発信箱:目指そう、霜降り牛=福本容子(論説室)
ttp://mainichi.jp/select/opinion/hasshinbako/ 20年以上も前になるけれど、物理学者の豊田利幸さんに話を聞く機会があった。
核廃絶を目指す科学者の国際的な運動を引っ張ってきた人だ。昨年89歳で亡くなった。
まだソ連があって、冷戦も終わってなくて、核兵器を積んだミサイルを宇宙空間で撃ち落としてしまおう、なんて計画があったころ。
戦争のない世の中にするうえで、科学者の役目は大きいですよね、みたいなことを私が言うと、意外なことばが返ってきた。
「役目が期待されるのは企業です」
企業が国境の先にどんどん出て行き、世界のあちこちで根を複雑に張り巡らせると、国家が戦争を始めようにも、
経済的損失として自国に跳ね返ってくるから始められない。そんな話だった。
急に思い出したのは、民主党の枝野幸男幹事長代理の発言を新聞で読んだから。
「法治主義の通らない中国と経済的パートナーシップを組む企業は、よほどのお人よし」って。
お金もうけのためではあるけれど、リスクをとって新しい市場を開拓しようと外に向かっていく企業。
その活動の積み重なりが、地域の安定に役立ちそうだというのに、「お人よし」は気の毒だ。
中国を「あしき隣人」と呼んだ枝野さんに「よく言った」の声もある。でも国は、お隣が嫌いだからといって引っ越せない。
衝突が起きないようにする知恵が要る。
目指す関係のイメージはズバリ霜降り牛。普通のステーキ肉と違い霜降りは赤身と脂身を切り分けるのが難儀だ。
しかも脂肪あっての味とお値段である。日本企業の役目ってそんな感じでは?
脂身が赤身とうまく混じり合えるように、障害を取り除くのが政治のはず。
中国と商売する企業に「自己責任でやって」と冷たくしてるようでは、おいしい肉も地域の安心も望めないよ。