梓「大嫌い、大好き」

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1以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
大嫌い=大好き
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2以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/09(土) 19:47:11.38 ID:9JMJN2P3P
唇見つめないで
3以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/09(土) 19:52:41.30 ID:/sZyiUcx0
「じゃあね、純、憂!」
「バイバイ、今日こそちゃんと澪先輩に伝えるんだよ、梓!」
「頑張ってね、梓ちゃん!」

私はわかってるよ、って笑いながら親友二人に手を振りギターと鞄を持って教室を
出た。そう、今日こそ私は澪先輩に一世一代の告白を――

「えっと、なんだっけ……」

部室に行く道すがら純に教えられたとおりの言葉を頭の中で並べる。
澪先輩、ずっとファンでした、これでいいんだよね。何も変なとこないよね?
憂が提案した「澪先輩、ずっと大好きでした」はなんかおかしいし。
鞄の中に手を突っ込んで、手編みのマフラーがあるかどうかも確かめた。
準備は万端。

よし。
私は部室のドアの前で大きく深呼吸。
まずは澪先輩を「ちょっと来てくれませんか」って誘って部室から連れ出して――
うん、完璧!
私はドアに手を掛けると、勢い良く開けた。

4以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/09(土) 19:58:33.40 ID:/sZyiUcx0
「こんにちは!」

勢いが良すぎて私は前につんのめってしまった。半ば転びそうになりながら部室に
入ると、「おーっす」と間延びした声が聞こえた。顔を上げて私は思わず「げ」と呟いた。
部室には律先輩しかいなかった。

私が露骨に嫌な顔をしていたのか、律先輩は「何だよ、私だけで悪いか?」と不機嫌そうに
シャーペンをくるくる回しながら言った。
私はとりあえずいえ、と首を振る。別に悪くは無い。悪くは無いが何で律先輩しかいないんだろう。
せめて唯先輩かムギ先輩がいてくれたらよかったのに。
正直、私は律先輩は嫌いじゃないけど苦手だった。だから澪先輩が何で律先輩と仲が良いのか
全くわからないし、何でこの人が部長で、軽音部がちゃんと動いてるのか不思議で仕方無い。

私は鞄を律先輩の鞄から少し離れたところに置きながら、「今日は他の皆さんは?」と
訊ねた。

「澪とムギは掃除当番、唯はさわちゃんに呼び出し」
「律先輩は呼び出されなかったんですか?」
「私だっていつも呼び出されるわけじゃないのー!」
5以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/09(土) 20:01:44.58 ID:zFGowW5h0
大嫌い=大好き
6以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/09(土) 20:04:04.83 ID:vvMxnWma0
しえん
7以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/09(土) 20:05:47.79 ID:/sZyiUcx0
ぶーっと子供っぽく膨れる律先輩。私は「すいません」と笑いながら謝る。
それから定位置に座ると、ギターの調整をしようとギターケースから必要な材料を
取り出し始めた。律先輩は勉強しているらしいのであまり邪魔にならないようにしないと
と思って。

ギターを黙々と弄っていると、いつのまにか律先輩が私のすぐ傍まで来て私の手元を
覗き込んでいた。

「うわ、律先輩!?何なんですか!?」
「いや、唯ってあんまりギターの調整とかしてないだろ?物珍しくってさ」
「はあ……」
「それに、梓のやってるとこ見てたら何となくでも唯のギター調整手伝えるかも知んないし。
梓に手伝いは必要ないだろうけどさ」

私は驚いてギターを弄っていた手を止めた。
律先輩って、ちゃんとそういうことを考えてたんだ。
私の視線に気付き、「何だよ?」って顔をする律先輩。それからすぐにプロレスの技を
かけてきた。

「いひゃいいひゃい!」
「そんな不審そうな目で見るなっつーの!」

別に不審そうには見てませんけど。あぁ、折角ちょっとだけ見直したのに。
やっぱり私は、この人が苦手だと思ってしまった。
8以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/09(土) 20:08:24.80 ID:HBmSv7oE0
律梓は好きなのに律梓書く奴はいつも唯か澪を噛ませにするから嫌だ
9以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/09(土) 20:12:49.82 ID:KqKUIx1oO
ここまででは噛ませってレベルでもなくね?
続ききになる4
10以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/09(土) 20:13:16.77 ID:/sZyiUcx0
元々スキンシップというものが苦手だった。軽音部に入ってから、唯先輩がしょっちゅう
抱きついてくるのにはもう慣れてしまったけど、未だに律先輩のスキンシップには慣れない。
いや、あれがスキンシップになるのかどうか。

最初、私は唯先輩だって苦手だった。けど一年生のときの合宿で見た唯先輩の意外な一面と
ほんわかとした空気が私に安心感を与えてくれた。それ以来、唯先輩に抱きつかれるのは嫌じゃ
なくなった。
けど律先輩は。
普段だってまったく練習してないし、いつも無茶苦茶で無鉄砲。全然部長らしくも
先輩らしくもない、ただ元気が取り柄みたいな人。小さい頃から私はどちらかといえば
物静かな、大人っぽい人が好きだった。だから律先輩みたいな人とは極力話さなかったし、
そういう人とどうやって話せばいいのかわからなかった。
律先輩に触れられるのが嫌なわけでもないけど、私は正直「怖い」と思ってしまう。
だからなのかも知れない、律先輩が苦手だと思ってしまうのは。

11以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/09(土) 20:19:32.76 ID:/sZyiUcx0
自分の席に戻ってまた勉強に励みだす律先輩を見ながら考える。
ただ一つ、苦手じゃないとすれば律先輩のドラム。走り気味の律先輩のドラムが
澪先輩のベースの音と絡み合う瞬間が私は大好きだった。そこに自分のギターの音を
乗せていくのが気持ちよくて、音楽っていいな、っていつも思ってしまう。

「おいーっす」

頬杖をつきながらそんなことをぼんやりと思っていると、唯先輩が入ってきた。

「おいーっす。どうだったー?」
「んー、やっぱり今はまだN女子大難しいって。どうしようりっちゃーん!」
「どうしようもこうしようもなあ……澪とか和に教えてもらうとか」
「うん、そうだよね!あ、あずにゃん来てたんだねー!」
「どもです」

私がぺこりと頭を下げると唯先輩が走り寄ってきて私に抱き着いて来た。
私は唯先輩の温もりを感じながらほっとした。律先輩と二人だけのとき、私はどうしても
肩に力を入れてしまう。
12以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/09(土) 20:31:46.77 ID:/sZyiUcx0
その後すぐ、澪先輩とムギ先輩がやってきて部室はすっかり賑やかになった。
私はこれなら音を出しても別に大丈夫だな、とギターの練習をし始める。

何となく、今日は澪先輩にマフラーを渡す気にはならなかった。明日、純と憂にまた
謝らなきゃな。もういっそ、マフラーを渡すのはバレンタインの日でいいや、って思った。
さっき色々と考えてたからだろうか、私の気分は最悪だった。

――――― ――

下校時刻のチャイムが鳴って、私たちは帰り支度を始めた。
唯先輩と律先輩(とたまにムギ先輩)のじゃれあう声を聞きながら、ギターケースに
ギターを仕舞う。
後ろですごい音が聞こえた。多分律先輩が澪先輩を怒らせてまた拳骨を落とされたんだろう。


13以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/09(土) 20:32:50.04 ID:/sZyiUcx0
「梓ちゃん、どうしたの?」

私がよいしょ、と立ち上がるとムギ先輩が心配そうに私を見ていた。
ティータイムの用意を片付けている途中らしく、手には数個のティーカップ。

「えっと……」
「今日、あんまり元気なかった気がしたから」
「そうですか?」
「うん。何もないんならいいんだけど」
「大丈夫です、すいません」

凄いな、ムギ先輩は。何かあったわけではないけど確かに気分は悪かったから。
人を良く見てるんだ。ムギ先輩は「そう?」と首を傾げると良かった、と笑って
中断していた片づけを再開し始めた。
私はムギ先輩の背中を見ながらムギ先輩が部長でも良かったんじゃないかな、って思ってしまった。





14以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/09(土) 20:33:37.22 ID:0tAzzplfO
支援
15以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/09(土) 20:45:55.03 ID:/sZyiUcx0
皆で部室を出て下駄箱に向かって歩いていく。私は先輩たちのすぐ後ろを歩きながら
もうすぐテスト二週間前だな、勉強しなきゃとか、今日ドラマ最終回だっけとかどうでも
いいようなことを考えていた。最近の先輩たちの話題は専ら進路のことばかりで、私には入る
余地ないから。

「あ、そうだ律」
「何?」
「音楽室の鍵、閉めてきた?」
「あ、忘れてた」
「お前なあ……!」
「けどもうほとんど梓が部長みたいなもんだろ?梓が鍵閉めとかするのが普通じゃん?」

「な、梓?」と突然話を振られ、私は「はい」と思わず頷いてしまった。
結局私は音楽室に無理矢理戻らされ、「部長の仕事」である部室の鍵閉めをさせられた。

音楽室の鍵穴に鍵を差込みながら私は「最悪」と呟いた。

16以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/09(土) 20:50:53.34 ID:/sZyiUcx0
職員室に鍵を返しに行くと、澪先輩が職員室の前で私を待っていてくれた。

「ごめんなー、梓。名ばかりって言っても一応まだ律が部長なのに……」
「いえ」
「後でちゃんと律にも言っておくから」

やっぱり澪先輩は優しい。私に気遣って、待っててくれただけでも嬉しいのに
頭を優しく撫でてくれる。当の律先輩といえば先に行っているという。
ほんと、何であんな人なんかが軽音部の部長に務まるんだろう。
澪先輩が隣に居ることで和らいでいた苛々がまた蒸し返してくるのを感じた。
それで渡せたはずの澪先輩へのマフラーのこともすっかり忘れてしまった。

17以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/09(土) 21:10:02.28 ID:/sZyiUcx0
下駄箱で靴を履き替えていると、数人の生徒が澪先輩を取り囲んでいるのが見えた。
多分ファンクラブの子だ。きっとバレンタインを避けて何か贈り物でもしてるんだろう。
それで私は鞄の中に入っているマフラーのことを思い出した。

「忘れてた……」

呟きながら紙袋に入れたマフラーを取り出した。盛大に溜息を吐いていると、
「お疲れ、梓」と今一番聞きたくなかった声が聞こえてきて私は思わずびくりと肩を震わせた。
私は後ろ手に紙袋を隠しながら「どうもです」と言った。律先輩がいた。
タイミング悪っ!
律先輩には絶対知られたくないのに。

「なあ、今隠したの何?」

けど律先輩はそんな私にお構いなく、無邪気に私の後ろを覗き込もうとしてくる。
それを必死に避けていると、少し向こうから「ありがとう」という澪先輩の照れ臭そうな声が聞こえた。
ついそちらのほうに反応してしまった私を、律先輩は見逃してくれなかった。
こういうときだけ、律先輩の勘は鋭い。

「ははーん、澪へのプレゼントだな」
18以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/09(土) 21:14:09.46 ID:KqKUIx1oO
徹底的に落とすなー
しえん
19以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/09(土) 21:15:05.81 ID:bd/GdrXm0
まさか律梓じゃないだろうな…
20以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/09(土) 21:15:29.17 ID:/sZyiUcx0
図星で何も言えずただ赤くなった私を見てにやっと笑う律先輩。
どうしよう、ばれてしまった。律先輩にばれたら何言われるか……。

「梓の弱み握ったりー!」
「り、律先輩、このことは誰にも言わないで下さいよ!」

嬉しそうにそう言った律先輩に、私は慌てて詰め寄った。私の勢いに驚いたのか
「わかったわかった」って苦笑した。それから律先輩は突然悪戯を思いついたような表情になった。

「けど、その代わりに私の言うこと、聞いてもらっちゃおうかなー」
「は?」
「言ってほしくなかったらなんでも私の言うことを聞くこと。もし嫌だって拒否したら
梓の秘密をばらしちゃうぞー」

律先輩が楽しそうに言った。私は紙袋をぎゅっと胸に抱き抱えながら「わかりました」と
小さな声で答えた。

だからこの人に見付かるのだけは嫌だったんだ。
最悪。
私は心の中でもう一度、呟いた。
21以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/09(土) 21:16:36.41 ID:6ysq6EOeP
モーニング娘懐かしい
22以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/09(土) 21:18:50.42 ID:iFe1OlrBO
ゴキにゃんマジで調子のんよ
ボコボコにすんぞ
23以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/09(土) 21:19:49.56 ID:/sZyiUcx0
――――― ――

次の日、学校へ行くと純と憂が駆け寄ってきた。私はまた駄目だった、とだけ答えて
机に突っ伏した。マフラーのことで、昨日のことを思い出してしまった。せっかく一夜明けて
忘れてたっていうのに。再び嫌な気分が私の胸の辺りをむずむずと覆い始める。

「梓、そこまで落ち込むことはないって」
「そうだよ、まだ次あるし」

何も知らない親友二人はそう言って私を慰めてくれるけど、私は違うって言う元気も
なくてただ首を振った。

24以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/09(土) 21:27:17.94 ID:/sZyiUcx0
授業が終わり、放課後部室へ行くと律先輩の姿はまだなかった。私はほっとして
唯先輩とムギ先輩のいる部室の中に入っていった。

「やっほー、あずにゃん!」
「今日は何のお茶がいい?梓ちゃん」
「ミルクティーでお願いします」

そう言いながら鞄とギターを下ろす。ソファーには全員分の鞄が置いてあった。
律先輩と澪先輩は一旦部室に来てたんだ。

「あ、りっちゃんは先生に呼び出し、澪ちゃんは生徒会室に用があるって」

私が訊ねる前に唯先輩がそう言って、私は「はあ」と頷いた。
そっか、じゃあすぐには戻ってこないのかも。途端、元気になる。

「唯先輩、ムギ先輩、ギターの練習していいですか?」

一応勉強してる唯先輩とお茶を淹れてるムギ先輩に断り、ギターを手に取る。
25以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/09(土) 21:31:51.71 ID:/sZyiUcx0
ギターの練習をしている途中、澪先輩が戻ってきた。
けど結局、その日律先輩は部室に戻ってこなかった。

下校時間のチャイムが鳴って、ギターを片付け始めると澪先輩が律先輩の分の鞄を持って
「ちょっと律のとこ行って来るよ、多分職員室か生徒指導室だろうし」と部室を出て行った。

こんなに長い時間、ずっとお説教?一体律先輩、何をやらかしたんだろう。そんなに進路がやばいんだろうか?
澪先輩は部室を出る間際、「梓、今日も鍵閉め頼んでいいか?」と言った。私は「はい」と頷いた。



26以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/09(土) 21:51:09.91 ID:/sZyiUcx0
私が荷物を持って立ち上がると、ムギ先輩が「あ、ちょっと待って!」と慌てたように言った。
唯先輩が「私も私も!」と鞄に慌てて荷物を詰める。
私はムギ先輩がティーカップを片付けるのを手伝おうとムギ先輩に走り寄った。
けどムギ先輩は「大丈夫」と言って手伝わせてくれなかった。

「けど、いつもしてもらってますし……」
「良いの、だって、もうすぐ私、こんなこと出来なくなっちゃうし」
「え?」

私はムギ先輩の言葉の意味が理解できなくて、伸ばしかけた手を止めた。
それが「卒業」を意味することを悟るのにだいぶ時間が掛かった。

「あ……」

私が固まっている間にムギ先輩と唯先輩はさっさと終わらせてしまっていて、
「あずにゃん、行くよ」と唯先輩に手を引っ張られるまで私はそのことにすら気付かなかった。
27以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/09(土) 22:11:37.53 ID:/sZyiUcx0
調子悪いから今日は終わるorz
保守宜しく。
28以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/09(土) 22:22:42.75 ID:vvMxnWma0
29以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/09(土) 22:56:53.83 ID:0tAzzplfO
30以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/09(土) 22:57:45.37 ID:f6Ldn2TB0
保守宜しくって
31以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/09(土) 23:00:36.45 ID:W4XfqvreO
自分から保守よろしくとか言っちゃうSS書き手って…
32以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/09(土) 23:04:23.47 ID:DDwdSgw1O
>>31
ちゃんと保守するお前に惚れた
33以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/09(土) 23:21:43.43 ID:vvMxnWma0
ほしゅ
34以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/09(土) 23:45:00.92 ID:vvMxnWma0
保守
35金蝿:2010/10/09(土) 23:55:01.59 ID:XE4WC2V40
36以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします