(※先日投下した 律「好きって言って」後日談)
2 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/16(水) 17:16:22.20 ID:zmxe/5iq0
3 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/16(水) 17:16:27.93 ID:NUIuc8xW0
4 :
>>1代理ありがとうございます:2011/02/16(水) 17:22:31.79 ID:SKGKpUZZ0
毎日歩く通学路がガラス越しに流れていくのをぼんやりと眺める。
私と同じ制服を着た子たちの姿をあっという間に追い越して行く。
控えめに流れるカーラジオは何かのニュースを読んでいるけれど、よく聞き取れない。
「……それで、傷はそれほど深くなかったみたいで、縫わずに済んだって」
カチカチとウインカーが鳴り、交差点を右折する。
「包帯取れるまで、それほど時間はかからないそうよ」
「そうですか、よかった」
私の隣で、和がほっと胸をなで下ろした。
5 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/16(水) 17:26:19.57 ID:SKGKpUZZ0
昨日の事について詳しく話をするために、さわ子先生の車で律の家に向かう。
熱を出して学校を休んだ律のことを思うと気が乗らないのだけれど、
早く終わらせてしまいたいという律本人の希望を優先することになった。
「……澪、大丈夫?」
「え? あ、うん」
覗き込んできた和に笑顔を作る。そう?と、和は少し困った顔をして笑う。
「澪ちゃん、あなたは今日じゃなくてもいいのよ?」
運転席のさわ子先生も、ルームミラー越しに私の様子を気にしてくれる。
私はそんなに心配されるような顔をしていたのだろうか。
「いえ、大丈夫です。律の様子も知りたいし」
「そう? 無理しなくていいからね」
「はい」
楽しみ
7 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/16(水) 17:30:14.66 ID:SKGKpUZZ0
【田井中家】
門扉に据え付けられたインターフォンを鳴らす。少しして律のお母さんが出迎えてくれた。
皆の後から玄関に入ると、澪ちゃんいつもありがとうね、と微笑まれた。
リビングに続くドアの前で、さわ子先生が振り返って私を見る。
「澪ちゃんは、りっちゃんのところに行ってあげて」
「え、でも」
「怖い話、聞きたくないでしょ?」
「……」
8 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/16(水) 17:34:14.79 ID:SKGKpUZZ0
さわ子先生と和がリビングに案内されるのを見送って、大人しく階段を上る。
来慣れた部屋のドアノブに手を掛けようとしたところで、私の名を呼ぶ小さな声が聞こえた。
「……入るぞ?」
「んー」
ドア越しの籠った返事を確認して、部屋に入る。
日が傾いた薄暗い部屋の中、ベッドの上の掛け布団がもぞもぞ動いている。
9 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/16(水) 17:39:17.32 ID:SKGKpUZZ0
「電気、点けていいぞー」
「まだいいよ。具合はどう?」
「ぼちぼちでんなァ」
前髪を結んで額に冷却シートを貼った律が、鼻から上だけ覗かせて表情を崩した。
ベッドを背にして腰を下ろす。背中越しに、寝返りをうつ布擦れの音が聞こえる。
鞄を引き寄せ中身を探っていると、律が体を起こして覗き込んできた。
「はいこれ、唯からお見舞い」
手のひらに載せたそれを、律がちょっと笑って摘まみ上げる。
「イチゴ味のあめちゃんか。唯らしいな」
「こっちがムギから」
「うほっ、千疋屋のフルーツジェリーとな!」
ラベルに油性マジックで「りっちゃんお大事に 紬」と書かれたゼリーは、
今日のおやつだって、と伝えるよりも早く奪われた。
10 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/16(水) 17:41:38.28 ID:oT9+tFBs0
11 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/16(水) 17:43:42.02 ID:SKGKpUZZ0
続けて、クリアファイルに挟んだコピーの束を取り出す。
「で、これが今日の授業分な。試験に出やすい範囲らしいから目を通しておけよ」
「……うぅ、熱で頭が働きましぇん……」
途端に律のテンションが下がる。
「よくなってからでいいよ。わかんないとこは見てやるから」
「ん。しばらくはドラム叩くのも我慢しなきゃだし、勉強はかどるな」
「ゲームも我慢したらもっとはかどるぞ?」
「う……」
澪からのお見舞いはヘビーだ、と口の中で呟いた律を無視して、
処方箋とミネラルウォーターの隣にクリアファイルを置いた。
12 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/16(水) 17:49:30.03 ID:SKGKpUZZ0
律は布団の上に胡座をかいて、早速ムギからのお見舞いを開ける。
ひとくち食べて、うめえ、と幸せそうに溜め息を吐く。
「なあ、さわちゃんと和は?」
「今リビング。先におばさんと話してから来るって」
「そか。梓の様子はどうだった?」
「だいぶ元気になったみたいだな。今日は唯とムギと一緒に部室に行ってるよ」
「……そっか。よかった」
律はもう一度、今度は安堵の溜め息を吐いた。
13 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/16(水) 17:50:02.34 ID:cAy1SPVhO
後日談ktkr
C
14 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/16(水) 17:54:43.09 ID:SKGKpUZZ0
「……なあ澪、」
「何?」
「ちょっと、こっち向いてみ?」
「……なんで?」
「いいから向け」
声のトーンを落として足で私の背をつつく。私は仕方なく、ゆるゆると律に顔を向けた。
「……やっぱり。ゆうべ眠れなかったんだろ」
「……ん」
薄暗い部屋の中でもわかるくらい酷いクマなんだな、と、律の反応で自覚する。
和やさわ子先生に心配されるのも当然だな。
んん
16 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/16(水) 17:59:16.90 ID:SKGKpUZZ0
「まあ、怖かったからな。しょうがないか」
「……律に比べたらなんてことない」
よく言うよ、と律が苦笑いする。それから少し黙って、
ゼリーを掬っていた透明なスプーンに視線を落としてぽつりと呟いた。
「……あいつ、どうなったんだろうな」
律の顔を伺う。心配とか不安とは多分違う、静かな表情。
「私も詳しくは聞いてないけど……親御さんがしかるべき病院にどうのって」
「……ふうん、」
「多分、さわ子先生がおばさんに詳しい説明してると思う」
「そっか」
律はズッと鼻をすすって、残りのゼリーをいちどに掬って口の中に放り込んだ。
17 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/16(水) 18:04:28.53 ID:SKGKpUZZ0
気付いたら、部屋の中はずいぶんと暗くなっていた。立ち上がって灯りを点ける。
律はまぶしさに目を細め、少し恥ずかしそうに、はねた自分の髪を撫でつけた。
「澪、なんか飲むか? ったく、母さん気が利かないな」
「大丈夫。律は大人しく寝てろ」
「えーもう寝るの飽きたよー、澪ーなんか面白いことないー?」
元の場所に座った私の腕に、律がすがりついてきた。
さすがに頭をはたくのは我慢して、適当にあしらう。
「はいはい、ないない、甘えるな」
「なんだよー、澪のいけずー」
「勉強するか?」
「遠慮します!」
律は途端に私から手を離して、
両手を前に突き出し”No Thank You !”のジェスチャーをしてみせた。
18 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/16(水) 18:12:13.77 ID:SKGKpUZZ0
…………
律はほんとうに寝るのに飽きたらしく、ローテーブルを挟んで対面する位置に座り込んだ。
床に放り投げていたパーカーを羽織ってクッションを抱え、ミネラルウォーターを飲んでいる。
ぷはっ、と一息ついて、なあ澪、と私の名を呼んだ。
「なに?」
「寝てる間に色々考えてたんだけどさ……」
「うん」
「あいつ私に、その……執着をしてたわりに、」
「……うん、」
「あいつからは一度も、私が好きって言われなかったなって気付いたんだよね」
19 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/16(水) 18:14:24.77 ID:Rb3uhaGhO
待ってた!
支援
20 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/16(水) 18:16:49.70 ID:SKGKpUZZ0
「……」
「私には、言えって強要してきといてさ、」
「……」
「あ、もちろん、言って欲しかったとかじゃないぞ?」
「うん、それはわかってる」
律はちょっと黙って、言葉を探すように視線を泳がせる。
21 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/16(水) 18:20:08.33 ID:SKGKpUZZ0
「私昨日、唯んちの廊下で、澪に聞いたじゃん?」
「……好きって言って、か?」
「そうそう。好きって言ってもらうのに理由なんかいるのか?って」
「うん」
「澪は何て答えたか覚えてるか?」
「…………。いるだろ、」
「そう」
律がニッと笑う。
22 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/16(水) 18:24:40.86 ID:SKGKpUZZ0
「私な、昨日みんなの顔見て、」
「うん」
「こいつらのこと好きだ、って思った」
「……みんなも律が好きだってことも、だろ?」
今度は私が笑ってみせる。
律はちょっと眉を上げて、夕暮れに色づく窓に視線を移す。
23 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/16(水) 18:27:54.56 ID:SKGKpUZZ0
「……もちろん、そう思うのはたくさんの理由があるんだけど、でも、」
「……ん、」
「もう今更、わざわざ理由を確かめる必要もないじゃん?」
「……ああ。うん、そうだな」
24 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/16(水) 18:37:29.18 ID:uc3yJRQz0
最近律澪SSで切ないのばっかだからハッピーエンドだといいなあ
25 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/16(水) 18:38:23.03 ID:SKGKpUZZ0
「それで……。えーと、ああくそっ、なんかうまく言えないな」
ばりばりと頭を掻く幼馴染の姿が、とても愛おしく思えた。
「いや、わかるよ。伝わってる」
「そ、そうか?」
眉が八の字に下がる。恥ずかしいのか、ちょっと目が泳いでいる。
「なあ律、」
「ん?」
私は真面目な顔をして、まっすぐに律を見る。
それに気付いた律は、コクリと唾を飲み込んで、私を見返す。
26 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/16(水) 18:38:35.16 ID:d11vbPI/0
普通につまらんな
27 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/16(水) 18:42:33.84 ID:SKGKpUZZ0
「好きだぞ」
「…………へっ?」
28 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/16(水) 18:45:52.79 ID:SKGKpUZZ0
きょとんとした律の顔がみるみる赤くなっていくのを見て、
こらえきれずに噴き出した。
「?! な、なんっ、」
「ぷっ、ふははっ」
「ちょ、なに笑ってんだよっ!」
「確かめる必要がない時も、敢えて言葉に出すとそれなりに効果があるってことだ」
「……ッ」
「あっ、ちょっといい歌詞浮かびそう」
「ぬぬぬ、この、ばか澪!」
律の叫び声と同時に、クッションが飛んできた。
至近距離だったので避ける動作も出来ず、顔に直撃する。
29 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/16(水) 18:50:12.74 ID:SKGKpUZZ0
「いっ……たいなあ、何するんだよばか律!」
「お、お前が、変なこと言うからだっ!」
「だからって投げることないだろ!」
手元に落ちたクッションを掴んで、律に投げ返す。
クッションは斜め上に軌道を描き、律の額をかすめて後ろの壁に当たった。
「おまっ、病人になんてことを!」
「先に投げたのは律だろ!」
「やられたらやり返すって小学生か!」
「お前が言うな!」
30 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/16(水) 18:54:08.45 ID:SKGKpUZZ0
「……あんたたち、元気じゃない。心配して損した」
突然投げられた声に、はたと我に返る。
律と同時に振り返ると、開いたドアの向こうから
あきれ顔のさわ子先生と和が私たちを見ていた。
おしまい
31 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/16(水) 19:00:16.83 ID:DgeNdD75O
オタワ
32 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/16(水) 19:18:08.97 ID:uc3yJRQz0
前は100行かずに終わってんじゃん今回は30だし
スレを2つに分ける必要はあったのかい
33 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/16(水) 19:26:18.38 ID:SKGKpUZZ0
>>32 当初は後日談を書く予定じゃなかったので。もうしわけない。
34 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/16(水) 19:27:38.00 ID:imEhWq/LO
ボルゴウでやれ
35 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/16(水) 19:35:17.75 ID:oyNBhOVp0
律澪ひゃっほい
36 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/16(水) 19:38:51.56 ID:Y5gavyz2O
雰囲気が好きだったけど
これで完全におわり?
ちょ、これだけかい
なんかごめん。それと本編から読んでくれた人いたらありがとうありがとう。
お話としては、ここで終わりです。
スレがあまりに勿体なくて申し訳ないので、
ペース落ちるけど、書き溜めながら投下していきます。
今迄のと雰囲気変わると思うので、蛇足嫌いな方は回れ右お願いします。
39 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/16(水) 20:22:15.75 ID:uc3yJRQz0
しえん
40 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/16(水) 20:23:27.39 ID:Y5gavyz2O
律澪だといいな
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
じゃ、sage進行でいきまーす。
澪律俺で三人暮らししたい
「……てなことがね、先週あったわけよ」
「……あんたそれ、スルメイカ咀嚼しながら話す内容じゃないわよ」
呆れて溜息を落としながら、手元の携帯を見れば午前2時。
悪友であるコイツの家で飲み始めてから、もう7時間が過ぎていた。
「あーもう、帰るタイミング逃した。明日休みだし、泊まってくわよ?」
「なに、最初からそのつもりだと思ってたわ」
続き来てた
しえん
さわノリ?
既に何杯目かも分からないビールをコップになみなみと注ぎながら、
焦点の定まらない目で私を見る。
「……あんたもうそれぬるいでしょ」
「えー?もう味もわかんないし、いいわよ」
「あ、そう」
「でさあ、そのあと、りっちゃんがね」
「まだ続けるのね、その話。とりあえずスルメイカ飲み込んでからにしたら?」
私がそう言うと、さわ子は黙ってモグモグと口を動かした。結構素直な奴だ。
ごくんと飲み込んで、続けてビールをあおる。
「……ぷはっ。でね、そのあと、りっちゃんが」
「あ、私トイレ」
「ちょおぉぉっとー!聞きなさいよ!」
「はいはい、戻ってきたらね」
洗面所で手を洗いながら顔を上げると、鏡に映ってるのはトロンとした目の自分。
あー、私も結構酔ってるな。そう自覚したら、ちょっと世界が揺れた。
「さわ子、ちょっと水もらうわね」
「んー?冷蔵庫にエビアン入ってるわよ」
「わかった」
勝手知ったるなんとやら。シンクに洗いっぱなしになっているコップを2つとって、
冷蔵庫から冷えたミネラルウォーターを取り出す。
それぞれコップに半分ずつ注いで、足で冷蔵庫のドアを閉め、居室に戻る。
「……あんたまた食べてんの?」
新しいスルメイカを口にくわえたさわ子の前に、溜息と一緒にコップを置いてやる。
「んぁ、つい。すぐ飲み込む」
そう言って、さわ子はまた無言で咀嚼し始めた。酔っているせいで目が据わっている。
私は頬杖をついて、ぼんやりその様子を眺める。
ごくん、とさわ子の喉が動いて、水の入ったコップを手にとる。
ああ、相変わらず長い指だな、と思う。
「ふぅ、……。えっと、どこまで話したっけ」
「りっちゃんがね、まで」
「ああ、そうそう、で、りっちゃんがね、」
「あれ、りっちゃんってどの子だっけ?」
「え?ドラム」
「ああ、カチューシャだ」
「そう、カチューシャ。で。そのカチューシャがね」
「りっちゃんね」
「うん、りっちゃん」
さわ子は前髪をぐいと持ち上げて、「りっちゃん」を表現してみせる。
「その節はお世話になりました、なんて、ハンカチプレゼントしてくれてね〜」
「へ〜。でもなんでハンカチ?」
「傷の止血に私のハンカチ使ったの、気にしてたみたいで」
「いい子ねえ」
「いい子よぉ」
水のコップを両手で包んで、さわ子はニヘラと笑う。
私もつられて笑顔になる。
「でもあんた、デスメタルやってたくせに実は血が苦手だったじゃない」
「うん」
「卒倒しなかったの?」
「しないわよ。らって大事な生徒の一大事よ?」
さわ子はびし、と私に人差し指を突きつけ、
ろれつの回らない口調でカッコイイ台詞を吐いた。
「まあ本当のところ、澪ちゃんの手前、私が卒倒するわけにもいかなかったしね」
「澪ちゃんってどの子?」
「ベース」
ファミレスで会った時のことを思い出す。
ああ、私が脅かしたらフリーズしちゃったあの子か。
「背が高くてつり目のね」
「あんたもね」
「うるさい」
「あの子すごく恐がりなのよ」
「ああ、なんかわかるわ」
「でも、」
私もひとくち、水を飲む。
さわ子は言葉を切って、私がコップを置くのを待っている。
その間があんまり面白くて、私はわざとゆっくりとコップをテーブルに戻した。
「……でも、その澪ちゃんもさ〜、りっちゃん助けるために必死で」
「へえ」
「あ、あの二人ね、おささなじみなのよ」
「言えてないわよ」
「おさ?お、おさ、な、なじみなのよ」
「へえ」
56 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/16(水) 21:50:40.86 ID:OpMIOKIG0
チョンか。
「うん」
「……」
沈黙。私はさわ子を見て、さわ子も私を見ている。
「で?」
「え?」
「その、幼馴染が何?」
「あっ、そうそう、そのおささなじみがね」
「……うん、」
面倒くさくなりそうなので、指摘するのは止しておこう。
「……あれ?なんの話してたっけ」
「……澪ちゃんがりっちゃんを助けるのに必死で、って話」
58 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/16(水) 22:04:15.22 ID:cAy1SPVhO
C
えーと、と額に手を当てて、していた話を思い出そうとしているさわ子。
「あ、そうそう。澪ちゃんが、必死の形相で職員室に飛び込んできて、”律が、律が!”って」
「うん」
「澪ちゃん気が動転しすぎてて、正直何言ってるのかさっぱりわからなかったけど」
「本人に言っちゃだめよ」
「言わないわよ。まあとにかくトイレでりっちゃんが危ないってことは分かったわ」
「へえ」
「あのふたり、本当に仲良しでねえ」
そう言ってさわ子は目を細め、どこともなしに視線を泳がせる。
「一緒に登下校して、一緒に音楽やって、一緒に笑って、泣いて、喧嘩して」
「……」
「一緒の大学目指して。あの子たちったら、もう……」
遠い目をして微笑むさわ子を見て、ああ、この子は本当に先生やってるんだな、と……
「付き合っちゃえばいいのに」
「うわぁ台無し」
「……みたいなことをね、考えてそうなのよムギちゃんって。え?」
「え?」
「ん?」
「なんでもない。ムギちゃんてどの子?」
「キーボード」
ああ、あのおっとりした上品そうな子か、と思い出す。
そういえば、連れて行ったおでんの屋台にやたら感動していたな。
「ムギちゃんは、毎日部室におかし持って来てくれてね〜」
「ああ、あの子がその子ね」
さわ子が毎日楽しみにしているという、例のティータイムか。
以前、美味しいものを毎日食べてるせいで太ったんじゃない?と言ったら
本気でキレられそうになったので、それからは言わないことにしているけれど。
「ムギちゃんはね、私が作った衣裳も嬉しそうに着てくれるのよ」
「……あんたのために軽音部にいるような子ね」
「あそうそう、ムギちゃんも、それから唯ちゃんも、りっちゃん達と同じ大学受験するのよ」
唯、というのはあのギブソン・レスポールに名前を付けてた子か。
私らの曲を耳コピでほぼ完全に覚えてきた子。
……まあ、結局さわ子がステージに上がって、一緒に演奏できなかったけど。
なにこの会話www面白ぇw
がんばれー
「へえ、じゃあ全員が同じ大学を?」
「そうなの。仲が良いにもほどがあるわよね」
「受かるといいわね」
私がそう言うと、さわ子はうん、と頷いて優しい顔で笑った。
ピリリ、と、私の携帯が着信を告げる。
差出人を確認して、すぐ閉じて机に戻す。
「んー?見てもいいわよ?」
「いや、ただのDM」
「そう」
さわ子は興味なさそうに相づちを打つと、
すっかり乾いてしまったサラダのポテトをひょいと口に放り込んだ。
これはどんなSS?
ぬるくなってしまった水で喉を潤して、あれ、と思い出す。
「軽音部ってもうひとり居なかったっけ?」
「ん?ああ、梓ちゃんね」
「えーと、ああ、あのちっちゃい子」
「そ、猫耳が似合う子」
「うん、それは聞いてないわ」
「あら、ほんとに似合うのよ?」
「あの子は?同じ大学じゃないの?」
「梓ちゃんはまだ2年生なのよ。今年は新入部員が入らなくてね、来年1人になっちゃうの」
「そうなんだ」
「来年、なんとか3人以上入ってくれればいいんだけど…」
「そうね」
少し困った顔をしたさわ子に、相づちを打つ。
「ああ、そういえば」
「ん?」
「梓ちゃん、あんたのことカッコイイって言ってたわ」
「あらま」
「顧問の私より尊敬されるなんて、許せないわ」
「でもあの子たちメタルなんて聴かないでしょ」
あの子たちのオリジナル曲のタイトルを一度聞いたことがあるけど、
正直、なにそれコミックバンド?って思ったんだよね。言わなかったけど。
71 :
ひとやすみします:2011/02/16(水) 23:35:27.39 ID:SKGKpUZZ0
「あの子はご両親がミュージシャンらしくてね、結構幅広いジャンル聴いてるみたい」
「へえ、サラブレッドだ」
「似合うのは猫耳だけどね」
「うん、もうわかったから」
「そう、あ、ちょいトイレ」
「ん、いってら」
さわ子はのろりと立ち上がって、ぼりぼりと背中を掻きながら部屋を出て行った。
良いな
74 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/17(木) 00:17:35.90 ID:ileli+WS0
いいよいいよ
酔いのせいだか、おしゃべりのせいだか、頭が痛い。
ピリリ、と、ふたたび携帯が着信を知らせる。開いてすぐ閉じ放り投げる。
大きく伸びをして首を回している途中で、
部屋の隅に立てかけられたさわ子のフライングVが目に留まった。
なんとなく気が向いて、膝立ちで移動してネックを掴む。
そのまま胡座をかいて、ストラップを肩にかけてみる。
左手でコードを押さえ、右手を軽く滑らせると、
きちんとチューニングされたきれいな音が響いた。
「……ふふ、さわ子らしい」
さわ子のギターで、ポロポロとお気に入りのフレーズを爪弾いてみる。
「なんか、色々思い出すなぁ」
スイーッと、左指を弦に沿って撫でるように動かす。
アンプを通さないチープな音が部屋にこぼれていく。
「さわ子の話に、感化されちゃったかしらね」
そう呟いて、ちょっと笑う。
「ちょっとぉ!何時だと思ってんのよ」
いつの間にか部屋に戻っていたさわ子が、抗議の声をあげる。
「ああ、ごめんつい」
「やめてよ、怒られるの私なんだからね」
「ごめんってば」
まだブツブツ言いながら、テーブルにチューハイの缶をふたつ置く。
この子、まだ飲むつもり?
「……でも、相変わらず上手いわねえあんた」
ギターを置いて元の場所に戻ると、
テーブルに頬杖をついたさわ子がうっとりした顔をして口角を上げた。
「さわ子に褒められるなんて……明日血の雨が降るんじゃない?」
「たまーに褒めるとこれだぁー!」
やってられねえとでも言いたげな、大げさな身振りで項垂れてみせ、
そのままの姿勢で静かにプルタブを引く。
80 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/17(木) 00:52:40.15 ID:JDi2UAkxO
支援
もー寝ないといけない(;;)
明日の朝まで残っててくれ!
ピリリ、と、3度目の着信。開いて閉じて、戻す。
「……ねえ、」
「んー?」
「メール、見なくていいの?さっきから何度も鳴ってるじゃない」
「うん、いいの」
目の前に置かれた缶を手の甲でよけて、水の入ったコップを持ち上げる。
口を付けようとしたとき、さわ子がジロリと私を睨んでいるのに気付いた。
「……何?」
「……ねえ紀美、」
「なによ」
「もしかして、彼氏じゃないわよね?」
「何が?」
「メールよ、そのメール!!」
さわ子、完全に目が据わってる。
握りしめたチューハイの缶が、ベコベコと音を立てて変形し始めてるし。
「はあ?違うわよ馬鹿ね」
「だって私の前で見ないなんて怪しいじゃない!!」
「あのねえ……」
「どうなのよ、怒らないからいいなさいよ!」
「いやもう怒ってるし」
「じゃあやっぱり彼氏なのね!」
「噛み合ってないわよ会話が」
「何、いつの間に?誰なの?カッコイイの?イケメンなの?」
「話聞いてる?」
支援
「いくつなの?職業は?年収は?家持ってる?まさか不倫?!いやだ汚らわしい!」
「あーもううるさい落ち着け!」
手を伸ばして額をべしんとはたく。
うひ、と声を漏らして、さわ子が静止する。
「だってぇ……だってぇ……紀美に彼氏が出来たらアタシさみしいぃ……」
はい、泣き上戸入りました。
ああもう本当にめんどくさい。
「……メール、読んでみる?」
「えっ……」
私からの提案に、さわ子が動きを止める。
「多分説明するより読んだほうが早いから」
「え? えっ、でも、いいの?」
戸惑うさわ子に、思わず笑ってしまう。
「直前までの勢いはどうしたのよ。ほら、読んでみなさい?」
ぽいっと放り投げた携帯を、さわ子はアタフタと受け取った。
…………
「……何コレ」
私の携帯を握りしめて、さわ子がすっかり素の顔に戻っている。
「うーん、いわゆるストーカー的な子?」
「何あっさり言ってんのよ。え、何、紀美ストーカーに狙われてんの?」
「んー、細かいこと言うと、職場の女の子なんだけど、なんか好かれちゃって」
「好かれちゃってってレベルじゃないわよ」
コレ!と、携帯の液晶画面を私に向ける。うん、読んだから知ってるわ。
「重役の親戚だかでおおっぴらに拒否できなくて、どうしたもんだかって悩んでるところ」
「あんたねえ、そんなあっけらかんと……」
「てへ」
「てへじゃないわよ」
ぺろりと舌を出した私に、さわ子が呆れた顔を見せた。
「さっき、りっちゃんたちの話を聞いた時、他人事と思えなくてさー」
「もう、早く言いなさいよね……」
ごめんごめん、と片手を掲げて謝る。
「こんなことになってるの知らなかったから、私おささなじみとか言っちゃったわよ」
あ、あれわざとだったんだ。
モラウ「紫煙(ディープパープル)!!」
「まあでも、なんか、」
私はコクリと水を飲み、コップをゆっくりとテーブルに戻す。
目を閉じて深呼吸すると、肺の中の空気を全部出すつもりで長く息を吐いた。
「さわ子と馬鹿話してたら、なんかスッキリしちゃった」
「馬鹿は余計よ」
「うん、よし、決めた」
「ん?」
「週明けに、上司に言うわ。このメール見せて。それでクビになるなら本望」
「大丈夫なの?」
「私を誰だと思ってんのよ?」
小さく息を吐き、そうね、と柔らかく笑ったさわ子に、私も笑みを返す。
「それにしてもさー、」
「うん?」
「紀美、高校の時から女の子にモテてたわよね」
「あんただってそうじゃない」
桜高に通っていた頃のことを、ふと思い出す。
バレンタインにいくつチョコを貰ったか、なんて、さわ子と馬鹿な競争してたわね。
「……なんかもうさ、」
「んー?」
「私が紀美と付き合っちゃおうかなー」
「……はあ?」
「だってなんかもう、色々めんどくさくなっちゃったんだもーん」
唇を尖らせ、子供のように拗ねた顔をする。
「もーんって言われてもね」
「紀美が無職になっても養ってあげるわよ、だって教師だもん!」
「意味が分からないしそんなドヤ顔で言われてもね」
突然、さわ子が動きを止めた。
テーブルにきちんと両手を揃えて、まじまじと私の顔を見つめる。
「……さわ子?どうした?」
「…………」
「さわ子?気分悪い?大丈夫?」
「……紀美、」
「うん?」
「よく見たら紀美って、私のタイプかも……」
「はい、じゃ、そろそろ寝ましょうかね」
「聞いて!ね、聞いて!!」
「もー、酔っぱらいすぎよあんた」
「細かいことを言うと、紀美が男だったらもろタイプ」
「もろとか言うのやめなよ、一応先生なんだから」
まっすぐに潤んだ瞳を向けるさわ子から目を逸らし、盛大に溜息を吐いてみせる。
「ねえ、紀美……。ちょっとお願いがあるんだけど」
「……なに?」
ちらりと視線を戻すと、さわ子は恥じらうように上目遣いで私を見ている。
なんだか嫌な予感がする。いや、むしろすごく面倒臭い予感。
「あのね……」
「もう、早く言いなよ」
「えーっと……」
「好き、って言って?」
おしまい
おまけ:さわ子「好きって言って」 終了です。
おつ
おつ