発信箱:昔は良かった?=滝野隆浩(社会部)
ttp://mainichi.jp/select/opinion/hasshinbako/news/20101208k0000m070144000c.html 日本弁理士会からの案内で知り、東京都内で開かれた「知的資産経営フォーラム」に足を運んだ。
特許に関心があったというより、「元気な中小企業は、なぜ輝いて見えるのか?」と題された、
3人の社長の講演に興味があった。大企業のエライさんより、たぶんイキのいい話が聞けると思った。
農業から医療分野まで客の注文どおりの工作機をつくってしまう「西島」の西島篤師(とくし)社長。
小さなプラスチック製品をどこもまねできない方法で製造する「本多プラス」の本多克弘社長。
携帯電話の中に入っている超小型モーターやファンをつくって世界から注目される「シコー」の白木学社長。
西島は、社員が「そろそろ、もういい」と申し出たときが定年なのだそうだ。最高齢77歳の社員は勤続60年!
西島社長は「これがうちの強みだ」と言い切った。
周囲から反対され、技術面の困難を努力で乗り越えていった成功話は、なんだか伝記を読むみたいで心躍る。
3社長とも、「どんなに困難でも、他社がやらない分野を目指した」と口をそろえる。トップのチャレンジ精神は
必須条件なのだろう。「景気は自分でつくるもの。不景気を人のせいにしちゃならん」(本多社長)
国内総生産(GDP)が世界3位に転落すると聞いただけで「お先真っ暗」と肩を落とす雰囲気が、日本中に漂っている。
そして、私も含めた中高年たちは「昔は良かった」と思いがち。「坂の上」を目指した明治の志士を見習え、とか、
高度成長期には夢があった、とか。話を聞いていて、それは間違いだと分かる。業績のいい会社は社員に古い規範を
押しつけていないし、昔を振り返るほどヒマではない。新しい時代には新しいスタイルがあるのだ。白木社長は講演の
最後に胸を張った。「苦労が多いと、頭が良くなる」
毎日新聞 2010年12月8日 0時27分