記者の目:日航の更生計画認可=山本明彦(東京経済部)
http://mainichi.jp/select/opinion/eye/news/20101209k0000m070098000c.html 日本航空の更生計画が東京地裁から認可され、再生への一つの節目を越えた。日航は、官民ファンドの
企業再生支援機構から3500億円の出資を受けて再建を進める。取材してきた立場から感じることは、
日航は古い体質を引きずったまま規模を単に縮小しただけの「ミニ日航」になるのではなく、まったく
新しい会社に生まれ変わってほしいということだ。それが、膨大な公的資金と人的資源を投じて一つの
民間企業を救済することの意義だと思う。
日航の体質が、破綻前と比べて本当に変わったのかと疑問に感じることがあった。
11月上旬、日航の二つの労働組合が、組合員にストライキの是非を問う投票に着手した。
経営陣が整理解雇に踏み切る方針を固めたことに反発したからだ。雇用維持は労組最大の役割だが、
いまストを打てば、顧客離れを招いて再建は頓挫しかねない。ぎりぎりの線で歩み寄るのは、労使共通の
義務と言えた。
◇旧来の労使対立 自力解決できず
だが、この労使交渉を決着に導いたのは日航労使ではなく、支援機構だった。支援機構は「スト権を確立
したなら出資を延期する」と脅し文句を突きつけて労組の妥協を引き出した。日航労使は結局、過去からの
対立の構図を引きずり、自分たちの力では解決できなかった。支援機構幹部は「本来なら労使で決着を
つけるべき話なのに」と不満を口にした。
87年の完全民営化以前の日航は、ストで欠航便が出るたびに経営陣が国会に呼ばれ、詰問された。
これに懲りた日航は、ストを避けようと乗務員らの待遇を厚くする一方、会社に批判的な労組の組合員に
差別的な人事などを行い、労使協調路線の労組への集約を進めた。今回のリストラで、整理解雇決定前に
白紙の勤務表をパイロットに渡して希望退職を迫る会社側と、それに対抗してストをちらつかせる労組の姿は、
旧来の労使対立の構図とだぶって見える。
>>247 従業員の厚遇が破綻をもたらしたと言っているわけではない。ホテル経営で赤字を垂れ流し、為替予約で
大穴をあけるなど失敗を繰り返した経営陣や、不採算空港を造り続け、赤字路線を飛ばすよう押しつけてきた
航空行政の責任が大きいのはもちろんだ。だが、経営を監視するのも労組の役割だったはずだ。株券が
紙切れになった38万人の株主や、借金の棒引きに応じた債権者のことを考えると、労使ともに真摯(しんし)に
話し合い、一定の痛みを分かつことはやむを得ない。
◇中堅や若手に経営革新期待
9月7日本欄で、小倉祥徳記者が「(競争環境を維持するためにも)日航は必要だ」と書いたが、私はあえて
「古い体質を残したままの日航なら必要ない」と言いたい。
日航再生を主導する支援機構の本来の役割は、力があるのに借金を抱えて苦しむ地方の中堅・中小企業の再生だ。
しかし、昨年10月の設立以降、実際に再生を手掛けたのは8事業者だけ。日航に資金や人材を集中せざるを得な
かったのが主因だ。日航は、地域活性化を後回しにしてまで、膨大な資源が自分たちに投じられたことを胸に刻む
べきだ。だからこそ、「ミニ日航」の復活ではなく、しがらみを断ち切った新会社として、日本経済に貢献できる存在に
なってもらわなければ国民としては承知できない。
格安航空会社(LCC)の台頭などで経営環境は厳しさを増している。安さ勝負のLCCと単純に比較はできないが、
航空会社の経営手法を一から見直し、必要なサービスに絞って値ごろ感を生み出す姿勢を見習わないと、競争を
勝ち抜けない。そうした「革新」を中堅や若手社員に期待したい。新経営陣には、ジャンボ機墜落事故が起きた85年
入社の中堅が登用された。総じて右肩下がりの業績しか知らない彼らは、従来手法の限界を体感しているはずだ。
破綻という苦境を経た今だからこそ、過去の経営手法に是々非々で向き合えるはずだ。
日航の今年4〜10月の連結営業利益は1327億円に上り、通年では過去最高益を記録しそうな勢いだ。
だが、実際は円高で燃料費が軽減されたことや、購入済みの航空機の費用負担が破綻により大幅に少なくなった
効果が大きく、数字だけを見て「再生は順調」と慢心している余裕はない。旧来の内向きで不毛なエネルギーを、
顧客に向かうエネルギーに振り替え、新たな会社にできるのか。知恵を絞って解を見いださない限り、大手とLCCが
入り乱れる大競争時代で、日航は居場所を失うだろう。
毎日新聞 2010年12月9日 0時07分