金言:複眼で中国を見る=西川恵
ttp://mainichi.jp/select/opinion/nishikawa/news/20101112ddm003070101000c.html 北京五輪と上海万博。中国の威信を内外に示した2大イベントだったが、運営の仕方は大きく異なる。
「五輪が短距離走だったら、万博はマラソン。17日間の五輪は力で押し切れますが、半年間の万博はそうは
いきません」。上海万博の日本政府代表だった塚本弘氏は振り返って言う。
同氏は選ばれて、上海万博に参加した246の国・国際機関を代表する運営委員会の議長を務めた。万博が
支障なく運ぶよう参加側をとりまとめ、主催国の中国側に要望や注文をつける役目だ。どの万博でも
運営委員会が設けられるが、権威とメンツを重んじ、上意下達が当たり前の中国。対応はどうだったのか。
「万博のオペレーション(運転)とセキュリティー(警備)の折り合いをどうつけるかが課題でした。中国は警備上、
開幕の3週間前から車の会場内入場を禁止すると通告してきました。会場が競技場に限定された五輪なら
それでもいい。しかし万博の広大な敷地の移動に、車がなければ準備が進みません」
問題が起きると威信に傷がつく中国側は「万全の警備が必要」と応じない。しかし参加側の度重なる要望に、
最後は上海市の副市長が出てきて改善を約束した。「中国側の対応能力は徐々に高まっていったと感じます」
開幕前のリハーサルで、押し寄せる群衆にイタリア館のガラスが割れ、対策に金属フェンスが張られた。
また炎天下で長時間入場を待つ人々のため、途中から屋根が張られ、霧を吹き付ける装置がつけられた。
9月には座って待つようにベンチも設けられた。
終盤、閉幕式のリハーサルのため、広い一角が立ち入り禁止となったが、会場を混乱させるとの参加側の申し入れで、
次のリハーサルの時は撤回された。一つ一つは小さなことだが、中国側と参加側の運営委員会でのやり取りの中で
日々改善が進んだ。
>>442 会期も間もなく終わりという運営委員会の時、横に座った上海万博の華君鐸・総代表は「兼听即明」と紙に書いて
塚本氏によこした。広く意見を聞くと明らかになる、との意味だ。これに同氏は「率直対話」と返した。異なる意見や考えに
耳を傾け、受け入れてこそ内実は豊かになり、進歩もある。中国に必要とされていることを、万博は具体的な形で
示したともいえる。
「日本で思い描くように中国が一枚岩なわけではありません。温家宝首相のように多様な意見を入れる必要性を感じている
幹部も少なくない。そうした複眼で中国を見ていく必要があります」。半年間の付き合いで塚本氏が得た思いだ。(専門編集委員)
毎日新聞 2010年11月12日 東京朝刊