木語:アフガンに仏様降臨=金子秀敏
ttp://mainichi.jp/select/opinion/kaneko/news/20101209ddm003070103000c.html 最近、アフガニスタンで紀元前の仏教遺跡が見つかった。仏像や祭具が出土した。
地下には大型の寺院や塔の遺構があるらしい。
アフガンの仏様といえばタリバンに爆破されたバーミヤン大仏が有名だが、バーミヤンは
カブールの西方、新発見の遺跡は南方のアイナク銅山にある。
見つけたのは中国人だ。銅山を掘っている中国冶金(やきん)科工集団(中冶集団)という
鉱山会社である。アイナク銅山の埋蔵量は世界第2位だという。かつてソ連が開発していたが
アフガン戦争後に撤退した。廃虚はアルカイダが訓練基地にしていた。
これに中国が目をつけた。2年前、中冶集団がカルザイ政権から採掘権を手に入れた。
この時、中国から鉱山相に3000万ドルの賄賂が渡ったという「関係者の話」を
米紙ワシントン・ポストが報じている。米国は中国の進出を警戒しているのだろう。
さて、中冶集団が重機を運び込み、掘削を始めたら、いきなり仏様がニーハオとお出ましになった。
アイナクは、昔々、銅像の制作が盛んだったという伝承がある。その通り銅の仏像が出てきた。
>>255 カブールからフランス人の考古学者が駆けつけ、文化財保護の必要を叫んだ。カルザイ政権は、
今後3年間、採掘を中断させ、考古学者に学術調査の時間を与えた。今年の夏のことだった。
米国のオバマ大統領が3月29日、アフガンを電撃的に日帰り訪問した。カルザイ大統領と会い、
高官の汚職をただすよう要求した。その高官は鉱山相だ。やはり、米国は中国のアイナク開発に
反対なのだ。
この時、カルザイ大統領は中国訪問から帰国した直後だった。大統領は中国で胡錦濤国家主席と会談し、
経済協力の約束を取り付けた。その中にはアイナクの銅を中国新疆ウイグル自治区に運ぶ鉄道の
建設プロジェクトがあった。
中国の新疆とアフガンとは「ワハン回廊」で結ばれている。糸のように狭く長く険しい渓谷だ。
パミール高原で屈指の戦略要地である。そこに鉄道が通れば、アフガン経済に明るい展望が生まれる。
そしてアフガンは中国にがっちりと組み込まれる。
それでいいのか? 12月3日、オバマ大統領は再びアフガンを電撃訪問した。しかしカルザイ大統領との
会談はなく、15分間電話で話しただけだった。カルザイ大統領の中国傾斜はさらに強まったのか。
それを食い止める手段があるとすれば、遺跡調査の期間を延ばすことだろう。困ったときの仏頼みだ。
(専門編集委員)
毎日新聞 2010年12月9日 東京朝刊