ハルヒ「ちょっとキョン!あたしのプリン食べたでしょ!?」
2 :
青菜に塩 ◆AONANIPW0s :2010/10/20(水) 21:46:34.48 ID:cxNrKJIl0 BE:214754235-2BP(4001)
プリンくらいでガタガタ抜かすな!!!!!!!!!!!!!!!1111111
3 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/20(水) 21:47:10.85 ID:difWBcOI0
4 :
◆i1mmP3RsKA :2010/10/20(水) 21:51:03.03 ID:2vhYzPd+O
5 :
◆i1mmP3RsKA :2010/10/20(水) 21:53:20.65 ID:2vhYzPd+O
最近のvipでの連投規制具合が分からないので、どこまでレスできるかは不明ですが…(一応間はおいて投下します)
とりあえずプロローグ26レスは完遂するつもりです。もし途中で投下が止まったならば
それは規制にひっかかったものと思ってください。もちろん、回復できしだい投下はします。
プロローグなので若干内容が意味不明ですが、後の前編からは普通(?)なSSとなっておりますので
そこはご安心ください。では、始めたいと思います。よろしくお願いします。
6 :
涼宮ハルヒの天啓 プロローグ ◆i1mmP3RsKA :2010/10/20(水) 21:57:14.48 ID:2vhYzPd+O
今日は12月23日。
……
まあ、別に改まって言う日でもない。特筆すべきは明日12月24日。
この日付を見て何も思わない輩は、まずいないであろう。
…いないよな?万が一いるとするならば、
俺はそいつに問いたい。『お前は本当に今まで日本で暮らしてきたのか?』と。
時は夕刻。俺は最寄りの店へと寄っていた。いろんな人形やぬいぐるみを手にとり凝視する俺。
「おいおいキョン、まさかお前にそんな少女趣味があったとはなあ…正直失笑もんだぜ!!」
はてはて、特にこいつは影が薄いキャラ設定でもなかったはずだが…俺はこいつの気配に
今の今まで気づかなかった。ここ最近ハルヒの閉鎖空間云々といった騒ぎに巻き込まれず、
温和な日々が続いていたせいだとでもいうのか?すっかり外的要因を感知する能力が衰えていた。
なんたる不覚。
「外的要因??キョン、そりゃあんまりじゃねーか?俺はお前の親友だろ?」
悪友といったほうが正しいような気もするが。とりあえず、ウザいから放置する。
こういうバカにはスルーが一番だと、有史以来相場が決まってる。
「あーあー、さっきのは悪かったって!あれだろ?妹ちゃんにやるクリスマスプレゼント探してたんだろ??」
7 :
涼宮ハルヒの天啓 プロローグ ◆i1mmP3RsKA :2010/10/20(水) 22:01:05.39 ID:2vhYzPd+O
わかってるんじゃねーか。ったく、別に俺がからかわれるのには構わないんだが…
そういうことを鶏が朝一番に鳴くようなレベルの大声で言うなと。もし側に俺の知人がいたら
こいつはどう責任をとるつもりだったんだ?
「だから悪かったって言ってるだろ…マジごめんって。」
まあ、わかればいいさ…謝ってる相手に追い打ちをかけるほど俺は畜生ではない。
「ところで谷口、お前はこんなとこで何やってんだ?」
「単にジュース買いにきたってだけだぜ。」
ジュース程度なら外で自販機がいくらでもあるだろうが。なぜ、いちいちこんなデパートに?
「おいおいキョン、外のこんな暑さをみてそんなこと言うのか?冷房のきいた店に涼みに来たってのも兼ねて、
ついでにジュースを買いにきたってだけだ。別におかしくもなんともねーだろ?」
なるほど、筋は通ってる。
「しっかし、冬至だってんのに夏みたいに暑いとか、
いよいよ地球もオシマイだよな。地球温暖化もくるとこまで来たってわけだ。」
…こればかりは同意しておく。実は、今年は12月に入ってずっとこの調子なのだ。何がって?
もちろん地球気温のことだ。炭素税、クリーン開発メカニズム、国内排出証取引、排出権取引、直接規制による
CO2削減義務、気候変動枠組条約、京都議定書…数えればきりがない。それくらい俺たちは現代社会等で
温暖化対策を強く教わってきたし、各国もそれなりの規模で取り組んできたはずだ。
8 :
涼宮ハルヒの天啓 プロローグ ◆i1mmP3RsKA :2010/10/20(水) 22:05:05.24 ID:2vhYzPd+O
にもかかわらずこのザマである。
もはや、これでは人間の努力の範疇を超えてしまっているではないか。…そもそもである。
人間ごときが地球規模レベルの変革を推進できるという考え自体が…傲慢だったというのであろうか。
…まあしかし、こればかりは俺たち一個人、ましてや一高校生にどうこうできるレベルではない。
つまり、谷口含む俺たち地球人は…。この苦い現実を受け入れ、生きていくしかないということである。
……
しばらくして、ようやく妹へのプレゼントを買うことができた。
用事を済ませた俺は、谷口と一緒にデパートをあとにしたんだが…その直後だったか。
「?」
違和感が襲う。足に力が入らない。
……
なぜ…俺は宙に浮いているんだ?
…??
空に舞ったあと、物体はどうなる?誰もがわかるように、ただ地球の中心に向かって
落下するだけだ。不変の真理である万有引力の法則に基づき、俺は地面へと強く打ちつけられた。
9 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/20(水) 22:08:02.57 ID:yqcG0qQkO
し
10 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/20(水) 22:09:28.13 ID:yqcG0qQkO
え
11 :
涼宮ハルヒの天啓 プロローグ ◆i1mmP3RsKA :2010/10/20(水) 22:09:31.67 ID:2vhYzPd+O
…どれだけ時間が経過したのだろう。俺は目を覚ました。どうやら気を失っていたようだ…証拠に、
いまだに地面に打ち付けた衝撃で頭がグラグラする。打ちどころが悪ければ…まさか死んでたのか俺は。
……
一体何が起こった??わけもわからず、俺は必死にさっきの事象を思い出そうとする。
しかし、それは叶わなかった。思い出すとか以前の問題だった。目の前に広がる光景以外…考えられなかったから。
「…なんだってんだ…?これは…?」
周辺道路に亀裂がはしってたり陥没してるのはなぜだ??さっきまで俺たちがいたデパートが…
跡形もなく崩れ去ってるのはなぜだ??…なぜ、ありえない形で看板に人が突き刺さってる??
あそこで転がっているのは何だ…?!体の一部か?遠くから…煙や火の手があがってんのはなぜだ??
ん
13 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/20(水) 22:10:32.12 ID:yqcG0qQkO
ん
14 :
涼宮ハルヒの天啓 プロローグ ◆i1mmP3RsKA :2010/10/20(水) 22:12:21.74 ID:2vhYzPd+O
視覚で物事を把握した途端に、今度は聴覚が冴えてくる。
「助け…」
?!
「ひ、火を消してくれえええええええええええ!!!!」
「だ、誰か!!」
「ああ…あああ…!!!!!」
「私の子供が…っ!!瓦礫の下敷きに!!!」
「うわああああ痛いよおおおお!!!」
何を騒いでるのだこの人たちは?
「ちょ…おい、ま、待ってくれ…何だこの状況は」
聴覚で物事を把握した途端に、今度は嗅覚が冴えてくる。
「う…!」
異臭に鼻をふさぐ。この臭いは…腐臭である。
一体何の…?
……
にん…げん…?
15 :
涼宮ハルヒの天啓 プロローグ ◆i1mmP3RsKA :2010/10/20(水) 22:15:09.55 ID:2vhYzPd+O
視覚、聴覚、嗅覚が正常に機能して 初めて俺はこの場所で何が起こったのか…それを思い出した。
「こんな地震見たことねえぞ…!?」
そう、さきほどこの地域全域で地震が起こったのだ…それも、考えられないくらいの強い地震が…!!
これまでの経験上、一度も地震に遭ったことがないのでなんとも言い難いが…震度やマグニチュードで言えば
関東大震災や阪神淡路大震災の比ではないのではないか…!??直感でそう思った。
根拠はあった。でなければ、縦型の地震とはいえ、人間が空に舞うなど絶対ありえないだろう…?
……
まさかこんな事態に見舞われようとは、一体誰が予測できる??先程までの俺や谷口はそんなこと微塵も…
?そういえば谷口はどうなったんだ?
俺は辺りを眺める。おかしい、地震があったとき確かに谷口は俺と一緒にいたんだ…
それなら、ヤツは気絶してる俺を叩き起こしたり、惨状を見て発狂したり、取り乱したり…
とにかく、俺に存在感を示すに決まってるんだ…あいつはそんなヤツだ。しかし、その気配はない。
16 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/20(水) 22:16:08.15 ID:omRzMK9aO
自分をハルヒとか言ってるあたり
二重顎のおっちゃんやん
17 :
涼宮ハルヒの天啓 プロローグ ◆i1mmP3RsKA :2010/10/20(水) 22:18:51.97 ID:2vhYzPd+O
認めたくなかった。それが意味するところを、それだけは絶対認めたくなかった。
最悪の状況を回避してくれることをひたすら信じ、俺は必死に辺りを見回した。
ふと、数10メートル先に瓦礫に埋もれている人間を確認できた。
ぴくりとも動かないことから、おそらく死んでいるのだろう。そしてその人間の服に、俺は見覚えがある。
考えが途切れた
「ははっ…嘘だよな…おい、嘘だよな?」
側まで近付いてみて疑念が確信に変わった ケガをしてたっていい、瀕死だっていい、
とにかく生きてさえいりゃよかった 死んでさえいなけりゃよかった
……
「谷口よお…お前だけは殺しても死なねー男だと思ってたのによぉ…」
…ッ!!
「あ…ぁあ…あ、うああああああああああああああああああああああああああああああああああ
ああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!」
その雄たけびが状況ゆえに発狂した奇声だったのか、友人を亡くしたことに対する怒声だったのか、
今にも崩壊しそうな自我を守るための悲鳴だったのか。今の俺には判断のしようがなかった。
というか、どうでもよかった。何もかもがどうでもよかった。
18 :
涼宮ハルヒの天啓 プロローグ ◆i1mmP3RsKA :2010/10/20(水) 22:22:36.84 ID:2vhYzPd+O
……
「はははっ…」
俺は笑っていた。俺がさっきまで一緒にいたであろうヤツに
『外的要因を感知する能力が衰えていた。』と言ったことを思い出していたからだ…っ。
「さすがに…こんな大地震まで感知できるわけねえよ…っ」
皮肉とはこういうことをいうのだろうか。
19 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/20(水) 22:23:58.48 ID:AKUJO4MrO
キョン「たべたよー。ごっそさーん」
20 :
涼宮ハルヒの天啓 プロローグ ◆i1mmP3RsKA :2010/10/20(水) 22:25:04.07 ID:2vhYzPd+O
それからどれだけの時間が経ったのだろうか。相変わらず、目の前には無残な光景が広がっており
悲鳴は絶えない。だが…どういうわけだ?理不尽にも、俺はこの状況に慣れつつあった。
例えば、ずっと暗闇の中で暮らしていれば、微量な光でも辺りを察知できるよう目は慣れてくるものだ。
ずっと大音量でイヤホンから音をたれ流していれば、耳はそれに順応するものだ。
同じことが起こっていた…それも、俺の全感覚を通じて。
落ち着きを取り戻した俺は、ようやく他のことに考えを回せる余裕をもった。次の瞬間、ある人物が脳裏をよぎった。
「…ハルヒ!!」
そうだ、ハルヒは一体どうなったんだ??まさかっ、死んじゃいないよな…??
21 :
涼宮ハルヒの天啓 プロローグ ◆i1mmP3RsKA :2010/10/20(水) 22:27:57.47 ID:2vhYzPd+O
先程の谷口を思い浮かべ、俺は背筋に寒気が走った。すぐさまハルヒのもとにかけつけよう…ッ!!
そう決心しようとした矢先に、大事なことを思い出した。
「…そういや、あいつは無意識のうちに願望を実現できる能力をもってんだよな…。」
ご察知の通り、涼宮ハルヒは自身の願望を実現させる能力を有している…それも無意識のうちに。
であるからして、ハルヒはとりあえずは無事だという結論に至った。人間危険な状況に臨めば誰しも
反射的に防衛反応をとる。ゆえに ハルヒが死ぬなんてことはまずありえないはずだ。
かく言う俺も、地震で宙に投げ出され地面に激突する際、確かに受け身をとっていた。…無意識のうちに。
わずかだが、今思い起こすとそういう記憶がある。
【ハルヒは無事だ】 そう納得した、いや、違う、納得したかったのは、実は他に理由がある。
それは…家族のことが気がかりだったからだ。ハルヒのほうが助かっているであろう根拠はあっても
こっちは、生きている保証などどこにもないからだ…!!
「家に戻ろう…!!」
俺はすくんだ足をたちあがらせ、一目散へと自宅へ走り出した。
……
自宅に着くまで時間はかからなかった。なぜなら、一々遠回りをせず、ほぼ直進してここまで来れたからである。
なぜ直進してこれたのか?障害物が見当たらなかったからである。いや、本来そこにあったはずのものが
瓦解消滅してしまった、という言い方のほうが適切であろう。その障害物とは何か?民家や塀のことである。
22 :
涼宮ハルヒの天啓 プロローグ ◆i1mmP3RsKA :2010/10/20(水) 22:30:38.28 ID:2vhYzPd+O
言わずもがな、住宅街はほぼ全壊していた。第二次世界大戦下で東京大空襲を経験した祖父から、
その様子を聞いたことがあったが…まさにそれがこの状況なのではないか?唯一の相違点は、今回は地震なため
空襲とは違い、そこまで火災があったわけではない。ないが、もはやそういう比較は意味を成さない。
双方とも言葉にできないくらいひどかったのは間違いないんだからな…。
民家はまるでダンプカーに押しつぶされたかのごとく、見事なまでに原型を失っている。
瓦礫の下から人間の手や足が覗いている。悲鳴やわけのわからない奇声があちこちからこだましている。
一歩一歩、歩くごと血を流し横たわってる死体…なれば、考えざるをえない。同じ境遇で生き残ってる俺は…
一体どこまで運がよかったのか…?
地獄絵図
しばらくして…俺は見つけた。
荒廃してて庭だったかどうか識別できない…そんな場所で、俺は倒れてる少女を見つけた。
23 :
涼宮ハルヒの天啓 プロローグ ◆i1mmP3RsKA :2010/10/20(水) 22:33:27.10 ID:2vhYzPd+O
「おい!しっかりしろ!大丈夫か!?」
すぐさま妹のもとにかけよる
「きょ、キョン君…」
凄惨な光景には見慣れていたはずだったが…さすがに、肉親の肢体のあちこちから出血させられてる姿を見て、
平然としていられるはずがない…っ!いや、ある意味平然としていたのかもしれない俺は。あまりのショックに。
「今、止めてやるからな!!」
…血のことだ。
俺はもっていたハンカチやティッシュ、そして次々にちぎった着ていた服を布代わりに、
とにかく俺は妹に応急処置を施した。しかし…あまりに傷が深すぎて…出血が止まらない…ッ
「くそ!!何で止まんねーんだよ!?!?」
自分は無力だと実感する。本当に自分は無力だと実感する。兄のくせに俺は…!
妹のために何もしてやれないのか!?このまま何もしてやれないまま…妹は死んでいくのか!?
24 :
涼宮ハルヒの天啓 プロローグ ◆i1mmP3RsKA :2010/10/20(水) 22:36:09.15 ID:2vhYzPd+O
…そうだ!!ハルヒに!!ハルヒに会えばいい!!ハルヒに会って妹の生存を望ませれば
妹は助かる!!よし、今すぐにハルヒをここに連れてきて
「おにい…ちゃん………」
!!
妹が何かをしゃべろうとしてることに気付いた。
「しゃべるな!!これ以上の出血はシャレになんねーんだぞ!?」
「もう…ながくない…よ。なんかね…さっきから意識が…消えそうだったり…」
「なら、尚更しゃべるんじゃねえ!!死ぬぞ!!」
「だか…ら。最後に…言わ…せて」
妹が最後の力を振り絞って何かを言わんとしていることがわかった。もはやその声はかすれ声そのもので、
読唇術でも使わない限り音声を完璧に把握できない…そう言っても過言ではないほど、事態は深刻なものに
なっていた。俺は全身全霊をもってその言葉に耳を傾けた。決して、決して聞き逃さないように…!
「いま…ま…で」
……
「あり…が…、……………………………」
25 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/20(水) 22:37:55.92 ID:omRzMK9aO
恥ずかしくない?
全国に縋り付いてる様子実況されてんのに
私なら死ぬわ
プライド無いの?理沙と今石亜美には。
26 :
涼宮ハルヒの天啓 プロローグ ◆i1mmP3RsKA :2010/10/20(水) 22:38:42.47 ID:2vhYzPd+O
その後、妹が口を開くことは二度となかった。どうやら、俺のかばんの中に入ってるぬいぐるみは
用無しになっちまったらしい。生きていて、そしていつものように笑顔を見せるお前に渡したかった。
…そういえばお前、最後の最後で俺のこと お兄ちゃんってちゃんと呼んでくれたんだな…はは…なんだかな。
こぼれきれないほどの涙が 目から氾濫する
……
しばらくして、俺は放心状態のまま家をうろついた。そこで俺は…親父とおふくろを発見した。
しかし…すでに息はない。
……
27 :
涼宮ハルヒの天啓 プロローグ ◆i1mmP3RsKA :2010/10/20(水) 22:41:03.92 ID:2vhYzPd+O
追い打ちとはこういうことを言うのか
俺の自我は 崩 壊 し た
ナ ゼ コ ン ナ コ ト ニ ナ ッ タ ?
リピート機能がついた壊れたレコーダーのごとく 延々と脳内から再生される片言
いつまでも、延々と ただその機械は 一定の行動を繰り返すだけだった
28 :
涼宮ハルヒの天啓 プロローグ ◆i1mmP3RsKA :2010/10/20(水) 22:43:40.27 ID:2vhYzPd+O
…しばらくして、その輪廻から俺を解放してくれたのはある声だった。ある声といっても、
そこら中で聞こえてる悲鳴や轟音ではない。不思議なことに、その声は俺の脳内だけで鳴っているようだった。
これが幻聴というやつか?ついに俺も気が狂ってしまったか。まあ、こればかりはもうどうしようもないじゃないか。
これで狂わない人間など、もはやそいつは人間ではない。
しかし、その声がどこかで聞き覚えのあるように思えるのは…どういうわけだ?
『…けて……た……て…!』
何回も聞くうちに、しだいに何を言っているのか…聞き取れるようになっていた。
『助けて!キョン!助けて!!』
…確かにこう聞こえた。
プリン保守
30 :
涼宮ハルヒの天啓 プロローグ ◆i1mmP3RsKA :2010/10/20(水) 22:46:03.85 ID:2vhYzPd+O
……
これは…ハルヒの声…??どういうわけかはわからんが、俺の脳内にこだまするこの声は…
ハルヒのものか!?ハルヒが俺に…助けを求めてるのか!?
例の特別な能力のおかげでハルヒの安否については大丈夫だろうと踏んでいた俺だったが…
まさか、俺に助けを求めるほど事態が窮してたとでもいうのか!?
「くそお!!」
壁に拳を殴りつける。友人が死に、家族も死んだ…その上、ハルヒも死なせるのか…?
「これ以上誰も死なせてたまるか…!」
気がつけば俺は飛び出していた。どこにいるのかすらわからない涼宮ハルヒの行方を追って…
31 :
涼宮ハルヒの天啓 プロローグ ◆i1mmP3RsKA :2010/10/20(水) 22:48:12.91 ID:2vhYzPd+O
いたるところを探し続けた。ハルヒの家、公園、商店街、広場…正しくはその跡を。
いずれの場所にもハルヒは見当たらなかった。一体ハルヒはどこに…!?
っ!!
地面がまだ少し揺れている…余震はまだ収まっちゃいないってのか。とりあえず、この周辺がどうなってるのか
把握する必要がある。かといって、余震があることがわかった今、闇雲に歩き回るのは危険だが…そうだ、
携帯で地震速報を見ればいいわけか…!?あまりのショックの連続で、すっかり携帯電話の存在を
忘却してしまっていた。ついでにこれで…長門にも連絡しておくか…。とりあえず、
あいつなら力になってくれるはずだ!ハルヒにもその後かけよう…!
…?
32 :
涼宮ハルヒの天啓 プロローグ ◆i1mmP3RsKA :2010/10/20(水) 22:50:31.13 ID:2vhYzPd+O
どういうわけだ…??電話もメールも…できない?
特に壊れた様子もない。にもかかわらず 主要機能が総じてシャットアウトしてしまっている…??
くそッ!!これじゃ一体どうしろってんだ!?
……
いかん…落ちつけ…。状況が状況だ。今ハルヒを放って発狂するわけにはいかない…。
「…それならラジオはどうだ?何とかなるんじゃないか?」
俺は側にあった倒壊しきった民家に立ち入り、ラジオを探した。
…ああ、わかってる。非常識極まりない行動だってことは…おまけに、見つかるかどうかもわからない。
だが、今の俺には何か一つでもいいから自分を安心できる材料が欲しかったんだろうな。
「ぁ…」
今思えばそれは必然ともいえる光景だった。誰かが屋根の下敷きとなっている。
生きてる気配は感じられなかった。
……
俺は黙祷を捧げた… 一体何人の人が、この震災で命を落としたのであろうか…?
これだけの地震だ。死傷者数・行方不明者数は過去最悪になっていてもおかしくない…。
33 :
涼宮ハルヒの天啓 プロローグ ◆i1mmP3RsKA :2010/10/20(水) 22:52:44.89 ID:2vhYzPd+O
右往左往しているうちにラジオが見つかった。この状態で見つかったのだから、ほとんど奇跡に近い。
もっとも、それが奇跡だと実感できる精神的余裕は、今の俺にはなかった。
…さっそく電源を入れる。
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜」
しかし ガーガー雑音が鳴るだけで、一切音声は聞き取れなかった。
やりきれない思いが爆発しそうになる。どういうわけかはわからないが、
なぜかラジオまでもが機能しないらしい。…どうして!?どうして機能しない…!!?
……
とにかくダメだとわかった今、自力でハルヒを探す他ない。…しかし、ハルヒはどこにいるというんだ??
落ち着いて考えてみる。
……
俺は賭けにでた。
三日過ぎたらじゃなくて今のVIPは八日なんだよね
&支援
35 :
涼宮ハルヒの天啓 プロローグ ◆i1mmP3RsKA :2010/10/20(水) 22:56:57.57 ID:2vhYzPd+O
「ハルヒ!!」
ようやくハルヒを見つけた…旧校舎近くで。よくよく考えりゃ、ハルヒが一番いそうな場所だからな…。
「キョン…無事だったのね…よかった…。」
「?どうしたハルヒ、大丈夫か??」
異様なくらいハルヒに元気がないのが見てとれる。いや、元気がないとかそういう問題ではない。
体を震わせて何かに脅えている…そんな感じだ。ライオンがシマウマを見て逃げ出すなんてことは
天変地異でも起こりえないことだが、今のハルヒは、まさにそのライオンに置き換えることができる。
……
36 :
涼宮ハルヒの天啓 プロローグ ◆i1mmP3RsKA :2010/10/20(水) 23:00:47.30 ID:2vhYzPd+O
見た限り、ハルヒはケガなど身体的外傷を負っている様子はない。どうやら、顔が青いのは
そのせいではないらしい。…さすが能力様様と言ったところか。とりあえず、ハルヒは無事だ…!
そのことがわかり、俺は安心した。ということは、原因は精神的なものか…?そりゃ、この光景を見れば…
いたるところに生徒の屍が転がっている。
……
幸いなのが、今日が日曜だったということ…、もしこれが平日だったならば…
今俺たちが見ているこの光景は、今よりずっと杜撰だったのであろうか…?
…わざわざ日曜だというのに学校に出向き、先程まで懸命に汗を流していたはずの彼ら。
まさかこれほどの規模の地震に遭うとは…ついさっき生きてる時は想像もしてなかったはずだ…ッ。
俺は…、彼らに静かに…黙祷を捧げた。
最悪の事態
ハルヒが精神を病むのも当然だろう。
しかし、ハルヒの様子がおかしいのは…どうもそれだけが原因には俺には思えなかった。
凄惨な光景のみで具合を悪くしているのだとしたら、俺もそうである。いくら見慣れたといえど、
あんな光景は二度と見たくもないし思い出したくもない。いまだに背筋がゾッとする…
だが、ハルヒは何か俺のそれとは違う。うまく説明できないが…とにかくそんな気がする。
考えてみれば、ハルヒが無意識のうちに願望を実現できるっていうのは事実だ。仮に、この光景のせいで
気分を害しているのだとしたら、ハルヒは無意識のうちに…これを見たくないと思うはず。…ならば、
極論を言えば、ここにある死体ともども消滅させることだってハルヒには…造作もないはずだ。
37 :
涼宮ハルヒの天啓 プロローグ ◆i1mmP3RsKA :2010/10/20(水) 23:03:06.43 ID:2vhYzPd+O
「ハルヒ、お前…本当にどうしたんだ…?」
なるべく刺激しないように、かつ精一杯の優しい口調で、俺はハルヒに語りかけてみた。
「あ…あたしは…、自分自身が怖い…っ」
予想外の返答が返ってきた。 …自分自身??
「ハルヒ、そりゃ一体どういう…」
気付けばハルヒは泣いていた。
「もう…あたし、どうしたらいいか……って、キョン!?」
あまりに不憫すぎるその挙動を見たせいか、気付いたときには俺は、ハルヒを抱きしめていた。
「安心しろ…ハルヒ。何があったって、俺はお前の力になってやるから…な?」
普段の俺ならこんな言動はまずありえない。それくらいに、事態はやばかった。
…何がハルヒをここまで追い詰めているのかはわからない。だが…
とりあえず、今は少しでもこいつを安心させてあげたい…とにかくその一心からでた行動だった。
「キョン…あたし…あたしは……」
?
なんかこのキョンはむかつくな
39 :
涼宮ハルヒの天啓 プロローグ ◆i1mmP3RsKA :2010/10/20(水) 23:06:11.04 ID:2vhYzPd+O
その瞬間だった。俺の視界が真っ暗になったのだ。目をつむってもないのに真っ暗になるとは
一体どういうわけだ?俺が今立ってハルヒを抱きしめてる感覚はあるから、気絶したとか
そういうわけではないらしい。日が暮れて夜になったからか?いや、それもおかしい。
まるで、辺りが黒いカーテンにでも覆われたのではないか?と言っていいくらい…何一つ周りは見えなかった。
確かに、地震で街灯などといった光源体は破損しているかもしれない。しかし、空に星さえ見えないというのは
どう説明すればいいんだ??第一、急に真っ暗になったことを考慮すると…とてもではないが、
単に日が沈んだとかそういう問題でもない。…じゃあ、この状況は一体何だ…?
「キョン…どうして真っ暗に…??」
「……」
ただ確実に言えることは、これが異常事態以外の何物でもない、ということである。
……
まあ、あのとてつもない地震からして、すでに異常事態なわけだが…。
ふと冷静に考えてみる。そもそもあんな地震、いくら日本が地震大国と言えどそうそうあるようなものじゃない。
第一震度からして桁違いだし異常すぎる。それに、小さな地震ならともかく大震災レベルともなれば普通は…
もっと警告なり何だのあってもよかったはずだろ…!?東海大地震や第二次関東大震災のごとくな…!!
もちろん、俺たちの住む地域でこんな地震が起こるなんて噂…聞いたことがない。一回も聞いたことがない…!
それすらなく、俺たちは…突発的にこの一連の大惨事に巻き込まれた。
もしかしてこの暗闇と地震は…何か関係あるのだろうか…?
40 :
涼宮ハルヒの天啓 プロローグ ◆i1mmP3RsKA :2010/10/20(水) 23:08:32.01 ID:2vhYzPd+O
!!
そんなことを考えてる余裕もなくなった。あたりが冷えだした…それも急激に。
わけがわからない。本当、何がどうなってるんだ??地震に暗闇に、
そしてこの極寒…まともな思考の人間なら、今頃発狂していてもおかしくはない。
そうはならないのが、俺がハルヒたちとともに、これまでいろんな修羅場をくぐってきた慣れというもんなのか…?
「これから一体どうなっちゃうんだろう…??」
身震いするハルヒ…。もっとも、この震えは寒さからくるものであって
さっきまでの原因不明の震えとは性質が異なるみたいだが…
ッ!?
いかん、気温の低下に拍車がかからねえ…!普通に氷点下下回ってんじゃねーかこれ?!
いや、もはやそういう次元でもないらしい。なんせ、今にも意識がとびそうなんだからな…ッ!
……
いや、ダメだ…!今ここで倒れたら…ハルヒはどうなるんだ…!!?
……
俺は今まで以上に強く、強くハルヒを抱きしめていた。ただ体を密着させるだけで…
この極寒に勝てるほどの熱を出せるとは、到底思わない。…だが!!今の俺にはそうする他なかった…っ
41 :
涼宮ハルヒの天啓 プロローグ ◆i1mmP3RsKA :2010/10/20(水) 23:11:06.10 ID:2vhYzPd+O
「守ってね……あたしを。」
会話はそこで終了した
いつのまにか 俺は意識を失っていた
暗闇を彷徨っていた
42 :
◆i1mmP3RsKA :2010/10/20(水) 23:14:40.60 ID:2vhYzPd+O
これにてプロローグは終了です。2〜3分間隔での投下なら
なんとか大丈夫そうですね。支援してくれた皆様、本当に感謝します。
>>43 ありがとうございます。
ところで、まだ時間に余裕があるので前編1も続けて投下できるところではありますが…
結構量があるので今日前後には終わらないと思いますが、投下してもOKですか?
いいだろう、支援しよう
46 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/20(水) 23:23:40.13 ID:nuWnKKEm0
あ、それ!
では、投下を続けようと思います。
へいへい
49 :
涼宮ハルヒの天啓 前編1 ◆i1mmP3RsKA :2010/10/20(水) 23:28:15.90 ID:2vhYzPd+O
「…ルヒ…ハ…」
……
「ハルヒ!!」
……
俺は、気がつくと自分の部屋のベッドにいた。
「一体これはどういうことだ…?」
冷静に辺りを見渡してみる。確かにここは俺の部屋だ。
はて、部屋とか以前に俺の家は地震によって倒壊したはずなのだが。
……
着ている服も確認してみる…どうやらこれは私服ではなく寝間着らしい。
携帯も確認してみた。何々、今日は11月29日、時刻は午前7時10分。
「…夢?あれは全部夢…?」
…よくよく考えてりゃ、おかしなことだらけだった気はする。
冬にもかかわらずの酷暑、大地震、暗黒、そして大寒波…まるで世界の終わりを告げるかのごとき夢。
ここまで支離滅裂では、さすがに夢だと考えたほうが合理的なのは誰もが納得するところだろう。
何より、人が死にすぎて…
ほいほい
51 :
涼宮ハルヒの天啓 前編1 ◆i1mmP3RsKA :2010/10/20(水) 23:30:11.57 ID:2vhYzPd+O
……
…死?
「妹…妹は…?!」
俺は思い出してしまった。全身から血を流し、倒れている妹の姿を…!
そして、ついに帰らぬ人となってしまったことを。
考えるよりも先に体が動いていた。気付くと、俺は自分の部屋を出て廊下へと立っていた。
目的はもちろん…妹の安否の確認である。
「あ、キョン君だ!」
支援するのも吝かではない
へいへい
54 :
涼宮ハルヒの天啓 前編1 ◆i1mmP3RsKA :2010/10/20(水) 23:32:20.18 ID:2vhYzPd+O
ふと、後ろから声をかけられた。
「今日は私が起こしに来なくても自分から起きたんだね!偉い偉い!」
…妹である。確かに妹である。
「お前…生きてたんだな…。」
「?キョン君何言ってるの?」
「ああ、すまんすまん、なんでもないぜ。」
「?とりあえず私は先行ってるね。お母さんがもう朝ごはんできたって言ってたよ!」
階段を下りてリビングへと走っていく妹。ったく、家の中で走るなっての。転ぶぞ。
……
「よかった…本当によかった。」
妹の話しぶりからして、どうやら親父もオフクロも健在のようである。
……
当たり前のようで気付かなかったが、家族がいるということがどれほど幸福なことなのか…
今更ながらそれを実感する。真に大切なものは無くして初めて気づくとは…まさにこのことか。
俺は部屋へと戻った。とりあえず、学校へ行くための準備をするためだ。
「しまった…宿題やってくんの忘れた。」
ほむほむ
へむへむ
57 :
涼宮ハルヒの天啓 前編1 ◆i1mmP3RsKA :2010/10/20(水) 23:35:02.98 ID:2vhYzPd+O
さすが、俺である。いつもいつも期待を裏切らない。
……
今から忌まわしき【それ】をやり遂げようと、一瞬考えた俺であったが…
どうやら時間的にそれは不可能のようである。
「学校行ってハルヒか国木田に見させてもらう他ないな…。」
頼るべきは友である。あ、いや、前者が果たして言葉通りの友なのかどうかは承服しかねるが…
しかも冷静に考えてみれば、ハルヒが俺に宿題を見せてくれるなど、とてもではないがありそうにない。
おそらく、『あたしに頼るくらいなら自分でやれ!』の一蹴りでこの会話は終了だろう。
「…そういやハルヒ、随分と消沈してたな…。」
再び夢のことを思い出す俺。おかしなことと言えば、
ハルヒの様子も十二分にそれに該当するものであったからだ。
…俺は回想していた。ハルヒによって、閉鎖空間に呼ばれたあのときを。
ハルヒは新世界を構築する際に俺を閉鎖空間に呼び出した。なぜ俺が呼ばれたのかは古泉曰く、
『あなたが涼宮さんに選ばれた人だからです。』だそうだが。そこで俺が…まあ、あまり
思い出したくはないが…。とにかく、結果的に世界は元に戻り、事なきを得たわけだ。
はむはむ
ひむひむ
60 :
涼宮ハルヒの天啓 前編1 ◆i1mmP3RsKA :2010/10/20(水) 23:37:08.46 ID:2vhYzPd+O
まさか、今回俺が見たあの夢も、実はハルヒの能力に関したものだったのだろうか…?
もしそうであるなら、夢の中でのハルヒの様子がおかしかった理由も説明がつくが…。
しかし、それではどうも俺には腑に落ちない点が多い。仮に、あれがハルヒによって
引き起こされたものだとしよう。ならば、あの世界はまず閉鎖空間のはずである。ご存じの通り、
この空間には本来古泉のような超能力者しか出入りができないはずだが、あの夢の中で
確かに俺は見たのである…この現実世界とほぼ差し支えのない、いや、現実世界そのものと言っても
過言ではないくらいの数の人間を。デパートで買い物をする客、地震で死んでいった住民、
校舎の瓦礫の下敷きとなって死んでいった生徒たち等…。
確かに、超能力者と全く関係のない第三者が閉鎖空間に呼びだされるという稀なケースもあるにはある。
俺が世界改変時ハルヒによって閉鎖空間に呼ばれたあのときのように。しかし、あれはあくまでハルヒに
呼ばれたがゆえの結果。閉鎖空間に一般人が呼び出される場合、まずハルヒ本人がそれを願ったかどうか、
それが最も重要なのである。
しかし、今回の夢に出てきた多くの一般人をハルヒ自ら願って呼び出したとは…俺にはとても思えない。
なぜか?
ハルヒが人を死ぬことを望むはずないからだ。
承知の通り、あの夢の中では多くの人が命を落とした。
あの世界で起こる事象は無意識ながらもハルヒの深層心理と深く結び付いており、
つまりその理屈でいくと、ハルヒは天変地異による人間の大量死を願望として抱いていたことになる。
さむさむ
62 :
涼宮ハルヒの天啓 前編1 ◆i1mmP3RsKA :2010/10/20(水) 23:39:44.70 ID:2vhYzPd+O
しかし、それがありえないことを俺は知っている。ハルヒ自身が自分の周りにいる宇宙人、未来人、超能力者に
気づかないことが何よりの証拠だ。ご察しの通り、これら3者はハルヒの願望によって出現したものであり、
にもかかわらず、ハルヒはそれらの存在を認知していないという矛盾した二重構造を成している。
これは一体どういうことか?ハルヒは願望としてはいてほしいと願っていても、それらが現実に
存在しうるわけがないという、いわゆる常識的かつ理性的な感情を密かに抱いている…
というのが事の真相だ。分かりやすくいえば、ハルヒは【常識人】なのである。
例えば去年の夏、孤島での出来事。ハルヒが何かしらの事件が起こることを熱望していた最中に
起こった殺人事件。結果として古泉ら機関による自作自演劇だったわけだが、つまりはハルヒは、
事件は事件でも人が死ぬといった常軌を逸したものは望んではいなかったというわけである。
さて、いい加減納得してもらえただろうか。つまりハルヒは根本からして破壊願望など
抱くことはありえず、よって今回の事態もハルヒ本人が引き起こした可能性はゼロに近いのである。
……
問題は解決したはずなのに、喉に何かがひっかかったかのようなモヤモヤ感…これは一体何だろう?
……
単なる夢…ハルヒのせいでないのなら、あれは単なる夢だったということになるが、
それにしては妙に感覚が生々しかったのはなぜだろうか?
そもそも夢の中というのは本来痛みを伴わないはずである。漫画やアニメ等で
夢か否かを判断するために頬をつねったりする光景はもはや誰もが知るところであるだろうし、
まあ別に、漫画アニメに限らずともそれが通説であることはまず間違いない。
だが、俺は地震によって体を地面に強打している際 確かに痛みを感じているのである。
そうでなければ…夢の中で数時間にわたって気絶することなどありえない。
しししし
ええええ
65 :
涼宮ハルヒの天啓 前編1 ◆i1mmP3RsKA :2010/10/20(水) 23:42:11.64 ID:2vhYzPd+O
さらに言うべきは、俺が夢の内容を一部始終はっきりと…まるで本当に体験したのではないか?
と言っても差支えないくらい鮮明に覚えているということ。たいてい、夢というのは見ていても
忘れる場合がほとんどだし、仮に覚えていたってそれを事細かに記憶しているケースはまずない。
そして、極めつけはハルヒの尋常ではない様子。
『助けて!』『あたし自身が怖い』『あたしを守って…』等の言動
……
どう客観的に捉えたって、あれは俺に助けを求めていたとしか考えられない。
もしかしたら、ハルヒはそれを伝えるために俺の夢に何らかの干渉を…
いや、さすがにこれは考えすぎか。痛みはともかくとして、この場合は【単なる夢】でも説明がつく話だろうし…。
……
いかん、考えれば考えるほどわけがわからんくなってきた。
もうこの夢に関しては考えるのはよそう、いくら考えたって明確な結論など出やしないさ。
ただ、念のために一応話しとく必要はあるかもな…。
「もしもし、俺だ。」
「何か…用?」
んんんん
67 :
涼宮ハルヒの天啓 前編1 ◆i1mmP3RsKA :2010/10/20(水) 23:44:38.17 ID:2vhYzPd+O
俺は電話をかけた。ありとあらゆる方法でこれまで異常事態解決に尽力してきてくれた…
そう、長門有希に。SOS団員に助けを求めるとなれば、思いつくのはまずこのお方であろう。
「昨日の夜、ハルヒに何かおかしなことはなかったか?」
「…通常の閉鎖空間に限っては昨日は発生していない。」
「通常のって…それはどういうことだ?」
「昨日の夜から深夜にかけてごく小規模な閉鎖空間が発生するのを一度だけ観測した。ただし、
それは通常の閉鎖空間とは異なり、空間形成を司る中核体が脆弱だったため内部組織を維持できず、
発生してわずか2.63秒で消滅した。ただそれだけのこと。」
「そうなのか…でも、小規模でも閉鎖空間ってのは、やっぱハルヒはストレスか何かを貯め込んでるってことか?」
「そのへんについては深く考える必要はない。そもそも昨日の閉鎖空間のレベルではストレス、
いわゆる欲求不満自体があったかどうかすら判別不可。単に涼宮ハルヒが無意識下に引き起こした、
あくまで誤差の範囲内での反応と見なすのが現状では一番。」
…?
「わかりやすく例えるならば、ある人間が喉が渇いたという理由で、
自身の一日における平均水分補給量にプラスしてコップ一杯分、その日は多く水分を摂取したようなもの。」
これは長門にしてはわかりやすい例え…なのか?
「ということはあれか、昨日の閉鎖空間はあってもなくてもどうでもいいくらい、
気にしなくてもいいものだったってことか?」
「端的に言えばそういうこと。」
68 :
涼宮ハルヒの天啓 前編1 ◆i1mmP3RsKA :2010/10/20(水) 23:46:47.34 ID:2vhYzPd+O
なるほど、ならハルヒに何かあったわけじゃなさそうだな。俺の考えすぎか…。
「ありがとう長門!いつもいつもすまないな。」
「別にいい。しかし、なぜこのような質問を?」
「いや、なんでもないんだ。俺の気のせいってやつだな。」
「そう。」
「じゃ、また学校でな!」
「また、学校で。」
そう言って俺は長門との電話を終えた。あの万物万能の長門先生から太鼓判を押されたんだ、
ハルヒのことは特に気にする必要はなかろう。
…まだ時間はあるな。一応閉鎖空間の専門家古泉にも電話しておくとするか。もちろん、長門の言ったことは
信じてるさ。ただ、実際あの空間に出入りするやつが…昨日のあの空間をどう認識したかってのが
気になってるだけで、ようは単に感想を聞きたいだけだ。それだけのために電話をかけるのもアホみたいだが…
まあ相手が古泉だし別にいいだろう。あ、いや、決して古泉をバカにしてるわけではないぞ?たぶん。
……
69 :
涼宮ハルヒの天啓 前編1 ◆i1mmP3RsKA :2010/10/20(水) 23:49:12.64 ID:2vhYzPd+O
「もしもし、俺だ。」
「おやおや、あなたですか。おはようございます。朝っぱらから
僕なんかに電話をかけてくださるとは、一体どういう風の吹きまわしでしょう?」
「いちいち長文句を言うな、電話きるぞ。」
「ははは、すみません。で、どういうご要件で?」
「長門から聞いたんだ。昨日小規模だが閉鎖空間が出たんだってな。」
「その通りです。まあ、現れてから数秒もしないうちに消滅してしまわれたので、
僕たち超能力者が入る余地などありませんでしたけどね。もちろんそんなわけですから、
神人も一切現れておりません。あなたが心配するようなことはないと思いますよ。」
やっぱ古泉からみても、あの閉鎖空間はほとんど害をなすもんじゃなかったんだな。
「そうか。ところであーいう現象は頻繁に起こってたりするのか?」
「いいえ、滅多に起こりませんね。とはいえ、現在の涼宮さんの精神状態には
ほとんど問題はないわけですから、特に考えるべき事態でもないことだけは確かでしょう。」
そうか、それだけ聞けりゃ満足だ。
70 :
涼宮ハルヒの天啓 前編1 ◆i1mmP3RsKA :2010/10/20(水) 23:51:51.25 ID:2vhYzPd+O
「ご丁寧に説明どうもな。じゃ電話きるぞ。」
「お役に立てて光栄です。しかしこのような質問をなさるとは、
何か涼宮さんの異変に心当たりがあるようなことでもお有りですか?」
おお、古泉なかなかお前も鋭いじゃないか。まあ、別に語らずともいいだろう…俺の杞憂で終わりっぽいしな。
「いや、なんでもないんだ。気にしないでくれ。」
「そうですか。それではまた学校で会いましょう。」
「おう、じゃあな。」
電話終了っと。これで悩みはほぼ解消したってわけだ。一件落着だな。とはいえ内容が内容なだけに、
夢の中での凄惨な光景はしばらく忘れられないだろうとは思うが…。そんなことより、
今は目の前にある宿題だ…むしろ、こっちのが死活問題だッ!!早く朝飯食って学校行くとするか。
この段階では俺にはまだ気付きようがなかった。
あの夢が、これから起こる恐ろしい事件の序章でしかなかったということに。
71 :
涼宮ハルヒの天啓 前編1 ◆i1mmP3RsKA :2010/10/20(水) 23:54:27.89 ID:2vhYzPd+O
飯を食い終わり、学校へと向かう俺。
「しっかし…。」
いっつもいっつも登校時に立ちふさがるこのなっがい坂は、いい加減どうにかならないのかね?
今日はまだいい。遅刻を免れるため走っていく日などは、もはやただの死神コースへと成り果てるのだから、
正直たまったものではない。学校側も学校側だ、こんな丘の上に学校を建てるなど
一体何を考えているのだろう?生徒の身にもなってほしいもんだね。切実にそう思う。
「あ、キョン君!おはようございます!」
ふと声をかけられる。この可愛らしいスイートボイスは…もはやあの方しかいないであろう。
「朝比奈さんじゃないですか。おはようございます!」
そう、まごうことなき、我らがSOS団随一のマスコットキャラクター、朝比奈みくるさんである。
72 :
涼宮ハルヒの天啓 前編1 ◆i1mmP3RsKA :2010/10/20(水) 23:56:49.63 ID:2vhYzPd+O
「こんな所で会うなんて奇遇ですね。」
「ふふ、私もちょうど今来たところなの。…どうせだから学校まで一緒に歩いて行きませんか?」
「もちろん構いませんよ。」
いやはや、まさか登校途中に朝比奈さんに会えるとは夢にも思わなかった。さっきまで
坂がどうのこうの愚痴を吐いていた自分がきれいさっぱり消滅してしまっていたのは言うまでもないだろう。
それにしてもラッキーな日である…朝比奈さん効果で、今日も一日なんとか乗り切れそうな自分がいる。
……
そういや昨晩の夢のことをまだ朝比奈さんには伝えてなかったっけ。いや、夢の話に限っては
まだ長門や古泉にも話してはいないか…あくまでハルヒの容態を確認しただけだったなそういえば。
俺が今朝、ハルヒを除くSOS団の中で朝比奈さんにだけ電話をかけなかったのには理由がある。
まず、朝比奈さんには長門や古泉のようにハルヒの様子を確認すべく技術を持ち合わせていない。
よって、ハルヒのことを尋ねたとしてもそれは野暮というものだろう。
まあ、実際は【変に情報を与えて朝比奈さんを混乱させたくない】ってのが
俺の最もなところの理由であるわけだが。いくらあの夢に異変性・特殊性を感じたところで、
所詮客観視すればただの夢にすぎないのである。あくまで夢である。そんな曖昧かつ抽象的不確定情報を
べらべらしゃべってみようなどとは、俺は思わない。特に朝比奈さんのようなタイプなら尚更である…
73 :
涼宮ハルヒの天啓 前編1 ◆i1mmP3RsKA :2010/10/20(水) 23:59:04.75 ID:2vhYzPd+O
状況を把握できずオロオロし、必要以上に心配した挙句、疲弊してしまう彼女の姿を…
俺は容易に想像できる。そういうわけで、俺は朝比奈さんには電話をかけなかった…というわけである。
「キョン君、今日は私いつもとは違うお茶の葉をもってきてるんですよ♪」
「そうなんですか。一体どんな味のお茶なんです?」
「ふふふ、それは秘密です♪放課後つくってあげるからそのときまで楽しみにしていてね。」
「それはそれは、楽しみにしときますとも!」
朝比奈さんのお茶を飲めるというだけでも幸福そのものだというのに、ましてや俺たちSOS団のために
粉骨砕身して新たなお茶を作ってくださるとは、いやはや、もはや感謝しても足りないくらいですよ朝比奈さん。
これでまた、今日一日頑張れそうな俺がいる。
…さっきから朝比奈さんに元気づけてもらってばっかだな俺。
こんなお方に例の夢のような重苦しい話など 本当お門違いというものであろう。
皆も知るように朝比奈さんは未来人なわけであるが、時々そのことを忘れかけてしまう自分がいる。
まあ、仕方ないであろう。未来人にもかかわらず、禁則事項とやらで未来のことは一切話ができないようだし
普通に接していれば、彼女がこの時代の人間ではないなどと… 一体誰がどうやって判別できようか。
未来か…
未来という言葉に何かがひっかかる。俺は何か大事なことを見落としているような…
……
そうだ…俺ははっきりと覚えている。あの惨劇が起こった日は…
12月23日
74 :
涼宮ハルヒの天啓 前編1 ◆i1mmP3RsKA :2010/10/21(木) 00:01:45.10 ID:yAYCgY/OO
夢の中に俺が身を置いていた世界での日付である。そして、あの世界の俺には【自分が高校二年生だ】
という確かな自覚をもっていた。今の俺も同じく二年生である。そして今日は11月28日。
つまりこれはどういうことか?
いや、まあ考えすぎだよな。長門や古泉が異常ないと言ってるんだ、別に俺が憂慮すべき事態でも何でもない。
うん、そうだ、あれはただの夢なんだ。そうに決まってる…!とりあえず俺は、そう強く言い聞かせることにした。
「どうしたのキョン君?何か元気がないみたいだけど…大丈夫?」
おっと、いけない…思ってることが顔に出ちまったか。
まあ、あれだけ深刻に長考してりゃ、そう思われても仕方ないよな。
…ふと思ったんだが。朝比奈さんは未来についての情報をある程度把握しているはずである。
未来人なのだから当然と言えば当然なのであるが。どうする、朝比奈さんに何か聞いてみるか?
仮に何か知っていたところで、『禁則事項です。』と返されるのがオチかもしれないが…
しかし何らかのヒントは得られるかもしれない。俺は当初の理念を貫き、あくまで
朝比奈さんを混乱させることだけはないよう、質問に変化球をつけて尋ねてみた。
「朝比奈さん、突然こんなことを聞くのもあれですが、何か最近変わったことは起きませんでしたか?
例えば、未来のほうから何らかの報告を受けたりとか。」
75 :
涼宮ハルヒの天啓 前編1 ◆i1mmP3RsKA :2010/10/21(木) 00:04:25.06 ID:yAYCgY/OO
ちょっと足を踏み入れすぎた発言だっただろうか。しかし、今の俺にはこの表現が限界である。
「み、未来からですか?」
突然の思わぬ質問に動揺する朝比奈さん。
「いえ、特に何もないですよ♪」
かと思えば明るくお答えなさる朝比奈さん。内容を問うのではなく、あるかないかという類の質問なら
禁則事項とやらにもひっかからないのではないか…?という俺の読みは当たった。
「最近は何々しろみたいな指令もあまり送られてこないから私としては助かってるんですよ。
その分、時間をおいしいお茶を作ったりとか他のことに回せるわけですから♪」
いやー、なんとも幸せそうな顔をしてらっしゃる。これでは、
さっきまで長考していた自分がまるでバカに感じられる。もはや杞憂の一言に尽きるのであった。
さて、では事態がややこしくならないためにも先手を打っておくとするか。
「それを聞けてよかったです。最近の朝比奈さんは特に明るいんで、
きっとそういう面倒な指令とやらもないのかな…と思ってちょっと確認してみたんですよ。」
「あら、そういうわけだったんですね。そんなに私明るく見えますかぁ?」
「ええ、それはもう。」
「もー、キョン君ったら♪」
よし、うまく話をはぐらかすことができた。なぜ俺がこういう質問をしたのかに対して、朝比奈さんの場合は
長門や古泉のように『ああ、そうなんですか。』のごとく簡単には納得してくれそうにないと思ったのだ。
彼女のことだから、心残りになって引きずることもおおいに有り得る。ならば、先手を打って俺からそのワケを
説明したほうが、彼女もすんなり納得してくれると思ったのである。そして、それは見事に成功した。
76 :
涼宮ハルヒの天啓 前編1 ◆i1mmP3RsKA :2010/10/21(木) 00:07:05.97 ID:yAYCgY/OO
…操行しているうちに、俺たちはいつのまにか学校へと着いていた。
これでしばし彼女ともお別れである。なんとも、貴重な時間でしたよ朝比奈さん。
「じゃあ私教室あっちだから、また放課後ねーキョン君!」
「はい、ではまた!」
名残惜しいが、朝比奈さんと別れ教室へと入る俺。そういえば、俺はかばんの中に入っている
忌々しい宿題という名の悪魔を処理しなければならないのであった。早速国木田を探そうとする。
……
「いねーな…。」
もうすぐ朝のHRの時間だというのにあいつはまだ来ていなかった。
優等生なだけあってあいつが遅刻することなど考えられないのだが…。
「よーキョン!なんだ、国木田のやつ探してんのか?あいつなら今日休みだぜ。」
俺は体を硬直させた。
まさかのみくるが黒幕
くにきだー!!
この谷口!
すかたん!
80 :
涼宮ハルヒの天啓 前編1 ◆i1mmP3RsKA :2010/10/21(木) 00:09:42.28 ID:yAYCgY/OO
「ん?どうしたキョン?もしかしてお前も体調悪いのかよ?まあ、こんな季節だし仕方ねーっちゃ仕方ねーけど。」
確かに11月末なだけに気候は寒く、風邪をひきやすい時期というのは間違ってはいないだろう。
ただ、俺がさきほど体を硬直させた理由は…それとは別にある。
「そういうお前は元気そうだな谷口。バカは風邪ひかないってのは本当なのかもな。」
「て、てめー!人が心配してりゃいい気になりやがって!」
妹を今朝見たときも同じセリフを言ったが、また敢えて言わせてもらおう。『生きていてくれて本当によかった』と。
夢の中での谷口の死に様が、鮮明に記憶されているだけに…尚更である。
……
っと、そんな感傷に浸っている場合ではない。例の宿題をなんとかしないといけないんだったな。
いつものように、俺の後ろ席に座ってるやつに声をかける俺。
81 :
涼宮ハルヒの天啓 前編1 ◆i1mmP3RsKA :2010/10/21(木) 00:12:23.42 ID:yAYCgY/OO
「よっハルヒ。おはよ。」
「あ、キョン、おっはよー。相変わらず間抜け面ねー。」
朝っぱらからなんてひどいことを言い出すんだこいつは。まあ、いつものハルヒだし、別に驚くことでもない。
それにしても夢の中で意気消沈してたお前は一体何だったんだろうな。やっぱ単なる夢だったんだな。
もう知ったこっちゃねーや。
「ところでな、ハルヒ…数学の宿題のことなんだが…。」
「へえ〜今日は国木田が休みだからあたしのノートを写させてもらおうって、そういう魂胆なのかしら?」
う…!?まずい、ハルヒ様には全てお見通しってわけか…
「ダメに決まってるでしょ。こういうのは自分でやらないと力つかないってのは、あんたもわかってるでしょ。」
うむ、正論である。涼宮ハルヒにしては珍しくまともなことを言ったではないか。
よしよし…と感心している場合ではない。
「頼むハルヒ!これが今日中に提出だってのは知ってるだろ?
俺の学力じゃどう考えたって間に合いそうにないんだ…頼む!力を貸してくれ!」
俺は必死に嘆願してみた。…まあ、徒労に終わりそうだが。
と・ろ・う!と・ろ・う!
83 :
涼宮ハルヒの天啓 前編1 ◆i1mmP3RsKA :2010/10/21(木) 00:15:09.85 ID:yAYCgY/OO
「そうね…ま、考えてやらないこともないわ。」
マジですかハルヒさん。こりゃ意外な返答だ。
「その代わり、それ相応の条件は飲んでもらうけど。」
……
世間は甘くない…しみじみとそれを痛感する。
「わかった…飲めばいいんだろう。で、その条件とやらは一体何なんだ?」
「それはね…。」
ハルヒの言葉に耳を傾ける俺。
「あたしに曲を作って提供することよ!!」
84 :
涼宮ハルヒの天啓 前編1 ◆i1mmP3RsKA :2010/10/21(木) 00:17:51.37 ID:yAYCgY/OO
ザ・ワールド、そして時は動き出す
…え?
曲?作る?提供?
「というわけで、頼んだわよキョン!!じゃ、これ、あたしの数学のノート。大切に使いなさいよ。」
ハルヒからノートを手渡される俺。これで宿題という不安材料は解決したわけだが…
どうやら、それと引き換えに大変な問題を背負っちまったらしい。俺は。
「ハルヒ…とりあえず説明を要求するぜ。曲作りってどういうことだ??」
「イチイチそんなことも説明しなきゃいけないわけ?団員なら黙ってても
団長の心を察せられるくらいの力量はもつべきよ。」
いや、これはあきらかに何の脈絡もなしに作曲の話をだしてきたお前に問題があるだろう。
もしこの状況でハルヒの心中を見抜けたやつがいたのなら、今すぐ俺のところに来い。
洞察力のスーパーエキスパートとして、俺が称えてやる!
「…仕方ないわね。とはいえ、もうすぐ授業も始まるし話す時間はないわ。1時間目が終わったら話してあげる。」
ハルヒにしては珍しく良心的な回答だな。常識人の俺がきちんと理解・納得できるような説明を
どうかそんときは頼みますぜハルヒさんよ。そう切実に思いながら、俺は宿題に手をつけるのであった。
85 :
涼宮ハルヒの天啓 前編1 ◆i1mmP3RsKA :2010/10/21(木) 00:20:35.01 ID:yAYCgY/OO
さてさて、人間の時間概念というものは随分とまた環境に左右されるものである。TVで延々と
バラエティー番組を観ていたり、はたまたファミレス等で親しい知人と会話をしていたりしたら、気付かない間に
自分の思った以上もの時間が経過していたというのはよくある話だ。人間というのは心理学上、自身が楽しい
と感じている状況においては前述通りの事象が成立する傾向にあるようである。これを逆説的に捉えれば、
つまり自身が嫌だと感じる状況下では、時間の経過は非常に遅く感じてしまうのである。
ま、要は授業が俺には苦痛ってことだ。といっても俺にかかわらず大多数の万人はそう思っているに違いないが。
とりあえず朝の朝比奈さんスマイルを活力にし、俺はこの長々しい時間を乗り越えた。
「さあ、聞かせてもらうぞハルヒ。」
「あんたねえ…そんな急がなくてもあたしは逃げも隠れもしないわよ。」
おいおい、逃走でもされたら 俺はこのモヤモヤとした感情を一日中抱えたまま過ごすことになっちまうぞ。
とりあえず、説明してくれる様子で助かった。何しろ、いきなり『作曲しろ』である。こんな要求を突きつけられ、
作曲の『さ』の字も知らない人間が、一体どうやって平静を装ってられようか?いや、できるわけがないだろう…。
「今年の文化祭、あたしがギターもって歌ってたのは覚えてるわよね?」
覚えてるも何も、忘れられるわけがない。
未だにバニーガール姿のお前が目に焼き付いて離れないぜ。いろんな意味で。
86 :
涼宮ハルヒの天啓 前編1 ◆i1mmP3RsKA :2010/10/21(木) 00:22:59.83 ID:yAYCgY/OO
「その後、あたしはENOZのメンバーから彼女たちの作った曲のデモテープとか
いろいろ聞かせてもらったんだけど…改めて思ったんだけど、彼女たち凄いのよ!
とても高校生が作ったとは思えない出来ばかりだったわ!!」
だろうな。音楽的素養のない俺でも、あのときは凄さを感じずにはいられなかったぜ。言うまでもないが、
この『凄さ』とは、ハルヒや長門が纏っていた変な衣装による視覚的衝動を取り除いた、あくまで
曲そのものの純粋な感想だ。メジャーなロックバンドのだす曲と比べても遜色ない出来だったと思う。
あー、ハルヒの言いたいことがわかってきたような気がする…。
「だからさ、あたし感動して!SOS団もそんなふうにオリジナルな曲を作って演奏できたらな〜と思ったのよ!!」
やっぱりそうか。要はSOS団もバンドを組んでENOZみたく頑張りましょうってことか…まあ、バンド自体は
面白そうだし 別に反対しようとも思わない。長門みたいな高度なテクを求められるのなら、話は別だがな!
「ハルヒよ、大体の概要はわかった。自作曲をやるのは良いとしてだな、
なぜそれを作るのが俺なのか…そこんとこキチンと説明してもらおうか。」
もはや俺の言いたいことはそれだけだ。オリジナルをやるにしても、なぜよりにもよってこの俺が
作らにゃならんのだ??本来なら言いだしっぺのハルヒ、あるいは何でもこなす万能長門さんが
遂行するお仕事であるはずだろうに。まさかあれか、俺がSOS団の中で雑用係だからとかいう
むちゃくちゃな理由じゃねーだろーな?
「だってあんた雑用でしょ。そのくらい頑張ってもらわなきゃ。」
やっぱりそうですか。団長さんよ、あんたはホント期待を裏切らないな。
悪い意味で。できれば、そういう期待ははずれてほしかった…。
87 :
涼宮ハルヒの天啓 前編1 ◆i1mmP3RsKA :2010/10/21(木) 00:25:31.55 ID:yAYCgY/OO
「とは言ったって、別にコード進行から全楽器パートのフレーズまで、みたいな全てを考えてこいって
言ってるんじゃないわ。あんたはボーカルのメロディーライン考えてくるだけでいいの。」
?とりあえず俺の負担は減ったとみていいのだろうか。
「メロディーラインだけ…ってのはどういうことだ?」
「あんた、まさかその意味すらわからないって言うんじゃないんでしょうね!?
そこまでアホキョンだったとは思わなかったわ…心底がっかりね。」
待て待て待て待て、勝手に失望するんじゃない!さすがに意味ぐらいわかるっての!
「そういうことじゃなくてだな、それ以外の作業…例えばお前がさっき言ってた…
コード進行とかいうやつか。それは一体誰がやるんだ?」
「あー、そういうことね。それはあたしがやるから、あんたが出る幕じゃないわ。」
いや、むしろ出なくてホッとしましたよハルヒさん。
……
まあ、こいつがコード進行を担当するっていう理由はなんとなくわかる。ハルヒのことだ、
このSOS団バンドにおいても、ENOZ同様ギターボーカルでコードバッキングに徹するつもりなのだろう。
最もコードが絡む役柄なだけに、本人がそれをやったほうが良いっていうのはあるんだろうな。
「他作業の分担具合はどうなってるんだ?」
「他はそうね、有希はギターフレーズ、みくるちゃんはキーボードフレーズ、
古泉君にはドラムとベースのフレーズを作ってもらうつもりよっ!そうそう、歌詞はあたしが作る予定。」
test
89 :
涼宮ハルヒの天啓 前編1 ◆i1mmP3RsKA :2010/10/21(木) 01:02:10.01 ID:yAYCgY/OO
おお古泉よ、お前は二つも楽器フレーズを作らにゃならんのか。どういうわけかは知らんが、
これも副団長の務めと思ってせいぜい頑張ってくれ。
…ん?待てよ
「今のフレーズ担当を聞いてまさかとは思ったんだが、
誰がどの楽器を担当するかってのはもう決まってたりするのか?」
「あったりまえじゃない!あたしはギタボ、有希はギター、みくるちゃんはキーボード、古泉君はドラム。
…そしてキョン!あんたはベースよ!」
どうやら俺はベースをマスターせにゃならんらしい。
「それはどうやって決めたんだ?」
「イメージよ!」
「……」
まあ、正直ベースでよかったと密かに思ってはいる。少なくともギターだけは絶対嫌だったからな…
こいつが求めてそうな高等テクは長門にしかできそうにないし。ベースならそこまで目立つわけでもないし、
何より俺自身が低音好きな人種だからな。他メンバーの楽器具合にも大体納得だ。
特に長門がギターなのは…もはや誰もが賛同するところであろう。
「最初みくるちゃんにはタンバリンでもやらせようかって思ってたんだけどねー、
実際それするとドラムの音にかき消されちゃうじゃない?同じ打楽器だから役割かぶっちゃうし。」
いや、それ以前の問題だろう…そもそもバンドでタンバリンなんて聞いたことないのだが…
まあ、ハルヒのその判断は適切だろうよ。ギターやベースの横で必死にタンバリンを叩く不憫な朝比奈さんなど
見たくないからな。光景自体には萌えたりするかもしれんが、それとこれとは別問題だ。
90 :
涼宮ハルヒの天啓 前編1 ◆i1mmP3RsKA :2010/10/21(木) 01:05:01.60 ID:yAYCgY/OO
「大体のところはわかった。で、俺はメロディーに専念するわけだが、まずは曲作りの土台ともなる
コードを知る必要があるぜ。長調なのか短調なのか、みたいに曲調がわからなけりゃ作りようがないからな。
というわけで、そこは任せたぞハルヒ。」
「何言ってんの?あんたがまずメロディーを作るのよ!」
何やらハルヒは意味不明なことを言ってきた。
「ちょっと待て。そりゃ一体どういうことだ?」
「だから、あんたのメロディーをもとにあたしがコードを作るってことよ。」
…とりあえず、俺はこの言葉を言わせてもらおう。
「順序が逆じゃないか?」
「つべこべ言わない!とにかく作ってくること!いいわね!?特に期間は設けないけど、
あんたが作らなきゃこっちも作りようがないんだから!なるべく早くお願いね!!」
もうここまで来ると手のつけようがない。わけがわからないが、
とりあえずここは同意しておこう…それが賢明ってもんだ。
さてさて、操行するうちに2時間目が始まってしまった。
とりあえずさっきからのモヤモヤ感が解消したって点でさっきよりは快適な授業を送れそうだ。
まあ、それでも、俺にとって授業が苦痛であることには変わりないわけだが。
91 :
涼宮ハルヒの天啓 前編1 ◆i1mmP3RsKA :2010/10/21(木) 01:07:36.49 ID:yAYCgY/OO
午前の部を経て、時は昼休み。ところで、ここで俺はある深刻なことに気付いたんだが…。
「どうやってメロディー作りゃいいんだ…??」
やり方がわかっていても、そのために必要な設備を俺は持ち合わせてはいないではないか。
ピアノやギター等の楽器で音を鳴らさない限りメロディーが把握できないのは自明であるが、
残念ながらこれらは家にない。つまり実行不可というわけである。
「詰んだな…。」
とりあえずハルヒに話してみるか。もしかしたら何か貸してくれるかもしれん…という淡い期待を抱き、
教室を見渡すが、すでにハルヒの姿は見当たらなかった。もう食堂へ向かったというのか…相変わらず
行動の速い奴だ。とはいえ、別に焦る必要もないだろう。どうせ放課後になれば否応にも例の部室で
ハルヒと顔を合わせにゃならんくなるんだし、そのときにまた事のあらましを聞けばいいだけだ。
ってなわけで、ひとまず落ち着いた俺は用を足しにトイレへと向かった。
……
「おや?こんなところで会うとは奇遇ですね。」
92 :
涼宮ハルヒの天啓 前編1 ◆i1mmP3RsKA :2010/10/21(木) 01:10:33.88 ID:yAYCgY/OO
学校のトイレで他クラスのやつと対面する、この状況の一体どこが奇遇だと言うんだ??
完璧に奇遇の使い方間違ってるぞ。
「それもそうですね、失礼しました。ところでどうされたのです?何か浮かない顔をしてますが。」
どうやら古泉から見て、俺は浮かない顔とやらをしていたらしい。ハルヒの例の命令で、俺は無意識のうちに
若干鬱ってたのか、それとも古泉の洞察力が鋭かったのか?まあそんなことはどうでもいい。
「実はだな…」
俺は事の詳細を簡潔に説明した。
「なるほど、そういうことですか。実はその話については僕も聞き及んではいましたよ。」
何、そうなのか。
「それについてもっと込み合った話をしたいところですが、さすがにここで立ち話はなんですね…。」
確かに、トイレの手洗い場で長話を延々とするわけにもいくまい。
「どうせですし、部室へでも行って話をしませんか?昼ごはんもそこで食べればいいでしょう。
もしかしたら長門さんもいるかもしれませんし、悪い提案ではないと思うのですが。」
長門か…あいつならいろいろ知ってそうだな。というか、あいつが知らないことなんて
ほとんどないような気もするが。とりあえず俺達はトイレを後にし、部室へと向かった。
しえー
んっ!
だが眠い!
でい!
はい!
スレが落ちていなければ、前編1の続きはまた夜9時頃(早ければ夕方にもなるかもしれません)
投下します。余裕があれば朝にもしようと思っています。支援してくれた皆さんありがとうございました!
乙!
100 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/21(木) 01:40:21.60 ID:yAYCgY/OO
保守
101 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/21(木) 01:45:09.44 ID:xVTw6faM0
保守
102 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/21(木) 02:34:15.09 ID:gnO375Pn0
寝るぜ
103 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/21(木) 04:44:57.06 ID:cZfXuQNv0
ほっほ
104 :
涼宮ハルヒの天啓 前編1 ◆i1mmP3RsKA :2010/10/21(木) 05:30:42.65 ID:yAYCgY/OO
「あ、キョン君に古泉君!どうしたんです?」
なんと、朝比奈さんまで部室にいらっしゃった。ちなみに隣には長門が顕在である。
「いえ、ハルヒの思いつきで始まった作曲云々の話でも古泉としようと思って
ここに来たわけですね。朝比奈さんはどうしてここに?」
「私も同じなんです。どうしたらいいかわからずに…とりあえず、長門さんに聞けば何かわかるかなあと思って。」
そりゃそうだ。いきなり曲を作れと言われ取り乱さない人間などどこにもいない。
つくづくSOS団員はハルヒに振り回されてんだなと実感する。
「まあ、とりあえずご飯でも食べながら会話といきませんか?」
古泉が言う。言われなくてもそうするさ。
……
さて、一体何から話せばいいのやら。
「あなたは確かメロディーラインの作成でしたよね?それについて何かわからないことでもお有りですか?」
なんだ、俺の役割もすでに把握してんのか。
105 :
涼宮ハルヒの天啓 前編1 ◆i1mmP3RsKA :2010/10/21(木) 05:32:26.76 ID:yAYCgY/OO
「いや、別にそれ自体には問題ないんだが…作曲の手順というかな、メロディーの後に
ハルヒがそれにコードをつけると言ってたんだが、順序が逆のように思えてな。
コードとかで曲の雰囲気がわからなけりゃ、普通メロディーも作れねーんじゃねえかと思ってな。」
「なるほど、確かにメロディーは曲の中核なだけに、材料もなしにゼロから作り出すというのは
かなり難しい作業ですね。しかし、逆もありですよ。涼宮さんの立場になったとして、
いきなりゼロからコードを作りだすことも難しいとは思いませんか?」
「それはそうなんだろうが…少なくとも前者よりは容易いだろう?コードは基本CDEFGABの
7通りとその派生しかないが、メロディーなんか無限大に作れるじゃねーか…。」
「おっしゃる通りです。コード進行にはパターンが限られてますからね…現に最近の邦楽がその証拠ですよ。
有線やラジオから流れてくる音楽を聴いて、どこかで聴いた覚えがあるようだと錯覚したことはないですか?」
確かに…あるな。もしかして俺が最近の音楽をあまり聴かない理由はそれか?
まあ、単に俺が流行に疎いって可能性もあるが、90年代のJ-POPで満足してる感はあるような気はする。
「あの山下達郎さんや坂本龍一さんですら、そのことについては言及していますからね。
今の曲が過去曲の焼き直しのように感じるのは決して気のせいではないでしょう。」
「おいおい…なら、なおさらメロディーから作り出すってのは理不尽すぎんじゃねーのか?
やっぱこれに関してはハルヒを説得する必要があるように思えるぜ。」
「それが好ましいやり方だとは僕は思いませんね…。」
好ましくないってのはどういうことだ古泉?お前は、俺が苦しむ姿を見たいってか?
「まさか、滅相もないです。そうではなく、もしこれが涼宮さんが望んでいることなのだとしたら、
あなたはそれを叶えてあげなくてはいけないのではないですか?」
…いや、何を当たり前のことを言っとるんだお前は。
ハルヒが俺に命令してる時点で、つまり望んでるってことじゃねーか。
106 :
涼宮ハルヒの天啓 前編1 ◆i1mmP3RsKA :2010/10/21(木) 05:34:31.35 ID:yAYCgY/OO
「そういうことではなく、涼宮さんはあなたが何事にも縛られず、
純粋に感じたままのメロディーを一から作り出してくれることに期待しているのですよ。
簡潔に言えば、涼宮さんはあなたのメロディーをもとにコードや歌詞を付けたいと思っているわけです。」
「俺に期待されてもな…そもそもなぜそれが俺なんだ。」
「まさか、あなたはそんなことも理解していなかったのですか?涼宮さんはあなたのことが…
いいえ、言うのはよしておきましょう。正直あなたがここまで鈍感だったとは思いませんでした。」
「涼宮さんが可哀相です…。」
「…鈍感。」
な、何だ何だ??先程まで二人っきりで会話を交えていた長門や朝比奈さんまでもが
いきなり古泉との会話に割って入ってきたぞ??しかも全員そろって俺を非難ときた。
いや、いくら俺でも言わんとしていることはわかる。わかるが…ハルヒがそういった感情を俺に抱くとは、
正直考えられねーんだけどな…この3人の考えすぎなのではないかと思う。
「落ち着いてくれ3人とも。とりあえず、メロディーから作らにゃならんって状況だけは理解したさ。」
しかしゼロからの出発…か。ハルヒも酷なことを求めるものだ…。
「まあまあ、気を落とさないでください。」
気を落とさないで一体どうしろと言うんだ古泉よ。
「あなたからすれば、【メロディーからコード】の順番は、いつもの涼宮さんのごとく
荒唐無稽な手法に思えるのかもしれませんが、実はそうでもないんですよ。
この作成法はプロの作曲家やアーティストも普通にやっていることなんですから。」
何、そうなのか??
「本当です。というのも、そっちのほうが想像が膨らみやすいという方も世の中にはいるらしく。
つまり、メロディーから作るのかコードから作るのかは本人の資質しだいだということですよ。」
そりゃ驚いた。もっとも、俺がどっちの資質かはわかりようもないが…とりあえず安心はした。
ハルヒの勅令から来る特例的なやり方ではないとわかっただけでも、不安材料が一つ解消したようなもんだ。
「しかし古泉、お前妙に音楽に詳しいな。」
「実は自分、中学時代バンドをしていた経験があるんですよ。そういうわけで、知ってるところもある、
といった感じでしょうか。もっとも、僕の場合は一時的なものでしたので、継続的にライブ活動している
人達からすれば、僕の知識や経験など取るに足らないものでしょうけどね。」
そうだったのか…そりゃ初耳だ。まあ、こいつが自分の過去を語るなど
今までほとんどなかったからな。今度機会あったらいろいろ聞いてみるとしよう。
「つまり、お前はそのときドラムをやっていたというわけだ。」
「おやおや、バンドパートのこともすでに涼宮さんから聞いていたというわけですね。ご明察です。」
「俺はベースみたいなんだが…果たして大丈夫なんだろうか。やったこともいらったこともないんだが。」
「大丈夫ですよ、楽器は慣れですから。今度僕が教えてあげます。」
こいつはベースもわかるのか。万能だな。
「いえいえ、単に【ベースがドラムと同じリズム隊だから】に過ぎませんよ。バンドにおける
この二つの楽器は役割が似てるんです…ゆえに詳しくなるのも必然といったところでしょうか。
リズムは演奏する上での絶対条件ですからね。極論を言えば リズムさえ合っていれば
ギターやキーボードがどうであれ、グダグダには聴こえないというわけです。」
ベースは地味なもんだと思ってたが、結構重要な役割担ってんだな…まあ、よくよく考えてみりゃ
重要じゃない楽器なんてあるはずない…か。そんな楽器は、そもそもバンドポジションとして定着していない
はずだしな。しかしあれか、もしかして楽器初心者は俺だけという構図か?それなら、尚更プレッシャーも
かかるというものだが…。隣にいる女子二人の会話も落ち着いてきたみたいなんで、ちょっと尋ねてみるとする。
「朝比奈さんはキーボードやったことはあるんですか?」
「キーボードはないんですけど、ピアノなら何年か習っていたんですよ。」
朝比奈さんにピアノ…可憐な彼女にはなんとも相応しい楽器だ。
「それなら何を長門に聞いていたんです?弾けるのなら特に問題はないように感じますが。」
「えっとですね…私が言ってるのはそういう技術的な問題じゃなくて機能的な問題なんです。」
機能?キーボードのことか。そういやあれってボタンがたくさんあるよな…
やっぱいろいろと多彩な機能がついているんだろうか。
「ひとえに鍵盤楽器といっても、キーボードはピアノと違ってストリングス、シンセリードみたいな
独特な音を使い分けなきゃいけないの。エフェクトのかけ方だって知らなきゃいけないみたいで…。」
なるほど…キーボードもいろいろと大変のようだ。
「つまり、そのあたりを長門に聞いたり確認していたというわけですね。」
「その通りです♪あと、長門さんに聞いていたのはそれだけじゃないの。
さっき古泉君がキョン君に【ベースとドラムのバンド的役割は似ている】って言ってましたよね?」
ええ、言ってましたね。
「同じように実はキーボードとギターも役割が似ているの。音をリードしていったり
飾り気をつけていくようなところがね。そのへんの調節具合を彼女と話していたの。」
「ギターとキーボードの関係上、どちらかが目立ちすぎると片方の音を殺してしまったりといった
あまり好ましくない事態に発展しますからね。いつ、どちらがメインになるかやサポートに回るかなど、
そのへんの折り合いをつけていたというわけですね。」
「古泉君の言うとおりです。」
なるほど、なかなか的確でわかりやすい説明だったぞ古泉。やっぱ経験者は違うな。
「もっとも、そのへんもまずは曲のメロディーやコードがわからないことには何もできませんから…
曲調によって使う音やメインな楽器も違ってきますからね。というわけで、頑張ってね!キョン君!」
朝比奈さんに頑張れと言われて頑張らない男などまずいるのだろうか?
いたら今すぐ俺のところに連れてこい!俺が一刀両断してやろう!
……
さてさて、ところで俺は何か根本的なことを忘れているような気がするんだが…
そもそも俺は当初ハルヒに何を聞こうとしてたんだっけ…。
そうだ、思い出した。なぜこんな大切なことを今まで忘れていた?
「古泉よ、俺がメロディーを作るってのはさっき言ったが、それをするための楽器や設備を
俺は持ち合わせていないんだ。そのへんハルヒは何か言ってなかったか?」
こればかりはいくらやる気があってもどうしようもない。
「そのへんは心配無用です。ENOZさん達との縁もあってか、軽音楽部の皆さんが楽器や作曲用ソフトを
貸してくれるみたいですよ。ここでいう楽器とは、あなたで言うならベースのことですね。」
マジか、なんて親切な人たちなんだ…ベースに作曲用ソフトか…ありがたく使わせてもらおう。
これでひとまず問題は全て片付いたというわけだ。まさか放課後までに解決できるとは思ってもいなかった…
これもSOS団みんなのおかげだな。感謝するぜ古泉、朝比奈さん、長門。
キリのいいところで昼休み終了を告げるチャイムが聞こえる。弁当も食べ終わった俺たちは
それぞれの教室へと戻り、再び忌々しい午後の授業へと励むのであった。
時は放課後。ようやく今日の授業から解放された俺は、後ろの席に座っている団長様に声をかけた。
「ハルヒ、今日は数学の宿題見せてくれて本当にありがとな。なんとか放課後の提出までに間に合ったぜ。」
「お礼は別にいいわ。それにしたってねえ…あたしだって本当はこんなことしたくなかったのよ。
他人のノートを写すだけなんて、朝にも言ったと思うけど一時しのぎにしかならないのよ!
テストの時とか困るのはあんたなんだからね。次はないと思いなさいよ!」
「お前の言うとおりだ。以後気を付けるさ。」
「その代わり例のバンドのやつ、頑張ってよね!!あたしに合った最高のメロディーを考えてくるのよ!!」
「おいおい、俺はお前じゃないんだからさ…お前に合った最高のメロディーとか言われてもな、
抽象的すぎて把握しかねるぞ。」
「頭を捻りだしてでも考えるのが団員の務めってものでしょう!?
大体、音楽に具体性なんかないわ。あんた、そのへんわかってないみたいね。」
むむむ…確かにこいつの言ってることも一理ありそうだ。
「否定はしない。だがな、ならせめて曲調だけでも言ってはもらえないか。
お前に合った音楽をやりたいのなら、まず俺はお前の感性を問う必要があるぞ。」
「じゃ逆に聞くわ。あんたから見たら、あたしはどんな感じの曲が合ってそうに見えるの?」
そうくるとはな。ここはバカ正直に言っておくか。
「ありえないほど明るい曲だ。」
……
ん、なぜ黙るんだ?何か俺変なことでも言ったか??
「あ、いや、あんたにしては珍しくストレートに言い切ったなあ…って感心してたのよ。
いつも何かと回りくどい言い方をするしね。」
回りくどくて悪かったな。
「それに、さっき音楽に具体性がないって言ってたのはお前だろ?
なら、俺も理屈だの何だのそういうものは要らないと思ったんだよ。」
「ふーん…なかなか飲みこみが早いじゃないの!」
笑顔を輝かせるハルヒ。ようやく俺も臨機応変な対応をとれるまでに成長できたってことか…
いや、慢心はいけないな。これからも気をぬかず頑張るとするか。
「で、結局俺がさっき言った曲調はお前的にどうなんだ?」
「いいんじゃない?あたしそういうの好きだし。にしても、どうしてあんたはそう思ったわけ?」
「単刀直入に言おう。イメージだ。それ以上でもそれ以下でもない。」
本当に単刀直入に言ってしまった。まあ、別にいいだろう。ちょうどお前が俺をイメージという理由で
ベースを割り当てたのと同じ理由さ。理屈じゃないってのはまさにそういうことなんだなと、しみじみ感じる。
「イメージか…あたしってあんたにそこまでプラスに思われてたのね。」
プラス?ああ、そうか、こいつは明るいってのを良い意味でとっているというわけか。どちらかというと、お前の
【明るい】ってのはクレイジーに近いんだが…もっとも、それを言うのはやめておく。大惨事を引き起こしかねん。
「じゃあ、そういう曲調で作ってきてよね!これで話はオシマイね。」
「おいおいちょっと待て。他に何か追加注文とかはないのか?Aメロやサビはこんな感じにしたいとか。」
「そのくらい自分で考えなさい!それに、あたしのイメージ像を捉えられたあんたならきっと作れるわよ!」
おや、ハルヒに太鼓判を押されたようだぞ。その言葉、ありがたく受け取っておくとしますよ団長様。
「あ、いや、一応伝えておくべきことはあったわね。あたしの音域についてよ。」
音域…そうか、すっかり忘れていた。どこまで高い声や低い声が出るかというのは、人間それぞれ
十人十色のはずである。危ないところだった…もし俺がハルヒが歌えないキーの低さや高さで作っていたら、
一体何と言われたことか。特に前者においては注意せねばなるまい。男と女で音域が違うのは当たり前、
ゆえに、男の俺が無自覚のまま作っていたらキーが低音によりがちという事態になりかねない。
「高さの限界は高いD♯、低音は低いB…と言ったところかしら。」
…D♯だと??確かDでも女性にしては高いほうだったはずだが。
それからさらに半音上げとはな…歌手レベルじゃねーか。すげえなお前。
「わかった、把握したぜ。その枠内に収まったメロディーラインを作ってくるとしよう。」
「お願いね!ちなみに、特にこれといった期限は設けないわ。今のところバンドで何かに出れるような
イベントもないしね。でも、早いのに越したことはないから、そのへんは胆に命じときなさいよ!」
へいへい、命じておきますとも団長様。
さてさて、いつもの通り部室へと向かった後、俺たちSOS団員は団長ハルヒによる一連の音楽活動の
布告を正式に受け…かといってそこから何か具体的な活動ができるかというとそうでもなく、とりあえず俺は
古泉とボードゲームを、朝比奈さんは編み物を、長門は読書を、ハルヒはネットサーフィンをという
毎度お馴染みの団活を過ごした後、今日のところは解散となった。
玄関へと着いた俺は自分の下駄箱を開けてみたわけだが、なんと中に手紙が入っているではないか。
…今回は一体誰からのどういう要件なのだろうか。ごく普通の男子高校生なら、下駄箱に手紙という
シチュエーションにトキメキを隠さずにはいられないのであろうが…残念ながら、俺はごく普通の男子高校生
などではない。ハルヒと出会ってからというもの、俺はあまりに非日常的経験をしすぎてしまった。ゆえに、
俺はこういう手紙に対し、一般認識を持ち出すことができない思考回路へと変質してしまっているのである…。
手紙をもらって朝比奈さん大(ここで言う朝比奈さん大とは、未来からやって来た大人朝比奈さんのことである)
に会ったこともあったし、今は亡き朝倉涼子に呼び出され殺されかけたこともあった。
せめて面倒ごとだけにでも巻き込んでほしくはないものである…そう願いながら、俺はその手紙を開封した。
その内容は以下のようなものだった。
『こんにちは!お元気にしていますでしょうか?いきなりこういう突然の手紙をよこしたことをお許しください。
キョン君の身の回りで近いうちに不穏な動きがあります。どうか、未来にはお気をつけください。
では、幸運を祈ってます 朝比奈みくるより』
……
なるほど、差出人は朝比奈さん大のようだ。しかも先ほどの願いも虚しく、
どうやらこれは…俺にとって良い知らせとは言えないようである。
「不穏な動き…ねえ…。」
朝倉の俺への殺人未遂、ハルヒや長門による世界改変、藤原&橘一派による朝比奈みちる誘拐事件、
天涯領域による雪山遭難事件に匹敵するような何かでも…これから起きるということなのだろうか?
そして気になるべき点は、この『未来にはお気をつけください。』の文章である。
『未来』というのが一体何を指しているのか…?
…ええい、考えていても一向にわからない。とりあえず、『未来』というワードを
心の奥底にしまっておくとしよう。何か、事態を打開できる重要なヒントなのかもしれない。
しかし…
「変だな…。」
こういう重大な案件ともなると、手紙よりも本人が出向いて直接口頭で説明してくれたほうが
効率的なのではないか?一応周りを見渡してみるが、人の気配はない。
っ!足音がする…誰か来る…!
……
「部室のカギ返してきたわよー、ってキョン何つったんてんの?」
かと思えばハルヒだった。いかん、少し朝比奈さんの手紙で過敏になりすぎてたな。
「あ、いや、ちょっとぼーっとしてしまってな。」
「もう、しっかりしなさいよね。そんなんじゃ年寄りになっちゃう前に痴呆になっちゃうわよ。」
相変わらずひどい言い草だな…まあ、ハルヒは置いとくとして、この件については長門に相談するのが
一番だろう。もっとも、今日はすでに帰っちまってるようだが。…よく見りゃ古泉と朝比奈さんもいないのな。
「何してんのキョン、帰るわよー。」
考えてもラチがあかないのでハルヒと一緒に帰ることにした。
「ところでキョン、何か最近変なこととか起こったりした?」
一瞬ビクンとなる。変なことと言われさっきの手紙のことを思い出す俺。
まさか、ハルヒに何か心当たりでもあったりするのか…?
「特にねえな…ハルヒは何かあったりしたのか?」
「無いからあんたに聞いてんじゃない!SOS団が発足してからというもの、あたしたちは力の限り
不思議探索に努めてきたわ!けどね、いまだ何かしらそういう大それたものは見つかってないじゃない!?
そんな状況にあたしは憤りさえ感じてるのよ!!こんなに懸命に探してるっていうのに!!」
いつものハルヒだ。心清いほどにいつものハルヒだった。
そんなこんなで奴とも別れ、自宅へと着こうとしていたとき…玄関の前に誰かがいることに気がついた。
あれは…もしかして大人朝比奈さんか??
「あ、キョン君!お久しぶりです!」
やはり朝比奈さん大であった。まあ、あのグラマーすぎる体型に
栗色に輝いた髪を見れば…遠くからでも認識可能というものであろう。
「ど、どうしたんです?こんな場所で?」
「えっと、キョン君に伝えたいことがあって…落ち着いて聞いてください。
これからキョン君は大変なことに巻き込まれていくんですけど…」
嗚呼…やはり、また何かの渦中に俺は置かれてしまうというわけなんですね…
まあ覚悟はしていたんで、別にそこまでのショックはないというものです。あきらめる的な意味で。
「特に藤原くん達の勢力には気を付けてください。それを心得ていれば、きっと未来は良い方向へと
好転するはずです…じゃあ時間がないんでもう行きますね。どうか気をつけてねキョン君!」
「え、あの、ちょっと…!?」
……
颯爽と立ち去っていく朝比奈さん大。もう少し話がしたかったところだが、
何か彼女も急いでいたようだったし…仕方がないというものだろう。それにしても
「あの手紙の『未来』ってのは藤原のことだったんだな…。」
藤原は以前朝比奈みちる誘拐事件に関わっていたメンバーの一人である。
そしてヤツは朝比奈さんと同じ未来人でもある。『未来』ってのが藤原一派の未来人集団だと考えれば、
確かに合点もいく。…なるほど、これで不安は解消したというわけだ。後は藤原たちの動向に気を付ける…
それさえ徹していればOKということだろう。
俺は帰宅し、疲れた体を風呂で癒した後、夕食を食べた。
明日の準備をし終えてベッドに横になった。これで後は、明日に備えて寝るだけである。
…それにしても、何か違和感があるのは気のせいだろうか…?
……
そうだ…あの手紙は一体何だったのだろうか?
朝比奈さん大が直接俺に出向いて『藤原』という特定の個人名を出してきた時点で、
あの手紙に意義はなくなった。言うまでもないが、あの手紙の差出人は朝比奈さん大である。
(執筆的に以前のと字体が似ていたことから、あれを書いたのは朝比奈さん大で間違いないとは思うのだが…)
にもかかわらず、なぜ彼女は手紙で未来に注意を促すよう喚起した後、再び俺に会って
直接伝えるといった二重行為をしてしまっているのか…俺に会うつもりでいたのなら、
そもそもあの手紙自体に意味はなかったはずなのであるが…。
まあ、とりあえずは藤原たちの動向を警戒するに越したことはないだろう。そう結論を下すことにする。
いろんなことを一日中考えすぎてしまっていたせいか、睡魔が予想より早く襲ってきた。
今日はもう寝るとするか…俺は静かに目を閉じた。
まさか、このとき下した結論がどれだけ迂闊で軽率なものだったか
…近いうちに、俺はそれを痛感させられることになる
121 :
◆i1mmP3RsKA :2010/10/21(木) 06:20:58.10 ID:yAYCgY/OO
これにて前編1は終了です。朝に完成できてよかったです…
続きとなる前編2は、寝る前にも書きましたが今日の夜9時頃(早ければ夕方)に
スレが落ちていなければ、再び投下をしようと思ってます。それではまた。
乙だZE
123 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/21(木) 07:29:51.34 ID:vR/ISB9hO
ほ
124 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/21(木) 08:35:44.08 ID:yAYCgY/OO
しゅ
125 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/21(木) 09:01:26.45 ID:MuhyuZSSO
期待してる
126 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/21(木) 09:33:04.08 ID:gnO375Pn0
あいよー
127 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/21(木) 10:27:22.12 ID:qnOcBIXz0
出かける前に保守ル
128 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/21(木) 11:16:36.67 ID:ZNeqS/WWO
いてら
129 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/21(木) 11:20:58.35 ID:stNtUh+6O
久々にプリンスレ見た気がする
130 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/21(木) 11:37:45.34 ID:stNtUh+6O
ご苦労様
131 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/21(木) 12:15:39.89 ID:yAYCgY/OO
合間をぬって保守
132 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/21(木) 12:47:37.47 ID:qnOcBIXz0
じゃあ俺も
ぷっでいんぐ
134 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/21(木) 14:04:38.94 ID:qnOcBIXz0
タイミングがワカランな
135 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/21(木) 14:34:22.51 ID:qnOcBIXz0
また出かける前に
136 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/21(木) 15:14:24.99 ID:NOGH7Gz9O
かゆい
137 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/21(木) 15:26:29.36 ID:ZNeqS/WWO
かいてやろうか?
138 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/21(木) 16:40:46.95 ID:yAYCgY/OO
また保守。誰かがSSを書くのはいいことだと思います。
139 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/21(木) 16:57:24.58 ID:ZNeqS/WWO
それは名案だね!
140 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/21(木) 17:21:50.24 ID:qnOcBIXz0
名案だな!
141 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/21(木) 17:58:10.00 ID:b63g67/i0
おっと
142 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/21(木) 17:58:37.71 ID:Jz5Uh7eoO
いつも一つ屋根の下を思い出す
143 :
◆i1mmP3RsKA :2010/10/21(木) 18:22:19.21 ID:yAYCgY/OO
保守してくれて嬉しかったです、みんなありがとうございます。
この時間帯からなら昨日より多く投下できるかもしれません。
ばいさるの仕組みもわかってきたので、規制になったら00分までSSの誤字脱字確認やPC→携帯への
データ転送等やって時間を潰し、それからまた投下したいと思います。本当はPCからするのが
一番楽なのですが、今PCは書き込めないみたいなので…こういう手法を取らせてもらってます。
それでは前編2、始まります。また支援してくださると嬉しいです。
……
「…ここはどこだ?」
気がつくと、俺は真っ暗な空間へと浮かんでいた。
目の前には地球が広がっている…隣には月らしきものも見える。
「ここは…宇宙?」
あまりに広大すぎる暗黒の大空間に、
青く澄みきった水の惑星を目の当たりに 俺はただ呆然と立ち尽くすだけだった。
!
「地球が燃えている…」
青かった地球がいつのまにか赤く変色していた。
「一体何がどうなってんだよこりゃ…」
自分の置かれている状態もそうだが、全く状況がつかめない。
!?
「今度は透明に…?」
次の瞬間には地球は水色に近い透き通った色へと化していた。まるで氷で覆われたかのごとく…。
……
「…また青に戻ったか。」
再び地球は青色へと戻った。しかし、どうやら何か様子がおかしい。
「陸地が…ない…?」
地球全体が真っ青な球体へと化していた。緑や茶色といった陸地が
ことごとく消滅してしまっているのが見てとれる。陸が海に呑まれてしまったとでもいうのだろうか。
……
今度はどこからか泣き声が聞こえてくる…
「この声どこかで…」
どこか聞いた覚えのある声。
「まさか…ハルヒか!?」
そう叫ぶと、いつのまにか声は聞こえなくなっていた。
「…え?」
ふと地球のほうに目をやって俺は驚愕した。なんと、先程まで見えていた地球が消滅してしまっている…
いや、消滅というのは言い方が悪い。正しくは【見えなくなっている】と言うべきだろう。物を見るためには
言うまでもなく光が必要であるが、その光が四方を見渡しても見当たらないのだ…
光源体である太陽は一体…どこへ行ってしまったというんだ??
再び声が聞こえる。
「…や…い…あた…したく…な…」
その声は、しだいに大きなものへとなっていく。
「いや…い…あた…こ…な…くない…」
……
「嫌…っ!嫌!!あたしは…こんなことしたくない…!!!!」
!?
ッ!!
……
…デジャヴ
いつもと同じ見慣れた俺の部屋。窓から朝日が射していることから、
おそらく今は朝なのであろう。昨日のように時計を確認するまでもない。
いや… 一応確認しておくか。
時刻は7:38
ほら見ろ、やはり朝じゃないか!と得意げに語っている場合でもない。一歩間違えりゃ遅刻じゃねーか畜生。
急いでかばんに教科書やノートをつめる俺。にしても自らの不覚さを嘆かずにはいられない。
なぜ俺は【目覚ましセット】という当たり前にして当然のごとく行為を、昨夜忘れてしまったというのか?
それほどまでに、俺は昨日疲れてたってのか?
準備を終えた俺は廊下で妹と軽く挨拶を済ませた後、
食卓に並んだトーストを口に頬張り、潔く玄関を飛び出した。
……
「はあ…はあ…まったく、いい運動だぜ…。」
今俺がいる位置は、学校に隣接するあの忌々しい長い長い坂のちょうど真下である。つまり、
俺はここまで全速力で走ってきた…というわけだ。携帯で時刻を確認、とりあえず遅刻は免れたようである…。
時間的余裕もあるので歩くとする。この坂を走らねばならないとなった日には自殺ものであろう。
それが防げたというだけでも、俺は今日も力強く生きられるというものである。
…ようやく落ち着いたところで、俺は昨晩の事象を振り返ることができた。
「まさか二日続けておかしな夢を見るとは…。」
その一言に尽きる。支離滅裂かつ荒唐無稽な夢など一体誰が進んで見ようなどと思うのか…
まあ夢など言ってしまえば、全てそういうもんなのかもしれないが。とにもかくも、
まず話をまとめることから始めるとするか…と思ったのだが、そもそも抽象的すぎて
何をどうすればいいのかもわからん。とりあえず…特徴らしきものだけでも挙げていってみるとしよう。
・地球の崩壊
・謎の声
…明確に挙げられるのはこの二つくらいか。なぜ俺があのとき宇宙にいたのかは知らんが…
(単に視点が宇宙だったってだけかもしれんが)地球が燃えたり氷ったりするのを、確かにこの目で見た。
ならば崩壊という表現は別に差し支えないだろう。そして極めつけは、夢が覚める直前に聞こえてきたあの声…
「あの声は…ハルヒだったのか?」
150 :
涼宮ハルヒの天啓 前編2 ◆i1mmP3RsKA :2010/10/21(木) 18:40:08.64 ID:yAYCgY/OO
もしそうなのだとしたら、一昨日みた夢との関連性が見えてくる。一昨日の夢では地震やその他怪奇現象で
町が壊滅。昨日は地球が…規模こそ全く違うが、同じ【崩壊】というワードでくくることができる。そして…
思い出したくはないが、地震により家族が息を引き取った際、放心状態に陥っていた俺の脳内に響いてきた…
ハルヒの声。あのときハルヒは『助けて!』言っていた。昨日の例の声は…確か『こんなことしたくない!』
とかいう内容だったかな。両者に共通することは、俺に向かって何らかのSOSを発信していたということである。
俺は常識人だ。ゆえに町や、ましてや地球荒廃などといった異常にさらに異常をかけたような
とんでも事態が発生するなどとは…微塵も思っていない。ただ、あれらがハルヒの無意識の内に
発動した…俺に対する干渉なのだとしたら?一連の超常現象はあくまで比喩であり、夢の本質自体が
実は、ハルヒが俺に救助信号を発信するだけのただの手段でしかなかった可能性が浮上してくる。
つまり、ハルヒは今現在とてつもない悩みを抱えている…その可能性が非常に高いということである。
その悩みが何なのかは俺には見当もつかないが。というのも、最近のハルヒに変わった様子など
特に見受けられないからだ。万一それに俺が気付かなかったとして、長門や古泉がそれを見逃すとは
考えにくい。だから、なおさらである。
……
とまぁ、ここまでカッコよく主張してみたはいいものの…
一連の夢がハルヒの能力とは無関係の、本当の意味でのただの【夢】だったのだとしたら、
ここまで深く熟考している俺など、傍から見れば滑稽以外の何者でもないだろう。
そうである場合、谷口にすら嘲笑される自信がある。それでもだ、俺自身こんなネガティブな展開など
望んじゃいない。ハルヒが何か多大な悩みを抱えて苦しんでる姿なんて、想像したくもないからな。
151 :
涼宮ハルヒの天啓 前編2 ◆i1mmP3RsKA :2010/10/21(木) 18:42:35.35 ID:yAYCgY/OO
「あら、キョンおっはよー。予鈴ギリギリね。」
教室に着き、俺はいつもと同じく後部座席にて座っておられる団長様に声をかけられた。
「そうみたいだな。遅刻を免れて助かったぜ。」
どうするか…朝っぱらからいきなりハルヒにこんなこと質問すんのもアレかもしれんが、
一応言っておこう。杞憂であれば、それに越したことはないんだからな。
「なあハルヒ。」
「ん?何?」
「お前さ、今何か悩んでることとかあったりするか?」
「…は?」
「言葉通りの意味だ。」
しばらく沈黙が続いた後、その均衡を破ったのはハルヒだった。
「…ぷっ、あっはっはっは!キョン、朝からどうしたの?何か悪い物でも食べた?あはははっ!」
どうやら、団長様は真面目に答える気などさらさらない様子である。
152 :
涼宮ハルヒの天啓 前編2 ◆i1mmP3RsKA :2010/10/21(木) 18:51:53.76 ID:yAYCgY/OO
「んー悩みねーまあ、ないこともないわよっ!!」
おや?一応答えてくれるみたいである。しかし万遍無く浮かべている笑みから察すると、
やはり真面目には答えてくれないらしい。しかも、展開が大体予想できた。
「悩みの種はね…あんたよあんた!テストは赤点スレスレだし今日は遅刻しそうになるわで、
ヒヤヒヤもんもいいとこよ!あんたはもう少しSOS団の団員なんだっていう自覚を持ちなさい!
団長に泥を塗るマネなんて許さないんだからね!」
楽しそうに俺を断罪するハルヒさん。うむ、やはり予想通りだった。相変わらず、俺に言い放題なのであった。
「まあそれは半分冗談としてさ、朝からそんなこと聞くなんて一体どうしたのよ?」
さて…どうしようか。変にはぐらかすと直感が鋭いハルヒのことだ、
ややこしいことになる可能性大。ゆえに、ここは素直に答えておくとしよう。
「いや、お前が俺に助けを求めてる夢を最近見ちまってな。ちょっと気がかりになって聞いてみたってところだぜ。」
「…何それ、気持ち悪い夢ね…。」
同意しておこう。現実的に考えて、お前が俺に助けを求めるなんてことまずありえんからな。
「もしかしてあんた、あたしに従順にさせたいって欲望でもあるんじゃないでしょうね??」
気持ち悪いって、そっちのほうかよ!
「助けを請うってのはつまりその裏返しだし、夢ってのは密かに思ってるようなことが
反映されたりするもんだし…あたしに何か変なことでも考えてたら承知しないわよ!?」
資源開発局
154 :
涼宮ハルヒの天啓 前編2 ◆i1mmP3RsKA :2010/10/21(木) 19:01:23.20 ID:yAYCgY/OO
いやいや、そりゃ考えが飛躍しすぎだろう…ってか願望が夢で具現化なんて、一昨日、昨日の
夢見りゃ絶対ありえんことを、俺は知っている。何が楽しくて家族が死ぬことや地球の滅亡を
望まにゃならんのか…まあ、さすがにこういう夢の内容までハルヒに話そうとは思わないけどな。
…そんなこんなで時は昼休み。俺は谷口&国木田と席を囲って弁当を食っていた。
ハルヒは相変わらず学食のようだ。
「ところで国木田、昨日休んでいたようだが体のほうは大丈夫か?」
「ん?ああ、おかげ様で。」
「さてはお前、勉強のしすぎで熱でも起こしたか?」
谷口が横から言葉をはさむ。
「だったらまだよかったんだけどね…単なる風邪だよ、ほら、もうすぐ12月だってこともあって
冷えてきたじゃない?そのせいかな。二人は風邪ひかないよう気をつけてね。」
「おーおー、まあそのへんは大丈夫だぜ。特にキョンはな。バカは風邪ひかないって言うだろ?ははは!」
谷口よ、どの口がそれを言うんだ…確かに俺は成績も下の中くらいでバカかもしれない。
が、お前はお前で俺より成績悪かった記憶があるんだがなぁ…気のせいか?
155 :
涼宮ハルヒの天啓 前編2 ◆i1mmP3RsKA :2010/10/21(木) 19:04:01.31 ID:yAYCgY/OO
「それを言うなら谷口もバカだから風邪ひくことないね。いや〜二人とも羨ましいよ。」
おお、俺が言わんとしていたことを代わりに国木田が言ってのけてやったぞ。
が、しかし、最後の一言は残念だ国木田…お前も俺のことバカだと思ってたんだな…。
「でもよ〜そうそう例年通り寒くなるわけでもないみたいだぜ?
今朝の天気予報見てたら、来週の中頃は夏みたいな気温になるとかなんとか。」
「…谷口が天気予報を見るなんて珍しいな。」
「うるせーよキョン、俺だってそんくらい見るぜ。」
「どうせ朝食ついでに適当にTVのリモコンいらってたら偶然映ったってところなんでしょ?」
「国木田…お前鋭いな…。」
鋭いも何も、普段のお前の性格や言動を考えりゃ当然の帰結だとは思うがな。
しかし、夏みたいな気温か…そういや夢の中でも確かあのとき暑かった記憶が…
……
「キョン、大丈夫?顔真っ青だけど。」
「おいおい、バカは風邪ひかないって言った手前にこれかよ。」
気付かないうちに、俺は随分と陰鬱そうな顔になってたらしい。
156 :
涼宮ハルヒの天啓 前編2 ◆i1mmP3RsKA :2010/10/21(木) 19:06:29.06 ID:yAYCgY/OO
「あー、いや、何でもないぜ。ちょっと寒気がしただけだ。」
「まさか風邪にでもかかったのかよ?」
「じゃあもうバカは谷口一人になっちゃったね。」
「国木田てめーッ!!」
お前らのコントを眺めてたら、あの悪夢が少しでも薄れたぜ。感謝するぞ谷口、国木田。
あんな未来…俺は絶対信じねーぞ…。
操行している間に放課後。またいつものごとく部室へと向かう俺。
「お、長門、お前だけか。」
「そう。」
俺が定着席に座ると、何かのCD-ROMをもってこっちにやってくる長門。
「これがSinger Song Writer…軽音楽部から借りてきた作曲用ソフト。
パソコンにインストールすれば即行使える。そして、これが説明書。」
「ん?ああ、これが昨日古泉が言ってたやつか!サンキュー、長門!」
157 :
涼宮ハルヒの天啓 前編2 ◆i1mmP3RsKA :2010/10/21(木) 19:08:37.80 ID:yAYCgY/OO
早速パソコンを立ち上げてインストールする俺。
…部室に、団員それぞれにパソコンが宛てがわれていることには深く感謝せねばなるまい。
これもハルヒがコンピ研から強奪だの従属命令などといった暴虐の限りを尽くしたおかげか。
コンピ研の皆さんにはもはや乙としか言いようがない…ありがたく、今日もパソコンを使わせていただきますよ。
インストールが完了したあたりで古泉と朝比奈さんが部屋へと入ってきた。
と、よく見たら二人とも楽器を担いでいるではないか。おそらく昨日言っていたように
軽音楽部から借りたものなのだろう。来るのが遅かったのはこのせいだったんだな。
「って、大丈夫か古泉?」
「いえいえ、これくらいどうってことないですよ。」
キーボード1台のみの朝比奈さんはともかく、
古泉はあろうこともギター2台に加え、ベース1台の計3つも担いでいるではないか。
「わ、私古泉君を手伝おうと思ったんですけど…。」
「朝比奈さんはキーボードだけで十分すぎるくらいですよ。僕は好きでこれらを担いでいるんですから。」
相変わらずのさわやかフェイスで涼しく答える古泉。なるほど、女の子に負担を負わせたくないというヤツらしい
ジェントルマン精神だが、俺がお前の立場でも間違いなくそうしていたであろう。何しろ朝比奈さんだからな。
158 :
涼宮ハルヒの天啓 前編2 ◆i1mmP3RsKA :2010/10/21(木) 19:10:43.50 ID:yAYCgY/OO
「そうだ、良い機会だ。古泉よ、ベースの弾き方俺に教えてくれないか?」
「お安い御用ですよ。では早速始めてみるとしましょう。」
「じゃあ私もキーボードのいろんな機能を確認しとくとしまーす♪」
「私も…ギターをいらっておく。」
「長門はギター弾けるから別にその必要もないんじゃないか?」
「単純にギターに興味がある…ただそれだけ。」
長門に読書以外に関心のもてるものが現れるとはな…。文化祭にて、突発でいきなりギター引っ提げて
ステージ上にハルヒたちが現れたときは何事かと思ったが、今ではそのことがこうやってSOS団みんなで
バンドを楽しんだり長門の人間的嗜好の開拓といったことに繋がってる…こればかりはハルヒには
感謝しないといけねーかもな。あのときのハルヒの飛び入り参加は、長い目で見れば英断だったわけだ。
「なるほど、左から右へ1フレットずつ移るにつれて音が半音ずつ上がっていくのか。」
「その通りです。ちなみに手前の太い4弦から順に開放弦の状態だと
E、A、D、Gの音が鳴りますよ。ミ、ラ、レ、ソのことですね。」
「開放弦ってのはどういう意味だ?」
「左手で何も弦を押さえずに弾く状態のことですよ。」
「おー、了解したぜ。」
「慣れたらTAB譜を見て弾くのもいかがでしょうか。
そっちのほうが、フレット番号が明記されていて弾くのには楽だと思いますよ。」
「TAB譜って何だ?」
「それはですね…」
ピン!
ん?何だ??長門のほうから何やら音が聞こえたぞ。
159 :
涼宮ハルヒの天啓 前編2 ◆i1mmP3RsKA :2010/10/21(木) 19:13:27.54 ID:yAYCgY/OO
「どうしたんだ長門?」
「ギターにチョーキングをかけていたら弦が切れた。ただそれだけの話。」
…その弦、まだ新しいやつじゃなかったか?一体どんなチョーキングをかけてたんだ長門??
「おやおや、しかもこれは一番細い1弦ですね。これでは切れてしまっても仕方ありません。」
「やりすぎた。次からは自重する。」
…仕方ない…のか?
まあ、しかし そんな長門が楽しそうに見えるのは
決して気のせいではないはずだ。良い趣味を見つけられてよかったな長門。
「な、長門さ〜ん、助けてくださ〜い!」
「何かあったの?」
「いくら鍵盤押してもキーボードから音が出ないんです…電源は入ってるはずなのにどうしてなんでしょうか?」
「これはシンセサイザーの部類。よって単体では鳴らない。
シールドでアンプに繋いで初めて、アンプから音が鳴る仕組みになっている。」
「あ、これアンプからじゃないと音出ないんですね…勉強になりました!ピアノから入った私には
そういうの疎くて…あ、でも今ここにはキーボのアンプがないです…今日はあきらめるしかないみたいですね…。」
「その必要もない。そこにあるベースアンプでも代用は可能。」
「本当ですか!?ありがとうございます長門さん!」
「礼ならいい。」
「キョン君、ベースのアンプ貸してください!お願いします!」
「どうぞどうぞ、使っていただいて結構ですよ。今日はベースの基本技術を学ぶだけでアンプは使いませんからね。」
160 :
涼宮ハルヒの天啓 前編2 ◆i1mmP3RsKA :2010/10/21(木) 19:15:53.10 ID:yAYCgY/OO
そんな感じで、俺たちは有意義な会話をしていた。いつもは古泉とボードゲームだのカードゲームだので
時間を費やしていた俺であったが…こういう時間もなかなか楽しいじゃないか。一昨日、昨日の悪夢のことを
一時的にでも忘れられるという意味でも、尚更貴重な時間である。特に、昼休みに谷口から例の天気予報の話を
聞いてからというもの、放課後までずっとそれを引きずっていた俺には…な。もちろん、今でもそんな未来は
信じちゃいないさ。ただ、一つでもそういった判断材料があると不安になる…それが人間というものであろう。
本来なら放課後にでもこれら夢の一部始終について長門や古泉に相談しようと思ってはいたのだが、
正直今のこの談笑している空気を壊したくはなかったし、何よりハルヒ本人が部室に顕在だから話せなかった
ってのが一番の理由だな。本人の目の前で能力云々語るのは言わずもがな、禁句である。
…いや、待て。
今気がついた。そういえば、ハルヒはいまだ部室には来ていないではないか。
いつものあいつなら…とっくに来ていてもおかしくないはずだが。 ←
「おや、どうされたんです。涼宮さんのことが気がかりですか?」
「いや、気がかりってわけでもないんだが…やけに来るのが遅いなと思ってな。」
「掃除当番にでもなってるんじゃないですか?」
良い指摘ですね朝比奈さん。が、それにしても遅いような気がしますが…。
「!」
突然立ち上がる長門。
「涼宮ハルヒが…倒れた。」
161 :
涼宮ハルヒの天啓 前編2 ◆i1mmP3RsKA :2010/10/21(木) 19:19:56.38 ID:yAYCgY/OO
…俺はベッドで横たわっているハルヒを見つめていた。
「先生、ハルヒの具合はどうなんです!?」
「大丈夫、大事には至ってないわ。おそらく軽い貧血ね。」
「そう…ですか。」
「今日のところは安静にしておけば大丈夫よ。幸い明日は土曜日だから、
それでも気分が治らないようなら、病院に行って診てもらえばいいと思うわ。」
事なきを得たようで、ひとまず俺は安堵の表情を浮かべた。
162 :
涼宮ハルヒの天啓 前編2 ◆i1mmP3RsKA :2010/10/21(木) 19:23:08.50 ID:yAYCgY/OO
------------------------------------------------------------------------------
「倒れたって…どういうことだ長門!?」
「涼宮ハルヒの表層意識が、たった今消滅した。」
…??意識が消滅?何を言っているんだ??
「原因は不明。今それを解析中。」
「長門さん!涼宮さんは今どこにいるんですか!?」
「旧校舎の玄関口からすぐ入ったところの廊下。おそらく部室へ向かう途中に倒れたものだとみえる。」
「キョン君、何をボサっとしてるんですか!?早くそこへ行ってあげてください!!」
突然の事態に状況が把握できずうろたえていたのであろう俺に、怒鳴りつける古泉と朝比奈さん。
「お…おう…!お前らはどうすんだ!?」
「長門さんが解析に手間暇かけている時点でこれは非常事態に他なりませんよ。
身体機能における単なる物理的損傷ではない…そういうことですよね長門さん??」
「そう。」
「であるからして、我々は我々でできることをします。原因の調査および機関への連絡その他をね。」
「今、涼宮さんの隣にはキョン君がいてあげるべきです!」
考えるよりも先に体が動いたのか、気付くと俺は廊下へと跳び出していた。
もちろん、ハルヒのもとへとかけつけるために。
正直、いまだに俺は混乱していた。そりゃそうだろう?ついさっきまでいつものごとく
ピンピンしていたハルヒが…意識を失う?倒れる?一体何をどうしたらそんな展開になるってんだ??
説明できるやつがいるなら今すぐ俺の所に来い。
しえんえん
164 :
涼宮ハルヒの天啓 前編2 ◆i1mmP3RsKA :2010/10/21(木) 19:39:40.24 ID:yAYCgY/OO
しかし、自分にだって今すべきことはわかってる。この際、原因などどうでもいい…
ただ一つ言えることは、一刻も早くハルヒの容態を確かめ、そして救ってやることである。
……
ハルヒを見つけるのにそう時間はかからなかった。案の定、長門の指定位置にて
ハルヒはぐったりとした様子で壁に背を向けた状態でもたれかかっていた。
とりあえず最悪の事態は回避できたようだ。意識を失うタイミングにもよるが、頭から地面に激突した際には
最悪、脳震盪に陥る可能性だってある。しかし、このハルヒの体勢から察するに、どうやらハルヒは徐々に
薄れてゆく意識の中、反射的に頭だけは守ろうとしたのであろう…壁にもたれかかっているのがその証拠である。
例えば街中で運悪く出くわした不良に背負い投げでもされたとしよう。柔道に精通している者ならば、
とっさに受け身をとろうとするはずである。野球にてピッチャー返しをしようものなら、投手は瞬間の中で
球をキャッチしようとする動きに出るはずである。
今のハルヒにも同じことが当てはまる。スポーツ万能&運動神経抜群の涼宮ハルヒだからこそ、
成し得た芸当と言えるかもしれん。正直、俺がハルヒの立場だとどうなっていたかわからない。
ハルヒの顔に手を近付ける俺。どうやら息はしているようだ。俺の動作に一切の反応を見せないことから、
どうやら本当に意識を失ってしまっているようである。見方によっては眠っているようにも見えるが…
とにかく、俺はハルヒを背負い、急いで保健室へと駆け込んだ。
------------------------------------------------------------------------------
そして話の冒頭へと戻るわけである。
165 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/21(木) 19:54:15.92 ID:mZMgJMwXO
おもひろい
166 :
涼宮ハルヒの天啓 前編2 ◆i1mmP3RsKA :2010/10/21(木) 20:01:14.60 ID:yAYCgY/OO
…しかし保健の先生には悪いが、俺にはハルヒの倒れた原因が単なる貧血には思えない。
元気のかたまりとも言えるハルヒに貧血など、不似合いにもほどがある。おそらく、それだけは
天地がひっくり返っても起こりえない事態のはずだ。何より、長門や古泉の尋常ではない焦りから判断しても、
単なる生理現象でないことだけは確かだろう。とにかく一刻も早いハルヒの回復を…俺は待ち望んでいた。
「……ん…」
…意識を取り戻したようである。
「…ハルヒ?!大丈夫か??」
「あれ、キョン…何でこんなとこに?…ってか何であたし保健室にいるわけ…?」
「お前が旧校舎の廊下で倒れているところを、俺がここまで運んできてやったんだ。」
「うそ…?そういえば手や足に力が入らないわ…。倒れたってのは本当…みたいね。
無様な姿をあんたに見せちゃったわね…。」
「どうってことねーよ。お前が無事で何よりだ。」
「…とりあえず、運んだってのが本当なのなら、一応礼は言っとくわ。ありがと…しかし困ったわね。
家までどうやって帰ろうかしら…。」
「それについては心配およびませんよ。」
うお?!いつのまにか背後に長門に古泉、朝比奈さんが立っているではないか。
もう調査とやらを済ませてきたのであろうか。
「タクシーを呼んできてます。いつでも発進できる用意はできてますよ。」
167 :
涼宮ハルヒの天啓 前編2 ◆i1mmP3RsKA :2010/10/21(木) 20:04:10.99 ID:yAYCgY/OO
もうそんな手配まで済ましていたのか…相変わらず対応が速くて助かるぜ古泉。
「古泉君ありがとう。みんなには迷惑かけちゃったわね…。」
「そんなことどうでもいいんですよう!涼宮さんが無事でいられただけでも私嬉しいです…。」
「みくるちゃん…心配してくれてありがと。でも、もうあたし平気だから!ほらこの通り!」
潔くベッドからとび降り、仁王立ちしてみせるハルヒ。っておい、いきなりそんなことして大丈夫かよ??
「ハルヒ、お前が元気だってことはわかったから、とりあえず
今日は無理はするな?俺がタクシーのとこまで背負っていってやるからさ。」
「まあ、あんたがそこまで言うなら仕方ないけど。」
渋々俺の背中にもたれる団長様。
……
タクシーには俺とハルヒの二人が同乗した。本当は長門と古泉、朝比奈さんも
付き添いたかったらしいが、あいにくタクシーにはスペースというものが限られている。
一旦古泉たちとは別れ、俺はハルヒを家まで送っていくのであった。
「しかしお前が倒れたというからびっくりしたぞ俺は。一体何があったんだ?」
「それはあたしが知りたいくらいよ!気付いたら意識がとんでたんだし…。」
「最近何か無理でもしてたんじゃないか?そのせいで一気に疲れがドバーッときたとか。」
「特に、何か無理をした覚えもないわ。」
「じゃあ精神的なものか?ストレスとかさ。」
「何に対してのよ?」
「いや…俺に聞かれてもな…。」
168 :
涼宮ハルヒの天啓 前編2 ◆i1mmP3RsKA :2010/10/21(木) 20:06:24.31 ID:yAYCgY/OO
結局そんなこんなではっきりとした原因はつかめないまま、俺たちはハルヒ宅へと着いた。
「今日はゆっくり休めよな。なんせ明日は土曜だ。昼まで寝てたっていいんだぜ?」
「あんたねえ…あたしをバカにしてんの?ま、いいわ。とりあえず、今日はどーも。」
団長様が一日に二度も俺に礼を言うなんて、珍しいこともあるもんだな。
ハルヒと別れを済ませたあたりで、ちょうど携帯から着信音が鳴る。古泉からだ。
「もしもし、俺だ。」
「古泉です。涼宮さんは無事家まで戻られましたか?」
「おお、そりゃ元気な様子でな。」
「それはよかったです。ところで、涼宮さんが今日突如として昏睡状態に陥った原因についてなんですが…。」
息をのむ俺。
「長門さんとも話したんですが…正直に申し上げましょう。これは一言二言で伝えられる代物ではありません。」
…どうやら予想以上に深い事情がありそうな様子である。
「明日何か用事はあったりしますか?」
「用事?特にないぞ。」
「それは助かります。突然ですが…今日の夜11時に駅前近くのファミレスに来てほしいと言われたらどうします?」
「つまり、朝まで長話できそうなとこに集まろうってことだろ?全然構わないぜ。」
「ご明察です。それに加え、こういった場所だと食事も好きなときに注文できたりしますから、
聞き疲れを起こしたりしたときに、何かと都合がいいかと思いまして。」
なるほど…どうやら相当長い話になりそうである。それにしても食事か。なかなか用意周到じゃないか。
169 :
涼宮ハルヒの天啓 前編2 ◆i1mmP3RsKA :2010/10/21(木) 20:08:07.66 ID:yAYCgY/OO
「だがな、なぜ11時なんだ?今6時だし、8時集合にしたっていいようなもんだが。」
「確かにその通りですね。しかし、もう少しだけ我々に時間をくれませんか?
まだ原因の全てを把握できたわけではないのですよ。」
何、そうなのか。
「いえ、今のは表現が適切ではないですね。あくまでこれは僕自身の問題です。」
?どういうことだ?
「今回の原因について、僕はかつてないほどの膨大な情報の処理や解釈に追われ…
弱音を吐こうなどとは思ってはいないのですが…正直、今僕はパニックに陥っている
と言っても差支えないかもしれません。それほどまでに窮した事態なんですよ…。」
「な、何だ??その原因とやらがそこまで震撼させるような内容だったってのか??」
あの古泉が壊れかかってるんだ、おそらく話とやらは想像を絶するレベルなんだろう。
それを改めて認識したせいか、しだいに話を聞くのが怖くなってきた自分がいる。
「ですからその処理および解釈にもう少し時間がかかるということです。
そのへんはどうか、ご察しのほどをお願いします…。しかしですね、僕はこれに立ち向かいます。
立ち向かわずしてどうやって涼宮さんを救えますか。」
170 :
涼宮ハルヒの天啓 前編2 ◆i1mmP3RsKA :2010/10/21(木) 20:10:32.65 ID:yAYCgY/OO
そうだ…これに目を背けたら、ハルヒは一体どうなるんだ?今日はあの程度で済んだが、もしかしたら次は
こうはいかない可能性だってある。最悪の事態も考えられる。なら、俺も覚悟して立ち向かおうじゃないか。
それがハルヒを助けることに繋がるのならば…俺はそのための努力を惜しまない。
「長門さんと朝比奈さんにも連絡はつけています。では、夜11時にまた会うといたしましょう。」
「おう、またな。」
…まだ集合の時刻まで時間はある。
それまで家で仮眠でもとっておくとするか。話とやらは朝までかかるのだろうし。
……
家に着いた俺は、とりあえず晩飯を食い、部屋に向かった後ベッドに横になった。タイマーは…念のために
10時半にセットしておく。寝過ごしたりでもしてしまうようなら、それこそ打ち首にされてもおかしくない。
そう例えられるくらい、今後を左右する重要な会議になるはずだ。
「少し眠るだけ…だ。さすがにまたあんな夢は見ねえよな…?」
内心不安だったが、しかしこればかりは気にしてもどうしようもない。
とりあえず、俺は目を閉じ、寝ることに専念した。
171 :
涼宮ハルヒの天啓 前編2 ◆i1mmP3RsKA :2010/10/21(木) 20:12:54.12 ID:yAYCgY/OO
音が鳴っている…
俺はアラームを消した。
10時半…どうやらちゃんと起きられたようである。まだ少し眠たいが、そんなことを言ってる場合ではない。
さて、親に何と言うかだが…『友達の家で寝泊まりする』とでも言っとけば、まあOKだろう。
俺はコートを手に取り、部屋から出ようとした。そのときだった。
「ようやくお目覚めってわけだ。」
ふと背後から声が聞こえた。はて、これは幻聴か何かであろうか?当たり前だが、この時間帯俺の部屋には
俺一人しかいない。妹が勝手に部屋に侵入した?それはない。なぜならその声は男のものだったからだ。
しかもどこかで聞き覚えがある…
172 :
涼宮ハルヒの天啓 前編2 ◆i1mmP3RsKA :2010/10/21(木) 20:15:47.76 ID:yAYCgY/OO
俺は後ろを振り返った。
「てめえは…!」
予想外の人物に俺は驚愕した。いや、俺が忘れていただけで、こいつと再び会うことは
必然だったのかもしれない。とっさに拳に力が入り、臨戦態勢に入る俺。
「おいおい、そんなに身構えなくったっていいだろう。別に俺は、お前に危害を加えようなどとは思っちゃいない。」
どの口がそれを言うんだ。俺はお前らのしでかしたことを忘れたわけじゃねえぞ。
「誘拐の件についてはすでに謝っただろう?…まあ、それはいい。
今日はお前に言いたいことがあってここに来た。」
朝比奈さん大の言葉を思い出す俺…
『藤原くん達の勢力には気を付けてください。』
…藤原…てめえ、一体何企んでやがる?
173 :
涼宮ハルヒの天啓 前編2 ◆i1mmP3RsKA :2010/10/21(木) 20:18:14.22 ID:yAYCgY/OO
「差し金は誰だ?何の目的でココに来た??」
「…勘違いしてるぜお前。確かに、この時代への時間移動命令については上からの指示だが、
お前に会いにきたことに関しては、単なる俺の独断だ。」
「独断だと?そこまでしてお前は俺に何か言いたいってわけか。が、生憎様だな。どうせ俺に巧みな言葉をかけて
騙そうって魂胆なんだろうが、そうはいかねえ。朝比奈さんから、すでにそれに関しては忠告を受けてある。」
「何、朝比奈だと!?」
しまった、つい朝比奈さんの名前を出してしまった…まあ、もともと朝比奈さん大は藤原たちの勢力とは
敵対関係だったから、これも今更か。別に危惧するような情報流失でもない…と、とりあえず俺は信じたい。
「まさか…昨日の異空間からの転移は…ふ、まさか現行世界に直々干渉してくるとは。」
「おい、何ぶつぶつ言ってんだ?」
「いや、とりあえずお前の話を聞いて俺は理解したよ。おそらく、俺がお前に伝える予定内容を聞かせたところで、
お前はそれに従わないであろうことにはな。やはり、俺らだけで何とかする問題だったか。」
「聞くだけ聞いてやる。一体何を伝えるつもりだったんだ?」
「『朝比奈みくるには気をつけろ』端折って言うならそういうこった。」
「なるほど、どうやら聞くだけ損したみたいだ。お引き取り願おうか。」
「まあ、はなからお前は宛てにしちゃいないさ…さて、面倒なことになる前に撤収するとしようか。
九曜、もういいぞ。ここの時間軸を正常に…加えて、今の会話記録もこいつの記憶から抹消してやれ。」
「---了解した-------」
!?九曜だと??あいつもいたのか!!?
その瞬間だったろうか 俺の意識はブラックアウトした
174 :
◆i1mmP3RsKA :2010/10/21(木) 20:21:26.17 ID:yAYCgY/OO
これにて前編2は終了です。次の前編3は9時から投下し始めようと思ってます。
それではまた。
175 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/21(木) 20:23:53.26 ID:p9W5Z4nu0
面白いよー
176 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/21(木) 20:29:44.78 ID:b63g67/i0
謎が謎を呼ぶ
177 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/21(木) 20:49:22.43 ID:yAYCgY/OO
コメントをもらえるのは嬉しいです。引き続き、頑張ろうと思います。
178 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/21(木) 20:50:17.74 ID:8lH5X3GxO
豚切りごめん
ここは
お題もらう→短編SS投下
とかもありなの?
179 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/21(木) 21:02:08.19 ID:b63g67/i0
ありだぜ
一時期はそっちの方が多かったこともあった
>>174 藤パンの一人称は「僕」、藤→キョンの二人称は「あんた」だよ
>>180 マジですかw俺、お前って印象だったんで…指摘ありがとうございます。
…たった2レス程度なら、次回から修正してもそんなに違和感は…いや時すでに遅しか
しかし、かといってずっとこの人称を使うわけにもいきませんし…次藤原が出てくるときは変えることにします。
182 :
涼宮ハルヒの天啓 前編3 ◆i1mmP3RsKA :2010/10/21(木) 21:21:22.63 ID:yAYCgY/OO
音が鳴っている…
俺はアラームを消した。
10時半…どうやらちゃんと起きられたようである。まだ少し眠たいが、そんなことを言ってる場合ではない。
さて、親に何と言うかだが…『友達の家で寝泊まりする』とでも言っとけば、まあOKだろう。
俺はコートを手に取り、部屋から出た。
…さっき誰かと会話していたような気がするが…。いや、それはありえないか。なんせ俺は寝てたんだしな。
おおかた何か夢でも見ていたんだろう。明確に内容を覚えてないことから、どうやら昨日、一昨日のような
悪夢ではないことは確かである。それだけでも良しとしようじゃないか…古泉たちとの会話の前に
気疲れなど起していては話にならんからな。
自転車に乗った俺は、颯爽と目的地へと向かった。
……
10時50分、ちょうどいい頃合いであろう。俺は自転車をわきへ停め、店内へと入った。
案の定、いつもの日曜日の不思議探索時同様、最後にやって来たのは俺のようである。
唯一の相違点は我らが団長ハルヒがいないということだが。とりあえず俺は席に腰掛ける。
「あなたが待ち合わせ10分前に来られるとは珍しいですね。」
うるせーぞ古泉。いつもいつもお前らが早すぎるんだ。
「とはいえ、今日ばかりは涼宮さんみたいに罰金を課すつもりも、
ましてやおごらせるつもりも我々には毛頭ありませんので、どうか安心してください。」
183 :
涼宮ハルヒの天啓 前編3 ◆i1mmP3RsKA :2010/10/21(木) 21:23:29.98 ID:yAYCgY/OO
当たり前だ。ハルヒにならともかく、お前にそんなことされた日にゃ泣くぞ俺は…
「キョン君、罰金!」
な、なんですと??この光景は何だ?あの愛くるしい朝比奈さんが俺に向かって『罰金』?!?Why?なぜ??
「うふふ、慌ててるキョン君かわいい♪もちろん冗談です。
一回涼宮さんのセリフ言ってみたかっただけなの、ゴメンね。」
そういうことですか…まさか、あなたが冗談おっしゃるとは思いもしませんでしたよ。
……
「そういえばここって一番奥のテーブルなんだな。」
「そうです。こういう隅のほうが長話をするには適してると思いましてね。」
なるほど、考えたな。
「だが、その分デメリットもある。」
珍しく言葉を発する長門。何だそのデメリットってのは?
「この店において、この位置は中心部から最も離れている。
よって、ドリンクバーを注文した際 コップに注ぎに行くまでの距離が最たるものとなっている。」
…まさか長門がこういった類のことを口にするとはな。
184 :
涼宮ハルヒの天啓 前編3 ◆i1mmP3RsKA :2010/10/21(木) 21:26:00.67 ID:yAYCgY/OO
「つまり…面倒ってことだな?」
「端的に言えば、そういうこと。」
「まあ、すでにドリンクバーは注文しておりますので、とりあえず話の前に
ジュースだけでも各自汲んでくるとしましょう。さすがにまだ食事は早いでしょうし…
まあ、お腹がすいているかたは注文されても一向に構いませんけどね。」
俺はカルピスを…古泉はウーロン茶、長門はグレープフルーツ、朝比奈さんはオレンジジュースを、
それぞれ汲んできたようだ。長門だけ選択が意外のようなそうでもないような…まあそれはいいか。
…さて、そろそろ本題に入るとしよう。
「古泉や長門はハルヒが倒れた一連の経緯についてすでに知ってるようだが、
朝比奈さんはどこまで知っているんです?」
顔が曇る朝比奈さん…どうやら、彼女もある程度事情を把握しているようである。
「一応長門さんから全容は聞きました…正直今でも信じられないんです…聞いたときは
随分と私混乱しちゃってましたし…って、不安にさせるようなこと言ってゴメンねキョン君。」
なんせ、ハルヒの心理学の専門家古泉ですらパニックに陥ったくらいだ。
朝比奈さんのその反応は、むしろ当然であろう。誰もあなたを責める人などいませんよ。
「いいんですよ朝比奈さん。事情がそういう重いものだってのは、
古泉からの電話である程度は感づいてはいましたから…。」
……
185 :
涼宮ハルヒの天啓 前編3 ◆i1mmP3RsKA :2010/10/21(木) 21:28:33.90 ID:yAYCgY/OO
「じゃあ古泉、そろそろ説明してくれ。その『事情』とやらをな。覚悟はできてるぞ。」
「わかりました…では、話すとしましょう。」
「しかし、一体どこから話せばいいものか…とりあえず、以前僕があなたに自分は超能力者だと
明かしたときに、『機関は涼宮ハルヒを神的存在だと捉えている』と言いましたよね?」
「ああ、確かに覚えてるぜ。」
「…本当に神だった…としたらどうします?」
「?どういうことだ古泉?」
「つまり、彼女はこの世界を創造した張本人だというわけですよ。」
「?言ってることがよくわからんが。世界を構築したのは涼宮ハルヒだってのは
お前ら機関が以前から唱えてた持論じゃなかったのか?なぜ今更それに驚く?」
「同じ世界創造でも、実際我々が考えていたような創造とは違う意味での創造だったということです…。」
創造創造連発されてもな…っていうか、いまだに話の流れがわからんのだが。
いつもわかりやすく解説する古泉にしては珍しいじゃないか。それとも、俺に理解力がないだけか?
「すみません、混乱させるような説明をしてしまって…ここからは
長門さんが説明していただいたほうが良いでしょう。というわけで、長門さん。よろしくお願いします。」
「心得た。」
「よろしく頼むぞ長門。」
……
186 :
涼宮ハルヒの天啓 前編3 ◆i1mmP3RsKA :2010/10/21(木) 21:31:03.01 ID:yAYCgY/OO
「古泉一樹ら超能力者一同による機関内部においては、
『世界は近年になって構築された』という説が主流な見解として置かれていた。」
「で、それを作ったのはハルヒだと。」
「そう。しかし、実際は世界は近年になって構築されたわけではない。重要なのは、その時期。」
「…要は近年じゃないってことか。紀元前とかそのへんか?」
「いわゆる人間視点で語られる次元の話ではない。」
「じゃあいつなんだ?…まさか恐竜が地球を支配してた2億年前だとか何とか言うつもりじゃないだろうな…?」
「それも違う。正しくは、およそ46億年前に遡る。」
…え?
「長門…俺の聞き間違いかもしれない。もう一度言ってくれないか。」
「およそ46億年前。」
……
雨が降ってきたと思ったら、実はその雨粒全てが隕石だった。あるいは、朝起きたら
枕もとに核兵器が置いてあった。ありえないことではあるが、それくらいの衝撃だったと言っておこうか。
…カルピスをストローですすり、喉を潤したところで…俺は長門にこの一言をぶつけた。
「…それはマジか?」
「信じられないのも無理はない。しかし、可能性としてはかなり高い。」
…古泉がパニくるのも当然というものであろう。なんせ、やつらからしてみれば、『近年』という時期が
常識だったはずである。それが46億年前…たとえるならば、1+1=2だとずっと思いこんでいた人類が
実は1+1=20億だったという驚愕の事実を目の当たりにするようなものだ。
187 :
涼宮ハルヒの天啓 前編3 ◆i1mmP3RsKA :2010/10/21(木) 21:33:27.61 ID:yAYCgY/OO
……
それにしても、スケールでかすぎだろおい!?そう言わざるをえない。
「しかしだな、あくまでそれは可能性であって、まだそうだと決まったわけではないんだろう?」
「ところが、そうとも言い切れないんですよ。」
古泉が口を開く。
「実際機関の面々ともこのことについては協議してみたのですが、ほぼ9割がたの人間が
これまでの近年説を捨て新説に鞍替えされていかれましたよ。それくらい説得力がありましたし、
何よりこれまで抱えていた矛盾が、その新説により全て解消してしまうという、
爆弾級の事態に発展したわけですからね。無理もありません。」
「その考えでいくと、ハルヒの倒れた原因についても説明できるってことなのか?」
「はい。おそらく全容を知れば、あなたも納得すると思われます。」
「そうか…で、その全容とやらを知るためには時間が朝までかかりそう…というわけだ。」
「そうですね。少々きついかもしれませんが…。」
「私も頑張りますから、キョン君も一緒に頑張りましょう!」
朝比奈さんからの熱いコールである。これで万が一にも途中で寝てしまうような男がいるなら、
ここに連れてこい。俺が一刀両断してやる。
「ところで…そろそろ食事でもとりませんか?閑話休題も必要でしょう。時間はまだまだあるんですから。」
それもそうだな。誰も拒否することなく、俺たちは古泉の提案に甘んじることにする。
188 :
涼宮ハルヒの天啓 前編3 ◆i1mmP3RsKA :2010/10/21(木) 21:35:26.29 ID:yAYCgY/OO
「私は…野菜サラダがセットの和食定食を頼もうかしら。」
「僕はそうですね…コーンスープ付きのハンバーグ定食を。」
「私はカツカレーの特盛りを注文するとする。」
なるほど、朝比奈さんはカロリー控え目の和食ときたわけだ。古泉は洋食…まあ、イメージ通りである。
……
なぜカツなのかは敢えて言及しないでおこう…とりあえずカレー好きってのは知ってたが、大盛りをとび越えて
まさかの特盛りですか長門さんよ。まあ、こいつは食べだすと際限が無くなるから予想外ってわけでもないか…。
「で、キョン君の注文は何かな?」
「雑炊ですよ朝比奈さん。」
「ほう、なかなか地味な選択をしましたね。」
だまれ古泉、しばくぞ。地味でも別いいじゃねーか。雑炊なめんなよ?魚貝や野菜、醤油に味噌…
最近は種類によっては肉も入ってる栄養満点の嗜好品なんだぜ?少なくとも俺にとってはな。
……
「ご注文は何になさいますか?」
しばらくしてやって来た店員に、俺たちは各自の品を言う。これで10分後くらいには食事にありつけられるわけだ。
……
って、森さん?あなたこんなところで何やってんですか?
189 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/21(木) 21:36:28.03 ID:b63g67/i0
しえん
190 :
涼宮ハルヒの天啓 前編3 ◆i1mmP3RsKA :2010/10/21(木) 21:38:02.20 ID:yAYCgY/OO
「何って…ただの店員でありますが、それが何か?」
突っ込みどころがありすぎて困るんですが…。とりあえず、接頭語の『ただの』はおかしいでしょう。
「古泉、これは一体どういうことだ?」
「ああ、すみません…言っておくのを忘れましたね。一応念には念を入れて…
我々の会話が誰かに傍受されることがないよう機関の皆さんが見張ってくれているのですよ。
我々と敵対する組織も決して少なくはありませんからね。」
うーむ、それにしてもやりすぎ感があるが…。
……
「ということは…」
俺はふとレジのほうを眺める。ああ、あそこで店員やってるのはよく見たら田丸裕さんではないか。
「ということは、おおかた厨房には新川さんと田丸圭一さんでもいるんだろう?」
「いやはや、何もかもあなたにはお見通しというわけですね。参りました。」
……
あるときはメイド、あるときは執事、あるときは一般人、あるときは警察官…
そして、今回は店員というわけか。一体どこまで得体の知れないスキルを習得しているというのだろうか彼らは。
…まあ、これに関して聞くのはよそう。何かこう、暗黙の了解って感じで…触れたらやばい気がする。
素直に、自分の心中だけに留めておくとしよう。
191 :
涼宮ハルヒの天啓 前編3 ◆i1mmP3RsKA :2010/10/21(木) 21:40:36.82 ID:yAYCgY/OO
…まあしかし、誰かに傍受されたらまずいような重苦しい話をこうやって深夜にすることになろうとは、
数日前の俺は予想だにしてなかったぜ。煩わしいながらも、作曲やこれからするのであろう
バンド活動に楽しみを見出していた昨日一昨日が、今では遠く感じる…。
「何か寂しそうな顔をしてますね。やはり、こういった話は疲れますか?」
「いや、そうじゃない。ハルヒが倒れるなんて事態にならなきゃ、今頃俺たちはハルヒの思いつきで始まった
音楽活動とやらに…振り回されながらも、それなりに楽しそうにやってたんだろうなあと思ってさ。」
「なるほど、確かにその通りですね…そうだ、どうせですし音楽の話でもしませんか?」
「おいおい…気持ちは嬉しいが、そんな状況でもない気がするぞ?」
「ちょっとくらいなら良いと思いますよ私は♪息抜きには、こういうのも必要だと思います。」
「それに、我々は涼宮さんを助けるんでしょう?」
な、何だ古泉??
「確かに、我々は今の状況から涼宮さんを救いださねばなりません。しかし、その後
平穏に戻った際には、あなたは涼宮さんが喜ぶ曲を作って提供する…そういう手筈だったはずでしょう。
そのときの楽しそうな彼女の笑顔を見たいとは、あなたは思いませんか?」
何かの誘導尋問か?…まあ本人もいないことだし、ここは敢えてバカ正直に答えておくか。
「そりゃ、そうしたいに決まってるだろ。」
「なら、先の話をしてたって何ら問題はありませんよ。
なぜなら、我々はこの窮地をなんとしてでも脱するんですから。違いますか?」
「…!」
192 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/21(木) 21:40:56.67 ID:b63g67/i0
¥
193 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/21(木) 21:41:37.08 ID:b63g67/i0
紫煙
194 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/21(木) 21:49:49.02 ID:b63g67/i0
ヨン
>>181 ちょっと分裂引っ張り出してどこにあったか調べてみた
p185 2-3行目
「どう呼ばれようが僕はどうだっていい。意味が無い。それはあんたが朝比奈みくるを朝比奈みくると呼ぶくらい無意味なことなんだ。くだらない」
196 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/21(木) 22:02:05.63 ID:yAYCgY/OO
>>195 いちいち引っ張りだしてきてくれてありがとうございます。…そうだったんですね。
藤原に関する人称は大抵サイトには載ってなかったもので、盲点でした。気を付けたいと思います。
197 :
涼宮ハルヒの天啓 前編3 ◆i1mmP3RsKA :2010/10/21(木) 22:04:32.42 ID:yAYCgY/OO
古泉の言う通りだ。未来を考えることを放棄したとき、即ちそれは現在(いま)が
確証のもてる状況ではないことの裏返し…か。いや、この場合自信がもてないといったほうが正しいか。
だが、俺たちSOS団はこれまで何度も力を合わせて幾度かの修羅場をくぐりぬけてきた…。
だから今回もきっと上手くいくと、俺はそう確信している。ああ、そうか…確信してるって時点で、
すでに答えは決まってたんじゃねえか。
…ってなわけでいろいろ話したわけだが、なんとも内容はカオスなものとなった。
「さて…まずは、それぞれの音楽性でも語ってみませんか?」
「音楽性?」
「自分の好きな音楽のジャンル、曲、あるいは尊敬する歌手やミュージシャン等を
言い合おうではありませんか、ということです。」
なるほど、そういうことか。
……
そういえば今になって気づいた。俺たちは各々の音楽性について全く知らないではないか。
たいていバンドというのは、互いが音楽的意思疎通ができていて初めて成り立つものであるが…
方向性とかそんなもんをな。俺たちはまだそれすらできていない有り様である。
非常識も甚だしいとはこのことだな。まあ、これから深めていけばいいさ。
198 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/21(木) 22:04:56.62 ID:b63g67/i0
そう考えるといきなりお前とかキミとかテメーとか言い出す可能性もあるなw
199 :
涼宮ハルヒの天啓 前編3 ◆i1mmP3RsKA :2010/10/21(木) 22:07:15.51 ID:yAYCgY/OO
「まず言いだしっぺの僕から話しましょうか。そうですね…好きなジャンルは特に問いません。
好きなアーティストは175Rや19、スピッツといったバンド類でしょうか。」
「もしかして、転校してくる前の学校でやっていたバンドってのはそいつらのコピバンか?」
「ええ、その通りです。さすがにオリジナルを作れるほど、我々は音楽に精通してはいませんでしたからね。」
「スピッツのボーカルの人の声は好きですね〜さわやかな感じがして、聴いてて気持ちいいです。」
なるほど、朝比奈さんはそういう部類の声質が好きらしい。
「そういえば朝比奈さんは未来から来てるわけですが、最近…いや、この現代の歌手については
どれくらい知ってるんですか?現に、今スピッツはご存じのようでしたが。」
「当たり前ですが、この時代の人たちほど詳しくはありません。年間シングルをチェックしたりとか、
気が向いたときに音楽番組見たりとか…その程度でしかないですよ。」
「僕の予想では、朝比奈さんはYUIや大塚愛さんといった歌手がお気に入りのはずです。違いますか?」
「す、すごーい!古泉君何でわかったの!?」
まあ、俺でも大体予測はついたがな。朝比奈さんのお人柄と、音楽における媒体が主要メディア、
そして爽やか系が好きってことから推測すれば、それなりに的は絞れるはずだ。そう、ポップスというジャンルに。
消去法でもいけるかもな…ロックバンドやV系、洋楽、レゲエ、テクノ等のジャンルを、彼女が万が一にでも
聴いてるようなら それこそ驚愕ものであろう。いや、待て… 一瞬テクノなら合うかもと思ったのは秘密だ。
「……」
いかんいかん、さっきから長門が沈黙に徹しているではないか。古泉や朝比奈さんの話題に入れないってのは
つまり…どうやら音楽性が二人とは根本的に異なっているようだ。まあ、大体そんな感じはしてたがな…。
200 :
涼宮ハルヒの天啓 前編3 ◆i1mmP3RsKA :2010/10/21(木) 22:09:32.43 ID:yAYCgY/OO
「長門はどういうのを聴くんだ?」
「幻想的かつ抽象的なものに私は音楽問わず惹かれる傾向にある。一方で力強く、メッセージ性が強いものも。」
うーむ、これは朝比奈さんのときとは違って予想しにくいぞ…。
「また僕が予想してみましょう。そうですね…前者ではラルク、後者はB'zといったところですか?」
俺は飲んでいたカルピスを思わず吹きそうになった。だってそうだろ?長門がラルクやB'z??
古泉よ…いくらなんでもそれはないだろう…確かに、長門の説明に合致している部分はあるかもしれんが、
しかしこれには異議を唱えずにはいられない。イメージ的に。
「じゃ、じゃあ私も思い切って予想しちゃいます!うーん、浜崎あゆみさんやドリカムさんですかぁ?」
朝比奈さん…なんというか、【とりあえず、知ってる歌手を挙げてみた】感が半端ないです!
「あなたは…予想しないの?」
な、長門??
「古泉一樹や朝比奈みくるが予想しているのだから、あなたもそれをすべき。」
いきなり長門さんは意味不明なことを言い出した。もしかしてアレか?俺にも構ってほしいのか?
「それに、あなたが何を挙げるのかも気になる。」
……
201 :
涼宮ハルヒの天啓 前編3 ◆i1mmP3RsKA :2010/10/21(木) 22:12:33.03 ID:yAYCgY/OO
去年の長門による例の世界改変後くらいからであろうか、長門に感情と言える感情らしきものが
見られるようになったのは。システムに影響をきたすそういった感傷的・流動的要因はいわゆるエラーだと捉え、
排除してしまうのが情報統合思念体・有機ヒューマノイドインターフィイスにとっての常だった…はずだった。
だが、長門はそれに立ち向かい、そしてそれを受け入れた。以後、長門の人間らしさは着々と実りつつある。
おそらくこれもその一環なのであろう…ならば、俺はそれに誠意をもって答えてやらねばなるまい。
「そうだな…前者は椎名林檎、後者は鬼束ちひろといった感じか?」
ない知識を振り絞って考えた結果がこれだ…。
「……」
……
「それらの指摘は間違ってはいない。私はL'Arc-en-Ciel、B'z、椎名林檎、鬼束ちひろ…いずれも聴いている。」
自分の予想が当たったことよりも、古泉のそれが当たったことに俺は愕然としていた。
なるほど、長門もこういうの聴いてたりするんだな…と、とりあえず感傷に浸る。
「ただし朝比奈みくる、あなたの予想は見当違いにもほどがある。もう少し知識を高めてから出直してくるべき。」
「ふぇ、ふぇえ〜ん、長門さんひどいですよぅ〜」
言いすぎだぞ長門!と、言いたいところだが、残念ながら長門の気持ちもわからんこともない。
よって、ここはだんまりを決め込むとする。擁護できなくてすみません朝比奈さん…。
202 :
涼宮ハルヒの天啓 前編3 ◆i1mmP3RsKA :2010/10/21(木) 22:15:52.06 ID:yAYCgY/OO
「そう言えばキョン君はまだ言ってませんね。何を聴いてるんです?」
「俺はバンプとかラッドとか、そういうところだな。」
「なるほど…実にあなたらしいですね。」
「それは良い意味で言っているのか?それとも悪い意味で言っているのか?」
「いえいえ、別に深い意味はありませんよ。本当ですって!」
嘘だ。絶対こいつ心の中で【地味だ】とか何とか思っただろう…まあ、そういう認識でも別に構わんがな。俺は。
「キョ、キョン君…ごめんなさい…私その二つわかりません…やっぱり私ダメ人間ですぅ〜ううー」
確かに、バンプにしてもラッドにしても地上波にはほとんどでないアングラバンドだからな…ゆえに、
朝比奈さんが知らないのも無理はない。…って、どうやら彼女のダメージは思った以上に深刻のようである…
これは何とかせねばなるまい。俺は長門に朝比奈さんに気づかれないよう小声で話しかける。
「長門…さっき朝比奈さんに言ったこと、どうか撤回してやってくれないか?
彼女にだって悪気があったわけではないんだしさ、どうか大目に見てやってはくれないか?」
「…そうすれば、彼女はいつも通りになる?」
「その通りだとも。だから、頼む長門!」
「了解した。」
しかしである…長門は一体どういった言葉を朝比奈さんに投げかけるのであろうか?
俺には、それが今一番気になっている。
「朝比奈みくる。」
「ふぇ…?な、何ですか長門さん?」
「さっきのはジョーク。」
203 :
涼宮ハルヒの天啓 前編3 ◆i1mmP3RsKA :2010/10/21(木) 22:18:42.21 ID:yAYCgY/OO
……
長門…
「じょ、ジョーク??ってどういうことですかぁ??」
「私はいわゆるギャグをした。ただそれだけのこと。」
……
「…ふふ…ふふふ…くっ…あ、あはははは!!」
ここでいきなり笑い出す朝比奈さん。一体何事だ…
「あ、いや…長門さんが物凄く真面目な顔で『ギャグをした。』って言ってるのがとても面白くて…
なんというか、とてつもないギャップっていうか…っく、ふふっあはは!」
「朝比奈みくる、笑ってくれた。これで結果オーライ。」
これは予想外の展開だ…これも長門流なのか?そうなのか?そうなんだな??よし、そう思うことにしよう。
「長門さんは人を笑わせる才能においては天下一品とみました。その才能、ジェラシーです。」
「感謝する、古泉一樹。」
……
今の古泉の発言は…どう客観的に捉えたって【皮肉】ってやつなんだろうが…
当の本人である長門は、そのことには全く気づいていない。俺は、敢えてこの言葉を言わせてもらう。
「ああー…カオスだな。」
204 :
涼宮ハルヒの天啓 前編3 ◆i1mmP3RsKA :2010/10/21(木) 22:22:25.47 ID:yAYCgY/OO
まあ、内容はこんな感じだったのさ。そんなところへ…注文した料理が届いた。実に良いタイミングで来たな。
……
言わずもがな、お味のほどは極上の品だった。さすが新川さん、料理の腕に関して…ただただ感服する
ばかりである。雑炊を噛みしめる俺の口の中で山菜、マツタケ、カニ、サケといった大自然のサチが
程良いハーモニーで広がってゆく… 一体どこに文句の付けどころがあるというのか、
それだけでも今日ココに来た甲斐があったってもんだ。まあ、趣旨は違うんだがな…!
「む…こんなジューシーなハンバーグ食べたことありませんよ。」
お前は機関の人間なのだから、しょっちゅう新川さんの手料理にはお世話になってるんじゃないのか?
「いえ、それでもこの料理に関しては食べるのは初めてだったんですよ。ふむ…牛豚の合いびき肉に
鶏ミンチを、見事なまでの2:1割合で混ぜているとみえます。彼の腕には全く驚かされてばかりですね。」
「和食らしいヘルシーな味ですぅ…ほっぺが落ちそう♪」
古泉はもとい、新川さん料理は朝比奈さんにまで大絶賛のようである。
「……」
何か深刻そうな顔つきでカツカレーを頬張っている長門…
まさか味が気に召さなかったとでもいうのか??そんなバカな。
205 :
◆i1mmP3RsKA :2010/10/21(木) 22:33:01.27 ID:yAYCgY/OO
ちょっと中断します。1スレの最大容量が500kbということで、前編3を投下し終える前に容量オーバーしそうです。
もし投下していく中で書き込みができなくなった場合、明日の夜7時(別に7時に限らず遅くてもいいです)くらいに
誰かプリンスレを立ててはいただけませんでしょうか?もちろん、自分も一応試してはみます。厚かましいことを言って
すみません…後、自分が連日投下してるせいで他の書こうと思ってる職人さんがもしかしたら迷惑してるかもしれません。
その場合、是非おっしゃってください。雑談所の職人さん投下報告スレも随時見ておくよう心がけておきます。
206 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/21(木) 22:36:55.15 ID:b63g67/i0
前編だけであと350kもあるのかw
207 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/21(木) 22:41:12.07 ID:yAYCgY/OO
>>206 自分のワードだと容量は500を超えそうなのですが…もしかして2chスレでは変わるんですかね。
その言葉を見るに、現時点ではまだ150kbということですか。それなら全然大丈夫そうです。
208 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/21(木) 22:49:06.59 ID:b63g67/i0
現時点では144kだな
209 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/21(木) 22:49:47.03 ID:b63g67/i0
あ、ワードだと容量が増えるな
一度メモ帳にコピーしてみるといいかも
210 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/21(木) 23:03:00.48 ID:yAYCgY/OO
今気付きました。左下に表示されてる145KB、これが現時点での容量なんですね。
2ch自体は何年もやってたのですが…バカさを曝け出してすみません。
そういうわけで、
>>205のスレを立ててください云々の話はなかったことにしてください。
もちろん、他職人さんの話はその通りです。では再び投下を開始します。
211 :
涼宮ハルヒの天啓 前編3 ◆i1mmP3RsKA :2010/10/21(木) 23:06:29.27 ID:yAYCgY/OO
「約2分間、私は席をはずさせていただく。」
そう言って長門は厨房のほうへと歩き出した…って、おい!?まさかイチャモン付けるつもりじゃあるまいな!?
確かにお前のカレーへのこだわりは尋常ではないところがあるが、それにしたって あ の 新川さんに
苦情を提言するなんて…贅沢にもほどがあると思うぜ?!
「まあまあ、ここは放っておきましょう。おそらく、彼女は
あなたの思惑とは別の方向で尋ねに行かれたのだと思います。」
「?」
…しばらくして戻ってくる長門。
「厨房になんか入って何してたんだ長門?」
「先程のカレーのレシピを…新川氏に拝借していた。まさか、隠し味にチョコレートやヨーグルトを
使っていたとは想定外。しかし味のほどは悪くない。美味しいカレーを作ってゆくためにも、
こういった斬新な手法はどんどん取り入れていくべきなのだと、私にはそう思えた。」
「もしかして、お前がさっき黙り込んでたのはカツカレーの味に酔いしれていたせいか??」
「そう。と同時に、私は新川氏の腕に感銘を受けていた。」
なるほど、そういうことだったのか。それにしても…長門のカレーへの情熱は相当なものである。
何が彼女をそこまで動かしているのか?理屈じゃないとは、こういうことなのかもしれない。
212 :
涼宮ハルヒの天啓 前編3 ◆i1mmP3RsKA :2010/10/21(木) 23:08:50.45 ID:yAYCgY/OO
「長門、今度美味しいカレーを俺らにごちそうしてくれよな。期待してるぜ!」
「僕も、長門さんの丹精込めて作られたカレーは是非食べてみたいものですね。」
「私も楽しみにしてます!お願いしますね長門さん♪」
「あなた達3人の期待に沿えるほどの、カレーが作れる保障は現段階では無い。しかし努力はする。」
相変わらず無表情な長門ではあるが、どことなしに嬉しそうに見えるのは俺の気のせいだろうか…?
さて、一通り食べ終わった俺たち。疲れる話ではあるが、再び本題に戻るとする。
「で、長門…さっきの話だが、世界は46億年前に創られたんだっけか?」
「そう。」
「で、それを創ったのはハルヒだと。」
「そう。」
…聞くのは二度目だが、それにしたって未だ信じられない自分がいる。
逆算して考えればわかることだが…それが事実なら、つまりハルヒは46億年前という…
天文学的数値を遡る犯罪的なまでの大昔から存在していたことになる。もうアホかと。
213 :
涼宮ハルヒの天啓 前編3 ◆i1mmP3RsKA :2010/10/21(木) 23:11:27.31 ID:yAYCgY/OO
「ところでな長門。その46億年っていう数字に何か意味はあるのか?その頃の地球はどんな感じだったんだ?」
「そもそもその頃の地球は、今のような球形としての原型を留めてはいなかった。」
「どういうことだ??」
「なぜなら、ちょうど地球が誕生した時期…それがおよそ46億年前にあたるから。」
あー、なるほどなあ…
「つまり、ハルヒは世界を創ったというよりはむしろ、地球を創造した張本人だってことか?」
「そういうこと。」
……
こんな話を信じろってほうがどうかしてんだろうが…はっきり言うぜ。あの信用足る長門や古泉だからこそ、
俺はこれら一連の話を鵜呑みにしているんだ。これがどこぞの馬の骨ともわからないようなヤツだったとして、
それを妄信的に信じる人間がいたとしたら…そいつは将来間違いなく詐欺、ないしは得体の知れない
新興宗教に染まる危険性を秘めていると言えるだろう。
まあ、宇宙人に未来人、超能力者に囲まれている時点で こんなこと考えるのもバカバカしいんだが。
「しかしだな…仮にそれが事実だったとして、なぜお前にはそれがわかったんだ?
というか、なぜ今それがわかった?今までそれには気付けなかったのか?」
「『なぜ今それがわかった?』という質問に際しては、現段階では返答しかねる。
予備知識のないあなたにとって、この情報は刺激過多。ゆえに、話の導入としては不適当。」
意味がよくわからないが…とりあえず、俺には教えられないということなのだろうか。
長門なら何でも答えてくれると思っていただけに、この反応は少し予想外だ。
214 :
涼宮ハルヒの天啓 前編3 ◆i1mmP3RsKA :2010/10/21(木) 23:18:46.84 ID:yAYCgY/OO
「何やら困った顔をしていますね。安心してください、あなたにもこのことは後でお話します。
単に話の流れ的な意味というだけです。あまりそう深く捉えないでください。」
…納得したわけじゃないが、長門・古泉の両者が口そろえてこう言うんだ。
なら、俺からは何も言うことはない…それについては後で伺うとしよう。
「ただし、『今までそれには気付けなかったのか?』という質問に対しては、この限りではない。」
どうやらこっちには答えてくれるらしい。…って、さっきの質問とどう違うのか俺にはよくわからないが。
「YesかNoかで返答するならば、その答えはNo。ただ、それを前提とするに値する明確な根拠がなかっただけ。
古泉一樹ら機関の【近年説】は、あくまでそれを埋めるための暫定的処置にすぎない。」
「つまり、一番無難で当たり障りのなかった…ということです。
暫定とするには都合がよかったわけですね。もっとも、我々は本気でしたけど。」
古泉が苦笑する。
「ですが、それも今日で終わりです。固定観念からの解放、とでも言っておきましょうか。
こんなことならもっと早く、我々も長門さんたち同様に演繹的手法を用い、多角的考察に徹するべきでしたよ。」
やけに聞き慣れない言葉を耳にしたような気がした。
「演繹的…?」
215 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/21(木) 23:20:09.83 ID:b63g67/i0
まあ普通に落ちるかもシレン品!
216 :
涼宮ハルヒの天啓 前編3 ◆i1mmP3RsKA :2010/10/21(木) 23:26:25.47 ID:yAYCgY/OO
「『演繹』とは、与えられた命題から論理的形式に頼って推論を重ね、結論を導き出すこと。
つまり【涼宮ハルヒという特異的人間の存在】、これを絶対的条件だと位置付けた上で、
そこから導き出される様々な可能性を」
「長門さん、この話はもういいでしょう。46億年前の続きを話しましょう。」
「……」
おいいぃ!?話を遮られた長門が何か神妙な顔をしているぞ!?
その表情はどことなく儚く、哀愁漂うものがあった…決して怒っているわけではなさそうだが。っていうか、
そもそも『演繹』の話を持ち出したのは古泉、お前だろうに…長門はその補足をしようとしてただけなのに
一体何だこの仕打ちは!?いや、待て…よく考えてみればそれを聞き返した俺が一番悪いように思うぞ…?
それとだ。実は、俺はその一方で古泉の話題転換に暗に感謝していた。
というのも、妙に長門の話が長くなりそうな予兆があったからだ…
なれば、早く本題に進んだほうが賢明だと古泉は判断してくれたのだろう。もちろん、
長門が俺のために善意で説明しようとしてくれてたのもわかってる。だから俺が言うべき台詞は…これだろう。
「古泉も長門も、俺に気使ってくれてありがとな。」
「え…?」
「……?」
2人とも意味がわからないといった顔をしている。そりゃそうだろう。
文脈もなしにいきなり礼を言われては困惑するに決まってる。
「はは、なーに、単なる独り言だ。」
とりあえずはこれでお茶を濁すことにする。お礼などこの間柄ならばいつでも言えるのだから。
217 :
涼宮ハルヒの天啓 前編3 ◆i1mmP3RsKA :2010/10/21(木) 23:35:27.72 ID:yAYCgY/OO
「それにしては随分と聞こえのよい独り言でしたね。」
「……。」
もしかしたら、2人は俺の言おうとした意図に気がついてるのかもしれない。
特に、長門の表情がさっきより和らいで見えるのは…気のせいではないだろう。
「…では、古泉一樹に言われた通り、先程の涼宮ハルヒの話を続けるとする。」
こうして、再び話題は46億年前へと戻るのであった。
「ところで、まずこれを話すには時期をもっと遡らなければならない。」
と思いきや、46億年前ではなかった。
「どこまでだ?まさか宇宙誕生までとか言うつもりじゃ」
「その通り。」
まあ、大体そんなとこだろうとは思ってはいたがな…。なんせ、ハルヒは【地球創造】という
思考回路が今にもぶっ飛びそうなとんでも行為をやってのけてしまっているのである。さすれば、
この地球上に生きとし生ける人間たちのほとんどが、ハルヒを【神】だという超常的括りで分類しても
全くおかしくはない。そんな常軌を逸したレベルで【宇宙】というワードを出されても…
特に取り乱したりしないのはある意味当然といえる。
「では話すとする。」
218 :
涼宮ハルヒの天啓 前編3 ◆i1mmP3RsKA :2010/10/21(木) 23:44:07.97 ID:yAYCgY/OO
「最初の宇宙は無限宇宙だった。この無限宇宙には初めは創造主である神しかいなかった。
始まりもなく終わりもなく、時も空間もなく、形も生命もなかった。このような全くの無の宇宙に
神は初めて有限を生み出した。神が自らを具現化した有限…我々はその存在を
各地の神話や伝説に照らし合わせ、【ソツクナング】と呼んでいる。」
…何やら大層な名前がでてきたな。ん?神話に伝説?
「ソツクナングというのは…インカやアステカ、マヤなどといった古代文明発祥の地において、
実際に文献上に記載されている名前なわけですよ。」
横から口をはさむ古泉。って、マジかよ?!?このへんの文明は文部科学省公認の歴史教科書にも
載ってるくらいだから知ってるが、まさかそんなのと長門の話が合致するなんて夢にも思わなかった。
「話を再開する。ソツクナングは神の計画に沿って宇宙を秩序正しく整え、水と風を生んだ。
樹木、灌木、草、花、等の植物を創造して地を覆い、一つ一つの生命に名前を与えた。次に、あらゆる種類の
動物と鳥たちを創造し、地の四隅に向かって広がるように命じた…そして、やがて人間も現れた。
ソツクナングは彼らに言葉を伝えるために、自分の姿に似せた人間そっくりの分身を造りだした。」
……
「まさか…」
「そう。現在のパーソナルネームで言うところの、涼宮ハルヒの誕生。」
219 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/21(木) 23:46:44.11 ID:b63g67/i0
なんだってー!
220 :
涼宮ハルヒの天啓 前編3 ◆i1mmP3RsKA :2010/10/21(木) 23:49:07.86 ID:yAYCgY/OO
それがハルヒの起源だって言うのかよ…なんというか、想像力がいくつあったって足んねえな。
と、面喰っていても仕方ない。再び長門の話に耳を傾ける。
「かくして最初の人類は地の表に増え広がり幸せに生きていた。しかし、それも長くは続かず
人々は互いを疑い非難し合って、ついには暴力に訴えて戦い始めた。そこには休息も平和もなかった。
真に平和を望む人々のみを地下の祭礼所へと導いた涼宮ハルヒは、人々が地下で安全に暮らしている間に
世界を火によって滅ぼすことを決めた。火山の口を開いて火の雨を降らせ、この世界を滅ぼした。」
……
「これで、第一世界の話は終わり。」
…第一世界?
「火により滅亡したこの世界のことを…我々は第一世界と呼んでいる。」
「ということは…あれか?次は第二世界だの第三世界だのについて話していくってな流れか?」
「そういうこと。」
…俺はカルピスを手に取り、喉を潤そうとしたら…。ストローの先からカチカチっと音がする。
どうやら、先っちょが氷に当たっているらしい。つまりである、俺はいつのまにか
ジュースを飲み干してしまっていたというわけだ。
「あ、キョン君もう飲んじゃったんですね。私が新しいの汲んできましょうか?」
「え?いやいや、そんな、朝比奈さんに悪いですよ。」
「遠慮しなくていいの。こういうのはいつも部室でやり慣れていることですから!それに、
ちょうど私のもなくなったから自分のも汲みに行こうと思ってたところだったし…何がいいかしら?」
「…では恩にきります、ありがとうございます朝比奈さん。じゃあ白ぶどうジュースで!」
「かしこまりました♪」
221 :
涼宮ハルヒの天啓 前編3 ◆i1mmP3RsKA :2010/10/21(木) 23:53:16.37 ID:yAYCgY/OO
ドリンクバーへと向かって歩いて行く朝比奈さん。つくづく、良い先輩だなあと思う。
俺も彼女のように、周囲の人間に気が配れるような人格者になりたいものだ。
……
さて、一体どうすればよいのだろうか。まず、先程の長門の説明に関して…
俺は全く頭の中を整理しきれていない。
「おやおや、案の定困り果てたような顔をしてますね。」
「そりゃあそうだろう…そういやお前、この話を聞かされて頭がパニくったって
電話で言ってたよな。今ならお前の気持ちもわかる気がするぜ。」
「気持ちを察していただけるとは、光栄ですね。」
「…私の説明がまずかった?」
それは勘違いだぞ長門。
「いや、そういうことを言ってるんじゃない。突飛すぎる内容に思考がついていかなかったってだけだ。」
むしろ長門の説明にしては、さっきのはかなりわかりやすいほうだったんじゃないか?
いつもの調子なら、意味不明の難解的専門用語の連発で俺の脳内は干上がっていたところであろう。
「それならよかった。時間をかけて推敲した甲斐があったというもの。」
…もしかして長門なりに、俺のためにわざわざわかりやすく文章を加工しておいてくれたというのか?
その気遣いが、俺にはとても嬉しく感じられた。
222 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/21(木) 23:55:01.21 ID:kXordRMdP
支援
223 :
涼宮ハルヒの天啓 前編3 ◆i1mmP3RsKA :2010/10/22(金) 00:00:39.52 ID:gFWRR+KIO
「…ちなみに、もし推敲しなければどうなってたんだ?」
「あなたに話す文章量がさっきのそれと比較して、およそ20倍以上に膨れ上がっていたと思える。」
……
「まさか…」
俺は古泉を見る。
「ははは、長門さんのお話は実に含蓄ある有意義なものでしたよ。
ただ、あまりにそれが時間を要するものだったので…僕と朝比奈さんで示し合わせて、
長門さんに申し訳ないと思いながらも、文章の大幅な削減、簡潔化をお願いしたのです。」
電話でお前がパニくってたのはそのせいか!?
「いえ、原因の大部分は内容から来たものですよ。それは間違いありません。
現に、あなたも今困り果てた顔をしてたではありませんか。」
…確かに。
「はい、キョン君!白ぶどうです♪」
おおっと、朝比奈さんに頼んでいたジュースが来たようである。
224 :
涼宮ハルヒの天啓 前編3 ◆i1mmP3RsKA :2010/10/22(金) 00:02:35.20 ID:gFWRR+KIO
「ありがとうございます朝比奈さん!」
早速ジュースに口をつける俺…やはり、こういったある程度緊迫した状況においては、飲み物というのは
本当に最適である。少し気分が晴れたような気がした…。【朝比奈さんが汲んできてくれたから】というのも、
その理由に内包しているであろうことは言うまでもない。ちなみに、彼女はまたまたオレンジジュースである。
柑橘類がお好きなのであろうか?
……
「ええっと…今の長門の話をまとめると、つまり、あれだろ?人間たちが互いに争いだしたから…
そんな世界はダメだってなことで、おとなしい輩を除いてハルヒは世界を滅亡させた…そういうことだよな?」
「そのような軽い捉え方でいいと思われますよ。このへんはあくまでただの導入部であって、熟考せねばならない
段階でもないわけですから。ちなみに、これから説明される第二、第三世界についても同様、そこまで深く
考える必要はない…と僕は考えています。今言った認識で何か不都合は生じたりしますか?長門さん。」
「そのような認識で構わない。」
なるほど。どうやら現段階では、まだそこまで核心に触れているというわけでもないようだ。
ならば、このあたりは話の流れを掴んでおく程度の認識で十分事足りるということだろう。
もちろん、細部まで理解できるに越したことはないが。
「じゃあ長門、再び説明の方よろしく頼むぜ。今度はその…第二世界とやらをな。」
「承知した。」
225 :
涼宮ハルヒの天啓 前編3 ◆i1mmP3RsKA :2010/10/22(金) 00:05:34.62 ID:gFWRR+KIO
「第一世界が滅びた後、地球が冷えるまでには時間がかかった。冷え終わった後、涼宮ハルヒは
そこを清め第二の世界の創造に取りかかった。次第に村が出来、その間を結ぶ道路もでき、交易が始まり、
互いに人々は物を売買するようになっていった。しかし、第一世界同様その平和も長続きはしなかった。
交易が盛んになるにつれて、人間たちは自身を養う以上の財物を欲しがるようになり、その結果人々は
争い始め、村同士の抗争が始まった。もはや事態の収拾は不可能だと察した涼宮ハルヒは、
清貧に甘んじる人間のみを地底世界へと誘導し、その後南極と北極を結ぶ地軸に衝撃を与えた。
世界はバランスを失い、回転が狂って二度反転した。山々は海になだれ込み、海と湖は陸に覆いかぶさった。
それらが冷たい生命なき空間を巡る間に、世界は厚い氷に閉ざされた。第二世界はこうして終わりを告げた。」
……
「これが第二世界の概要。」
……
相変わらず話が壮大だな…いや、壮大だとか何とかで例えられるレベルでもないか。
「で、結局この世界も最終的には人々による争いが起こり、世界はハルヒにより滅亡させられたと。」
「そういうこと。」
「ただ、第一世界との相違もありますね。あのときは原始共同体の延長線上、
その崩壊から始まった争いですが第二世界においては、それプラス余剰価値を求める動きが
介在してると言えます。資本主義的闘争とでも申し上げましょうか。」
「文明が一段階進んだって感じか。」
226 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/22(金) 00:06:19.67 ID:zALODEouO
ハルヒ「・・・うっ」
びゅるっー びゅるるっー
何度目の射精だろうか
射精音が膣内に響き渡る
男「どや?孕んだか?シシ」
ハルヒは後悔していた・・・
たかがテレビ出演のためにこんな男の誘いにのってしまったことを―――。
227 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/22(金) 00:07:20.36 ID:8Gy9ZDiT0
228 :
涼宮ハルヒの天啓 前編3 ◆i1mmP3RsKA :2010/10/22(金) 00:07:29.80 ID:gFWRR+KIO
いずれにせよ、創ったり滅ぼしたり忙しいことこの上ないなハルヒよ。…まあ、所詮他人事なわけだが、
もし俺がこれらの世界に存在していたとしたら…当事者であったとしたら?つまり、それって生きるか死ぬかの
死活問題ってわけだよな。悠長に楽観できるってだけでも、俺を含む今の時代の人間は幸せなもんだな。
…待てよ
「なあ古泉。」
「なんでしょう?」
「俺の杞憂ならそれに越したことはないんだが…万が一にも、
俺たちがこういう世界の当事者に成りうる状況ってのは この先起こりえたりするのか??」
「!」
驚いたかと思えば急に黙りこくる古泉。何かまずいことでも言ったか??
「すみません…あなたのその、実に的を得た分析に驚かされたもので。
そのことについては…現段階では回答しかねます。」
…なぜだ??
「何事にも手順というものがあります。とりあえずはまず、この話を終わらせましょう。
人間という生き物は結論を知ってしまったら最後、その結論にいたるまでの過程を蔑ろにしてしまう
傾向にあります。それが意図的にしろ無意識的にしろね。そして、それはあなたも決して例外ではないはず。
ですから…どうかそのへんはご承知のほどをお願いしたいものです。」
「…すまんな古泉、話を脱線させてしまってな。今は長門の話にじっくり専念するとするさ。」
どうやら今の古泉の話しぶりから察すると、さっきの俺の発言は杞憂ではなかったってことなんだろう。
229 :
涼宮ハルヒの天啓 前編3 ◆i1mmP3RsKA :2010/10/22(金) 00:09:18.80 ID:gFWRR+KIO
……
俺は後悔していた。【単なる俺の思い過ごし】ということで心中に留めておけばよかったものを…。
過程を無視して結論を聞く…それも悪い知らせを聞かされることほどショックなことはない。
とりあえず、今はこのことを忘れるほかないだろう。俺は黙って古泉の言うことを聞くとする。
「じゃあ、ジャンジャンいってくれ長門。次の話を聞こうじゃないか。」
「了解した。」
……
「涼宮ハルヒは南極北極間の安定化にのりだした。それが完了すると氷はまた溶け始め、世界は温暖になった。
第三世界の始まり。地球に人間が住める頃になると第三世界で再び人類は増え広がり、生命の道の上を
進み続けた。第一の世界では人々は動物と一緒に素朴な生活をした。第二の世界では手工品や家屋、
村落を発展させた。この第三の世界では人口も増え、人々は大都市や国々、大文明を築くまでに急速に
発展した。しかし、あまりに多くの人間が機械的生産力を私利私欲のために使い始めた。現代で言うところの
爆撃機や戦闘機まで現れた。これに乗って沢山の人々が他の都市を攻撃し始め、第三世界もかつてと同様に
腐敗し、侵略戦争の場と化した。涼宮ハルヒは決意した。彼女が地上の水の力を解くと、1kmを超す高い大波が
陸地を襲い、陸という陸は破壊され海中に沈んだ。彼女の助言により、船上で生き永らえた
信仰厚き人間たちを除いて。人類の第四の世界、現代文明の始まり。これが地球の歴史。」
…え?
「つまり、今俺たちが生きているこの世界が第四世界だと…そういうことか?」
「そういうこと。」
「そうか…。」
230 :
涼宮ハルヒの天啓 前編3 ◆i1mmP3RsKA :2010/10/22(金) 00:11:10.18 ID:gFWRR+KIO
……
複雑怪奇な長話を一気に聞いたせいか、疲労困憊だぜ…。
「…キョン君、大丈夫ですかぁ?きついようでしたら仮眠でもとります?」
「いえいえ、さすがにまだその段階ではありませんよ。そのへんは心配無用ですから、どうぞ安心してください!」
「わかりました♪でも無理はしないでね。」
起きている朝比奈さんを無視してスヤスヤ眠るような男がいたら今すぐココに来い、俺が鉄拳制裁を下してやる。
常識的に考えればわかるが、彼女を前にそんなマネなどできるはずないではないか。
「長門さん、これで過去の話は一旦終わりなんですよね?」
「そう。」
「ならば、そろそろ皆さん休憩をとるとしましょう。先ほど頼んだ料理も、まだ完全には我々は食していない
はずですし…ああ、長門さんは別ですけどね。とりあえず、それらをゆっくり食べるとでもしませんか?」
そうだな、休憩するとしよう。古泉と朝比奈さんは食べるのが遅かったせいか、いまだ半分以上の
ハンバーグ定食及び和食が残っている…かく言う俺はごくわずかだ。これじゃあ5分もしないうちに完食だな。
……
231 :
涼宮ハルヒの天啓 前編3 ◆i1mmP3RsKA :2010/10/22(金) 00:13:22.81 ID:gFWRR+KIO
うーむ、2分もしない内に食べてしまったような気がする…言わずもがな、古泉と朝比奈さんはいまだに料理を
美味しそうに食べており、とうの昔にすでに食べ終わっている長門はというと、暇そうに本を読んでいるしだいだ。
…みんなが団らんしている間に、俺はこれまでのことを少し整理しとくとしよう。
これだけの膨大な情報量を喰らい、今にも俺の頭はパンク寸前なのだから。
…長門の話が事実なのだとしたら。今まで俺たちが信じていた歴史が根本からひっくり返る事態へとなってしまう。
なぜなら…歴史教科書通りに倣うのであれば、人類は一つの直線上のもと段階的に進化を遂げていった
というのが通説のはずである。それがどうだ?長門曰く、これまで世界は何度も滅んでいるというではないか。
とすれば、人類の歴史というのは一つの直線状で置き換えることのできる短絡的なものではなく、
ゼロからのスタートをたびたび繰り返す途切れ途切れの断続的史実に他ならない。こんな事実、言わずと知れた
歴史学者が知るものならおそらく発狂ものであろう。これまでの史観概念が悉く粉砕されてしまうのだから。
そして、長門から聞かされた世界滅亡の仕様に何かしらのデジャヴを俺は感じる。
一度目は火で滅び、二度目は氷、三度目は水…どこかでこの光景を見たような覚えがあるのだが。
気のせいか?
232 :
◆i1mmP3RsKA :2010/10/22(金) 00:18:13.43 ID:gFWRR+KIO
これにて前編3は終了です。次の前編4は次の1時に少し投下して、それで寝ようと思ってます。
…いつまで前編が続くの?と思ってる方がいるかもしれませんが、一応次の4で前編は終了です。
そして次からは中編へと入っていきます。設定がいろいろぶっ飛んでますが、それらのハルヒとのつながりも
これからどんどん煮詰めていくつもりです。とりあえず、支援してくれた皆さんありがとうございました!
233 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/22(金) 00:28:24.56 ID:CTlRbGgQ0
一旦乙
一旦乙!支援
235 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/22(金) 00:47:03.46 ID:/FJm/quaO
ここまで読みごたえあるのは久しぶりだ
期待
236 :
涼宮ハルヒの天啓 前編4 ◆i1mmP3RsKA :2010/10/22(金) 00:55:13.25 ID:gFWRR+KIO
しばらくして食事を食べ終える古泉と朝比奈さん。再び話は再開する。
「さて、長門さんはようやく【過去】の話を終えたわけですが…ということは、
今度は何を話すか…大体予想はつくでしょう。洞察力の鋭いあなたならね。」
別に鋭くはないがな。
「お前が【過去】って言葉を強調したことから察すると、今度は【今】についてでも語ろうってか?」
「ご名答です、さすがですね。これから話すことは事態の核心に迫る代物です。
少し気を引き締めて聞いてもらえると嬉しいです。」
まあ、もとからそのつもりだ。
「いきなりですが、【フォトンベルト】という言葉をご存じですか?」
「本当にいきなりだな…ああ、聞いたことはあるぞ。よくテレビの怪奇特番だので、
最近おもしろおかしく扱われてる題材だろ?」
「その通りです。ではフォトンベルトについて、あなたはどこまで知っていますか?」
「んなこと言われてもな…聞いたことがあるってだけで全然詳しくはないぞ。
確か地球を滅ぼす類のものだったような記憶が。」
「それを知っていれば十分です。おそらく今から話す内容も、あなたなら差し支えなく理解することができるでしょう。」
「ならいいんだけどな。で、いい加減フォトンベルトとやらがハルヒとどう関係があるのか話してくれないか。」
「では、まずフォトンベルトの定義についてあなたに説明したいと思う。」
再び長門先生の出番だな、よろしく頼むぞ長門。
237 :
涼宮ハルヒの天啓 前編4 ◆i1mmP3RsKA :2010/10/22(金) 00:57:37.01 ID:gFWRR+KIO
「フォトンベルトとは、銀河系にあるとされている高エネルギーフォトン、即ち光子のドーナツ状の帯。」
いきなり高度な説明がきたな。
「要は光子の集合体ってことか?」
「その認識で問題ない。話を続けるが、太陽系はアルシオーネを中心に約26000年周期で銀河を回っており、
その際、11000年毎に2000年かけてそのフォトンベルトを通過するとされている。」
「すまん長門…アルシオーネとは何だ?」
「プレアデス星団の中心的な星の呼称。」
「また質問してすまんが…プレアデス星団とは??」
「銀河系に属する新しい星団のこと。地球からおよそ10光年の距離にある。」
なるほど、わかりはしたが…なんとも掴みどころがない感じで 正直イメージし難い。
宇宙に関する知識があまりない俺には必然事項か。
「何やら苦しんでいる様子ですね。」
そりゃそうだろ古泉… 一端の高校生が大学で習うような
天文学的単語を聞かされているんだ。無理もないとは思うがな。
「できる限りわかりやすく説明するのであれば、初秋の夕暮れ時…東の空にて見られる青白い星の集団、
それがプレアデス星団です。我が国ではスバルと呼ばれ古くから親しまれています。
あなたも、この名前くらいはどこかで聞いたことがあるのでは?」
そう言われればなんとなくわかる気はする。 いや、やっぱりわからん。
238 :
涼宮ハルヒの天啓 前編4 ◆i1mmP3RsKA :2010/10/22(金) 01:00:26.38 ID:gFWRR+KIO
「…長門よ、フォトンベルトについてもう少し詳しく説明してくれないか?
ハルヒと関係があるない以前に俺があまりに無知すぎて、そもそも判断ができん。」
「了解した。では、まず【フォトン】について細かく説明したい。フォトンとは光エネルギーのことで、
粒子であると同時に電磁波としての性質を持っており、日本語では光子と訳されている。」
つまりは光エネルギーってことか。
「ところで、酸素や水素などの元素は原子から出来ていることはご存じ?」
「…いくらなんでもそれくらいはわかるぜ。授業でも習ったしな。」
「これらの原子の中心に陽子と中性子からできた原子核があり、その周りを電子が回っている。
この電子とその反粒子である陽電子が衝突すると双方とも消滅し、2個または3個のフォトンが生まれることが
知られている。地球上にはこうして生成されたフォトンの他に、太陽から飛来したフォトンが存在している。
太陽内部の核融合反応によっても生成された厖大な量のフォトンは地球に向かって放射され、
その一部は地球大気の吸収や散乱などを受けながら、粒子の状態で地表に達している。」
すまん長門、後半ほとんど聞いてなかった…この場合、この聞くという動詞には
英語ならばcanがついているところだろう。聞いていないのだから、即ちcan'tだ!
239 :
涼宮ハルヒの天啓 前編4 ◆i1mmP3RsKA :2010/10/22(金) 01:02:41.95 ID:gFWRR+KIO
「つまりこういうことだろ?さっきお前が言ってた10光年離れたプレ…プレなんとか」
「プレアデス星団。」
「そう、それそれ。そこに今言ったフォトンとやらが密集してる、それがフォトンベルトってことなんだろ?」
「そう。」
何だ、案外フォトンベルトって簡単じゃねえか。難しく構える必要もなかったな!
…こういうときハルヒがいてくれれば俺に厳しいツッコミをしてくれたものを…。
『何得意げにアホ面してんのよこのバカキョン!?ただわかった気になってるだけじゃないの?』との侮蔑に対し、
『調子のってすみませんっした。』と、面白くもないコントを繰り広げていたであろうことは安易に想像できる。
今となってはノリツッコミで悲しいだけだが。とりあえずだ、フォトンベルトをイメージとしてだけでも
捉えられるようになったのだから、俺にとってはそれでもう十分だろう。俺にとっては。
「ただ、地球のそれとは桁違いの量のフォトンが充満している。」
え?地球にもフォトンとかいうのはあったのか?あ、もしかしてさっきの話にあったのか…聞いてなかった。
それより今話すべきは…
「ええっと…そんな桁違いのフォトンが集まってるフォトンベルトってのはあれか?危険な存在ってことなのか?」
「少なくとも、人類にとってみれば、あまり好ましいものではないと言える。」
俺が以前テレビ特番で見たように、フォトンベルトが地球滅亡と結び付けられていた理由も
今ようやくわかったぜ。そんな複雑な事情があったとは。
…ん?待てよ。
240 :
涼宮ハルヒの天啓 前編4 ◆i1mmP3RsKA :2010/10/22(金) 01:05:03.68 ID:gFWRR+KIO
「だがな、長門。少なくとも俺が見た番組内では、否定派が肯定派を圧していたぞ。否定派からすれば
フォトンベルトの危険性とかいうのは… 一部の疑似科学信仰者やオカルティストが存在と影響を主張するだけで
科学的根拠はないとか何とか。現にそう言っていた科学者もいたようだし…このへんはどうなんだ長門?」
「確かに、フォトンベルトというのは物理法則的にはありえない。なぜなら、そもそもフォトンは光子であり
フォトンの帯が形成されることは基本ない。それに加え、太陽系は銀河系中心に対して約2億2600万年周期で
公転しており、プレアデス星団を中心に回るということは考えられない。実際に26000年周期で太陽系が
銀河系を公転したとすると光速度を超えてしまい、即ち特殊相対性理論に反するのは必至。
仮にプレアデス星団を中心に回っているとすると、そこには銀河系を遥かに上回る質量がなければならない。
フォトンベルト説では地球がプレアデス星団の周りを回っている説と、わずか26000年で銀河を回るという二説が
それぞれ矛盾する、にもかかわらず併記されていることが多い。よって、フォトンベルト説が
暴論だと捉えられても無理はない。」
なるほど、全くわからん。
とりあえず…だ。フォトンベルトとやらが存在しえない産物であろうことだけは何となくわかった。
「フォトンベルトが存在するかどうか怪しいものなんだとしたら、なぜお前や古泉は執拗にフォトンベルトについて
俺に詳しく説明してくれていたんだ?おまけにだ、お前さっき『人類にとってみればあまり、好ましいものではない』
とか言ってなかったか。それを言うからには何か根拠があってのことだよな?一体どういうことなんだ?」
「涼宮ハルヒの能力が関与すれば、強引にでもそれらの物理法則を捻じ曲げることは可能。」
??なぜそこでハルヒがでてくる??
241 :
涼宮ハルヒの天啓 前編4 ◆i1mmP3RsKA :2010/10/22(金) 01:08:13.32 ID:gFWRR+KIO
「涼宮ハルヒが、無意識であっても再び世界が滅ぶことを望めば…
存在不確定のフォトンベルトを実在するものとして、物理法則を無視して作り上げることは可能。
なれば、フォトンベルトが人類にとって最悪の方向へ向かうのは必然。」
なんてむちゃくちゃな…科学万能説終了のお知らせ。そうか、そういやハルヒには
願望を実現させる能力があったんだっけか…それなら可能っていう話もわかる。だが
「何をバカなことを言うんだ。ハルヒが世界を滅ぼす?あいつがそんなことを
思ってるとでもいうのか?いくら常人離れしたやつとは言え、そんなこと望むはずがないだろう??」
「あなたがそう言いたくなる気持ちもわかります。しかし、あなたにはついさっき長門さんが
話してくれたばかりなんですがね。涼宮さんが過去に何度も世界を滅ぼしたことがある、ということを。」
ッ!
…なぜ俺はあのとき、こんな当たり前の質問を思いつかなかったんだろうかと思う。話の複雑さゆえに
思考がよく働いていなかったせいなのか?…何にせよ、今なら俺はこの質問を投げかけられる。
「そもそもだな…ハルヒはどうして世界を滅ぼしたりなんかしたんだ?」
根本的な疑問である。事の根幹を成す疑問である。これが解消されなければ…
とてもではないが、俺は平然としていられることはできなくなるだろう。
「神だから…としか言いようがないのではないですか?」
…ハルヒが神みたいな存在だってことは認めてやる。長門の一連の話を聞いても、
尚それに抗うような野暮な人間では俺はないんでね。だがな…神であったとしてもだ、
それは全然理由になってないんじゃないか古泉?神だから滅ぼすだと?一体どういう理屈だ。
242 :
涼宮ハルヒの天啓 前編4 ◆i1mmP3RsKA :2010/10/22(金) 01:10:29.28 ID:gFWRR+KIO
「本質的な理由はもはや本人以外には知りようがないでしょうね。ですから、憶測を挟む余地が
あるのだとしたら、もはや我々には『神だから』という稚拙な理由でしか返答できないんですよ。」
だから、その『神だから』の意味がわからないんだが…
「涼宮さんが地球を滅ぼした時、世界はいつもどういう状況でしたか?
長門さんの説明を思い出してみてください。」
「…人間が私利私欲に走った挙句、戦争を起こしたんだよな。覚えてるぜ。」
「その通りです。ならば、世界の統治者とも言える神が…そのような世界を望んで維持させようとは思いますか?」
「…だから滅ぼしたってのか。」
「神という存在の捉え方にもよりますがね。争いが無く人々が幸せに暮らせる世界…
恒久平和が続く完璧な世界を創りあげたかった…のではないか。僕はそう考えています。」
…確かに、ハルヒがそういった類の理想郷を構築せんと邁進していたであろう事実は
長門の説明からみてとれる。その瞬間だったか、俺の中に新たなる疑問が生まれる。
「…ハルヒは第一、第二、そして第三世界時においては自分が神だっていう自覚はあったわけだよな?
まあ、もともとが神の分身だったらしいから当たり前っちゃ当たり前なんだが。それでだ、なぜ今のハルヒには
その自覚がない?そして、なぜ神という自覚がないにもかかわらず、フォトンベルトに干渉できる?」
「涼宮さんになぜその自覚がないのか…それについては返答しかねます。しかし、涼宮さんが
徐々に神としての意識を取り戻し…そして、それが何らかの経路で深層心理に働きかけていたとしたならば…
無意識にでも能力は発動し得ます。無意識にでも。それは、あなたが一番よくご存じのはずです。」
「ああ…確かに、あいつはそんな芸当が成せるやつだよな。それなら、いつからあいつにそんな自覚症状が
現れ始めた?いつ、そしてどういった契機でそうなったのか…それについては何か知ってるか?」
「涼宮ハルヒに異変が生じたのは昨日の…およそ午後6時15分あたり。」
243 :
涼宮ハルヒの天啓 前編4 ◆i1mmP3RsKA :2010/10/22(金) 01:13:05.05 ID:gFWRR+KIO
なんだと??その時間帯って確か
「そう。涼宮ハルヒの意識が途切れ、失神した時間帯とほぼ同時刻。ならば、その時間帯にて
涼宮ハルヒに対し外部から何らかの干渉があったのは確実。肉体的打撃の痕跡がなかったことから、
重度の精神的ショックにより意識を奪われたと考えるのが妥当。」
「原因は??なぜそんなことに??」
「あの時間帯にて、私は微量ながら通常の自然条件においては発生し得ないほどの異常波数を伴う波動を
観測した。気になるのは、それが赤外線・可視光線・紫外線・X線・γ線等、いずれにも属さない
非地球的電磁波だったこと。これら一連の現象が人為的なものであると仮定するならば、現在の科学技術では
到底成し得ない高度な技術を駆使していることに他ならない。その波動が涼宮ハルヒの脳波に何らかの影響を
及ぼし、結果として『自身は神である』というある種の覚醒を引き起こしたのではないかと私は考えている。」
……
「そして、これはあなたの先程の質問に対する答えとなるが…涼宮ハルヒの全容を私が知ったのもこのとき。
卒倒時、涼宮ハルヒから膨大ともいえる量の情報拡散を確認、同時に私はその解析にあたった。ただし、
その情報量が私個人のスペックをはるかに凌駕するものであったため、大雑把な客観的事象を除いては、
私は解析を中断せざるをえなかった。即ち、私があなたたちに話した内容というのは非常に断片的なもの。
十分な情報摘出ができず、私は申し訳なく思ってる。」
…いや、むしろ俺はそれに対し感謝せねばならないだろう。断片的だったその情報に関してですら、俺は
理解が追いつかなかったのだから。それ以上の説明をされたところで頭がオーバーヒートしてしまうだけであろう。
「長門さんは、本当によく頑張ってたと思います!」
珍しく声を張り上げる朝比奈さん。一体どうしたのだろう?
244 :
涼宮ハルヒの天啓 前編4 ◆i1mmP3RsKA :2010/10/22(金) 01:15:32.09 ID:gFWRR+KIO
「実はあのとき…彼女は」
「古泉一樹、朝比奈みくる。そのことは他言無用と言ったはず。」
「すみません長門さん。しかし、彼には伝えておくべきです。いえ、僕が彼に知っておいてもらいたいのです。」
「そうですよ!またあんなことが起こったらどうするんですか!?
キョン君を心配させたくないって気持ちはわかりますけど…それでも!」
何だ何だ??長門に何かあったってのか?!
「実はですね、あのとき僕たちが止めなければ彼女は…ちょうど内部容量を超え
フリーズしてしまったパソコンのごとく、二度と機能しない体になっていた可能性があるんですよ…。」
パソコンは電源を落として起動させればまた使えるようになる。しかし長門はどうだ?
いくら情報思念統合体とはいえ、体は人間のそれと一緒なはず。そんな彼女がフリーズを起こしてしまったら…?!
「長門!?どうしてそんな無茶なことを!?」
245 :
涼宮ハルヒの天啓 前編4 ◆i1mmP3RsKA :2010/10/22(金) 01:17:41.78 ID:gFWRR+KIO
おそらく長門のことだ…無理やりだとわかってても、なるべくなら
情報の取りこぼしは防ぎたかったのだろう。だが…それとこれとは別問題だ。
「以前言ったよな!?無茶はするなって…!何かあったら俺に言えって…!そりゃ、あのとき俺は
ハルヒのとこに向かってていなかったし、仮にいたとしても俺のような一般人がその解析とやらを
助けてやることはできんかったろうが…そういう問題じゃねえんだよ!俺も、そして古泉や朝比奈さんもだが…
お前の無理するとこは誰も見たくねーんだ!!ここにはいないがハルヒもな。だから…長門、俺に約束してくれ。
二度とこんな真似はしないってな。もしやるようなら…罰金だからな?それがSOS団ってやつだ。」
「…っ。」
罰金という言葉に反応したのか、それまで重かった(ように見えた)長門の顔色が不意に明るくなる。
「…わかった。私も、罰金は払いたくない。」
シャッターチャンスだったかもしれない。そう思わせるような…優しい表情だった。
246 :
◆i1mmP3RsKA :2010/10/22(金) 01:21:24.29 ID:gFWRR+KIO
とりあえず、今日はこれにて終わろうと思います。前編4の続きは…昨日言ったのと同じく
夕方頃に書こうと思いますが、余裕があれば朝にでもまた書くつもりです。それでは、お疲れ様でした!
247 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/22(金) 01:43:41.93 ID:gFWRR+KIO
保守
保守
249 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/22(金) 02:34:25.97 ID:gFWRR+KIO
疲れてるのになぜか寝付けないときってありますよね…ほしゅ
250 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/22(金) 03:28:38.53 ID:k3c5uIkA0
寝る前に保守
251 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/22(金) 05:21:13.00 ID:gFWRR+KIO
ほ
…で、ふと思ったんだが…。
「もしそれが人為的なもんだったとしたら、犯人は未来人かもしれないってことか?」
「未来技術を応用しているのだとすれば、犯人が未来人であるという可能性は非常に高いと思われる。」
……
俺は思い出していた…二日前、放課後にて俺の下駄箱に入っていた… 一枚の手紙に書かれていたことを。
『どうか、未来にはお気をつけください。』
ハルヒをこんなことにしやがったヤツは未来人ってことかよ。
あの手紙の意味がようやくわかったぜ…朝比奈さん大には感謝しねーとな。
ふと朝比奈さんのほうを見る俺。
「え、ええっと、キョン君??今の話だと犯人は未来人だとか何とかそういうことらしいですが、
決して私は犯人じゃないですよ?!?どうか信じてください…。」
涙目ながらに懇願する朝比奈さん。どうやらこのかたは何か勘違いをなさっているようだ…。
「誰も朝比奈さんが犯人だなんて思ってませんよ!?」
「…じゃあどうして今私のほうをジロっと見たんですかぁ…?」
う…これはまずい。朝比奈さん大のことを思い浮かべ、朝比奈さん小をついつい見てしまったなどとは
口が裂けても言えない。なぜなら朝比奈さん大のことは本人(小)には話さないようにと…以前彼女と
そう約束したからだ。詳しい理由はわからんが…やはり大人となった自分に過去の自分が会ってしまう、
あるいは存在を認知されてしまうというのは、時系列上いろいろと問題が生じてしまうのであろう。
「いえ、この事件には未来が関与してるとか…そういったことが今しがたわかったので、
未来人である朝比奈さんは何かそういう情報を掴んでいないかなあと思って見たってだけの話ですよ。
何か知ってることとかありませんか?最近未来で不穏な動きがあったとか何とか。」
ふう、なんとか上手くごまかせたぞ。
「あ、そういうことだったんですね。…そうですね…不穏な動きですか…。」
「些細なことでもいいんです。何かありませんか?」
「…そういえば最近藤原君たち一派が事あるごとに時間移動していたのがちょっと気になります…。」
…やっぱりそうだったか藤原よ。一連の事件の一部始終がお前の差し金だったんだな。
まあ、朝比奈さん大と直接会って『藤原くん達の勢力には気を付けてください。』
と忠告されていた段階ですでに薄らと気付いてはいたんだが。
「長門よ、今朝比奈さんの言ったこと聞いたよな?ということは、犯人は藤原一派で確定か?」
「そ、そんな、時間移動といっても、もしかしたらそれは私のただの勘違いだったかもしれませんし、
たったそれだけの情報で藤原君たちを犯人扱いしてしまうのは…」
うーむ…朝比奈さん大にそう言われたと本人には言えないからなあ…苦しいところだな。
「もちろんその可能性もある。まだ確定したわけではないが、彼らを警戒するに越したことはない。
その場合、以前彼らと連動していた天涯領域や橘一派に対しても同様の措置をとるべきだと考える。」
長門の言うとおりだな。
「……」
何か言いたげな顔をしている朝比奈さん。一体どうしたんです?
「ええっと…犯人が藤原君たちでしろそうでないにしろ、
いずれにしても 犯人は未来人だっていうのはもう決まってるんですか?」
「可能性は非常に高いですね。」
「だとしたら、私にはなぜこんなことをするのか理解しかねます…。」
「?どういうことですか?」
「考えてもみてください。涼宮さんに神としての自覚を促すということは…つまり、この世界をもう一度
滅ぼしかねない可能性を与えてしまうってことなんですよ?当たり前のことですが、現行世界が消滅してしまえば
つまりは未来だって消滅しちゃいます。私たち未来人からすれば帰る場所が無くなっちゃうんですよ。
にもかかわらずそんなマネをするなんて…あんまりこういう言い方はしたくはないんですけど、これじゃ
自殺行為と変わらない気がします…そういう人たちがいるのだとしたら、とても正気の沙汰には思えません…。」
肩を落として悲しげな表情をする朝比奈さん。やめてください、あなたにはそんな表情似合いませんよ…。
それにしたって、朝比奈さんの言い分も至極当然である。一体どういった目的でハルヒにこんなマネをしたのか?
犯人が未来人だったとしたなら、なおさら考えさせられるべき問題だ。
「古泉、理由に関して何か見当はつくか?」
「こればかりは僕にもさっぱり…最大の謎としか…。」
「そうか…長門、お前は何かわからないか?」
「古泉一樹同様、見当の余地もない。何より、現段階では情報が少なすぎる。」
誰にもわからない…か。それならいくら悩んだって仕方あるまい。
…そういえば
「なあ、長門。」
「何?」
「仮にハルヒに神としての意識が復活したとしても、ハルヒがこの世界を好きになれるように…
維持したいと思わせるように俺たちが働きかけることができるようなら、世界は消滅せずに済むんじゃないか?
原理的にはあれだ、いつぞやの閉鎖空間のときみたいにな。」
「…それは非常に厳しいと思われる。」
どうして!?と言いそうになったが改めて考えてみりゃ、ハルヒは過去三度も世界を滅ぼしてしまった
神様なわけで、そういう事例がある限り俺らがいくら説得したところで態度を変えるかどうかは…
常識的に考えたらそれは困難だろう。いや、困難どころか不可能に近いかもしれん。だが
「万が一にでも説得に成功すれば世界は崩壊せずに済む…そういうことだよな?
可能性がゼロじゃない限りは、希望はあるはずだよな?」
しかし、長門から発せられた言葉は…無機質で冷めていた。
「仮に成功したとしても、事態の解決は望めない。」
……
一瞬『万事休す』という言葉が頭をよぎる。
…ちょっと待ってくれ… 本当にどういう状況なんだ??
「涼宮ハルヒの能力は、あくまでフォトンベルトによる人類への悪影響を助長しているに過ぎない。」
わけがわからない。
「つまり涼宮ハルヒの能力の有無には関係なしに、
フォトンベルトは人類にとってマイナスベクトルへと推移している可能性がある。」
…え?
「お、おいおい…それじゃあアレか!?ハルヒが望むにしろ望まないにしろ…
いずれにしても世界は滅ぶ運命にあると、お前はそう言いたいのか??」
「そういうことになる。」
「待ってくれ!?さっきハルヒの能力無しには地球崩壊の科学的根拠は成立しないって言ってたじゃねえか?
それにだ、そもそもフォトンベルトとかいうのが存在するかどうかも疑わしいんだろ?ハルヒが望めば、
お前がさっき言ったように物理法則でも無視してフォトンベルトとやらを作りあげるんだろうが…
裏を返せば、つまり望ませなければ、そんなもんも誕生しないってことだろ??
それなのに、なぜお前はフォトンベルトがあること前提で話を進めているんだ??これじゃ納得できねえ…!」
「きょ、キョン君!落ちついてください!長門さんだって、私たちと気持ちは同じはずなんです!」
……
朝比奈さんが叫ぶなんて珍しいこともあるもんだ。そのせいか…体から熱がひいていくのがわかる。
しまった…俺は熱くなり過ぎていた。無意識だっただけで、俺は長門に対して
どことなくぶっきら棒な言い方になってしまってたんじゃないのか…?
「あ…すみません、出過ぎた真似でした…!長門さんにも…勝手に気持ちを代弁しちゃってごめんなさい…。」
「いい。私もこの世界は安寧であってほしい。それはあなたたちと同じ。」
「朝比奈さん…むしろ言ってくれてありがとうございます。おかげで冷静さを取り戻せました。
それと長門…ゴメンな。お前を問い詰めようとか、そういうつもりはなかったんだ。」
「わかってる。言うなれば、【フォトオンベルト】の定義を曖昧のままにして話していた私のミス。
存在の確証も無しに【フォトンベルト】という語源を安易に会話に使用していたのは相手に誤解を招くには
十分な行為であり、私の不覚といたすところ。従って、次回から私の言う【フォトンベルト】とは、
あくまでそれに類似した何かであって、いわゆる一般的に厳正定義されているフォトンベルトとは
差別化することをあなたに伝えておく。これでいい?」
「つまり長門さん、こういうことですよね。確かに、『いわゆる肯定派が唱えるフォトンベルト』が
存在する確証などどこにもない。しかし、フォトンベルトに近しい何かが太陽系全体に接近しているのは
紛れもない事実であり、いくつもの科学データがそれを証明している。そして、その事実が地球に
害を及ぼしかねない可能性を示唆している。」
「そういうこと。」
古泉がフォローに入ってくれた。なるほど、なんとなくだがわかってきたぞ。つまりフォトンベルトではなく、
近しい別の何かと考えればいいんだな。ただ、その近しい別の何かの具体的呼び名が今はない。
ゆえに、とりあえずは暫定的に【フォトンベルト】という呼び名でこの場は定着させましょうということだ。
……
って、近しいって何ぞや??
「長門、近しいって何ぞや??」
反射的に心の声がダイレクトに出てしまった。だってその通りなんだから仕方ないじゃないか!
そうだろう??ただでさえフォトンベルト自体が意味不明なのに、それに近しいって一体全体何なんだ?!?
「フォトンは先述したように…」
しかし、そんな俺のふざけた口調にもかかわらず長門は黙々と答えてくれている。
何も反応がないってのも…それはそれでちょっと悲しいもんだな…。いや、待て
一瞬だったが、俺は長門の口がにやけたのを見逃さなかった。
「電子と…反電子の物理、的崩壊によって…」
言い方も何かもぞもぞとしておかしい。確信した、長門は間違いなく俺の『何ぞや』に受けている。
なんとも、世の中には変わった笑いのツボをお持ちのかたがいるもんだ。
「長門…そんなに何ぞや?がおかしかったのか?」
「今話してる途中…というか、そんなことはない。」
「無理しなくていいんだぜ?」
「そんなことはない。」
「ホントか?」
「そんなことはない。」
「やっぱ面白かったんだろう?」
「そんなことはない!」
!?
「おやおや、キョン君も人が悪い。まさか女性を辱めて悦に浸る趣味をお持ちとは、思いもしませんでしたよ。
そのせいでしょうか、長門さんも随分とご立腹のようです。」
「そうですよキョン君。せっかく長門さんが一生懸命お話していたのに…そりゃ長門さんでも怒りますよ!」
なんということだ…長門には怒られ、古泉と朝比奈さんはその長門の援護射撃に入ってしまわれた。
さらば俺フォーエバー!
「…とにかく、話を続ける。」
「長門マジすまん、許してちょんまげ。」
「…今の…面白かったから…許す…っ。」
「キョン君、あなたは本当に何を言って…呆れて笑いが込み上げてきたではありませんか。」
「ちょ、キョン君、こんな重要な話の途中に何言って…くっあはは。」
朝比奈さんの言うとおりだよ。何言ってんだよ俺は…??ハルヒがいないからって
テンションがおかしくなってるんじゃないのか??いや…こんな重たい話だからこそ
反動で笑いを取りに行ってしまったのかもしれない。何にせよ、こういう空気もたぶん必要…だと思う。
「本当に話を戻す。フォトンは先述したように電子と反電子の物理的崩壊によって生まれた光の粒子だが、
人間が一般的に知る光とは異なり、多次元の振動数を持つ電磁波エネルギー。したがって大量のフォトンに
さらされたとき、真っ先に重大な影響を受けることになるのは地球の地磁気や磁気圏…最も深刻な影響は
地球磁場の減少。19世紀初頭以降、その動きが活発化。その減少率が……」
話は続いた。
260 :
涼宮ハルヒの天啓 前編4 ◆i1mmP3RsKA :2010/10/22(金) 05:52:46.50 ID:gFWRR+KIO
その後も長門から様々な科学データの提示、説明を受けた。地磁気減少による地球被害はもちろん、その他にも
太陽系惑星が総じて地球と同じ温暖化現象にあるということ、天王星や海王星でポールシフト即ち地軸移動が
起きたということ、土星や金星の明るさが劇的に増しているということ、周期的に沈静化するはずの太陽黒点が
一向に衰えないということなどなど、それはそれは幾多の情報処理に膨大な時間を削られたさ、ああ。
……
ふう…
あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
…と発狂したくなるところだったが、俺にも人並みの精神力がある。心の中では叫んでいても、
実際それを口に出したりはしないさ。つまりである、俺は長門や古泉による複雑怪奇&高度な説明を
長時間に渡って聞き続け、すでに俺の脳内は限界に達してしまっているのである。言わずもがな、
思考回路も悲鳴を上げてしまっている。このままではまずい…俺は古泉に渾身の一言をぶつける。
「古泉、休憩をとらないか?」
「奇遇ですね。実は僕もあなたと全く同じことを考えていたところだったんですよ。」
話に夢中だった俺は気付かなかったが…いつのまにか古泉の顔も、俺に負けんと言わんばかりの
疲弊具合ではないか。そして、朝比奈さんも朝比奈さんで同様の様子。
そうか、みんな疲れていたのか。そりゃ無理もないさ。
「食事を食べ終えた後ですし、ここはみんなでデザートでも取りませんか?
甘い糖分は思考を活性化させてくれますし、気分転換も兼ねて一石二鳥というものです。」
良いことを言うじゃないか古泉よ。いい加減何か甘いもんが欲しかったところだ…
疲れを癒すためにも、俺はこの久々のくつろぎ空間を思う存分味わうことにしよう。
注文を聞きにこちらへとやって来る店員…まあ、つまりは森さんなわけだが。
「私はバニラカフェゼリーでお願いします♪」
「そうですね…では僕はチーズケーキを。」
「私は白玉アイスを希望する。」
「俺はチョコレートパフェで。」
「バニラカフェゼリー、チーズケーキ、白玉アイス、チョコレートパフェをそれぞれ一つずつですね。畏まりました。」
颯爽と去っていく森さん。これで数分後には美味しいデザートにありつけるというわけだ…。
「おやおやキョン君、早く食べたそうな感じですね。」
「当たりめーだろ。そういうお前も同じ穴のムジナだ。」
「バレてしまいましたか。腹が減っては戦はできぬとは、よく言ったものです。」
戦じゃなくて話し合いだけどな…まあ、いずれにしろ疲れることこの上ないが。
「私も早く食べたいですうぅ…。」
干からびたかのごとくぐったとしている朝比奈さん。待ち遠しい気持ちは十分わかりますよ。
「長門、お前はいつもながら平静を装ってるわけだが、やっぱりお前もデザートが待ち遠しいか?」
「待ち遠しいか?と聞かれれば、間違いなく今の私は『はい』と答える。」
つまり待ち遠しいんだな。
そんなこんなで、ゾンビのごとくうなされていた俺たちのもとに…
5分後くらいであったろうか、ようやく希望の品が届いたのであった。
「ゆっくり召し上がってくださいね♪」
またまた颯爽と立ち去っていく森さん。言われなくともそうしますとも。
……
口の中にゆっくりと広がる甘いチョコの味…くうぅぅ!これはたまらん。
状況が状況だっただけに余計に美味しく感じるぞ。
「ああ…幸せです♪」
「さすが新川さん、良い仕事をしてますね。」
朝比奈さんも古泉も甚だしくご満悦の様子だ。
「いつか…。」
ん?何か言ったか長門?
「私もいつか、こういうアイスのような…美味しくて甘いデザートを作れるようになりたい。」
!?
… 一瞬びっくりしたぜ。お前がまさか、こんな女の子らしい言葉を口にするなんてな。
お前の料理熱はカレー方面だけかと思い込んでいた俺だったが…どうやら料理全般に興味があるようだな。
一体いつのまに…?いつの日か、お前がデザートを作れる日を心待ちにしてるぜ。
さてさて、二重の意味で甘い時間を堪能していた俺たちであったが、いつまでもデザートに
甘んじているわけにもいくまい。本当は延々とのんびりくつろいでいたいが…ココに来た本当の理由を
忘れちゃいけねえからな。ハルヒの今後がかかってる重要な会議ってことくらい…いくら怠慢な俺でも
常時頭の隅っこには入れておいたさ。そもそも、ファミレスでこんな深刻な話をしていたこと自体、
客観的に考えれば信じられないことこの上ないが…とりあえず、話を再開させるとするぜ。
しんどいが、これもハルヒのためだ。
「で、他に何か俺に話さなきゃならんことはあるか?」
「実はですね、これと言ってあなたに話さねばならないことはもうないのですよ。」
「何、そうなのか?」
「ええ、そうです。実に長きにわたって頭が痛くなるような話を聞いていただいて…本当に今日はお疲れ様でした。」
「…いやいや、お前も説明いろいろご苦労だったぜ。」
「それはどうもです。…そうですね、何か我々に尋ねておきたいことはありますか?
その質問に応じて、今日はお開きにしたいと思ってます。みんな疲労困憊のようですしね。」
尋ねたいこと…と言われてもだな、俺が今日どんだけ長門先生にご師事を受けたと思ってんだ…
彼女が一連の説明において、何か取りこぼしているようには全く思えない。ゆえに、俺には
質問すべきことなど何一つ残されてはいないのである。よし、それじゃあ今日はこれでお開きとするか。
……
…?
…何か喉につっかかる…はて、一体これは何だろうか。
疲弊しきった頭をフル動員させ、その違和感を探索すべく渾身の力を振り絞る俺。
……
夢…
そうだ、夢のことだ…!
「みんな、ちょっと俺の話を聞いてくれ…。」
俺は話したのだ。そう…昨日、一昨日と…俺が夢の中で一部始終見ていた惨劇を。もちろん、
話したのには理由がある。長門や古泉から今日受けた話と俺が見た夢との間に、随分な数の類似点を
見出したからだ。聞いてるときに感じたデジャヴ感とは、このことだったんだな。
……
「なるほど…確かにその夢はいろいろと筋が通ってます。例えば地球滅亡の様子においては
火→氷→水と…見事に涼宮さんの第一、第二、第三世界崩壊の末路と被っていますね。
そして水に包まれた後、地球が消滅…正しくは見えなくなった…そうですよね?」
「ああ、そうだ。」
「それも実は説明がつくんですよ。フォトンベルトの作用に照らし合わせればね。」
何、あれはフォトンベルトによるものだったのか??
「そこのところを詳しく説明したいと思う。実は、地球はフォトンベルトの周辺部にあるヌルゾーン
と呼ばれるエリアに突入する際、暗黒の中で星さえ見ることが出来ない状況に置かれる可能性がある。」
「暗黒?まさか地球が見えなくなったのはそのせいか…?で、それは一体どういう原理だ??」
「光子の影響で太陽光が視界から遮られる状況に置かれるから。
光源体が無ければ、人は物を識別することはできなくなる。」
「太陽光が全く当たらなくなるだって?それはあれか?例えばある場所が昼時ならば、
その地球の反対側に位置する場所は夜だとか…そういう当たり前の話じゃないってことか?」
「そう。地球の球体全てが暗闇に包みこまれる…そして、太陽光が当たらなくなった際には
地球全土で寒冷化現象が起こり、瞬く間に地球は極寒の地へと変貌する。」
恐ろしい事態だなそりゃ…
「それだけではない。地球の電磁気フィールドがフォトンエネルギーによって崩壊させられることにより、
あらゆる電気装置が操作不能となる。もちろん、人工的な照明器具類も一切用を足さなくなる。」
「つまり…完全なる暗闇…ってわけか。」
「そういうこと。」
……
万が一にもそういうことになれば、本当に地球は終わってしまうではないか。
「ちなみに…フォトンベルトに完全に突入するとされる時期はいつ頃かわかるか…?」
「今年2012年の12月23日だと推定される。その場合、翌日24日までに第四世界の崩壊は完了される。」
……
俺が二日前に見た夢の世界での日付を俺は覚えている…
ああ、長門の言うとおりだ、確かに12月23日だったよ…あの忌まわしい日はな…。
…なるほど、今の長門の説明で全てに納得がいった。
冬にもかかわらずの酷暑は地磁気の漸進的低下による環境変化のせい…
有り得ない規模の大地震は地球の磁場が消滅したせい…
助けを呼ぼうにも携帯電話やラジオが全く機能しなかったのは光子による電磁波のせい…
ハルヒを見つけた際に辺りが真っ暗になったのは太陽光が遮断されたせい…
その直後に急激に冷えだしたのは寒冷化のせい…
……
あの夢は…まさか予知夢だったとでもいうのか?じゃあ、まさか本当にあんな出来事が後一カ月ちょいで…
いや、ふざけんじゃねえ…!?指をくわえて、家族や友人が死ぬのを待ってろってか?
「そんな未来、俺はぜってぇ認めねえ…。」
「何一人でいきりたってるんですか貴方は。『俺』じゃなくて『俺たち』でしょう?」
「そうですよ。私たちも協力しますから!絶対にそんな未来になんかしちゃいけません…!」
「もちろん、私も協力する。」
「みんな…ありがとう」
本当に良い仲間に恵まれたと思う…俺は。
「…それにしても、どうしたって俺はあんな夢を見ちまったんだ?
予知夢にしたって、俺にはそんなもんを見れる特異体質だの何だのあるわけでもない…。」
「…これは僕の推測ですが。おそらく、あなたに未来を見せたのは涼宮さんの力によるものでは?
一度目、そして二度目の夢にも際して涼宮さんの…助けを求める声が聞こえたらしいじゃないですか。
それが何よりの証拠かと。」
……
つまり、ハルヒは俺に助けを求めていた…?
「無意識ながらも神としての自覚を取り戻しつつあったのなら…
キョン君に地球の崩壊を止めてほしかった…からじゃないかな?私にはそう思えます…。」
朝比奈さんの言うとおりなのだとしたら、俺が翌日ハルヒに対して思っていたことは
杞憂でも何でもなかったことになる。俺の読みは間違っていはいなかってことかよ…
できればはずれてほしかったがな。まあ、もはやそうも言ってられまい。
「とりあえず俺のことはこれで置いといてだな、これから俺たちは何をすればいいんだ?
どうすればハルヒと…そして世界を救える?」
「有効な策が現時点では思いつかない…というのが実状ですね…情けないですが。」
「そうですね…相手が未来人なのなら尚更です。万が一にも追い詰めたとしても、時間移動されてしまうのが
オチでしょうし…それに、まずどこにいるのかもわかりません。他の時間平面上に潜んでいて、涼宮さんに
干渉する時にのみこちらの時間軸に顔を現したりするようでしたら、こちらからは何も手が出せません…。」
「つまり…ハルヒの近くに連中が現れるのを待つしかない…と?」
「端的に言えばそうなる。」
「少しばかり悔しいですがね。こればかりはどうしようもありません。」
古泉、長門、朝比奈さんの言うことに倣うのであれば、つまり、今俺たちにはハルヒを見守ってやることしか
できねえってことか…納得いかねえが、しかし仕方ないことなのだろう。その代わり、連中が現れた際には
全力をもってハルヒは守るつもりだがな。よしんば、ヤッコさんも袋叩きにできれば言うこと無しだ。
…ああ、わかってるさ、そう簡単に上手く裁ける敵じゃねえってことくらいな。なんせ相手は未来人だ。
でも俺には頼れる仲間がいる…そう思えば少しは気が楽になるってもんだろう…。
そんなこんなで今日はお開きとなった。言うまでもないが、俺は今から家に帰って睡眠をとる必要がある…
いくらハルヒを守ると言えど、万全な体調で挑まねばそれこそ意味がない。万一にも思考回路が働かない
などという事態に陥れば、それこそ本末転倒であろう。それに、一旦長門たちの話を整理する時間も必要だ。
時計を確認する俺。時刻は…朝の6時10分か。なんと、俺たちはいつのまに
こんなにもの長時間を会話に費やしていたというのか?時の経過は早いのだとつくづく実感する。
疲労した体で家に戻った俺は、早速ベッドに横になった。今すぐにでも眠りそうな勢いである…
昼夜逆転してしまったが、一日くらいどうってことないだろう。ハルヒのためだと思えば何ら惜しくはない。
……
寝る前に俺は夢のことに気づく。そういえば、またしても俺は何かしらの夢を見てしまうのであろうか?
昨日、一昨日と、見た内容が内容なだけに寝るのが恐ろしく感じられるが…しかし、
古泉や朝比奈さんの言っていたように、あれらがハルヒの俺に対する何らかのメッセージなのだとしたら…
俺はそれから目を逸らすわけにはいかないだろう。というか、そんなことは許されない。
…意識が薄れていく。そろそろ眠りに入る頃合い…か。
ま、覚悟はできてるぜ。どんな夢でもかかってこいや。
俺は ゆっくりと目蓋を閉じた
270 :
◆i1mmP3RsKA :2010/10/22(金) 06:24:32.80 ID:gFWRR+KIO
前編4終了です。これでようやく『前編』が完結しました。次回からは中編1へと移ります。
余裕あるときに保守はするにせよ、書くのはまた夕方頃にしようと思います。それでは。
大作乙乙
ファミレスで行われる世界滅亡対策会議か
ハルヒがマジに神だったり、続きが楽しみです
272 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/22(金) 07:05:26.06 ID:gFWRR+KIO
ありがとうございます。保守。
273 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/22(金) 08:24:45.70 ID:gFWRR+KIO
ほ
274 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/22(金) 09:24:50.25 ID:gFWRR+KIO
し
275 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/22(金) 09:43:53.69 ID:CTlRbGgQ0
く
さ
277 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/22(金) 10:28:53.40 ID:8gk5Ysyr0
う
278 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/22(金) 11:10:54.50 ID:0p8VwOXcP
め
279 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/22(金) 12:04:42.87 ID:gFWRR+KIO
よ
280 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/22(金) 12:05:59.69 ID:8gk5Ysyr0
え
保守
待ってるよ
282 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/22(金) 13:22:47.44 ID:gFWRR+KIO
保守!
283 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/22(金) 13:58:52.28 ID:9zbUTGXr0
ほしゅ
284 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/22(金) 14:59:46.79 ID:gFWRR+KIO
谷口「ほ、ほ、ほ、ほしゅれものー」
285 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/22(金) 16:14:25.97 ID:cdW51deIO
ほ
286 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/22(金) 16:23:41.05 ID:OJykN8Y30
保守するよ!
287 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/22(金) 16:58:00.35 ID:gFWRR+KIO
しゅ
ほしゅ
289 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/22(金) 18:02:38.34 ID:zXFcYOB7O
気づいたときに
おなかすいた
291 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/22(金) 18:27:28.82 ID:nRnLkq/aO
ハルヒってすげーよなあ……
ローゼンの普通の女の子は全く見ないのに
292 :
◆i1mmP3RsKA :2010/10/22(金) 18:32:45.98 ID:gFWRR+KIO
相変わらずの保守に感謝です。ところで、プロローグ〜前編4までwiki編集して掲載してきました
書き込めないPCですが編集はできたようで助かりました。
では中編1、投下始めます。
293 :
涼宮ハルヒの天啓 中編1 ◆i1mmP3RsKA :2010/10/22(金) 18:34:38.54 ID:gFWRR+KIO
俺は目を覚ました。
「朝か…。」
船上へと上がった。あまり塩水である海水で顔を洗いたくはなかったが…かといって、
船内に貯蓄されている真水を使うのは言語道断である。家族や動物たちが飲む貴重な水なのであるから。
顔を洗っていると…すでにみんなも起きたのだろう。何やら話し声が聞こえた。
「…放した鴉は帰ってきたか?」
「ああ、昨日の晩こっそりと戻ってきたようだぞ。」
「…未だとまれるところがないんだな…。」
「らしい。陸地という陸地は完全に海に呑まれてしまっている。」
「本当に第三世界は滅びてしまったのか?」
「それは神の知るところだろう…我々にできるのは祈ることだけだ。」
いい加減船上生活にも飽きてきたところなのだが…どうやら、そうは問屋が卸さないらしい。
一昨日くらいであったろうか、洪水が完全に収まったのは。それも、ただの局地的な洪水などではない…
40日40夜に亘って全世界を呑み込んでしまうほどの…史上稀に見ない地球規模の大洪水だったのである。
無論そういうわけで、生きとし生ける全ての物は滅ぼされた。
「お前たち、決して絶望してはならないぞ。神はきっと我々をお導きになる…それまでの辛抱だ。」
294 :
涼宮ハルヒの天啓 中編1 ◆i1mmP3RsKA :2010/10/22(金) 18:36:47.08 ID:gFWRR+KIO
先ほど俺が聞いていたみんなの会話に一人の男が割って入る。俺の伯父にあたるノアさんだ。
……
俺が今、こうやって生きていられるのは彼のおかげと言っても過言じゃないと思う。
実際俺たち一族が洪水から救われたのも、長であるノアの信心深さや善行ゆえにと言われている。
まあ、俺自身はそこまで敬虔だったわけでもなかったのだが…。
特にすることもない俺は船上をウロウロしていた。ふと、見晴らし台近くの階段にて座っている
一人の少女を見かける。非常に美しく上品な顔立ち…気のせいか光り輝いているようにも見える。
…見かけない顔だ。彼女は一体何者なのだろう?好奇心ゆえか、ついつい話しかけてしまった。
「ええっと…こんなところで何を?」
何言ってんだ俺は。『あなたは誰ですか』と問うのが普通だろうに。
「……」
彼女はこちらを見たまま何も答えない。それにしても透き通った綺麗な目をしている…まるで吸い込まれそうな
「お前、こんな所で何してる!?」
見つかってしまったのか、ノアさんに怒鳴られる。
「神は今思考中であるぞ!無礼なこと極まりない!!」
…神?神なんて一体どこに
……
まさかとは思うが、この少女が神だとでも言うのか…??
「別によい。たまにはこうして下界の人間と話してみるのも悪くない」
少女は答える。
……
一瞬、なんてシュールな光景なんだとも思ったが、その違和感もすぐに消しとんだ。
姿形こそ少女。しかし、なぜだかはわからないが直感的にこの少女は神、少なくとも
普通の人間あらざる生き物なのだということを本能は告げていた。神秘的容貌をまとった視覚的効果か、
それとも得体の知れない神々しいオーラのせいなのか、原因はわからない。
…なぜ彼女(神)が人間ごときが作った我々の船に乗っているのか…そして、なぜ姿が人間の少女なのか
聞きたいことは山ほどあったのだが、とりあえず自重しておくとする。本当に少女が神だったとして、
その者はつい最近世界を滅ぼしになった張本人だ。何気ない一言が逆鱗に触れてしまう可能性もある。
せっかく救われた命なのだ…慎重に事を運びたい。などと思考している内にノアさんは去り、
いつのまにかデッキには俺と少女の二人だけとなっていた。
…俺も去ったほうが良いのだろうか?いや、話しかけておいて
勝手に去るのはそれはそれでやばい気がする。一体どうすれば…
「…今、何をしているのかと尋ねたな?」
「あ、はい。」
急に話しかけられ、つい間抜けな返事をしてしまう。こればかりはどうしようもない…なんせ相手は神なので
あるから。しかし、臆していても仕方がない。あらゆる知識と知恵を振り絞り、会話を穏便に続けようと思う。
「行く先の見えないこの世界のことを思案していた。」
この世界とは…おおよそ第三世界のことだろう。
「…それで、神様はこれからどうなさるおつもりで?」
「……」
急に溜息をつく少女。そして、二言目にはこうだった
「息苦しい。」
…待て、何が起こった…?!?何か琴線に触れるようなことでも言ってしまったのか俺は??
「どうせこの場には二人しかいないんだからさ、もっと肩の力を抜いてしゃべりましょ?あたしも自然体で話すから。」
俺は混乱していた。
「だからさ、あんたあたしのこと神だと思ってるから硬直してまともにしゃべれないんでしょ?
そういうわけだから、別に普通に話しかけてくれて構わないわよ。あたしもいい加減神のフリするの疲れたし。」
…事態が把握できていなかった。ただ言えることは、先ほどまで神々しい雰囲気を醸し出していたはずの
その人が、今俺の目の前にいる彼女は嘘だったかのごとく人間らしい様子で、そして砕けた口調で
話し始めたということである。これは…俺も軽いノリで話してもOKってことなのか?いや、それでも万が一にも
相手は神。そんなことをしたら…ん?今しがた彼女は神のフリと言ったか??俺の聴覚がいかれていなければ、
確かに彼女はそう発言したはず。じゃあ彼女は神ではないのか?いや、なら何でさっきノアさんは
この少女を神だと…まずい、頭がぐるぐるしてきた。
「神のフリとは一体…??」
気付いたときには尋ねていた。
「…そもそも神っていうのは姿形っていう概念が存在しないから、あんたたち人間が
実際に目にすることはできないわ。もちろん他動物にもね。だからさ、あんた違和感覚えなかった?」
「違和感?」
「あたしが神って言われたとき【何でこんな少女が??】とか心の中で思ってたでしょ?別に正直に言っていいのよ。」
「…確かにそう思った。」
「当然よ、だって神じゃないんだもの。」
「じゃあ一体何者…」
「わかりやすく言えば、神の代行者ってところかしら。
神の声を聞き届け、それを人間たちに伝える。あたしの役割ね。」
「…どうやって神の声を聞くんだ?」
「聞くんじゃなくて【わかる】のよ。勝手にね。」
「?それはどういう…」
「だってあたしは神の分身だもの。つまり、神が考えてることが同時に今あたしが考えていること。
何て言ったら良いかしら…神の人間バージョンって感じ?」
つまりこの少女は神が人間に化けたものってことか。道理で神の考えが…
?待てよ…?
「じゃあ、やっぱりあんたは神なんじゃないか!」
「いや、だから神じゃないって。現にこうして人間の体をしているわけだし。」
わけがわからないが…まあ、本人が言うんならそういうことなんだろう。
「それにしても…あんた何者?なんかすっごく話しやすい気がする。珍しい人間もいたものね。」
いやいやいや、何者とか、むしろこっちが聞きたいくらいだ!
「どいつもこいつもあたしがいくら言ったって謙った言い方するヤツばっかでさ。
ホント、どれだけ窮屈な思いをしてきたか。」
ある意味それはどうしようもないんじゃないかと…仮にも神の代行者にタメ口で話すほうがおかしいぞ。
…あれ?
そういえば…いつのまにか俺は彼女に対してほとんど丁寧語を使っていない。熱心な信者からすれば、
今の俺は極刑もいいところだな。…けど、本人曰く厳密には神ではないらしいから、それならこれはこれで
別にアリなんじゃないか?と不思議にも俺はそう割り切っていた。向こうから軽い感じでしゃべってくれてる
のもあるが、何より緊迫した空気を彼女自身が嫌ってるのであれば尚更だ。敬虔な信者たる人間でない
俺みたいなヤツだからこそ、できる芸当なのかもしれん。もっとも、それはそれで問題ある気がするが…
……
「これも何かの巡り合わせね。せっかく気が合ったんだし、もっとしゃべってても良い?」
「…別に構わないぞ。」
とりあえず少女の横に腰掛けて座る俺。…間近で見て気付いたが、よくよく見てみるとこの少女、
俺と同年齢っぽい外見をしている。話しやすいってのはこのへんにも要因があるのかもしれない。
「あたしね…さっきこの世界を思案してるだの何だのカッコつけたようなこと言ってたけど、
実際は何も考えてなかったのよ。ただ疲れてボーっとしてただけ…。」
……
「いわゆるアレか、頭ではわかっていても体がついていかないっていう感覚か?
そりゃ、いくら脳内が神と同一だからといって、体は生身の人間なんだ。
いろんな意味で相当な負荷がかかってんじゃないか?正直しんどいと思うぜ。」
またまた何を言ってんだ俺は?自分で勝手に想像して勝手に納得する…俺の悪い癖だ。
「っ!」
驚いたかと思えば急に黙る少女。ほれ、言わんこっちゃない。機嫌を損ねてしまったみたいじゃないか。
「…あんたさ、ホント何者?会ったばっかでよくそこまでわかるわね。」
なんとまあ、どうやら俺の読みは当たっていたらしい。
なかなか捨てたもんじゃないぜ俺 と、慢心してる場合でもねえっつうの。
「じゃあ、しんどいってのは本当なのか?」
「ええ…身体的にも精神的にもね。あたしが人間の姿をしていなかった時、即ちまだ地球が誕生していなかった頃
なんだけど、あのときは想像もしてなかったなぁ。人間っていうのがこんなに大変で忙しい生き物だったなんて。」
「そもそも何で人間の姿になろうと思ったんだ?」
「…人の話を聞かないのね。だからさ、それは最初にも言ったでしょ?神の声を人間たちに伝える役割が
あたしにはあるんだって。なら、言語機能を全く同じとした人間に化けるのは当然じゃない?
じゃないと伝えることも表すこともできないってのは…わかるわよね?」
「ああ、そういやそうだったな。」
「そうだった、ってあのねぇ…」
「ええっと、それでだ。つまりお前は代行者としての務めを果たしていたんだが、
いつのまにか人間たちからは【神】そのものだと思われるようになっていたと…そういうわけだな?」
「…ご明察よ、その通り。それはあたしの意図したものではなく単なる成り行きだったんだけど…
結果的に、【神】だという認識による好転はあったわ。ダイレクトに物事を伝えることができる分、
迅速に物事に対応できたっていう点とかね。でも、それはあくまで一つの側面でしかない。」
「…もしかして、神であることに疲れたのか?」
「まあ…そんなところね。有機生命体という体に身を投じてしまったことで全ての事が
思惑通りにいかないことがわかった。何より人間である以上限界というものがあるもの。」
301 :
涼宮ハルヒの天啓 中編1 ◆i1mmP3RsKA :2010/10/22(金) 18:57:12.56 ID:gFWRR+KIO
ここで俺は一つの疑問にたどりつく。
「そういえば神はこれまで地球を滅ぼしたりとか…とんでもないことをやっちゃってるみたいだが、
それは一体どうやって?人間一人じゃあんなことできねーぞ。」
「何か凄い勘違いしてるみたいね…あたしはあくまで神の化身でしかないの。
確かに人間の身に投じてはいるけど、だからといって本来の神が消えてしまったわけじゃない。
本当の神はあたしとは別に宇宙のどこかで存在してるわよ。
で、その存在が地球規模の天変地異を引き起こしてるわけ。」
なるほどな…そういうことか。
「でも、本来の神はとても考えが物質的で無機的で…そして冷酷。実際、感情というものを初めて感知したのは
この身に投じてからかしらね。その後は辛かったわ…例えば世界が滅びるったって神はそれを傍観するだけ。
でも、地上にいるあたしは知っている…それによって多くの尊い命が奪われ…また、彼らの悲鳴も聞こえた。
考えようによっては単なる殺戮ね。そして、その張本人が自身であることを自覚した直後、これまで何度あたしは
発狂しそうになったことか。人間である以上、最低限の理性はもつもの。…当然の帰結よ。」
…この少女はそこまで苦しみながらも、これまで神の代行として奔走してきたってのか。
「しかしだな、お前が嫌だと思っているのなら、それを止めることはできるんじゃないのか?
だって自身の考え=神の考えだとさっき言ってたじゃないか。それなら神も同様に嫌だと思うもんじゃないのか。」
「…=で結びつけられるほど簡単な関係じゃないわ、あたしと神はね。
確かに、あたしには神の考えは全てわかる。でも逆は成り立たないの。」
「神にはお前の思いは届かないのか??」
「まあ、当然といえば当然ね。人間が抱く感情的、感傷的、理性的、倫理的な思考など
実体をもたない神には理解し得ない物だもの。」
302 :
涼宮ハルヒの天啓 中編1 ◆i1mmP3RsKA :2010/10/22(金) 19:01:15.85 ID:gFWRR+KIO
「だが自身が神の化身である以上世界を滅ぼす理由や大義は理解できる…しかし同時に
人間的な感情がそれを拒否する…お前はずっとそういう板挟みな状況で生きてきたんだな。」
「……」
ん?
「…くっ、あっはっはっは!!」
少女は急に笑い始めた。
「あ、いや、なんかおかしくなっちゃって。だってそうでしょ?仮にも、あんたとあたしは初めて会ったのよね。
で、どうしてここまで会話が成立してんのよ?それも結構ハードな話題、にもかかわらずよ。」
「ま、まあ、言われてみれば…。」
…客観的に考えればそうなのかもしれない。いや、そうなんだろう。これまで
想像もできないような長い年月を生きてきた神の化身。片方はどこにでもいそうな凡人たる一人間、
つまり俺。そんな両者が、一体どうやってその価値観を共有できるというのか。
「ふっ…く…くっく…」
そう考えたら俺まで笑いがこみあげてきてしまう。まさか成功?するなんて誰が考えようか。
俺たちは、そんな感じでしばらく互いに笑い合っていた。
先ほどまでこいつを神だと思い委縮していた自分は、さて、どこへ行ってしまったんだろうね。
「さてと、長い間話を聞いてくれてありがとう。なんかすっきりしたわ!」
…いきなり満面の笑みで話しかけられたせいか、つい照れちまった。
「そういえば本当の意味で笑えたのって一体いつ以来かしら…それだけあんたは衝撃的だったわ。
神に届くなら伝えたいものね、地上にはこんな凄い人もいますよ!って。」
それはやめてくれ…照れるどころか逆に恥ずかしい。
「そんなわけで、そろそろ作業に戻るとするわ。」
「作業?」
「これから創っていく…第四世界をどうしていこうかなって。」
ああ、そうか…そういや第三世界は滅びたんだよな。
「もうね…あたしはこれ以上人々の痛みは見たくない。だから、今度こそ次の世界は完全なものにしたい…
争いのない、全ての生き物が平和に共存して生きていけるような世界にしたい…切実にそう願うの。」
言いたいことは痛いほどわかる。が…何やら心の奥底で引っかかる感があるのは気のせいではないはず。
……
生身は人間…
ならば思考も人間…
それならば、一人間として願うべき最低限の、自分自身のための願い事とかいうのが
普通はあるんじゃないのか??それは…誰しもが思うことだよな??
「お前は…神をやめて一人の少女、普通の人間として生きたいと思ったことはないのか?いや…あるはずだ。」
「!」
意表を突かれたのか、きょとんとする少女。
「…バカなことを。仮にも神の化身であるあたしが、そんな考えをすることは許されないわ…。」
「誰が許さないって決めたんだよ?」
「え?」
「確かにお前自身は神の意志で生まれてきたのかもしれない。でもな、
別個体で生まれたって時点でもう神だの何だの関係ねーんだよ!!好きに生きりゃいい。」
「あんたは何を言って…それはね、無責任というものよ!?第一、化身である以上
これからもずっと神の意志に束縛されて生きていくのは自明で…。」
「単にお前が勝手に束縛されてると思ってるだけなんじゃねーのか。
自分の意志で生きることを諦めてるようにしか、俺には思えない。」
「……っ!」
「自分がしたいと思えばそれをすればいい、やろうと思えばやれる…お前は十分そういう立場にあるんだからな。
それを忘れるなよ…俺という人間が世界中で俺一人しかいないようにお前もお前でしかねえんだからな。
なら、束縛だの何だの難しいことは忘れて胸張って好きなように生きりゃいいんだよ。」
「ちょっと待ってよ…じゃあ何?あんたからすれば、これまであたしがやってきたことは全部無意味だったって、
そう言いたいわけ!?神の代行者そのものを今更全否定しろって、つまりはそういうことよね!?
そんなにも、あたしには似ても似つかないほど不釣り合いな役職だった、だからやめろと言いたいの??」
「…お前が神の代行という仕事に誇りや楽しみを見出して精一杯生きてんのなら、
それはそれで別にアリだと思うんだぜ。けどな、今のお前は明らかに違う。
負荷や重圧のみがかかる人生に一体どんな意義があるってんだ…?俺はそれを言いたかった。」
「……」
……
しばらくして考えが落ち着いたのか、少女は静かに口を開いた。
「じゃあさ…もしあたしが自分の意志で、一人の人間として生きたいと願ったとして、
もしそれを神が妨害してきたら…そのときはどうすんのよ…??」
「そんときは…俺がお前を助けてやる。」
……
…今、何と言った?
少女の境遇に熱く見入って冷静さを欠いていたせいか、俺はとんでもないことを口にしてしまったんじゃないか?
一人間である俺が神に反逆?一体どうやって?何を根拠に?可能性は?どうやっ…
…狂ってる
……
いや、待て…それこそ何を言ってるんだ俺は??可能性とか以前に、
単に自分が臆してるってだけなんじゃないのか?それにだ 一人間が神に抗うことを否定してしまえば、
それこそ俺が少女に説いた理屈自体が何の意味も持たなくなっちまうだろうが!
一応俺だってな、自分の言葉一つ一つに責任は感じてんだ。それに…
俺はこの少女を助けてやりたいと思った。その思いには何ら偽りはないはず。
ならば、仮にそれで死んだとしても悔いはない…そうだろう?
俺は覚悟を決めた。そして少女の顔を見た。
……
目に涙を浮かべてるように見えるのは気のせいか?
「どうして…?」
「…え?」
「答えて!どうしてあんたは…そこまでしてあたしを助けようと思うのよ!?
だっておかしいでしょ!?初めて会ったばかりなのよ!?そんな…そんなすぐ出会ったような相手に
優しい言葉なんてかけられるはずない!!一体何を考えて…。だから、だから答えて!
どうしてあたしを助けるのか… そうじゃなきゃあたし、納得できない…!」
「……」
今のこいつを見ていてわかったことがある。
307 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/22(金) 19:12:28.74 ID:zXFcYOB7O
し
【自由に生きたい】
おそらく、これは俺が言わずともこいつ自身ずっと以前から抱いていたことには違いない。
されど自分は神の代行者…たったそれだけの感情が、今日にいたるまでの彼女をここまで
束縛し続けてきたんだ。確かに、始めのうちはそういう感情というのは崇高なる使命感と呼ぶこともできたろう。
しかし、人類への殺戮ともいえる天変地異を繰り返すうちに彼女の中で何かが変わった…
そう、気付いたときには使命感なるものはすでになかったんだ。代わりにあったのは、
莫大な年月を神の代行者として遂行してきた、そんな自分自身への屈服と、神への恐怖。
彼女は既成事実への屈服と自らの保身がためだけに代行者を務め、いや、演じざるを得なかったのだ。
それが…俺の一言で息を吹き返し、そんな偽りの自分をようやく発見するにいたった。なれば、崩壊は早い。
一度溢れ出た感情は止められない。…この涙が、その証拠のはずだ。
……
…さて、とりあえずは
今は彼女の問いに答えなければならない。さて、どうしてだ?
単なる同情…ではないだろう。同情程度で命など懸けるものか。
気になったから…というのも違うだろう。そんな柔な好奇心から発した言葉じゃない。
……
煙
310 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/22(金) 19:15:52.24 ID:zXFcYOB7O
\
そもそも理由を考えるって時点ですでにおかしくないか?
あのとき俺は何を思って口にした?いちいちそんなことを考えた上で発言したのか?
…違う!!
「人を助けるのに理由がいるか?」
「!!」
彼女が驚くのも無理はない。実際、俺が少女の立場だったとしてもこんな
単純ストレートな言い草には唖然とするに決まってる。しかし、事実そうなのだからどうしようもない。
例えば川で溺れている人、熱中症で倒れている人、電車の踏切からわけあって動けない人etc…
そんな緊迫した状況下の中で彼ら彼女らを助けようとした人たちは、果たして行動を起こす前に
何か理路整然とした理由を考えていたであろうか?おそらく、答えはNoだ。結局は人を助けるという、
その行為自体が理由になってしまっている。理科で習うところの反射に近い行動原理、といえるだろうか?
いずれにせよ、原因がはっきりしてる以上わざわざ取り立て、美辞麗句を並べる必要はないと思った。
「…予想外…、まさか、そんなわかりやすい答えが…返ってくるなんてね。
そりゃあね、言いたいことはわかるわ…けど、あたしはあんたのいう普通の人じゃぁ…」
予想外なのはこっちだ…何だその切り返しは??っていうか全然わかってねえじゃねえか。
俺が使った【人】という言葉に、そんな定義付けがされてるなんて考えてもみなかったぞ…?
「…人に普通も特殊もねえよ!人間は等しく人間だ!もちろん、それはお前も含むんだぜ。
誰が何と言おうとお前はれっきとした人間だよ。心に温かみをもつ人だ。」
そうだろう?これに異議を唱えるやつは今すぐ俺のトコに来い。力一杯ぶん殴ってやる。たとえそれが神でもな。
$
NTT
……
「呆れ…た…よく、そこまで堂々と言えたものね…。でも…あれ?どうして…?涙が…止まらない、涙がっ」
考えるまでもなかった。気付いたときには、俺は少女を抱きしめていた。
「っ!」
一瞬驚いたようだったが…すぐに少女も俺にうずくまる体勢をとってきた。
……
抱きしめていてわかるが、彼女の体はこんなにも華奢だったのかと…改めて認識させられる。
いくら神の代行者と言えど、体は生身の人間…それも少女なのは紛れもない事実なんだ。
こんな体にこれ以上無理をさせたくはない これ以上苦しめたくはない
俺は抱擁を交わしながら…強くそれを心に誓っていた。
しばらくして俺は少女と離れる。顔が赤らんではいるが…すっかり泣き止んでいる様子だ。
「…あんたからは勇気をもらったわ!あたし…頑張ってみる… 人間体であるあたしがどこまで神の能力に
干渉できるかはわからないけど…でも、それは今まで諦観してやっていなかったってだけで、
まだ不可能だと決まったわけじゃないもんね。仮にも化身なら…万一にも神に通じる
何らかの力があるのかもしれないし… できる限るやってみる!」
どうやら元気を取り戻したらしい。その様子を見て俺も嬉しくなる。
「これから来たる第四世界の創造…とりあえず、それまでは神の意志には従おうと思うけど、
それ以降はあたしは自分の意志で生きようと思う。一人の人間として…ね。それにしたって、
あたしがここまで決心できたのはあなたのおかげ…本当に感謝してる…。」
「よせよ。俺は感謝されるようなことは何一つしてない。そう決めたのは他の誰でもない、
お前自身なんだからよ。俺はただ、その背中を押してやっただけだ。」
「…強情ね。こういうときくらい素直に受け取っとけばいいのに。」
すまんな、そういうのができん性分なんだ。
……
「それでね…そのときは、これまで自分が神の代行者だったって記憶を、消したいと思ってる。
だって、そんな記憶があったら一人間として楽しく生きられないもんね。」
確かに…そうだな。
「ただ…」
「ん?どうした?」
「あたしは…あんたのことは決して忘れたくない。でも、記憶を消してしまえばあんたのことも…」
ああ…そういうことか。
316 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/22(金) 19:24:21.28 ID:gFWRR+KIO
飯食ってきます!
j
イエスも神の子とか人間とか代行者なんだよな
319 :
涼宮ハルヒの天啓 中編1 ◆i1mmP3RsKA :2010/10/22(金) 20:03:49.74 ID:gFWRR+KIO
「いいんだよ俺なんかのことは。まあ、正直言えば忘れられるのはちと悲しいがな…そうだ、いっそのこと
神に頼んで俺をお前の側に召喚させるってのはどうだ?忘れていても何となく面影が残っていて
万一にも思いだすかもしれないぞ?はははっ。」
もちろん二言目の発言は俺の冗談だ。…面白くもない冗談かもしれんがな。
「…それいいわね!!ぜひ神に懇願…いや、干渉してみせるわ!
あんたと一緒なら何か楽しい感じがするし…!」
どうやらこの少女は冗談を真に受けてしまったようである。
…仕方ねえ、乗りかかった船だ。最後までこのテンションで持ち込んでやろう。
「だがなー、そうなった場合お前だけじゃなく俺も…お前のことを忘れていそうだな。そんときはどうすりゃいい?」
「そんときは無理にでもあたしが思い出させてあげるわ!」
「お前、さっき記憶無くしてるって言ってたじゃねーか!」
「あ、そっか!」
「「あははははははは!!!!」」
ははは…何をやってるんだろうね俺たちは。とりあえず、彼女が楽しそうで何よりだ。
「おい、みんな!陸地が見えてきたぞ!」
「何、陸地!?いよいよ海水も引いてきたって感じか!」
「これでようやく船上生活ともお別れだ…。」
何やらみんな騒ぎ始めた。って、陸地だと!?
…第四世界の始まりってか。
320 :
涼宮ハルヒの天啓 中編1 ◆i1mmP3RsKA :2010/10/22(金) 20:15:00.96 ID:gFWRR+KIO
「さて…みんなに【神】として最後の演説をしてこようと思うわ。
これからの世界のことを人間たちに伝えてこなきゃ…第一、第二、第三世界時同様にね。
それが終われば…あたしは普通の人間として生きようと思う。」
「そうか…まあ、何かあったら俺を呼べよな。
力になれるかどうかはわからんが…できる限り頑張ってみるからさ。」
「ありがと…そういやまだあんたの名前聞いてなかったわね。何ていうの?」
「キョンって言うんだ。まあ、改まって言う名前でもない気がするがな…。」
もう少しいい名前を親はつけてはくれなかったのかと
自虐的になる時期もあったが…今ではもう慣れてしまった。
「キョン……」
突然抱きついてくる少女。再び目には涙を浮かべた様子が見えるが… 一体どうしたのだろうか。
「あたし…わかるの。もしこの第四世界であたしが一人の人間として生きられるには、
少なくとも数千年のブランクは空くわ…転生にはそれくらい時間がかかるの…
でもね、でもそうしたらあんたは…あんたはもう…!!」
なるほど、少女の言わんとしていることはわかる。それだけの年月が空けば…俺はそのときにはもういない。
当たり前だが俺も人間だ、寿命が尽きてそんときゃおそらく土の中。数千年…骨でも見つかりゃマシなほうかもな。
…まあ、残念っちゃ残念だ。こいつが普通に暮らしている姿を生きてる内に見られないってのはな…。
「俺もお前みたいに転生できりゃいいのにな。」
「!!」
「ど、どうした??」
「それよ!!」
…またしても、何気ない一言が少女の導火線に火をつけてしまった。
って、それよって一体どういうことだ??
「言葉通りの意味よ。あんたも転生できれば…!」
「ちょ…ちょっと待て。それは神と縁あるお前だから成せる技であって俺みたいな人間なんか…」
「そうね…でも、やってみる価値はあると思うの。…まあ、どれほど無謀な行いかってのはわかってる。
仮にあんたをあたしと同時代に転生できたとしても世界は広い…会えなきゃそれで終わりよ…だから、
そういった意味では可能性はゼロに近いのかもしれない。でも、あたしは諦めない。神の束縛に甘んじて
自身の意志で生きることを諦めていたあたしに…勇気をくれたキョンのことを、あたしは絶対諦めたくない!」
「気持ちは凄く嬉しい…だがな、俺のことにこだわりすぎるのもそれはそれでどうかと思うぜ。
それにだ、俺もお前も転生できたとしても、互いに記憶はないんだ。だからさ、まあ…
俺の転生とやらがダメでもお前はお前で楽しく生きろよな。」
「…キョンの気持ち受け取っとくわ。でも諦めない…それだけは伝えとくね。」
「まあ、好きにすりゃいいさ。」
……
「さて、ここのあんたとはもうお別れね…
遠い未来の第四世界で…またキョンと出会えることをあたしは祈ってるわ…!」
「俺もだ。会えたらいいな。」
あ、そうだ。
「そういやまだお前の名前聞いてなかったな。何て言うんだ?」
「あー…あたしには名前なんか無いのよ…あるのは【神の代行者】という肩書きだけ…。」
「…そうなのか。なら、今すぐ作りゃいいじゃねえか!」
「い、今すぐ?」
「ああ。お前はこれから人間として生きていくんだろ?
その上で自分の名前ってのは…命の次に大事なもんだぜ?」
ってのは嘘だ。実際確固とした名前なんか無くとも人は生きていける。例えば同じ自分という人間に対してでも
親、兄弟、友人、先生、恋人等ではそれぞれ呼び方は違うものだ。特に、友人に限ってはいわゆる【あだ名】を
使用することがある。場合にもよるが、それが自分の名前とは全く関係のないケースだってたびたびあるもの。
ま、そんなわけだから命の次に大事なもんってのは、過剰表現にもほどがあるわけだがな。
では、なぜ俺はこんなことを言ったのか?言うまでもない、単に私的な理由によるものである。もしかしたら
遠い未来、【俺】とこいつは出会えるのかもしれない…だが、その【俺】は【俺】であって俺ではない。
記憶を無くしてるとか様々な理由はあるが…とにかく違う世界の【俺】だ。つまり、今ここに生きている
俺自身とこいつは…おそらく二度と会うことはない。ならば、せめて最後の土産としてこいつの名前を
教えてほしい…そう切実に思った。
「うーむ…そうね……」
……
しばらく悩んだ後、少女は叫ぶのであった。
「あたしの名前はたった今よりハルヒよ!!」
……
なぜ『ハルヒ』なのか理由を聞きたかったが…なんとなく雰囲気を壊したくなかったんで、それはやめといた。
俺とハルヒが出会った瞬間だった。
陸地についた俺たち一族は【神】としてハルヒの言葉を拝聴する。
本人も言っていたが、おそらくこれがハルヒの…最後の『神のフリ』となるのだろう。
……
「この第四の世界は完全な世界である。その理由はいずれわかるだろう。かつての世界ほど美しくも、楽でもない。
高いところや低いところ、熱と寒さ、美しいところや荒れたところがある。あなた方に選びとれる全てのものが
ここにある。あなた方が何を選ぶかが、創造の計画を今度こそ遂行できるか、あるいはいつの日か再び世界を
滅ぼすかを決定するのだ。さあ、あなた方は分かれて違った道を進み、地のすべてを創造主のために所有せよ。
あなた方のどの集団も星の明かりに従うように。星が停止した場所があなた方の定住する場所である。
行きなさい。あなた方は善霊から助けを得るために、頭頂の扉を開けたままにして、
私が語ったことをいつも覚えておくようにしなさい。」
……
【誰だお前は…】
真っ先に思い浮かんだ言葉がこれだ。口調はもちろんだが、声色も俺と話したときとは全く異なるものだった。
…さすがというか何というか、これまでやってきただけあって神(の代行者)としての貫録は半端なかった。
言ってる内容も意味不明であまり理解はできなかったが…なるほど、たった一回のこの演説だけで、
なぜ人々がハルヒを神そのものとして崇めだすようになったのか、その理由がわかったような気がする。
……
その日の夜、みんなが寝しづまった後も俺は起きていた。もうハルヒは行ってしまったのだろうか…
ふと外に出てみる。
……
海岸にて何か人影が見える。いや、人影などではない。
きちんと…目で人だと判別ができる。なぜなら、その人物は光り輝いていたからだ。
そういや初めてあったときから輝いているようには思っていたんだっけか。太陽が落ちて日の光が無くなった
夜となった今、それは一層際立って確認できる。ああ…やはりこいつは神の化身なんだなと…
つくづく痛感させられる。そんな彼女もじきに『神の化身だった』と過去形になってしまうのであろう。
「よお、まだココにいたのか。」
「キョン!もう寝ちゃったのかと思ってたけど…最後にまた会えて良かった…。
なんていうか、いざ転生するとなると、この世界の景観が名残惜しくなってきちゃってね…。」
「まあ、気持ちはわかるぜ。ずっといた世界とおさらばするってのは結構きついもんだ。」
しばらく二人して…海を見ながら夜風にあたっていた。
「そういえば…お前、転生はできる…みたいな流れだな。結局神には抗えたってことか?」
「やっぱり物事ってのはやってみるに越したことはないと思ったわ…あたしの潜在能力って案外凄かったみたい。」
…だとは思ってたぜ。何かしら神々しいオーラは発してたからな。それに…仮にも神の分身でもあるわけだし。
「だけどね、あくまであたしの体は人間。だから力的には
本体である神を超えることなんて絶対に不可能なの…当たり前だけど。」
「……」
「転生はできそうなの。でも完全には…いかないみたい、残念だけどね。
今あたしがもってる人間らしからぬ能力も…おそらく一部は受け継がれることになると思う。
それどころか神の操作で、今以上により強大になっている恐れだってある。」
「……」
「だから」
「言わんとしていることはわかるさ、そこまで俺も鈍くない。それでもし
何か悪いことが起こったって…そんときはその世界の俺がきっとハルヒを助けに来るはずだ…
だからさ、お前は安心して転生に専念してりゃいいんだよ。」
「キョン…ありがとう。」
……
327 :
涼宮ハルヒの天啓 中編1 ◆i1mmP3RsKA :2010/10/22(金) 20:32:37.73 ID:gFWRR+KIO
「神の代行者としての最期に、あなたのような人間に出会えて
あたしは幸せだったわ…!次の世界でも会えるといいわね…いや、会いましょう!」
「ああ、そんときはよろしく頼むぜハルヒよ。」
「ふふふ…こき使ってやるから覚悟しなさい!」
「ははは、まあのーんびり構えとくぜ。」
その瞬間だったろうか、ハルヒの体が下から…足元から消えていってるのが
見てとれた。まるで光の粒子となって空気中に分散していく様に…
「そうか、いよいよ転生か。」
「みたいね。」
「痛くはないのか?」
「全然。」
「そっか…」
……
「ハルヒ、どうか楽しく生きろよな。」
「キョン、いろいろと…ありがとう。」
それがハルヒの最後の言葉となった。彼女は消滅した。
その様はまるで幻想的だった。【神の代行者ハルヒ】…彼女の最期に値する光景だったのかもしれない。
328 :
涼宮ハルヒの天啓 中編1 ◆i1mmP3RsKA :2010/10/22(金) 20:49:21.21 ID:gFWRR+KIO
俺は寝床へと戻る。
……
なかなか眠れない…まあ、さっきあんなことがあったばかりだからな…無理もないさ。
…そういえばハルヒに『どうしてあたしを助けるの!?』と問い詰められた際、俺はハルヒに
『人を助けるのに理由がいるか?』と答えた。あの答え自体は間違ってはいなかったように思える。
しかし…本当に今更だな。理由はあれだけじゃなかったことに気づく。
……
もしかしたら、俺はハルヒのことが……
好きだったのかもしれない
……
あれ…どうして俺は泣いてるんだ?確証はないが…遠い未来再びハルヒと会えるかもしれないじゃないか。
ああ、わかってはいるさ。会えるのは【未来の俺】であって今の俺じゃない。問題は会えるかどうかじゃない。
今の俺が…ハルヒに『この思い』を伝えられなかったこと…それが悔やんでも悔やみきれない。
そうか、だから俺は泣いているのか。ようやく理解した。
329 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/22(金) 20:57:01.92 ID:zXFcYOB7O
がんがれ
330 :
涼宮ハルヒの天啓 中編1 ◆i1mmP3RsKA :2010/10/22(金) 21:00:22.97 ID:gFWRR+KIO
……
「ハルヒ……ハル…ヒ………」
いくら叫んだってもう伝わりはしない。聞こえもしない。見ることも、触れることもできない。
……
遠い未来の俺よ… 一つ頼みごとを聞いてはくれねえか。
もしお前がハルヒと出会うようなときが来れば…
そんときは俺の代わりに『この思い』 ハルヒに伝えてはくれねえかな?
俺は第四世界の出発点とも言えるこの時代で精一杯生き抜いて…そして寿命を終える。
だから…遠い未来の俺よ、お前もお前でその時代を全うして生きろよな。
ハルヒと一緒に。
俺は目を閉じた。何か…良い夢でも見られるといいな。
中編1終了です。続けて中編2に移ります。
支
援
俺は目を覚ました。
ん?ここは…
俺の部屋だ。
携帯で時刻を確認する。
……14時20分…
なんと、俺はこれほどまでに爆睡してたというのか。いや、違うな…昨夜はファミレスでSOS団メンバーと
ずっと話してたんだっけか。そして寝たのが朝の6時くらいだったことを考慮すると、然しておかしなことでもないな。
…そういや、俺は先ほどまで船上にいたんだよな。そして、ハルヒからいろいろと悩みを打ち明けられたんだ。
いつもの俺なら【あれは夢だ】と断じてそれで終わりだろう。が、今の俺には到底そうは思えない。
おそらくあれは実際に起こったことなんだ。あの世界の【俺】が最後に泣きこぼしてた言葉が…
鮮明に頭に残ってる。転生…即ち生まれ変わるって意味だが、一般常識で捉えた際に、まず前世の記憶は
なくなるというのは間違っていない。つまり、本来なら2012年という時代に生きる俺が過去の【俺】の記憶を
取り戻すなんてことは絶対にありえないのだ。そのありえないことが現に起こってしまっている。
言わずもがな、ハルヒの能力があってのことだろう。連日俺が見た夢…いや、正しくは
実際に未来で起こりうる最悪のケース、そして世界が崩壊する様…それらをハルヒは無意識の内に
俺に見せてくれた。ならば、俺がさっきまで見ていたあの世界の記憶も…造作ないことなのであろう。
援
『普通の一人間として生きたいから、神に通じる能力は全て消し去りたい』そんな趣旨のことを
ハルヒは言っていた。だが、ヤツのそういうとんでもパワーがなかったら、そもそも俺は過去の【俺】と…
いや、俺だけじゃない。過去のハルヒのこともそうだが、一生知らぬまま生きていったに違いない。
そう、何も真相を知らぬまま…
だから、俺は深く感謝したい。過去の記憶を垣間見ることができたハルヒの能力に。
……
ん?電話だ…古泉からか。何の用だろうか…まさか…!?
「もしもし!」
「おや、さすがにこの時間帯となると起きてらっしゃったみたいですね。ぐっすり眠れましたか?」
「俺のことはどうでもいい!それより何の用だ?ハルヒに何かあったのか!?」
「いえいえ、別にそういうわけではないですよ。とりあえず落ち着いてください。」
取り乱すような由々しき事態ではなかったらしい。とりあえず腰を下ろす俺。
「少々あなたとお話したいことがありましてね…急で申し訳ないのですが、
今から学校近くの公園に来てはいただけませんか?すでに長門さんもいらっしゃってます。」
「ん?昨日のことで何か話し足りないことでもあったか?」
「まあ…そんなところですね。」
今電話で話せよ…と言いたくもなったが、長門もいるとなると話は別だ。
おおよそ専門的なことでも話すのだろうから、みんなとしたほうが都合が良いって流れだな。
三人寄れば文殊の知恵…いや、ちょっと意味が違うか。
紫
煙
「そうそう、俺のほうでもお前らに話したいことがあったんだよ。だからちょうどいい。」
「そうなのですか?それは楽しみです。」
もちろん話すこととは、【あの世界の記憶】である。
真相を語ってやるのは、これから協力していく仲間にとっては当然のことであろう。
「じゃ、すぐ行くから待ってろよな。」
電話をきって、ただちに着替える俺。腹ごしらえに朝飯…いや、今は昼だから昼飯と言うべきか。
昼飯でも食ってから行こうと思ってたが、いかんせん目覚め時なんでいまいち食欲が沸かん。
まあ、後回しにしてしまっても大丈夫だろう。死ぬわけじゃないしな。
洗顔、歯磨き、髪の手入れ…とりあえず、最低限の身だしなみを整えた俺は
自転車に跨り、公園へと走るのであった。
「よう、待たせたな。」
「いえいえ、むしろ急に呼び出したこちらが悪いんですから。」
「……」
とりあえず、ベンチに座る俺たち三人。
慈
「…昨日は眠れた?」
「え?」
「昨日は眠れた?」
なんと、長門さんが人間味ある暖かい言葉を俺に投げかけてくれているではないか。
「ああ、大体8時間睡眠ってところだな。ぐっすり眠れたぜ。」
「そう…よかった。」
「それで、そんときに見た内容なんだがな…。」
俺は記憶の一部始終を話した。
……
「「……」」
長門はともかく、古泉まで黙ってしまっている。あまりの内容に面喰ってしまったのだろうか。
「これは…素晴らしいですよキョン君。涼宮さんのお気持ちがこれでようやくわかったのですから…
自称涼宮さんの専門家としては、情けないことこの上ないですけどね。」
「…私もここまでは把握していなかった。
涼宮ハルヒのカギたるあなただからこそできた所以。感謝する。」
「いやいや、感謝とかそんな大袈裟な。」
円
だが、長門と古泉の言いたいこともわかる。確かに俺たちは昨日涼宮ハルヒの軌跡を辿っていたわけだが、
あくまでそれは史実…つまり単なる事実に過ぎなかった。その過程の中でハルヒがどんな思いで
神の代行者として奔走していたのか…それを無視して結果論にしがみつくだけでは、
事実こそわかれど真実には到底辿り着けないだろう。
「それにしても驚きです。まさかあなたの前世がノアの一族の一人だったとは…。」
「なあ古泉、まさかとは思うが…もしかしてこれはアレか、
いわゆる世間一般で知られてる【ノアの方舟】ってやつなのか??」
「その通りです。旧約聖書の『創世記』、6章-9章に出てくるかの有名な洪水伝説のことですね。」
「あの洪水がまさか第三世界崩壊時のそれだったとはな…って、ちょっと待て。そういやノアの方舟って…
あれは神話じゃなかったのか??もっとも、記憶を確かめた今となっては今更な疑問かもしれねえが…。」
「確かに、神話と捉える説が学会では有力です。しかし実際は…、長門さんお願いします。」
「【ノアの方舟】で知られている大洪水は…約3000年周期で地球を訪れる地球とほぼ同じ大きさの氷で
組成された彗星天体Mによるもの。地球軌道に近づくにつれ、天体Mは水の天体となり、地球に接近した時には
大音響と共に地球に約600京トンの水をもたらした。その津波は直撃地点付近で8750メートルとなり、
地球全域を覆い、地球上の海面を100メートル以上上昇させた。」
……
実際にありえたってことかよ…
「3000年周期で地球を訪れる…これ自体は単なる自然現象であって涼宮さんの力とは
何ら関係なのでしょうが…問題は、それが地球軌道に大接近してしまったということでしょうか。」
「つまり、それが涼宮ハルヒこと、神の力によるものだと。」
「そういうことですね。それと、その話を聞いて2つ、わかったことがありますよ。」
…新たな情報を入手した途端にこれか。相変わらず、その理解力には脱帽と言っておこうか。
ヤツがわかったということは、おそらく長門も気付いてるんだろう。
「1つはフォトンベルトの正体…といったところでしょうか。」
「正体?どういうことだ??」
それについては散々昨日お前たちが説明してくれたじゃないか?まさか、またあのバカ長い&理解不能な
難解講座を受けるハメになるんじゃなかろうな…?それだけは勘弁してもらいたい…
「まあまあ、そう陰鬱そうな顔をなさらないでください。さすがに一から
フォトンベルトの定義をしようなどとは思っていませんよ。話はごく単純です。ねえ?長門さん。」
「そう。」
まるで答えが決まってたかのごとく、長門は即答した。古泉もそれを確信していたようだし、なんとも凄まじい
ツーカーの仲だな…頭の回転が速い者同士、ゆえの結果なのだが…そういう意思疎通能力が羨ましくもあった。
ちょっとでいいから俺とハルヒにも分けてほしいもんだな。というか、とりあえず話は単純そうで安心した。
「昨日長門さんがおっしゃったように、本来フォトンベルトというのは涼宮さんの力無しでは物理的には
存在しえない…しかし、そんな涼宮さんの意志とは別にフォトンベルトに近しい何かが接近している、
というのもまた事実でした。」
そういやそんな話だったな。
「僕が言いたいのはこの『近しい何か』の部分です。これについて、僕も長門さんも予兆こそできていましたが…
ただ一つ、肝心な涼宮さんとの関連性が…どうしても見いだすことができなかったのです。なぜこんな得体の
知れないものが涼宮さんの意志とは別に存在しているのか?最大の謎でもありましたし、同時に戦慄さえも
感じていました。しかしここで大切なのは…涼宮さんは神というよりはむしろ、その代行者的性格のほうが
強かったということです。特に、あなたと出会ったときがそのピークだったといえるでしょう…精神的な意味でもね。
彼女自体は世界崩壊を望まないどころか神そのものに嫌悪さえ感じてたわけですし、
なれば涼宮さんと神は全く別の、独立した存在だと考えても差し支えはないわけですよね?」
古泉が確認をとるように聞いてくる。まあ…そうなんだろうな。というか、間違いない。
ハルヒと神が全くの別々の個体だということはまさに、俺がハルヒに対し説いた言葉そのものなのであるから。
「一方は世界の崩壊を望み、一方はそれを望まない。相殺されてるように見えますが…
しかし、どう考えても力は神本体のほうが強いはず。すると、どうなりますか?」
「!」
ようやく気付いた。というか、なぜあのハルヒとの夢を見てこれに気付けなかった?
それもそのはずなんだ、だってハルヒがそれを望まなくたって…
「宇宙のどっかにいる神が、勝手にフォトンベルトを作っちまうってことかよ??」
「その通りです。」
…なんてハタ迷惑な話なんだ…。
「しかし、かといって神の思い通りになる…というわけでもない。」
ここで長門が口を挟む。
「どういうことだ?」
「確かに、数値的にも総合的にも神の能力が涼宮ハルヒのそれを上回るのは明白。だからといって、
涼宮ハルヒの力そのものがゼロになったというわけではない。少しながらでも神に影響を与える。
その過程が、結果として不完全な疑似フォトンベルトを作り上げるのに至ったのだと、私はそう考えている。」
「…それが『近しい何か』の正体だと?」
「そう。」
346 :
涼宮ハルヒの天啓 中編2 ◆i1mmP3RsKA :2010/10/22(金) 21:20:17.63 ID:gFWRR+KIO
なるほど、聞いてみれば確かに単純だった。しかし…神からしてみればそれは計算外だったんだろうな。
ハルヒの能力だって、元々は神がハルヒを代行者として縛りつけるための代物だったはずだ。それが、
まさかめぐりめぐって自分の首を絞めることになろうとは。滑稽とは、こういうときに使う言葉なのかもしれん。
「それと、これは憶測ですが…佐々木さんのことです。」
……
古泉よ…急に話題を変えるのは無しだぜ?予想外の人物の名前に、
思わず心臓が跳ね上がりそうになったじゃないか!!?
「おいおい…どうしてそこで佐々木の名前が出てくる??」
「あなたは一連の話を聞いてみて思わなかったのですか?彼女のことを。」
「いや、だから俺には意味が…。」
…そういえば。なぜあいつがハルヒと類似した能力を有しているのか、それについて俺は今まで考えたことが
あったろうか?ハルヒの能力、いや、ハルヒの正体が明らかになった今、当然ともいえる疑問が佐々木に向かう。
ヤツは一体何者なのか?という問い…どういうことだ?あいつも代行者なのか??いや…ハルヒから
自分以外にそういうのがいるなんて話は聞いたことがない。じゃあ何なんだ??まさか…
「まさかとは思うが…神が自分の言うことを聞かないハルヒを見限って、別の新たなる
代行者的存在として佐々木を選んだとか、そういうオチじゃねーだろうな!?」
そんなことになったらどうする…??佐々木がハルヒの前に立ちふさがることになるのか!?
当然、ヤツが全面に出てくれば橘、周防、藤原たちとも衝突せざるをえなくなる。ちょっと待て、
まさか藤原はこのために暗躍を…などと、底なし沼のごとくどんどんネガティブな方へと
発想をめぐらしていた俺を…古泉・長門の一言が現実に引き戻す。
347 :
涼宮ハルヒの天啓 中編2 ◆i1mmP3RsKA :2010/10/22(金) 21:33:13.49 ID:gFWRR+KIO
「ははは、それは考えすぎというものです。」
「そこまで思いつめる必要はない。」
「……」
脱力する俺。しかし、次の瞬間にはこう言っていた。
「よかった…。」
当然だろう?最悪ともいえるケースが否定されたんだ。歓喜の一言も言いたくなるさ。
「というか、それまたどうして?なぜ2人はそう思うんだ?」
「落ち着いて考えてみればわかると思いますが…誰かを自分の傀儡に仕立て上げ、それを操るというのは
まさに人間の発想ですよ。長門さんの話を聞く限り、神には創造・維持・破壊の3概念しかないように思われます。
大方、細かいことは全て涼宮さんに一任していた、と言ったところでしょうかね。いや、そもそも概念なる存在が
あるのかどうかも疑わしい。生き物というよりは、一種のプログラムだと見なしたほうがいいのかもしれません。」
そう言われればそうだが…少し抽象的なような気もするぞ?
佐々木か
2年進学時に現れたのは意味があったのかもな
ハルヒと呼ぶのはキョンだけなんだよな
鶴屋さんはハルにゃんと呼ぶけど鶴屋さんだしな
349 :
涼宮ハルヒの天啓 中編2 ◆i1mmP3RsKA :2010/10/22(金) 21:41:54.25 ID:gFWRR+KIO
「長門はどう思うんだ?」
「人間的行為の是非は私にはよくわからない。しかし、古泉一樹のそれとは別に、私には考えうる理由がある。
内面的にも外見的にも涼宮ハルヒと神は互いに独立した存在とはいえ、それはあくまで最近の話。
元々は、双方は一つの存在だったはず。客観的役割で見れば彼女は代行者といえるが、
実質はもう一人の神、分身といってもいい。裏を返せば、それこそが代行者たる資格だといえる。」
「つまり、神の代行者というのは涼宮さん以外には存在不可能というわけですよ。
彼女の記憶から自分以外のそういった存在がなかったことからも、それは明らかです。
もちろん、佐々木さんがその縁者というわけでもありません。彼女はごく普通の一般人ですから。」
『彼女はごく普通の一般人』それをすぐさま確かめたかったのか、俺は長門に食いかかっていた。
「長門!それは本当か!?あいつは… 一般人でいいんだよな??」
「彼女は一般人。涼宮ハルヒと似た能力こそ持ち合わせているが、
私たちのような特異的存在とは明らかに異なる。」
「…そうか。」
…安心した。ひどく安心した。どうやら、佐々木は本格的にこの事件には関わっていないらしい。
これだけでも、俺の中で1つの不安材料が消えた。あいつをこんな得体の知れない事件に、
巻き込みたくはなかったからだ。しかし、そういうわけで結局話はふりだしに戻ってしまう。
「じゃあ、一般人なのなら、あの能力は一体どこからやってきたんだ??
まさか、自らそれを習得したわけでもあるまいし…。」
滝に打たれ、四書五経を丸覚えし、断食をし、仏道修行に励み等…様々な苦行を重ねたところで、
とてもではないが閉鎖空間構築といったトンデモ能力が開花するとは思えん…ましてや佐々木が
そんなことをしてたなんて話聞いたことない、というか、個人的願望としてそんな佐々木は見たくない。
350 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/22(金) 21:57:41.02 ID:rAo43lPUP
私
「結論から申しますと、彼女の能力は涼宮さんにより分け与えられたものなのではないか、僕はそう考えてます。」
「は??」
過程をすっとばして結論だけ聞く、その恐ろしさをまじまじと体感できた瞬間だった。
『ウサギとカメが競走しました、結果カメが勝ちました、めでたしめでたし。』
と、先生に二言で昔話をしめられた幼稚園児のごとく心境だったと言っておこうか?
「おっと、少し誤解があったようです。正確に言えば、涼宮さんにその意図はないわけです。
分け与えたという表現も不適切でしたね。水平面下で望んでいたというのが正しいです。」
「いや、訂正されても意味わからんが…というか、ますますわからなくなったんだが!?」
長門ーッ!助けてくれーッ!!と、期待をこめ彼女を見てみる。しかし
「心理的領分というのは私にとって専門外。残念ながらあなたに助け舟を出すことはできない。」
と一蹴されてしまった。まさか長門でもわからないことがあったとは…って、ちょっと待てよ?心理的領分??
「もしかして古泉、お前は憶測だけで佐々木のことを言ってるんじゃあるまいな?」
「だから最初に断っておいたじゃないですか。これは憶測ですが…と。」
確かにそんな記憶がある。しまった、やられた…
「まあまあ、そんなに悲観しないでください。僕だって何も無責任にこの持論を展開しているわけではありません。
確固とした根拠こそありませんが、この推論でいくならば佐々木さんの能力についてもすんなり説明が
通りそうなのですよ。もちろん、証拠がないので可能性の1つとしてしか成りえないのもまた事実ですが。
とりあえず、非難されるのは聞いてからでも遅くないと思います。」
…そこまで言うからには聞いてやろうじゃないか。
やれやれといった表情で、とりあえず俺は首を縦に振ってやった。
「ありがとうございます。では、お話ししますね。まずは…いつから佐々木さんにその症状が現れ始めたのか
という点について。それは4年前、あなたが過去へ時間遡行し中学時代の涼宮さんと会われたときだと
考えてます。そして、そのとき彼女の意識に何らかの変革が起こった。」
ああ、例の七夕の日か。そういや、あのときからハルヒはすでに団長様だったな。
俺を不審者だと罵ったり、白線引くのにコキ使ったりだとか…とにかく忙しかった印象しかない。
「で、ハルヒの意識がどうしたって?っていうか佐々木との関連性が見えんぞ。」
「あの世界の夢を見て、まだお気付きになりませんか?彼女からすれば、あの出会いは
一種のターニングポイントです。いかにそれが重要で衝撃的なものだったか…あなたにはわかるはずですよ。」
「……」
鈍感な俺でも、さすがに古泉の言わんとしてることはわかる。
------------------------------------------------------------------------------
「言葉通りの意味よ。あんたも転生できれば…!」
「ちょ…ちょっと待て。それは神と縁あるお前だから成せる技であって俺みたいな人間なんか…」
「そうね…でも、やってみる価値はあると思うの。…まあ、どれほど無謀な行いかってのはわかってる。
仮にあんたをあたしと同時代に転生できたとしても世界は広い…会えなきゃそれで終わりよ…だから、
そういった意味では可能性はゼロに近いのかもしれない。でも、あたしは諦めない。神の束縛に甘んじて
自身の意志で生きることを諦めていたあたしに…勇気をくれたキョンのことを、あたしは絶対諦めたくない!」
・
・
・
「言わんとしていることはわかるさ、そこまで俺も鈍くない。それでもし
何か悪いことが起こったって…そんときはその世界の俺がきっとハルヒを助けに来るはずだ…
だからさ、お前は安心して転生に専念してりゃいいんだよ。」
「キョン…ありがとう。」
……
「神の代行者としての最期にあなたのような人間に出会えて
あたしは幸せだったわ…!次の世界でも会えるといいわね…いや、会いましょう!」
------------------------------------------------------------------------------
気が遠くなるような悠久の時を経て、俺とハルヒは七夕の日再び出会った。同じ世界、同じ時間平面上で。
俺はともかく、ハルヒからすれば…まさに【初めての再会】だったといえる。これも因果ってやつか?
なぜあの日が七夕だったのか…なんとなくわかったような気がした。偶然っちゃ偶然なんだけどな。
「…ああ、そうだな。さぞかし感動的な場面だったろうよ。けどな、当の本人であるハルヒには
第三世界時の記憶がない。意識に変革も何もあったもんじゃねーだろ?」
結局これに尽きる。現に、昨日ハルヒがぶっ倒れるまでそんな予兆は一切なかったんだからな。
「ところが、本人は気付いてなくとも眠っていた記憶が呼応した可能性はあります。あなたにもさっき話したように、
例の不完全なフォトンベルト等がそうですよ。意識せずとも力を行使できる、それが涼宮さんです。
元々神の分身だったということも手伝って、やはりその能力は伊達ではありませんね。」
…古泉の言う通りだ。あいつの力は生半可なものじゃない。神に抗ってまでも転生した…証拠ならそれで十分だ。
『やっぱり物事ってのはやってみるに越したことはないと思ったわ…あたしの潜在能力って案外凄かったみたい。』
何より、自分の口からそう言ってるのを確かに聞いたんだ…俺は。
「僕が言いたいのは、4年前の七夕、涼宮さんがあなたに出会ったことで…
呼応した深層心理が佐々木さんに何らかの影響を及ぼしたのではないか?ということです。」
話が1つとんだような気がする。
「いや、だから…なぜそこで佐々木が出てくるのかと??あの時点じゃまだハルヒはヤツのことを
知ってもいなかったはずだし、それに今だって佐々木の名前こそ知ってるが…ほとんど接点がない
といってもいい、それくらい互いの関係は希薄なものなはずだぞ??」
「すみません、言葉が足りませんでしたね。つまり、これから佐々木さんについて話すこと。
それこそが僕がさっき言っていた『憶測』の該当範囲です。その証拠に…長門さん。
今まで僕が彼に話していたことに、何か矛盾はありましたか?」
「ない。理にかなっていた。」
「というわけです。これまでの部分は、憶測という名の非論理的なものではなかった…
ということがおわかりいただけましたでしょうか?」
まるで示し合わせてたと言わんばかりに即答する長門と古泉。意志疎通か以心伝心かは知らんが
仲良すぎだろ常識的に考えて…超人的な意味でな。って、そんなこと常識的に考察してる場合じゃなかった。
「長門の保証付きならば、俺から言うことは何もないさ。話を続けてくれ。」
「では。結論から申しますと」
また結論からか!
「涼宮さんは、あなたと過去の自分との関係に、あなたと佐々木さんとのそれを
重ね合わせたのではないか?僕はそう見てます。」
案の定、意味はわからなかった。古泉よ…お前は何度同じ過ちを繰り返せば気が済むのだ…!?
「あのな、だからっさっきの俺の質問に答えろっての!!どうしてそこで佐々木の名前が出てくるよ??」
「別に、涼宮さんは『佐々木さん』という特定の個人を敢えて選んだ、
というわけではありませんよ。偶然そうなったと言うべきか。なぜなら当時…
あなたが中学生だったとき、一番仲の良かった異性が佐々木さんだったからです。違いますか?」
「な!?」
つい間抜けな顔をしてしまったかもしれない。ここにハルヒがいなくてよかった…二重の意味で。
「なんてことを聞くんだお前は??誤解ないように言っておくが…決して俺と佐々木はそんな関係じゃねーぞ!?」
「とりあえず落ち着いてください。誰も、付き合ってるなどとは言ってないではないですか。」
「むしろ動揺するほうが…変。何もやましいことがないのなら、あなたは毅然としているべき。」
「……」
あろうことか長門に諭されてしまった。これを驚かずして何と言う。というか長門…
『心理的領分というのは私にとって専門外』って、あれ嘘だろ?どうみても今のお前は…裁判にて無実の被告が
ついつい検察に熱くなったとこを諌める弁護人そのものだったぜ…!?心理学の『し』の字も知らない人間が
(正確には人間ではないが)どうしてそんなこと言えようか?いや、言えるはずがない…んじゃないか?
357 :
涼宮ハルヒの天啓 中編2 ◆i1mmP3RsKA :2010/10/22(金) 22:16:53.16 ID:gFWRR+KIO
「では質問を変えましょう。友達として考えてみてください。そういう意味であるならば、
あなたは佐々木さんと…異性の中ではかなり口数が多かったほうなのではないですか?」
「まあ…否定はしないが。」
「ならば、それだけで十分です。さて…話は戻りますが、もし涼宮さんに記憶があったと仮定した場合、
果たして彼女はあなたと出会ってどういう反応をとると思いますか?彼女の立場になってみて考えてください。」
「記憶があったらだと?そりゃ…まずは喜ぶだろうな。
んで今までどうしてたとか、今何やってるのかとか…互いに質問攻めに遭うんだろう。」
「そうですね。それが常人のリアクションというものでしょう。
しかし…そんな彼女に涼宮さん自身は気付いていないわけです。」
不意に、その言い回しが気になった。
「え…?まさかハルヒの中に過去の自分と今、2つの人格があるってのか??」
「いえいえ、言葉通りの意味で受け取らないでください。今のはあくまで比喩、そういうふうに2人の人物に
分けて考えたほうが理解しやすいと思ったからです。かえってあなたを混乱させてしまったようですね、
すみません。それで話の続きですが…その過去の自分は、即ち傍観することしかできないんですよ。
自らの意志で動くことはできないんです。その場合あなたならどうします?」
「どうします?って…何もできないんじゃどうもこうもねーよ。昔の思い出に馳せるくらいしか」
「ご名答、正解です。さすがですね。」
いや、普通に答えただけで『さすが』って一体どういうことなのかと…それ以前に『正解』の意味もわからん。
「あなた同様、過去の涼宮さんもおそらくは昔を懐かしんだはずです。
懐かしんだ、この時点である意味願望とはいえませんか?」
「…懐かしんだところで何か起きるのか?過去にタイムスリップできるわけでもねえし、
何よりハルヒ本人が気付かんのだから、俺と以前のような関係に戻ることも不可能だ。」
そうだ。ましてやそんな状況でどうして佐々木を…
358 :
涼宮ハルヒの天啓 中編2 ◆i1mmP3RsKA :2010/10/22(金) 22:27:48.93 ID:gFWRR+KIO
…待てよ?ようやくだが、関連性が見えてきたかもしれない。ここまでくるのに随分かかったな…。
仮にだが、過去の俺たちの立ち位置を…無理やりにでも現在へと投射したらどうなる?
あの世界の俺とハルヒは…とりあえず、【仲が良かった】のは事実だろう。そして、そのハルヒは
過去の記憶は失ってる。当人がその立ち位置に入れない…だからこそ、その代わりとなる人物に。
時間遡行してハルヒと出会った時点において…つまり、中学時代の俺が最も【仲が良かった】異性、
そんな彼女に偶発的にも影響を及ぼしてしまったのかもしれない。立ち位置を重視するのであれば、
後は佐々木が神の代行者たる機能を具えていれば完璧だ。俺は昔も今も一般人だから
何も影響が出なかったんだろうが…。
「古泉、お前の言いたかったことはわかったよ。ただ、この推論はちょっと苦しくないか?
仮定に仮定を重ねたようで、少し強引なような気がするんだが。」
「だから言ったではないですか。これは憶測だと。」
開き直ったぞこいつ!?いや、確かにお前はそう言ってたが…
これではまるで予防線を張っていたみたいで気分が悪い。
「不完全なフォトンベルト…その生成の過程を見ても、この説はそれなりに良い線いってたとは思うのですけどね。
佐々木さんの能力が涼宮さんのように完成されていないのも、それで説明がつきます。」
「……」
359 :
涼宮ハルヒの天啓 中編2 ◆i1mmP3RsKA :2010/10/22(金) 22:41:15.82 ID:gFWRR+KIO
それについては、俺は古泉とは違う見解だった。そりゃ、佐々木の能力が不完全なものだってのは知ってるさ。
橘京子や佐々木本人から散々説明くらったからな。その理由についてだが…俺は知ってんだ。
あいつが…ハルヒが第三世界終焉時、どれだけ自分の境遇、そしてその重圧に打ちのめされてきたのかを。
ならば、その代行者の証ともいえる能力を他の誰かに分け与えたりするだろうか?誰よりもその苦しみを
知ってるハルヒに、果たしてそんな真似ができるのだろうか?佐々木の能力が不完全なものとなったのは、
そんなハルヒの切実な思いが交錯した結果…少なくとも、俺はそうみてる。
「以上で僕の推論は終了なのですが…そんな僕の憶測も、一つだけ証明する手立てがあるのですよ。」
「?どういうことなんだ?」
「即ち、涼宮さんの能力が消滅したときです。それと同時に佐々木さんの能力も完全消滅するのであれば、
この説も、少しは信憑性を帯びるといったものです。」
…なるほど。ハルヒの力に誘発されての結果なのだとしたら、
確かに古泉の言う通り佐々木の能力は消えてしまうことであろう。
「さて、それで2つ目なんですが…」
「は?」
佐々木の話が終わったと思ったら、こいつはいきなり何を言い出すんだ??
これで奴の話は終わったんじゃないのか?さっきの佐々木云々はどうした??
あれは2つ目にはカウントされないのか??まさか、奴は簡単な算数さえできなくなってしまったか??
いや、それか、この歳にしてまさかの痴呆か??お前はそんな奴じゃなかったはずだぞ古泉…
とまぁ、今、俺の頭の中は大量のクエスチョンマークで爆発炎上を繰り返していたのさ。
360 :
涼宮ハルヒの天啓 中編2 ◆i1mmP3RsKA :2010/10/22(金) 22:52:04.39 ID:gFWRR+KIO
「すみません。さっきのは厳密に言えば憶測だったわけで、2つ目ではないんです。
すぐ終わる話だと思って軽く切り出したのですが…思ったより長くなってしまいました。」
なんて紛らわしい奴なんだ…と、いつもの俺なら怒りでワナワナ震えているんだろうが…
今日は佐々木の件に免じ、特別に許してやる。憶測には違いないが、可能性を示唆できただけでも…
一歩佐々木に近付けたような気がするからな。あいつのことは…大切な友達として、できる限り
知っておきたかった。何か有事が起こった際、何も知りませんでしたじゃ済まされないからな。
能力的にも立ち位置的にも、事件の当事者となりうる可能性は決して低くはないんだから尚更だ。
「で…だ。2つ目だったか?」
真剣な話の連続だったせいか、少々聞き疲れを起こしてしまってる自分がいる。
いかんな…こんな調子で、果たして奴の話をまともに聞けるのか??
「実はその2つ目とは、あなたのことなんですが…」
一気に目が覚めてしまってる自分がいる。
361 :
涼宮ハルヒの天啓 中編2 ◆i1mmP3RsKA :2010/10/22(金) 23:01:54.27 ID:gFWRR+KIO
「あなたって…俺か??俺が一体どうしたと??」
「涼宮さんがこの時代へと転生できたように…あなたも転生できた。それは自覚してますか?」
「…信じられないことではあるが、まあそうなんだろうよ。ハルヒが俺に見せた記憶を…俺は信じてるしな。」
「なら話は早いです。…高校入学時の涼宮さんの自己紹介…あなたは覚えてますか?」
「おいおい、いきなり話が変わりすぎじゃないか??なぜいきなりそんなことを??」
「そう思われるのも無理ありません。しかし、これでも一応話はつなげてるつもりですよ。」
うーむ…そこまで言われては仕方ない。こいつの示唆しようとしてることが
いまいちわからんが…とりあえず思い出すとしようか。自己紹介、自己紹介…
確か…
『東中出身涼宮ハルヒ!ただの人間には興味ありません。
この中に宇宙人、未来人、異世界人、超能力者がいたら、あたしの所に来なさい!以上!』
「今ので合ってるか?」
「よくそこまで鮮明に覚えていらっしゃいますね。感服します。」
「そりゃ、あそこまでインパクトある自己紹介はそうそう忘れたりはしないさ…って、お前俺のクラスじゃないのに
何で知ってんだ?いや、それ以前に、そんときはまだ俺の学校にはいなかったよな??」
たまに忘れがちになるが、こいつは一応転校生だった。
「簡単なことです。長門さんに聞いただけですよ。」
長門も同じく俺のクラスではないが…まあ、この長門にかかれば何でもありだ。
なんせ元はと言えばハルヒの監視役としてやってきたようなもんだったし…
ならば、あの席での問題発言を傍聴していたとしても何らおかしくはないだろう。
「で、思い出したのはいいが、一体これが何だってんだ?」
「今の自己紹介…何かひっかかるような所はありませんか?」
何を言ってんだ…確かに常軌を逸した自己紹介なだけに
突っ込みどころは有り余るほどあるんだろうが……ひっかかるトコ?
……
そういや…このハルヒの言葉は一連の流れとつながってるって、さっき古泉は言ってたよな。
一連の流れ…とは俺が二人に話してた【あの世界の記憶】のことだよな。いや、違う…
古泉はその後、転生の話題を出してきたじゃないか。転生…
『この中に宇宙人、未来人、異世界人、超能力者がいたら、あたしの所に来なさい!』
結果として宇宙人である長門、未来人である朝比奈さん、そして超能力者である古泉がハルヒのもとに集った。
しかし、一つだけ欠けていた…まあ、前々からこれについては疑問に思ってはいたのだが。
異世界人
願望を実現させるハルヒの能力を考えたとき、なぜ異世界人だけハルヒの目の前に
現れなかったのか…それが不思議でならなかった。まあ、特に憂慮すべき問題ってわけでもなかったから
俺自身深く考えようともしなかったが。
そして異世界人たる人物がいないまま今日まで時を迎えてしまったわけだが…
……
もし異世界人がSOS団に実はいたとしたら?
それは誰だ?
……
転生…
「古泉よ、お前の言いたいことを当てていいか?違うのなら思いっきり笑いとばしてくれ」
「もう察しがついたのですか?さすがキョン君ですね。」
「…言うぞ」
……
「俺は異世界人だったのか…?」
……
俺はこれまで自分をごく平凡な人間だと思ってた。どこか変わったところはあったかもしれないが、
それでも自分は長門や古泉、朝比奈さんとは違うごくごく普通の人間だと思っていた。
この時代に生きうる普通の人間としてな。だが…もう、そうも言ってられないだろう。あの記憶を見た
今となってしまっては。俺という人間が…あのときの【俺】の生まれ変わりだとしたら。転生だとしたら。
俺は間接的ではあるが、別世界から来た人間ということになる。つまり、言葉通りの異世界人だ。
364 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/22(金) 23:08:51.70 ID:xvOuxDi20
ほーほけきょ
古泉は静かに口を開く。
「それがわかったとき、どんな気分でしたか?」
「別にどうもこうもねえさ。ああ、やっぱりな…って思っただけだ。」
どうやら、俺は古泉の言いたいことを当ててのけてやったらしい。
「いつからお気付きで?」
「さあな…微々たる気配とかでもOKなら、それは俺が朝倉に襲われたときだろうか。とはいっても、
それ自体は別にどうでもいいんだ。あの一件以来、俺はあのとんでも話を信じるようになった…
マンションに呼び出されて聞かされた…そう、お前の話をな。」
俺は長門の方を見つめる。
「長門よ、涼宮ハルヒには願望を実現させる能力があるって…以前そう言ってたよな?
改めて、お前に確認しときたい。その能力ってのは…実は、この世界に限ったものだったんじゃないか?」
「…そう。」
まさかの当たりか。…なるほど、これで全てに合点がいった。
「となれば、この世界の住人ではないもの…即ち
異世界からの人間は、その影響下には入らないって認識でいいんだよな?」
「…そう。」
「わかった、ありがとな。今まで何か抱いていた…モヤモヤが消し飛んだぜ。」
……
366 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/22(金) 23:10:15.74 ID:xvOuxDi20
異世界だから思い通りにならないっていうのはまたツマランオチを持ってきたな
涼宮ハルヒという人間が願望実現という特異的な能力を有してる時点で、自身の意志でハルヒを
どうこうできていた俺の存在そのものがそもそも規格外だったのだ。…まあ、おかしいとは思ってたんだが。
ただの凡人である俺が涼宮ハルヒに選ばれた人間だとか、涼宮ハルヒのカギだとか…
後、唯一ハルヒに意見や口出しできる人間が俺だったってのも…、今となっては納得できる。
俺がハルヒの能力を受け付けない、異世界人だったのだとしたらな。
……
「おやおや、大丈夫ですか?どうか気落ちしないでください。」
なんと、今の俺は古泉から見て…どうやら気落ちしてるように見えたらしい。
「あなたが涼宮ハルヒの影響下に内包されなかったのは、決して【異世界人だから】という理由だけではない。」
長門が意味深なことを言ってきた。
「そうですよ、考えてもみてください。もしそれだけの理由であれば、極論かもしれませんが…
あなたは涼宮さんの単なる他人という独立した存在でも全然問題なかったわけです。
そうである場合、決して涼宮さんのカギたる存在には成り得ません。」
「しかし、あなたは過去の世界で誓った。涼宮ハルヒと再び会うことを。」
そうだ…あの世界の俺はあんなにもハルヒに会いたがってたじゃねえか。ハルヒも同様に…。
「それも当然ですよ。なぜなら、あの世界のあなたが
涼宮さんに対して思っていたように、涼宮さんもまたあなたのことがす…」
す…?
「いえ、ここは言葉を濁しておくとしましょう。とにかく、あなたと涼宮さんの関係には
論理や理屈では説明できないこともある…どうか、そのことを忘れないでください。」
いつもの俺なら、古泉の言いかけた言葉などわからず仕舞いだったんだろうがな…。あの記憶の中の…
【俺】が遂げられなかった思いを克明に覚えている今の俺には…。容易く予測がつく。
……
なぜだろう?急にハルヒに会いたくなってきた自分がいる。
「…俺は」
「もう僕たちのことはほっといて、涼宮さんの所に行ってあげてはどうですか?あなたもそんな気分でしょう。」
俺が言はんとしてたことを先に言いやがった。洞察力が鋭いってレベルじゃねえぞ…。
「だがな…俺はまだ、お前らの要件を聞いちゃいねえわけで…。」
「そんなことはどうでもいい。今はあなた自身の思いに従うのが賢明。私はそう考える。」
長門…
「わかった。二人とも、どうもありがとな!行ってくる!」
俺は自転車をこぎ出した。
……
おっと、急がば回れと言うじゃないか。
俺は発進していた自転車を一旦ストップさせ、携帯電話を片手にメールを打ち始めた。
「さすがにいきなり来られても迷惑だろうからな…行くってのは一応前もってメールで知らせとかねえと…。」
よし、送信完了。じゃあ再びこぐとしよう。
370 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/22(金) 23:16:28.42 ID:xvOuxDi20
おっと支援だ
371 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/22(金) 23:17:13.31 ID:xvOuxDi20
四
372 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/22(金) 23:18:02.73 ID:xvOuxDi20
読んでると忘れるから気をつけないといかんな
373 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/22(金) 23:18:44.70 ID:xvOuxDi20
鍋
374 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/22(金) 23:19:31.78 ID:xvOuxDi20
猫
375 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/22(金) 23:20:13.54 ID:xvOuxDi20
誇
376 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/22(金) 23:21:00.68 ID:xvOuxDi20
座
377 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/22(金) 23:21:43.72 ID:xvOuxDi20
式
中編2…終わりました。ようやく折り返し地点といったところでしょうか。
中編3もまた間をおいて投下しようと思います。
>>366 申し訳ない!
…目的地に着いたのはいいが。未だ返信が来ないのはなんともな…
果たしてチャイムを鳴らしてしまっていいものだろうか?
…まあ、もう来てしまってるわけだからな…。とりあえず、俺はインターホンを押した。
……
……
一向に誰かが出る気配はない。…日曜だから家族総出でどこか遊びにでも行ってるのか?だとしたら、
メールが返ってこないのは一体どういうわけだろうか。単にマナーモード、ないしはドライブモードで
気付かないとか…そんなとこか?
…まさかとは思うが、例の未来人たちに襲われたってことはねえよな…?
「…ハルヒ!いるか!?返事しろ!?」
玄関に詰め寄る。…やはり音沙汰が何もない上、玄関のカギは閉まっている。
「キョン…あんた、こんなトコで何してんの…??」
ふと背後から声をかけられる。そして、その姿を確認した俺は安堵の表情を浮かべる。
「…ハルヒか!無事だったんだな…。」
「無事って…?ていうか、人んちの玄関の前で叫んでみたりドアノブをいらってみたり…
あんた傍から見れば完全な不審者よ?見つけたのがあたしでよかったわね!」
380 :
たぶんこれでサルる:2010/10/22(金) 23:24:20.36 ID:xvOuxDi20
こちらこそすまんかった!
人が心配になって見にきやがったら…不審者だと!?
ああ、確かにそう思われてもおかしくない状況だったかもな。素直に認めます、はい。
「なんとなくお前の顔色を伺いにきたんだよ。もう回復したのかなーなんてさ。」
「だからさ、大したことじゃないって言ってるでしょ。その証拠に…ほら。」
ハルヒが左手に提げている買い物袋を俺に見せる。
「お前買い物行ってたのか?」
「そうよ、夕食の買い出しにね。夢タウンまで。」
「夢タウンって…こっから3、4キロくらいはあるぞ?そんな遠くまで行ったのか。」
「大安売りの日だったからね。背に腹は変えられないわ!」
なるほどな…まあ、そんな遠方まで自転車で買いに行けるような体力があるんなら、
特に俺が心配するようなこともないのだろう。
「そうそう、俺は一応お前んち行くってメールしたぞ。なぜ返信しなかったんだ。」
「あ、そうなの?それはゴメンね。携帯、家に置き忘れてきちゃったから。」
そういうことか…
「まあ別にいいけどよ。携帯ってのは何かの非常時とかに有効だし、
なるべくなら肌身離さず持ち歩く癖はつけてたほうがいいと思うぜ。」
「ふーん…何?このあたしがどこぞの馬の骨とも知れない輩に襲われる心配でもしてるっての?」
お前をつけ狙ってる未来人がいるから注意しろ!とは言えねえなぁ…
変に言って刺激を与えてしまえば逆効果になる恐れだってあるし…
「いや、まあ、念のためだ念のため。」
「ま、持ってるに越したことはないもんね。次回から気に留めておくわ…。」
……
…気のせいだろうか?どこかしらハルヒの声が弱弱しく聞こえるのは…
俺の考えすぎか。
「…あ」
「どうしたハルヒ?」
「忘れた…」
「忘れた?何を?」
「カレー粉…」
……
どうやら今日のハルヒの夕食はカレーらしい。そういや買い物袋にはじゃがいもやにんじん、牛肉が
ちらほら見える。それにしたって、カレーの基本であるカレー粉を忘れるなんてよっぽどだな。
しかも、それがあの団長涼宮ハルヒときた。やっぱまだ本調子じゃねえんじゃねえか?と疑いたくなる。
「あんた今あたしをバカだと思ったでしょ!!?」
「あー、いや、気のせいだ。気のせいだぞハルヒ。」
「まさかあんたの前でこんな失態を晒すなんてね…不覚。」
「気にすんなよ。人間誰にだって起こりえることさ。」
「あたしだって、あんなことなけりゃ気疲れせずにす…」
ん?何だって?
「いや…何でもないわ。とにかく、買ってきた食材を家に置いてくるから
キョンはそこで待ってて。どうせヒマなんでしょ?」
そう言ってハルヒはカギを開けて家の中へと入っていく。…あの調子だと、
どうやら俺を否応にも買い物に付き合わせるつもりらしい。うむ、まったくもってハルヒらしい。
…まあ、もともと今日はハルヒと一緒にいようと思ってたから、結果オーライなんだが。
…それにしてもさっきハルヒは何を言おうとしたんだ?気疲れ?もしかして昨日長門が言っていたような…
ハルヒを昏睡状態に陥れた電磁波とかいうやつが今だ尾を引きずってんのか?いや、それは違うな。
ハルヒをタクシーで送ったあの夜、特にハルヒから何かしらの異常を報告された覚えもないし…
時間が経って悪性の症状を引き起こしたにせよ、長門曰く…異常波数を伴う波動だ。
ならば、仮にそうであるなら相当深刻な事態に陥ってるとみて間違いないはず。
ところが、ハルヒは軽いノリで『気疲れ』という単語を会話に混ぜてきたではないか。この時点で
すでに決着してるような気もする。粗方、テストで悪い点とったとか暖房のエアコンが故障したとかで
気落ちしたってとこだろう…頭脳明晰ハルヒ様なだけに前者はありえないがな。例えだ例え。
操行してる内にハルヒが中から出てきた。どうやら用事は済ませたようだ。
「じゃ行きましょ。」
「それはいいんだが、どこへ買いに行くつもりだ。まさか、また夢まで行くのか?」
「まさか。一個買うだけにそこまで労力は強いられないわ。近くのスーパーで十分よ!」
そりゃ非常に助かる。あんな距離、とてもじゃないが自転車で移動する気になれない…
あれ?俺ってこんなにも体力のないヤツだったっけか?いつもならあれくらいの距離どうってことないだろ?
いや、体力とか以前に元気が沸いてこな…
…ああ、そうか。ようやく気が付いた。
今日まだ何も食べてねえじゃねえか俺…何かだるいと感じてたのはこのせいだったか。
「あんたさ、もうお昼食べたりしたの?」
ハルヒが尋ねてくる。
「昼飯どころか今日はまだ何も食ってねえんだ…。」
「は?何それ、バッカじゃないの??もう3時よ??
普通朝飯やおやつの一つ二つくらいは食べてくるでしょうに…。」
哀れみの目でこちらを見つめてくるハルヒ。そんな目で見つめるな!仕方ねえだろ…起きたのが
2時過ぎだったんだしよ。まあ、これについてはハルヒには言わないことにする。まさかお前の今後について
本人抜きでファミレスで深夜遅くまでメンバーと会談してたなんて、口が裂けても言えない。
「運が良かったわね、あたしもまだ食べてないのよ。カレー粉買ってくる前にどこかに食事しに行きましょ!」
それは助かるぜ。今の俺には食欲は何物にも代え難い。
385 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/22(金) 23:37:38.61 ID:oAueq44i0
\
386 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/23(土) 00:03:45.71 ID:2XusCm6PO
>>380 猿になってまでも支援してくれて嬉しかったですよ。
おかげでいつもより多く書くことができました。
とりあえず、安いトコが良いってことで俺たちは最寄のファーストフード店へと足を運んだ。
看板にはMの文字が大きく書かれている。
「ダブルチーズバーガーのセットお願いします。飲み物は白ぶどうで。」
「あたしはテリヤキチキンバーガーのセットを。飲み物はファンタグレープで!」
しばらくして注文の品が届いた。俺たちは空いてるテーブルへと移動する。
……
おお、向こうの壁にドナルドのポスターが貼られているではないか。…だから何だという話だが。
「キョンどこ見てんの?…あら、ドナルドじゃない。」
最近のことだったろうか、俺の部屋に入ってきたと思いきや、いきなり
『ねえねえキョン君見て見て〜!らんらんるーだよ〜♪』とか言って万歳ポーズをとってきた妹の姿が
目に焼き付いて離れない。そういやそんなCM見た覚えはあるがな…妹曰く、これは嬉しいときにやるもんだとか。
それと、地味に学校で流行ってるんだとか何とか…なんとも混沌とした世の中になったもんだ…と俺は思った。
「そういえば、どうしてドナルドってマスコットキャラクターになんか成れたのかしら?」
「どうしてって…マクドナルドがそういう企画案を出したからだろ?」
「あたしが言いたいのはそういうことじゃない。仮にも国民皆に知れ渡っている有名チェーン店でもあるマックが、
どうしてこんな世にも恐ろしい顔をもつピエロなんかをイメージキャラクターにしたのかってことよ。」
世にも恐ろしい顔って…ドナルドに失礼だぞお前…。
いや、待てよ…
前言撤回、確かに怖い。
夜道を歩いていたとして真後ろにドナルドがいるとこを想像したらヤバイ。
就寝中ふとベッドの側で誰かが立っている気配があったとして、それがドナルドだったらヤバイ。
鏡を見たとき後ろには誰もいないのにドナルドの顔が映ってたりしたらヤバイ。
他にも…って、キリがねーな。
「百歩譲って、これがカジノとかパチンコみたいに大人客が中心の産業なら別にいいのよ。
問題なのはマックは子供たちからも絶大な支持を受けているってとこ。純粋無垢な子供たちが…
果たして妖怪ドナルドの顔を好き好んで食べに来たりするかしら?万一にもいたとすれば、
その子は精神科に見てもらうべきね。間違いなく病んでるわ。」
…ハルヒの言い分はめちゃくちゃなように見えて、実は結構筋は通ってる感じがする…まあ、さっきも
言ったように、俺ですら捉えようによってはドナルドは怖い存在だ。ましてや小さな子供たちは言うまでもない。
「言いたいことはわかるぜ。たいていマスコットキャラクターと言ったら
ミッキーにポケモンとか…大抵はそういう風貌してるよな。」
「そうなのよ。だから謎なの…これこそ不思議ってやつ?SOS団もようやく不思議らしいものを見つけたわね。」
おいおいそんなことで不思議になっちまうのかよ…お前の思考はいまいち理解できん。ドナルド様様だな。
……
「あれだな、こりゃ発想の転換が必要なのかもしれねえぞ。」
「どういうこと?」
「俺の妹がつい最近ドナルドのらんらんるーってマネやってたんだよ。結構面白がってやってたぞ。」
「妹ちゃんが??」
「ああ。そこで俺は思ったんだが…例えばマックは子供、中高生、リーマン、家族と言った様々な顧客層を
開拓してる。つまり大衆向けチェーン店なわけだな。で、たいてい大衆向けともなれば、イメージキャラクター像も
しだいと絞られてくるものだ。ポケモンやドラえもん、サンリオキャラのように愛くるしい容姿をしたものにな。」
「じゃあ尚更ドナルドはおかしいじゃないのよ。」
「そうだな。だから発想の転換だ。例えば、柄の悪い不良が…
公園で鳩や犬にエサをあげてるシーンを見かけたとしたら、お前はどう感じる?」
「漫画とかでありがちなパターンね…まあ、一気に印象はよくなるわ。」
「じゃあ、普段から動物たちにエサをあげている人と今言った不良…印象の上げ度合はどちらが大きい?」
「上げ度合と聞かれれば…後者かしらね。」
「そこなんだよ。見た目が怖いやつほど実際に良いことをしたときは周りから絶賛されるもんだ…人間心理的にな。
もちろん、普段から良いことをしてる人のがいいには決まってる。ただ、そのギャップの度合でついつい
錯覚しちまうもんだ。普段何らかのマイナスイメージをもってるヤツなんかに対しては…特にな。」
「つまり、ドナルドにもそれが当てはまるってこと?」
「そういうこった。よくよく考えてみれば、ただの芸人がふざけたことしたって当たり前すぎて何の面白味もないが、
おどろおどしいお化けピエロがらんらんるーをしてしまった場合は話は別だ。ネタ的要素が大きいが…
その分、面白さの度合は一気に跳ね上がる。」
「…そうね!いつもヘラヘラしてる谷口がやったって『相変わらずバカなことやってるのね』
の呆れた一言で終わるけど、キョンが『らんらんるー』やってたらなんかすっごく面白そう!
普段おとなしくて我が強い人間なだけに…くっく…想像したら笑いが…あ…あっは…は…
キョン、どうしてくれんの…よ、あんたのせいよ!あははは!!」
はあ…
ホントにもう…
そんなに俺のらんらんるーを見たいのなら、いくらでも見せてやろう。そんときはお前の夢にまで
出張するくらい洗脳してやるから覚悟しておけよ。悪夢を見てから悲鳴を上げたって、もう手遅れなんだからな?
とまあ、冗談は置いといてだな…いくらなんでも谷口はそこまでバカじゃないぞ。友として、谷口の名誉のためにも
一応言わせてもらう。あいつは一見バカなように見えて、実際は越えてはならない境界線は常に把握している
立派なホモサピエンスだ。え?もしらんらんるーをしたらどうするかって?そんときゃ絶交だ。
「おい、国木田、あそこにドナルドの写真が映ってるぜ!」
「あー、そうだね。」
「そういやさ、最近ドナルドの…あるネタがブームになってるって知ってるか?」
「え…知らないなあ…谷口は知ってるのかい?」
「おうよ!流行を先取りした俺に知らないものなんてねーんだよ!」
…何か、後ろのほうで見知った声がするのは気のせいか?いや、気のせいだと思いたいんだが。
「あら、あれ谷口と国木田じゃない。あいつらもココに来てたのね。」
……
「そのネタっていうの何なのか見せてほしいな。」
「じゃあ、しかとその目に焼きつけよ!らんらんるー!!!」
…友情決裂。さらば谷口、てめーとは金輪際絶交だ。
391 :
涼宮ハルヒの天啓 中編3 ◆i1mmP3RsKA :2010/10/23(土) 00:16:23.18 ID:2XusCm6PO
「なかなか面白い芸だね。あれ…あそこに座ってるのはキョンと涼宮さん?」
「…え…?」
国木田がその言葉を発した瞬間だったろうか、谷口の顔がまるで
頭上からカミナリを落とされたかの如く硬直してしまっているのはこれいかに。
「あいつ…本当にらんらんるーやったわよ?やっぱ谷口ってバカだったのね。」
「ハルヒよ、とりあえず同意しとく。」
「お、お前らどうしてココに!?」
谷口が紅潮した顔で咆哮する。あまり大声を出すな、他の客に迷惑だろうが。
「どうしてって、ただお昼を食べに来ただけよ。悪い?」
「そ、それもそうだな…はは…は…」
谷口が生気を吸い取られるかのごとく屍と化していくのが見てとれる。そんなに俺とハルヒに
見られたのがショックだったか…まあ、せめてもの慈悲として見なかったことにするから安心しろ。
「谷口さ、今はキョンと涼宮さんには話しかけないでおこうよ。二人ともデートしてるみたいだしさ。」
国木田よ…お前はお前でどうして火に油を注ぐようなことを言うのか…
それも、俺たちにちょうど聞こえるくらいの音量で。
「な、何言ってんのよあんた!?何か勘違いでもしてんじゃないの!??」
言わんこっちゃない…団長様乱心でござるの巻。せっかくの温和な雰囲気が
ぶち壊しだ…とりあえず国木田、来週の月曜顔を洗って待ってろ。
というわけで、俺たちはどこぞやの二人組のせいで早々と退散を余儀なくされた。
久々のハンバーガー…もっと味わって食べたかったぜ。
「あー、なんなのあいつら!?落ち着いて食事もできなかったわ!」
気持ちはわかるが、お前もお前で過剰に反応しすぎな気もするがな…。
「まあまあ、気を取り直してスーパー行こうぜ。夕食のカレーこそはのんびりと食せばいいじゃないか。」
「…それもそうね。」
そんなわけで、俺たちはカレー粉購入のため、スーパーへと立ちよった。早速カレーコーナーへと向かう。
「あったあった、これよこれ!」
カレー粉を手に取るハルヒ。…辛口か。
「…キョン、カレーらしさって何だと思う?」
「…辛さか?」
「そうそう!辛さよ辛さ!辛口ほどカレーらしさを追求してるものもないわ!」
…ハルヒもカレーに対して何かしらの情熱をもっているのであろうか?長門、よかったな。こんな身近に
ライバルがいたなんて、いくら万能長門さんと言えども想定外だったはずだ。とりあえず、突っ込みを入れとく。
「それは、単にお前が辛いもん好きってだけの話だろう…。」
「わかってないみたいね。まあ、あんたも食べてみれりゃわかるわよ。」
「へいへい、今度食べてみますとも。」
「何言ってんの?今から食べるのよ。」
…?
「つまりアレか…?お前が作るカレーを、俺がこれから食べるってことか?」
「そゆこと。どうせこの分量じゃ確実に一人分以上出来上がっちゃうし、両親も
仕事の都合で今日は帰ってこれないから、誰かに食べてもらわないとこっちが困るのよ。」
そういうことですかい。ま、せっかくの機会だし、ありがたく食させてもらうとするぜ。
後で家に連絡しとくとしよう…夕食は外食で済ますってな。
……
カレー粉を手に入れた俺たちは、特に寄り道をすることもなくハルヒ宅へと向かった。
岐路の途中で、俺は自宅へと先ほどのメッセージを伝えるべく電話をかけた。まあ、伝えたはいいものの
『朝6時に帰ってくるとは何事だ!?』とか『昼飯食べずにどこ行ってたの!?』とか散々怒られてしまったのは
秘密だ。いや、当然っちゃ当然なんだよな…おかげで思ったより長い電話となってしまった。
ハルヒが一人手持無沙汰になっているではないか…。
電話している最中に気付いたことなのだが、何やらハルヒは首をキョロキョロさせていた。
決して俺の方を見ているわけではなかったらしい。方向としては後ろか…後ろに何かあるのか?
と思い、俺も振り返ってみたが…特に変わった様子はなかった。
電話を終えた俺はハルヒに問いかけてみた。
「なあハルヒ、一体どうしたんださっきから?」
「あ、いや、何でもないわよ…」
「さては、後ろ首や背中がかゆくて仕方なかったんだろう?どれ、俺がひっかいてやろう。」
「な、なに許可なく体に触れようとしてんのよ!?このセクハラ!」
「じゃあ許可があれば触ってもいいわけか?」
「こんの…変態!!」
あー、ついには変態呼ばわりか。それはきついな…
まあ、お前の緊張をほぐそうと思っての行動だったんだ、大目に見てくれよ。
……
ハルヒが緊張しているのには理由がある。俺も先ほどまでは
単なる気のせいとしか思ってなかったんだが…やはり何かおかしい。
妙に違和感を感じるのだ…俺たちの後ろで。
気配が…
……
ごめん寝る
支援
397 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/23(土) 00:38:06.04 ID:BVsSMIBM0
Sien
398 :
涼宮ハルヒの天啓 中編3 ◆i1mmP3RsKA :2010/10/23(土) 00:39:49.86 ID:2XusCm6PO
単刀直入に言おう。俺たちは何者かにつけられている。
そいつの姿を確認したわけではない。しかし、どう耳を澄ませたって…俺たち二人以外の足音が
後方から聞こえるという、この奇妙な事実…音の反響とかそういうわけでもない。
ただ一つわかったことがある。それは、早いとこハルヒ宅へと帰還したほうが良さそうだということだ。
さて、家へと着いた。
「早速作ろうっと。」
手を洗い、颯爽とキッチンへと向かうハルヒ。顔は笑ってはいるが…内心はある種の恐怖を
感じているに違いない。もしかして、昼に会ったときから何か様子がおかしかったのはこのせいか?
…まさかとは思うが、ストーカー被害にでも遭ってるのか…?
……
まあ、その是非を今ハルヒには問うべきではないだろう。あいつは今カレー作りに勤しんでんだ…
その熱に水をさすような野暮なマネは…俺はしたくない。とりあえず、聞くのなら
夕食を食べ終わってからでも十分間に合うはずだ。俺も、今だけはこのことを忘れることにする。
399 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/23(土) 01:06:45.77 ID:2XusCm6PO
自分はまだ投下を続けますが、眠たい方はお休みください。
自分も頃合いを見て退散しようと思います。
400 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/23(土) 01:07:57.85 ID:BVsSMIBM0
見てるよ
…さて、俺は何をすべきか。さすがにハルヒがカレーを作っている横で、一人テレビを視聴するのは
何かこう…罪悪感が…。かと言って、キッチンに入って手伝おうと言ったところで足手まといだろう。
なんせ、食材や調理器具の場所が一切わからないのだから。つっ立ってるだけで邪魔なだけである。
……
まあ、何もしないよりはマシか。手を洗い、キッチンへと入る。
「あら、キョン手伝ってくれるの?」
「ああ。できることがあればな。」
…不覚、エプロンをまとったハルヒに一瞬ときめいた。
「じゃあそうね…このたまねぎとにんじん、じゃがいもを水洗いしててちょうだい!
で、これ包丁…暇があるならたまねぎも切っててもらえると嬉しいわ。」
「おう、任せとけ。」
「あたしはナベに油をひいて、あと塩水でも作っとく。」
「塩水??一体何に?」
「いいからいいから、自分の作業へと戻る!」
へいへい。とりあえず水洗いに専念するとする。
……
大体終わったか…時間もあるし切るとするかな。ハルヒは…というと、りんごを小さくスライスしていた。
…デザート?にしてはやけに小さすぎる。ああ…なるほど、さっき言ってた塩水につけるつもりなんだな。
それでアクをとり、カレーに入れるって魂胆か。…ん?
「ハルヒよ、お前辛いカレーが好きとか言ってなかったか?」
「そうだけど、どうして?」
「そのりんご、カレーの中に入れるんだよな。りんごはすっぱさもだが、同時に甘さも引き出すぞ。」
「ちっちっち、甘いわねキョン、あたしをなめてもらっては困るわ!単に辛さだけを追求するほど、
あたしは単純な人間じゃないのよ!確かに本質は辛さ…でもね、それにちょっと工夫をこなすことで、
辛さの中に甘さを見出せるおいしいカレーを作ることができるの!覚えときなさい!」
何やら言ってることが意味不明だが…とりあえずハルヒさんの情熱に、俺は感銘を受けておくとする。
そんなことよりたまねぎだ…こいつ、目から涙が出るから嫌いだ。何か良い方法はないものか…
まあ、臆していても仕方ない、とりあえず切ろう。
……
くっ…涙が…
「キョ、キョン!?何やってんのよ!?」
「何って泣いて…いや、違った。見ての通り切ってんだがな。」
「じゃなくて、どうしてみじん切りしてんのかって聞いてんの!」
あ…
ああああああああああああっーーーーーー!!
しまった…カレー料理だということをすっかり失念してしまっていた…
「すまんハルヒ…申し訳ない。」
「…ま、いいけど。小さなたまねぎってのも、たまにはいいかもね。」
おや、すっかり怒鳴られるかと思ったが…それどころかフォローまでされてしまったぞ?
なぜ上機嫌なのかは知らないが…反動で明日にもアラレが降りそうで怖いな…
「じゃ、今度はにんじんとじゃがいも頼むわね。はい、これ皮むき機!」
すでに中火でナベを熱しているから、おそらくもう少ししたらたまねぎと牛肉、
そしてにんじん、じゃがいもってな段取りか。それまでには間に合わせねえとな。
「おう、今度こそ任せとけ!」
早速にんじんとじゃがいもの皮むきに取り組む俺。
……
ふう…慣れない作業はきついぜ…普段あんま料理などしたことのない身なんで特にな。
ハルヒはというと、すでに俺が切ったたまねぎと牛肉をナベへと入れ、しゃもじで混ぜている段階だ。
こりゃ急がねえと…
404 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/23(土) 01:14:11.20 ID:plMCw6bs0
カレーの匂いをかぎ付けた長門さんが背後に…
「キョン、別に焦る必要はないわよ。それでケガでもしたらバカみたいだし。
何かあったら弱火にすればいいだけよ。」
「お前が俺の心配すんなんて珍しいな。いつもなら<早くしないと承知しないわよ!とか言うそうだが。」
「へえ…?あんたはそう言ってほしいわけ?そう言ったってことは、そう言ってほしいのよね?」
「すまん。俺が悪かった…。」
やっぱりいつものハルヒだった。
……
よし、なんとかむき終わった。あとは切るだけだ…!おっと、
ここで焦ってはいけない。さっきのたまねぎのような失敗をしないためにもな。
「ハルヒ、にんじんとじゃがいもの切る大きさはカレーの場合、
人によって好みがあるんだが、お前はどのくらいの大きさがいいんだ?」
「そうね…別に大きくても構わないわよ。」
「了解したぜ。」
仰せの通り、俺はにんじんとじゃがいもを大雑把に乱切りする。
「どうだハルヒ!?今度はOKだろう?」
「あら、キョンらしさが出てていいんじゃない?及第点よ。」
キョンらしさって何だ?大雑把に乱切りされた雑な形…なるほど、これが俺らしさか。もう意味がわからん。
「たまねぎと牛肉の色合いもそろそろ良い頃ね。キョン!にんじん、じゃがいもを入れてちょうだい!」
「おう。」
ジューッと音をたてて食材がナベに転がり落ちる。これは美味いカレーにたどりつけそうだ。
「さーて、今度は……むむ、キョンにしてもらうことは特にもうないわね。」
「そうなのか?」
「ええ。後はあたし一人がナベの番をしてたら事足りるし。」
「そうか…あ、そういやご飯はどうした?」
「あたしが忘れるとでも?昼にとっくに保温済み。いつでも炊きだちで取り出せるわ。
ってなわけでお疲れ様、キョン。リビングにでも行って休んどくといいわ!」
「まあ、やることがないなら仕方ないか。また何か
手を借りたいことがあれば呼んでくれよな。カレー頑張れよ。」
「あたしを誰だと思ってんの?あんたは大船に乗ったつもりで構えときゃいいのよ!」
素直に『うん、頑張るね!』と返せばいいものを…ま、いいか。それがハルヒだもんな。
よくよく思い返してみれば、今日のハルヒはいつもよりおとなしく、そしてお淑やかなほうだったじゃないか…?
これ以上ハルヒに対して何かを望むのは、それこそ贅沢というものだろう。
そんなこんなで俺はリビングへと向かい、ソファーに腰を下ろすのであった。
ふう…ようやく一息ついたな。カレーができるまでのしばしの間ボーッとしとくとするか…
何やらいろんなことがありすぎて疲れたぜ…。思えばここ2、3日は随分と濃い日々だったのではないか?
今こそこうやって、ハルヒと平凡にカレー作りを営んでいるが…。
ヒマだしいろいろと回想してみるか。まず事の発端は何だっけか?そうだ、震災で町が崩壊する
夢を見たんだ。それから…ハルヒから音楽活動についての発布があったな。しまった…
そういやメロディー作ってこなくちゃいけなかったんだよな。いろいろあって忘れてた。
それから…そうだ、未来には気をつけろみたいな趣旨の手紙を下駄箱で入手したんだっけか。
その後、朝比奈さん大に会って藤原には気をつけろと言われ…
……
もしかして、俺たちをさっきつけていたのは藤原…ないしはその一味か?
だとしたらハルヒの監視ってことで十分説明もつくな。
回想の続きに戻るが…その後家に帰って寝て…今度は地球が滅ぶ夢を見てしまったと。翌日SOS団で
バンド活動に取り組もうとしてた矢先にハルヒが倒れる…それがきっかけで夜緊急集会が開かれたと。
それから…俺は夢の中で過去の自分を垣間見て、目を覚ましたのちに長門と古泉にそのことを話して…
…長門と古泉が俺を呼びだした理由、まだ聞いてなかったな。電話じゃなく口頭で話すつもりだったとこを見ると、
それなりに重要性を秘めた話だったのではないかと見受けられるが…。気になる、後で電話でもして聞いてみよう。
で、その後俺はハルヒの家に行き、途中で何かしらの気配を感じながらも家に帰り、そして今に至るというわけだ。
……
ハルヒが見せてくれた三度の夢、そして長門や古泉による解説等のおかげで…大体状況は
つかめてきたのだが、いかせん未だ腑に落ちない点が多い。不明なものが多すぎるんだよ…
例えば下駄箱に入っていた例の手紙。未来に気をつけろってのが何のことなのか…未だにわからん。
『未来』などという抽象的単語はできるだけ使わないでほしいね。無駄に、処理に時間がかかる。
その後朝比奈さん大から藤原に気をつけろと言われるわけだが、じゃあどうしてあんな手紙を入れたのかと
問い詰めたくなる。あの手紙の差出人が彼女じゃなかったのだとしたら、それもわかるが。だが、その場合
一体誰があんな手紙を?誰が何のために朝比奈みくるを偽って俺に手紙を?いや…あの執筆は
前に俺が見た朝比奈さん大と同じだったような気がする…じゃあやっぱりあの手紙は朝比奈さん大が
…やめよう。頭が混乱してきた。
他は…ハルヒを気絶させた犯人は一体誰なのかってこと。朝比奈さん大の忠告を鵜呑みにするのであれば、
犯人は藤原一派だと一目瞭然なのだろうが…そもそもだ、俺自身何かしらのステレオタイプを抱いている
可能性がある。例えば、状況証拠から考えて犯人は未来人だと勝手に決め付けていたが…本当に犯人は
未来人なのだろうか?そうである場合は藤原一派だと断定できるものの、もしそうではなかったら?
ダメだ、考えたって悪戯に頭を疲弊させるだけだな…
後は、長門と古泉が俺に何を告げようとしていたのかってこと。
まあ、これはさして重大な案件でもないだろう。本人たちに聞けばわかることなのだから。
そして最後は、俺たちをつけていた輩が一体誰なのかってこと。ハルヒを気絶させたヤツと同一犯と見て
間違いないんだろうが…。とりあえず事態の進展を待つ他ない、か。闇雲に一人で考え込んでたって、
次々と新たな可能性が生まれるばかりでキリがねえ。かといって、真相がわかるまで何もしない
というわけにもいくまい。常に冷静に…氾濫する情報の取捨選択に徹して、なんとしてでもハルヒを守り抜く。
それが…今の俺にとっての最善であるはずだ。俺はそう固く信じてる。
409 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/23(土) 01:25:27.54 ID:plMCw6bs0
実は藤原こそが……
410 :
涼宮ハルヒの天啓 中編3 ◆i1mmP3RsKA :2010/10/23(土) 01:25:44.15 ID:2XusCm6PO
「キョン!できたわよ!お皿出すの手伝ってー!」
おお、ようやく待ちに待ったカレーの完成か!今行くぞ。
「「いただきまーす。」」
合掌する二人。
……
「どうキョン?味のほうは?」
「悪くないんじゃないか。十分食えるぞ。」
…しまった、この言い方では…まるで【ハルヒは料理が下手だとばかり】
と暗に示唆してるようなものではないか!?弁解しておくが、決してそんなことは思っちゃいない。
『涼宮ハルヒ』と聞いて思い浮かぶものは何だ?たいていは奇人変人、唯我独尊、天上天下、ギターボーカル、
スポーツ万能、頭脳明晰…などといった類であろう。俺が言いたいのは、これらのワードから連想されうる限りで
『料理』の要素を含んだものは見当たらない、ということ。つまり、俺はこれまでハルヒに対して…少なくとも
『料理』という項目に関しては、特に明確なプラスイメージもマイナスイメージも抱いてはいなかった
ということである。おわかりだろうか?先ほどのハルヒへの返答は、先入観無きゆえの事故なのだ。
411 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/23(土) 01:33:07.28 ID:plMCw6bs0
ハルにゃんの料理たべたいお
412 :
涼宮ハルヒの天啓 中編3 ◆i1mmP3RsKA :2010/10/23(土) 01:44:05.64 ID:2XusCm6PO
「ふーん、無難なコメントをするのね。ま、それも仕方ないか。」
おお、妙に勘ぐられたりしないで助かった…って、仕方ないとはこれいかに?
「例えばこのお肉。これ安物なのよ。」
「そうなのか!?」
「焼き肉とかで使用する高級肉を使えばもっと味も出たんでしょうけどね。財布との相談で、ついカレー用の
薄いバラ肉買っちゃったのよ。ああ、でも決して邪見したりしないでよね!?質による差異こそあれどカレーに
おいてはね、牛肉の場合ほとんどはカレー粉との整合性で味が決まったりするんだから!他にもナベに入れる
スープだって…本来なら鶏のガラを煮込んだものじゃなきゃいけなかったのに時間との都合で…。でも
一般家庭とかでもね!時間に余裕がないときは代わりに水を使うってのはよくある手法なのよ!?だから」
「わ、わかった!!お前が精一杯頑張ってるってのは伝わったからもういいぞ!
そりゃ金銭的・時間的な問題じゃ仕方ねえよ。それにだ、仮にもカレーをおごってもらってる身分の俺が
お前に対して文句や贅沢を言うとでも…思ってんのか?んなわけねーだろ。感謝してるんだぜ…本当にな。」
「わかれば良し!」
…顔が少し赤くなってるように見えるのか気のせいか?
まあ、いろいろ取り乱したからな。おおかた動揺でもしてるんだろう。
「それにしても滑稽ね…この細かく刻んである小さな物体は。」
いきなり話題変えやがったな…しかも、敢えて遠回しに言うことで俺に何かしらの揺さぶりをかけようとしてる。
「たまねぎ、みじん切りにして悪うございましたね。」
…こればかりはどうしようもねえ。どう見たって俺が悪い。
追い付いた
「いらう」は方言だよな
「いじる」みたいな意味だっけ
414 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/23(土) 02:00:10.25 ID:2XusCm6PO
>>413 追い付いてまで見てくださってありがとうございます。
というか、方言だったんですねw出身地がばれてしまいますな。
「それと、泣きながら切ってる誰かさんも滑稽だったかな。」
さすがにこれには反論させてもらおうか。これに関しては何一つ俺に落ち度はない!
相手がたまねぎである以上、この怪奇現象は生きとし生ける全ての者に訪れるものなのであるから。
調子に乗るのもそこまでにしてもらおうかハルヒさんよぉ…。
「そんなこと言っていいのか?ハルヒ。お前もこれを切りゃあ決して例外じゃねえんだぞ?」
「やっぱアホキョンね。そんな当たり前の反駁、聞き飽きたわ。」
…何…??
「良いこと教えてあげる。たまねぎってのはね、周りの皮をむいたあと 冷蔵庫に10分くらい入れとけば…
その後切ったって涙は出にくくなるのよ!その様子だと知らなかったみたいね〜」
「何だと!?それは本当か??」
「本当よ。ま、疑うのならヒマなとき家で試してみることね。」
…またまた俺の敗北である。どうやらこいつのほうが俺より一枚上手らしい…って、ちょっと待て。
「ハルヒよぉ…そういうことはなぁ…」
……
「たまねぎを切る前に言え!!」
「怒らない怒らない、過ぎちゃったことなんだし…もうどうでもいいじゃない。
『過ぎ去るは及ばざるがごとし。』って言うし!」
どうでもよくない!しかもそのコトワザの使い方違う!あ、いや…ハルヒのことだ、
おおかた敢えて誤用してみましたってとこだろう。まったくもって嫌味なやつだ…
そんなバカ話をしながら、俺たちはカレーを平らげた。
……
「それにしても、こういう辛い料理と合わさると麦茶のうま味も一気に引き立つな。」
「確かにそうね。…おかわりいる?」
「お、すまんな。頼む。」
2リットル型のペットボトルから静かに麦茶を注いでくれるハルヒ。その麦茶をすする俺。
……
そろそろ本題に入るか?いや、こういう事は向こうから話してくるのを待つべきなのかもしれないが。
しかし、相手に自分の弱みを見せようとしない…気丈で自尊心の高いハルヒが
安々と悩みを打ち明けてくれる…ようにも思えない。ここは俺から切り出すべきではなかろうか?
「ハルヒ、最近何か嫌なことでもあったか?」
「…え、い、いきなり何??」
揺さぶりをかける俺。
「お前が元気なさそうに見えたからな。ちょっと気になったんだ。」
「…あたしそんな顔してた?」
「ああ。」
「……」
……
「あんたってさ…ボーっとしてるようで、実は結構鋭いとこがあるわよね。」
…ついに観念したのか、ハルヒは話し始めた。
「…朝方に両親が出てってからね…何か様子がおかしいの…。」
「……」
「最初はただの気のせいだと思ってたんだけどね…やっぱりするのよ…気配が。」
「…気配か。」
「家にはあたし一人しかいないはずなのに…何か音がするの。それも風の音とか暖房の音とかじゃなくて…。」
「…人的な音…か?」
「ええ…そうよ。聞き間違いだと思いたかったけど、確かに聞こえた。でも周りを見渡したって誰もいない…。」
「……」
「笑っちゃうよね、キョン。あたしがこんなこと言うなんてさ…少なくとも、おかしくはないはずなんだけど…。」
なるほど、ハルヒが俺に話をためらう理由がわかった…俺の考えていたような、単なるプライドだけの
問題じゃないらしい。話すことによって俺に【幻聴】や【被害妄想】などと断じられるのが怖かったのだ。
それもそうだろう…音がするのに周りには誰もいない。こういった不可解な症状を継続するようであれば、
たいていの常人はハルヒを【異常者】と決めてかかっても何らおかしくはない。
それをハルヒはわかっていた。だからこそ、俺にも話したくなかった。
「安心しろよハルヒ。お前がおかしいだけなら、俺もお前の仲間入りだぜ。」
「ど…どういうこと?」
「さっき外を歩いててな、俺も同様に何か気配を感じたんだよ。気配というか…人の足音みたいのをな。」
「キョンも!?」
「ああ。もちろん、そのせいでお前が極度の緊張状態に陥ってることもわかってた。
だから…くだらんジョークでも言って気休めさせてやろうと思ったんだがな、すっかり変態呼ばわりというわけだ。」
「…そうだったの。でもあたしは謝らないわよ!人の体を触ろうってのは、理由が何であれ言語道断なんだから!」
「おお、元気出たみたいだな。それでこそハルヒだ。」
「キョン…。」
……
「その後、あたしは家の中にいるのが怖くなって外へ出ようと思った。遠くて…そして人通りの多い場所へ。」
「…まさかお前が夢タウンまで買い物しに行ったってのは…そのせいだったのか??」
「ええ…本音はね。建前は大安売りって言っちゃったけど。だからね…
家に帰ってきてあんたを見つけたときは正直ホッとした。」
…古泉と長門の話を聞かないでハルヒに会いに行ったのは、結果的には正解だったんだな…。
「それからはあんたと行動を共にしたわけだけど…まさか外でも忌々しい気配を感じるとは思わなかった…。」
「スーパーから帰る途中だよな。」
「キョンはさ…あれ、一体何だと思う?人間?幽霊?」
「幽霊はないだろうよ。いつの時代のいかなる怪奇現象も元をたどれば
人為的、ないしは単なる自然現象であることが確定済みだからな。」
「…じゃあキョンはどっちだと思ってんの?」
「常識的にも考えてみろ、あんな自然現象あるわけねえだろうが。これはれっきとした人間の所業だ。」
「じゃあ何?ストーカーとでもいうの??…ワケわかんない!心当たりなんかないのに…」
ストーカー…まあ表現自体は間違ってねえかもしれねえな。
お前に神としての記憶を覚醒させようとする何者かの仕業なんだろうが。
…こればかりは俺一人では手に負えない。外に出て、古泉にでも電話して相談するとしよう。
419 :
涼宮ハルヒの天啓 中編3 ◆i1mmP3RsKA :2010/10/23(土) 02:15:19.15 ID:2XusCm6PO
「ハルヒ…ちょっとばかし外出してくる。」
「!?どうして?」
「いや…家の周りに不審人物がいないかどうか確かめてこようと思ってな。」
「な…!?もうあたりは暗いのよ?危険だわ!」
「安心しろよハルヒ。すぐ戻ってくるからさ。」
立ち上がり玄関のほうへ向かおうとしたら、急に後ろ方向へと引っ張られる。
…ハルヒにジャケットの裾をつかまれていた。
「…本当にすぐ戻ってくるんでしょうね?」
台詞こそ毅然としていた。…だが、その手が震えていたのはどういうことだ?これじゃまるで、
【一人にしないで】と言ってるようなもんじゃないか。その瞬間、胸が痛くなった。同時に、ある種の
苛立ちも覚えた。さっきこんな話をしたばかりだというのに、ハルヒ一人残して出て行こうとする、俺自身に。
「すぐ戻ってくるから心配すんな。」
「キョン…」
できれば俺だってハルヒと一緒にいたい。だが、事態を好転させるには今じっとしてるわけにはいかなかった。
後ろ髪を引かれる思いで、俺は外へととび出した。
…電話をかける前に、有言実行はしておかねばなるまい。
俺は庭や周辺を隈なく歩いてみた。…特に怪しいところはない…今のところは。
「もしもし、俺だ」
「おや、キョン君。無事涼宮さんとは会われましたか?」
「ああ…おかげ様でな。ところで話したいことがあるんだが…」
「僕でしたら、昼あなたとお会いした公園におります。どうせならそこで会話といきませんか?
昼のときと同様、長門さんもそこにいらっしゃいますので。」
目的地に着いた俺。ハルヒのとこから走って2分もかからない距離だ。
「夜分遅くご苦労様です。」
「……」
案の定古泉と長門がそこにいた。
「古泉…そして長門。まさかとは思うが…昼3時くらいに会ってから…
今(夜8時)の今まで、ずっとこの公園にいたんじゃあるまいな…!?」
「そのまさかですよ。ですよね、長門さん。」
「…そう。」
「…マジかよ。よくこんな寒い中5時間以上もいられたな。何かワケでもあるのか?」
「涼宮さんを守るため…と言っておきましょうか。この公園は彼女の家から非常に近いですからね。
何かあったときにもすぐ駆けつけられる距離にありますから。」
「…わかるようでわからないな。ここからハルヒ宅までは…400mくらいはあるぞ。
もっと良い場所があるんじゃないか?塀の近くとか。」
「それでは、通行人から不審者だと誤解されてしまう恐れがある。かえって無駄な事態を引き起こしかねない。」
「長門さんの言う通りです。逆に公園のような場所であるなら、留まっていたところで 別段不審に思われることは
ありませんからね。ベンチに座って読書をしたり、弁当を食べたりしているのであれば尚更です。」
なるほど。確かに一理ある…。
「ということは、お前は弁当をここで食ってたわけだな。」
「さすがに飲まず食わずでずっといるわけにもいきませんからね…途中コンビニに出向いたりはしてましたよ。
そんなことより、何か我々に話したいことがあってここに来たのでは?」
「おう。じゃあ、二人とも聞いてくれ。」
……
423 :
涼宮ハルヒの天啓 中編3 ◆i1mmP3RsKA :2010/10/23(土) 02:38:31.97 ID:2XusCm6PO
「それは恐ろしいですね…。これは僕なりの推理ですが、犯人は自身の存在を情報操作で
隠蔽したのではないでしょうか?実際はそこに存在していても、外部からは姿を確認することはできません。
長門さんのような力を有す人物ならば、いとも簡単でしょう。」
「情報操作?長門のような力?…じゃあ、ハルヒや俺をつけてた野郎の正体は宇宙人ってことか?」
「古泉一樹、その意見には反論させてもらう。」
珍しく異議を唱える長門。どうやら、彼女の犯人像は古泉とは異なるらしい。
「確かに古泉一樹の言う通り、その程度の情報操作ならば 我々情報統合思念体にとっては
造作もない。実行は可能。しかし、音が聞こえたというのであれば話は別。」
音…足音のことだな。
「なぜなら我々は環境情報の改ざんで、一般に有機生命体が移動時に伴うノイズ音をも
外界からシャットアウトできるから。外部に音が洩れるというのは、まずありえない。」
「…言われてみればその通りです。いやはや、長門さんには敵いませんね。」
宇宙人説は消えたか…。
「じゃあ長門、お前はこの件についてはどう思う?」
「…可能性として、ステルス迷彩を考えてみた。」
す、ステルス??って、アレか?光の屈折具合で姿が見えなくなるとかっていう…
支援
長門と5時間も一緒かよ
古泉の野郎…
「ステルス迷彩ですか。確かに、それを体にまとえば瞬時にして透明人間の出来上がりですね。
もっとも、現代の科学技術ではまだ実用化には至っていないようですが…。」
なるほど、それならばあの足音の説明もつく。だが、実用化されてないとなると…またしても行き詰まりか。
「確かに、この現代においては取得不可。しかし、未来技術をもってすればそれも可能。
今の科学技術の進展具合から推察するならば、そう遠くない未来ステルス機能は実用化の段階に入る。」
……
「つまり、犯人は未来人。私はそう考える。」
…これほどまでに説得力のある説明をされて異議を唱えるヤツなど、もはやどこにもいないであろう。
長門らしい見事な推理…彼女の手にかかればわからんことなど無いと言っていい。
「長門、ハルヒを気絶させたやつと今回の犯人は…もしかして同一犯か?」
「確証はない。しかしその可能性は高い。」
やはりそうか…まあ誰が相手にせよ、常に警戒レベルはMAXでいるべきだろう。なんせ、電磁波やステルス等
といったとんでも技術を有す連中だ。油断して攻撃を喰らうような事態にでもなればシャレにならん。
「お前らのおかげで大体のところはわかったぜ…恩に切る。」
よし、これにて一件落着…というわけでもない。まだ用事が一つ残ってる。
森さんや新川さんは来ないのかな
古泉だけじゃ足りない
427 :
涼宮ハルヒの天啓 中編3 ◆i1mmP3RsKA :2010/10/23(土) 03:01:32.56 ID:2XusCm6PO
「古泉、長門、話してくれ。昼に俺を呼びだした際、一体何をしゃべろうとしてたのかをな。」
「「……」」
なぜか無言のままの二人。
「ど、どうした??大丈夫か?」
「あ、いえ…すみません。つい言うのをためらってしまいました。」
ためらう…とは?そんなに言いづらい案件なのか?
「私も、そして古泉一樹も話すことに抵抗を感じているのは確か。」
「長門がそんなこと言うなんてよっぽどだな…でも、お前らは
昼呼び出して俺に話そうとしたじゃないか。何を今更躊躇してるんだ?」
「「……」」
二人は答えない。アレか、話の流れ的に言いにくいってことか?…今俺たちは何の話をしてた?
俺とハルヒをつけてた犯人のことだな。で、それは未来人の可能性が高いってことで話は終了した。
……
「もしかして、未来に関係するようなことでも言おうとしてたのか?」
「…長門さん、そろそろ話しましょう。黙っていてもラチがあきませんし。
何を話すのか、薄々彼も気付いてるようです。」
「…了解した。」
嫌な予感がする。
「今から我々が話すことというのは」
……
「朝比奈みくるのこと。」
まあ、そんな気はしてた。昼に長門と古泉に呼び出された際、朝比奈さんの姿だけ見当たらなかった時点で。
「朝比奈さんが…どうかしたのか?」
「今日の午前11時47分、朝比奈みくるがこの世界の時間平面上から消滅した。」
……なん…だって?
「しょ、消滅って…どういうことだ?!朝比奈さんはどうなったんだ??」
「落ち着いてください!彼女は無事です!」
「午後1時24分、彼女は再びこの時間平面上へと姿を現した。」
「…つまり、今朝比奈さんは普段通りにこの町にいるってことか?会おうと思えば会えるってことか?」
「そういうことです。」
「よかった…。」
俺は安堵の表情を浮かべる。
「って…そりゃまたどういうことだ?つまり朝比奈さんは11時何分かに時間跳躍でもしたってことか?」
「そう。行き先はもともと彼女がいた世界…未来だということは判明している。」
「…なら、特に驚くようなことでもないんじゃないか?
上からの急な指令で未来へ帰ったりとか、大方そんなとこだろ?」
「平時であるなら我々もそう考えます…しかし、今は違います。非常時です。
一か月もしない内に世界が滅ぼされる…この事態を非常時と言わずして何と言います。」
「そりゃ、確かに非常時なんだろうが…だからどうしたってんだ?」
「今のこの世界が滅べば…当然ですが未来も消滅します。
そしてその影響は少なからず未来へも…すでに出始めているはずです。」
「そして今この世界は滅ぶか否かの…いわば分岐点にたたされている。それは、同時に
未来が滅ぶか否かの分岐点とも置き換えることができる。その瀬戸際の時間軸に位置する未来人を
未来へと帰還させるというのはよほどの理由があってのことだ、と私は考える。」
「…お前らの理屈で言えば、つまり朝比奈さんはこの世界、そして未来を救うべく奔走してるってわけだろ?
なら、それでいいじゃねえか!なぜ話すのをためらったりしたのか、俺にはわからんな。」
「確かに、ここまでの会話を聞いただけではそう思うのも当然でしょうね。ここからが話の核心なわけですが…
では、そんな重大性を秘める時間移動を…彼女はどうして我々に話してはくれなかったのでしょうか??」
……
「彼女がここの時間軸に戻ってきたのは午後1時24分。その時刻から
今(午後8時35分)まで…伝えようと思えば私たちにはいつでも伝えられたはず。」
「…禁則事項とやらで話ができなかっただけじゃないのか?」
「この世界は危機に瀕してるのですよ。我々だって…最悪の場合死ぬかもしれない。
そんな時期に際してまでも、彼女は我々より【禁則事項】とやらを優先しようとするわけですか?」
「…古泉よ、それ以上朝比奈さんのこと悪く言ったら承知しねえぞ。
あの人が俺たちのことどうでもいいとか…そんなこと思ってるわけねーだろが!」
「……」
「…古泉一樹を責めないであげて。彼は彼なりに頑張っている。
彼と機関の立場を…朝比奈みくるのそれと当てはめて冷静に考えてみるべき。」
長門…
朝比奈さんは俺たちの仲間であると同時に未来人でもある。
未来からの指令は絶対…禁則事項がそれを物語ってる。
古泉は…同じく俺たちの仲間であるとともに機関に属する超能力者でもある。
機関からの命令は絶対…
絶対…?
俺は以前古泉から聞かされた言葉を思い出していた。
『もしSOS団と機関とで意見が分かれてしまった際には…
僕は、一度だけ機関を裏切ってあなた方の味方をします。』
…古泉の俺たちへの仲間意識は相当なもんだったじゃないか。
だからこそ、古泉は朝比奈さんに対して苛立ちを覚えてしまったのか?
仲間よりも未来を優先する素振りを見せてしまった…彼女を。
「すまん古泉…お前の気も知らないで。」
「…いえ、いいんです。僕こそつい熱くなって…仮にも仲間を悪く言うようなことを言ってしまい、申し訳ないです。」
「…私自身も朝比奈みくるのことは決して悪く思いたくはない。しかし、まだあなたに伝えねばならないことがある。」
話すのをためらってた理由は…まだありそうだな。
「言ってくれ長門。覚悟はできてる」
「…朝比奈みくるがここの時間軸に戻ってきた午後1時24分以降、
これまでに6回…ある未来人との電話での接触を確認している。」
「ある未来人?一体誰だ…?」
気のせいか動悸が速まる俺。
……
「パーソナルネームで言うところの、藤原。」
…え?
これで中編3は終わりです。中編4は…万が一起きてたら投下するとします。
433 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/23(土) 03:31:08.59 ID:kXaMX/Kv0
乙乙ー
「長門…もう一回言ってくれないか…?誰だって…?」
「藤原。」
……
嘘だろ?
「長門!何かの間違いじゃないのか!?」
「あなたがそう思いたくなるのもわかる。でも、これは事実。」
事実 事実 事実 事実 事実 事実 事実 事実 事実
…頭の中でこだまする二字熟語…今にも目の前が真っ暗になりそうな俺。
「おい…だっておかしいだろ??仮にも朝比奈さんは以前、藤原たちに誘拐されかけたことあるんだぞ?
被害者だぞ?なのに…何でその被害者が藤原と連絡とってんだよ!?」
「落ち着いてくださいキョン君…我々も気持ちは同じです…。」
…そうか。そういうことかよ。
「長門…お前ら二人が話をためらってた理由、ようやくわかったぜ。昼のときお前らが話さなかったのは…
単に俺がハルヒのとこへ行こうっていう意志を…朝比奈さんの話題で潰したくなかったから…だよな?」
「…そう。」
「そして…今躊躇ったのは…未来人犯人説に朝比奈さんを…否応にも結び付けたくなかったから…そうだよな?」
「…そう。」
「でもな…それでも俺はいまだに朝比奈さんは仲間だと信じてる。疑おうなんて微塵も思わない。」
「しかし、彼女には犯人と疑われても仕方がない多くの側面をもっている。」
「長門…お前まさか朝比奈さんを…!」
…また、何熱くなってんだ俺…これじゃさっきの古泉の二の舞じゃねえか。長門だって本当はそんなこと
思いたくねえんだ…可能性を示唆こそしているが、本人だってつらくてそれを言ってる…それを察してやらねえと。
「いや、何でもない、続けてくれ長門…その側面とは何だ?」
「…涼宮ハルヒが倒れた時、もっとも彼女の近くにいた未来人…それが朝比奈みくる。」
「ちょっと待て長門…朝比奈さんはハルヒが倒れたとき、
俺たちと一緒に部室にいた。それはお前も見てるだろう?」
「それだけでは朝比奈みくるを無実とするには到底成しえない。
例の電磁波にしても、遠隔操作等使えば涼宮ハルヒの側にいなくとも何とでもなる。」
……
「…他には?」
「朝比奈みくるが涼宮ハルヒの家の場所を知っていてもおかしくないということ。
さらには、未来経由でステルス機材をも入手できる環境にあるということ。」
「…ハルヒのあとをつけてた犯人まで朝比奈さんだと言うのか?」
「もちろん確証はない。しかし、彼女にはそれが可能。」
……
「そして、極めつけは未来人藤原との会話記録。」
…こればかりはどうしようもねえな…。
「言いたいことはこれで終わり。あなたにはつらい思いをさせていまい、本当に申し訳なく思ってる。」
「いや…お前だって相当苦しかったろう。多々に渡る説明、ありがとな長門。…古泉もいろいろとありがとな。」
「いえいえ…とんでもないです。」
……
慣れないな…これはあまりにショックが大きい。ついさっき
『氾濫する情報の取捨選択に徹して、なんとしてでもハルヒを守り抜く』と決心したばかりだってのに…。
情報の取捨選択だと?一体何が正しい情報で何が間違ってる情報なのか…俺にはもうわからない…。
ハルヒを守り抜く…
っ!ハルヒを一人にさせておいたんだ…!それも、随分長いこと長門や古泉とは話してたから
相当時間が経ってしまっている。…嫌な汗が流れた。不審者がいないか見て回ると言い外へ出ただけに、
俺がそいつにやられてくたばったとか…妙な勘違いを起こしててもおかしくないんでは…!?
せめて家にいることを願いつつ、俺は急いでハルヒに電話をかけた。
「もしもし、俺だ。」
「…キョン!?キョンなのね!?あんた…どこ行ってたのよ!?襲われたとか、そういうのじゃないわよね??」
案の定、最悪のケースを想定してたらしい。
「あのな、襲われてたら今こうやって悠長に電話かけたりはできないだろ?」
「じゃあ、今何してんのよ??」
「ええっと…なに、散歩してただけさ。」
「…呆れた。心配して損したわ!すぐ戻ってくるって言ったくせに…っ」
「とりあえず、今すぐ戻る!だから…機嫌直してくれ、な?…もちろん、お前は今家にいるんだよな?」
「当たり前でしょ?っていうか、そういう連絡はもっと早くよこしなさい!?本当キョンってバカなんだから…!」
「わかったわかった!すぐ戻るから、家でじっとしててくれな。」
俺は電話をきった。
「涼宮さん大丈夫ですかね?今の調子だと、だいぶ焦ってるようでしたが…。」
…お前もそう思ったか古泉。そりゃ、威勢だけはいつものハルヒだったよ。
だが、何か取り乱してるような感じがしたのは、決して気のせいじゃないだろう。
「そうであるならば、あなたは一刻も早く行ってあげるべきですね。」
「もちろんだ。だがな、お前らもくるんだよ!そもそもだ、こんな公園で待機しとかなくても…
ハルヒに断って家に入れさせてもらえばよかったんだろうが!ハルヒだって、決して拒否はしなかったはずだぞ?」
「あなたと涼宮ハルヒが二人きりでいるところを私たちは邪魔したくなかった。それゆえの話。」
……
変に配慮を利かせてたんだなお前ら…。
「とにかく、もうそんなことはいいから俺と一緒に来い!
みんなと一緒のほうがハルヒだって喜ぶさ!仲間だろ?SOS団だろ!?」
「…その通りですね。我々も行くとしましょう、長門さん。」
「了解した。…しかし、それでは…SOS団は揃わない。」
…長門の言うとおりだ。
……
俺は朝比奈さんのことをどう思ってる?あんな情報を聞いてしまった上で、一体どう思ってる?
…敵?
……
バカ野郎が!仲間が仲間を信じてやれないようでどうすんだ!?
そうだ…朝比奈さんは、俺たちの仲間だ!
「長門、今朝比奈さんはどこにいる!?」
「!?本当に彼女を涼宮さんのところへ連れて行くつもりですか??」
「古泉よ…気持ちはわかる。でもな、それでも俺は朝比奈さんを仲間だと信じたいんだ。
愚かな人間だと笑い飛ばしてくれても構わない。それでも…俺は信じたいんだよ…仲間だと!」
「…そこまで言うなら、僕からは特に何も言うことはありませんよ。むしろ、あなたの考えに
賛同させていただきます。彼女のことを仲間だと信じたい気持ちは、僕も同じですから。」
「私も…仲間だと信じたい。だから、彼女を呼ぶことに異論はない。朝比奈みくるは…ここから近くのスーパーにいる。」
…俺とハルヒがカレー粉を買った所だな。よし、早速電話だ。
「もしもし。」
「もしもし…って、あれ?キョン君ですか!?どうしたの?!」
「今からSOS団みんなと一緒にハルヒの家へ行ってやろうと思ってましてね。朝比奈さんも一緒にどうですか?」
「も、もちろん行きます!そうだ、私今スーパーにいるんで お菓子やジュースを買ってそっちに持っていくね♪」
「それはさぞかしハルヒも喜びますよ!」
「だといいな…って、そういや私涼宮さんの家どこにあるか知らないんです…どうしよう…。」
「本当ですか!?ええっと、そうですね…そこのスーパーから一番近くにある公園はご存じですか?」
「え?ああ、黄色いベンチや象さんの滑り台がある公園のことですよね?わかります!」
一旦電話から口を遠ざける俺。
「古泉…すまんが、ここの公園で朝比奈さんを待っていてはくれないか。」
「お安い御用です。しかと導きますから、ご安心を。」
再び電話に戻る俺。
「ええっと、もしもし。古泉がそこの公園で待っているんで、
合流したらそいつと一緒にハルヒの家まで来てください!」
「ありがとう!私のためにここまでしてくれて…古泉君にも後で会ったら礼を言っておきますね。」
「じゃ、そういうことで!」
「あ、はい♪」
……
ふう…
いつもの朝比奈さんだ。電話なだけに声しか聞こえなかったが…
それにしたって、あれはいつもの朝比奈さんだったように思う。
「じゃあ古泉、任せたぜ。」
「承知しました。」
古泉に一時の別れを告げ、俺は長門と一緒にハルヒ宅へと向かう。もちろん、走ってな。
「…長門さ、俺にはやっぱ朝比奈さんが犯人のようには思えねえわ。
さっきも電話で言ってたしな、ハルヒの家がどこかわからないって。」
「…でも」
「ああ、言いたいことはわかる。彼女が嘘をついていたとしたら?だろ。だがな、朝比奈さんに限ってそれは
ありえねえよ。あの方に巧妙な演技が務まると…お前は思うか?仮に嘘をついていたとしたら彼女のことだ、
取り乱したり動揺したりだのですぐばれちまうさ。つまりだな、『涼宮さんの家どこにあるか知らないんです…』
ってのを自然体でしゃべった時点で、すでに彼女のシロは確定しちまってるんだよ。」
「!」
「…?どうした長門?」
「朝比奈みくるに関して…私は数時間かけて熟考したが確固とした答えは出せなかった。対して、
あなたはたった数分の会話一つで物の見事に彼女の白黒を判断してしまった。私はそれに驚いている。」
「なーに、難しいことじゃないさ。単に朝比奈さんの人柄を考慮したってだけの話よ。」
「…人柄。」
「そうだ、人間ならみんなもってるぜ。あ、もちろんお前にもな。」
「…そう。」
さて、着いたぞ。
カギは閉めるように言っておいたからな…インターホン鳴らすとするか。
「ハルヒ…俺だ!」
……
玄関へと向かって走ってくる音が聞こえる。そしてガチャリと…カギの開く音がする。
「…キョン!!遅すぎッ!!覚悟はできてんでしょうね!?」
やはりハルヒは怒っていた。当然か…。あんな状況で一人残し、散歩に行った(ってことにした)んだからな…。
「本当にすまん…別に悪気があったわけでは」
「言い訳なんか聞きたくないわ!ホント、何が『すぐ戻ってくる』よ??」
「…まことに弁解の余地もない。」
言葉通りだ。何にせよ、結果的に嘘をついたのは間違いない。叱咤されても文句は言えんだろう?
「待って。彼を怒らないであげて。」
「ゆ…有希!?え?ど、どうしてキョンと一緒に!?」
俺の後ろから発せられた声に、ようやくハルヒはその存在に気付いたらしい。
「先程、外を歩いていたところを偶然彼と出会い、あなたの相談を受けていた。」
「あたしの相談を??」
「そう。そして、その答えというのが、SOS団の集合。」
ハルヒはポカンとしていた。何が起こったのかわからない、といった顔をしている。
…実は俺もその一人だった。長門よ?密談していたことを…奴に話しても大丈夫なのか??
事情が事情だっただけに、ハルヒには本当のことを言わない方がいいと思ったのだが…
当たり前だが、知れば奴は大混乱である。
「SOS団って…みんながこれから集まるってこと!?こんな夜遅くに??ど、どうして??」
「彼はあなたに元気になってほしかった。だからみんなをこの家へと呼んだ。
もうじき古泉一樹と朝比奈みくるも来る。彼が戻るのが遅くなってしまったのは、このため。」
「…キョン?有希の言ってることは本当なの??」
「あ、ああ。そうだ。だから遅れちまって…」
「…そうだったんだ。」
なるほど、そういうことか。言われてみれば、俺も最初から長門のように取り繕えばよかったのか。
言ってることは事実だが、別段それが俺たちにとって不都合となるような情報は、彼女は一切話してない。
言うなれば、過程をすっとばして結論だけ述べたようなもの。実際問題、俺は古泉・長門との話し合いを重ねた上で
結果として、朝比奈さんを加えたSOS団全員でハルヒに会いに行こうって、そう結論付けたのだから。
「…バカキョン。そうならそうと言えばよかったのに。」
「なんというか、つい照れくさくてな。とりあえず…お前が思ったより元気でよかった。」
「当たり前でしょ!?あたしを誰だと思ってんの?」
「2人とも仲が良さそうで何より。」
…今日の長門はどこかおしゃべりだな。はて、こんなにお茶目な奴だったか?
「有希も変なこと言わないッ!別にそんなんじゃないわ!…とりあえず、せっかく来たんだから
上がっていきなさい!キョンも、いつまでもそこでボサっとせずさっさと入りなさい!」
「へいへい、わかりましたよ。」
まったく、ホント人使いが粗い団長様だ。その様子だと、俺がいない間に変なことがあった
ってわけでもなさそうだな。とりあえず、家にいてくれただけでもよかったと言っておこう。
…今更ながら思った。外へ出ず、家でおとなしくしてくれてたその行動…これって、直情実行型のハルヒにしては
かなり頑張ったほうなんじゃないか??一体…どういう心境で俺の帰りを待っていてくれたんだろうか?
電話越しの、あの微かに震えてた声を思い出す。…ハルヒには無駄に心配させちまったのかもな。
「ええっと、古泉君やみくるちゃんも来るのよね?なら、みんなの分のコップも用意しておかなくちゃ!」
そんなハルヒはというと…もはや隠すつもりもないのか、それはそれは生き生きとした表情をしていた。
さっきまでの様子がまるで嘘のごとく。…そんなにみんなが来てくれるのが嬉しかったのだろうか…?
そのままキッチンへフェードアウトしていくハルヒを見ながら、俺も不思議と気分が高揚していた。
…奴がいないのを確認し、俺はそばにいた長門にボソっとつぶやいた。
「長門、さっきはありがとな。正直、お前がフォローしてくれて本当に助かった。」
もちろん、先程の件である。
「礼を言われるようなことはしていない。私はただ、事実を言っただけ。
涼宮ハルヒのことを考えての行動、そして決断。それらは決して後ろめたいものではないはず。違う?」
「…いや、違わないな。まったくもってお前の言う通りだ。…たまには正直に言ってみるもんだな?」
「そう。」
その後、遅れて古泉と朝比奈さんもやってきた。5人ともなると、さすがに雰囲気的にも賑やかだ。
「ところでさ、みんなはもう夕食は食べた??…9時過ぎてるからさすがに食べてるんだろうけど。」
ハルヒが口を開く。
「いやー、実はまだ食べてないんですよ。」
「わ、私もです…。」
「私はどちらにせよ問題ない。しかし、何か食べられるに越したことはない。」
古泉…お前が公園で食ってた弁当って…ありゃ昼飯だったのか?それから9時まで…飲まず食わずで
ずっと公園で待機していたというのか?…とりあえず乙と言わせてもらおう。一体どこの特殊部隊だ。
朝比奈さんもまだなのか。となると、あのとき彼女がスーパーにいたのは、
大方夕食の食材でも買う段取りだったってとこなんだろう。で、そこに俺が電話をかけてきたと。
長門は…まあ…その、なんだ、情報操作とかいうインチキまがいなことをすりゃ、食さずとも生きていける体質では
あるんだろうが…。『食べられるに越したことはない』って発言が彼女の食事に対する甲斐性を裏付ける。
基本大食いだからな長門は。食べることに人間とは違う… 一種の喜びみたいなものを感じてるのだろう。
446 :
涼宮ハルヒの天啓 中編4 ◆i1mmP3RsKA :2010/10/23(土) 04:28:21.24 ID:2XusCm6PO
「それはよかったわ!せっかく来てもらったんだし、今からみんなにカレーをご馳走するわ!」
「それは恐縮です。感謝して、いただくとしますよ。」
「涼宮さんのカレー… 楽しみだなあ♪ありがとうございます涼宮さん!」
「カレー……っ …ありがたくいただくとする。」
各々が感謝の意を言葉に含ませているわけだが、一人だけ
異色のオーラを身にまとっているように見えるのは俺の気のせいだろうか。
「ハルヒ、あのカレーはまだ残ってたのか??」
「もともと4、5人ぶんの分量はあったからね。
明日にでも帰ってきた親に振る舞おうと思ってたんだけど…この際どうでもいいわ!」
どうでもいいのかよ!って突っ込みは無しだ。何よりも、
俺たち仲間のことを大事に思ってくれていることの表れだろう。
「火にかけてくるからちょっと待っててね。そうそう、これあたしだけが作ったんじゃないのよ?
キョンとの共同作業の賜物!だから、ま、楽しみにしててね〜」
「え、キョン君も一緒にカレー作ってたんですか!?ますます楽しみです♪一体どんな味に仕上がってるのかな?」
「あなたが料理ですか。いえ、特に他意はありませんよ。
涼宮さんと家で何をしているのかと思えば、夕飯の手伝いをしていたというわけですね。」
「あなたが作ったカレー…気になる。」
おいおいハルヒさんよ…何が共同作業だ。そんな誇れるようなもんをやり遂げた覚えはねえぞ…
単に野菜を切って退場したってだけだろ!?
…しばらくして古泉、長門、朝比奈さんの眼前にカレーが運ばれてくる。
「さー、召し上がってね!麦茶と紙コップここに置いとくから!」
「では、ありがたくいただくとしましょう。…ふむふむ、色合いが良いですね。なかなか整ってます。」
「にんじんやじゃがいもの形が個性的です♪もしかして、これキョン君が切ったんですか?」
「朝比奈さん!?どうしてわかったんです??」
「ほーらキョン!だから言ったでしょ?この大雑把な乱切りはキョンらしさが出てるって!」
「そうやるよう指示したのはお前だろが!」
「でも、そのほうがキョン君らしいですよ♪」
朝比奈さん。その発言の真意は何でしょうか…?プラスの意味ってことで取っていいんですよね?
そうに決まってる。なんせ、あの朝比奈さんだからな。
「味のほうも…悪くないです。十分おいしいですよ涼宮さん、そしてキョン君。」
「私も同感です♪」
「ありがとう、古泉君にみくるちゃん!」
だから…俺はそこまでこの料理に介入していないのだがな…。
ふと長門のほうを見る。
「……!」
何やら目を丸くしている。あれは…何だ?驚いているのか?
「長門?どうした…まさか口に合わなかったか?」
「…たまねぎの形が…ユニーク。」
!
「え、やはりこの小さなツブツブした物はたまねぎだったんですか!通りで、何かそんな味がすると思ってました。」
「言われてみればそうですね…!」
長門の言葉を受け、それに古泉と朝比奈さんが呼応する。
「ゴメンね、みんな。キョンがみじん切りしちゃったみたいなの…
でも、これもキョンの趣味らしいから許してあげてね!」
ちょっと待てハルヒ
「キョン君はカレーを食べる時たまねぎはいつもこんな感じなんですか!?
…あ、いや、個性があって私はいいと思いますよ♪!」
「なかなか独特な感性をお持ちですね。御見それいたしました。」
「…ユニーク。」
ハルヒよ…いくら俺のせいだからとはいえ、その仕打ちはあんまりだ…。見よ!すっかり朝比奈さんと長門には
誤解されてしまっているではないか!?古泉は空気を読んだ発言をしただけで、誤解はしてない感じだが。
とにかくだ…彼女たちにジョークが通じないというのは、お前もわかっていたはずだろう…!?
あ、わかってたからこそ敢えて言ったのか。鬼の所業だ…
「あ、そうだ…私お菓子やジュースを買ってきたんです!みんなで食べましょう♪」
おお、これは…なんとも豪勢だ!チョコレートに砂糖菓子、おつまみにスナック、マシュマロ、クッキー、そして
ファンタ、カルピス…選り取り見取りとはこのことだ。さっきの鬼の所業云々についてなど、もはや忘れたぜ。
しかし…これだけの量、少なくとも1000円はしただろう。さすがに、彼女に全額支払わせるわけにはいくまい。
「皆さん、お代のほうはいいですよ?私、基本いつも皆さんのお役には立てませんから…これくらいいいんです。」
「何言ってんのよみくるちゃん!?役に立たないなんて…いつどこの誰に言われたのよ!?」
「あ、いえ、そういうわけじゃぁ…」
「なら別にいいじゃないの!そんなこと言うやつがいたら…あたしがぶん殴ってあげるから安心しなさい!」
「涼宮さん…。」
同感だハルヒ。俺もそのときは助太刀してやろう。
「レシート見せて、みくるちゃん。」
「あ、はい。」
「…みんな、みくるちゃんに300円ずつ渡して!」
「ふぇ、ふぇえ!?これ5人で割ったって240円とか250円とか、そのへんですよ?
これじゃ私だけ額が余っちゃいます!」
「そんな誤差気にしない!余った分はあたしたちからの気持ちだと思っときなさい!」
ハルヒ…良いこと言うじゃねえか。SOS団メンバー全員揃ったおかげか、すっかりハルヒは
団長様気分で元気を取り戻している。朝比奈さんも呼んだのは正解…いや、そもそもこの考えがおかしい。
彼女は俺たちの仲間だから呼ばれて当然の存在だ。そうだろう?
とりあえずハルヒの号令に従い、俺たちは朝比奈さんにそれぞれお金を渡した。
「皆さん…ありがとうございます。」
「いいっていいって!じゃ、みんな飲むわよ〜食うわよ〜!!」
飲み物がジュースで結果的に助かった。もしこれが酒やビールでもしたら…
おそらく俺たちは朝まで酔いつぶれてしまっていただろう。…それくらいのテンションだった。
……
しばらく食うだの話すだので盛り上がってた俺たちだったが…
急に立ちあがる二人。長門と古泉だ。
「ん?どうしたの二人とも?」
「夜風に当たるべく外に出る。」
「僕は…ちょっとコーヒーを自販機で買ってこようかと。」
「ちょ、ちょっと待ちなさい!あんたたちキョンから事情は聞いてるんでしょ??
外はやめたほうがいいわ。誰かいるかもしれないし…。」
「?」
何のことかわからず、きょとんとする朝比奈さん。
そういや彼女にはまだ話してなかったんだっけか…適当な時に彼女にも話すとしよう。
「大丈夫ですよ涼宮さん。何かあったらすぐ戻ってきますので…同様に、長門さんもね。」
「そ、そう?ならいいけど…。」
そう言い残し、颯爽と外へ出ていく二人。
……
「…古泉君がコーヒー買いに行くって言ったの…おそらくあれはウソね。」
おお、ハルヒもそう思うか。それもそのはず、飲み物なら朝比奈さんの買ってきたジュースで十分事足りるからだ。
それでいてこんな寒い中買いに行くなど…重度のコーヒーオタクでもない限り、まずないだろう。
もちろん、古泉がそういう性癖をもってるとの記憶もない。つくづくウソをつくのが下手なやつだ。
「あたし的にはね…有希と一緒に外に出てったってのがポイントなのよ!」
そうだな…普通の人間ならともかく、それが長門となれば話は別だ。彼女の場合、外出という行動一つとっても
たいてい何かしらの意味は孕んでいる。そして、それを古泉は察した。で、ヤツも同様に外に出てったと…
まあ、そんなとこだろう。
「有希と古泉君…いつから仲が良くなったのかしら?最近よく一緒にいるわよね?」
この辺りからか、俺とハルヒとで思惑が違うことに気付く。
「もしかして…二人ともできてちゃったりして。」
え?
「ふぇえええええええええ!?」
何いいいいいいいいいい!?
驚愕する俺と朝比奈さん。ハルヒよ…その発想はなかったぜ…。一瞬反応が取れなかったじゃないか。
「だって、こんな夜中に男女二人が適当な理由つけて外に出るなんて…
それくらいしか思いつかないじゃないの!」
…言いたいことはわかる。…ただし、それが一般人の男女であるならの話だがな。
「団員は恋愛禁止とか言っておいたのにあの二人ときたらまったく…。
ま、別にいいわ。あの二人お似合いだと思うし!」
おいおいおい…話を勝手に、いや、妄想を勝手に進めるんじゃない!
「ほ、本当に長門さんと古泉君は付き合ってるんですか??私、今の今まで気が付きませんでした!!」
「だー!朝比奈さん、ハルヒの言うことを鵜呑みにしないでください!ヤツは何か勘違いをしてるだけです!!」
まったく…、一体ハルヒはどこまで本気で言ってるのやら…
それにしても、二人は本当になぜ出て行ったんだろうな?ハルヒの横から聞こえてくる
暴論はほっといて、とりあえず俺は落ち着いて考えをめぐらせてみるとする。
…そもそも、俺たちが今日ここに集まったのは外敵からハルヒを守るためだ。
それがまず最優先事項のはず。とすれば、二人が外へと出た理由は何だ?
……
敵の迎撃…?
だとすると、今ってもしかして非常に危険な状況なんじゃ…
だが、もしそうなら長門…ないしは古泉が俺にそのことを伝えるはずだ。いや…ハルヒがこの場にいたから
話せなかったのか?…もしかしてアレか、俺も一緒に外へ来いってことか?で、そこで事情を話すと。
「ねえねえ、みくるちゃん!有希と古泉君ってお似合いよね!?そうよね??」
「そ、そんなのわかりませえええーん!」
「みくるちゃんさ、愛を確か合う方法って知ってる!?」
「ななななななな、何でそんなこと聞くんですかああー!?恥ずかしいですうぅー!」
…相変わらずのんきな会話である。もはや朝比奈さんをからかってるようにしか見えないのは…決して
気のせいではないだろう。どうやら今のハルヒにとって、古泉と長門の関係はさほど重要なものではないらしい。
……
うーむ…外に出て二人に話を伺ってきたいとこだが、さすがに俺まで行ってしまうのはまずい気がする。
3人もの人間が外へ出たとなると、間違いなくハルヒも異変に気付き外へと出てしまうだろう。
ここは…おとなしく静観しとくとするか。それに、長門と古泉なら何かあったって大丈夫だ。
それだけの知識と能力を、あいつらは身に付けているからな。
…ん?電話が鳴ってる。玄関のほうからだ。
「あら、誰かしら。ちょっと行ってくるわね。」
リビングを出るハルヒ。
「二人になってしまいましたね、朝比奈さん。」
「そうですね〜」
「まったく…ハルヒは本当にけしからんヤツですな。
さっきの会話、もしあいつが男なら間違いなくセクハラで訴えられますよ。」
「ははは、いいんですよ。確かに恥ずかしかったですけど、涼宮さん楽しそうでしたし…私も私で面白かったですし。」
「なら、いいんですけどね。」
……
「ねえキョン君…私って本当にみんなの役に立ってるのかな…?」
…今日の朝比奈さんはどうしたんだ?何か気持ちが滅入るようなことでもあったのだろうか。
まさか、未来のほうで何かあったか??
「そんなことないですよ朝比奈さん。あなたは十分俺たちの役に立ってます…
いや、役に立つ立たないの問題じゃない。いて当然なんですよ。」
「……」
「何かあったんですか?俺でよければ話を聞きますが…。」
「…昨日の晩、私は力になれたかしら…?」
昨日の晩とは…俺たちがファミレスにいた時だ。
「世界が危機に瀕してる…そんなとんでもない状況なのに私は昨日あの席で…
長門さんや古泉君に説明を任せっぱなしで、自分自身は何一つ重要なことはできなかった…。」
…そういえば長門と古泉によるマシンガントークの嵐だった気はする。
「しかし朝比奈さん…それは相手が悪すぎですよ…、例えば長門なんかは人間的能力を超越してる時点で
すでに論外ですし、古泉も古泉で…長門ほどではないですが一高校生としては異常なくらいの博識の持ち主です。
一方の朝比奈さんは普通な人間であると同時に、何より未来人だというハンデがあります。
最近のことを知らないのは当然ですし、逆に未来のことを話そうとすれば禁則事項がかかってしまう。
俺としては、朝比奈さんは凄く頑張ってる方だと思いますよ。だから…どうか気を落とさないでください!」
「キョン君ありがとう。でも、慰めならいいの…実際昨日どうだった?
私はいてもいなくても同じじゃなかったかしら…?」
朝比奈さんの目は真剣だ。
…あのとき、本当に朝比奈さんはいてもいなくてもどうでもいい存在だったのか?
いや、そんなはずはないだろう…よく思い出せ…!
……
『私も頑張りますから、キョン君も一緒に頑張りましょう!』
『ちょっとくらいなら良いと思いますよ私は♪息抜きには、こういうのも必要だと思います。』
『あ、キョン君もう飲んじゃったんですね。私が新しいの汲んできましょうか?』
『はい、キョン君!白ぶどうです♪』
『…キョン君、大丈夫ですかぁ?きついようでしたら仮眠でもとります?』
『そうですよ。私たちも協力しますから!絶対にそんな未来になんかしちゃいけません…!』
456 :
涼宮ハルヒの天啓 中編4 ◆i1mmP3RsKA :2010/10/23(土) 05:13:57.53 ID:2XusCm6PO
「…朝比奈さん。」
「は、はい?」
「あなたには…長門や古泉には無い物があります。俺が二人の難解な説明を聞いて頭を悩ましているとき…
朝比奈さんが投げかけてくれた言葉の数々は、俺の疲れを随分と癒してくれましたよ。もしあなたがいなかったら…
二人の説明を本当に最後まで粘り強く聞けていたかは…、正直自信がありません。ですから、
本当に感謝してます。変に力まずにただ…自然体のままで。それで十分なんですよ。」
「キョン君…。そう言ってくれると嬉しいです…、でも私…」
……
「いや、なんでもないです!…私を励ましてくれてありがとう。」
よかった…幾分か調子を取り戻してくれたようだ。
「自然体か…、じゃあ昼にあそこまでやっちゃったのは私らしくなかった…のかな。」
「昼?何かあったんですか?」
「あ、え、ええっとですね。」
「ああー!ようやく終わった…まったく、久々の長電話だったわ…!」
電話が終わったらしい。ハルヒさんが再び戻ってきた。
「おお…ハルヒか。相手は誰だったんだ?」
「…親よ。今日は何食べただの、どこ行っただの、誰と会っただの聞かれたり…あと、
冷蔵庫や戸棚に入ってるおかずやオヤツの位置を教えてくれたりだの…ホンット、面倒な親よ!」
…大変だったんだなハルヒ。
こんな時間に乙
ハルヒからは5人揃って楽しいだけど
外のみんなは非常事態で集まってる
このギャップがなんともいえん
久々にハルヒSSで良作に出会った。
このシリアス具合がたまらん・・・
>>457 まだ…かろうじて起きてます。この6時〜7時の間でようやく中編4が終わる算段です。
それが終わればもちろん寝ますが!
>>458 自分はこのSSにあまり価値をおいていないので、嘘でもそういうことを言っていただくと本当に嬉しいです…
ありがとうございます。連日の投下でかなりきつかったのですが、そういう一言だけでも頑張れそうです。
「まあ…しかし裏を返せば、それほどお前は親に大切に思われてるってこった。
娘を一人で家に残せば、そりゃそうなろうて。」
「ふーん…そういうもんなのかしらね。」
…そういや、朝比奈さんの話を聞きそびれてしまったな。話の文脈上から察するに…昼の時間帯、
いろいろと何かを頑張ってたみたいだ。その『何か』…が聞けなかったわけだがな。
…ん?昼?
……
『今日の午前11時47分、朝比奈みくるがこの世界の時間平面上から消滅した。』
『午後1時24分、彼女は再びこの時間平面上に姿を現した。』
『行き先はもともと彼女がいた世界…未来だということは判明している。』
…そういや、ちょうどこのとき、彼女は未来へと時間移動してたんだっけか。
しかし、そこ(未来)で何をしてたか…まではわかっていない。
…今ハルヒが来なかったとして、果たして朝比奈さんはその暗部を、俺に打ち明けてはくれたのだろうか?
それともくれなかっただろうか?くれなかったとしても、それは打算的なものではないと…俺は信じている。
大方いつもの禁則事項とやらであろう。だが…
『この世界は危機に瀕してるのですよ。我々だって…最悪の場合死ぬかもしれない。
そんな時期に際してまでも、彼女は我々より【禁則事項】とやらを優先しようとするわけですか?』
あのとき、俺はこの古泉の発言に対し取り乱してしまったわけだが。あいつは…朝比奈さんを悪く
言いたかったんじゃない、仲間であるなら話してほしいと…信じたかったのだ。ただ、それだけの理由。
今更だが…ヤツのあのときの気持ち、少しはわかった気がする。
「あれ、そういえばまだ有希と古泉君帰ってきてないの?いい加減戻ってきてるとばかり思ってたけど。」
…あの二人はまだ外にいるわけか。一体全体何をしているのだろうか。
……
ん?俺の携帯が鳴ってる…メールか。差出人は…古泉か。どれどれ。
(長門さんが敵に対して一斉攻撃を始めます。急ですみませんが…涼宮さんを連れて逃げください。)
……
は?
何かの冗談か?
……
…マジで言ってんのか…?
一斉攻撃??この住宅街で今から攻撃??敵??敵って誰だ??
……??
あまりに急すぎて思考が働かない。
……
ただ、事の重大性は理解していた。ハルヒをここから連れ出してやらねえと!!
…だが、行動に移すには間に合わなかった。
ドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ
オオオオオオオオオオオオオオオン……
「「「!?」」」
突然の爆発音 慌て慄く俺たち
「な……何よ!?今の音!?」
「そ、外から聞こえましたよ!?!な、何ですかぁ今の!??」
……
長門…マジで始めやがった。
「あたし…外見てくる!」
玄関へ向かって走り出すハルヒ…っておい!ちょっと待て!お前は行くな!!
…しかし、あまりに凄い爆音だったせいか…体が怯んでしまったのか。
思うように四肢が動かせない。…くぅ…情けねえ…!それでも…俺はハルヒの後を追う。
「す、涼宮さん!?キョン君!?」
一人残されるのが不安だったのか…同じく俺たちの後を追いかける朝比奈さん。
外に出て唖然とする俺たち。
…隣の家がまるでダイナマイトで爆破されたかのごとく…木端微塵になっている。
辺りには火の粉や粉塵が蔓延している。
「な…長門!?これはいくらなんでもやりすぎだろ!?
隣に住んでる人はどうなったんだよ!?まさか殺したのか!?」
長門に詰め寄る俺。事態が全く呑みこめず、その場に立ち尽くすハルヒと朝比奈さん。
「そもそも、もともとあの家屋にいた住人は情報の操作と改変で…今はいないことになっている。」
「それは…長門がやってくれたのか??そりゃよかったぜ…。」
「私ではない。やったのは敵。」
「…どういうことだ??」
「住人の存在を情報操作によって消すことで、彼らはこの家への潜伏を可能とした。
そして、私が隣家にただならぬ気配を感じたのは先ほどの午後9時21分のこと。」
「私が長門さんと一緒に外へと出て行ったのは…このためです。敵を掃討すべくね。」
ふと、側に古泉がいることに気付く。何やら…大きな鉄の塊を両手に抱えている。
「こ、古泉…それは…本物か…??」
「ええ、正真正銘、本物の…機関銃です。」
さっきの大爆発といい今はっきりわかった。こいつらに【手加減】の文字はない…本気で殺るつもりでいる。
「しかしだな…いきなり爆破はやめてくれないか…?心臓が止まりそうになったぜ!?
警告のメールも前もって送ってくれ…いくらなんでも直前すぎだろ??」
「それに関しては謝ります…すみません。その証拠に、
涼宮さんを連れ出すこともできなかったようですね…あそこで唖然としている彼女を見ると。」
……
すまん。流石に眠いから寝る。
起きたらまた読ませて貰うから頑張って欲しい。
「仕方がなかったんですよ…というのも、敵に動き出そうとする明確な気配が感じられましたので。
やむをえず、長門さんからの提唱で先手を打たせていただきました。あのメールも…
僕なりに速く打ったつもりなんです。どうかご勘弁を。」
「…それについてはわかった。で、もう終わったのか??
そりゃそうだよな?さすがに、今の攻撃喰らって生きてるなんてことは。」
「先ほどと同数の熱源を確認している。つまり、敵はまだ生きている。」
ふと気づいた。大破した家屋の破片が宙を舞っている。
なぜ?
次の瞬間 それらは弾丸のごとく
雨となり
俺たちに降り注いだ
「……!?」
何が起こったのか、一瞬よくわからなかった
「…とっさの迎撃で対抗しましたが…、くそ!!守りきれませんでしたか…!!」
468 :
涼宮ハルヒの天啓 中編4 ◆i1mmP3RsKA :2010/10/23(土) 06:20:31.47 ID:2XusCm6PO
来襲する破片めがけ機関銃をぶっ放した古泉。おかげで今、俺は無傷でいる。
だが
……
角膜に映しだされている光景を、俺は夢だと思いたかった
ハルヒと朝比奈さんが
……
血まみれで伏しているというのは 一体どういう冗談だ…?
目の前が真っ暗になった
>>465 今まで起きて読んでてくれたんですか…本当にお疲れ様でした。
中編4終わり。次は後編1ですね。このスレも3日ルールにより後わずかですが
後編1だけは昼か夕方に投下して、それでこのスレの寿命を終えることにします。では、寝ます。ZZZzzz
おつかれー
続き待ってるよ
保守
さいきんは3日ルールが延びたんじゃなかった?
472 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/23(土) 09:02:34.38 ID:kU7mxqZVO
ほしゅ
473 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/23(土) 09:55:43.06 ID:kXaMX/Kv0
8日ルールだっけ、いま?
474 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/23(土) 10:10:27.56 ID:AlOlUYxbP
ぽ
475 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/23(土) 10:53:07.73 ID:fGLrwfzw0
ほほ
476 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/23(土) 11:21:35.13 ID:fGLrwfzw0
気付いたときに
お昼のほしゅ
478 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/23(土) 12:38:24.79 ID:fGLrwfzw0
よいしょ
479 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/23(土) 13:23:57.45 ID:fGLrwfzw0
はっと
ほしゅ
ちょっと出かける
ほしゅ
482 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/23(土) 15:49:44.77 ID:fGLrwfzw0
いてら
483 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/23(土) 16:24:11.83 ID:+ggGS0miO
ほ
484 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/23(土) 17:06:34.75 ID:fGLrwfzw0
へい
中編のほう、wikiに投下してきました。ところで8日ルールだったんですか?
そうなら、うまくいけば全ての後編をこのスレに投下できるかもしれませんね。
では後編1、始めたいと思います。
角膜に映しだされている光景を、俺は夢だと思いたかった
ハルヒと朝比奈さんが
……
血まみれで伏しているというのは 一体どういう冗談だ…?
気付くと俺は二人の前にいた
考えるよりも先に体が動いてしまったらしい
「大丈夫かよ!?おい!?!しっかりしろ!!!!!」
「キョ…キョン…!!みくるちゃんが…!!みくるちゃんがあ!!!!」
「しゃべるな!!お前だってケガしてんだろ!!?」
「違う…!!あたしはケガなんてしてない!!…みくるちゃんが…あたしを…あたしをかばって…!!!!」
……
え?
じゃあ、ハルヒの服にべったり付いているこの血は何だ?
……
全部…朝比奈さんの血……
…!?
「う…ぅ、ぅぅ……!」
悲痛な様で喘ぐ…彼女の姿がそこにあった
「朝比奈さん!!!!しっかりしてください!!!!…朝比奈さん!!!!」
「ょ…ょかった…すず…涼宮さんがぁぶ、無事で…!」
「朝比奈さん!!?」
「わた…し…やくにた…てたかな…ぁ…ぁ…!」
理解した
彼女は秒単位という時間の中で自らハルヒの盾となった あのとき奴の一番そばにいた…彼女は
『ねえキョン君…私って本当にみんなの役に立ってるのかな…?』
つい先ほどの彼女の言葉が頭でこだまする
朝比奈さん…あなたは…そこまで思い悩んでいいたんですか…!?
「あ…あたしのせいだ…!!あたしがボーっとして動こうとしなかったからみくるちゃんが…!!
あたしのせい…あたしのせいでみくるちゃんが…っ!!いやあああああああああああああ!!!!」
頭を抱え絶叫しだすハルヒ
「よせ!!ハル」
言いかけてやめた。ふと、気付いたからだ…俺の横へと立っている人物の存在に。
「あなたは涼宮ハルヒを連れ、ただちにこの場を立ち去るべき。周囲の急激な悪化により
彼女の精神は極限状態。これ以上の錯乱は彼女の自我そのものを崩壊させる。
神としての記憶を覚醒しかねない極めて危険な状況。」
長門…
……
…!!
今の俺に長門の声は届かなかった
「長門…!!お前…!!」
気でも狂ったのか、俺は長門に掴みかかっていた。
「…銃で必死に迎撃してくれてた古泉と違って…お前は一体何をしていた!?
お前なら…!!今の攻撃からみんなを守ることなど造作もなかったはずだろう!?
…なぜそれをしなかった!?答えろよ長門ッ!!!!答え」
頬に鈍い痛みが走った
俺は古泉に殴られた
「てめえ…!何しやがる!?」
「あなたこそ…こんなときに一体何をやってるんです!?涼宮さんを連れてただちに逃げろと…
今長門さんに言われたばかりでしょう!?どうしてそれに従おうとしないんです!?」
「お前…!!!今にも死にそうな朝比奈さんは無視か!?それに長門は…!」
「おいおいおい、九曜さん。ちょっとやりすぎじゃ?死人がでそうな状況なんだが。」
「…関係のない人に重傷を負わせてしまったぶん多少の罪悪感はありますが…ま、仕方ないですね。
ある意味当然の報いですよ。なんせ、私たちは問答無用で先ほど殺られそうになったわけですから。」
「-----------身の程を-------------------------------知るべき」
炎上した隣家の方角から歩いてくる… 不快な言葉を発する三人組が…
……
そして、俺はこいつらの顔を知っている
未来人藤原
超能力者橘京子
天蓋領域周防九曜
…藤原。やっぱりてめえらの仕業だったわけか…!
「…長門さんと同程度か、それ以上の力を有する周防九曜…。天蓋領域という名の化け物に
彼女は…長門さんは情報操作をかけられ、一切の身動きがとれない状態でした。」
!!
「それでも彼女は抑圧されてもなお、力を行使し被害を最小限にとどめました…
朝比奈さんを助けることが叶わなかったのは…彼女の力が不完全だったためです…。
もちろん、僕の力量不足でもありますがね…。逆に、その不完全な力さえもなければ今頃僕も、
そしてあなたもタダではいられなかったでしょう。最悪の場合死んでいたかもしれません。」
…ッ!
…よくよく考えてみれば、長門や古泉が死に物狂いで頑張ってる中、俺は何をしていた??
自分を守ることで精一杯だったじゃないか…!?いくらハルヒと朝比奈さんとに
距離があったとはいえ…、、、、そんな俺に、長門を批判できる資格なんかない…!!!
「長門…俺はお前にひどいことを…!本当に申し訳ない!この通りだ…!」
俺は長門に…誠意をもって謝罪した。
「…私が周防九曜に対し後れを取ったのは事実。だから、あなたが謝ることは何一つない。」
「しかし…!」
「私のことはどうでもいい。一刻も早く涼宮ハルヒを連れてここから立ち去るべき。」
…さっきも言われたな。頭に血が上ってたが、確かにそんな覚えがある。
……
ああ、わかってるさ。そうせねばならないほど窮した事態だってことは
だが
「朝比奈さんはどうすんだ!!?重体の彼女を放置して、俺とハルヒだけ逃げろってのか!!?」
「…朝比奈みくるは、これから私が全力を尽くして治療にあたる。」
「!確かにお前にならそれが可能だな…だが、あいつらの相手はどうすんだ!?
お前が治療に専念する間……、、!!まさか古泉一人に戦わせるつもりか!?無茶だ…!
相手にはあの天蓋領域だって」
「…幸か不幸か、涼宮さんの重度の乱心により…この場は閉鎖空間と化しつつあります。
となれば、僕も超能力者として…本来の力を存分に行使できるようになります。」
古泉…
「わかってんのか!?それでも1対3には変わりねーんだぞ!?」
「…涼宮さんにもしものことがあれば世界は終わりです。あなたもそれは十分承知のはず。」
「しかし…!」
「…以前ファミレスにてみんなと誓ったではありませんか。我々は協力して…みんなで涼宮さんを守る!…とね。」
…こいつは、自分の死を覚悟しているのか?仲間を守るために…
……
長門も同様にそうだろう。
朝比奈さんにしてもそうだ、命を擲ってでもハルヒを守ろうとした。
みんな覚悟を見せつけている
絶対に3人の覚悟は無駄にできない!!!!なら、俺にできることは一つ
「ハルヒ!来い!」
強引にでもハルヒの手を握り、連れて行こうとする俺。
「嫌!!放してよ!!!!放して!!!!みくるちゃんが!!!!!
みくるちゃんがああああああああああああッ!!!!!!」
ハルヒもハルヒで相当つらいんだろう…気持ちはわかる。だが、今は我慢するんだ…!
みんなの意志を…覚悟を…どうか酌みとってやってくれ!!!
そして…みんな…
どうか死なないでくれ!!!!
俺は3人に背を向け、ハルヒとともに走りだした。
「…はん、ようやくお喋りは終了か。じゃ、とっととそこをどいてもらおうか。計画に支障が出る。」
「その先にいるターゲットに私たちは用があるんで。早くしないと逃げられちゃいますしね。
それに、閉鎖空間と化したこの場で猛威を揮えるのは…決してあなただけではないってことも
どうかお忘れずに。だって、私も同様に超能力者なんですから。」
「それくらい承知の上です。それでも、あなた方が何を言おうと僕はここを通しません…!」
「古泉一樹…朝比奈みくるの治癒がもう少しで終わる。
そのときまで、どうか耐えしのいでほしい。終わり次第、私も参戦させていただく。」
「それは頼もしいですね。ぜひともお願いします。」
……
「一応忠告はしてあげたんですけど。じゃあ、仕方ありませんね。」
「結局こうなんのかよ…面倒なヤツらだな。」
「---------邪魔」
「「はぁ…はぁ…はあ!」」
一体どれくらい走ったのだろうか…、俺たちはすでに息をきらしてしまっている。
行く宛てもなく…ただただ走り続けた。藤原たちから離れることだけを考え…ただただ走り続けた。
轟音爆音が鳴り響く
火の手が上がっている
…俺たちが先ほどまでいた場所からだ。
……
495 :
涼宮ハルヒの天啓 後編1 ◆i1mmP3RsKA :2010/10/23(土) 18:00:07.58 ID:2XusCm6PO
ところで、俺にはさっきから妙な違和感がある。市街地を走りぬけていて気付いたのだが…
人一人歩いていない、というのはどういうわけだ?確かに、時刻は夜の10時をとうに過ぎてしまっている。
ゆえに、人通りが少ないのは理解できる。だが、人一人見当たらないのはどう考えたっておかしい。
…これも長門、ないしは周防九曜の情報操作に起因したものなのだろうか?
それともさっき古泉が言っていたように、この世界が閉鎖空間と化しつつあるから…?
っ!
ふとハルヒの手が放れる。酷く塞ぎ込み、その場にしゃがみこむハルヒ。
「もう…あたし…、走れない…!」
「…そうだな…随分走ったし、ちょっと休憩するか。」
「…ねえキョン」
「何だ?」
「そもそもさ…何であたしたちこんな必死になって走ってんの…??」
「……」
「さっきまでさぁ…あたしたちお菓子とか食べながらみんなで騒いでたじゃないのよぉ…!?
あれは一体何だったの!!?夢!?どうして…こんなことになってるの…!!?」
「……ハルヒ…」
「この状況は一体何よ!??家が吹き飛ぶわ、破片が飛び交うわ…そのせいでみくるちゃんが…!!」
…ハルヒの疲弊は、どうやら単なる息切れによるものだけではないらしい。
「ち、違う…!!あたし…あたしのせいでみくるちゃんが!!みくるちゃんを助けないと!!」
「落ち着け!!落ち着くんだハルヒ!!気持ちはわかる!!わかるから…どうか落ち着いてくれ!!」
「嫌ぁ…!放して…!みくるちゃんが…みくるちゃんがぁ…!!」
……、
最悪の状況と言っていい。俺は…どうすりゃいいんだ?
極限状態なまでに錯乱した…今のハルヒに一体どんな声が届くってんだ…?仮にハルヒの立場だったとして、
今頃俺はどうしていただろうか?発狂していたのだろうか?だとして、そんな半狂乱な俺を…
俺はどうすれば救ってやれる??何をすれば救ってやれる!?
その瞬間だった
「あ…、ああっ…、……」
卒倒するハルヒ
……
…ハル…ヒ?
「ハルヒ!?おいしっかりしろ!!!!大丈夫か!!?ハル」
!?
何だこの揺れは…?地震…??規模こそ小さいが、一昨日見た夢を思い出さずにはいられなかった…
……
…冗談がすぎるぜ…世界が滅ぶのは12月23日の段取りだったはず…
今日はまだ12月1日だぞ…!?今日で…終わるのか?何もかも…!?
「今のハルヒの失神は…、まさか!覚醒しちまったのか!?」
…何なんだこの展開は…??ここまで頑張ってきたのに…頑張ってきたってのに、
全部水の泡で終わるのか?そんな…そんなこと…ッ!
しかし
いくら威勢を張ったところで、もはやどうしようもないことには変わりない。
ここまで【絶望的】という言葉が似つかわしい状況もない。
……
とりあえず、地震は収まったようだが… 俺が放心状態であることに、変わりはなかった…
「た、大変!!涼宮さん…その様子だと、神としての記憶を取り戻してしまったんですね…!」
はて、この場には俺とハルヒしかいないはず。ついに俺も幻聴が聞こえるなまでに廃物と化してしまったか。
「ふう…あなた達のこと探したんですよ…って、キョン君聞こえてますか…?大丈夫ですか!?」
!!
「あ、あなたは…」
「よかった…あなたまでおかしくなってたら、それこそ終わりだったわ…!」
「朝比奈さん!!」
いつしかお会いした大人朝比奈さんが…俺の目の前に立っている。
光明が射すとはこういうことを言うのだろうか?
例えるならば
WW2独ソ戦にて、モスクワ陥落を【冬将軍到来】により間一髪のところで防いだソ連。
池田屋事件にて、維新志士らにによる窮地を別動隊の【土方歳三ら】に助けられた近藤勇。
日露戦争にて、物資・国力ともに限界だったところを【敵国の革命運動】により難を逃れた日本。
関ヶ原の合戦にて、数による劣勢を【西軍小笠原氏の裏切り】により勝敗を決した徳川家康。
元寇にて、大陸独自の兵器や戦法で撹乱する元軍を【神風(暴風雨)】により撃退した鎌倉幕府。
キューバ危機にて、米ソによる核戦争を【ケネディ大統領の働き】で回避した当時の世界。
ワールシュタットの戦いにて、【オゴタイ=ハンの急死】により領土を守り切った全ヨーロッパ諸国。
2・26事件にて、不運にも義弟の【松尾伝蔵陸軍大佐の身代わり】で暗殺を逃れた岡田啓介首相。
1940年にて、【杉原千畝リトアニア領事によるビザ発行】でナチスによる迫害から逃れたユダヤ人。
クリミア戦争にて、【フローレンス・ナイチンゲールの必死の看護】により命を救われた負傷兵たち。
…挙げればキリがない。
それくらい、絶望的渦中にある今の俺からすれば…彼女の存在は例文の【】に値する。
「朝比奈さん…俺は…。俺は!どうすればいいんですか!!?」
彼女が今ここにいるということは、間違いなく何かしらの理由があるはず。そうでもなければ、
朝比奈さん小の上司でもある彼女が…自らこの時代へとやって来ることなどありえない。
だとすれば、彼女は知っているはずだ…俺が今何をすべきなのかを…!
「落ち着いてキョン君!まずは状況をしっかりと把握しましょう。それによってあなたの成すべき事も…
決まってくるわ。だから、涼宮さんがこうして倒れるまでの間一体何があったのか…私に話してほしいの。」
話す内容によって、彼女が俺に与える助言もまた違ってくるのだろうか。
俺は…事の一部始終を洗いざらい打ち明けた。
……
「なるほど…つまり、あなた達は藤原君たちに追われていたのね?」
「はい…そのせいでこの時代に来ていた朝比奈さんが…重傷を負ってしまって…っ!!」
「…それは。さぞかし大変だったのでしょうね。」
「なぜ驚かないんです!?彼女が消えてしまえば、大人であるあなたも消えてしまうんですよ!?」
「そのくらい心得てるわ。でもね…逆に言えば、今大人である私が
この場にいる…生きてるってことは、つまり彼女はまだ死んでないってことよ。」
!
「そして、あなたと涼宮さんがここまで逃げてくるまで随分な時間が経過してる。
ともなれば、私だけでなく長門さんや古泉君も無事だってことが推測できるわね。」
「意味がよくわかりません…どうして長門や古泉までも無事だって言えるんです!?」
「考えてもみて。私は…自分で言うのもなんだけど、戦闘に関しては全くの素人。ゆえに、
殺されるのも容易いわ。万一私の傷が完治したとしても、その後無事でいられる可能性は極めて低い。」
「……?」
「つまり、長門さんや古泉君が死んで私が生きてる状況ってのは 常識的に考えて絶対にありえないのよ。
だってそうでしょう?彼らは私なんかより桁違いに強いんだから。まあ…逆は可能性として十分ありえるけどね。
私が死んで彼らが生きてるっていうのは…自分で言っててちょっと悲しいけど。」
なるほど、確かに理屈に当てはめて考えればそうなる。…実に的確な指摘だった。
「ありがとうございます朝比奈さん。3人が生きてるってことがわかって…俺、安心できました!」
「ふふ、さっきよりも落ち着きを取り戻したようで何よりね。状況の把握は大切に…ね。」
朝比奈さんはこれを見越して話してたってのか…?さすが大人の貫録だ。
「それで藤原君たちは…どんな様子だったの?」
「どんな様子って、俺たちを殺しにかかってきたとしか…。」
「一体誰を殺そうとしていたのかしらね、彼らは…」
「…?ハルヒを除く俺たち全員なんじゃないですか?それからハルヒを拉致でもして…
おおかた記憶を覚醒させるつもりでもいたんでしょう。…結果として覚醒しちゃいましたけど…。」
「でも…彼らがあなたたちの殺害、ないしは涼宮ハルヒの拉致を明言したわけではなかったんでしょ?」
……
彼女は彼らの目論見について、何か知っているのだろうか…?
「…キョン君、今あなたが言った推理は、おそらくはずれよ。」
…はずれ??どういうことだ?
「単に、あなたたちは成り行きで彼らの障壁となってしまっただけ。彼らからすれば、
初めからあなた達は眼中になかったわ。ましてや、殺害など論外ね。」
…?彼女の言っている意味がよくわからない。
「じゃあ、藤原たちの目的は他にあったってことですか??…それは何ですか!?」
「…混み合った話はまた後にしましょう。涼宮さんをこのまま放置したまま話し続けるのも…胸が痛むわ。」
…確かにそうだ。倒れてるハルヒをどうにかせねばなるまい。
「とりあえず、彼女を背負ってこっちに来てくれないかしら?いつまでもここが安全とは限らない。
閉鎖空間と化しつつある現状では先ほどの地震といい、何が起こったっておかしくないもの。」
朝比奈さんの言う通りだ。
…俺は彼女の言うことに素直に従い、ハルヒのもとへ駆け寄った。
「…ハルヒ、大丈夫か…??」
……
返事がない…どうやら本当に気絶してしまっている。俺は連れていくべく…ハルヒの肩を担ごうとする。
その時だったか
?
背中が妙に熱い
……
…何だこの不快感は?
いや、不快なんてもんじゃない…これは
生物に 本来あってはいけないものだ
「う…!!あ!!!!が…ああ…っ!!!!!」
猛烈な激痛 混沌とする意識
一体 何が起こった
俺は 背中を手で 触ってみる
……
何だ このどす黒い 赤い液体は
意識が 朦朧とする
「キョン君…さっき私に聞いてましたよね?自分が今成すべき事を。それはね、
死ぬことよ。」
「冥土の土産に教えてあげる。藤原君たちの本当の狙いはね、私の抹殺よ。」
「まさか、涼宮ハルヒを昏睡状態に陥れた犯人が
私だったなんて想像もしなかったでしょ。」
俺 を 立って
見下ろす こいつは
誰?
「まさか、ここまで上手く事が運ぶなんてね。アハハハハハハハハハハハハ!!!!!!!!」
俺 を 見下し
笑う こいつは
誰?
意識が途絶えた
……
ここはどこだ?辺りが真っ暗で何も見えない……そうか、あの世か。俺は死んじまったのか
2012年12月1日22時23分 俺は朝比奈みくるに刺殺された
507 :
◆i1mmP3RsKA :2010/10/23(土) 19:02:54.53 ID:2XusCm6PO
後編1終了。後編2は少し間をおいてから投下します。
508 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/23(土) 19:05:07.29 ID:fGLrwfzw0
おゆ
俺的にはみくるは原作からして信用できないレベルしえん
後編続きたのみしです
……
「な…とさ………だいじょ……で…すか……−ッ!!?」
隣で誰かの声がする。何を言ってるのかよく聞こえない。
「なが……さ…しっか……て……さいッ!?…がとさんッ!?」
時間の経過につれ、しだいに耳が慣れてくる。
「長門さん!!?しっかりしてください!?長門さん!!」
……
なるほど、ようやく言ってることがわかった。
長門…、ここまで人が心配してくれてんだ。返事くらいしてやれよ…。その人に失礼だろう?
……
…?
って、何なんだこの状況は…?
?
違和感に気付いたときには、すでに俺は目を覚ましていた。
「!?キョン君!!?意識を取り戻されたのですね!?」
「キョン君……!!本当に…よかった……!!長門さん……ありがとう…!!」
涙をこぼす古泉と朝比奈さんがそこにいた。
……
ここはどこだ?…見覚えのある街路地だ。俺のこの体勢は何だ?…どうして地べたに寝ている?
「古泉…朝比奈さん……、俺は…一体…?」
ふと、横で倒れている人物を見つける。
…長門…??
「長門!?」
ッ!?
どうして…こんな状況になってしまってるんだ??俺が目を覚ますまでの間に… 一体何が起こったってんだ??
いや…そもそも…、なぜ俺はこんな場所で倒れていた??俺に何があった…??
??
……
落ち着いて…頭の中を整理してみるとする。
…ッ
背筋に寒気が走る
そうだ 俺はついさっきここで
刺 さ れ た ん だ
鋭利な刃物で
……
誰が?
一体誰がそんなことを…?
……
微かに記憶に残っている。血まみれに伏した俺を 酷く冷たい形相で嘲け笑う 生き物の姿を。
あんな奴、俺はこれまで会ったこともないし見たこともない。
…何言ってんだ俺は?知りたいのは犯人の様相ではなく、そいつが誰かってことだろうが!?
ダメだ。思い出せない。
…いや
思い出せないのではなく
思い出したくないだけではないか?
……
わからないなら、わからないままでいい。
「長門は…!!長門はどうして倒れてんだ!!?」
次に呈する疑問と言えばこれだろう…長門に…長門に何があった?
「……」
辺りを見渡すが…特に誰かいる気配はない。
「キョン君!安心してください!例の御三方はもうこの場にはいませんよ。」
「…そうか。そりゃ良かった…。」
俺の記憶が正しければ…先ほどまで長門・古泉は藤原、橘、周防の三人を相手取り
奮戦していたはずだ。それも重傷の朝比奈さんを介抱した状態で…。
「長門は藤原たちとの闘いで大けがをした…だから、今こうして長門は倒れてるんだろう!?
今ヤツらがいないのはお前らが撃退してくれたおかげか!?」
「いえ、長門さんが倒れた直接の原因は…
彼らの攻撃によるものではありません。多少のダメージはあるにしてもね。」
「実は…藤原君たち、途中でいなくなっちゃったんです…。」
「いなくなった??それはどういうことですか??」
「なぜ彼らが去ったのかはわかりません…ただ、去る間際に藤原君が
『時間切れか…!』みたいなことをイライラした様子で呟いていたのは覚えてます…。」
時間切れ??意味がわからない。
「要するに、ヤツらは逃げたってことか…。」
「その表現は不適切かと。あのときの我々の不利はどこからどう見ても明白…
ゆえに、あのまま戦闘を続行していれば間違いなく我々は全滅していました。」
全滅…
リアルな表現に背筋が凍る。
「そのおかげで我々は今生きているようなものですからね。…まったく、運がいいものです。」
「私も…あのときはホントに死ぬかと思いました…。」
…そういえば
あのとき彼女はハルヒを庇い、重傷を負ったではないか。全身を血で濡らせた彼女の様は痛々しくて……、
とても直視できるようなものではなかった。その彼女が…朝比奈さんが今…!
急に目頭が熱くなる。
「朝比奈さん…!ご無事で…本当に何よりです…!!」
切実にそう思った。
「キョン君…心配してくれてありがとう!もう大丈夫よ!これも全部闘ってくれた古泉君と…
そして、ケガを必死に治してくれた長門さんのおかげ…。でも…長門さんが…!」
……
「…これはどういうことなんだ古泉…?藤原たちのせいじゃないのなら、どうして長門は今ここで倒れてるんだ!?」
「彼女は…おそらく、力を使い果たしてしまわれたのだと…思います。それによる疲労ではないかと…。」
「??何だと?」
俺は違和感を覚えずにはいられなかった。
以前…俺は朝倉涼子に殺されかかったことがある。あのとき長門は…情報改変や崩壊因子などといった
あらゆる手段を用い、結果として朝倉を葬った。再生と称し、貫通攻撃による腹部への大ケガも治癒した。
やり方さえ違うが、今回だってそうだ。朝比奈さんへの介抱を自身の再生、その後の藤原たちへの対応を
朝倉のそれと置き換えれば、状況に関しては酷似してる…と言っても過言ではないはず。
しかし、だからといって長門は朝倉を倒したのち意識を失って倒れたりはしてない。
516 :
涼宮ハルヒの天啓 後編2 ◆i1mmP3RsKA :2010/10/23(土) 19:48:01.46 ID:2XusCm6PO
だからおかしいのだ。なぜ今回に限って倒れる?
…わかっている。確かに、一概に比較もできないだろう。今回は敵が3人だった上、
古泉や長門の言うとおりならば、天蓋領域である周防九曜の実力は朝倉のそれとは桁違いだったはずである。
前回と比べ、長門にとってはいかに苦しい闘いだったか…それはわかっている。
だが…かといって、意識を失うというのは、さすがに行き過ぎではないか?
「古泉…。長門は…、何に対して力を使ったんだ?」
「…それは」
「…元気そうで……何より…。」
古泉の言葉は遮られた。聞き覚えのある微かな小声によって。
「長門!!?」
「長門さん!?目を覚ましたんですか!?」
「良かった…!一時はどうなるかと思ったんですよ…。」
「…命に別状はない。だが、過剰な情報操作・改変の濫用により、
情報統合思念体として本来有す能力をしばらくの間凍結せざるを得ない状況。」
過剰…
「つまりお前は…それだけ無理しちまったってことなんだな…。だから倒れたのか…。」
「そう。」
…どうやら古泉の言うとおりだったらしい。
「確かに、私は自身の体に負荷をかけすぎた。だが…
そうするに十分な見返りはあった。現にあなたとこうしてしゃべっていられる…。」
…?最後の言葉の意味がよくわからない。
……
そういや
俺の刺された傷は一体どうなった?
…背中をさすってみたが、特にケガをしている様子はない。
そもそも、先ほどから俺は一切の痛みを感じていない。なるほど…そういうことだったか。
「長門…感謝するよ。俺のケガを治してくれたのはお前だったんだな…。」
?
今度は自分の言った言葉に違和感を覚える。長門を失神にまで追い込んだ原因が俺の治療??
…そんなバカな。確かに、俺は死にかけていたかもしれない…ゆえに、処理は大変だったかもしれない。
だが、それは朝比奈さんとて同じだったはず。一体…何が長門をそこまで追い込んだ??
「長門…、俺の治療は…そんなに大変だったのか?」
「私は治療などしていない。」
…え?
再開してる
乙
「ちょっと待て長門…俺はさっき刺されたんだぞ!?だが、
現に俺は無傷でいる。お前が治してくれたとしか考えられないんだが…。」
「我々が倒れているあなたを発見したとき、すでにあなたに息はなかった。」
息がなかった…?
「事実上の死亡を確認した。」
…?今、長門は何と言った?し…ぼう…?死亡…!?
ははっ、まったく、相変わらず面白いこと言ってくれるぜ長門は。
「つまり、それはアレだよな?死んでると思われても仕方がない状況だったってことだよな?」
「違う。確かにあなたは今日の22時23分に死亡している。
心停止、自発呼吸停止、瞳孔散大…。一般的に有機生命体、即ち人間の死の概念とされる
心循環・肺呼吸・脳中枢機能の不可逆的停止…その全てをあなたは満たしていた。」
…信じられない
刺された覚えはある。だが、死んだ覚えはないぞ…!?
現に…俺は今生きている。死んだとか過去形で言われても…どう反応すりゃいいんだ…??
…だが。長門が言ってるんだ…これは事実なんだろう…?
つまり
長門がいなければ 今の俺はいない
……
現実を受け入れたその瞬間からだったろうか。
俺は…長門に礼を言わずにはいられなかった。彼女を踏み倒す勢いだったと言っていい。
「ありがとう長門…、俺を…俺を、生き返らせてくれてよ…。」
「私は仲間として当然のことをしたまで。感謝されるような言われはどこにもない。」
「いや…言わせてくれ。本当に…本当にありがとう…長門…!」
「…そう。」
人の生死を覆すというあってはならないことをしようとした長門。
その禁忌を犯すため規格外の情報操作・改変に力を尽くした長門。
挙句の果てに意識を失うまでに心身を酷使させ続けた長門。
……
『お前の無理するとこは誰も見たくねーんだ!!ここにはいないがハルヒもな。だから…長門、俺に約束してくれ。
二度とこんな真似はしないってな。もしやるようなら…罰金だからな?それがSOS団ってやつだ。』
昨日あんなこと言っといてこのザマか…。長門、罰金は支払わなくていいからな。
それもまた…SOS団ってやつさ。本当にありがとう…長門。
…そういえば、長門にばかり意識がいってたから気がつかなかったが…。目覚めたとき
古泉や朝比奈さんも泣いてたんだっけか…。そりゃそうか。俺が古泉たちの立場でも間違いなく号泣してる。
…当たり前だろう?仲間が死んだんだぞ?…平然としていられるわけがない。
前にも言った記憶があるが…もう一度言わせてもらおう。つくづく良き仲間に恵まれたと思う…俺は。
さて
もう、そろそろ自分のことはいいんじゃないか…?俺には…やるべきことがある。
「ところでな長門…ハルヒが今どこにいるかはわかるか!?」
…起きたときからハルヒの存在が無いのには気付いていた。
自分や長門の現状把握で一杯一杯だった俺は、ハルヒのことを気にかける余裕すらなかったが…
だが、今ならそれができる。消えたハルヒを…なんとしてでも探しだして、そして守ってやらなくちゃならない!!
「…わからない。」
しかし長門の返答はあっけなく、そして絶望的なものだった。
「わ、わからない…!?どういうことなんだ長門…??」
「長門さんは…先程も申した通り、一切の能力が使用できない状態にあるんです。ですから今は…」
そうだった。『情報統合思念体として本来有す能力をしばらくの間凍結せざるを得ない状況』
って、さっき長門が言ってたばかりじゃねえか…しかも、その原因は俺ときている。
古泉に言われ、改めて気付かされる自分自身が情けない。
「ただ、全く見当がつかないというわけでもない。」
「っ!何か心当たりでもあるのか!?」
わずかだが、希望の光が射す。
「路上で伏しているあなたを見つけるまで、私は涼宮ハルヒの現在位置の特定にあたっていた。」
……
「最後に私がその観測を行ったのは22時35分。座標軸に照らし合わせて位置を算出した結果、
彼女はその時点において学校の校庭付近にいたことが確認されている。」
「学校って…俺たちが通ってる北高のことだよな?」
「そう。ただし、現在時刻は22時49分。最後の観測からおよそ14分もの時間が経過していることから、
現在も彼女がそこにいるかどうかはわからない。学校敷地内にいるという保障もない。」
「ありがとう長門…それさえわかりゃ十分だ。」
おそらく、今もハルヒは学校にいるだろう…。根拠はない。単なる勘でしかないが…俺はそう感じる。
……
…?
俺は疲れてるのか?古泉、長門、朝比奈さんの姿がぼやけて見える。
…気付けば視界に色彩が見えない。周りがモノクロの空間へと化してしまってる。
523 :
涼宮ハルヒの天啓 後編2 ◆i1mmP3RsKA :2010/10/23(土) 20:37:13.60 ID:2XusCm6PO
「おや…、どうやら時間のようですね。」
「…古泉?時間って、どういうことだ??」
「この世界が閉鎖空間へと化しつつある状況を見て予期はしていましたが…いやはや、残念です…。」
「以前、涼宮ハルヒがあなたを呼んで新世界の構築を試みたあのときと全く同じ状況下にある。
基本、この空間においては涼宮ハルヒを除くあらゆる生命体は存在不可な上、侵入も不可。」
「藤原君たちが途中でいなくなっちゃったのも…もしかしてそのせいなんでしょうか?」
嫌な予感がする
まさか…
「お前ら…消えちまうなんて言わねえよな!?」
「…残念ですが…。」
その古泉の一言で…俺の目の前は真っ暗になる。嘘だろ?
何もかも一人で…これから俺は立ち向かわなくちゃならねえのか!?
ふと気付く
「俺は…俺はどうなるんだ??俺も消えるのか??」
「いえ、あなたは我々と違って消滅することはありません。なぜならあなたは…」
「…異世界人だから。よって、涼宮ハルヒの影響下に置かれることもない。」
…そうだったな。そういや俺、異世界人だったな…自覚は全くねえが…。
「俺は…、お前らの協力無しに世界を救うことはできるのか…??」
「…キョン君にならできますよ!長門さんがさっき言ってたように、以前涼宮さんに呼ばれたときだって
大丈夫だったじゃないですか!結果、キョン君と涼宮さんはこの世界に無事戻ることができたわけですし…!」
「朝比奈さん…あのときとは随分状況が違います…。今回ばかりは俺一人でどうにかなるかはわからない…
それに、前回だって朝比奈さんや長門のヒントがあってこそのものでしたし…。」
「…え?私何かヒント言いましたっけ?」
「あ、いや…なんでもないですよ。」
『白雪姫って知ってます?』 朝比奈さん大の伝言。
『sleeping beauty』 長門が知らせてくれた言葉。
これら二つが掛け合わさって、初めてあの世界を脱出できたと言ってもいい。
それくらい、俺にとっては一生を…いや、俺だけの問題じゃない… 世界の行方を左右させた重要なヒントだ。
…朝比奈さん
……
朝比奈…さん…?
……
フラッシュバックが起こる
『キョン君…さっき私に聞いてましたよね?自分が今成すべき事を。それはね、死ぬことよ。』
『冥土の土産に教えてあげる。藤原君たちの本当の狙いはね、私の抹殺よ。』
『まさか、涼宮ハルヒを昏睡状態に陥れた犯人が私だったなんて想像もしなかったでしょ。』
『まさか、ここまで上手く事が運ぶなんてね。アハハハハハハハハハハハハ!!!!!!!!』
「あ…ああ…ああ…っ!!!」
陰惨な光景だった。思い出したのは残酷な事実だった。信じられない。どうしてこんなことを…ッ
朝比奈さん…!!? どうして!??
「……っ!!」
「だ、大丈夫ですかぁキョン君!?どこか具合でも悪いの…!?」
「朝比奈さん…。」
ふと、不安定になった俺の体を支えてくれる彼女。
「すみません…ちょっと魔がさしてしまって。」
…大人のあなたに脅えていましたなんて、口が裂けても言えない。
……
ああ、わかってる。悪いのは大人朝比奈さんであって、目の前の彼女じゃない。
彼女は決して悪くない。命懸けでハルヒを守ろうとしてくれた時点で…それはすでに明白だろう…!?
……
気付くと、みんなの姿はすでに半透明へと化しつつある。
「もう時間がありませんね…キョン君、あなたにこれを渡しておきましょう。」
「これは…!?」
俺は古泉から…機関銃を受け取った。
「あなたと涼宮さんを除いては、この世界には誰も残らないはず…理論上はね。
しかし、非常時ですから何が起こるかわかりません。役に立つかどうかはわかりませんが
せめてもの力になってくれればと…思ってます。消えゆく僕にできるのはそれぐらいですから…。」
…機関銃ってのは、こんなにも重いもんだったのか。よくこんなもんを振り回して戦ったな…。
玉もしっかりと充填してある…、準備は万全ってか。これなら敵が現れたって
「……」
敵が現れて…俺はどうすんだ??そんなの決まってる。撃つだけだろう
……
敵って誰だ?
朝比奈…さん…?
彼 女 を 撃 つ … ?
撃たれた人間はどうなる
…死?
朝比奈さんを…射殺…?
「!?」
俺は…っ
527 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/23(土) 20:49:34.95 ID:ZhqGHwqA0
さる?
「古泉…すまん、これは俺には少し荷が重い…。」
「まあ、確かに5kgは軽くありますからね。しかし僕にだって扱えたんです、あなたでも…。」
……
「……!」
何かハッとしたような顔をする古泉。
「…なるほど、どうやら単に重さの問題ではないようですね。
あなたがそれを躊躇うのは…あなたを刺した人物と何か関係が?」
!!
「……、ああ。」
古泉…お前の洞察力は大したもんだな。
「…、あなたを混乱させないようにと、なるべく避けていた質問ではあったのですが…
言わせてもらいましょう。その刺した人物の名を…教えてはくれませんか?」
……
どうする?ここでみんなに話すべきか?俺を刺したのは未来から来ました大人朝比奈さんですよと。
……
言える…わけがない…!!何の罪もない…この【朝比奈さん】の前でそんなことが言えるわけ…!!
「……」
「…いや、言いたくないのなら結構ですよ。…あなたの気持ちはわかりましたから。」
「古泉…すまん。」
「??い、一体何の話をしてるんですかぁ??」
話の展開について行けず混乱する朝比奈さん。あなたは…それでいいんですよ。
「…まあ、かといって何もせず消滅…なんていうバカな真似もするつもりはありません。」
そう言って古泉は俺に手渡した…さっきとは対照的な小さな鉄の塊を。
「これは…拳銃…か??」
「ええ…見た目はね。しかし、ただの拳銃ではありません。
麻酔薬、別名不動化薬の入った注射筒を空気圧で射出する…いわゆる麻酔銃ってやつです。」
「麻酔…銃…。」
「相手を殺さず、生け獲りにするケースを想定して試案された捕獲銃です。
万一の事態を想定して常に携帯はしていましたが…まさかこれが役立つ日が来ようとは。」
「古泉…何でお前はこれを俺に?」
「麻酔銃…ですからね。人を殺すための道具ではないんですよ。そう言えば、わかりますよね?」
…こいつは俺の心中を察している。俺が朝比奈さんの殺害を躊躇ってることを察している。
考えたな古泉…。麻酔銃か…
「わかったが…この銃は本当に大丈夫なのか?
薬剤の種類や投薬量によっては…場合によっては死に陥るんじゃないのか?」
「…そこを指摘されては辛いですね。もともと麻酔銃というのは中・大型の野生動物の保護、
あるいは動物園で動物が逃げ出した場合などの捕獲用に麻酔を打つ際に利用されるものです。
そういうわけで実は…対人用の麻酔銃というのは開発段階にこそありますが、実在はしてません。
ですから、世間一般の正規ルートで手に入る麻酔銃で人間を撃ってしまえば、麻酔がかかる前に
過剰投与によるショック死、または呼吸抑制作用による窒息死を招くのは確実です…。」
「…ちょっと待て!?お前さっきこれは人殺しの道具じゃないって言ってたじゃねえか!?」
「残念ながら…通常ならばそうなんです。ですが我々機関はそれを踏まえ、密かに対人用の麻酔銃の
開発を続けてきました。あなたが今もっているその銃は、言わば非正規ルートで手に入れたようなものです。」
「…どう違うんだ?」
「普通の麻酔銃の中に充填される麻酔薬はケタミンという物質なのですが…なんせ麻薬指定にされているだけ、
動物ならともかく人間に向けて撃ってしまえば大事に至らせるのは確実です。そこで、我々はその代替薬として、
塩酸の一種であるチレタミンとゾラゼパムの混合薬を使用しています。哺乳類用の麻酔薬であることから
ケタミンより安全性が高いのは確かです…それでも、決して死亡率0%というわけではありませんが…
そこはどうか、お許し願いたいです。」
…古泉の機関とやらは一体どんな組織なのだろうか…?製薬会社?医療関係?
いや、銃が絡んでるってことは武器製造??…考えてもバカバカしくなるだけなのでやめとこう…。
そもそも、森さんや新川さんみたいな超人がいる時点で、この機関とやらに常識が通じないのは
前々からわかっていたことだろう…?
「…古泉、わかったぜ。そりゃ仕方ねえ、世の中に絶対ってのは無いんだからな…。
俺はこれでなんとかするとしよう。ありがたく受け取っとくぞ!」
「お気に召してもらえたのなら光栄です。」
これならば…俺は朝比奈さん大を殺さず、ハルヒを救うことができるのだろうか?
「…!そうだ…私もキョン君に渡さなくちゃ…!!」
ポケットを弄繰り回す朝比奈さん。どうやら古泉の譲渡を見て、何かを思い出したらしい。
「キョン君…これを…。」
俺は朝比奈さんから受け取る。…何だこれは?何かの装置??
「あ、え、ええっと…それ…、詳しくは私もよくわかんないんです…。」
そうですか…わかんないんですか…。俺はどういう反応をすればいいんだろうか?
「…というのも、これは…上司から未来経由で送られてきたものなんです…。
その際に、この小型装置が何なのかについての説明はありませんでした…。
ただし、用途は記されてました。キョン君、その端っこにボタンみたいのが付いてるでしょ?」
「…はい、ありますね。」
「それをね、ピンチのときに押すだけでいいの。」
「…それだけですか?」
「はい!」
「…押すと一体何が起こるんですか?」
「ごめんなさい…それはわからないです…。」
「……」
さっきまで長門や古泉による濃厚な説明を受けていただけに、そのギャップ度合が物凄い。
いや、決して朝比奈さんに非はない。ちゃんと情報を伝えなかった上司が悪いんだ。
「もともとは私に対し送られてきたものなんですけど…これから消えゆく私が持ってたって
意味ないものね。だから、せっかくだからキョン君に使ってほしかった…!
さっきの古泉君とのやり取りを見てて、これを貰ったことを思い出したの!」
…つまり、あなたはその存在をずっと忘れていたというわけですね…。
「あ、もう一つだけ伝えなくちゃいけないことがあります…。さっきピンチになったら押してと言ったけど…
そのピンチというのは、ただのピンチじゃダメみたいなんです…!」
「…どういうことですか?」
「だからその…何ていうか、絶体絶命と言いますか…本当に本当の意味でもうダメだ!!
…みたいなときに押してください!そう紙に書いてありました!じゃなきゃ…ダメみたいなんです…!
なぜダメなのかは私にもわからないんだけど…。」
腑に落ちない点が多いが…こればかりは仕方ないだろう。
「わかりましたよ朝比奈さん。ありがたく受け取っておきます。」
「説明不足でゴメンねキョン君…どうか、それが役立ってくれることを祈ってます…!」
…あなたが謝ることはないんですよ…、全てはその怠惰な上司のせいなんですから。
……
上司?
…俺は彼女の上司を知っている
…ッ
罠!?まさかこれは自爆装置か!?ボタンを押せば、俺が死ぬような仕掛けになってるんじゃないか!!?
…落ち着け。冷静に考えてみろ…。そもそも、これは朝比奈さんへの贈り物だったはず。
ならば、そんな危険なもんを送りつけて過去の自分を殺してしまうような自殺行為など…
常識的に考えればするはずがないだろう!?自爆装置だの何だの…少し俺は頭がおかしくなってたらしい。
とはいえ、無理もないだろう…?その上司とは、つまり大人朝比奈さんに他ならないんだからな…!
…まあ、仮にも過去の自分に対して送ったんだ。非常時に押せば助かるという趣旨自体は
おそらく間違ってはいないだろう。未来製であるからして、おおかたバリアーが出るとか…
そんなとこだろうか?…発想が貧困な俺にはこれくらいしか思いつかない。
そんなこんなで考えをめぐらせていた俺だったが
「おや…、もう少し話したかったのですがね…。」
古泉の一言で俺は気付く。長門・古泉・朝比奈さんの姿が揺らぎ始めている。
「…キョン君、僕は信じてますよ。必ず世界を救ってくれる…とね。」
「キョン君…!!どうか…無事帰ってきてくださいね!涼宮さんと一緒に!!」
「何があっても決してあきらめないで。あなたならきっとできる。」
ちょ、ちょっと待ってくれ!もう…お別れなのか…!?
急すぎる…っ
お前らが消えたら…俺は…
…ッ!!一人になっちまう…!!
……
見苦しいぞ俺…だが、最後に本音をぶつけさせてくれ。
「俺一人で本当にハルヒを救えるのかよ…!!?」
「できますよ。あなたは涼宮さんに選ばれたのですから。」
「できます!キョン君は涼宮さんにとって特別な人ですから!」
「できる。あなたは…涼宮ハルヒにとって無くてはならない存在。」
口を揃えて言ったのは、それだけみんなの気持ちが一緒だった所以か。3人の最後の言葉だった。
「……」
ふと手に持ってる物を見た。古泉がくれた麻酔銃。朝比奈さんがくれた例の装置。
…俺は一人じゃない。
姿形こそないが…みんなの気持ちは、思いはちゃんとココにある。そもそも、長門の力が無ければ
俺は今、生きてすらいなかったじゃないか!?みんなの協力があって、今の自分がいる…!
「待ってろよハルヒ…っ!」
俺は学校へ向け、走りだした。
……
「…はぁ…はぁ…は…!」
北高が…見えてきた。
「…くっ」
一旦ストップする俺。後先考えず全力疾走したせいか…心臓がおかしくなりそうだ。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……!!」
息切れを起こしているのは言うまでもない。しかし、歩いてもいられない。一刻も早く、ハルヒに会う必要がある。
…明確なタイムリミットはない。もしかしたら、そんなものはないのかもしれない。
だが
俺はついさっき感じていたんだ。一人でいることが…。孤独であることが…どれほど悲しいことか。
それは、今のハルヒも決して例外ではないはず。
……
わかってる。今のハルヒはハルヒであってハルヒではない。おそらく神としての記憶が宿り、
別人格と化していることだろう。ゆえに、そんな感覚は無いのかもしれない。だからといって、
長門・古泉・朝比奈さん…そして俺の知るハルヒそのものが…抹消されてしまったわけではない!
…月だ。今のハルヒは月だ。月が出ている夜に太陽は存在しえない。だが、消滅もしていない。
実際はすぐそこにあるのだ。ただ 見えなくなってしまってるだけで。
ハルヒ…!
「もう少しの間…待っててくれよな…っ!」
学校まで後わずかだった。
いや、後わずかだった…はずだった。
537 :
◆i1mmP3RsKA :2010/10/23(土) 21:16:09.58 ID:2XusCm6PO
後編2これにて終わりです。次の3は10時くらいから投下します。
待っちょるでよ
539 :
涼宮ハルヒの天啓 後編3 ◆i1mmP3RsKA :2010/10/23(土) 21:58:33.00 ID:2XusCm6PO
--------ッ
銃声音が聞こえる。
「…ふふっ、やっぱりここで張ってて正解だったわ。」
……
「一応あなたの死は確認したはずだったんだけど。長門さんにでも助けてもらった?」
……
「今の発砲は気にしないでね。ただの威嚇射撃だから。」
……
「朝比奈…さん…!!」
拳銃を握った【朝比奈さん】がそこにいた。俺を殺した【朝比奈さん】がそこにいた。
中学生の妄想レベルw
…長門の言葉を思い出す。
『基本、この空間においては涼宮ハルヒを除くあらゆる生命体は存在不可な上、侵入も不可。』
そう言われはしたが、やはり俺の勘は的中した。
…古泉の言葉を思い出す。
『あなたと涼宮さんを除いては、この世界には誰も残らないはず…理論上はね。
しかし、非常時ですから何が起こるかわかりません。』
結果的に古泉の言ったことは正しかった。かといって、長門の言ったことが間違ってるようにも思えない。
ならば、俺の目の前に立ち塞がる…この空間に居座り続ける彼女は、一体何者だ…??
…そんなこと、今更考えるまでもないだろう?彼女は未来人朝比奈みくる
朝比奈みくる
朝比奈みくる…?
『アハハハハハハハハハハハハ!!!!!!!!』
……
こいつは…誰だ?あのとき俺を見下し、笑っていたこいつは誰だ?
「どうしたの硬直して?まあ…無理もないわね。さっきあなたを刺した人間だもの。」
「…お前は…誰だ?」
「…え?」
「朝比奈さんのふりをしたお前は… 一体誰だ!?」
「…何を言ってるの?私はみくる。未来から来た朝比奈みくる。」
「違う!!朝比奈さんは…俺の知ってる朝比奈さんは…っ!お前みたいに人を嘲ったり笑ったりしない!!
ましてや人を刺すような真似なんか…するはずがない!!!絶対しない!!!」
「……」
「…もうわかってんだよ。この閉鎖空間ではなぁ…通常の人間は存在すら許されない!!
それなのに、現にお前はここにいる… なあ、そろそろ正体を明かしてもいいんじゃねえか?」
「…なかなか面白い推理ね。でもね、それでも私の名前が朝比奈みくるであることには変わりないわ。」
「!まだしらばくれる気か…!!」
「ただ、あなたの言うとおり、君の知ってる【朝比奈みくる】ではないかもね。」
「…どういうことだ??」
「逆に質問するわ。通常の人間が存在できないんだったら、どうしてあなたはここにいられるの?」
…!?
「どうして…そんなことを聞くんだ…??」
「知ってるんでしょ?自分がここにいられる理由を。」
「……」
…どうする?俺が異世界人であることを…こいつに話してしまっていいものだろうか…?
「……」
「…答えないのね。そんなに自分が異世界人だってこと、明かしたくないのかしら?」
!!
「どうしてそれを…知っている…!?」
「知ってるも何も、私は【朝比奈みくる】なんだから
あなたが涼宮ハルヒのカギだってこと知ってるのは当然でしょう?」
「…っ」
話の展開が読めない。こいつは一体何を言おうとしている…?
「俺が異世界人だったとして…だから何だってんだ??」
「私がここにいられる理由。それはね、私もあなたと同じ異世界人だからよ。」
……
混乱してきた。
「??お前は…未来人じゃないのか!?」
「あれ?私のこと朝比奈みくるじゃないって言ってたのあなたじゃない。どうして未来人だって思うの?」
もしかして、心の底では認めてるんじゃないの?私が朝比奈みくるだってことを。」
「…違う!お前は朝比奈さんじゃ…ない!!」
「言い続けるのは勝手だけどね。どちらにしろ、あなたの言うとおり私は未来人よ。」
「??さっき自分で異世界人って…」
「そう、異世界人でもあるわ。つまりね、私は異世界の未来からやってきた人間なの。」
…??
やはり得体が知れない。どこまで素性が知れないんだこいつは…??
そもそも異世界って何だ…?何のことを言ってるんだ??
「何話してるのか全然わかりませんって顔してるわね。…そうね、冥土の土産にでも教えてあげるわ。」
「……」
「例えば、今あなたは北高生として人生を歩んでるわけだけど
もし他の高校へ通ってたとしたら、自分は今何をしていただろう?って考えたことはある?」
「…ないことはない。」
ふと、佐々木のことを思い出す。
「可能性ってのはね、よっぽど強い制約に縛られない限りは無限大なの。
もしかしたら、他の高校で生活を送ってる別世界の君がいたりするかもね。」
「…分岐の数だけ世界はあるってことを言いたいのか?」
「あら、理解が早くて助かるわ。そういうのを一般にパラレルワールド…ないしは平行世界って言うのは知ってる?」
「…知ってる。映画や小説で見たことがある。」
「平行世界ってのはね、そういう意味で無限大に存在するの。だって、
分岐の数だけ世界があるんだから。数字が無限であることと理屈は同じね。」
……
「でもね、いつもそうであるとは限らない。例えばね、確率50%で『今日人類が滅亡する天変地異が起こりますよ』
って言われたら、果たしてどうかしら。人類が死滅する未来と栄える未来。地球規模の人間的観点で
大別するならば、そういった意味では平行世界は二つしか存在しえない。どう?私の認識は間違ってる?」
ッ!!
「ま、あなたが驚くのも無理ないわ。だって、今日が【その分岐点】なんだもの。」
そうか…そういうことかよ…!!
「じゃあお前は…」
「気付いた?私がいた未来ってのは、フォトンベルトで人類が死滅した後の世界よ。」
「……」
「そしてもう一つ、私がさっき言った…フォトンベルトから逃れてめでたしめでたしって未来。
その世界にいる私っていうのが、あなたの知ってる朝比奈みくるのことでしょうね。
どうせ今頃未来で呑気に過ごしてんでしょうけど…何をバカなことしてるのかしらね。
この世界が滅亡すれば、即ち今自分がいる未来だって無くなってしまうというのに。」
……
こんなときに…こういう表現をするのは不謹慎かもしれないが…。正直、俺は安心した。
目の前にいるこの人物が、俺を殺したこの人物が、俺を嘲け笑っていたこの人物が、
俺の知っている…この世界の朝比奈さんとは全くの別人だということがわかったから。
…しかし、だからといって浮かれてはいられない。
この瞬間にも、この世界の運命は刻々と進みつつあるのだから…。
1つ疑問に思うことがある。
「確認しておきたいことがある。お前はこの世界を滅ぼすつもりでいる…そうだな?」
「そうよ。だって、それが私のいる未来だもの。」
おかしい… 矛盾している。
「さっきフォトンベルトで人類は滅亡するって言ったな?なら、どうしてお前は…その人類が滅亡したはずの
世界で生きてられるんだ?おかしいだろう!?人間のいない世界でどうやって生まれてきた!?」
「…あなたは言葉通りの意味で受け取ってしまったようね。例えば、60億いた人類のうち59億が死にました。
生存者は1億人。けれど、9割以上の人類が死滅したのは事実。滅亡と表現したって、
別におかしくはないんじゃないかしら?」
「じゃあ…お前はその生き残った、1億人のうちの子孫ってことか??」
「そういうこと。」
おかしい… なおさら矛盾している…!!
「それなら、どうしてお前はこの世界を滅ぼそうなんていう真似をするんだ!?人類の9割が死ぬ世の中なんて、
ろくな世界じゃないだろう!?未来だって荒廃しきって、とても目の当てられる状態じゃないんじゃないのか…?
お前自身願ったことはないのか。あのとき…こんな大災害さえ無ければみんなもっと平和に暮らしていけたのに
ってよ…。少なくとも、俺がお前の立場ならそんな天変地異なんて絶対起こさせない…過去へと遡行してでも
防いでやる。それがどうだ?お前のやってることは全くの逆じゃないか!?」
「…あなたは本当に今のこの世界が平和だとでも思ってるのかしら?」
「…何?」
「相変わらず、今日でも民族間・宗派間・政治的問題等による紛争や虐殺は後を絶たないわ。
あなたもそれは知ってるでしょう?日本みたいな平穏な国に住んでちゃ分からないでしょうけど、
例えば、アフリカなんかでは生まれたときから少年兵として教育され…上層部の勝手で戦場へと送られ、
一生を終える子供たちがいるわ。中東もそう、1人外で遊んでた子供が誘拐され…その挙句テロリスト達に
自爆テロの駒として道具のように殺されるのは…日常茶飯事。他にも挙げればキリがないわ。」
「!!」
「ねえキョン君。そんな子供たちにとってこの世界って… 一体何なのかしらね?」
「…っ」
俺は… 返す言葉がなかった。
「そもそも、何で人は互いを殺しあうのかしら?私利私欲が絡むから?心が洗練されていないから?」
「…だから…、だからお前は…!この世界を滅ぼすってのか…!?」
「そうよ。」
!!
なぜこの人は…何の迷いもなく即答できるんだ…!?
「ふざけんな!!お前…自分が何を言ってるのかわかってんのか!?そりゃあな、今日もなお世界中の
いろんなとこで尊い命…幼い命が奪われてるってのは事実だろうよ。いつの時代も痛い目を見るのは弱者だ…
そういう人たちを同じ人間と見なさず、ボロ雑巾のように使い捨てる上の連中は、はっきり言って俺も死ねばいい
と思ってる。だがな、世界を滅ぼすとか言ってる時点でよ…お前もそいつらと大差ねえよ!!罪のない人や
日々を精一杯生きてる人たちまで巻き込んで…お前は59億もの人間を殺すつもりでいるのか!?」
「……」
「それとな…いくら人類の数が減ったって、それが人間である限り戦いは止まねえだろ…?お前の世界だって…
全人口がどれくらいなのかは知らないが、一切の諍いや争いが無くなったわけじゃねえんだろ!?」
「知ったような口を利かないでくれる?」
…顔はいたって真面目。だが、どことなく高圧的な口調になった気がする…。
「もし私のいる世界では一切の争いごとは起きてない…と言ったらどうする?」
「は!?そんなことあるわけな」
「ある…としたら?」
……
この表情は、決してハッタリなどではない。彼女は 真 剣 にこれを口にしてるみたいだった。
「どうやら、あなたはフォトンベルトの負の面ばかり知りすぎてしまったようね。」
…その言い方だと、逆にプラスの面もあると言ってるみたいじゃないか…??
俺は長門の言葉を思い出していた。
『太陽内部の核融合反応によっても生成された厖大な量のフォトンは地球に向かって放射され、
その一部は地球大気の吸収や散乱などを受けながら、粒子の状態で地表に達している。』
『人間が一般的に知る光とは異なり、多次元の振動数を持つ電磁波エネルギー。』
『大量のフォトンにさらされたとき、まっ先に重大な影響を受けることになるのは
地球の地磁気や磁気圏…最も深刻な影響は地球磁場の減少。』
…あいつが説明した中に、どこにプラスの要素が…?
「高次元のフォトンが人体へと及ぼす影響は…知ってるかしら?」
…?
「…真っ先に現れる症状は、心身共に健康であるにもかかわらず妙に倦怠感があるとか、背中が痛むとか、
胸がつかえるとかと言ったもの。つまり、病気ではないのだけど、不安定症候群のような状態になることね。
さらに事態が進展すると、インフルエンザに似た症状や目眩、心臓動悸、呼吸困難、頭痛、
それに、筋肉痛や関節痛、痙攣などの症状が起きやすくなってくるわ。」
話の流れがよくわからない。
「見事に有害だらけじゃねえか…これが何だってんだ??」
「あくまで、これは初期症状にすぎないわ。最大の変化はね、細胞内のDNA配列に対する影響。
フォトンが高次元の電磁波エネルギーであることから発生する…こうした遺伝子レベルでの変化は
人類にとって大きなプラスをもたらすことになったわ。」
…DNA?配列…?
「地球上の人類は脳を始め、内臓の諸器官が本来の能力の10%も使えず
一生を終えるって話。あなたは聞いたことないかしら?」
「…聞いたことはある。」
何かのテレビ番組で見た記憶がある。
「その原因はね、人のDNAは本来12の螺旋から成り立っているにもかかわらず、
実際にはその内の2本しか使われていないせいだとされてるわ。」
「…おいおい、まさかフォトンのおかげでDNAが何本も使えるようになったとか、そんな話じゃ」
「ええ、そのまさかよ。」
「……」
「DNAってのはね。1本でも多いと、あらゆる病気に対する免疫力を持てたり、
他にもいろんな各部で実際的効果を発揮してくれるの。凄いでしょう?」
550 :
涼宮ハルヒの天啓 後編3 ◆i1mmP3RsKA :2010/10/23(土) 22:58:28.84 ID:2XusCm6PO
……
「…そうそう都合よくいくかよ…!高次元フォトンだの電磁波エネルギーだの…
俺にはよくわからんが、中身がそこまで変化すれば外部にだって、必ず影響が出るはずだろ!?
皮膚が爛れたりとか、思ったように足が動かなくなったりとかな!」
今のはさすがに、自分でも無理やり反論してる感が拭えなかった。案の定、次の瞬間には即座に論破される。
「電子レンジの中の料理が、マイクロ波の照射によって
姿は変えずに形態を変えてしまう。これと全く同じ理屈、何ら問題ないわ。」
……
淡々とただちに反論できる辺り、おそらく彼女の話してることは事実なんだろう。
まさか…フォトンにこんな側面があったとはな…。
…?
だから何だってんだ??
「あんた…さっき自分たちの世界では一切の争いごとは起こらないって言ってたよな?
…あれは今のとどういう関係があるんだ??いくら肉体面が屈強になったところで
人の精神が変わらん限り、争いは無くならんように見えるんだが…!?」
「遺伝子レベルでの変換を舐めてもらっては困るわね。高次元のフォトンが内包された
空間域に身をさらした人間は、高度なエネルギーによってDNA分子が再プログラムされ、
肉体と霊体とが半ばした高度な精神性を持った存在に変容するのよ。」
「……」
さすがに精神部位の話ともなると、こいつの説明は聞いてても理解できそうにはない…
それが本当なのかどうなのか…DNA配列により人間性そのものが変化するなんてことが、
本当に可能なのか??できたとして、それはどの程度まで??その基準は一体どうなってるんだ??
……
まあ、仮にそうだったとしよう。お前の言ってることが、本当だったとしよう。
「…それでも!俺は、お前の考えには納得できねえ!!そりゃ、素晴らしい世界なんだろうよ…
それは認める。だがな、59億もの人間を殺してまで得ようとは、俺は思わない!!」
結局、これが全てだった。どんな理由があるにせよ、虐殺まがいのことを
肯定しなければならない事態など…少なくとも、俺個人は絶対に認めたくなかった。
「そう、それは残念。どうやら、私とあなたとでは根本的に価値観が違うようね。」
「だから…頼むから、元の世界に帰ってくれないか…?」
「何を言ってるの?」
「その世界で…お前はお前で自由に暮らせって言ってんだよ!!
どうして俺たちの世界に…お前は干渉してくるんだ!?」
「…あなたがそこまでバカだったとはね。さっきも言ったでしょう。今日この時間こそが世界の分岐点なんだって。
つまり、この世界がフォトンベルトにより滅ぶ様をきちんと見届けるのが私の努め。でなければ、
私たちの未来は分岐からはずれて消滅してしまう。もちろん、そのときは私自身も消滅するわ。」
俺はそれを聞いて違和感を覚えた。
じゃあ、俺が今まで会ってきた大人朝比奈さんは一体何だったんだ?言うまでもないが
彼女がいる世界は…この世界、第四世界が滅亡しなかった場合の未来だ。そして、今
俺の目の前にいる【朝比奈さん】、彼女は第四世界が滅亡した後の未来からやってきた人間だ。
この時点ですでにおかしいだろう…?
彼女たちが存在しているということは、滅んだ世界と滅ばなかった世界…
その両方が過去になくてはありえない話だからだ。過去の経緯があり今の彼女たちがある。
朝比奈さんと【朝比奈さん】、独立した2つの平行世界が存在しているということ。
即ちそれは、2つの分岐が過去において完了し終わってることに他ならない。
にもかかわらず、【朝比奈さん】は完了し終えてるはずの、それも異世界の過去に干渉した…?
『この世界がフォトンベルトにより滅ぶ様をきちんと見届けるのが私の努め。
でなければ、私たちの未来は分岐からはずれて消滅してしまう。』
ならば、どうして第四世界崩壊後の未来人たる【朝比奈さん】は今ここに存在している!?
彼女がいるということは、世界滅亡はすでに補完された事実ということなんじゃないのか??
しかし彼女は…この世界が滅ばなければ自分たちの未来は消滅すると言った。
矛盾している…
「そもそも、この分岐自体ありえなかったのよ。」
「…ありえない?」
「そう。世界が助かるっていう分岐はね。」
??
「【2012年12月24日世界滅亡】、これは幾多とあるどの平行世界においても共通の事項。つまりね、
世界滅亡の不発が可能性として僅かながらでも残っていたあなた達の世界は、言わば偽物ってわけ。
本来あってはいけない世界だったのよ。」
…偽物…??
「異世界から来た人間に…偽物だの何だのとやかく言われたくはねえな。
別に、人類が救われる世界が一つくらいはあったって…いいんじゃねえのか…!?」
「よくないわ。」
即答だった。
「だってそうでしょう?地球が誕生してから46億年…人類はこれまでずっと【あること】を大前提に生きてきたのよ。
数々の平行世界においてもね。そして、これから来たる第五世界においても…ずっと。」
「…ある…こと…?」
「それはね。神の存在。」
…っ!
「第一、第二、第三世界と、神はこれまで幾度と世界を滅ぼしてきた。そして、この第四世界崩壊も、
神に言わせれば既定事項だった。【あなたという存在】が現れさえしなければ…ッ!!!」
戦慄を覚えずにはいられなかった。彼女の俺を見るその目が…恐ろしいくらい、憎しみに満ちてたんだからな…。
「俺が…どうしたってんだ…?」
「第三世界終焉時、涼宮ハルヒに妙な入れ知恵をした張本人は…他ならぬ、あなたでしょう…!?」
入れ知恵??俺が…ハルヒに!?一体何を
……
『別個体で生まれたって時点でもう神だの何だの関係ねーんだよ!!好きに生きりゃいい。』
『負荷や重圧のみがかかる人生に一体どんな意義があるってんだ…?俺はそれを言いたかった。』
まさか…。これが入れ知恵だとか言わねえよな…?
「あなたのくだらない独善で、涼宮ハルヒは神として生きる気力を失った。そして、何を血迷ったか…
彼女は人間の側に立って生きることを決意した。そのために本体である神にも抗った。
結果、神を封じ込め彼女は一人間として生まれ変わった。あなたはね…自覚ある?
自分がパンドラの箱を開けてしまったという…その自責の念が…!?」
ッ!!
「パンドラって…何だよ!?自責って何だよ!?そんなに俺は悪いことをしちまったってのか!?
ハルヒを…1人の人間を助けることのどこに間違いがあったってんだ!?」
「あなたが助けたのは人間じゃない。神。」
「違う!!あいつは…れっきとした人間だ!!」
「それが独善って言うのよ。あなたの勝手な思い込み。そのせいで、世界は随分と狂わされたわ。
一時的に神の影響下から逃れた世界は、これまでにおいては考えもしないような分岐をし始めた。
神ありきだったはずの世界は瞬く間に消滅し始め、神とは無縁の、無数の平行世界が出来上がってしまった!!
それも…修正不可能なくらいね…!!」
そんなことが…
「第四世界崩壊の後、今私がいるような誰もが平和に過ごせる世界…本来ならそうなるはずだった。
ところが、あなたの出現のせいで、第五世界から派生したいくつもの平行世界の存在が揺らぎ始めた。
それもそうよね。神がいない。それは、つまり世界は破壊されることも創造されることもないってこと。
第四世界はいつまで経ったって第四世界のまま。」
……
「わかる?異世界だから影響がないとか関係ないとか、もはやそういう次元の話じゃないの。
だからなんとしてでも神を復活させ、この第四世界を葬る必要があった。
本来であればそれは2012年12月24日だったはずだったけど、なんせ私からすればここは異世界。
そうそう上手くはいかないわ。結果としてその日付は12月2日になっちゃったけど。
まあ、多少の誤差…第五世界が創設されることには何ら変わりない。」
…ちょっと待て。今…こいつは 12月2日と言ったか…?
今日は何日だ…??12月1日だよ…な?
腕時計で時刻を確認する。23時33分…
…!?
「…冗談だろ?後30分もしないうちに、世界は滅亡しちまうってことか!?」
「そういうこと。地球がフォトンベルトに突入するのも後わずかね。」
っ!!
俺は…こいつと話しているヒマなどない!!今すぐ…ハルヒのもとへ駆けつけてやらねえと!!
「…最後に聞かせてくれ。11月29日… 一昨日の放課後、俺の下駄箱に手紙を入れたのはお前か?」
「手紙?そんな記憶はないけど。」
…なるほど。あれはそういうわけだったか…っ!
「その同日、俺んちの玄関前で藤原に気をつけろと忠告しに来た朝比奈さんは…お前か?」
「そうよ。どうだった?あの私の一言で藤原君たちのこと、随分と
疑心暗鬼になっちゃったんじゃない?目論見通り、私の思うつぼだったわね。」
…藤原たちは、異世界からやって来た【朝比奈さん】が世界を滅ぼすことを最初から知っていた。
それにも気付かず俺たちは…結果として藤原一派と戦い、無駄なタイムロスをした。
あの間に【朝比奈さん】に逃げる隙を与えてしまったとするならば…!!
まさか、彼女は最初からこれを想定していて…俺にあんな一言をぶつけたってのか??
…くそッ!!
「…その翌日、ハルヒを気絶させたのもお前か?」
「その通り。ま、大体予測はついてたんでしょ?人の脳波にまで介入できる装置なんて
未来技術を応用した人間、あるいは情報統合思念体でもないと実行不可能だものね。銀河系から飛来する
宇宙放射線にデルタ波を混ぜた怪電波で脳内を満たしてあげたら…見事に卒倒してくれたわ。」
「てめぇ…!ハルヒを何だと…!!」
「神だけど、それが何か?」
この…!!
いや、落ち着け!今挑発に乗るわけには…こっちには時間がないんだ…っ!
「そして今日…お前はステルスか何かで、ハルヒの後をつけていた…そうなんだな??」
「そこまで推理してるのなら、もはや私から言うことは何もないわ。涼宮ハルヒの覚醒が
12月2日ってことを考えれば、彼女の様子や症状の変化を観察するのも私の努めでしょう?
途中であなたが現れた時は私もびっくりしたけど。」
「…そうかよ。」
……
「それで、あなたはこれからどうするつもり?私は私であなたに懇切丁寧に全ての事情を
伝えたつもりなんだけど、それでもこの世界の崩壊を止めに涼宮さんに会いに行くの?
もしそのつもりなら、私はここで、あなたを始末しなくちゃいけなくなるんだけど。」
「何が始末だ…!?さっき一度殺したくせして…どうせ俺がここで何を答えたって、
お前は俺を殺すつもりでいたんだろう?」
「…察しがいいのね。だって あなたは言わば第四世界存続のカギのような物だもの。
敢えてそれを生かしておく道理もないでしょう?第五世界創造のためにもね。」
「まあ、仮に生かしてくれると言ったって…俺はハルヒに会いに行く。ハルヒだけじゃねえ…
俺はみんなと約束したんだ。SOS団のみんなと…『ハルヒは絶対助ける』ってな…!
今更ここまで来て退こうなんざ、微塵も思っちゃいねえよ!!」
言葉や口調にこそ勢いがあったが、実体はただの虚勢ともいえた。焦燥感で頭がどうにかなりそうだった。
なんせ、背負ってるものがあまりに重すぎる。今にもプレッシャーで潰されそうな感覚。足や手、体の各部も
震えている。長門・古泉・朝比奈さん、3人の励ましに覚悟を決めたつもりだったのに、このザマだ…
情けないことこの上なかった…いろんな感情が交錯して涙が出そうだった…っ!だが、今はなんとか堪えた…。
そうしていいのはこの世界…そしてハルヒを救えたときだけだ…っ!!
「覚悟がいいのね。じゃあ、そろそろ終わりにしましょうか。」
死の気配を感じとった。とっさにポケットから麻酔銃を取り、朝比奈さん目がけ、引き金をひいた。
一瞬の出来事だった
「な…!?」
「私を実弾でなんとかできるとでも思ってたの?」
俺は今、確かに朝比奈さんに向けて撃ったはず。彼女が動いたり避けたりした形跡はない。
はずした!??こんな近距離で!!?
「そもそもね、あなたとこんなに近くで会話してた私が…何の対策もしてなかったとでも?
そんなの、殺してくださいって言ってるようなものよ。」
迂闊だった。言われてみればそうだった。何の意図もなく、俺に近づいてくるはずがない…!!
「お前…今何をした!?」
「気になる?なら、私の足元でも見てみたら?」
言われるがままに彼女の足元に目を向ける…何だあの弾丸の痕跡は?俺は…あんな所へ発砲した覚えは
「あなたが撃ってきた玉を…私に直撃する手前で垂直落下させた。ただそれだけのことよ。」
「垂直落下!?」
「私の周りに1o膜の重力場を形成させたのよ。この膜に触れたあらゆる物体は…通常ではありえない
重力加速度で垂直落下する仕組みになってるわ。まあ、未来人の私からすればこんな技術造作もないけど。」
ちょっと待て
……
やばい
「いかなる攻撃も…お前には通用しないってことか…!?」
「その通り。」
麻酔銃は完全に封じられた。かといって、素手で殴りかかれば、その前に彼女の持ってる拳銃で
…殺される
「まったく、笑っちゃうわね。ここまで私の予想通りだとは思わなかったわ…前時代の人間なら
実弾攻撃は常套手段だものね。そういう物理攻撃から身を守る重力場を張るのは当たり前のこと。
もっとも、こんな旧式な手法、私のいる未来からすれば原始的でありえないんだけど。」
…どうすりゃいい
「重力場なんて使う日が来るとは思わなかったわね。未来では光線兵器が主流だから、
たいていの防御システムと言えば、高次元フォトンを使った光子バリアが当たり前。」
どうすりゃいい!!?
560 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/23(土) 23:54:56.00 ID:fGLrwfzw0
朝比奈さん「猿が人間に追いつけるか? お前はこのみくるにとってのモンキーなんだよキョンンンーーー!!!」
「今日は他に、そういう兵器も持ってきてるの。前時代に合わせた拳銃でヤろうと思ってたけど…
あなたには、このレーザー銃で逝ってもらうのもいいかもしれない。殺傷力を有するレーザー光で
ありとあらゆる細胞を焼き切るから…。この時代じゃ体感できない死を味わえるわね。」
……
こんな恐ろしい状況を目の当たりにした普通の人間ならば、普通ならば精神的錯乱に陥るのだろう。
俺とてその例外ではない…はずなのだが、どういうわけか、俺はそんな朝比奈さんを目の前に
ただ落ち着いていた。ただただ落ち着いていた。人間、恐怖もドがすぎるとそういう人間的感情をも通り越して
無へ帰してしまう…そうわけだろうか?そもそもだ…精神が錯乱してるのは、果たしてどっちだ…!?
「…お前、さっき言ってたよな?自分たちは崇高な精神を持つ新人類だから争いは好まない…と。
あれは嘘だったのか?今のお前は、どう見たって殺しを楽しんでるとしか思えねえ…
傍から見りゃただの猟奇殺人者だ…っ!」
何とか声を振り絞り、俺は一連の態度から導き出される必然ともいえる感想を…彼女に告げる。
「ふふふ、あはははっ…そう思うのも無理はないかもね。一応未来の仲間のためにも弁明しておくけど、
あれは嘘じゃないわ。ま…そのせいで、私はこんな殺人者へと変貌してしまったわけだけど。」
「…どういうことだ??」
「涼宮ハルヒが神としての務めを放棄してしまったために…
私たちの世界、即ち第五世界の存在は揺らぎ始めた。もちろん、ただちに話し合いが行われたわ…
我々の世界存続のためにね。そのためには…2012年時の分岐を本来の流れへと修正するべく、
私たちはなんとしてでも第四世界を滅ぼす必要があった。でもみんなにはそれが…できなかった。」
「できなかった…?」
「戦いが一切起こらない。今の時代の人間たちから見れば考えられないような高度な精神性をもった…
そんな人間たちが住む世界。第五世界は平和そのものだった。…これがどういうことがわかる?
みんな人を傷つけることを知らなかった。いや、できなかった。」
「……」
「彼らは言ったわ。第四世界を滅ぼし大勢の人間を殺戮してまでも…
自分たちは生き残ろうとは思わないと。みんなはね…第五世界とともに心中することを決めた。」
「なんだと!?」
「はははは、笑っちゃうでしょ?今の人間からしてみれば信じられないでしょうけど。
でもね、私はこの世界が好きだった。消滅なんかしてほしくなかった。だから、私は一人でも戦うことを決意をした。」
……
「そうは言ったって私だってこの世界の住人。間接的であっても人を殺すことには…
大いなる抵抗があった。なら、どうすればいいと思う?簡単なことよ。
狂 え ば い い の よ 」
…っ!?
「だってそうでしょう?今から59億もの人間を…私は直接的ではないにしろ殺すことになる。
普通なら、正常な精神の持ち主なら、こんなこと実行できるわけないでしょう?
だから、私は狂う必要があった。猟奇殺人者って言ったかしら?今の私はまさにそうでしょうね。」
……
…俺は
初めてこの【朝比奈みくる】に同情した。
……
平和な世界って言ってたよな。きっと良い世界なんだろうな。羨ましく思うな。
できれば俺もそこの世界に行ってみたい。でもそれも無理なんだろうな。
なぜなら
俺が死ぬことでしか…第五世界は救われないのだから。
俺が死ねば…この朝比奈さんが愛する世界は救われ…
「お別れねキョン君。」
ッ!!!
ちょっと待て…!!俺はこんな所で死んでいいのか!!?
……
良いわけがない!!!
この朝比奈さんが…自分のいた世界を守るのに命懸けなのなら。俺だってそうだろう…!?
状況的には全く同じはずだろう!?俺は自分のいるこの世界を、人々を、家族を、友人を、
…ハルヒを!
守りたい…!!!
……
------っ!!!
朝比奈さんは銃の引き金を今にもひこうとしている。
俺は……俺は!どうすりゃいい!!?
この距離では素手で立ち向かう前に撃たれる…かといって、麻酔銃は通用しない…っ!!
どうすりゃいい!!?
「…さようなら。」
ころ…される
殺される
「あ…あぁ…うわあああああああああああああああああああああああああああああああ
ああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!」
------------------------ッッ!!!!!!!!!!!!!!!!
「あ…くぅ…ああぁ…!!」
ヒザをガクっとおろし 右肩を左手で必死に押さえる朝比奈さん
……
今…何があった…?
俺が今…左手に握っている物は何だ…?
……
ようやくわかった…俺は、朝比奈さんに撃たれる寸前にとっさに押したのだ
ボタンを、小型装置の…【朝比奈さん】が俺にくれた、この小型装置を…!
「ど…どうして、あ、あなた…が…!?そ、それも…偏光性…の…!!?」
吐息を荒くし、苦しげな表情で倒れ込む朝比奈さん。
……
俺は信じられない光景を見た。
ボタンを押した直後…辺りが急にまぶしくなった。まるでフラッシュでも焚いたかのごとく
その光は…彼女が俺めがけて撃ってきたレーザー光線を、はね返した。
はね返された光線は…彼女の右肩に直撃した。
…あのとき朝比奈さんがとっさに避けようとした姿を、俺は覚えている。
もしその行動がなければ彼女は…腹部に命中して即死だったかもしれない。そして…結局この装置の正体も
何なのかわかった…、わかったが…ッ!どうして、【朝比奈さん】はこの用途を俺に説明してくれなかったっ!!?
「は…はは…っ…、そっち…のせか…いのわたし…も考え…たわね…っ」
「朝比奈さん!!!」
俺は彼女が別世界の朝比奈さんだと判明して以来…初めて彼女のことを『朝比奈さん』と呼んだ。
そして、苦しみもがく彼女のもとへと駆け寄った…
「朝比奈さん…!?大丈夫ですか!?しっかりしてください!!!」
「な、何…あなた…、私を…しんぱいす…るわけ…っ?」
「今は…そんなこと言ってる場合じゃない!!」
世界を守ろうとしたのはこの朝比奈さんだって同じだった。思いは俺と同じだった。
不幸なことに対立した立場となってしまっただけで…その志は俺と同じだった…!
そんな彼女が…どうして今ここで死ななければならない!!?…どうして!?
彼女は俺たちとは違って…1人でずっと戦い抜いてきた。やったことの是非はともかく、
そこまでして頑張ってきた彼女の末路がこれか!?あまりに不憫すぎるだろう…!?
「無駄よ…、レー…ザー光っていうのは…ね、いちど…皮膚にふれてしまったら
体は…分子……単位で破壊されていくわ、もう…1分…も持たない…」
「そんな…!そんなことって…ッ!!」
「たぶ…ん、この世界は…守られる…第五…世界ももう…すぐ消滅…みん…ないなくな…る、
私は…みんなより少し…早く先に逝って…るね」
「朝比奈さん!!!…朝比奈…さん…!!!」
「キョン…君…、すずみ…やさ…んを…大…切に…ね、…………」
「…っ!?」
「……」
「朝比奈…さん?」
「……」
「そんな…朝比奈さん…」
「……」
「なんだよ…なんだよこれ!?どうしてこんなことになっちまったんだよ!!?
ああ…うあああああああああああああああああああああああああああああああッ!!!!!」
……
俺は 朝比奈さんに黙祷を捧げた。
…悲劇、それ以外に形容のしようがない。
……
「涼宮さんを大切にね…か。」
はっきり言って…今のこの状況で、俺はこの場を動きたくはなかった。ちょっと気を抜けば…
あまりのショックで放心状態になっちまう…相当きつい…くそが…ッ!!涙が…止まらない…!
「涼宮さんを大切に…。」
……
「…涼宮さんを大切にね…か。」
なぜか俺は…彼女の、最期の言葉を繰り返していた。
…時刻を確認してみる。
23時45分
…行かねえと。行かねえとやべえよな…。
……
「朝比奈さん…。どうか、安らかに…。ハルヒは…守ります。」
俺は、気持ちを切り替えた。
「ハルヒ…!これが最後の大仕事だ…お前だけは…お前だけは
絶対…絶対に救ってやる!!今すぐ行く…待ってろよ!!!」
俺はとびだした。全速力で、全力疾走で、学校へと、ハルヒのいるところへと。
570 :
◆i1mmP3RsKA :2010/10/24(日) 00:44:17.64 ID:kpZC9gQtO
後編3…終わりです。相も変わらず、昨日と同じく後編4を起きてる限り投下していこうと思います。
というわけで、見てくれた方はお疲れ様でした。眠たい方はお休みになってください。
571 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/24(日) 00:48:45.54 ID:BsGUEzpe0
乙
がんばるぜよしえん
572 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/24(日) 00:50:23.37 ID:kZtvfAGn0
乙頑張れ
俺はドアを開けた。
「ハルヒ…やっぱりここにいたか。」
「 」
思った通りだった。旧校舎の、俺たちの部室に、SOS団の部室に、こいつはいた。
「 」
窓のそばに立ち、外を眺める少女。
「…ハルヒ。」
呼びかけるが、こちらを振り向く気配はない。
「おい、ハル」
「何しに来た?」
……
明らかな拒絶。
…覚悟はしてたさ。ハルヒが、覚醒を起こしてぶっ倒れちまった時点でなぁ。言わずもがな、こいつは…
俺の知ってる涼宮ハルヒではない。窓から立ち退き、振り向いたその顔は…無機質な表情そのもの。
記憶喪失にでも遭い、俺が誰だかわからない…そんな虚無感を覚えた。
「お前は…ハルヒじゃないな。」
「 」
『最初の宇宙は無限宇宙だった。この無限宇宙には初めは創造主である神しかいなかった。
始まりもなく終わりもなく、時も空間もなく、形も生命もなかった。このような全くの無の宇宙に
神は初めて有限を生み出した。神が自らを具現化した有限…我々はその存在を
各地の神話や伝説に照らし合わせ、【ソツクナング】と呼んでいる。』
長門の言葉を思い出す。
「これまで何度も世界を破壊し、そのたびに創造してきた張本人…そうだよな?神様…いや、」
……
「ソツクナングと、そう呼んだ方がいいのか?」
「 」
……
「 ソツクナング か 懐かしい名前 そうだとして、あなたはどうするつもり?」
「決まってんだろ…この世界の崩壊を…!第四世界の崩壊を今すぐ止めてくれ!!」
「できない相談だとわかっていて わざわざそれを口に?」
淡々とした 冷酷な口調。
…時計を眺める。
23時56分
時間がない…!こいつを説得してる時間など…もはやない…っ!
「…力づくでもお前を止める。」
……
「まったく、呆れる 力でしか物事を解決できない それが人間 」
ッ!!
「お前に言われたかねえよ!!これからまさに【力】でもって世界を滅ぼそうとする…
お前みたいな【邪神】にはな!!もはや神ですらねえ!!」
「 今更お前がこの人間の体をどうしようと 世界の崩壊は止まらない
なぜなら、私自身 ここにはいないのだから 」
「何をワケわかんねえことを…ッ!」
……
『あたしはあくまで神の化身でしかないの。確かに人間の身に投じてはいるけど、
だからといって本来の神が消えてしまったわけじゃない。本当の神はあたしとは別に
宇宙のどこかで存在してるわよ。で、その存在が地球規模の天変地異を引き起こしてるわけ。』
ハルヒが昔言っていた。
…こいつの言うとおりだ。神はここには…いない。
「ハルヒは…」
「 ?」
「ハルヒは…元のハルヒはどこに行った!!?」
そうだ…あいつは言っていたんだ…!
『世界が滅びるったって神はそれを傍観するだけ。でも、地上にいるあたしは知っている…
それによって多くの尊い命が奪われ…また、彼らの悲鳴も聞こえた。考えようによっては単なる殺戮ね。
そして、その張本人が自身であることを自覚した直後、これまで何度あたしは発狂しそうになったことか。
人間である以上、最低限の理性はもつもの。…当然の帰結よ。』
『もうね…あたしはこれ以上人々の痛みは見たくない。』
「あいつはな…見たくなんかねえんだよッ!!この世界の人間が死ぬ様なんてな…、
お前の…その体の本来の持ち主である涼宮ハルヒはなぁ!!!」
「だから何?」
「あいつ自身そんなことは微塵も思っちゃいねえ…だから、言うぜ。今すぐ…今すぐ
ハルヒの人格を呼び戻せ!!お前が今やろうとしてる暴挙に…あいつはきっと反対する!!」
「 ?呼び戻す必要性が感じられない 」
「そんなこともわかんねえのかよ!!?ハルヒは…元はと言えば涼宮ハルヒは
お前の分身のような存在だったはずだ…俺が言いてえのはなぁ!!!仮にも分身だと言える
そいつの声を… 一方的に封殺しちまってもいいのかって、俺は聞いてんだよッ!!!!」
「この人間のことなど知ったことではない」
躊躇うことなくこいつは言い放った。冷たかった。
『本来の神はとても考えが物質的で無機的で…そして冷酷。』
「そうかよ…じゃあ、この質問にだけは答えろよ…!!ハルヒをどこにやった!!?」
「別にどこにも ただ言えるのは 彼女がこの体に意識を宿すことは二度とないってこと 」
……
今…何と言った?
「てめぇ…!!今の…冗談じゃ済まさねえぞ!!?」
「第三世界崩壊直後、私に牙をむき 本来担うはずの神としての業務を悉く放棄してきたこの人間を、
私は許さない 存在意義を絶ったこの人間を、私は許さない この人間の本来の人格には 消えてもらう」
「……ッ!」
俺はある種の恐怖を覚えた こいつは…自分の取り巻きを単なる道具としか思っちゃいない
…時計を見る。
23時58分を過ぎている…
時間が…ない!!!
…ここまで真剣なのは俺の人生の中で…おそらく最初で最後だろう。思考回路が焼き切れるのではないか…
そのくらい俺は真剣だった。真剣に考えていた。どうすれば世界が助かるかを。どうすれば…!?
とりあえず落ち着く必要がある。さっきこいつが…ソツクナングが言っていたことを思い出せ…
『今更お前がこの人間の体をどうしようと、世界の崩壊は止まらない なぜなら私自身 ここにはいないのだから』
つまり、俺が今この場で側にある椅子を持ち上げ…ハルヒ(の姿をしたソツクナング)の頭めがけ、
殴りつけたとする。その場合、ハルヒは気絶、ないしは死に陥る。だが、そうしたところで…
この世界の崩壊は止まらない。
…まあ、万一にもそれはありえん話だがな…。いくら意識が神に乗っ取られてようと、
この体が涼宮ハルヒ本人のものであることは…疑いようのない事実…!!気絶ならまだいい!
誤って殺したりでもしたら…ッ!一体どうすんだ!!?そんなことをしたらハルヒは永久に帰ってこない…
そんなリスクを犯すはずがない…!!
どちらにせよ事態の好転は望めない。
じゃあどうすんだ!?
…てっとり早いのは、宇宙のどっかに存在する神に対し…直接干渉してやること。
……
一人間である俺が どうやって??
…時計を見る --------------------------------------23時59分
ダメだ。俺は…このまま何もせずに終わるのか!?もう世界は…どうにもならねえのか!?
みんな…ゴメン…
……
『…キョン君、僕は信じてますよ。必ず世界を救ってくれる…とね。』
『キョン君…!!どうか…無事帰ってきてくださいね!涼宮さんと一緒に!!』
『何があっても決してあきらめないで。あなたならきっとできる。』
!!
俺は…みんなと約束した。できるできないの問題じゃない!!やらなきゃいけない…!!
俺は…最後まで絶対あきらめない!!…落ち着け、落ち着いてもう一度冷静になって考えてみろ…ッ!
…そもそもである。
『今更お前がこの人間の体をどうしようと、世界の崩壊は止まらない なぜなら私自身 ここにはいないのだから』
この言葉がどことなくひっかかるのは …俺の気のせいか?
ハルヒの覚醒、即ちハルヒがハルヒでなくなったとき。それこそが世界崩壊へのカウントダウンだった。
裏を返せば、昨日ハルヒが倒れるまでの間、そのカウントダウンとやらは起きなかったということになる。
世界崩壊は誰の意志?誰の仕業?言うまでもなく、今目の前でハルヒを操っている神そのものだ。
つまり、神はハルヒの覚醒無しでは世界崩壊は成し得なかったはず。
…覚醒とは何だ?ハルヒはどうなった?
【前時代の記憶を取り戻す。】
これは俺のみにならず、長門や古泉たちとの共通認識でもあった。
だが…今のハルヒは違う。記憶が戻ったとか、そういう次元の問題ではない。
目の前のこのハルヒには【ハルヒ】としての意識がそもそも存在していない。自我が存在していない。
それもそのはず…神がそうするよう仕組んだからである。言わば、神の操り人形といったところか。
…俺たちの覚醒認識が間違っていたのか?だが、長門・古泉が主張していたあたり、安易にそうとも思えない。
1つ仮説を立ててみる。仮に、俺たちの認識は正しかったとする。
そうである場合、今のこの現状はどう説明すればいい?
…思いつく答えは1つ。それは、記憶が戻った直後、神の介入により意識を絶たれたというもの。
第四世界崩壊のためには涼宮ハルヒの意識を奪い、神の監視下、コントロール下に置く必要があった。
…要約すればこういうことだろうか。
しかし、なぜそんなことをする必要が?正常状態のハルヒを放置しておくことで、神に何か不都合でも…?
「後 数秒で地球は公転周期上、完全にフォトンベルトに突入する これで第四世界も終わり 」
…数秒だと!?すぐさま腕時計を確認し…!?もう10秒もない…!!
ッ!!!
くそッ!!後もう少しで…後もう少しで何かわかりそうだったってのに!!!
9
…ッ!!俺はあきらめない…!!あきらめたら…何より朝比奈さんの死はどうなる!?
俺に言葉を託して死んだ朝比奈さんはどうなる!?これじゃ単なる無駄死にじゃないか!!!
8
『たぶ…ん、この世界は…守られる…第五…世界ももう…すぐ消滅…みん…ないなくな…る』
7
朝比奈さんは…あのとき何を根拠にこんなことを言っていたんだ…!??
あのとき…彼女は何を思ってこれを口にした??
6
…俺は、あのとき覚悟を見せつけたじゃないか
5
【この朝比奈さんが…自分のいた世界を守るのに命懸けなのなら。俺だってそうだろう…!?
状況的には全く同じはずだろう!?俺は自分のいるこの世界を、この世界の人々を、家族を、友人を、
…ハルヒを!守りたい…!!!】
4
朝比奈さんが俺の覚悟を垣間見たのだとしたら…彼女は俺に一体何を期待した?
世界の人々?家族?友人?いや…違う
3
『キョン…君…、すずみ…やさ…んを…大…切に…ね』
彼女の最期の言葉が それを物語っていた
1
「 !」
保守する
>>582、ミスしました。ちょっと修正して再び投下します。
3
『キョン…君…、すずみ…やさ…んを…大…切に…ね』
2
彼女の最期の言葉が それを物語っていた
1
「 」
「」
「やめ ろ 何を し 計画 計画 が
あ 、あああ !? ああああああああああああああああ!!!!!!」
12月2日0時0分 第四世界滅亡 その筋書きが破綻してしまったせいか -----------神は発狂し始めた
……
俺は今 一体何をしたのだろうか
…反射だ
小学校、あるいは中学の理科の授業にて、こんな言葉を聞いた覚えはないだろうか?
特定の刺激に対して意識とは無関係に引き起こされる反応……生物学的反射の一般定義だ。
熱いヤカンに指が触れ、熱い!と感じた時には、すでに指は手元へと引っこんでいた。
わかりやすい反射の一例としては、例えばこういうものがある。
…厳密に言えば、今のは反射ではないのかもしれない。まあ、この際それはどうでもいい。
……
机にもたれかかり、必死に倒れまいとするハルヒ。だが、それも時間の問題のように見えた。
それもそのはず…麻酔を叩きこまれて平然としてられる人間など、いるはずがない。
俺は涼宮ハルヒめがけ 麻酔銃をぶっ放していた
「意識 意識がぁ っ!」
ついに立っていられなくなったのか。床に塞ぎ込み、頭を抱えるハルヒ。
…麻酔銃?なぜ俺は、この局面でこれを使用したのか?
……
…なるほど、
【正常状態のハルヒを放置しておくことで、神に何か不都合でも…?】
この問いに対する答えを、俺は知らぬ間に見つけてしまっていたらしい。…逆を考えてみればいい。
記憶を取り戻したということは、即ちその瞬間において、ハルヒが神と意識を共有することを意味する。
『だってあたしは神の分身だもの。つまり、神が考えてることが同時に今あたしが考えていること。』
本人の言葉通り、ハルヒはこれから神がしようとしていることを…瞬時に把握する。
神がこれからすることとは…言わずもがな、俺たちが生きるこの世界の破壊である。
…それを知ったハルヒはどうするだろうか?
『世界が滅びるったって神はそれを傍観するだけ。でも、地上にいるあたしは知っている…
それによって多くの尊い命が奪われ…また、彼らの悲鳴も聞こえた。考えようによっては単なる殺戮ね。
そして、その張本人が自身であることを自覚した直後、これまで何度あたしは発狂しそうになったことか。』
『もうね…あたしはこれ以上人々の痛みは見たくない。』
極めつけは…第一、第二、第三、第四と史実に準え、次々に世界が滅んでいく様を…
見せつけられた一昨日の夢の中で…!消えゆく夢の中で、かすかに聞こえてきた、ハルヒの言葉…!
『嫌…っ!嫌!!あたしは…こんなことしたくない…!!!!』
もはや自明であろう。ハルヒが…決してこの状況を望んではいない、ということは。
話は次の段階へと進む。
望む望まないは別とし、ハルヒの中に何かしらの強固な意志が生まれた場合…
結果として【何】が起きる?…これが最も重要である。神はそれを恐れてる。
だからこそ、神は涼宮ハルヒの自由意思を阻害すべく、彼女を自らの監視下に置く必要があった。
以前、俺はハルヒに『神をやめて一人の少女、普通の人間として生きたいと思ったことはないのか?』
と提案したことがある。しかし、ハルヒはすぐには首を縦には振らなかった。その理由というのが
『化身である以上、これからもずっと神の意志に束縛されて生きていくのは自明で…。』
という思い込みにあった。自身が好きなように生きることを放棄した、ある種の諦観とも言うべきか。
その後の俺の説得により、ハルヒは立ち直った。これまでのステレオタイプから抜け出した。
結果、ハルヒは転生という手段に打って出る。代行者としての自分を捨て、来たる第四世界で
1人の人間として----------、自身の意志で生きていくために。
『やっぱり物事ってのはやってみるに越したことはないと思ったわ…あたしの潜在能力って案外凄かったみたい。』
…試みは見事に成功した。画期的とも言える瞬間だった。
つまり
涼 宮 ハ ル ヒ の 力 の み が 神 に 干 渉 で き る 唯 一 の 手 段
俺が言いたかったのはこの一点である。
ならば、ハルヒが記憶を取り戻した状態で、万が一にも神に対する強い反駁精神を発動させでもしたら
一体どうなるか?察しの通り、神は自らの計画に支障をきたすことを…覚悟せねばならぬ事態へと発展する。
仮にハルヒのそれが潜在的なものであったとしても、第四世界の崩壊にあたって全くのイレギュラー因子が
無いとは…言い切れない。神からすれば…これほど不気味な存在もいないだろう…?
言うことを聞いてくれない自身の分身など、脅威以外の何物でもないからだ。
言うのは二度目だが、ただの凡人である俺のような一人間には
宇宙のどこかに在する神に対し、どうこうしてやることなど…できるはずもない。
だが…ハルヒには…!涼宮ハルヒにはそれができる!!
……
『キョン…君…、すずみ…やさ…んを…大…切に…ね』
朝比奈さん…ありがとう。貴方が最期に言い残してくれた言葉のおかげで…、
俺は救われました。あの言葉の意味が…ようやくわかりましたよ。
…そうとわかれば話は早い。俺がやるべきこと…それは
ハルヒが【ハルヒ】として自我を確立してられる環境を作ってやること…!!
その一言に尽きる。残念ながら、現在目の前にて立ち塞がるハルヒは…ハルヒであって【ハルヒ】ではない。
神の息がかかった彼女を、一体どうすれば正常な状態に戻してやれるのか!?最大の難問だった。
『今更お前がこの人間の体をどうしようと 世界の崩壊は止まらない 』
こいつの言っていることは一理ある。
例えば、俺がハルヒに対し…素手や足で殴る蹴るなどし軽傷を負わせたとする。しかしそうしたところで…
それはあくまで、言葉通り軽い傷でしかない。そんな程度の低いアクションを加えたところで
ハルヒが神の監視下から逃れるとは…とても思えない。依然、意識は神に管轄されたままだろう…。
かと言って、重傷を負わせれば良いという問題でもない。それこそ暴論である…。
頭を殴りつけたり等して、万一ハルヒに永久に意識が戻らなかったらどうするつもりだ…!?
仮に戻ったところで、そんな重体な体で…どこに神に対し、憤る余裕があるというのか!??
痛みが先行してそれどころではないのは…言うまでもないはずだ。
では、どうすればいいのか?神に憑依された表層意識を払拭するには…
どうすればいいのか??単に、何か強い衝撃でも与え意識を失わせればいいのか??
…もちろん、暴力手段をもって身体に重傷を負わせる手法は…論外である。
……
『麻酔銃…ですからね。人を殺すための道具ではないんですよ。そう言えば、わかりますよね?』
俺は賭けに出ることにした。 麻 酔 を も っ て 意 識 を 絶 つ
意識が揺らぐ一瞬の隙こそ、ハルヒが原状復帰できる最初にして最後の機会。俺はそう確信した。
…ああ、自分でもわかってるさ。これは賭けってレベルじゃねえ。
めちゃくちゃだ…大博打だ…それ以外に言いようがない。
……
あまりに不安要素が大きいのもわかってる。まず根本的な問題として麻酔ごときに、果たして神に隙が
生まれるのかどうか…?仮に生まれたとして、一瞬という僅かな時間でハルヒは意識を取り戻せるのか…??
麻酔自体の効力もいまいちわからない。軽傷と同じ部類の衝撃性ならほとんど意味を成さない。
かと言って重傷すぎても困る。深い即効性の昏睡だと、いずれにしろハルヒは戻ってこれない。
だが、今はこれしか頼れる方法がなかった。何かもっと、他に確実性のある方法はないのか!?
と、何度も何度も思案した。こんな危険な橋、誰が好き好んで渡るものか…ッ!!
しかし…考えに考え抜いた挙句、どうしてもこれ以外には思い浮かばなかった。
だから…敢えて俺は信じたい。これが現状における最良の手段だったと。
俺は涼宮ハルヒめがけ、引き金をひいたんだ。
…そして、先ほどの冒頭に戻る。
「ぁあ くっ っ!」
今にも意識を失いそうな少女がいた。
……
時刻は0時1分
窓から外を眺める。…さっきと何ら変わったところはない。
まだ油断はできない。だが、一つだけ言えることがある。それは
12月2日0時0分世界崩壊
回避した
593 :
涼宮ハルヒの天啓 後編4 ◆i1mmP3RsKA :2010/10/24(日) 02:25:02.05 ID:kpZC9gQtO
12月2日0時0分世界崩壊
確かに…回避した…!!少なくとも、この時間帯における世界崩壊は免れた…!!
これはつまり、神への干渉に成功したということ。もっと言えば、神に反駁すべく
ハルヒの自我が表層意識に現れ始めたという証拠。
…俺の博打も捨てたもんじゃなかったらしい。
……
古泉がくれたこの麻酔銃。結果として、俺は朝比奈さんは救えなかった。
だからこそ失敗は許されなかった。ハルヒだけは…なんとしても助けたかったから…!!
「…、キョン…ッ」
…!?
急にハルヒの声色が変わった。…まさか
「ハルヒ…ハルヒなのか!!?」
すぐさま俺はハルヒの元へと近寄る。
「ふふっ…まさか、あんたが銃…それも麻酔銃なんてものを使うなんてね…、驚いちゃった。」
「ハルヒ!!お前…大丈夫か!?」
「…、大丈夫なわけないでしょ…!誰のせいで今体が…痺れてると思ってんの…!?」
そうだったな…すまん、ハルヒ。
594 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/24(日) 02:25:09.79 ID:rppzB5kj0
しえん
595 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/24(日) 02:25:14.95 ID:+kVm3ucF0
いよいよクライマックスだな
596 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/24(日) 02:37:23.05 ID:FFyq7Ps+0
明日摸誌なので寝るわ
支援
597 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/24(日) 02:59:32.59 ID:+kVm3ucF0
おやすみ
「別に…落ち込まなくていいわよ。それしか…良い方法がなかっ…たんだろうし…。」
所々ハルヒの言葉が途切れているのがわかる。…これも麻酔のせいか。
「よく…戻ってこれたな…。」
「…え?」
「麻酔によるショックで神が動揺したのはほんの一瞬だったはず…その短時間で
よく意識を取り戻せたなと言ってるんだ…。俺が麻酔という手段に訴えたことに
お前が驚いてるように、俺も…お前の素早い復帰には心底驚いてるとこなんだぜ。」
「…別にそんなにおかしなことでもないわ。ただ、一瞬の隙さえあればあたしはよかった。
隙さえあれば、すぐにでも神と…取って代わるつもりだった…!」
「…??どういうことだ?お前…意識がなかったんじゃ…?」
「…それは違うわ。意識はあった。ただ…意識があっても、感情や仕草を表層に出すことが…
できなかった。これほど歯痒い思いもなかった…!言わば、神に抑えつけられた状態ね…
こればかりはあたしではどうすることも…できなかった。…操り人形のまま12月2日を迎えようとした時には…
正直もうダメだと思った…だから、必死に心の中で叫んでた…!
【キョン!!何ボサっとしてんの!?さっさとあたしを助けなさい!!】…ってね。」
「まさか、お前があのときそんなことを思ってたとはな…。俺は、その期待に応えることはできたか?」
「結果的にはね…さすがに、麻酔を使ってくるとは……思わなかったけど。」
「…まあ、そりゃそうだよな。」
「…でも、おかげであたしは助かった…あんたの予想外の行動に、神は酷く動揺した…その隙をついて
あたしは…神に、一気に反転攻勢をかけた…!それもあって神は…世界崩壊を、中断せざるをえなくなった…。」
……
今更ながら驚く。
俺があのとき…世界を救うことで、頭を試行錯誤したり躍起になっていた中で…こいつはこいつで、
世界を救うことで必死だったんだ…!!確かに、そうでもなければ…麻酔をかけた直後に世界崩壊を
止めさせることなど、普通に考えればできるはずもない…ハルヒのとっさの反応があってこその芸当か。
…ハルヒには感謝せねばならない。
「…それで、全て思い出したのか?」
「…ええ、おかげ様でね…。あたしが神の代行者として日々奔走していたってことも…、
そして、第三世界の終わりで…あんたと出会ってたってこともね…。」
「…そうか。」
「まさか、またこうしてあんたと出会うときが来るなんてね…
もっとも、あんたは第三世界でのことなんて…覚えてないでしょうけど…。」
「いや、しっかりと覚えてるぜハルヒ。」
「…どうして?転生した人間が前世の記憶を取り戻すなんてこと、あるわけ…」
「夢を見たんだよ…昨日な。船上でお前と…いろいろと話してた夢をな。お前は気付いてないのかもしれんが、
無意識の内に力を使って俺に過去の記憶を覗かせた…古泉や長門はそう分析してたぜ。俺もそう思ってる。」
「…変な話ね…だって、あんたってあたしと同じく転生してきたんだから…厳密に言えば異世界人的扱い…
になるのよね?なら…そんなキョンにあたしが干渉することなんて…本来ならできるはずが…。」
…!!
確かに…ハルヒの言うとおりじゃないか??…じゃぁ、あの夢は一体??
「…ふふっ、もしかしたら…あの世界のあんたが、それを知らせたのかもね…。」
「お…俺が!?そんなことが可能なのか??」
「…確かなとこはよくわかんないけどね…でもね、あたしはそう思うの。だって…そうでしょう?
あんたの記憶は…キョンにしかわからないもの。キョンしか知らないんだもの…。」
……
【お前】が…見せてくれたのか?世界の危機を察して…わざわざ俺に知らせに来てくれたってのか…?
…夢から覚めた後、俺の問いかけに対し、長門・古泉は『ハルヒに異変はない。』と言っていた。
あれは…本当だったってわけか?俺の代わりにハルヒを守ってやれって、そういうことだったのか?
【お前】も姿が見えないってだけで…俺たちと一緒に、必死に戦ってくれてたのか…?実際のところはわからない。
……
「…あたしね、ずっとキョンに会いたかった…だから…っ!もっと話したいけど
残念だけど、そうもいかないみたい…この世界を…なんとかしなくちゃ…ね。」
「俺も…また会えて嬉しい。過去の俺も、再会できてさぞかし喜んでると思う。
俺だって話したいのは山々…だが、まずはこの危機を乗り切らなくちゃな。」
そう、まだ終わっていない。
12月2日0時0分世界滅亡
確かにこれは回避した。だからといって、第四世界崩壊という筋書き自体が消えてしまったわけではない。
この回避はおそらく一時的なもの…12月2日0時0分という定刻が先延ばしされたにすぎない。
…当然だろう。地球崩壊を企む張本人が宇宙のどこかで、未だその遂行に励んでいるのだから。
極論を言えば、あと数分で再び世界が消滅の危機にさらされる可能性だってある。
「…ハルヒ。次に地球がフォトンベルトに入る時間帯は…いつかわかるか??」
「…後、20分もしないうちに突入よ…。」
「20分だと!?」
どうやら、俺がさっき言ったことは極論ではなかったらしい。
「畜生…!一体どうすれば」
「キョン…あたしちょっと…やばい…かも」
「…ハルヒ!?どうした!?」
「麻酔が…まわって…きたみたい」
「ッ!!」
麻酔銃を使った代償が…ここにきて現れ始めた。そうなることは覚悟していたが…っ!
「ハルヒ!!お前の…お前のその願望実現の能力で…!その麻酔を取り除けないか…!?」
「…残念だけど…、それはできない…。」
「どうしてだ!?」
「確かに…、麻酔を強く拒否すれば…能力は発動…するでしょうね…でも、今はそんな些細なことに力を
削ぎたくはないわ…キョンも…わかってるんでしょ…?神に対抗できる唯一の手段が…あたしだけって…ことに」
「…!」
「それでも…万全な状態でも、あたしは神の力には遠く及ばない…はず。ましてや…神を倒すともなれば…」
「!?神を…倒すのか!?」
「だって、そうでしょう!!?じゃなきゃぁ、さっきと同じ…。
一時的に防いだところで、世界が危機に見舞われていることには…変わりないわッ!!
なら、その根源である神そのものが消滅しない限り…世界は神の魔の手からは、永遠に逃れられない…!!
だから…少しでも、少しでも力を温存しとかなくちゃならない…!そうじゃなきゃ、世界は…!!」
……
俺から言うことは何もない…
ハルヒの覚悟は本物だ…!
「…それで頑張ったとしてだな…!後どれくらいもちそうなんだ!?」
「わからない……、もって5分…ってとこかしら…、」
5分
……
5分
胸に突き刺さる
このわずかな時間の中で…ハルヒは神を倒さなくちゃならない。
止めるならまだしも…神を倒す!?神の存在そのものを…消す!?そんなこと…
そんなことが本当にできるのか…!?そんなことが、本当に可能なのかっ!!?
「あたしは…神の消滅を強く願う…っ。強く願って…それを実現させる…!
それが…あたしの能力だったものね…。あたしが…あたしがやらなくちゃ…っ」
俺は…何をやってるんだ…?
確かに、状況は絶望的だろう。だが…それでも尚あきらめず、神に立ち向かおうとしてる
当の本人を前に俺は… 一体何をやってる…?何を勝手に…沈んでる…?
…最低だ。俺は。
……
『だけどね、あくまであたしの体は人間。だから力的には
本体である神を超えることなんて絶対に不可能なの…当たり前だけど。』
『……』
『転生はできそうなの。でも完全には…いかないみたい、残念だけどね。
今あたしがもってる人間らしからぬ能力も…おそらく一部は受け継がれることになると思う。
それどころか神の操作で、今以上により強大になっている恐れだってある。』
『……』
『だから』
『言わんとしていることはわかるさ、そこまで俺も鈍くない。それでもし
何か悪いことが起こったって…そんときはその世界の俺がきっとハルヒを助けに来るはずだ…
だからさ、お前は安心して転生に専念してりゃいいんだよ。』
『キョン…ありがとう。』
突然のフラッシュバック
……
そうだ…俺はあのとき、昔ハルヒに言ったじゃねえか…!?助けてやるって!!!!
あの世界の俺は…確かにそう言ったじゃねえか!!!?
「ハルヒ…!」
「…!?キョン…!?」
俺は…。座り込んでいるハルヒの手を…力強く握ってやった…!
「ハルヒ、お前は…決して一人で戦ってるわけじゃない…!」
「…?」
「ハルヒ…実はな、さっきの麻酔銃は…古泉がくれたもんだったんだよ。」
「…古泉君が。」
「それとな…俺が今こうやって生きてるのも…長門と朝比奈さんのおかげなんだ。」
「…有希…みくるちゃん…。」
「みんなの力があって…今ここに俺とハルヒがいる。どうか…、それを忘れないでくれ!!」
「…!!」
「みんなここにいる…古泉、長門、朝比奈さん…みんな頑張ってる!!当たり前だろう!?
SOS団は…いつも一緒だったじゃねえか!!それは…それは、団長だったお前が何より…
誰よりもそれを知っているはずだ!!!」
「キョン…っ」
「残念ながら一人間にすぎない俺には…こうやってお前の手を握っておくことくらいしか…できない。
…けどな、それで少しでもお前の気持ちが安らぐのなら…!
【SOS団みんながお前についてる。】、その証を少しでも感じ、不安が拭えてくれるのなら…!
俺も、お前の横で…必死に、必死に祈り続けてやる!!決してお前を一人にはさせねえ!!!!」
「キョン……ッ!!!」
……
「そうね…あたしには…みんながいる…!!古泉君、有希、みくるちゃん…そしてキョン…!」
……
「あたしね…正直言うと、半ばあきらめてたの…神なんかに勝てるわけない…ってね…
でも…、あたしはキョンから勇気をもらった…!それだけで…それだけであたしは頑張れる!!
だから…あたしが意識を失わないよう…!強く、強く…!手を、握りしめていてね…。キョン…っ。」
「…ああ、もちろんだ。」
一体どれだけの時間が経過しただろう。
「キョン…」
「…何だ?」
「神の声が…聞こえなくなっ…たよ…」
「…俺はな、お前にならできると思ってた。」
「一体…、どれくらい…、時間…経った…かな?」
「…ちょうど5分ってとこだな。」
いまだにその5分というのが信じられん 俺には無限もの時間が去ってくような、そういう感覚に囚われていたんだ
「あたし…頑張っ…た…よね?」
「ああ、お前は十分に頑張ったさ…、よくここまで耐えたと思う。」
「…神の…声が…聞こえない…」
「…やったな…ハルヒ…ッ!!」
「声が…聞こえ…ない…」
神の化身である涼宮ハルヒには神の声が聞こえる 神が何を考えているかがわかる
その声が----------------------------聞こえなくなった
……
つまり、神は消滅した
はっきり言おう。信じられない。わずか数分で…ハルヒは神を凌駕した。本当に凌駕してしまった。
予防線を張っておく
あくまで可能性でしかない。神が本当に消えたかどうかなんて、一体誰がどうやって確認できる??
……
それでも俺は…ハルヒに対し、素直におめでとうと言いたかった。
死力を尽くした本人に…俺は誠意をもって労いの言葉をかけてやりたい。
「ハルヒ!おめで…」
…?
「ハル…ヒ?」
…いつからだろうか?ハルヒの体が…光っていた。
「ははっ…力を…使い果たしちゃった…みたい。」
……
デジャヴだった。この光景を…俺はどこかで見た。…そう、第三世界終焉時の夜。
海岸でハルヒと出会ったとき。あのときも彼女は…確か光り輝いていたんだ。
「転生のときと同じ…最後の灯火ってやつ?能力が無くなっちゃうときって、いつもこうなるのよ。
あのときもあたしは神に抗い、力を使い果たしたんだっけ…今のこの状況と全く同じね。」
…ハルヒのしゃべり方に、俺はどことなく違和感を覚えた。
「ハルヒ…お前、麻酔は…?」
「……」
……
「状況は転生したときと全く同じ。つまり、これからあたしの記憶は永遠に失われる…
だから、せめて最期くらいはあんたと、万全の状態で接しておきたかった…。
そう強く思ってたら…いつのまにか麻酔はとれてた。…そういうとこかしら。」
今、何と言った?
「ちょっと待て…記憶が失われるって…?どういうことだ!?」
「慌てないで。ただ、三日前のあたしに戻る…それだけの話よ。」
……
「神に纏わる記憶が総じて消されるってことか…?」
「そういうことね。おそらく、明日にでもなれば…神だの第四世界だのそういうことを一切知らない、
ちょうど三日前の状態のあたしがいる…と思うわ。ただ、その明日が来ればの話だけど…。
本当に神が消えていれば…ね。」
「……」
ハルヒもハルヒで自覚していたらしい。神が消えたというのは…あくまで可能性でしかないということを。
……
「…いずれにしろ、もう【お前】とは会えないってことか…?」
「ええ…残念だけど。でも、あたしはそれでいいと思う…
普通の、一人の少女として生きるのであれば、こんな記憶…邪魔以外の何物でもないもの。」
このハルヒとは二度と会えない
…会えない
……
なんだ?この喉につっかかる妙な感覚は…?
……
俺は…こいつに 何か言わなくちゃいけないことがあるんじゃなかったか…?
------------------------------------------------------------------------------
あれ…どうして俺は泣いてるんだ?確証はないが…遠い未来再びハルヒと会えるかもしれないじゃないか。
ああ、わかってはいるさ。会えるのは【未来の俺】であって【今の俺】じゃない。問題は会えるかどうかじゃない。
【今の俺】が…ハルヒに『この思い』を伝えられなかったこと…それが悔やんでも悔やみきれない。
そうか、だから俺は泣いているのか。ようやく理解した。
……
「ハルヒ……ハル…ヒ………」
いくら叫んだってもう伝わりはしない。聞こえもしない。見ることも、触れることもできない。
……
遠い未来の俺よ… 一つ頼みごとを聞いてはくれねえか。
もしお前がハルヒと出会うようなときが来れば…
そんときは俺の代わりに『この思い』 ハルヒに伝えてはくれねえかな?
俺は第四世界の出発点とも言えるこの時代で精一杯生き抜いて…そして寿命を終える。
だから…遠い未来の俺よ、お前もお前でその時代を全うして生きろよな。
ハルヒと一緒に。
------------------------------------------------------------------------------
そうだったよな?あのときの俺…
「ハルヒ…。お前に、伝えなくちゃいけないことがある。」
「…キョン?」
「今から言うことはな、あの世界の俺がお前に…言いそびれたことだよ…。」
「…?」
「でもな、それと同時に…それは、今の俺が思ってることでもある。…じゃあ、言うぞ。」
「俺は…お前のことが ……、大好きだ。」
「!!」
「……」
「……、」
「……」
「……、、」
…ハルヒ?
……
おい、どうしたハル
……
泣い…てる…?
……
「…まさか、最後の最後で、あんたの口からそんなこと言葉…聞くなんてね…。」
「……」
「最期にその言葉を聞けたあたしは…とても、幸せな【人間】だと思った…!」
「ハルヒ…。」
「キョン…覚えてる?第三世界での別れ際に…あたしが言ったことを。あのときも、あたしは幸せだと言った…、
でも…違うの…っ!あのときの『幸せ』とは…違う…!!本当に…嬉しいの…っ!」
……
『【神の代行者】としての最期に、あなたのような人間に出会えてあたしは幸せだったわ…!』
……
「ははっ…あたし、何泣いてんだろう…?また、ハルヒはキョンに会えるっていうのにね…」
「……」
「キョン…今の言葉、ハルヒにも…ちゃんと言いなさいよ…?
あたしと…約束しなさい…!これは…団長命令……よ……、」
…そう言い残し、ハルヒは泣き崩れた。
「…団長命令に逆らう部員が 一体どこにいるってんだよ…?」
俺はハルヒを…強く、強く、抱きしめてやった。この華奢な体を…壊してしまうくらいに強く。
…不思議なことに、ハルヒは痛いとは言わなかった。…変な話だ。こんなにも強く抱きしめてるってのに…!
「キョン…あたしはあんたのことが…好きだった!大好きだった…!!」
「…そう言ってもらえて、あのときの俺も…さぞかし嬉しいだろうよ。」
「何…カッコつけてんのよ…?あんただって…嬉しいくせに…っ」
「…当たり前だろ。」
「……」
ずっとこうしていたい。俺とハルヒの間に…距離はなかった。
……
「…あたしね。」
ハルヒが口を開く。それは…独白ともいえる内容だった。
「…地球が誕生してから、やがて人類が生まれた…その人類を統括するための仲介者として
あたしは生まれた…。やがて、人々はあたしを神と見なし、敬うようになった…。神は平和を望んだ、
だからあたしも平和を望んだ…けれど、それも長くは続かなかった…人間たちは互いを謗り合い、傷付け、
憎み…やがて戦争が起こった。神は怒った…結果、世界は滅ぼされた。けれど、そのときはまだあたしは
何も感じなかった…感情がなかったのね。けれど、しだいに人間や動物との交流が進んでいくうちに…
そういう神の行いを、あたしは暴挙だと捉えるようになった。でも…それでもあたしは自分からは
動こうとはしなかった…神の仰せのままに従うのが、あたしの宿命だったから…、天命だったから…、
運命だったから…、そう強く あたしは信じていた…」
……
616 :
涼宮ハルヒの天啓 後編4 ◆i1mmP3RsKA :2010/10/24(日) 04:36:48.31 ID:kpZC9gQtO
「あんたがいなかったら…あたしって、一体どうなってたのかしら?
いまだに神の代行とやらに追われ…日々奔走してたりしてね。」
「…そりゃなんとも、難儀な話だな。」
「あたしね、あんたと会えて本当によかったと思ってる。
だって、あんたがいなきゃ…今のあたしはいなかったんだもんね…。」
……
「…時間…ね、」
「ついに…きたのか…。」
「ええ…あと1分もしないうちに、あたしの記憶は消されるわ。
神としての記憶も、滅んだ世界の記憶も、そして…昨日今日あった出来事も含めて全部…ね。」
「そうか…寂しくなるな。」
「何バカなこと言ってんのよ。ちゃんとハルヒは健在よ!」
「そんくらいわかってるぜ。」
「なら、紛らわしいこと言わないの。」
「……」
「な、何よ?」
「ハルヒ…」
……
「今まで…ホント大変な人生だったろう…?よく、ここまで頑張ったな…。」
「……」
「でも、それも今日で終わりだ。次の朝からはお前は…今度こそ、本当の意味で
普通の人間としての生活を送れるようになる。その人生を…これまで苦労した分、どうか楽しんで生きてくれよ。」
「…もちろん、それはあんたがするのよね?」
「…?俺が…お前を楽しませるってことか…?」
「そゆこと。」
「まったく…お前には敵わんな。」
「当然よ!あたしを誰だと思ってんの!?」
「…団長様だろ。で、俺は雑用係りの平団員というわけだ。」
「わかってるのなら、それでいいわ!」
「どうか、ハルヒをよろしくね…っ」
直感で察した。たぶんこれが…このハルヒの最期の言葉なんだろうと。
…ハルヒは目を閉じたまま、顔をこちらに向けている。
彼女が何を言わんとしてるのか…俺にはすぐわかった。
「ハルヒ…また会おうな。」
そう言って俺はハルヒと…静かに口づけを交わした。
……
その瞬間だったろうか。辺りの光景が目まぐるしく変わりだした。
以前、ハルヒと二人 閉鎖空間に閉じ込められた時も…こんな感じだっただろうか。
……
閉鎖空間から出た後、俺たちはどうなってるだろう。
世界は?天災は?神は?
……
いつもと変わらない日常風景が広がる世界
凄惨かつ荒廃した光景が広がる世界
…俺たちが元の世界に戻った直後に目にする景色は、果たしてどちらか
前者であることを信じたい
…俺は 意識を失った
620 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/24(日) 05:11:41.95 ID:JfaRUMfZ0
駄目だ、すまん、寝る
これで後編4…というか後編は完結で、残るはエピローグと番外編です。現時点で492KBなので
このスレももうすぐ終わりですね。これまで見てくださって本当にありがとうございました。
今日の夜7時くらいに新スレを立てるつもりですが…ダメなら誰か立ててくれると非常に助かります。では、お疲れ様でした。
乙。
エピローグも楽しみにしてる。
乙乙
624 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/24(日) 05:46:30.47 ID:2QtTZmxS0
乙乙
625 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/24(日) 06:21:27.17 ID:Pznbt3/GO
乙
626 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/24(日) 06:43:55.93 ID:JfaRUMfZ0
すさまじい力作だ
おつかれさま
627 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/24(日) 07:45:27.31 ID:kZtvfAGn0
保守
帰宅間に合ったら立てよう
629 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/24(日) 09:57:45.46 ID:rppzB5kj0
ほ
630 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/24(日) 10:43:35.25 ID:Pznbt3/GO
あ
631 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/24(日) 11:30:58.06 ID:figaBYFyP
ち
632 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/24(日) 11:37:05.51 ID:Mk+Z3LsV0
ゃ
633 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/24(日) 12:51:24.14 ID:vYn+pHusP
乙 ハルヒのカレー作るところとか、古泉の薬物の知識とか 世界の歴史とか
現代の人間の争いとか 未来の武器とか 宇宙の話とか具体的で凄かった
最後のハルキョンもよかった
634 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/24(日) 13:29:14.78 ID:kpZC9gQtO
>>628 ご好意ありがとうございます。
>>626>>633 そう言ってもらえるとは大変恐縮です…とても嬉しいです。乙と労ってくれた人にも感謝。
こんなSSでも読んでくださる方がいるので、一応保守しておきます。
そういえば今日模試の方がいましたね。頑張ってください。
乙
面白いよがんがれ
ほっしゅ
637 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/24(日) 15:40:32.52 ID:Pznbt3/GO
ま
638 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/24(日) 16:22:33.94 ID:JfaRUMfZ0
間に合わなかったら俺が建てよう
639 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/24(日) 17:04:10.72 ID:CZxmGb/30
ていうかもう容量落ちだし今のうちに次スレ建ててここでリンク貼った方がいいかしら
640 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/24(日) 17:06:10.70 ID:kpZC9gQtO
今できますか!?それなら、そうしてくれると助かることこの上ないです。
641 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/24(日) 17:19:09.48 ID:CZxmGb/30
プリンで容量落ちとか何年ぶりだ