1 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:
2 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/29(水) 20:15:24.67 ID:1H4Rj46SP
パートスレ立てんな死ね
3 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/29(水) 20:15:28.05 ID:3XNYUSMH0
※
アパートもどってきたとき、
いつもとちがう光景があった。
夜の十時過ぎだ。
なのに小型トラックがアパートのまえの路上にとまっている。
このあたりでは引っ越し以外にこんなトラックを見ることはない。
だが引っ越しにしては専門業者のようではないし、
そもそも時間帯がふつうでない。
4 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/29(水) 20:17:39.66 ID:3XNYUSMH0
忘れていた緊張が、
流石のなかでかすかに身を起こした。
なにかの偽装も考えられる。
あの事件から、
二年半がたった。
( ´_ゝ`)(もう遠い記憶にはなったが、
杉浦会はいったん計った仕事はつねに徹底していた。
内部にいたあの頃、いつも感心したのがその点だった。
だが、二年半の歳月。
それだけ経てば、執着もいくらかは薄れているだろう。
しかし、どんな業界にも崩せない規範というものはある。
彼らはまだ俺を諦めきってはいないはずだ。
それにいま、
俺を探す役目は長岡ではなくなっているかも知れない)
考えながら、
注意深くトラックに近づいた。
5 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/29(水) 20:18:54.72 ID:3XNYUSMH0
荷台には、
数少ない段ボールがつまれていた。
剥きだしの電気製品も二、三ある。
しかし人はいない。
運転席にまわってみた。
窓をのぞきこむと、
小さな女の子が助手席でうつらうつらしていた。
*( - -)*
小学校にあがるかあがらないかの齢ごろだった。
これならいくらなんでもあの稼業の連中とは考えられない。
6 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/29(水) 20:19:45.33 ID:3XNYUSMH0
肩の力が抜けたとき、
階段をおりる人の声が近づいてきた。
「あと、もう少しですね」
男の声がいった。
「ごやっかいかけて、申し訳ありません」
女の声が答えた。
「でも残りは、
私ひとりでやれますので」
「だけど冷蔵庫が残ってますよ」
7 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/29(水) 20:20:59.00 ID:3XNYUSMH0
流石はトラックの後部にまわり、
街頭がおとす明かりの下に顔をだした。
( ´_ゝ`)
Σ川;゚д川
Σ(;-@∀@)
二人の影がぎょっとしたように彼をみた。
軽く会釈して、
彼らとすれちがい階段をのぼっていった。
背中に視線を感じた。
それは流石がドアの並ぶ二階の廊下を歩き、
部屋のドアに鍵をさしこむときまで続いているように思えた。
8 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/29(水) 20:22:10.34 ID:aCFiFEkz0
待ってたぞ!
でもパートスレは叩かれるから、数字は入れないほうがいい。
9 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/29(水) 20:22:24.76 ID:3XNYUSMH0
流石は部屋に入るまえ、
ちらと廊下の向こうに目をやった。
ひとつ隣り、
突き当たりのドアが開きっぱなしで、
なかの明かりがもれている。
六畳ひと間にキッチン。
築三十年は超えるこの木造アパートの隣室はずっと空き部屋だった。
( ´_ゝ`)(やはり引っ越しだ。
心配することはないだろう)
10 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/29(水) 20:23:15.20 ID:3XNYUSMH0
冷蔵庫の扉を開いてから気づいた。
缶ビールを買うのを忘れていた。
あのトラックのせいだ。
アパートを通りすぎ、
コンビニまで足を運ぶつもりだったが、
頭からすっかり消えていたのである。
あきらめてカレーのレトルトパックをとりだしたが、
今度は電子レンジ用のご飯まで切れていることに気づいた。
11 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/29(水) 20:23:24.29 ID:5UD+JJjyO
なんでスレタイに2っていれたの?ばかなの?
12 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/29(水) 20:23:59.17 ID:3XNYUSMH0
もう一度、
サンダルをはいてドアを開いた。
ドアがなにかにぶつかり音をたてた。
表にでると、
さっきの男が廊下に倒れていた。
段ボールがひとつ、
そばに転がっている。
小振りな箱を抱えた女が、
Σ川;゚д川「朝田さん」
と小さく叫んだ。
13 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/29(水) 20:25:33.43 ID:3XNYUSMH0
( ´_ゝ`)「失礼」
流石は、
かがんで段ボールを拾いあげようとした。
すると男はあわてて立ちあがった。
流石よりいくらか上の年齢にみえる。
(;-@∀@)「あ、気にしないでください。
それ、僕がやりますから」
女が段ボール箱を抱えたまま、
彼の横で深々と頭をさげた。
川゚д川「お隣りに引っ越してまいりました。
よろしくお願いいたします」
( ´_ゝ`)「どうも」
14 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/29(水) 20:25:33.46 ID:aCFiFEkz0
投下早いな
猿避け支援
15 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/29(水) 20:26:36.90 ID:3XNYUSMH0
無愛想な返事をかえしたが、
名を名乗らないのがいぶかしかった。
だが、その事情は流石もおなじだ。
表札どころか、
ドア脇の郵便受けにも名前をだしていない。
彼は顔をあげた女を見た。
二十代後半から三十代。
だが幅広いそのどのあたりにいるのか、
まるで見当がつかない。
( ´_ゝ`)(こういうタイプはいままでに見たことがないな)
そう思った。
流石はまた会釈して、
階段に向かった。
16 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/29(水) 20:27:35.46 ID:3XNYUSMH0
コンビニのビニール袋をぶらさげてアパートにもどってきたとき、
さっき朝田と呼ばれた男の悪戦苦闘している姿が目に入った。
階段の下にいて、
冷蔵庫を運びあげようとしている。
横で女が支えているが、
危なっかしかった。
トラックのまえにやってくると、
助手席の女の子と目があった。
*(‘‘)*
( ´_ゝ`)
いま目覚めたばかりらしい彼女は丸い目を黒々と見ひらいて、
窓の外の流石をじっと見つめている。
( ´_ゝ`)(幼いながらこの子にも、
もう母親らしいあの女とおなじ雰囲気がある)
17 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/29(水) 20:28:10.74 ID:3XNYUSMH0
顔をそむけてすぎたが、
階段の下にいるふたりのそばで自然に声がでた。
自分でも意外だった。
( ´_ゝ`)「手伝いましょうか」
(;-@∀@)「いえ、われわれだけでなんとか」
( ´_ゝ`)「われわれったって、男手はひとつだ。
まず無理だな」
答えを待たず、
流石は冷蔵庫の片端を持ちあげた。
男はやせ我慢から解放されたように、
ほっとした表情を浮かべた。
18 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/29(水) 20:29:01.67 ID:3XNYUSMH0
冷蔵庫を運びこんだ部屋は流石のものとまったくおなじだ。
ただ六畳ひと間には、
段ボールが十個以上つまれている。
このアパートには多すぎる荷物だった。
流しの横に冷蔵庫がおさまると、
男がふうっと額の汗をぬぐった。
それから流石に向け、
愛想のいい笑顔をみせた。
職業的なにおいがしないでもない笑みだった。
仕事は事務職にちがいない。
( -@∀@)「やあ、助かりました。
引っ越しで、
こういう重いものって降ろすときとは勝手がちがうもんですね」
川゚д川「ほんとうにありがとうございました」
横で女が頭をさげた。
( ´_ゝ`)「じゃ、俺はこれで」
2ってなんだよ
しえん
20 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/29(水) 20:29:55.90 ID:3XNYUSMH0
流石の身体がドアに向いたとき、
戸口に小さな人影があった。
*(‘‘)*
助手席にいた女の子だ。
さっきは気づかなかったが、
デニムのジャンパースカートを身につけている。
*(‘‘)*「おじさん、ありがとう」
と彼女はいった。
*(‘‘)*「内藤絵梨華です。こんばんは」
そしてペコリと頭をさげた。
21 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/29(水) 20:31:18.86 ID:3XNYUSMH0
ふたりのおとなが顔を見あわせた。
川゚д川「絵梨華」
女が軽くとがめるようにいった。
川゚д川「内藤じゃないでしょう」
*(‘‘)*「そうだ」
女の子は小さく手を口にあてた。
*(‘‘)*「もう山村恵理華なんだ」
すると、
なにか心を決めたように女が流石を見た。
川゚д川「山村貞子と申します。
よろしくお願いいたします」
( ´_ゝ`)「どうも。流石です」
短く答え、部屋をでた。
22 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/29(水) 20:32:26.92 ID:3XNYUSMH0
一時間ほど経った。
おそい食事をすませ、
ビールを片手に皿をドアそばの流しに放りこんでいるとき、
外から会話がとどいてきた。
「失礼ですが、
ここのふしんを見たときはびっくりしました。
おそろしく狭いしね。
やはりここは長居するところじゃない。
だいたい、奥さんにふさわしくないですよ」
「いえ、
いまの私にはこういうところが似合っております。
でも、きょうはほんとうに助かりました。
引っ越しだけは業者さんに頼むわけにいかなかったものですから。
ごやっかいおかけしました」
「いやあ、そんなこと……。
じゃあ、僕はこれで失礼します」
女のかえす丁重な礼がまた聞こえた。
続いて靴音が薄い鉄板の廊下をとおりすぎていった。
23 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/29(水) 20:33:10.32 ID:3XNYUSMH0
トラックのエンジン音がわき、
去っていった。
静寂がもどってきた。
( ´_ゝ`)「ワケありか」
流石はつぶやいた。
( ´_ゝ`)(するとあの母娘ふたりがここにいつくわけだ。
あの三人はどういう関係にあるんだ)
考えて、ふと気づいた。
このボロアパートには、
一階、二階に部屋が五つずつある。
その住人のだれにもいままで関心を持ったことがない。
あの母娘だって例外になるわけがない。
三本目の缶ビールを飲みほし、
流石は敷きっぱなしの布団にもぐりこんだ。
24 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/29(水) 20:33:45.02 ID:3XNYUSMH0
※
翌朝、
出勤のため表にでると朝の光がまぶしかった。
たぶん、
きょうも一日、天気がいい。
川゚д川
ドアを閉めたとき、
廊下の突きあたりにいる女に気づいた。
段ボールを丸め、
きのうの夜の後始末をしているところだった。
部屋にいて気づかなかったのは、
音をたてないよう注意していたからだろう。
25 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/29(水) 20:34:28.02 ID:3XNYUSMH0
無視して階段に向かった背に声がかかった。
川゚д川「おはようございます」
ふりかえった。
このアパートで、
こんな時間のあいさつには慣れていない。
流石は黙ったまま、
軽く頭をさげた。
すると彼女は昨夜の礼をふたたび口にした。
流石は、
( ´_ゝ`)「いや」
とだけ答え、
きのう山村貞子と名乗った女の顔を見た。
26 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/29(水) 20:38:23.80 ID:3XNYUSMH0
印象は変わっていない。
齢の見当はあいまいなままだが、
朝の光をはねかえす滑らかさがある。
だがそこにはこんな朝にあってさえ、
なにやら別のものも同居しているようにも思える。
どこか、
はかなさの気配に似ていた。
27 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/29(水) 20:39:27.88 ID:3XNYUSMH0
貞子は正面から射す光に目を細めた。
川゚д川「あのう、流石さん」
ためらいがちな口調に、
流石は眉をひそめた。
川゚д川「この近くに、
お風呂はないんでしょうか」
( ´_ゝ`)「お風呂?」
質問の意味がわかったとき、
苦笑がもれた。
( ´,_ゝ`)「なんだ。銭湯のことか」
川゚д川「ええ。
昨夜おたずねしておけばよかったのですが、
気づいたときがおそかったもので……」
28 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/29(水) 20:41:00.03 ID:3XNYUSMH0
そのとき、
絵梨華という女の子が戸口から顔だけをのぞかせた。
*(‘‘)*「ねえ、ママ。
銭湯ってなあに?」
貞子が困惑した顔をみせた。
かわりに流石が答えた。
( ´_ゝ`)「たくさんの人間がいっぺんに入るでかい風呂さ」
*(‘‘)*「じゃ、温泉みたいなの?」
( ´_ゝ`)「まあ、そんなものだな。
だが温泉より便利だ」
*(‘‘)*「どうして?」
( ´_ゝ`)「その気になれば、
いつだって歩いていける。
近頃はめっきり減ったが、
ここでは五分のところに残っているよ」
*(‘‘)*「ふうん。近いんだ」
( ´_ゝ`)「ああ、地図を書いてやろう」
すると絵梨華はすぐ部屋に引っこみ、
デパートの包装紙とボールペンをもってきた。
29 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/29(水) 20:41:44.48 ID:aCFiFEkz0
貞子の目が出てると何か怖い
30 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/29(水) 20:41:46.71 ID:3XNYUSMH0
流石は包装紙の裏に簡単な地図を書いて、
母親のほうに手渡した。
のぞきこんだ娘が、
いきなり大声をあげた。
*(‘‘)*「おじさん。字、へたくそね」
川#゚д川「絵梨華!」
流石は苦笑しながら、
叱りつけようとする母親を制した。
( ´,_ゝ`)「そいつは、申しわけなかった。
まあ、正直というのはわるくないさ」
流石は貞子のほうを向いた。
( ´_ゝ`)「ついでにいっておくと、
銭湯がやっているのは、三時から十時まで。
おとなは消費税があがって、ひとり三百八十五円。
こども料金は知らないが、その半分くらだろう。
それでは、俺は仕事があるから」
31 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/29(水) 20:42:48.91 ID:3XNYUSMH0
背を向けかけたとき、
絵梨華が声をあげた。
*(‘‘)*「おじさん、仕事なにやってるの?」
( ´_ゝ`)「塗装工」
*(‘‘)*「トソウコウって、なあに?」
( ´_ゝ`)「今度、ゆっくり教えてやるよ」
流石は階段を駆けおりた。
32 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/29(水) 20:46:26.42 ID:3XNYUSMH0
※
/#,' 3「おい、今日の養生(ようじょう)、
まるっきり甘いじゃねえか」
荒巻から怒鳴り声があがったので、
流石は壁際の脚立に近づいた。
( ´_ゝ`)「そんなはずはないが」
だがよく見ると、
天井際にマスクした保護シートのノンポリがいくらか浮いている。
塗装する周囲を汚さないための下準備、
養生は作業の基本だと最初に教えられた。
( ´_ゝ`)「おかしいな。
しっかりやったつもりなんだが」
/ ,' 3「つもりっていってるかぎり、
一人前にゃならねえんだ。
まあいい。それよか、
てめえのケレンはしっかりやっとけよ」
( ´_ゝ`)「わかった」
流石は、
剥離剤でペンキをおとした金属テーブルの錆をサンドペーパーで削りはじめた。
33 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/29(水) 20:48:19.33 ID:3XNYUSMH0
このテーブルの塗りかえもケレン、
つまり塗装面の汚れをおとし、
表面を磨きあげる事前作業の出来で仕上がりが全く違ってくる。
きょうの仕事は、
駅前にあるベーカリーの内装だった。
ゴールデンウィークまでの新装開店にあわせるスケジュールだが、
残る作業は壁と天井、
それに以前から使われていた什器の塗りなおしがほとんどだ。
天気や風に左右される外壁塗装はもう終わっていた。
比較的、
楽な段階だった。
オーナーの中年女だけが口うるさいが、
それは社長の荒巻が一手に引きうけている。
34 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/29(水) 20:48:55.92 ID:3XNYUSMH0
いちばん最近、
転職した先がこの荒巻美装だった。
まえの仕事ふたつを喧嘩でやめたあと、
半年前、流石はいまのアパートに移った。
近ごろ人気の田園都市線ぞいだが、
都心から遠いこの駅近くには、
むかしからの古い家並みが残る一画もある。
近所をぶらついていると、
アパートから数分のところで軒先の求人ポスターが目に入った。
それを見て、夜、
ふらっと立ちよったのである。
塗装工募集。
ポスターになんとかスタッフと書いていないのが気にいった。
給料はどうせ、
どこもそれほど変わらない。
35 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/29(水) 20:49:34.91 ID:3XNYUSMH0
流石が就職したいと申しでたとき、
荒巻はじろりと眺めかえし履歴書に目をおとした。
/ ,' 3「流石兄者、二十五歳か」
とつぶやいた。
名前を変えていないのは、
どんな仕事に就くときもたいてい運転免許証所有が採用条件のひとつだったからだ。
そのあと、
荒巻が訊いたのはふたつだけだった。
36 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/29(水) 20:52:00.73 ID:3XNYUSMH0
/ ,' 3「アンパンやったことあるかい」
( ´_ゝ`)「アンパン? シンナーのこと?」
荒巻がうなずいたので、
流石は首をふった。
/ ,' 3「タバコは吸うか」
( ´_ゝ`)「吸わない」
/ ,' 3「ならいい。あしたから働いてくれ」
それだけだった。
そしてこの仕事がはじまった。
あとでわかったことだが、
むかし現場で溶剤にタバコの火を引火させた馬鹿がいたらしい。
37 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/29(水) 20:53:42.99 ID:aCFiFEkz0
明日まで残ってますように
38 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/29(水) 20:53:49.46 ID:3XNYUSMH0
荒巻美装は、
流石が加わっても社長の荒巻はじめ働き手は四人だった。
仕事は工務店からの請け負いで、
家屋や小店舗の内外壁塗装がほぼすべて、
大きな現場は孫請け以外あまり縁がない。
テーブルの油汚れをシンナーでおとしながら、
流石はふと思った。
( ´_ゝ`)(このケレン、下準備は二年前と同じだ。
例の青山での銃撃事件は迷宮入りの可能性が濃い。
たまたまつい先日、同種の事件が起きたとき、
食堂にあった週刊誌で偶然そんな記事を読んだ。
もしそうなら、あれもきちんとした下準備、
長岡がおこなった入念な事前調査に負うところが大きい。
どんな仕事もまったくおなじだ)
/#,' 3「おい、ワイヤーブラシ!」
また荒巻の大声が聞こえ、
流石は立ちあがった。
39 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/29(水) 20:54:41.90 ID:3XNYUSMH0
※
アパートにもどったのは夕暮れだった。
ベーカリーの仕事はテーブルの塗りに加勢した荒巻が手早く終え、
あとは乾きを待つだけであがることができたからだ。
階段に女の子がぽつんと座っていた。
*(‘‘)*「きょう、銭湯にいったよ」
流石の顔を見るなり、
彼女はそういった。
( ´,_ゝ`)「へたな字だって、
場所はちゃんとわかっただろ」
流石は笑いながら答えた。
40 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/29(水) 20:55:40.75 ID:3XNYUSMH0
( ´_ゝ`)「で、どうだい。銭湯に入った気分は」
*(‘‘)*「わたし、銭湯、きらい」
( ´_ゝ`)「なんできらいなんだ」
*(‘‘)*「お湯が熱すぎるもの」
( ´_ゝ`)「俺なんか、
湯は熱ければ熱いほど気持ちいいけどな」
*(‘‘)*「でも熱いの、わたしきらい」
( ´_ゝ`)「そんな贅沢をいっていては、
世間はわたれないぞ」
41 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/29(水) 20:57:12.13 ID:5UD+JJjyO
やる気ないなら投下やめちまえ
42 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/29(水) 20:57:26.05 ID:3XNYUSMH0
*(‘‘)*「世間?」
( ´_ゝ`)「いろんな人間が集まってできるのが世間だ。
銭湯もおなじだ。
ときには、
みんなに自分をあわせなければならないことだってある」
*(‘‘)*「ふうん。よくわかんないな」
彼女は小首をかしげた。
*(‘‘)*「でも、おじさんも、
みんなに自分をあわせてる?」
今度は苦笑がもれた。
( ´,_ゝ`)「さあ、どうかな。
そういわれると、あまり自信はないな」
43 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/29(水) 21:06:36.17 ID:3XNYUSMH0
背後に人の気配がした。
「やあ、絵里華ちゃん」
女の子がちらと顔をあげた。
( -@∀@)
ふりむくときのうの男、
朝田が立っていた。
手に小さな箱がある。
おそらどこかで買ってきたケーキあたりだろう。
44 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/29(水) 21:17:33.41 ID:3XNYUSMH0
( ´_ゝ`)「じゃあ、またな」
絵里華に向け片手をあげた流石が階段をあがろうとすると、
思いついたように彼女が声をあげた。
*(‘‘)*「ねえ、トソウコウってなあに?」
それはなぜか、
朝田を無視するための質問のように聞こえた。
( ´_ゝ`)「世間のいろをあれこれ変えてしまう仕事さ。
まあ、俺の狭い世間だがな」
45 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/29(水) 21:19:19.52 ID:3XNYUSMH0
階段を駆けあがり、
部屋で靴を脱いでいると、
「あのおじさん、塗装工なのかい?」
とたずねる朝田の声がした。
返事はなかった。
絵里華がうなずいたのだろう。
ついでおさえたような小声があった。
「あんまりああいう人とは、
親しい口を利かないほうがいいんじゃないかな」
「だってわたし、友達いないもん。
電話もなくなっちゃったもん」
「それはそうだろうけど……」
そのあと、
まえの廊下をふたりの足音がすぎていった。
46 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/29(水) 21:20:03.83 ID:Wyb8vda60
しえん
47 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/29(水) 21:21:06.99 ID:3XNYUSMH0
アパートの壁は薄い。
内容まではわからないが、
隣りの声はかすかに聞こえる。
朝田という男は口数が多かった。
一方的にしゃべりつづけた。
女のかえす声はほんのわずかだ。
こういう壁の存在には縁なく、
無知でいられるタイプもある。
( ´_ゝ`)(じっさい、以前の俺がそうだった)
コンビニで買った弁当を食べながら、
流石はテレビのボリウムをあげた。
48 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/29(水) 21:21:53.07 ID:3XNYUSMH0
プロ野球の延長中継が終わってスイッチを切ったとき、
今度は表に移った声がとどいてきた。
「これ以上ここへお見えになると、
朝田さんにまでご迷惑をおかけたします。
心苦しいので、ほんとうにお気になさらず」
「迷惑だなんて……。
そんなことおっしゃっても、
僕また、おじゃましちゃいますよ。
正直いって、
僕は奥さんのことが気になってしかたないんです」
49 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/29(水) 21:22:56.13 ID:3XNYUSMH0
返事はなかった。
ためらうような間があった。
それからなにか、
もめるようなもの音がとどいてきた。
二、三分後、
「失礼しました」
男のかすれ声が聞こえ、
足早の靴音が去っていった。
50 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/29(水) 21:23:03.15 ID:nnEF2IIWO
支援
51 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/29(水) 21:24:28.24 ID:Wyb8vda60
支援
52 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/29(水) 21:24:30.61 ID:3XNYUSMH0
日がすぎた。
あれから隣りの母娘とは顔をあわせていない。
いつもひっそりしていた。
貞子という母親がなにをやっているのかもわからない。
53 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/29(水) 21:25:52.88 ID:3XNYUSMH0
隣室への訪問者は、
朝田ただひとりだった。
このアパートへやってくるときだけ、
彼の声が壁越しに聞こえてきた。
二、三日に一度くらいの頻度だった。
塗装作業は日が暮れると不可能になる。
彼がやってくるのはたいてい、
流石が部屋にもどったあとだ。
あの母娘がどんな対応をしているのかはわからない。
ただ、
廊下でもめる音はもう途絶えてはいた。
54 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/29(水) 21:28:45.11 ID:3XNYUSMH0
別の訪問者が別のかたちでもめごとを復活させたのは、
三週間ほどあとの夜だった。
55 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/29(水) 21:30:58.75 ID:3XNYUSMH0
いったん終わります。
ありがとうございました。
数字の件、申し訳ありませんでした。
以後気をつけます。
56 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/29(水) 21:33:42.95 ID:duBBAmHpO
乙!面白かった
57 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/29(水) 21:37:36.37 ID:Wyb8vda60
乙!
期待してる
58 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:
面白い