1 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:
代理
2 :
◆6ZgdRxmC/6 :2011/01/30(日) 21:23:12.71 ID:LeLgQrex0
3 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/30(日) 21:25:46.08 ID:IGl/Taef0
嘘予告は本当だった?
4 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/30(日) 21:25:56.36 ID:LeLgQrex0
とても静かな夜だった。
雲ひとつ無い夜空に浮かぶ満月が、下に広がる町並みを照らしている。
大きな傷跡のあるビル、割られたアスファルトの舗装。
そこに並ぶ車は、まるで地面に落とされた紙粘土工作のように潰され、ひしゃげている。
なにか”怪獣でも暴れまわったかのような”、その町並みのなかに人の姿は無い。
―――いや、無い、はずだった。
( ・∀・)
(,,゚Д゚)
廃墟と化した夜の町並みを、一人の少年が歩いていた。
まだ高校生といった風貌の彼の隣を、
一匹の青い毛並みの猫が、四本の足でとてとてと歩いている。
( ・∀・) キレイな月だね……
ふ、と少年が足を止めた。
彼は親指と人差し指で丸を作ると、それを頭の上まで持ってきて、
その小さな輪の中に夜空の月を収める。
( ・∀・) よくマンガとかで、ものすごく大きな月を見ることがあるけどさ、
あれってなんなんだろうね?
実際の夜空の月は、ボクの指で囲めるほどのサイズでしかないってのに
自分の指で作った輪のなかにある月を見ながら、少年は傍らの猫に話しかけた。
5 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/30(日) 21:27:23.06 ID:LeLgQrex0
彼の視線にあわせるように、猫も夜空に浮かぶ月を見上げる。
こちらは指で輪など作らず、空にあるものを直接見ている。
(,,゚Д゚) さてね、とんと分かりかねます。何分、私はネコですので。
きっとヒトであるあなたが見ている月と、ネコである私が見ている月では、
大きさも随分異なるでしょうし
青い猫が、人間の言葉で喋った。
しかし、それに対して少年は特に驚く様子も無い。
( ・∀・) ……そうかな?
猫と人って違いだけで、見える月の大きさまで変わるものなの?
指の輪は月を囲ったまま、顔の向きだけを変えて彼は猫のほうを見る。
(,,゚Д゚) どうでしょうね、確かめる術はありませんからなんとも。
ただ、あの空の月は私には随分大きなもののように見えます。
実際の大きさなどと言うものは私には分かりませんが、
あなたの見ている月よりは私の見ている月のほうが大きいでしょう
猫はこちらに視線を合わせず、空の月を眺めたままだ。
( ・∀・) ……指でわっかなんか作るんじゃなかったな。
そのままの月を眺めていれば、きっとボクの見ている月のほうが大きかったのに
少年は指で作った輪を解いて、改めて月を見た。
しかし、だからと言って彼の目に映る月が大きくなることはなかった。
先ほどまでの大きさのまま、自分の指の輪に納まるサイズのままだ。
ちょっとくやしいな、と少年は思った。
支援
7 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/30(日) 21:28:37.39 ID:LeLgQrex0
( ^ω^)彼らは携帯電話を武器に戦うようです
毛終割多話「乙彼」
8 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/30(日) 21:30:12.72 ID:LeLgQrex0
きーこ、きーこ
真夜中の公園に、ブランコをゆっくりとこぐ音が響いている。
きーこ、きーこ
乗っているのは、一人の少年。青い猫がその隣に座り、その様子を眺めている。
(,,゚Д゚) ……それは、楽しいのですか?
どこか不思議そうに猫は訊ねた。
少年はブランコをこぎながら答える。
( ・∀・) うーん……どうかな。
昔は楽しかったけど、この年になるとそうでもないかも
きーこ、きーこ
(,,゚Д゚) なら、なぜそんなことをしているのです?
きーこ、きーこ
( ・∀・) 特に理由はないね。
しいていうならこうやって昔と同じことをすることで、
昔に逆戻りできないかなあなんて思ってるのかも
ずざざ、と少年の足が地面に触れ、ブランコが止まった。
しえしえ
10 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/30(日) 21:32:07.07 ID:LeLgQrex0
(,,゚Д゚) 『昔』……ですか、その概念が私にはよく分かりません。
ネコは過去にこだわらない生き物ですので
( ・∀・) へえ、それは羨ましいね。それじゃ『夢』も見ないのか
(,,゚Д゚) ユメ……? いえ、それならあなた方と同じように眠れば見ます。
と言っても、その内容は起きたらすぐに忘れてしまいますが
首を傾げる青い猫。ブランコに座った少年は、くすくすと笑った。
( ・∀・) 違うよ、そっちじゃなくて未来に抱くほうの『夢』さ
(,,゚Д゚) はて、”未来”……ですか。そっちもいまいち実感が沸きませんね
( ・∀・) つくづく今の事しか考えてないんだね、キミは
(,,゚Д゚) ネコとはそういう生き物ですので
そっけなく答える猫に、本当に全部の猫がそうなんだろうかと少年は考えるが、
しかし、そんなことを考えても分かるわけが無いというこに気付き、思考を中断した。
当然だ、少年はヒトである。ネコの気持ちなど、考えて分かるわけもない。
少年は、ブランコに座ったまま『夢』とは何か、目の前の猫に教えることにした。
( ・∀・) 『夢』ってのはさ、簡単に言えば”ある瞬間の過去”なんだ。
そして、それは同時に”今”でもあるっていう、ちょっと不思議なものなのさ
(,,゚Д゚) なるほど、よくわかりませんね。
私には矛盾だらけで支離滅裂に聞こえます。
あるいは、だからヒトはそれのことを『夢』などと呼ぶのでしょうか?
11 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/30(日) 21:32:54.40 ID:LeLgQrex0
( ・∀・) そうだね、あるいはそうなのかもしれない。
日常を生きる中で、ときには忘れてしまうこともあるけど
でもそれはずっと心の奥の方で息をしている。
浮いては消え、浮いては消え。まるで寝て見るほうの夢みたいに
(,,゚Д゚) それを持っていると、なにか得をするのですか?
( ・∀・) 得……うーん、得と言えばそうなのかもしれない。
むしろそれがあるおかげで生きていられるというか……
(,,゚Д゚) ほう、ヒトというのはそれが無いと、生きていられないのですか?
改めてそう聞かれて、一瞬少年は答えるのを躊躇してしまった。
別にそうだと答えるのは簡単だ。しかし、それを今ここでするのはどうにも言い訳くさい気がする。
( ・∀・) そうだね、それが無いと生きていられない人もいるよ。
だから彼は、そんな中途半端な言葉でお茶を濁した。
(,,゚Д゚) それが無いと生きていられなくなるというのは、一体どういう仕組みなのです?
心底分からない、と言った風に猫は訊ねる。
多分、いま彼は『夢』というものが無くなった瞬間、急に人間の心臓が停止するとでも思っているのだろう。
( ・∀・) ……生きていられないというか、生きてる気がしなくなっちゃうんだ。
それが無くなってしまうと、今まで自分の価値を支えてきたなにかが、
音も立てずにどこかに消えてしまうような……少なくともボクはそんな気がしてた
(,,゚Д゚) 自分の価値が無くなる……なぜ?
12 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/30(日) 21:33:17.55 ID:IGl/Taef0
ふむ
13 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/30(日) 21:34:30.65 ID:LeLgQrex0
猫の言葉に、少年は一つため息を吐く。
(;−∀−) それはちょっと説明し辛いね。
っていうかキミ、さっきから聞き返してばかりじゃない
(,,゚Д゚) すみません、何分私はネコですので。
ヒトのあなたには当たり前のことも、ネコの私にとっては分からないことだらけなのです
淡々と答える彼の顔を、少年は見やる。
月明かりに照らされた、青い毛並みのネコの顔は無表情でいて、しかしどこか可愛らしい。
( ・∀・) そうだね……何と答えたものか……
”解っているような気がしてた”けど、いざ言葉にしようと思うと、
なんていうか、モヤがかかったみたいにぼやけて輪郭がみえなくなっちゃうね
ぼんやりとした声色で言う少年。
それを聞いた猫は、なんとも言葉では表現しづらい表情をその顔に浮かべる。
―――”笑っている”のか?
それを見た少年は、なぜだかそう思った。
(,,゚Д゚) そもそも、一体何が原因で『夢』というものは生まれるのでしょう?
( ・∀・) ……
猫の問いに、少年は答えない。
黙ったまま、彼はしばらくブランコに座ったまま足をぷらぷらと動かしていた。
が、ふいにぴょんとそこから飛んで立ち上がると、遊具の無い、公園の中央へと歩き始めた。
猫は、それを何を考えているのかわからない表情でじっと眺めている。
14 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/30(日) 21:35:19.87 ID:LeLgQrex0
公園の中央に立った少年は、その場で大きく手を広げると空を仰いだ。
( ・∀・) ずいぶん昔ね、ここでよく遊んでたんだ
空を仰いだまま、少年は猫に聞こえるように声を張り上げて言った。
( ・∀・) ボクと、数人の、もう顔も名前も覚えてない友達と、
……あと、ブーンって名前の幼馴染でさ、怪獣ごっこをやってたんだ
(,,゚Д゚) カイジュウ……?
てとてと、と小さな足音が少年の耳に近付いてくる。足元に猫の気配を感じ、少年は猫に説明する。
( ・∀・) 『怪獣』ってのはね、とっても大きくて強いんだ。
でも彼らは大きすぎるから、人間が作った色んなものを壊しちゃう。
家もビルも、車も、戦車や飛行機だって、彼らの圧倒的な『存在』の前では無意味。
でも、きっと彼らに人間の作ったものを壊してやろう、とか、
そういう悪意みたいなものはないんだと思う。
少年の目には、夜空の月が写っている。
真っ白に輝く、満月。
その光の中に、少年は幼き頃の自分の姿を見ていた。
( ・∀・) 『怪獣』はただ生きているだけ。
彼らが生きることが、他の全ての生命にとって迷惑でしかないとしても、
ただ彼らはそこに存在しているだけなんだ。
……ボクは、そんな存在になりたかった。
砂場に作られた砂山を壊す、小さな怪獣。
正義の防衛隊の必死の抗戦も空しく、小さな怪獣は全てを破壊しつくさんとする。
15 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/30(日) 21:36:32.03 ID:aEt+hLKs0
支援
しえーん
17 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/30(日) 21:36:48.92 ID:LeLgQrex0
(,,゚Д゚) それが、あなたの『夢』ですか
( ・∀・) そう、それがボクの『夢』。
規格外なほどに大きく、圧倒的な存在―――『怪獣』になること
やがて少年が見ている月の中の風景に、『怪獣』とまったく同等の存在でありながら、
『怪獣』とは正反対の性質を持つ者が現れる。
―――それは、『正義の味方』と呼ばれるモノ
( ・∀・) ……たしか中学に上がったころくらいかな?
ボクは自分がそれになれないということに気付いてしまった。
(,,゚Д゚) それはまた……随分時間がかかりましたね
「そんなものになれないことくらい、ネコでもわかります」と皮肉にしかとれないようなことを、
皮肉でもなんでもないという口調で猫は言う。
( ・∀・) まあね、っていうか、心のどこかで
それを解ってても認めたくないって気持ちがあったのかも
それに対し彼も特に怒るでもなく、返した。
彼が月の中に見ている過去の風景では、
調度『怪獣』が『正義の味方』の必殺技で倒されたところだった。
月の中の風景が消え、夜空に浮かぶそれがただの衛星に戻る。
少年は身体の後方に体重をかけると、公園の真ん中にぱたりと倒れこんだ。
( ・∀・) でも、なれないと分かったからっていって、諦められるわけでもなかった
シエン
19 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/30(日) 21:39:32.89 ID:LeLgQrex0
(,,゚Д゚) 諦められないと言っても、どうしようもないではありませんか
仰向けに寝転がる少年の耳元に猫が歩み寄る。
彼はそのまま四本の足でてとてとと彼の胸によじ登り、香箱を作った。
( ・∀・) そうだね、実際どうしようもなかった。
だからボクは、『怪獣』になることを諦める努力をすることにした。
月が、再び過去の風景を映し出す。
それは一心不乱に西洋の片手剣を振るう、幼い少年の姿だった。
( ・∀・) なにか他に夢中になれるものを探していて、
そしてボクはフェンシングと出会った。そこそこの成績も収めることができた。
いいコーチに出会えたってこともあったけど、
やっぱり『夢』を諦めることに必死だったってことが一番大きいと思うよ
(,,゚Д゚) ……それで、消えたのですか? あなたの『夢』は
胸の上に猫を乗せた少年は、深くため息を吐いた。
( ・∀・) 全ッ然。
むしろそれから目をそらそうとするほど、『夢』は大きくなっていくだけだった。
少年の胸の上で、猫が首を傾げる。
(,,゚Д゚) ……なら、あなたはどうしたのです?
( ・∀・) どうもしないよ。何もできなかった……そう、あのときまでは
20 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/30(日) 21:40:30.73 ID:LeLgQrex0
少年は、ふと思い出してズボンのポケットを探る。
わかってはいたが、やはり”彼”が宿っていた銀色の携帯電話はそこには無かった。
(,,゚Д゚) 『あのとき』とは?
( ・∀・) ああ……”友達”ができたのさ、
向こうは僕のことをご主人様だとしか思ってなかったみたいだけど
(,,゚Д゚) それは……また変わった関係ですね
( ・∀・) でしょ? 変なヤツだったよ、実際。
出会ったときはほんと機械みたいな口調だったのに、
やっと人間味が出てきたと思ったら妙にダンディな口調で話すようになるし、
なにより、その口調でボクの幼馴染と全く同じ声で喋るってのが面白くて
くすくす、と彼は笑った。猫はそんな彼をじーっと見ている。
( ・∀・) あいつと出会えたことは、
ボクにとって本当に幸運だったとしかいいようがないと思うよ。
あいつのおかげで、ボクは『夢』を実現させることができるかもしれないっていう
『希望』を得ることができたんだから。
(,,゚Д゚) 「『希望』を得た」
ということはそれまでのあなたの人生には全く『希望』がなかったのですか?
( ・∀・) ……
質問された少年が黙る。
少しだけ目を閉じて何かを考えていた少年は、やがて目を開くと、言った。
21 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/30(日) 21:41:19.71 ID:LeLgQrex0
( ・∀・) ……あったよ、希望なら。たったひとつだけ
少年は胸の上の猫の両脇を掴み、ひょいと持ち上げる。
そして少年は怪訝な表情を浮かべている猫を顔の前まで持っていった。
( ・∀・) ボクね、自分の夢が叶わないって気付いて、
ひょっとしたら、このまま自分がおかしくなっちゃうんじゃないかってずっと悩んでたんだ。
そのうち、自分が何かとんでもないことをしでかすんじゃないか、
ならいっそ誰かに迷惑をかける前に、ボクなんか死んじゃえばいいのにってさ
よ、という一声と共に少年が地面から半身を起こした。
不機嫌そうな顔を浮かべる猫を自らの膝にのせると、少年はまた月を見上げた。
( ・∀・) 正直本気で自殺を考えたことも何度かあった。
でもね、死ねなかった。なんでだかわかる?
まるでモノのように扱われたことが気に障ったのだろう、少年が自分の膝に目をやると、
そこではまだ不機嫌そうな顔をした猫が、すこし恨めしげな目でこちらを見ていた。
(,,゚Д゚) さてね、とんと分かりかねます。なにしろ私はヒトではなく、ネコですので
そう言ってぷいと顔をそらす猫。
自分で自分を猫だと言うわりには、随分人間臭い動作だなと少年は笑う。
( ・∀・) ボクが死ねなかったのはね、
『怪獣』になるって『夢』が諦めきれなかったからってのもあるけど、
一番の理由はボクの幼馴染だったのさ
22 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/30(日) 21:42:04.66 ID:IGl/Taef0
sien
23 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/30(日) 21:42:41.22 ID:LeLgQrex0
(,,゚Д゚) どういうことです? そのお友達に『死ぬな』なとでも言われたのですか?
相変わらず顔はそらしたまま、猫は言った。
( ・∀・) ううん、そこまでは言われなかったよ。
ボクもそんなにはっきり『死にたい』なんて言ったことなかったし。
でもね、向こうは何となく気付いてたみたい。
ボクが本気で死にそうになると、いっつもどこにでも行けそうな言葉をくれた
拗ねている猫の頭を撫でる少年、猫はどこか鬱陶しそうにその手にぐいぐいと頭をおしつける。
(,,゚Д゚) 『どこにでも行けそうな言葉』ですか、妙な表現ですね、
あなたはいつだってどこにだって行けたのではありませんか?
別にどこかに閉じ込められていたわけではないのでしょう?
少年の手が、ゆっくりと猫の頭から離れた。
月に照らされた彼の顔は、先ほどより少し曇っている。
( ・∀・) ……いや、閉じ込められてたよ。
少なくとも、そのときのボクはそれ以上どこにも進めない場所にいたんだ。
きっとね、ブーンが道を作ってくれたから、ボクは生きてこれたんだと思う。
少年は空を見上げる。まるでそこに、ここにはいない、彼の幼馴染の姿を探しているかのように。
( ・∀・) だから、ボクは信じてたんだ。
あいつなら……ブーンなら、たとえボクが『怪獣』になったって
ボクに道を作ってくれるって。ボクに世界を破壊するしか道がなくなったとき、
それを倒す『正義の味方』になってくれるってさ。
「それがボクの唯一の『希望』だった、でも―――」、彼は自嘲するように笑って続ける。
24 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/30(日) 21:45:00.26 ID:LeLgQrex0
( ∀ ) ―――でも、よく考えたら……そもそもの失敗は、
”ボクがボクの力で道を切り開こうとしてしまったこと”
だったのかもしれないね……
月に照らされた少年の顔は、今にも泣きそうで、しかし、それでも笑っていた。
支援支援
26 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/30(日) 21:47:17.82 ID:LeLgQrex0
(,,゚Д゚) ……本当にそうでしょうか?
空を見上げていた少年は、自分の膝に視線を戻した。
膝の上には、猫がいる。
例のなんとも言えない”笑顔”を浮かべて、こちらを見上げている。
(,,゚Д゚) たしかにあなたが友人の切り開いた道を歩き続けていれば、
あなたは、あなた自身の人生に後悔せずにすんだのかもしれない。
しかし、もしそうしていたとして、あなたは
……『夢』を持ったあなたはそんな自分に納得できましたか?
( ∀ ) ……それは、それは確かにそうだったかもしれないけど
けどさ、ボクは、ボクは……
少年は俯き、黙る。
数秒間そうしていた少年は、やがて顔をあげると言った。
( ∀ ) キミは……ボクのやったことが間違いじゃなかったって言いたいの?
どこか猫を責めるような口調で少年は言う。
猫はあいかわらず平然とした口調で、言った。
(,,゚Д゚) あなた自身はどう思っているのです?
(#・∀・) だからさっきから言ってるじゃないか!!
ボクは、自分の『夢』は間違ってると思って、ずっと悩んで……!!
(,,゚Д゚) なるほど、ですがそれは『夢』が叶う前の話でしょう?
では、”今のあなたは”どう思っているのです?
27 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/30(日) 21:48:20.37 ID:LeLgQrex0
(;・∀・) !! ……ボ、ボクは……
少年が、彼にしてはめずらしく動揺している。
それを彼の膝の上の猫は、じっと見ている。
( ∀ ) ボクは……ボクは……!!
少年の目に、辺りの風景が映る。
この公園は比較的壊された物は少ない。
しかし、少し目線をあげればそこには大きな穴の開いたビルがある。
周りを見渡せば、すぐ近くにひしゃげた自動車がある。
―――そして、何かがそこで燃えた痕が、いたるところで黒いコゲとなって残っている。
:( ∀ ):: キミは……ボクを責めてるの?
少し震えだす少年の身体。猫はとくに気に留める様子もなく、とぼけた声で淡々と答える。
(,,゚Д゚) さあ? 何分私はネコですので、
自分が何を考えているのかなどといったことにはとんと興味がありません。
そう言って猫はぴょんと彼の膝から飛び降りる。
(,,゚Д゚) ―――ですから、あなたがそう思うなら、きっとそうなのでしょう
少年を見上げる猫の顔は、どこか意地悪そうな表情が浮かんでいた。
28 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/30(日) 21:49:46.84 ID:LeLgQrex0
( ∀ ) ……それって、どういうこと?
(,,゚Д゚) そのままの意味です、私はネコ。ネコは自分のことなど考えません。
常に自らの思うがままに行動していますから、
そのことについて考える必要などどこにもないのです
( ∀ ) それって、自分で考えていることに興味がないから、
キミ自身が、ボクをどう思っているかも分からないってことでいいのかな?
(,,゚Д゚) 分からないのではありません、考える必要がないのです。
ですから、私の言葉をあなたがどうとるか、というのはあなたにおまかせします。
少年は顔を俯けたまま、じっと座っていた。
( ∀ ) 勝手だね。勝手で……無責任だ
(,,゚Д゚) ネコとは元来そういう生き物ですので
ぼそりと呟く少年と、それにさらりと答える猫。
両者の間に沈黙が流れ、そして、ふいに少年がくすくすと笑い始める。
(,,゚Д゚) ……なんです?
( ・∀・) いや、ね。ボクもそんな風に生きられればなって
(,,゚Д゚) 無理でしょう、あなたはヒトなのですから
( ・∀・) うん、そうだね。……そうだったね
29 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/30(日) 21:51:11.30 ID:LeLgQrex0
( ・∀・) ……ボクは最後まで『怪獣』にはなれなかったのかもしれないね。
ボクのやったことなんて、ただちっぽけな人間の、
ただの悪あがきに過ぎなかったのかも、でもね……
月明かりに照らされた少年の身体が、ぼんやりと紅く輝き始める。
( ・∀・) ―――ボクは、ボクのやったことを後悔なんてしないよ。
キミがボクを責めているとしても関係ない、
ボクは”ボクにできること”をした。ボクにできる精一杯のことをしたんだ。
ばちり、ばちり、という音を立てて、少年の身体が紅い輝きになって消えていく。
猫は、それを黙って見ている。
( ・∀・) ……ひょっとして、キミはボクにこれを言わせたかったのかな?
(,,゚Д゚) さあて、なんのことやら。ネコの私にはとんと分かりかねますね
淡々と答えた猫に、今まさに消えようとしている少年は笑った。
( ・∀・) 一番分からないのはそこさ、キミは本当に猫だったの?
ほとんど消えかけている少年の質問に、猫は答えない。
ただその顔に浮かべている、なんとも表現しづらい”笑顔”だけが、その質問に対する猫の感情を表現していた。
彼はおそらく”喜んでいた”のだ。だから―――
(,,゚Д゚) 私は、あなたが私だと思うもの。それ以外の何者でもない。
―――だからそのとき、
彼は、彼にしてみれば出血大サービスと表現しても大げさでないようなことを、
目の前の少年に言ったのだろう。
30 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/30(日) 21:54:39.69 ID:LeLgQrex0
月明かりに照らされた公園で、一匹の青い毛並みの猫が佇んでいる。
(,,゚Д゚) あなたは……
てとてと、と四本の足でブランコの側まで歩み寄ると、
ふいに猫はその二本の後ろ足で立ち上がった。
(,,゚Д゚) ……あなたはきっと、最後まで悩んでいたのでしょう。
表向きはこれが『夢』だと、
自分がやっていることこそ『夢』なのだとそう思い込もうとして、
しかし、実際のところそれが”本当に叶っているのか”ということについて、
あなたは最後まで自信がもてなかったのでしょう。
二足歩行の猫は、ブランコにぴょんと登ると、二本の前足で起用にブランコの鎖を掴み、
それを前後に揺らし始める。
(,,゚Д゚) だからあなたは私と出会ってしまった。
最期が来てなおその後に、それを自分に納得させるために。
きーこ、きーこ、という音が夜の公園に響く。
猫がブランコをこぐとその振れ幅はどんどん大きくなっていく。
猫は、ブランコの上から月を見ていた。
(,,゚Д゚) ……あなたは指で輪など作らなければ、
私の見ている月より自分の見ている月のほうが大きいのに、と悔しがっていましたが
ブランコの振れ幅が大きくなり、それに乗った猫は、わずかにでも月に近付いていく。
近付いては離れ、近付いては離れ、その繰り返し。
だからと言って、猫が月に届くことはない。当然である、月はずっと遠いのだ。
31 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/30(日) 21:56:05.16 ID:LeLgQrex0
(,,゚Д゚) 見えている月の大きさなど、たいした問題ではないのです。
ブランコの振れ幅が最高潮に達したとき、猫は手を離した。
ブランコの勢いに押し出され、青い猫は空中に放り出される。
月に向かって、飛ぶ。
(,,゚Д゚) ―――あなたも私も、どうせそれには触れられないのですから
空中に飛んだ猫は、月に手を伸ばし、
また例のなんとも言いようのない”笑顔”を顔に浮かべた。
月に延ばされた手は、当然、文字通り空を掴み、
猫はそのまま重力に呼ばれて落下する。
砂場のちょうど真上に落下するかに見えた猫は、
そのまま砂場に吸い込まれるようにすっと消えてしまった。
そして公園には誰もいなくなった。
まるで最初からなにもいなかったかのように。
だから少年がそこにいたことも、
猫がそこにいたことも、誰も知らない。
ふーむ
33 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/30(日) 21:56:53.13 ID:LeLgQrex0
―――事の顛末をずっと見ていたのは、途方も無く遠くにある満月だけだった。
34 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/30(日) 21:58:17.85 ID:LeLgQrex0
( ^ω^)彼らは携帯電話を武器に戦うようです
毛終割多話「乙彼」
おわり
支援
36 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/30(日) 21:58:51.04 ID:aEt+hLKs0
乙
乙彼さん
38 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/30(日) 21:59:40.50 ID:LeLgQrex0
おまけ:『蛇足』
39 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/30(日) 22:00:30.42 ID:LeLgQrex0
モララー:「もららー」
享年16歳。一年前の戦いで死亡したが、長くセキラと融合していたため、
『セキラの記憶』という形で、その人格だけは数ヶ月間その場に漂っていた。
しかしその存在は所詮”残像”程度のものに過ぎず、
最期はエネルギーの波となって世界に拡散し、消滅した。
40 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/30(日) 22:05:07.94 ID:IGl/Taef0
乙
41 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/30(日) 22:05:15.82 ID:aEt+hLKs0
支援
42 :
◆6ZgdRxmC/6 :2011/01/30(日) 22:07:27.25 ID:LeLgQrex0
そんなわけで、毛終割多話(もうおわったわ)乙彼でした。
時間軸的には最終話と十五話の間らへん。
そしてこの作品のみ、関連作品( ^ω^)ギコを見たようですになりますが、
別にこのギコはどこにでも現れるので、世界観がリンクしてるとかは全然ありません。
これにて、( ^ω^)彼らは携帯電話を武器に戦うようですの全投下を狩猟します。
いままで読んでくれたやつら、ほんとありがとう
せっかくこれで最後だし、質問とかあったら答えられる範囲なら答えるよ。
じゃ、そんなわけで、お前らまた会う日まで、元気でな! ノシ
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以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:
乙、本当に乙
「作者は〜」どうのこうのって言われながらも、よく書ききってくれたよ