1 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:
一つの卵が生まれ落ちました。
私の世界に、違和感と言う名の一つの卵が。
時を経て、殻を破り、中から出てきた幼な子は。
私の気づかぬうちに、秘密を喰らい、事実を喰らい、真実を喰らい。
養分を得て日増しに大きくなり、さなぎへと変態するのです。
他ならぬ私のために。
だって、さなぎから孵化する蝶は。
美しすぎて、みんなの目を惹きつけてしまうから――
2 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/02(水) 19:46:24.59 ID:fSS0m2ie0
優しくされたいんでしょう
何かがヘンだ。
気のせいじゃないよね? 私がおかしいんじゃないよね?
そう思いたいくらい、みんながおかしい。私、何かしたのかな?
どうおかしいのか、ちょっと見てみましょう。
以下、いつもの軽音部の風景です。どうぞー
唯「あずにゃんぎゅ〜」
梓「………ぎゅ〜」
はい、ここです、まずいきなりおかしいです。あずにゃんが抵抗しません!
……うん、これは別に私はうれしいんだけどね。なんか調子狂うというか、ね。
っと、そうじゃなくて、では続きをどうぞ。
唯「おぉ? なんかあずにゃんが素直だ! よしよし」ナデナデ
梓「………」ウットリ
澪「………」ジトリ
はい、次は澪ちゃんです。文字では伝わりにくいと思いますが、目が怖いです。マジです。本気と書いてマジで
す。
そして他にも――
どんな話か想像できん
律「こら唯、いつまでも抱きついてないで練習するぞ」
紬「唯ちゃん、いつまでも抱きついてないでお茶にしましょ?」
律「………」バチバチ
紬「………」バチバチ
こちらは私の知らないところで火花を散らしてます。とりあえず二人に共通するのはどうにかして抱きつきをや
めさせたいようです。
りっちゃんに至ってはサボる側なのに私に練習を促す始末です。
ムギちゃんもムギちゃんで、遠回しにあずにゃんかりっちゃんかどちらかを威嚇しているかのような言い方です
。
まぁ、これくらいは日常茶飯事です、最近の軽音部は。軽音部だけならまだしも、さわちゃんや和ちゃんもやた
ら最近世話を焼いてくれるような気がしますが、それはきっと卒業が近い時期だからでしょう。
ともあれ、軽音部の皆は一体どうしたんでしょうか?
――というわけで、私なりに考えてみた。考えてはみたんだけど。
……うん、なんか思い上がってるみたいで言いたくないね。一度は言ってみたいセリフではあるんだけどね。
「私のために争わないで!」っていうのは。
勘違いだったらすごく恥ずかしいしね。確証が持てるまでは言葉にしないほうがいいかな。
――つぎのひ!
憂「お姉ちゃん、朝だよー? 起きてる? 起きてないよね?」
唯「ん〜……起きてるよぉ」
憂「ちぇ、残念。いろいろして起こそうと思ったのに」
唯「いろいろって何……」
憂「聞きたい?」
唯「聞きたく…ない、かな……」
憂「ふふっ、じゃあ早く朝ごはん食べよ?」
……我が妹はどっち側なのか判断がつかないよ。
ともかく、そうこうしていつも通り家を出て、学校へ向かうワケですよ奥さん。奥さんって誰だろう。まあいい
や。
要するに私が言いたいのは、通学路もまた……困難な道なのですよ。
7 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/02(水) 19:57:18.67 ID:x5Pyd60L0
改行が…
改行がおかしい
なんでだろ
憂「お姉ちゃん、もうすぐチャイムなるよ? 急いで!」
唯「………だったら腕から離れてくれないかなぁ」
梓「そうだよ憂、唯先輩迷惑してるじゃん」
唯「あずにゃんも腕から離れてくれないかな」
あずにゃんが右腕、憂が左腕。両手に花……とは言うけど、花だって重さもある立派な荷物だよ。
あ、荷物といえば……
唯「澪ちゃん、ギー太は……」
澪「返さないぞ!!」
両手が塞がっているから、と澪ちゃん達が荷物を持ってくれる。それは助かるんだけど…
唯「いや返してよ、私のだよ……まぁムギちゃんに安くしてもらったんだけど、それでもお金出したの私だし」
紬「今なら私も大安売りよ!」フゴフゴクンカクンカ
唯「ムギちゃんはナチュラルに私のカバンの匂いを嗅ぎながら会話しないで!」
律「私は隣の沢庵屋より一割安いぞ!」
唯「なにその売り文句。あとりっちゃんは特に持つ物無いからって腰に抱きついてこないで欲しいんだけど…」
正直、一番歩きにくい理由はりっちゃんだ。昨日はムギちゃんが抱きついてきた。
じゃんけんで負けた人がこのポジションらしい。よくわかんないけど。
唯「とにかくっ! 遅刻しそうだからそろそろ離れて!」
律「ふむ、唯は怒った顔も可愛い。けど」
梓「怒らせたい訳じゃないので」
憂「大人しく離れようかな」
……と、素直に離れる三人。なんか距離の取り方が絶妙だなぁ……いつかどこかで見習おう。
さて、あとは荷物を返して貰わな――
澪「」ペロペロペロ
唯「澪ちゃんなんでギー太なめてるの!?」
紬「」スーハースーハー
唯「ムギちゃんそれ私の体操着!?」
紬「って洗剤の匂いしかしないわ!」ダンッ
憂「できた妹ですから♪」
律「こら、澪ももうやめとけ、錆びたらどうする」
唯「そういうレベルの問題はもうとっくに越してる気がするよ!?」
梓「律先輩がここにきていい子ちゃんぶって点数稼ぎしてます…ムカつきます」
律「ハハッ、梓みたいなお子様とは違うのさ」
梓「ハッ、必死すぎて滑稽ですよ。自然体が一番です」
律「それじゃあ梓は永遠にお子様としか見てもらえないな、可哀想に」
梓「グヌヌ」
律「ウギギ」
……なんか言い争いまで始まったし……
遅刻しそうとかいっときながら、みんな勝手だなぁ…
唯「……あ〜もうっ! みんな荷物返して! もう先行くから!」プンスカ
柄にもなく怒っちゃった私は、そのまま後ろを振り返らず学校まで一直線。
まぁ、どっちみち皆とクラス一緒だし、教室でまた会うんだけど……
律「……ゴメンな、唯」
憂「ゴメンね、お姉ちゃん」
梓「ごめんなさい、唯先輩」
和「――ほら、唯。そろそろ話だけでも聞いてあげたら?」
りっちゃんはともかく、憂とあずにゃんまでうちのクラスに来ちゃったし。わざわざ私に謝りに。
唯「……まぁ、三人は言えばやめてくれたし、特に憂は何もしてないし怒る事も無いんだけど…」
律「………」
梓「………」
唯「…もうケンカしないでね?」
りっちゃんとあずにゃんは、ケンカってほどじゃないけどよく口論してる。
そのたびに私はこうしてなだめてる気がする。
……よくやってるわりに、私のなだめ方は『もうケンカしないで』っていうのは少しおかしいかな?
律「別にしたくてケンカしてるわけじゃないけど…今回だって吹っかけてきたのは梓だし」
梓「だったら点数稼ぎなんて止めてください」
律「ホラみろ、またコイツは――」
唯「だからそーじゃなくて! あずにゃんはりっちゃんのことをそんな目で見ない! りっちゃんも先輩なんだから後輩には優しく!」
律梓「…はい」
唯「わかったら戻ってよし」
律梓「はい」
憂「じゃあね、お姉ちゃん」ガラッ
周囲のみんなの目も気になるし、早々に切り上げることにする。いつものことなんだけどね。
ともあれ、この二人と憂はまだ行動は常識的な方に思えるからこれくらいでいいけど……
唯「………」チラッ
紬「……ごめんなさい」
唯「……ムギちゃんってあんなキャラだったっけ?」
紬「…違うと言いたいけど、意外と違和感無いと思う…」
唯「私はいつものムギちゃんに戻って欲しいよ……」シュン
紬「っ…ごめんなさい、本当にごめんなさい…! もうしません…!」
唯「……信じていいの?」
紬「唯ちゃんのそんな顔なんて見たくないから……もう絶対にしない!」
唯「……ありがとう、ムギちゃん。ムギちゃんは優しいね」
違うと信じてるけど、もしかしたら、万に一つくらいは、あれがムギちゃんの本性なのかも、とも思っちゃう。見てしまった以上は。
ま、もしそうだとしても、私のために、私のお願いのためにその本性を隠すと言ってくれるムギちゃんは、きっと優しいよ。
一時の気の迷いだったと信じてるけど。
16 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/02(水) 20:18:48.33 ID:fSS0m2ie0
>>13 セカンドアルバムまだかよって感じですよねー
唯「………で、澪ちゃん」
澪「」ビクッ
唯「ギー太は今和ちゃんが拭いてくれてるけど……さすがにこれは擁護出来ないレベル…なんだけど、一応理由を聞こうか」
澪「……唯は、私が狂ってると思うか?」
唯「え? いや、そこまでは…」
澪「いや、いいんだ、狂ってると言ってくれていいんだ。だって私を狂わせたのは唯、お前だから!」
唯「え? え??」
澪「唯の顔が! 身体が! 匂いが! 全てが……恋しいんだ! 欲しいんだ! だから仕方な――」
律「落ち着けバカ」ザクッ
澪「ぁなルッ!?」ビクン
紬「……ドラムスティックがお尻の穴に…」
澪「」ビクンビクン
唯「澪ちゃん今日も縞パンなんだー」
澪「ひぃ!? み、見るな!」ガバッ
律「……浅かったか」
すごい食い込んでますけど浅いんですか。そうですか。私にはわからない世界です。
律「おい唯、いい方法を教えてやるから耳貸せ」
唯「うん?」
律「澪に言うことを聞かせるには、とりあえず『嫌い』って言葉をちらつかせるんだ」ボソボソ
唯「…なんで?」ボソボソ
律「お前に嫌われたら生きていけないからだよ。あ、もちろん加減には気をつけろよ?」ボソボソ
唯「加減間違ったらどうなるの?」ボソボソ
律「刺されるとか、飛び降りるとか…」ボソボソ
紬「かーなーしぃーみのーー」
唯「ひぃぃぃぃ」
律「まあ、まだ序盤だから死にはしないさ。ほら行け」
序盤って何さ、りっちゃん。
まぁとりあえず……言われたとおりやってみようか。
唯「……澪ちゃん、大丈夫?」
澪「うぅ……大丈夫じゃない…はじめては唯がよかったのに…」
唯「……そういう発言は止めようよ…ヒくよ…」
澪「え……っ?」
しまった、素でドン引きしてしまった…!
唯「あ、その、そうじゃなくて……」
澪「……私のこと、嫌いになった?」
唯「い、いや、大丈夫…たぶん」
澪「たぶんって……そんな、イヤだ! やめて! 嫌いにならないで! 何でもするから、言うこと聞くからぁ…!」
澪ちゃんが必死な形相で、私のスカートにしがみつきながら訴えかけてくる。
いつもの凛々しい澪ちゃんとは違う、稀に見せる臆病な澪ちゃんとも違う、それこそ命を賭けたような必死な訴え。
さっきまではドン引きしてたけど……さすがにこれは可哀想。
唯「え、あ、うん、大丈夫! 大丈夫だから! いつもの澪ちゃんでいてくれればそれでいいから!」
澪「……いいの? いつも通り唯を大好きな私でいいの?」
唯「…ギー太舐めるのは禁止ね」
澪「ギー太ぺろぺろしなければ私のことを好きでいてくれるんだな!?」
唯「え、うん、たぶん……」
澪「イヤッホオオオオオオゥ!」ガタン
律「押し切られてどーする…」
唯「いや、なんかテンションの上下幅の大きさについていけなくて…」
紬「ヤンデレでメンヘラねぇ♪」ウフフ
唯「笑い事なの? それ……」
21 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/02(水) 20:38:08.67 ID:QIpYCWaa0
ういうい
――お昼!
梓「唯先輩! ご飯食べますよ!!」ガラッ
唯「んむ、まぐぁん」フゴフゴ
律「ほれほれ」
澪「食え食え」
紬「まぁまぁ」
和「解説をすると、みんなからお弁当を口に突っ込まれてる唯の図、です」
唯「はふへへ〜」ヘルプ
梓「先輩方やめてください! 唯先輩困ってるじゃないですか!!」
律「……じゃあ私はそろそろやめよう」ガタッ
梓「そのポジション貰ったァァァ! はい唯先輩あ〜ん♪」
唯「」
紬「唯ちゃん何か飲む? 何でも揃えてあるわよ〜?」ズラリ
澪「じゃあ私がウーロン茶を飲ませてあげよう」
梓「じゃあ私はコーラで」
紬「私はやっぱりいつも通り紅茶かしら」
澪「さぁさぁ、唯」
梓「口を開けてください、さあ!」
唯「」
和「そろそろ止めるべきかしら」
律「そうだな…まぁ私が止めると梓に絡まれるから和頼むわ」
和「仕方ないわね…」ガタッ
憂「さすが私のお姉ちゃんは世界一!」
律「憂ちゃんもいたんなら止めてあげてくれよ」
憂「口いっぱい頬張ってるお姉ちゃん可愛い…///」
律「まぁ、それは否定できない///」
唯(ダメだこりゃ)
違和感を感じ始めてから、私がツッコミに回ることこそ多くなっちゃったけど、それでもこのメンバーでいる時間は嫌いじゃなかった。
みんなが変わっちゃった理由はわからないけど、それでも私はみんなのことが大好きだったから。
さわ子「そんなの簡単よ。みんな唯ちゃんのことが大好きだからよ」
唯「唐突に出てきて唐突に心を読まないでください」
さわ子「梓ちゃんの言ったことは的を射てるわ。みんな点数稼ぎに必死で、それでお互いがギスギスしちゃってる」
唯「唐突に出てきて過去を覗かないでください」
さわ子「一度、みんなを集めて腹を割って話し合うといいわ」
唯「話を聞いてください」
さわ子「たぶんこれから先は私の出番ないから出張ってみました!」
唯「帰ってください」
あんなんだけど、さわちゃんの言うことも一理あると思う。
なんだかんだで私もみんなとずっと一緒にいたいと思うし、こういう機会も必要なのかもしれない。
みんなとずっと一緒に、バンドしてたい。それは偽り無い私の気持ち。
そう、ずっと。進路もまだ決めてないような時期だけど、卒業後も……
唯「――そうだ、みんな」
放課後、部室で私はその意見をみんなにぶつけてみた。
唯「みんなで一緒の大学に行かない?」
我ながらいい提案だと思った。みんな合格してハッピーエンドの未来が見えた気さえした。
………現実は、みんなの呆気に取られた――いや、驚愕した顔が見えただけだったけど。
唯「……ど、どうしたの? みんな」
和「律ー? 書類また出してないでしょー?」ガラッ
律「うぉぉぉぉ和空気読め帰れぇぇ!」グイグイ
和「え、ちょ、ちょっと何?」
律「私が悪かったから早く戻れ!」グイグイ
和「わ、わかったわよ。ちゃんと出してね?」ガラッ
律「………ふぅ」
唯「…………?」
律「えー、っと……」
……本当にどうしたんだろう? みんな…
紬「ゆ、唯ちゃんこそどうしたの? 急にそんなこと言って」
唯「え? えーっと、だって、私みんなのこと大好きだし…一緒にいたいと思って。できれば和ちゃんも」
梓「そ、それは嬉しいですねー…って、私は来年ですけど…」
唯「大丈夫、待ってるよ。なんというか、みんな一緒にいるべきというか、ずっと昔にそんな夢を見たような気がして、ね」
……そしてその言葉でまた、みんなが固まった。
今度は間違わない。さっきと同じ、驚愕に満ちた顔。
そして私も、きっと同じ顔をしていた。
唯「……あれ、そんな夢、いつ見たんだっけ?」
澪「考えちゃダメだ」
唯「え? 澪ちゃん?」
澪「考えるな」
唯「え? どうしたの…?」
律「……そんな言い方があるか、バカ」
唯「りっちゃん、何の話?」
律「唯、その質問には答えない。けど、唯が何かをしようとするのも、私は止めない」
どうしたんだろう? りっちゃん、急にまじめな顔して……
そしてそのりっちゃんを、澪ちゃんとあずにゃんは恨めしそうに睨んでる…ムギちゃんは戸惑ってるみたい。
でもそんな空気も視線も、りっちゃんは気にせず、私に言うんだ。
律「ただ、一つだけ聞いておきたい事と、知っておいてほしい事がある」
唯「う、うん、何?」
律「唯は、今の私達の関係に不満を持っているか?」
唯「……そんなの、あるわけないよ。最高の仲間に囲まれて、不満なんてあるわけないよ」
律「…その言葉を、忘れないで欲しい」
唯「…知っておいてほしい事は?」
律「ああ、それは簡単な事だよ」
律「……みんな、唯の事が大好きだ、って事」
前半終了一旦休憩
唯「ゆめおち!」と被らないことを期待します
31 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/02(水) 22:04:55.50 ID:PpuKd/9uO
あげ
32 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/02(水) 22:08:55.49 ID:HQjFR3shO
ギー太が親父顔のギョウザ臭ギターな話かと期待して開いたら全然違った
じーちゃん長風呂すぎた
書く
――愛とは、一方的なものであるべきである。
私、平沢唯は、そう思うのです。でも特に理由はありません。
それでも、この考えは曲げることは無いと思います。
見返りを求めるならば。愛して欲しいから好きだと囁くくらいなら。
私はそんな人のために、愛を返すだけの人形を作ってあげたいと思います。とても寂しく、悲しい人形を。
もちろん、そんな人形を使う人も寂しく、悲しい人。
……つくづく、そう思うのです。
律「唯は」
澪「こう、薄く伸ばしてだな」
梓「まぁ、虚飾ですかね」
紬「くるくる」
和「廻る」
さわ子「あ」
憂「お姉ちゃん…帰ってきた」
「「「「「「「おかえりなさい」」」」」」」
【ずっと前の出来事】
……寝惚けた頭で、私はとんでもないことを呟いたらしい。
扉の前に立つ憂の顔が、それを物語っている。
憂「……大学? 何言ってるのお姉ちゃん、今日から高校生でしょ?」
――今日から私は大学生なのに、なんで憂がいるの? とか、そんなことを言ったような気がする。たぶん。
ああ、そうだ、私は大学進学を機に一人暮らしをしようとして……あれ、でもここはいつもの家、いつもの部屋だよね?
憂「もう、寝惚けてないで早く起きてよ? ご飯できてるよ?」
唯「う…うん」
大学生になる夢でも見ていたんだろうか? まぁ、憂も言っているんだしそう考えるのが妥当だろう。
全部夢だったんだ。みんなと一緒に卒業して、みんなと一緒の大学に――あれ、みんなって誰?
和ちゃん? いや、違う気がする。だいたい一人じゃなかったし。
確か…4人だったような気がする。名前も顔も…わからないけど。
――今思えば、これが最初の違和感。
――2年少し前の事なんて、そりゃ変なキッカケでも無いと思い出さないから無理ないけど。
その後、私は軽音楽部に入部し、様々な出来事を経て、進級。後輩も一人得た。
澪ちゃん、りっちゃん、ムギちゃん、あずにゃん。これが今の軽音部。みんな私と仲良くしてくれている。
不思議すぎるほど、すぐに皆打ち解けた。
そう、まるで――昔からの知り合いのように。
私達は、不思議と喧嘩も仲違いもそんなにしなかった。5人も集まっているにもかかわらず、だ。
というより、対立したことすら数えるほどだと思う。
……あずにゃんとりっちゃんはまぁ、じゃれ合いとして。
私が喜ぶコトを、みんなは知っている。
私も、みんなが喜ぶコトを知っている。
私が嫌なコトも、みんなは知っている。
私も、みんなが嫌なコトを知っている。
不思議すぎるほど、私達は仲良しだ。
そう、まるで――ずっと昔からの、長い長い付き合いのように。
どうしてだろう?
どうしてこんなに、仲良しなんだろう?
仲良しなのは、悪いことじゃない。りっちゃんにも聞かれたけど、今の関係に不満はない。
なのに、私は疑問を持ち始めた。違和感が、発展していく……
それから何度も、私は夢を見た。
正確には、現実のような夢を沢山見るようになった。
過ごした覚えのある光景。覚えの無い光景。あるはずの無い光景。
どの夢にも、軽音部の皆が、あるいは軽音部の誰かがいて。たまに憂や和ちゃんもいて。
逆に、憂や和ちゃんと私だけの夢というのは見なかった。
何故だろう?
違和感を解くカギがここにある気がして、私は考える。
憂や和ちゃんだけしか出てこない夢。それがあるなら、高校以前の夢であるはず。
そういい切れるほど、高校時代は軽音部の皆と一緒だった。
だから、中学、あるいはもっと前の夢なら登場人物は私と憂、和ちゃんメインになるはず。
それか、中学の頃の友達が出てくるかもしれないけど……って、あれ?
唯「……中学の頃の友達って…誰がいたっけ?」
思い出せない。
名前も、顔も。
中学の制服は…さすがに思い出せる。私が一年の時に憂も着ていたくらいだし。学校名もそれを見ればわかるはず。
なのに、クラスメイトが思い出せない。それどころか、中学時代の思い出が思い出せない。
唯「……ちょっとまって…確か…」
憂や和ちゃんから聞いた私関連のお馬鹿なエピソードがある、はず。
何かを間違えただとか、どこかでコケただとか。うん、確かにいろいろ聞かされたよね。大丈夫、私は覚えてる。
……聞かされたこと以外の思い出が、まるで出てこないけどね。
――今夜は中学時代に思いを馳せて、眠りにつく。
相変わらず思い出は出てこないし、こんなことをしても夢に見るとは限らないけれど。それでも私は賭けた。
……次の日の朝、私は思い知った。夢の中で出会った、誰かのおかげで。赤い目の誰かのおかげで。
唯「――ああ、私には、高校以外『無い』のかな…」
その仮説は、あくまで仮説なのにも関わらず、私自身にとってものすごい説得力を持っていた。まるで、ずっと目を背けていた事実であるかのように。
あくまで『私』には、の仮説。持っている人は持っている、あるいは持っていた。そういうこと。
でも、まだ仮説。確証は私の中以外にはない。証拠が欲しい。できれば物証、それがだめでも他の人の証言が。
唯「ういー?」
憂「お姉ちゃん? どうしたの?」
唯「私の中学の卒業アルバムとかない?」
憂「あるよ? 卒業式で貰ったでしょ? 変なお姉ちゃん」
……あれ、あるの?
てっきり存在しないか、あるいは誰かに捨てられたりとかしてるかと思ったのに。
……誰か、って誰だろう?
憂「はい、どうぞ」
唯「あ、うん、ありがと……」
憂から受け取ったはいいけど、開くのが怖かった。
……こういう『私の過去を示すモノ』が存在しないと私が高をくくってたのは、逆に言えばそれが存在したら……
唯「………やっぱり」
それが存在したら、私は逆に、現実を見せ付けられてしまうから。
40 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/02(水) 22:39:42.96 ID:LuKxD2iG0
C
唯「」ポロポロ
憂「ど、どうしたの!? お姉ちゃん」
唯「覚えて、ないの……中学の、友達、出来事、全部……何もかも…」ポロポロ
憂「お姉ちゃん……」ギュッ
唯「どうして……どうしてなの!? 私は…なんなの!?」
憂「落ち着いて、お姉ちゃん……落ち着くまで、こうしててあげるから」ナデナデ
憂「――落ち着いた?」
本当に憂は、私が泣き止んで落ち着くまで抱きしめて頭を撫でてくれた。
その優しさは凄く嬉しいし、助けられたけど……
唯「……教えて、憂。憂は何を知ってるの?」
憂は、私の言ったことにまったく動じてなかった。憂は何かを知ってる。軽音部の皆の時と同じような、私だけが『わかってない』感覚。
いや……私にも仮説はあるんだけど。それでもやっぱり、誰かの口から真実を聞きたかった。
憂「……律さんも呼んでいいかな?」
唯「どうしてりっちゃん?」
憂「…部長さんだから、かな」
唯「よくわからないけど…話してくれるなら」
憂は頷いて、りっちゃんに電話をかける。
……いつ番号聞いたんだろう? まぁいいか。いくらでも機会はあったよね。
律「うーっす」
唯「来るの早っ!」
律「登校途中だったんだよ。なんとなくいつもより早く唯の家の近くを通ってな」
唯「あはは……虫の知らせでもあったの?」
律「そうかもな。……学校は休むだろ? ムギにメールしとくよ」
唯「うん……」
一瞬、澪ちゃんには言わなくていいのかな、と思ったけど……今の澪ちゃんに言ったらそのまま押しかけてくるのは目に見えてる。
少なくとも話が終わるまではムギちゃんに引き止めていてもらおう、というりっちゃんの判断だろう。
律「――で、なんだっけ? 唯の高校以外の思い出が無いって話だっけ?」
唯「なんでそんな軽く言うのさ、りっちゃん……」
律「そりゃ知ってたからな。澪も言ってただろ?」
そうだ、澪ちゃんは考えるなと忠告してくれてた。考えれば私が今みたいに落ち込むことも、ちゃんと知ってたんだ、澪ちゃんは。
いや、澪ちゃんだけじゃなく、私以外の皆が知っている。それはもういい加減認めないといけない。
唯「……でも、りっちゃんは私が考えることも止めなかったよね」
律「ああ。だって唯の人生だ、どんな道を歩もうと、私に止める権利は無い」
憂「正確には『私達に止める権利は無いはずだった』ですよね」
律「……そうだな。私も憂ちゃんも悔いてる。本当によかったのか、って。だから皆みたいに隠し通そうとせず、中途半端な立ち位置にいる」
憂「そのせいで、梓ちゃんから点数稼ぎって言われるんですよね」
律「間違っちゃいないんだよな、それ。私達がやったことなのにさ、『唯のため』とかカッコつけて責任を果たそうとしないんだから」
……結局、二人の会話を聞いてるだけじゃ納得はできない。
でも、いくつか見えてくる。
りっちゃんと憂だけは『私の意志』を尊重しようとしてること。でも、そのりっちゃんや憂も加わって、私に何かをしたということ。それが原因で、私には高校生活しかない、ということ。
唯「……結局、みんなは私に何をしたの?」
律「……それは言えないよ。言ったら、私達は唯の側についたことになる。みんなを見捨てて、裏切って、な」
唯「……勝手だね、りっちゃん」
律「ああ。というか誰に聞いても教えてくれないさ。澪、ムギ、梓はもちろん、和達クラスメイトも、名前さえ知らない同級生も」
憂「もちろん、私の同級生も、ね」
律「でも、唯が自分で思い出すことは止めない。止める権利は無い」
唯「うん……あのさ、学校、今からでも行っていいかな? 何か思い出すかもしれない」
律「止めないよ。あー、でも私は澪にいろいろ言われるんだろうなぁ……私はこのままサボるよ」
憂「そしたら私のところに来るじゃないですか…私もサボりますよ」
律「っていうかこのままここに匿ってくれ」
憂「家事を手伝ってくれるならいいですよ?」
唯「……なんかごめんね?」
上手く言えないけど、私のことを思っての行動をしている二人が困ってるんだから、謝っておくべきかな、と思った。
けどもちろん、二人は私のそんな言葉にもいつもの笑顔を返す。
憂「お姉ちゃんは気にしないで。私達の責任なんだから」
律「唯が悪いわけじゃない。澪一人が悪いわけでもない。……私があの日言ったこと、まだ覚えてるか?」
唯「…『私は今の関係に不満なんてない』『みんなは私のことが大好き』…ってやつ?」
律「ああ。お願いだから、それだけは忘れないでくれ。その上で唯が決めたことなら、何も文句は言わないから…」
私は頷いて、部屋を出た。
学校に行かないと、というのもあったけど、それよりもあんなつらそうな顔のりっちゃん、初めて見たから、目を背けたかった。
私は……もしかしたら思い出さないほうがいいのかも。いや、澪ちゃんの言うとおり、思い出さないほうがいいんだ、きっと。
46 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/02(水) 23:13:35.08 ID:7ew8aGaW0
ほう
それでも、やっぱり知りたい。知らないと不安で、怖くて、押しつぶされそうだから。
私はひたすら全力で、学校に走った。
学校に来たのはもちろん、高校が私の全てだから…というのもあるけど、それ以外にも理由はあった、というかこっちのほうが大きい。
りっちゃんと憂は、ああ言いながらも私にヒントをくれていた。
『誰も教えてくれない』『澪、ムギ、梓も、和達クラスメイトも、同級生も』『私の同級生も』と、二人は言っていた。
そこには…生徒しか含まれてない。つまり…聞くなら、助けを求めるなら、生徒ではなく。
唯「さわちゃん!」ガラッ
教師へ、と。きっと、部外者の人にこそ聞け、と言いたかったんだろう。
48 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/02(水) 23:17:18.50 ID:tlFW8LS/O
蛹かと思った
さわ子「――なるほどね」
教室にも向かわずに会いに来た私を、さすがのさわちゃんでも怪訝に思ったとは思うけど、それでも黙って私の話を聞いてくれた。
さわ子「みんなが何かを隠していて、それはきっと知ってはいけないことで。でも唯ちゃんは忘れていることを思い出したい、と」
唯「…信じてくれるの? さわちゃん」
さわ子「教師が教え子を疑う理由なんて何も無いでしょ? それに、私も唯ちゃんと似たような違和感を感じることはあったのよ」
唯「それじゃ、さわちゃんも私と同じ…」
さわ子「いいえ、きっと違う。というか細かく言うと、唯ちゃんが感じてるのは違和感で、私が感じてるのは既視感」
既視感……確か、デジャヴとかいうやつだっけ。これ、前にも見たような気がする――ってやつ。
私は、以前とは違ってる――という感じだから、確かに少し違う。
さわ子「……唯ちゃんに起こっている現象のアタリはついてる。私達大人はただそれに巻き込まれただけの被害者よ」
50 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/02(水) 23:26:54.73 ID:PpuKd/9uO
だいたい読めてきたけど
どう読ませるか期待C
唯「被害者……って、それこそ私もそうじゃ…」
さわ子「違うわ。あなたはみんなの『願い』。みんな、あなたのためにやったこと。皆、あなたのことが大好きだからね」
愛されているのね、と。優しさと寂しさを混ぜたような瞳で、さわちゃんは私を見る。
優しい顔をしてくれるのはわかる。さわちゃんも本当は優しい『先生』だから。
でも、だったらどうして寂しさがさっきから顔を覗かせてるの?
さわ子「……唯ちゃんがみんなに違和感を持ったのはいつ頃?」
唯「え、えっと……いつだっけ、結構前だと思うけど」
さわ子「それは『いつ』のみんなと比べて?」
唯「え、そりゃもちろん出会った頃の…」
さわ子「じゃあ出会ってからどれくらいまでは普通だったの?」
唯「い、一年くらい…?」
さわ子「梓ちゃんはまだ出会ってからちょうど一年くらいよね。じゃあ梓ちゃんはおかしくなったのは最近?」
唯「いや、あれ…? みんなと同じくらいの時期におかしくなったような…? みんなと張り合ってたし」
さわ子出番ないんじゃなかったの?
さわ子「梓ちゃんって絶対唯ちゃん達の卒業式の後に泣くタイプよね」
唯「あ、それ私も思った! っていうかそんな夢見た!」
さわ子「『現実みたいな夢を最近よく見る』って言ってたものね。でも未来の夢を見る確率って低いのよ」
唯「……そういえば夢って結局は過去の体験や記憶が元になってるって澪ちゃんから聞いたような…」
さわ子「でも唯ちゃんはそんな未来の夢を見た。大学入試も、最後の文化祭も、卒業式も」
唯「う、うん……」
……なんだろう、怖くなってきた。さわちゃんが、じゃなくて、話の流れが。
間違いなく、核心に迫ってきてる。
さわ子「なぜか見る『未来』の夢。そして唯ちゃんが感じる『過去』との違和感。そしてやたらと『現在』を大切にしたがってる仲間達」
『未来』のことを話すと様子がおかしくなるみんな。『過去』を具体的に思い出せない私。
そして『現在』のみんなとの関係に不満は無いなんて言っておきながら、澪ちゃんの制止を無視して真実を求める私。
考えてみれば、何もかも歪だった。
そして。
さわ子「でも、もしもみんなに『未来』がないとしたら?」
さわちゃんの、その言葉は。
さわ子「『過去』と『現在』しかないとしたら?」
私に、全てを思い出させるには充分で。
さわ子「唯ちゃんの見た『未来』も、実は『過去』だったとしたら?」
私が高校より前を思い出せないのは、そのころを生きていたのが『私』じゃない私だから。
『私』は高校生として生まれ、高校生として死ぬ。大学生にはなれない。『私』に『未来』は無い。
さわ子「さながらあなた達は……いえ、唯ちゃんと、この世界は」
唯「……蝶になれない、永遠の蛹のよう」
【産まれた時のコト】
――寒い。
確か一番最初に、そんなことを思った気がする。
人肌恋しい寒さ、とは違うんだけど、でもある意味当たっていた。
実際その時、『人』というものがこの世界には少なかったんだと思う。
いくら歩き回っても、親しいみんな以外の姿は見えなくて。
いくら泣き喚いても、親しいみんなでさえ聞いてくれなくて。
――そういえば、そこにさわちゃんはいなかった。
みんなは、私のことなど見えないように、何かを言っていた。
みんなは、私のためだと言いながら、知らない歌を歌っていた。
56 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/02(水) 23:49:24.24 ID:yZdtfh7R0
しえn
私のため、というその言葉を、その時の私は信じられなかった。だから、きっと忘れてしまったんだ。
だって、私のためって言いながら。
みんなは。
『なんでだよ、唯』
『許されると思っているのか』
『唯ちゃん……ひどい』
『一生恨んでやる』
『死ぬまで忘れない』
『責任の一つも取らないで逝くなんて、許されると思いますか』
『お姉ちゃん……』
『唯…あなたは…』
『唯……』
『信じてたのに』
『許さない』
『憎い』
みんなは、私を責める。
みんなの、その言葉が怖くて。瞳が怖くて。
私のことは見えていないはずなのに、その言葉の全ては、瞳の全ては、私に向けられていて。
いつの間にか、親しかったみんな以外の声も混ざっていて。瞳も混ざっていて。
怖くて。
恐くて。
私は泣きながら、震えながら、『それ』にお祈りした。
だって、憎まれるよりも、優しくしてほしかったから……
唯「――っ!?」ガバッ
澪「唯!? よかった、目が覚めたか…」
唯「……あれ、みお、ちゃん?」
梓「私もいますよ!」
唯「みんな……ここは、保健室?」
紬「よかった……さわ子先生から聞いて来てみたら、うなされてるんだもの」
さわちゃんの前で倒れちゃったのかな。少し恥ずかしい。
……でも、ここにさわちゃんはいないよね?
唯「さわちゃん、何て言ってたの?」
澪「登校してきた唯と会ったけど、辛そうだから寝かせてる、って」
唯「他には?」
梓「目が覚めたら連絡してくれ、くらいですかね。それより気分はどうですか? 調子悪いようならまだ寝ていたほうがいいですよ」
さわちゃんは私達の会話の内容は言わなかった。つまり、私達の問題に口出しするつもりはないということ。
だったら……私がまず、向き合わないといけないんだと思う。
唯「大丈夫だよ、あずにゃん。それより、教えてほしいことがあるんだけど」
梓「何ですか? 何でも言ってください! 唯先輩のためなら!」
澪「…なんだ唯、私達じゃダメなのか?」ムッ
唯「別に誰でもいいんだけど……よっ、ととと」フラッ
紬「唯ちゃん!」ガシッ
唯「おお……ありがと、ムギちゃん」
ベッドから降りようとしてフラついちゃった。寝すぎた…なんてわけじゃなく、理由はきっと、私自身。
思ったよりもショックを受けていたんだと思う。この世界の真実に。
梓「やっぱりまだ横になっていたほうが…」
唯「大丈夫だから……それより、質問に答えてね?」
澪「……? 待て唯、まさか――」
唯「待たないよ。みんな教えて? この世界は何回目なの?」
――みんなの驚愕に満ちた顔は予想通り。むしろもう見飽きた感さえある。
唯「ねえ、あずにゃん」
梓「っ………」
唯「ムギちゃん」
紬「………それ、は…」
唯「教えてよ、澪ちゃん」
澪「……誰から聞いたんだ?」
唯「誰でもないよ。思い出したんだ」
澪「また思い出したか……やっぱり私達の記憶も毎回リセットするべきだったんだ」
梓「澪先輩ッ!!」
澪「……何度目だろうと関係ないさ、唯。知ったところで何も出来ない。今までの唯がそうだったように」
澪ちゃんは『また』と言った。以前にも何度か私は気づいたんだろう。
そして、その度私は挑戦したはず。今の私と同じ想いを抱えて。
みんなを、こんな閉じた世界から解放してあげたい想いを。
……それなのに、ずっと失敗している、と澪ちゃんは言うんだ。
唯「みんなは……こんな閉じられた世界で、幸せなの?」
紬「唯ちゃん、その質問は残酷よ」
梓「……唯先輩のいない世界に比べたら、百万倍幸せですよ」
唯「私は……そんなこと言われても、嬉しくないよ…」
澪「唯なら…私達の大好きな、優しい唯ならそう言うさ。だからこそ、過去を繰り返すことを選んだ。犠牲を払い、唯が生き続けた世界を創れば、唯は心を痛めるから」
紬「だから、犠牲を払ってでも、唯ちゃんが全てを知らない時間にまで遡る方法を採った」
澪「まぁ、そもそも過去に戻るんだ、記憶があるほうが異常なんだが」
つまり、澪ちゃん達が記憶を引き継いでいることのほうが異常で。
少なくとも普通は―ー私とさわちゃんくらいしか当てはまらないけど、普通はリセットされる、と。
まあ、そこはとりあえずわかったけど……それより、さっきの会話でまた気になる単語が。
唯「……犠牲って、何?」
澪「聞いたところでどうにもならないよ。強いて言うなら『元の世界』かな」
……澪ちゃん達は元々の、時間が普通に進む、私達が最初に辿った世界を犠牲にしてこの閉じた世界を創り出した。
永遠に繰り返す、この世界を。
唯「……みんなの気持ちは嬉しいけど…それでも私は、みんなの未来を奪ったなんて……嫌だよ」
澪「奪ったわけじゃない。元々要らなかったものを私達が捨てた、それだけだよ」
唯「でも! みんなにはきっとこの先、もっと楽しい未来が――」
梓「ありません! 唯先輩のいない未来が楽しいわけがないです! 唯先輩のいない世界に、楽しいことなんてあるわけないです!」
澪「その点は、律も憂ちゃんも同意してたんだけどな……」
唯「…私が自分で思い出したんだよ、澪ちゃん」
澪「わかってる。律も憂ちゃんも善い奴だから、私達をハッキリと裏切るような真似はしない。ただ……」
なんで下げ進行なの?
ひっそりやりたいのであれば構わないけれど、埋もれるぞ
澪ちゃんは、言いづらそうに私を見る。
澪「結局、私達が、私達のために唯を求めた結果がこの世界なんだ。自分勝手なのは私も認めるけど、それでも、その自分勝手さを悔いて、挙句に判断を唯に押し付けるようでは、それはただの偽善者だ」
そんな言い方やめて、とは口に出来なかった。
言いづらそうだったのは百も承知だし、澪ちゃんの言うことも一理あると思ってしまったから。
澪「本当に悔いるなら、唯に真実を告げて、唯の意思だけを尊重して、唯の味方になればいいんだ。そうしないから、唯は今、こんなに悩んでる」
唯「……そうかもしれない。けど、澪ちゃんだってりっちゃんに見捨てられたいわけじゃないでしょ?」
澪「そうだな。律も律なりに悩んでるんだってのはわかってる。憂ちゃんなんてもっと顕著なはずだ。唯のこと、大好きだからな」
唯「うん……きっと、憂もずっとずっと、悩んで苦しんでるんだよね…」
澪「……あの二人は、優しすぎるんだよ。誰も傷つけたくないから、一歩を踏み出せない。その一歩で誰かを踏みつけてしまうことを恐れてる。だから動けない」
唯「でも、私はそんな優しい二人も…大好きだよ」
澪「私達もだよ。だから、私達はこの世界はこのままでいいって言うんだ」
66 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/03(木) 00:35:55.95 ID:bcjfaAOK0
……澪ちゃん達の言い分はわかる。りっちゃんや憂の気持ちもわかる。
みんなも、私の気持ちをわかってくれてる。
だからこそ、私達は動けない……
わけじゃなく、動けないのは優しすぎる二人だけ。
私は動く。澪ちゃん達も、絶対動く。
話をして、お互い逆にその気持ちが強まったと思う。
私はみんなが大好きだから、みんなをどうにかしてあげたいと思う。たとえ、その先で私が消えるとしても。
澪ちゃん達も、そんな私を大好きだと言ってくれたから、意地でも止めるだろう。
でも私は止まる気はない。もちろん理由は前述の通りだけど、実はもう少しあったりする。
情けないからあまり言いたくはないけど、
忘れられないんだ。
私を責める瞳と声が。
きっと、あれが最初の世界の『犠牲』。
あれが私に何を求めてるのか、わからないけど。
きっと、あそこまで憎まれる私は、みんなのために命を捧げて、消えてしまうべきなんだ。
68 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/03(木) 00:42:07.41 ID:3pVsSm5EO
sageとるがな
【母親】
ただ、決意は固いけど、方法がわからなかった。
さすがに『世界』を創っただなんて摩訶不思議で奇妙奇天烈な事象の対処法なんて調べる方法さえわからない。
とりあえず、りっちゃんがいないので部活は休み。さっさと帰って二人に聞こうかと思ったけど、二人はきっとまた教えてくれない。
教えれば澪ちゃん達を敵に回すから、ね。
いきなり八方塞がりだ、とトボトボと家に向かって歩いていると、知らない番号から電話がかかってきた。
唯「……も、もしもし?」
さわ子『そんなに警戒しないで。私よ、ギターマスターさわ子よ』
唯「さすがにギャグやってる空気じゃないと思います」
さわ子『私も思うわ。急いでるから簡潔に、今日私が調べたことを教えてあげる。この世界について、ね』
……! 珍しくさわちゃんが頼りになる!
珍しく、じゃないか、さっきも助けてもらったばかりだ。尊敬しよう。りすぺくと。
70 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/03(木) 00:48:38.49 ID:bcjfaAOK0
さわ子『――この世界はいくつもの命を捧げて作られている大樹。私達『被害者』の命を葉にして、あなたの仲間達の中の誰かの命を幹にした、ね』
捧げられた命。それはきっと最初の世界の犠牲。それはわかってた。
だから問題は次。木の幹。つまり、世界を支える根幹。そこに『誰か』の命があって、それでこの世界は成り立ってる、と。
いきなり光明が見えてきた…! さわちゃんすごい!
さわ子『つまり、こんな世界に私達を閉じ込めた、あるいはこんな世界を創った幹…『母親』がいるはずよ。その人を見つければ…あるいは』
唯「アテは……あるかも」
さわ子『そうよ。あなたに親密な誰か。あなたのことを大好きな誰か。ここから先は…あなた自身がやりなさい』
唯「…うん。というか、私がやらないといけないよね」
さわ子『ええ。じゃあ急いでるから切るわよ?』
唯「なにをそんなに急いでるの?」
さわ子『今から出張なのよ。じゃあ、頑張りなさい!』ブツッ
お礼を言う暇さえも与えてもらえなかった。そんなに急ぐことかな?
まぁ、とにかくさわちゃんのおかげでやることはわかった。
この世界を創った『母親』とも呼べる人を見つけて……
……あれ、それからは?
まぁ、きっと説得して止めればいいんだよね!
ということで、今までの雰囲気とかを総合して、『母親』だと思う人は……
りっちゃんと憂は違うよね、きっと。世界の根幹であったとしたら、もっと責任は重いはず。中途半端な立ち居地なんて選べないはずだから。
私を大好きで暴走しちゃってる澪ちゃん?
暴走気味だけど私の意思もちゃんと伺ってるムギちゃん?
いつになく素直でデレデレなあずにゃん?
それとも……
むぎゅうううううううう
じゃあ澪ちゃんでお願いします
ムギ
実はムギのほうが短いからムギがよかったなんて今更言えない
※澪
【間違いだらけの】
ピンポーンと、インターホンの音だけが夜に響く。ちょっと家族さんに迷惑じゃないかな? 呼ばれたから仕方ないんだけど。
とか思ってると、すぐにドアは開いた。
澪「ようこそ、上がってくれ」
唯「うん……」
そのまま、澪ちゃんの部屋へ。澪ちゃんはボスンと音を立ててベッドに座り、隣を叩く。
唯「おじゃまします……ってのもヘンかな」
澪「ヘンじゃないよ。唯なら何もヘンじゃない、全部可愛いよ」
唯「テレるねぇ〜……じゃなくって、もう! マジメな話をしに来たんだよ!?」
澪「私は真面目だよ。過去にも何度か唯は私に辿りついたことがあったけど、今の唯が一番可愛い」
唯「辿りついたって言うか、澪ちゃんが一番変わったからね……そういうセリフを恥ずかしげもなく言えるところも」
澪「私を変えたのは唯だよ。……最初の世界の唯は、私の目の前でいなくなったんだ」
唯「えっ……」
澪「何が起きたのか、理解したくもなかったし認めたくもなかった。でもそれが現実だった。受け入れて、理解して認めて、私はこの世界を創ろうとみんなに持ちかけた」
唯「澪ちゃん…」
澪「唯はいずれいなくなる。そう認めて、私は変わった。自分の気持ちを隠さず、どんどん唯にぶつけた。だってそうしないと後悔する! 絶対に!! もうあんな思いはしたくない!!!」
唯「……ごめんね、澪ちゃん」
澪「いいんだ、唯は何も悪くないんだから」
唯「ううん、そうじゃないよ。澪ちゃんの話を聞いても、私はやっぱり、この世界は…間違ってると思うから」
澪「…そうか。いやぁ…私を否定されたはずなんだけど、唯なら腹は立たないな」
唯「ごめんね、澪ちゃん」
澪「私のほうこそゴメンな、唯。言いにくいんだが、そういうことなら私を選んだのは間違いだよ」
唯「え……っ!?」ドサッ
気がつけば澪ちゃんにベッドに押し倒され、上から押さえつけられていた。
……って、ええ!? なにこの状況!?
澪「……今、家に誰もいないんだ」
唯「み、澪ちゃん、そういう冗談は……!」
澪「冗談じゃないし、それに勘違いしてるよ、唯は」
唯「……どういうこと?」
澪「うん、だから私は唯を襲うつもりなんて毛頭なくて」ガチャリ
唯「ないならなんで私を手錠でベッドに繋ぐの!? っていうかなんでそんなの持ってるの!?」ガチャリ
澪「そして家に誰もいないってことは、誰も気づかないし助けに来れないってこと」
唯「なんかあんまり勘違いじゃないような気が――って澪ちゃん、それ何…?」
澪「ポリタンク」
唯「中身は?」
澪「よく燃える液体」バシャバシャ
……え、ちょっと待って、なにそれ、澪ちゃん、もしかして……
唯「…私を燃やすの?」
澪「この世界が繰り返す『条件』を教えてあげようか、唯」
唯「ねえ、澪ちゃんってば……!」
澪「誰か一人でも死ねば、世界は繰り返す。振り出しに戻る。私達はそう設定した。結果的に、だけどね」
唯「聞いてよぉっ!!」
そうか、澪ちゃんは私を……殺すつもりなんだ。
私が、澪ちゃんと対立したから。澪ちゃんの思いと相反する行動を取ったから。澪ちゃんの思い通りにならなかったから……
唯「やめて澪ちゃん! 助け――」
助けて、と言おうとして思い出す。私は元々、最終的に消えても構わないという覚悟をして、ここに来たはずじゃなかったか。
なら……別に、ここで澪ちゃんに燃やされること自体は問題じゃない。問題は、さっき澪ちゃんが言ったこと。
私が死ぬことで、また世界が繰り返してしまうこと。
私は…きっと、間違った。
唯「……澪ちゃん、教えてくれる? 私はどうすれば、この世界を終わらせることが出来たの?」
澪「誰も死ななければいいんじゃないか?」
唯「…もし私が、真実に気づかなかった場合はどうなるの?」
澪「私達がいろいろ試した結果、どうやったとしても唯が死ぬ未来は変わらなかったよ。だから私はいっそ今、唯を殺してしまおうとしてるんだ」ガチャリ
唯「……? 澪ちゃん、なんで自分にも手錠を?」
澪「唯も一人は嫌だろ? 私も一緒に逝くよ」
唯「なっ…!? そんな、ダメだよ澪ちゃん! 私だけでいいよ…! 私が間違ったんだから…!」
澪「これは私のワガママだよ。私だって、唯を手にかけること、罪悪感が無いわけじゃない……せめてこの身で、少しくらいは償わせてくれ」ガチャリ
唯「ダメだよ! 私は忘れちゃうけど、澪ちゃんは忘れないんでしょ!? きっと、すごく苦しいよ…!」
澪「忘れないよ。忘れてなるものか。唯の痛みも、苦しみも、私が手を下す以上、私が忘れていいわけが無いだろ…!」
唯「澪ちゃん、澪ちゃんっ…! お願いだから…!」
澪「ゴメンね、唯。きっと、すごく熱くて、すごく苦しいよ」シュボッ
唯「澪ちゃんのバカぁっ!!!!」
澪ちゃんの手から、ライターが滑り落ちて。周囲はあっという間に火の海。
ベッドに手錠で繋がれた私と、そこからさらに手錠で自分の腕を繋いだ澪ちゃんに、逃げる術なんてあるはずもなく。
熱い、苦しい、コゲ臭い、そんな全ての感覚は、とうの昔に通り過ぎて。
終わりがもう目の前に見えてきた頃、澪ちゃんが私に囁いた。
澪「……唯、少しだけヒントをあげる」
唯「え…?」
澪「もし、次があって、何かの奇跡が起きて、私とのことを覚えているなら私を選びはしないだろうけど…」
澪「それでも、唯は半分は正解だよ」
エンド1『微笑みだけを残して』
81 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/03(木) 01:30:41.35 ID:uq6uu6O60
ういうい
※紬
【母親の在り方というモノ】
唯「――ねぇ、ムギちゃんってお母さん?」
紬「へ? 急に何? 唯ちゃん」
うん、そりゃ言葉が足りないよね。落ち着け私。
唯「この『世界』を創った人、産んだ人……だから、お母さん」
紬「なるほど……まぁ、否定はしない、じゃダメ?」
唯「うーん……一番お母さんっぽいのはムギちゃんなんだけどなぁ」
紬「唯ちゃんに隠し事はしたくないけど、他のみんなとの約束だから…」
唯「じゃあ、仮にムギちゃんだとして……どうして、こんな世界を創ったの?」
紬「仮に私がお母さんじゃなくってもこう答えるわ。唯ちゃんがいない世界が嫌だったからよ」
唯「じゃあ私が死ななければいいんだよね?」
紬「……そんな簡単に言わないで? 私達だって、何度も試したのよ……でも、ダメだったの、どうやっても、唯ちゃんは…!」ジワリ
唯「あ、ご、ごめんねムギちゃん! 覚えてなかったとはいえ、勝手なこと言っちゃった……」
紬「……たとえどんな万全な状態で挑んでも、たとえ周囲に何も無い状態でも、唯ちゃんは急に倒れてそのまま…起きなかった…」
私のせいとはいえ、自分の最期を聞くのもなんか微妙な気分になる…
唯「……私はもしかして、毎回そんな苦しい思いをしてたのかな?」
紬「安楽死の方法なんて…いくらでもあるわ……眠ったように、あっちに逝けるの…」グスッ
そうか、もしかして私が過去の出来事が夢とごっちゃになってるのは、ここしばらくは眠ったように終わってたから?
そして、きっとそんなことを手配してくれてるのは……
唯「…ごめんねムギちゃん、そしてありがと」
紬「お礼なんて…言わないで…」
唯「…ごめんね、私は何回も苦しませてたんだね、ムギちゃんも」
紬「うっ、ううっ……!」ポロポロ
……もう、これ以上ムギちゃんを苦しませることは出来ないよね。
この世界をどうにかしたい、という私の最初の思いももちろん忘れたわけじゃないけど、もしそれが叶わなかった時は…ムギちゃんの手は煩わせないようにしよう。
――それから、軽音部のみんな一人一人に「お母さんなの?」と聞いたけど、みんな答えはムギちゃんと一緒。
……やっぱり、自信と確証を持って当たらないとそりゃ教えてくれないよね…
でも、その自信も確証も持てないまま、卒業式さえも終わってしまった。
唯「……間に合わなかった、のかな…」
今回も、ダメだったらしい。いつか澪ちゃんも言っていた。何も出来ない、って。
何も出来ないまま、また私は高校生を繰り返す。
…そういえば、いつ私に最期が訪れるのか、それを聞いてなかったことを思い出す。
ま、高校生を繰り返すんだから…早ければ今日かなぁ?
唯「……ムギちゃんの手は、煩わせない」
今はもう放課後、部室に向かえばみんながいる。会っちゃダメだ。
部室をスルーして、私は外に飛び出した。
――道路の向こうから、おあつらえ向きの大型トラックが向かってくる。
あとは飛び出すだけ。少し恐いけど、どうせ一瞬だ。終われば今回の始まりみたいに、私は全て忘れて、憂に起こされて目を覚ますんだ。
――バイバイ、みんな。助けられなくてごめんね。次は頑張るから。
……私は覚悟を決めて、飛び出した。
ドンッ
――飛び出した私は、それ以上の勢いで何かにはじき出され、トラックを通り過ぎた。
唯「え……?」
ブレーキ音。衝突音。悲鳴。流れる血。
でも血だまりの中心にいるのは、私じゃなくて。
唯「あれは……」
どうして、そこに横たわってるの?
どうして、ここに来たの?
どうして…私を助けたの?
見間違えるはずの無い、自分と同じ制服。
見間違えるはずの無い、ふわふわの髪。
見間違えるはずの無い、どんなに遠くでも、どんなに変わり果てても、見間違えるはずの無い……!
私の大好きな、あたたかくて、ぽわぽわしてて、おっとりしてて、お母さんみたいな……!!
唯「……い、いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!」
――どこをどう走ったかなんて覚えてない。どれくらい走ったかも覚えてない。
覚えてるのは、最初の願い。
――みんなを、こんな世界から、解放してあげたい。
その結果がこれだ。私が生き永らえて、かわりに大好きな人が死んだ。
こんなの、こんなこと、認められるわけがない。許されるわけがない。誰が何と言おうと、私自身が認めない。
認めないから――やり直す。
すごく高い場所から、空へ向かって、私は躊躇なく一歩を踏み出した。
エンド2『赤い空へ』
ムギは身勝手な澪と正反対だなw
紬トラとは珍しい
89 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/03(木) 01:54:19.71 ID:MDMi10CJP
安価とかいらないから
90 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/03(木) 01:56:46.21 ID:pej/g96k0
ムギは天使だな
※梓
【尻尾の無い黒猫】
唯「あずにゃんがお母さん……は、一番ありえないよね」
梓「いきなり何ですか? 私はお母さんよりお嫁さん希望です」
唯「そうじゃなくって、いやあずにゃんくらい可愛いお嫁さんなら私も欲しいけどそうじゃなくって、この世界を創ったのはあずにゃんなの? って」
梓「……それを聞いてどうするんですか?」
唯「止めさせるよ。やっぱり、こんな世界は間違ってるよ」
梓「……人を好きな気持ちを、大切な人を想う気持ちを、間違ってると言うんですか、唯先輩は」
唯「そうじゃないよ。ありがちな言葉だけど、やっぱり前に進まないとダメなんだよ。停まってちゃ、ダメなんだよ」
梓「停まってて何が悪いんですか! 仕方ないじゃないですか! 一緒に居たい人がそこにしかいないんだから!!」
唯「……私は、あずにゃんには前に進んで欲しいよ。停まってるあずにゃんなんて見たくないよ」
梓「じゃあ唯先輩も一緒に来てくださいよ! 戻ってきてくださいよ!!」
唯「それは……できないよ」
梓「私も出来ないんですよ! 唯先輩が居ないと生きていけないし、生きていたくない!!」
唯「あずにゃん……」
状況が状況でなければ、「ワガママさんだねぇ」といって頭を撫でてやりたいくらい。
あずにゃん、元々は真面目でしっかり者だったけど、本当はこんなにも幼い子供だったんだね……
唯「ごめんね、でも私も譲れないよ。私のせいでみんなが進めないのは、見ててとっても辛い」
梓「私だって、同じくらい、いえ、きっとそれ以上に辛いんですよ。わかってくださいよ…」
唯「……ごめんね」ギュ
梓「ゆい、せんぱい…」ギュ
抱きしめると、素直に抱きしめ返してくれる。本当に、子供みたいに。
こうしてると私がお母さんみたいだけど、でもあずにゃんを困らせているのは元々は私で。
だからといってその元々の私をどうにかすることなんて出来なくて……
唯「…どうすればいいのかなぁ」
梓「唯先輩がどうにかして私を元の世界に――唯先輩の居ない世界に戻したら、その場で死んでやります」
唯「……困ったねぇ」
梓「……このままで、いいじゃないですか…」
唯「…ダメだよ。私が、耐えられないよ」
あずにゃんも少しは落ち着いたのか、私のその言葉に考える様子を見せる。
あずにゃんだって、私の気持ちをわかってないわけじゃない。あずにゃんはそんな子じゃない。
そうして、少しの間だけ考え込んだあずにゃんが、私をしっかり見て口を開いた。
梓「……じゃあ、私だけを、ずっと見ててくれますか?」
唯「……どういう意味?」
梓「私と唯先輩だけで、この世界に残りましょう、って意味です」
……あずにゃんの言ったことが唐突すぎて、予想通り私の頭はついていけなかった。
梓「簡単に言うなら取引です。他の皆は戻しますから、私が残ることを認めてください」
唯「それって……」
梓「……他のみなさんを見捨てるわけじゃないですよ。元に戻るだけ。唯先輩が望んだことです」
唯「…でもやっぱり、あずにゃんも戻ってくれないとダメだよ…」
梓「戻ったら死んでやるって言ってるじゃないですか……あ、でも戻って死んだほうが死後の世界で唯先輩と会えるかもしれませんね。そうですね、それもいいかも」
唯「よ、よくないよ! 死んじゃうなんて絶対ダメ!!」
梓「私の人生はもうその二択なんですよ、唯先輩。この世界に残るか、戻って死ぬか」
ダメだ、あずにゃんがワガママすぎる……
一見究極の二択のようだけど、実際のところはその二択なら選ぶほうは決まってるようなものだし。
あ、でも、そのあずにゃんの提案は考え方を変えればあずにゃんが『お母さん』ってことになるのかな?
唯「……本当に、他のみんなを戻せるの?」
梓「もちろんです」
唯「……じゃあ、それに加えて、私の記憶がリセットされないように出来る?」
梓「もちろんです。無理と言われてもやってみせます」
唯「…根拠は?」
梓「この世界は、唯先輩を除いた沢山の人の願いが叶った世界です。それが私と唯先輩、たった二人だけの願いが叶った世界になるだけですから、無理な道理がありません」
うん、だいたい納得できそうではあるけど……まてまて、そもそも認める気なの? 私。
認めるというか…あずにゃんだけ諦める、とも言える。そんなの、許されるはずはない。
でも、あずにゃんは本当にワガママで、子供で、きっと本当の世界に戻したら本当に死んでしまう。それよりはこっちででも生きてもらったほうがまだいいかな、とも思う。
それに、他のみんなは戻すって約束してくれたし……
唯「…さっき言った二つを、絶対に守るって約束してくれるなら……私は、あずにゃんだけを大事にするよ」
梓「……本当ですね?」
唯「あずにゃんこそ」
梓「ところで、二つ目の願いは、どういう意図があるんですか?」
唯「意図ってほどじゃないよ。そもそも私一人が忘れてのうのうと生きているのがおかしいんだし」
梓「おかしくは…ないと思いますけど」
唯「……それに、あずにゃんと二人だけで繰り返す世界になるんだから、あずにゃんのことを覚えておくのが私の責任だと思うし」
梓「……脅したというのにそんなこと言ってくれるんですね、唯先輩は」
唯「もうそういう脅しはゴメンだからね?」
梓「はい、もう言いません。私を選んでくれたんですから、私は唯先輩に身も心も尽くします」
唯「いや、そこまでかしこまらなくても……」
梓「まぁ、まずは約束を果たしてきますよ。少々日数はかかるかもしれませんが…信じて待っていてください」
唯「……うん」
頷いたものの、やっぱりどこか後悔はあった。
……私は、あずにゃんの人生を奪った。その事実を償うには…これから一生、一緒にいてあげるだけで足りるのだろうか?
――あずにゃんが戻ってきたのは、卒業式も前日になろうかという頃だった。
家のドアの開く音を耳にし、私は駆け寄る。
唯「あずにゃん!!」
駆け寄る勢いそのままに、あずにゃんに飛びつく。待ちくたびれたよとか、髪が少し伸びたねーとか、お風呂入ったほうがいいよとか、いろいろ言いたいことをそのままぶつけた。
けど……
唯「あずにゃん?」
あずにゃんからは一向に返事がなかった。さすがに怪訝に思い、体を離すと、あずにゃんが手に持っているものが見えた。
唯「…スケッチブック? いや、クロッキーブック?」
あずにゃんは私の視線に気づき、そのクロッキー帳(らしい)の最初のページを私に広げて見せた。
梓『ごめんなさい、唯先輩』
唯「え……なにが…なの?」
あずにゃんは黙って次のページをめくる。
梓『耳が聞こえません、声も出ません』
唯「えっ………」
梓『もう、一緒に演奏も出来ません』
唯「そんな……どうして!? なんでそんなことに…!?」
―――開いていきなり別キャラが、そこにいた。
98 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/03(木) 02:41:09.37 ID:K9RsOQ5dO
おいついた紫煙
>>97 そこにいたのは――鬼。そう、今日は節分だったのだ――
=============================
梓『理由を説明したほうがいいと思うので、一応書きますが』
梓『世界を創った代償です。私一人で創るのは思ったよりオオゴトで、失うものが大きすぎました』
梓『偉そうなことを言っておいて、こんなになってしまって申し訳ありません』
梓『私には、唯先輩と一緒にいる資格なんて、やっぱりなかったんです』
そう書いたページを私に見せ付けるように投げつけて、あずにゃんは私の元から逃げ出した。
……いや、正確には逃げ出そうとした。けど私だって、それが見えていてなお逃がすわけがなかった。
たぶん、人生で一番素早く動いたと思う。瞬時に私の手はあずにゃんの腕を掴んでいた。
唯「勝手なことばかり言って、勝手に出ていこうなんて――」
いろいろ言おうと思ったけど、そっか、耳が聞こえてないんだった。
まだ暴れる小柄なあずにゃんを引っ張り、クロッキー帳を拾って、適当な筆記具を探し出して。
とりあえず、私も勝手なことばかり言ってやる。自分勝手なあずにゃんに、思い知らせてやるんだ。
紫煙
唯『逃げるなんて許さないよ』
唯『私からみんなを奪っておいて』
唯『最後は私を一人にするの?』
……あれ、みんなって誰だっけ?
名前も顔も出てこないや、大切な仲間だったはずなのに。
でもいいや、それもこれもみんなあずにゃんのせいなんだ。
唯『そんなことしたら私だって死んでやる』
唯『死んでやって、あずにゃんのことなんか忘れて』
唯『ずっと遠くで、あずにゃんなんかいない遠くの世界で生きて』
幸せになってやるんだ、と書こうとした。
でも、私の震える手は、どうしても一本の線が引けなくて。
唯『辛い』
思い知らせてやろうと、思ったのに。
思い知らされたのは私だった。私も、もう、この世界では、あずにゃんがいないとダメなんだ。
もう、私の大事な人は、あずにゃんしか残ってないから。
唯『あずにゃんがいないと辛いよ』
唯『もう私には他に誰もいないんだよ』
そこで、あずにゃんが私の手から鉛筆をひったくって。
梓『私にも、もう唯先輩以外誰もいません』
梓『でも、私はもうこんなんですから』
梓『一緒にいても、迷惑になるだけです』
いてもたってもいられず、もう一本、鉛筆を取りに走る。
唯『迷惑なんかじゃない!』
唯『私にはあずにゃんしかいないって言ってるのに』
唯『他の誰と比べてそんなこと言ってるの!?』
梓『……普通と比べて、ですよ』
ああ、口を開かずともあずにゃんは頑固だなぁもう。
……ごめんね、あずにゃん。私、もう少しだけ酷いこと言うよ。
唯『じゃあもう迷惑でいいよ。すごい迷惑。見てられない』
梓「」
唯『だからほっとけない。絶対助ける。見捨てない、手放さない。ずっと私のそばに置いておく』
唯『拒否権なんて無いよ。あずにゃんは私に迷惑かけてる悪い子なんだから』
唯『いい子になるまでずっと、私が面倒見る』
唯『それにあずにゃん、言ったよね。私に尽くすって』
唯『あれは嘘?』
梓『嘘じゃないです。でも……もう、何もしてあげられません』
唯『耳が聞こえなくて、声が出せなくて……でも他のことは出来るでしょ?』
梓『……たとえば、何でしょうか』
唯『私の気持ちを当ててみて』
それだけ書き殴って、あずにゃんを抱きしめる。
強く、強く。もう二度と、私の腕の中から逃がさないと、そんな思いを込めて。
梓『……どこにも行かないで、だったら嬉しいです』
唯『正解だよ。私の気持ちがわかるんだったら、大体のことは出来るでしょ?』
梓『唯先輩は……わかりやすいんですよ』
唯『困る?』
梓『いえ…助かるし、嬉しいです…』
104 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/03(木) 03:03:05.00 ID:xeUR5P6a0
しえ
――たった一人の卒業式を終え、私は音楽室に向かった。
別に部活とかは入ってないんだけど、そこには確かに思い出があって。私の持ち物――ギー太にも、大事な思い出がきっとあって。
今は思い出せないけど、不思議と罪悪感はなかった。思い出せないほうが、その思い出の人のためにはいいんだって、なぜか確信があったから。
唯「さわちゃん、いるー?」ガラッ
さわ子「うへぇー」グデー
唯「情けないなぁ……何か飲む?」
さわ子「いやいや、卒業生に何かさせるわけにはいかないわよ。何もいらないわ」
唯「私が準備するわ、くらい言ってくれればかっこいいのにー」
さわ子「イヤよそんな面倒な――っと、来たかしら?」
梓『遅くなりました』ガラッ
唯『大丈夫だよあずにゃん』
最近は、というかあれから私達はそれぞれ一冊のクロッキー帳を持ち歩いている。
なんだか書くのも最近は楽しくなってきた。
梓『ところで、そもそも何の用でしょう?』
さわ子「まあ、言えるわけないわよね。サプライズだものね」
唯「とはいえ、あずにゃんにどこまで届くか…わからないけど」
梓「???」
さわ子「通じるわよ。お互いを大事なら、きっとね。はい、メトロノームだけあげるわ」カチコチ
唯「うーん、心細い…」カチコチ
梓『あの、何が始まるんですか? 私、聴こえませんよ?』
唯『聴こえなくてもわかる!…かもしれない、なぜか覚えてる曲メドレー! 平沢唯ソロver!』
唯『はじまりはじまり〜!』ジャラーン
――たった一人で、たった一人のために演奏する放課後。
誰が作ったのかもわからない曲と、誰が書いたのかもわからない歌詞を、私は一人で奏でる。
本当は、あずにゃんのために準備した曲もあったんだけどね、誰かと一緒に。でも、耳の聞こえないあずにゃんはさすがに新曲じゃ楽しめないよね。
だから今日は、私がなぜか覚えてる曲で。きっと、あずにゃんも覚えてるはずだから。
いつか、遠い昔に、一緒に演奏したんだよね。あずにゃんと、もう覚えてない仲間達と。
もう、今は誰とも演奏することは叶わないけど。それでも、私は後悔なんてしてない。
……してないけど、やっぱり、どこか涙が出てきそうで、ちょっと困るかな。
でも、私は泣けなかった。
唯「……あずにゃん?」
だって、あずにゃんが先に、涙を溢れさせていたから。
唯『ごめんね……あずにゃんを傷つけてしまうかもとは思ったんだ。けど、私に出来ることってこれくらいしかなくて……』
でもやっぱり、あずにゃんに『耳が聞こえない』という現実を見せ付けてしまうだけの行為だったのかな。
私にとっても、あずにゃんにとっても、高校生活で一番の思い出といったらコレだと思ったんだけど。
梓『いえ、傷ついてはないです、大丈夫です。それに、聴こえなくても…まるで聴こえているかのように、伝わってきますから』
唯『そう?』
梓『はい。だから、この涙は、嬉しいような、それでいてやっぱり唯先輩に申し訳ないような、そんな物です』
唯『申し訳ないは言いっこなしだよ。お互い様だから』
あずにゃんは、私からみんなを奪った。
でも、本当は私が先にみんなの人生を奪ったようなものだから。本当は私のほうが悪いんだけど、それを言うとあずにゃんは泣いちゃうから。
だから、この世界に二人っきりである以上、お互い様ってことにしとくのが一番いいよね。
さわ子『実は唯ちゃんの未発表曲が一曲あるのです!』ダンッ
唯「ちょっ、何勝手に入ってきてんのさわちゃん!?」
梓『…聴きたいです』
唯『でも…あずにゃんは……』
梓『聴きたいです。耳で聴けなくても、唯先輩の演奏なら心で聴ける気がします』
さわ子『言うじゃない。応えてあげないの? 唯ちゃん』
唯『…わかった。がんばるよ』
初めて人前で披露するこの曲。それもそのはず、この時のために作ったんだから。…もちろん、私一人の力じゃないけど。
上手く弾けるかな、という不安は無かった。あった不安は、ただ一つ。
――あずにゃんに、ちゃんと届くかな?
梓「!?」
弾き始めてすぐ、あずにゃんの顔色が変わった……ような気がした。
気にはなるけど…でも、途中で止めるわけにはいかない。これは、あずにゃんに贈る曲だから。
唯『――おしまいおしまい』
梓『……聴こえました』
あずにゃんが涙を流しながら言って――書いてくれる。うん、頑張った甲斐があったかな……
唯『それはよかったよ』
梓『そうじゃないです! 音が――耳が聞こえたんです!』
唯「え、ええええええっ!?」
さわ子「どひゃー」ドヒャー
梓『嘘じゃないですよ! 例えばさっきの曲の冒頭…楽譜にすると、こうでしょう!?』ダンッ
唯「ゴメンあずにゃん、楽譜読めないんだ……」
梓『…帰ったら教えてあげますよ』
唯「……クロッキー帳使ってないのに会話できてる…」
梓『だからさっきから言ってるじゃないですか……』
唯「や、やったー、かんどー??」
さわ子「なんでイマイチ盛り上がらないのよ…」
唯「ものすごーく自覚がないといいますか…」
梓『私はものすごく感動してますけどね』
唯「そりゃそうだよ。耳が聞こえるようになったんだし」
梓『いえ、唯先輩が――唯先輩達が、あんないい曲を作ってくれたことに、です』
唯「それは……あずにゃんのためだもん。私一人の力じゃないけどね」
梓『そして、唯先輩が私のために演奏してくれたことに』
唯「それは……あずにゃんのためだもん!」フンス
さわ子「この二人って思ったより会話進まないわね…弾まないわけじゃないんだろうけど」
唯「じゃあさわちゃん、さよなら!」
さわ子「ええ。大学でも頑張って」
こういう会話をしていると、やっぱりさわちゃんは知らないんだな、って思う。本当に巻き込まれただけの人だったんだな、と。
まぁ、もう今更どうこう考える必要はないんだけどね、という結論に達してボーっと歩いていると、あずにゃんが袖を引っ張ってきた。
梓『家に行ってもいいですか?』
唯「いいけど、どうしたの?」
梓『あと3日です。少しでも長く一緒にいたいです』
唯「……私が死ぬまで?」
コクリ、と頷く。
唯「いいよ。っていうか断る理由も無いけどね」ギュ
梓「」ジタバタ
唯「かわいいかわいいあずにゃんと過ごす、残り3日、かぁ…」
――とはいったものの、過ぎてみれば特に特筆するようなことをする3日でもなく。
いつもどおりダラダラして、ゴロゴロして。大学の準備をしてるごっこをして。
誰かがいないから料理に苦戦して。一緒にお風呂に入って。一緒に寝て。そんな普通の3日間。
でもただ一つ、またあずにゃんと一緒に演奏できたのは、すごく嬉しいことだった。
唯「――今日かぁ……具体的にいつごろなの?」
梓『もうすぐ、とだけ言っておきます。なるべく普通に過ごしてほしいですから』
唯「それは無理じゃないかなぁ……こう見えても怖いんだよ?」
梓『大丈夫です、私も一緒ですから』
……そこに書かれた言葉の意味が、さっぱりわからなかった。
唯「…どういうこと?」
梓『世界の代償、です。私の命を苗に、唯先輩のために創った世界ですから、唯先輩の終わりにあわせて私の命も尽きるんです』
唯「……そんな、ダメだよそんなの…!」
梓『…どうしてです? 私に、唯先輩が死ぬところを見届けろと言うんですか?』
唯「そうじゃないけど、でも、死ぬってきっと痛くて苦しいよ!? ずっと覚えてるんでしょ!?」
梓『そういえば言い忘れてましたっけ。あれも失敗しました』
唯「……へっ?」
梓『唯先輩の記憶の引継ぎです。失敗っていうか、やめさせたんですけどね』
唯「……どうして!? どうしてそんな勝手なこと…!」
梓『それはもちろん私も一緒に死ぬからですよ。唯先輩は優しいですから、そんなつらい記憶を引きずって欲しくないです』
唯「だったら……その言葉、そのままあずにゃんにも返すよ!」
梓『そう言うと思って、私の記憶もリセットされるようにお願いしました』
唯「…あれ、そうなの? だったらいい…のかな?」
てっきり、またあずにゃんが背負うのかと思ってた。私だけが忘れて、のうのうと繰り返すのかと思ってた。
でも、二人とも条件が同じなら、別にいいのかな?
梓『これで唯先輩も、少し重荷が減るでしょう? それに……本当は、きっと私も、唯先輩の悲しい顔や苦しい顔をこれ以上引きずって生きるのは、無理だと思いますし』
唯「…ううん、それでいいんだよ。それが普通だよ。私達は誰も、そこまで強くないよ、きっと」
梓『ただ、一つだけ不安なことがあるんです』
唯「ん? なあに?」
梓『今回が終わって、全部忘れて、最初に戻って……私達は、また出逢えるんでしょうか?』
最初に……そうか、私が戻る時は、今まで通りなら高校の入学式。
その頃は、確かに私はあずにゃんの存在を知らない。
梓『もう、他の人はいないんです。戻った先の時間では、唯先輩はギターを持ってさえいません』
唯「……そうだね」
梓『そして、私ももう思い出せませんが、唯先輩にギターを買うきっかけを与えてくれた人も、もういません』
唯「…そうだね」
梓『私と唯先輩の絆は…演奏にあったはずです。それが…もう、次の世界では、無いかもしれないんです』
唯「そうかもね」
梓『だから……もう逢えないんじゃないかと、思うんです』
唯「それはないよ」
梓『…どうしてです?』
唯「だって、私にはあずにゃんしかいないんだから。あずにゃんにも、私しかいないんでしょ?」
梓『…はい、それは偽りない私の気持ちです』
唯「だったら離れ離れになるわけないよ。すぐに逢えるし、見つけてあげる。きっと、すぐに見つけられるくらい近くにいるよ」
梓『…そうですね。そうだといいです。信じてます』
唯「うん」
そこまで会話した後、あずにゃんが私に抱きついてきた。クロッキー帳を投げ捨てて。
……そうか、きっともうすぐなのかな。もう書く時間もないのかな。
そう察した瞬間、私は幻視した。
幻だと断言したのは、あまりに非日常的でオカルトな光景だったから。
私に抱きしめられて笑顔のあずにゃんから、あずにゃんの頭から、何かが伸びていく。
半透明の何かが、伸びて、天に昇ろうとする。
それは幻。
でも、幻だとしても。
私はそれに手を伸ばし、触れて、捕まえた。感覚なんてなかったけど、ちゃんと捕まえた。
――ホラね、あずにゃん。離れ離れになんてさせないよ。
次の瞬間、眩しい何かに貫かれ、私の意識は蒸発した。
116 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/03(木) 04:09:16.78 ID:X5ktgelu0
支援
117 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/03(木) 04:09:34.09 ID:qg5xAYP30
おまけエンドの梓編が無駄に長いな。
――身体が揺すられている。
何かに、誰かに。なんだろう?
隣に人の気配。そして瞼の上からでも少し眩しい視界。ということは朝かな?
唯「ん………」
朝だとしたら、誰かが起こしてくれてるんだろう。そんなことをしてくれるのは、きっと妹――
梓『朝ですよ、唯先輩』
――のような、大事な大事なかわいい子。
唯「いやー、あずにゃんがいてくれて助かるよ。おかげでお父さんお母さんも安心して旅行に行けるって言ってたし」
梓『最初は旅行の間だけ泊まって面倒見てくれって話だったのに、どうしてこうなったんでしょうか』
唯「今やうちが第二の家だもんねぇ。あずにゃんの部屋も出来てるし」
梓『実家にいる時間がどんどん減ってるのに、両親もあまり気にしてないんですよね……』
唯「そういえばこの間『娘をよろしく』って言われたんだけど何だろ?」
梓『あの両親……!』
119 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/03(木) 04:13:01.56 ID:P1fHxQc+0
すげえな
……私の妹みたいな存在の女の子、あずにゃん。
両親同士が知り合いで、ずっと昔から仲良しで。
あずにゃんは耳は聞こえるけど、声が出せない。たまに変な目で見る人もいるけど、私にとってはそんなことは関係なくて。
あずにゃんは可愛くて、ギターも上手で、私の一番大事な存在。それだけで充分。
唯「そういえばギターといえばね、入学祝いに買ってもらえることになったよ!」
梓『何が『そういえば』なのかわかりませんが、よかったじゃないですか。でも何でギターを?』
唯「そんなの、あずにゃんと一緒に演奏したいからに決まってるよ。いろいろ教えてね?」
梓『ええ、まぁ…私でよければ、いくらでも』
妹みたいな存在とか言っておきながら習うのもおかしな話だけど、少し照れてるあずにゃんが可愛いからいいんじゃないかな。
っていうか、あずにゃんは私と違って真面目だから、これまでもいろいろ教えてもらってるし。
……でも、私はちゃんと知ってるよ。あずにゃんは真面目でしっかり者だけど、本当は幼くて、弱くて、守ってあげないといけないところもあるってことは。
だから……
唯「これからもよろしくね、あずにゃん。大好きだよ」
エンド3『廻る風車』
121 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/03(木) 04:18:50.24 ID:P1fHxQc+0
続きもあんのかな?
>>71から
【残月にお祈り】
それとも……もしかしたら、前提が間違ってる?
私も、さわちゃんも、『誰か』が母親だと思い、探し出そうとしてきたけど。
よくよく考えたら、私達が、誰よりも仲良しな私達が、誰か一人を生贄にするような真似、するだろうか?
……私なら、そんなこと絶対にしないし、させない。だとすれば……
唯「…よし、とりあえず家に帰ろう」
うまく、あの二人を問いただしてみよう。
律「お、唯」
憂「おかえり、お姉ちゃん。何かおやつ食べる?」
唯「……まだいいや。それより、思い出したよ。たぶん全部」
律「そっか」
憂「よかったね、お姉ちゃん」
律「…よかったのかどうかは、わからないけどな」
唯「ううん、よかったんだよ。私一人が知らないままで、みんなに背負わせてるってのは、やっぱり間違ってる」
律「…やっぱり、唯ならそう言うよな。だから私達は悩んでるんだけど」
唯「……もう一度、みんなで答えを出そうよ。今度は私も含めて、さ」
これは私の願い。私の意見も聞いてほしかった。みんなわかってるかもしれないけど、それでも私の口から面と向かって言わせて欲しかった。
そして、ついでといっては何だけど、同時に核心を突いてみる。
唯「この世界は私のための世界って聞いたよ。だったら、この世界を支えてくれてる人というのは、私を支えてくれてる人。憂、りっちゃん、軽音部のみんな。きっとみんなで、一緒に私を支えていこうって決めたんだよね?」
律「……思い出した…というのとは違いそうだな。唯が知るはずは無いんだし。推理か?」
唯「うん。だけど自信はあるよ。誰かが犠牲になってこの世界を創ったんだとしたら、その誰かはきっとみんな。だって、りっちゃん言ったよね」
律「………」
唯「みんな、私のことが大好きだって」
律「……やれやれ。憂ちゃん、ここに皆を呼んでもいいかな?」
憂「入りきりますかね?」
律「それもそうだな。学校に集合とでも言おうか」
唯「……え? あれ? そんなに私の家狭いっけ?」
憂「…お姉ちゃん、もしかして完璧にはわかってなかった?」
え、だって、みんなでしょ?
軽音部のみんな、あと憂とか和ちゃんとか、多くてもクラスメイト何人かくらいじゃ……
律「『みんな』だよ、唯。命を捧げることを選んだのは、ウチの高校の生徒全員だ」
唯「え、ええええ!? なんで!?」
憂「お姉ちゃん、結構人気あるんだよ? 全校生徒の前で演奏しておいて、お姉ちゃんのことを知らない人がいると思った?」
唯「いや、そんなの、考えたこともなかったし…」
……衝撃。それ以上の言葉が見つからない。でも、好かれているというのは本来なら嬉しいはずだけど…今回に限っては、まったく嬉しくなかった。
私は、私が思っていたよりも多くの人の命の上に、生かされていたんだ。
その現実は、嬉しさよりも苦しさを私にもたらす。数え切れないほどの人の未来を、命を、私は奪ったんだ。
――あぁ、そうか、だからあれだけ多数の瞳と声が、私を責めていたのか……
――みんなの集まる学校へ、私と憂とりっちゃんが辿り着こうという時には、私の心は現実の重みに押しつぶされそうだった。
今までは、さっきまでは、軽音部のみんな達を助けてあげたいと思ってた。仲良しだし、大事な大事な仲間だから。
でも、事実を知ってしまった今は違う。名前も顔も知らない人まで、私のために命を捧げた。その命と決意に、私は何を返せばいいのだろう?
私は、何もわからなくなっていた。
周囲はもう夜の暗さを醸し出していることに今更になって気づく。そりゃそうか、授業受けて、さわちゃんと電話して普通に帰って、また学校まで来たんだから、そんな時間だよね。
唯「……そうだ、さわちゃん…!」
一縷の望みをかけて、蜘蛛の糸に、藁にも縋るような気持ちで、さっきの番号にリダイヤルする。
……でも、やっぱりというか、当然というか、誰も出なくて。
唯「…今から出張とか言ってたしねぇ」
憂「どうしたの、お姉ちゃん? 顔色悪いよ?」
唯「……ううん、なんでも」
律「お、澪達だ」
澪「遅いぞ、律」
律「わりーわりー。ってあれ、全校生徒集めろって言ったよな?」
和「ええ。私が全員に連絡したわよ」
律「……グラウンドに集合って言ったよな?」
全校生徒が集まれるような場所なんて、体育館かグラウンドくらいしかない。
その二択でグラウンドを選ぶのはなんともりっちゃんらしいけど。
澪「まぁ、大事な話をするのは主要人物だけでいいだろ」
和「私も入ってるのね。嬉しいやら申し訳ないやら」
唯「和ちゃんがいたらおかしいの? 私は想定してたけど」
律「あー、いや、違うんだよ唯。和は――」
和「私は唯を避けていたほうなのよ。大事だから、大好きだから、故に怖かった」
唯「……私が死んじゃったから?」
紬「というか、この世界は毎回、唯ちゃんが死んで終わるのよ」
梓「どうしても、その運命は変えられませんでした」
憂「だから次第に、どうにかして楽に終われる方法を、っていう方向になって。私がお姉ちゃんに睡眠薬を盛ったり」
紬「私が医者を手配したり」
和「皆はいろいろやってたんだけど、私は避けていた。唯と同じ大学に行くという夢を見ることさえ避けて、別の学校を選んでた。唯の最期を見たくないから」
澪「仕方ないよ。最初に唯が死んだ時、目の前にいたのは私と和だったんだ」
和「……それでも、澪は変われた。私は逃げた」
律「澪の変化だってどうかと思うし、今はそれを責める時でもない。な、唯?」
みんな、いろいろ悩んで、いろいろしてくれてたんだ。私のために。
でも、やっぱりそれは、間違ってると私は思う。
唯「…みんなが何を思って、何をしてくれたのかは大体わかったよ。私からは、ありがとうとか、ごめんねとか、そんなありきたりな言葉しか言えないし、そしてどれも何かおかしい気がする」
憂「お姉ちゃん……」
ずっと、ずっとひっかかっている違和感。大体のは解決したけど、まだ一つだけ、私の中に残ってる。
唯「私は……みんなの全てを奪ったようなものだよ。なのに、私はみんなに好かれてるの? 本当に?」
あの時、みんなは言っていた。
『憎い』と。『許さない』と。
その言葉が、ずっと私の耳にこびりついて。私は、やっぱり生きているべきではないと思っちゃって。
実際そうだと思うし、だから、やっぱり、私のために命を投げ出したみんなも、間違ってると思う。
私のために何かをしてくれるというのは、本当なら嬉しいはずだけど。
あの言葉があるから、私は、どうしても。
正直つまらん…てか長い
律「……本当に決まってるだろ? どうしたんだ、唯」
どうしても、みんなを、信じきれなくて。
唯「……みんながもし、私の意志を何よりも尊重してくれるなら…」
信じることが出来たら、私がみんなにとってそこまで必要な存在だと信じきることが出来たら、私もこの世界を受け入れてたのかもしれないけど。
もはや、みんなを信じていないのか、自分の価値を信じていないだけなのか、わからなくなっちゃったけど。
でも、今の私に言える事は。
唯「こんな世界、壊して欲しい」
みんなは私のことを忘れて、普通に生きるべきなんだ。
澪「……仕方ない、か」スッ
和「そうね……」スッ
二人が手を上げると、他のみんな――生徒全員が、どこからか出てくる。
律「なんだ、みんな聞いてはいたんだな」
130 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/03(木) 05:00:19.30 ID:I6FRzJkA0
澪紬とあずにゃんの扱いの格差に泣いた
澪「ああ。じゃ、多数決でも取ってみようか?」
律「なんのだ?」
澪「唯の本心を聞いて、これからどうするか、だ」
律「いや、声に出さなくとも、唯の望みを叶えてやりたいと思ってる奴が多いんじゃないか?」
澪「……そうだな。どうりで何か眩しいと思ったら…」
澪ちゃんとりっちゃんが空を見上げる。つられて私も見ると、頭上に浮かんでいたのは……
唯「……月?」
そう、そりゃ夜空に浮かぶのはお月様に決まってる。けど、私はそれに見惚れていた。
いや、見惚れていたというより、目が離せなかった。異様に近くにある、その月に。
どれくらい見惚れていただろうか。
ふと、月に吸い込まれていく『何か』に気づいた。
無数の『何か』が、月に向かって、月に吸い込まれて、消えてゆく。
直感でしかないけど、私はそれは『何か』ではなく『誰か』ではないかと思った。
そして、何かが倒れる音に気づき、視線を正面に戻す。
――みんなが、倒れていた。
正確には、特に私と親密だったみんな以外が、だけど。
私の直感は当たっていて、『誰か』どころか『みんな』が月に吸われていっている。
何が起こっているのかわからない。恐ろしい。
脳が、言葉を発することさえ忘れていた。
でも、忘れている一方で、何かを思い出しそうで。
和「これが唯の望みだというのなら…私に異論は無いわ」
唯「!? 待って、和ちゃん! 私、本当に…これでよかったの!?」
和「何言ってるのよ唯。自分の望んだことに責任くらい持ちなさい?」
唯「でも、でも! 何が起こってるのかさっぱりで……」
和「唯も気づいているんでしょう? 吸われているモノの正体」
唯「……みんな、だよね。魂か命か、わからないけど」
澪「そうだよ、唯。皆で決めたこと。皆で一つ。私達全員が、世界そのもの」
和「その世界が不要だと唯に言われた以上、形作っていた私達も不要」
そう言い始めた頃、和ちゃんの身体が少しだけ、ジワリと光る。
その光は、徐々に頭のほうに集まっていって。
和「…時間ね。それじゃあね、唯」
唯「え……っ」
そのまま背を向けた和ちゃんは、少し後に、力を失ったように倒れた。
唯「和ちゃん!?」
澪「…顔は見てやるなよ、唯。和が背を向けた意味を察してやれ」
澪ちゃんのその言葉がなければ、すぐにでも走り寄って抱き起こして、身体を揺すっていただろう。
そういうありきたりなことをするな、と。現実を受け入れろと、澪ちゃんは言うんだ。
澪「……思い出すなぁ、一番最初の時を。唯はどうだ?」
唯「……え?」
一番最初というのは、きっと、この『世界』が始まった時。
でも、私の記憶にあるのは、私を責める瞳と、声と。
あと、私に気づいていない、親しいみんなの背中。それくらい。
梓「…唯先輩が覚えていたら困りますよ、こんな凄惨な光景」
澪「それもそうか。その時は唯はまだ産まれていなかったはずだもんな」
……おかしい。おぼろげではあるけど、この世界の真実に気づく程度には、私は覚えていた。
それは、澪ちゃん達にとっては、ありえないことだということ?
紬「そろそろ誰の番が来てもおかしくないわ……唯ちゃん、今度はちゃんとお別れを言わせて?」
唯「ムギちゃん……」
紬「最後だから、隠しもしないで素直に言うけど、唯ちゃんのことが大好きでした」
……また、その言葉。信じたくなる、嬉しい言葉。この世界で、ずっと私を包んでくれていた、優しい言葉。
ムギちゃんは嘘なんて言わない。なら、あの時のみんなの言葉は何なんだろう?
わからない。けど、むしろわからないから、私も本心を返す。
唯「…私も、ムギちゃんのこと、大好きだよ」
紬「うふふ、ありがと。たぶん、ちょっと意味合いはズレてると思うけどね」
唯「それでも、ずっと一緒にいたかったよ。自分勝手でごめんね?」
澪「おいムギずるいぞ! 唯、私にも言ってくれ!」
唯「あはは。澪ちゃんはこんな時でもそのノリなんだ」
澪「当たり前だ。恥ずかしがってる場合じゃないし、引っ込み思案な私じゃなにも得られないって、あの時思い知ったんだから」
唯「それは…私はなんて返せばいいんだろう」
澪「まぁ、確かに結局唯は私のものにならなかったけど……でも、こうしてお別れを言える機会が得られただけでもいいことなのかもな」
唯「うん……ありがとう澪ちゃん、大好きだよ」
澪「私も大好きだよ、唯。……ん、ムギ、光ってるぞ」
紬「澪ちゃんもよ?」
澪「時間か。どうしよう?」
紬「実はキーボード持ってきてるの〜。これを抱いて眠るように、ってどう?」
澪「じゃあ私はエリザベスを抱いて、か。そういえば名付け親は唯だったな。本当にありがとう」
紬「ありがとう、本当に」
唯「……うん、バイバイ」
二人とも、本当に、私のことを好きでいてくれた。そのまま帰っていった。
……あの瞳は、あの声は、なんだったんだろう? 私の夢か何かだったんだろうか?
梓「……唯先輩?」
唯「……ねぇ、あずにゃん。みんな私のことを恨んでないの?」
梓「う、恨む!? なんでですか、そんなわけないじゃないですか!」
唯「……私、最初の日の光景、知ってる気がするんだ」
みんなが私を見ずに、何かを言っていた、歌っていた、その光景。
あれはきっと、お月様にお願いしていたんだと、今ならわかる。
唯「そこでね、みんな私に『許さない』とか『憎い』とか言ってた気がするんだよね…」
梓「えぇっと、そうですっけ……? ……あー、もしかして……」
唯「…やっぱり言ってた?」
梓「いえ、そうではなく……そうだ、せっかくですから語るより、お月様にお願いしてみましょうか」
唯「お願い?」
梓「はい。最後のお願いくらいサービスで聞いてくれますよ、きっと」
唯「そう言われても、やり方とかわからないんだけど」
梓「うーん……ちょっと唯先輩、お顔をこちらに」
言われるまま、あずにゃんの身長に合わせるくらいにかがんで頭を下げる。
すると、あずにゃんが自分のおでこを私のおでこに当てた。
梓「マンガとかでよくこうやってやりますよね。これであとはお願いを聞いてくれれば見えると思いますよ」
唯「そんな適当な……」
梓「ほら、目を瞑って、見たいって願ってください」
唯「はいはい……」
半信半疑だったけど、今の状況――というか世界そのものが非現実的だし、なんか案外見えそうな気がする。
目を瞑り、言われるままに願うと――
――
―――
律「なんでだよ、唯…」グズッ
澪「勝手に死ぬなんて、許されると思っているのか…」ポロポロ
紬「唯ちゃん……ひどい。私を置いていくなんて…」ポロポロ
律「…一生恨んでやる。こんな運命にした奴を…」
あれ? ここはどこだろう? グラウンドにいたはずだけど、少し違うようにも見える…
あ、そうか、これがあの時の光景――すごいよあずにゃん、見えたよ!
澪「死ぬまで忘れない。唯のことも、唯をこんなにした奴も…!」
梓「責任の一つも取らないで逝くなんて、許されると思いますか、唯先輩…! ずっと、ずっと大好きだったのに…! その気にさせといて…!」
憂「お姉ちゃん……ごめんね。何もしてあげられなかったね…」
和「唯…あなたは…あなたに、私は、言わなくちゃいけないことが…」
あれ、もしかして……
「唯……」
「ずっと一緒だって信じてたのに」
「勝手に死ぬなんて許さない」
「運命が、世界が憎い」
……私に向けられた言葉は、瞳は、全部、逆の意味?
そうだとしたら、私は……
―――
――
唯「――あずにゃん、もしかして……」
梓「ええ、ただの唯先輩の勘違いです」
唯「……ごめん」
梓「なにを改まってるんですか、よくある勘違いオチじゃないですか」
唯「違う、違うんだよ、あずにゃん……」
139 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/03(木) 05:45:16.99 ID:sXKfc9xWO
のくすェ…
勘違いで済まされるものじゃないんだよ。
勘違いが元とはいえ、私は、みんなを信じきれなかった。それだけで、いくら謝っても足りないんだよ。
梓「……もしかして、勘違いしてたから、この世界を消すことを望んだんですか?」
唯「……それもある、かも。もちろん、私のためにみんなが自分を犠牲にするっていうのは間違ってると今でも思うけど、でも…」
でも、基本的に私というのは自堕落な甘えん坊で。だから。
唯「……何かのキッカケがあったら、みんなの優しさに甘えていたかも」
梓「……それは…やりきれませんよ、さすがに」
唯「ごめん、ごめんね、あずにゃん…!」
梓「…まぁ、今更どうこう言っても仕方ないんですけどね。唯先輩らしいといえば、らしいです」
唯「それでも、ごめん…!」
梓「もうやめてくださいよ、唯先輩。……そろそろ時間みたいですし」
あずにゃんの身体も、いつの間にか光っていた。まだまだ謝り足りないのに…!
141 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/03(木) 05:53:41.35 ID:I6FRzJkA0
流石にもう睡魔に抗えそうにないから最後の支援
ムギEND終わった時点で4時ごろには寝られると思ったが甘かったじぇ
梓「……そうですね、それじゃあ唯先輩、一つだけ私の言うことを聞いてくれますか?」
唯「…な、なんでも言って! 何でも聞くよ!」
梓「……では、さいごに抱きしめてくれませんか。好きだって、耳元で囁いてくれませんか」
唯「うん……! 大好きだよ、あずにゃん…」ギュッ
梓「……いい気持ちです。このまま逝きたいので、あとでどこかに寝かせておいてください…」
唯「そんな言い方――」
私の言葉は、最後まで発せられることはなかった。
言ってる途中で、わかってしまったから。
唯「――おやすみ、あずにゃん」
律「――帰依、って言ってたっけ。みんな、縋るものが欲しかったんだよ」
唯「りっちゃん…」
律「…なんか憂ちゃんはともかく、私がこんな時まで残ってるのはヘンな感じだな」
>>141 ごめんねさるさん喰らいまくっててごめんね
さるってたのか。なら支援者するぜ
憂「律さんは、お姉ちゃんのことを誰よりも気にかけてくれてましたから」
律「誰よりも、じゃないな。憂ちゃんには負けるよ」
こうやってみんなを見てると、なんかいつもとあんまり変わらないように思えてくる。
お別れってもっと、涙を流して、わんわん泣き叫ぶようなものだと思ってたんだけど。
唯「まぁ、りっちゃんなら大丈夫だよね。元の世界に戻っても、憂達のこと、お願いね?」
律「………ああ、そうだな、任せとけ…」
憂「…お姉ちゃん、まさか――」
律「出来れば憂ちゃんより先に私が来て欲しいんだけどなー! 姉妹水入らずの時間をあげたいからなー!」
唯「…りっちゃん? どしたの?」
律「いや別に? 湿っぽいのは私には似合わないだろ? まぁみんなのことは私に任せとけって!」
……りっちゃん、さすがに空元気に見えるよ。
唯「…りっちゃん、私はね、本当に、みんな大好きだったよ?」
律「…知ってるよ。そんな唯だから、私も大好きだった」
唯「……あとは、お願いね?」
憂「お姉ちゃん!!!」
突然の憂の大声に、私もりっちゃんも硬直する。え、何、どうしたの?
憂「お姉ちゃん! 律さんは――」
律「ッ!? やめろ、憂ちゃん!」
憂「やめません! 律さんが欲しい言葉は、そんなのじゃないよ、お姉ちゃん!」
律「やめろって…! 言っちゃダメだ!!」
憂「お姉ちゃんは勘違いしてる! 私達みんなに『あと』なんて無いんだよ!?」
唯「………え…? どういうこと? だって、この世界が消えて、みんなは元の世界に戻るんでしょ?」
憂「戻らないよ! 戻れないよ! 命を犠牲にしておいて、戻れる訳ないよ!」
唯「えっ………」
律「憂ちゃん、やめろ、唯を苦しめるな…!」
憂「だから! 私も律さんも、本当に欲しいのは、ちゃんとしたお別れの言葉なんだよ!? だから――あ!?」
律「っ!? ……こんなタイミングって、ないだろ…!?」
呆然としている私の前で、二人が光りだす。
147 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/03(木) 06:17:43.03 ID:KpttlZtYP
しえんしえん
きっと、もう少し後で二人は倒れて、この世界から消えて…元の世界に戻る、わけじゃなくて。
そこで、消えて、そのままなんだ。そこで終わりなんだ。
私は――また勘違いをしていた。そのせいで、りっちゃんを、憂を、傷つけていた。
他のみんなには…どうだっただろう? みんなにはまだ先の人生があるからって、ぞんざいな対応をしてなかったとは言い切れない。
もし仮にしてなくても、明るく送り出そうとしていたのは間違いない。そんな気持ちで……これから消えるというのにそんな気持ちを向けられたみんなは、どんな気持ちだっただろう?
唯「…ごめん、ごめんね。りっちゃん、憂、みんな……!」ポロポロ
憂「お姉ちゃん、顔を上げてよ……最期なんだよ?」
唯「……ごめんね、ホントにごめんね…!」
律「唯、いいから。みんな気にしてないから、な?」
唯「でも、でもぉ……!」
憂「お姉ちゃん、お別れだよ。今までありがとう。お姉ちゃんの妹で、幸せだったよ…」
唯「憂、うい、ういぃ……!」
律「美しい姉妹愛だなぁ、ちくしょう、泣けるぜ…」グスッ
唯「りっちゃんも、ごめん、私、ずっとりっちゃんに迷惑かけてばっかだ…!」
律「私はそうは思ってなかったよ。唯、楽しい毎日をありがとうな…」
唯「うっ、っく、みんな、みんなぁ……!!」
【月の雫】
――私は、ずっと泣いていた。
ずっと謝っていた。
疑ってごめんね。
信じられなくてごめんね。
傷つけたよね、ごめんね。
いつも守ってくれたよね、ごめんね。
りっちゃん。
ムギちゃん。
澪ちゃん。
あずにゃん。
憂。和ちゃん。みんな。みんな……!
もう何度目かもわからないほど、叫んだ。みんなを呼んだ。咽がかれるほど。
――みんなに、会いたいよ…!!
私が馬鹿だった。お願いだよ、謝らせてよ。お願いお月様、もう一度だけみんなに逢わせてよ……!
このまま、勘違いしたまま、傷つけたまま、さよならなんて嫌だよ……!
お願い……!!
遠のく意識の中で、私の願いが届いたのか、それはわからないけど。
優しく、眩しい光を、私は最期に見た。
『あっあっーまた帰ってきたー!!』
もし きみきみ はねははえました?
唯「――う〜ん…」
和「…何うなってるのよ、唯」
唯「あ、和ちゃん…どの部活入ろうか、まだ迷ってて――」
エンド『蛹』
152 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/03(木) 06:46:19.20 ID:OqVameeZ0
まさか本当にあさきが原典だったとは……
153 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/03(木) 07:08:36.52 ID:nY3sXYJO0
なんか混乱してきた
ざっと解説頼む
154 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/03(木) 07:10:17.44 ID:eqvmNWvzi
乙
これは蛹の歌詞を
>>1なりに解釈して
けいおんキャラに当てはめたってことでいいの?
155 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/03(木) 07:13:29.58 ID:Yfsrlwc9O
唯「ハネハハエマシターwwwwww」
>>153 俺自身よくわかってない
どこを解説すればいいのかさえ
>>154 蛹聞いてたら「ループもの!」ってティンときて書いてみただけ
蛹の面影もあんまないから直球なタイトルは止めといた
んだけど
>>2で言われて泣いた
157 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/03(木) 08:01:06.62 ID:eqvmNWvzi
>>156 すまん
ID変わってるけど俺が
>>2なんだ
なんにせよ面白かったよ
乙
俺の好きなキャラばかり贔屓しおってからにこいつめ
乙
唯がセレブラントに覚醒するのかと思ったけど全然違った 乙
160 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/03(木) 09:22:10.67 ID:Z0ItCaYh0
なかなか良かった
乙
161 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/03(木) 09:54:19.31 ID:zlVj7oUpO
優しくされたいんでしょ?
と書こうとしたらまじであさきで吹いた
162 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/03(木) 10:38:56.28 ID:J/3biEPY0
蛹エンドを見た後だと梓ルートがエグいな
163 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/03(木) 10:43:12.33 ID:MDMi10CJP
わからぬ
164 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/03(木) 10:54:07.06 ID:ca2emxLlO
乙楽しめた
スレタイであさきの楽曲に挑戦するのかと思った
全部読んだ乙
>>162 最後まで読まなかったらただのハッピーエンドだと勘違いしたまま終わるところだったわ
一旦別れる〜卒業式前日までの梓視点がみたくなった
166 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/03(木) 12:30:21.57 ID:1XlNGcq8O
とりま書いていい?結構有名な書き手なんだが
乙、ようやく読み終わった
これの元となってる蛹って有名なの?