ある日、友人から手紙がきた。

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1以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
それは以前から手元にあったかのように存在していた。
だが手に取って封を開けてみると、二枚の便箋が入っており、一枚目は案の定、まだ読んだ記憶のない文面が書かれていたのだった。

「こういう時はいつもそうです…(中略)…何だか生きた心地がぜんぜんしません。そんな不安定な精神状態のまま、時間が止むことなく続いていきます。

部屋はいつも暗いです。カーテンは閉めっぱなしです。電気代もバカにならないので、滅多に明かりはつけません。
時々、宅配便がやってきます。
持ってきたものを黙って受け取りますが、どれも送り主など確認することなく、
わざわざ届けられた荷物の中身が何なのかを見ることもなく、玄関周辺に投げ捨てるように置きます。
暫くしてそれらが溜まるとそのまま、まとめてゴミ袋に詰めて捨てます。その際にだけ、外に出て日光を浴びます。
単調で、何もない毎日を送ることが唯一の仕事……特に賃金が発生するわけではないので、厳密にはそれを仕事と呼ぶわけにはいかないですね。」
2以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/30(木) 07:18:32.16 ID:KXJZkNkc0
長い3行で
3以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/30(木) 07:20:03.28 ID:PIboeUhEO
>>1
さんくす!


俺はその手紙を発見したとき、たまたま監獄のようなところにいた。
そこが本当に牢獄であるという確信はなかったが、罪人を拉致する場所である雰囲気は十二分にあった。
テレビのドラマであれば、どこを画として切り取ったとしても、それを観たものがどんなに教育を受けていない人間であっても、
これが牢屋であるのは一瞬で理解するだろう。
4以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/30(木) 07:20:29.09 ID:RJb5bZCMO
結論から
5以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/30(木) 07:21:50.94 ID:PIboeUhEO
続いて二枚目の便箋を読んでみた。
もう一枚はまるで違って、呑気なゴシップの類いの話題が書かれていた。
6以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/30(木) 07:23:54.44 ID:PIboeUhEO
「ところで、人から聞いたんだけれど、なんと木村裕子と青木威雄が交際しているようですね……
何だか想像できない不思議なカップルが誕生したものですね。」
7以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/30(木) 07:24:11.30 ID:WgnfAYHKP
乙!面白かったぜ!終盤はまさかの展開続きだったな!
8以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/30(木) 07:25:27.36 ID:PIboeUhEO
だが、それを声に出して読んでいるうちに、妙な既視感に襲われ始めた。
二枚目の便箋に書かれている内容は、すでに読んだ記憶がある。
その手紙の他に持っているのは、食べた覚えのない菓子の豪華な箱に入れられた、数枚のスーパーの特売のチラシのみ。他には何も与えられていなかった。
それらを箱から取り出し、手に取ってみる。
9以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/30(木) 07:25:29.86 ID:0z7NpvQA0
最後のどんでん返しにはまじびびった
10以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/30(木) 07:26:59.06 ID:RJb5bZCMO
これ漫画ゴラクで見たわ
11以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/30(木) 07:28:52.59 ID:kRJA4asQO
マジかよ。さすがに予想外だわ
12以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/30(木) 07:29:57.36 ID:PIboeUhEO
クーポン券が切り取られていないのを見ると、俺が特売に行っていないのがわかる。
だとすれば、何故俺はこの広告チラシを後生大事に保管していたのだろうか?
しかも、何週間にもわたって取って置いてあるのだ。野菜の値段の上がり下がりでも記録していたのか?
裏返しにすると、そこにはボールペンで何か書かれていた。その時点で、俺が日々の雑感を記していたのを思い出したのだ。
時間をかけてじっくりと読んでいるうちに一組のカップルについて、赤裸々に記述している箇所を発見した。

* * *
13以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/30(木) 07:34:39.80 ID:PIboeUhEO
なんと木村裕子と青木威雄が交際している!
という噂を耳にした際に、すぐさま「なんか知りたくもない面倒な話題を、また聞いてしまった……参ったな」という気持ちにしか、正直なれなかった。
そのときの俺の眉間の皺は、額にできたひび割れのような鋭い痛みを残した。
時折二人の交際のことを思い出すと、寄り添う右脳と左脳の間が引き裂かれるようにピリピリと、いまでも痛み始めるのだ。
14以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/30(木) 07:36:42.76 ID:PIboeUhEO
まさか二人の仲に嫉妬している、などと邪推しないで欲しい。
彼らのデート現場に乗り込み、茶々を入れて邪魔をするなど、たとえ大金を積まれても断る。
15以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/30(木) 07:37:41.76 ID:d8jDStgXO
パンツ脱いだほうがいい?
寒いんだけど。
16以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/30(木) 07:40:26.49 ID:PIboeUhEO
彼らの関係が何らかの事情により、明日突然終わってしまい、それに何らかの意見を第三者から求められた場合、即座に、
結果的に二人が交際したことは良かったのではないだろうか? 両人にとって何もなかったよりかはいくらかマシだろう、と素直に感想を述べる余裕さえ、俺にはある。
もっとも、自分のスタンスを明確にするとしたら、そんなご両人の交際など、そもそもまったく興味の対象外であったのも確かだ。
17以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/30(木) 07:41:15.73 ID:YeXfhEOPO
うっ…






ふぅ…
18以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/30(木) 07:42:18.77 ID:PIboeUhEO
「俺は君たちを祝福しているぜ。仲良くやれよ。人に迷惑かけない程度にな。」
個別であるが二人にそのように忠告する機会が、その話題を耳にしたあと、偶然何度かあった。
19以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/30(木) 07:42:49.82 ID:aK6CSh9CO
すげぇ面白かった!
>>1乙!
また書いてくれよ!
20以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/30(木) 07:45:23.18 ID:PIboeUhEO
だが、俺は彼や彼女に話しかけることすらしなかった。寧ろ存在を消して、そそくさと退場したのだ。
そんなことはそもそも余計なお世話だし、関係のない俺が言ってやったところで、
「放っといてくれ!」「スッこんでろ!」または「放っといてよ!」みたいに酷く怒鳴られるのがオチだろう。
21以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/30(木) 07:46:52.78 ID:PIboeUhEO
上記のような雑感を、いつものようにこうして気ままに広告チラシの裏に書き留めて間もなく、なんと、その片割れにまた(どちらだったのか完全に忘れたが)偶然遭遇したのだ。
22以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/30(木) 07:48:38.25 ID:Hhc2pEae0
何だかんだで支援してやるお前ら優しい
23以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/30(木) 07:51:04.38 ID:PIboeUhEO
その日に不覚にも地元カップルが集う喫茶店に無意識で入ってしまった自分を呪った……もっとも厳密には二人の内の木村裕子と青木威雄のどちらか片割れしかそこには来ていなかったのだが……
その店は「いま恋愛をしているという自覚を強くしたい」と望む人間が、たとえ一人でもよく来る店(そのために内装は、幼稚で恥ずかしくも赤いハートの模様で溢れ返っていた)であり、そうでない人間は滅多に来ない。
24以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/30(木) 07:55:48.46 ID:PIboeUhEO
何しろ店で出す飲み物や食い物は、近隣のどんな店と比べても極めて犯罪的に不味いからだ。適当なその辺の駄菓子屋で飲み食いするほうがマシ。
恋愛には旨い食べ物は無用だ。恋愛という名の美酒に、つまみはいらない……少なくとも、俺はそう考えている。
目と目を見つめ合って話をする際、興味が他に移ってしまうほど、旨い物は必要としない。
基本的にそういう相手との会食は、まったくといっていいほど、進まないものだ。特に俺の場合はそうだ。
25以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/30(木) 08:00:27.89 ID:PIboeUhEO
注文したコーヒーを最初に口に含んだ瞬間、(その不味さが脳を活性化させたのかもしれない)目の前の近くの席に、話題のカップルの片割れがいるのに気が付いた。
まさかコントのようなわざとらしい匍匐前進でその場を去るわけにはいかない……存在を消すどころか、その方がかえって目立ってしまう、と判断するくらいの気転は効く……
うっかり場違いな同伴喫茶まがいの店に入ってしまうような俺ではあったが、いざとなったときの正確な行動とその切れのよさには自信だけでなく、周囲からの定評もかねてからあった。
26以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/30(木) 08:06:40.15 ID:PIboeUhEO
「寧ろ、ここでは堂々とすべきだ」
脳の司令塔から指示を待つまでもなく、俺は存在を消してそこに留まった。
芸能レポーターでも週刊誌の記者でもないのに、カップルの片割れの行動を、せっかくだから細かいところまで見て、つぶさに記憶して家に土産代わりに持って帰ろうじゃないの、と思う余裕さえ出てきたのだ。
無論「参ったな、あいつら本当にアツアツみたいだぜ! 片割れに会っただけだが……」などと人に語るような無粋さは俺にはない。
あくまでも心に秘めたまま、それを文章にして残すつもりなど、当初はまるでなかったのだが。
片割れは、やはり注文したコーヒーなど一度も口にしなかった。どうやら恋愛という美酒さえあれば、他にはいらない、という心境だったようだ。
27以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/30(木) 08:07:34.21 ID:PIboeUhEO
いま半分くらいよ
28以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/30(木) 08:16:20.85 ID:PIboeUhEO
「あの人、よっぽど素敵な恋をしてるんだわ」

レジで会計を済ませ、店から出ようとしたカップルの女が、俺が凝視している片割れを見て言った。

誰が見ても片割れは浮かれていた。
離れていても、この世界には自分たち二人しか存在していないようだ。

相手が現にそこにいなくても、恋は恋だ。
常に二人はテレパシーのようなもので結ばれており、その神聖な交信を誰も妨害することはできないのだ。

目には見えない伝書鳩みたいなものが、二人の間を飛び交っている。
普段、俺が広告チラシの裏に記すような、どうということのない単なる戯言さえも、鳩たちは文句一つ言わず、さっさと相手の潜在意識に届けるために、大空へ羽ばたいて行く。

その二羽の鳩たちがお互いの存在を認め合うことはない。
時折、人目の完全にない上空ですれ違うのを横目で確認するだけだ。
彼らには彼らしか感じ得ない、同胞愛がある。
それは人智を超えた、深い愛だ。
29以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/30(木) 08:16:43.03 ID:aK6CSh9CO
>>22
は?
30以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/30(木) 08:18:05.02 ID:PIboeUhEO
愛という力は、それだけで偉大であることが証明されよう。
31以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/30(木) 08:20:52.82 ID:PIboeUhEO
片割れの肩に、何羽もの白い鳩がやって来て止まるのを見たような気がした。
しばらくは片割れの恍惚の表情を眺めているだけで、不味いコーヒーの味も忘れて楽しんでいられたが、それもやがて飽きてきた。
どこかにいる相方も、恐らく同じような恍惚の表情で悶え、歓喜の唾液を床に滴らせているのだろう。
32以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/30(木) 08:27:53.77 ID:PIboeUhEO
俺はコーヒーとは呼びたくない淀んだ温い液体がまだ若干、底に残ったコーヒーカップを両手で大変そうに持ち、こぼさないように細心の注意を払うような大袈裟な歩みでカウンターの空いている席へと移動した。

常にに余裕のある感じのマスターで
黒々としたダンディな髭など生やしているが、あまり似合っていないように思える。
不自然な髭。
まさか墨で描いたものでもないようだが、いつ見ても均等な量の髭をキープしているのは、まめに手入れを行なっているからだろう。
見た目の印象を髭に集中させる、という詐欺師がよく使う何かの心理作戦か?
様々な意味で、あまり安心感を与えない髭であったが、これでも地元カップルの信用の厚い、いわば愛の伝道師と呼ばれるような人物であったのは確かだ。
この地におこるいくつもの恋の後押しをどれだけしたのか、マスター本人でも把握していないほどであった。
33以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/30(木) 08:29:46.54 ID:PIboeUhEO
>>1
退屈な文章。もうやめろや。
34以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
>>33
ひゃい><