1 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:
代行
秋山澪は 今年で高校三年生になる
桜ケ丘高校に入学して二年間 色々な事を経験した
幼馴染に誘われ軽音部に入り
親しい友人が増え
演奏したり 喋ったり
泣いたり 笑ったり 怒ったり
充実した学園生活だったが それも今年で最後だ
あと一年もある といえば勿論その通りだし
このまま卒業しても きっと悔いを残さず 良い思い出として未来への糧にできるだろう
だがしかし
諦め半分 夢見ていることがある
親友 田井中律
澪は律とは正反対 引っ込み思案な性格なので
行動力とリーダーシップ溢れる彼女のように 秋山澪はなりたかった
3 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/05(水) 01:20:50.40 ID:PY5IcWviP
進学後 今まで通り会えるかわからない
ひょっとしたら 彼女と会えるのは今年が最後になるかもしれない
だから今のうちに 田井中律の生き様を
この眼に
いや
この身体に
いや
この心に 刻み込んで
田井中律のように なりたい
いやいや それだけじゃあない
一度 彼女そのものとして生きてみたい
4 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/05(水) 01:22:06.77 ID:PY5IcWviP
そんなの無茶だ
だから澪は あくまで夢とした
空を飛べたらいいなぁ 程度の夢だ
5 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/05(水) 01:23:10.60 ID:hmcJ3k6t0
寝るけど支援
6 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/05(水) 01:24:00.52 ID:PY5IcWviP
春の夕暮れ
部活帰りにそんなことで頭をいっぱいにしていると
ドン と
誰かにぶつかってしまった
申し訳ない 謝らなければ 怖い人だったらどうしよう
おそるおそる顔を除くと
それは 奇妙な雰囲気を持つ老紳士だった
「ご、ごめんなさい!ごめんなさい!考え事してて・・・」
「いえいえ、お気になさらず」
温厚な人間なようだ
対人恐怖症な澪でも 不思議と向き合えた
が どうも怪しい
7 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/05(水) 01:26:20.90 ID:dDQyozBN0
老紳士か
8 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/05(水) 01:27:08.30 ID:PY5IcWviP
そう思ったところに 老紳士は続けた
「夢に想いを馳せるのは素晴らしいことです」
「え?」
「それが叶えば もっと素晴らしい・・」
一瞬訳がわからなかった
でも 間違い無い
この眼は
心を見透かしている
「わ、私の考えてる事が・・夢がわかるんですか!?」
「はい。憧れの親友のように もとい 親友になってみたい と」
本物だ
超能力者か霊能者か
何にしても スゴい人だ
9 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/05(水) 01:29:30.08 ID:PY5IcWviP
「どんな夢でも実現させる為にあります。私がお手伝いして差し上げましょう」
「ど・・どうやって・・・」
「至極簡単です この枕で寝るだけですから」
何処からともなく取り出された綺麗な枕
一見何の変哲も無い
「この枕で眠れば好きな夢が見れます。それは 好きな体験が出来るということです」
「好きな夢が・・・」
微妙に夢の意味が違う気もするが 確かに何でも叶いそうだ
「やりたいことを念じて眠る それだけでいいのです」
「スゴイ・・まさに夢みたいな道具ですね・・・!」
「お好きなようにお使いくださいませ」
10 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/05(水) 01:32:13.71 ID:PY5IcWviP
「あ でも私 今お小遣いが・・・」
それを聞くと
老紳士はにっこりとほほ笑んで
「お金は要りません。何でもいいので 対価としたいモノをください」
よくわからないことを言った
申し訳ないので
とりあえずお菓子からピックまで あげられるものは全部渡す
「夢は あなたが夢を叶え終えたり 満足したらすぐに覚めます」
「人間 どんな夢を見ても 起きてみたら数十分と経っていなかったりするものです」
「夢はどんな長さでも あなたの起きる時間は変わりませんのでご安心を」
説明を終えると 老紳士は大満足で帰って行った
11 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/05(水) 01:35:56.96 ID:PY5IcWviP
―――――――――――
その日の夜
澪は夢枕の置かれたベッドで 静かに眼を閉じた
「もしも 律になれたら・・・」
脳内をその願いで埋め尽くし
睡魔に身を任せる
願いだらけの意識も 段々と遠のいていく
段々と
段々と
・・・・
・・・
・・
12 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/05(水) 01:36:47.74 ID:PY5IcWviP
「他人になる」という夢は 叶えた時点で 他人の物になる
昼休み
自分で作った弁当に下鼓を打ち 親友に向かって自慢する
「見ろよ澪!今日は結構自信作なんですわよ!」
「はいはい・・」
そっけない親友の返事も慣れたものだ
澪はなんだかんだで話を聞き逃さないし 良く思ってくれている
スゴイ 良い奴だ
「その座り方 いい加減直した方がいいぞ」
が 少し口うるさいのが珠に傷
いや
勿論悪意は無いんだろうけど
13 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/05(水) 01:37:43.21 ID:PY5IcWviP
因みに座り方は何度注意されたところで直すつもりは無い
ドラマーの姿勢が一番落ち着くし
きちん とした澪のような座り方してるとまったく集中できなくなる
人生は型に嵌めてるだけじゃダメだ
ルールを作った人間と 守る人間は違う
どう頑張っても噛み合わない時だってあるんだ
無理するくらいなら 自由に生きよう
それが田井中律の精神である
14 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/05(水) 01:40:02.36 ID:PY5IcWviP
彼女はそうして生きてきた
彼女はそう考えて生きてきた
でも 足りない物もある 欲しい物もある
琴吹紬
彼女のような 野に咲く花のような優雅さが
田井中律は羨ましかった
琴吹紬になってみたい
そんなの無茶だ
だから律は あくまで夢とした
空を飛べたらいいなぁ 程度の夢だ
15 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/05(水) 01:41:23.74 ID:PY5IcWviP
夏の夕暮れ
部活帰りにそんなことで頭をいっぱいにしていると
ドン と
誰かにぶつかってしまった
顔を除くと
それは 奇妙な老紳士だった
律が夢を語ると 枕をくれた
好きな体験ができる枕らしい
16 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/05(水) 01:44:23.24 ID:PY5IcWviP
―――――――――――
その日の夜
「もしもムギになれたら・・・」
その言葉を何度も頭に浮かべながら
睡魔に身を任せる
願いだらけの意識も 段々と遠のいていく
段々と
段々と
・・・・
・・・
・・
17 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/05(水) 01:45:41.82 ID:PY5IcWviP
「他人になる」という夢は 叶えた時点で 他人の物になる
朝の通学路
「おっす ムギー!」
「おはようりっちゃん」
部員であり友人の 秋山澪と田井中律に出会う
二人はいつも仲が良い
性格はまるで正反対だが 上手い事 歯車のように噛み合っているのだろう
謙虚と活発
どちらも良いことだし 周りにもいい影響を与えている
これからもこの関係でやっていけるだろう 素敵なことだ
>対人恐怖症な澪でも 不思議と向き合えた
なんか萎えた
19 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/05(水) 01:47:38.37 ID:PY5IcWviP
でも 一つ言えることはある
人生で大切なのは きっと余裕と安心だ
危険な生物も柵の中なら怖くない
動物園を見て回るように 人生も 適切な距離で対処していけばいいのだ
平坦な道こそ 人は余裕を持って歩ける
澪のように離れ過ぎても 律のように近付き過ぎても
余裕や安心は失せてしまう
仲が良いのは結構なことだが
余裕を持つことを意識してもいいんじゃないか
家の資産がどうとかは関係無い
距離を保ち 自分が余裕を持てるかだ
それが琴吹紬の精神である
20 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/05(水) 01:48:53.58 ID:PY5IcWviP
彼女はそうして生きてきた
彼女はそう考えて生きてきた
でも 足りない物もある 欲しい物もある
中野梓
彼女のような 思い切って甘えることができる 幼さ
琴吹紬は羨ましかった
中野梓になってみたい
そんなの無茶だ
だから紬は あくまで夢とした
空を飛べたらいいなぁ 程度の夢だ
秋の夕暮れ
部活帰りに遭遇した老紳士に枕を貰い
意気揚々と帰宅していった
21 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/05(水) 01:50:48.45 ID:NnVC44SQ0
あずにゃんはむしろ甘えたくても甘えられないって感じだが
22 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/05(水) 01:50:49.49 ID:PY5IcWviP
―――――――――――
その日の夜
「もしも梓ちゃんになれたら・・・」
願いながら 睡魔に身を任せる
意識は段々と遠のいていく
段々と
段々と
・・・・
・・・
・・
23 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/05(水) 01:52:25.84 ID:PY5IcWviP
「他人になる」という夢は 叶えた時点で 他人の物になる
教室 休み時間
平沢憂と鈴木純は 何時の間にやら親友だ
クラスが同じなだけで部活はバラバラだけれど 同級生の中では最も気が合う
「どう、最近の部活は?」
「変わらない 全然練習しないよ」
憂が尋ねたいつも通りの質問に いつも通りの返答
もはや お互い解っている
軽音部は文化系特権の緩い空気を堪能し 長い練習とは無縁なのだ
そういう部活は少なくない
「でも梓 なんだかんだで馴染んでるよね」
24 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/05(水) 01:57:36.22 ID:dDQyozBN0
寝る前に支援
25 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/05(水) 01:58:43.94 ID:PY5IcWviP
「ど、どこが・・」
「練習してー って叫ぶ割には いつも唯先輩達にべったりじゃん」
純は冗談交じりに言うが 中々的を射ている
中野梓は 甘えん坊
彼女は幼く 未熟で矮小だ
勿論面と向かって言われるのはあまり気分の良いものではないし
小学生 などと言われるのは恥ずかしい
でも 誰かに包まれているのは気持ちいいし 幸せだ
特に先輩の平沢唯は そんな気持ちを刺激する
人間 赤ん坊のように 甘える時間が幸福だ
恥や強がりも程々に
所詮 人は1人では生きていけない
それが中野梓の精神である
26 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/05(水) 01:59:58.55 ID:PY5IcWviP
彼女はそうして生きてきた
彼女はそう考えて生きてきた
でも 足りない物もある 欲しい物もある
平沢唯
彼女のような 優しさ純粋さ
中野梓は羨ましかった
平沢唯になってみたい
そんなの無茶だ
だから梓は あくまで夢とした
空を飛べたらいいなぁ 程度の夢だ
冬の夕暮れ
部活帰りに遭遇した老紳士に枕を貰った
27 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/05(水) 02:00:50.71 ID:PY5IcWviP
―――――――――――
その日の夜
「もしも唯先輩になれたら・・・」
願いながら 睡魔に身を任せる
意識は段々と遠のいていく
段々と
段々と
・・・・
・・・
・・
28 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/05(水) 02:02:21.96 ID:PY5IcWviP
「他人になる」という夢は 叶えた時点で 他人の物になる
放課後
テーブルを囲む軽音部員は 「なりたい人」について語っていた
「律のように活発に・・・」 「ムギみたく優雅に・・」
唯は不思議でたまらない
そんな必要が何処にある 夢を見る必要が 何処にある
澪は謙虚だから良い
律は元気だから良い
紬は御淑やかだから良い
梓は幼いから良い
そんな夢 見るな
29 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/05(水) 02:03:25.35 ID:PY5IcWviP
「だから 今のままが一番良いんだよ!」
屈託の無い笑顔で 大声で叫んだ
実に気分が良い
満足だ
夢が覚めた
30 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/05(水) 02:04:38.25 ID:PY5IcWviP
中野梓はベッドで眼を覚ます
嗚呼 そうか
こんな夢 全く持って必要無い
唯に憧れていてもしょうがない
自分は自分で良いんだ
実に気分が良い
満足だ
夢が覚めた
31 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/05(水) 02:06:02.52 ID:PY5IcWviP
琴吹紬はベッドで眼を覚ます
嗚呼 そうか
こんな夢 全くもって必要無い
自分は自分で良いんだ
実に気分が良い
満足だ
夢が覚めた
32 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/05(水) 02:07:48.08 ID:PY5IcWviP
田井中律はベッドで眼を覚ます
嗚呼 そうか
こんな夢 全くもって必要無い
実に気分が良い
満足だ
夢が覚めた
33 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/05(水) 02:09:24.69 ID:PY5IcWviP
秋山澪はベッドで眼を覚ました
しばらくぼぉっとして
重なった紙コップのような 奇妙な夢を思い返す
嗚呼 そうか
どうやら
この夢のようなアイテムは些か性能が良過ぎるようだ
自分が「律」になったら 「澪」という自我が消える
文字通りのことを実行してくれたが これでは「澪」の好きな時に起きれない
虫にでもなったら最悪だ
この短所の存在を 老紳士はわかっていたのかいないのか
それでもしかし 得るものはあった
皆の心が感じ取れた
34 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/05(水) 02:10:22.95 ID:PY5IcWviP
律は律 自分は自分だ
秋山澪だ
秋山澪と一生付き合っていけばいい
こんなに清々しい気分は初めてかもしれない
明日 唯にお礼の一言でも言っておくか
おやすみなさい
夢が覚めた
乙
36 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/05(水) 02:13:37.13 ID:PY5IcWviP
男は眼を覚ます
最初に見えたのは くたびれたコンクリート
寒い
身を裂くような寒さだ
背中が痛い
砂利だ
外か
橋
橋だ
37 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/05(水) 02:15:13.62 ID:PY5IcWviP
橋の下で寝ているんだ
身体が硬い 鈍い 痛い
ボロ布をどけて腕を見ると しわくちゃの枯れ木のようだった
嗚呼 そうか
薄汚い乞食の老人は 悟った
夢は覚めない
終わり
38 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/05(水) 02:29:11.87 ID:c41uzqUqP
なんだ夢見てたのは将来の俺らか
乙
39 :
[―{}@{}@{}-] 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/05(水) 02:40:23.55 ID:aLZhkQkcP
乞食の老人はおれらか