えた。
72 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/18(月) 22:55:10.44 ID:PQIp8fHgO
('A`)「何だからしくねーな、と……」
(´・ω・)[]「……」
いくらいつも賑やかで、皆の中心にいるような明るいやつだとしても、あいつだって人間だ。
落ち込む事があってもそれは別におかしな事じゃない。
(´・ω・)[]「それがわかってるなら、何故連絡しないの?」
辛い時に慰めてあげるのも友達の役目じゃないのかと、小路は至極もっともなことを言う。
俺はこちらを見ているわけでもない小路から視線をそらし、グラウンドの方に向ける。
('A`)「あいつは、俺らに負い目を感じてるんじゃないかなって思ってさ……」
(´・ω・)[]「負い目?」
あいつは最後まで、俺たちを甲子園に連れて行くと言い続けていた。
しかしそれは叶わぬ夢に終わり、あいつはそれを申し訳なく思っているのじゃないかと。
('A`)「勿論、俺らの誰もそんなことは思っちゃいない」
むしろ自分たちの不甲斐なさがジョルジュの足を引っ張った事を申し訳なく思っているくらいだ。
あいつの所為だなんて思うはずもない。
73 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/18(月) 22:56:13.89 ID:2BSnkuv20
こんな時は安価メールしかない
74 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/18(月) 22:57:20.37 ID:PQIp8fHgO
('A`)「だとしてもあいつは、それを気にしてるんじゃないかと思うとな」
こちらから連絡すると、余計な気を使わせるんじゃないかと考ていた。
加えて、あのジョルジュの事だから、その内呆気らかんとした顔で学校に来ると楽観視していた部分もある。
(´・ω・)[]「うーん……」
('A`)「……」
(´・ω・)[]「一つ気になることがあるんだけど、いいかな?」
('A`)「何だ?」
(´・ω・)[]「そもそも、何でそんな話を僕にしたの?」
全くの部外者であり、クラスメイトとはいえ、昨日まで話した事もなかったような自分に、と小路は言う。
(´・ω・)[]「相談するなら野球部の誰かにするのが望ましいんじゃないのかな?」
確かに小路の言う通りである。
俺たち野球部は、自他共に認める結束の強い部だ。
先輩も後輩も最低限の節度はありはすれど、分け隔てなく仲がいい。
75 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/18(月) 22:58:48.17 ID:PQIp8fHgO
当然、俺もこの話はキャプテンであるギコ辺りに話をしに行くかと考えてはいた。
だが、俺らはお互いをわかっているからこそ、ギコや他の部員も俺と同じ結論に至るのではないかと予想していた。
('A`)「別に相談してるわけじゃねえよ」
('A`)「単なる暇つぶしに、独り言を呟いてるだけさ。昨日と同じようにな」
(´・ω・)[]「随分と大きな独り言だね」
('A`)「声出しは野球部で鍛えられたからな」
小路はまた、少し呆れたような表情を浮かべ、今度ははっきりとこちらを見た。
相変わらず携帯を顔の前にかざしてはいるが、視線は明らかに俺の方を向いている。
(´・ω・)[]「長岡君の野球も終わったのかな?」
('A`)「え?」
(´・ω・)[]「君と同じように、彼の野球もここで終わったのかい?」
('A`)「ジョルジュの……野球……?」
76 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/18(月) 23:01:19.07 ID:PQIp8fHgO
俺の高校野球は二週間前のあの日に終わった。
これから先、また野球をやるかはわからないが、少なくともこの学校の野球部として、
野球部の連中と全員と共に野球をすることはないだろう。
当然、俺と同じ部であったジョルジュの高校野球も俺と同じ日に終わったはずだ。
終わったはずだが……
('A`)「ジョルジュ……」
思い返せば目に浮かぶ、共に過ごした日々。
あいつはいつも全力で白球に向かい、人一倍練習し、そして誰よりも野球を楽しんでいた。
甲子園へ行くという明確な目的がジョルジュにはあった。
しかし、何故ジョルジュは甲子園に行きたかったのだろうか。
何の為に、ジョルジュは甲子園を目指したのか。
甲子園は子供の事からの夢だったと、それがいつか聞いたジョルジュの答えだった。
まっすぐな眼差しで、口の端に笑みを湛えて。
俺が知るジョルジュの目は、いつも前を、先を見ていた。
('A`)「いや……あいつは……あいつの野球はまだ……」
あいつの夢は残念ながら叶わなかった。
けれど、あいつが夢の為に培ったこれまでの時間は、きっと無駄じゃない。
77 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/18(月) 23:03:02.28 ID:PQIp8fHgO
あいつはこんな所で終わっていいやつじゃない。
あいつの実力はこの2年と半年の間、間近で見て来た俺がよく知っている。
('A`)「まだ、終わっていない」
あいつにはまだ次がある。
高校での野球が終わっても、きっとまた次の機会が巡って来る。
まだここで、全てが終わったわけではないのだ。
(´・ω・)[]「彼なら、どこででも楽しんで野球が出来そうに見えるね」
その言葉を最後に、小路は再び視線を携帯の方に戻した。
そう難しく考えるまでもなく、ごく当たり前の答えに至った俺の方から視線を外して。
これ以上何も言う事はないという様に。
('A`)「サンキュー、助かったよ」
俺は何だか妙にすっきりとした気分で小路に礼を述べる。
あの日からずっと自分の中にあった靄がかかったような感覚が、すっかり晴れた気がしていた。
(´・ω・)[]「昨日といい何のお礼だい? 君は独り言を呟いてただけだったんじゃなかったかな?」
('A`)「これも独り言だ」
78 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/18(月) 23:05:04.17 ID:PQIp8fHgO
俺の言葉に小路は大仰に首を振ってみせる。
そこには笑顔の欠片すら見当たらなかったが、不思議と機嫌を損ねているようには見えなかった。
むしろどこか楽しんでいるように見えたのは、俺の錯覚だろうか。
('A`)「んじゃ、俺は行くわ」
(´・ω・)[]「それも独り言?」
('A`)「いや、これは屋上で偶然会ったクラスメイトへの挨拶だ」
(´・ω・)[]「そう。じゃあ、お気を付けて」
('A`)「お前こそ、熱中症には気を付けろよ、ショボン」
そう言い残し、俺は屋上から窓をくぐり、校舎に戻った。
今日もわずかに差し込む夏の日差しが階段を照らしている。
('A`)「さてと」
俺は携帯を取り出し、電話をかける。
校舎内で電話しているとこを先生に見つかったらことだが、そう長い時間でなければ大丈夫だろう。
('A`)[]「……出ねえ」
79 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/18(月) 23:07:14.47 ID:PQIp8fHgO
三回、四回と呼び出し音が鳴るが電話は繋がらない。
しかし、そろそろ留守電に切り替わるかと思ったその瞬間、呼び出し音がふつりと止まった。
「もしもし?」
('A`)[]「もしもし、ジョルジュか?」
「あ? 何だ、ドクオか」
('A`)[]「いや、何だも何も画面に名前出てんだろ?」
「……」
(;'A`)[]「おい、何だその沈黙は? 出ないのか? 俺の名前、登録してないのか?」
「冗談だよ。ちゃんと出てた」
微妙にぼっちのトラウマをえぐるジョルジュの応対に動揺こそしたが、思いの外普段と変わりない明るい声に、
俺はホッと胸を撫で下ろす。
電話が通じないかも知れないという危惧も少なからずあったが、要らぬ心配だった様だ。
80 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/18(月) 23:09:10.27 ID:PQIp8fHgO
「で、何の用だ?」
('A`)[]「……」
「ドクオ?」
当然、聞くべき事は色々ある。
そして言うべき事も色々あったから電話したのだ。
しかし、今それを電話で伝えていいものか少し迷う。
正しくは、電話なんかで俺が話したい事が伝わるかどうかなのだが。
('A`)[]「お前、今暇か?」
「は?」
('A`)[]「暇だな? 暇に違いない」
「いや、まあ、暇って言えば暇だが……」
('A`)[]「よし、じゃあ……」
81 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/18(月) 23:11:13.08 ID:PQIp8fHgO
俺は半ば強引に約束を取り付け、電話を一方的に切った。
携帯をズボンのポケットに押し込み、階段を降り始める。
約束の時間は三十分後で、ここからなら急がずとも間に合うのだが、久しぶりに走りたい気分だった。
俺は階段を三段飛ばしで一階まで駆け下りた。
夏休み中とはいえ、学校に来ている生徒は部活か補習に参加している者がほとんどらしく、
途中で誰ともすれ違うことはなかった。
('A`)「この暑い中、わざわざ学校来たのにサボるやつはそうはいないだろうな」
そうはいない中の一人である俺は、少しだけ額に浮いた汗を拭い、校舎を出る。
補習に参加しに来ているという立場上、こっそり出るべきかとも考えはしたが、どうせ自習ばかりの補習だ、
気にせずグラウンドの真ん中を突っ切ることにする。
強い夏の日差しの中を、俺は走り出した。
82 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/18(月) 23:13:21.65 ID:hE2WZMqi0
今のブーン系こんなモラトリアム話しかないん?
作者のお里が知れるわな
83 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/18(月) 23:14:42.23 ID:PQIp8fHgO
.
84 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:
キンと乾いた音が響き渡る。
白球の行方を目で追うよりも早く、ドンという鈍い音が耳に届いた。
_
( ゚∀゚)「うっし、ホームラーンっと!」
('A`)「お前は相変わらず飛ばすな……」
既に本日何本目となるかわからないホームラン性の当たりが、
バッティングセンターの奥のネットに張られている的に直撃した。
以前はあの的に当てたらタダ券がもらえていたのだが、どっかの馬鹿が荒稼ぎした所為で、
そのサービスは廃止になってしまった。
_
( ゚∀゚)「そうか? 今日はどうもいまいち身体が回ってない気もするんだが」
やっぱりここしばらくのブランクの所為かとジョルジュは言うが、二週間ぶりに会ったジョルジュは、
とてもずっと引き篭もっていた人間とは思えない身体の切れがあった。
('A`)「それだけ打てれば上等だろ。よし、交代だ」
_
( ゚∀゚)「えー、まだ打ち足りねえよ?」