“文学少女”のみぞ知るセカイ

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1以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
書き溜めあり
2以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/11(金) 22:11:21.46 ID:tifSYvHc0
代行乙です適当な間隔でやっていきます
3以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/11(金) 22:13:46.14 ID:Q5lWMK6I0
4以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/11(金) 22:14:01.27 ID:tifSYvHc0
「――せん」

昼休み、とある学校の図書館。

「――ません」

その受付での小さなやり取り。

「あの、すみません」

長い三つ編みを揺らした、見た目は古風な少女の呼びかけが静かに響き、
それにつられて受付の少女―汐宮栞―がはっと顔を上げた。

「な…なにか……用でござるか?」

とある学校の図書館での些細な出来事だった。
5以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/11(金) 22:16:17.99 ID:tifSYvHc0
「ござる?」

三つ編みの少女の不思議そうな表情を覗き込んだ栞は、
暫く何事かと惚けた後、自分自身の発言を思い出して赤面した。

「な、なにかご用でしょうか…」

ようやく絞り出した言葉は今にも消えてしまいそうなほどに弱々しいものだった。
どうやら先程は本の台詞が移ってしまったようだ。
栞の胸に大事そうに抱えられている時代小説のものだろう。

「この本の作者さんの他の作品はないかしら?」

三つ編みの少女が差し出した文庫本をじっと見つめる栞。
少しの沈黙の後、また弱々しく言葉を押し出した。

「放課後に……来てください……」
6以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/11(金) 22:19:14.04 ID:tifSYvHc0
三つ編みの少女が放課後に再び図書館の受付を訪れると、
そこには何冊もの文庫本を積み上げて待つ栞がいた。

「この図書館にある蔵書の全てです。これが『卓球場シリーズ』、これは『フォーマイダーリン』、
これが『ベースボール』で、これは『Daddy』、それと『うさ恋』です。あとこの雑誌には『羊くん』が……」

「素晴らしいわ!」

栞のたどたどしい説明を遮ったのは、他でもない三つ編みの少女の一声だった。
これまでの雰囲気からは感じられない、弾けるような陽気な空気を纏って彼女は喋り出した。
7以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/11(金) 22:20:10.39 ID:hxZtuZ0h0
しえん
8以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/11(金) 22:22:01.89 ID:tifSYvHc0
「文庫で刊行されたものだけでなく、掲載誌まで見つけてくれるなんてなんという幸運なの!
私がどれだけ本屋さんに足を運んでも見つけられなかったものもあるのに。
ああ、カバーを見るだけでもおなかがすいてくるわ!
一刻も早くその美味しそうな物語を味わいたくてうずうずするのよ!
あ、でもこれは図書室の本だから、本当に味わっちゃダメよね。
これは神が私に与えたジレンマという名の試練なのかしら」

栞は三つ編み少女の口上をただぼうっと見つめていた。
その長ったらしい言葉の全てを処理する能力を持ち合わせてはいなかった。

「全部借りて行くわ」

栞は、そこでようやく我に返った。
9以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/11(金) 22:25:48.79 ID:tifSYvHc0
栞はまた図書館にいた。しかし今日は受付ではない。
処分される本の整理のため、重い台車を引きながら館内を巡っていた。
そしてある書棚の書棚の前で、彼女はずっと立ち往生していた。
最上段の本を取りたいが少し背が届きそうにない。
だが彼女はあきらめず、出来る限りつま先立ちをして腕を伸ばした。
やっと本に手をかけた時、しかし彼女は思わず体のバランスを崩してしまった。

「大丈夫?」

倒れこんだ体を支えてくれたのは、いつかの三つ編みの少女だった。

はっと身を引いた栞は三つ編みの少女から離れ、思考の迷路に迷い込んでいた。
三つ編みの少女は何も喋らず可憐に微笑みかけてくる。
思考の迷路で右往左往した揚句、お礼を述べなければ、という出口にたどり着き、
やっとの思いで栞は言葉を紡ぎ出した。

「あ、ありがろん…」
10以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/11(金) 22:28:32.10 ID:tifSYvHc0
自分の発言にまた本の言葉が移ってしまったことに気づき、
栞は恥ずかしさのあまり、持っていた本『経済原論』で顔を覆い隠した。
そのまま立ち去ろうと踵を返し、台車に手をかけた時、

「それ、全部処分される本なの?」

背中に届いた声は先程助けてくれた三つ編みの少女のものだった。
振り返ると、栞が押す台車の上で段ボールに積まれた本の山を、
悲しそうに、切なそうに、愛おしそうに見つめていた。
11以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/11(金) 22:32:04.63 ID:tifSYvHc0
本の処分は視聴覚ブース設置に伴いう委員会の決定であり、
そこに属する栞の抗えるところではなかった。
そのことに憤りを感じているのは事実だが、
それは意見を主張できなかった情けない自分自身へと返ってくる。

「かわいそうに。なんとか残しておくことはできないのかしら」

それがまるで自分自身を責められているかのように錯覚して、逃げ出したくて、栞は思わず言葉を突きたてた。

「ば…ばかぁ――」

そしてそのまま栞は立ち去ってしまった。
12以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/11(金) 22:35:41.68 ID:tifSYvHc0
図書委員の会議が終わった後、栞は何をするでもなく図書館の中を歩いていた。
ふと、閲覧コーナーに差し掛かったとき、そこにあの長い三つ編みの少女を見つけた。
この前の謝罪をしなくては思い、踏み出すタイミングを見計らってると、
栞は予想だにしない光景を目の当たりにした。

三つ編みの少女が文庫本のページを指でつまむと、ぺりぺりと破り始めたのだ。
そしてあろうことか破り取ったページの切れ端を口に入れ、咀嚼したかと思うと、
そのままコクンと飲み込んでしまった。

そのまま恍惚の表情を浮かべる三つ編みの少女を見つめる栞は、またしても思考が迷子になってしまった。
本を破るとは何事か。それどころか食べてしまうとうはどういう了見か。どうしてそんなにもうっとりしているのか。
様々に思考を巡らせていた時、ふと二人の視線が重なってしまった。
お互い呆気にとられ、どちらも黙りこんでしまった。

「見てしまったわね」

先に沈黙を破ったのは三つ編みの少女だった。
13以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/11(金) 22:36:32.16 ID:rL6/5esXO
どこへ向かうのか
14以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/11(金) 22:40:38.47 ID:tifSYvHc0
「見られてしまったのなら仕方ないわ。でもこれは誰にも言っては駄目よ。
二人だけの秘密にしてもらうわ」

栞の前に歩み出た三つ編みの少女は、笑うわけではなく、怒るわけでもなく、
ただ真剣な眼差しだった。

しかしこればかりは栞にも譲れない。
どういう理由があろうと、本を傷つけたことには違いないのだから。
三つ編みの少女の思惑はわからないが、ただその一点だけが栞に発する言葉を与えた。

「あ、あ、あほぉおぉ!」

思いつく限りの罵倒を浴びせた栞はそのまま逃げ去ってしまった。
三つ編みの少女は追いかけてはこなかった。
15以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/11(金) 22:45:25.72 ID:tifSYvHc0
翌日、栞は書棚の陰から三つ編みの少女を見張っていた。
昨日は逃げてしまったが、やはり図書館の本を傷つけるのは許せない。
今日こそは現行犯で捕まえようとずっと目を付けてたのだ。
そして三つ編みの少女が本のページを指でつまみ、紙に亀裂を入れ始めたその瞬間、
飛び出した栞は勢い良くその本を取り上げた。

「と、図書館の…本に……」

ありったけの勇気を振り絞って注意しようとする栞に、三つ編みの少女は優しく微笑みかけた。

「それ、私の本よ」

その言葉に凍りついた栞は、恐る恐る手にした本を確認し始めた。
確かにそれは図書館のものではなく彼女の私物のようであった。

「ごめんなさい。返してもらえないかしら」

三つ編みの少女はずっと優しい顔で微笑みかけていた。
16以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/11(金) 22:49:24.52 ID:tifSYvHc0
自分の軽率な行動を恥じながらもなんとか弁明の言葉を考えていた栞は、
しかし思うように言葉を紡げなかった。

すいません。
「あなたは飲食禁止」

すいません。
「あなたは出入り禁止」

すいません。
「いえ、全部禁止」

私は静かに過ごしたいだけなのに。
「あなたがいると乱れちゃう。視聴覚ブースなんてできたら…」

そこまで言って栞は我に返り、僅かの沈黙の後、一気に顔を赤らめた。

「ず、ずわー!!私…思ってることと話してることが逆になってる!!」

栞は慌ててその場から去って行った。
17旦 ◆HOKKEvxAGE :2011/02/11(金) 22:49:39.99 ID:slhaCwNK0
南無妙法蓮華経を唱えなさい 八
http://kamome.2ch.net/test/read.cgi/kyoto/1294465280/
18以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/11(金) 22:53:18.28 ID:tifSYvHc0
後日、栞はやはり図書館で三つ編みの少女を見張っていた。

「出入り禁止って…言ったでしょう…。わかってるんだ…また本を食べるんだ…」

三つ編みの少女は栞の顔を見つめ、優しい表情で答えた。

「私たち、ふつうに話してるわね」

その言葉に栞は驚きを隠せなかった。特に仲良くなるようなことなんてなかったはずなのに。
しかし昨日も今日も自分から近づいて行ったのだ。どうしてかは栞自身にもわからない。
ただ栞はその事実に動揺していた。

「でも、ここはいい所ね」

困惑していた栞に三つ編みの少女の澄んだ声が届いた。
19以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/11(金) 22:56:56.29 ID:tifSYvHc0
「誤解してほしくないの。私は本を傷つけたいわけじゃないわ。
私はね、物語を食べてしまいたいくらい愛しているの」

栞はすっと三つ編みの少女の向かいの椅子に腰を下ろした。

「図書館は……素敵な場所だよ…。現実の喧騒から守ってくれる。紙の砦なの…」

小さく、しかし確かに栞はそう言った。

「私、天野遠子よ」

「し…汐宮栞……ですが…」

栞は立ち上がるとそそくさとどこかへ行ってしまった。
20以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/11(金) 23:00:34.99 ID:tifSYvHc0
それは周囲からすれば突然の出来事だった。
しかし当事者からしてみれば確かに予兆はあったのだ。

栞は視聴覚ブース導入反対を掲げ、図書館に立て篭もった。

外からの声に臆しながらも、栞は断固として開放を拒んでいた。
そのとき、奥から何やら物音がした。
何事かと思い、栞は奥の部屋を覗き込んだ。

「こんにちは」

そこにいたのは、埃にまみれた三つ編みの少女、天野遠子だった。

「私も本を守るために手伝うわ」
21以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/11(金) 23:03:48.72 ID:tifSYvHc0
本に囲まれた狭い受付カウンターの中で、栞と遠子は籠城していた。
しかし実際にはそれぞれ静かに本を読んで過ごしているだけであり、まるで緊張感のない状況である。
時たま本のページを破って食べる遠子を、栞は横目でちらちら垣間見ていた。
遠子は食べた本の感想を食べ物のように表現し、栞にはそれが新鮮で、
何より生き生きとした遠子の表情がとても面白かった。
自分もこんな風に思ったことをぺらぺらと感情豊かに表現できたら、などと考えていたとき、
何の前触れもなく図書館が停電した。
驚いて思わず倒れこんだ栞は遠子とともに本の山に埋もれてしまった。

「大丈夫?栞ちゃん」

遠子にもたれかかるような格好になり、なんだか急に恥ずかしくなった栞は黙り込んでしまった。
少しして落ち着きを取り戻した栞は小さく呟いた。

「私はずっと…静かにここ―図書館―で暮らしたいだけなのに…」

「それは嘘ね」

栞の囁きを一蹴したのは遠子の声だった。
22以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/11(金) 23:08:04.51 ID:tifSYvHc0
突然のことに栞は頭が真っ白になってしまった。
二の句が告げず、ただ口をぱくぱくしている。

「これは私の『想像』よ。あなたは本当は人と話したいと思っている。
でも不安なの。話をして嫌われたりしたら嫌だから」

「でもそんなの…誰だって…天野さんだって…」

「そうね。私も大切な人に大切なことを伝えられなかったことがあるわ。私だけじゃない。
言葉や想いのすれ違いのせいで苦しみを味わった人たちも知ってるわ。
取り返しのつかないことになった人もいるわ。

でもその人たちも『想像』の翼を広げることで、見えなかった真実を見つけることが出来たの。
そしてそれぞれが自分の姿をそこに見つけたわ。ある人は『普通の人になりたい』、
ある人は『惚れた人を守りたい』、ある人は『素直になりたい』、ある人は『誠実な人間でありたい』、
ある人は『自由な自分でいたい』、ある人は『真実と向き合える人間になりたい』とね。

栞ちゃんは本を守りたいの?それとも外の世界からの逃げ場所を守りたいの?」
23以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/11(金) 23:13:01.02 ID:tifSYvHc0
栞はただ本が好きだった。本を守りたかった。でもそれだけではない。
話もしたかった。誰かと話をしたかった。
でも今更もう無理だ。外は怖い。外に出る勇気がない。

「これを」

遠子が示したのはどこからか取り出した一冊の本だった。栞ですら見たことのないタイトルだった。

「これは男の子と女の子の物語よ。とても綺麗できらきら光る宝石のようなお話。でも本当はそれだけじゃないの。
表の物語に隠されたとても醜くて、辛くて、苦しい物語があるの。それはきっと当事者たちにしかわからなかったことだけど、
その先にはさらに隠された本当に伝えたかった真実もあるのよ。それは『想像』を膨らませることでたどり着けるの。
栞ちゃんにもきっと今まで見えなかった沢山の想いの形が見えてくるはずよ。

この本と一緒に、勇気をあげるわ」
24以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/11(金) 23:17:05.19 ID:tifSYvHc0
どれだけ時間が経っただろうか。図書館のロックは開かれ、
図書委員長の藤井寺とそのほかの委員数名が栞のもとへ走り寄ってきた。

「ご、御迷惑をおかけしました。私、本が捨てられるのが我慢できなくて…。
でも、どんな本にも伝えたいことがあるんです。誰かに伝えたいと…そう思っています」

確固たる意志を持って述べる栞の姿に委員たちは圧倒されていた。
それは今までの汐からは考えられない姿だった。
ただ、委員長ははっきりと栞の言葉を受け止めてくれた。

「わかったよ。処分本のことはまた会議しよ」

そうして栞の戦いは終わりを告げた。ただどうしても心に引っかかるものがある。

「あの、委員長……『井上ミウ』っていう作家さんを知ってますか?」

「誰?聞いたことないぞ。あんたが大事そうに持ってるその本の人?なんていう本よ」

「これは……」

『青空に似ている』
25以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/11(金) 23:20:56.43 ID:tifSYvHc0
もし栞ちゃんが自分の言葉で想いを紡ぐことができるようになったら、
私に栞ちゃんの物語を食べさせてほしいの。

私、物語を……書いてみたいです。

楽しみにしているわ。栞ちゃんの物語。

一つ聞いていいですか。

いいわよ。

天野さんは何者ですか。

私はね、


ご覧の通りの“文学少女”よ。
26以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/11(金) 23:23:53.59 ID:tifSYvHc0
終わり。この様子だと
「GOSICKのみぞ知るセカイ」「俺の妹のみぞ知るセカイ」も必要ないですね
27以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/11(金) 23:26:48.27 ID:RyhnTHqWO
俺は好きだがVIPでは需要がない
28以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/11(金) 23:27:49.79 ID:bBZ461BpO
読むのに夢中でレスできなかった
こういうの大好きなんで是非とも続けて下さいお願いします
29以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/11(金) 23:32:44.51 ID:TQyIrvqW0
支援
30以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/12(土) 00:18:14.28 ID:Gkuai1mvO
GOSICKまではやってもらう
31以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします