佐々木「君に、一人で来てほしい。場所は…」

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1以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/27(月) 22:07:23.25 ID:53NF1m4d0
「一人で大丈夫ですか」

古泉は、冗談を言ったかのように微笑を浮かべている。

「そうだな、十人中八人は目を惹かれる女だからな、たぶらかされるかもしれん」
「キョンくん…」

朝比奈さんが心配そうに俺を見る。俺としてはもちろんそんなことはこれっぽっちも思っていないのだが、朝比奈さんにはジョークが通じなかったようだ。
大丈夫です、そんな顔しないでください。俺がたぶらかされるとしたらあなた一人ですよ。
この張り詰めた場の空気を和ませるために俺が放った冗談に冗談しか言わない男がくすりと笑っていたが
少し間を空け、先程ともう一度同じ言葉を繰り返した。

「一人で大丈夫ですか」

今度は、俺も茶化さない。

「危ない目に遭わせるつもりなら他にいくらでも方法がある。長門とハルヒがいない時点ですでに危ないがな
それに、なにかしらの理由があるんだろう。なんと俺としては検討がついているんだが、お前はどうだ、古泉」

「……」

珍しく古泉が黙り込む。
わかってるさ。
俺たちは今、世界、いやSOS団最大のピンチに陥っている。
対策を練る時間すらないのだ。後手後手で受けにまわらざるを得ない。
朝比奈さんは、俺まで罠に嵌められやしないかと心配してくれているのか
他に手はないが絶対に許可したくない、そんな表情をしている。
だがどちらにせよ、一人で来いと言われているのであれば、一人で行かなければならないのだろう。
アニメやドラマの人質をとられた勇者の立場にカッコ良さを感じたこともある俺だが、ここまで気持ちが追い詰められるものだとは思っていなかった。
長門、ハルヒ。頼むから無事でいてくれよ。
2以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/27(月) 22:11:20.44 ID:bq7HXBqi0
期待してみよう
3以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/27(月) 22:22:53.61 ID:9k0AiEy3O
まだかな
4以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/27(月) 22:29:06.16 ID:53NF1m4d0
「だ、大丈夫、です、キョンくん。キョンくんが留守の間は、私が、いるから…SOS団は、」

朝比奈さんはそこまで言うと、しゃがみこんで泣き出してしまった。
泣き崩れるSOS団のマスコット的キャラにそんなことを言われてしまって、副団長の立場がないな、古泉。

「というわけです。こっちは僕と朝比奈さんでお茶を飲みながら、二方と、あなたの帰りを待っていますよ」

笑顔でそんなことを言われたら、ありがたく見送られるほかないだろう。
ドラマではフラグが立つ台詞だな。もちろん生存フラグだ。

「じゃあ、ちょっと行ってくる。怪しい奴が近づいてきたら、全力で逃げろ。今回だけは朝比奈さんを抱きかかえることを許可してやる」

泣き笑顔とニヒル笑顔を背に、俺は指定された場所へ団長と団員を救うべく足を踏み出した。
5以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/27(月) 22:58:34.52 ID:53NF1m4d0
指定された場所は、ここから自転車で数分の近場だった。
俺は泣きそうになりながらも強気を見せようとしていた朝比奈さんの勇ましい顔を思い出しながら、ハルヒと長門のことを思いながら
全力で自転車を飛ばした。

どのくらいかかったのか。
俺は目的地へ着くと自転車を乗り捨てるように降り、息を荒げながらあたりを見回すと
そこに待っていたのは黒服サングラスの敵エージェント、というわけではなく
私服を着た普通の男で、関係のない一般人、かと思いきや
そいつは首をくい、と動かし、その先にある黒塗りの車を指した。
俺は肩で息をしながら、あれに乗ったらもう戻れないと感じていた。

カーテンを閉じられどこへ向かっているのかもわからない車の中で
俺はどうして二人が誘拐されたのかを考えていた。
佐々木が、俺に会いたいというだけなら、そう言えばよかった。
俺は断らないし、ハルヒだって別に止めないだろう。
ではなぜこんなことをしたのか。
簡単なことだった。

佐々木を神として崇めている奴らが、強行手段に出たのだ。
トンデモパワーを持つ長門とハルヒをさらったのは、間違いなく、天蓋領域とかいう宇宙組織だろう。
色んな意味でトンデモ野朗のハルヒはともかく、長門をどうにかするなんてことは、奴らにしかできない。
雪山で長門を弱らせたように、今回もまず長門を無力化させ、そしてハルヒをさらった。
目的は、おそらく

世界改変の力を、佐々木に移すこと。
6以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/27(月) 23:16:03.55 ID:53NF1m4d0
一人で来るようにとは、佐々木からの電話だったが、このことに関して俺は佐々木の意思があるとは思えなかった。
電話の中で、あいつは、震えていた気がする。

「お連れしました」

俺を乗せていた車の運転手は俺に降りるよう指示し、建物の扉をノックする。
見たところ、インターホンや指紋認証はない。
建物の見た目も怪しさのようなものはなくずいぶんとざっくばらんな感じで少し驚いたが、ノックの仕方が少し変わっていたので
何かの符丁なのだろう。

程なくして扉は開き、中から顔を見せたのは、俺の知らない顔だった。

「中へ」

そして俺を品定めするように見ると、短く言って顔を引っ込めた。
このドラマで見たようなそのものの流れに、俺が大きな何かに巻き込まれたのだと思わされることは仕方のないことであり
しかしそう思ったからといってどうするということもできない。
もっとも、俺は恐れているばかりではなく、いざとなったら敵の目を潰してでも二人を連れて逃げる準備もしている。
はたして長門を連れ去った連中に目潰しが効くかどうかは疑問だが、まずは、二人に会うことが重要だ。
俺は煮えたぎる脳みそをなんとか冷やしながら、扉に手をかけた。
7以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/27(月) 23:32:34.70 ID:53NF1m4d0
扉を開けて中に入れば、運転手とはうって変わって黒のスーツに身を包んだ男が壁に寄りかかってこちらを見ていた。
そしてよく見る必要もなく男の腰には拳銃がホルスターに収まり黒く鈍い光を放っている。
車で移動した数十分の間にどうやら俺は国境を越えてしまったらしい。
俺のいた国では一般人が銃を持つことは禁止されているはずだからな。

ここはやはり外国なのだろう、俺は靴を履いたまま建物の中を、ごつ、ごつと足音を立てて入っていく。
そして俺は黒尽くめの男に従い、廊下の突き当たりの扉を開けた。

「驚いたかい?」

椅子に座り、暖炉の前で火に当たっていた佐々木が顔をあげてそう言った。
その様子はおあつらえ向きの敵ボスに見えなくもなかったが、振り向いた佐々木の顔を見て俺は驚いた。
その唇の左端あたりが、赤く腫れていた。

「寒いから扉を閉めてくれないか。鍵はかからないが」

それが冗談だと気がつくのに時間がかかったほど。
転んでぶつけたようには見えない。
誰かに、殴られたのか。
8以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/27(月) 23:49:45.03 ID:53NF1m4d0
「突然呼び出して悪かったね」
「…お前、その顔はどうした」

開口一番、ハルヒと長門について問いただしてやるつもりだったのだが
俺の口から出たのは、佐々木の安否を尋ねる言葉だった。
佐々木に論戦で勝つ自信はなかったが、諭してやるくらいはできるつもりでいた。
ここにくるまでは、そうしてやるつもりだった。
だが、これは。

「とりあえず座ったらどうだい?あいにく僕は朝比奈さんのような給仕はできないが」

もう一つ置かれている椅子を指して佐々木は言うが、佐々木の目は椅子を見ていない。
俺はぎこちなく椅子に座る。お茶は、出てこない。

「住み慣れた我が家と比べると、やはり落ち着かないな。温かみが足りない」

ハルヒたちのことを聞かなければ。

「夏は涼しくていい部屋だな」
「今は春だよ」

覇気がなく、佐々木の口から言葉がポタポタと漏れるようだった。

「ねえキョン、今は春なんだろうか」

佐々木は痛々しい顔で、口元を庇うようにくつくつと楽しそうに笑っていた。
9以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/28(火) 00:11:35.75 ID:DzJLggav0
「外に出てみろ。外は春だ」
「くっく。そのとおり。さっさと外に出たいところだ」
「佐々木、お前はなぜこんなところにいる。俺たちに何が起きているんだ」
「俺たち、というのは、SOS団のことだろうか、それとも」
「佐々木」
「答えてくれキョン。俺たちというのは、誰を指しているのか」
「何言ってやがる。俺とお前と、SOS団のことに決まってるだろ」
「…そうか」

そう言うと佐々木はうつむき、黙り込んでしまった。
こんな顔をする佐々木を、中学で会って以来はじめて見た。
すぐにでもハルヒたちのことを聞こうと思っているのに、こいつを見ているとこいつをどうにかしてやりたくなる。
なんと声をかけるべきか俺が戸惑っていると

「…何と言ったらいいかな、すべて言い訳だ。他人に迷惑をかけない人生を送ろうと思っていたのに
キョン。僕は今君を傷つけるためだけに存在している
許してくれとは言わない。僕は僕の意思で、君と会っているのだから」

「来てくれて、よかった。僕は君と会いたかった」
10以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/28(火) 00:29:45.76 ID:sK5gEm4X0
わくわく
11以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/28(火) 00:42:14.17 ID:DzJLggav0
「隠さずに言おう。僕がキョンをここへ呼んだのは、脅されているからだ
家族を、人質に取られた。突然のことで、僕にはどうすることもできなかった
そして君は、ハルヒさんと長門さんを人質に取られている
全て、こちらの『組織』が行ったことだ。強行派が決断したらしい
橘さんは私を守ろうとしてくれたが、駄目だった
どうやら僕が神様にならなければ、人質は殺されてしまうらしい
そこで僕はなりふり構わず、神様になろうというわけだ
そしてキョン、僕が神様になるためには、君が必要らしい」

佐々木がそんな話をして、事の全貌が見えた。
そんな目の前の佐々木に、語るべき言葉が、ない。
家族が、人質?
神にならなければ、殺される?
それはあまりに非現実的な現実で。

「それで、キョン。察しのいい君だから、ここにくるまでに既にわかっていたかもしれないが」

「僕が神になるのを、手伝ってほしい」

佐々木は何もかもを受け入れたというふうで。
人は想像をはるかに超えた緊急事態になると、合理的にものを判断することができなくなるという。
何から考えていいのかわからずに、単語だけが頭の中をぐるぐるをまわる。
ハルヒ。長門。佐々木。死ぬ。神。ハルヒ。長門。佐々木。死―――
12以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/28(火) 01:24:56.91 ID:DzJLggav0
「僕としては有無を言わさずに手伝ってもらいたいのだが、実は吉報もある」

「君が僕を手伝ってくれた場合の報酬はなんと、僕から君へのキスだ」

人差し指を唇に添え、そんなことを言った。
当たり前だが、この状況での接吻の魅力は皆無だった。今、佐々木はやけくそなんだろう。
そりゃそうだ。自分を神と崇める謎の集団に家族を人質にとられ神にならなければ殺すと脅されれば
心の何かがぷちっと切れてしまっても何もおかしくない。
佐々木が今慌てるわけでもなく泣いているわけでもないのは佐々木自身の強さなのか、それとも

「どうだろう、僕の唇は…いたた…今は少しざらついているがね、魅力的な褒美だろう?」

楽しそうにキスの褒美を語る腫れた口元よりも、気丈に振舞う佐々木の心が、痛いと叫んでいる。
がたりと音を立てて、俺は椅子を立った。
佐々木は一瞬びくりとしたが、俺を見つめ、口を閉じたまま動かない。
俺は何も言わず、佐々木の方へ歩いていく。
かける言葉がないのなら。
答えがすでに、決められているのなら。

俺にできることは、これくらいだ。


凛としながらも震えている佐々木の体を、俺はそっと抱きしめた。
13以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/28(火) 01:33:26.59 ID:dsdhx92X0
期待
14以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/28(火) 01:42:01.67 ID:M8/GepJkO
わくてか
15以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/28(火) 02:07:27.30 ID:DzJLggav0
佐々木の体の震えが止まるまで、少し時間がかかった。
静かに体を離し、顔を合わせる。

「…っ…ありがとう、キョン」
「気丈に振舞おうとするな。さっきみたいにされるくらいならまだ泣きつかれたほうがマシだ」
「うっ…これは恥ずかしいな。だが、君も抱きしめるなら抱きしめると言ってくれ。本当に声をあげて泣きわめくところだった」
「泣きわめけばいいだろ。無理すんな」
「だって、恥ずかしいじゃないか」
「俺の肩濡らしておいて今更だな」
「すまない、ハンカチがわりにしてしまった」

ああ、余裕が出てきた。
佐々木も幾分か楽になったように見える。
俺と佐々木は互いに力を抜いて笑い合った。
くつくつと笑う佐々木。やっぱりお前の笑顔はそれだろうよ。
笑い終えた佐々木は、一息おいてからふーっと地面に向かって息を吐いた。
そして、すぅ、と息を吸い込み、

「涼宮さんと長門さんは、隣の部屋にいる」

ここで駆け出さなかったのは、目の前に佐々木がいたからだ。
組織の連中がハルヒをさらったのは、おそらく俺をここに仕向けるためだけじゃない。
佐々木を神にするということに、ハルヒが必要になるのだろう。
そしてまずないだろうが、首尾よく俺が隣の部屋からハルヒと長門をつれて逃げ出せたとしても
佐々木の家族が殺される。佐々木はこの場から逃げられない。
こうなると、逆転のチャンスは、ハルヒの力だけだ。
情報統合思念体は何をしている?長門とハルヒがこんなことになっているというのに
ここにきてまだ観察中とか言うんじゃねえだろうな。
まあおそらくだが、天蓋領域と戦っているか、完全に押さえ込まれているか…
ようやくまともな状況把握ができてきた。佐々木を神にするって? まともじゃねえな。
16以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/28(火) 02:35:49.61 ID:DzJLggav0
「彼らは、あくまでもこちらを制御しておきたい。対等の立場になられると困るわけだ。
家族を人質にすれば僕は逃げないし、彼らにとって涼宮さんは人質というよりも道具だ。
あまりに馬鹿馬鹿しい話だが、この事実を否定する力を僕は持っていない」

真剣な眼差しで説明する佐々木だったが、ここで急に表情を崩すと

「ただ、不幸中の幸いというべきか、誰も死んではいない」

胸に手をあてて、ホっとするように肩を落とした。

「僕が神になれば、家族は開放すると言われている。
彼らに信頼はないが、本当にただ僕を神にしようとしているだけのように見える。
嘘では、ないと思う」

つまり、佐々木が神になりさえすれば、佐々木の家族も
ハルヒも、そして長門も解放するってワケか。
佐々木を神にしさえすれば、あとはどうにでもなると。
だが待て。力を失ったハルヒはともかく、長門、情報統合思念体はそう簡単にいくか?

「それは僕も考えたんだが、なんというか、
彼らの目的は僕を神にすることであって、その後のことはまるで心配していないようなんだ」

情報統合思念体の反撃を気にもかけないってことは…要するに

「僕に付与された神の力で、敵勢力は消せる、と思っているようだね」

それじゃ、長門は…

「そこまではわからない。だが、僕が神になるのなら、そんなことはしないだろうね」
17以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/28(火) 02:35:57.19 ID:dsdhx92X0
ふむ、保守
18以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/28(火) 02:46:14.53 ID:nJyYoW0QO
面白い
19以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/28(火) 02:55:17.62 ID:DzJLggav0
なんだなんだ。隙だらけなのか、全く隙がないのか、わからなくなってきた。
佐々木が神になれば、つまりそれは世界は佐々木の思うがままだ。
橘は、佐々木は何もしない安全な人だから神にふさわしいとか言っていたが
世界の安定が目的だとしても、こんな佐々木に遺恨を残すようなやり方で自分達が罰せられないと考えているのか。
罰せられてもいいのか?自己犠牲で世界を安定化させようとしている環境集団なのか?
答えが見えそうで見えない。もう少しで暴けそうだと俺が心のスイッチ、気合を入れなおした瞬間

コンコン。

「佐々木様、時間です」

黒服の男が、部屋に入ってきた。
どうやら今からハルヒと長門のいる隣の部屋へ案内されるようだ。
このまま、従っていいのか。
打つ手はないが、本当に従っていていいのだろうか。
俺の頭がゴールのないサーキットを一瞬のうちに何周もしていると
席を立った佐々木は黒服に詰め寄っていき

「家族の無事を確認させてほしい」

そう言って、黒服の男を睨みつける。
黒服の男は何も言わずにポケットから携帯を取り出し、少し操作してから
佐々木に電話機を渡した。

「もしもし」
『―――――――』
「よかった…。ごめんね、もう少しで終わるから、うん、大丈夫だよ。そっちは何もされてない?」
『―――――――』
「よかった…うん、…。私は大丈夫、心強い親友も来てくれたんだ。大丈夫、もう、終わるから。大丈夫」
20以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/28(火) 03:32:03.59 ID:DzJLggav0
「…うん。それじゃあ、家に帰ったら、みんなで温泉にでも行こう。…うん、それじゃ」

佐々木は家族との通話を終えると、携帯電話を握ったままその場にうずくまってしまった。
黒服は小さくなる佐々木に目を向けた後、俺に視線を向けてきた。
いやらしい笑みを浮かべたり人を見下すような顔はしていなかったが、無表情のその顔は俺をやたらと不快にさせた。
俺は佐々木を視界に入れたまま男と睨み合いを続けたが、すぐに目を逸らされた。
こいつは俺たちのことを敵というよりも完全に道具として見ている。
そう考えると俺の脳はまたぐつぐつと煮えたぎってくる。
俺がお前らは一体何様のつもりだと言いかけたその時

「よし、それじゃあ、行くとしよう」

佐々木はそう言って立ち上がり、携帯を男に渡した。
俺が男を睨みながら佐々木のもとへ行くと、男は黙って背を向け歩き出した。
蹴り倒したい背中だが、歯を食いしばり、ぐっと堪える。
蹴ったところで、何もならない。
廊下は相変わらず警備が手薄だった。こっちを信頼しているのか、馬鹿にしているのか。
俺と佐々木は何も言わずに、男の後ろを歩いている。
程なくして男が立ち止まり、ゆっくりと扉が開かれた。
21以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/28(火) 04:03:44.37 ID:V94DPNoTO
支援
22以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/28(火) 05:26:49.22 ID:7Pq+SSwSO
支援
23以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/28(火) 06:47:37.01 ID:ksLovZak0
保守
24以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/28(火) 07:34:54.67 ID:dsdhx92X0
保守
25以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/28(火) 08:01:04.42 ID:/ZnsPRcAO
26以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/28(火) 09:28:31.63 ID:7Pq+SSwSO
保守
27以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/28(火) 10:11:10.80 ID:sK5gEm4X0
ほいし
28以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/28(火) 10:32:20.58 ID:sK5gEm4X0
保守
29以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/28(火) 11:28:28.52 ID:V94DPNoTO
ほし
30以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/28(火) 11:54:56.98 ID:aJAG8uHfO
支援
31以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/28(火) 12:09:51.15 ID:DzJLggav0
「っ」

目の前の光景に、一瞬言葉が出なかった。
二人はいた。
確かに存在していた。
だが、これは。

俺の目の前にあるのは、生命維持装置のような大きなカプセルと、その中で酸素マスクのようなものをつけて目を閉じたまま微動だにしない、ハルヒと。
そして。蛍光ブレスレットをフラフープ大まで大きくしたかのような光の輪に直立の状態で包まれて宙に浮いている、長門だった。
近未来SFか?たしかに、展覧会や科学館であれば思わず見蕩れるようなシロモノではあるが、今は違う。

「ハルヒ!長門!」

あまりに想像外の景色に一瞬我を忘れた俺だったが、それは一瞬だった。
触って大丈夫なのかわからない長門のもとへ駆け寄り、出せるだけのありったけの声で名前を呼ぶ。

「長門!長門!」

長門は目を開けない。
空中に固定されているかのように、揺れることもなく、俺の声に応えない。

「くそっ!」

ハルヒのもとへ駆け寄る。
縦長の楕円状のカプセルは顔の部分だけが透明で中が見えるもので
そこから閉じ込められたハルヒの顔だけが見えた。

「ハルヒ!おい、ハルヒ!」
32以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/28(火) 12:26:55.90 ID:DzJLggav0
「キョン」

「ハルヒ!てめえなんだってこんなとこに収まってやがる!」

生きているのか。
こいつは、長門は、生きているのか。
どうしたらいいんだ。
俺はどうすればいい。

「ハルヒ!ハルヒ!ああっ…くそっ!」

「キョン、落ち着いてくれ」

佐々木の声が聞こえる。
落ち着けるわけがあるか。
どうにかしろ。二人を助け出せ。
神なんだろう、どうにかしてくれよ。
佐々木。

「キョン。落ち着いて。涼宮さんも長門さんも、死んじゃいない。
さっき言っただろう、誰も死んでいないって」

ああ、そうか。
ハルヒと長門は無事なのか。
無事でよかった。わけないだろ。これのどこが無事なんだ。おい、佐々木。
33以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/28(火) 12:57:46.48 ID:DzJLggav0
「佐々木、すまんが、俺の顔を一発ぶん殴ってくれ。動揺が収まらん」
「わかった」

俺は佐々木の声を確認すると、佐々木が殴りやすいように少しだけ腰を落として、来たるべき衝撃に備えて歯を食いしばり、目を閉じた。
次の瞬間。
ふわりとした感触が、体を包んだ。

「っ」
「動揺は、収まったかい?」

耳元から声がする。
目を開けると、佐々木の側頭部が見えた。

「目の前で親友が動揺している時どうすればいいかは、君がさっき教えてくれた」
「…佐々木よ」
「キョン。親友を殴るくらいなら、泣きつかれたほうがマシというものだ」
「…抱きしめるなら抱きしめると言って…いや、違うだろ」
「ハンカチはいるかい?」
「…大丈夫だ」

やれやれだ。さっき格好つけた分が、はやくもチャラになった。
俺としては本気で殴られてもよかったんだがな。

さて。落ち着いたところで、だ。
俺はこの目の前の状況に、どうアクションするべきだろうか。
佐々木の抱擁のおかげでようやく考えられる状態になったと思ったのもつかの間だった。
坂道を転げ落とされる俺たちは、途中で止まることを許されてはいなかった。

ハルヒの入っているカプセル。
それと同じものが二つ。二つの空のカプセルが、俺と佐々木のいるこの部屋へ運び込まれてきた。
34以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/28(火) 13:59:07.02 ID:YCbcILQiO
35以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/28(火) 14:09:51.94 ID:r7oFCSVW0
36以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/28(火) 14:17:07.47 ID:DzJLggav0
俺はまだハルヒと長門がどうしてこんなことになっているのかすら聞いていない。
佐々木は死んでいないというが、ハルヒは見た目的に危篤だし
長門にいたっては植物というよりも冷凍状態だ。
はやいとこなんとかしなくてはならない。
俺たちへの終了のカウントダウンもすでに始まっているのだ。
意識したとたん、一気に焦る。背中からいやな汗が噴出すのがわかる。

「涼宮ハルヒさんは、夢を見ています」

部屋の角でずっと俺たちを観察していたマネキンが、もぞりと動きながらそう言い放った。
なんだてめえ、喋れるんじゃねえか。
ずっと言葉を発さないから、そういう奴なんだと思っていた。

それに、なんだ。寝てるならさっさと寝てると言えばいいんだ。
余計な心配なんてのは少ないほうがいいに決まっている。
どうやらハルヒは、夢を見ているらしかった。
状況は何一つ変わらないが、俺に重くのしかかっていた何かが、すっと軽くなった気がした。
…で、長門はどうなんだ。宙に浮きながら直立で寝るなんて器用な真似は
長門ならできるだろうが、しないだろう。

「長門さんは、凍結させてもらっています。情報統合思念体とも完全に繋がりと絶っています」

凍結だと?まじで凍ってるのか。誰がやったんだ。まあ十中八九、天蓋領域だろうが。

「あの光の輪の内側は、完全に時間が止まっています。我々に従っていただけさえすれば、事が終了した後、解放することを約束しましょう」

当たり前だ。返してもらわなければ困る。そして期せずして解放するという言質も取れた。
こいつらが義理堅い環境団体ならば今後役に立つかもしれない。まるで気休めにもならないが。

「もっとも、佐々木さんが神になった後では、何の意味もありませんが」
37以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/28(火) 14:47:17.95 ID:DzJLggav0
今のこいつの発言で、はっきりとわかった。
佐々木の言ったとおり、こいつらは佐々木が神になればなんとでもなると考えている。そう確信している。
そんな佐々木はと言うと、俺を抱擁したあとは何も言わずに、じっとハルヒのカプセルを見つめていた。
自分の身にとんでもない何かが起きるのは確実で、それを拒むことも出来ない。
佐々木の表情からは、何も読み取れなかった。

「では、始めましょう。その入物に入ってください」

「ちょっと待て。この入物はなんだ。なんのために俺たちはこれに入るんだ」

いきなり入れと言われても、無理がある。
拒否権はないが、知る権利くらいは残されていてもいいだろう。

「その装置で、佐々木さんと涼宮さんの夢を繋ぎます」

「…夢を、繋ぐ?」

口を開いたのは佐々木。
気持ちはわかる。夢を繋ぐと言われてクエスチョンマークが頭に浮かばないほうがおかしい。
だが、それは、一般人ならばの話。
俺と佐々木が知っていて、一般人が知らない、夢。
夢とはすなわち、閉鎖空間のことだろう。

「夢を繋ぎ、神の力を、佐々木さんの体へと移します」

理屈はわからんが、言っていることはわかった。
この装置に入ると佐々木とハルヒの閉鎖空間がどうにかなり
そしてハルヒの持っていたミラクルパワーがどういうわけか、佐々木に渡る。
38以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/28(火) 15:40:53.12 ID:7Pq+SSwSO
39以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/28(火) 16:24:57.10 ID:wxpPPRakO
保守
40以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/28(火) 17:15:34.88 ID:PEcVZanaO
41以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/28(火) 18:02:36.89 ID:7rZAlILnO
42以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします